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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20220516BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20220516BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20220516BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220516BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220516BHJP
   C22C 38/06 20060101ALN20220516BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20220516BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C23C16/40
C23C16/505
H01F1/147 183
C22C38/00 303U
C22C38/06
C22C38/60
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020535203
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 KR2018015383
(87)【国際公開番号】W WO2019132295
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-08-17
(31)【優先権主張番号】10-2017-0179749
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】グォン,ミン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ジン-スゥ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-018605(JP,A)
【文献】特開2004-176119(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111505(WO,A1)
【文献】特開昭62-290844(JP,A)
【文献】特開昭62-001821(JP,A)
【文献】特開2001-107146(JP,A)
【文献】特表2005-500435(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104726671(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にフォルステライト被膜が形成された方向性電磁鋼板を設ける段階と、
前記被膜が形成された方向性電磁鋼板の一面又は両面の一部又は全部に、常圧プラズマCVD工程(APP-CVD)を用いてプラズマ状態で気相のセラミック前駆体を接触反応させることにより、セラミックコーティング層を形成する段階と、を含む方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックコーティング層は、大気圧条件下で高密度無線周波数を用いることで、電磁鋼板の表面に磁場を形成してプラズマを発生させた状態で、Ar、He、及びNのうち1種以上からなる第1ガスと気相のセラミック前駆体を混合した後、これを電磁鋼板の表面に接触反応させることによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックコーティング層は、H、O、及びHOのうち1種からなる第2ガスを前記第1ガス及び気相のセラミック前駆体に追加混合した後、これを電磁鋼板の表面に接触反応させることによって形成されることを特徴とする請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記第1ガス及び第2ガスは、前記セラミック前駆体の気化点以上の温度に加熱されることを特徴とする請求項3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックコーティング層がTiOあり、前記セラミック前駆体として、TTIP(Titanium Isopropoxide、Ti{OCH(CH 、又はTiClを用いることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックコーティング層は、厚さが0.1~0.6μmであることができ、コーティング層の厚さごとの鉄損改善率が7~14%であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記方向性電磁鋼板を設ける段階は、
