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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】ゴム材料の混練方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/28 20060101AFI20220517BHJP
   B29B 7/20 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
B29B7/28
B29B7/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018096755
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019202416
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶知
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-008543(JP,A)
【文献】特開2005-246785(JP,A)
【文献】特開2014-226910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/20,7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ゴムと配合剤とからなるゴム材料をバッチ毎に密閉型混練機の混練室で、前記混練室に内設されたロータを回転させることにより混練して目標物性の混練ゴムを製造するゴム材料の混練方法において、
前記ゴム材料の混練工程での前記ロータを構成する撹拌羽根におけるせん断力データを前記撹拌羽根の羽根先部または前記混練室の前記羽根先部に対向する内壁面に設置された歪センサによって逐次検知し、この検知した前記せん断力データに基づいて前記ゴム材料の混練状態を把握するに際して、前記混練工程の開始から終了までの期間を1つの評価期間または分割された複数の評価期間として、それぞれの前記評価期間において前記目標物性の混練ゴムを製造するために必要な前記せん断力データを積算したせん断力積算目標値を予め設定しておき、逐次検知したそれぞれの前記評価期間での前記せん断力データを積算したせん断力実測積算値と、このせん断力実測積算値に対応する前記せん断力積算目標値との比較に基づいて前記ゴム材料の混練状態を把握することを特徴とするゴム材料の混練方法。
【請求項2】
前記せん断力実測積算値が、このせん断力実測積算値に対応する前記せん断力積算目標値の許容範囲内になるように混練条件を制御する請求項1に記載のゴム材料の混練方法。
【請求項3】
前記混練工程での前記ゴム材料の温度データを前記歪センサの近傍に配置された温度センサにより逐次検知し、この検知した前記温度データに基づいて前記ゴム材料の混練状態を把握する請求項1または2に記載のゴム材料の混練方法。
【請求項4】
それぞれの前記評価期間において前記目標物性の混練ゴムを製造するために必要な前記温度データを積算した温度積算目標値を予め設定しておき、逐次検知したそれぞれの前記評価期間での前記温度データを積算した温度実測積算値と、この温度実測積算値に対応する前記温度積算目標値との比較に基づいて前記ゴム材料の混練状態を把握する請求項3に記載のゴム材料の混練方法。
【請求項5】
前記温度実測積算値が、この温度実測積算値に対応する前記温度積算目標値の許容範囲内になるように混練条件を制御する請求項4に記載のゴム材料の混練方法。
【請求項6】
原料ゴムと配合剤とからなるゴム材料が投入される混練室と、この混練室に配置されたロータと、このロータを回転駆動させる駆動モータと、前記ロータと前記駆動モータとの間に介在する変速機とを備えた密閉型混練機と、前記密閉型混練機の動きを制御する制御部とを備えたゴム材料の混練システムにおいて、
前記ロータを構成する撹拌羽根の羽根先部または前記混練室の前記羽根先部に対向する内壁面に設置されて前記撹拌羽根におけるせん断力データを逐次検知する歪センサと、前記せん断力データが逐次入力される演算部とを有し、前記せん断力データに基づいて前記演算部により前記ゴム材料の混練状態が判断される構成にして、
