(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、炭素繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20220517BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20220517BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20220517BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20220517BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20220517BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20220517BHJP
B29C 70/48 20060101ALI20220517BHJP
C08L 63/02 20060101ALI20220517BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220517BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220517BHJP
B29K 63/00 20060101ALN20220517BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20220517BHJP
【FI】
C08G59/50
C08G59/24
C08J5/24 CFC
B29C39/10
B29C39/24
B29C70/06
B29C70/48
C08L63/02
C08K3/04
C08K7/02
B29K63:00
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2018511938
(86)(22)【出願日】2017-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2017010411
(87)【国際公開番号】W WO2017179359
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2016079549
(32)【優先日】2016-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 唯我
(72)【発明者】
【氏名】和田 友孝
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-186693(JP,A)
【文献】特開2006-070125(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172199(WO,A1)
【文献】特開2001-302760(JP,A)
【文献】特開平08-003282(JP,A)
【文献】特開昭49-099198(JP,A)
【文献】国際公開第2013/081895(WO,A1)
【文献】特開平05-310890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるアミン化合物(A)1モルに対し、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(B)を0.100モル超0.200モル未満の割合で反応させた付加反応物を含有するエポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂とを含有するエポキシ樹脂組成物
の硬化物、並びに、炭素繊維を含む炭素繊維強化複合材であって、
前記化合物(B)が
下記一般式(2)で示される化合物であり、
前記エポキシ樹脂が下記一般式(4)で示されるエポキシ樹脂であり、
前記エポキシ樹脂組成物の温度40℃における粘度が800mPa・s以下である、
炭素繊維強化複合材。
H
2N-H
2C-A-CH
2-NH
2 (1)
(式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基である。)
【化1】
(式(2)中、R
11
~R
14
はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基であり、a、b、c、dはそれぞれ独立に0~4の整数である。複数のR
11
、複数のR
12
、複数のR
13
、及び複数のR
14
はすべて同一でもよく、互いに異なってもよい。X
1
及びX
2
はそれぞれ独立に、単結合、-CH
2
-、-CH(CH
3
)-、又は-C(CH
3
)
2
-である。R
15
は-CH
2
CH(OH)-、又は-CH(OH)CH
2
-である。nは平均繰り返し単位数を示し、0~1.0の数である。)
【化2】
(式(4)中、R
21~R
24はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基であり、p、q、r、及びsはそれぞれ独立に0~4の整数である。複数のR
21、複数のR
22、複数のR
23、及び複数のR
24はすべて同一でもよく、互いに異なってもよい。Y
1及びY
2はそれぞれ独立に、単結合、-CH
2-、-CH(CH
3)-、又は-C(CH
3)
2-である。R
25は-CH
2CH(OH)-、又は-CH(OH)CH
2-である。mは平均繰り返し単位数を示し、0~0.1の数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、Aがシクロヘキシレン基である、請求項1に記載の
炭素繊維強化複合材。
【請求項3】
前記化合物(B)が分子内に芳香環を有するジグリシジルエーテル化合物である、請求項1又は2に記載の
炭素繊維強化複合材。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物がさらに硬化促進剤を含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の
炭素繊維強化複合材。
【請求項5】
自動車用構造材である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の炭素繊維強化複合材。
【請求項6】
低圧RTM法、中圧RTM法、高圧RTM法、コンプレッションRTM法、リキッドコンプレッションモールディング法、リキッドレイダウン法、スプレーレイダウン法、サーフェイスRTM法、プリプレグコンプレッションモールディング法又はリキッドキャストモールディング法により成形する工程を有する、請求項
1~5のいずれか1項に記載の炭素繊維強化複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化剤、該エポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とを含有するエポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物の硬化物と、炭素繊維とを含む炭素繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化複合材(以下「CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)」ともいう)は、非常に高い弾性率、強度を有し、かつ軽量であることから金属代替材料として注目されている。CFRPは特に自動車構造材用途、風力発電ブレード用途、圧力容器用途、航空宇宙用途への需要が加速することが見込まれており、CFRPに用いられる炭素繊維と、エポキシ樹脂等のマトリクス樹脂の需要も近年増大している。
