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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】合金鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/00 20060101AFI20220516BHJP
   C21C 5/52 20060101ALI20220516BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20220516BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220516BHJP
   C22C 38/18 20060101ALN20220516BHJP
【FI】
C21C7/00 A
C21C5/52
C22C38/04
C22C38/00 302A
C22C38/18
C22C38/00 302Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021503539
(86)(22)【出願日】2019-07-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 KR2019008721
(87)【国際公開番号】W WO2020022682
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】10-2018-0085572
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ウン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ヨ ソン
(72)【発明者】
【氏名】カン,スウ チャン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジュン ファン
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0082025(KR,A)
【文献】国際公開第2018/110914(WO,A2)
【文献】特開昭58-185732(JP,A)
【文献】特開平07-278644(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123808(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00-7/10
C21C 5/00-5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを含有する第1の溶融合金鉄を用意する過程と、
クロムを含有する第2の溶融合金鉄を用意する過程と、
溶鋼を用意する過程と、
前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄とを混合して第3の溶融合金鉄を製造する過程と、
前記第3の溶融合金鉄と前記溶鋼とを合湯して合金鋼を製造する過程と、
を含
前記第1の溶融合金鉄を用意する過程は、
第1の溶解炉においてマンガンを含有する原料を溶解させて第1の溶融合金鉄を製造する過程と、
前記第1の溶融合金鉄を第1の保温炉に装入する過程と、
前記第1の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程と、
を含み、
前記第2の溶融合金鉄を用意する過程は、
第2の溶解炉においてクロムを含有する原料を溶解させて第2の溶融合金鉄を製造する過程と、
前記第2の溶融合金鉄を第2の保温炉に装入する過程と、
前記第2の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程と
を含み、
前記第3の溶融合金鉄を製造する過程は、前記第2の溶融合金鉄を前記第2の保温炉から混合容器に排出した後、前記第1の溶融合金鉄を前記第1の保温炉から前記混合容器に排出することを特徴とする合金鋼の製造方法。
【請求項2】
前記第1の溶融合金鉄を製造する過程後に、前記第1の溶融合金鉄を精錬する過程を含むことを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項3】
前記第1の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程は、
前記第1の溶融合金鉄よりもリン(P)の含量が少ない金属マンガン及び金属マンガンを溶解させた溶融マンガンのうちの少なくともどちらか一方を前記第1の保温炉に装入して第1の溶融合金鉄中のリン(P)の濃度を低減し、第1の溶融合金鉄中のマンガンの濃度を増加させる過程を含むことを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項4】