重量%で、シリコン(Si):2.6~4.5%、アルミニウム(Al):0.020~0.040%、マンガン(Mn):0.01~0.20%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを設ける段階と、
前記鋼スラブを加熱し、熱間圧延して熱延板を製造する段階と、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、
前記冷延板を脱炭焼鈍して、脱炭焼鈍された鋼板を得る段階と、
前記脱炭焼鈍された鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、最終焼鈍する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記冷延板を脱炭焼鈍して、脱炭焼鈍された鋼板を得る段階は、冷延板を脱炭と同時に浸窒するか、又は脱炭後に浸窒し、焼鈍して脱炭焼鈍された鋼板を得る段階であることを特徴とする請求項7に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記APP-CVD工程前後に、200~1250℃の温度範囲で電磁鋼板に予熱(Pre Heating)及び/又は後熱(Post Heating)を行うことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、方向性電磁鋼板とは、鋼板に3.1%前後のSi成分を含有したものであって、結晶粒の方位が{100}<001>[0002]方向に整列された集合組織を有するため、圧延方向に極めて優れた磁気特性を有する電磁鋼板のことである。かかる{100}<001>集合組織を得ることは、様々な製造工程の組み合わせによって可能であり、特に鋼スラブの成分をはじめ、これを加熱、熱間圧延、熱延板焼鈍、1次再結晶焼鈍、及び最終焼鈍する一連の過程が非常に厳密に制御されるようにする必要がある。具体的には、方向性電磁鋼板は、1次再結晶粒の成長を抑制させ、成長が抑制された結晶粒のうち{100}<001>方位の結晶粒を選択的に成長させて得られた2次再結晶組織を介して優れた磁気特性を示すようにするものであるため、1次再結晶粒の成長抑制剤がより重要である。そして、最終焼鈍工程では、成長が抑制された結晶粒のうち安定的に{100}<001>方位の集合組織を有する結晶粒が優先的に成長できるようにすることが方向性電磁鋼板の製造技術における重要事項の1つである。上述した条件を満たすとともに現在、工業的に広く用いられている1次結晶粒の成長抑制剤としては、MnS、AlN、及びMnSeなどが挙げられる。具体的には、鋼スラブに含有されたMnS、AlN、及びMnSeなどを高温で長時間再加熱して固溶させてから熱間圧延し、後続する冷却過程において適正サイズ及び分布を有する前記成分が析出物として作られて、前記成長抑制剤として用いられる。しかし、この方法には、必ず鋼スラブを高温に加熱する必要があるという問題がある。これに関連し、最近では、鋼スラブを低温で加熱する方法によって方向性電磁鋼板の磁気特性を改善させようとの努力があった。このために、方向性電磁鋼板にアンチモン(Sb)の元素を添加する方法が提示されたが、最終高温焼鈍後の結晶粒サイズが不均一であり、且つ粗大であるため、変圧器騒音の品質が劣化するという問題点が指摘された。
【0003】
一方、方向性電磁鋼板の電力損失を最小限に抑えるためには、その表面に絶縁被膜を形成することが一般的である。このとき、絶縁被膜は、基本的に電気絶縁性が高く、素材との接着性に優れ、外観に欠陥がない均一な色を有するようにする必要がある。これに加えて、最近の変圧器騒音に対する国際規格の強化、及び関連業界の競争深化により、方向性電磁鋼板の絶縁被膜の騒音を低減させるための、磁気変形(磁歪)現象に対する研究が必要な実情である。具体的には、変圧器鉄心として用いられる電磁鋼板に磁場が印加されると、収縮及び膨張を繰り返して震え現象が誘発され、かかる震えが原因となって変圧器において振動及び騒音が生じる。一般的に知られている方向性電磁鋼板の場合には、鋼板及びフォルステライト(Forsterite)系ベース被膜上に絶縁被膜を形成し、かかる絶縁被膜の熱膨張係数差を用いて鋼板に引張応力を付与することにより、鉄損を改善させ、磁気変形に起因した騒音低減効果を図っているが、最近要求されている高級な方向性電磁鋼板における騒音レベルを満足させるには限界がある。一方、方向性電磁鋼板の90°磁区を減少させる方法としてはウェットコーティング法が知られている。ここで、90°磁区とは、[0010]磁界印加方向に対して直角に向かう磁化を有する領域のことである。このような90°磁区の量が少ないほど磁気変形が小さくなる。しかし、一般のウェットコーティング法では、引張応力付与による騒音の改善効果が不足し、コーティングの厚さが厚い厚膜でコーティングする必要があるという欠点があるため、変圧器の占積率及び効率が悪くなるという問題点がある。
