(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】半導体レーザダイオードおよび半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
H01S 5/042 20060101AFI20220516BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20220516BHJP
【FI】
H01S5/042 612
H01S5/022
(21)【出願番号】P 2020537860
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2018075486
(87)【国際公開番号】W WO2019063411
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-04-24
(31)【優先権主張番号】102017122330.4
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514272140
【氏名又は名称】オスラム オーエルイーディー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】OSRAM OLED GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, 93055 Regensburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー バッハマン
(72)【発明者】
【氏名】ローラント ハインリヒ エンツマン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ミュラー
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-228989(JP,A)
【文献】特開2013-030538(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0054271(US,A1)
【文献】特表2015-502051(JP,A)
【文献】特開平10-200185(JP,A)
【文献】特開昭58-51585(JP,A)
【文献】特開2013-38394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザダイオード(1)
およびヒートシンク(6)を有する半導体デバイスであって、前記半導体レーザダイオード(1)は、
ビームを形成するために設けられた活性領域(20)を備えた半導体積層体(2)と、
前記活性領域
(20)の主延在面に対して垂直に延びるビーム出力結合面(10)と、
前記半導体積層体
(2)を垂直方向に画定する主面(11)と、
前記主面
(11)に隣接しているコンタクト層(3)と、
前記活性領域
(20)とは反対側を向いた、前記コンタクト層
(3)の面に部分的に配置されている放熱層(4)とを有し、
前記放熱層(4)は、電気絶縁性であり、少なくとも100W/(K*m)の熱伝導率を有し、
前記放熱層(4)は、前記コンタクト層(3)がむき出しになっている少なくとも1つの開口部(45)を有し、前記放熱層(4)の前記開口部(45)は、最大1:1の縦横比を有し、
前記放熱層(4)は、前記半導体レーザダイオード(1)の平面図において、前記放熱層(4)の全体面積の少なくとも70%まで、前記コンタクト層(3)によって荷電粒子が前記主面(11)を介して前記半導体積層体(2)に注入される通流領域(19)内に配置されており、
前記半導体レーザダイオード(1)は、接合手段(65)によって前記ヒートシンク(6)に固定されており、前記接合手段は、前記開口部(45)内において、前記放熱層(4)および前記コンタクト層(3)に直接に隣接している、
半導体デバイス。
【請求項2】
前記放熱層
(4)は、ダイヤモンドライクカーボン、炭化物、窒化物または酸化物を含有する、請求項1記載の
半導体デバイス。
【請求項3】
前記放熱層
(4)による前記コンタクト層
(3)の材料被覆度は、平均して、主放射軸を起点として、前記主放射軸からの間隔の増大に伴い、かつ/または前記ビーム出力結合面を起点として、前記ビーム出力結合面からの間隔の増大に伴って減少する、請求項1
または2記載の
半導体デバイス。
【請求項4】
前記放熱層
(4)による前記コンタクト層
(3)の面積被覆度は、平均して、主放射軸を起点として、前記主放射軸からの間隔の増大に伴って減少する、請求項1から
3までのいずれか1項記載の
半導体デバイス。
【請求項5】
前記放熱層
(4)による前記コンタクト層