前記第1の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程は、
前記第1の保温炉内の第1の溶融合金鉄を加熱する過程を含むことを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項5】
前記第2の溶融合金鉄を製造する過程後に、前記第2の溶融合金鉄を精錬する過程を含むことを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項6】
前記第2の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程は、
前記第2の溶融合金鉄よりもリン(P)の含量が少ない金属クロム及び金属クロムを溶解させた溶融クロムのうちの少なくともどちらか一方を前記第2の保温炉に装入して第2の溶融合金鉄中のリン(P)の濃度を低減し、第2の溶融合金鉄中のクロムの濃度を増加させる過程を含むことを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項7】
前記第2の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程は、
前記第2の保温炉内の第2の溶融合金鉄を加熱する過程を含むことを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項8】
前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄を用意する過程においては、
前記合金鋼中のリンの濃度が140ppm以下になるように前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄中のリンの濃度を350ppm以下に制御することを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項9】
前記第3の溶融合金鉄を製造する過程においては、
前記第3の溶融合金鉄中のマンガンの成分とクロムの成分が6:1~14:1の割合を有するように前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄とを混合することを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項10】
前記第3の溶融合金鉄を製造する過程においては、
前記合金鋼の全体の重量に対してマンガンが24重量%以上であり、クロムが3重量%以上になるように前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄とを混合することを特徴とする請求項に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項11】
前記第3の溶融合金鉄を製造する過程は、
前記第3の溶融合金鉄中のマンガンの含量とクロムの含量を測定する過程と、
測定された結果に基づいて、前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄のうちの少なくともどちらか一方を前記混合容器にさらに排出する過程と、
を含むことを特徴とする請求項10に記載の合金鋼の製造方法。
【請求項12】
前記溶鋼を用意する過程において、
前記溶鋼の温度は、1600~1700℃であることを特徴とする請求項11に記載の合金鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金鋼の製造方法に係り、さらに詳しくは、合金鋼の清浄度を向上させ、しかも、工程効率を向上させることのできる合金鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高マンガン鋼とは、約1~5wt%のマンガンを含有する鋼のことを意味する。最近には、自動車用の高強度・高成形性の鋼材、液化天然ガス(LNG)タンク用鋼材などの高機能性製品が開発されることに伴い、マンガンの含有量を24wt%以上まで増加させた高マンガン鋼が生産されている。
中でも、液化天然ガス(LNG)タンク用鋼材は、低温において高い靭性を有することを特徴とする。液化天然ガス(LNG)タンク用鋼材を用いて液化天然ガス(LNG)タンクを作製する場合、溶接個所が必ず発生してしまうが、溶接個所において靭性が低下したり、ひび割れが生じたりすることを極力抑えなければ、実製品として用いることができない。
このため、母材を製造する際、溶鋼成分中のリン(P)の含量を最小化させ、溶接の際にはリンの含量が低い溶接棒を用いる方法が用いられている。
【0003】