【0004】
この他に、方向性電磁鋼板の表面に高張力特性を付与する方法として、物理的蒸気蒸着法(Physical Vapor Deposition、PVD)や化学的蒸気蒸着法(Chemical Vapor Deposition、CVD)などの真空蒸着を介したコーティング法が知られている。しかし、かかるコーティング法は商業的生産が難しく、この方法によって製造された方向性電磁鋼板には絶縁特性が劣化するという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、APP-CVD法を介して方向性電磁鋼板の一面又は両面の少なくとも一部にセラミックコーティング層を形成する方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、APP-CVD法を介してその表面にフォルステライト被膜が形成された方向性電磁鋼板の一面又は両面の少なくとも一部にセラミックコーティング層を形成する方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明で解決しようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に限定されず、他の技術的課題を下記の記載から理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による方向性電磁鋼板の製造方法は、表面にフォルステライト被膜が形成された方向性電磁鋼板を設ける段階と、前記被膜が形成された方向性電磁鋼板の一面又は両面の一部又は全部に、常圧プラズマCVD工程(APP-CVD)を用いてプラズマ状態で気相のセラミック前駆体を接触反応させることにより、セラミックコーティング層を形成する段階と、を含むことを特徴とする。
【0010】
前記セラミックコーティング層は、大気圧条件下で高密度無線周波数を用いることで、電磁鋼板の表面に磁場を形成してプラズマを発生させた状態で、Ar、He、及びNのうち1種以上からなる第1ガスと気相のセラミック前駆体を混合した後、これを電磁鋼板の表面に接触反応させることによって形成することができる。
【0011】
前記セラミックコーティング層は、H、O、及びHOのうち1種からなる第2ガスを前記第1ガス及びセラミック前駆体に追加混合した後、これを電磁鋼板の表面に接触反応させることによって形成することができる。
【0012】
前記第1ガス及び第2ガスは、前記セラミック前駆体の気化点以上の温度に加熱されることが好ましい。
【0013】
前記セラミックコーティング層がTiOあり、前記セラミック前駆体として、TTIP(Titanium Isopropoxide、Ti{OCH(CH 、又はTiClを用いることを特徴とする。

【0014】
前記セラミックコーティング層は、厚さが0.1~0.6μmであることができる。このとき、コーティング層の厚さごとの鉄損改善率が7~14%であることができる。
【0015】
前記方向性電磁鋼板を設ける段階は、重量%で、シリコン(Si):2.6~4.5%、アルミニウム(Al):0.020~0.040%、マンガン(Mn):0.01~0.20%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを設ける段階と、前記鋼スラブを加熱し、熱間圧延して熱延板を製造する段階と、前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、前記冷延板を脱炭焼鈍して、脱炭焼鈍された鋼板を得る段階と、前記脱炭焼鈍された鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、最終焼鈍する段階と、を含むことができる。
【0016】
前記冷延板を脱炭焼鈍して、脱炭焼鈍された鋼板を得る段階は、冷延板を脱炭と同時に浸窒するか、又は脱炭後に浸窒し、焼鈍して脱炭焼鈍された鋼板を得る段階であることができる。
【0017】
前記APP-CVD工程前後に、200~1250℃の温度範囲で電磁鋼板に予熱(Pre Heating)及び/又は後熱(Post Heating)を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
上述した構成の本発明によると、鉄損の少ない方向性電磁鋼板を効果的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】通常の方向性電磁鋼板の製造工程を示す図である。
図2】本発明のAPP-CVD工程を用いて、電磁鋼板又はその表面にフォルステライト被膜が形成された電磁鋼板の表面上にセラミックコーティング層が形成されるメカニズム(Mechanism)を示す模式図である。
