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特許7073655洗浄剤組成物原液、及び該洗浄剤組成物原液を含む洗浄剤組成物
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  • 特許-洗浄剤組成物原液、及び該洗浄剤組成物原液を含む洗浄剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物原液、及び該洗浄剤組成物原液を含む洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/26 20060101AFI20220517BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20220517BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20220517BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20220517BHJP
   C23G 5/036 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/50
B08B3/08 Z
C23G5/036
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017179165
(22)【出願日】2017-09-19
(65)【公開番号】P2019052277
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕一
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/024141(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/027673(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/021700(WO,A1)
【文献】特開2009-298940(JP,A)
【文献】特開平07-331287(JP,A)
【文献】特開2007-224165(JP,A)
【文献】特開2015-178599(JP,A)
【文献】特開平05-051599(JP,A)
【文献】特開平09-263792(JP,A)
【文献】特開2013-129815(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124151(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
B08B 3/00-3/14
C23G 1/00-5/06
H01L 21/304
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が10重量%以下の疎水性グリコールエーテル化合物(A)、
沸点が200℃以上のアミノアルコール化合物(B)、
沸点が200℃以上であって、オクタノール/水分配係数(logP)が0未満の下記一般式(1)で表される化合物(C)、及び
水(D)の4成分を含み、
重量比率は、洗浄剤組成物原液100重量部に対して、成分(A)が50~90重量部、成分(B)が3~30重量部、成分(C)が5~40重量部、成分(D)が1~10重量部である洗浄剤組成物原液であり、
成分(A)が、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテルのいずれか一種以上であり、
成分(B)が、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、及びN-N-ジブチルエタノールアミンのいずれか一種以上であり、
成分(C)が、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びジプロピレングリコールのいずれか一種以上であり、
該洗浄剤組成物原液100重量部に対して100~1500重量部の水を混合させた洗浄剤組成物が、1~90℃において白濁状態となることを特徴とする洗浄剤組成物原液。
[化1]
(1)
(R1は水素か炭素数1~3のアルキル基、R2は水素かメチル基、nは1~4の整数)
【請求項2】
