(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】バルーンカテーテルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 29/10 20060101AFI20220516BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20220516BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20220516BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220516BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20220516BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20220516BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20220516BHJP
【FI】
A61L29/10
A61K31/436
A61K31/337
A61P7/02
A61L29/16
A61L29/12
A61M25/10 500
(21)【出願番号】P 2019506300
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2018010473
(87)【国際公開番号】W WO2018169054
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】P 2017050841
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】村田 悠
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-501219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L、A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔内に挿入可能なバルーンカテーテルであって、
長尺なカテーテル本体と、
前記カテーテル本体の遠位側に設けられて径方向へ拡張可能なバルーンと、
前記バルーンの外表面に配置される
複数の薬剤
結晶を含むコート層と、
前記バルーンの外表面に蒸着されずに前記コート層の外表面に蒸着された金属層と、を有
し、
前記複数の薬剤結晶は、前記金属層に覆われている薬剤結晶と、前記金属層に覆われていない薬剤結晶と、を含むバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記薬剤結晶の少なくとも一部は、長尺な結晶形態型の薬剤結晶であり、
前記長尺な結晶形態型の薬剤結晶は、前記金属層に覆われている薬剤結晶と、前記金属層に覆われていない薬剤結晶と、を含む請求項1に記載のバルーンカテーテル。
【請求項3】
生体管腔内に挿入可能なバルーンカテーテルであって、
長尺なカテーテル本体と、
前記カテーテル本体の遠位側に設けられて径方向へ拡張可能なバルーンと、
前記バルーンの外表面に配置されて複数の薬剤結晶および添加剤を含むコート層と、
前記バルーンの外表面に蒸着されずに前記コート層の外表面に蒸着された金属層と、を有するバルーンカテーテル。
【請求項4】
前記金属層の材料は、金、白金、クロム、亜鉛、ニッケル、銀、銅からなる群から選択される少なくとも1つを含有する請求項1
~3のいずれか1項に記載のバルーンカテーテル。
【請求項5】
前記金属層は、前記コート層の外表面を部分的に覆っている請求項1
~4のいずれか1項に記載のバルーンカテーテル。
【請求項6】
前記薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセルおよびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有する請求項1~
5のいずれか1項に記載のバルーンカテーテル。
【請求項7】
バルーンの外表面に薬剤を含むコート層が形成されたバルーンカテーテルの製造方法であって、
前記バルーンの外表面に
複数の薬剤
結晶を含むコート層を形成するステップと、
前記コート層の外表面に金属を蒸着して
、前記複数の薬剤結晶が金属層に覆われている薬剤結晶と前記金属層に覆われていない薬剤結晶とを含むように前記金属層を形成するステップと、を有するバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項8】
前記金属層の金属は、金、白金、クロム、亜鉛、ニッケル、銀、銅からなる群から選択される少なくとも1つを含有する請求項
7に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【請求項9】
前記金属層を形成するステップにおいて、前記コート層の外表面に部分的に前記金属層を形成する請求項
7または
8に記載のバルーンカテーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンの外表面に結晶性の薬剤が設けられたバルーンカテーテルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体管腔内に生じた病変部(狭窄部)の改善のために、バルーンカテーテルが用いられている。バルーンカテーテルは、通常、長尺なシャフト部と、シャフト部の先端側に設けられて径方向に拡張可能なバルーンとを備えている。収縮されているバルーンを、細い生体管腔を経由して体内の目的の場所まで到達させた後に拡張させることで、病変部を押し広げることができる。
【0003】
しかしながら、病変部を強制的に押し広げると、平滑筋細胞が過剰に増殖して病変部に新たな狭窄(再狭窄)が発症する場合がある。このため、最近では、バルーンの外表面に狭窄を抑制するための薬剤をコーティングした薬剤溶出バルーン(Drug Eluting Balloon:DEB)が用いられている。薬剤溶出バルーンは、拡張することで外表面にコーティングされている薬剤を病変部へ瞬時に放出し、これにより、再狭窄を抑制することができる。
【0004】
近年では、バルーンの外表面にコーティングされる薬剤の形態型(morphological form)が、病変部におけるバルーン表面からの薬剤の放出性や組織移行性に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。バルーンの外表面にコーティングされる薬剤の形態型は、薬剤と溶媒を含むコーティング液をバルーンの外表面に塗布した後、溶媒を揮発させる条件を変更することで、調節することができる。
【0005】
