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特許7073829車両用前照灯及び車両用前照灯の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】車両用前照灯及び車両用前照灯の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
B60Q1/14 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018054803
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019166907
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000136
【氏名又は名称】市光工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 智博
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-001620(JP,A)
【文献】特開2013-082390(JP,A)
【文献】特開2017-149230(JP,A)
【文献】特開2016-107743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数に分割された単位配光パターンを合成して全体の配光パターンを形成する光学ユニットと、
それぞれの前記単位配光パターンの光量の設定値を個別に調整可能な光量調整部と、
車両前方の所定対象物との相対位置関係を検出する対象物検出部と、
前記対象物検出部の検出結果に基づいて、複数の前記単位配光パターンにおいて前記所定対象物に重複する重複配光パターンが存在するか否かを判定し、前記重複配光パターンが存在すると判定した場合には、前記重複配光パターンを消灯状態とし、前記重複配光パターンが存在しないと判定した場合には、前記対象物検出部の検出結果に基づいて前記単位配光パターンの前記設定値を算出し、算出結果である算出値が当該算出値の算出時点の前記設定値である現在値より大きい場合、前記算出値と前記現在値との差が予め設定される制限値以下であるか否かを判定し、前記制限値以下であると判定した場合には前記算出値を新たな前記設定値とし、前記制限値よりも大きいと判定した場合には前記制限値と前記現在値とを加算した値を新たな前記設定値とする制御部と
を備える車両用前照灯。
【請求項2】
前記設定値の大きさと前記単位配光パターンの照射範囲との相関関係についての情報を記憶する記憶部を更に備え、
前記制御部は、前記対象物検出部の検出結果と、前記記憶部に記憶される前記情報とに基づいて、前記設定値を算出する
請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記制御部は、消灯状態にある前記単位配光パターンに隣り合う前記単位配光パターンについて、前記算出値の算出、前記算出値が前記現在値より大きい場合において前記算出値と前記現在値との差が前記制限値以下であるか否かの判定、及び当該判定に基づく新たな前記設定値の設定を行う
請求項1又は請求項2に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記制限値は、前記設定値として設定可能な最大値と最小値との差に対して所定の割合の値である
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の車両用前照灯。
【請求項5】
複数に分割された単位配光パターンを合成して全体の配光パターンを形成する光学ユニットと、それぞれの前記単位配光パターンの光量の設定値を個別に調整可能な光量調整部とを備える車両用前照灯の制御方法であって、
車両前方の所定対象物との相対位置関係を検出するステップを行い
前記相対位置関係の検出結果に基づいて、複数の前記単位配光パターンにおいて前記所定対象物に重複する重複配光パターンが存在するか否かを判定するステップを行い、
前記重複配光パターンが存在すると判定された場合には、前記重複配光パターンを消灯状態とするステップを行い、
前記重複配光パターンが存在しないと判定された場合には、
検出結果に基づいて、前記単位配光パターンの前記設定値を算出するステップと、
算出結果である算出値が当該算出値の算出時点の前記設定値である現在値より大きい場合、前記算出値と前記現在値との差が予め設定される制限値以下であるか否かを判定するステップと、
前記制限値以下であると判定した場合には前記算出値を新たな前記設定値とし、前記制限値よりも大きいと判定した場合には前記制限値と前記現在値とを加算した値を新たな前記設定値とするステップと、を行う
