(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】車両用ニーボルスター
(51)【国際特許分類】
B60R 21/045 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
B60R21/045 332
(21)【出願番号】P 2018143715
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】植松 良太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】居鳥 勇一
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-266995(JP,A)
【文献】特開2018-20666(JP,A)
【文献】特開2009-90722(JP,A)
【文献】特開平11-59301(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0118634(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0093979(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングサポートメンバから車両後方に延びる上部部材と、下部部材とから構成され、前記上部部材および下部部材のいずれか一方の前端部が前記ステアリングサポートメンバに接合され、
前記上部部材は、車両後方側に向けて車両下方側に延びる上側基部と、この上側基部の後端に位置する第1の屈曲部と、この第1の屈曲部を介して車両後方側に向けて車両上方側に延びる上側後部とを有し、この上側後部の後端部において下方に屈曲する第2の屈曲部と、第2の屈曲部から下方に延びる後端面部を有し、
前記下部部材は、車両後方側に向けて車両下方側に延びる下側基部と、この下側基部の後端に位置する第3の屈曲部と、この第3の屈曲部を介して車両後方側に向けて車両上方側に延びる下側後部を有し、
前記上部部材の後端面部と、前記下部部材の後部の後端部が接合されていることを特徴とする車両用ニーボルスター。
【請求項2】
前記上部部材の第2の屈曲部は、前記上側基部及び上側後部よりも前記上部部材の幅方向を狭く形成していることを特徴とする請求項1に記載の車両用ニーボルスター。
【請求項3】
前記第3の屈曲部は、前記第1の屈曲部よりも車両前方側に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ニーボルスター。
【請求項4】
前記下部部材の下側基部は、前記上部部材の上側基部に対して車両前方側に開く変形が許容されるように、相対的に剛性が低く形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用ニーボルスター。
【請求項5】
前記上部部材の後端面部が上記上側基部の延長線上よりも上側にあり、前記上部部材の後端面部よりも上側後部の方が長いことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用ニーボルスター。
【請求項6】
前記上部部材の上側基部が前記ステアリングサポートメンバに接合されているとともに前記上部部材の上側基部が前記下部部材の下側基部よりも剛性が高いことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両用ニーボルスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し、膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員の膝部からの荷重の入力によって変形し、膝部への衝撃を吸収する車両用ニーボルスターとして特許文献1に記載のものが知られている。
特許文献1に記載の車両用ニーボルスターは、一端が車体部分に支持されるとともに、他端が膝部に向けて車両後方側かつ下方側に延出される基部と、基部の他端に屈曲部を介して連続して車両後方側に延出する底壁延長部と、底壁延長部の後端から車両後方側かつ上方側に向けて延出する対向面部と、を備え、基部は、基部の底壁と、底壁の車幅外側端部から上方側に立ちあがる一対の側壁と、によりコ字状断面に形成されるコ字状断面部を備え、一対の側壁は、底壁に対向する対向側端部が底壁に沿って延ばされる前辺部と、前辺部の車両後方側に連続して対向側端部が屈曲部に向けて延ばされる後辺部と、を備えている。前記対向面部は、対向面部に他端が結合されるアッパブラケットを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車両用ニーボルスターでは、アッパブラケット、底壁、対向面部及び底壁延長部で台形状が形成され、剛性が高くなっている。その為、車両前後方向に延びるアッパブラケットや底壁延長部が乗員の膝部の侵入に対して突っ張ってしまい、乗員の膝部からの荷重を吸収できず膝部に高い荷重が掛かる虞があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、ニーボルスターに荷重が加わると相対的に剛性の低い上部部材の第2の屈曲部を中心に、後端面部が前方へ侵入するとともに、下部部材が第3の屈曲部を中心に前方へ侵入することによって、ニーボルスターの形状が突っ張ることなく膝部の侵入荷重を吸収できる車両用ニーボルスターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、ステアリングサポートメンバから車両後方に延びる上部部材と、下部部材とから構成され、前記上部部材および下部部材のいずれか一方の前端部が前記ステアリングサポートメンバに接合され、