また、液化天然ガス(LNG)タンク用鋼材は、物性の確保のためにクロム(Cr)を含有しているが、転炉からの出鋼後に含クロム合金鉄(FeCr)を溶鋼に投入してクロムの含量を制御している。このような合金鉄は、転炉から出鋼の際に主として固体状態で溶鋼に投入されるため、合金鉄の投入による溶鋼の温度の低下を抑えるために転炉の終点温度を約1700℃といった高温に維持している。ところが、転炉の終点温度を高温に維持する場合、転炉の精錬の際にリン(P)の制御能が落ち込んで溶鋼中のリンの含量が増加してしまうという不都合がある。
さらに、マンガンの含量を高めるために主として含マンガン合金鉄(FeMn)を溶鋼に投入するが、含マンガン合金鉄中のリンの含量が増加して後続する成分調整工程(LF;ladle furnace、とりべ炉)や脱ガス工程にかかる時間が長引いてしまい、その結果、工程効率及び生産性が低下してしまうという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国公開特許第10-KR2018-0024286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、合金鋼の清浄度を確保することのできる合金鋼の製造方法を提供することにある。
また他の目的とするところは、精錬などの追加工程を省略できるようにして工程効率及び生産性を向上させることのできる合金鋼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る合金鋼の製造方法は、マンガンを含有する第1の溶融合金鉄を用意する過程と、クロムを含有する第2の溶融合金鉄を用意する過程と、溶鋼を用意する過程と、前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄とを混合して第3の溶融合金鉄を製造する過程と、前記第3の溶融合金鉄と前記溶鋼とを合湯して合金鋼を製造する過程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
前記第1の溶融合金鉄を用意する過程は、第1の溶解炉においてマンガンを含有する原料を溶解させて第1の溶融合金鉄を製造する過程と、前記第1の溶融合金鉄を第1の保温炉に装入する過程と、前記第1の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程と、を含むことが好ましい。
前記合金鋼の製造方法は、前記第1の溶融合金鉄を製造する過程後に、前記第1の溶融合金鉄を精錬する過程を含むことがよい。
【0008】
前記第1の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程は、前記第1の溶融合金鉄よりもリン(P)の含量が少ない金属マンガン及び金属マンガンを溶解させた溶融マンガンのうちの少なくともどちらか一方を前記第1の保温炉に装入して第1の溶融合金鉄中のリン(P)の濃度を低減し、第1の溶融合金鉄中のマンガンの濃度を増加させる過程を含むことが好ましい。
前記第1の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程は、前記第1の保温炉内の第1の溶融合金鉄を加熱する過程を含むことがよい。
【0009】
前記第2の溶融合金鉄を用意する過程は、第2の溶解炉においてクロムを含有する原料を溶解させて第2の溶融合金鉄を製造する過程と、前記第2の溶融合金鉄を第2の保温炉に装入する過程と、前記第2の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程と、を含むことができる。
前記合金鋼の製造方法は、前記第2の溶融合金鉄を製造する過程後に、前記第2の溶融合金鉄を精錬する過程を含むことがよい。
【0010】
前記第2の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程は、前記第2の溶融合金鉄よりもリン(P)の含量が少ない金属クロム及び金属クロムを溶解させた溶融クロムのうちの少なくともどちらか一方を前記第2の保温炉に装入して第2の溶融合金鉄中のリン(P)の濃度を低減し、第2の溶融合金鉄中のクロムの濃度を増加させる過程を含むことが好ましい。
前記第2の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する過程は、前記第2の保温炉内の第2の溶融合金鉄を加熱する過程を含むことがよい。
【0011】
前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄を用意する過程においては、前記合金鋼中のリンの濃度が140ppm以下になるように前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄の中のリンの濃度を350ppm以下に制御することができる。