(3)の面積被覆度は、平均して、前記ビーム出力結合面を起点として、前記ビーム出力結合面からの間隔の増大に伴って減少する、請求項1から
4までのいずれか1項記載の
半導体デバイス。
【請求項6】
前記放熱層
(4)は、少なくとも部分的に互いに離隔された複数の部分領域(41)を有し、複数の前記部分領域の間隔は、前記ビーム出力結合面からの間隔の増大に伴って増大し、かつ/または複数の前記部分領域の寸法は、前記主放射軸に沿って減少する、請求項1から
5までのいずれか1項記載の
半導体デバイス。
【請求項7】
前記放熱層
(4)のそれぞれの任意の点は、前記半導体レーザダイオード
(1)の平面図において、前記コンタクト層
(3)から最大10μm除去されている、請求項1から
6までのいずれか1項記載の
半導体デバイス。
【請求項8】
前記放熱層
(4)の垂直方向の寸法が変化する、請求項1から
7までのいずれか1項記載の
半導体デバイス。
【請求項9】
前記放熱層
(4)の前記垂直方向の寸法が、前記ビーム出力結合面からの間隔の増大に伴って減少する、請求項
8記載の
半導体デバイス。
【請求項10】
前記放熱層
(4)の前記垂直方向の寸法が、主放射軸からの間隔の増大に伴って減少する、請求項
8または
9記載の
半導体デバイス。
【請求項11】
前記半導体積層体
(2)には、前記通流領域の外部に遮熱層(7)が配置されている、請求項1から
10までのいずれか1項記載の
半導体デバイス。
【請求項12】
前記遮熱層は、垂直方向に前記コンタクト層
(3)内に配置されている、請求項
11記載の
半導体デバイス。
【請求項13】
前記放熱層
(4)は、前記接合手段の少なくとも2倍の熱伝導率を有する、請求項
1から12までのいずれか1項記載の半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、半導体レーザダイオード、特に高出力半導体レーザダイオードと、半導体デバイスとに関する。
【0002】
高出力ダイオードレーザは、特にファイバ結合応用については、もはや達成可能な光出力パワーまたは信頼性によって区分けされることはなく、むしろ特にそのビーム品質もしくは輝度によって区分けされることが多い。特に、光ファイバへの結合のための光出力パワーは、特定の空間角度内に放射される必要がある。このためには放射角度と光放射面積との積として定義されるいわゆるビームパラメータ積BPP(Beam Parameter Product)が重要である。一般的な端面放射器では、殊にワイドストライプレーザでは、特に、層面に対して平行なビーム品質(「スロー軸」とも称される)が限定される。スロー軸方向に沿った発散角度を減少させ、ひいてはビームパラメータ積を減少させるために種々異なるアプローチが追い求められている。このためには、例えば水冷式のヒートシンクが使用され、これによってレーザの動作温度が下げられる。使用されるエピタキシ構造を改善するための、または共振器の構造的な構成を改善するためのアプローチ、例えば共振器の延長も追い求められている。
【0003】
1つの課題は、光出力パワーが大きくありながらも、ビームパラメータ積が小さい点で優れている半導体レーザダイオードを提供することである。この課題は、特に、請求項1に記載の半導体レーザダイオードと、このような半導体レーザダイオードを備えた半導体デバイスとによって解決される。別の実施形態および有利な実施形態は、従属請求項の対象である。
【0004】
ここで示されるのは、半導体レーザダイオードである。この半導体レーザダイオードは、特に高出力半導体レーザダイオードである。このことが意味するのは、光出力パワーが、少なくとも10W、例えば少なくとも30W、例えば50Wであることである。
【0005】
この半導体レーザダイオードは、例えば、形成されるビーム用の共振器が、ビームを形成するために設けられている活性領域の主延在面に対して垂直に延びる端面放射器である。例えば、半導体レーザダイオードは、少なくとも主として横方向のゲインガイドを有する半導体レーザである。換言すると、本明細書で説明する半導体レーザダイオードでは、共振器における横方向のゲインガイドが、横方向のインデックスガイドよりも優勢である。横方向のゲインガイドの原理は、当業者には公知であり、したがってさらにこれを説明しない。
【0006】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、この半導体レーザダイオードは、ビームを形成するために設けられた活性領域を備えた半導体積層体を有する。活性領域は、例えば、紫外、可視、または赤外のスペクトル領域においてビームを形成するために設けられている。活性領域は、例えば、第1半導体層と第2半導体層との間に配置されており、第1半導体層および第2半導体層は、少なくとも部分的にその導電型が互いに異なっており、これにより、活性領域はpn接合部に位置する。
