(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
B23F5/16
(21)【出願番号】P 2018000996
(22)【出願日】2018-01-09
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】三平 智之
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】張 琳
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04580225(US,A)
【文献】特開平05-324035(JP,A)
【文献】特開2017-129159(JP,A)
【文献】特開2016-093882(JP,A)
【文献】特開2017-121688(JP,A)
【文献】特開平03-185503(JP,A)
【文献】特開昭62-176730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00 - 23/12
B23Q 15/00 - 15/28
B23B 1/00 - 25/06
G05B 19/18 - 19/46
F16H 51/00 - 55/30
B23C 3/28 - 3/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を送りながら切削加工を行うと共に、前記工作物の回転軸線方向において
総削り代が均一でない場合に、
前記切削加工を行うための複数
回の送り動作を行うことにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記複数
回の送り動作の各々に対応する複数
回の加工経路を含む加工経路プログラムが格納された記憶装置を備え、
前記複数回の加工経路の各々は、前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化する部位を加工するための削り代変化経路部を含み、
前記複数回の加工経路のうちの少なくとも第一加工経路および第二加工経路は、それぞれの前記削り代変化経路部において、前記工作物の回転軸線方向において前記総削り代の変化に応じて切込量または切削負荷を変化させながら加工を行うことにより、前記複数回の加工経路の全てにおける切削負荷を所定の上限値以下とするように構成された加工経路である、歯車加工装置。
【請求項2】
前記第一加工経路は、前記工作物に前記歯車の形状を形成するための仕上加工経路よりも前工程の荒加工経路であり、
前記第二加工経路は、前記仕上加工経路である、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記第一加工経路は、前記工作物に前記歯車の形状を形成するための仕上加工経路よりも前工程の第一荒加工経路であり、
前記第二加工経路は、前記仕上加工経路よりも前工程の加工経路であって、前記第一荒加工経路よりも後工程の加工経路である第二荒加工経路である、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記複数回の加工経路の全ては、それぞれの前記削り代変化経路部において、前記工作物の回転軸線方向において前記総削り代の変化に応じて切込量または切削負荷を変化させながら加工を行うことにより、前記複数回の加工経路の全てにおける切削負荷を所定の上限値以下とするように構成された加工経路である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記第一加工経路および前記第二加工経路は、それぞれの前記削り代変化経路部において、前記回転軸線方向の同一位置における切削断面積が均一である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記複数回の加工経路の全ては、それぞれの前記削り代変化経路部において前記回転軸線方向の同一位置における切削断面積が均一である、請求項5に記載の歯車加工装置。
【請求項7】
前記複数回の加工経路のうち前記工作物に前記歯車の形状を形成するための仕上加工経路は、前記削り代変化経路部において前記回転軸線方向の各位置における切削断面積が前記複数回の加工経路の中で最も小さい、請求項5に記載の歯車加工装置。
【請求項8】
前記第一加工経路および前記第二加工経路は、それぞれの前記削り代変化経路部において、前記回転軸線方向の同一位置における切削負荷が均一である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の歯車加工装置。
【請求項9】
前記複数回の加工経路の全ては、それぞれの前記削り代変化経路部において、前記回転軸線方向の同一位置における切削負荷が均一である、請求項8に記載の歯車加工装置。
【請求項10】
前記複数回の加工経路のうち前記工作物に前記歯車の形状を形成するための仕上加工経路は、前記削り代変化経路部において前記回転軸線方向の各位置における切削負荷が前記複数回の加工経路の中で最も小さい、請求項8に記載の歯車加工装置。
【請求項11】
前記複数
回の加工経路の各々は、
前記削り代変化経路部と、
前記工作物のうち前記
総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化しない部位を加工する
ための削り代非変化経路
部と、
を含み、
前記第一加工経路および前記第二加工経路は、
それぞれの前記削り代非変化経路部において、切込量を一定として加工を行い、
それぞれの前記削り代変化経路部において、対応する前記削り代非変化経路部における切込量よりも大きな切込量となるように加工を行うとともに、切込量を変化させながら加工を行う、請求項1~10のいずれか1項に記載の歯車加工装置。