両用前照灯の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯及び車両用前照灯の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前方の対象車との相対位置に基づいてADBビーム配光パターンを変化させる車両用前照灯が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の車両用前照灯では、車両前方に分割された複数の配光パターンを照射する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5438410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような車両用前照灯では、例えば配光パターンの一部が先行車等に重複する場合には当該重複する配光パターンを自動的に消灯し、先行車等との重複が解消される場合には配光パターンを自動的に点灯させる。このような車両用前照灯を有する車両が例えば先行車に追従して走行する場合、先行車との位置関係の変動により、配光パターンが先行車と重複して消灯する動作と、重複が解除されて点灯する動作とが繰り返し行われる場合がある。このような場合、配光パターンが明滅し、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、運転者の違和感を低減することが可能な車両用前照灯及び車両用前照灯の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用前照灯は、複数に分割された単位配光パターンを合成して全体の配光パターンを形成する光学ユニットと、それぞれの前記単位配光パターンの光量の設定値を個別に調整可能な光量調整部と、車両前方の所定対象物との相対位置関係を検出する対象物検出部と、前記対象物検出部の検出結果に基づいて前記単位配光パターンの前記設定値を算出し、算出結果である算出値が当該算出値の算出時点の前記設定値である現在値より大きい場合、前記算出値と前記現在値との差が予め設定される制限値以下であるか否かを判定し、前記制限値以下であると判定した場合には前記算出値を新たな前記設定値とし、前記制限値よりも大きいと判定した場合には前記制限値と前記現在値とを加算した値を新たな前記設定値とする制御部とを備える。
【0007】
また、前記制御部は、前記設定値の大きさと前記単位配光パターンの照射範囲との相関関係についての情報を記憶する記憶部を更に備え、前記制御部は、前記対象物検出部の検出結果と、前記記憶部に記憶される前記情報とに基づいて、前記設定値を算出してもよい。
【0008】
また、前記制御部は、消灯状態にある前記単位配光パターンに隣り合う前記単位配光パターンについて、前記算出値の算出、前記算出値が前記現在値より大きい場合において前記算出値と前記現在値との差が前記制限値以下であるか否かの判定、及び当該判定に基づく新たな前記設定値の設定を行ってもよい。
【0009】
前記制御部は、複数の前記単位配光パターンにおいて前記所定対象物に重複する重複配光パターンが存在するか否かを判定し、前記重複配光パターンが存在すると判定した場合に、前記重複配光パターンを前記消灯状態としてもよい。
【0010】
また、前記制限値は、前記設定値として設定可能な最大値と最小値との差に対して所定の割合の値であってもよい。
【0011】
本発明に係る車両用前照灯の制御方法は、複数に分割された単位配光パターンを合成して全体の配光パターンを形成する光学ユニットと、それぞれの前記単位配光パターンの光量の設定値を個別に調整可能な光量調整部とを備える車両用前照灯の制御方法であって、車両前方の所定対象物との相対位置関係を検出するステップと、検出結果に基づいて、前記単位配光パターンの前記設定値を算出するステップと、算出結果である算出値が当該算出値の算出時点の前記設定値である現在値より大きい場合、前記算出値と前記現在値との差が予め設定される制限値以下であるか否かを判定するステップと、前記制限値以下であると判定した場合には前記算出値を新たな前記設定値とし、前記制限値よりも大きいと判定した場合には前記制限値と前記現在値とを加算した値を新たな前記設定値とするステップとを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、運転者の違和感を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る車両用前照灯の一例を示す機能ブロック図である。
図2図2は、単位配光パターンの光量と照射範囲との関係を模式的に示す図である。