【0007】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、この半導体レーザダイオードのビーム出力結合面は、活性領域の主延在面に対して垂直に延びている。ビーム出力結合面は、特に、活性領域において形成されるビーム用の共振器の境界面を形成する。半導体レーザダイオードの主放射軸は、ビーム出力結合面に対して垂直に、かつ活性領域の主延在面に対して平行に延びている。
【0008】
半導体レーザダイオードはさらに、半導体積層体を垂直方向に画定する主面を有する。垂直方向とは、活性領域の主延在面に対して垂直に延びる方向のことをいう。
【0009】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、半導体レーザダイオードは、主面に隣接しているコンタクト層を有する。このコンタクト層は、半導体レーザダイオードの動作時に、半導体積層体の、隣接する半導体材料に荷電粒子を注入するために設けられている。このコンタクト層は、特に、半導体レーザダイオードの外部との電気的な接触接続のために、特に主面の側に設けられている。
【0010】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、半導体レーザダイオードは、活性領域とは反対側を向いた、コンタクト層の面に部分的に配置されている放熱層を有する。放熱層は、コンタクト層を特に完全には覆ってはおらず、これにより、コンタクト層は、半導体レーザダイオードの外部との電気的な接触接続のために部分的にむき出しになっている。放熱層は、半導体レーザダイオードの一部であり、例えば、デポジットによってコンタクト層に形成される。
【0011】
放熱層とみなされるのは、特に少なくとも100W/(K*m)の高い熱伝導率を有する層である。
【0012】
少なくとも1つの実施形態において、半導体レーザダイオードは、ビームを形成するために設けられた活性領域を備えた半導体積層体と、活性領域の主延在面に対して垂直に延びるビーム出力結合面と、半導体積層体を垂直方向に画定する主面と、主面に隣接しているコンタクト層と、活性領域とは反対側を向いた、コンタクト層の面に部分的に配置されている放熱層とを有し、コンタクト層が、半導体レーザダイオードの外部との電気的な接触接続のために部分的にむき出しになっている。
【0013】
コンタクト層は、半導体レーザダイオード1の取付面15を形成する。この取付面において半導体レーザダイオードは、半導体デバイスを作製するために、例えばはんだのような接合手段によってヒートシンクに固定可能である。例えばAuSnを含有するはんだのような一般に使用されるはんだの熱伝導率は、50W/(K*m)またはそれを下回る範囲にあり、これにより、この層は、ヒートシンクに至る熱経路において最大の熱抵抗を有する層であることが多い。この接合手段は、部分的に放熱層に置き換えられる。この放熱層は、接合手段に比べてより高い、例えば少なくとも2倍の、少なくとも4倍の、または少なくとも10倍の熱伝導率を有する。すなわち放熱層により、半導体レーザダイオードからの放熱が局所的に垂直方向に増大される。
【0014】
少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層は、少なくとも100W/(K*m)の熱伝導率を有する。例えば放熱層は、ダイヤモンドライクカーボン(diamond-like carbon:DLC)、炭化物、例えばケイ素炭化物もしくはホウ素炭化物、窒化物、例えば窒化アルミニウムもしくは窒化ホウ素もしくは窒化ベリリウム、または酸化物、例えば酸化ベリリウムを含有する。ダイヤモンドライクカーボンは、例えば、これが、500W/(K*m)またはこれを上回る熱伝導率を有するように、例えばプラズマデポジションを用いてデポジット可能である。
【0015】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層は、電気絶縁性である。すなわち放熱層は、もっぱら熱的な接触接続に使用されるが、半導体レーザダイオードの電気的な接触接続には使用されない。換言すると、電気的な接触接続が行われる領域と、主に放熱が行われる領域との間の空間的な分離が行われる。
【0016】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層は、半導体レーザダイオードの平面図において、その全体面積の少なくとも70%まで通流領域内に配置されている。通流領域は、コンタクト層によって荷電粒子が主面を介して半導体積層体に注入される領域である。すなわち、放熱層は、主に、例えば少なくとも90%までもまたは完全に通流領域に配置されている。換言すると、最大の損失熱密度も発生する、半導体レーザダイオードの領域において放熱が、所期のように増大される。
