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特許7073363工学的に操作されたシステインキャップの分配
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】工学的に操作されたシステインキャップの分配
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20220516BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20220516BHJP
【FI】
C12P21/08
C07K19/00
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019522977
(86)(22)【出願日】2017-11-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 US2017060182
(87)【国際公開番号】W WO2018085769
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】62/418,572
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505314468
【氏名又は名称】シージェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】バルガヴァ, スワプニル
(72)【発明者】
【氏名】チェン, チェン-ウェイ アーロン
(72)【発明者】
【氏名】リース, マシュー ジェイ.
【審査官】名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513478(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103146(WO,A1)
【文献】特表2015-512259(JP,A)
【文献】特表2015-521615(JP,A)
【文献】特表2013-505712(JP,A)
【文献】国際公開第2015/157595(WO,A1)
【文献】Xiaoying (Nancy) Chen, et al.,Charge-based analysis of antibodies with engineered cysteines From multiple peaks to a single main peak,mAbs,2009年12月,v.1(6),p.563-571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体-機能剤コンジュゲートを生成する方法であって、
少なくとも1つのキャップされたシステイン残基を有する抗体を含む宿主細胞を培養するステップであって、前記宿主細胞はフィード用培地において培養されるステップ、
前記宿主細胞の培養物をシスチンと接触させることによって、前記システインキャップが、前記抗体から除去されるステップであって、前記シスチンは、前記フィード用培地のシスチンにさらに添加されるものであるステップ、および
前記抗体に機能剤をコンジュゲートして、抗体-機能剤コンジュゲートを生成するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記宿主細胞の培養物を溶存酸素(DO)と接触させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記宿主細胞の培養物をシスチンと接触させるのと同時に、またはその後に、前記宿主細胞の培養物を0%~50%DOの設定点でDOの第1の操作と接触させるステップ、
前記宿主細胞の培養物をDOの前記第1の操作と接触させた後に、前記宿主細胞の培養物を20%~100%DOの設定点でDOの第2の操作と接触させるステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記宿主細胞の培養物を前記第1の操作と接触させる前記ステップが、0.5~8時間の持続期間にわたり行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記宿主細胞の培養物を前記第1の操作と接触させる前記ステップが、2時間の持続期間にわたり行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記宿主細胞の培養物を前記第2の操作と接触させる前記ステップが、0.5~8時間の持続期間にわたり行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記宿主細胞の培養物を前記第2の操作と接触させる前記ステップが、2時間の持続時間で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
DOの前記第1の操作が、0%DOの設定点にある、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
DOの前記第2の操作が、100%DOの設定点にある、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体が、少なくとも2つの工学的に操作されたシステイン残基を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記工学的に操作されたシステイン残基が、前記抗体分子の重鎖定常領域中に存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工学的に操作されたシステイン残基が、前記抗体分子の重鎖可変領域および軽鎖可変領域中に存在する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
それによって、前記タンパク質分子がシステイン分子により再キャップされる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記システインキャップが工学的に操作されたシステインキャップ(EC-キャップ)である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記宿主細胞の培養物を、宿主細胞培養の10日目にシスチンと接触させる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記宿主細胞の培養物を、宿主細胞培養持続期間の全体にわたり、毎日、シスチンと接触させる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記宿主細胞の培養物を、宿主細胞培養持続期間の最終日にシスチンと接触させる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記シスチンが、0.1mM~5Mの間の濃度で添加される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記シスチンが4mMの濃度で添加される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記機能剤が、イメージング剤、診断剤、安定剤または治療剤である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記機能剤が薬物であり、前記薬物が、細胞毒性薬、細胞増殖抑制薬または免疫抑制薬である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2016年11月7日に出願された米国仮出願番号第62/418,572号の利益を主張しており、この仮出願は、すべての目的のためにその全体が本明細書中に援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
