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特許7073523STED光学顕微鏡に用いる照明システム及びSTED光学顕微鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】STED光学顕微鏡に用いる照明システム及びSTED光学顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20220516BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020551913
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 CN2018121206
(87)【国際公開番号】W WO2020062609
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】201811125387.8
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】511096558
【氏名又は名称】中国科学院化学研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF CHEMISTRY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No. 2, Zhongguancun North First Street, Haidian District, Beijing, 100190, P. R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】袁 景和
(72)【発明者】
【氏名】于 建▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】方 ▲暁▼▲紅▼
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-262798(JP,A)
【文献】特開2003-167198(JP,A)
【文献】特開2015-072462(JP,A)
【文献】特開2013-061255(JP,A)
【文献】特開2013-200257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0226950(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102540439(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光源と光学素子からなる照明光路とを含み、前記照明光源から発せられた光ビームは、前記照明光路を経てからサンプル表面に合焦して照射されサンプルにおける蛍光物質を励起して蛍光を放出させるSTED光学顕微鏡に用いる照明システムであって、
前記照明光路は、光路伝送方向に沿って順に設置される第1のフィルタ、第2のフィルタ、偏光ビームスプリッタ、第1の1/4波長板、第1のダイクロイックシート素子、光路長遅延ユニット、位相板、第2のダイクロイックシート素子、及び第2の1/4波長板を含み、
前記照明光源から発せられた光ビームが、前記第1のフィルタ、第2のフィルタによってフィルタリングされた後に、一定波長の第1の光ビームと第2の光ビームを取得し、
前記第1の光ビームと前記第2の光ビームとは、それぞれ前記偏光ビームスプリッタによって分光された後に、直線偏光が形成されて反射されてから、前記第1の1/4波長板と 前記第1のダイクロイックシート素子に順に入射され、
前記第1の光ビームは、前記第1の1/4波長板を経てから、円偏光が形成され、前記第1のダイクロイックシート素子によって反射された後に、再び前記第1の1/4波長板を経てから直線偏光が形成され、そして順に前記偏光ビームスプリッタによって透過され、前記第2のダイクロイックシート素子によって反射され、前記第2の1/4波長板により円偏光に変換された後に、顕微結像システムの顕微鏡対物レンズに入射され収束され、前記顕微鏡対物レンズの焦点面には、第1のスポットが形成され、
前記第2の光ビームは、前記第1の1/4波長板を経てから、円偏光が形成され、前記第1のダイクロイックシート素子によって透過された後に、前記光路長遅延ユニットと前記位相板に入射され、
