(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】リチウムアミド開始剤を用いてジエンエラストマーを連続合成する方法
(51)【国際特許分類】
C08F 236/04 20060101AFI20220516BHJP
【FI】
C08F236/04
(21)【出願番号】P 2019534367
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2017083894
(87)【国際公開番号】W WO2018115165
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-25
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ダイア シャルロット
(72)【発明者】
【氏名】デッセンディエ マリー エレーヌ
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-179730(JP,A)
【文献】特開昭63-090522(JP,A)
【文献】特開平09-110942(JP,A)
【文献】特開2009-263587(JP,A)
【文献】特開平07-149841(JP,A)
【文献】米国特許第05717043(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 236/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続式撹拌槽型反応器にあたる、内部撹拌システムを装備し、連続して配置されたn個の反応器r1~rnによって、ジエンエラストマーを連続合成するプロセスであって、nは、2~15であり、前記反応器r1は、溶媒、1種または複数のモノマー、リチウムアミドから選択されるアニオン重合開始剤、および極性剤を含むインプット溶液が供給され、
前記
反応器r1における質量基準転化率C
1は、70%未満であり、
ここで、C
1=P
1/W
1であり、
式中、P
1は、前記反応器r1の出口における形成済みポリマーの質量であり、
W
1は、前記反応器r1に導入されたモノマーの質量基準量であり、
前記反応器rnの出口における質量基準全転化率C
nは、70%以上であり、
ここで、
【数1】
であり、
式中、P
nは、前記反応器rnの出口における形成済みポリマーの質量であり、
W
iは、前記反応器riへ導入されたモノマーの質量基準での量であり、iは1~nである、前記プロセス。
【請求項2】
nが2~3であることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記反応器r1における質量基準転化率C
1が、65%未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記反応器rnの出口における質量基準全転化率C
nが、80%以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ジエンエラストマーが、ブタジエンおよびビニル芳香族モノマーのコポリマーであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
iが1~nである前記反応器riの滞留時間が、1~60分であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
リビング鎖を含有する前記反応器rnからの出力流を、プロセスに連続的に注入される、重合を停止させるための1種または複数の試薬と接触させることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記反応器rnからの出力流に含まれるリビングジエンエラストマーを、停止剤と反応させる前に、1種または複数の官能基化剤、カップリング剤、または星形分岐剤と反応させることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記反応器rnからの出力流に含まれるリビングジエンエラストマーを、1種または複数の官能基化剤、カップリング剤、または星形分岐剤と反応させることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムアミドを用いて開始した場合に高含有量のリビングポリマーを得ることを可能