選択されたアミノ酸がシステインに変異されているモノクローナル抗体(mAb)(すなわち、工学的に操作されたシステインmAbまたはecmAb)は、ecmAbを含むコンジュゲートが、薬物対抗体比(DAR)の均一性、有利な薬物動態、安定性および溶解性を含む、有利な特性を有するので、コンジュゲート(例えば、抗体薬物コンジュゲートまたはADC)での使用に特に好適である。システイン変異は、鎖間または鎖内ジスルフィド結合を一般に形成しない抗体のアミノ酸配列の位置にあり、変異体mAbを生成する細胞内の発現機構は、システイン残基を不対システインととらえる。したがって、工学的に操作されたシステインは、非コードシステイン分子とジスルフィドが混ざった形態で、一般に発現される(すなわち、工学的に操作されたシステインは、キャップ剤、例えばシステイン(cys-キャップ)、ホモシステイン(hcy-キャップ)、システイニルグリシン(cysgly-キャップ)またはグルタチオン(gsh-キャップ)により「キャップ」されて、工学的に操作されたシステインキャップ(EC-キャップ)を形成する)。
【0003】
工学的に操作されたシステイン抗体のいずれのバッチでも、工学的に操作されたシステインの非常に反応性の高いチオールが、幅広い範囲のEC-キャップ種によって通常、保護される。ecmAbは、最終のmAbまたはADCに影響を及ぼさないが、ecmAb上のEC-キャップにおける不均質性は、イメージキャピラリー等電点電気泳動(icIEF)プロファイルにおいて様々なピークとして現れ得る一方、同一のEC-キャップ種を有するecmAbのicIEFプロファイルは一致する。icIEFは、mAbおよびADCの生成の間に、中間抗体物質に関する抗体放出アッセイに一般に使用されるので、icIEFプロファイルの不一致は、医薬品の製造管理および品質管理に関する基準(GMP)のバッチが不合格になる場合もあり得る。不均質なEC-キャップ分配は、細胞培養の持続期間の延長によって、単一のEC-キャップ種(cys-キャップ)に変換することができるが、これには制約があり、かつコストがかかり、製品品質に影響を及ぼし得る。本発明は、この問題および他の問題に対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の簡単な要旨
本発明は、とりわけ、少なくとも1つのキャップされたシステイン残基を有するタンパク質分子を含む宿主細胞を培養し、宿主細胞の培養物をシスチンと接触させ、これにより、システインキャップをタンパク質分子から除去することによる、タンパク質分子からシステインキャップを除去する方法を提供する。一実施形態では、宿主細胞の培養物を、溶存酸素(DO)とさらに接触させる。さらなる実施形態では、宿主細胞の培養物をシスチンと接触させるのと同時に、またはその後に、宿主細胞の培養物を0%~50%DOの設定点でDOの第1の操作と接触させ、宿主細胞の培養物をDOの第1の操作と接触させた後に、宿主細胞の培養物を、20%~100%DOの設定点でDOの第2の操作と接触させる。一実施形態では、宿主細胞の培養物は、0.5~8時間、DOの第1の操作と接触させる。一実施形態では、宿主細胞の培養物は、0.5~8時間、DOの第2の操作と接触させる。一実施形態では、DOの第1の操作は、0%DOの設定点にある。一実施形態では、DOの第2の操作は、100%DOの設定点にある。
【0005】
一実施形態では、上記のタンパク質は抗体である。さらなる実施形態では、抗体は、抗体-薬物コンジュゲートを形成するのに十分な条件下で、薬物-リンカー化合物と組み合わされる。さらなる実施形態では、抗体は、少なくとも2つの工学的に操作されたシステイン残基を有する。一実施形態では、工学的に操作されたシステイン残基は、抗体分子の重鎖定常領域中に存在する。別の実施形態では、工学的に操作されたシステイン残基は、抗体分子の重鎖または軽鎖可変領域中に存在する。一実施形態では、システインキャップは、工学的に操作されたシステインキャップ(EC-キャップ)である。
【0006】
一実施形態では、宿主細胞の培養物は、宿主細胞培養の10日目にシスチンと接触させる。別の実施形態では、宿主細胞の培養物は、全宿主細胞培養持続期間の全体にわたり、毎日、シスチンと接触させる。別の実施形態では、宿主細胞の培養物は、宿主細胞培養持続期間の最終日に、シスチンと接触させる。一実施形態では、シスチンは、0.1mM~5Mの間の濃度で添加される。さらなる実施形態では、シスチンは、4mMの濃度で添加される。
特定の態様では、例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
タンパク質分子からシステインキャップを除去する方法であって、
少なくとも1つのキャップされたシステイン残基を有するタンパク質分子を含む宿主細胞を培養するステップ、および
前記宿主細胞の培養物をシスチンと接触させるステップ
を含み、それによって、前記システインキャップが、前記タンパク質分子から除去される、方法。
(項目2)
前記宿主細胞の培養物を溶存酸素(DO)と接触させるステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記宿主細胞の培養物をシスチンと接触させるのと同時に、またはその後に、前記宿主細胞の培養物を0%~50%DOの設定点でDOの第1の操作と接触させるステップ、
前記宿主細胞の培養物をDOの前記第1の操作と接触させた後に、前記宿主細胞の培養物を20%~100%DOの設定点でDOの第2の操作と接触させるステップ
をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記宿主細胞の培養物を前記第1の操作と接触させる前記ステップが、0.5~8時間の持続期間にわたり行われる、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記宿主細胞の培養物を前記第1の操作と接触させる前記ステップが、2時間の持続期間にわたり行われる、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記宿主細胞の培養物を前記第2の操作と接触させる前記ステップが、0.5~8時間の持続期間にわたり行われる、項目3に記載の方法。
(項目7)
前記宿主細胞の培養物を前記第2の操作と接触させる前記ステップが、2時間の持続時間で行われる、項目6に記載の方法。
(項目8)
DOの前記第1の操作が、0%DOの設定点にある、項目3に記載の方法。
(項目9)
DOの前記第2の操作が、100%DOの設定点にある、項目3に記載の方法。
(項目10)
タンパク質が抗体である、項目1から3のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記抗体を、抗体-薬物コンジュゲートを形成するのに十分な条件下で、薬物-リンカー化合物と組み合わせるステップをさらに含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記抗体が、少なくとも2つの工学的に操作されたシステイン残基を有する、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記工学的に操作されたシステイン残基が、前記抗体分子の重鎖定常領域中に存在する、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記工学的に操作されたシステイン残基が、前記抗体分子の重鎖可変領域および軽鎖可変領域中に存在する、項目12に記載の方法。
(項目15)
それによって、前記タンパク質分子がシステイン分子により再キャップされる、項目1から3のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記システインキャップが工学的に操作されたシステインキャップ(EC-キャップ)である、項目1から3のいずれかに記載の方法。
(項目17)
前記宿主細胞の培養物を、宿主細胞培養の10日目にシスチンと接触させる、項目1から3のいずれかに記載の方法。
(項目18)
前記宿主細胞の培養物を、宿主細胞培養持続期間の全体にわたり、毎日、シスチンと接触させる、項目1から3のいずれかに記載の方法。
(項目19)
前記宿主細胞の培養物を、宿主細胞培養持続期間の最終日にシスチンと接触させる、項目1から3のいずれかに記載の方法。
(項目20)
前記シスチンが、0.1mM~5Mの間の濃度で添加される、項目1から3のいずれかに記載の方法。