前記第2の光ビームは、前記位相板によって反射された後に、順に前記光路長遅延ユニットによって出射され、前記第1のダイクロイックシート素子によって透過され、前記第1の1/4波長板により直線偏光に変換され、前記偏光ビームスプリッタによって透過され、前記第2のダイクロイックシート素子によって反射され、前記第2の1/4波長板により円偏光に変換された後に、顕微結像システムの顕微鏡対物レンズに入射され収束され、前記顕微鏡対物レンズの焦点面には、第2のスポットが形成され、
前記第1のスポットの中心と前記第2のスポットの中心とが重合される、ことを特徴とするSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項2】
前記第1の光ビームは、励起光であり、
前記第1のスポットは、中実スポットであり、
前記第2の光ビームは、前記第1の光ビームに対する損失光であり、
前記第2のスポットは、中空スポットである、ことを特徴とする請求項1に記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項3】
前記第1のフィルタは、中性フィルタであり、前記照明光源が放出する総レーザーの強度を調整するためのものであり、
前記第2のフィルタは、デュアルバンドパスフィルタであり、一定波長の前記第1の光ビームと前記第2の光ビームをフィルタリングするとともに、前記第1の光ビームの強度と前記第2の光ビームの強度を調整し、
前記第1のフィルタと前記第2のフィルタが、光路に沿って同軸に配置される、ことを特徴とする請求項2に記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項4】
前記偏光ビームスプリッタは、入射された光ビームを互いに垂直な偏光方向の2束の直線偏光に分離でき、それをそれぞれ反射及び透過させる、ことを特徴とする請求項2に記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項5】
前記第1の1/4波長板は、入射された前記第1の光ビームと第2の光ビームを直線偏光から円偏光に変換でき、入射された前記第1の光ビームと第2の光ビームを円偏光から直線偏光に変換することもでき、
前記第2の1/4波長板は、直線偏光を円偏光に変換できる、ことを特徴とする請求項2に記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項6】
前記第1のダイクロイックシート素子は、選択的な透過誘電体膜であり、
前記誘電体膜は、前記光路長遅延ユニットの入射端にメッキされ、
前記誘電体膜は、入射された前記第1の光ビームを反射できるとともに、入射された前記第2の光ビームを透過でき、
前記第2のダイクロイックシート素子は、ダイクロイックシートであり、
前記ダイクロイックシートは、入射された前記第1の光ビームと第2の光ビームをいずれも反射できるとともに、前記サンプルが放出する蛍光を透過できる、ことを特徴とする請求項2に記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項7】
前記光路長遅延ユニットは、前記第2の光ビームを光学的に遅延させることができる、ことを特徴とする請求項2に記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項8】
前記位相板は、反射型位相板であり、前記光路長遅延ユニットの遠端に設置され、
前記第2の光ビームは、前記光路長遅延ユニットに入った後に、前記位相板に入射されて反射されてから、元の光路に沿って前記光路長遅延ユニットの入射端に戻ることができるとともに、
前記位相板は、入射された前記第2の光ビームの波面を調製できる、ことを特徴とする請求項7に記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項9】
前記照明光源と前記第1のフィルタとの間には、前記照明光源から発せられた光ビームをエキスパンドして整形するエキスパンド鏡がさらに設けられる、ことを特徴とする請求項1に記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システム。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れかに記載のSTED光学顕微鏡に用いる照明システムを含み、