図3】本発明のAPP-CVD工程において、RFパワーソース(Power Source)によって生成されたプラズマ領域内でセラミック前駆体の一例であるTTIPが解離された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、いくつかの異なる形で実現されることができ、この実施例に限定されない。
【0021】
通常の方向性電磁鋼板は、以下のような製造工程を経て製造される。
【0022】
図1は通常の方向性電磁鋼板の製造工程を示す図である。
【0023】
図1に示すように、先ず、焼鈍酸洗工程(APL:Annealing&Pickling Line)を介して熱延板スケール(Scale)の除去、冷間圧延性の確保、及び熱延板の抑制剤(Inhibitor)(AlN)を磁性に有利に析出及び分散させる役割を果たす。次に、冷間圧延工程(SendZimir Rolling Mill)を介して顧客社が要求する最終製品の厚さで圧延を行い、磁性に有利な結晶方位を確保する役割を果たす。そして、脱炭浸窒焼鈍工程(DNL:Decarburizing&Nitriding Line)を介して素材の[C]を除去し、適正温度及び窒化反応を介して1次再結晶を形成する。続いて、高温焼鈍工程(COF)を介して下地コーティング(MgSiO)層を形成し、2次再結晶を形成する。最後に、HCL工程を介して素材形状を矯正し、前記焼鈍分離剤を除去した後、絶縁被膜層を形成することで、電磁鋼板の表面に張力を付与する工程を行う。
【0024】
本発明では、前記絶縁コーティング工程(HCL)における絶縁被膜形成工程を、APP-CVD工程を介してセラミックコーティング層を形成する工程に代替する。
【0025】
すなわち、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、先ず、セラミックコーティング層がコーティングされる方向性電磁鋼板を設ける。
【0026】
このとき、本発明では、かかる方向性電磁鋼板の特定した鋼組成成分又は製造工程に制限されず、一般的に用いられている方向性電磁鋼板を通常の製造工程を用いて製造することができる。
【0027】
好ましくは、前記方向性電磁鋼板は、鋼スラブを設ける段階と、前記鋼スラブを加熱し、熱間圧延して熱延板を製造する段階と、前記熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階と、前記冷延板を脱炭焼鈍して、脱炭焼鈍された鋼板を得る段階と、前記脱炭焼鈍された鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、最終焼鈍する段階と、を含む工程を用いることで製造することができる。
【0028】
ここで、前記冷延板を脱炭焼鈍して、脱炭焼鈍された鋼板を得る段階は、冷延板を脱炭と同時に浸窒するか、又は脱炭後に浸窒し、焼鈍して脱炭焼鈍された鋼板を得る段階であることができる。
【0029】
また、本発明における前記鋼スラブは、重量%で、シリコン(Si):2.6~4.5%、アルミニウム(Al):0.020~0.040%、マンガン(Mn):0.01~0.20%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含んでなることができる。以下、本発明において、前記鋼スラブの組成成分及び含有量の制限理由について説明すると、以下のとおりである。
【0030】
Si:2.6~4.5重量%
シリコン(Si)は、鋼の比抵抗を増加させて鉄損を減少させる役割を果たす。但し、Siの含有量が少なすぎる場合には、鋼の比抵抗が小さくなって鉄損特性が劣化し、高温焼鈍時に相変態区間が存在し、2次再結晶が不安定になるという問題が発生する可能性がある。これに対し、Siの含有量が多すぎる場合には、脆性が大きくなって冷間圧延が困難になるという問題が発生するおそれがある。したがって、上述した範囲でSiの含有量を調節することができる。より具体的に、Siは2.6~4.5重量%含まれることができる。
【0031】
Al:0.020~0.040重量%
アルミニウム(Al)は、最終的にAlN、(Al,Si)N、(Al,Si,Mn)Nの形の窒化物になって抑制剤として作用する成分である。Alの含有量が少なすぎる場合には、抑制剤として十分な効果を期待することが難しい。また、Alの含有量が多すぎる場合には、Al系の窒化物が過度に粗大に析出されて成長するため、抑制剤としての効果が不足する可能性がある。したがって、上述した範囲でAlの含有量を調節することができる。
【0032】
Mn:0.01~0.20重量%