(項目21)
前記シスチンが4mMの濃度で添加される、項目1から3のいずれかに記載の方法。
(項目22)
タンパク質分子からシステインキャップを除去し再形成する方法であって、
少なくとも1つのキャップされたシステイン残基を有するタンパク質分子を含む宿主細胞を培養するステップ、および
前記宿主細胞の培養物をシスチンと接触させるステップ、
前記宿主細胞の培養物をシスチンと接触させるのと同時に、またはその後に、前記宿主細胞の培養物を0%~50%の設定点でDOの第1の操作と接触させるステップ、
前記宿主細胞の培養物を0%~50%の設定点でDOと接触させた後に、前記宿主細胞の培養物を20%~100%の設定点でDOの第2の操作と接触させるステップ
を含み、これにより、前記システインキャップが前記タンパク質分子から除去され、タンパク質がシステイン分子により再キャップされる、方法。
(項目23)
タンパク質分子からシステインキャップを除去する方法であって、
少なくとも1つのキャップされたシステイン残基を有するタンパク質分子を含む宿主細胞を培養するステップ、および
宿主細胞の培養物を対称ジスルフィドと接触させるステップ
を含み、それによって、前記システインキャップが、前記タンパク質分子から除去される、方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、システイン(-cysまたはcys-キャップ)、ホモシステイン(-hcyまたはhcy-キャップ)、システイニルグリシン(-cysglyまたはcysgly-キャップ)およびグルタチオン(-gshまたはgsh-キャップ)を含む、幅広い範囲の工学的に操作されたシステインキャップ種を有する抗体を示す図である。
【0008】
図2図2は、実施形態による、2分子の場合のシスチン添加および溶存酸素操作の後のEC-キャップ分配を示す図である。10日目とは、細胞培養の10日目を表し、+CysCysは、シスチン添加物を表し、0%または100%のDOは、溶存酸素の設定点を表す。
【0009】
図3図3は、実施形態による様々な条件下での、細胞培養物中のecmAbのicIEFプロファイルを示す図である。
【0010】
図4図4は、対照(破線)、および実施形態による6日目(実線)から開始した毎日のシスチン添加の経時的なEC-キャップ分配を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
I.総説
本発明は、細胞培養物中のタンパク質から、様々な種(例えば、システイン、ホモシステイン、システイニルグリシンおよび/またはグルタチオン)の工学的に操作されたシステインキャップ(EC-キャップ)を除去し、これによって、次に、タンパク質の工学的に操作されたシステインを、一致する所望のキャップ種(例えば、システイン、ホモシステイン、システイニルグリシンおよびグルタチオンのうちの1種)により再キャップする方法をとりわけ提供する。一実施形態では、本方法は、工学的に操作されたシステイン残基のキャップを解除し、cys-キャップによりこの残基を再キャップするのに十分な条件下で、ecmAbを含む細胞培養物をシスチン溶液と接触させるステップを含む。シスチン溶液を細胞培養物に添加することは、抗体を採取した後にシスチン溶液を添加するより好ましくあり得、なぜなら、これは、中間mAb物質中のEC-キャップの潜在的な不均質性に対処するものであり、EC-キャップ分配が、細胞培養プロセスのレベルで制御されることを確実にするからである。一部の実施形態では、溶存酸素(DO)レベルは、細胞培養物中で操作され、キャップ解除/再キャッププロセスをさらに増強する。本発明の方法は、とりわけ、icIEF全体の一致、ならびに他の電荷をベースとするアッセイ、プロファイルと、mAbおよびADCを調製する現在の製造実践の単純化とを実現する。
【0012】
II.定義
本明細書において使用される場合、用語「抗体」とは、無傷モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異的抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)、および所望の生物活性(すなわち、標的抗原に対する特異的結合)を示し、かつ少なくとも1つの生来の鎖間ジスルフィド結合を有する抗体フラグメントを幅広く指す。例示的な断片には、例えば、Fab、ミニ抗体などが含まれる。無傷抗体は、典型的には、4つのポリペプチド鎖(2つの重鎖および2つの軽鎖)で構成され、各ポリペプチドは、主に2つの領域:可変領域および定常領域を有する。可変領域は、標的抗原に特異的に結合して、これと相互作用する。可変領域は、特定の抗原上の特異的結合部位を認識してこれに結合する相補性決定領域(CDR)を含む。定常領域は、免疫系により認識されて、これと相互作用することができる(例えば、Janewayら、2001年、Immuno. Biology、第5版、Garland Publishing、New Yorkを参照されたい)。4つのポリペプチド鎖は、鎖間ジスルフィド結合を介して、互いに共有結合により連結している。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgDおよびIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)または部分クラスのものであり得る。抗体は、任意の好適な種に由来することができる。一部の実施形態では、抗体は、ヒトまたはネズミ起源のものである。モノクローナル抗体は、例えば、ヒト、ヒト化またはキメラであり得る。文脈に応じて、用語「抗体」とは、単一の抗体分子、または抗体溶液中などの抗体分子の集合体を指すことができる。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「鎖間ジスルフィド結合」とは、抗体における隣接ポリペプチド鎖上の2つのシステイン残基間の共有結合を指す。ジスルフィド結合は、式R-S-S-Rを有しており、ここで、硫黄原子は、システイン側鎖に存在しており、RおよびRは、システイン残基、およびそれらが存在するポリペプチド鎖の残りを表す。鎖間ジスルフィド結合は、抗体における重鎖と軽鎖との間に、または2つの重鎖間に一般に存在する。
【0014】
本明細書で使用する場合、用語「工学的に操作されたシステイン残基」とは、タンパク質(例えば、抗体)のペプチド配列中に導入されたシステイン残基を指す。工学的に操作されたシステイン残基を有するモノクローナル抗体は、「ecmAb」と呼ぶことができる。工学的に操作されたシステイン残基は、タンパク質の生来(すなわち、天然に存在する)のペプチド配列には一般に存在しない。工学的に操作されたシステイン残基は、ペプチド配列における所与の位置で、天然に存在するアミノ酸の位置をとることができ、部位特異的突然変異などの組換え技法により、ペプチド配列中に導入され得る。工学的に操作されたシステイン残基は、キャップされていてもよく、またはキャップがなくてもよい。
【0015】
本明細書で使用する場合、用語「キャップのないシステイン残基」とは、α側鎖が式R-SHを有する遊離チオール部分を含有する、システイン残基を指す。Rは、システイン残基の非チオール部分を表す。キャップのないシステイン残基は、キャップのない工学的に操作されたシステイン残基であり得る。
【0016】
本明細書において使用される場合、用語「キャップされたシステイン残基」とは、α側鎖が、式R-S-S-Rを有するジスルフィド部分を含有する、システイン残基を指す。Rは、システイン残基の非チオール部分を表し、Rは、約500Da未満またはこれに等しい分子量を有するキャップ部分の非チオール部分を表す。例えば、キャップは、システイン、ホモシステイン、システイニルグリシンまたはグルタチオン(それぞれ、Rは、遊離システイン、システイニルグリシンの非チオール部分、またはグルタチオンの非チオール部分を表す)、または任意の他の利用可能なモノチオールであり得る。キャップされたシステイン残基は、キャップされた工学的に操作されたシステイン残基であり得る。
【0017】
本明細書で使用する場合、タンパク質からEC-キャップなどの物質(または、キャップ副生物)を「除去すること」とは、タンパク質から、物質の全体を含む物質の任意の部分を除去することを指す。