さらに、成分(B)100重量部に対して、沸点が200℃以上の有機酸(E)を20~100重量部含む、請求項1に記載の洗浄剤組成物原液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の洗浄剤組成物原液100重量部に対して、100~1500重量部の水を含む洗浄剤組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の洗浄剤組成物が、フラックス除去用である、請求項3に記載の洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤組成物原液、及び該洗浄剤組成物原液を含む洗浄液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の電子部品や合金製部品単体を洗浄する際は、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、塩化メチレン等の塩素系溶剤が用いられていた。これらの塩素系溶剤は、不燃性で乾燥性に優れるという利点があるが、人体に対する毒性、土壌汚染などの環境問題などの理由から、現在ではその使用が制限されている。
【0003】
これに対し、本出願人は、これまでに塩素系溶剤の代替洗浄剤としてグリコールエーテル系溶剤、界面活性剤、水を含む非ハロゲン系の準水系洗浄剤を提案してきた(特許文献1~3参照)。この準水系洗浄剤は、ロジン・樹脂等の油溶性の汚れ、及び活性剤・塩等の水溶性の汚れへの洗浄性に優れ、さらに引火点が無く、臭気及び被洗浄物への影響等が低いため、各種電子部品のフラックス洗浄に用いられている。
【0004】
近年、さらなる環境負荷の低減のため、グリコールエーテル系溶剤を水で希釈した水希釈型洗浄剤が提案されている(特許文献4~6参照)。通常の水希釈型洗浄剤の組成は、洗浄時において、洗浄有効成分である有機物成分が20~40重量%程度、水が60~80重量%程度である。準水系洗浄剤と比較して、水希釈型洗浄剤は水の重量比率が大きいので、低コスト化、有機物成分の使用量の削減、VOC(volatile organic compounds)排出の抑制により、環境負荷の軽減が期待できる。また、汚れの種類に応じて、該有機物成分の比率を変化させて、洗浄力を調整できる点が優れている。
【0005】
水希釈型洗浄剤は、水希釈後の洗浄剤組成物の懸濁状態の観点から、均一系(特許文献4参照)、加温白濁系(特許文献5参照)、完全白濁系(特許文献6参照)に分類できる 。均一系は、1~90℃において外観が透明な洗浄剤組成物であり、加温白濁系は曇点を有する洗浄剤組成物であって、曇点よりも低い温度においては外観が透明で、曇点以上の温度においては白濁状態となるものであり、完全白濁系は、1~90℃において外観が白濁状態となる洗浄剤組成物である。水希釈型洗浄剤は、水の配合量が多くなると、前記有機物成分の比率が低下して油溶性の汚れ成分を十分に除去できなくなり、洗浄性が十分でない場合があるが、完全白濁系の水希釈型洗浄剤は、均一系及び加温白濁系に比べて、一般的に油溶性の汚れを除去する能力が高く十分な洗浄性を有している。
【0006】
水希釈型洗浄剤は、蒸気圧や揮発速度の関係から、時間が経過するにつれて水が前記有機物成分より先に揮発していき、該有機物成分の濃度が変化していく。該有機物成分の濃度が小さすぎると洗浄不良を引き起こし、該有機物成分の濃度が大きすぎると水希釈型の特長を活かすことができないため、水希釈型洗浄剤では、一定時間毎に該有機物成分の濃度を測定する必要がある。該有機物成分の濃度測定としては、一般的に、安価で作業性に優れた屈折率計を用いる方法が行われているが、前記完全白濁系の水希釈型洗浄剤においては、該屈折率計による該有機物成分の濃度測定が困難な問題があった。
【0007】
また、水希釈型洗浄剤は、水希釈する時機の観点より、希釈品(特許文献4、及び5参照)と原液品(特許文献6参照)にも分類でき、希釈品は水希釈後の洗浄剤組成物を輸送及び保管して使用するが、原液品は洗浄剤組成物原液を輸送及び保管して、使用直前に水で希釈して使用する。原液品は、希釈品と比較して前記有機物成分を効率的に輸送及び保管できる点で優れているが、一般的に消防法で危険物に分類されるため、取り扱い性に課題があった。
【0008】
このように、従来の水希釈型洗浄剤は、均一系と加温白濁系は油溶性の汚れを除去する能力が不足しており、完全白濁系は洗浄有効成分である前記有機物成分の濃度管理に問題があった。また、該水希釈型洗浄剤の希釈品は輸送及び保管効率に、原液品は取り扱い性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-73893号公報
【文献】特開平7-97596号公報