【0017】
これに対し、横方向に見て通流領域の外にある領域では、放熱層は、まったく設けられていないか、または極めてわずかな割合だけで設けられている。横方向とは、活性領域の主延在面に対して平行かつビーム出力結合面に対して平行に延びる方向のことである。これにより、半導体レーザダイオードの動作時には、通流領域の縁部において比較的小さな温度勾配を有する温度分布が生じる。このような温度分布により、半導体レーザダイオードの材料において、熱レンズ作用に起因する自己収束の作用を減少させることできる。自己収束の作用を回避または少なくとも減少させることにより、横方向における放射角度を減少させ、ひいてはビームパラメータ積を減少させることができる。
【0018】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層は、コンタクト層がむき出しになっている少なくとも1つの開口部を有し、放熱層の開口部は、例えば、最大1:1の縦横比を有する。ここで縦横比とは、開口部の最大垂直方向寸法と、最小横方向寸法との間の比のことである。すなわち開口部は最大で、深さが幅と同じである。好適には、縦横比は最大1:1.5または最大1:2である。特に、放熱層のすべての開口部は、このような縦横比を有する。判明したのは、このような縦横比を有する開口部が、半導体レーザダイオードを取り付ける際に接合手段によって効率的に充填可能であることである。これに対し、開口部の充填されていない部分領域は、熱抵抗を大きく増大させることになり、半導体レーザダイオードの機能および/またはその寿命にマイナスの影響を及ぼし得る。
【0019】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層によるコンタクト層の材料被覆度は、平均して、主放射軸を起点として、主放射軸からの間隔の増大に伴い、かつ/またはビーム出力結合面を起点として、ビーム出力結合面からの間隔の増大に伴って減少する。
【0020】
放熱層によるコンタクト層の材料被覆度が局所的に高ければ高いほど、対応する領域における放熱の効率がよくなる。半導体レーザダイオードの動作時には、主放射軸において温度最大値を有する温度分布が横方向に生ずる。主放射軸に沿い、温度は、一般にビーム出力結合面の領域において最大である。
【0021】
換言すると、放熱層によるコンタクト層の材料被覆度は、局所的に最大の損失出力密度が発生する領域において、最も効率的に放熱も行われるように変化される。
【0022】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層によるコンタクト層の面積被覆度は、平均して、主放射軸を起点として、主放射軸からの間隔の増大に伴って減少する。例えば、放熱層は、少なくとも部分的に互いに離隔された複数の部分領域を有し、これらの部分領域の横寸法は、主放射軸からの間隔の増大に伴って減少し、かつ/またはこれらの部分領域の間隔は、主放射軸からの間隔の増大に伴って増大する。
【0023】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層によるコンタクト層の面積被覆度は、平均して、ビーム出力結合面を起点として、ビーム出力結合面からの間隔の増大に伴って減少する。例えば、放熱層は、少なくとも部分的に互いに離隔された複数の部分領域を有し、これら部分領域の間隔は、ビーム出力結合面からの間隔の増大に伴って増大し、かつ/またはこれらの部分領域の寸法は、主放射軸に沿って減少する。
【0024】
すなわち、放熱層は、ビーム出力結合面の領域における放熱が、ビーム出力結合面から遠くに離れている領域よりも、より効率的であるように構造化されている。
【0025】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層のそれぞれ任意の点は、半導体レーザダイオードの平面図において、コンタクト層から最大10μm、特に最大5μm除去されている。したがって電気絶縁性に構成されている放熱層においても保証されるのは、十分な均一性で主面を介して半導体積層体に荷電粒子を注入できることである。
【0026】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層の垂直方向の寸法が変化する。すなわち放熱層によるコンタクト層の材料被覆度は、横方向の構造化とは択一的にまたはこれに補足的に、放熱層の局所的に変化する厚みによって実現することも可能である。放熱層の厚みが最大である箇所では、動作時における半導体レーザダイオードからの放熱は、最も効率的である。