【0018】
本明細書で使用する場合、タンパク質上のEC-キャップなどの物質(または、キャップ副生物)を「再キャップする」とは、タンパク質上の、物質の全体を含む物質の任意の部分を再形成することを指す。
【0019】
本明細書で使用する場合、用語「抗体-薬物コンジュゲート」および「ADC」とは、任意選択でリンカーを介して、治療剤(すなわち、薬物)にコンジュゲートされた抗体を指す。
【0020】
本明細書で使用する場合、用語「薬物-リンカー化合物」または「薬物-リンカー」とは、薬物部分とこれに付着しているリンカーとを有する分子を指し、ここで、リンカーは、抗体におけるアミノ酸残基(システイン残基など)への付着に好適な反応性部分を含有する。
【0021】
III.実施形態の説明
本発明は、とりわけ、ecmAbから工学的に操作されたシステインキャップ(EC-キャップ)を除去する方法、およびecmAb上の所望のキャップ種を再形成する方法を提供する。一実施形態では、本方法は、工学的に操作されたシステイン残基のキャップを解除し、システインによりこの残基を再キャップするのに十分な条件下で、ecmAbを含む細胞培養物をシスチン溶液と接触させるステップを含む。
【0022】
細胞培養条件
一部の実施形態では、ecmAbは、宿主細胞の培養物から生成して、採取する。図1は、抗体の工学的に操作されたシステイン残基上のEC-キャップの様々な例を示している。いずれの細胞培養物でも、工学的に操作されたシステイン残基を有する抗体は、図1に示されているEC-キャップ種のいずれか、またはすべてによりキャップされてもよい。本発明の方法を使用して、細胞培養物中のecmAbのEC-キャップ間の一致を生じさせることができる、例えば、EC-キャップを除去し、工学的に操作されたシステイン残基をcys-キャップにより再キャップすることができる。一部のこのような態様では、工学的に操作されたシステイン残基は、抗体の重鎖の239位(Kabatら、「Sequences of proteins of immunological interest」、第5版、出版番号91-3242、U.S. Dept. Health & Human Services、NIH、Bethesda、M.D.、1991年により記載されている、EUインデックスに従う番号付け)に存在する。細胞培養物は、CHO細胞を含む、哺乳動物細胞株のいずれかを含むことができる。細胞培養に使用される培地は、RPMIを含む任意の培地であり得る。一部の実施形態では、培地は、シスチンを低濃度ですでに含有する。しかし、培地中の低量のシスチンは、ecmAbからEC-キャップを除去して再キャップするには一般に十分ではない。
【0023】
細胞培養物は、ecmAbの任意の好適な量を含むことができる。典型的には、細胞培養物中のタンパク質(抗体タンパク質または非抗体タンパク質に関わらない)の濃度は、約0.01mg/mL~約150mg/mL、またはこれより高く、より典型的には、約1mg/ml~約50mg/mlの範囲である。細胞培養物は、細胞培養物1mLあたり、例えば、約0.01、0.05、0.1、0.25、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、12.5、15、17.5、20、22.5、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140または約150mgのタンパク質(抗体タンパク質または非抗体タンパク質に関わらない)を含有することができる。当業者は、質量に基づく濃度(例えば、mg/mL)を、モル濃度(すなわち、モル/L)に変換することができるであろう。
【0024】
ecmAbからEC-キャップを除去しシステインにより再キャップするため、シスチン溶液を細胞培養物に加える。シスチン溶液は、酸性溶液または塩基性溶液などのいかなる種類の溶液であり得るか、またはシスチンは、細胞培養培地(例えば、フィード用培地または基本培地)中に存在することができる。シスチン溶液は、直接的な注入を含む、任意の方法によって細胞培養物に添加することができる。他の実施形態では、ホモシステインのジスルフィドまたは任意の対称ジスルフィドなどの細胞培養物に、様々な溶液を添加する。一部の実施形態では、所望のEC-キャップの単量体と二量体の両方を加えると、EC-キャップの交換が容易になり、例えば、システインおよびシスチンが細胞培養物に添加される。一実施形態では、工学的に操作されたシステイン残基を再キャップするために使用されるEC-キャップ種は、細胞培養物に添加される対称ジスルフィドに依存する。例えば、シスチンが添加される場合、ecmAbは、システインにより再キャップされることになる。ホモシステインジスルフィドが添加される場合、ecmAbは、ホモシステインにより再キャップされることになる。
【0025】
シスチン溶液(または、他の対称ジスルフィド)の任意の好適な量を、本発明の方法に使用することができる。一般に、細胞培養物に添加される対称ジスルフィドの濃度は、抗体の工学的に操作されたシステイン残基をキャップ解除して、再キャップするほど十分に高い。一部の実施形態では、シスチンは、0.1mM~5Mの間の濃度で添加される。さらなる実施形態では、シスチンは、0.1mM~1M、0.1mM~100mM、1mM~100mM、1mM~10mM、または1mM~5mMの間の濃度で添加される。さらなる実施形態では、シスチンは、0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800もしくは900mM、または1、2、3、4または5Mの濃度で添加される。一部の実施形態では、濃度は、増大してもよく、または減少させてもよい。一部の実施形態では、シスチンの濃度は、全抗体の濃度よりも高い濃度で維持される。一部の態様では、細胞培養物中のシスチンの濃度は、細胞培養物中の全抗体の濃度よりも、約5倍~約10,000倍、5倍~約5,000倍、5倍~約1,000倍、5倍~約500倍、5倍~約100倍、5倍~約20倍、5倍~約15倍または5倍~約10倍高い範囲となる。例えば、一部の実施形態では、細胞培養物中のシスチンの全抗体に対する濃度比は、約5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、11:1、12:1、13:1、14:1、15:1、16:1、17:1、18:1、19:1、20:1、25:1、50:1、100:1、またはこれより高くなる。
【0026】
一部の実施形態では、シスチン(または、他の対称ジスルフィド)は、細胞培養の持続期間にわたり、毎日、添加される。他の実施形態では、シスチンは、ある特定の日に、例えば細胞培養の10日目にしか添加されない。一部の実施形態では、シスチンは細胞培養の以下の日:1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目、15日目、または15日目よりも後(20日目、25日目、30日目、35日目、60日目、90日目、または90日目よりも後のいずれかの日など)のいずれか、またはすべての日に添加される。一実施形態では、シスチンは、細胞培養持続期間の最終日に添加される。シスチンは、細胞培養の持続期間全体にわたり、1回、2回、3回もしくは4回、またはそれより多い回数、添加することができる。一実施形態では、シスチンは、抗体が細胞培養物から採取される日に、細胞培養物に添加される。
【0027】