前記第3の溶融合金鉄を製造する過程は、前記第1の保温炉に収められた第1の溶融合金鉄を混合容器に排出する過程と、前記第2の保温炉に収められた第2の溶融合金鉄を混合容器に排出する過程と、を含み、前記第2の溶融合金鉄を前記第1の溶融合金鉄よりも先に排出することが好ましい。
【0012】
前記第3の溶融合金鉄を製造する過程においては、前記第3の溶融合金鉄中のマンガンの成分とクロムの成分が6:1~14:1の割合を有するように前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄とを混合することができる。
前記第3の溶融合金鉄を製造する過程においては、前記合金鋼の全体の重量に対してマンガンが24重量%以上であり、クロムが3重量%以上になるように前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄とを混合することがよい。
【0013】
前記第3の溶融合金鉄を製造する過程は、前記第3の溶融合金鉄中のマンガンの含量とクロムの含量を測定する過程と、測定された結果に基づいて、前記第1の溶融合金鉄と前記第2の溶融合金鉄のうちの少なくともどちらか一方を前記混合容器にさらに排出する過程と、を含むことが好ましい。
前記溶鋼を用意する過程において、前記溶鋼の温度は、1600~1700℃であることがよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、合金鋼を製造する際に用いられる複数の合金鉄を溶解させて溶鋼に合湯することにより、溶鋼の転炉の終点温度を低減することができる。このため、転炉の精錬に際してリンの制御能を向上させて溶鋼中のリンの濃度を効率よく制御することができる。また、溶融合金鉄中のリンの濃度を制御して合金鋼のリンの濃度を低減することができる。したがって、合金鋼中のリンの濃度を制御するための2次精錬時間を短縮して工程効率及び生産性を向上させることができる。
【0015】
また、溶融合金鉄と溶鋼とを合湯する過程において、合金の濃度を制御することができるので、後続する2次精錬工程において合金の濃度を制御するための追加過程を行わなくても済み、その結果、合金鉄の追加投入による合金鋼の温度の低下はもとより、吸窒などの汚染を抑え、工程時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る合金鋼の製造方法を用いて合金鋼を製造するための装置を概念的に示すブロック図。
図2】本発明の実施形態に係る合金鋼の製造方法を示す手順図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態をより詳しく説明する。しかしながら、本発明は以下に開示される実施形態に何ら限定されるものではなく、異なる様々な形態に具体化され、単にこれらの実施形態は本発明の開示を完全たるものにし、通常の知識を有する者に発明の範囲を完全に知らせるために提供されるものである。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る合金鋼の製造方法で合金鋼を製造するための装置を概念的に示したブロック図である。
図1に示したとおり、本発明の実施形態に係る合金鋼の製造装置は、マンガン(Mn)を含有する第1の溶融合金鉄を製造するための第1の溶解炉110と、第1の溶融合金鉄を融点以上の温度で貯留するように内部空間が形成される第1の保温炉120と、クロム(Cr)を含有する第2の溶融合金鉄を製造するための第2の溶解炉210と、第2の溶融合金鉄を融点以上の温度で貯留するように内部空間が形成される第2の保温炉220と、第1の保温炉120と第2の保温炉220から排出される第1の溶融合金鉄と第2の溶融合金鉄とを混合して第3の溶融合金鉄を製造するための混合容器300と、溶鋼と第3の溶融合金鉄とを合湯するための合湯容器400及び溶鋼を製造するための精錬炉500を備えている。これらに加えて、第1の保温炉120と第2の保温炉220に溶融合金鉄の原料をさらに投入できる原料投入装置(図示せず)をさらに備えている。
【0019】
第1の溶解炉110と第2の溶解炉210は、固相の合金鉄を溶解させることができる電気炉を備えている。
そして、第1の保温炉120と第2の保温炉220は、それぞれ上部が開かれ、内部に溶融合金鉄が貯留される貯留空間が形成される胴体(図示せず)と、胴体の上部を開閉できるカバー(図示せず)と、を備えている。この際、第1の保温炉120と第2の保温炉220は、その内部に互いに異なる種類の溶融合金鉄を貯留するだけであり、ほとんど同じ形状に形成されている。
【0020】
胴体は、外形を形成する外皮(図示せず)と、外皮の内側に築造される耐火物(図示せず)と、を備えている。また、図示はしないが、胴体を別途のハウジングの内部に配置して溶融合金鉄の温度の落ち込みをさらに効率よく抑えることもできる。