ところで、バルーンの表面に設けられる薬剤は、バルーンから剥がれやすい。このため、例えば特許文献1には、バルーン上の治療薬を含む層に、ポリマーなどの接着添加剤を含ませるとこで、薬剤の接着性を高めたバルーンカテーテルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法は、薬剤および接着添加剤を含む層が、バルーンの最外層に位置している。このため、接着添加剤を含んでいても、薬剤の脱落を抑える効果には限界がある。また、バルーンの外表面には、血管内でタンパク質等が付着しやすい。バルーンの外表面にタンパク質等が付着すると、目的の位置での薬剤の生体組織への移行性が阻害される可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、バルーンの外表面からの薬剤の脱落を効果的に抑制でき、生体管腔内での搬送が容易であり、かつ生体組織への薬剤の移行性が向上するバルーンカテーテルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するバルーンカテーテルは、生体管腔内に挿入可能なバルーンカテーテルであって、長尺なカテーテル本体と、前記カテーテル本体の遠位側に設けられて径方向へ拡張可能なバルーンと、前記バルーンの外表面に配置される複数の薬剤結晶を含むコート層と、前記バルーンの外表面に蒸着されずに前記コート層の外表面に蒸着された金属層と、を有し、前記複数の薬剤結晶は、前記金属層に覆われている薬剤結晶と、前記金属層に覆われていない薬剤結晶と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成したバルーンカテーテルは、薬剤を含むコート層の外表面に金属層が蒸着されているため、生体内でバルーンを目的の位置まで送達する際に、薬剤が脱落することを金属層によって抑制できる。また、バルーンおよびコート層の表面が金属層によって滑りやすくなり、血管内での搬送が容易となる。また、生体内でコート層の表面にタンパク質等が付着し難くなり、目的の位置での生体組織への薬剤移行性が向上する。
前記薬剤結晶の少なくとも一部は、長尺な結晶形態型の薬剤結晶であり、前記長尺な結晶形態型の薬剤結晶は、前記金属層に覆われている薬剤結晶と、前記金属層に覆われていない薬剤結晶と、を含んでもよい。
上記目的を達成するバルーンカテーテルの他の態様は、生体管腔内に挿入可能なバルーンカテーテルであって、長尺なカテーテル本体と、前記カテーテル本体の遠位側に設けられて径方向へ拡張可能なバルーンと、前記バルーンの外表面に配置されて複数の薬剤結晶および添加剤を含むコート層と、前記バルーンの外表面に蒸着されずに前記コート層の外表面に蒸着された金属層と、を有する。
【0011】
前記金属層の材料は、金、白金、クロム、亜鉛、ニッケル、銀、銅からなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、金属層が生体内で脱落しても、生体への安全性を維持できる。
【0012】
前記金属層は、前記コート層の外表面を部分的に覆っていてもよい。これにより、バルーンの外表面に、薬剤の生体組織への移行性が異なる部位を任意に設けることができる。
【0013】
前記薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、またはエベロリムスであってもよい。これにより、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
【0014】
上記目的を達成するバルーンカテーテルの製造方法は、バルーンの外表面に薬剤を含むコート層が形成されたバルーンカテーテルの製造方法であって、前記バルーンの外表面に複数の薬剤結晶を含むコート層を形成するステップと、前記コート層の外表面に金属を蒸着して、前記複数の薬剤結晶が金属層に覆われている薬剤結晶と前記金属層に覆われていない薬剤結晶とを含むように前記金属層を形成するステップと、を有する。
【0015】
上記のように構成したバルーンカテーテルの製造方法は、薬剤を含むコート層の外表面に金属を蒸着するため、生体内でバルーンを目的の位置まで送達する際に、薬剤が脱落することを金属層によって抑制できる。また、バルーンの表面が金属層によって滑りやすくなり、血管内での搬送が容易となる。また、生体内でバルーンの表面にタンパク質等が付着し難くなり、目的の位置での薬剤の生体組織への移行性が向上する。
【0016】
前記金属層の材料は、金、白金、クロム、亜鉛、ニッケル、銀、銅からなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、金属層が生体内で脱落しても、生体への安全性を維持できる。
【0017】
前記金属層を形成するステップにおいて、前記コート層の外表面に部分的に前記金属層を形成してもよい。これにより、バルーンの外表面に、薬剤の生体組織への移行性が異なる部位を任意に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るバルーンカテーテルを示す正面図である。
【
図2】バルーンカテーテルの先端部の断面図である。
【
図4】バルーンカテーテルの製造装置を示す正面図である。
【
図5】バルーンに接触したディスペンシングチューブを示す断面図である。
【
図6】バルーンにコート層を形成した状態を示す正面図である。
【
図7】折り畳まれるバルーンを示す断面図であり、(A)はバルーンの折り畳み前の状態、(B)はバルーンに羽根部が形成された状態、(C)は羽根部が折り畳まれた状態を示す。
【
図8】バルーンカテーテルにより血管の狭窄部を押し広げた状態を示す断面図である。
【
図9】バルーンカテーテルの変形例を示す正面図である。
【
図10】バルーンカテーテルの他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
本実施形態に係るバルーンカテーテル10は、
図1、2に示すように、バルーン30の外表面に薬剤の結晶が設けられた薬剤溶出型のカテーテルである。なお、本明細書では、バルーンカテーテル10の生体管腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0023】
まず、バルーンカテーテル10の構造を説明する。バルーンカテーテル10は、長尺なカテーテル本体20と、カテーテル本体20の先端部に設けられるバルーン30と、バルーン30の外表面に設けられる薬剤を含むコート層40と、コート層40の外表面に設けられる金属層37と、カテーテル本体20の基端に固着されたハブ26とを有している。
【0024】
カテーテル本体20は、先端および基端が開口した管体である外管21と、外管21の内部に配置される管体である内管22とを備えている。内管22は、外管21の中空内部に納められており、カテーテル本体20は、先端部において二重管構造となっている。内管22の中空内部は、ガイドワイヤを挿通させるガイドワイヤルーメン24である。また、外管21の中空内部であって、内管22の外側には、バルーン30の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン23が形成される。内管22は、開口部25において外部に開口している。内管22は、外管21の先端よりもさらに先端側まで突出している。