【請求項12】
前記複数回の加工経路の全ては、
それぞれの前記削り代非変化経路部において、切込量が一定となるように加工を行い、
それぞれの前記削り代変化経路部において、対応する前記削り代非変化経路部における切込量よりも大きな切込量となるように加工を行うとともに、切込量を変化させながら加工を行う、請求項11に記載の歯車加工装置。
【請求項13】
前記複数回の加工経路の各々は、
前記削り代変化経路部と、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化しない部位を加工するための削り代非変化経路部と、
を含み、
前記第一加工経路および前記第二加工経路は、
それぞれの前記削り代非変化経路部において、切削負荷が一定となるように加工を行い、
それぞれの前記削り代変化経路部において、対応する前記削り代非変化経路部における切削負荷よりも大きな切削負荷となるように加工を行うとともに、切削負荷を変化させながら加工を行う、請求項1~10のいずれか1項に記載の歯車加工装置。
【請求項14】
前記複数回の加工経路の全ては、
それぞれの前記削り代非変化経路部において、切削負荷が一定となるように加工を行い、
それぞれの前記削り代変化経路部において、対応する前記削り代非変化経路部における切削負荷よりも大きな切削負荷となるように加工を行うとともに、切削負荷を変化させながら加工を行う、請求項13に記載の歯車加工装置。
【請求項15】
前記歯車加工装置は、円筒状に形成された前記工作物に対し、歯すじ方向において歯丈が変化する部位を有する歯車を創成
し、
前記複数回の加工経路の全ては、前記歯すじ方向の全長に亘る加工経路である、請求項1
~14のいずれか1項に記載の歯車加工装置。
【請求項16】
工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を送りながら切削加工を行うと共に、前記工作物の回転軸線方向において
総削り代が均一でない場合に、複数
回の送り動作を行うことにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記複数
回の送り動作の各々に対応する複数
回の加工経路を含む加工経路プログラムが格納された記憶装置を備え、
前記複数回の加工経路の各々は、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化する部位を加工する際の加工経路である削り代変化経路部と、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化しない部位を加工する際の加工経路である削り代非変化経路部と、
を含み、
前記加工経路プログラムは、
最後に行う前記送り動作に対応する加工経路であって前記工作物に創成する歯車の形状に倣った加工経路となる最終加工経路と、
最初に行う前記送り動作に対応する加工経路であって前記最終加工経路に対して平行線又は平行曲線とはならない加工経路となる初回加工経路と、
を含
み、
前記初回加工経路の前記削り代変化経路部は、前記最終加工経路の前記削り代変化経路部に対して平行線又は平行曲線とはならない加工経路であり、
前記加工経路プログラムに含まれる全ての加工経路は、前記削り代変化経路部において加工する際の切込量が前記削り代非変化経路部において加工する際の切込量よりも大きい加工経路である、歯車加工装置。
【請求項17】
工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を送りながら切削加工を行うと共に、前記工作物の回転軸線方向において
総削り代が均一でない場合に、複数
回の送り動作を行うことにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記複数
回の送り動作の各々に対応する複数
回の加工経路を含む加工経路プログラムが格納された記憶装置を備え、
前記複数回の加工経路の各々は、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化する部位を加工する際の加工経路である削り代変化経路部と、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化しない部位を加工する際の加工経路である削り代非変化経路部と、
を含み、
前記加工経路プログラムは、
最後に行う前記送り動作に対応する加工経路であって前記工作物に創成する歯車の形状に倣った加工経路となる最終加工経路と、
最初に行う前記送り動作に対応する加工経路であって前記最終加工経路に対して平行線又は平行曲線とはならない加工経路となる初回加工経路と、
を含
み、
前記初回加工経路の前記削り代変化経路部は、前記最終加工経路の前記削り代変化経路部に対して平行線又は平行曲線とはならない加工経路であり、
前記加工経路プログラムは、前記削り代変化経路部において加工する際の切削負荷が前記削り代非変化経路部において加工する際の切削負荷よりも大きくなる加工経路を複数含む、歯車加工装置。
【請求項18】
工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を送りながら切削加工を行うと共に、前記工作物の回転軸線方向において
総削り代が均一でない場合に、
前記切削加工を行うための複数
回の送り動作を行うことにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工方法であって、
前記複数回の加工経路の各々は、前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化する部位を加工するための削り代変化経路部を含み、
