(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】グラフェンの非共有結合表面修飾を有する、化学的バラクタを用いたセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/22 20060101AFI20220516BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20220516BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20220516BHJP
H01L 29/93 20060101ALI20220516BHJP
H01L 29/16 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
G01N27/22 A
C01B32/194
H01L29/93 Z
H01L29/16
(21)【出願番号】P 2020566542
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(86)【国際出願番号】 US2019018741
(87)【国際公開番号】W WO2019164922
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-08-27
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513112245
【氏名又は名称】リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミネソタ
【氏名又は名称原語表記】REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MINNESOTA
(73)【特許権者】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ジェン、シュエ
(72)【発明者】
【氏名】ビュールマン、フィリップ ピエール ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ケスター、スティーブン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン、ジャスティン セオドア
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09011779(US,B1)
【文献】特開2019-020415(JP,A)
【文献】ZHANG, Yao et al.,Capacitive Sensing of Glucose in Electrolytes Using Graphene Quantum Capacitance Varactors,Materials and Interfaces,2017年10月12日,vol.9 no.44,p. 38863-38869
【文献】NAG, Sananda et al.,Ultrasensitive QRS made by supramolecular assembly of functionalized cyclodextrins and graphene for the detection of lung cancer VOC biomarkers,Journal of Materials Chemistry B,vol. 2,2014年07月28日,p. 6571-6579
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/00-27/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗又はキャパシタンスを含む電気回路の電気特性の変化を測定するセンサを備えた医療機器であって、
前記センサは、
グラフェン層と、
π-πスタッキング相互作用を通して前記グラフェン層の外面上に設置された自己組織化単分子層と
を
有するグラフェンバラクタを含み、前記自己組織化単分子層は、少なくとも0.9のラングミュアシータ値を提供
し、
前記自己組織化単分子層は、式:
【化1】
(式中、Mは、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、パラジウム又はそれらの誘導体を含む任意の金属原子であり、nは、1~5の任意の整数であり得、mは、1又は2であり得、R
1
~R
8
は、-H、-X(ここで、Xは、任意のハロゲン原子である)、-R
9
、-R
10
OH、-R
11
COOH、-R
12
COOR
13
、-R
14
OR
15
、-R
16
COH、-R
17
COR
18
、-R
19
NH
3
+
、-R
20
NH
2
、-R
21
NR
22
、-R
23
NR
24
R
25+
、-R
26
X若しくは-R
27
COX(ここで、Xは、任意のハロゲン原子である)、-R
28
SH又はそれらの任意の組合せを含み、及びR
9
~R
28
は、任意の直鎖若しくは分岐C
1
~C
12
アルキル、C
1
~C
12
アルケニル、C
1
~C
12
アルキニル又はそれらの組合せを含むか、或いは存在しないことができ、それにより、前記官能基の残りの部分は、前記塩基性芳香環構造の1つ又は複数の炭素原子に直接共有結合される)を有する少なくとも1つの金属テトラフェニルポルフィリン化合物を含む、医療機器。
【請求項2】
前記自己組織化単分子層は、3~10個の芳香環を含む1つ又は複数の炭化水素を含む、請求項
1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記自己組織化単分子層は、3~10個の芳香環を含む1つ又は複数の多環芳香族炭化水素を含む、請求項1
又は2に記載の医療機器。
【請求項4】
前記多環芳香族炭化水素は、アントラセン、ベンゾアントラセン、フェナントレン、フェナレン、ナフタセン、ベンズアントラセン、クリセン、ペンタセン、ジベンズアントラセン、トリフェニレン、ピレン、ベンゾピレン、ピセン、ペリレン、ベンゾペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、アンタントレン、コロネン、オバレン又はそれらの誘導体の1つ又は複数を含む、請求項
3に記載の医療機器。
【請求項5】
前記自己組織化単分子層は、少なくとも0.98のラングミュアシータ値を提供する、請求項1~
4の何れか一項に記載の医療機器。
【請求項6】
前記自己組織化単分子層は、表面積で50%~150%の、前記グラフェンの上の被覆率を提供する、請求項1~
5の何れか一項に記載の医療機器。
【請求項7】
グラフェンの表面を修飾して
、請求項1~6の何れか一項に記載の医療機器が備える前記センサの前記グラフェンバラクタを製作する方法であって、
π-πスタッキング相互作用を通して前記グラフェンバラクタのグラフェン層の外面上に自己組織化単分子層を形成するステップと、
前記自己組織化単分子層の表面被覆の程度を、液滴接触角測定法、ラマン分光法又はX線光電子分光法を使用して定量化するステップと、
少なくとも0.9のラングミュアシータ値を示す誘導体化されたグラフェン層を選択するステップとを含
み、前記自己組織化単分子層は、式:
【化2】
(式中、Mは、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、パラジウム又はそれらの誘導体を含む任意の金属原子であり、nは、1~5の任意の整数であり得、mは、1又は2であり得、R
1
~R
8
は、-H、-X(ここで、Xは、任意のハロゲン原子である)、-R
9
、-R
10
OH、-R
11
COOH、-R
12
COOR
13
、-R
14
OR
15
、-R
16
COH、-R
17
COR
18
、-R
19
NH
3
+
、-R
20
NH
2
、-R
21
NR
22
、-R
23
NR
24
R
25+
、-R
26
X若しくは-R
27
COX(ここで、Xは、任意のハロゲン原子である)、-R
28
SH又はそれらの任意の組合せを含み、及びR
9
~R
28
は、任意の直鎖若しくは分岐C
1
~C
12
アルキル、C
1
~C
12
アルケニル、C
1
~C
12
アルキニル又はそれらの組合せを含むか、或いは存在しないことができ、それにより、前記官能基の残りの部分は、前記塩基性芳香環構造の1つ又は複数の炭素原子に直接共有結合される)を有する少なくとも1つの金属テトラフェニルポルフィリン化合物を含む、方法。
【請求項8】
誘導体化されたグラフェン層を選択するステップは、少なくとも0.98のラングミュアシータ値を示す誘導体化されたグラフェン層を選択するステップを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
分析物を検出する方法であって、
患者からガス状サンプルを採取するステップと、
グラフェンバラクタを前記ガス状サンプルに接触させるステップであって、前記グラフェンバラクタは請求項1~
6の何れか一項によるものである、ステップとを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年2月20日に、すべての国を指定国とする出願人であるミネソタ大学評議員、すべての国を指定国とする発明者である中国市民シュウ・V・ツェン(Xue V. Zhen)、米国市民フィリップ・ピエール・ヨゼフ・バルマン(Philippe Pierre Joseph Buhlmann)、米国市民スティーブン・J.コスター(Steven J. Koster)、中国市民ヤオ・ジャン(Yao Zhang)の名義によるPCT国際特許出願として出願されている。本願は、すべての国を指定国とする出願人である米国法人ボストン・サイエンティフィック・サイメド社(Boston Sientific Scimed,Inc.)、すべての国を指定国とする発明者である米国市民ジャスティン・セオドア・ネルソン(Justin Theodore Nelson)の名義によるPCT国際特許出願としても出願されている。本願は、2018年2月20日に出願された米国仮特許出願第62/632,536号明細書に対する優先権を主張するものであり、この仮特許出願の内容は、その全体が参照によって本明細書に援用される。
【0002】
分野
本明細書中の実施形態は、ケミカルセンサ、それを含む機器及びシステム並びに関連する方法に関する。より具体的には、本明細書中の実施形態は、グラフェンの非共有結合表面修飾に基づくケミカルセンサに関する。
【背景技術】
【0003】
疾患の正確な検出により、臨床医は、適切な治療的介入を提供することができる。疾患の早期検出は、よりよい治療成績につながる可能性がある。疾患は、組織サンプルの分析、各種体液の分析、診断スキャン、遺伝子配列解析等をはじめとする多くの異なる技術を用いて検出することができる。
【0004】
病態の中には、特定の化学物質の産生の基因となるものがある。ある場合には、患者のガス状サンプル中に放出された揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compound)は、特定の疾患の特徴となり得る。これらの化合物の検出又はその分別検出は、特定の病態の早期検出を可能にすることができる。
【発明の概要】
【0005】
第一の態様において、医療機器が含まれる。医療機器は、グラフェンバラクタを含むことができる。グラフェンバラクタは、グラフェン層と、π-πスタッキング相互作用を通してグラフェン層の外面上に設置された自己組織化単分子層とを含むことができる。自己組織化単分子層は、少なくとも0.9のラングミュアシータ値を提供することができる。
【0006】
第二の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、3~10個の芳香環を有する1つ又は複数の多環芳香族炭化水素を含むことができる。
【0007】
第三の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、多環芳香族炭化水素は、アントラセン、ベンゾアントラセン、フェナントレン、フェナレン、ナフタセン、ベンズアントラセン、クリセン、ペンタセン、ジベンズアントラセン、トリフェニレン、ピレン、ベンゾピレン、ピセン、ペリレン、ベンゾペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、アンタントレン、コロネン、オバレン又はそれらの誘導体の1つ又は複数を含むことができる。
【0008】
第四の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、多環芳香族炭化水素は、1つ又は複数のヒドロキシル、カルボキシル、エステル、アンモニウム、アミノ、ジエチルアミノ又はボロン酸官能基を含むことができる。
【0009】
第五の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、過ベンジル化α-シクロデキストリン、過ベンジル化β-シクロデキストリン若しくは過ベンジル化γ-シクロデキストリン又はそれらの誘導体の1つ又は複数を含むことができる。
【0010】
第六の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、1つ若しくは複数のテトラフェニルポルフィリン又はその誘導体を含むことができる。