前記STED光学顕微鏡は、顕微結像システムと蛍光検知システムをさらに含み、
前記顕微結像システムは、顕微鏡対物レンズを含み、
前記照明光源から発せられた光ビームは、前記照明システムの照明光路を経てから、2束の同軸の第1の光ビームと第2の光ビームに分割され、
前記第1の光ビームと前記第2の光ビームは、それぞれ前記顕微鏡対物レンズによって収束されてから、サンプルに照射され前記サンプルにおける蛍光物質を励起して蛍光を放出させ、
前記蛍光は、前記顕微鏡対物レンズによって収束されてから、前記蛍光検知システムに入って検出され、
前記第1の光ビームの光軸と前記第2の光ビームの光軸は、いずれも前記蛍光検知システムの検知光路の光軸と同軸である、ことを特徴とするSTED光学顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微結像の技術分野に関し、特にSTED光学顕微鏡に用いる照明システム及びSTED光学顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
ライフサイエンス分野の顕微鏡結像研究の約80%は光学顕微鏡を今も使用しており、ライフサイエンスの進展には光学顕微鏡の発達も伴うと言える。しかし、光学回折限界の存在により、光学顕微鏡の空間分解能は波長の約半分程度に制限され、このような分解能は生物学者による細胞内構造の詳細な研究を著しく妨げている。STED(激放射損失顕微鏡、Stimulated Emission Depletion-STED)は、1束のSTED光を使用してシェル形のスポットを形成し、励起光の回折スポットの周囲の蛍光分子を激放射により枯渇させて非放射状態に変換することにより、50nmを超える空間分解能が実現される。プレノプティック設置を用いるため、画像取得時間は伝統的な共焦点顕微鏡と同じであり、サンプルの準備に特別な要求がないため、生きた細胞の細胞内構造のリアルタイムイメージングと動的追跡を実現できる。
【0003】
超解像STED蛍光顕微鏡の発明から、それは生物学および生命医学の科学研究で広く使用される。しかし、実際のアプリケーションでは、STED顕微鏡の構造は複雑であり、励起スポットとSTEDシェル形のスポットの間で高精度かつ長期間の安定したアライメント(ナノレベル)を達成することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記の欠陥及び不足の少なくとも一つを解决し、この目的は、以下の技術案によって実現される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、照明光源と光学素子からなる照明光路とを含み、前記照明光源から発せられた光ビームは、前記照明光路を経てからサンプル表面に合焦して照射されサンプルにおける蛍光物質を励起して蛍光を放出させるSTED光学顕微鏡に用いる照明システムであって、前記照明光路は、光路伝送方向に沿って順に設置される第1のフィルタ、第2のフィルタ、偏光ビームスプリッタ、第1の1/4波長板、第1のダイクロイックシート素子、光路長遅延ユニット、位相板、第2のダイクロイックシート素子、及び第2の1/4波長板を含み、前記照明光源から発せられた光ビームが、前記第1のフィルタ、第2のフィルタによってフィルタリングされた後に、一定波長の第1の光ビームと第2の光ビームを取得し、前記第1の光ビームと前記第2の光ビームとは、それぞれ前記偏光ビームスプリッタによって分光された後に、直線偏光が形成されて、反射されてから、前記第1の1/4波長板と前記第1のダイクロイックシート素子に順に入射され、前記第1の光ビームは、前記第1の1/4波長板を経てから、円偏光が形成され、前記第1のダイクロイックシート素子によって反射された後に、再び前記第1の1/4波長板を経てから、直線偏光が形成され、そして前記偏光ビームスプリッタによって順に透過され、前記第2のダイクロイックシート素子に反射され、前記第2の1/4波長板により円偏光に変換された後に、顕微結像システムの顕微鏡対物レンズに入射され収束され、前記顕微鏡対物レンズの焦点面には、第1のスポットが形成され、前記第2の光ビームは、前記第1の1/4波長板を経てから、円偏光が形成され、前記第1のダイクロイックシート素子によって透過された後に、前記光路長遅延ユニットと前記位相板に入射され、前記第2の光ビームは、前記位相板によって反射された後に、順に前記光路長遅延ユニットによって出射され、前記第1のダイクロイックシート素子によって透過され、前記第1の1/4波長板により直線偏光に変換され、前記偏光ビームスプリッタによって透過され、前記第2のダイクロイックシート素子によって反射され、前記第2の1/4波長板により円偏光に変換された後に、顕微結像システムの顕微鏡対物レンズに入射され収束され、前記顕微鏡対物レンズの焦点面には、第2のスポットが形成され、前記第1のスポットの中心と前記第2のスポットの中心とが重合されるSTED光学顕微鏡に用いる照明システムを提供する。
【0006】
更には、前記第1の光ビームは、励起光であり、前記第1のスポットは、中実スポットであり、前記第2の光ビームは、前記第1の光ビームに対する損失光であり、前記第2のスポットは、中空スポットである。
【0007】
更には、前記第1のフィルタは、中性フィルタであり、前記照明光源が放出する総レーザーの強度を調整するためのものであり、前記第2のフィルタは、デュアルバンドパスフィルタであり、一定波長の前記第1の光ビームと前記第2の光ビームをフィルタリングするとともに、前記第1の光ビームの強度と前記第2の光ビームの強度を調整し、前記第1のフィルタと前記第2のフィルタが、光路に沿って同軸に配置される。
更には、前記偏光ビームスプリッタは、入射された光ビームを互いに垂直な偏光方向の2束の直線偏光に分離でき、それをそれぞれ反射及び透過させる。
【0008】
更には、前記第1の1/4波長板は、入射された前記第1の光ビームと第2の光ビームを直線偏光から円偏光に変換でき、入射された前記第1の光ビームと第2の光ビームを円偏光から直線偏光に変換することもでき、前記第2の1/4波長板は、直線偏光を円偏光に変換できる。
【0009】
更には、前記第1のダイクロイックシート素子は、選択的な透過誘電体膜であり、前記誘電体膜は、前記光路長遅延ユニットの入射端にメッキされ、前記誘電体膜は、入射された前記第1の光ビームを反射できるとともに、入射された前記第2の光ビームを透過でき、前記第2のダイクロイックシート素子は、ダイクロイックシートであり、前記ダイクロイックシートは、入射された前記第1の光ビームと第2の光ビームをいずれも反射できるとともに、前記サンプルが放出する蛍光を透過できる。
【0010】
更には、前記光路長遅延ユニットは、前記第2の光ビームを光学的に遅延させることができる。
【0011】
更には、前記位相板は、反射型位相板であり、前記光路長遅延ユニットの遠端に設置され、前記第2の光ビームは、前記光路長遅延ユニットに入った後に、前記位相板に入射されて反射されてから、元の光路に沿って前記光路長遅延ユニットの入射端に戻ることができるとともに、前記位相板は、入射された前記第2の光ビームの波面を調製できる。
【0012】
更には、前記照明光源と前記第1のフィルタとの間には、前記照明光源から発せられた光ビームをエキスパンドして整形するエキスパンド鏡がさらに設けられる。
【0013】
本発明は、上記のSTED光学顕微鏡に用いる照明システムを含み、前記STED光学顕微鏡は、顕微結像システムと蛍光検知システムをさらに含み、前記顕微結像システムは、顕微鏡対物レンズを含み、前記照明光源から発せられた光ビームは、前記照明システムの照明光路を経てから、2束の同軸の第1の光ビームと第2の光ビームに分割され、前記第1の光ビームと前記第2の光ビームは、それぞれ前記顕微鏡対物レンズによって収束されてから、サンプルに照射され前記サンプルにおける蛍光物質を励起して蛍光を放出させ、前記蛍光は、前記顕微鏡対物レンズによって収束されてから、前記蛍光検知システムに入って検出され、前記第1の光ビームの光軸と前記第2の光ビームの光軸は、いずれも前記蛍光検知システムの検知光路の光軸と同軸であるSTED光学顕微鏡をさらに提供する。
【0014】
更には、前記顕微結像システムの出射端と前記蛍光検知システムの間には、前記蛍光をフィルタリングするするための第3のフィルタがさらに設けられる。
【0015】
本発明の利点は、以下のようになる。
(1)本発明が提供するSTED光学顕微鏡に用いる照明システムは、一体化された集積設計により、各ユニットデバイスの互いの幾何学的関係の物理的な調整、及び機械的調整機構の固有の温度と振動不安定性が回避され、STED機器設備は、様々な環境で長期間確実に動作できる。
