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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】伝達トルク制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20220517BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20220517BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
F16D48/02 640D
F16H59/68
F16H61/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017183757
(22)【出願日】2017-09-25
(65)【公開番号】P2019060365
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 英由季
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-107829(JP,A)
【文献】特開昭63-6226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/00-48/12
F16H 59/68
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の駆動トルクを駆動輪へ伝達するトルク伝達部と、
前記内燃機関の駆動トルクを前記内燃機関から前記トルク伝達部へ入力する入力軸と、
前記内燃機関の駆動トルクを前記トルク伝達部から前記駆動輪へ出力する出力軸と、を備える車両に搭載され、
前記トルク伝達部における前記入力軸から前記出力軸へのトルク伝達状態を制御する制御部を備える伝達トルク制御装置であって、
前記トルク伝達部は、クラッチと、前記クラッチを油圧により断接するクラッチ用アクチュエータとを有し、前記クラッチ用アクチュエータには前記クラッチ用アクチュエータの作動油の油路を切り替えるクラッチソレノイドが設けられ、
前記クラッチソレノイドは通電により電磁石として機能するコイルを有し、
前記車両はさらに前記コイルの温度を検出又は推測する温度取得部を備え、
前記制御部は、
前記入力軸と前記出力軸との回転数の差が所定差回転数となるように前記トルク伝達部を制御するスリップ制御と、
前記入力軸と前記出力軸との回転数が同一になるように前記トルク伝達部を制御する完全締結制御とを有し、
前記コイルの温度に基づいて、
前記コイルの温度が所定温度を超えている場合、前記完全締結制御から前記スリップ制御へ切り替え、前記コイルの温度が所定温度以下の場合、前記スリップ制御から前記完全締結制御へ切り替えることを特徴とする伝達トルク制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記完全締結制御から前記スリップ制御へ切り替えた際に、前記スリップ制御において、所定の最大値を限度として、前記コイルの温度が高くなるほど、前記所定差回転数を徐々に増加させることを特徴とする請求項1に記載の伝達トルク制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記完全締結制御から前記スリップ制御へ切り替えた際に、前記スリップ制御において、所定の最大値を限度として、時間の経過とともに、前記所定差回転数を徐々に増加させることを特徴とする請求項1に記載の伝達トルク制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝達トルク制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の伝達トルク制御装置にあっては、トルク配分電磁クラッチ駆動用のソレノイドへの通電量の制限値を一律にせず、安定性が大きく損なわれる可能性の少ない通常走行時には小さくし、運転状態が例えば急発進時のように比較的一過性の時には大きくしている(特許文献1参照)。これにより、特許文献1に記載のものは、車両の運転状態に応じてソレノイドの過熱を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-286376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、自動変速機においては、一定車速での定常走行時には、クラッチを完全に締結させる完全締結制御、又はクラッチを滑らせるスリップ制御が実施される。