前記混練工程の開始から終了までの期間を1つの評価期間または分割された複数の評価期間として、それぞれの前記評価期間において前記目標物性の混練ゴムを製造するために必要な前記せん断力データを積算したせん断力積算目標値が予め前記演算部に入力されていて、前記歪センサにより逐次検知されたそれぞれの前記評価期間での前記せん断力データを積算したせん断力実測積算値と、このせん断力実測積算値に対応する前記せん断力積算目標値との比較に基づいて前記演算部により前記ゴム材料の混練状態が判断されることを特徴とするゴム材料の混練システム。
【請求項7】
前記せん断力実測積算値が、このせん断力実測積算値に対応する前記せん断力積算目標値の許容範囲内になるように前記制御部により混練条件が制御される請求項6に記載のゴム材料の混練システム。
【請求項8】
前記混練工程での前記ゴム材料の温度データを前記歪センサの近傍に配置された温度センサを有し、前記温度データが前記演算部に逐次入力されて、前記温度データに基づいて前記演算部により前記ゴム材料の混練状態が判断される構成にした請求項6または7に記載のゴム材料の混練システム。
【請求項9】
それぞれの前記評価期間において前記目標物性の混練ゴムを製造するために必要な前記温度データを積算した温度積算目標値が予め前記部に入力されていて、前記温度センサにより逐次検知したそれぞれの前記評価期間での前記温度データを積算した温度実測積算値と、この温度実測積算値に対応する前記温度積算目標値との比較に基づいて前記演算部により前記ゴム材料の混練状態が判断される構成にした請求項8に記載のゴム材料の混練システム。
【請求項10】
前記温度実測積算値が、この温度実測積算値に対応する前記温度積算目標値の許容範囲内になるように前記制御部により混練条件が制御される請求項9に記載のゴム材料の混練システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の混練方法およびシステムに関し、さらに詳しくは、所定品質の混練ゴムを安定して製造することができ、混練機の違いに起因する品質のばらつきも抑制することができるゴム材料の混練方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤやゴムホース等のゴム製品は、未加硫ゴム材料を用いて成形された成形体を加硫することにより製造される。未加硫ゴム材料を製造するには例えば、原料ゴムと、カーボンブラック、フィラー、オイル等の非加硫系の配合剤とを、密閉型混練機によって混練することでまず一次混練ゴムを製造する。その後、一次混練ゴムに硫黄等などの加硫系の配合剤を混合して混練することで最終混練ゴムを製造し、これが未加硫ゴム材料として使用される。
【0003】
混練工程では、ゴム材料は回転するロータによってせん断力が付与されることにより混練される。従来、混練状態を把握するために、ロータを回転駆動するために要する電力量等を検知している(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、検知される電力量には、ロータを回転駆動させる駆動モータでの損失が含まれている。また、駆動モータとロータとの間には変速機等が介在しているため、このような介在する機構の損失も検知される電力量に含まれている。それ故、ロータによってゴム材料に付与されたせん断力を精度よく把握することが困難になっている。特に、ゴム材料に付与されたせん断力の大きさやその際に発生するゴム材料の温度変化の大きさは、製造された混練ゴムでの配合剤の分散状態に大きく影響する。したがって、所定品質の混練ゴムを安定して製造するには改善の余地がある。また、同仕様のゴム材料に対して同じ混練条件に設定した混練工程であっても、使用する混練機が異なると検知される電力量に違いが生じるため、混練ゴムの品質にばらつきが生じることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-246785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、所定品質の混練ゴムを安定して製造することができ、混練機の違いに起因する品質のばらつきも抑制することができるゴム材料の混練方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴム材料の混練方法は、原料ゴムと配合剤とからなるゴム材料をバッチ毎に密閉型混練機の混練室で、前記混練室に内設されたロータを回転させることにより混練して目標物性の混練ゴムを製造するゴム材料の混練方法において、前記ゴム材料の混練工程での前記ロータを構成する撹拌羽根におけるせん断力データを前記撹拌羽根の羽根先部または前