【文献】特開平8-073893号公報
【文献】国際公開WO2011/027673号公報
【文献】特開2013-181060号公報
【文献】特開2007-224165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、油溶性の汚れと水溶性の汚れの両方に対して優れた洗浄性を示し、洗浄有効成分である有機物成分の濃度管理が容易であり、コスト及び環境負荷を低減した水希釈型洗浄剤が得られる、非危険物で取り扱いが容易な洗浄剤組成物原液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、所定の疎水性グリコール化合物、所定のアミノアルコール化合物、オクタノール/水分配係数が特定値である所定の化合物及び水を特定の重量比で含み、水で希釈したときの洗浄剤組成物が1~90℃で白濁状態となる洗浄剤組成物原液によって、前記課題を解決できることを見出した。即ち本発明は、以下の洗浄剤組成物原液、及びこれを含む洗浄剤組成物に関する。
【0012】
1.沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が10重量%以下の疎水性グリコールエーテル化合物(A)、
沸点が200℃以上のアミノアルコール化合物(B)、
沸点が200℃以上であって、オクタノール/水分配係数(logP)が0未満の下記一般式(1)で表される化合物(C)、及び
水(D)の4成分を含み、
重量比率は、成分(A)が50~90重量部、成分(B)が3~30重量部、成分(C)が5~40重量部、成分(D)が1~10重量部である洗浄剤組成物原液であり、
該洗浄剤組成物原液100重量部に対して100~1500重量部の水を混合させた洗浄剤組成物が、1~90℃において白濁状態となることを特徴とする洗浄剤組成物原液。
[化1]
(1)

(式中、R1は水素又は炭素数1~3のアルキル基、R2は水素又はメチル基を示す。nは、1~4の整数を示す)
【0013】
2.さらに、成分(B)100重量部に対して、沸点が200℃以上の有機酸(E)を20~100重量部含む、前記項1に記載の洗浄剤組成物原液。
【0014】
3.前記項1又は2に記載の洗浄剤組成物原液100重量部に対して、100~1500重量部の水を含む洗浄剤組成物。
【0015】
4.前記項3に記載の洗浄剤組成物が、フラックス除去用である、前記項3に記載の洗浄剤組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の洗浄剤組成物原液は、洗浄に有効な有機物成分が濃縮されているため、効率良く輸送、保管ができる。そして、本発明の洗浄剤組成物原液及び洗浄剤組成物は、高沸点の有機物成分に水を含有したものであるため、いずれも消防法の非危険物に分類され、取り扱いが容易で作業性に優れる。
【0017】
本発明の洗浄剤組成物原液を水で希釈した洗浄剤組成物は、完全白濁系であるため洗浄性が優れている。本発明の洗浄剤組成物は、主成分が水であるため、コスト及び環境負荷が低減されたものとなり、さらに水の希釈比率を高くしても優れた洗浄性を維持できる。また、本発明の洗浄液組成物は、完全白濁系であるにも関わらず、洗浄有効成分である有機物成分の濃度を簡易に測定することができ、濃度管理が容易である。さらに、本発明の洗浄剤組成物は、汚れ成分が含まれていても洗浄性を維持できるので、液寿命が長いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1、11、及び比較例6の洗浄剤組成物X~Zより得られる検量線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の洗浄剤組成物原液(以下、原液ともいう)は、所定の疎水性グリコール化合物(A)(以下(A)成分)、所定のアミノアルコール化合物(B)(以下(B)成分)、オクタノール/水分配係数が特定値である所定の化合物(C)(以下(C)成分)、及び水(D)(以下(D)成分)を特定の重量比で含み、水で希釈したときの洗浄剤組成物(以下、洗浄剤組成物)が1~90℃で白濁状態となる組成物である。
【0020】
(A)成分は、沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が10重量%以下の疎水性グリコールエーテル化合物であれば、特に限定されない。沸点が200℃未満であると、原液の引火性が高くなるので危険であり、作業性の点で問題がある。20℃における水への溶解度が10重量%を超えると、洗浄剤組成物の親水性が高くなって、十分な洗浄性が得られない。20℃における水への溶解度は、洗浄剤組成物に適度な疎水性を付与して優れた洗浄性を発揮する点で、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは0.5~5重量%の範囲である。