【0005】
完全締結制御を実施するときは、クラッチの入力軸回転数と出力軸回転数とが同一になり、電動オイルポンプの使用頻度を抑制でき、燃費を向上させることができる。
【0006】
スリップ制御を実施するときは、クラッチの差回転数が所定差回転数に設定され、エンジンと自動変速機との間に要求される必要最低限のクラッチ伝達トルクとすることができ、通電量を抑制できる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のものにあっては、コイル温度の上昇時にクラッチ伝達トルクを制限すると、エンジンの駆動力を伝達するための十分なクラッチ伝達トルクとならず、伝達トルクを制限しない場合と比較して車両の駆動力が減少し走行性能が悪化してしまう。
【0008】
また、クラッチ伝達トルクを制限すると、エンジンの発生するトルクよりもクラッチ伝達トルクが小さくなることでエンジンが吹け上がり、運転手に不快感を与えてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、走行性能を維持でき、トルク伝達部の温度上昇を抑制できる伝達トルク制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、内燃機関と、前記内燃機関の駆動トルクを駆動輪へ伝達するトルク伝達部と、前記内燃機関の駆動トルクを前記内燃機関から前記トルク伝達部へ入力する入力軸と、前記内燃機関の駆動トルクを前記トルク伝達部から前記駆動輪へ出力する出力軸と、を備える車両に搭載され、前記トルク伝達部における前記入力軸から前記出力軸へのトルク伝達状態を制御する制御部を備える伝達トルク制御装置であって、前記トルク伝達部は、クラッチと、前記クラッチを油圧により断接するクラッチ用アクチュエータとを有し、前記クラッチ用アクチュエータには前記クラッチ用アクチュエータの作動油の油路を切り替えるクラッチソレノイドが設けられ、前記クラッチソレノイドは通電により電磁石として機能するコイルを有し、前記車両はさらに前記コイルの温度を検出又は推測する温度取得部を備え、前記制御部は、前記入力軸と前記出力軸との回転数の差が所定差回転数となるように前記トルク伝達部を制御するスリップ制御と、前記入力軸と前記出力軸との回転数が同一になるように前記トルク伝達部を制御する完全締結制御とを有し、前記コイルの温度に基づいて、前記コイルの温度が所定温度を超えている場合、前記完全締結制御から前記スリップ制御へ切り替え、前記コイルの温度が所定温度以下の場合、前記スリップ制御から前記完全締結制御へ切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走行性能を維持でき、トルク伝達部の温度上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施例に係る駆動制御装置を搭載する車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る駆動制御装置の構成図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る駆動制御装置のクラッチ制御切り替え動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、図3のステップS4のスリップ制御の詳細を説明するフローチャートである。
図5図5は、本発明の一実施例に係る駆動制御装置による完全締結制御からスリップ制御への切り替え態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施の形態に係る伝達トルク制御装置は、内燃機関と、内燃機関の駆動トルクを駆動輪へ伝達するトルク伝達部と、内燃機関の駆動トルクを内燃機関からトルク伝達部へ入力する入力軸と、内燃機関の駆動トルクをトルク伝達部から駆動輪へ出力する出力軸と、を備える車両に搭載され、トルク伝達部における入力軸から出力軸へのトルク伝達状態を制御する制御部を備える伝達トルク制御装置であって、トルク伝達部の温度を検出又は推測する温度取得部を備え、制御部は、トルク伝達部の温度に基づいて、入力軸と出力軸との回転数の差が所定差回転数となるようにトルク伝達部を制御するスリップ制御と、入力軸と出力軸との回転数が同一になるようにトルク伝達部を制御する完全締結制御と、の一方から他方へ切り替えることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る伝達トルク制御装置は、走行性能を維持でき、トルク伝達部の温度上昇を抑制できる。