記混練室の前記羽根先部に対向する内壁面に設置された歪センサによって逐次検知し、この検知した前記せん断力データに基づいて前記ゴム材料の混練状態を把握するに際して、前記混練工程の開始から終了までの期間を1つの評価期間または分割された複数の評価期間として、それぞれの前記評価期間において前記目標物性の混練ゴムを製造するために必要な前記せん断力データを積算したせん断力積算目標値を予め設定しておき、逐次検知したそれぞれの前記評価期間での前記せん断力データを積算したせん断力実測積算値と、このせん断力実測積算値に対応する前記せん断力積算目標値との比較に基づいて前記ゴム材料の混練状態を把握することを特徴とする。
【0007】
本発明のゴム材料の混練システムは、原料ゴムと配合剤とからなるゴム材料が投入される混練室と、この混練室に配置されたロータと、このロータを回転駆動させる駆動モータと、前記ロータと前記駆動モータとの間に介在する変速機とを備えた密閉型混練機と、前記密閉型混練機の動きを制御する制御部とを備えたゴム材料の混練システムにおいて、前記ロータを構成する撹拌羽根の羽根先部または前記混練室の前記羽根先部に対向する内壁面に設置されて前記撹拌羽根におけるせん断力データを逐次検知する歪センサと、前記せん断力データが逐次入力される演算部とを有し、前記せん断力データに基づいて前記演算部により前記ゴム材料の混練状態が判断される構成にして、前記混練工程の開始から終了までの期間を1つの評価期間または分割された複数の評価期間として、それぞれの前記評価期間において前記目標物性の混練ゴムを製造するために必要な前記せん断力データを積算したせん断力積算目標値が予め前記演算部に入力されていて、前記歪センサにより逐次検知されたそれぞれの前記評価期間での前記せん断力データを積算したせん断力実測積算値と、このせん断力実測積算値に対応する前記せん断力積算目標値との比較に基づいて前記演算部により前記ゴム材料の混練状態が判断されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゴム材料の混練工程での撹拌羽根におけるせん断力データを撹拌羽根の羽根先部または混練室の羽根先部に対向する内壁面に設置された歪センサによって逐次検知する。逐次検知したせん断力データには、駆動モータでの損失、駆動モータとロータとの間に介在する変速機等での損失が含まれず、混練工程においてゴム材料に付与されたせん断力データとして見なすことができる。それ故、このせん断力データに基づいてゴム材料の混練状態をより精度よく把握することが可能になるため、所定品質の混練ゴムを安定して製造するには有利になる。また、このせん断力データを用いることでゴム材料の混練状態に対する混練機の違いによる影響を概ね排除できるので、混練機の違いに起因する混練ゴムの品質のばらつきを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の混練システムを、密閉型混練機を縦断面視にして例示する説明図である。
図2図1の密閉型混練機を平面視で例示する説明図である。
図3図1のA-A断面図である。
図4】せん断力データおよびゴム材料の温度データの経時変化を例示するグラフ図である。
図5図1の混練システムを用いてゴム材料を混練している状態を例示する説明図である。
図6】混練システムの別の実施形態を密閉型混練機を縦断面視にして例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のゴム材料の混練方法およびシステムを、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1図3に例示する本発明のゴム材料の混練システムの実施形態は、密閉型混練機1(以下、混練機1という)と、混練機1の動きを制御する制御部12と、所定のデータが入力されて演算処理を行う演算部13とを備えている。制御部12と演算部13とは有線または無線により通信可能に接続されている。
【0012】
混練機1は未加硫のゴム材料Rを混練する。ゴム材料Rは原料ゴムGと複数種類の非加硫系の配合剤Nとからなり、混練されることで原料ゴムGに配合剤Nを均等に分散させるようにして目標物性の混練ゴムRFが製造される。この目標物性としては粘度を例示できる。
【0013】