前記複数回の加工経路のうちの少なくとも第一加工経路および第二加工経路は、それぞれの前記削り代変化経路部において、前記工作物の回転軸線方向において前記総削り代の変化に応じて切込量または切削負荷を変化させながら加工を行うことにより、前記複数回の加工経路の全てにおける切削負荷を所定の上限値以下とするように構成された加工経路である、歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、加工用工具の中心軸線と工作物の中心軸線とをねじれた状態にし、工作物の回転と加工用工具の回転とを同期させながら、工作物に対して加工用工具を工作物の中心軸線方向に送ることにより、加工用工具の外周に設けられた複数の突条工具刃で工作物に歯車を創成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、円筒状の素材に対し、軸線方向において歯丈が変化する部位を有する歯車を形成する場合、歯車加工により切削する削り代が軸線方向において変化する。このような歯車を上記した特許文献1の技術を用いて加工する際に、歯車の形状に倣って加工用工具を送ると、削り代が大きくなる部位を切削する際の切削負荷が大きくなるため、加工用工具が早期に破損しやすくなる。
【0005】
本発明は、工具に加わる切削負荷の軽減を図ることができる歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を送りながら切削加工を行うと共に、前記工作物の回転軸線方向において総削り代が均一でない場合に、前記切削加工を行うための複数回の送り動作を行うことにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記複数回の送り動作の各々に対応する複数回の加工経路を含む加工経路プログラムが格納された記憶装置を備え、
前記複数回の加工経路の各々は、前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化する部位を加工するための削り代変化経路部を含み、
前記複数回の加工経路のうちの少なくとも第一加工経路および第二加工経路は、それぞれの前記削り代変化経路部において、前記工作物の回転軸線方向において前記総削り代の変化に応じて切込量または切削負荷を変化させながら加工を行うことにより、前記複数回の加工経路の全てにおける切削負荷を所定の上限値以下とするように構成された加工経路である、歯車加工装置にある。
また、本発明の他の態様は、工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を送りながら切削加工を行うと共に、前記工作物の回転軸線方向において総削り代が均一でない場合に、複数回の送り動作を行うことにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記複数回の送り動作の各々に対応する複数回の加工経路を含む加工経路プログラムが格納された記憶装置を備え、
前記複数回の加工経路の各々は、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化する部位を加工する際の加工経路である削り代変化経路部と、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化しない部位を加工する際の加工経路である削り代非変化経路部と、
を含み、
前記加工経路プログラムは、
最後に行う前記送り動作に対応する加工経路であって前記工作物に創成する歯車の形状に倣った加工経路となる最終加工経路と、
最初に行う前記送り動作に対応する加工経路であって前記最終加工経路に対して平行線又は平行曲線とはならない加工経路となる初回加工経路と、
を含み、
前記初回加工経路の前記削り代変化経路部は、前記最終加工経路の前記削り代変化経路部に対して平行線又は平行曲線とはならない加工経路であり、
前記加工経路プログラムに含まれる全ての加工経路は、前記削り代変化経路部において加工する際の切込量が前記削り代非変化経路部において加工する際の切込量よりも大きい加工経路である、歯車加工装置にある。
また、本発明の他の態様は、工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を送りながら切削加工を行うと共に、前記工作物の回転軸線方向において総削り代が均一でない場合に、複数回の送り動作を行うことにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工装置であって、
前記複数回の送り動作の各々に対応する複数回の加工経路を含む加工経路プログラムが格納された記憶装置を備え、
前記複数回の加工経路の各々は、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化する部位を加工する際の加工経路である削り代変化経路部と、
前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化しない部位を加工する際の加工経路である削り代非変化経路部と、
を含み、
前記加工経路プログラムは、
最後に行う前記送り動作に対応する加工経路であって前記工作物に創成する歯車の形状に倣った加工経路となる最終加工経路と、
最初に行う前記送り動作に対応する加工経路であって前記最終加工経路に対して平行線又は平行曲線とはならない加工経路となる初回加工経路と、
を含み、
前記初回加工経路の前記削り代変化経路部は、前記最終加工経路の前記削り代変化経路部に対して平行線又は平行曲線とはならない加工経路であり、
前記加工経路プログラムは、前記削り代変化経路部において加工する際の切削負荷が前記削り代非変化経路部において加工する際の切削負荷よりも大きくなる加工経路を複数含む、歯車加工装置にある。