任意の適切な量の溶存酸素が、本発明の方法に使用することができる。一部の実施形態では、DOの設定点は、シスチンの添加後に細胞培養物中で操作される。他の実施形態では、DOの設定点は、シスチンの添加前、またはシスチンの添加と同時に操作される。一実施形態では、DOは、還元環境を作り出すため、シスチンの添加前、添加中または添加後に、0%~99%の間(ここで、100%のDOは、空気飽和度100%、または約21%の酸素である)の範囲まで低減される。例えば、DOは、0%~90%、0%~50%、0%~30%、0%~20%、0%~10%、10%~50%、10%~40%、10%~30%、10%~20%の間の設定点、または0%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%もしくは90%の設定点まで低減される。DOは、シスチンの添加後、0.5~10時間、0.5~4時間、0.5~2時間、0.5~8時間、0.5~10時間、1~10時間、1~4時間、1~2時間、5分間、30分間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間もしくは10時間、またはそれより長い時間を含む、任意の持続期間にわたり、低減され得る。DOが低減された後、DOは、次に、任意の持続期間にわたり、1%~500%の間の範囲まで増加される。例えば、DOは、10%~500%、20%~500%、30%~500%、40%~500%、50%~500%、60%~500%、70%~500%、80%~500%、90%~500%、10%~100%、20%~100%、30%~100%、40%~100%、50%~100%、60%~100%、70%~100%、80%~100%、90%~100%の間の設定点、または10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくは100%の設定点まで増加され得る。DOは、0.5~10時間、0.5~4時間、0.5~2時間、1~10時間、1~4時間、1~2時間、5分間、30分間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間もしくは10時間、またはそれより長い時間を含む、任意の持続期間にわたり、増加され得る。DOは、空気および酸素を吹き付けること、ならびに/または覆い被せることを含む、任意の方法により添加され得る。
【0028】
抗体コンジュゲート
抗体上のキャップのない工学的に操作されたシステイン残基は、イメージング剤(発色団およびフルオロフォアなど)、診断剤(MRI造影試薬および放射性同位体など)、安定剤(ポリエチレン(polyetheylene)グリコールポリマーなど)および治療剤を含む様々な官能基を導入するための有用な手段として働く。コンジュゲートプロセス中に、ecmAbの様々なEC-キャップが除去され、キャップのないシステイン残基をもたらす。キャップのないシステイン残基を有する抗体は、機能剤にコンジュゲートして、抗体-機能剤-コンジュゲートを形成することができる。機能剤(例えば、薬物、検出剤、安定剤)は、工学的に操作されたシステイン残基の部位において、抗体にコンジュゲートされる(共有結合による付着)。機能剤は、リンカーを介して間接的に、または機能剤上のチオール反応性基を介して直接、付着され得る。
【0029】
キャップのないシステイン残基を有する抗体は、薬物にコンジュゲートされて、抗体薬物コンジュゲート(ADC)を形成することができる。典型的には、ADCは、薬物と抗体との間にリンカーを含有する。リンカーは、切断可能リンカーまたは切断不能リンカーであり得る。切断可能リンカーは、通常、リンカーの切断が標的部位において抗体から薬物を放出するよう細胞内条件下で切断を受けやすい。好適な切断可能リンカーは、例えば、リソソームプロテアーゼまたはエンドソームプロテアーゼなどの細胞内プロテアーゼにより切断可能なリンカーを含有するペプチジルを含む酵素により切断可能なリンカー、または糖リンカー、例えばグルクロニダーゼにより切断可能なグルクロニド含有リンカーを含む。ペプチジルリンカーは、例えば、バリン-シトルリン(val-cit)、フェニルアラニン-リシン(phe-lys)またはバリン-アラニン(val-ala)などのジペプチドを含むことができる。他の適切な切断可能リンカーは、例えば、pH感受性リンカー(例えば、ヒドラゾンリンカーなどの5.5未満のpHで加水分解可能なリンカー)、および還元条件下で切断可能なリンカー(例えば、ジスルフィドリンカー)を含む。切断不能リンカーは、通常、抗体のタンパク質分解により薬物を放出する。
【0030】
抗体への付着前に、リンカーはキャップのない工学的に操作されたシステイン残基と反応性の基を有し、付着は、その反応性基を介するものとなる。チオール特異的反応性基が好ましく、例えば、マレイミド、ハロアセトアミド(例えば、ヨード、ブロモまたはクロロ)、ハロエステル(例えば、ヨード、ブロモまたはクロロ)、ハロメチルケトン(例えば、ヨード、プロモまたはクロロ)、ベンジル型ハロゲン化物(例えば、ヨウ化物、臭化物または塩化物)、ビニルスルホン、(ピリジル)ジスルフィド、二酸化ジスルフィド誘導体、水銀誘導体(例えば、酢酸塩、塩化物または硝酸塩の対イオンを有する3,6-ビス(マーキュリメチル)ジオキサンなど)、およびポリメチレンビスメタンチオスルホネートを含む。リンカーは例えば、チオ-スクシンイミド連結基を介して、抗体に付着するマレイミドを含むことができる。
【0031】
薬物は、任意の細胞毒性薬、細胞増殖抑制薬、または免疫抑制薬であり得る。リンカーが抗体と薬物を連結する実施形態では、薬物は、リンカーとの結合を形成することができる官能基を有する。例えば、薬物は、リンカーとの結合を形成することができる、アミン、カルボン酸、チオール、ヒドロキシル基またはケトンを有することができる。薬物がリンカーに直接付着している態様では、薬物は、抗体への付着前に、キャップのない工学的に操作されたシステインと反応性の基を有する。
【0032】
薬物の有用なクラスは、例えば、抗チューブリン剤、DNA副溝結合剤、DNA複製阻害剤、アルキル化剤、抗生物質、抗葉酸剤、代謝拮抗剤、化学療法増感剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ビンカアルカロイドなどを含む。特に、細胞毒性剤の有用なクラスの例は、例えば、DNA副溝結合剤、DNAアルキル化剤およびチューブリン阻害剤を含む。例示的な細胞毒性剤は、例えば、アウリスタチン、カンプトテシン、デュオカルマイシン、エトポシド、マイタンシンおよびマイタンシノイド(例えば、DM1およびDM4)、タキサン、ベンゾジアゼピン、またはベンゾジアゼピン含有薬物(例えば、ピロロ[1,4]-ベンゾジアゼピン(PBD)、インドリノベンゾジアゼピンおよびオキサゾリジノベンゾジアゼピン)、およびビンカアルカノイドを含む。選択されるベンゾジアゼピン含有薬物は、WO2010/091150、WO2012/112708、WO2007/085930およびWO2011/023883に記載されている。
【0033】
一部の典型的な実施形態では、好適な細胞毒性剤は、例えば、DNA副溝結合剤(例えば、エンジインおよびレキシトロプシン、CBI化合物;米国特許第6,130,237号も参照されたい)、デュオカルマイシン(米国公開番号第20060024317号を参照されたい)、タキサン(例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル)、ピューロマイシン、ビンカアルカロイド、CC-1065、SN-38、トポテカン、モルホリノ-ドキソルビシン、リゾキシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、エキノマイシン、コンブレタスタチン、ネトロプシン、エポチロンAおよびB、エストラムスチン、クリプトフィシン、セマドチン、マイタンシノイド、ジスコデルモリド、エレウテロビンならびにミトキサントロンを含む。
【0034】
薬物は、抗チューブリン剤であり得る。抗チューブリン剤の例には、以下に限定されないが、タキサン(例えば、Taxol(登録商標)(パクリタキセル)、Taxotere(登録商標)(ドセタキセル))、T67(Tularik)、およびビンカアルカロイド(vinca alkyloid)(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンおよびビノレルビン)が含まれる。他の抗チューブリン剤には、例えば、バッカチン誘導体、タキサンアナログ(例えば、エポチロンAおよびB)、ノコダゾール、コルヒチンおよびコルセミド(colcimid)、エストラムスチン、クリプトフィシン、セマドチン、マイタンシノイド、コンブレタスタチン、ジスコデルモリド、アウリスタチンならびにエレウテロビンが含まれる。
【0035】