原料ゴムGとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエン、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(アクリルニトリルゴム、水素化ニトリルゴム)、エチレンプロピレンジエンゴム等を例示できる。これらを1種単独でまたは2種以上を組合せて使用する。非加硫系の配合剤Nとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等の中から適宜、必要なものが使用される。
【0014】
混練機1は、混練室5aと、混練室5aの上端開口に接続されて上方に延在するラム室5bと、混練室5aに配置された一対のロータ2(2A、2B)と、ラム室5bに配置されたラム6を有している。混練室5aには油投入部7が接続され、ラム室5bにはゴム投入部8および配合剤投入部10が接続されている。配合剤投入部10の上端にはホッパ9が接続されている。混練室5aの底面には開閉する排出扉11が設けられている。
【0015】
それぞれのロータ2A、2Bは、ロータ軸2cとロータ軸2cに突設された撹拌羽根2dとを有している。それぞれのロータ2A、2B(ロータ軸2c)は対向配置されて、それぞれのロータ軸2cは変速機4を介して駆動モータ3(3A、3B)に接続されている。それぞれのロータ軸2cは、駆動モータ3A、3Bによって回転駆動される。それぞれのロータ軸2cが同じ1つの駆動モータ3によって回転駆動される構成にすることもできる。ロータ2A、2B(ロータ軸2c)の回転駆動および停止、回転速度等は制御部12により制御される。
【0016】
また、それぞれの撹拌羽根2dの羽根先部(半径方向外側部分)には歪センサ15が設置(埋設)されている。歪センサ15と演算部13とは有線または無線により通信可能に接続されている。歪センサ15は、撹拌羽根2dの変形に基づいて混練工程の開始から終了までの撹拌羽根2dに生じるせん断力を検知する。歪センサ15としては、撹拌羽根2dの回転歪み(捩じり歪み)を検知する歪ゲージ等を用いることができる。歪センサ15により検知されたせん断力データSfは逐次、演算部13に入力される。
【0017】
この実施形態では、撹拌羽根2dの羽根先部にはさらに、歪センサ15の近傍位置に温度センサ14が設置(埋設)されている。温度センサ14と演算部13とは有線または無線により通信可能に接続されている。温度センサ14は混練室5aで混練されているゴム材料Rの温度を逐次検知する。より詳しくは、ゴム材料Rがせん断変形した際のゴム材料Rの温度変化を検知する。そのため、歪センサ15と温度センサ14との離間距離は例えば10cm以内、より好ましくは5cm以内に設定される。温度センサ14により検知された温度データTmは演算部13に逐次入力される。
【0018】
尚、この実施形態では制御部12と演算部13が別々に設けられているが、制御部12を演算部13として用いることもできる。即ち、1台のコンピュータを制御部12および演算部13として機能させる構成にすることもできる。
【0019】
混練工程は図4に例示するように、ゴム素練り段階(S1)、配合剤取り込み段階(S2)、均一分散段階(S3)で構成される。混練工程でのせん断力データSf、温度データTmは図4に例示するように逐次変化する。
【0020】
制御部12には電力計12aおよび回転計12bが付設されている。ロータ2を回転駆動させるために要した瞬時電力量が電力計12aにより逐次検知される。電力計12aにより検知された瞬時電力量データP1は制御部12に入力される。制御部12では瞬時電力量を積算した積算電力量が算出されて、任意の混練期間おけるロータ2を回転駆動させるために要した積算電力量データP2を把握することができる。ロータ2の回転数は回転計12bにより逐次検知されて制御部12に入力される。
【0021】
ラム室5bの内部を上下移動するラム6は、所定位置まで下方移動すると混練室5aの上端開口を塞ぐことができる。ラム6は、油圧シリンダ等の昇降機構によって上下移動される。ラム6の上下移動(上下位置)が制御部12により制御されることで、混練室5aに投入されているゴム材料Rに対してラム6によって付与されるラム圧力が調整される。
【0022】
目標物性の混練ゴムRFを製造するには、それぞれのロータ2によってゴム材料Rに対して所定量のせん断力を付与する必要がある。したがって、混練工程において、目標物性の混練ゴムRFを得るためのせん断力データSfの必要量の目標値が判明している。尚、このせん断力は主に、回転するロータ2の攪拌羽根2dの羽根先部と混練室5aの円弧状の壁面(図1では左右両側の内壁面)との間にゴム材料Rが挟まれた状態で混練される際に付与される。
【0023】