図3図3は、複数の単位配光パターンの光量を調整する場合の一例を示す図である。
図4図4は、複数の単位配光パターンの光量を調整する場合の一例を示す図である。
図5図5は、複数の単位配光パターンの光量を調整する場合の一例を示す図である。
図6図6は、各単位配光パターンの光量を示すグラフである。
図7図7は、各単位配光パターンの光量を示すグラフである。
図8図8は、各単位配光パターンの光量を示すグラフである。
図9図9は、本実施形態に係る車両用前照灯の制御方法の一例を示すフローチャートである。
図10図10は、変形例に係る配光パターンの一例を示す図である。
図11図11は、光源の配置例を示す図である。
図12図12は、光源の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る車両用前照灯の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。以下の説明において、前後(前方、後方)、上下(上方、下方)、左右(左方、右方)の各方向は、車両用前照灯が車両に取り付けられた状態における方向であって、運転席に座った状態で正面を見た場合における方向を示す。なお、本実施形態では、上下方向は鉛直方向に平行であり、左右方向は水平方向であるとする。
【0015】
図1は、本実施形態に係る車両用前照灯100の一例を示す機能ブロック図である。図1に示すように、車両用前照灯100は、車両前方に例えばADBビーム配光パターンを照射する。光学ユニット10と、光量調整部20と、対象物検出部30と、制御部40と、記憶部50とを備えている。
【0016】
光学ユニット10は、車両の前方に配光パターンPを照射する。本実施形態において、配光パターンPは、分割された複数の単位配光パターンP1、P2、…、Pnが合成された状態で形成される。光学ユニット10は、光源11と、光学部材12とを有する。光源11は、例えばLED、レーザダイオード等が用いられる。光源11は、車両搭載状態における水平方向(左右方向)に複数設けられる。光源11は、例えば左右方向に1列に配置される。本実施形態では、1つの光源11により1つの単位配光パターン(P1、P2、…、Pnの1つ)を形成する。なお、複数の光源11によって1つの単位配光パターンを形成する構成であってもよい。
【0017】
光学部材12は、光源11からの光を出射することで、各光源11による複数の単位配光パターンP1、P2、…、Pnを合成した1つの配光パターンPを車両前方に照射する。光学部材12としては、レンズ、リフレクタ等が用いられる。
【0018】
光量調整部20は、単位配光パターンP1、P2、…、Pnの光量の設定値を単位配光パターンごとに個別に調整する。光量調整部20は、例えば光源11に供給する電流値を調整したり、光源11に供給する電流値のパルス幅を変調させたりすることにより、光源11から出射される光の光量を調整する。これにより単位配光パターンの光量の設定値を調整する。設定値を個別に調整可能である。光量調整部20は、光源11に供給する電流値を調整することにより、光源11の光量の設定値を調整する。光量調整部20は、光源11の光量の設定値を調整することにより、単位配光パターンの光量の設定値を個別に調整可能である。
【0019】
図2は、単位配光パターンの光量と照射範囲との関係を模式的に示す図である。図2の例では、単位配光パターンをスクリーンに照射した状態を示している。また、図2において、符号Vはスクリーンの上下の垂直線を示し、符号Hはスクリーンの左右の水平線を示す。
【0020】
図2では、光量調整部20により光量の設定値を最大値にした場合の単位配光パターンPA、光量の設定値を中央値にした場合の単位配光パターンPB、光量の設定値を最小値にした場合の単位配光パターンPCの各照射範囲を比較して示している。また、図2では、単位配光パターンPA、PB、PCの各照射範囲と光量の分布とを対応させて示している。
【0021】
図2に示す単位配光パターンPA、PB、PCの照射範囲は、車両用前照灯100を搭載する車両の前方に存在する所定対象物に対する基準値C以上の光量となる範囲である。この基準値Cは、車両用前照灯100から所定の距離だけ離れた位置に存在する所定対象物に対して眩惑光とならない許容限度の光量の値である。本実施形態において、所定対象物とは、例えば車両前方を走行する自動車、自転車等の車両(以下、先行車と表記する)が挙げられる。したがって、この場合の基準値Cは、先行車に対して眩惑光とならない許容限度の光量の値である。
【0022】