【0025】
バルーン30は、基端側端部が外管21の先端部に固定され、先端側端部が内管22の先端部に固定されている。これにより、バルーン30の内部が拡張ルーメン23と連通している。拡張ルーメン23を介してバルーン30に拡張用流体を注入することで、バルーン30を拡張させることができる。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、CO2ガス、O2ガス、N2ガス、Arガス、空気、混合ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤等の液体を用いることができる。
【0026】
バルーン30の軸心方向における中央部には、拡張させた際に外径が等しい円筒状のストレート部31(拡張部)が形成され、ストレート部31の軸心方向の両側に、外径が徐々に変化するテーパ部33が形成される。そして、ストレート部31の外表面の全体に、薬剤を含むコート層40が形成される。なお、バルーン30においてコート層40を形成する範囲は、ストレート部31のみに限定されず、ストレート部31に加えてテーパ部33の少なくとも一部が含まれてもよく、または、ストレート部31の一部のみであってもよい。
【0027】
ハブ26は、外管21の拡張ルーメン23と連通して拡張用流体を流入出させるポートとして機能する基端開口部27が形成されている。
【0028】
バルーン30の軸心方向の長さは特に限定されないが、好ましくは5~500mm、より好ましくは10~300mm、さらに好ましくは20~200mmである。
【0029】
バルーン30の拡張時の外径は、特に限定されないが、好ましくは1~10mm、より好ましくは2~8mmである。
【0030】
バルーン30のコート層40が形成される前の外表面は、平滑であり、非多孔質である。バルーン30のコート層40が形成される前の外表面は、膜を貫通しない微小な孔があってもよい。または、バルーン30のコート層40が形成される前の外表面は、平滑であって非多孔質である範囲と、膜を貫通しない微小な孔がある範囲の両方を備えてもよい。微小な孔の大きさは、例えば、直径が0.1~5μm、深さが0.1~10μmであり、1つの結晶に対して、1つまたは複数の孔を有してもよい。また、微小な孔の大きさは、例えば、直径が5~500μm、深さが0.1~50μmであり、1つの孔に対して、1つまたは複数の結晶を有してもよい。
【0031】
バルーン30は、ある程度の柔軟性を有するとともに、血管や組織等に到達した際に拡張されて、その外表面に有するコート層40から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、バルーン30は、金属や、樹脂で構成されるが、コート層40が設けられるバルーン30の少なくとも外表面は、樹脂で構成されていることが好ましい。バルーン30の少なくとも外表面の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ナイロンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。そのなかでも、好適にはポリアミド類が挙げられる。すなわち、薬剤をコートするバルーン30の外表面の少なくとも一部がポリアミド類である。ポリアミド類としては、アミド結合を有する重合体であれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p-フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミドなどが挙げられる。さらに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、または脂肪族ポリエステルなどをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーも、バルーン30の材料として用いられる。上記ポリアミド類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、バルーン30はポリアミドの滑らかな表面を有することが好ましい。
【0032】
バルーン30は、
図3に示すように、その外表面上にコート層40が形成され、さらにその外側に、金属材料が蒸着されて金属層37が形成されている。
【0033】
コート層40は、バルーン30の外表面に層状に配置される水溶性低分子化合物を含む添加剤41(賦形剤)と、独立した長軸を有して延在する水不溶性の薬剤結晶42とを有している。薬剤結晶42の端部は、バルーン30の外表面と直接接触してもよいが、直接接触せずに、薬剤結晶42の端部とバルーン30の外表面との間に添加剤41が存在してもよい。薬剤結晶42の端部が添加剤41の層の表面に位置して、薬剤結晶42が添加剤41から突出してもよい。複数の薬剤結晶42は、バルーン30の外表面に規則的に配置されてもよい。または、複数の薬剤結晶42は、バルーン30の外表面に不規則に配置されてもよい。
【0034】
コート層40に含まれる薬剤量は、特に限定されないが、0.1μg/mm2~10μg/mm2、好ましくは0.5μg/mm2~5μg/mm2の密度で、より好ましくは0.5μg/mm2~3.5μg/mm2、さらに好ましくは1.0μg/mm2~3μg/mm2の密度で含まれる。コート層40の結晶の量は、特に限定されないが、好ましくは5~500、000[crystal/(10μm2)](10μm2当たりの結晶の数)、より好ましくは50~50、000[crystal/(10μm2)]、さらに好ましくは500~5、000[crystal/(10μm2)]である。
【0035】
薬剤結晶42は、各々独立した長軸を有する形態であってもよい。また、薬剤結晶42は、他の形態型であってもよい。複数の薬剤結晶42は、これらが組み合された状態で存在していてもよいし、隣接する複数の薬剤結晶42同士が異なる角度を形成した状態で接触して存在してもよい。複数の薬剤結晶42はバルーン表面上で空間(結晶を含まない空間)をおいて位置していてもよい。バルーン30の表面に、組み合された状態の複数の薬剤結晶42と、互いに離れて独立した複数の薬剤結晶42の両方が存在してもよい。複数の薬剤結晶42は、異なる長軸方向を有して円周状にブラシ状として配置されてもよい。各々の前記薬剤結晶42は独立して存在しており、ある長さを有し、その長さ部分の一端(基端)が、添加剤41またはバルーン30に固定されている。薬剤結晶42は隣接する薬剤結晶42と複合的な構造を形成せず、連結していない。前記結晶の長軸は、ほぼ直線状である。薬剤結晶42はその長軸が交わる基部が接する表面に対して所定の角度を形成している。
【0036】