【0027】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層の垂直方向の寸法は、ビーム出力結合面からの間隔の増大に伴って減少する。すなわち半導体レーザダイオードから放熱は、主放射軸に沿ってビーム出力結合面から遠く離れている領域よりも、ビーム出力結合面の領域においてより多い。
【0028】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層の垂直方向の寸法は、主放射軸からの間隔の増大に伴って減少する。すなわち、放熱層の厚みは、放熱が、横方向に主放射軸から遠く離れている領域よりも、主放射軸の領域においてより多くなるように変化される。
【0029】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、半導体積層体には、通流領域の外部に遮熱層が配置されている。遮熱層とは、特に、最大30W/(K*m)の、特に最大10W/(K*m)の熱伝導率を有する層のことであると理解される。このような遮熱層を用いることにより、通流領域の外部において半導体積層体からの垂直方向の放熱を所期のように減少させることが可能である。これにより、発生する温度分布およびこの温度分布から生じる屈折率経過は、横方向にさらに平坦化可能である。例えば、遮熱層はまた電気絶縁性に構成される。
【0030】
半導体レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、遮熱層は、垂直方向にコンタクト層内に配置されている。すなわち、垂直方向に見て、遮熱層の両側にはコンタクト層の材料が存在する。しかしながらこれとは異なり、ヒートシンクの方向に見て、熱経路の別の箇所にも遮熱層を配置可能である。
【0031】
半導体デバイスは少なくとも、1つの実施形態によれば、上で説明した少なくとも1つの特徴的構成を備えた半導体レーザダイオードを有する。さらに半導体デバイスは、ヒートシンクを有し、半導体レーザダイオードは、接合手段によってヒートシンクに固定されている。この接合手段は、特に、放熱層およびコンタクト層に直接に隣接している。接合手段は、例えばはんだである。
【0032】
半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、放熱層は、接続手段の少なくとも2倍の、例えば少なくとも4倍の熱伝導率を有する。接合手段の熱伝導率と、放熱層の熱伝導率との違いが大きければ大きいほど、放熱層を介する、半導体レーザダイオードからの放熱を、より効率的に局所的に増大させることができる。別の実施形態および有利な実施形態は、図に関連した、実施例の以下の説明から得られる。
【0033】
同じ要素、同種の要素、または同じ作用の要素には、複数の図面において同じ参照符号が付されている。
【0034】
図面は、それぞれ略図であり、したがって必ずしも縮尺通りではない。むしろ比較的小さな要素、また特に層厚は、わかりやすくするために誇張されて大きく示されていることがある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】半導体レーザダイオードの一実施例を示す概略断面図である。
【
図1B】
図1Aの半導体レーザダイオードを備えた半導体デバイスの一実施例を示す図である。
【
図1C】半導体レーザダイオードの動作時の、横方向xに沿った温度の概略経過を示す線図である。
【
図2A】放熱層のない比較サンプルを示す図である。
【
図2C】
図2Aの比較サンプルの屈折率経過を示す線図である。
【
図2D】
図2Aの比較サンプルの平面図で、ビーム経過を示す概略図である。
【
図3A】半導体レーザダイオードの一実施例を示す概略断面図である。
【
図3B】半導体レーザダイオードの別の一実施例を示す概略断面図である。
【
図4】半導体レーザダイオードのさらに別の一実施例を示す概略平面図である。
【
図5】半導体レーザダイオードのさらに別の一実施例を示す概略断面図である。
【
図6A】半導体レーザダイオードのさらに別の一実施例を示す概略平面図である。
【
図6B】半導体レーザダイオードのさらに別の一実施例を示す概略平面図である。
【
図6C】半導体レーザダイオードのさらに別の一実施例を示す概略平面図である。
【
図6D】半導体レーザダイオードのさらに別の一実施例を示す概略平面図である。
【
図7A】半導体レーザダイオードの一実施例の主放射軸に沿った概略断面図である。
【
図7B】半導体レーザダイオードの別の一実施例の主放射軸に沿った概略断面図である。
【
図7C】半導体レーザダイオードの一実施例を主放射軸に対して垂直な断面で示す概略断面図である。
【0036】
これらの図面において、空間方向を示すために、図平面に対して部分的に座標系が示されており、x方向は、主放射軸に対して垂直な横方向に、y方向は、活性領域の主延在面に対して垂直な方向に、またz軸は、主放射軸に沿った方向に関係している。