Mnは、Siと同様に、比抵抗を増加させて鉄損を減少させるという効果があり、Siとともに窒化処理によって導入される窒素と反応して(Al,Si,Mn)Nの析出物を形成することにより、1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすのに重要な元素である。しかし、Mnの含有量が多すぎる場合には、熱延中にオーステナイト相変態を促進するため、1次再結晶粒のサイズを減少させて2次再結晶を不安定にする。また、Mnの含有量が少なすぎる場合には、オーステナイト形成元素として熱延再加熱時にオーステナイト分率を高めて析出物の固溶量を多くし、再析出時に析出物の微細化及びMnSの形成を介した1次再結晶粒が過度に多くならないようにするという効果が不十分になる可能性がある。したがって、上述した範囲でMnの含有量を調節することができる。
【0033】
また、本発明の鋼スラブは、Sb、Sn、Cu、又はこれらの組み合わせを0.01~0.15重量%の範囲でさらに含むこともできる。
Sb、Sn、又はCuは、結晶粒界偏析元素として結晶粒界の移動を妨害する元素であるため、結晶粒成長抑制剤として{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進し、2次再結晶が円滑に発達するようにするため、結晶粒サイズの制御に重要な元素である。Sb又はSnを単独又は複合添加した含有量が少なすぎる場合には、その効果が減少するという問題が生じる可能性がある。これに対し、Sb、Sn、又はCuを単独又は複合添加した含有量が多すぎると、結晶粒界偏析が激しく起こり、鋼板の脆性が大きくなって圧延時における板破断が発生するおそれがある。
【0034】
一方、本発明において、前記セラミックコーティング層が形成される基地として、その表面にフォルステライト被膜が形成された方向性電磁鋼板を用いることもできる。
フォルステライト被膜は、方向性電磁鋼板の製造工程中に脱炭及び窒化焼鈍を行った後、2次再結晶を形成するための高温焼鈍時における素材間の相互融着(sticking)を防止するために焼鈍分離剤を塗布する過程で、塗布剤の主成分である酸化マグネシウム(MgO)が方向性電磁鋼板に含有されたシリコン(Si)と反応して形成されるようになる。
【0035】
本発明では、前記フォルステライト被膜が形成された方向性電磁鋼板の一面又は両面の少なくとも一部に、後述するセラミックコーティング層を形成することもできる。これにより、被膜張力効果を付与し、方向性電磁鋼板の鉄損改善効果を極大化して、極低鉄損方向性電磁鋼板の製造が可能である。
【0036】
続いて、本発明では、前記電磁鋼板の一面又は両面の一部又は全部に、或いは、その表面にフォルステライト被膜が形成される方向性電磁鋼板の一面又は両面の一部又は全部に、常圧プラズマCVD工程(APP-CVD)を用いることで、プラズマ状態で気相のセラミック前駆体を接触反応させることにより、セラミックコーティング層を形成する。
【0037】
本発明におけるセラミックコーティング層を形成するのに用いられる工程は、以下、常圧プラズマ化学蒸着工程(APP-CVD:Atmospheric Pressure Plasma enhanced-Chemical Vapor Deposition)工程と命名する。
【0038】
APP-CVDは、従来のCVD、LPCVD(Low PressureCVD)、APCVD(Atmospheric Pressure CVD)、PECVD(Plasma Enhanced CVD)よりもラジカル(radical)の密度が高く、蒸着率が高い。また、通常のCVDとは異なり、高真空又は低真空の真空設備を必要としないため、設備費が低いという利点がある。すなわち、真空設備がないため設備の稼動が比較的簡単で、蒸着性能に優れる。
【0039】
そして本発明のAPP-CVD工程において大気圧条件下で高密度無線周波数を用いることにより、電磁鋼板の表面に磁場を形成してプラズマを発生させた状態で、Ar、He、及びNからなる主ガスである第1ガスと気相のセラミック前駆体を混合した後、これを反応炉に供給して電磁鋼板の表面に接触反応させる。
【0040】
図2は、本発明のAPP-CVD工程を用いて、電磁鋼板又はその表面にフォルステライト被膜が形成された電磁鋼板の表面上にセラミックコーティング層が形成されるメカニズム(Mechanism)を示す模式図である。
【0041】
図2に示すように、本APP-CVD工程は、大気圧条件下で高密度無線周波数(Radio Frequency)(例えば、13.56MHz)を用いて方向性電磁鋼板の一面又は両面に磁場を形成する。そして、Ar、He、又はNのうち1種以上のガスのような第1ガス(Primary Gas)を孔(hole)、線(Line)、又は面ノズル(Nozzle)を介して噴射させると、磁場下において電子が分離されてラジカル(Radical)化されて極性を示すようになる。
【0042】
本発明において、RFプラズマソース(Plasma Source)は、場合によっては、多数のLine Source又は2D Square Sourceが用いられることができる。ここで、最適化されたコーティング速度及び素地層の進行速度に応じて、ソース(Source)の種類も異なる。