【0007】
本発明の他の態様は、工作物の回転軸線の平行線に対して歯切り工具の回転軸線を傾斜させた状態で、歯切り工具と工作物とを同期回転させつつ、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を送りながら切削加工を行うと共に、前記工作物の回転軸線方向において総削り代が均一でない場合に、前記切削加工を行うための複数回の送り動作を行うことにより、前記工作物に歯車を創成する歯車加工方法であって、
前記複数回の加工経路の各々は、前記工作物のうち前記総削り代が前記工作物の回転軸線方向において変化する部位を加工するための削り代変化経路部を含み、
前記複数回の加工経路のうちの少なくとも第一加工経路および第二加工経路は、それぞれの前記削り代変化経路部において、前記工作物の回転軸線方向において前記総削り代の変化に応じて切込量または切削負荷を変化させながら加工を行うことにより、前記複数回の加工経路の全てにおける切削負荷を所定の上限値以下とするように構成された加工経路である、歯車加工方法にある。
【0008】
本発明の歯車加工装置及び歯車加工方法は、全ての加工経路を、工作物に形成する歯車の形状に倣った形状にする場合と比べて、歯切り工具に加わる最大切削負荷を低減させることができる。その結果、歯車加工装置及び歯車加工方法は、歯切り工具の工具寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態における歯車加工装置の斜視図である。
【
図3】工作物に形成する外歯車の一部分を拡大した斜視図である。
【
図4】
図5A及び
図5BのIV-IV線における断面図であり、回転軸線及び歯底面を含む工作物の断面を示す。
【
図5A】
図4のVA-VA線における工作物の断面図であり、工作物のうち第一部位を含む外歯の軸方向断面を部分的に拡大した図である。
【
図5B】
図4のVB-VB線における工作物の断面図であり、工作物のうち第二部位を含む外歯の軸方向断面を部分的に拡大した図である。
【
図6】制御装置により実行される歯車加工処理のフローチャートである。
【
図7A】第一部位及び第二部位を切削した際の削り代の断面を模式的に表した図である。
【
図7B】回転軸線及び歯底面を含む工作物の断面に、初回加工経路、中間加工経路及び最終加工経路を加えた図である。
【
図7C】切削部位と切削加工時に歯切り工具に加わった切削負荷との関係を示すグラフである。
【
図8A】第一変形例において、第一部位及び第二部位を切削した際の削り代の断面を模式的に表した図である。
【
図8B】回転軸線及び歯底面を含む工作物の断面に、初回加工経路、中間加工経路及び最終加工経路を加えた図である。
【
図8C】切削部位と切削加工時に歯切り工具に加わった切削負荷との関係を示すグラフである。
【
図9A】第二変形例において、第一部位及び第二部位を切削した際の削り代の断面を模式的に表した図である。
【
図9B】回転軸線及び歯底面を含む工作物の断面に、初回加工経路、中間加工経路及び最終加工経路を加えた図である。
【
図9C】切削部位と切削加工時に歯切り工具に加わった切削負荷との関係を示すグラフである。
【
図10A】第三変形例における切削部位と切削加工時に歯切り工具に加わった切削負荷との関係を示すグラフである。
【
図10B】回転軸線及び歯底面を含む工作物の断面に、初回加工経路、中間加工経路及び最終加工経路を加えた図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る歯車加工装置及び歯車加工方法を適用した実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態である歯車加工装置1の概略を説明する。
【0011】
(1.歯車加工装置1の概略)
図1に示すように、歯車加工装置1は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と2つの回転軸(A軸及びC軸)を駆動軸として有するマシニングセンタである。歯車加工装置1は、ベッド10と、工具保持装置20と、工作物保持装置30と、制御装置100と、を主に備える。ベッド10は、床上に配置される。ベッド10の上面には、X軸方向へ延びる一対のX軸ガイドレール11と、Z軸方向へ延びる一対のZ軸ガイドレール12とが設けられる。
【0012】
工具保持装置20は、コラム21と、X軸駆動装置22と、サドル23と、Y軸駆動装置24と、工具主軸25と、工具主軸モータ26と、を備える。なお、
図1では、X軸駆動装置22、Y軸駆動装置24、及び、工具主軸モータ26の図示が省略されている。
【0013】
コラム21は、一対のX軸ガイドレール11に案内されながらX軸方向へ移動可能に設けられる。X軸駆動装置22は、ベッド10に対し、コラム21をX軸方向へ送るねじ送り装置である。また、コラム21の側面には、Y軸方向に沿って延びる一対のY軸ガイドレール27が設けられ、サドル23は、コラム21に対し、一対のY軸ガイドレール27に案内されながらY軸方向へ移動可能に設けられる。Y軸駆動装置24は、サドル23をY軸方向へ送るねじ送り装置である。
【0014】
工具主軸25は、サドル23に対し、Z軸方向に平行な軸線まわりに回転可能に支持される。工具主軸25の先端には、工作物Wの加工に用いる歯切り工具40が着脱可能に装着される。歯切り工具40は、工具保持装置20に対してZ軸に平行な軸線まわりに回転可能に保持される。歯切り工具40は、コラム21の移動に伴ってX軸方向へ移動し、サドル23の移動に伴ってY軸方向へ移動する。工具主軸モータ26は、工具主軸25を回転させるための駆動力を付与するモータであり、サドル23の内部に収容される。
【0015】
