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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】路面状態分析装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20220517BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G08G1/00 J
G08G1/09 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018004218
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2019125091
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】麻生 雅宏
【審査官】田中 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-218032(JP,A)
【文献】特開2016-076085(JP,A)
【文献】特開2006-351000(JP,A)
【文献】特開2019-003370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある地点を通過した複数の車両の各々について、前記地点における車両上下方向振動の変位を表す振動データと車格データを収集する収集部と、
前記収集部により収集された振動データを前記車両の車格に応じて処理し、前記地点の路面の凹凸形状の高さを求める振動データ処理部と、
前記振動データ処理部により処理された前記振動データに基づいて、路面の凹凸形状を判定する第1判定部と、
路面の凹凸形状の分布を判定する第2判定部と
を備えた路面状態分析装置。
【請求項2】
前記第1判定部は、前記振動データに基づいて、振動波形のスペクトル分析から路面の凹凸形状を予測する、請求項1に記載の路面状態分析装置。
【請求項3】
前記第2判定部は、前記振動データに基づいた上記振動波形のスペクトル分析結果から代表的な周期を抽出し、周期および振幅高さに対する頻度を分析することで、路面の凹凸形状の分布を予測する、請求項2に記載の路面状態分析装置。
【請求項4】
前記第1判定部は、基準とした波形のスペクトル成分に対して、分析した上記振動波形のスペクトルの高周波成分を比較することで路面の凹凸の形状を予測する、請求項2に記載の路面状態分析装置。
【請求項5】
前記第2判定部は、分析した上記振動波形のスペクトルの低周波成分を抽出し、頻度分布を分析することで路面の凹凸形状の分布を予測する、請求項3に記載の路面状態分析装置。
【請求項6】
前記第2判定部により前記地点に凹部があると判定された場合に、前記凹部に水が溜まっているかどうかを判定する第3判定部をさらに備えた請求項2又は4に記載の路面状態分析装置。
【請求項7】
前記第3判定部は、前記振動データに基づいて、振動波形のスペクトル分析から、基準とした波形のスペクトル成分に対して、分析した上記振動波形のスペクトルの低周波成分および高周波成分を比較することで水が溜まっているかどうかを判定する、請求項6に記載の路面状態分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面状態分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車両を走行させたときの路面の凹凸状態を、その車両の位置情報および走行車線情報と共に路面情報として記憶する路面情報記憶部と、任意の車両からの要求により、前記路面情報記憶部に記憶された路面情報をその車両に送信する送信手段とを備えた道路情報提供装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-287044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術に鑑みて、路面の凹凸状態の詳細を効率的に分析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る路面状態分析装置は、ある地点を通過した複数の車両の各々について、前記地点における車両上下方向振動の変位を表す振動データと車格データを収集する収集部と、前記収集部により収集された振動データを前記車両の車格に応じて処理し、前記地点の路面の凹凸形状の高さを求める振動データ処理部と、前記振動データ処理部により処理された前記振動データに基づいて、路面の凹凸形状を判定する第1判定部と、路面の凹凸形状の分布を判定する第2判定部とを備えている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、路面の凹凸状態の詳細を効率的に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】路面状態分析システムの説明図である。