薬剤結晶42は、互いに接触せずに独立して立っていることが好ましい。薬剤結晶42の基部は、バルーン30上で他の基部と接触していてもよい。または、薬剤結晶42の基部は、バルーン30上で他の基部と接触せずに独立していてもよい。
【0037】
薬剤結晶42は、中空である場合と、中実である場合がある。バルーン30の表面に、中空の薬剤結晶42と、中実の薬剤結晶42の両方が存在してもよい。薬剤結晶42は、中空である場合、少なくともその先端付近が中空である。薬剤結晶42の長軸に直角な(垂直な)面における薬剤結晶42の断面は中空を有する。当該中空を有する薬剤結晶42は長軸に直角な(垂直な)面における薬剤結晶42の断面が多角形である。当該多角形は、例えば3角形、4角形、5角形、6角形などである。したがって、薬剤結晶42は先端(または先端面)と基端(または基端面)とを有し、先端(または先端面)と基端(または基端面)との間の側面が複数のほぼ平面で構成された長尺多面体として形成される。この結晶形態型(中空長尺体結晶形態型)は基部が接する表面において、ある平面の全体または少なくとも一部を構成する。
【0038】
長軸を有する薬剤結晶42の長軸方向の長さは5μm~20μmが好ましく、9μm~11μmがより好ましく、10μm前後であるのがさらに好ましい。長軸を有する薬剤結晶42の径は、0.01μm~5μmであるのが好ましく、0.05μm~4μmであるのがより好ましく、0.1μm~3μmであるのがさらに好ましい。長軸を有する薬剤結晶42の長軸方向の長さと径の組み合わせの例として、長さが5μm~20μmのときに径が0.01~5μmである組み合わせ、長さが5~20μmのときに径が0.05~4μmである組み合わせ、長さが5~20μmのときに径が0.1~3μmである組み合わせが挙げられる。長軸を有する薬剤結晶42は、長軸方向に直線状であるが、曲線状に湾曲してもよい。バルーン30の表面に、直線状の薬剤結晶42と、曲線状の薬剤結晶42の両方が存在してもよい。
【0039】
上述した長軸を有する結晶を有する結晶形態型は、バルーン30の外表面の薬剤結晶全体に対して50体積%以上、より好ましくは70体積%以上である。長軸を有する結晶粒子である薬剤結晶42は、バルーン30または添加剤41の外表面に対して寝ておらず立っているように形成される。添加剤41は、薬剤結晶42がある領域に存在し、薬剤結晶42がない領域にはなくてもよい。
【0040】
添加剤41は、林立する複数の薬剤結晶42の間の空間に分配されて存在する。コート層40を構成する物質の割合は、水不溶性の薬剤結晶42の方が、添加剤41よりも大きい体積を占めることが好ましい。添加剤41は、マトリックスを形成しない。マトリックスとは、比較的高分子の物質(ポリマーなど)が連続して構成された層であり、網目状の三次元構造を形成し、その中に微細な空間が存在する。したがって、結晶を構成する水不溶性薬剤はマトリックス物質中に付着していない。結晶を構成する水不溶性薬剤は、マトリックス物質中に埋め込まれてもいない。なお、添加剤41は、マトリックスを形成してもよい。
【0041】
添加剤41はバルーン30の外表面で溶媒に溶けた状態でコートされた後、乾燥して層として形成される。添加剤41はアモルファスである。添加剤41は、結晶粒子であってもよい。添加剤41は、アモルファスおよび結晶粒子の混合物として存在してもよい。
図3の添加剤41は、結晶粒子及び/または粒子状アモルファスの状態である。または、添加剤41は、フィルム状アモルファスの状態であってもよい。添加剤41は、水不溶性薬剤を含んだ層として形成されている。または、添加剤41は、水不溶性薬剤を含まない独立した層として形成されてもよい。添加剤41の厚みは、0.1~5μm、好ましくは0.3~3μm、より好ましくは0.5~2μmである。
【0042】
長尺な結晶形態型の薬剤結晶42を含む層は、体内に送達する際に、毒性が低く、狭窄抑制効果が高い。中空長尺体結晶形態を含む水不溶性薬剤は、薬剤が組織に移行した時に結晶の一つの単位が小さくなるために組織への浸透性が良く、かつ、良好な溶解性を有するため、有効に作用して狭窄を抑制できる。また、薬剤が大きな塊として組織に残留することが少ないために毒性が低くなると考えられる。
【0043】
また、長尺な結晶形態型の薬剤結晶42を含む層は、組織に移行する結晶の大きさ(長軸方向の長さ)が約10μmと小さい。そのために病変患部に均一に作用し、組織浸透性が高まる。さらに、移行する薬剤結晶42の寸法が小さいために過剰量の薬剤が、過剰時間、患部に留まることがなくなるために、毒性を発現することなく、高い狭窄抑制効果を示すことが可能であると考える。
【0044】
バルーン30の外表面にコーティングされる薬剤は、非晶質(アモルファス)型を含んでもよい。薬剤結晶42や非晶質は、コート層40において規則性を有するように配置されてもよい。または、結晶や非晶質は、不規則に配置されてもよい。
【0045】
金属層37は、上述したコート層40の外表面に蒸着されている。金属層37は、バルーン30の厚さに対して非常に薄いため、バルーン30の柔軟性を妨げない。なお、コート層40は、長軸を有する薬剤結晶42を有しているため、薬剤結晶42の一部が、金属層37を貫通して突出する可能性がある。また、金属層37は、突出する薬剤結晶42自体の表面を覆うこともあり得る。金属層37は、生体内でバルーン30を目的の位置まで送達する際に、薬剤が脱落することを抑制する。また、金属層37は、バルーン30の表面を滑らかにするため、血管内でのバルーン30の搬送を容易とする。また、金属層37は、生体内でコート層40の表面にタンパク質等が付着することを抑制する。このため、金属層37は、目的の位置での生体組織への薬剤移行性を向上させる。
【0046】
金属層37の構成材料は、生体内で脱落しても問題ない金属材料であり、例えば金(Au)、白金(Pt)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、銅(Cu)およびこれらの少なくとも1つを含む合金等が挙げられる。金属層37は、導電性を有しても、有さなくてもよい。金属層37の厚さは、蒸着によって形成可能であって、かつバルーン30の柔軟性を妨げなければ、特に限定されないが、例えば0.1~500nm、好ましくは0.1~100nm、より好ましくは0.1~50nmである。
【0047】
保護シース15は、バルーン30からの薬剤の脱落を抑制する部材であり、バルーンカテーテル10を使用する前に取り除かれる。保護シース15は、柔軟な材料により構成され、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0048】
次に、バルーンカテーテルの製造装置50について説明する。バルーンカテーテル10の製造装置50は、バルーン30にコート層40および金属層37を形成することができる。製造装置50は、