【0043】
続いて、RFパワーソース(Power Source)と鋼板の間で50~60Hzの交流電力下において反応炉内でArラジカル(Radical)及び電子が往復運動をしながら、第1ガスに混合された気相のセラミック前駆体(例えば、TTIP:Titanium Isopropoxide、Ti{OCH(CH)と衝突して前駆体を解離させ、前駆体のラジカル(Radical)を形成するようになる。
【0044】
このとき、本発明におけるTTIPのようなセラミック前駆体は、Ar、He、及びNのうち1種以上からなる第1ガス(Primary Gas)と混合された後、RFパワーソース(Power Source)を通過し、ガス(Gas)噴射ノズル(Nozzle)を通過して反応炉内に流入される。
【0045】
一方、TTIPのような気相のセラミック前駆体は、液体(Liquid)状態で保管され、50~100℃の加熱工程を経て気化される。そして、第1ガスが、TTIPが含まれている位置を通過すると、第1ガスとセラミック前駆体は混合されて、RFパワーソース(Power Source)を通過し、ガス(Gas)噴射ノズル(Nozzle)を通過して反応炉内に流入されるようになる。
【0046】
本発明のセラミック前駆体は、上述のように、液体状態で比較的高くない温度で加熱時に簡単に気化することができるものであれば、様々な種類のものを用いることができる。例えば、TTIP、TiCL、TEOTなどを用いることができる。すなわち、本発明では、前記セラミックコーティング層がTiOであるとき、前記セラミック前駆体として、TTIP(Titanium Isopropoxide、Ti{OCH(CH又はTiClなどを用いることができる。
【0047】
このとき、本発明では、コーティング層の品質を向上させるために、必要に応じて、O、H、及びHOのうち1種からなる補助ガス(secondary gas)である第2ガスを前記第1ガスとともに投入してコーティング層の純度を向上させることができる。すなわち、コーティング積層品質を向上させるために、第2ガスを投入することで、ガスとの反応を介して所望しないコーティング層を除去することができる。本発明において、第2ガス(Secondary Gas)を投入するか否かは、素地層の加熱(Heating)有無などの様々な条件によって決定することができる。
【0048】
上述のように、本発明では、液体状態であるセラミック前駆体を、加熱器を介して気化点以上に加熱し、第1ガス及び第2ガスは事前に蒸気加熱器又は電気加熱器を介して前記セラミック前駆体の気化点以上の温度に加熱した後、セラミック前駆体と混合して反応炉内部にガス状態で供給することにより、セラミック前駆体ガスをプラズマソース(Plasma Source)に供給することができる。
【0049】
このとき、第1ガス、第2ガス、及びセラミック前駆体の流入量をそれぞれ100~10,000SLM、0~1,000SCCM、10~1,000SLMにしてセラミックコーティング層を形成することが好ましい。
【0050】
そして、本発明では、電気的に接地(ground)又は(-)電極を示す方向性電磁鋼板に、解離されたラジカル(Radical)が衝突し、表面にセラミックコーティング層(例えば、TiO)を形成する。
【0051】
本発明におけるプラズマ発生原理は、高密度RFパワーソース(PowerSource)によって付与された磁場下において電子が加速されて、原子や分子などの中性(Neutral)粒子と衝突してイオン化(Ionization)、励起(Excitation)、解離(Dissociation)を発生させるようになる。このうち、励起(Excitation)及び解離(Dissociation)を介して形成されて活性化された種(species)とラジカル(radical)が反応して最終的に所望のセラミックコーティング層を形成することができる。
【0052】
正確な積層機構は明白ではないが、一例として、セラミックTiO積層機構を簡素化して説明すると、セラミック前駆体であるTTIPは、磁場下のプラズマにより、次のように分解されて素地層の表面に積層されることが説明できる。
Ti(OR)→Ti*(OH)x-1(OR)4-x→(HO)(RO)3-xTi-O-Ti(OH)x-1(OR)4-1→Ti-O-Ti network
【0053】
図3は、本発明のAPP-CVD工程において、RFパワーソース(Power Source)によって生成されたプラズマ領域内でセラミック前駆体の一例であるTTIPが解離された状態を示す図である。
【0054】
一方、本発明において、100mpmの速度で進行する幅1mの方向性電磁鋼板をAPP-CVDを介して0.05~0.5μmの厚さで積層するために、RFパワーソース(Power Source)は500kW~10MW程度が必要になることができる。そして、1つ又は複数のRFパワーソース(Power Source)は、パワーマッチングシステム(Power Matching System)によって磁場を安定的に維持することができる。