【0016】
(2)本発明は、光学冷間加工と光学メッキ膜により、レーザー光源から適切な波長の励起光と損失光をフィルタリングでき、光学メッキ膜は、両者の相対強度の調整制御がさらに実現され、中性フィルタは、全光強度の調整制御が実現される。
【0017】
(3)本発明は、偏光ビームスプリッタと波長板を組み合わせて使用することにより、光路をコンパクトにし、より少ない光学素子により光ビームのステアリングと光ビームの偏光状態の制御を実現することに有利であり、そして、各主要光学素子は、端面に貼付によって一体化された集積モジュールに組合せ、デバイス体積を縮小しながら、デバイスは温度と環境振動に敏感ではなく、信頼性が向上する。
【0018】
(4)本発明は、二元光学加工プロセスにより、光路長遅延ユニットに位相板が加工され、損失光に対して反射型の位相調整の制御を行い、STED技術に重要な励起光と厳密に同心である一定の時間遅延を有する位相調製光ビーム(損失光は、対物レンズによって収束されてからシェル形のスポットが形成され)を発生できる。
【0019】
以下の好ましい実施形態の詳細な説明を読むことにより、様々な他の利点および利益が当業者に明らかになる。図面は、好ましい実施形態を例示する目的でのみ使用され、本発明を限定するものと見なされない。また、図面全体において、同じ符号は同じ部材を示すために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例が提供するSTED光学顕微鏡に用いる照明システムの構造概念図である。
図2】以往の共焦点顕微鏡で40nm蛍光ミクロスフェアのサンプルを照射することにより得られた共焦点結像図である。
図3】本発明の実施例が提供するSTED光学顕微鏡に用いる照明システムは、40nm蛍光ミクロスフェアのサンプルを照射して図2の同じ領域で得られたSTED結像図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の例示的な実施形態をより詳細に説明する。図面は本開示の例示的な実施形態を示しているが、本開示は様々な形態で実現することができ、ここで説明した実施形態によって限定されるべきではないことを理解されたい。それどころか、これらの実施形態は、本開示のより完全な理解を可能にするとともに当業者に本開示の範囲を完全に伝えるために提供される。
【0022】
図1には、本発明の実施態様が提供するSTED光学顕微鏡に用いる照明システムの構造概念図を示す。この照明システムは、STED光学顕微鏡に適用し、STED光学顕微鏡は、照明システム10、顕微結像システム20、及び蛍光検知システム30を含む。照明システム10から発せられた光ビームは、顕微結像システム20の顕微鏡対物レンズによって合焦されてから、サンプル表面に照射され、サンプルにおける蛍光物質を励起して蛍光を放出させることができ、サンプルの蛍光は、さらに前記顕微鏡対物レンズによって収束されてから蛍光検知システム30に入射されて検出される。
【0023】
図1に示されたように、本発明が提供するSTED光学顕微鏡に用いる照明システムは、照明光源と光学素子からなる照明光路とを含み、本実施例において、照明光源は、レーザ1であり、複数の波長のレーザーや複数のレーザーの組合せを放出できる。レーザ1から発せられたレーザー光ビームは、照明光路を経てからサンプル表面に合焦して照射され、照明光路は、光路伝送方向に沿って順に設置される第1のフィルタ21、第2のフィルタ22、偏光ビームスプリッタ3、第1の1/4波長板41、第1のダイクロイックシート素子51、光路長遅延ユニット6、位相板7、第2のダイクロイックシート素子52、及び第2の1/4波長板42を含み、照明光源1から発せられた光ビームが、第1のフィルタ21、第2のフィルタ22によってフィルタリングされた後に、第1の光ビーム101と第2の光ビーム102という2束の光を取得し、第1の光ビーム101と第2の光ビーム102とは、それぞれ偏光ビームスプリッタ3によって分光された後に、第1の1/4波長板41に入射されて円偏光が形成されてから、第1のダイクロイックシート素子51に入射される。