にする、連続するいくつかの反応器によってジエンエラストマーを連続合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今や燃料の節約と環境保護の必要性が優先されつつあることから、良好な機械的性質とできるだけ低いヒステリシスを有するポリマーを生成し、そのポリマーを、タイヤカバーの組成物に含まれる様々な半完成品、例えば、下層、異なる性質のゴム間の接着ゴム、金属もしくは織物補強要素用の被覆ゴム、サイドウォールゴム、またはトレッドなどの製造で使用できるゴム組成物の形で使用することができるようにし、性質が改良された、特に、転がり抵抗が低減されたタイヤを得ることが望ましい。
燃料消費を制限し、それにより環境を保護するために、混合物のヒステリシスの低減がタイヤ産業の継続的な目的となっている。
ヒステリシスの低減という目的を実現するために、すでに多くの解決策が試みられている。ポリマー間の良好な相互作用を得て改変することを目的とした官能基化剤、カップリング剤、または星形分岐剤(star branching agent)、およびカーボンブラックまたは補強用無機充填剤である充填剤による重合終了時のジエンポリマーおよびコポリマーの構造の改変を特に挙げることができる。充填剤と相互作用する官能基を有する官能性開始剤の使用も挙げることができる。
この従来技術の例として、アルコキシシラン化合物およびアミン化合物によって官能基化されたジエンエラストマーの使用を挙げることができる。
【0003】
ヒステリシスを最小にする目的で、アミン官能基を有するアルコキシシランタイプの化合物によるリビング鎖末端の官能基化を、アミン官能性アルキルリチウムによる開始と組み合わせた日本特許第4655706号を挙げることができる。同様に、アミン官能基を有するアルコキシシランタイプの化合物によるリビング鎖末端の官能基化を、リチウムアミドによる開始と、また、ビニルアミノシランタイプの官能性モノマーとも組み合わせた米国特許出願公開第20120245275号が挙げられる。最後に、リチウムアミドによる開始を、シリカに対して親和性がある様々な基を有するアルコキシシランタイプの化合物とリビング鎖末端との反応と組み合わせた国際公開第2015063161号、同第2015044225号、同第2015018772号、および同第2015018600号が挙げられる。
上で説明したように、シリカと相互作用する基を有する官能性開始剤、例えば、アミン官能性アルキルリチウムまたはリチウムアミドなどの使用は、転がり抵抗を低減させると同時に遊離鎖末端に関連するエネルギーの散逸を減少させるのに有利である。したがって、エラストマー合成のための競合プロセスにおいてそれらを工業規模で使用できることは有利であると思われる。
【0004】
当業者には、連続合成プロセスが、頻繁な停止および再開が必要なバッチ式合成プロセスよりも優位であることが公知である。リチウムアミドタイプの開始剤を使用すると、バッチ式プロセスでは、高いモノマー転化率(85%超)およびC-Li+形態での高いリビングポリマー鎖含有量(90%以上)が一緒に得られるが、反応器においての従来の連続プロセスの場合では、高いモノマー転化率(85%超)は、低いリビングポリマー鎖含有量(60%未満)と関連し、高いリビングポリマー鎖含有量(90%超)は、低いモノマー転化率(70%未満)と関連する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、リチウムアミドを用いて開始した場合での重合段階の終了時に高いモノマー転化率(70質量%超)および高いリビングポリマー鎖含有量(90個数%以上)を一緒に得ることを可能にする連続合成プロセスを特定することである。所望によりポリマー鎖を官能基化、カップリング、または星形分岐できるようにするために、重合段階の終了時にリビングポリマーの含有量が高いことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
今回、本発明者らは、驚くべきことに、連続するいくつかの反応器を含む連続合成プロセスによって本発明の目的を達成することができ、第1の反応器における質量基準転化率が70%未満であり、重合は、最終反応器の出口における質量基準全転化率が70%超になるような方法で継続されることを発見した。
【0007】