【0021】
(A)成分の具体例としては、例えば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル等が挙げられる。これら化合物は1種を単独でまたは2種以上を適宜に組合せて使用できる。その中でも、洗浄性が特に良好であるという点から、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテルのいずれか一種以上が好ましく、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。
【0022】
(B)成分は、沸点が200℃以上のアミノアルコール化合物であれば、特に限定されない。沸点が200℃未満であると、原液の引火性が高くなるので危険であり、作業性の点で問題がある。(B)成分は、油溶性の汚れが水に溶解するのを補助している。詳細は不明だが、(B)成分の水溶液は弱塩基性を示すため、油溶性の汚れ分子に含まれる官能基(カルボキシル基等)の一部をイオン又は塩に変換して、油溶性の汚れを水に溶けるようにすることで、該汚れに対する洗浄剤組成物の洗浄性を向上させると推定される。また、(B)成分によって、油溶性の汚れが洗浄剤組成物に一定量存在しても洗浄性を維持できるので、洗浄剤組成物の液寿命が長くなる。その結果、洗浄剤組成物の全量交換頻度が低減するため、コスト及び環境負荷を低減できる。
【0023】
(B)成分の具体例としては、例えば、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、N-シクロヘキシルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-(β-アミノエチル)イソプロパノールアミン、N-N-ジブチルエタノールアミン、N,N-ジブチルプロパノールアミン等が挙げられる。これら化合物は1種を単独でまたは2種以上を適宜に組合せて使用できる。その中でも、洗浄性が良好であるという点から、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、及びN-N-ジブチルエタノールアミンのいずれか一種以上が好ましく、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミンがより好ましい。
【0024】
(C)成分は、沸点が200℃以上であって、オクタノール/水分配係数(logP)が0未満の下記一般式(1)で表される化合物であれば、特に限定されない。沸点が200℃未満であると、原液の引火性が高くなるので危険であり、作業性の点で問題がある。
[化1]
(1)

(式中、R1は水素又は炭素数1~3のアルキル基、R2は水素又はメチル基を示す。nは、1~4の整数を示す)
【0025】
前記オクタノール/水分配係数(logP)は、有機化合物の水と1-オクタノールに対する親和性を示す係数である。1-オクタノール/水分配係数P(又はPow、Kow)は、1-オクタノールと水の2液相の溶媒に微量の化合物が溶質として溶け込んだときの分配平衡で、それぞれの溶媒中における化合物の平衡濃度の比であり、底10に対するそれらの対数logPの形で示すのが一般的である。有機化合物のlogPが0未満ならば、油/水の二相系に有機化合物が溶け込んだとき、水相における濃度が高いことを示し、logPが0以上ならば、油相における濃度が高いことを示す。
【0026】
多くの化合物のlogP値(又はlogPow、logKow)が報告されており、デイライトケミカルインフォメーションシステムズ社(Daylight Chemical Information Systems,Inc.)から入手可能なポモナ(Pomona)92データベース、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」のWEBサイトで公開されているGHS対応モデルラベル・モデルSDS情報、国立医薬品食品衛生研究所のWEBサイトで公開されている国際化学物質安全性カード(ICSC)等のデータベースには多くの値が掲載されており、参照できる。さらに、有機化合物のlogP値は、JIS Z7260-107(2000)又はJIS Z7260-117(2006)に準拠して測定することでも得られる。
【0027】