第1のダイクロイックシート素子51に入射された第1の光ビーム101は、反射されてから、順に第1の1/4波長板41によって直線偏光が形成され、偏光ビームスプリッタ3に透過され、第2のダイクロイックシート素子52に反射され、第2の1/4波長板42により円偏光に変換された後に、顕微鏡対物レンズに入射され収束され、対物レンズの焦点面には、第1のスポットが形成され、第1のダイクロイックシート素子51に入射された第2の光ビーム102は、透過されてから、光路長遅延ユニット6に入射されて光学的に遅延させ、第2の光ビーム102は、光路長遅延ユニット6の遠端に設置される位相板7によって反射されてから、順に光路長遅延ユニット6によって出射され、第1のダイクロイックシート素子51に透過され、第1の1/4波長板41によって直線偏光が形成され、偏光ビームスプリッタ3に透過され、第2のダイクロイックシート素子52に反射され、第2の1/4波長板42によって円偏光に変換された後に、顕微鏡対物レンズにも入射され収束され、対物レンズの焦点面には、第2のスポットが形成され、第1のスポットの中心と第2のスポットの中心とが重合される。図1において、図面を鮮鋭させる理由から、第1の光ビーム101と第2の光ビーム102を垂直にズレさせ、実際には、各光ビームは通常、可能な限り厳密に同軸である。
【0024】
第1の光ビーム101は、励起光であり、蛍光を励起してサンプルを蛍光結像するためのものである。第2の光ビーム102は、第1の光ビーム101に対する損失光であり、蛍光を抑制し、第1のスポットの周辺領域で蛍光放出状態にある蛍光物質を脱励起して、この周辺領域に蛍光を発生しない。
【0025】
第1のフィルタ21は、中性フィルタであり、第1のフィルタ21は光ビームをフィルタリングすることができ、照明光源1から発せられた総レーザーの強度を調整する。第2のフィルタ22は、デュアルバンドパスフィルタであり、波長に適合する第1の光ビーム101と第2の光ビーム102をフィルタリングし、2束の光の強度を調整する。好ましい実施において、第2のフィルタ22は、光学メッキ膜を用いて、励起光と損失光の両者の相対強度を調整して制御する。
【0026】
レーザ1と第1のフィルタ21の間には、エキスパンド鏡8が設けられ、エキスパンド鏡8は、レーザー光ビームをエキスパンド及び整形できる。第1のフィルタ21と第2のフィルタ22が、光路に沿って同軸に配置されレーザ1の光軸に重合され、エキスパンド鏡8の軸線も、レーザ1の光軸に重合される。
【0027】
偏光ビームスプリッタ3は、入射された光を互いに垂直な偏光方向の2束の直線偏光に分離でき、それをそれぞれ反射及び透過させる。第1の光ビーム101と第2の光ビーム102という2束の光ビームは、それぞれ偏光ビームスプリッタ3を経てから直線偏光が形成され、P偏光ビームは透過後に廃棄され、S偏光ビームは反射されてから、順に第1の1/4波長板41と第1のダイクロイックシート素子51に入射される。
【0028】
第1の1/4波長板41と第2の1/4波長板42は、光ビームの偏光状態を調整するためのものであり、第1の1/4波長板41は、入射された第1の光ビーム101と第2の光ビーム102を直線偏光から円偏光に変換でき、入射された第1の光ビーム101と第2の光ビーム102を円偏光から直線偏光に変換もできる。第2の1/4波長板は、第1の光ビーム101と第2の光ビーム102を直線偏光から円偏光に変換できる。
【0029】
第1のダイクロイックシート素子51は、選択的な透過誘電体膜であり、この誘電体膜は、入射された第1の光ビーム101を反射できるとともに、第2の光ビーム102を透過できる。第2のダイクロイックシート素子52は、選択的な透過ダイクロイックシートであり、このダイクロイックシートは、入射された第1の光ビーム101と第2の光ビーム102をいずれも反射できるとともに、サンプルが放出する蛍光を透過できる。好ましい実施において、第1のダイクロイックシート素子51の誘電体膜が光路長遅延ユニット6の入射端の表面にメッキされ、光路システム全体の体積を縮小して光学素子の配置をより合理的にコンパクトするだけでなく、温度、振動等の環境要因による顕微鏡への影響も低減できる。
【0030】