【0011】
第七の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、1つ若しくは複数の金属テトラフェニルポルフィリン又はその誘導体を含むことができる。
【0012】
第八の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、医療機器は、アレイ状に構成された複数のグラフェンバラクタを含むことができる。
【0013】
第九の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、複数のグラフェンバラクタは、ガス状サンプル中の同じ分析物を検出するように構成され得る。
【0014】
第十の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、複数のグラフェンバラクタは、ガス状サンプル中の異なる分析物を検出するように構成され得る。
【0015】
第十一の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、少なくとも0.95のラングミュアシータ値を提供することができる。
【0016】
第十二の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、少なくとも0.98のラングミュアシータ値を提供することができる。
【0017】
第十三の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、同種であり得る。
第十四の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、異種であり得る。
【0018】
第十五の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、医療機器は、内視鏡、気管支鏡又は気管鏡を含むことができる。
第十六の態様において、グラフェン表面を修飾してグラフェンバラクタを製作する方法が含まれる。方法は、π-πスタッキング相互作用を通してグラフェンバラクタのグラフェン層の外面上に自己組織化単分子層を形成するステップを含むことができる。方法は、自己組織化単分子層の表面被覆の程度を、液滴接触角測定法、ラマン分光法又はX線光電子分光法を使用して定量化するステップを含むことができる。方法は、少なくとも0.9のラングミュアシータ値を示す誘導体化されたグラフェン層を選択するステップを含むことができる。
【0019】
第十七の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、誘導体化されたグラフェン層を選択するステップは、少なくとも0.95のラングミュアシータ値を示す誘導体化されたグラフェン層を選択するステップを含むことができる。
【0020】
第十八の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、誘導体化されたグラフェン層を選択するステップは少なくとも0.98のラングミュアシータ値を示す誘導体化されたグラフェン層を選択するステップを含むことができる。
【0021】
第十九の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、3~10個の芳香環を有する1つ又は複数の多環芳香族炭化水素を含むことができる。
【0022】
第二十の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、多環芳香族炭化水素は、アントラセン、ベンゾアントラセン、フェナントレン、フェナレン、ナフタセン、ベンズアントラセン、クリセン、ペンタセン、ジベンズアントラセン、トリフェニレン、ピレン、ベンゾピレン、ピセン、ペリレン、ベンゾペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、アンタントレン、コロネン、オバレン又はそれらの誘導体の1つ又は複数を含むことができる。
【0023】
第二十一の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、多環芳香族炭化水素は、1つ又は複数のヒドロキシル、カルボキシル、エステル、アンモニウム、アミノ、ジエチルアミノ又はボロン酸官能基を含むことができる。
【0024】
第二十二の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、過ベンジル化α-シクロデキストリン、過ベンジル化β-シクロデキストリン若しくは過ベンジル化γ-シクロデキストリン又はそれらの誘導体の1つ又は複数を含むことができる。
【0025】
第二十三の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、1つ若しくは複数のテトラフェニルポルフィリン又はその誘導体を含むことができる。
【0026】
第二十四の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、自己組織化単分子層は、1つ若しくは複数の金属テトラフェニルポルフィリン又はその誘導体を含むことができる。
【0027】
第二十五の態様において、分析物を検出する方法が含まれる。方法は、患者からガス状サンプルを採取するステップと、ガス状サンプルを1つ又は複数のグラフェンバラクタと接触させるステップとを含むことができる。各グラフェンバラクタは、グラフェン層と、π-πスタッキング相互作用を通してグラフェン層の外面上に設置された自己組織化単分子層とを含むことができる。自己組織化単分子層は、少なくとも0.9のラングミュアシータ値を提供することができる。
【0028】
第二十六の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、方法は、ガス状サンプル中に存在する1つ又は複数の分析物の結合による1つ又は複数のグラフェンバラクタのキャパシタンスにおける異なる反応を測定するステップをさらに含むことができる。
【0029】
第二十七の態様において、医療機器が含まれる。医療機器は、ケミカルセンサ素子を含むことができる。ケミカルセンサ素子は、第一の測定ゾーンを含むことができ、第一の測定ゾーンは、グラフェン層と、π-πスタッキング相互作用を通してグラフェン層の外面上に設置された自己組織化単分子層とを含むグラフェンバラクタを含むことができる。自己組織化単分子層は、グラフェン層の表面の少なくとも90%を被覆することができる。
【0030】
第二十八の態様において、上述又は後述の態様の1つ又は複数に加えて又は幾つかの態様の代替として、ケミカルセンサ素子は、第二の測定ゾーンを含むことができる。
この概要は、本願の教示の一部の概要であり、本主題のすべてのあらゆる取り扱いを網羅することを意図されない。他の詳細は、詳細な説明及び付属の特許請求の範囲に記載されている。以下の詳細な説明を読んで理解し、本明細書の一部を形成し、各々が限定的意味に解釈されてはならない図面を参照することで他の態様も当業者に明らかであろう。本明細書の範囲は、付属の特許請求の範囲及びそれらの法的均等物により定義される。
【0031】
態様は、以下の図面に関連してよりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本明細書の各種の実施形態によるグラフェンバラクタの概略斜視図である。
【
図2】本明細書の各種の実施形態によるグラフェンバラクタの一部の概略断面図である。
【
図3】本明細書の各種の実施形態によるケミカルセンサ素子の概略上面図である。
【
図4】本明細書の各種の実施形態による測定ゾーンの一部の概略図である。
【
図5】本明細書の各種の実施形態によるパッシブセンサ回路及び読取り回路の一部の回路図である。
【
図6】本明細書の各種の実施形態によるガス状分析物を検出するシステムの概略図である。
【
図7】本明細書の各種の実施形態によるガス状分析物を検出するシステムの概略図である。
【
図8】本明細書の各種の実施形態によるケミカルセンサ素子の一部の概略断面図である。
【
図9】本明細書の各種の実施形態による、濃度に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図10】本明細書の各種の実施形態による、
図9に示される濃度の対数に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図11】本明細書の各種の実施形態による代表的な高解像度XPSスペクトル及びフィットである。
【
図12】本明細書の各種の実施形態による代表的な高解像度XPSスペクトル及びフィットである。
【
図13】本明細書の各種の実施形態による代表的な高解像度XPSスペクトル及びフィットである。
【
図14】本明細書の各種の実施形態による代表的な高解像度XPSスペクトル及びフィットである。
【
図15】本明細書の各種の実施形態による、濃度に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図16】本明細書の各種の実施形態による、
図15に示される濃度の対数に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図17】本明細書の各種の実施形態によるピレン誘導体の合成のための反応経路である。
【
図18】本明細書の各種の実施形態によるピレン誘導体の合成のための反応経路である。
【
図19】本明細書の各種の実施形態によるシクロデキストリン誘導体の合成のための反応経路である。
【
図20】本明細書の各種の実施形態による、濃度に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図21】本明細書の各種の実施形態による、
図20に示される濃度の対数に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図22】本明細書の各種の実施形態による、濃度に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図23】本明細書の各種の実施形態による、
図22に示される濃度の対数に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図24】本明細書の各種の実施形態による、濃度に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図25】本明細書の各種の実施形態による、
図24に示される濃度の対数に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図26】本明細書の各種の実施形態による、濃度に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図27】本明細書の各種の実施形態による、
図26に示される濃度の対数に応じた相対的表面被覆率の代表的グラフである。
【
図28】本明細書の各種の実施形態によるラマンスペクトルの代表的グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施形態は、様々な改良形態及び代替的形態をとることができるが、その詳細は、例及び図面によって示されており、以下に詳細に説明される。しかしながら、本明細書の範囲は、説明されている特定の実施形態に限定されないことが理解されるべきである。反対に、本明細書の趣旨及び範囲に含まれる改良形態、均等物及び代替形態も包含されるものとする。
【0034】
本明細書の実施形態は、ケミカルセンサ、それを含む医療機器及びシステム並びに例えば、限定されないが、患者の息等のガス状サンプル中の化合物を検出する関連する方法に関する。幾つかの実施形態において、本明細書のケミカルセンサは、グラフェンの非共有結合表面修飾に基づくものであり得る。
【0035】
グラフェンは、六方格子構造の炭素原子の単一層を含む炭素の形態である。グラフェンは、高い強度と安定性を有し、これは、その緊密に結合したsp2混成軌道によるものであり、各炭素原子は、それに隣接する3つの炭素原子とそれぞれ1つのシグマ(σ)結合を形成し、1つのp軌道が六角形の面から突出する。六方格子のp軌道は、他のπ電子豊富分子との非共有結合π-πスタッキング相互作用に適したπバンドを形成するためにハイブリダイズされ得る。
【0036】
自己組織化単分子層とのグラフェンの非共有結合官能基化は、グラフェンの原子構造に有意な影響を与えず、多数の揮発性有機化合物(VOC)に対するパーツパービリオン(ppb:parts-per-billion)又はパーツパーミリオン(ppm:parts-per-million)レベルの高い感度を有する安定なグラフェンベースセンサを提供する。そのため、本明細書の実施形態は、VOC及び/又はその異なる結合パターンを検出するために使用され得、それらは、したがって、病態の識別に使用され得る。
【0037】
ここで、
図1を参照すると、本明細書の実施形態によるグラフェンベースのバリアブルキャパシタ(すなわちグラフェンバラクタ)100の概略図が示されている。グラフェンバラクタは、様々な方法により様々な形状で製作でき、
図1に示されるグラフェンバラクタは、本明細書の実施形態による一例にすぎないことを理解されたい。
【0038】