【実施例
【0014】
以下、本発明の一実施例に係る伝達トルク制御装置について図面を用いて説明する。図1において、車両1は、内燃機関としてのエンジン6と、エンジン6の駆動トルクを駆動輪55、56へ伝達するトルク伝達部2と、エンジン6の駆動トルクをエンジン6からトルク伝達部2へ入力する入力軸3と、エンジン6の駆動トルクをトルク伝達部2から駆動輪55、56へ出力する出力軸21と、を備えている。
【0015】
また、車両1は、トルク伝達部2と駆動輪55、56との間に、自動変速機20及びディファレンシャル装置50を備えている。さらに、車両1は、トルク伝達部2における入力軸3から出力軸21へのトルク伝達状態を制御する制御部としてのECU45を備えている。
【0016】
エンジン6には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン6は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0017】
自動変速機20は、トルク伝達部2を介してエンジン6から伝達された回転を変速し、ドライブシャフト53、54を介して駆動輪55、56を駆動するようになっている。
【0018】
自動変速機20は、AMT(Automated Manual Transmission)として構成されている。AMTとは、手動変速機をベースに、変速操作及びクラッチ操作をアクチュエータにより自動で行うようにしたものである。
【0019】
自動変速機20は、平行軸歯車機構からなる変速機構を備えている。詳しくは、自動変速機20は、1速ギヤ列23、2速ギヤ列24、3速ギヤ列25及び4速ギヤ列26等を有しており、出力軸21の動力を異なる変速比に変速してアウトプットシャフト22に伝達するようになっている。
【0020】
また、自動変速機20は、出力軸21と平行に配置されるアウトプットシャフト22を備えており、アウトプットシャフト22は、変速機構で変速された回転を出力する。
【0021】
自動変速機20において、出力軸21の入力端側(エンジン6側)に、1速ギヤ列23、2速ギヤ列24、3速ギヤ列25及び4速ギヤ列26が順次配置されている。また、駆動輪55、56の回転方向を逆転させるリバース用ギヤ列は図示することを割愛している。なお、自動変速機20は、駆動輪55、56の回転方向を逆転させる図示しないリバース用ギヤを有している。
【0022】
1速ギヤ列23は、出力軸21に回転自在に支持された1速入力ギヤ31と、この1速入力ギヤ31に噛合しアウトプットシャフト22に固定された1速出力ギヤ32とからなる。
【0023】
2速ギヤ列24は、出力軸21に回転自在に支持された2速入力ギヤ33と、この2速入力ギヤ33に噛合しアウトプットシャフト22に固定された2速出力ギヤ34とからなる。
【0024】
3速ギヤ列25は、出力軸21に回転自在に支持された3速入力ギヤ35と、この3速入力ギヤ35に噛合しアウトプットシャフト22に固定された3速出力ギヤ36とからなる。
【0025】
4速ギヤ列26は、出力軸21に回転自在に支持された4速入力ギヤ37と、この4速入力ギヤ37に噛合しアウトプットシャフト22に固定された4速出力ギヤ38とからなる。アウトプットシャフト22の出力端には出力ギヤ(終減速駆動ギヤ)39が固定されている。
【0026】
自動変速機20は、出力軸21上の1速入力ギヤ31と2速入力ギヤ33との間に第1同期装置41を有している。第1同期装置41は、1速ギヤ列23又は2速ギヤ列24を出力軸21に連結して一体回転させることで、1速段又は2速段を形成する。
【0027】
自動変速機20は、出力軸21上の3速入力ギヤ35と4速入力ギヤ37との間に第2同期装置42を有している。第2同期装置42は、3速ギヤ列25又は4速ギヤ列26を出力軸21に連結して一体回転させることで、3速段又は4速段を形成する。
【0028】
自動変速機20は、油圧により駆動する同期装置用アクチュエータ43を備えている。同期装置用アクチュエータ43は、1速段と2速段との切換動作を行うよう第1同期装置41を操作する。
【0029】