本発明の洗浄剤組成物は、原液に(C)成分を含むことで、完全白濁系の洗浄剤組成物でありながら、洗浄有効成分である有機物成分の濃度を屈折率計で測定できる。屈折率計による該濃度の測定は、有機物成分の濃度と洗浄剤の屈折率が相関関係にあることを利用して、測定対象の洗浄剤の屈折率を測定し、予め作成しておいた検量線を用いて該屈折率から該濃度を算出する。該検量線は、有機物成分が既知濃度の洗浄剤について屈折率を測定し、該濃度と該屈折率をプロットして作成する。
【0028】
しかしながら、従来の完全白濁系の洗浄剤組成物では、前記検量線作成のため有機物成分の濃度を変えて屈折率を測定しても、該屈折率の測定値がほとんど変化しないため、得られる検量線の傾き(洗浄剤組成物の屈折率の変化量/洗浄剤組成物の濃度の変化量)は小さいものであった。検量線の傾きが小さいと、該検量線を用いて屈折率から濃度を算出する場合に、該屈折率の測定精度に対して高い精度での濃度の算出が困難であったので、完全白濁系の洗浄剤組成物は、屈折率計による濃度測定が困難であることが知られていた。
【0029】
本発明者は、鋭意検討の結果、前記屈折率は、実際には洗浄剤組成物の水相での前記有機物成分の濃度に相関することを見出した。そして、従来の完全白濁系の洗浄剤組成物では、該有機物成分が水相にほとんど存在しないため、該洗浄剤組成物全体の濃度を変えても水相の濃度変化はほとんど無く、水相の濃度に相関する該屈折率もほとんど変化しないので、前記検量線の傾きは小さくなると推察した。
【0030】
本発明者は前記推察を元に検討した結果、洗浄剤組成物が前記オクタノール/水分配係数(logP)が0未満の(C)成分を含むことで、完全白濁系でも十分な傾きを有する前記検量線が得られることを見出し、屈折率計による前記有機物成分の濃度測定を可能にした。その詳細は不明だが、前記オクタノール/水分配係数(logP)が0未満の(C)成分は、油/水の二相系において水相に行きやすい性質を有するため、洗浄剤組成物の水相に(A)及び(B)成分を伴って移動し、結果として、該水相に有機物成分の一部が存在するようになり、洗浄剤組成物全体の濃度に応じて前記屈折率が変化するようになると推察する。(C)成分の前記オクタノール/水分配係数(logP)は、屈折率計による濃度測定が容易になる点で、-0.5以下の値であるのが好ましい。該オクタノール/水分配係数(logP)が0以上であれば、該検量線の傾きが小さくなるため、本発明の洗浄剤組成物において屈折率計による濃度測定が困難になる。
【0031】
(C)成分の具体例としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。これら化合物は1種を単独でまたは2種以上を適宜に組合せて使用できる。その中でも、屈折率計による濃度測定が特に容易となる点から、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びトリエチレングリコールモノメチルエーテルのいずれか一種以上が好ましい。
【0032】
(D)成分は、水であれば特に限定されず、例えば、超純水、純水、イオン交換水、精製水等が挙げられる。
【0033】
本発明の洗浄剤組成物原液において、(A)成分の配合量は、原液100重量部に対して50~90重量部程度である。50重量部未満では、洗浄剤組成物の疎水性が弱くなって汚れに対する洗浄性が十分に発揮できず、90重量部を超えると、洗浄剤組成物の濃度測定が困難となる。(B)成分の配合量は、原液100重量部に対して3~30重量部程度である。3重量部未満では、洗浄剤組成物の液寿命が短くなり、30重量部を超えると、原液及び洗浄剤組成物の臭気が強くなり作業環境が悪くなる。(C)成分の配合量は、原液100重量部に対して5~40重量部程度である。5重量部未満では、白濁状態の洗浄剤組成物の濃度測定が困難となり、40重量部を超えると、洗浄剤組成物の洗浄性が十分に発揮できない問題がある。(D)成分の配合量は、原液100重量部に対して1~10重量部程度である。1重量部未満では、原液の引火性が高くなるため作業性の点から危険であり、10重量部を超えると、原液が水層と油層の二層に分離して洗浄剤組成物原液の製造が困難となる。各成分の好ましい配合量は、(A)成分が60~80重量部程度、(B)成分が5~20重量部程度、(C)成分が10~20重量部程度、(D)成分が3~7重量部程度である。
【0034】