したがって、本発明の主題は、連続式撹拌槽型反応器とみなされる、内部撹拌システムを装備し、連続して配置されたn個の反応器r1~rnによって、ジエンエラストマーを連続合成するプロセスであって、nは、2~15、好ましくは2~9であり、反応器r1は、溶媒、1種または複数のモノマー、リチウムアミドから選択されるアニオン重合開始剤、および極性剤を含むインプット溶液が供給され、第1の反応器の質量基準転化率C
1は、70%未満であり、反応器r2~rnのうちの1個または複数個は、溶媒および/またはモノマーおよび/または極性剤を含む溶液、好ましくは精製溶液の再注入によりさらに供給がなされてもよく、
第1の反応器における質量基準転化率C
1が70%未満であり、
ここで、C
1=P
1/W
1であり、
式中、P
1は、反応器r1の出口における形成済みポリマーの質量であり、
W
1は、反応器r
1に導入されたモノマーの質量基準量であり、
反応器rnの出口における質量基準全転化率C
nは、70%以上であり、
ここで、
【数1】
であり、
式中、P
nは、反応器rnの出口における形成済みポリマーの質量であり、
W
iは、反応器riへ導入されたモノマーの質量基準での量であり、iは1~nである、プロセスである。
【0008】
本特許出願においては、用語「任意選択の再注入」は、ri’-1からの流れによってすでに供給された、反応器r1以外の反応器ri’への注入の動作の繰り返しを指す。再注入は、反応器のうちの1個もしくは複数個へ直接、または有利にはri’-1から生じる流れと混合させることによって行うことができる。再注入は、r1供給流と同一または異なる組成物を有する流れを用いて行うことができる。再注入が少なくとも2個の反応器で行なわれる場合、これらの再注入の性質は同一でも異なっていてもよい。用語「再注入したモノマー」は、ri’-1から出る流れから得たものではない、ri’に注入したモノマーを指す。
したがって、用語「反応器riに導入されるモノマーの質量基準量Wi」は、iが1の場合、インプット溶液中に存在し、反応器1にそのまま導入されるモノマーの量を意味し、iが2~nの場合、反応器riに再注入されてもよいモノマーの量を意味すると理解される。
すべての反応器、特に第1および最後の反応器における転化率の制御は、温度、滞留時間、極性剤の量、およびこれらの反応器に入るモノマーの量、リビングポリマーの濃度によってなされる。様々な反応器における転化率を制御するためにこれらの様々なパラメータをどのように変えるべきかは、当業者公知である。
各反応器の温度は、有利には20~150℃である。
【0009】
本発明によるプロセスは、最終反応器の出口において、反応器r1で開始されたリビング鎖の総数に対して90個数%以上の含有量のリビング鎖を得ることを可能にする。しかし、上述のように溶液が再注入される場合、リビングポリマーのグレードを低下させないためにこの溶液を精製すると有利である。
アニオン重合の場合、リビング鎖はカルボアニオンである。カルボアニオンは非常に反応性のある存在物である。それはプロトン性存在物または求電子性存在物と反応する。
【0010】
したがって、第1の反応器の供給原料がプロトン性不純物(アルコール、水、酸など)または求電子性不純物(カルボニルなど)を含有する場合、開始剤は、これらの不純物と最初に反応して、モノマーの重合を開始することができない不活性存在物(アルコキシドなど)をもたらす。反応器r1の入口で導入される開始剤の量と、反応器r1において不純物と反応した開始剤の量との差が、活性な開始剤の量となる。反応器r1で開始されたリビング鎖の数は、反応器r1における活性開始剤のこの量と同等である。
好ましくは、反応器の数は、2または3個に相当し、好ましくは2個である。
好ましくは、反応器r1における質量基準転化率C1は、65%未満、好ましくは60%未満である。
好ましくは、反応器rnの出口における質量基準全転化率Cnは、80%以上、より好ましくは85%以上である。
【0011】
好ましくは、iが1~nである反応器riの滞留時間は、1~60分、好ましくは5~60分、より好ましくは10~50分である。これを以下の方法で計算する:
【数2】
式中、
- V
iは、反応器riの体積であり、ここでiは1~nであり、
- Q
Viは、反応器riから出る体積基準での流速である。
上述のように、特定の方式によれば、反応器r2~rnのうちの1個または複数個が、溶媒および/またはモノマーおよび/または極性剤を含む溶液、好ましくは精製溶液の再注入によりさらに供給される。