また、同期装置用アクチュエータ43は、3速段と4速段との切換動作を行うよう第2同期装置42を操作する。このように、同期装置用アクチュエータ43は1速、2速、3速又は4速の何れかの変速段への変速操作を行う。
【0030】
詳しくは、自動変速機20には図示しないシフトセレクトシャフト及び複数のシフトフォークが設けられており、シフトセレクトシャフトは複数のシフトフォークに連結されている。
【0031】
シフトセレクトシャフトの端部は同期装置用アクチュエータ43に連結されており、同期装置用アクチュエータ43は、シフトセレクトシャフトをその回動軸の軸線方向に移動するセレクト動作を行うことで、第1同期装置41又は第2同期装置42を操作対象として選択する。
【0032】
そして、同期装置用アクチュエータ43は、シフトセレクトシャフトを回動させるシフト動作を行うことで、シフトフォークを介して第1同期装置41又は第2同期装置42を操作する。
【0033】
同期装置用アクチュエータ43にはシフトソレノイド72及びセレクトソレノイド73が設けられている。シフトソレノイド72及びセレクトソレノイド73は、ECU45からの指令により同期装置用アクチュエータ43内の作動油の油路を切り替える。
【0034】
シフトソレノイド72は、同期装置用アクチュエータ43がシフト動作を行うように油路を切り替える。セレクトソレノイド73は同期装置用アクチュエータ43がセレクト動作を行うように油路を切り替える。
【0035】
トルク伝達部2は、クラッチ4と、このクラッチ4を油圧により断接するクラッチ用アクチュエータ5とを有している。
【0036】
クラッチ4は、互いに対向するクラッチディスク4A、4Bからなる。クラッチディスク4Aは入力軸3に連結されており、クラッチディスク4Bは出力軸21に連結されている。
【0037】
クラッチ4が切断(開放)されているとき、入力軸3と出力軸21との間で動力が伝達されない。クラッチ4が接続(締結)されているとき、入力軸3と出力軸21との間で動力が伝達され、エンジン6の動力が自動変速機20を経て駆動輪55、56へと伝達され、車両1が走行する。
【0038】
本実施例において、クラッチ4は湿式多板式のクラッチからなる。また、クラッチ4は、いわゆるノーマリオープン式のクラッチであり、クラッチ用アクチュエータ5により操作されていないときは開放されるようになっている。
【0039】
クラッチ用アクチュエータ5は、油圧によりクラッチディスク4A、4Bを互いに係合する方向に移動させるようになっている。クラッチ用アクチュエータ5は、ECU45に電気的に接続されており、ECU45により制御される。
【0040】
クラッチ用アクチュエータ5にはクラッチソレノイド71が設けられている。クラッチソレノイド71は、ECU45からの指令によりクラッチ用アクチュエータ5の作動油の油路を切り替える。
【0041】
クラッチソレノイド71は、通電により電磁石として機能する図示しないコイルを有している。コイルへの非通電時は、クラッチソレノイド71が非作動状態となり、クラッチソレノイド71からクラッチ4への油圧の供給が行われず、クラッチ4が開放される。
【0042】
コイルへの通電時は、クラッチソレノイド71が作動状態となり、クラッチソレノイド71からクラッチ4へ油圧が供給され、クラッチ4が締結される。
【0043】
車両1は電動オイルポンプ91を備えており、電動オイルポンプ91は図示しないオイルリザーブタンクに貯留された作動油を昇圧することで所定圧力の油圧を発生し、発生した油圧を同期装置用アクチュエータ43及びクラッチ用アクチュエータ5に供給する。
【0044】
電動オイルポンプ91から同期装置用アクチュエータ43及びクラッチ用アクチュエータ5に至る油路の途中には、アキュムレータ92が設けられている。アキュムレータ92は、電動オイルポンプ91の駆動時に油圧を蓄圧し、電動オイルポンプ91の停止時にクラッチ用アクチュエータ5に油圧を供給する。
【0045】
電動オイルポンプ91はECU45に電気的に接続されており、ECU45により制御される。電動オイルポンプ91の停止時に同期装置用アクチュエータ43及びクラッチ用アクチュエータ5が動作を行うと、アキュムレータ92の圧力が低下する。
【0046】
このため、ECU45は、同期装置用アクチュエータ43及びクラッチ用アクチュエータ5へ供給される油圧が所定圧力に維持されるように電動オイルポンプ91を間欠的に駆動する。このように、自動変速機20は電動油圧式のAMTである。
【0047】