胴体には、溶融合金鉄を排出する排出口(図示せず)が形成される。排出口は、溶融合金鉄を排出できる限り、胴体の側壁や底面のいかなる個所に配備されても構わない。この際、排出口は、胴体に収められる溶融合金鉄の湯面レベルよりも高い位置に形成される。これは、溶鋼との合湯のために溶融合金鉄を排出する際、第1の保温炉120及び第2の保温炉220を排出口が形成された方向に傾動させて排出するからである。排出口には、排出口を開閉するように第1の栓体(図示せず)が配備される。第1の栓体は、排出口を介して胴体の内部に外気が流れ込むことを防ぎ、排出口を介して溶融合金鉄が流出されることを防ぐことができる。
【0021】
カバーは、胴体の上部に胴体の開口を開閉可能なように配備される。カバーは、胴体の内部に収められる溶融合金鉄が外気に晒されることを防ぎ、溶融合金鉄の温度の落ち込みを抑えるために配設される。カバーには、溶融合金鉄及び溶融合金鉄の原料を注入するための開口(図示せず)が形成されることがよい。そして、カバーには、開口を開閉できるように第2の栓体(図示せず)が配備されることがよい。第2の栓体は、溶融合金鉄を胴体に注入する際に開口を開き、その他には、開口を閉じて胴体の内部空間と外部との間を遮断する。
このような構成を通じて、第1の保温炉120及び第2の保温炉220は、溶融合金鉄を一定の温度、例えば、融点以上の温度に維持することができ、大気との接触を極力抑えることができる。
【0022】
また、第1の保温炉120及び第2の保温炉220は、胴体の内部の雰囲気を制御するように雰囲気ガスを供給するためのガス供給部(図示せず)を備えることがよい。ガス供給部は、胴体の内部に雰囲気ガス、例えば、アルゴンなどの不活性ガスを供給できる。これを通じて、胴体の内部に存在し得る空気を胴体の外部に排出して溶融合金鉄が空気、例えば、空気に含有される窒素や酸素により汚れることを防ぐことができる。これとともに、胴体には、胴体の内部圧力を一定の陽圧に維持するように排気口(図示せず)が配備されてもよい。排気口は、胴体の内部圧力が一定の圧力を超える場合に開かれることがよい。
さらに、第1の保温炉120及び第2の保温炉220には、溶融合金鉄を加熱するための加熱部(図示せず)が配備される。加熱部は、誘導コイル、電極など様々なタイプに構成されることができる。このため、第1の保温炉120及び第2の保温炉220は、その内部に収められる溶融合金鉄を融点以上の温度に維持することができる。また、第1の保温炉120及び第2の保温炉220に投入される原料、例えば、金属クロムや金属マンガンを溶解させる熱源が配設されることが好ましい。
【0023】
混合容器300は、第1の保温炉120から排出される第1の溶融合金鉄と、第2の保温炉220から排出される第2の溶融合金鉄とを混合して第3の溶融合金鉄を製造する上で用いられる。混合容器300は、高温の溶融合金鉄を収めるように耐火物を含むことがよく、例えば、取鍋が用いられる。
合湯容器400は、混合容器300において製造された第3の溶融合金鉄と、精錬炉500、例えば、転炉から出鋼される溶鋼とを合湯する上で用いられる。合湯容器400は、混合容器300などの高温の溶融物を収めるように耐火物を含むことがよく、例えば、取鍋が用いらる。
【0024】
以下では、本発明の実施形態に係る合金鋼の製造方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る合金鋼の製造方法を示す手順図である。
図2に示したとおり、本発明の実施形態に係る合金鋼の製造方法は、マンガンを含有する第1の溶融合金鉄と、クロムを含有する第2の溶融合金鉄及び溶鋼を用意する過程(S110、S120、S160)と、第1の溶融合金鉄と第2の溶融合金鉄とを混合して第3の溶融合金鉄を製造する過程(S130)及び第3の溶融合金鉄を溶鋼に合湯して合金鋼を製造する過程(S170)を含む。
【0025】
まず、第1の溶融合金鉄は、下記のようにして用意される。
第1の溶解炉にマンガンを含有する原料、例えば、マンガン合金鉄(FeMn)を溶解させてマンガンを含有する第1の溶融合金鉄を製造(S112)する。
第1の溶融合金鉄が製造されれば、昇温工程、精錬工程を通じて第1の溶融合金鉄の温度を高め、第1の溶融合金鉄に含有されるリン(P)、炭素(C)などの不純物を取り除く。
【0026】