【0037】
図1Aには、半導体レーザダイオードの一実施例が、概略断面図で示されており、断面は、例えば
図4に示したビーム出力結合面10に対して平行に延びている。
【0038】
半導体レーザダイオード1は、ビームを形成するために設けられた活性領域20を備えた半導体積層体2を有する。半導体積層体2は、垂直方向に主面11と支持体25との間に延在しており、この上に半導体積層体2が配置されている。主面11には、コンタクト層3が隣接しており、コンタクト層3は、半導体レーザダイオードの外部との電気的な接触接続のために部分的にむき出しになっている。さらに、活性領域20とは反対側を向いた、コンタクト層3の面に放熱層4が配置されている。放熱層4は、例示的に複数の部分領域41に構造化されている。部分領域41間の開口部45内で、コンタクト層はむき出しになっており、これにより、この箇所では、コンタクト層を介して半導体積層体2に荷電粒子注入を行うことが可能である。
【0039】
荷電粒子注入は、コンタクト層3が半導体積層体2に隣接している通流領域19を介して行われる。通流領域19の側方では、半導体積層体2にパッシベーション層5が配置されており、これにより、パッシベーション層によって覆われている箇所では、垂直方向の直接的な電流印加は行われない。
【0040】
通流領域19により、主放射領域16が発生し、この主放射領域16では、活性領域において形成されかつ共振器において増幅されるビームの大部分が伝搬する。例えば、主放射領域により、ビーム放射が、最大ビーム出力の1/e倍以上である領域が定められる。
【0041】
活性領域20は、第1半導体層21と第2半導体層22との間に配置されている。例えば、第1半導体層はp導電型でありかつ第2半導体層はn導電型であるか、またはこの逆である。半導体レーザダイオード1は、コンタクト層3および別のコンタクト層35を介して、外部に電気的に接触接続可能であり、これにより、半導体レーザダイオードの動作時には、コンタクト層3と別のコンタクト層35との間に外部の電圧を印加することにより、逆方向から活性領域に荷電粒子を注入し、そこで、ビームを放射しながら、再結合させることが可能である。ビーム出力結合面10は、半導体レーザダイオードの、反対側の側面と共に、動作時に活性領域に形成されるビーム用の共振器を形成する。半導体レーザダイオードは、特に、少なくとも10Wの出力パワーを有する、特に少なくとも30W、例えば50Wまたはそれ上回る出力パワーを有するワイドストライプ高出力半導体レーザダイオードとして構成されている。
【0042】
図2Aには、放熱層4のない半導体レーザダイオードの一比較例99が示されている。主放射領域16には最大の損出熱も発生し、これにより、
図2Bに示したように、主放射領域16の縁部において比較的大きく降下する温度分布が横方向に生じる。
図2Cでは、半導体積層体2における、対応する屈折率経過が示されており、この屈折率経過は、温度変化に相関付けられている。この屈折率経過は、
図2Dの平面図において矢印によって模式的に示したように、半導体レーザダイオード内で自己収束を生じさせ、この自己収束は、ビーム出力結合面10からビームが出た後、横方向に、すなわちスロー軸に沿って、増大されたビーム発散を生じさせる。
【0043】
図1Bには、
図1Aによる半導体レーザダイオード1と、ヒートシンク6とを有する半導体デバイス9が示されており、ここでは、半導体レーザダイオード1は、例えばはんだのような接合手段65によってヒートシンクに固定されている。接合手段65は、コンタクト層3に隣接しており、また放熱層4に直に隣接している。特に、接合手段65は、放熱層内の開口部45を完全に、または少なくとも実質的に完全に充填している。
図2Bに示した温度経過とは異なり、放熱層4により、主放射領域16の縁部においてよりなだらかに降下する温度経過が生じる。さらに主放射領域16の領域において発生する最高温度は、放熱層によって格段に下がっている。
【0044】
横方向において、放熱層4は、放熱層4によるコンタクト層3の材料被覆度が、損失出力密度が最大でもある領域において最大になるように構造化されている。特に、放熱層は、半導体レーザダイオードの平面図において、その全体面積の少なくとも70%まで、または少なくとも90%まで、または
図1Bに示したように、通流領域19内に完全に配置されている。すなわち、通流領域外では、半導体レーザダイオード1からの、放熱層による放熱は、まったく増大しないかまたは少なくとも著しく大きくは増大せず、これにより、
図1Cに示したなだらかな温度経過の分布が横方向に生じる。
【0045】