図2】第1の車両の説明図である。
図3】第1の車両及び地点Pを示す説明図である。
図4】振動の時間的変化を示す波形の説明図である。
図5】路面状態分析装置の説明図である。
図6】第2の車両の説明図である。
図7】平均化のイメージを示す説明図である。
図8】平均化及び正規化のイメージを示す説明図である。
図9】路面状態を示す説明図である。
図10】波形分析を示す説明図である。
図11】スペクトル分析結果の別の例を示す説明図である。
図12】各次数に対応する波形を示す説明図である。
図13】統計処理を示す説明図である。
図14】統計処理を示す説明図である。
図15】統計処理を示す説明図である。
図16】路面状態分析装置の別の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0009】
図1に示すように、路面状態分析システム1は、第1の車両2及び第2の車両3と、両車両とネットワーク4を通して通信可能な路面状態分析装置5とを備えている。
【0010】
[第1の車両]
図2に示すように、第1の車両2は、振動検出部21と速度センサ22と車両位置取得部23と車格データ記憶部24と送信部25とを備えている。
【0011】
振動検出部21は、第1の車両2の車両上下方向の振動を検出し、この振動による変位の時間的変化を表す振動データを生成する。この振動検出部の具体例として、サスペンションに加わる荷重を検出する荷重センサと、エアバッグ作動用の加速度センサとが挙げられる。
【0012】
図3に示すように、矢印Fの方向に進む第1の車両2が路面上のある地点Pを通過するとする。地点Pには、第1の隆起部61と第2の隆起部62とがある。第1の車両2から見て、第2の隆起部62は第1の隆起部61よりも前方にある。このような隆起部の一例として、スピードブレーカーが挙げられる。このスピードブレーカーは減速帯とも呼ばれる。
【0013】
地点Pを通過した際に振動検出部21により取得される振動データの例を図4に示す。同図において、横軸は時間を表し、縦軸は変位を表す。第1の車両2が第1の隆起部61を通過すると、符号71に示す正のピークと、それに続く符号72に示す負のピークが生じる。続いて、第1の車両2が第2の隆起部62を通過すると、符号73に示す正のピークと、それに続く符号74に示す負のピークが生じる。このように、1つの隆起部を通過する場合、変位に関して正のピークと、それに続く負のピークが生じる。
【0014】
速度センサ22は、地点Pにおける第1の車両2の速度を検出し、その速度を表す速度データを生成する。
【0015】
車両位置取得部23は、振動データ及び速度データと関連付けて、第1の車両2の位置データを取得する。本実施形態において、車両位置取得部23は地点Pを表す位置データを取得する。この車両位置取得部の具体例として、GPS受信機が挙げられる。
【0016】
車格データ記憶部24には、第1の車両2の車格を表す車格データが記憶されている。車格とは車両の格である。例えば、小型車両、中型車両、大型車両という3つの車格を車重によって定め、各車両に格付けをすることができる。第1の車両2が小型車両という車格に格付けされる場合、車格データ記憶部24には「小型車両」という車格を表す車格データが記憶される。
【0017】
車格によって、同じ地点を通過した車両に生じる振動の大きさが異なる。例えば、車重が軽く、安価なサスペンションを備えた小型車両が路面上のある隆起部を通過したときは、軽量ゆえサスペンションに加わる荷重は小さいが、車両上下方向の振動(又はその振幅)は比較的大きい。これに対し、重量のある高価なサスペンションを備えた中型車両又は大型車両が同じ隆起部を通過したときは、サスペンションに加わる荷重は大きいが、車両上下方向の振動(又はその振幅)は比較的小さい。
【0018】
送信部25は、振動検出部21と速度センサ22と車両位置取得部23と車格データ記憶部24とに接続される。送信部25は、振動検出部21により得られた振動データと、速度センサ22により得られた速度データと、車両位置取得部23により取得された位置データと、車格データ記憶部24に記憶された車格データとを路面状態分析装置5に送る。
【0019】
[路面状態分析装置]
図5に示すように、路面状態分析装置5は、収集部51と変換部52と平均化部53と正規化部54と送信部55とを備えている。各部の機能は後述する。
【0020】
路面状態分析装置5は、そのハードウェア構成として、各部の機能を実行するように動作可能なプログラム及びデータを格納するメモリと、演算処理を行うプロセッサと、路面状態分析システム内の他の装置と通信するためのインタフェースとを備えている。なお、第1の車両2及び第2の車両3についても同様である。