【0055】
本発明において、前記セラミックコーティング層の厚さを0.1~0.6μmの範囲とすることが好ましい。このとき、コーティング層の厚さごとの鉄損改善率が7~14%であることができる。
【0056】
そして、積層されたセラミックコーティング層の最終的に所望の張力を付与するために、必要に応じて、熱処理が必要になることができる。すなわち、上述したAPP-CVD工程の前後に積層速度及び品質の向上のために、200~1250℃の範囲で電磁鋼板に予熱及び/又は後熱(Pre and/or Post Heating)を行うことが好ましい。
【実施例
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0058】
(実施例)
シリコン(Si)を3.4重量%、アルミニウム(Al)を0.03重量%、マンガン(Mn):0.10重量%、アンチモン(Sb)を0.05重量%、スズ(Sn)を0.05重量%、銅(Cu)を0.05重量%含み、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを設けた。
【0059】
次に、鋼スラブを1150℃で220分間加熱した後、2.3mmの厚さに熱間圧延をして、熱延板を製造した。そして、熱延板を1120℃まで加熱し、920℃で95秒間維持した後、水に急冷して酸洗してから、0.27mmの厚さで冷間圧延することで冷延板を製造した。
【0060】
前記冷延板を、850℃に維持された炉(Furnace)中に投入した後、露点温度及び酸化能を調節し、水素、窒素、及びアンモニアの混合気体雰囲気下において脱炭浸窒及び1次再結晶焼鈍を同時に行うことで、脱炭焼鈍された鋼板を製造した。
【0061】
その後、MgOが主成分である焼鈍分離剤に蒸留水を混合してスラリーを製造し、ロール(Roll)などを用いて、スラリーを脱炭焼鈍された鋼板に塗布した後、最終焼鈍した。このとき、最終焼鈍時における1次均熱温度は700℃、2次均熱温度は1200℃とし、昇温区間における温度区間では15℃/hrとした。また、1200℃までは窒素25体積%と水素75体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃に達した後は100体積%の水素気体雰囲気下において15時間維持してから炉冷(furnace cooling)した。
【0062】
そして、前記のように製造された電磁鋼板の表面にある焼鈍分離剤を除去した後、APP-CVD工程を用いてセラミックコーティング層を形成した。
【0063】
具体的には、APP-CVD工程に先立って、方向性電磁鋼板を500℃の温度で間接加熱した後、APP-CVD反応炉内に鋼板を投入した。
【0064】
このとき、APP-CVD工程は、大気圧条件下で13.56MHzの無線周波数(Radio Frequency)を用いて方向性電磁鋼板の一面又は両面に磁場を形成し、Arガスを反応炉内に流入した。そして、RFパワーソース(Power Source)と鋼板の間に50~60Hzの交流電力下で液状のセラミック前駆体であるTTIPを加熱して気化させた後、ArガスとHガスを混合して反応炉内に投入し、電磁鋼板の表面にその厚さを異ならせるTiOのセラミックコーティング層をそれぞれ形成した。
【0065】
前記のように厚さを異ならせるセラミックコーティング層が形成された電磁鋼板を1.7T、50Hzの条件で磁気特性を評価した。一方、電磁鋼板の磁気特性は、通常W17/50及びB8を代表値として用いる。W17/50とは、周波数50Hzの磁場を1.7Teslaまで交流に磁化させたときに示される電力損失を意味する。ここで、Teslaは、単位面積当たりの磁束(flux)を意味する磁束密度の単位である。B8は、電磁鋼板の周囲を巻いた巻線に800A/mの大きさの電流量を流せたとき、電磁鋼板に流れる磁束密度値を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、APP-CVD工程を用いることで、フォルステライト被膜上にTiOのセラミックコーティング層を形成した本発明例1~4は、かかるコーティングをしない比較例1に比べて、優れた磁気特性を示すことが確認できる。
【0068】
さらに、コロイダルシリカ/リン酸マグネシウム(1:1)の被膜が形成された比較例2に比べて、APP-CVD工程を用いて、TiO被膜を形成した本発明例1~4はより優れた鉄損特性を示すことが確認できる。
【0069】
以上、本発明の実施例及び発明例について詳細に説明したが、これに限定されるものではない。多様な修正及び変形が可能であることは、当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。
図1
図2
図3