図2に示すように、光量調整部20により光量の設定値を小さくするにつれて、単位配光パターンの中央部における光量、周辺部における光量がそれぞれ小さくなっており、基準値C以上の光量となる照射領域が狭くなっている。したがって、1つの単位配光パターンにおいて、先行車が例えば単位配光パターンPAの照射領域と単位配光パターンPCの照射領域との間の位置に存在する場合、光量設定値20により設定値を最大値とした場合には、基準値Cを超える光量の光が先行車に照射されるため眩惑光となるが、設定値を最小値とした場合には、基準値Cよりも低い光量の光が先行車に照射されるため眩惑光とはならない。このように、光量調整部20によって単位配光パターンの光量の設定値を調整することにより、所定対象物(本実施形態では、先行車)に対して基準値Cを超える光量で照射される照射範囲が変動する。本実施形態では、このような単位配光パターンPA、PB、PCを含む各単位配光パターンについて、設定値の大きさと照射範囲との相関関係についての情報である設定値データ51が記憶部50に記憶されている。
【0023】
また、図1に示す対象物検出部30は、車両前方の所定対象物との相対位置関係を検出する。対象物検出部30としては、例えば画像解析により所定対象物の検出を行う撮像装置(カメラ等)、レーザセンサ等の測距装置等が用いられる。
【0024】
制御部40は、対象物検出部30の検出結果に基づいて、光量調整部20における光量の調整動作を制御する。制御部40は、重複判定部41と、設定値制御部42とを有する。
【0025】
重複判定部41は、対象物検出部30の検出結果に基づいて、複数の単位配光パターンP1、P2、…、Pnにおいて所定対象物に重複する重複配光パターンが存在するか否かを判定する。
【0026】
設定値制御部42は、重複判定部41の判定結果に基づいて、単位配光パターンP1、P2、…、Pnの設定値を算出する。設定値制御部42は、例えば重複判定部41により重複配光パターンが存在すると判定された場合には、判定時点の設定値を低減させた値を算出値とする。この場合、設定値制御部42は、例えばゼロを算出値とすることにより、重複配光パターンを消灯させてもよい。また、設定値制御部42は、所定対象物に対して照射される重複配光パターンの光量が基準値Cとなるような設定値を算出値として算出してもよい。
【0027】
また、設定値制御部42は、重複判定部41により重複配光パターンが存在しないと判定された場合には、記憶部50に記憶された設定値データ51に基づいて、単位配光パターンP1、P2、…、Pnのそれぞれの設定値を算出値として算出する。この場合、設定値制御部42は、例えば単位配光パターンP1、P2、…、Pnのそれぞれについて設定可能な最大値を算出値として算出することができる。
【0028】
設定値制御部42は、このような設定値の算出処理を、例えば車両の運転席に設けられる切り替えスイッチ等により車両用前照灯100が点灯状態に設定される場合において、所定周期毎に行う。この構成により、所定周期毎に新たな設定値が算出されるため、車両前方の状況を確実に反映させることが可能となっている。
【0029】
ここで、算出値が算出された時点における設定値を現在値と表記する。設定値制御部42は、算出値が現在値よりも大きいか否か、つまり新たな設定値により単位配光パターンの光量が現在値に比べて増加するか否かを判定する。設定値制御部42は、算出値が現在値より大きいと判定した場合、算出値と現在値との差を求め、この差が制限値以下であるか否かを判定する。ここで、制限値は、予め設定された値であり、例えば設定値として設定可能な最大値と最小値との差に対して所定の割合の値とすることができる。本実施形態において、所定の割合は、例えば5%以上15%以下の範囲で設定することができる。なお、所定の割合は、5%以上15%以下に限定されない。
【0030】
設定値制御部42は、当該差が制限値以下であると判定した場合には、算出値を新たな設定値とする。また、設定値制御部42は、当該差が制限値よりも大きいと判定した場合には、制限値と現在値との和で求められる値を新たな設定値とする。
【0031】
図3から図5は、複数の単位配光パターンP1~P8の光量を調整する場合の一例を示す図である。図6から図8は、図3から図5に示す場合において、各単位配光パターンP1~P8の光量を示すグラフである。図6から図8に示すグラフにおいて、縦軸は光量(割合)である。本実施形態では、8つの光源11により、8つの単位配光パターンP1~P8が形成される場合を例に挙げて説明する。
【0032】
図3に示すように、車両前方に先行車が存在しない場合、光量調整部20は、例えば予め設定された設定値で全ての単位配光パターンP1~P8を照射して、配光パターンPを形成する。この場合、全ての単位配光パターンP1~P8が照射されているため、車両前方の道路の左側端に存在する歩行者61に対しては、道路の左側端に対応する単位配光パターンP2が照射される。このため、車両の運転者に対して歩行者61を容易に認識させることができる。