図4、5に示すように、バルーンカテーテル10を回転させる回転機構部60と、バルーンカテーテル10を支持する支持台70とを有する。製造装置50は、さらに、バルーン30の外表面にコーティング液45を塗布するディスペンシングチューブ94が設けられるコーティング液供給部90と、ディスペンシングチューブ94をバルーン30に対して移動させる移動機構部80とを有する。製造装置50は、さらに、コート層40の外表面に金属を蒸着して金属層37を形成する蒸着装置120と、製造装置50の各部位を制御する制御部100とを有する。
【0049】
回転機構部60は、バルーンカテーテル10のハブ26を保持し、内蔵されるモータ等の駆動源によってバルーンカテーテル10を、バルーン30の軸心を中心に回転させる。バルーンカテーテル10は、ガイドワイヤルーメン24内に芯材61が挿通されて保持されるとともに、芯材61によってコーティング液45のガイドワイヤルーメン24内への流入が防止されている。また、バルーンカテーテル10は、拡張ルーメン23への流体の流通を操作するために、ハブ26の基端開口部27に、流路の開閉を操作可能な三方活栓が接続される。
【0050】
支持台70は、カテーテル本体20を内部に収容して回転可能に支持する管状の基端側支持部71と、芯材61を回転可能に支持する先端側支持部72とを備えている。なお、先端側支持部72は、可能であれば、芯材61ではなしにカテーテル本体20の先端部を回転可能に支持してもよい。
【0051】
移動機構部80は、バルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動可能な移動台81と、ディスペンシングチューブ94が固定されるチューブ固定部83とを備えている。移動台81は、内蔵されるモータ等の駆動源によって、直線的に移動可能である。移動台81が移動することで、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動する。また、移動台81は、コーティング液供給部90が載置されており、コーティング液供給部90を軸心に沿う両方向へ直線的に移動させる。
【0052】
コーティング液供給部90は、バルーン30の外表面にコーティング液45を塗布する部位である。コーティング液供給部90は、コーティング液45を収容する容器92と、任意の送液量でコーティング液45を送液する送液ポンプ93と、コーティング液45をバルーン30に塗布するディスペンシングチューブ94とを備えている。
【0053】
送液ポンプ93は、例えばシリンジポンプであり、制御部100によって制御されて、容器92から吸引チューブ91を介してコーティング液45を吸引し、供給チューブ96を介してディスペンシングチューブ94へコーティング液45を任意の送液量で供給できる。送液ポンプ93は、移動台81に設置され、移動台81の移動により直線的に移動可能である。なお、送液ポンプ93は、コーティング液45を送液可能であればシリンジポンプに限定されず、例えばチューブポンプであってもよい。
【0054】
ディスペンシングチューブ94は、供給チューブ96と連通しており、送液ポンプ93から供給チューブ96を介して供給されるコーティング液45を、バルーン30の外表面へ吐出する。ディスペンシングチューブ94は、可撓性を備えた円管状の部材である。ディスペンシングチューブ94は、チューブ固定部83に上端が固定されており、チューブ固定部83から鉛直方向下方へ延在し、下端である吐出端97に開口部95が形成されている。ディスペンシングチューブ94は、移動台81を移動させることで、移動台81に設置される送液ポンプ93とともに、バルーンカテーテル10の軸心方向に沿う両方向へ直線的に移動可能である。ディスペンシングチューブ94はバルーン30に押し付けられて撓んだ状態で、コーティング液45をバルーン30に供給可能である。
【0055】
なお、ディスペンシングチューブ94は、コーティング液45を供給可能であれば、円管状でなくてもよい。また、ディスペンシングチューブ94は、開口部95からコーティング液45を吐出可能であれば、鉛直方向に延在していなくてもよい。また、ディスペンシングチューブ94は、バルーン30の外表面から離れた位置でバルーン30へコーティング液45を供給してもよい。
【0056】
ディスペンシングチューブ94はバルーン30への接触負担を低減し、かつバルーン30の回転に伴う接触位置の変化を撓みにより吸収できるように、柔軟な材料であることが好ましい。ディスペンシングチューブ94の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素系樹脂等を適用できるが、可撓性を有して変形可能であれば、特に限定されない。
【0057】
ディスペンシングチューブ94の外径は、特に限定されないが、例えば0.1mm~5.0mm、好ましくは0.15mm~3.0mm、より好ましくは0.3mm~2.5mmである。ディスペンシングチューブ94の内径は、特に限定されないが、例えば0.05mm~3.0mm、好ましくは0.1mm~2.0mm、より好ましくは0.15mm~1.5mmである。ディスペンシングチューブ94の長さは、特に限定されないが、バルーン直径の5倍以内の長さであることがよく、例えば1.0mm~50mm、好ましくは3mm~40mm、より好ましくは5mm~35mmである。
【0058】
蒸着装置120は、コート層40の外表面に金属を蒸着して金属層37を形成する装置である。蒸着装置120は、公知のものを使用できる。蒸着装置120は、例えば、真空蒸着装置である。
【0059】
制御部100は、例えばコンピュータにより構成され、回転機構部60、移動機構部80およびコーティング液供給部90を統括的に制御する。したがって、制御部100は、バルーン30の回転速度、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する軸心方向への移動速度、ディスペンシングチューブ94からの薬剤吐出速度等を、統括的に制御できる。
【0060】
ディスペンシングチューブ94によりバルーン30に供給されるコーティング液45は、コート層40の構成材料を含む溶液または懸濁液であり、水不溶性薬剤、添加剤、溶媒を含んでいる。コーティング液45がバルーン30の外表面に供給された後、溶媒が揮発することで、バルーン30の外表面に、独立した長軸を有して延在する水不溶性の薬剤結晶42を有するコート層40が形成される。
【0061】
コーティング液45の粘度は、0.2~500cP、好ましくは0.2~50cP、より好ましくは0.2~10cPである。
【0062】
水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5~8で5mg/mL未満である。その溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
【0063】
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
【0064】
