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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/10 20160101AFI20220517BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20220517BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20220517BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20220517BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220517BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20220517BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
B60W20/10 ZHV
B60K6/485
B60K6/543
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L50/16
F02D29/06 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2016251353
(22)【出願日】2016-12-26
(65)【公開番号】P2018103743
(43)【公開日】2018-07-05
【審査請求日】2019-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝井 祐
(72)【発明者】
【氏名】千速 健太
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174159(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156392(WO,A1)
【文献】特開2013-043478(JP,A)
【文献】特開2011-037409(JP,A)
【文献】特開2015-231276(JP,A)
【文献】特開2015-006887(JP,A)
【文献】特開2004-108167(JP,A)
【文献】特開2016-094161(JP,A)
【文献】特開2000-224713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 10/30
B60W 20/00 - 20/50
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
F02D 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関に連結され走行用の動力を発生するモータと、を備え、前記モータの回転時に前記内燃機関が前記モータに連れ回るハイブリッド車両であって、
前記内燃機関の運転を停止して前記モータの動力により走行するEV走行時に、前記EV走行を禁止して前記内燃機関の動力により走行するエンジン走行に移行する条件が成立した場合であっても、要求トルクが、車両の安定性を確保するための走行トルクの制限を超える場合は前記EV走行を継続し、
前記EV走行を継続した場合に、前記内燃機関の回転数が低くなり、前記内燃機関を燃料噴射により始動することができなくなることが予測される場合、
前記EV走行を禁止して前記内燃機関の動力により走行するエンジン走行に移行する条件が成立した場合に、前記EV走行を継続せず前記内燃機関の動力により走行するエンジン走行を実施する制御部を備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記制御部は、
前記EV走行を継続した場合に前記EV走行に関わる部品を保護できなくなることが予測される場合は、
前記EV走行を禁止して前記内燃機関の動力により走行するエンジン走行に移行する条件が成立した場合に、前記EV走行を継続せず前記内燃機関の動力により走行するエンジン走行を実施することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド車両にあっては特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載のハイブリッド車両は、車両がコースト走行するときに電動機から内燃機関の出力軸または車軸に回転駆動力を付与することとしている。また、特許文献1に記載のハイブリッド車両は、コースト走行時における、電動機の出力の大きさまたは電動機から回転駆動力を付与するか否かを、車両の速度、車両の減速度若しくは路面の勾配、内燃機関の出力軸と車軸との間に介在する変速機の変速比のうちの少なくとも一つに応じて変更するようにしている。
【0003】