【0033】
なお、図3では、道路の左方から中央において、単位配光パターンP1から単位配光パターンP4にかけて水平方向の寸法が徐々に小さくなっている。また、道路の右方から中央において、単位配光パターンP8から単位配光パターンP5にかけて水平方向の寸法が徐々に小さくなっている。つまり、道路の側方から中央にかけて、単位配光パターンの水平方向の寸法が徐々に小さくなっている。本実施形態では、光学ユニット10により、道路の側方の単位配光パターンP1、P8側については照射範囲を左右方向に拡散し、道路の中央の単位配光パターンP4、P5側については照射範囲を左右方向に集光している。このため、図6に示すように、道路の中央側の単位配光パターンP4、P5等は、道路の側方の単位配光パターンP1、P8等に比べて、光量が高くなっている。このように、単位配光パターンP1~P8の間で光量の分布を形成することができる。
【0034】
一方、車両前方に先行車が存在する場合、単位配光パターンP1~P8を全て照射した状態では、先行車60に単位配光パターンP1~P8の一部が照射されてしまい、先行車60にとって眩惑光となる。そのため、例えば図4及び図7に示すように、単位配光パターンP1~P8のうち先行車60に重複する単位配光パターンである重複配光パターンP2~P4を消灯させる。
【0035】
その後、車両前方の先行車との位置関係が変動することにより、先行車60に単位配光パターンP1~P8が照射される範囲が変動する。例えば、図5に示すように、先行車との距離が長くなった場合、単位配光パターンP3、P4については先行車60に重なった状態であるが、単位配光パターンP3と隣り合う単位配光パターンP2の照射領域については先行車60に重ならない状態となる。したがって、単位配光パターンP2が重複配光パターンではなくなるため、当該単位配光パターンP2を点灯させることが可能となる。
【0036】
この場合、設定値制御部42は、まず単位配光パターンP2の設定値を算出する。設定値制御部42は、記憶部50に記憶された設定値データ51に基づいて、単位配光パターンP2の設定値を算出する。ここでは、設定値制御部42は、例えば予め設定された値X2を算出値として算出する。
【0037】
次に、設定値制御部42は、算出値X2が算出時点の設定値より大きいか否かを判定する。算出値X2の算出時点では、単位配光パターンP2が消灯状態であるから、算出時点の設定値はゼロである。そのため、設定値制御部42は、算出値X2が算出時点の設定値より大きいと判定する。
【0038】
次に、設定値制御部42は、算出値X2と算出時点での設定値との差が予め設定される制限値以下であるか否かを判定する。この場合、設定値制御部42は、例えば設定値として設定可能な最大値と最小値との差に対して5%以上15%以下の値を制限値Yとすることができる。本実施形態では、算出時点の設定値がゼロであるため、上記の差は、算出値X2となる。ここで、算出値X2は制限値Yよりも大きい。したがって、設定値制御部42は、上記の差が制限値Yよりも大きいと判定し、制限値Yを新たな設定値とする。光量調整部20は、単位配光パターンP2の設定値を制限値Yとする。これにより、図5及び図8に示すように、単位配光パターンP2が照射される。
【0039】
設定値制御部42は、車両の運転席に設けられる切り替えスイッチ等により車両用前照灯100が点灯状態に設定される場合において、上記の処理を所定周期で行う。したがって、単位配光パターンP2の照射領域が先行車60に重複しない状態が維持される場合には、当該単位配光パターンP2の設定値は、所定周期ごとに制限値Yずつ上昇する。
【0040】
その後、車両前方の先行車との位置関係が変動することにより、先行車60に再び単位配光パターンP2が重なった状態となる場合、設定値制御部42は、当該単位配光パターンP2を再び消灯させる。また、単位配光パターンP2を消灯させた後、当該単位配光パターンP2の照射領域が先行車60に重ならない状態となる場合、設定値制御部42は、当該単位配光パターンP2を再び点灯させることが可能となる。
【0041】
このように、先行車60に追従して走行する場合、単位配光パターンP2が先行車60と重複して消灯され、重複が解除されて点灯する動作が繰り返し行われる場合がある。このような場合、本実施形態では、単位配光パターンP2を点灯させる際、設定値の増加量が制限値Yよりも大きくなる場合には、所定周期ごとに制限値Yずつ設定値が増加することになる。したがって、単位配光パターンP2を点灯させる場合において、所定時間当たりの光量の変化率が一定となるため、運転者への違和感が低減される。