そこで、混練工程の開始から終了までの期間を1つの評価期間または分割された複数の評価期間として、それぞれの評価期間において目標物性の混練ゴムRFを製造するために必要なせん断力データSfを積算したせん断力積算目標値STを予め設定しておく。このせん断力積算目標値STは演算部13に入力、記憶されている。即ち、検知されたせん断力データSfの積算値(せん断力実測積算値SR)がせん断力積算目標値STに到達するように混練を行うことで、目標特性の混練ゴムRFを得ることができる。
【0024】
混練工程の開始から終了までの期間を1つの評価期間にする場合は、混練開始から終了までのせん断力積算目標値STが設定される。混練工程の開始から終了までの期間を分割された複数の評価期間にする場合は、例えば、ゴム素練り段階(S1)、配合剤取り込み段階(S2)、均一分散段階(S3)のそれぞれ段階に対応させた3つの評価期間にする。即ち、それぞれの段階S1、S2、S3でのせん断力積算目標値STが設定される。
【0025】
予め設定されたせん断力積算目標値STに対する許容範囲ASも演算部13に入力、記憶されている。せん断力実測積算値SRがせん断力積算目標値STに対して許容範囲AS内であれば、目標特性の許容範囲内の混練ゴムRFを得ることができる。尚、せん断力積算目標値STおよび許容範囲ASは事前に混練工程を行うことにより把握されている。許容範囲ASは例えばせん断力積算目標値STの±5%程度である。
【0026】
ゴム材料Rにせん断力が付与されるとゴム材料Rはせん断変形する。このゴム材料Rのせん断変形に伴ってゴム材料Rの温度データTmは変化する。このせん断変形(せん断力)が大きい程、温度データTmの変化も大きくなる。したがって、混練工程において、目標物性の混練ゴムRFを得るためにせん断変形に起因するゴム材料Rの温度データTmの必要変化量の目標値もある程度判明している。
【0027】
そこで、混練工程の開始から終了までの期間を1つの評価期間または分割された複数の評価期間として、それぞれの評価期間において目標物性の混練ゴムRFを製造するために必要な温度データTmの変化量を積算した温度変化積算目標値TTを予め設定しておく。この温度変化積算目標値TTは演算部13に入力、記憶されている。即ち、検知された温度データTmの変化量の積算値(温度変化実測積算値TR)が温度変化積算目標値TTに到達するように混練を行うことで、目標特性の混練ゴムRFを得ることができる。
【0028】
混練工程の開始から終了までの期間を1つの評価期間にする場合は、混練開始から終了までの温度変化積算目標値TTが設定される。混練工程の開始から終了までの期間を分割された複数の評価期間にする場合は、例えば、ゴム素練り段階(S1)、配合剤取り込み段階(S2)、均一分散段階(S3)のそれぞれ段階に対応させた3つの評価期間にする。即ち、それぞれの段階S1、S2、S3での温度変化積算目標値TTが設定される。
【0029】
予め設定された温度変化積算目標値TTに対する許容範囲ATも演算部13に入力、記憶されている。温度変化実測積算値TRが温度変化積算目標値TTに対して許容範囲AT内であれば、目標特性の許容範囲内の混練ゴムRFを得ることができる。尚、温度変化積算目標値TTおよび許容範囲ATは事前に混練工程を行うことにより把握されている。許容範囲ATは例えば温度変化積算目標値TTの±5%程度である。尚、ゴム材料Rの温度データTmの変化は、付与されたせん断力による結果物なので、ゴム材料Rの混練状態を判断する指標としては、温度データTmの変化量よりも付与されたせん断力の量を優先的に用いることが望ましい。
【0030】
次に、本発明のゴム材料の混練方法によりゴム材料Rを混練する手順の一例を説明する。
【0031】
混練工程では、図1の混練機1の混練室5aに所定量の1バッチ分のゴム材料R(原料ゴムG、非加硫系の配合剤N、オイル等)が投入され、目標物性(せん断力積算目標値ST)にするように所定の混練条件で(例えば、ロータ2の回転速度、ラム圧、混練時間などが制御されて)混練することで混練ゴムRFが製造される。
【0032】
ゴム素練り段階(S1)においては、図1に例示するようにラム6をラム室5bの上端部の待機位置に保持した状態で、予め設定された所定量の原料ゴムGを、ゴム投入部8を通じて混練室5aに投入する。その後、ラム6をラム室5bの下端まで下方移動させる。この状態で、油投入部7を通じてオイルを混練室5aに投入しながらロータ2を回転駆動して原料ゴムGとオイルとを混練する。
【0033】