工作物保持装置30は、送り台31と、Z軸駆動装置32と、チルト装置33と、工作物回転装置34と、を備える。なお、
図1では、Z軸駆動装置32の図示が省略されている。送り台31は、ベッド10に対し、一対のZ軸ガイドレール12に案内されながらZ軸方向へ移動可能に設けられる。Z軸駆動装置32は、送り台31をZ軸方向へ送るねじ送り装置である。
【0016】
チルト装置33は、一対のテーブル支持部35と、チルトテーブル36と、A軸モータ37とを備える。一対のテーブル支持部35は、送り台31の上面に設置され、チルトテーブル36は、一対のテーブル支持部35に対し、X軸に平行なA軸まわりに揺動可能に支持される。A軸モータ37は、チルトテーブル36をA軸まわりに揺動させるための駆動力を付与するモータであり、テーブル支持部35の内部に収容される。
【0017】
工作物回転装置34は、回転テーブル38と、C軸モータ39とを備える。回転テーブル38は、チルトテーブル36の底面に対し、A軸に直交するC軸まわりに回転可能に設置される。そして、回転テーブル38には、工作物Wを固定する保持部38aが設けられる。C軸モータ39は、回転テーブル38を回転させるための駆動力を付与するモータであり、チルトテーブル36の下面に設けられる。
【0018】
歯車加工装置1は、歯車加工を行う際、チルトテーブル36を揺動させることにより、工作物Wの回転軸線の平行線に対して歯切り工具40の回転軸線を傾斜させる。その状態で、歯車加工装置1は、歯切り工具40と工作物Wとを同期回転させつつ、工作物Wの回転軸線方向に歯切り工具40を送りながら切削加工を行う。
【0019】
図2に示すように、制御装置100は、工具回転制御部110と、工作物回転制御部120と、チルト制御部130と、位置制御部140と、記憶装置150と、を備える。工具回転制御部110は、工具主軸モータ26の駆動制御を行い、工具主軸25に装着された歯切り工具40を回転させる。工作物回転制御部120は、C軸モータ39の駆動制御を行い、回転テーブル38に固定された工作物Wを回転軸線周り(C軸まわり)に回転させる。チルト制御部130は、A軸モータ37の駆動制御を行い、チルトテーブル36を揺動させることにより、回転テーブル38に固定された工作物WをA軸まわりに揺動させる。
【0020】
位置制御部140は、X軸駆動装置22の駆動制御を行い、コラム21をX軸方向へ移動させると共に、Y軸駆動装置24の駆動制御を行い、サドル23をY軸方向へ移動させる。これにより、工具保持装置20に保持された歯切り工具40は、工作物保持装置30に保持された工作物Wに対し、X軸方向及びY軸方向へ相対移動する。また、位置制御部140は、Z軸駆動装置32の駆動制御を行い、送り台31をZ軸方向へ移動させる。これにより、工作物保持装置30に保持された工作物Wは、工具保持装置20に保持された歯切り工具40に対し、Z軸方向へ相対移動する。
【0021】
記憶装置150には、工作物の回転軸線方向へ歯切り工具40に送りながら切削加工を行う際の加工経路データを含む加工経路プログラムが格納される。なお、加工経路プログラムに含まれる加工経路データの詳細については、後ほど詳述する。
【0022】
(2.工作物Wに形成する歯車の形状)
ここで、
図3から
図5Bを参照して、本実施形態で工作物Wに形成する歯車の形状を説明する。
図3から
図5Bに示すように、工作物Wに形成する歯車は、外歯車であり、歯底面が、工作物Wの回転軸線方向一端側(
図4右側)の端部において、一端側へ向かうにつれて歯底円直径が小さくなるテーパ状に形成される。
【0023】
つまり、
図4から
図5Bに示すように、歯車の歯底面には、歯底円直径が歯すじ方向において一定となる部位と、歯底円直径が歯すじ方向において変化するテーパ状の部位とが形成される。一方、歯車の歯先円直径は、歯すじ方向全体において一定である。従って、工作物Wに形成する歯車は、歯底円直径が及び歯丈H1が歯すじ方向において一定な第一部位w1と、歯底円直径及び歯丈H2が歯すじ方向において変化する第二部位w2とを備える。
【0024】
このような歯車を加工するにあたり、歯車加工を行う前の素材としての工作物Wが円筒状であれば、第二部位w2を形成する部位の削り代Sは、第一部位w1を形成する部位の削り代Sよりも大きくなる。そのため、第二部位w2を切削する際に歯切り工具40に加わる切削負荷は、第一部位w1を切削する際に歯切り工具40に加わる切削負荷よりも大きくなる。
【0025】
この点に関し、歯車加工装置1は、工作物Wの軸線方向一端側から他端側(
図4右側から左側)へ歯切り工具40を送る送り動作を複数回行う。具体的に、歯車加工装置1は、工作物Wに荒加工を行う少なくとも1回の荒加工工程と、荒加工後の工作物Wに仕上加工を行う仕上工程とを含む複数回の切削工程を備えた歯車加工処理を実行することにより、所望の形状に形成された歯車を工作物Wに創成する。
【0026】
そして、記憶装置150に格納される加工経路プログラムには、歯車加工処理で実行される複数回の送り動作の各々に対応する複数の加工経路データが含まれる。加工経路プログラムに含まれる各々の加工経路データは、歯車加工処理内で実行される複数回の切削工程で歯切り工具40が削り取る削り代Sと、歯車加工処理で実行される切削工程の回数(送り動作の回数)とに基づいて作成される。歯車加工装置1は、歯車加工処理で実行する各々の切削工程において、加工経路プログラムに基づいた切削加工を行うことにより、歯切り工具40に加わる最大切削負荷の軽減を図ることができる。以下において、歯車加工処理で実行される各切削工程での加工経路について、具体例を挙げながら説明する。
【0027】
(3.歯車加工処理)
次に、
図6に示すフローチャートを参照しながら、歯車加工処理の一例を説明する。歯車加工処理は、歯車加工時に制御装置100により実行される。歯車加工処理では、3回の送り動作を行い、