前記上部部材は、車両後方側に向けて車両下方側に延びる上側基部と、この上側基部の後端に位置する第1の屈曲部と、この第1の屈曲部を介して車両後方側に向けて車両上方側に延びる上側後部とを有し、この上側後部の後端部において下方に屈曲する第2の屈曲部と、第2の屈曲部から下方に延びる後端面部を有し、
前記下部部材は、車両後方側に向けて車両下方側に延びる下側基部と、この下側基部の後端に位置する第3の屈曲部と、この第3の屈曲部を介して車両後方側に向けて車両上方側に延びる下側後部を有し、
前記上部部材の後端面部と、前記下部部材の後部の後端部が接合されていることにある。
【発明の効果】
【0007】
乗員の膝部(インパクタ)がニーボルスターに接触開始すると、相対的に剛性の低い上部部材の第2の屈曲部を中心に、後端面部が前方へ侵入する。従って、後端面部及び下側後部の前方へ侵入する座屈変形によって、ニーボルスターの形状が突っ張ることなく膝部の侵入荷重を吸収できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明による車両用ニーボルスターの実施の形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1の車両用ニーボルスターを車体後方側から見た斜視図である。
【
図3】
図1の車両用ニーボルスターを車体前方側から見た斜視図である。
【
図4】
図2の車両用ニーボルスターのA-A線断面図である。
【
図5】
図1の車両用ニーボルスターの側面図である。
【
図6】
図5の車両用ニーボルスターに荷重が加わる瞬間を示す側面図である。
【
図7】荷重が加わった際の
図6の車両用ニーボルスターの初期の変形を示す側面図である。
【
図8】荷重が加わった際の
図6の車両用ニーボルスターの変形の中期を示す側面図である。
【
図9】荷重が加わった際の
図6の車両用ニーボルスターの変形の後期を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1ないし
図4は本発明の実施の形態による車両用ニーボルスターを示し、1はニーボルスター本体である。2はニーボルスター本体1が取り付けられるステアリグサポートメンバである。このニーボルスター本体1は、ステアリングサポートメンバ2から車両後方に延びる上部部材3と、この上部部材3と組み合わされた下部部材4とから構成されている。ステアリングサポートメンバ2は、パイプ状の支持部材で、エンジンルームの後方側で、インストルメントパネル5の前方側に車体の幅方向に配設されており、両端部が車体の両側面部のピラー部等に支持されている。
【0010】
前記上部部材3は、帯状のプレート部材30の長手方向の途中を略L字状に折り曲げたもので、プレート部材30の両側部には下方向に折り曲げられた縁部31が設けられている。前記縁部31はプレート部材30の前端部付近で縁部の幅を大きくして幅広部31aに形成されている。この幅広部31aの先端31bは、ステアリングサポートメンバ2に当接して形成されている。
前記上部部材3は、前記帯状のプレート部材30の前端に延設された前端片部3aを介してステアリングサポートメンバ2に溶接により接合されており、前記帯状のプレート部材30は上側基部30aが車体後方に向けて斜め下方向に延出されている。このプレート部材30の長手方向の途中には、上側基部30aの後端部に略L字状に折り曲げられた第1の屈曲部30Aが設けられており、この屈曲部30Aを介して上側後部30bが斜め上方に向けて延出されている。前記帯状のプレート部材30の後端には、前記上部部材3の幅方向の幅を狭く形成して下方に折り曲げられた第2の屈曲部30Bが設けられており、この屈曲部30Bから下方に延びる後端面部30cが設けられている。この後端面部30cは、インストルメントパネル5の内面に沿うように形成されている。また、後端面部30cの下端部には車体前方に向けて折り曲げられた折り曲げ部30dが設けられている。前記上部部材3の後端面部30cが上記上側基部30aの延長線X上よりも上側にあり、前記上部部材3の後端面部30cよりも上側後部30bの方が長く形成されている。
【0011】
前記ニーボルスター本体1の下部部材4は、前記上部部材3の下面側に略一定の間隔で対向して配置された帯状のプレート部材40で、前記上部部材3に沿って長手方向の途中を略L字状に折り曲げて形成されている。前記下部部材4のプレート部材40の両側部には、上方向に折り曲げられた縁部41が設けられている。前記下部部材4はプレート部材40の縁部41を前記上部部材3のプレート部材30の縁部31の幅広部31aに組み合わせて、溶接等で接合して取り付けられている。プレート部材40の長手方向の途中には、下側基部40aの後端部に略L字状に折り曲げられた第3の屈曲部40Aが設けられており、この第3の屈曲部40Aは、第1の屈曲部30Aに対応する位置で、第1の屈曲部30Aよりも僅かに車体前方側に形成されている。前記下部部材4はプレート部材40の第3の屈曲部40Aを境に、下側基部40aと、下側後部40bとに区画されている。前記下部部材4は、下側基部40aが車体後方に向けて斜め下方向に延出されており、この下側後部40bが斜め上方に向けて延出されている。プレート部材40の下側後部40bの後端には、下方に折り曲げられた後端面部40cが設けられている。この後端面部40cの上部側に前記上部部材3の前記プレート部材30の後端、折り曲げ部30dの先端部が溶接により接合されている。後端面部40cの下部側には、ねじ孔40dが形成され、このねじ孔40dにはナット50aが溶接されており、ねじ50によって、前記インストルメントパネル5がねじ留めされている。前記下部部材4の下側基部40aは、前記上部部材3の上側基部30aに対して車両前方側に開く変形が許容されるように、前記上部部材3の上側基部30aよりも相対的に剛性が低く形成されている。