配合剤取り込み段階(S2)では、ラム6をラム室5bの上端部の待機位置に移動させて、予め設定された種類の所定量の配合剤N(充填剤など)をホッパ9から配合剤投入部10を通じて混練室5aに投入する。その後、ラム6をラム室5bの下端まで下方移動させる。この状態で図5に例示するようにロータ2を回転駆動してゴム材料Rを混練する。
【0034】
配合剤取り込み段階(S2)では、ゴム素練りした原料ゴムGの上に載った配合剤Nを大きくかき混ぜて、徐々に小さなゴムの固まりが形成される。次いで、小さなゴムの固まりが徐々に大きくなり、最後には一塊りになる。配合剤取り込み段階(S2)では、ラム6を数回、ラム室5bの上端部に上昇させた状態にしてロータ2を回転させることによりゴム材料Rの上下を反転させるラム反転を行う。
【0035】
均一分散段階(S3)では、配合剤Nを原料ゴムGの全体に渡り均一に分散させる。この段階では当初、せん断力は大きいが徐々に低下する。
【0036】
均一分散段階(S3)が終了し、1バッチ分のゴム材料Rの混練工程が終了すると、排出扉11を開いて混練室5aの底面から混練ゴムRFが排出される。その後、順次、新たな1バッチ分のゴム材料Rに対して同様の混練工程が行われて、複数バッチ分のゴム材料Rが連続的に混練される。
【0037】
S1~S3の一連の混練工程では、歪センサ15によりせん断力データSfが逐次検知され、検知されたデータは演算部13に逐次入力されて記憶される。演算部13では逐次入力されたせん断力データSfを設定されたそれぞれの評価期間で積算したせん断力実測積算値SRを算出する。そして、それぞれのせん断力実測積算値SRと、それぞれのせん断力実測積算値SRに対応する評価期間のせん断力積算目標値STとの比較に基づいてゴム材料Rの混練状態を把握する。
【0038】
例えば、せん断力実測積算値SRがせん断力積算目標値STに対して許容範囲AS内であれば、混練状態は良好である(この時点でゴム材料Rが十分に混練されている)と演算部13により判断される。一方、せん断力実測積算値SRがせん断力積算目標値STの許容範囲ASから外れていれば、混練状態は不良である(この時点でゴム材料Rは十分に混練されていない)と演算部13により判断される。評価期間が複数に分割されている場合は、例えば、混練状態が不良であると判断された評価期間が1つでも存在していれば、その1バッチ分の混練工程は混練状態が不良であると判断される。
【0039】
混練工程でのせん断力データSfを撹拌羽根2dの変形に基づいて逐次検知すると、逐次検知したせん断力データSfには、駆動モータ3での損失、駆動モータ3とロータ2との間に介在する変速機4等での損失が含まれていない。したがって、このせん断力データSfは、ロータ2によってゴム材料Rに付与されたせん断力に対応すると見なすことができる。それ故、このせん断力データSfに基づいてゴム材料Rの混練状態をより精度よく把握することが可能になる。これに伴い、ゴム材料Rが良好な混練状態(配合剤Nが広く均等に分散した状態)になったことを見極めることが容易になり、所定品質の混練ゴムRFを安定して製造するには有利になる。
【0040】
また、このせん断力データSfを用いることで、ゴム材料Rの混練状態に対する混練機1の違いによる影響を概ね排除できる。そのため、混練機1の違いに起因する混練ゴムRFの品質のばらつきを抑制することも可能になる。尚、せん断力データSfとしては、例えば、それぞれのロータ2の攪拌羽根2dに生じる平均値を採用することも、いずれか高い一方のデータを採用することもできる。
【0041】
さらに、せん断力実測積算値SRが、このせん断力実測積算値SRに対応するせん断力積算目標値STの許容範囲AS内になるように混練条件を制御部12により制御することもできる。即ち、混練工程のそれぞれの評価期間において、せん断力実測積算値SRがせん断力積算目標値STに対して許容範囲AS内になるように、ロータ2の回転速度、ラム圧、混練時間などを制御して、目標特性の混練ゴムRFを製造する。
【0042】
上述したゴム材料Rの混練状態の把握や混練条件の制御に用いたせん断力データSfと同様に温度データTmを用いることもできる。即ち、ゴム材料Rの混練状態を把握する際や混練条件の制御を補助するために温度データTmを利用することもできる。
【0043】
そこで、S1~S3の一連の混練工程では、温度センサ14により温度データTmが逐次検知され、検知されたデータは演算部13に逐次入力されて記憶される。演算部13では逐次入力された温度データTmを設定されたそれぞれの評価期間で積算した温度変化実測積算値TRを算出する。そして、それぞれの温度変化実測積算値TRと、それぞれの温度変化実測積算値TRに対応する評価期間の温度変化積算目標値TTとの比較に基づいてゴム材料Rの混練状態を把握する。