【0003】
ところで、自動車構造材用途、風力発電ブレード用途、圧力容器用途、航空宇宙用途それぞれにおいてCFRPの成形方法が異なることから、CFRP用のマトリクス樹脂に対する要求特性も用途によって異なっている。
例えば風力発電ブレードは、インフュージョン成形、Va-RTM法(Vacuum Assist Resin Transfer Molding)又はLight-RTM法にて成形されるようになってきた。これらの方法では、例えば、フィルムやFRPを使用した上型と、下型とからなる型内に予め強化繊維を配置し、この金型内を真空引きし、マトリクス樹脂となるエポキシ樹脂組成物を常圧で充填して強化繊維へ含浸させ、次いで、該エポキシ樹脂を硬化させて成形する。
インフュージョン成形やVa-RTM法、Light-RTM法による成形では、その成形法の特徴上、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを混合したエポキシ樹脂組成物を金型内へ充填するのに、通常は数十分程度かかる。そのため、これらの成形法に使用されるエポキシ樹脂組成物には低粘度でかつポットライフが長いことが要求される。エポキシ樹脂硬化剤としては、イソホロンジアミン、ポリエーテル骨格のポリアミン化合物等が使用されている。
【0004】
また、圧力容器用途のCFRPにおいては、フィラメントワインディング法による成形が用いられる。フィラメントワインディング法は、強化繊維糸にエポキシ樹脂組成物などのマトリクス樹脂を含浸させた強化繊維糸を用いてライナーの外表面を被覆した後、該マトリクス樹脂を硬化させる方法である。この方法に用いるエポキシ樹脂組成物は、ポットライフが短く速硬化性であると、成形前の段階でエポキシ樹脂が硬化してしまう。したがってフィラメントワインディング法には速硬化性のエポキシ樹脂組成物は適用できない。
【0005】
これに対し自動車構造材用途のCFRPは、ハイサイクルRTM法にて成形されている。これは従来のRTM法を改良したものである。
従来のRTM法は上下一対の金型を使用した密閉型成形の一つであり、該金型内に繊維強化プリフォームを配置し、金型をクランプして密閉した後、注入孔からエポキシ樹脂組成物等の樹脂を金型内に注入して繊維強化プリフォームに含浸させ、次いで該樹脂を硬化させた後、離型するという方法である。しかしながら従来のRTM法では、成形時間(プリフォームの配置、樹脂含浸、樹脂硬化、及び離型まで)に数時間を要するため、自動車構造材用途のCFRPの製造では、より生産性の高いハイサイクルRTM法が用いられている。
【0006】
ハイサイクルRTM法による成形技術は、繊維強化プリフォームの配置時間、樹脂の含浸時間、樹脂の硬化時間、及び離型時間のすべてを大幅に短縮し、トータルの成形時間を10分程度まで短縮したものである。ハイサイクルRTM法において、樹脂の含浸から硬化までの工程では、例えばハイサイクルRTM法の一種である高圧RTM法において、上下一対の金型内に強化繊維を配置して密閉し、金型内を減圧にする。次いで、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを、別々のタンクからミキシングヘッドへミスト状態で圧送し、衝突混合後に速やかに金型内に注入して炭素繊維に含浸させ、エポキシ樹脂を硬化させる。衝突混合後のエポキシ樹脂組成物は、金型内への充填速度及び炭素繊維への含浸速度を高めるため、複数の注入孔から高圧注入される。
【0007】
ハイサイクルRTM法では、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを混合後速やかに金型内に注入することから、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との混合物であるエポキシ樹脂組成物のポットライフはそれほど必要とされない。一方で、生産性の観点から、強化繊維への含浸性や金型への充填速度が高く、かつ硬化が速いことが要求されるため、ハイサイクルRTM法に用いるエポキシ樹脂組成物には、低粘度でかつ速硬化性であることが要求される。
【0008】
エポキシ樹脂硬化剤としてポリアミン化合物やその変性物を用いることは知られている。例えば特許文献1~3には、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンやキシリレンジアミンなどのポリアミン化合物の変性物を含有するエポキシ樹脂硬化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-3282号公報
【文献】特開2001-163955号公報
【文献】特開2007-186693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ハイサイクルRTM法などによる成形に用いられるエポキシ樹脂硬化剤、及び該硬化剤とエポキシ樹脂とを含有するエポキシ樹脂組成物においては、速硬化性と低粘度とを両立する必要がある。しかしながら上記成形法に適用するには、従来のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物は速硬化性と低粘度との両立において満足のいくものではなかった。速硬化性を高めるために、例えば硬化促進剤を多量に添加する方法も考えられるが、この場合、エポキシ樹脂組成物のポットライフが短くなり、大型部材の成形に適さないおそれがある。
【0011】
本発明の課題は、速硬化性でかつ低粘度であり、ハイサイクルRTM法などによる成形に好適に用いられるエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物、並びに、該エポキシ樹脂組成物の硬化物と炭素繊維とを含む炭素繊維強化複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定構造のアミン化合物と、所定量のエポキシ化合物との付加反応物を含有するエポキシ樹脂硬化剤により、上記課題を解決できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は下記[1]~[13]に関する。
[1]下記一般式(1)で示されるアミン化合物(A)1モルに対し、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(B)を0.100モル超0.200モル未満の割合で反応させた付加反応物を含有するエポキシ樹脂硬化剤。
H2N-H2C-A-CH2-NH2 (1)
(式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基である。)
[2]前記一般式(1)において、Aがシクロヘキシレン基である、上記[1]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[3]前記化合物(B)が分子内に芳香環を有するジグリシジルエーテル化合物である、上記[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[4]前記化合物(B)が下記一般式(2)で示される化合物である、上記[3]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【0014】
【0015】
(式(2)中、R11~R14はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基であり、a、b、c、dはそれぞれ独立に0~4の整数である。複数のR11、複数のR12、複数のR13、及び複数のR14はすべて同一でもよく、互いに異なってもよい。X1及びX2はそれぞれ独立に、単結合、-CH2-、-CH(CH3)-、又は-C(CH3)2-である。R15は-CH2CH(OH)-、又は-CH(OH)CH2-である。nは平均繰り返し単位数を示し、0~1.0の数である。)