自動変速機20は、クラッチ4を介してエンジン6の動力が入力される出力軸21に加えて、この出力軸21と平行に配置されるアウトプットシャフト22を備えており、アウトプットシャフト22は、エンジン6から受け取って変速させた動力を駆動輪55、56に向けて出力する。
【0048】
この自動変速機20は、1速ギヤ列23、2速ギヤ列24、3速ギヤ列25及び4速ギヤ列26等を有して、出力軸21の動力を異なる変速比に変速してアウトプットシャフト22に伝達する変速機構として構築されている。
【0049】
なお、自動変速機20では、出力軸21の入力端側(エンジン6側)から、1速ギヤ列23、2速ギヤ列24、3速ギヤ列25及び4速ギヤ列26の順番で配置されている。また、駆動輪55、56の回転方向を逆転させるリバース用ギヤ列は図示することを割愛している。
【0050】
1速ギヤ列23は、出力軸21に回転自在に支持された1速入力ギヤ31と、この1速入力ギヤ31に噛合しつつアウトプットシャフト22に固定されている1速出力ギヤ32とからなる。
【0051】
2速ギヤ列24は、出力軸21に回転自在に支持された2速入力ギヤ33と、この2速入力ギヤ33に噛合しつつアウトプットシャフト22に固定されている2速出力ギヤ34とからなる。
【0052】
3速ギヤ列25は、出力軸21に回転自在に支持された3速入力ギヤ35と、この3速入力ギヤ35に噛合しつつアウトプットシャフト22に固定されている3速出力ギヤ36とからなる。
【0053】
4速ギヤ列26は、出力軸21に回転自在に支持された4速入力ギヤ37と、この4速入力ギヤ37に噛合しつつアウトプットシャフト22に固定されている4速出力ギヤ38とからなる。そして、アウトプットシャフト22の出力端には出力ギヤ(終減速駆動ギヤ)39が固定されている。
【0054】
自動変速機20は、出力軸21上の1速入力ギヤ31と2速入力ギヤ33との間に第1同期装置41を有しており、この第1同期装置41は、出力軸21上を軸方向に移動することで、1速ギヤ列23と2速ギヤ列24との間の切り換えを行う。
【0055】
自動変速機20は、出力軸21上の3速入力ギヤ35と4速入力ギヤ37との間に第2同期装置42を有しており、この第2同期装置42は、出力軸21上を軸方向に移動することで、3速ギヤ列25と速ギヤ列26との間の切り替えを行う。
【0056】
自動変速機20は、同期装置用アクチュエータ43を備えている。同期装置用アクチュエータ43は、1速と2速との切換動作を行うよう第1同期装置41を操作する。また、同期装置用アクチュエータ43は、3速と4速との切換動作を行うよう第2同期装置42を操作する。
【0057】
同期装置用アクチュエータ43は、ECU45に接続されており、ECU45によってその駆動が制御されるようになっている。
【0058】
ディファレンシャル装置50は、ギヤケース51と、このギヤケース51に固定されたリングギヤ52とを備えている。リングギヤ52は、自動変速機20のアウトプットシャフト22の出力ギヤ39に噛合している。
【0059】
ギヤケース51の内部には、左右で一対の図示しないサイドギヤが設けられており、一対のサイドギヤにはドライブシャフト53、54の内側端部が連結されている。ドライブシャフト53、54の外側端部は駆動輪55、56と連結されている。
【0060】
自動変速機20から出力された回転は、出力ギヤ39、リングギヤ52を経てギヤケース51に伝達される。ディファレンシャル装置50は、自動変速機20から出力された回転を、ギヤケース51からドライブシャフト53、54を経て駆動輪55、56に作動回転可能に伝達する。
【0061】
ECU45は、図示しないCPU、ROM、RAM、メモリ等を備えており、ROMに格納された各種の制御プログラムを実行することで自動変速機20の変速制御処理等を行う。
【0062】
図2において、車両1は、コイル温度センサ81、入力軸回転数センサ82、出力軸回転数センサ83、シフトセンサ84、セレクトセンサ85及びクラッチ圧センサ86を備えている。これらのセンサはECU45の入力ポートに電気的に接続されている。
【0063】
コイル温度センサ81は、クラッチソレノイド71のコイルの温度を検出し、検出信号をコイル温度としてECU45に出力する。コイル温度センサ81は、クラッチソレノイド71のコイルの近傍に設けられている。
【0064】
なお、コイル温度センサ81によりコイル温度を検出することに代えて、ECU45によりコイル温度を推測する手法を用いてもよい。コイル温度を推測する場合、ECU45は、クラッチソレノイド71への供給電流値及び印加電圧値からクラッチソレノイド71の抵抗値を求める。