【0021】
[第2の車両]
図6に示すように、第2の車両3に設けられている路面状態情報提供装置31は、路面状態分析装置5から送信されたデータを受信する受信部310を備えている。詳細は後述する。
【0022】
[路面状態分析装置が行う処理]
以下、路面状態分析装置5が行う処理を説明する。まず、収集部51は、第1の車両2内の送信部25から送信された第1の車両2の位置データと、該位置データが表す地点における第1の車両2の速度データ及び振動データと、第1の車両2の車格データとを受信する。収集部51は、第1の車両2及び第2の車両3のいずれでもない他の車両からも、各車両の位置データと該位置データが表す地点における速度データ及び振動データと各車両の車格データとを受信する。
【0023】
以下に述べる処理は、収集部51によりデータが収集された車両のうち、地点Pを表す位置データを有する車両について行われる。
【0024】
図5において、変換部52は、地点Pを通過した各車両について、当該車両の地点Pでの速度における車両上下方向振動の最大振幅(例えば、図4の最大振幅Amax)を、所定の基準速度における最大振幅に変換する。所定の基準速度は、例えば時速40kmである。
【0025】
変換部による変換は、地点Pを通過する複数の車両毎の異なる速度を考慮するためのものである。速度を考慮する一例として、波形の横軸は時間を同じにする変換をするから、低速領域で同じ段差を通過する波形の変換では、波形は基準速度との比に比例して大きく変換されると考える。なお、後述する平均化については、車速と比例のほか、車速の2乗に比例の関係も考慮する場合がある。
【0026】
次に、平均化部53は、車格データが表す車格毎に平均化を行う。例えば、先に述べたように、車格として小型車両、中型車両、大型車両という3つの車格が定められている場合、小型車両、中型車両、大型車両という3つの車格の各々において平均化を行う。
【0027】
平均化部53は、小型車両という車格に属する車両の、変換部52による変換後の前記所定の基準速度における最大振幅の平均値を、小型車両という車格の平均最大振幅として求める。平均化部53は、同様にして、中型車両という車格の平均最大振幅と、大型車両という車格の平均最大振幅とを求める。なお、標準偏差等の考慮で振幅が突出して大きいか又は小さいデータを排除した上で、平均最大振幅を求めることも可能である。
【0028】
平均化部53は、小型車両という車格に属する各車両の上記平均最大振幅を求めた後に、振動を表す波形の各々を個別に分析する場合に、波形全体を変換し、その変換後の最大振幅が平均最大振幅と等しくなるようにすることもできる。平均化部53は、中型車両という車格に属する各車両の振動を表す波形と、大型車両という車格に属する各車両の振動を表す波形とについても同様に変換することができる。さらには、車速を加味して、基準とする速度での最大振幅を求め、これらの最大振幅の平均値を求めることもできる。
【0029】
図7に、小型車両の平均化のイメージを示す。同図(a)~(c)はそれぞれ、車両の速度が低速の場合の波形、中程度の速度の場合の波形、高速の場合の波形を示している。
同図(d)~(f)はそれぞれ、同図(a)~(c)を、前記所定の基準速度に合わせて変換したものである。同図(d)~(f)から平均最大振幅が得られる。同図(g)~(i)はそれぞれ、同図(d)~(f)を、小型車両という車格の平均最大振幅に合わせて変換したものである。
【0030】
続いて、正規化部54は、平均化部53により求められた、小型車両という車格の平均最大振幅(Aとする)と、小型車両という車格に属する基準車両が前記所定の基準速度で、ある基準段差(段差高さの値をHとする)を通過した場合の最大振幅(Bとする)とに基づいて、地点Pにおける段差の推定値(hとする)を以下のように求める。
=H*A/B
この推定値は、小型車両という車格について求められた、地点Pにおける段差の推定値である。
【0031】
同様にして、正規化部54は、平均化部53により求められた、中型車両という車格の平均最大振幅と、中型車両という車格に属する基準車両が前記所定の基準速度で前記基準段差を通過した場合の最大振幅とに基づいて、地点Pにおける段差の推定値hを求める。この推定値は、中型車両という車格について求められた、地点Pにおける段差の推定値である。
【0032】
同様にして、正規化部54は、平均化部53により求められた、大型車両という車格の平均最大振幅と、大型車両という車格に属する基準車両が前記所定の基準速度で前記基準段差を通過した場合の最大振幅とに基づいて、地点Pにおける段差の推定値hを求める。この推定値は、大型車両という車格について求められた、地点Pにおける段差の推定値である。
【0033】