光路長遅延ユニット6は、両端が厳密に平行である光学ガラスであり、その長さは、遅延に適した第1の光ビーム101と第2の光ビーム102を発生するように、実際の必要に応じて設計できる。位相板7は、反射型位相板であり、光路長遅延ユニット6の遠端に設置され光路長遅延ユニット6の光軸(位相板7の中心線が光路長遅延ユニット6の光軸と重合する)に垂直であり、損失光波面と光路長を調製して、顕微鏡対物レンズの焦点面にシェル形の焦点スポットを発生するためのものである。二元光学加工プロセスにより、位相板7に損失光に対して反射型の位相調整の制御を行い、STED技術に重要な、励起光と厳密に同心である、一定の時間遅延を有する位相調製光ビーム(損失光は、対物レンズによって収束されてからシェル形のスポットが形成され)を発生できる。
【0031】
具体的な実施において、光路長遅延ユニット6と位相板7は、一体型構造でも、分割型構造でもよい。好ましい実施において、光路長遅延ユニット6と位相板7を一体型構造として設置し、光路長遅延ユニット6の出射端の表面に位相板7が加工され、集積化設計により、光学素子の配置をよりコンパクトにしながら、温度、振動等の外境界環境による光路への影響も低減され、光学システムの信頼性が向上する。
【0032】
第1の光ビーム101は、第1の1/4波長板41を経てから円偏光に変換され、第1のダイクロイックシート素子51によって反射されてから、再び第1の1/4波長板41を経て直線偏光が形成され、偏光ビームスプリッタ3に入射して透過される。第2の光ビーム102は、第1の1/4波長板41を経てから円偏光に変換され、再び第1のダイクロイックシート素子51によって透過されてから、光路長遅延ユニット6に入って光学的に遅延させ、光路長遅延ユニット6の遠端に設置された位相板7に入射され、第2の光ビーム102は、位相板7によって波面を調製して反射された後に、元の光路に沿って光路長遅延ユニット6の入射端に戻り、第1のダイクロイックシート素子51を経て第1の1/4波長板41に透過されて直線偏光に変換され、再び偏光ビームスプリッタ3によって透過されてから、偏光ビームスプリッタ3で第1の光ビーム101と再結合する。第1の光ビーム101が光路長遅延ユニット6を介せず、第2の光ビーム102が光路長遅延ユニット6を介するため、両者の間には、一定のパルス時間遅延を生じるとともに、再結合された第1の光ビーム101と第2の光ビーム102は同軸である。
【0033】
再結合された第1の光ビーム101と第2の光ビーム102は、それぞれ第2のダイクロイックシート素子52によって反射されてから、再び第2の1/4波長板42によって直線偏光から円偏光に変換され、そして顕微結像システムに入って、対物レンズにより収束されサンプルに照射され、同心のスポットが形成される。第1の光ビーム101が収束してサンプルに照射され、中実スポットが形成される。第2の光ビーム102が収束してサンプルに照射され、中空スポットが形成される。第1の光ビーム101と第2の光ビーム102とは、波長が異なり、照明光路による同軸伝送を通過した後に、サンプル表面を励起して蛍光を発出させ、上記中実スポットは、上記の中空スポットと重なり、中実スポットは、サンプル上の蛍光物質を励起して蛍光を発出させるが、中空スポットがこの蛍光物質の周辺から発せられた蛍光を抑制し、このようにして、回折限界未満の中間の一つの点のみが蛍光を放出して観察される。励起された蛍光は、第3のフィルタ9によってフィルタリングされた後に、蛍光検出システム30によって受け取られて検出される。
【0034】
第1の1/4波長板41は、偏光ビームスプリッタ3によって反射された光ビームを直線偏光から円偏光に変換し、2回目に入射された円偏光を直線偏光に変換させてから偏光ビームスプリッタ3に入射され透過され、光路の順調な伝送が実現される。第2の1/4波長板42を用いて、顕微結像システムに入った励起光を円偏光として設置し、より高い蛍光励起効率、及びより良いシェル形の焦点スポットを取得できる。
【0035】
本実施例において、偏光ビームスプリッタ3は、第1の1/4波長板41と連通し、第1のダイクロイックシート素子51を光路長遅延ユニット6の表面にメッキすることにより、励起光、損失光の偏光属性、光路の伝送路径を調整して制御する。第2のダイクロイックシート素子52は、第2の1/4波長板42と連通することにより、再結合された励起光、損失光の偏光状態を調整し、光線の伝播方向を変える。偏光ビームスプリッタ3と波長板を組み合わせて使用することにより、光路をコンパクトにし、より少ない光学素子により光ビームのステアリングと光ビームの偏光状態の制御を実現することに有利であり、そして各主要光学素子は、端面に貼付によって一体化された集積モジュールに組合せ、デバイス体積を縮小しながら、デバイスは、温度と環境振動に敏感ではなく、信頼性が向上する。