【0042】
例えば、設定値の算出処理を行う所定周期を100msとし、設定値として設定可能な最大値と最小値との差の5%の値を制限値とする。この場合、設定値は、所定周期あたり上記最大値と最小値との差の5%の値ずつ増加する。そのため、現在値が0%の値(最小値)であり算出値が100%の値(最大値)である場合、設定値が算出値に到達するまでに要する時間は2000msである。また、現在値が50%の値であり算出値が70%の値である場合、設定値が算出値に到達するまでに要する時間は400msである。
【0043】
ここで、算出値が500ms毎に変動する場合について考える。第1例として、現在値が0%の値であり、以降、算出値が500ms毎に100%の値と0%の値とを交互に繰り返す場合について検討する。現在値(0%の値)から最初の算出値(100%の値)が算出された500msの期間は、100ms毎に5%の値ずつ設定値が増加して25%の値まで到達する。その後、算出値が0%の値に変更された場合、眩惑防止のため、設定値は変更時点から100ms後に0%の値となる。これ以降についても同様であり、設定値が25%の値と0%の値との間で変化する。
【0044】
次に、第2例として、現在値が50%の値であり、以降、算出値が500ms毎に70%の値と50%の値とを交互に繰り返す場合について検討する。現在値(50%の値)から最初の算出値(70%の値)が算出された500msの期間は、100ms毎に5%の値ずつ設定値が増加し、400ms後には70%の値まで到達する。その後、100msが経過した後、算出値が50%の値に変更されるため、設定値は70%の値から100ms毎に5%の値ずつ減少し、400ms後には50%の値に到達する。これ以降についても同様であり、設定値が50%の値と70%の値との間で変化する。
【0045】
上記第1例と第2例との間では、所定時間当たりの設定値の変化量が等しいため、運転者に与える違和感が低減される。
【0046】
次に、比較例として、設定値の算出処理を行う所定周期を100msとし、現在値から算出値まで、一定時間(例えば、1000ms)で変化させる場合を考える。比較第1例として、現在値が0%の値であり、以降、算出値が500ms毎に100%の値と0%の値とを交互に繰り返す場合について検討する。現在値(0%の値)から最初の算出値(100%の値)までは、100msあたり10%の値ずつ設定値が増加して50%の値まで到達する。その後、算出値が0%の値に変更された場合、眩惑防止のため、設定値は変更時点から100ms後に0%の値となる。これ以降についても同様であり、設定値が0%の値と50%の値との間で変化する。この場合の100msあたりの設定値の変化量(50%)は、上記の第1例における変化量(25%)に比べて大きくなっている。
【0047】
次に、比較第2例として、現在値が50%の値であり、算出値が500ms毎に70%の値と50%の値とを交互に繰り返す場合について検討する。現在値(50%の値)から最初の算出値(70%の値)までは、100msあたり2%の値ずつ設定値が増加し、500ms後には60%の値に到達する。その後、算出値が50%の値に変更されるため、設定値は60%の値から100ms毎に2%の値ずつ減少し、500ms後には50%の値に到達する。この場合の100msあたりの設定値の変化量(10%)は、上記の第2例(20%)に比べて小さくなっている。
【0048】
比較例において、比較第1例のように設定値の変動幅が大きい場合には、所定時間当たりの設定値の変化量が大きくなり、比較第2例のように設定値の変動幅が小さい場合には、所定時間当たりの設定値の変化量が小さくなる。この場合、設定値の変動幅が大きい場合と、設定値の変動幅が小さい場合とで、所定時間当たりの設定値の変化量に大きく差がつくため、運転者に違和感を与える場合がある。
【0049】
一方、本実施形態では、第1例及び第2例に示すように、所定時間当たりの設定値の変化量は、設定値の変動幅によらず一定である。したがって、現在値から算出値までを一定時間で変化させる場合に比べて、運転者に与える違和感が低減される。
【0050】
図9は、本実施形態に係る車両用前照灯100の制御方法の一例を示すフローチャートである。制御部40は、例えば車両の運転席に設けられる切り替えスイッチ等により車両用前照灯100が点灯状態に設定される場合において、以下の車両用前照灯100の制御方法に係る処理を行う。この場合、まず、車両前方の所定対象物である先行車との相対位置関係を検出する(ステップS10)。ステップS10において、対象物検出部30は、一例として先行車との距離を検出する。
【0051】
次に、重複判定部41は、対象物検出部30の検出結果に基づいて、複数の単位配光パターンP1、P2、…、P8において、先行車に重複する重複配光パターンが存在するか否かを判定する(ステップS20)。