ここで、小型車両という車格に属する基準車両は、小型車両という車格に属する任意の車両である。同様に、中型車両という車格に属する基準車両は、中型車両という車格に属する任意の車両である。また、大型車両という車格に属する基準車両は、大型車両という車格に属する任意の車両である。
【0034】
推定値h、h及びhはいずれも、車格毎に求められた地点Pにおける段差の車格別推定値である。正規化部54は、推定値h、h及びhの平均値hを、地点Pにおける段差の推定値として求める。この推定値hは、第1の車両2を含み、かつ第2の車両3を含まない複数の車両により得られたデータから求められたものである。この推定値hは、第1の車両2を含み、かつ第2の車両3を含まない複数の車両により得られたデータの代表データと呼ぶこともできる。
【0035】
送信部55は、正規化部54により求められた、地点Pにおける段差の推定値hを第2の車両3に送る。
【0036】
これまでに述べた平均化及び正規化のイメージを図8に示す。
同図(a)~(c)は小型車両という車格に属する車両の、3つの波形の例である。
同図(d)~(f)は中型車両という車格に属する車両の、3つの波形の例である。
同図(g)~(i)は大型車両という車格に属する車両の、3つの波形の例である。
同図(j)は、同図(a)~(c)から得られる、平均化後の波形である。
同図(k)は、同図(d)~(f)から得られる、平均化後の波形である。
同図(l)は、同図(g)~(i)から得られる、平均化後の波形である。
同図(m)は、同図(j)~(l)から得られる、正規化後の波形である。
正規化は、小型車両という車格に関する同図(j)と、中型車両という車格に関する同図(k)と、大型車両という車格に関する同図(l)とを総合することである。具体的には、同図(j)から得られる小型車両の平均最大振幅に、同図(k)から得られる中型車両の平均最大振幅と、同図(l)から得られる大型車両の平均最大振幅とを合わせることを正規化と呼ぶことができる。あるいは、同図(j)から得られる小型車両の平均最大振幅と、同図(k)から得られる中型車両の平均最大振幅と、同図(l)から得られる大型車両の平均最大振幅とを足して3で割ることを正規化と呼ぶこともできる。
【0037】
[第2の車両が行う処理]
路面状態情報提供装置31内の受信部310は、路面状態分析装置5から送られた、地点Pにおける段差の推定値hを受信する。
【0038】
路面状態情報提供装置31はさらに、第2の車両3のドライバーに経路を案内するナビゲーション部320を備えている(図6)。受信部310が受信した推定値hに基づいて、ナビゲーション部320は、第2の車両3のドライバーに、地点Pにおける段差の凹凸情報を伝える。
【0039】
上記のような路面状態分析システムによれば、ある地点を通過した複数の車両の振動データから、車格を考慮して当該地点の路面状態を分析することができる。その分析結果は、路面の凹凸を加味したカーナビゲーションシステムに活用することができる。
【0040】
[他の形態]
路面状態分析装置5は、後述する波形分析及び統計処理により路面の状態を分析するように構成することもできる。
【0041】
[波形分析]
まず、波形分析について述べる。図9を参照する。
同図(a)は、比較的ゆるやかな傾斜を有する凸部91が路面上にある状態を示す。
同図(b)は、比較的急な傾斜を有する凸部92が路面上にある状態を示す。
同図(c)は、比較的急な傾斜を有する2つの凸部92a及び92bが間隔を置いて路面上にある状態を示す。
同図(d)は、比較的ゆるやかな傾斜を有する2つの凸部91a及び91bが間隔を置いて路面上にある状態を示す。
同図(e)は、比較的浅い3つの凹部93a、93b、93cが路面上にある状態を示す。
同図(f)は、路面上の凹部93dに水が溜まっている状態を示す。
同図(g)は、比較的深い凹部93eが路面上にある状態を示す。
【0042】
振動波形のスペクトル分析から路面の凹凸の形状を予測することができる。簡単には、高周波成分(1kHz以上の成分)を比較的多く含む波形の場合は、傾斜が急な凹凸形状と予測される(図9(b)及び(c))。また、高周波成分が比較的少ない波形の場合は、ゆるやかな傾斜を有する凹凸形状と予測される(図9(a)、(d)及び(e))。高周波成分が多いかどうかは、基準とした凹凸路面における振動データの周波数成分との比較により適宜判断することができる。
【0043】
図9(c)に示した2つの凸部を通過した場合の振動データの例を図10(a)に示す。
図9(d)に示した2つの凸部を通過した場合の振動データの例を図10(b)に示す。
図10(a)及び(b)において、横軸は時間を表し、縦軸は変位を表す。
【0044】
図10(a)及び(b)に示したように、変位に関し、正のピークに続いて負のピークが現れる場合は、路面が凸形状であると判定される。これに対し、負のピークに続いて正のピークが現れる場合は、路面が凹形状であると判定される。
【0045】
図10(a)に示した振動データのスペクトル分析の結果を図10(c)の線L1として示す。