特許文献1に記載のハイブリッド車両によれば、コースト走行時のエネルギ効率をより一層向上でき、ドライバビリティの良化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-094161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のものにあっては、コースト走行時に内燃機関への燃料噴射を再開した際に、燃料噴射の再開に伴うエンジントルクの発生により大きなトルク上昇が発生する。このため、特許文献1に記載のものは、スタビリティ制御装置等からの要求によりトルク制限が必要な場合に、トルク制限値を超えてしまい、車両の安定性を損なう可能性があるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、車両の安定性を確保することができるハイブリッド車両を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内燃機関と、前記内燃機関に連結され走行用の動力を発生するモータと、を備え、前記モータの回転時に前記内燃機関が前記モータに連れ回るハイブリッド車両であって、前記内燃機関の運転を停止して前記モータの動力により走行するEV走行時に、前記EV走行を禁止して前記内燃機関の動力により走行するエンジン走行に移行する条件が成立した場合であっても、要求トルクが、車両の安定性を確保するための走行トルクの制限を超える場合は前記EV走行を継続し、前記EV走行を継続した場合に、前記内燃機関の回転数が低くなり、前記内燃機関を燃料噴射により始動することができなくなることが予測される場合、前記EV走行を禁止して前記内燃機関の動力により走行するエンジン走行に移行する条件が成立した場合に、前記EV走行を継続せず前記内燃機関の動力により走行するエンジン走行を実施する制御部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように上記の本発明によれば、車両の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両の構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両のECUの動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両におけるトルク制限要求があるときの車両状態の推移を説明するタイミングチャートである。
図4図4は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両におけるトルク制限要求がないときの車両状態の推移を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両は、内燃機関と、内燃機関に連結され走行用の動力を発生するモータと、を備え、モータの回転時に内燃機関がモータに連れ回るハイブリッド車両であって、内燃機関の運転を停止してモータの動力により走行するEV走行時に、EV走行を禁止する条件が成立した場合であっても、トルク制限を要求されている場合はEV走行を継続する制御部を備えることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両は、車両の安定性を確保することができる。
【実施例
【0011】
以下、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両について図面を用いて説明する。図1から図4は、本発明の一実施例に係るハイブリッド車両を説明する図である。
【0012】
図1に示すように、ハイブリッド車両10は、エンジン20と、トランスミッション30と、車輪12と、ハイブリッド車両10を総合的に制御するECU(Electronic Control Unit)50と、とを含んで構成される。本実施例におけるエンジン20は本発明における内燃機関を構成する。本実施例におけるECU50は、本発明における制御部を構成する。
【0013】
エンジン20には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン20は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。エンジン20には、図示しない燃焼室に空気を導入する吸気管22が設けられている。
【0014】
吸気管22にはスロットルバルブ23が設けられており、スロットルバルブ23は、吸気管22を通過する空気の量(吸気量)を調整する。スロットルバルブ23は、図示しないモータにより開閉される電子制御スロットルバルブからなる。スロットルバルブ23は、ECU50に電気的に接続されており、ECU50によりそのスロットルバルブ開度が制御される。
【0015】