ポリマーカルボアニオンは非常に反応性のある存在物であるため、上述のように、再注入により導入された不純物の中和がポリマーカルボアニオンによって行われるであろう。この中和はポリマー鎖が成長し続けるのを阻む。というのは、鎖が重合に対してだけでなく官能基化に対しても不活性になるからである。したがって、この存在物は、任意選択の停止剤、官能基化剤、カップリング剤、または星形分岐剤ともはや反応しない。
このため、第1の反応器の供給原料とは別に、反応器rnの出口におけるデッドポリマー含有量を可能な限り低くするために、すなわち、反応器r1で開始された鎖の総数に対して10個数%未満にするために、再注入されてもよい各溶液の純度を制御することが必要であり得る。
用語「再注入溶液の純度」は、再注入溶液の総質量に対する、任意選択のモノマーおよび任意選択の溶媒および任意選択の極性剤の質量基準での割合を意味すると理解される。
【0012】
精製段階は、再注入溶液から、リビング鎖末端を不活性化することができるプロトン性化合物(水、アルコール、酸など)および求電子性化合物(カルボニルなど)を除去して、この再注入溶液中のそれらの量を活性開始剤の5mol%以下、好ましくは活性開始剤の2mol%以下の含有量に低下させることにある。
用語「活性開始剤」は、開始剤として使用されかつ不純物を中和しない、ある量のリチウムアミドタイプの出発材料を意味すると理解される。
各再注入溶液は、必要に応じて精製溶媒、および/または必要に応じて精製モノマー、および/または必要に応じて精製極性剤を含有する。
再注入溶液の構成成分または各構成成分は、再注入の前に、構成成分の精製に通常使用される任意の精製手段、例えば、吸着、液/液抽出、気/液抽出、または蒸留によって独立に精製することができる。
あるいは、その構成成分の組合せの全部または一部を含む再注入される溶液は、再注入の前に、構成成分の精製に通常使用される任意の精製手段、例えば、吸着、液/液抽出、気/液抽出、または蒸留によって精製することができる。
【0013】
用語「ジエンエラストマー」は、公知の方法において、ジエンモノマー(2個の共役または非共役炭素-炭素二重結合を有するモノマー)から少なくとも部分的に生じる(1種または複数と理解される)エラストマー(すなわち、ホモポリマーまたはコポリマー)を意味すると理解されるものとする。より詳細には、用語「ジエンエラストマー」は、4~12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーの重合によって得られる任意のホモポリマー、あるいは1種もしくは複数の共役ジエンの相互共重合、または1種もしくは複数の共役ジエンと8~20個の炭素原子を有する1種もしくは複数のビニル芳香族モノマーとの共重合によって得られる任意のコポリマーを意味すると理解される。コポリマーの場合、後者は、20%~99質量%のジエン単位および1%~80質量%のビニル芳香族単位を含有する。
【0014】
本発明によるプロセスで使用することができる共役ジエンとしては、以下のものが特に適している:1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、例えば、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-3-エチル-1,3-ブタジエン、または2-メチル-3-イソプロピル-1,3-ブタジエンなどの2,3-ジ(C1-C5アルキル)-1,3-ブタジエン、フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、および2,4-ヘキサジエンなど。
ビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、オルト-、メタ-、またはパラ-メチルスチレン、「ビニルトルエン」市販混合物、パラ-(tert-ブチル)スチレン、メトキシスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン、およびビニルナフタリンなどが特に適している。
【0015】