薬物は、マイタンシンまたはマイタンシノイド、別のグループの抗チューブリン剤であり得る(ImmunoGen,Inc.、Chariら、1992年、Cancer Res. 52巻:127~131頁、および米国特許第8,163,888号も参照されたい)。
【0036】
薬物は、アウリスタチンであり得る。アウリスタチンは、以下に限定されないが、AE、AFP、AEB、AEVB、MMAFおよびMMAEを含む。アウリスタチンの合成および構造は、米国特許出願公開第2003-0083263号および同第2009-0111756号、国際特許公開番号WO04/010957号、国際特許公開番号WO02/088172号、米国特許第6,884,869号、米国特許第7,659,241号、米国特許第7,498,298号、米国特許第8,343,928号および米国特許第8,609,105号に記載されており、すべての目的のため、そのそれぞれの全体が参照により組み込まれている。
【0037】
一部の実施形態では、薬物部分は、抗チューブリン剤、DNA結合剤およびDNAアルキル化剤からなる群から選択される。一部の実施形態では、薬物は、アウリスタチン、ピロロベンゾジアゼピン、デュオカルマイシン、マイタンシノイド、タキサン、カリケアマイシンおよびアントラサイクリンからなる群から選択される。
【0038】
薬物-リンカーを使用して、単一ステップでADCを形成することができる。他の実施形態では、二官能性リンカー化合物を使用して、2ステップまたは多重ステップのプロセスで、ADCを形成することができる。
【0039】
一般に、リンカー上の官能基は、薬物部分における好適な反応性基との特異的反応のために選択される。非限定的な例として、アジドをベースとする部分を、薬物部分における反応性アルキン基との特異的反応のために使用することができる。薬物は、アジドとアルキンとの1,3-双極子付加環化により、リンカーに共有結合されている。他の有用な官能基には、例えば、ケトンおよびアルデヒド(ヒドラジドおよびアルコキシアミンとの反応に好適)、ホスフィン(アジドとの反応に好適)、イソシアネートおよびイソチオシアネート(アミンおよびアルコールとの反応に好適)、ならびにN-ヒドロキシスクシンイミジルエステルなどの活性エステル(アミンおよびアルコールとの反応に好適)が含まれる。例えば、Bioconjugate Techniques、第2版(Elsevier)に記載されている、これらのおよび他の連結戦略が、当業者に周知である。当業者は、反応性官能基の相補性ペアが、リンカーへの薬物部分の選択的反応に選択される場合、このペアの各メンバーは、リンカー上または薬物上のどちらかで用いられ得ることを理解している。
【0040】
本発明の一部の実施形態は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を形成するのに十分な条件下で、ecmAbを薬物-リンカー化合物と組み合わせる方法を提供する。一部の実施形態は、本方法は、抗体-リンカーコンジュゲートを形成するのに十分な条件下で、ecmAbを二官能性リンカー化合物と組み合わせるステップを含む。このような実施形態では、本発明の方法は、リンカーを介して、薬物部分を抗体に共有結合により連結するのに十分な条件下で、抗体-リンカーコンジュゲートを薬物部分と組み合わせるステップをさらに含むことができる。
【0041】
一部の実施形態では、ADCは、以下の式:
【化1】
(式中、
Abは、抗体であり、
LUは、リンカーであり、
Dは、薬物であり、
下付文字pは、1~8の値である)
である。
【0042】
薬物負荷
抗体あたりの薬物-リンカー分子の数平均(または平均薬物負荷)は、標的細胞に送達され得る薬物の量の主要決定因子となるので、ADC組成物の重要な特徴である。平均薬物負荷は、工学的に操作されたシステイン残基にコンジュゲートされる薬物、ならびに意図される工学的に操作されたシステイン残基以外の部位にコンジュゲートされる薬物および組成物における未コンジュゲート抗体の量を含む。抗体あたり約2つの薬物となる平均薬物負荷を目標とする場合、2つの工学的に操作されたシステイン残基を有する抗体(例えば、各重鎖上の1つの部位または各軽鎖上の1つの部位)を使用して、ADC組成物を調製することができる。抗体あたり約4つの薬物となる平均薬物負荷を目標とする場合、4つの工学的に操作されたシステイン残基を有する抗体(例えば、各重鎖上の2つの部位もしくは各軽鎖上の2つの部位、または重鎖上の1つの部位と軽鎖上の1つの部位)を使用して、ADC組成物を調製することができる。当業者は、他のレベルの薬物負荷(例えば、2つ未満の薬物負荷レベルおよび4つより多い薬物負荷レベルを含む)が、特定の抗体または特定の薬物に応じて、治療的に有用となり得ることを理解している。薬物コンジュゲートのための部位は、重鎖中の1つより多い部位もしくは2つより多い部位において、工学的に操作されたシステインを位置付けることにより、または軽鎖中の上記部位で工学的に操作されたシステインを位置付けることにより、またはそれらの両方で抗体中に導入することができる。
【0043】
通常、2つの工学的に操作されたシステイン残基を有する抗体により調製されたADC組成物は、抗体あたり約1.5~2.5の薬物となる平均薬物負荷を有する。抗体あたりの薬物部分の数平均は、例えば、約1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4または2.5であり得る。一部の実施形態では、2つの工学的に操作されたシステイン残基を有する抗体により調製されたADC組成物に関する平均薬物負荷は、抗体あたり約1.5~約2.2の薬物部分、または抗体あたり約1.8~約2の薬物部分である。通常、4つの工学的に操作されたシステイン残基を有する抗体により調製されるADC組成物は、抗体あたり約3.4~4.5の薬物部分の平均薬物負荷を有する。抗体あたりの薬物部分の数平均は、約3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9または4.0であり得る。一部の実施形態では、4つの工学的に操作されたシステイン残基を有する抗体により調製されるADC組成物の平均薬物負荷は、抗体あたり約3.6~約4.2の薬物部分、または抗体あたり約3.8~約4の薬物部分である。
【0044】
様々な分析方法を使用して、コンジュゲートの収率および異性体混合物が決まり得る。抗体への薬物のコンジュゲート後、このコンジュゲートされた薬物-抗体種を分離することができる。一部の実施形態では、コンジュゲートされた抗体種は、抗体、薬物および/またはコンジュゲートの特徴に基づいて分離することができる。ADC組成物の分析に有用な他の技法には、以下に限定されないが、逆相クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動および質量分析法が含まれる。ADC組成物は、例えば、ADC中の薬物部分の位置を決定するために、タンパク質分解消化と連携させたLC/MSにより分析することができる。
【0045】
抗体
いくつかの好適な抗体が、本発明の方法に使用することができる。本発明の方法に使用される抗体は、特徴的な抗原に関連する疾患および状態のためのin vitroまたはin vivo診断、in vivoイメージングおよび治療を含む、いくつかの用途に有用である。5種のヒト抗体のクラス(IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgE)、およびこれらのクラス内の様々な部分クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)は、単一抗体分子における免疫グロブリン単位の数、個々の単位のジスルフィド架橋構造、ならびに鎖長および配列の差異などの構造的差異に基づいて認識される。抗体のこれらのクラスおよび部分クラスは、抗体のアイソタイプと呼ばれる。
【0046】
抗体は、無傷抗体または抗原結合性抗体断片であり得るが、但し、この抗体断片は、発現中または生成中にチオールによりキャップされた、工学的に操作されたまたは生来の少なくとも1つの不対システイン(タンパク質内の鎖間または鎖内結合を一般に形成しないシステイン)を含有することを条件とする。
【0047】