本発明の洗浄剤組成物原液及び洗浄剤組成物には、被洗浄物に含まれる金属材料の腐食を抑制する目的で、沸点が200℃以上の有機酸(E)(以下、(E)成分)を含めることができる。被洗浄物の一部では、アルミ等の腐食しやすい金属が基材及び部品に使用されており、洗浄剤組成物による該金属への腐食抑制が要求されることがある。原液に(E)成分を含むことで、金属腐食の原因とされる(B)成分と相互作用し、洗浄剤組成物による該金属の腐食を抑制する効果がある。(E)成分は、沸点が200℃以上の有機酸であれば、特に限定されない。沸点が200℃未満であると、原液の引火性が高くなるので危険であり、作業性の点で問題がある。
【0035】
(E)成分の具体例としては、例えば、サリチル酸、乳酸、安息香酸、p-トルエンスルホン酸、ブチルリン酸、ジブチルリン酸等が挙げられる。これら化合物は1種を単独でまたは2種以上を適宜に組合せて使用できる。その中でも、洗浄剤組成物の他の成分との相溶性が特に良好である点、及び金属の腐食を抑制できる点から、サリチル酸、乳酸が好ましい。
【0036】
(E)成分の配合量は、(B)成分100重量部に対して、20~100重量部程度であることが好ましい。20重量部未満では、洗浄剤組成物が塩基性となって金属の腐食を抑制できず、100重量部を超えると、(B)成分と油溶性の汚れとの相互作用を阻害するので、洗浄剤組成物の液寿命が短くなる。
【0037】
本発明の洗浄剤組成物原液において、(A)~(D)成分、又は(A)~(E)成分の配合方法は、特に限定されず、一般的な液体の混合方法が用いられる。具体的な配合方法としては、攪拌法が挙げられる。
【0038】
本発明の洗浄剤組成物原液は、(A)~(E)成分以外に、本発明の所期の効果を損なわない程度において、その他成分を含むこともできる。その他成分としては、沸点が200℃以上の有機溶剤、添加剤が挙げられる。該有機溶剤の具体例としては、ベンジルアルコール、4-メチルベンジルアルコール等のアルコール化合物が挙げられる。該添加剤の具体例としては、沸点が200℃以上の防錆剤、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、キレート剤等が挙げられる。該防錆剤の具体例としては、キレスライトP-18T(キレスト(株)製)が挙げられ、該界面活性剤の具体例としては、プライサーフA215C(第一工業製薬(株)製)が挙げられる。
【0039】
本発明の洗浄剤組成物は、(A)~(D)成分を含む洗浄剤組成物原液、又は(A)~(E)成分を含む洗浄剤組成物原液100重量部に対して、100~1500重量部程度の水を混合させることで得られる。100重量部未満では、洗浄剤組成物のコスト及び環境負荷が高くなって、水希釈型洗浄剤の特長を活かすことができない問題があり、1500重量部を超えると、十分な洗浄性が得られないので、洗浄不良を引き起こす場合がある。水の配合量は、洗浄剤組成物のコスト及び環境負荷が低減できて、十分な洗浄性が得られる点から200~1200重量部程度が好ましく、400~900重量部程度がより好ましい。
【0040】
本発明の洗浄剤組成物は、洗浄剤組成物原液と水とを混合させることにより、その外観は1~90℃において白濁状態となる。本発明の洗浄剤組成物は、油滴が水中に分散した白濁状態にすることにより、油溶性の汚れと水溶性の汚れの両方に対して優れた洗浄性を発揮する。洗浄剤組成物原液及び水の混合方法は特に限定されず、一般的な液体の混合方法が用いられる。具体的な混合方法としては、攪拌法が挙げられる。
【0041】
本発明の洗浄剤組成物原液及び洗浄剤組成物は、高沸点の有機物成分に水を含むものであるため、引火点を有さず消防法の非危険物に分類され、取り扱いが容易で作業性に優れる。
【0042】
本発明の洗浄剤組成物は、油溶性及び水溶性の汚れに対して洗浄性が優れている点で、フラックス除去用であることが好ましい。フラックスは、電子部品のハンダ付け工程において、ハンダ及び母材表面の酸化膜の除去、あるいはハンダ及び母材表面の再酸化を防止し、十分なハンダ付け性を得る目的で使用される。しかしながら、フラックスは腐食性であり、ハンダ付け後に母材表面に残ったフラックス残渣は、電子部品を実装した基板の品質を低下させる。そのため、フラックス残渣、すなわちフラックスは洗浄除去する場合がある。また、フラックス塗布で使用する器具・装置においても、繰り返しの使用によりフラックス残渣が蓄積するので、該器具・装置のフラックス残渣も洗浄除去する。フラックス残渣の具体例としては、ロジン又はロジン誘導体が主成分のロジン系フラックス、ポリオール系樹脂が主成分の水溶性フラックス等のフラックスが挙げられ、さらにフラックスとその他の成分を混合したもの、例えば、フラックスとはんだ金属粉を混合したソルダーペーストも挙げられる。
【0043】