ジエンエラストマーは、好ましくは、ポリブタジエン(BR)、合成ポリイソプレン(IR)、ブタジエンコポリマー、特にブタジエンとビニル芳香族モノマーとのコポリマー、イソプレンコポリマー、およびこれらのエラストマーの混合物からなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選択される。このようなコポリマーは、より詳細には、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)、およびイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)である。これらのコポリマーのうち、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)が特に好ましい。
ジエンエラストマーは、インプット溶液に含まれるリチウムアミド重合開始剤の存在下でのアニオン重合によって調製される。
リチウムアミドは、有機リチウム化合物、好ましくはアルキルリチウム化合物と、非環式または環式、好ましくは環式の第二級アミンとの反応の生成物である。
【0016】
開始剤の調製に使用することができる第二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジ(n-ブチル)アミン、ジ(sec-ブチル)アミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジ(n-オクチル)アミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、N-メチルベンジルアミン、ジアリルアミン、モルホリン、ピペラジン、2,6-ジメチルモルホリン、2,6-ジメチルピペラジン、1-エチルピペラジン、2-メチルピペラジン、1-ベンジルピペラジン、ピペリジン、3,3-ジメチルピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、1-メチル-4-(メチルアミノ)ピペリジン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ピロリジン、2,5-ジメチルピロリジン、アゼチジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、5-ベンジルオキシインドール、3-アザスピロ[5.5]ウンデカン、3-アザビシクロ[3.2.2]ノナン、カルバゾール、ビストリメチルシリルアミン、ピロリジンおよびヘキサメチレンアミンが挙げられる。
第二級アミンは、環式である場合、好ましくは、ピロリジンおよびヘキサメチレンアミンから選択される。
アルキルリチウム化合物は、好ましくは、エチルリチウム、n-ブチルリチウム(n-BuLi)、イソブチルリチウムなどである。
重合は、インプット溶液に含まれる溶媒の存在下で行われる。
【0017】
本発明によるプロセスで使用する溶媒は、好ましくは、不活性炭化水素溶媒であり、これは、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、シクロヘキサン、もしくはメチルシクロヘキサンなどの脂肪族もしくは脂環式炭化水素、またはベンゼン、トルエン、もしくはキシレンなどの芳香族炭化水素であり得る。
上述のように、本発明によるプロセスで使用するインプット溶液、また、使用してもよい1種または複数の再注入溶液は、極性剤を含む。
【0018】
本発明によるプロセスで使用することができるキレート化極性剤として特に適しているのは、少なくとも1個の第三級アミン官能基または少なくとも1個のエーテル官能基を含む試剤、好ましくは、テトラヒドロフルフリルエチルエーテルまたはテトラメチルエチレンジアミンタイプの試剤である。
第1の特定の実施形態によれば、リビング鎖を含有する反応器rnからの出力流を、連続的にプロセスに注入され、それ自体公知の重合を停止させるための1種または複数の試剤と接触させる。
この第1の実施形態では、反応器rnからの出力流に含まれるリビングジエンエラストマーを、停止前に、1種または複数の官能基化剤、カップリング剤、または星形分岐剤と反応させることができる。
これらの官能基化剤、カップリング剤、または星形分岐剤の際立った特徴は、それらが、補強用充填剤との相互作用を向上させるようにエラストマーを変性することができる(これは、官能基化剤、カップリング剤、およびある種の星形分岐剤の場合)、またはポリマーに所与の構造を与えることができる(これは、ある種の星形分岐剤およびカップリング剤の場合)ということである。
【0019】
第2の特定の実施形態によれば、反応器rnからの出力流に含まれるリビングジエンエラストマーを、重合を停止させるための試剤としても作用する1種または複数の官能基化剤、カップリング剤、または星形分岐剤と反応させる。重合を終了させるために、それ自体公知の従来の停止剤を添加する必要はない。