通常、抗体は、ヒト、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマまたはニワトリである。抗体は、例えば、当業者に周知の技法により生成される、ネズミ、キメラ、ヒト化または完全ヒト抗体であり得る。標準的な組換えDNA技法を用いて作製され得る、ヒトおよび非ヒト部分の両者を含む、キメラおよびヒト化モノクローナル抗体などの組換え抗体が、有用な抗体である。キメラ抗体は、ネズミモノクローナル由来の可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有するものなどの、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。(例えば、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれている、Cabillyら、米国特許第4,816,567号、およびBossら、米国特許第4,816,397号を参照されたい)。ヒト化抗体は、非ヒト種に由来する1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)、およびヒト免疫グロブリン分子に由来するフレームワーク領域を有する、非ヒト種に由来する抗体分子である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Queenの米国特許第5,585,089号を参照されたい)。このようなキメラおよびヒト化モノクローナル抗体は、当分野で公知の組換えDNA技法により生成することができる。本明細書で使用する場合、「ヒト」抗体は、例えば、米国特許第5,939,598号および同第6,111,166号に記載されている通り、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、ヒト免疫グロブリンのライブラリーから、ヒトB細胞から、または1つまたは複数のヒト免疫グロブリンのためのトランスジェニック動物から単離された抗体を含む。
【0048】
抗体は、単一特異的、二重特異的、三重特異的、またはこれより大きな多重特異的であり得る。
【0049】
ある特定の場合、定常ドメインは、エフェクター機能を有する。抗体エフェクター機能という用語は、本明細書で使用する場合、IgのFcドメインにより寄与される機能を指す。このような機能は、例えば、食細胞作用もしくは溶解活性を有する免疫細胞上のFc受容体へのFcエフェクタードメインの結合により、または補体系の構成成分へのFcエフェクタードメインの結合によりもたらされ得る。エフェクター機能は、例えば、「抗体依存性細胞毒性」またはADCC、「抗体依存性細胞食作用」またはADCP、「補体依存性細胞毒性」またはCDCであり得る。ある特定の場合、定常ドメインは、1つまたは複数のエフェクター機能が欠如している。エフェクター機能結合性ドメインに位置する工学的に操作されたシステイン残基への薬物-リンカー化合物のコンジュゲートにより、エフェクター機能がモジュレートされ得る。
【0050】
抗体は、医療的および/または治療的関心がもたれるなどの、任意の目的とする抗原に対して指向され得る。例えば、抗原は、病原体(以下に限定されないが、ウィルス、細菌、真菌および原生動物など)、寄生虫、腫瘍細胞、または特定の医療的状態に関連するものであり得る。腫瘍関連抗原(TAA)の場合、がんは、免疫系、肺、結腸、直腸、乳房、卵巣、前立腺、頭部、頚、骨、または他の任意の解剖学的位置のものであり得る。目的の抗原には、以下に限定されないが、CD30、CD40、ルイスY、CD70、CD2、CD20、CD22、CD33、CD38、CD40、CD52、HER2、EGFR、VEGF、CEA、HLA-DR、HLA-Dr10、CA125、CA15-3、CA19-9、L6、ルイスX、アルファフェトプロテイン、CA242、胎盤アルカリホスファターゼ、前立腺特異的抗原、前立腺酸性ホスファターゼ、上皮成長因子、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、MAGE-4、抗トランスフェリン受容体、p97、MUC1-KLH、gp100、MART1、IL-2受容体、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ムチン、P21、MPGおよびNeu発がん遺伝子産物が含まれる。
【0051】
いくつかの特定の有用な抗体には、以下に限定されないが、CD33抗原に対する抗体(例えば、国際出願番号WO2013/173496号に記載されているヒト化2H12抗体)、CD70抗原に対する抗体(例えば、国際出願番号WO2006/113909号に記載されているヒト化1F6抗体)、CD30抗原に対する抗体(例えば、国際出願番号WO2008/025020号に記載されているヒト化AC10抗体)、CD19抗原に対する抗体(例えば、国際出願番号WO2009/052431号に記載されているヒト化BU12抗体)、LIV-1、CD123、NTBAまたはアルファVベータ6に対する抗体が含まれる。腫瘍特異的抗原に結合する多くの他の内在化抗体を使用することができ、概説されている(例えば、Frankeら、(2000年)、Cancer Biother Radiopharm. 15巻:459~76頁;Murray(2000年)、Semin Oncol. 27巻:64~70頁;Breitlingら、Recombinant Antibodies、John Wiley, and Sons、New York、1998年を参照されたい)。これらの参照文献および国際出願の開示は、すべての目的のため、参照により本明細書に組み込まれている。
【0052】
一部の実施形態では、本発明は、少なくとも3つの鎖間ジスルフィド結合を含む抗体を調製する方法を提供する。一部の実施形態では、抗体は、少なくとも4つの鎖間ジスルフィド結合を含む。一部の実施形態では、抗体は、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つの鎖間ジスルフィドを含む。一部の実施形態では、工学的に操作されたシステイン残基は、抗体の重鎖定常領域または軽鎖定常領域に存在する。
【0053】
工学的に操作されたシステイン部位
工学的に操作されたシステインの部位は、得られたADCの特性に影響を及ぼし得る。例えば、タンパク質の構造中に完全に隠れた工学的に操作されたシステインは、溶媒への接近が不良となるため、コンジュゲートするのに困難となり得る一方、抗体の外表面上の工学的に操作されたシステインは、血漿中での物質への長期曝露のために、安定性の損なわれたADCをもたらすことがある。同様に、高度に表面曝露した工学的に操作されたシステインを有するecmAbから調製されたADCは、薬物の疎水性に対して感受性が高くなり得る一方、一層保護された位置における工学的に操作されたシステインは、溶液中の他の物質への接近が制限されるので、薬物の特性にはそれほど感受性は高くなり得ない。工学的に操作されたシステイン残基の位置を使用して、特定のADCに対して所望のエフェクター機能をモジュレートすることもできる。例えば、エフェクター機能結合性ドメインにおける工学的に操作されたシステイン残基への薬物-リンカーのコンジュゲートを使用して、エフェクター機能媒介性受容体への結合が遮断され得る。
【0054】
一部の実施形態では、工学的に操作されたシステインは、重鎖定常領域、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域、またはそれらの組合せに位置する。好ましい工学的に操作されたシステイン残基は、コンジュゲート可能な、安定した連結をもたらす部位に位置する残基である。コンジュゲート可能とは、工学的に操作されたシステイン残基が、最初に抗体を変性させることなく、機能剤(例えば、イメージング剤、診断剤、安定剤または治療剤)にコンジュゲートされ得ることを意味する。後で機能剤にコンジュゲートされ得るシステイン残基を導入するための部位を選択する方法は、当分野で公知である(例えば、Junutulaら、2008年、Nature Biotechnology、26巻(8号)、925~932頁を参照されたい)。一部の実施形態では、抗体は、1~8つ、または2~8つ、または2~4つの工学的に操作されたシステイン残基を有する。