【0044】
例えば、温度変化実測積算値TRが温度変化積算目標値TTに対して許容範囲AT内であれば、混練状態は良好である(この時点でゴム材料Rが十分に混練されている)と演算部13により判断される。一方、温度変化実測積算値TRが温度変化積算目標値TTの許容範囲ATから外れていれば、混練状態は不良である(この時点でゴム材料Rは十分に混練されていない)と演算部13により判断される。評価期間が複数に分割されている場合は、例えば、混練状態が不良であると判断された評価期間が1つでも存在していれば、その1バッチ分の混練工程は混練状態が不良であると判断される。尚、温度データTmに基づく判断よりもせん断力データSfに基づく判断を優先させる。
【0045】
温度データTmには、駆動モータ3での損失、駆動モータ3とロータ2との間に介在する変速機4等での損失が含まれていない。それ故、このように温度データTmを用いることでゴム材料Rの混練状態を一段と精度よく把握することが可能になる。これに伴い、ゴム材料Rが良好な混練状態になったことを見極めることがより容易になり、所定品質の混練ゴムRFを安定して製造するには益々有利になる。
【0046】
また、この温度データTmを用いることでゴム材料Rの混練状態に対する混練機1の違いによる影響を概ね排除できるため、混練機1の違いに起因する混練ゴムRFの品質のばらつきを抑制することも可能になる。尚、温度データTmとしては、例えば、それぞれのロータ2の撹拌羽根2dに生じる平均値を採用することも、いずれか高い一方のデータを採用することもできる。
【0047】
さらに、温度変化実測積算値TRが、この温度変化実測積算値TRに対応する温度変化積算目標値TTに対して許容範囲AT内になるように混練条件を制御部12により制御することもできる。即ち、混練工程のそれぞれの評価期間において、温度変化実測積算値TRが温度変化積算目標値TTの許容範囲AT内になるように、ロータ2の回転速度、ラム圧、混練時間などを制御して、目標特性の混練ゴムRFを製造する。尚、温度データTmに基づく制御よりもせん断力データSfに基づく制御を優先させる。
【0048】
歪みセンサ15および温度センサ14は、撹拌羽根2dの羽根先部に限らず、図6に例示するように、回転するロータ2の撹拌羽根2dの羽根先部に対向する混練室5aにおける内壁面に設置することもできる。即ち、混練室5aの左右両側の内壁面に、歪みセンサ15および温度センサ14を設置(埋設)することもできる。
【0049】
同じ混練機1を用いて同じ仕様のゴム材料Rを複数バッチ連続して混練する際には、目標物性の混練ゴムFRが製造されたバッチでの混練条件を、次のバッチでの混練工程においてフィードバックして用いることもできる。
【0050】
ゴム材料Rと同じ仕様のゴム材料Rを同じ混練機1を用いて混練する際に、この同じ混練機1を用いて目標物性の混練ゴムRFが製造された直近の所定バッチ数iの混練工程での混練条件を、フィードフォワードして用いることもできる。この所定バッチ数iは、例えば10~60にすることが好ましく、より好ましい所定バッチ数iは20~40程度である。所定バッチ数iが10未満であるとそれぞれのバッチにおけるばらつきを十分に均すことができない。一方、所定バッチ数iが60超であると、直近に混練されたバッチであっても今回混練する1バッチ分のゴム材料Rとは、雰囲気環境(温度や湿度)等の条件が変化している可能性が高くなる。
【0051】
本発明を適用できるのは、原料ゴムGを非加硫系の配合剤Nとともに混練する場合だけに限らない。例えば、原料ゴムGと非加硫系の配合剤N(硫黄や加硫促進剤など)とを混練して製造された混練ゴムRFと加硫系の配合剤Nとを混練して最終混練ゴムRFを製造する場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 密閉型混練機
2(2A、2B) ロータ
2c ロータ軸
2d 撹拌羽根
3(3A、3B) 駆動モータ
4 変速機
5a 混練室
5b ラム室
6 ラム
7 油投入部
8 ゴム投入部
9 ホッパ
10 配合剤投入部
11 排出扉
12 制御部
12a 電力計
12b 回転計
13 演算部
14 温度センサ
15 歪センサ
G 原料ゴム
N 配合剤
R ゴム材料
RF 混練ゴム
図1
図2
図3
図4
図5
図6