グラフェンバラクタ100は、絶縁層102と、ゲート電極104(又は「ゲートコンタクト」)と、誘電層(
図1では図示せず)と、1つ又は複数のグラフェン層、例えばグラフェン層108a及び108bと、コンタクト電極110(又は「グラフェンコンタクト」)とを含むことができる。幾つかの実施形態において、グラフェン層(108a~b)は、連続的であり得るが、他の実施形態では、グラフェン層108a~bは、不連続であり得る。ゲート電極104は、絶縁層102内に形成された1つ又は複数の窪み内に堆積させることができる。絶縁層102は、二酸化シリコン等の絶縁材料で形成でき、シリコン基板(ウェハ)上などに形成できる。ゲート電極104は、クロミウム、銅、金、銀、タングステン、アルミニウム、チタン、パラジウム、プラチナ、イリジウム及びそれらの任意の組合せ又は合金等の導電性材料により形成でき、これらは、絶縁層102の上に堆積させるか又はその中に埋め込むことができる。誘電層は、絶縁層102の表面及びゲート電極104の上に設置できる。グラフェン層108a~bは、誘電層の上に設置できる。誘電層については、
図2を参照して以下でさらに詳細に説明する。
【0039】
グラフェンバラクタ100は、8つのゲート電極フィンガ106a~106hを含む。グラフェンバラクタ100は、8つのゲート電極フィンガ106a~106hを示しているが、何れの数のゲート電極フィンガ構成も想定できることを理解されたい。幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタは、7つ以下のゲート電極フィンガを含むことができる。幾つかの実施形態において、個々のグラフェンバラクタは、9つ以上のゲート電極フィンガを含むことができる。他の実施形態では、個々のグラフェンバラクタは、2つのゲート電極フィンガを含むことができる。幾つかの実施形態において、個々のグラフェンバラクタは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれより多いゲート電極フィンガを含むことができる。
【0040】
グラフェンバラクタ100は、グラフェン層の各部分108a及び108b上に設置された1つ又は複数のコンタクト電極110を含むことができる。コンタクト電極110は、クロミウム、銅、金、銀、タングステン、アルミニウム、チタン、パラジウム、プラチナ、イリジウム及びそれらの任意の組合せ又は合金等の導電性材料から形成できる。例示的なグラフェンバラクタの他の態様は、米国特許第9,513,244号明細書に見出すことができ、その内容は、その全体が参照によって本明細書に援用される。
【0041】
本明細書に記載のグラフェンバラクタは、1つのグラフェン層がグラフェンとπ電子豊富分子、例えばピレン、ピレン誘導体及びアリル基等の他の化合物との間の非共有結合π-πスタッキング相互作用を通して表面修飾されているものを含むことができる。幾つかの実施形態において、1つのグラフェン層の表面は、グラフェンと複数のシクロデキストリン及びその誘導体の何れか1つとの間の非共有結合π-πスタッキング相互作用を通して表面修飾できる。幾つかの実施形態において、1つのグラフェン層の表面は、グラフェンと複数のテトラフェニルポルフィリン及びその誘導体の何れか1つとの間の非共有結合π-πスタッキング相互作用を通して表面修飾できる。本明細書での使用に適したグラフェンバラクタ及びπ電子豊富分子に関する詳細は、後により詳細に説明する。
【0042】
次に、
図2を参照すると、本明細書の各種の実施形態によるグラフェンバラクタ200の一部の概略断面図が示されている。グラフェンバラクタ200は、絶縁層102と、絶縁層102内に引っ込んでいるゲート電極104とを含むことができる。ゲート電極104は、
図1に関して上述したように、導電性材料を絶縁層102内の窪み内に堆積させることによって形成できる。誘電層202は、絶縁層102の表面及びゲート電極104の上に形成できる。幾つかの例では、誘電層202は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ハフニウム、二酸化ジルコニウム、ケイ酸ハフニウム又はケイ酸ジルコニウム等の材料で形成できる。
【0043】
グラフェンバラクタ200は、誘電層202の表面上に設置され得る1つのグラフェン層204を含むことができる。グラフェン層204は、自己組織化単分子層206で表面修飾できる。自己組織化単分子層206は、非共有結合π-πスタッキング相互作用を通してグラフェン層204の外面上に設置されるπ電子豊富分子の同種集団で形成できる。例示的なπ電子豊富分子については、後により詳細に説明する。自己組織化単分子層206は、グラフェン層204の少なくとも90%の表面被覆率(面積による)を提供することができる。幾つかの実施形態において、自己組織化単分子層206は、グラフェン層204の少なくとも95%の表面被覆率を提供することができる。他の実施形態では、自己組織化単分子層206は、グラフェン層204の少なくとも98%の表面被覆率を提供することができる。
【0044】
幾つかの実施形態において、自己組織化単分子層は、グラフェン層の少なくとも50%、60%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の表面被覆率(面積による)を提供することができる。自己組織化単分子層は、ある範囲に含まれる表面被覆率を提供し得ることを理解されたく、上記のパーセンテージの何れかがその範囲の下限又は上限であり得るが、ただし、その範囲の下限は、その範囲の上限より小さい値であることを条件とする。
【0045】
幾つかの実施形態において、グラフェン層の表面上のπ電子豊富分子の自己組織化は、多分子層のように複数の層内への自己組織化を含み得ることを理解されたい。多分子層は、走査型トンネル顕微鏡検査法(STM:scanning tunneling microscopy)及び他の走査型プローブ顕微鏡検査法等の技術により検出し、定量化できる。本明細書において、100%を超える被覆率パーセンテージの記載は、表面積の一部が複数の層で被覆される、例えば使用される化合物の2つ、3又は恐らくそれより多い層で被覆される状況を指すものとする。したがって、本明細書における105%の被覆率という記載は、表面積の約5%がグラフェンの複数の層による被覆を含むことを示すものとする。幾つかの実施形態において、グラフェン表面は、101%、102%、103%、104%、105%、110%、120%、130%、140%、150%又は175%のグラフェン層の表面被覆率を含むことができる。グラフェン層の多分子層表面被覆率は、表面被覆率のある範囲内であり得ることを理解されたく、上記のパーセンテージの何れもその範囲の下限又は上限であり得るが、ただし、その範囲の下限は、その範囲の上限より小さい値であることを条件とする。例えば、被覆率の範囲は、表面積で50%~150%、表面積で80%~120%、表面積で90%~110%又は99%~120%を含むことができ、これらに限定されない。
【0046】
幾つかの実施形態において、本明細書での使用に適した自己組織化単分子層は、少なくともある最小閾値のラングミュアシータ値により定量化される単分子層でのグラフェン表面の被覆率を提供することができるが、単分子層より厚い多分子層でグラフェンの表面の大部分が被覆されることを回避できる。ラングミュア吸着理論を用いた特定の自己組織化単分子層のラングミュアシータ値及びその測定に関する詳細は、後により詳細に説明する。幾つかの実施形態において、本明細書での使用に適した自己組織化単分子層は、少なくとも0.95のラングミュアシータ値を提供する。幾つかの実施形態において、本明細書での使用に適した自己組織化単分子層は、少なくとも0.98のラングミュアシータ値を提供する。幾つかの実施形態において、自己組織化単分子層は、少なくとも0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99又は1.0のラングミュアシータ値を提供することができる。自己組織化単分子層は、ある範囲内のラングミュアシータ値を提供し得ることを理解されたく、上記のラングミュアシータ値の何れもその範囲の下限又は上限であり得るが、ただし、その範囲の下限は、その範囲の上限より小さい値であることを条件とする。
【0047】
次に、
図3を参照すると、本明細書の各種の実施形態によるケミカルセンサ素子300の概略上面図が示されている。ケミカルセンサ素子300は、基板302を含むことができる。基板は、多くの異なる材料から形成できることを理解されたい。例えば、基板は、シリコン、ガラス、水晶、サファイア、ポリマー、金属、ガラス、セラミック、セルロース材料、合成材料及び金属酸化物等から形成できる。基板の厚さは、様々であり得る。幾つかの実施形態において、基板は、その上のコンポーネントに損傷を与えかねない過度な屈曲を生じさせずに扱うのに十分な構造的完全性を有する。幾つかの実施形態において、基板は、約0.05mm~約5mmの厚さを有することができる。基板の長さ及び幅も様々であり得る。幾つかの実施形態において、長さ(又は主軸)は、約0.2cm~約10cmであり得る。幾つかの実施形態において、長さ(又は主軸)は、約20μm~約1cmであり得る。幾つかの実施形態において、幅(主軸に垂直)は、約0.2cm~約8cmであり得る。幾つかの実施形態において、幅(主軸に垂直)は、約20μm~約0.8cmであり得る。幾つかの実施形態において、グラフェンベースのケミカルセンサは、使い捨てであり得る。
【0048】
第一の測定ゾーン304は、基板302の上に設置できる。幾つかの実施形態において、第一の測定ゾーン304は、第一のガス流路の一部を画定できる。第一の測定ゾーン(又はガスサンプルゾーン)304は、複数の個別のグラフェンベースバリアブルキャパシタ(すなわちグラフェンバラクタ)を含むことができ、これらは、息サンプル等のガス状サンプル中の分析物を検出できる。第二の測定ゾーン(又は環境サンプルゾーン)306は、第一の測定ゾーン304とは別であり、同じく基板302上に設置できる。第二の測定ゾーン306も複数の個別のグラフェンバラクタを含むことができる。幾つかの実施形態において、第二の測定ゾーン306は、第一の測定ゾーン304内にあるものと(種類及び/又は数において)同じ個別のグラフェンバラクタを含むことができる。幾つかの実施形態において、第二の測定ゾーン306は、第一の測定ゾーン304内にある個別のグラフェンバラクタの一部のみを含むことができる。動作中、分析されたガス状サンプルの反射率であり得る、第一の測定ゾーンからの収集データは、環境中に存在する分析物の反射率であり得る、第二の測定ゾーンからの収集データに基づいて補正又は正規化できる。
【0049】
幾つかの実施形態において、第三の測定ゾーン(ドリフト制御又はウィットネスゾーン)308も基板上に設置できる。第三の測定ゾーン308は、複数の個別のグラフェンバラクタを含むことができる。幾つかの実施形態において、第三の測定ゾーン308は、第一の測定ゾーン304内にあるものと(種類及び/又は数において)同じ個別のグラフェンバラクタを含むことができる。幾つかの実施形態において、第三の測定ゾーン308は、第一の測定ゾーン304内にある個別のグラフェンバラクタの一部のみを含むことができる。幾つかの実施形態において、第三の測定ゾーン308は、第一の測定ゾーン304及び第二の測定ゾーン306のものと異なる個別のグラフェンバラクタを含むことができる。第三の測定ゾーンの態様については、後により詳細に説明する。
【0050】
第一の測定ゾーン、第二の測定ゾーン及び第三の測定ゾーンは、同じ大きさであるか又は異なる大きさであり得る。ケミカルセンサ素子300は、参照データを記憶するコンポーネント310も含むことができる。参照データを記憶するコンポーネント310は、電子データ記憶装置、光データ記憶装置又は印刷データ記憶装置(印刷コード等)などであり得る。参照データは、第三の測定ゾーンに関するデータを含むことができるが、これに限定されない(後により詳細に説明する)。
【0051】
幾つかの実施形態において、本明細書において具現化されるケミカルセンサ素子は、電気コンタクト(図示せず)を含むことができ、これは、ケミカルセンサ素子300上のコンポーネントに電力を供給するために使用でき、且つ/又は測定ゾーンに関するデータ及び/若しくはコンポーネント310に記憶されたものからのデータを読み出すために使用できる。しかしながら、他の実施形態では、ケミカルセンサ素子300上に外部電気コンタクトはない。
【0052】
本明細書において具現化されるケミカルセンサ素子は、パッシブワイヤレス検出と両立するものを含むことができる。パッシブセンサ回路502及び読取り回路522の一部の概略図が
図5に示されており、後により詳細に説明される。パッシブワイヤレス検出構成では、グラフェンバラクタは、インダクタと、グラフェンバラクタの1つの端子がインダクタの一方の端と接触し、グラフェンバラクタの第二の端子がインダクタの第二の端子と接触するように統合できる。幾つかの実施形態において、インダクタは、グラフェンバラクタと同じ基板上に配置できるが、他の実施形態では、インダクタは、オフチップ位置に配置できる。
【0053】
次に、