エンジン20には、図示しない吸気ポートを介して燃焼室に燃料を噴射するインジェクタ24と、燃焼室の混合気を点火する点火プラグ25と、が気筒ごとに設けられている。インジェクタ24および点火プラグ25は、ECU50に電気的に接続されている。インジェクタ24の燃料噴射量および燃料噴射タイミング、点火プラグ25の点火時期および放電量は、ECU50により制御される。
【0016】
エンジン20にはクランク角センサ27が設けられており、このクランク角センサ27は、クランク軸20Aの回転位置に基づいてエンジン回転数を検出し、検出信号をECU50に送信する。
【0017】
トランスミッション30は、エンジン20から伝達された回転を変速して、ドライブシャフト11を介して車輪12を駆動するようになっている。トランスミッション30は、図示しないトルクコンバータ、変速機構およびディファレンシャル機構を備えている。
【0018】
トルクコンバータは、エンジン20から伝達された回転を作動流体の作用によりトルクに変換することでトルクの増幅を行う。トルクコンバータには図示しないロックアップクラッチが設けられている。ロックアップクラッチの解放時は、エンジン20と変速機構との間で作動流体を介して動力が相互に伝達される。ロックアップクラッチの係合時は、エンジン20と変速機構との間でロックアップクラッチを介して直接的に動力が伝達される。
【0019】
変速機構は、CVT(Continuously Variable Transmission)から構成されており、金属ベルトが巻掛けられた1組のプーリにより無段階に自動で変速を行う。トランスミッション30における変速比の変更、およびロックアップクラッチの係合または解放は、ECU50により制御される。
【0020】
なお、変速機構は、遊星歯車機構を用いて段階的に変速を行う自動変速機(いわゆるステップAT)であってもよい。ディファレンシャル機構は、左右のドライブシャフト11に連結されており、変速機構で変速された動力を左右のドライブシャフト11に差動回転可能に伝達する。
【0021】
また、トランスミッション30は、AMT(Automated Manual Transmission)であってもよい。AMTは、平行軸歯車機構からなる手動変速機にアクチュエータを追加して自動で変速を行うようにした自動変速機である。トランスミッション30がAMTである場合、トランスミッション30にはトルクコンバータに代えて乾式単板クラッチが設けられる。
また、トランスミッション30は、DCT(Dual Clutch Transmission )であってもよい。DCTは、有段自動変速機の一種で、2系統のギアを有し、それぞれにクラッチを有する。
【0022】
ハイブリッド車両10はアクセル開度センサ13Aを備えており、このアクセル開度センサ13Aは、アクセルペダル13の操作量(以下、単に「アクセル開度」という)を検出し、検出信号をECU50に送信する。
【0023】
ハイブリッド車両10はブレーキストロークセンサ14Aを備えており、このブレーキストロークセンサ14Aは、ブレーキペダル14の操作量(以下、単に「ブレーキストローク」という)を検出し、検出信号をECU50に送信する。
【0024】
ハイブリッド車両10は車速センサ12Aを備えており、この車速センサ12Aは、車輪12の回転速度に基づく車速を検出し、検出信号をECU50に送信する。なお、車速センサ12Aの検出信号は、ECU50または他のコントローラにおいて、車速に対する各車輪12のスリップ率を演算する際に用いられる。
【0025】
ハイブリッド車両10はスタータ26を備えている。スタータ26は、図示しないモータと、このモータの回転軸に固定されたピニオンギヤとを備えている。一方、エンジン20のクランク軸20Aの一端部には円盤状のドライブプレートが固定されており、このドライブプレートの外周部にはリングギヤが設けられている。スタータ26は、ECU50の指令によりモータを駆動し、ピニオンギヤをリングギヤと噛合わせてリングギヤを回転させることで、エンジン20を始動する。このように、スタータ26は、ピニオンギヤとリングギヤとからなる歯車機構を介してエンジン20を始動する。
【0026】
ハイブリッド車両10はISG(Integrated Starter Generator)40を備えている。ISG40は、エンジン20を始動する始動装置と、電力を発電する発電機とを統合した回転電機である。ISG40は、外部からの動力により発電する発電機の機能と、電力が供給されることで動力を発生する電動機の機能とを有する。ISG40は、本発明におけるモータを構成している。
【0027】
ISG40は、プーリ41、クランクプーリ21およびベルト42とからなる巻掛け伝動機構を介してエンジン20に連結されており、エンジン20との間で相互に動力伝達を行う。より詳しくは、ISG40は回転軸40Aを備えており、この回転軸40Aにはプーリ41が固定されている。エンジン20のクランク軸20Aの他端部にはクランクプーリ21が固定されている。クランクプーリ21とプーリ41にはベルト42が掛け渡されている。なお、巻掛け伝動機構としては、スプロケットとチェーンを用いることもできる。
【0028】