次いで、第1の溶融合金鉄を第1の保温炉に装入し、第1の溶融合金鉄を融点以上の温度、例えば、約1400~1500℃の温度に維持(S114)する。この際、第1の保温炉において第1の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する間に、第1の保温炉に固体状態の金属マンガン(Mn metal)と金属マンガンを溶解させた溶融マンガンのうちの少なくともどちらか一方を投入する。この際、金属マンガンと溶融マンガンは、95重量%以上、例えば、約95~99重量%のマンガンの含量を有することがよく、マンガン合金鉄(FeMn)に比べてリンの含量が低いため、第1の保温炉に金属マンガンや溶融マンガンを投入すれば、第1の保温炉に収められた第1の溶融合金鉄中のリンの濃度を低減することができる。この場合、第1の保温炉に貯留された第1の溶融合金鉄は、350ppm以下、例えば、約100~350ppmのリンの濃度を有するように制御すればよい。これは、溶鋼との合湯を通じて製造される合金鋼が140ppm以下、例えば、約10~140ppmのリンの濃度を有するように制御するためである。
【0027】
ここで、第1の保温炉に固体状態の金属マンガンを投入する場合、加熱部を用いて第1の保温炉内の第1の溶融合金鉄を加熱して金属マンガンを溶解するのに必要な熱源を確保し、第1の溶融合金鉄の温度の低下を防ぐことができる。
また、マンガン合金鉄に比べてマンガンの含量が高い金属マンガンと溶融マンガンを投入することにより、第1の溶融合金鉄のマンガンの濃度を増加させることができる。このような過程は、必要に応じて、断続的にまたは連続的に行われてもよい。この際、第1の溶融合金鉄中のマンガンの濃度は、約70~80重量%になるようにすることがよい。第1の溶融合金鉄のマンガンの濃度が提示された範囲よりも小さな場合には、第1の溶融合金鉄の合湯の量が増加してしまい、その結果、合湯のために製造される溶鋼の出鋼量を減らさなければならないという不都合がある。また、第1の溶融合金鉄のマンガンの濃度が提示された範囲よりも大きな場合には、合湯の際に用いられる第1の溶融合金鉄の量は減るのに対し、転炉において生産される溶鋼の量は制限的であるため、合金鋼の全体の生産量が減ってしまうという不都合がある。
【0028】
次いで、第2の溶融合金鉄は、下記のようにして用意してもよい。
第2の溶解炉にクロムを含有する原料、例えば、クロム合金鉄(FeCr)を溶解させてクロムを含有する第2の溶融合金鉄を製造(S122)する。
第2の溶融合金鉄が製造されれば、昇温工程、精錬工程を通じて第2の溶融合金鉄の温度を高め、第2の溶融合金鉄に含有されるリン(P)、炭素(C)などの不純物を取り除く。
【0029】
次いで、第2の溶融合金鉄を第2の保温炉に装入し、第2の溶融合金鉄を融点以上の温度、例えば、約1400~1500℃の温度に維持(S124)する。この際、第2の保温炉において第2の溶融合金鉄を融点以上の温度に維持する間に、第2の保温炉に固体状態の金属クロム(Cr metal)と金属クロムを溶解させた溶融クロムのうちの少なくともどちらか一方を投入する。この際、金属クロムと溶融クロムは、95重量%以上、例えば、約95~99重量%のクロムの含量を有することがよく、クロム合金鉄(FeCr)に比べてリンの含量が低いため、第2の保温炉に金属クロムや溶融クロムを投入すれば、第2の保温炉に収められた第2の溶融合金鉄中のリンの濃度を低減することができる。この場合、第2の保温炉に貯留された第2の溶融合金鉄は、350ppm以下、例えば、約100~350ppmのリンの濃度を有するように制御すればよい。これは、溶鋼との合湯を通じて製造される合金鋼が140ppm以下、例えば、約10~140ppmのリンの濃度を有するように制御するためである。ここで、第2の保温炉に固体状態の金属クロムを投入する場合、加熱部を用いて第2の保温炉内の第2の溶融合金鉄を加熱して金属クロムを溶解するのに必要な熱源を確保し、第2の溶融合金鉄の温度の低下を防ぐことができる。
【0030】
さらに、クロム合金鉄に比べてクロムの含量が高い金属クロムと溶融クロムを投入することにより、第2の溶融合金鉄のクロムの濃度を増加させることができる。このような過程は、必要に応じて、断続的にまたは連続的に行われてもよい。この際、第2の溶融合金鉄中のクロムの濃度は、約70~80重量%の範囲になるようにすることが好ましい。第2の溶融合金鉄のクロムの濃度が提示された範囲よりも小さな場合には、第2の溶融合金鉄の合湯の量が増加してしまい、その結果、合湯のために製造される溶鋼の出鋼量を減らさなければならないという不都合がある。また、第2の溶融合金鉄のクロムの濃度が提示された範囲よりも大きな場合には、合湯の際に用いられる第2の溶融合金鉄の量は減るのに対し、転炉において生産される溶鋼の量は制限的であるため、合金鋼の全体の生産量が減ってしまうという不都合がある。
このように、第1の溶融合金鉄と第2の溶融合金鉄が用意されれば、第1の保温炉と第2の保温炉において溶鋼と合湯するまで保温または加熱をしながら融点以上の温度に維持してもよい。この際、第1の保温炉に貯留された第1の溶融合金鉄と第2の保温炉に貯留された第2の溶融合金鉄は、一回の合湯量よりも多い量が貯留されてもよく、これを通じて、必要に応じて合湯過程を連続的に行うことができる。