水不溶性薬剤は、パクリタキセルおよびパクリタキセル誘導体、タキサン、ドセタキセルならびにラパマイシンおよびラパマイシン誘導体、例えば、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジルおよびエポチロンが好ましく、パクリタキセルおよびラパマイシン、ドセタキセル、エベロリムスが特に好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
【0065】
添加剤41は、水溶性の低分子化合物を含む。水溶性の低分子化合物の分子量は、50~2000であり、好ましくは50~1000であり、より好ましくは50~500であり、さらに好ましくは50~200である。水溶性の低分子化合物は、水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは5~10000質量部、より好ましくは5~200質量部、さらに好ましくは8~150質量部である。水溶性の低分子化合物の構成材料は、セリンエチルエステル、クエン酸エステル、ポリソルベート、水溶性ポリマー、糖、造影剤、アミノ酸エステル、短鎖モノカルボン酸のグリセロールエステル、医薬として許容される塩および界面活性剤等、あるいはこれら二種以上の混合物等が使用できる。水溶性の低分子化合物は、親水基と疎水基を有し、水に溶解することを特徴とする。水溶性の低分子化合物は、非膨潤性または難膨潤性であることが好ましい。添加剤41は、バルーン30上でアモルファス(非晶質)であることが好ましい。水溶性の低分子化合物を含む添加剤41は、バルーン30の外表面上で水不溶性薬剤を均一に分散させる効果を有する。さらに、血管内でのバルーン30の拡張時に添加剤41が溶解しやすくなることで、バルーン30の外表面上の水不溶性薬剤の薬剤結晶42の粒子を放出しやすくなり、血管への薬剤結晶42の粒子の付着量を増加させる効果を有する。添加剤41は、ハイドロゲルでないことが好ましい。添加剤41は低分子化合物であることで、水溶液に接すると膨潤することなく速やかに溶解する。さらに、血管内でのバルーン30の拡張時に添加剤41が溶解しやすくなることで、バルーン30の外表面上の水不溶性の薬剤結晶42の粒子を放出しやすくなり、血管への薬剤結晶42の付着量を増加させる効果を有する。添加剤41がウルトラビスト(Ultravist)(登録商標)のような造影剤からなるマトリクスである場合、結晶粒子がマトリクスに埋め込まれ、バルーン30上からマトリクスの外側に向かって結晶が生成しない。これに対し、本実施形態の薬剤結晶42は、バルーン30の表面から添加剤41の外側まで延在することができる。
【0066】
コーティング液45に含まれる溶媒は、有機溶媒および水の少なくとも一方を含んでいる。
【0067】
有機溶媒は、特に限定されず、テトラヒドロフラン、アセトン、グリセリン、酢酸、t-ブチルアルコール、ベンゼン、クロロヘキサン、o-ジクロロベンゼン、o-キシレン、p-キシレン、シクロヘキサノール、スチレン、シクロヘキサン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテート、i-ブチルアルコール、s-ブチルアルコール、プロパノール、ブタノール、トルエン、エチレングリコール等である。中でも、テトラヒドロフラン、エタノール、アセトンのうち、これらのいくつかの混合溶媒が好ましい。
【0068】
有機溶媒と水の混合例として、例えば、テトラヒドロフランと水、テトラヒドロフランとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンと水、アセトンとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンとエタノールと水が挙げられる。
【0069】
次に、上述した製造装置50を用いてバルーン30の外表面にコート層40および金属層37を形成する方法を説明する。
【0070】
初めに、バルーンカテーテル10の基端開口部27に接続した三方活栓を介して拡張用の流体をバルーン30内に供給する。次に、バルーン30を拡張させた状態で三方活栓を操作して拡張ルーメン23を密封し、バルーン30を拡張させた状態を維持する。バルーン30は、血管内での使用時の圧力(例えば8気圧)よりも低い圧力(例えば4気圧)で拡張される。なお、バルーン30を拡張させずに、バルーン30の外表面にコート層40を形成することもでき、その場合には、拡張用の流体をバルーン30内に供給する必要はない。
【0071】
次に、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の外表面と接触しない状態で、バルーンカテーテル10を支持台70に回転可能に設置し、ハブ26を回転機構部60に連結する。
【0072】
次に、移動台81の位置を調節して、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して位置決めする。このとき、バルーン30においてコート層40を形成する最も先端側の位置に、ディスペンシングチューブ94を位置決めする。一例として、ディスペンシングチューブ94の延在方向(吐出方向)は、
図5に示すように、バルーン30の回転方向と逆方向である。したがって、バルーン30は、ディスペンシングチューブ94を接触させた位置において、ディスペンシングチューブ94からのコーティング液45の吐出方向と逆方向に回転する。これにより、コーティング液45に物理的な刺激を与え、薬剤結晶の結晶核の形成を促すことができる。そして、ディスペンシングチューブ94の開口部95へ向かう延在方向(吐出方向)が、バルーン30の回転方向と逆方向であることで、バルーン30の外表面に形成される水不溶性薬剤の結晶は、結晶が各々独立した長軸を有する複数の薬剤結晶42を含む形態型を含んで形成されやすい。なお、ディスペンシングチューブ94の延在方向は、バルーン30の回転方向と逆方向でなくてもよく、したがって同方向とすることができ、または垂直とすることもできる。
【0073】
次に、回転機構部60によりバルーンカテーテル10を回転させる。続いて、送液ポンプ93により送液量を調節してコーティング液45をディスペンシングチューブ94へ供給しつつ、移動台81を移動させて、ディスペンシングチューブ94をバルーン30の軸心方向に沿って徐々に基端方向へ移動させる。ディスペンシングチューブ94の開口部95から吐出されるコーティング液45は、ディスペンシングチューブ94がバルーン30に対して相対的に移動することで、バルーン30の外周面に螺旋を描きつつ塗布される。バルーン30が回転していることで、バルーン30の外周面に塗布されたコーティング液45が周方向に均一となりやすい。
【0074】
ディスペンシングチューブ94の移動速度は、特に限定されないが、例えば0.01~2mm/sec、好ましくは0.03~1.5mm/sec、より好ましくは0.05~1.0mm/secである。コーティング液45のディスペンシングチューブ94からの吐出速度は、特に限定されないが、例えば0.01~1.5μL/sec、好ましくは0.01~1.0μL/sec、より好ましくは0.03~0.8μL/secである。バルーン30の回転速度は、特に限定されないが、例えば10~300rpm、好ましくは30~250rpm、より好ましくは50~200rpmである。コーティング液45を塗布する際のバルーン30の直径は、特に限定されないが、例えば1~10mm、好ましくは2~7mmである。