図3から
図5Bに示す外歯車を工作物Wに創成する。そして、歯車加工処理は、1回目の切削工程として、円筒状の素材である工作物Wに荒加工を行う第一荒加工工程と、2回目の切削工程として、第一荒加工工程後の工作物Wに2回目の荒加工を行う第二荒加工工程と、3回目の切削工程として、荒加工後の工作物Wに仕上加工を行う仕上加工工程とを備える。
【0028】
図6に示すように、歯車加工処理は、最初に、アプローチ送りを行い、歯切り工具40を送り動作開始位置に配置する(S1)。S1の処理後、歯車加工処理は、第一荒加工工程を実行する(S2)。S2の処理後、歯車加工処理は、歯切り工具40の早送りを行い、第一荒加工工程での送り動作によって工作物Wの回転軸線方向他端側まで到達した歯切り工具40を、工作物Wの回転軸線方向一端側の送り動作開始位置に戻す(S3)。
【0029】
S3の処理後、歯車加工処理は、第二荒加工工程を実行する(S4)。S4の処理後、歯車加工処理は、S2の処理と同様に、歯切り工具40の早送りを行い、歯切り工具40を送り動作開始位置に戻す(S5)。S5の処理後、歯車加工処理は、仕上加工工程を実行し(S6)、本処理を終了する。
【0030】
(4.加工経路の具体例)
続いて、
図7Aから
図7Cを参照しながら、歯車加工処理で実行される3回の切削工程での各々の加工経路について、具体例を挙げながら説明する。以下において、第一荒加工工程での加工経路を「初回加工経路」、第二荒加工工程での加工経路を「中間加工経路」、仕上加工工程での加工経路を「最終加工経路」と称す。
【0031】
図7Aの左側には、3回の切削工程で歯切り工具40が第一部位w1を削り取る削り代の断面を模式的に表した図が示されており、
図7Aの右側には、3回の切削工程で歯切り工具40が第二部位w2を削り取る削り代の断面を模式的に表した図が示されている。なお、第一部位w1の削り代のうち、第一荒加工工程で削り取る削り代の断面積を「切削断面積s11」、第二荒加工工程で削り取る削り代の断面積を「切削断面積s21」、仕上加工工程で削り取る削り代の断面積を「切削断面積s31」と称す。同様に、第二部位w2の削り代のうち、第一荒加工工程で削り取る削り代の断面積を「切削断面積s12」、第二荒加工工程で削り取る削り代の断面積を「切削断面積s22」、仕上加工工程で削り取る削り代の断面積を「切削断面積s32」と称す。
【0032】
図7Bは、
図4に示す歯車加工後の工作物Wの断面図(工作物Wの回転軸線及び歯底面を含む断面図)のうち、削り代Sとして削り取られた部位に、初回加工経路、中間加工経路及び最終加工経路を図示したものである。なお、初回加工経路、中間加工経路及び最終加工経路の各々において、第一部位w1を加工する際の加工経路をそれぞれ、「第一経路P11,P21,P31」と称し、第二部位w2を加工する際の加工経路をそれぞれ、「第二経路P12,P22,P32」と称す。また、
図7Bには、歯車加工処理のS2及びS4の処理で早送りを実行する際の歯切り工具40の経路を点線で図示している。
【0033】
図7Aに示すように、加工経路プログラムに含まれる3つの加工経路は、3回の切削工程の各々において、歯切り工具40が削り取る削り代Sの切削断面積となるように設定されている。つまり、第一経路P11,P21,P31は、切削断面積s11,s21,s31が均一となるように設定され、第二経路P12,P22,P32は、切削断面積s21,s22,s32が均一となるように設定される。
【0034】
この場合、
図7Bに示すように、第一部位w1において、初回加工経路、中間加工経路及び最終加工経路の各々の第一経路P11,P21,P31は、工作物Wの回転軸線に倣った直線状となる。一方、第二部位w2において、最終加工経路の第二経路P32は、工作物Wに形成する歯車の形状(歯底面の形状)に倣った形状であるに対し、中間加工経路の第二経路P22は、第一経路P21と比べて、最終加工経路から離れた位置をとる。同様に、初回加工経路の第二経路P12は、第一経路P11と比べて、中間加工経路から離れた位置をとる。このように、3つの切削工程の何れにおいても、第二部位w2を切削する際の切込量は、第一部位w1を切削する際の切込量よりも大きくなる。
【0035】
その結果、
図7Cに示すように、第一荒加工工程、第二荒加工工程及び仕上加工工程の各々において、第二部位w2の加工時に歯切り工具40に加わる切削負荷は、第一部位w1の加工時に歯切り工具40に加わる切削負荷よりも大きくなる。
【0036】
ここで、3回の切削工程のうち、最後の切削工程である仕上加工工程では、工作物Wに形成される歯車の形状が、最終的な所望の形状となるような切削加工を行う必要があるので、最終加工経路は、工作物Wに形成する歯車の最終的な形状に倣った形状となる。この点に関し、第一荒加工工程及び第二加工工程において、工作物Wに形成する歯車の形状に倣った加工経路で切削加工を行うと、第一荒加工工程での第二部位w2の加工時において歯切り工具40に発生する最大切削負荷が大きくなる。
【0037】
つまり、3つの加工経路を工作物Wに形成する歯車の形状に倣った形状にすると、全ての加工経路が平行となる。この場合、第二荒加工工程及び仕上加工工程では、第二部位w2を切削する際の切込量が第一部位w1を切削する際の切込量と同等になる。そのため、第一部位w1と比べて増大する第二部位w2の削り代の増大分を、第一荒加工工程で1度に削り取ることになる。その結果、第一荒加工工程において、第二部位w2を切削する際の最大切削負荷が大きくなる。
【0038】