図4を参照すると、本明細書の各種の実施形態による測定ゾーン400の一部の概略図が示されている。複数の個別のグラフェンバラクタ402は、測定ゾーン400内にアレイ状に設置できる。幾つかの実施形態において、ケミカルセンサ素子は、ある測定ゾーン中にアレイ状に構成される複数のグラフェンバラクタを含むことができる。幾つかの実施形態において、複数のグラフェンバラクタは、同じであり得るが、他の実施形態では、複数のグラフェンバラクタは、相互に異なり得る。
【0054】
幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタは、これらのすべてがその結合挙動又は特定の分析物に関する特異度において相互に異なる点で異種であり得る。幾つかの実施形態において、幾つかの個別のグラフェンバラクタは、バリデーションの目的のために同じであり得るが、それ以外には他の個別のグラフェンバラクタと異種であり得る。また別の実施形態において、個別のグラフェンバラクタは、同種であり得る。
図4の個別のグラフェンバラクタ402は、格子状に組織化された四角として示されているが、個別のグラフェンバラクタは、多様な形状(各種の多角形、円、楕円及び不規則形状等を含むが、これらに限定されない)をとることができ、したがって個別のグラフェンバラクタの集合を多様なパターン(星形パターン、ジグザグパターン、放射状パターン及び記号パターン等を含むが、これらに限定されない)に配置できることを理解されたい。
【0055】
幾つかの実施形態において、測定ゾーンの長さ412及び幅414にわたる特定の個別のグラフェンバラクタ402の順序は、実質的にランダムであり得る。他の実施形態では、この順序は、特定のものであり得る。例えば、幾つかの実施形態において、測定ゾーンは、分子量がより低い分析物のための特定の個別のグラフェンバラクタ402が、流入するガス流により近い位置に配置される、より高い分子量を有する分析物のための特定の個別のグラフェンバラクタ402に関して、流入するガス流からより遠くに配置されるような順序であり得る。そのため、異なる分子量の化合物間を分離させる役割を果たし得るクロマトグラフィ効果を利用して、化合物を対応する個別のグラフェンバラクタと最適に結合させることができる。
【0056】
特定の測定ゾーン内の個別のグラフェンバラクタの数は、約1~約100,000であり得る。幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタの数は、約1~約10,000であり得る。幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタの数は、約1~約1,000であり得る。幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタの数は、約2~約500であり得る。幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタの数は、約10~約500であり得る。幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタの数は、約50~約500であり得る。幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタの数は、約1~約250であり得る。幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタの数は、約1~約50であり得る。
【0057】
本明細書での使用に適した個別のグラフェンバラクタの各々は、1つ又は複数の電気回路の少なくとも一部を含むことができる。例えば、幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタの各々は、1つ又は複数のパッシブ電気回路を含むことができる。幾つかの実施形態において、グラフェンバラクタは、これらが電気回路上に直接集積されるように含めることができる。幾つかの実施形態において、グラフェンバラクタは、これらが回路にウェハボンディングにより固定されるように含めることができる。幾つかの実施形態において、グラフェンバラクタは、集積された読取り電子回路、例えば読取り集積回路(ROIC:readout integrated circuit)を含むことができる。抵抗又はキャパシタンスを含む電気回路の電気特性は、ガスサンプルからの成分との結合時、例えば特異的結合及び/又は非特異的結合時に変化する可能性がある。
【0058】
次に、
図5を参照すると、本明細書の各種の態様によるパッシブセンサ回路502及び読取り回路522の一部の概略図が示されている。パッシブセンサ回路502は、インダクタ510に接続された金属-酸化物-グラフェンバラクタ504(ここで、RSは、直列抵抗を表し、CGは、バラクタキャパシタを表す)を含むことができる。グラフェンバラクタは、各種の方法により各種の形状で製作できる。例えば、幾つかの態様において、ゲート電極は、
図1のゲート電極104に示されるように、絶縁層内に引っ込めることができる。ゲート電極は、絶縁層に窪みをエッチングし、その後、窪み内に導電材料を堆積させてゲート電極を形成することによって形成できる。誘電層は、絶縁層の表面及びゲート電極上に形成できる。幾つかの例において、誘電層は、酸化アルミニウム、二酸化ハフニウム、二酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素等の金属酸化物から又はケイ酸ハフニウム若しくはケイ酸ジルコニウム等の他の材料から形成できる。表面修飾グラフェン層は、誘電層の上に設置できる。コンタクト電極は、表面修飾グラフェン層の表面上に設置することもでき、これは、
図1においてコンタクト電極110としても示されている。
【0059】
例示的なグラフェンバラクタの他の態様は、米国特許第9,513,244号明細書に記載されており、その内容は、その全体が参照によって本明細書に援用される。
各種の実施形態において、グラフェンバラクタの一部であり、したがってパッシブセンサ回路等のセンサ回路の一部である機能性グラフェン層(例えば、分析物と結合するレセプタを含むように機能化される)は、測定ゾーンの表面にわたって流れるガスサンプルに暴露される。パッシブセンサ回路502は、インダクタ510も含むことができる。幾つかの実施形態において、各パッシブセンサ回路502と共に1つのバラクタのみが含められる。他の実施形態では、各パッシブセンサ回路502と共に複数のバラクタが例えば並列に含められる。
【0060】
パッシブセンサ回路502内において、電気回路のキャパシタンスは、ガスサンプル中の分析物及びグラフェンバラクタが結合すると変化する。パッシブセンサ回路502は、LRC共振器回路として機能することができ、LRC共振器回路の共振周波数は、ガスサンプルからの成分と結合すると変化する。
【0061】
読取り回路522は、パッシブセンサ回路502の電気特性を検出するために使用できる。例えば、読取り回路522は、LRC共振器回路の共振周波数及び/又はその変化を検出するために使用できる。幾つかの実施形態において、読取り回路522は、抵抗524及びインダクタンス526を有する読取りコイルを含むことができる。センサ側LRC回路がその共振周波数にあるとき、周波数に対する読取り回路のインピーダンスの位相のグラフは、最小(すなわち位相ディップ周波数)を有する。検出は、バラクタのキャパシタンスが、共振周波数を変化させる分析物の結合及び/又は位相ディップ周波数の値に応答して変化するときに行われ得る。
【0062】
次に、
図6を参照すると、本明細書の各種の実施形態によるガス状分析物を検出するシステム600の概略図が示されている。システム600は、筐体618を含むことができる。システム600は、マウスピース602を含むことができ、その中に対象が息サンプルを吹き込むことができる。ガス状息サンプルは、流入コンジット604を通過し、評価サンプル(患者サンプル)注入ポート606を通過することができる。システム600は、比較サンプル(環境)注入ポート608も含むことができる。システム600は、センサ素子チャンバ610も含むことができ、その中に使い捨てセンサ素子をセットできる。システム600は、表示スクリーン614及びキーボード等のユーザ入力装置616も含むことができる。システムは、ガス排出ポート612も含むことができる。システム600は、評価サンプル注入ポート606及び比較サンプル注入ポート608の1つ又は複数に関連付けられるガス流と流体連通するフローセンサも含むことができる。多くの異なる種類のフローセンサを使用できることを理解されたい。幾つかの実施形態において、熱線風速計が空気の流れを測定するために使用できる。幾つかの実施形態において、システムは、評価サンプル注入ポート606及び比較サンプル注入ポート608の1つ又は複数に関連付けられるガス流と流体連通するCO
2センサを含むことができる。
【0063】
各種の実施形態において、システム600は、他の機能的コンポーネントも含むことができる。例えば、システム600は、湿度制御モジュール640及び/又は温度制御モジュール642を含むことができる。湿度制御モジュールは、評価サンプル注入ポート606及び比較サンプル注入ポート608の1つ又は複数に関連付けられるガス流と流体連通して、ガス流ストリームの一方又は両方の湿度を調整することによって2つのストリームの相対湿度を実質的に同じにし、システムにより得られる読取り値に対する不利な影響を防止することができる。温度制御モジュールは、評価サンプル注入ポート606及び比較サンプル注入ポート608の1つ又は複数に関連付けられるガス流と流体連通して、一方又は両方のガス流ストリームの温度を調整することによって2つのストリームの温度を実質的に同じにし、システムにより得られる読取り値に対する不利な影響を防止することができる。例えば、比較サンプル注入ポート内に流れる空気は、摂氏37度以上にして、患者からの空気の温度と一致するか又はそれを超えるようにすることができる。湿度制御モジュール及び温度制御モジュールは、注入ポートの上流、注入ポート内又は注入ポートの下流のシステム600の筐体618内であり得る。幾つかの実施形態において、湿度制御モジュール640及び温度制御モジュール642は、一体であり得る。
【0064】
幾つかの実施形態(図示せず)において、システム600の比較サンプル注入ポート608は、マウスピース602にも接続できる。幾つかの実施形態において、マウスピース602は、患者が息を吸い込むときに空気が比較サンプル注入ポート608からマウスピースに流れるように切替空気流バルブを含むことができ、システムは、周囲の空気が適当な比較測定ゾーン(例えば、第二の測定ゾーン)全体に流れるように構成される。したがって、患者が息を吐くと、切替空気流バルブが切り替わり、患者からの息サンプルがマウスピース602から流入コンジット604を通して評価サンプル注入ポート606及び使い捨てセンサ素子上の適当なサンプル(患者サンプル)測定ゾーン(例えば、第一の測定ゾーン)全体に流れる。
【0065】
ある実施形態において、ケミカルセンサ素子を製造する方法が含まれる。方法は、1つ又は複数の測定ゾーンを基板上に堆積させるステップを含むことができる。方法は、複数の個別のグラフェンバラクタを基板上の測定ゾーン内に堆積させるステップをさらに含むことができる。方法は、π-πスタッキング相互作用を通してグラフェン層の外面上に自己組織化単分子層を形成するためにグラフェン層の表面をπ電子豊富分子で修飾することにより、1つ又は複数の個別のグラフェンバラクタを生成するステップを含むことができる。方法は、自己組織化単分子層の表面被覆の程度を、液滴接触角測定法、ラマン分光法又はX線光電子分光法を使用して定量化するステップを含むことができる。方法は、少なくとも0.9のラングミュアシータ値を示す誘導体化されたグラフェン層を選択するステップを含むことができ、これについては、後により詳細に説明する。方法は、参照データを記憶するコンポーネントを基板上に堆積させるステップをさらに含むことができる。幾つかの実施形態において、測定ゾーンは、すべて基板の同じ面に設置することができる。他の実施形態では、測定ゾーンは、基板の異なる面に設置できる。
【0066】
ある実施形態において、1つ又は複数のガスサンプルをアッセイする方法が含まれる。方法は、ケミカルセンサ素子を検出器内に挿入するステップを含むことができる。ケミカルセンサ素子は、基板及び複数の個別のグラフェンバラクタを含む第一の測定ゾーンを含むことができる。第一の測定ゾーンは、第一のガス流路の一部を画定できる。ケミカルセンサ素子は、第一の測定ゾーンとは別の第二の測定ゾーンをさらに含むことができる。第二の測定ゾーンも複数の個別のグラフェンバラクタを含むことができる。第二の測定ゾーンは、第一のガス流路の外側に設置できる。
【0067】
方法は、対象に、第一のガス流路を辿るように検出器内に空気を吹き込ませるステップをさらに含むことができる。幾つかの実施形態において、対象からの空気のCO2含有量がモニタされ、CO2含有量が平坦域にある間に使い捨てセンサ素子によるサンプリングが行われ、なぜなら、患者の肺胞から到来する空気は、揮発性有機化合物等の分析のための化合物の含有量が最も多いと考えられているからである。幾つかの実施形態において、方法は、息サンプル及び比較(又は環境)空気サンプルの質量流量全体を、フローセンサを用いてモニタするステップを含むことができる。方法は、個別のグラフェンバラクタにそれらの分析物結合状態を特定させるステップをさらに含むことができる。方法は、サンプリング完了時に使い捨てセンサ素子を廃棄するステップをさらに含むことができる。