【0075】
そして、バルーン30を回転させつつディスペンシングチューブ94を徐々にバルーン30の軸心方向へ移動させる。これにより、バルーン30の外表面に、軸心方向へ向かって、コーティング液45の層を徐々に形成する。バルーン30のコーティングする範囲の全体に、コーティング液45の層が形成された後、回転機構部60、移動機構部80およびコーティング液供給部90を停止させる。
【0076】
バルーン30の外表面に塗布されたコーティング溶液に含まれる有機溶媒は、水よりも先に揮発する。したがって、バルーン30の外表面に、水不溶性薬剤、水溶性低分子化合物および水が残された状態で、有機溶媒が揮発する。このように、水が残された状態で有機溶媒が揮発すると、水不溶性の薬剤が、水を含む水溶性低分子化合物の内部で析出し、結晶核から結晶が徐々に成長して、
図6に示すように、バルーン30の外表面に、結晶が各々独立した長軸を有する複数の結晶を含む形態型(morphological form)の薬剤結晶42が形成される。薬剤結晶42の基部は、バルーン30の外表面、添加剤41の表面または添加剤41内部に位置する。有機溶媒が揮発して薬剤結晶42が析出した後、水が有機溶媒よりもゆっくり蒸発し、水溶性低分子化合物を含む添加剤41が形成される。水が蒸発する時間は、薬剤の種類、水溶性低分子化合物の種類、有機溶媒の種類、材料の比率、コーティング溶液の塗布量等に応じて適宜設定されるが、例えば、1~600秒程度である。
【0077】
次に、バルーンカテーテル10を支持台70から取り外す。続いて、バルーン30およびコート層40の外表面に、公知の蒸着装置120によって金属層37を形成する。なお、バルーンカテーテル10の金属層37を形成しない部位には、マスキング等を施すことで、必要な部位にのみ、金属層37を形成できる。本実施形態では、バルーン30の外表面の、コート層40が設けられない部位には、金属層37を形成しないため、マスキングを施すことが好ましい。なお、マスキングは、公知の技術である。例えば、金属層37を形成した後に取り除くことが可能な公知のマスキングテープ等により、バルーン30の外表面の金属層37を形成しない部位を覆うことで、マスキングすることができる。
【0078】
次に、バルーン30から拡張用流体を排出し、バルーン30を収縮させて折り畳む。これにより、バルーンカテーテル10の製造が完了する。
【0079】
バルーン30は、
図7(A)に示すように、内部に拡張用流体が注入された状態で断面略円形状を有する。この状態から、バルーン30は、突出する羽根部32が形成されることで、
図7(B)に示すように、羽根部32の外側面を構成する羽根外側部34aと、羽根部32の内側面を構成する羽根内側部34bと、羽根外側部34aと羽根内側部34bの間に位置する中間部34cとが形成される。この状態から、
図7(C)に示すように、径方向外側へ突出する羽根部32が、周方向へ折り畳まれる。バルーン30の羽根部32が折り畳まれると、羽根部32の外側面を構成する羽根外側部34aと、羽根部32の内側面を構成する羽根内側部34bと、羽根外側部34aと羽根内側部34bの間に位置する中間部34cとが形成される。バルーン30の羽根部32が折り畳まれると、羽根内側部34bと中間部34cが重なって接触し、バルーン30の外表面同士が対向して重なる重複部35が形成される。そして、中間部34cの一部および羽根外側部34aは、羽根内側部34bに覆われず、外側に露出する。また、バルーン30が折り畳まれた状態では、羽根部32の根元部と中間部34cとの間に、根元側空間部36が形成される。根元側空間部36の領域では、羽根部32と中間部34cとの間に、微小な隙間が形成される。一方、羽根部32の根元側空間部36よりも先端側の領域は、中間部34cに対して密接した状態となっている。羽根部32の周方向長さに対する根元側空間部36の周方向長さの割合は、1~95%の範囲である。バルーン30の羽根外側部34aは、バルーン30を折り畳むためのブレードから周方向に擦れるような押圧力を受け、さらに加熱される。これにより、羽根外側部34aに設けられる長尺な薬剤結晶42がバルーン30の表面に倒れて寝やすい。なお、薬剤結晶42の全てが寝る必要はない。
【0080】
また、バルーン30の重複部35において重なる外表面は、外部に露出しないため、折り畳む際に、ブレードから押圧力が間接的に作用する。このため、バルーン30の重複部35において重なる外表面に設けられる薬剤結晶42に作用する力を、強くなり過ぎないように調節することが容易である。したがって、バルーン30の重複部35において重なる外表面に設けられる薬剤結晶42を寝かせるために望ましい力を作用させることができる。また、互いに対向する羽根内側部34bと中間部34cの領域のうち、根元側空間部36に面する領域、すなわち羽根内側部34bと中間部34cとが密接しない領域では、薬剤結晶42は押圧力を受け難い。したがって、この領域では、薬剤結晶42が寝にくい。また、互いに対向する羽根内側部34bと中間部34cの領域のうち、根元側空間部36に面しない領域、すなわち羽根内側部34bと中間部34cとが密接している領域では、薬剤結晶42は押圧力を受けやすい。したがって、この領域では、薬剤結晶42が倒れて寝やすい。
【0081】
なお、コート層40の外表面に金属層37を蒸着した後に、バルーン30を折り畳むのではなく、バルーン30を折り畳んだ後に、コート層40の外表面に金属層37を蒸着してもよい。
【0082】
次に、本実施形態に係るバルーンカテーテル10の使用方法を、血管内の狭窄部を治療する場合を例として説明する。
【0083】
まず、術者は、セルジンガー法等の公知の方法により、皮膚から血管を穿刺し、イントロデューサ(図示せず)を留置する。次に、バルーンカテーテル10のプライミングを行った後、ガイドワイヤルーメン24内にガイドワイヤ200(
図8を参照)を挿入する。この状態で、ガイドワイヤ200およびバルーンカテーテル10をイントロデューサの内部より血管内へ挿入する。続いて、ガイドワイヤ200を先行させつつバルーンカテーテル10を進行させ、バルーン30を狭窄部へ到達させる。このとき、バルーンカテーテル10は、薬剤結晶40を含むコート層40の外表面に金属層37が蒸着されているため、薬剤結晶40が脱落することを抑制できる。また、バルーン30の表面が金属層37によって滑りやすいため、血管内での搬送が容易である。また、コート層40は、金属層37で覆われているため、生体内でタンパク質等が付着し難い。なお、バルーンカテーテル10を狭窄部300まで到達させるために、ガイディングカテーテルを用いてもよい。
【0084】