また、図10(b)に示した振動データのスペクトル分析の結果を図10(c)の線L2として示す。図10(c)において、横軸は周波数を表し、縦軸はスペクトル密度を表す。
スペクトルの2次成分が大きければ凸部は2個並んでいると推測される。また、スペクトルの3次成分が大きければ凸部が3個並んでいると推測される。
【0046】
図10(c)において、符号D1、D2、D3、D4、D8、D16はそれぞれ、スペクトルの1次成分、2次成分、3次成分、4次成分、8次成分、16次成分を表している。
【0047】
なお、図11に、スペクトルの2次成分が大きい場合を示す。2次成分に限らず、各次数の成分が大きいかどうかは、基準とした凹凸路面における振動データの次数成分との比較により適宜判断することができる。
【0048】
図9(f)に示した、水が溜まっている凹部を通過した場合の振動データのスペクトル分析結果を図10(d)の線L3として示す。なお、線L1も参考までに示している。線L3によれば、低周波成分は小さく、高周波成分に偏っている。振幅全体も小さいため、線L1よりも全体的にスペクトル密度が小さくなると考えられる。
【0049】
図9(g)に示した比較的深い凹部を通過した場合の振動データのスペクトル分析結果を図10(e)の線L4として示す。なお、線L1も参考までに示している。線L4によれば、1kHz未満の低周波成分に偏っている。
【0050】
波形分析の結果から、路面の凹凸形状の種類(水が溜まっている凹部、水が溜まっていない凹部、凸部)が推測される。この推測結果をナビなどに表示することができる。また、凹凸形状の種類により、避けるべきものか通過可能かを判断し、ナビなどの情報に加味することができる。
【0051】
図12を参照する。
同図(a)は、波形Waの次数1の波形Vaを示しており、同図(b)から(e)は、波形Waの次数2、4、8、16の波形を示している。
また、同図(f)は、波形Waの2倍の長さの波形Wbについての次数1の波形Vbを示しており、同図(g)から(j)は、波形Wbの次数2、4、8、16の波形を示している。長い波形では、同じ次数でも長い波長となるから、基準とする凹凸の波形と比較すればその凹凸形状を推定することができる。
なお、各次数波形の振幅は見やすいように任意に拡大してある。
【0052】
ここで、凹凸形状の波形の傾斜が急なのかなだらかであるのかは、スペクトル分析の結果から、高周波成分の振幅が大きいかどうかによって推定することができる。例えば、波形Waのように波形が矩形波に近い場合は、次数1のVaに加えて大きな振幅で高次数の波形が重なり合っている。逆に、波形Waが波形Vaに近いなだらかなものであるときは、高次数の波形の振幅は小さく、波形Vaがその主成分となる。
さらに、凹凸形状の個数は、どの次数の成分が大きいかによって判定することができる。図12(f)から(j)に示した長い凹凸の波形を使って説明すると、仮に、波形Wbのスペクトル解析の結果で次数2の波形(Vg)の振幅が次数1の波形Vbの振幅よりも大きい場合は、この凹凸形状は長い凸形状に2個の凸形状(Wg)が合わさっていることが推測できる。
【0053】
[統計分析]
次に、統計分析について述べる。図13を参照する。
同図(a)は、複数の振動データについてその波形のスペクトル分析を行い、最も振幅が大きい次数の波形について、横軸を周期、縦軸を頻度としたグラフである。
同図(b)は、同様に横軸を凹凸の高さ、縦軸を頻度としたグラフである。凹凸の高さとは、凹部であればその凹部の深さであり、凸部であればその凸部の高さである。
同図(c)は、上記のグラフを合わせて、凹凸の高さと周期との関係を示す散布図である。
同図(d)は、上記振動データとなる路面の凹凸状態を表しており、比較的急な傾斜を有する2つの凸部が間隔を置いて路面上にある状態を側方から見た様子を示す。
同図(e)は、同図(d)に示した2つの凸部を上から見た状態を示す。
【0054】
例えば、図13(d)及び(e)の様な凹凸形状による振動波形をスペクトル分析して、低周波成分に注目し、代表的な周期や振動高さを抽出する。この場合、2個の凹凸があるから次数2が支配的となる。この抽出結果を、縦軸に頻度、横軸に周期又は振幅高さ(想定できていれば凹凸形状の高さ)としてグラフを作成することができる(図13(a)及び(b))。図13(a)及び(b)を合わせてプロットすると図13(c)となる。図13(c)のように凹凸の高さがある程度同じ値を示しかつ、データが散乱しない場合は、同じ凹凸を通過して得たデータであり、各車の測定データはある程度精度が確保されているものと考えられる。
【0055】
別の例として図14を参照する。
同図(a)は、上記と同様に横軸を周期、縦軸を頻度としたグラフである。
同図(b)は、同様に横軸を凹凸の高さ、縦軸を頻度としたグラフである。凹凸の高さとは、凹部であればその凹部の深さであり、凸部であればその凸部の高さである。