【0052】
重複判定部41により重複配光パターンが存在すると判定された場合(ステップS20のYes)、設定値制御部42は、重複配光パターンの光量の設定値を低減させる。本実施形態において、設定値制御部42は、重複配光パターンを消灯する(ステップS30)。
【0053】
また、重複判定部41により重複配光パターンが存在しないと判定された場合(ステップS20のNo)、設定値制御部42は、対象物検出部30によって検出される先行車との距離等の検出情報と、記憶部50に記憶される設定値データ51とに基づいて、単位配光パターンP1、P2、…、P8の設定値をそれぞれ算出する(ステップS40)。
【0054】
次に、設定値制御部42は、単位配光パターンP1、P2、…、P8の設定値を算出した算出値から算出時点の設定値(現在値)を引いた差が所定の制限値以上となるか否かを判定する(ステップS50)。ステップS50において、当該差が制限値以上となると判定した場合(ステップS50のYes)、設定値制御部42は、算出値を新たな設定値とする(ステップS60)。一方、ステップS50において、当該差が制限値未満となると判定した場合(ステップS50のNo)、設定値制御部42は、制限値と現在値との和を新たな設定値とする(ステップS70)。
【0055】
ステップS60又はステップS70を行った後、制御部40は、上記のステップS10に戻って処理を行う。また、制御部40は、例えば運転席に設けられる切り替えスイッチ等により車両用前照灯100が消灯状態の設定に切り替えられる場合に、上記処理を終了する。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る車両用前照灯100は、複数に分割された単位配光パターンP1、P2、…、P8を合成して全体の配光パターンPを形成する光学ユニット10と、それぞれの単位配光パターンP1、P2、…、P8の光量の設定値を個別に調整可能な光量調整部20と、車両前方の先行車60との相対位置関係を検出する対象物検出部30と、対象物検出部30の検出結果に基づいて単位配光パターンP1、P2、…、P8の設定値を算出し、算出結果である算出値が当該算出値の算出時点の設定値である現在値より大きい場合、算出値と現在値との差が予め設定される制限値以下であるか否かを判定し、制限値以下であると判定した場合には算出値を新たな設定値とし、制限値よりも大きいと判定した場合には制限値と現在値との和で求められる値を新たな設定値とする制御部40とを備える。
【0057】
また、本実施形態に係る車両用前照灯100の制御方法は、複数に分割された単位配光パターンP1、P2、…、P8を合成して全体の配光パターンPを形成する光学ユニットと、それぞれの単位配光パターンP1、P2、…、P8の光量の設定値を個別に調整可能な光量調整部20とを備える車両用前照灯100の制御方法であって、車両前方の先行車60との相対位置関係を検出するステップと、検出結果に基づいて単位配光パターンP1、P2、…、P8の設定値を算出するステップと、算出結果である算出値が当該算出値の算出時点の設定値である現在値より大きい場合、算出値と現在値との差が予め設定される制限値以下であるか否かを判定するステップと、制限値以下であると判定した場合には算出値を新たな設定値とし、制限値よりも大きいと判定した場合には制限値と現在値との和で求められる値を新たな設定値とするステップとを含む。
【0058】
本実施形態では、単位配光パターンP1、P2、…、P8の光量の算出値が現在値よりも大きい場合であって、算出値と現在値との差が制限値より大きい場合には、光量の変化率が一定以上になることを抑えることができる。このため、運転者の違和感を低減することが可能となる。
【0059】
例えば、先行車60との位置関係によっては、単位配光パターンP2が先行車60と重複して消灯され、重複が解除されて点灯する動作が繰り返し行われる場合がある。このような場合において単位配光パターンP2を点灯させる際、設定値の増加量が制限値Yよりも大きくなる場合には、所定周期ごとに制限値Yずつ設定値が増加することになる。したがって、単位配光パターンP2を点灯させる場合において、所定時間当たりの光量の変化率が一定となるため、運転者への違和感が低減される。
【0060】
また、上記の車両用前照灯100において、制御部40は、設定値の大きさと単位配光パターンP1、P2、…、P8の照射範囲との相関関係についての設定値データ51を記憶する記憶部50を備え、制御部40は、対象物検出部30の検出結果と、記憶部50に記憶される設定値データ51とに基づいて、設定値を算出する。この構成により、単位配光パターンP1、P2、…、P8が車両前方の所定対象物(先行車60等)に重なることを抑制できる。