本発明の洗浄剤組成物を用いた被洗浄物の洗浄方法は、特に限定されず、各種公知の方法が適用できる。例えば、洗浄工程と水すすぎ工程と乾燥工程とを含む洗浄方法が挙げられる。該洗浄工程とは、該洗浄剤組成物に被洗浄物を接触させてフラックスを除去する工程である。該水すすぎ工程とは、被洗浄物をすすぎ水に接触させて被洗浄物に付着した洗浄剤組成物を除去する工程である。該乾燥工程とは、被洗浄物に付着したすすぎ水を除去する工程である。
【0044】
被洗浄物に、本発明の洗浄剤組成物及びすすぎ水を接触させる手段は特に限定されず、例えば、浸漬撹拌法、液中シャワー法、気中シャワー法、超音波洗浄法等が挙げられる。本発明の洗浄剤組成物は、混合して白濁状態にすることで、優れた洗浄性を発揮するので、洗浄剤組成物を混合する力が強く、洗浄性・生産性が優れている点から、気中シャワー法が好ましい。
【実施例
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「%」及び「部」は特に断りのない限り「重量%」、「重量部」を意味する。
【0046】
[実施例1]
ジプロピレングリコールモノブチルエーテル80部((A)成分)、N-n-ブチルジエタノールアミン5部((B)成分)、ジエチレングリコール10部((C)成分)、水5部((D)成分)を混合して洗浄剤組成物原液を調製した。そして、前記洗浄剤組成物原液100部に対して、水を400部添加し、洗浄剤組成物X(洗浄剤組成物原液の濃度20重量%)を調製した。また、前記洗浄剤組成物原液100部に対して、水を567部添加し、洗浄剤組成物Y(洗浄剤組成物原液の濃度15重量%)を調製した。さらに、前記洗浄剤組成物原液100部に対して、水を900部添加し、洗浄剤組成物Z(洗浄剤組成物原液の濃度10重量%)を調製した。
【0047】
実施例2~17及び比較例1~9は、各成分を表1及び表2で示されるものに変更した他は、実施例1と同様に調製した。なお、表1及び表2中の値の単位は、重量部である。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1の各成分の略称、沸点(℃)、及び20℃における水への溶解度(重量%)、並びに、(C)成分及び(c)成分のオクタノール/水分配係数(logP)は、表3に示すとおりである。なお、表3のlogP値は、GHS対応モデルラベル・モデルSDS情報(厚生労働省「職場のあんぜんサイト」WEBサイト)及び国際化学物質安全性カード(ICSC)(国立医薬品食品衛生研究所のWEBサイト)から参照した値である。
【0051】
【表3】
【0052】
実施例1~17及び比較例1~9で得られた洗浄剤組成物原液を用いて、引火点を測定した。また、実施例1~17及び比較例1~9で得られた洗浄剤組成物Xを用いて、外観、洗浄性、及び液寿命を評価した。また、実施例2、3で得られた洗浄剤組成物Xについては、腐食抑制性の評価も行った。結果を、表4に示す。
【0053】
【表4】
表4中の注釈は、以下の通りである。
1)洗浄剤組成物Xの曇点は46℃である。
【0054】
[評価試験1:引火点の測定]
表1の洗浄剤組成物原液の引火点を、JIS K 2265に準拠し、引火点が室温から80℃の範囲はタグ密閉式により測定し、80℃迄で引火点が測定できなかった場合は、クリーブランド開放式にて測定を実施した
【0055】
[評価試験2:外観の評価]
表2の洗浄剤組成物Xを50mLのガラス容器に入れ、撹拌しながら1℃/minの昇温速度で1℃から90℃まで加温し、洗浄剤組成物の外観を以下の判定基準に基づき目視判定した。
完全白濁:1℃~90℃で常に白濁している。
均一 :1℃~90℃で常に完全相溶状態(透明)である。
加温白濁:洗浄剤組成物が曇点を有しており、曇点よりも低い温度では完全相溶状態
(透明)であり、曇点以上の温度では白濁する。
【0056】
[評価試験3:洗浄性の評価]
(洗浄性試験のテストピースの作製)
ガラスエポキシ銅張積層板(50×50×厚さ1.0mm)の銅パターン上に、メタルマスクを用いて市販の鉛フリーソルダーペースト(商品名「エコソルダーM-705-GRN360-K2-V」、千住金属工業(株)製)を印刷し、以下のプロファイルでリフローすることで、フラックスが付着した試験基板を作製した。
【0057】
(試験基板のリフロープロファイル)
雰囲気:空気
昇温速度:2℃/秒
プレヒート:180℃、80秒
ピーク温度:260℃、60秒
【0058】
(洗浄性試験)