【0065】
そして、ECU45は、クラッチソレノイド71の抵抗値とコイル温度との相関を定めたテーブルに基づいて、抵抗値からコイル温度を推測する。このテーブルは予め実験等により求めた上でECU45のROMに記憶するものとする。
【0066】
一例として、コイル温度の推定値としてのコイル推定温度をt[℃]としたとき、ECU45は、t={(Rt-Ro)/αRo}+toの式から、コイル推定温度を算出することができる。ここで、Rtはコイルの抵抗値[Ω]であり、Roは基準温度におけるコイルの抵抗値[Ω]である。また、αはコイルの材料による温度係数であり、toは基準温度(例えば20℃)である。
【0067】
このように、トルク伝達部2の温度(コイル温度)は、コイル温度センサ81により実測した検出値を用いる手法と、クラッチソレノイド71のコイルの抵抗値から推測した推測値を用いる手法との何れかを用いることができる。
【0068】
コイル温度を実測する手法を用いる場合はコイル温度センサ81が本発明における温度取得部を構成する。コイル温度を推測する手法を用いる場合はECU45が本発明における温度取得部を構成する。
【0069】
入力軸回転数センサ82は、入力軸3の回転数を検出し、検出信号を入力軸回転数としてECU45に出力する。出力軸回転数センサ83は、出力軸21の回転数を検出し、検出信号を出力軸回転数としてECU45に出力する。
【0070】
シフトセンサ84は、シフトセレクトシャフトのシフト動作方向(回転方向)の変位を検出し、検出信号をECU45に出力する。セレクトセンサ85は、シフトセレクトシャフトのセレクト動作方向(軸線方向)の変位を検出し、検出信号をECU45に出力する。
【0071】
クラッチ圧センサ86は、クラッチ4におけるクラッチディスク4A、4Bの締結圧力を検出し、検出信号をクラッチ圧としてECU45に出力する。クラッチ圧センサ86はクラッチ4の近傍に設けられている。
【0072】
ECU45の出力ポートには、クラッチソレノイド71、シフトソレノイド72及びセレクトソレノイド73が電気的に接続されている。
【0073】
ECU45は、コイル温度センサ81、入力軸回転数センサ82、出力軸回転数センサ83、シフトセンサ84、セレクトセンサ85及びクラッチ圧センサ86から入力された信号に基づいて、クラッチソレノイド71、シフトソレノイド72及びセレクトソレノイド73を制御し、自動変速機20において変速段を切り替える際の変速操作及びクラッチ操作を行う。
【0074】
本実施例では、ECU45は、クラッチ4を単に完全な締結状態(以下、完全締結状態ともいう)と開放状態とに切り替えるだけでなく、クラッチ4をスリップ状態となるように制御する。このように、ECU45は、トルク伝達部2における入力軸3から出力軸21へのトルク伝達状態を制御する。
【0075】
本実施例では、ECU45は、入力軸3と出力軸21との回転数の差が所定の回転数となるようにトルク伝達部2のクラッチ4を制御するスリップ制御と、入力軸3と出力軸21との回転数が同一になるようにトルク伝達部2のクラッチ4を制御する完全締結制御と、の何れかの制御をトルク伝達部2のクラッチ用アクチュエータ5に対して実施する。
【0076】
完全締結制御において、ECU45は、クラッチ伝達トルクを最大トルクとなる一律の値となるようにクラッチソレノイド71に通電を行う。この場合、クラッチ4で滑りが生じず、エンジン回転数とクラッチ回転数とが一致するので、車両駆動力はエンジントルクで決定される。
【0077】
完全締結制御を実施しているときは、クラッチ圧を調整する必要がなく、クラッチ用アクチュエータ5による作動油の使用量を最小限にすることができる。このため、電動オイルポンプ91の作動頻度を低減でき、電動オイルポンプ91による電流消費量を減少できる。したがって、減少した電流消費量の分だけ発電量を削減でき、燃費性能を向上させることができる。一方で、完全締結制御の実施中は、クラッチソレノイド71への通電電流が大きいため、コイル温度が上昇してクラッチソレノイド71が焼損するおそれがある。
【0078】
ここで、クラッチ伝達トルクがエンジントルクを大きく下回っている場合、エンジントルクのうちクラッチ伝達トルクの分だけしか自動変速機20に伝達することができず、走行性能の低下が引き起こされる。また、この場合、エンジントルクとクラッチ伝達トルクのトルク差がエンジン回転数を上昇させることに費やされ、エンジン6の吹け上がりが引き起こされる。そこで、スリップ制御における差回転数は、走行性能の低下やエンジン6の吹け上がりが発生しないような小さな値に設定されている。