放熱層4により、熱が垂直方向に接合手段65を通過するはずである区間が局所的に減少される。例えば、一般に使用されるAuSnはんだのような接合手段は、50W/(K*m)またはそれを下回る熱伝導率しか有しないため、接合手段65内に放熱層4を位置決めすることにより、放熱特性を格段に大きく改善することが可能である。放熱層に適していているのは、プラズマデポジションにより、500W/(K*m)またはそれを上回る熱伝導率で作製可能な、例えばダイヤモンドライクカーボンである。すなわち、放熱層の熱伝導率は、接合手段65の熱伝導率の10倍まで高くすることが可能である。しかしながら温度特性の改善は、熱伝導率のより低い、例えば少なくとも100W/(K*m)を有する、放熱層用の材料によっても実現される。特に、一般的な部分において放熱層に関連して挙げた複数の材料のうちの別の1つの材料を放熱層に使用することも可能である。
【0046】
判明したのは、これにより、横方向におけるビーム発散を減少させ、ひいてはビームパラメータ積を減少させることができることである。したがって上で説明した半導体ガイドレーザは、殊に、ファイバ入力結合に特に適している。というのは、同じ光出力パワーでありながら、より多くの光出力をファイバに入力結合できるからである。このことは、システムにおけるコスト的な利点に結び付く。
【0047】
放熱層を上で説明したように構成することにより、半導体レーザダイオードにおける熱レンズの望ましくない作用は、特にまったく発生しないか、または少なくとも、半導体レーザダイオードの外部領域における、すなわち主放射軸18に対して比較的大きな間隔における、熱伝導率のわずかな悪化を介してしか発生しない。熱伝導率のわずかな悪化は、必然的に半導体レーザダイオード全体内の温度上昇に、ひいては半導体レーザダイオードの効率の減少に結び付くことになる。動作時の半導体レーザダイオードの温度はむしろ、殊に、損失出力密度が特に高い領域において放熱層によって局所的に低下される。これにより、半導体レーザダイオードの効率は増大し、同時にビーム品質が改善される。
【0048】
換言すると、熱レンズのマイナスの作用は、特に、活性領域20とヒートシンク6との間の熱経路において、比較的熱伝導が良好でない接合手段65を部分的に放熱層4によって置き換えることによって発生する。電気的な接触接続は、放熱層4によって覆われていない、コンタクト層3の領域を介して行うことができる。
【0049】
例えば放熱層は、この放熱層により、均一な横方向の電流印加がまったく阻止されないか、または少なくとも実質的に阻止されないように横方向に構成されている。例えば、放熱層4におけるそれぞれの任意の点は、半導体レーザダイオード1の平面図において、コンタクト層3から最大10μm除去されている。
【0050】
コンタクト層がむき出しになっている、放熱層4の開口部45は、好適には最大1:1、特に最大1:1.5または1:2の縦横比を有する。十分に小さい縦横比により、ヒートシンクに取り付ける際には容易に、開口部45に接合手段65を完全に充填することができる。
【0051】
半導体レーザダイオードの別の実施例は、
図3Aおよび3Bにおいて断面図で示されている。これらの実施例は、
図1Aに関連して説明した実施例に実質的に対応する。
【0052】
図1Aの実施例とは異なり、半導体レーザダイオード1は、遮熱層7を有する。遮熱層7は、特に、半導体レーザダイオードの縁部領域に配置されており、例えば、主放射軸から、通流領域19の外側縁部よりも大きな間隔で配置されている。遮熱層7により、半導体レーザダイオード1の縁部領域における熱排出を所期のように減少させることができ、これにより、半導体レーザダイオードの動作時に、比較的なだらかに経過する温度分布の形成がさらに促進される。遮熱層7は、活性領域20からヒートシンクの方向に、熱経路に配置されている。
図3Aでは、遮熱層7は、コンタクト層3内に配置されており、垂直方向に見ると、遮熱層7の両側にコンタクト層3の材料が存在する。
【0053】
図3Bに示した実施例では、遮熱層7は、半導体積層体2側を向いた、コンタクト層3の面に配置されている。
【0054】
例えば、遮熱層7には、酸化ケイ素、または最大30W/(K*m)の、特に最大10W/(K*m)の熱伝導率を有する別の材料が適している。
【0055】
図4および5には、半導体レーザダイオードのそれぞれ1つの実施例が示されており、これらの実施例は、実質的に、
図1Aおよび3Aで説明した実施例に対応する。これらの2つの実施例において、放熱層4によるコンタクト層3の材料被覆度は、平均して、主放射軸18を起点として、主放射軸からの間隔の増大に伴って、この材料被覆度が減少するように変化する。このことは、これらの実施例において、放熱層4の部分領域41が、主放射軸18からの間隔の増大に伴って、より小さな横寸法を有することによって実現される。択一的または付加的には、隣接した複数の部分領域間の間隔も、主放射軸18からの間隔の増大に伴って増大させてよい。