どんな実施形態であろうと、それ自体公知の任意の試剤を官能基化剤、カップリング剤、または星形分岐剤として考えてよい。
各々の管型反応器、または軸方向分散を有する管型反応器における滞留時間は、好ましくは0~120分、特に0.1~60分、より好ましくは0.1~5分である。
本発明の上述の特徴、およびその他の特徴は、限定ではなく例示として示す本発明のいくつかの実施例の以下の説明を読むことにより理解されると予想される。
【0020】
使用した測定および試験
転化率
転化率は、ポリマーを含有する溶液の固体含有量を秤量することによって測定する。この方法では、ポリマーを含有する溶液を反応器の出口で取り出す。この溶液を事前に風袋引きしたトレイに入れる。このようにして溶液の質量を秤量する。
【0021】
試料を200mmHgの減圧下で140℃で15分間乾燥させる。続いて、トレイをシリカゲルが入っているデシケータに2分間入れる。次いで、トレイを秤量することにより、取り出した試料のポリマーの質量を決定することが可能になる。次いで、反応器の出口における転化率をモノマーの濃度を用いて導く。
【0022】
【数3】
但し、
【数4】
全プロセス(反応器r1~rn)におけるモノマーの全投入量の質量基準での合計を表す
および
【数5】
全プロセス(反応器r1~rn)における全投入量の質量基準での合計を表す。(溶媒、モノマー、触媒など)
比
【数6】
は、モノマーの質量%に相当する。
ガラス転移温度
これらの例では、エラストマーのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計を使用して決定する。
エラストマーの微細構造
エラストマーの微細構造は、近赤外(NIR)分光法技術により特徴付ける。
【0023】
近赤外分光法(NIR)を使用して、エラストマー中、また、その微細構造中のスチレンの質量基準での含有量を定量的に決定する(1,2-、トランス-1,4-、およびシス-1,4-ブタジエン単位の相対分布)。この方法の原理は、多成分系に対して一般化されたベール-ランベルトの法則に基づくものである。この方法は間接的であることから、13C NMRで決定した組成を有する標準エラストマーを使用して行われる多変量較正[Vilmin, F., Dussap, C. and Coste, N., Applied Spectroscopy, 2006, 60, 619-29]を含む。次いで、スチレン含有量および微細構造を、約730μmの厚さを有するエラストマーフィルムのNIRスペクトルから計算する。スペクトルは、4000~6200cm-1の伝送モードにおいて、ペルチェ効果によって冷却したInGaAs検出器を備えたBruker Tensor 37フーリエ変換近赤外分光計を使用して、2cm-1の分解能により得られる。
数平均モル質量および多分散指数
ポリマーの数平均モル質量および多分散指数は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して決定する。
SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)技術は、溶液中の巨大分子を、多孔質ゲルを充填したカラムを通してそのサイズに従って分離することを可能にする。巨大分子はその流体力学的体積に従って分離され、最もかさ高いものが最初に溶出される。
【0024】
SECにより、ポリマーの平均モル質量およびモル質量の分布の把握が可能になる。様々な数平均モル質量(Mn)および質量平均モル質量(Mw)は、市販の標準から決定することができ、多分散指数(PI=Mw/Mn)は、「ムーア」較正によって計算することができる。
分析前にポリマー試料に特別な処理は行わない。ポリマー試料は、溶出溶媒に約1g.l-1の濃度で簡単に溶解される。次いで、溶液を、注入前に0.45μmの多孔度を有するフィルタを通してろ過する。
【0025】
使用する装置は、Waters Allianceクロマトグラフラインである。溶出溶媒は、テトラヒドロフラン、またはテトラヒドロフラン+1体積%のジイソプロピルアミン+1体積%のトリエチルアミンであり、流速は1ml・分-1であり、システムの温度は35℃であり、分析時間は30分である。商品名Styragel HT6EのWatersカラム2本セットを使用する。注入するポリマー試料溶液の体積は100μlである。検出器はWaters2410示差屈折計であり、クロマトグラフデータを使用するためのソフトウェアはWaters Empowerシステムである。