【0079】
スリップ制御において、ECU45は、エンジン回転数とクラッチ回転数の差回転数(入力軸3と出力軸21との回転数の差)が一定値となるクラッチ伝達トルクが発生するように、クラッチソレノイド71に通電を行う。ここで、エンジン回転数は入力軸回転数と等しい回転数である。また、クラッチ回転数は出力軸回転数のことである。
【0080】
ECU45は、入力軸回転数と出力軸回転数との差を上記の差回転数として算出する。この差回転数は小さな値に設定されている。スリップ制御を実施する場合、車速変化のない定常走行状態であれば、エンジントルクとクラッチ伝達トルクとが等しくなり、クラッチ4で大きな滑りが発生することがないので、エンジン6の吹け上がりは発生せず、エンジントルクの全てを駆動輪55、56に伝達することができる。
【0081】
スリップ制御を実施する際、ECU45は、入力軸回転数と出力軸回転数との差回転数を目標値としたフィードバック制御により、クラッチ伝達トルクを算出する。このようにして算出されたクラッチ伝達トルクは、エンジン出力を自動変速機20に伝達可能な必要最低限のトルクとなる。
【0082】
そのため、スリップ制御の実施中は、完全締結制御を実施するときと比較してクラッチソレノイド71への通電電流量を少なくすることができる。また、スリップ制御の実施中は、クラッチ4の差回転数を一定に維持するように制御されるため、差回転数が大きくなってエンジン回転数が大きく吹け上がってしまうことがない。ただし、スリップ制御の実施中は、クラッチ4の差回転数を一定に維持するためにクラッチ4の係合圧の調圧が必要となるため、クラッチソレノイド71で用いられる作動油の量が増加し、電動オイルポンプ91の作動頻度が増加する。
【0083】
このような事情から、本実施例では、ECU45は、コイル温度、すなわちトルク伝達部2の温度に基づいて、スリップ制御と完全締結制御との一方から他方へ切り替えるようになっている。
【0084】
詳しくは、ECU45は、トルク伝達部2の温度が所定温度を超えている場合、完全締結制御からスリップ制御へ切り替え、トルク伝達部2の温度が所定温度以下の場合、スリップ制御から完全締結制御へ切り替える。
【0085】
次に、図3を参照して、本実施例に係る伝達トルク制御装置においてECU40により実行されるクラッチ制御切り替え動作について説明する。このクラッチ制御切り替え動作は、所定の短い周期で繰り返し実行される。
【0086】
図3において、ECU45は、コイル温度センサ81によりクラッチソレノイド71のコイル温度を検出し(ステップS1)、コイル温度が閾値を超えているか否かを判別する(ステップS2)。
【0087】
ステップS2でコイル温度が閾値を超えていない場合、ECU45は、クラッチ4の完全締結制御を実施し(ステップS3)、今回の動作を終了する。この完全締結制御では、ECU45は、クラッチ4が伝達可能な最大トルクとなるように、クラッチ伝達トルクが一律の値に設定される。これにより、クラッチ4が完全締結状態となり、クラッチ4の滑りが発生せず、クラッチ4の入力軸回転数と出力軸回転数とが等しくなる。
【0088】
一方、ステップS2でコイル温度が閾値を超えている場合、ECU45は、クラッチ4のスリップ制御を実施し(ステップS4)、今回の動作を終了する。このステップS4ではECU45は図4に示すサブルーチンを実行する。
【0089】
図4において、ECU45は、入力軸回転数Nin及び出力軸回転数Noutからクラッチ4の差回転数Nsを算出し(ステップS11)、コイル温度より目標差回転数Ntsを算出する(ステップS12)。
【0090】
次いで、ECU45は、目標差回転数Ntsから差回転数Nsを減差することで、これらの差回転数の偏差Errを算出し(ステップS13)、この偏差Errに応じて比例ゲインKp及び積分ゲインKiを設定する(ステップS14)。
【0091】
次いで、ECU45は、クラッチ伝達トルクを算出し、このクラッチ伝達トルクを得る差回転数となるように、クラッチソレノイド71を制御する(ステップS15)。このステップS15では、ECU45は、クラッチ伝達トルクをTclとしたとき、Tcl=Kp・Err+Ki・ΣERRの数式からクラッチ伝達トルクを算出する。
【0092】
このように、ECU45は、クラッチ制御切り替え動作を繰り返し実行することで、コイル温度に基づいて、完全締結制御とスリップ制御との間で切り替えを行っている。