次に、ハブ26の基端開口部27より、インデフレーターまたはシリンジ等を用いて拡張用流体を所定量注入し、拡張ルーメン23を通じてバルーン30の内部に拡張用流体を送り込む。これにより、
図8に示すように、折り畳まれたバルーン30が拡張し、狭窄部300が、バルーン30によって押し広げられる。このとき、バルーン30の外表面の補強層35に設けられるコート層40が、狭窄部300に接触する。
【0085】
バルーン30を拡張させてコート層40を生体組織に押し付けると、コート層40に含まれる水溶性の低分子化合物である添加剤41が徐々にまたは速やかに溶けつつ、薬剤結晶42が生体へ送達される。薬剤結晶42を含むコート層40は、金属層37によって搬送時に脱落が抑制されている。また、コート層40は、金属層37によって、生体内でのタンパク質等の付着が抑制されている。このため、バルーンカテーテル10は、薬剤結晶42を生体組織へ良好に送達できる。なお、金属層37は、非常に薄く、かつバルーン30の拡張時に破壊されるため、生体組織への薬剤結晶42の移行を妨げない。
【0086】
この後、拡張用流体をハブ26の基端開口部27より吸引して排出し、バルーン30を収縮させて折り畳まれた状態とする。この後、イントロデューサを介して血管よりガイドワイヤ200およびバルーンカテーテル10を抜去し、手技が終了する。
【0087】
以上のように、本実施形態に係るバルーンカテーテル10は、生体管腔内に挿入可能なバルーンカテーテル10であって、長尺なカテーテル本体20と、カテーテル本体20の遠位側に設けられて径方向へ拡張可能なバルーン30と、バルーン30の外表面に配置される薬剤を含むコート層40と、コート層40の外表面に蒸着された金属層37と、を有する。
【0088】
上記のように構成したバルーンカテーテル10は、薬剤を含むコート層40の外表面に金属層37が蒸着されているため、生体内でバルーン30を目的の位置まで送達する際に、薬剤が脱落することを金属層37によって抑制できる。また、バルーン30の表面が金属層37によって滑りやすくなり、血管内での搬送が容易となる。また、生体内でバルーン30およびコート層40の表面にタンパク質等が付着し難くなり、目的の位置での生体組織への薬剤移行性が向上する。なお、薬剤が水溶性であっても、バルーン30が拡張して金属層37が破壊されるまで、蒸着した金属層37が、薬剤の意図しない溶出を抑制できる。このため、このため、薬剤は、水不溶性ではなく、水溶性であってもよい。水溶性の薬剤は、例えば、プラバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチン等が挙げられる。
【0089】
また、金属層37の材料は、金(Au)、白金(Pt)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、銅(Cu)およびこれらの少なくとも1つを含む合金等からなる群から選択される少なくとも1つを含有する。これにより、金属層37が生体内で脱落しても、生体への安全性を維持できる。
【0090】
また、薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセルおよびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。これにより、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
【0091】
また、本実施形態に係るバルーンカテーテル10の製造方法は、バルーン30の外表面に薬剤を含むコート層40が形成されたバルーンカテーテル10の製造方法であって、バルーン30の外表面に薬剤を含むコート層40を形成するステップと、コート層40の外表面に金属を蒸着して金属層37を形成するステップと、を有する。
【0092】
上記のように構成したバルーンカテーテル10の製造方法は、薬剤を含むコート層40の外表面に金属を蒸着するため、生体内でバルーン30を目的の位置まで送達する際に、薬剤が脱落することを金属層37によって抑制できる。また、バルーン30の表面が金属層37によって滑りやすくなり、血管内での搬送が容易となる。また、金属層37によって生体内でバルーン30およびコート層40の表面にタンパク質等が付着し難くなり、目的の位置での生体組織への薬剤移行性が向上する。
【0093】
また、本発明は、バルーンカテーテル10を使用して生体管腔内の病変部に薬剤を送達する処置方法(治療方法)をも含む。当該処置方法は、バルーン30を生体管腔内に挿入して病変部へ到達させるステップと、バルーン30を拡張させて生体組織に押し付け、金属層37を破壊しつつ薬剤を生体組織に接触させるステップと、バルーン30を収縮させて生体管腔から抜去するステップと、を有する。
【0094】
上記のように構成した処置方法は、薬剤を含むコート層40の外表面に金属層37が蒸着されているバルーンカテーテル10を用いるため、生体内でバルーン30を目的の位置まで送達する際に、薬剤が脱落することを金属層37によって抑制できる。また、バルーン30の表面が金属層37によって滑りやすくなり、血管内での搬送が容易となる。また、生体内でバルーン30およびコート層40の表面にタンパク質等が付着し難くなり、目的の位置での生体組織への薬剤移行性が向上する。なお、金属層37は、非常に薄く、かつバルーン30の拡張時に破壊されるため、生体組織への薬剤の移行を妨げない。
【0095】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述の実施形態に係るバルーンカテーテル10は、ラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)であるが、オーバーザワイヤ型(Over-the-wire type)であってもよい。
【0096】
また、ディスペンシングチューブ94が移動せずに、バルーンカテーテル10が軸心に沿って移動してもよい。
【0097】
また、
図9に示す変形例のように、金属層37は、コート層40の外表面に部分的に設けられてもよい。コート層40の一部は、金属層37が設けられていない露出部46を有している。これにより、バルーン30上に、薬剤の生体組織への移行性の異なる部位を、任意に形成できる。なお、露出部46の形状は、特に限定されない。
【0098】
また、
図10に示す他の変形例のように、コート層40の薬剤結晶42が、金属層37を貫通しなくてもよい。
【0099】
さらに、本出願は、2017年3月16日に出願された日本特許出願番号2017-050841号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0100】
10 バルーンカテーテル
30 バルーン
37 金属層
40 コート層
41 添加剤
42 薬剤結晶
45 コーティング液
50 カテーテルの製造装置
60 回転機構部
80 移動機構部
90 コーティング液供給部
94 ディスペンシングチューブ
100 制御部
120 蒸着装置