【0036】
第3のフィルタ9は、蛍光バンドパスフィルタであり、顕微結像システム20と蛍光検出システム30の間に設置され、サンプルが放出する蛍光は、第3のフィルタ9によって蛍光以外の他の光(散乱された第1の光ビーム101と第2の光ビーム102を含み)をフィルタリングした後、蛍光検知システム30に入ってデータを収集する。本実施態様において、第3のフィルタ9を第2のダイクロイックシート素子52の側に設置するとともに、第2のダイクロイックシート素子52を蛍光を透過できるレンズとして設置し、サンプルが放出する蛍光は、検出するために蛍光検出システム30に直接入ることが保証される。
【0037】
図2には、伝統的な共焦点顕微鏡により直径40nmの蛍光ミクロスフェアのサンプルに対して共焦点結像試験を行って得られた結像図を示し、図3には、上記のSTED光学顕微鏡により直径40nmの蛍光ミクロスフェアのサンプルに対して図2の同じ領域で受激放射ディプリーション(STED)顕微結像試験を行って得られた結像図を示す。図面から、伝統的な共焦点結像(図2の破線のボックス内)では、ナノミクロスフェアを解像できないことが分かるが、本発明のSTED超解像結像(図3の虚線のボックス内)は、3つの蛍光ミクロスフェアを鮮鋭的に識別でき、蛍光ミクロスフェア顕微結像の半値全幅は、50nm未満であると測定される。上記の比較から、本発明が提供するSTED光学顕微鏡に用いる照明システムによれば、結像の解像率を大幅に向上させ、超解像結像の効果を取得できることが分かる。
【0038】
本発明は、上記の照明システムを含むSTED光学顕微鏡をさらに提供する。このSTED光学顕微鏡は、顕微結像システム20と蛍光検知システム30をさらに含み、顕微結像システム20は、前記顕微鏡対物レンズを含み、照明光源から発せられた光ビームは、上記照明システムの照明光路によって2束の同軸の第1の光ビーム101と第2の光ビーム102に分割され、第1の光ビーム101と第2の光ビーム102は、それぞれ顕微鏡対物レンズによって収束された後に、サンプルに照射されサンプルにおける蛍光物質を励起して蛍光を放出させ、蛍光は、顕微鏡対物レンズによって収束された後に、蛍光検知システム30に入って検出される。第1の光ビーム101、第2の光ビーム102、及び蛍光検知システム30の検知光路の光軸は、同軸であり、上記顕微鏡対物レンズの焦平面は、第1の光ビーム101、第2の光ビーム102、及び蛍光検知システムの検知光路の光軸に対して、いずれも垂直である。
【0039】
本発明が提供するSTED光学顕微鏡に用いる照明システムは、一体化された集積光学モジュール設計により、励起光、損失光、及び共焦点検知光路の同軸の入力と出力が実現でき、励起スポットとSTEDシェル形のスポットの高精度で長期間の安定したアライメントが実現され、同時に各ユニットデバイスの互いの幾何学的関係の物理的な調整、及び機械的調整機構の固有の温度と振動不安定性が回避でき、STED機器設備は、様々な環境で長期間にわたって信頼性が高く安定して作動することができる。
【0040】
なお、本発明の説明において、「第1」および「第2」という用語は、あるエンティティまたはオペレーションを別のエンティティまたはオペレーションから区別するためにのみ使用され、これらのエンティティまたはオペレーション間の何れのこのような実際の関係や順序を必ずしも必要または暗黙ではない。
【0041】
上記は、本発明の好ましい具体的な実施形態にすぎないが、本発明の保護範囲はこれに限定されず、本発明に開示された技術的範囲内で当業者によって容易に想到され得るあらゆる変更または置換は、本発明の保護範囲に含まれるべきである。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲の保護範囲に従うべきである。
【符号の説明】
【0042】
10 照明システム
20 顕微結像システム
30 蛍光検知システム
1 レーザ
21 第1のフィルタ
22 第2のフィルタ
3 偏光ビームスプリッタ
41 第1の1/4波長板
42 第2の1/4波長板
51 第1のダイクロイックシート素子
52 第2のダイクロイックシート素子
6 光路長遅延ユニット
7 位相板
8 エキスパンド鏡
9 第3のフィルタ
101 第1の光ビーム
102 第2の光ビーム
図1
図2
図3