【0056】
したがって局所的な放熱特性は、特に通流領域19の領域において、局所的にそれぞれ発生する損失出力密度に所期のように適合可能である。
【0057】
図6A、6B、6Cおよび6Dには、半導体レーザダイオードの複数の実施例が平面図でそれぞれ示されており、これらの実施例は、放熱層4の局所的な面積被覆密度が異なっている。
【0058】
図6Aに示した実施例では、放熱層の複数の部分領域41は、主放射軸に沿って一定の幅を有する。これらの部分領域は、横方向に横に並んで配置されている。
【0059】
図6Bに示した実施例において、放熱層は、複数の部分領域41に分割されており、これらの部分領域は、主放射軸18に沿って並んで配置されており、またこれに対して垂直方向にも横方向に並んで配置されている。
【0060】
図6Aとは異なり、
図6Cに示した実施例において、部分領域41の幅は、ビーム出力結合面10の方向に部分的に増大している。これにより、コンタクト層には、平均して、ビーム出力結合面10の領域において、ビーム出力結合面から遠く離れている領域よりも放熱層4の材料が太く被覆されている。主放射軸に沿って、温度は一般にビーム出力結合面10の領域において最大である。この領域において、説明したように放熱層4をより太く被覆することにより、これによって発生する温度勾配を小さくすることが可能である。
【0061】
この作用は、
図6Dに示した、放熱層4の実施形態においても実現可能である。この実施形態では、放熱層の隣接した複数の部分領域41間の間隔は、隣接したこれらの部分領域間の平均間隔が、主放射軸18に沿って、ビーム出力結合面10からの間隔の増大に伴って増大するように変化する。択一的または補足的には、横方向に、すなわち主放射軸18に沿って、またはそれに対して垂直に、ビーム出力結合面10からの間隔の増大に伴って部分領域41の寸法を減少させてよい。
【0062】
図7A~7Cには、垂直方向に、すなわち方向yに沿って放熱層を構成する実施例が示されている。これらの構成は、上で説明したすべての実施例に適している。半導体レーザダイオード1の詳細は、図示を容易にするために明示的に示されておらず、上で説明したように構成可能である。
図7Aに示した実施例において、放熱層4は、一貫して一定の厚み、すなわち一定の垂直方向の寸法を有する。このような放熱層は、特に容易に作製可能である。
【0063】
図7Bに示した実施例では、放熱層4の厚みが変化する。特に、この厚みは、ビーム出力結合面10からの間隔の増大に伴って減少する。すなわち放熱層4によるコンタクト層の可変の材料被覆度は、この場合、単独でまたは付加的に放熱層4の層厚を変化させることによって実現可能である。したがって主放射軸に沿った温度経過は、
図6Cおよび6Dに関連して説明したように、ビーム出力結合面10の領域において、増大する損失出力に、ひいては上昇する温度に適合可能である。
【0064】
図7Cに示した実施例において、放熱層4の厚みは横方向に変化する。特に厚みは、主放射軸18からの間隔の増大に伴って減少する。当然のことながら、放熱層は、横方向にも、主放射軸に沿っても共にその垂直方向の寸法が変化してよい。
【0065】
放熱層4の垂直方向の寸法を横方向に変化させることにより、
図1A、4および5に関連して説明したように、半導体レーザダイオードの動作時の、横方向における温度勾配は、よりなだらかな経過を呈することが可能である。
【0066】
図7Bおよび7Cに関連して説明した、垂直方向の寸法の変化は、部分領域41およびその間に配置される開口部45への、放熱層の横方向の構造化とは択一的またはこれに付加的に行うことが可能である。
【0067】
本発明は、実施例に基づく説明には限定されない。むしろ本発明には、任意の新たな特徴的構成、ならびに特に特許請求の範囲における複数の特徴的構成の任意の組み合わせを含む、複数の特徴的構成の任意の組み合わせが含まれており、このことは、この特徴的構成またはこの組み合わせそれ自体が、請求項または実施例に明示的に示されていない場合であってもあてはまるものである。
【0068】
本願は、独国特許出願公開第102017122330.4号明細書の優先権を主張するものであり、その開示内容は、参照によって本明細書に取り込まれるものである。
【符号の説明】
【0069】
1 半導体レーザダイオード
10 ビーム出力結合面
11 主面
15 取付面
16 主放射領域
18 主放射軸
19 通流領域
20 活性領域
21 第1半導体層
22 第2半導体層
25 支持体
3 コンタクト層
35 別のコンタクト層
4 放熱層
41 放熱層の部分領域
45 開口部
5 パッシベーション層
6 ヒートシンク
65 接合手段
7 遮熱層
9 半導体デバイス
99 比較例