ISG40は、電動機として駆動することで、クランク軸20Aを回転させてエンジン20を始動する。ここで、本実施例のハイブリッド車両10は、エンジン20の始動装置としてISG40とスタータ26とを備えている。スタータ26はドライバの始動操作に基づくエンジン20の冷機始動に主に用いられ、ISG40はアイドリングストップからのエンジン20の再始動に主に用いられる。
【0029】
ISG40はエンジン20の冷機始動も可能であるが、ハイブリッド車両10は、エンジン20の確実な冷機始動のためにスタータ26を備えている。例えば、寒冷地の冬期等において潤滑油の粘度増加によりISG40の動力ではエンジン20の冷機始動が困難である場合、またはISG40が故障する場合があり得る。このような場合を考慮し、ハイブリッド車両10はISG40とスタータ26の両方を始動装置として備えている。
【0030】
ISG40の力行により発生する動力は、エンジン20のクランク軸20A、トランスミッション30、ドライブシャフト11を介して、車輪12に伝達される。
【0031】
また、車輪12の回転は、ドライブシャフト11、トランスミッション30、エンジン20のクランク軸20Aを介して、ISG40に伝達され、ISG40における回生(発電)に用いられる。
【0032】
したがって、ハイブリッド車両10は、エンジン20の動力(エンジントルク)のみによる走行(以下、エンジン走行ともいう)だけでなく、ISG40の動力(モータトルク)によりエンジン20をアシストする走行を実現できる。
【0033】
さらに、ハイブリッド車両10は、エンジン20への燃料噴射を非噴射としてエンジン20の運転を停止した状態で、ISG40の動力のみで走行(以下、EV走行ともいう)することができる。なお、EV走行中は、ISG40によりエンジン20が連れ回される。
【0034】
このように、ハイブリッド車両10は、エンジン20の動力とISG40の動力との少なくとも一方の動力を用いて走行可能なパラレルハイブリッドシステムを構成している。
【0035】
ハイブリッド車両10は、第1電源としての鉛バッテリ71と、第2電源としてのLiバッテリ72とを備えている。鉛バッテリ71およびLiバッテリ72は、充電可能な二次電池からなる。鉛バッテリ71およびLiバッテリ72は、約12Vの出力電圧を発生するようにセルの個数等が設定されている。
【0036】
鉛バッテリ71は電極に鉛を用いた鉛蓄電池からなる。Liバッテリ72は、正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで放電と充電を行うリチウムイオン二次電池からなる。
【0037】
鉛バッテリ71は、Liバッテリ72と比較して、短時間であればより大きな電流を放電可能な特性を有する。
【0038】
Liバッテリ72は、鉛バッテリ71と比較して、より多くの回数充放電を繰り返し可能な特性を有する。また、Liバッテリ72は、鉛バッテリ71と比較して、短い時間で充電が可能であるという特性を有する。また、Liバッテリ72は、鉛バッテリ71と比較して、高出力かつ高エネルギー密度であるという特性を有する。
【0039】
鉛バッテリ71には充電状態検出部71Aが設けられており、この充電状態検出部71Aは、鉛バッテリ71の端子間電圧、周辺温度や入出力電流を検出し、検出信号をECU50に出力する。ECU50は、鉛バッテリ71の端子間電圧、周辺温度や入出力電流により充電状態を検出する。
【0040】
Liバッテリ72には充電状態検出部72Aが設けられており、この充電状態検出部72Aは、Liバッテリ72の端子間電圧、周辺温度や入出力電流を検出し、検出信号をECU50に出力する。ECU50は、Liバッテリ72の端子間電圧、周辺温度や入出力電流により充電状態を検出する。鉛バッテリ71およびLiバッテリ72の充電状態(SOC)はECU50によって管理される。
【0041】
ハイブリッド車両10は、鉛バッテリ負荷16とLiバッテリ負荷17とを電気負荷として備えている。
【0042】
鉛バッテリ負荷16は、主に鉛バッテリ71から電力が供給される電気負荷である。鉛バッテリ負荷16は、車両の横滑りを防止するスタビリティ制御装置、操舵輪の操作力を電気的にアシストする図示しない電動パワーステアリング制御装置、ヘッドライトおよびブロアファン等を含んでいる。また、鉛バッテリ負荷16には、例えば、図示しないワイパー、および、図示しないラジエータに冷却風を送風する電動クーリングファンが含まれる。鉛バッテリ負荷16は、Liバッテリ負荷17と比較して電力を多く消費する電気負荷、または一時的に使用される電気負荷である。
【0043】
Liバッテリ負荷17は、主にLiバッテリ72から電力が供給される電気負荷である。Liバッテリ負荷17は、図示しないインストルメントパネルのランプ類およびメータ類並びにカーナビゲーションシステムも含んでいる。Liバッテリ負荷17は、鉛バッテリ負荷16と比較して電力消費量が少ない電気負荷である。
【0044】