【0068】
次に、
図7を参照すると、本明細書の各種の実施形態によるガス状分析物を検出するシステム700の概略図が示されている。この実施形態において、システムは、手持ち式である。システム700は、筐体718を含むことができる。システム700は、マウスピース702を含むことができ、その中に対象が息サンプルを吹き込むことができる。システム700は、表示スクリーン714と、キーボード等のユーザ入力装置716とを含むこともできる。システムは、ガス排出ポート712も含むことができる。システムは、
図6に関して上で説明したもののような他の各種のコンポーネントも含むことができる。
【0069】
幾つかの実施形態において、測定ゾーンの1つは、ケミカルセンサ素子内の変化(又はドリフト)を示すように構成され得、これは、使用前の保管及び取扱い中の経年化及び変化する条件への曝露(例えば、高温曝露、光曝露、分子酸素曝露、湿潤曝露等)の結果として生じ得る。幾つかの実施形態において、第三の測定ゾーンは、この目的のために構成され得る。
【0070】
次に、
図8を参照すると、本明細書の各種の実施形態によるケミカルセンサ素子800の一部の概略断面図が示されている。ケミカルセンサ素子800は、基板802と、その上に設置された、測定ゾーンの一部である個別のグラフェンバラクタ804とを含むことができる。任意選択により、幾つかの実施形態において、個別のグラフェンバラクタ804は、窒素ガス等の不活性物質806又は不活性液体若しくは固体で取り囲むことができる。このようにして、第三の測定ゾーンのための個別のグラフェンバラクタ804は、ガスサンプルと接触しないように遮蔽することができ、したがって使い捨てセンサ素子の製造時から使用時までの間に発生し得るセンサドリフトを特に制御するための比較又は参照として使用できる。幾つかの実施形態において、不活性ガス又は液体の使用の場合等において、個別の結合検出器は、バリア層808も含むことができ、これは、ポリマー材料、フォイル又は他の層であり得る。幾つかの場合、バリア層808は、使用の直前に取り除くことができる。
【0071】
ある実施形態において、1つ又は複数の分析物を検出する方法が含まれる。方法は、患者からのガス状サンプルを採取するステップを含むことができる。幾つかの実施形態において、ガス状サンプルは、呼気を含むことができる。他の実施形態において、ガス状サンプルは、患者の肺からカテーテル又は他の同様の抽出器具を介して取り出された息を含むことができる。幾つかの実施形態において、抽出器具は、内視鏡、気管支鏡又は気管鏡を含むことができる。方法は、グラフェンバラクタをガス状サンプルと接触させるステップも含むことができ、グラフェンバラクタは、グラフェン層と、π-πスタッキング相互作用を通してグラフェン層の外面上に設置された自己組織化単分子層とを含む。幾つかの実施形態において、自己組織化単分子層は、少なくとも0.9のラングミュアシータ値を提供することができる。ラングミュアシータ値については、後により詳細に説明する。幾つかの実施形態において、方法は、ガス状サンプル中に存在する1つ又は複数の分析物の結合によるグラフェンリアクタのキャパシタンスにおける異なる応答を測定するステップを含むことができ、それは、したがって、病態を識別するために使用できる。
【0072】
グラフェンバラクタ
本明細書に記載のグラフェンバラクタは、ガス状サンプル、例えば患者の息中の1つ又は複数の分析物を検出するために使用できる。本明細書で具現化されるグラフェンバラクタは、ガス状サンプル中に見られる揮発性有機化合物(VOC)に関してパーツパーミリオン(ppm)若しくはパーツパービリオン(ppb)レベルの又はそれに近い高い感度を示すことができる。グラフェンバラクタの表面へのVOCの吸着は、このような機器の抵抗、キャパシタンス又は量子キャパシタンスを変化させる可能性があり、これは、VOC及び/又は結合のパターンを検出するために使用でき、それは、したがって、がん、心臓病、感染症、多発性硬化症、アルツハイマー病及びパーキンソン病等の病態を識別するために使用できる。グラフェンバラクタは、ガス混合物中の個々の分析物並びに非常に複雑な混合物中の応答パターンを検出するために使用できる。幾つかの実施形態において、ガス状サンプル中の同じ分析物を検出するために1つ又は複数のグラフェンバラクタを含めることができる。幾つかの実施形態において、ガス状サンプル中の異なる分析物を検出するために1つ又は複数のグラフェンバラクタを含めることができる。幾つかの実施形態において、ガス状サンプル中の複数の分析物を検出するために1つ又は複数のグラフェンバラクタを含めることができる。
【0073】
例示的なグラフェンバラクタは、グラフェン層と、π-πスタッキング相互作用を通して後者と相互作用する、グラフェン層の外面上に設置された自己組織化単分子層とを含むことができ、これは、
図2に関して示し、先に説明した。本明細書での使用に適した自己組織化単分子層は、少なくとも0.9のラングミュアシータ値を提供することができる。ラングミュア吸着理論を用いた特定の自己組織化単分子層のラングミュアシータ値の特定については、後により詳細に説明する。幾つかの実施形態において、本明細書での使用に適した自己組織化単分子層は、少なくとも0.95のラングミュアシータ値を提供する。幾つかの実施形態において、本明細書での使用に適した自己組織化単分子層は、少なくとも0.98のラングミュアシータ値を提供する。
【0074】
本明細書に記載のグラフェンバラクタは、単独のグラフェン層がグラフェン層とπ電子豊富分子との間の非共有結合π-πスタッキング相互作用を通して表面修飾されているものを含むことができる。
【0075】
π電子電子豊富分子の1つの例示的クラスは、多環芳香族炭化水素を含む。本明細書に記載のグラフェンバラクタでの使用に適した多環芳香族炭化水素の例は、3~10個の芳香環を有するものを含むことができるが、これに限定されない。例えば、3~10個の芳香環を有する多環芳香族炭化水素は、アントラセン、ベンゾアントラセン、フェナントレン、フェナレン、ナフタセン、ベンズアントラセン、クリセン、ペンタセン、ジベンズアントラセン、トリフェニレン、ピレン、ベンゾピレン、ピセン、ペリレン、ベンゾペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、アンタントレン、コロネン又はオバレンを含むことができる。幾つかの実施形態において、多環芳香族炭化水素は、その誘導体をさらに含むことができ、これには、ヒドロキシル、カルボキシル、エステル、アンモニウム、アミノ、ジエチルアミノ又はホウ酸官能基の1つ又は複数を有するものが含まれる。幾つかの実施形態において、10~20個の芳香環を有する多環芳香族炭化水素も想定される。
【0076】
本明細書に記載されているように、多環芳香族炭化水素は、式:
【0077】
【化1】
(式中、X
1は、塩基性芳香環構造に直接共有結合される任意の直鎖、分岐若しくは環状C
1~C
10アルキル基、-H、-R
1OH、-R
2COOH、-R
3COOR
4、-R
5NH
3
+、-R
6NH
2、-R
7NR
8、-R
9NR
10R
11+、-R
12B(OH)
2又はそれらの任意の組合せを含むが、これらに限定されない任意の置換基であり得、nは、3~10、3~15又は3~20の任意の整数であり、及びR
1~R
12は、限定されないが、任意の直鎖、分岐若しくは環状C
1~C
10アルキル基又はそれらの組合せを含むか、或いは存在しないことができ、それにより、官能基の残りの部分は、塩基性芳香環構造の1つ又は複数の炭素原子と直接共有結合することもできる)により表すことができる。
【0078】
幾つかの実施形態において、多環芳香族炭化水素は、式:
【0079】
【化2】
(式中、X
1、X
2、X
3及びX
4は、限定されないが、塩基性芳香環構造に直接共有結合される任意の直鎖、分岐若しくは環状C
1~C
10アルキル基、-H、-R
1OH、-R
2COOH、-R
3COOR
4、-R
5NH
3
+、-R
6NH
2、-R
7NR
8、-R
9NR
10R
11+、-R
12B(OH)
2又はそれらの任意の組合せを含む任意の置換基であり得、及びR
1~R
12は、限定されないが、任意の直鎖、分岐若しくは環状C
1~C
10アルキル基又はそれらの組合せを含むか、或いは存在しないことができ、それにより、官能基の残りの部分は、塩基性芳香環構造の1つ又は複数の炭素原子に直接共有結合される)で表されるピレン及びピレン誘導体を含むことができる。幾つかの実施形態において、本明細書での使用に適したピレン(Pyr:pyrene)誘導体は、Pyr-CH
2OH、Pyr-CH
2COOH、Pyr-CH
2COOCH
3、Pyr-CH
2NH
2、Pyr-CH
2NH
2・HCl、Pyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2及びPyr-B(OH)
2を含むが、これらに限定されない。
【0080】
幾つかの実施形態において、本明細書での使用に適した官能基は、限定されないが、-R1OH、-R2COOH及び-R3COOR4又はそれらの任意の組合せを含む、少なくとも1つの酸素原子を含む極性官能基を含むことができ、ここで、R1、R2、R3及びR4は、限定されないが、任意の直鎖、分岐若しくは環状C1~C10アルキル基又はそれらの組合せを含むか、或いは存在しないことができ、それにより、官能基の残りの部分は、塩基性芳香環構造の1つ又は複数の炭素原子に直接共有結合される。幾つかの実施形態において、本明細書での使用に適した官能基は、限定されないが、-R5NH3
+、-R6NH2、-R7NR8、-R9NR10R11+、-R12B(OH)2又はそれらの任意の組合せを含む、少なくとも1つの窒素原子を含む極性官能基を含むことができ、ここで、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11及びR12は、限定されないが、任意の直鎖、分岐若しくは環状C1~C10アルキル基又はそれらの組合せを含むか、或いは存在しないことができ、それにより、官能基の残りの部分は、塩基性芳香環構造の1つ又は複数の炭素原子に直接共有結合される。他の実施形態において、官能基は、少なくとも1つの酸素原子を含む極性官能基と、少なくとも1つの窒素原子を含む極性官能基との組合せを含むことができる。
【0081】
非共有結合π-πスタッキング相互作用を通してグラフェンの表面を修飾するのに適したπ電子電子豊富分子の他のクラスは、複数の芳香族基を有する分子、例えば前述の多環基及び1つ又は複数の芳香環を有する芳香族基、例えばフェニル、ベンジル又はナフチル基及びそれらの誘導体を含む。本明細書で使用するためのこのような分子の例は、芳香族シクロデキストリン、例えばベンジル化シクロデキストリンであり、α-、β-及びγ-シクロデキストリン誘導体を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、シクロデキストリンは、過ベンジル化α-、β-及びγ-シクロデキストリンを含むことができる。幾つかの実施形態において、シクロデキストリンは、部分的にベンジル化されたα-、β-及びγ-シクロデキストリンを含むことができる。
【0082】
幾つかの実施形態において、過ベンジル化シクロデキストリン及びその誘導体は、式:
【0083】
【化3】
(式中、nは、5~10の整数又は6~8の任意の整数であり得、及びXは、限定されないが、-H、ヒドロキシル、アミノ又は任意の直鎖、分岐若しくは環状C
1~C
10アルコール、任意の直鎖、分岐若しくは環状C
1~C
10アミン、フェニル、ベンジル又はナフタル基及びそれらの誘導体の任意の組合せを含むことができるが、ただし、上記の構造中の各繰返し単位は、芳香族官能基である少なくとも1つのXを含むことを条件とする)を有するものを含むことができるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、1つ又は複数のヒドロキシル基又はアミノ基の存在は、シクロデキストリン分子とグラフェン層との間の水素結合に寄与することができる。
【0084】
非共有結合π-πスタッキング相互作用を通してグラフェンの表面を修飾するのに適したπ電子電子豊富分子の他のクラスは、テトラフェニルポルフィリン(TPP)及びその誘導体を含む。テトラフェニルポルフィリン(TPP)の構造は、以下のとおりである。
【0085】
【化4】
本明細書の各種の実施形態において、テトラフェニルポルフィリンは、様々な官能基で誘導体化することができる。そのため、幾つかの実施形態において、テトラフェニルポルフィリンは、ここで、式:
【0086】
【化5】
(式中、nは、1~5の任意の整数であり得、mは、1又は2であり得、R
1~R
8は、限定されないが、-H、-X(ここで、Xは、任意のハロゲン原子を含む)、-R
9、-R
10OH、-R
11COOH、-R
12COOR
13、-R
14OR
15、-R
16COH、-R
17COR
18、-R
19NH
3
+、-R
20NH
2、-R
21NR
22、-R
23NR
24R
25+、-R
26X若しくは-R
27COX(ここで、Xは、任意のハロゲン原子であり得る)、-R
28SH又はそれらの任意の組合せを含む任意の置換基であり得、及びR
9~R
28は、限定されないが、任意の直鎖若しくは分岐C
1~C
12アルキル基、C
1~C
12アルケネル基、C
1~C