【0093】
ここで、図5を参照し、完全締結制御からスリップ制御へ切り切り替えを行う際の、コイル温度と回転数の差との関係について説明する。
【0094】
図5において、コイル温度が所定温度としての閾値以下の場合、完全締結制御が実施され、入力軸3と出力軸21との回転数の差は発生しない。この状態からコイル温度が上昇して閾値を超えた場合、完全締結制御からスリップ制御への切り替えが行われ、回転数の差が所定差回転数に維持される。本実施例では、エンジン6の吹け上がりが発生しないような小さい値に所定差回転数が設定されているが、スリップ制御の開始時は、入力軸3と出力軸21との回転数の差を所定差回転数まで緩やかに増大させていくことが好ましい。
【0095】
そこで、本実施例では、スリップ制御への際に、コイル温度が高くなるほど、入力軸3と出力軸21との回転数の差を所定差回転数を限度として増加させるようにしている。すなわち、入力軸3と出力軸21との回転数の差の目標値は、コイル温度が高くなるほど線形的に大きくなるように設定されている。また、入力軸3と出力軸21との回転数の差の目標値の上限は、所定差回転数に設定されている。
【0096】
なお、ECU45は、完全締結制御からスリップ制御へ切り替える際に、時間の経過とともに、入力軸3と出力軸21との回転数の差を所定差回転数を限度として増加させるようにしてもよい。すなわち、図5における横軸をコイル温度から時間に置き換えた場合でも、所定差回転数まで回転数の差を緩やかに増大させることができる。
【0097】
なお、スリップ制御から完全締結制御への切り替え時においても、入力軸3と出力軸21との回転数の差が所定差回転数の状態からスリップのない状態まで、緩やかに遷移させることが好ましい。
【0098】
以上説明したように、本実施例では、ECU45は、トルク伝達部2の温度を検出又は推測する。また、ECU45は、トルク伝達部2の温度に基づいて、入力軸3と出力軸21との回転数の差が所定の差回転数となるようにトルク伝達部2を制御するスリップ制御と、入力軸3と出力軸21との回転数が同一になるようにトルク伝達部2を制御する完全締結制御と、の一方から他方へ切り替える。
【0099】
これにより、トルク伝達部2のクラッチソレノイド71の温度に基づいて完全締結制御とスリップ制御とを切り替えることができる。このため、走行性能を維持でき、トルク伝達部2の温度上昇を抑制できる。
【0100】
また、本実施例では、ECU45は、トルク伝達部2の温度が所定温度を超えている場合、完全締結制御からスリップ制御へ切り替える。
【0101】
これにより、クラッチソレノイド71の温度が上昇して所定温度を超えた場合、スリップ制御への切り替えを行うことで、走行性能を維持でき、トルク伝達部2の温度上昇を抑制できる。
【0102】
また、本実施例では、ECU45は、トルク伝達部2の温度が所定温度以下の場合、スリップ制御から完全締結制御へ切り替える。
【0103】
これにより、クラッチソレノイド71の温度が低下して所定温度以下になった場合、完全締結制御への切り替えを行うことで、走行性能を維持することができる。
【0104】
また、本実施例では、ECU45は、完全締結制御からスリップ制御へ切り替える際に、トルク伝達部2の温度が高くなるほど、入力軸3と出力軸21との回転数の差を所定差回転数を限度として増加させる。
【0105】
これにより、完全締結制御とスリップ制御との切り替えの際に、クラッチ4で急激な回転数の差が発生することを抑制でき、回転数の差による衝撃で車両1が振動することを抑制できる。
【0106】
また、本実施例では、ECU45は、完全締結制御からスリップ制御へ切り替える際に、時間の経過とともに、入力軸3と出力軸21との回転数の差を所定差回転数を限度として増加させる。
【0107】
これにより、完全締結制御とスリップ制御との切り替えの際に、クラッチ4で急激な回転数の差が発生することを抑制でき、入力軸3と出力軸21との回転数の差による衝撃で車両1が振動することを抑制できる。
【0108】
上述の通り、本発明の一実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0109】
1 車両
2 トルク伝達部
3 入力軸
6 エンジン(内燃機関)
21 出力軸
45 ECU(制御部、温度取得部)
55、56 駆動輪
81 コイル温度センサ(温度取得部)
図1
図2
図3
図4
図5