ハイブリッド車両10は切換え部60を備えており、切換え部60は、鉛バッテリ71、Liバッテリ72、鉛バッテリ負荷16、Liバッテリ負荷17およびISG40の間の電力供給状態を切換える。切換え部60は、メカニカルリレーまたは半導体リレー(SSR:Solid State Relayともいう)等から構成されており、ECU50により制御される。
【0045】
切換え部60には、電力ケーブル61、62、63、64が接続されている。電力ケーブル61は、切換え部60、鉛バッテリ71、鉛バッテリ負荷16およびスタータ26を並列に接続している。電力ケーブル62は、切換え部60とLiバッテリとを接続している。電力ケーブル63は、切換え部60とLiバッテリ負荷17と接続している。電力ケーブル64は、切換え部60とISG40とを接続している。
【0046】
したがって、鉛バッテリ負荷16およびスタータ26は、鉛バッテリ71から電力が常時供給される。一方、Liバッテリ負荷17に対しては、Liバッテリ72または鉛バッテリ71の少なくとも一方から電力が供給されるように、電力供給状態が切換えられるようになっている。また、ISG40に対しては、Liバッテリ72または鉛バッテリ71の一方から電力が供給されるように、電力供給状態が切換えられるようになっている。
【0047】
ECU50は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0048】
このコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECU50として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例におけるECU50として機能する。
【0049】
ECU50の入力ポートには、前述のクランク角センサ27、アクセル開度センサ13A、ブレーキストロークセンサ14A、車速センサ12A、充電状態検出部71A、72Aを含む各種センサ類が接続されている。
【0050】
ECU50の出力ポートには、スロットルバルブ23、インジェクタ24、点火プラグ25、切換え部60、ISG40およびスタータ26などの各種装置類を含む各種制御対象類が接続されている。ECU50は、各種センサ類から得られる情報に基づいて、各種制御対象類を制御する。
【0051】
ECU50は、EV走行を許可するための所定のEV条件が成立すると、ISG40の駆動トルクによりハイブリッド車両10を駆動させるEV走行を行なわせる。EV条件には、例えば、鉛バッテリ71およびLiバッテリ72のSOCが所定値より大きいこと、アクセル開度が「0」であること等が含まれる。
【0052】
ECU50は、EV走行中に、EV走行を禁止する所定のEV禁止条件が成立した場合、エンジン20への燃料噴射を開始してエンジン20を始動し、エンジン走行を行なわせる。EV禁止条件には、例えば、アクセルペダル13の踏み込み(アクセルオン)が検出されたこと、EV走行時間が所定の時間を超えたこと、Liバッテリ72のSOCが所定値を下回ったこと、Liバッテリ72の温度が所定温度を超えたこと等が含まれる。
【0053】
ここで、EV禁止条件の成立によりエンジン20への燃料噴射を開始する際に、スタビリティ制御装置等からトルク制限を要求されている場合、燃料噴射の開始時のエンジントルクの急増により、走行トルクがトルク制限値を超えてしまうことがある。
【0054】
トルク制限は、スタビリティ制御装置等において、車両がスリップするおそれがある等、安定した走行ができなくなると判断された場合に要求される。したがって、トルク制限を超えた場合は車両の安定性が確保されなくなるおそれがある。
【0055】
そこで、ECU50は、EV走行時に、EV走行を禁止する条件が成立した場合であっても、トルク制限を要求されている場合はEV走行を継続するようになっている。
【0056】
また、ECU50は、EV走行を継続した場合に不都合が予想される場合は、EV走行を継続せず、エンジン走行を実施するようになっている。
【0057】
詳しくは、ECU50は、EV走行を継続した場合にエンジン20を燃料噴射により始動することができなくなることが予測される場合は、EV走行を継続せず、エンジン走行を実施する。
【0058】
例えば、EV走行を継続した結果、ISG40に連れ回りするエンジン20のエンジン回転数が低くなり、エンジン20を燃料噴射により始動することができなくなった場合、エンジンストールが発生するおそれがある。
【0059】
エンジンストールが発生した場合、運転を停止したエンジンを始動するためにドライバがイグニッションキー等により始動操作をする必要がある。したがって、エンジン20を燃料噴射により始動することができなくなることが予測される場合は、ECU50は、EV走行を継続せず、エンジン走行を実施する。
【0060】
また、ECU50は、EV走行を継続した場合にEV走行に関わる部品を保護できなくなることが予測される場合は、EV走行を継続せず、エンジン走行を実施する。ここで、EV走行に関わる部品とは、例えば、Liバッテリ72、ISG40である。