12アルキニル基又はそれらの組合せを含むか、或いは存在しないことができ、それにより、官能基の残りの部分は、塩基性芳香環構造の1つ又は複数の炭素原子に直接共有結合される)で表すことができる。
【0087】
幾つかの実施形態において、テトラフェニルポルフィリンは、金属テトラフェニルポルフィリンである。金属テトラフェニルポルフィリンの構造は、下記のとおりである。
【0088】
【化6】
本明細書の各種の実施形態において、金属テトラフェニルポルフィリンは、様々な官能基で誘導体化することができる。そのため、幾つかの実施形態において、金属テトラフェニルポルフィリンは、式:
【0089】
【化7】
(式中、Mは、限定されないが、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ルテニウム、パラジウム又はそれらの誘導体を含む任意の金属原子であり、nは、1~5の任意の整数であり得、mは、1又は2であり得、R
1~R
8は、限定されないが、-H、-X(ここで、Xは、任意のハロゲン原子を含む)、-R
9、-R
10OH、-R
11COOH、-R
12COOR
13、-R
14OR
15、-R
16COH、-R
17COR
18、-R
19NH
3
+、-R
20NH
2、-R
21NR
22、-R
23NR
24R
25+、-R
26X若しくは-R
27COX(ここで、Xは、任意のハロゲン原子であり得る)、-R
28SH又はそれらの任意の組合せを含む任意の置換基であり得、及びR
9~R
28は、限定されないが、任意の直鎖若しくは分岐C
1~C
12アルキル基、C
1~C
12アルケネル基、C
1~C
12アルキニル基又はそれらの組合せを含むか、或いは存在しないことができ、それにより、官能基の残りの部分は、塩基性芳香環構造の1つ又は複数の炭素原子に直接共有結合される)で表すことができる。
【0090】
自己組織化単分子層は、同種であるもの及び異種であるもの(例えば、これらは、複数の種類の化合物の層を含むことができる)を含むことができる。幾つかの実施形態において、自己組織化単分子層は、単官能基であり得、他の実施形態では、自己組織化単分子層は、二官能基、三官能基等であり得る。幾つかの実施形態において、自己組織化単分子層は、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%又は50%(又はこれらの量の何れかの間の範囲内に含まれる量)の第二化合物を含むことができ、これらは、本明細書に記載の化合物の任意のものであり得るが、グラフェン層の被覆率の実質的割合を占める第一化合物と異なる。
【0091】
幾つかの実施形態において、グラフェン層は、基板の表面に設置できる。本明細書での使用に適した基板材料は、銅、ニッケル、ルテニウム、プラチナ、イリジウム等の金属及び酸化銅、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物を含むことができる。基板材料は、シリコン、水晶、サファイア、ガラス、セラミック、ポリマー等を含むこともできる。
【0092】
例示的なグラフェンバラクタの他の態様は、米国特許第9,513,244号明細書に記載されており、その内容は、その全体が参照によって本明細書に援用される。
液滴接触角測定法
液滴接触角測定法は、固体表面の液体による濡れ性を特定するために使用できる。濡れ性又は濡れは、液体と固体表面との間の接触領域における分子間力の結果として生じ得る。濡れの程度は、液体と固体表面との間の接触領域と、液気界面に対する接線との間に形成される接触角φの値により表すことができる。固体の表面が親水性であり、水が試験液体として使用される場合(すなわち高い濡れ性)、φの値は、0~90度の範囲内にあり得る。固体の表面が中程度に親水性又は疎水性である場合(すなわち中程度の濡れ性)、試験液体を水としたときのφの値は、85~105度の範囲内にあり得る。固体表面が高い疎水性を有する場合(すなわち低い濡れ性)、試験液体を水としたときのφの値は、90~180度の範囲内にあり得る。したがって、接触角の変化は、基板の表面化学特性の変化を反映することができる。
【0093】
グラフェン表面及びグラフェン表面に施される修飾は、液滴接触角測定法を用いて特徴付けることができる。液滴接触角測定法は、グラフェン表面の修飾の程度に関する定量的情報を提供することができる。液滴接触角測定は、サンプル表面上にある官能基によって影響を受けやすく、自己組織化単分子層の形成及び表面被覆の程度を特定するために使用できる。π電子豊富分子を含む自己組織化溶液中に浸漬したものと対照的に、無修飾のグラフェン表面からの接触角の変化は、グラフェン表面上への自己組織化単分子層の形成を確実にするために使用できる。
【0094】
液滴接触角測定の決定における使用に適した、湿潤溶液とも呼ばれる溶媒の種類は、無修飾のグラフェン上の溶媒の接触角と、修飾されたグラフェン上の接触角との間の差を最大化して、結合の吸脱着等温線の測定のためのデータ精度を高めるものである。幾つかの実施形態において、湿潤溶液は、脱イオン(DI)水、NaOH水溶液、ホウ酸塩バッファ(pH9.0)、他のpHのバッファ、CF3CH2OH等を含むことができるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、湿潤溶液は、極性である。幾つかの実施形態において、湿潤溶液は、非極性である。
【0095】
ラングミュア吸着理論
何れの特定の理論による拘束も望まないが、ラングミュア吸着理論によれば、グラフェンの単分子層修飾は、自己組織化溶液の体積中の吸着質の濃度を式:
【0096】
【数1】
(式中、θは、表面被覆率であり、Cは、自己組織化溶液の体積中の吸着質の濃度であり、Kは、グラフェンへの吸着質の吸着の平衡定数である)に従って変化させることにより制御できると考えられている。実験的に、表面被覆率は、無修飾グラフェンと修飾グラフェンとの間の接触角の変化により、式:
【0097】
【数2】
(式中、φ(i)は、自己組織化溶液中の濃度に応じた修飾グラフェンの接触角であり、φ(bare)は、無修飾グラフェンの接触角であり、φ(sat.)は、レセプタ分子の完全な単分子層で修飾されたグラフェン(すなわち100%の表面被覆率又はθ=1.0)の接触角である)に従って表現できる。式(2)のθを式(1)に代入し、φ(i)を解くと、式(3):
【0098】
【0099】
したがって、実験的に観察されるφ(i)の値は、2つのフィッティングパラメータΚ及びφ(sat.)を用いて、自己組織化溶液中のレセプタの濃度に応じてフィッティングできる。これらの2つのパラメータが特定されると、異なる自己組織化濃度での相対的表面被覆率は、Κを用いて式(1)から予測できる。
【0100】
データは、ラングミュア吸着モデルでフィッティングして、グラフェン上に90%以上の表面被覆率(すなわちθ>0.9)の高密度の単分子層を形成するのに必要な表面吸着の平衡定数及び自己組織化溶液の濃度を特定できる。幾つかの実施形態において、少なくとも90%以上の表面被覆率が望ましい。幾つかの実施形態において、少なくとも95%以上の表面被覆率が望ましい。幾つかの実施形態において、少なくとも98%以上の表面被覆率が望ましい。
【0101】
グラフェンへのPyr-CH
2OHの吸着に関する代表的なラングミュア吸着等温線が
図9に示され、以下の例8においてより詳細に説明されている。データは、液滴接触角測定により特定された、グラフェンへのPyr-CH
2OHの吸着に関する相対的単分子層被覆率(点)をラングミュア吸着理論に基づくフィット(実線)と共に示す。グラフェンへのPyr-CH
2OHの吸着に関する相対的表面被覆率に応じた濃度の対数を
図10に示す。
【0102】
上記の例において、ラングミュアモデルは、接触角データからΚを特定するために使用される。接触角データの代わりに、表面分光法から得られたスペクトル中のバンドの強度、例えば赤外線分光法又はラマン分光法で得られるデータが使用され得る。
【0103】
X線光電子分光法
X線光電子分光法(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)は、高感度の分光技術であり、物質の表面の元素組成を定量的に測定できる。XPSのプロセスは、真空下でのX線の表面照射を含み、その間に物質の最上部0~10nm内の運動エネルギー及び電子の放出が測定される。何れの特定の理論による拘束も望まないが、XPSは、グラフェンの表面上に形成される自己組織化単分子層の存在を確認するために使用できると考えられている。
【0104】
単分子層、グラフェン及びその下の基板を構成する原子の種類の表面濃度(XPSにより特定される)は、単分子層のラングミュアシータ値、すなわち換言すればグラフェン上の単分子層の分子の表面密度に依存する。例えば、銅基板上のあるシクロデキストリンの単分子層に関する炭素、酸素及び銅の表面濃度(すなわちXPSにより特定されるC%、O%及びCu%)は、自己組織化溶液中のシクロデキストリンの濃度に依存する。実験上の誤差により、C%、O%又はCu%データを別々にフィッティングすると、表面吸着の平衡定数Κのわずかに異なる値が得られる。しかしながら、C%、O%又はCu%データは、同じ平衡を特徴付けるため、Κの真の値は、1つのみである。したがって、XPSデータは、C%、O%及びCu%データについて別々にだけでなく、1つに複合させたデータとしてもフィッティングすることができる。単分子層、グラフェン及びその下の基板を構成する幾つかの種類の原子に関する複合データのフィッティングにより、Κの真の値をより正確に推定できる。この目的のために、次式を使用でき、ここで、各データポイントは、(i)指数、(ii)自己組織化溶液の濃度、及び(iii)XPSにより特定される炭素、酸素又は銅濃度を含むベクトルからなる。
【0105】
【数4】
指数1は、C%データについて使用され、2は、O%データについて使用され、3は、Cu%について使用された。0の入力に対するクロネッカのデルタの出力は、1であり、それは、他の入力についても0である。このフィッティング手順により、炭素、酸素及び銅の最大表面濃度(それぞれC%(sat.)、O%(sat.)及びCu%(sat.))が3つすべての吸着等温線に関するΚの単独の値と共に1ステップで得られる。
【0106】
上記の例において、Κ値は、3つの吸着等温線、すなわち3種類の原子の表面濃度からフィッティングされる。同じ種類のフィッティングは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれより多い種類の原子の吸着等温線についても実行され得る。
【0107】
無修飾グラフェン及びα-CDBn
18で修飾されたグラフェンに関する代表的なC1s及びO1sスペクトルを
図10~
図13に示し、後に例14において説明する。XPSデータのフィッティングにより特定される平衡定数Κは、ラングミュア吸着モデル内において、グラフェン上の単分子層を形成する各種の分子、例えばシクロデキストリン及びシクロデキストリン誘導体で修飾されたグラフェン表面のθ値を特定するために使用できる。過ベンジル化β-シクロデキストリン(β-CDBn
21)で修飾されたグラフェンの吸着の代表的なラングミュア吸着等温線を
図15に示す。データは、XPSデータにより特定された、β-CDBn
21で修飾されたグラフェンの吸着に関する相対的単分子層被覆率(点)を、ラングミュア吸着理論に基づくフィッティング(実線)と共に示す。自己組織化溶液中のβ-CDBn
21の対数に応じたグラフェンへのβ-CDBn
21の吸着の相対的表面被覆率を
図16に示す。
【0108】
態様は、以下の例を参照してよりよく理解され得る。これらの例は、具体的な実施形態の代表とされるものであり、本明細書の実施形態の全体的な範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0109】
例1:実験材料
例2~6に記載の試薬の合成での使用に適した実験材料が提供される。過ベンジル化α-、β-及びγ-シクロデキストリンの自己組織化のために、Cuフォイル上の単分子層グラフェンをグラフェネア(Graphenea)(ドノスティア、スペイン)から購入した。他のすべての自己組織化のために、単分子層グラフェンを厚さ25μmのCuフォイル(No.46365、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)、テュークスベリー、MA)上に、それぞれ21sccm及び0.105sccmの流速の水素及びメタンを用い、1050℃で気相化学成長法により成長させた。ピレン、1-ピレン酢酸、1-ピレンメチルアンモニウム塩酸、1-ピレンボロン酸、β-シクロデキストリン、PBr3及びNaH(鉱物油中に60% w/w拡散)をアルドリッチ(Aldrich)(セントルイス、MO)から入手した。1-ピレンメタノール並びにα-及びγ-シクロデキストリンをTCI(ケンブリッジ、MA)から購入した。α-、β-及びγ-シクロデキストリンを使用前に一昼夜、真空中で乾燥させた。トルエン、メタノール及びジメチルスルホキシド(DMSO)を使用前に一昼夜、モレキュラシーブ上で乾燥させた。脱イオン水(DI水、0.18MΩmの固有抵抗)は、ミリ-Qプラス(Milli-Q PLUS)試薬グレード水系(ミルポア、ビレリカ、MA)を用いた浄化により得た。ホウ酸塩バッファ(pH=9)は、0.1Mのホウ酸及び0.1MのKClを含む水溶液50mL、0.1M NaOH(水溶液)20.8mL並びにDI水29.2mLから調製した。