前記の試験基板を用いて、以下の洗浄及び水すすぎの条件で、気中シャワー法による洗浄性試験を行った。液温が60℃の表2の洗浄液組成物Xに、試験基板を接触させて30秒、あるいは1分間洗浄を行った。次いで、液温が25℃のすすぎ水に、試験基板を接触させて1分間前すすぎを行った。更に、イオン交換水の流水で1分間仕上げすすぎを行った。その後、試験基板を1分間エアーブローし、水分を除去して乾燥を行った。乾燥した後の試験基板表面上のフラックス除去度について、以下の判定基準に基づき目視判定した。
◎:洗浄時間が30秒の場合と、1分間の場合の両方において、フラックスを良好に除
去できた(フラックス残渣の表面積は0%)。
○:洗浄時間が30秒の場合に、フラックスが残存したが、洗浄時間が1分間の場合に、フラックスを良好に除去できた(フラックス残渣の表面積は0%)。
△:洗浄時間が1分間の場合に、若干フラックスが残存した(フラックス残渣の表面積は0%を超えて10%以下)。
×:洗浄時間が1分間の場合に、かなりフラックスが残存した(フラックス残渣の表面積は10%を超える)。
【0059】
(気中シャワー法による洗浄及び水すすぎの条件)
流量:2.3L/分
圧力:0.1MPa
噴射ノズルと試験基板の距離:50cm
【0060】
[評価試験4:液寿命の評価]
市販の鉛フリーソルダーペースト(商品名「エコソルダーM-705-GRN360-K2-V」、千住金属工業(株)製)10gをガラス瓶に仕込み、これを270℃に熱したホットプレート上で加熱溶融させた後、冷却し、ソルダーペーストから分離したフラックス残渣を採取した。表2の洗浄液組成物X100部に対して、該フラックス残渣を0.5部溶解させた洗浄液組成物を用いて、評価試験3と同様の洗浄性の評価を行った。判定基準が◎又は○の場合には、汚れ成分のフラックスを含んでいても洗浄剤組成物の洗浄性は維持されているので、液寿命が長いことを示す。
【0061】
[評価試験5:腐食抑制性の評価]
液温が60℃の表2実施例2、3の洗浄液組成物Xに、浸漬撹拌条件下で、アルミ製テストパネル(日本テストパネル、A1050P)を10分間接触させた。次いで、イオン交換水の流水で1分間仕上げすすぎを行った。その後、試験基板を1分間エアーブローし、水分を除去して乾燥を行った。乾燥した後のアルミ製テストパネルの腐食について、以下の判定基準に基づき目視判定した。
○:アルミ製テストパネルに変色又は外観変化が無し。
×:アルミ製テストパネルに変色又は外観変化が有り。
【0062】
実施例1~17及び比較例1~9で得られた洗浄剤組成物X~Zを用いて、洗浄剤組成物における濃度管理容易性を評価した。洗浄剤組成物の屈折率の平均値、得られた検量線の傾きの値と併せて、結果を表5に示す。
【0063】
【表5】
表5中の注釈は、以下の通りである。
1)洗浄剤組成物原液の濃度は10重量%である。
2)洗浄剤組成物原液の濃度は15重量%である。
3)洗浄剤組成物原液の濃度は20重量%である。
【0064】
[評価試験6:濃度管理容易性の評価]
(洗浄剤組成物の屈折率の測定)
温度25℃の条件下で、屈折率計(LB20T、広州市速為電子科技社製、測定精度±0.2brix%)を用いて、表2の洗浄液組成物X~Zの屈折率(brix%換算値)を測定した。屈折率の測定は3回行い以下の式(2)で平均値を算出した。

平均値=(1回目の測定値+2回目の測定値+3回目の測定値)/3 (2)
※小数点以下第二位は四捨五入した。
【0065】
(検量線の作成)
表2の実施例1~17、比較例1~9で得られた各種の洗浄剤組成物(洗浄剤組成物X~Z)に関して、x-y平面上のx軸に洗浄剤組成物原液の重量パーセント濃度(10、15、20重量%)、y軸に前記屈折率の平均値をプロットして、それぞれ検量線を作成した。一例として、実施例1、11、及び比較例6における検量線を図1に示す。
【0066】
(濃度管理容易性の評価)
前記で得られた検量線の傾きから、以下の判定基準に基づき濃度管理容易性を判定した。
○:洗浄剤組成物原液の濃度が10~20wt%における検量線の傾きの値が0.10以上である。
×:洗浄剤組成物原液の濃度が10~20wt%における検量線の傾きの値が0.10よりも小さい。
図1を参照すると、傾きが0.10以上である実施例1の検量線では、屈折率計の前記測定精度(±0.2brix%)により屈折率が5.8~6.2の範囲で変動すると、濃度は13.5~16.5重量%の範囲で算出される。一方、傾きが0.10未満である比較例6の検量線では、屈折率が4.8~5.2の範囲で変動すると、濃度は10.0~20.0重量%の範囲で算出される。即ち、検量線の傾きが0.10未満であると、高い精度での濃度の算出が困難であることがわかる。



















図1