【0031】
次いで、転炉の精錬済みの溶鋼が用意(S160)されれば、溶鋼と合湯する前に第1の保温炉に貯留された第1の溶融合金鉄と第2の保温炉に貯留された第2の溶融合金鉄とを混合容器に排出して混合することにより、マンガンとクロムを含有する第3の溶融合金鉄を製造(S130)することができる。ここで、マンガンを含有する第1の溶融合金鉄は、大気との接触により窒素を吸収しやすいため、混合容器に第2の溶融合金鉄を排出した上で、第1の溶融合金鉄を排出することにより、大気との接触時間を最小化することがよい。
【0032】
第3の溶融合金鉄は、マンガンを含有する第1の溶融合金鉄と、クロムを含有する第2の溶融合金鉄とを混合して製造してもよい。この際、第3の溶融合金鉄の全体の重量に対して、第1の溶融合金鉄と第2の溶融合金鉄は、約1.5:1~5:1の重量比を有するように混合されることがよい。これは、第3の溶融合金鉄中のマンガンとクロムとの成分比が約6:1~14:1になるような数値である。このようにして製造された第3の溶融合金鉄と溶鋼とを一定の割合にて合湯すれば、25重量%以上、例えば、約25~50重量%のマンガンと、3重量%以上、例えば、約3~10重量%のクロムとを含有する合金鋼を製造することができる。例えば、溶鋼と第3の溶融合金鉄とを合湯して製造される合金鋼の全体の重量に対して、約20~30重量%の第3の溶融合金鉄を合湯すれば、提示された範囲のマンガン及びクロムの含量を有する合金鋼を製造することができる。
【0033】
第1の溶融合金鉄と第2の溶融合金鉄とを混合して第3の溶融合金鉄を製造した後、第3の溶融合金鉄中のマンガンとクロムの含量または濃度を測定(S140)する。
そして、測定結果を分析(S150)して、分析結果に基づいて、第1の溶融合金鉄と第2の溶融合金鉄のうちの少なくともどちらか一方を第3の溶融合金鉄にさらに投入して所望の成分を有する第3の溶融合金鉄を製造することがよい。例えば、第3の溶融合金鉄の成分を測定し、その測定結果を分析して、第3の溶融合金鉄中のマンガンの含量が足りない場合には、第3の溶融合金鉄に第1の溶融合金鉄をさらに投入して第3の溶融合金鉄の成分を調整する。なお、測定結果を分析して第3の溶融合金鉄中のクロムの含量が足りない場合には、第3の溶融合金鉄に第2の溶融合金鉄をさらに投入して第3の溶融合金鉄の成分を調整することがよい。
【0034】
このような方法を用いて第3の溶融合金鉄の成分を調整した後、第3の溶融合金鉄と溶鋼とを合湯して合金鋼を製造すれば、以降の昇温工程(LF;ladle furnace)や脱ガス工程において合金鋼の成分を調整するために合金鉄をさらに投入しなくても済む。
次いで、第3の溶融合金鉄中のマンガン及びクロムの含量が目標の数値に調整されれば、溶鋼と第3の溶融合金鉄とを合湯してマンガン及びクロムの濃度が調整された合金鋼を製造(S170)してもよい。すなわち、転炉を傾動させて溶鋼を合湯容器に出鋼し、混合容器を傾動させて第3の溶融合金鉄を合湯容器に排出する。この際、溶鋼と第3の溶融合金鉄は、合湯容器に落下する力により均一に混合されるこよができる。
【0035】
合金鋼が製造されれば、昇温工程を経て脱ガス工程を行って、合金鋼中の水素成分や窒素成分を取り除いてもよい。この過程は、必要に応じて行うものであり、省略してもよい。
次いで、合金鋼は鋳造設備に運ばれて、鋳片、鋼板などを鋳造する上で用いられる。
このように、本発明においては、互いに異なる成分を有する溶融合金鉄をそれぞれ別々に製造した後、これらの溶融合金鉄を製造しようとする合金鋼の成分に適するように混合した後、溶鋼と合湯して合金鋼を製造するので、後続工程において合金鋼の成分を調整するために合金鉄をさらに投入する必要がない。したがって、合金鉄をさらに投入することにより起こる合金鋼の温度の落ち込みや大気との接触による汚れを極力抑えることができる。なお、合金鉄の成分の調整にかかる時間を短縮して工程効率及び生産性を向上させることができる。
【0036】
以上、本発明について、添付図面と前述した好適な実施形態を参照して説明したが、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲により限定される。よって、この技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲の技術的思想から逸脱しない範囲内において本発明を種々に変形及び修正することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の実施形態に係る合金鋼の製造方法は、溶鋼の転炉の終点温度を低減して転炉の精錬に際してリンの制御能を向上させることにより、合金鋼中のリンの濃度を制御するための2次精錬時間を短縮して工程効率及び生産性を向上させることができる。
図1
図2