これに対し、加工経路プログラムに含まれる3つの加工経路は、初回加工経路及び中間加工経路が最終加工経路に対して平行線又は平行曲線とはならないように設定される。即ち、本実施形態では、初回加工経路及び中間加工経路の第二経路P12,P22は、最終加工経路の第二経路P32に対して平行線又は平行曲線とはならないように設定される。これにより、歯車加工装置1は、全ての加工経路を、工作物Wに形成する歯車の形状に倣った形状にする場合と比べて、歯切り工具40に加わる最大切削負荷を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態において、歯車加工装置1は、第一部位w1より工作物Wを多く削り取る必要がある第二部位w2を加工するにあたり、3回の切削加工の各々において、第二部位w2の切込量を第一部位w1の切込量よりも大きくしている。これにより、歯車加工装置1は、複数回行う切削工程の中で、特定の切削工程において歯切り工具40に加わる最大切削負荷が高くなることを回避できる。
【0040】
これに加えて、本実施形態では、初回加工経路及び中間加工経路の第二経路P12,P22は、切削断面積s12,s22,s32が均一となるように設定される。これにより、歯車加工装置1は、3回の切削工程の各々において、歯切り工具40に加わる最大切削負荷の低減を図ることができる。
【0041】
なお、
図7Bに示すように、3回の切削工程において、切削断面積が均一となるように3回の加工経路を設定した場合に、仕上加工工程は、第一荒加工工程及び第二荒加工工程と比べて、第一部位w1の加工時に発生する切削負荷が小さくなると共に、第二部位w2の加工時に発生する切削負荷が小さくなる。その結果、歯車加工装置1は、仕上加工工程において、精度の高い歯車加工を行うことができる。また、加工経路プログラムに含まれる加工経路データは、切削断面積を基準に設定されるので、加工経路の設定を容易に行うことができる。
【0042】
(5.加工経路の変形例)
次に、
図8Aから
図10Bを参照しながら、加工経路プログラムに含まれる加工経路の変形例について、具体例を挙げながら説明する。なお、上記実施形態と同一の構成には、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、以下に示す変形例の何れにおいても、送り動作は、3回行う。また、
図8A及び
図9Aは、
図7Aに相当する図である。同様に、
図8B、
図9B及び
図10Bは、
図7Bに相当する図であり、
図8C、
図9C及び
図10Aは、
図7Cに相当する図である。
【0043】
(5-1:第一変形例)
まず、
図8Aから
図8Cを参照して、第一変形例を説明する。
図8A及び
図8Bに示すように、第一変形例の中間加工経路は、工作物Wに形成する歯車の形状に倣った形状に設定される。一方、第一変形例の初回加工経路は、第二部位w2の加工時において第一荒加工工程での切削断面積s12と第二荒加工工程での切削断面積s22が均一になるように設定される。なお、第一変形例において第一経路P11,P21,P31は、上記実施形態と同様に設定される。
【0044】
この場合、中間加工経路は、最終加工経路と平行となる。この場合、最終加工工程で第二部位w2を切削する際の切込量は、第一部位w1を切削する際の切込量と同等になる。その一方、初回加工経路の第二経路P12は、第一経路P11と比べて、中間加工経路から離れた位置をとる。よって、第一荒加工工程及び第二加工工程では、第二部位w2を切削する際の切込量が、第一部位w1を切削する際の切込量よりも大きくなる。
【0045】
その結果、
図8Cに示すように、仕上加工工程は、第一荒加工工程及び第二荒加工工程と比べて、第一部位w1の加工時と第二部位w2の加工時とで歯切り工具40に発生する切削負荷の差が小さくなる。このように、第一変形例は、上記実施形態と比べて、仕上加工工程で歯切り工具40に加わる最大切削負荷を低減させることができる。これにより、第一変形例は、工作物Wに形成する歯車の精度を向上させることができる。
【0046】
その一方、第一変形例は、第一荒加工工程及び第二荒加工工程において、第二部位w2の切込量を第一部位w1の切込量よりも大きくしている。この場合、歯車加工装置1は、第一荒加工工程及び第二荒加工工程で歯切り工具40に加わる最大切削負荷の抑制を図ることができる。このように、第一変形例の加工経路プログラムは、第二部位w2を加工する際の切込量が、第一部位w1を切削する際の切込量よりも大きくなるような複数の加工経路を含むので、歯車加工装置1は、歯切り工具40に加わる最大切削負荷を低減させることができる。
【0047】
なお、第一変形例は、仕上加工工程での第一部位w1の切削断面積s31が、第一荒加工工程及び第二荒加工工程での第一部位w1の切削断面積s11,s21よりも小さくなるように、3つの加工経路を設定してもよい。この場合、第一変形例は、仕上加工工程で歯切り工具40に発生する最大切削負荷をより低減させることができるので、工作物Wに形成する歯車の精度の更なる向上を図ることができる。
【0048】
(5-2:第二変形例)
次に、
図9Aから
図9Cを参照して、第二変形例を説明する。
図9A及び
図9Bに示すように、第二変形例の初回加工経路及び中間加工経路は、第一経路P11,P21及び第二経路P12,P22が工作物の加工軸線に平行な一直線状となるように設定される。なお、第二変形例において第一経路P11、P21,P31は、上記実施形態と同様に設定される。この場合、最終加工工程で第二部位w2を切削する際の切込量は、第一荒加工工程及び第二荒加工工程で第二部位w2を切削する際の切込量よりも大きくなる。
【0049】
しかしながら、
図9Cに示すように、第一部位w1において、仕上加工工程で歯切り工具40に加わる切削負荷L3は、第一荒加工工程及び第二荒加工工程で歯切り工具40に加わる切削負荷L1,L2よりも小さい。この点において、第二変形例は、全ての加工経路を工作物Wに形成する歯車の形状に倣った形状にする場合に最初の切削工程で歯切り工具40に加わる最大切削負荷との比較において、歯切り工具40に加わる最大切削負荷を抑制することができる。