【0012】
前記上部部材3のプレート部材30には、上側基部30aの下部側、第1の屈曲部30A、上側後部30b、第2の屈曲部30B、および後端面部30cにわたって、長手方向に沿って荷重調整用のビード32が形成されている。また、前記下部部材4のプレート部材40には、下側基部40aの下部側、第3の屈曲部40Aおよび下側後部40bにわたって、長手方向に沿って荷重調整用のビード42が形成されている。
【0013】
次に
図5ないし
図9を参照しながら本発明による車両用ニーボルスターの作用を説明する。図面ではインストルメントパネル5を省略して荷重Pが加わった場合の変形状態を示している。
図5は、荷重Pが加わる前の車両用ニーボルスターを示し、
図1で示した状態を保っている。
【0014】
図6で示すように、最初に、荷重Pは、図示しないインストルメントパネル5を介して車両用ニーボルスターの後端部、すなわち上部部材3の後端面部30cに対して衝撃荷重として加わってくる。乗員の膝部がニーボルスター本体1に接触開始すると、
図7に示すように、相対的に剛性の低い上部部材3の第2の屈曲部30Bを中心に、後端面部30cが前方へ侵入する。なお、後端面部30cはインストルメントパネル5に沿う形状とすることによって、膝部の侵入に伴う荷重を面で効率よく受けることができる。このとき、
図8に示すように、下部部材4は、下側後部40bが第3の屈曲部40Aを中心に前方へ侵入する。したがって、
図9に示すように、後端面部30cおよび下側後部40bが前方へ侵入する座屈変形によって、ニーボルスター本体1の形状が突っ張ることなく膝部の侵入荷重を吸収できる。
【0015】
次に下側後部40bの長さを長くとることにより、初期の荷重吸収量を増やすことができる。
後端面部30cおよび下側後部40bが前方へ侵入する座屈変形においては、下側後部40bが前方へ押される変形が同時に起きている。ここで下側基部40aが突っ張ってしまうと、後端面部30cおよび第3の屈曲部40Aの下側後部40bの侵入の妨げになるので、下側基部40aの剛性を相対的に弱くして下側基部40aが前方に開く変形を許容するようにしている。
【0016】
上記のように、後端面部30cの侵入後の過大荷重に対して、第1の屈曲部30Aを中心に上部部材3が、矢印のように座屈変形を起こし荷重吸収する。後端面部30cを帯状のプレート部材30の上側基部30aの延長線上Xよりも上方に位置するように配置し、突っ張ることを回避している。上部部材3の第2の屈曲部30Bが変形を開始することで、
図7のように下部部材4の第3の屈曲部40Aも変形を開始し、第3の屈曲部40Aの変形に伴って上部部材3の第1の屈曲部30Aも変形を開始する。
プレート部材30の上側基部30aの延長線上Xよりも下方側に第1の屈曲部30Aが変形し、下部部材4のプレート部材40の下側基部40aの延長線Yよりも下方側に第3の屈曲部40Aが変形する。
【0017】
上記実施の形態によれば以下の効果を奏することができる。
前記上部部材3の第2の屈曲部30Bは、前記上側基部30a及び上側後部30bよりも前記上部部材3の幅方向の幅を狭く形成して変形しやすく形成されているので、第2の屈曲部30Bを中心に、後端面部30cが容易に前方に侵入することができる。
前記第3の屈曲部40Aは、前記第1の屈曲部30Aよりも車両前方側に位置するので、下側後部40bの長さを長くとることができ初期の荷重吸収量を増やすことができる。
前記下部部材4の下側基部40aは、前記上部部材3の上側基部30aに対して車両前方側に開く変形が許容されるように、相対的に剛性が低く形成されているので、下側基部40aが前方に開く変形をすることにより後端面部30cの前方への侵入の妨げにならない。
前記上部部材3の後端面部30cが上記上側基部30aの延長線X上よりも上側にあり、前記上部部材3の後端面部30cよりも上側後部30bの方が長いので、第1の屈曲部30Aを中心とする変形のストローク量を確保することができる。
前記上部部材3の上側基部30aが前記ステアリングサポートメンバ2に接合されているとともに前記上部部材3の上側基部30aが前記下部部材4の下側基部40aよりも剛性が高いので、上側基部30aで荷重のコントロールをするとともに、上側基部30aのステアリングサポートメンバ2への接合部分を中心に、ニーボルスター本体1が前方へ変形する動きを、剛性が高い上側基部30aで支持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、ステアリングサポートメンバ2への取付は、上部部材3で行う場合に限らず、下部部材4で行うこともできる。その他、本発明の技術的範囲を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0019】
1 ニーボルスター本体
2 ステアリグサポートメンバ
3 上部部材
4 下部部材
5 インストルメントパネル
30、40 プレート部材
30A 第1の屈曲部
30B 第2の屈曲部
30a 上側基部
30b 上側後部
30c 後端面部
30d 折り曲げ部
31,41 縁部
31a 幅広部
31b 先端
32 ビード
40A 第3の屈曲部
40a 下側基部
40b 下側後部
40c 後端面部
40d ねじ孔
50 ねじ
50a ナット