【0061】
また、上記の車両用前照灯100において、制御部40は、消灯状態にある単位配光パターンP3に隣り合う単位配光パターンP2について、算出値の算出、算出値が現在値より大きい場合において算出値と現在値との差が制限値以下であるか否かの判定、及び当該判定に基づく新たな設定値の設定を行う。消灯状態にある単位配光パターンP3に隣り合う単位配光パターンP2が点灯及び消灯を繰り返す場合、所定時間当たりの光量の変化率に差があると、運転者に違和感として認識されやすくなる。これに対して、本実施形態では、当該単位配光パターンP2の点灯時に所定時間当たりの光量の変化率が一定となることで、運転者への違和感をより効果的に低減することができる。
【0062】
また、上記の車両用前照灯100において、制御部40は、複数の単位配光パターンP1、P2、…、P8において先行車60に重複する重複配光パターンが存在するか否かを判定し、重複配光パターンが存在すると判定した場合に、重複配光パターンを消灯状態とする。これにより、先行車60に眩惑光が照射されることを抑制できる。
【0063】
また、上記の車両用前照灯100において、制限値は、設定値として設定可能な最大値と最小値との差に対して所定の割合の値であってもよい。この構成により、運転者への違和感をより確実に低減することができる。
【0064】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上記実施形態では、複数の単位配光パターンP1~P8が車両前方の左右方向に分割された構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
【0065】
図10は、変形例に係る配光パターンの一例を示す図である。図10に示すように、配光パターンPは、左右方向に加えて上下方向に分割された単位配光パターンP11~P18、P21~P28を含む構成であってもよい。この場合、単位配光パターンP11~P18、P21~P28の光量の設定値を個々に調整可能である。例えば、先行車が符号62の位置を走行する場合、単位配光パターンP12、P13、P14、P22、P23、P24が重複配光パターンとなる。そのため、設定値制御部42は、先行車62に重複する重複配光パターンP12、P13、P14、P22、P23、P24を消灯させる。その後、例えば先行車との間隔が広がり、先行車の位置が符号63の位置に変動した場合、単位配光パターンP13、P14、P22、P23、P24は重複配光パターンであるが、単位配光パターンP12は重複配光パターンではなくなる。したがって、当該単位配光パターンP12を点灯させることが可能となる。この場合、設定値制御部42は、上記実施形態と同様に、設定値の増加量が制限値よりも大きくなる場合には、所定周期ごとに制限値ずつ設定値を増加させる。したがって、単位配光パターンP12を点灯させる場合において、所定時間当たりの光量の変化率が一定となるため、運転者への違和感が低減される。
【0066】
図11及び図12は、光源11の配置例を示す図である。図11に示すように、上記実施形態において、配光パターンPは、左右方向に分割された単位配光パターンP1、P2、…、Pnを有する。したがって、単位配光パターンP1、P2、…、Pnの配置に対応して、例えば半導体型光源などの光源11を左右方向に平行に一列に配置することができる。
【0067】
また、図10に示す例では、配光パターンPPが左右方向に加えて上下方向に分割された単位配光パターンP11~P18、P21~P28を有する。したがって、単位配光パターンP11~P18、P21~P28の配置に対応して、左右方向に平行に配置された複数の光源11が上下方向に二列に配置された構成とすることができる。なお、単位配光パターンが上下方向に3列以上に分割される場合には、当該単位配光パターンの配置に対応して、光源11を上下方向に3列以上に配置することができる。
【符号の説明】
【0068】
C…基準値、P,PP…配光パターン、P1~P8,PA,PB,PC,P11~P18,P21~P28…単位配光パターン、Y…制限値、X2…算出値、10…光学ユニット、11…光源、12…光学部材、20…光量調整部、30…対象物検出部、40…制御部、41…重複判定部、42…設定値制御部、50…記憶部、51…設定値データ、60…先行車、61…歩行者、100…車両用前照灯。
図1
図2
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図6
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図10
図11
図12