【0110】
例2:自己組織化を通したグラフェン表面の修飾
グラフェン基板は、ピレン又はシクロデキストリン誘導体を様々な濃度(0、0.03、0.10、0.30、1.0、3.0又は10mM)で含む溶液中に一昼夜浸漬された。その後、修飾されたグラフェン基板を少量の溶媒で3回洗浄し、余分な自己組織化溶液を除去した。Pyr-CH2COOH、Pyr-CH2COOCH3、Pyr-CH2NH2・HCl、Pyr-CH2NH2及びPyr-CH2N(CH2CH3)2による修飾のために、エタノールを自己組織化溶媒として使用した。ピレン、Pyr-CH2OH、Pyr-B(OH)2、α-CDBn18、β-CDBn21及びγ-CDBn24による修飾のために代わりにアセトニトリルを使用し、なぜなら、ピレン及びPyr-CH2OHがエタノールからグラフェン上によく組織化できず、また過ベンジル化シクロデキストリンがエタノールに溶解しないからである。
【0111】
すべてのピレン誘導体の90%の単分子層被覆率に必要な濃度は、自己組織化がアセトニトリル又はエタノール溶液の何れから行われるかを問わず、0.30~3.6mMの範囲内であると推定される。すべてのピレン誘導体の平衡定数(Κ)は、103.4~104.6M-1で変化した。シクロデキストリンの平衡定数(Κ)は、α-CDBn18、β-CDBn21及びγ-CDBn24について、それぞれ103.24、102.97及び102.95M-1であることがわかった。平衡定数及び90%の表面被覆率に必要な単分子層濃度を表1で報告する。
【0112】
【表1】
例3:Pyr-CH
2NH
2・HClの調製
Pyr-CH
2NH
2・HClの合成に適した実験材料は、例1において上述した。簡潔に言えば、50mgのPyr-CH
2NH
2・HClを10mLのCH
2Cl
2に溶解させ、それぞれ10mM NaOH(水溶液、3×10mL)及びDI水(3×10mL)で3回洗浄した。CH
2Cl
2相を回収し、無水Na
2SO
4上で乾燥させ、真空下での溶媒蒸発により黄色い固体を得た(収率50重量%)。
1H NMR(δ、ppm、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d
6):4.483(s、2H、Ar-CH
2);8.048-8.444(m、11H、Ar-H、NH
2)。
【0113】
例4:Pyr-CH2COOCH3の合成
【0114】
【化8】
Pyr-CH
2COOCH
3の合成に適した実験材料は、例1において上述した。簡潔に言えば、0.25mLの濃縮硫酸を5mLの乾燥エタノールに添加した。150mgのPyr-CH
2COOHを添加し、得られた溶液を24時間還流した。メタノール蒸発により、残留懸濁液を20mLの氷冷DI水に添加した。得られる懸濁液をジエチルエーテル(3×20mL)で抽出した。結合エーテル相をDI水(3×60mL)で洗浄し、無水Na
2SO
4上で乾燥させた。真空下での溶媒蒸発により黄色い固体を得た(収率66重量%)。
1H NMR(δ、ppm、DMSO-d
6):3.645(s、3H、CH
3);4.476(s、2H、Ar-CH
2);8.014-8.329(m、9H、Ar-H)。質量分析(ESI-TOF、MeOH)、m/z:297.0961(Pyr-CH
2COOCH
3・Na
+)。Pyr-CH
2COOCH
3の合成を
図17に示す。
【0115】
例5:Pyr-CH2N(CH2CH3)2の合成
【0116】
【化9】
Pyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2の合成に適した実験材料は、例1において上述した。まず、Pyr-CH
2Brを調製した。250mgのPyr-CH
2OHを5.35mLの乾燥トルエンに添加した。懸濁液を0℃まで冷却し、125μLのPBr
3をシリンジで滴下した。混合物を0℃で1時間攪拌し、室温に一昼夜置いた。次に、5mLの飽和Na
2CO
3水溶液を氷冷条件下でゆっくりと添加した。固体とトルエン層を結合して、Na
2SO
4上で乾燥させた。フィルタにより固体を除去したところで、真空を用いて液相から溶媒を蒸発させ、黄色い固体を得た(Pyr-CH
2Br、収率75重量%)。
1H NMR(δ、ppm、CDCl
3):5.295(s、2H、Ar-CH
2);8.0-8.5(m、9H、Ar-H)。
【0117】
125mgのPyr-CH
2Br及び0.2mLのジエチルアミンをN
2雰囲気中で3mLのトルエンに添加した。混合物を一昼夜還流した。トルエンを蒸発させ、得られた固体を20mLのCH
2Cl
2/10mM NaOH(水溶液)混合物(1:1、v/v)に添加し、その後、混合物を一昼夜攪拌した。CH
2Cl
2相を回収し、DI水(3×10mL)で洗浄して、無水Na
2SO
4上で乾燥させた。真空下での溶媒蒸発により、黄色い固体を得た(Pyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2、収率66重量%)。
1H NMR(δ、ppm、DMSO-d
6):1.037-1.072(t、6H、CH
3);2.562-2.615(m、4H、CH
2);4.229(s、2H、Ar-CH
2);8.053-8.602(m、9H、Ar-H)。質量分析(ESI-TOF、MeOH)、m/z:215.1125、228.2231(Pyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2・H
+)。Pyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2の合成を
図18に示す。
【0118】
例6:過ベンジル化α-、β-及びγ-シクロデキストリンの合成
【0119】
【化10】
過ベンジル化α-、β-及びγ-シクロデキストリンの合成に適した実験材料は、例1において上述した。簡潔に言えば、915mgのNaH(鉱物油中に60wt%、シクロデキストリン上のヒドロキシル基に対して4当量)を2口丸底フラスコに添加した。NaHをN
2保護下でヘキサンにより5回洗浄し、鉱物油を除去した。次に、300mgのシクロデキストリンを10mLのDMSO中に溶解させ、その溶液を20分間脱気して、丸底フラスコに移した。2時間攪拌してNaHをシクロデキストリンのヒドロキシル基と反応させた後、2.62mLの塩化ベンジル(シクロデキストリンのヒドロキシル基に対して4当量)を混合物に滴下した。反応物をN
2保護下において24時間室温で攪拌した。その後、15mLの水を反応混合物に添加して、余分なNaHを中和した。得られた懸濁液をジクロロメタン(4×30mL)で抽出した。次に、結合ジクロロメタン相を水(1×120mL)洗浄し、無水Na
2SO
4上で乾燥させた。真空による溶媒蒸発を一昼夜行った。過ベンジル化α-、β-及びγ-シクロデキストリンの合成を
図19に示す。
【0120】
黄色い液体原産物をヘキサンで洗浄して、残留する塩化ベンジルのほとんどを除去し、その後、アルミナでの精製クロマトグラフィ(溶出剤としてまずエチルアセテート/ヘキサン1:6を使用し、その後、1:3に切り換え)を行い、白い固体発泡体を得た(収率40重量%)。1H NMR(β-CDBn21、δ、ppm、CDCl3):7.233-7.020(m、105H、芳香族H)、5.174(d、7H、H1)、5.069-4.335(m、42H、CH2-Ph)、4.034-3.957(m、28H、H3、H4、H5、H6)、3.551-3.454(m、14H、H2、H6)。13C NMR(β-CDBn21、δ、ppm、CDCl3):139.268,138.341、138.197(3×H置換基なしのC芳香族)、128.291-126.913(CH芳香族)、98.443(C1)、80.900(C3)、78.797(C2)、78.678(C4)、75.441、73.273、72.641(3×CH2-Ph)、71.438(C5)、69.294(C6)。質量分析(MALDI、母材として50mMの2,5-ジヒドロキシ安息香酸)、m/z:3048.0449(β-CDBn21・Na+)。元素分析(β-CDBn21):計算によるC 74.98%、H 6.53%;実測によるC 74.53%、H 6.48%。1H NMR(α-CDBn18、δ、CDCl3):7.256-7.021(m、90H、芳香族H)、5.171(d、6H、H1)、5.097-4.303(m、36H、CH2-Ph)、4.166-3.894(m、24H、H3、H4、H5、H6)、3.498-3.452(m、12H、H2、H6)。1H NMR(γ-CDBn24、δ、CDCl3):7.396-7.081(m、120H、芳香族H)、5.214(d、8H、H1)、5.139-4.322(m、48H、CH2-Ph)、4.042-3.893(m、32H、H3、H4、H5、H6)、3.490-3.469(m、16H、H2、H6)。
【0121】
例7:Pyr-CH2NH2・HCl、Pyr-CH2NH2及びPyr-CH2COOCH3で修飾されたグラフェン
無修飾グラフェン並びにPyr-CH2NH2・HCl、Pyr-CH2NH2及びPyr-CH2COOCH3により修飾されたグラフェンの接触角測定を、液滴接触角測定器(エルマ、東京、日本)を用いて行った。4、8又は12μLの適当な溶媒の液滴をグラフェン表面上に設置し、2箇所における前進接触角の6回の読取り値から平均接触角を得た。無修飾グラフェン並びにPyr-CH2NH2・HCl、Pyr-CH2NH2及びPyr-CH2COOCH3で修飾されたグラフェンの接触角測定の結果を表2に示す。
【0122】
無修飾グラフェンの接触角は、グラフェンを純粋な溶媒中に浸漬した後に得た。無修飾グラフェンの接触角は、湿潤液体としてDI水を使用した場合に90~92°であることがわかった。グラフェンを、ピレン誘導体を含む自己組織化中に浸漬し、グラフェンの表面上の自己組織化単分子層の形成を確認した後の接触角の変化である。例えば、グラフェンの接触角は、10mMのPyr-CH2NH2・HCl溶液に暴露した後、74.0°に減少した。
【0123】
Pyr-CH
2COOCH
3、Pyr-CH
2NH
2・HCl及びPyr-CH
2NH
2で個別に修飾されたグラフェンについて、自己組織化(mM)溶液の濃度に応じた相対的単分子層被覆率をラングミュア吸着モデルにフィッティングさせた。Pyr-CH
2COOCH
3についての個々のデータポイント(点)及びラングミュア吸着理論に基づくフィット(実線)は、
図22に示されている。自己組織化溶液中のPyr-CH
2COOCH
3の濃度の対数に応じたグラフェンへのPyr-CH
2COOCH
3の吸着の相対的表面被覆率は、
図23に示されている。Pyr-CH
2NH
2・HClについての個々のデータポイント(点)及びラングミュア吸着理論に基づくフィット(実線)は、
図24に示されている。自己組織化溶液中のPyr-CH
2NH
2・HClの濃度の対数に応じたグラフェンへのPyr-CH
2NH
2・HClの吸着の相対的表面被覆率は、
図25に示されている。Pyr-CH
2NH
2についての個々のデータポイント(点)及びラングミュア吸着理論に基づくフィット(実線)は、
図26に示されている。自己組織化溶液中のPyr-CH
2NH
2の濃度の対数に応じたグラフェンへのPyr-CH
2NH
2の吸着の相対的表面被覆率は、
図27に示されている。
【0124】
【表2】
例8:Pyr-CH
2COOH、ピレン、Pyr-CH
2OH又はPyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2で修飾されたグラフェン
Pyr-CH
2COOH、ピレン、Pyr-CH
2OH及びPyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2で修飾されたグラフェンの液滴接触角測定を、液滴接触角測定器(エルマ、東京、日本)を用いて行った。4、8又は12μLの適当な溶媒の液滴をグラフェン表面上に設置し、2箇所における前進接触角の6回の読取り値から平均接触角を得た。Pyr-CH
2COOH、ピレン、Pyr-CH
2OH及びPyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2で修飾されたグラフェンの接触角測定の結果を表3に示す。
【0125】
Pyr-CH
2COOH、ピレン、Pyr-CH
2OH又はPyr-CH
2N(CH
2CH
3)
2により個別に修飾されたグラフェンについて、自己組織化(mM)溶液の濃度に応じた相対的単分子層被覆率をラングミュア吸着モデルにフィッティングさせた。ピレンについての個々のデータポイント(点)及びラングミュア吸着理論に基づくフィット(実線)は、
図20に示されている。グラフェンへのピレンの吸着に関する相対的表面被覆率に応じた濃度の対数は、
図21に示されている。Pyr-CH
2OHについての個々のデータポイント(点)及びラングミュア吸着理論に基づくフィット(実線)は、
図9に示されている。自己組織化溶液中のPyr-CH
2OHの濃度の対数に応じたグラフェンへのPyr-CH
2OHの吸着の相対的表面被覆率は、
図10に示されている。
【0126】
【表3】
例9:Pyr-B(OH)
2で修飾されたグラフェン
Pyr-B(OH)