同図(c)は、上記のグラフを合わせて、凹凸の高さと周期との関係を示す散布図である。
同図(d)は、上記振動データとなる路面の凹凸状態を表しており、6つの凸部が間隔を置いて路面上にある状態を上方から見た様子を示す。符号R1~R3の各々は通過パターンを示す。
【0056】
図14(d)に示したように、この事例では、はっきりとしたブロック形状が無く、通過パターンによってさまざまな振動が発生する。その周期や高さがランダムである場合は、図14(c)に示したように散漫なグラフとなるため、路面の凹凸が図14(d)のような状態であることが予想できる。
【0057】
さらに別の例として図15を参照する。
同図(a)は、上記と同様に横軸を周期、縦軸を頻度としたグラフである。
同図(b)は、同様に横軸を凹凸の高さ、縦軸を頻度としたグラフである。凹凸の高さとは、凹部であればその凹部の深さであり、凸部であればその凸部の高さである。
同図(c)は、上記のグラフを合わせて、凹凸の高さと周期との関係を示す散布図である。
同図(d)は、上記振動データとなる路面の凹凸状態を表しており、7つの凸部が間隔を置いて路面上にある状態を上方から見た様子を示す。符号R11~R13の各々は通過パターンを示す。
【0058】
同じ地点を通過しているにも関わらず、図15(c)に示したように明確な周期がいくつか現れる場合は、図15(d)に示したようにブロックが千鳥状に分布していて、通過パターンによって乗り上げるブロック数が異なることが予想される。この例では、3つの乗り上げパターンがあり、ブロックの高さはおおよそ同じであることが予想される。
【0059】
以上のように、凹凸形状の種類が波形分析により判明し、波形分析により判明した特定の種類の凹凸形状の配置状態(通常、千鳥状、ランダム)が統計分析により判明する。
【0060】
本実施形態における路面状態分析装置5は、図5に示した収集部51と変換部52と平均化部53と正規化部54と送信部55とに加えて、第1判定部56と第2判定部57とを備えている。これを図16に示す。なお、変換部52と平均化部53と正規化部54をまとめて振動データ処理部と呼ぶこともできる。振動データ処理部は、収集部51により収集された振動データを車両の車格に応じて処理する。この処理の内容は先に述べた通りである。
【0061】
そして、第1判定部56は、前記振動データ処理部により処理された前記振動データに基づいて、路面の凹凸形状を判定する。この判定は、上述の波形分析によりなされる。第1判定部56は、前記振動データに基づいて、振動波形のスペクトル分析から路面の凹凸形状を予測することができる。さらに、第1判定部56は、基準とした波形のスペクトル成分に対して、分析した上記振動波形のスペクトルの高周波成分を比較することで路面の凹凸の形状を予測することができる。
【0062】
第2判定部57は、路面の凹凸形状の分布を判定する。この判定は、上述の統計分析を通してなされる。第2判定部57は、前記振動データに基づいた上記振動波形のスペクトル分析結果から代表的な周期を抽出し、周期および振幅高さに対する頻度を分析することで、路面の凹凸形状の分布を予測することができる。さらに、第2判定部57は、分析した上記振動波形のスペクトルの低周波成分を抽出し、頻度分布を分析することで路面の凹凸形状の分布を予測することができる。
【0063】
このような路面状態分析装置によれば、路面の凹凸状態の詳細を効率的に分析することができる。
【0064】
上記路面状態分析装置は、第2判定部57により前記地点に凹部があると判定された場合に、前記凹部に水が溜まっているかどうかを判定する第3判定部58(図16)をさらに備えていてもよい。この第3判定部58は、前記振動データに基づいて、振動波形のスペクトル分析から、基準とした波形のスペクトル成分に対して、分析した上記振動波形のスペクトルの低周波成分および高周波成分を比較することで水が溜まっているかどうかを判定することができる。
【0065】
前述した路面状態分析システムの機能的構成及び物理的構成は、前述の態様に限られるものではなく、例えば、各機能や物理資源を統合して実装したり、逆に、さらに分散して実装したりすることも可能である。
【0066】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 路面状態分析システム

2 第1の車両
21 振動検出部
22 速度センサ
23 車両位置取得部
24 車格データ記憶部
25 送信部

3 第2の車両
31 路面状態情報提供装置
310 受信部
320 ナビゲーション部

4 ネットワーク

5 路面状態分析装置
51 収集部
52 変換部
53 平均化部
54 正規化部
55 送信部
図1
図2
図3
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図16