【0055】
一部の態様では、工学的に操作されたシステイン残基は、10%もしくはそれより高い、20%もしくはそれより高い、30%もしくはそれより高い、40%もしくはそれより高い、または50%もしくはそれより高い分画溶媒接近値(fractional solvent accessibility)を有するものである。一部の態様では、システイン残基は、約10%~約95%、約10%~約85%、約10%~約75%、約10%~約60%、約20%~約95%、約20%~約85%、約20%~約75%、約20%~約60%または約40%~約95%、約40%~約85%、約40%~約75%、約40%~約60%の分別溶液接近性を有するものである。特定部位における残基の溶媒接近率を決定するための方法は、当分野で公知であり、例えば、FraczkiewiczおよびBraun、1998年、J. Comp. Chem.、19巻、319~333頁(http://curie.utmb.edu/getarea.htmlを参照されたい)に記載されている方法論を用いるオンラインサーバーgetareaを用いて決定することができる。例示的な残基には、軽鎖上の部位15、114、121、127、168、205(Kabatに従う番号付け)、または重鎖上の部位112、114または116(Kabatに従う番号付け)におけるものが含まれる。例示的な残基には、Fc領域中の部位239、326、327または269(EUインデックスに従う番号付け)におけるものなどのIgG1抗体のFc領域中のものが含まれる。部位239、326および327における残基の溶媒接近率は、それぞれ、約50%、約94%および約23%である。
【0056】
非抗体タンパク質
本明細書に記載されている方法は、抗体に関して例示されているが、発現また生成の間に、チオールによりキャップされる、工学的に操作されたまたは生来の不対システイン(タンパク質内に鎖間または鎖内結合を一般に形成しないシステイン)を有する任意のタンパク質に対して首尾よく用いられ得ることは、当業者により理解されよう。本明細書に記載されている方法はまた、タンパク質の一部として、遊離チオールを含有する任意のタンパク質に対して首尾よく用いることができる。この方法が特に有用であるタンパク質は、不対システインを含む他に、鎖間ジスルフィド結合、特に、タンパク質のアンフォールディングを直ちにもたらすことなく切断され得る結合を形成する、生来のシステインを含むタンパク質である。非抗体タンパク質に言及する場合、鎖間ジスルフィド結合という用語は、隣接するポリペプチド鎖上の2つのシステイン残基間の共有結合を指す。非抗体タンパク質の候補としては、溶媒に曝露されているジスルフィド結合であって、生来のフォールディングされた立体構造でのその安定性がキャップされているチオールの立体構造に匹敵する、ジスルフィド結合を含有するものを含むものが挙げられる。工学的に操作されたシステインタンパク質とは、本明細書で使用する場合、タンパク質における選択されたアミノ酸がシステインに変異したものである。例示的なタンパク質はまた、Fc融合タンパク質、例えば、所望の標的に対する特異性をもたらすタンパク質に共有結合により連結される抗体のFc領域を含有するタンパク質を含む。
【実施例
【0057】
IV.実施例
(実施例1)
細胞培養物の調製
この検討では、工業的に関連するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を使用した。この細胞株は、ジヒドロ葉酸マイナス(dhfr-)CHO宿主(Urlaub G、Chasin LA、ジヒドロ葉酸レダクターゼ活性を欠損しているチャイニーズハムスターの細胞変異体を単離。Proc Natl Acad Sci USA 77巻:4216~4220頁、1980年)から誘導され、FC領域(すなわち、S239C)の各々に挿入された工学的に操作されたシステイン残基を有する組換えmAbを分泌するよう遺伝子操作されたものであった。細胞は、工業的標準品である化学的に明確な基本培地を使用する、振とう用フラスコ中で培養して維持した。この振とう用フラスコでの培養条件は、37℃、5%CO、および19mmのスローで125RPMとした。細胞培養物の容量は、3Lのバイオリアクター中で生成期を開始する3~4日前にスケールアップした。
【0058】
流加細胞培養法をバイオリアクター実験に使用した。バイオリアクター(Applikon,Inc.)に、較正済みのDO(溶存酸素)プローブ、pHプローブおよび温度プローブを装備した。温度制御は、加熱用ブランケットにより達成した。DOは、空気および酸素を散布することによりオンラインで制御し、pHは、COまたは液状塩基の添加により制御した。工業的標準品の基礎培地およびフィード用培地を使用して、細胞を培養した。このプロセス条件は、pH7.00、30%DO、および1つの傾斜ブレード翼を用いて200PRMとした。初期温度設定点は37℃とし、培養4日目に、33℃に変更した。最初の作業容量は、1.2Lとし、この培養物に、培養1日目~9日目まで様々なフィード容量を加えた。グルコース濃度は、培養全体にわたり維持した。
【0059】
(実施例2)
細胞培養の10日目に工学的に操作されたシステイン残基のキャップ解除および再キャップ
10日目に、100mMのシスチン溶液50mLを細胞培養物に加え、最終的な添加濃度を4mMにした。この細胞培養物をこの条件で2時間、インキュベートした。シスチン添加の2時間後、DOを2時間、0%まで低減させて、次に、DOをさらに2時間、100%まで増加させた。EC-キャップ分配に及ぼす影響を評価するため、各操作前後で試料を採取した。
【0060】
図2に示されている通り、-cys ecmAb(cys-キャップにより再キャップしたecmAb)は、シスチン添加ステップ後、約84%から93%まで増加し、100%のDO操作後には、97%までさらに増加した。通常、パーセント-cys ecmAbは、icIEFプロファイルの一致を示す。このモデル分子で行った検討により、-cys ecmAbの増加は、icIEFプロファイルの一致度の増加に対応することを示唆するものである。図3は、シスチンの添加またはDO操作のない、10日目のicIEFプロファイルの例を示している。このプロファイルは、14日目における陽性対照と一致しない(この細胞培養を14日目まで行った場合、icIEFプロファイルは一般に一致する)。しかし、シスチンを添加した10日目の、ならびにシスチンを添加して0%および100%DOでの10日目のicIEFプロファイルは、この陽性対照と一致する。この方法は、このプロセスおよび生成物を損なうことなく、不均質なEC-キャップ分配を制御する有効な手段であることを証明する。
【0061】
(実施例3)
細胞培養持続期間の全体にわたる、工学的に操作されたシステイン残基のキャップ解除および再キャップ
この実施例では、100mMのシスチン溶液25mLを、培養6日目から始めて、毎日、培養物に加えた。EC-キャップ分配に及ぼすシスチンの毎日の添加の影響を評価するために、試料を培養6日目~10日目に採取した。培養6日目におけるシスチン添加の影響は、培養7日目に評価した。図4に例示されている通り、培養7日目~10日目まで毎日、シスチンを添加した条件の場合、-cys ecmAb(システインキャップした再キャップecmAb)は90%を超えた。この-cys ecmAbは、対照条件の場合、培養14日目の後だけ90%を超えた。
【0062】
培養10日目に、-cys ecmAbは、対照および毎日、シスチンを添加した条件の場合、それぞれ、約85%および98%であった。この方法により、このプロセスおよび生成物を損なうことなく、任意の所与の培養日数時に、不均質なEC-キャップ分配を制御する有効な手段が実現される。
【0063】
上記は、明確性および理解のために、例示および実施例によって、ある程度詳細に記載してきたが、当業者は、ある特定の変更および改変が、添付の特許請求の範囲内で実施され得ることを理解するであろう。さらに、本明細書に提示されている各参照文献は、各参照文献が、参照によりあたかも個々に組み込まれているかのごとく同じ程度まで、その全体が参照により組み込まれている。
図1
図2
図3
図4