2で修飾されたグラフェンのX線光電子分光法(XPS)によるスペクトルをバーサプローブIII(VersaProbe III)走査型XPSマイクロプローブ(PHI 5000、フィジカル・エレクトロニクス(Physical Electronics)、チャンハッセン、MN)で収集した。Pyr-B(OH)
2で修飾されたグラフェンの表面元素構造の結果を表4に示す。
【0127】
【表4】
例10:過ベンジル化α-シクロデキストリン(α-CDBn
18)で修飾されたグラフェン
過ベンジル化α-シクロデキストリン(α-CDBn
18)で修飾されたグラフェンのX線光電子分光法(XPS)によるスペクトルをバーサプローブIII(VersaProbe III)走査型XPSマイクロプローブ(PHI 5000、フィジカル・エレクトロニクス(Physical Electronics)、チャンハッセン、MN)で収集した。α-CDBn
18で修飾されたグラフェンの表面元素構造の結果を表5に示す。
【0128】
【表5】
例11:過ベンジル化β-シクロデキストリン(β-CDBn
21)で修飾されたグラフェン
過ベンジル化β-シクロデキストリン(β-CDBn
21)で修飾されたグラフェンのXPSによるスペクトルをバーサプローブIII(VersaProbe III)走査型XPSマイクロプローブ(PHI 5000、フィジカル・エレクトロニクス(Physical Electronics)、チャンハッセン、MN)で収集した。β-CDBn
21で修飾されたグラフェンの表面元素構造の結果を表6に示す。
【0129】
【表6】
例12:過ベンジル化γ-シクロデキストリン(γ-CDBn
24)で修飾されたグラフェン
過ベンジル化γ-シクロデキストリン(γ-CDBn
24)で修飾されたグラフェンのXPSによるスペクトルをバーサプローブIII(VersaProbe III)走査型XPSマイクロプローブ(PHI 5000、フィジカル・エレクトロニクス(Physical Electronics)、チャンハッセン、MN)で収集した。β-CDBn
24で修飾されたグラフェンの表面元素構造の結果を表7に示す。
【0130】
【表7】
例13:無修飾グラフェンのXPS
銅基板上の無修飾グラフェンのX線光電子分光法(XPS)によるスペクトルをバーサプローブIII(VersaProbe III)走査型XPSマイクロプローブ(PHI 5000、フィジカル・エレクトロニクス(Physical Electronics)、チャンハッセン、MN)で収集した。観察された銅基板上の無修飾グラフェンの表面元素組成は、56.3mol%の炭素、11.0mol%の酸素及び32.6mol%の銅であることがわかった。無修飾グラフェンの高解像度C1s XPSスペクトル(
図11)から、5種類の炭化水素が明らかとなり、これらは、C=C(284.5eV)、C-OH(285.4eV)、C-O-C(286.4eV)、C=O(287.4eV)及びO-C=O(288.9eV)に割り当てることができる。高解像度O1s XPSスペクトル(
図12)に示されるように、4種類の酸素が観察され、すなわち、これらは、Cu-O(530.4eV)、C-O(531.4eV)、C=O(532.1eV)及びO-C=O(532.9eV)である。Cu-Oピークが最大であり、これらのピークを統合すると、61.2%の酸素が下の銅基板からのものであることが示唆された(Cu-O)。
【0131】
例14:表面修飾グラフェンのXPS
α-CDBn18、β-CDBn21又はγ-CDBn24の何れかで修飾されたグラフェンサンプルをXPSで特徴付けた。過ベンジル化α-シクロデキストリン(α-CDBn18)、過ベンジル化β-シクロデキストリン(β-CDBn21)又は過ベンジル化γ-シクロデキストリン(γ-CDBn24)の何れかで修飾されたグラフェンのXPSによるスペクトルをバーサプローブIII(VersaProbe III)走査型XPSマイクロプローブ(PHI 5000、フィジカル・エレクトロニクス(Physical Electronics)、チャンハッセン、MN)で収集した。
【0132】
過ベンジル化シクロデキストリンの自己組織化後、Cuパーセンテージは、有意に減少し、C及びOのパーセンテージが増加した。この傾向は、シクロデキストリン単分子層の組成、すなわち3種類すべてのシクロデキストリンについて84.4mol%の炭素及び15.6mol%の酸素と一致する(表5~7参照)。C1s及びO1sの高解像度XPSスペクトルは、過ベンジル化シクロデキストリンに関して、無修飾グラフェンと比較してはるかに小さいCu-Oのピークと、はるかに大きいsp3炭素並びにC-O-C炭素及び酸素原子のピークとを示すことにより、α-CDBn
18による表面修飾の有効性を裏付けた(
図13~
図14)。
【0133】
例15:熱及び真空に対する表面修飾の安定性及び可逆性
加熱又は真空下でのグラフェンの表面修飾の安定性を確認するために、Pyr-CH2NH2・HClで修飾されたグラフェンを高真空(2×10-5 Torr)、100℃で一昼夜、加熱乾燥した。その後、湿潤液としてDI水を使用して接触角測定を行った。表8は、Pyr-CH2NH2・HClで修飾されたグラフェン基板の接触角が、熱及び真空への曝露によって測定可能な程度に変化しなかったことを示しており、これは、グラフェン上のPyr-CH2NH2・HCl単分子層がこれらの条件下で損傷しないことを示唆している。
【0134】
【表8】
例16:トルエンに対する表面修飾の安定性及び可逆性
Pyr-CH
2NH
2・HClで修飾されたグラフェンをトルエンに1時間浸漬した(トルエンは、0.5時間後に1回交換した)。トルエンへの浸漬の前後に接触角測定を記録した。トルエン浸漬後に接触角が単分子層修飾で85.5°±1.4°から91.6°±0.5°に増大したことは、予想どおり、トルエンがレセプタ単分子層をグラフェンから取り除き、無修飾のグラフェン表面を再び露出させたことを示している。比較実験も実行し、無修飾グラフェンをエタノールに一昼夜浸漬した後、トルエンに1時間浸漬した。接触角は、エタノール浸漬及びトルエン浸漬後にそれぞれ91.3°±1.5°及び92.5°±1.9°であることがわかり、トルエンがグラフェン被覆Cu基板に損傷を与えないことが確認された。
【0135】
例17:グラフェン上での5、10、15、20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン・塩化マンガン(III)(Mn(III)TPPCl)の自己組織化
金属テトラフェニルポルフィリン、5、10、15、20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン・塩化マンガン(III)(Mn(III)TPPCl)をアルドリッチ(Aldrich)(セントルイス、MO)から購入した。Mn(III)TPPClの化学構造は、式:
【0136】
【化11】
(式中、Rは、分子の各位置のフェニル基である)で表すことができる。
【0137】
グラフェン上でのMn(III)TPPClの自己組織化のために、銅の上に成長させたグラフェン基板は、Mn(III)TPPClを各種の濃度(0、0.128、0.64、1.28、3.0又は10mM)で含むエタノール溶液中に一昼夜浸漬された。その後、修飾されたグラフェン基板を少量のエタノールで3回洗浄し、余分な自己組織化溶液を除去した。XPSを行い、修飾表面のC%、O%、N%及びCu%を特定した。XPSにより特定された表面組成の概要を表9に示す。
【0138】
【表9】
C%及びCu%のデータを前述のように同時にフィッティングすることにより、平衡定数Κを特定した。N%及びO%のデータは、フィッティングに含めず、なぜなら、O%及びN%の最大変化が実験の背景ノイズ内に含まれるからである。平衡定数Κ及びMn(III)TPPClによる少なくとも90%の単分子層形成に必要な自己組織化溶液の濃度を表10に示す。
【0139】
【表10】
例18:グラフェン上への6
A,6
D-ジヒドロキシルベンジル化β-シクロデキストリン(β-CDBn
19(OH)
2)の自己組織化
6
A,6
D-ジヒドロキシルベンジル化β-シクロデキストリン(β-CDBn
19(OH)
2)を次のように合成した:325mgの過ベンジル化β-シクロデキストリン(β-CDBn
21)を10mLの無水トルエンに溶解させた。溶液をアルゴンで20分間脱気し、窒素保護下で2口丸底フラスコに移した。次に、6.5mLの水酸化ジイソブチルアルミニウム溶液(トルエン中1M、アルドリッチ(Aldrich))をフラスコ内に滴下し、溶液を50℃まで加熱した。2時間後、新たに6.5mLの水酸化ジイソブチルアルミニウム溶液(トルエン中1M、アルドリッチ(Aldrich))を溶液に添加し、さらに5.5時間反応させた。次に、20mLの1M HCl(水溶液)を氷浴中の混合物にゆっくりと添加した。得られた懸濁液をエチルアセテート(4×30mL)で抽出した。合成エチルアセテート相を水(1×120mL)で洗浄し、無水Na
2SO
4上で乾燥させた。真空での溶媒蒸発を一昼夜行った。その後、白い原産物をシリカ上でクロマトグラフィにより生成した(溶出剤としてまずエチルアセテート/ヘキサン1:4を使用し、その後、1:2に切り換えた)。収率は、37%であった。質量分析(MALDI、母材として50mMの2,5-ジヒドロキシ安息香酸)を行い、m/z:2868.2(β-CDBn
19(OH)
2・Na
+)を得た。元素分析(β-CDBn
19(OH)
2):計算値のC 73.82%、H 6.51%;実測値のC 73.57%、H 6.48%。
【0140】
グラフェン上へのβ-CDBn19(OH)2の自己組織化のために、銅の上に成長させたグラフェン基板は、β-CDBn19(OH)2を各種の濃度(0、0.03、0.1、0.3、1.0又は3.0mM)で含むアセトニトリル溶液に一昼夜浸漬された。次に、修飾されたグラフェン基板を少量のアセトニトリルで3回洗浄し、余分な自己組織化溶液を除去した。XPSを行い、修飾表面のC%、O%及びCu%を特定した。XPSにより特定された表面組成の概要を表11に示す。
【0141】
【表11】
C%、O%及びCu%のデータを前述のように同時にフィッティングすることにより、平衡定数Κを特定した。平衡定数Κ及びβ-CDBn
19(OH)
2による少なくとも90%の単分子層形成に必要な自己組織化溶液の濃度を表10に示す。
【0142】
例19:Pyr-B(OH)
2で修飾されたグラフェンのラマン分光法
Pyr-B(OH)
2で修飾されたグラフェンについてラマン分光法を実行した。表面被覆率を推定するために、グラフェンを、1mM及び2mMを含む異なる濃度のPyr-B(OH)
2溶液中で修飾した。修飾されたグラフェン表面のラマンスペクトルで1286cm
-1及び1378cm
-1付近にピークが見られ、これは、それぞれB-OH曲げ振動及びB-O伸縮振動に対応する。ラマン分光法の結果を
図28に示す。
【0143】
B-OHピーク(1283cm-1)及びグラフェンGピーク(約1600cm-1)のピーク高さ比は、1mM及び2mM Pyr-B(OH)2溶液についてそれぞれ0.048及び0.083であった。B-OH(1283cm-1)及びグラフェン2Dのピーク(2692cm-1)のピーク高さ比は、1mM及び2mMのPyr-B(OH)2溶液についてそれぞれ0.045及び0.098であった。B-OHピーク及びG/2Dピークのピーク高さ比は、自己組織化濃度が1.0mM~2.0mMに高くなるにつれて増大し、これは、何れの特定の理論による拘束も望まないが、グラフェンの表面が1.0mMの自己組織化溶液で十分に飽和しないと考えられる。
【0144】
本明細書及び付属の特許請求の範囲で使用される限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、内容から明らかに他の解釈が必要とならない限り、複数形を含むことに留意すべきである。したがって、例えば、「化合物」を含む組成物は、2つ以上の化合物の混合物を含む。また、「又は」という用語は、内容から明らかに他の解釈が必要とならない限り、「及び/又は」の意味で一般に使用されることに留意すべきである。
【0145】
また、本明細書及び付属の特許請求の範囲において使用される限り、「構成される」という語句は、特定のタスクを実行するか、又は特定の構成が適用されるように構築又は構成されたシステム、装置又は他の構造を説明していることにも留意されたい。「構成される」という語句は、配置されて構成される、構築されて配置される、構築される、製造されて配置される等の他の同様の語句と互換的に使用される。
【0146】
本明細書中のすべての刊行物及び特許出願は、本発明が関する技術分野の一般的の技術水準を示す。すべての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願が具体的且つ個別に参照文献として示されている場合と同じ程度に参照によって本明細書に援用される。
【0147】
本明細書に記載の実施形態は、網羅的であるか、又は以下の詳細な説明で開示される正確な形態に限定することを意図されない。むしろ、実施形態は、当業者が原理及び実践を認識及び理解できるようにするために選択及び説明されている。そのため、態様は、様々な具体的で好ましい実施形態及び技術に関して説明された。しかしながら、本明細書の趣旨及び範囲内にとどまりながら、多くの変更形態及び改良形態がなされ得ることを理解すべきである。