【0061】
ECU50は、例えば、EV走行を継続した結果、ISG40に電力を供給するLiバッテリ72のSOCが過放電防止用の閾値を下回ってしまうことが予想される場合、Liバッテリ72を保護するため、EV走行を継続せず、エンジン走行を実施する。または、ECU50は、EV走行を継続した結果、ISG40の温度が過熱防止用の閾値を超えてしまうことが予想される場合、ISG40を保護するため、EV走行を継続せず、エンジン走行を実施する。
【0062】
以上のように構成されたハイブリッド車両10のECU50の動作について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
【0063】
図2において、ECU50は、ステップS1でEV走行を実施しているか否かを判別する。ECU50は、EV走行を実施していると判別するまでステップS1を繰り返す。
【0064】
ECU50は、ステップS2でEV禁止条件が成立したか否かを判別する。ECU50は、EV禁止条件が成立したと判別するまでステップS2を繰り返す。
【0065】
ECU50は、ステップS1でEV走行を実施していると判別し、ステップS2でEV禁止条件が成立したと判別した場合、ステップS3で次に示す条件の少なくとも一方が成立しているかを判別する。
(1)エンジンストップが予測される。
(2)部品の保護が必要である。
【0066】
ECU50は、ステップS3に含まれる条件の何れも成立していない場合、ステップS4でトルク制限要求が出ているか否かを判別する。トルク制限要求が出ている場合、ECU50は、ステップS5に進み、EV走行を継続する。
【0067】
一方、ステップS3に含まれる条件の少なくとも一方が成立している場合、および、ステップS4でトルク制限要求が出ていないと判別した場合、ECU50は、ステップS6に進み、エンジン走行を実施する。
【0068】
図3のタイミングチャートを参照し、トルク制限要求があるときの車両状態の推移を説明する。
【0069】
ハイブリッド車両10は、時刻t10においてエンジン走行により一定の車速で走行しており、時刻t11において、アクセルオフにされたことで、エンジン20の燃料カットおよびISG40の回生を実施してコースト走行に移行する。
【0070】
その後、ハイブリッド車両10は、時刻t12において、エンジン20の運転を停止し、EV走行によるコースト走行に移行する。
【0071】
その後、ハイブリッド車両10は、時刻t13において、トルク制限要求のある状態でEV禁止条件が成立したため、EV走行を継続する。
【0072】
図4のタイミングチャートを参照し、トルク制限要求がないときの車両状態の推移を説明する。
【0073】
時刻t20から時刻t23の期間は、前述のトルク制限要求があるときの時刻t10から時刻t13の期間と同じである。ハイブリッド車両10は、時刻t23において、トルク制限要求のない状態でEV禁止条件が成立したため、エンジン20への燃料噴射を実施し、エンジン走行に移行する。
【0074】
以上のように、本実施例に係るハイブリッド車両10は、エンジン20の運転を停止してISG40の動力により走行するEV走行時に、EV走行を禁止する条件が成立した場合であっても、トルク制限を要求されている場合はEV走行を継続するECU50を備える。
【0075】
これにより、EV走行時にEV走行を禁止する条件が成立した場合であっても、トルク制限を要求されている場合はEV走行が継続されるので、燃料噴射の復帰に伴ってエンジン20からエンジントルクが発生することがない。このため、トルクの上昇により車両の安定性が損なわれるのを防止できる。この結果、車両の安定性を確保することができる。
【0076】
また、本実施例に係るハイブリッド車両10において、ECU50は、EV走行を継続した場合にエンジン20を燃料噴射により始動することができなくなることが予測される場合は、EV走行を禁止する条件が成立した場合に、EV走行を継続せずエンジン20の動力により走行するエンジン走行を実施する。
【0077】
これにより、EV走行を継続した場合に、エンジン20を燃料噴射により始動することができなくなってエンジン20が停止するのを防止できる。また、運転を停止したエンジンを始動するためにドライバがイグニッションキー等により始動操作をするのを不要にできる。
【0078】
また、本実施例に係るハイブリッド車両10において、ECU50は、EV走行を継続した場合にEV走行に関わる部品を保護できなくなることが予測される場合は、EV走行を禁止する条件が成立した場合に、EV走行を継続せずエンジン20の動力により走行するエンジン走行を実施する。
【0079】
これにより、EV走行に関わる部品を保護することができる。
【0080】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0081】
10 ハイブリッド車両
20 エンジン(内燃機関)
40 ISG(モータ)
50 ECU(制御部)
図1
図2
図3
図4