計算平均モル質量は、以下の微細構造:28質量%のスチレンタイプの単位、18質量%の1,2-タイプの単位、31質量%のトランス-1,4-タイプの単位、および23質量%のシス-1,4-タイプの単位を有するSBRに関して作成した較正曲線に比例する。
【0026】
反応器の出口におけるエラストマー中のリビング鎖の含有量
この例では、重合反応器の出口においてリビングポリマー溶液を、全てのリビング鎖と官能基化剤とが完全に反応するのに十分な接触時間で、超過のDEAB(ジエチルアミノベンゾフェノン)官能基化剤と連続的に接触させる。グラフト化されたDEABの含有量(例における官能基の含有量)をNMR分析によって決定する。エラストマーの量に関してこの決定を行う。このようにして、得られた結果を、モル%として、mmol/エラストマー1kgとして、またはphr(エラストマー100g当たり)として表すことができる。
試料(エラストマー約25mg)を二硫化炭素(CS
2)約1mlに溶解する。ロックシグナルのために重水素化シクロヘキサン100μlを添加する。
スペクトルは、5mmのBBI Z級「ブロードバンド」プローブを備えたBruker Avance500MHz分光計から得られる。
定量的
1H NMR試験は、単純30°パルスシーケンスおよび各取得間が5秒の繰返し時間を使用する。256回の積算を周囲温度で行う。
グラフト化DEABの8個の定量化されたプロトン(
図1の同定された炭素1~4に結合しているプロトン)の
1H NMRシグナルは、3.2ppmの化学シフトを有する幅広の未分離ピークに相当する。
【0027】
編集2D 1H/13C 1J HSQC NMR相関スペクトルから、炭素およびプロトン原子の化学シフトに基づいてグラフト化単位の性質を確認することが可能になる。炭素1~4のシグナルは、44.4ppmの化学シフトを有する。
1H NMRスペクトルから、前述のシグナルの幅広の未分離ピークを積分することでグラフト化DEAB単位を定量化することが可能になる:脱水DEAB形態ではH1、H2であり、カルビノールDEAB形態ではH3、H4である。
【0028】
グラフト化ジエチルアミノベンゾフェノンの脱水およびカルビノール形態は、次式を有する。
【化1】
二硫化炭素のプロトン化不純物に関して化学シフトを較正するが、TMS(δppm
1H、0ppm)を基準とした場合はδppm
1Hが7.18ppm、TMS(δppm
13C、0ppm)を基準とした場合はδppm
13Cが192ppmである。
【0029】
単純パルス1D1H NMRスペクトルから、特徴的シグナルの幅広の未分離ピークを積分することでポリマー単位の定量化が可能になる。例えば、SBR(スチレン/ブタジエンゴム)では、計算に考慮した幅広の未分離ピークは、7.4ppm~6.0ppmの間のスチレンの5H(プロトン)、5.8ppm~4.9ppmの間の1,4-PB(ポリブタジエン)の2H+1,2-PBの1H、および4.9ppm~4.3ppmの間の1,2-PBの2Hである。
したがって、SEC分析で得られたMn値から鎖の総量を知ることによって、DEAB官能基化鎖の含有量に対応するリビング鎖の含有量を決定することが可能である。
ヘキサメチレンイミン(HMN)-開始鎖の含有量
ヘキサメチレンイミン(HMN)-開始鎖の含有量をNMR分析によって決定する。
試料(約200mg)を二硫化炭素(CS2)約1mlに溶解する。分光計のロックのために重水素化シクロヘキサン100μlを溶液に添加する。
スペクトルは、BBI Z級「ブロードバンド」5mmクリオプローブを備えたBruker Avance500MHz分光計から得られる。
【0030】
定量的1H NMR試験は、単純30°パルスシーケンスおよび各取得間が5秒の繰返し時間を使用する。64~1024回の積算を行う。二次元1H/13C試験を、官能性ポリマーの構造を決定するために行った。7.18ppmにおけるCS2のプロトン化不純物に関してプロトン化学シフトを較正する。
ブタジエンホモポリマーまたはポリブタジエンの場合、定量的単純パルス1D1H NMR測定から、プロトン1および2にそれぞれ対応する2つの幅広の未分離ピーク(2.8ppm~3.0ppmおよび2.3ppm~2.5ppm)を観察することが可能になる。
【0031】
【化2】