【0050】
なお、第二変形例は、仕上加工工程での第一部位w1の切削断面積s31が、第一荒加工工程及び第二荒加工工程での第一部位w1の切削断面積s11,s21よりも小さくなるように、3つの加工経路を設定してもよい。この場合、第二変形例は、仕上加工工程で歯切り工具40に加わる最大切削負荷を抑制することができる。また、例えば、工作物Wに形成した歯車の用途において、第一部位w1において高い精度が要求される一方、第二部位w2において第一部位w1ほど高い精度が要求されない場合がある。この場合において、第二変形例は、第一部位w1に形成される歯車の精度を高めることにより、使用用途ごとの要求に応じた歯車を創成することができる。
【0051】
(5-3:第三変形例)
次に、
図10A及び
図10Bを参照して、第三変形例を説明する。上記実施形態では、3つの加工経路は、3回の切削工程において切削断面積が均一となるように設定したのに対し、第三変形例は、
図10A及び
図10Bに示すように、3回の切削工程において切削負荷が均一となるように、3つの加工経路を設定する。これにより、第三変形例は、切削断面積を基準として加工経路を設定する上記実施形態と同様の効果を奏し、歯切り工具40に加わる最大切削負荷を抑制することができる。
【0052】
なお、第三変形例は、上記した第一変形例に適用することも可能である。即ち、上記した第一変形例は、第二部位w2の加工時において第一荒加工工程での切削負荷L1と第二荒加工工程での切削負荷L2とが均一になるように、初回加工経路及び中間加工経路を設定してもよい。この場合の第三変形例は、切削断面積を基準として加工経路を設定する第一変形例と同様の効果を奏し、歯切り工具40に加わる最大切削負荷を抑制することができる。
【0053】
(6.その他)
以上、上記実施形態及び各変形例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び各変形例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0054】
例えば、上記実施形態及び各変形例では、工作物Wに形成する歯車の例として、歯底面がテーパ状に形成された第二部位を含む外歯車に本発明を適用する場合を例に挙げて説明したが、工作物の回転軸線方向において削り代が均一とはならない歯車を形成する際に、本発明を適用できる。つまり、本発明は、軸線方向において歯丈が変化する部位を有する歯車を形成する歯車、例えば、軸線方向において歯先面が変形する歯車や、第二部位が曲面である歯車等にも適用することができる。さらに、本発明は、外歯車だけでなく、内歯車に適用することも可能である。
【0055】
上記実施形態及び各変形例では、送り操作を3回行う場合を例に挙げて説明したが、送り操作は、2回又は4回以上であってもよい。同様に、歯車加工処理は、荒加工工程を1回のみにして中間加工処理を省略してもよく、荒加工工程を3回以上について中間加工処理を複数回実行してもよい。
【0056】
上記実施形態では、3つの加工経路は、3回の切削工程において切削断面積が均一となるように設定される場合について説明したが、切削断面積が均一であることに限定されるものではない。即ち、全ての加工経路が、少なくとも第二経路において互いに平行線又は平行曲線とならないようにしつつ、全ての切削工程の各々において、第二部位w2を加工する際の切削負荷が、第一部位w1を加工する際の切削負荷よりも大きくなるように設定されていればよい。これにより、歯車加工装置1は、歯切り工具40に加わる最大切削負荷の軽減を図ることができる。
【0057】
さらにこの場合、最終加工経路が、全ての加工経路の中で、第二部位w2の加工時における切削断面積又は最大切削負荷が最も小さくなるように、全ての加工経路が設定されていてもよい。これにより、歯車加工装置1は、仕上加工工程で歯切り工具40に発生する最大切削負荷を低減させることができる。
【0058】
ここで、歯車加工装置1を用いてギヤスカイビング加工を行う際、工作物Wに対して歯切り工具40が接する加工点と工作物Wの回転軸線とを含む平面に直交する方向から見た歯切り工具40の回転軸線及び工作物Wの回転軸線は、互いに垂直でも平行でもない。つまり、ギヤスカイビング加工は、歯切り工具40の回転軸線及び工作物Wの回転軸線をねじれた状態で配置し、歯切り工具40と工作物Wとを同期させながら高速回転することにより、効率の高い歯車加工を行うことが可能となる。
【0059】
その一方、加工時における切込量や送り量を大きくすると、歯車加工に要する時間が短縮される一方で、歯切り工具40に加わる切削負荷が大きくなる。特に、ギヤスカイビング加工では、すくい角を連続的に変化させながら歯車加工が行われるのに対し、切削量や送り量を大きくするほど、すくい角が負の方向へ大きく変化した状態で加工が行われる時間が長くなり、歯切り工具40に加わる切削負荷が大きくなる。つまり、切込量や送り量を大きくすることは、歯切り工具40の磨耗や破損等が早期に発生する原因となる。この点に関し、歯車加工装置1は、切削負荷の軽減を図ることで、歯車加工に要する時間の短縮を図りつつ、歯切り工具40の磨耗や破損等を低減させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1:歯車加工装置、 150:記憶装置、 H1,H2:歯丈、 L1,L2,L3:切削負荷、 P11,P21,P31:第一経路、 P12,P22,P32:第二経路、 S:削り代、 s11,s12,s21,s22,s31,s32:切削断面積、 W:工作物、 w1:第一部位、 w2:第二部位