プロトン2の積分は、1,4-ブタジエンにグラフトされたHMN単位の量の推定を可能にし、プロトン1の積分は、ポリブタジエン鎖にグラフトされたHMN単位の総量の推定を可能にする。
【0032】
ブタジエンおよびスチレンのコポリマーの場合、定量的単純パルス1D1H NMR測定から、プロトン2に対応する単一の幅広の未分離ピーク(2.8ppm~3.0ppm)を観察することが可能になる。プロトン2の積分は、1,4-ブタジエンのみにグラフトされたHMN単位の量の推定を可能にする。プロトン1のシグナルは、SBRマトリックスの脂肪族シグナルに隠されている。したがって、SBRの場合、1,4-ブタジエンにグラフトされたHMN単位の量だけを推定することができる。
したがって、SEC分析で得られたMn値から鎖の総量を知ることによって、HMN開始鎖の含有量を決定することが可能である(ブタジエンおよびスチレンのコポリマーの場合、1,4-ブタジエン単位に結合したHMN単位のみが定量可能である)。
【0033】
エラストマーの調製の例
メチルシクロヘキサン、ブタジエン、スチレン、およびテトラヒドロフルフリルエチルエーテルを、各例に記載した割合に従って、当業者により連続式撹拌槽型反応器とみなされる、1個または複数個の撹拌型連続式反応器を含むパイロット規模の連続重合プラントに連続導入する。ライン投入物中に存在する様々な構成成分によって導入されたプロトン性不純物を中和するために十分な量のn-ブチルリチウムを導入し、次いで、ポリマー鎖を開始させるためにリチウム化ヘキサメチレンイミンを導入する。リチウム化ヘキサメチレンイミンは、連続式撹拌槽型反応器とみなされる反応器中において1当量のヘキサメチレンイミンと1.02当量のブチルリチウムとの反応によって連続的にin situ合成される。
例に示した滞留時間および濃度は、重合プロセスに入る様々な構成成分の流速から計算する。
【0034】
(例A)
比較-1個の反応器を備えた連続プロセス
ブタジエン/スチレンポリマーの合成を、連続式撹拌槽型反応器とみなされる1個の単一撹拌型反応器を使用して、比較プロセスに従って行う。
【0035】
【0036】
反応器の出口で得られたポリマーの特徴を表2に示す。
【表2】
【0037】
(例B)
本発明による-第1の反応器における転化率が50%である、連続する2個の反応器を備えた連続プロセス
スチレン/ブタジエンポリマーの合成を、連続式撹拌槽型反応器とみなされる連続する2個の撹拌型反応器を使用して、本発明によるプロセスに従って行う。
【0038】
【0039】
反応器r2の出口で得られたポリマーの特徴を表4に示す。
【表4】
したがって、この例は、本発明による連続プロセスを用いると、リビングポリマーの高い転化率および高い含有量を同時に得ることが可能であることを示している。
【0040】
(例C)
比較-第1の反応器における転化率が75%である、連続する2個の反応器を備えた連続プロセス
スチレン/ブタジエンポリマーの合成を、連続式撹拌槽型反応器とみなされる連続する2個の撹拌型反応器を使用して、本発明によるプロセスに従って行う。
【0041】
【0042】
反応器r2の出口で得られたポリマーの特徴を表6に示す。
【表6】
したがって、この比較例は、反応器r1におけるモノマーの転化率が高すぎる場合、反応器r2の出口におけるリビングポリマーの含有量が90%未満であることを示している。
【0043】
(例D)
本発明による-第1の反応器における転化率が60%である、連続する2個の反応器を備えた連続プロセス
スチレン/ブタジエンポリマーの合成を、連続式撹拌槽型反応器とみなされる連続する2個の撹拌型反応器を使用して、本発明によるプロセスに従って行う。
【0044】
【0045】
反応器r2の出口で得られたポリマーの特徴を表8に示す。
【表8】
したがって、この例は、本発明による連続プロセスを用いると、リビングポリマーの高い転化率および高い含有量を同時に得ることが可能であることを示している。
【0046】
例E-本発明による-連続する3個の反応器を備えた連続プロセス
ブタジエン/スチレンポリマーの合成を、連続式撹拌槽型反応器とみなされる連続する3個の撹拌型反応器を使用して、本発明によるプロセスに従って行う。
【0047】
【0048】
反応器r3の出口で得られたポリマーの特徴を表10に示す。
【表10】
【0049】
したがって、この例は、本発明による連続プロセスを用いると、リビングポリマーの高い転化率および高い含有量を同時に得ることが可能であることを示している。