[5]さらに硬化促進剤を含有する、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[6]上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂とを含有するエポキシ樹脂組成物。
[7]前記エポキシ樹脂が分子内に芳香環又は脂環式構造を含むエポキシ樹脂である、上記[6]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[8]前記エポキシ樹脂が下記一般式(4)で示されるエポキシ樹脂である、上記[7]に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0016】
【0017】
(式(4)中、R21~R24はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基であり、p、q、r、及びsはそれぞれ独立に0~4の整数である。複数のR21、複数のR22、複数のR23、及び複数のR24はすべて同一でもよく、互いに異なってもよい。Y1及びY2はそれぞれ独立に、単結合、-CH2-、-CH(CH3)-、又は-C(CH3)2-である。R25は-CH2CH(OH)-、又は-CH(OH)CH2-である。mは平均繰り返し単位数を示し、0~0.2の数である。)
[9]温度40℃における粘度が5,000mPa・s以下である、上記[6]~[8]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[10]炭素繊維強化複合材用である上記[6]~[9]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[11]上記[6]~[10]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物と、炭素繊維とを含む炭素繊維強化複合材。
[12]自動車用構造材である、上記[11]に記載の炭素繊維強化複合材。
[13]低圧RTM法、中圧RTM法、高圧RTM法、コンプレッションRTM法、リキッドコンプレッションモールディング法、リキッドレイダウン法、スプレーレイダウン法、サーフェイスRTM法、プリプレグコンプレッションモールディング法又はリキッドキャストモールディング法により成形する工程を有する、上記[11]又は[12]に記載の炭素繊維強化複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハイサイクルRTM法などによって自動車用構造材や建材などのCFRPを生産性よく製造できる、速硬化性でかつ低粘度のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物を提供することができる。当該エポキシ樹脂組成物をCFRPのマトリクス樹脂として用いると、炭素繊維への含浸性に優れ、かつ速硬化性であることから金型からの離型が可能になるまでの時間も短く、CFRPの生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[エポキシ樹脂硬化剤]
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、下記一般式(1)で示されるアミン化合物(A)1モルに対し、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(B)を0.100モル超0.200モル未満の割合で反応させた付加反応物を含有することを特徴とする。
H2N-H2C-A-CH2-NH2 (1)
(式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基である。)
アミン化合物(A)を、前記化合物(B)との付加反応により変性した付加反応物とすることで、エポキシ樹脂硬化剤として用いた際の硬化性を向上させることができる。一方で、アミン化合物(A)を化合物(B)で変性すると粘度が向上する傾向がある。そこで本発明においては、アミン化合物(A)に対する化合物(B)の付加量を上記所定の範囲とすることで、速硬化性と低粘度とを両立したエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物を得たものである。
【0020】
(アミン化合物(A))
アミン化合物(A)は、前記一般式(1)で示される化合物である。式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基であり、シクロヘキシレン基が好ましい。具体的には、Aは1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、及び1,4-フェニレン基からなる群から選ばれる1種以上であり、耐熱性及び耐候性、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物性の観点からは1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、及び1,4-シクロヘキシレン基からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、1,3-シクロヘキシレン基がより好ましい。なお本明細書におけるシクロヘキシレン基には、シス体、トランス体のいずれも含まれる。
【0021】
アミン化合物(A)の具体例としては、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、及びp-キシリレンジアミン(PXDA)が挙げられる。
上記の中でも、アミン化合物(A)としては、耐熱性及び耐候性、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物性能の観点からは1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンがより好ましい。アミン化合物(A)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
(分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(B))
本発明において用いられる化合物(B)は、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であればよく、アミン化合物(A)との反応性の点から、分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物がより好ましい。
分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物の中でも、ジグリシジルエーテル化合物が好ましく、耐熱性、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物性能の点からは、分子内に芳香環又は脂環式構造を含むジグリシジルエーテル化合物がより好ましく、分子内に芳香環を含むジグリシジルエーテル化合物がさらに好ましい。
中でも、耐熱性、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物性能の観点から、化合物(B)としては下記一般式(2)で示される化合物が好ましい。
【0023】
【0024】
(式(2)中、R11~R14はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基であり、a、b、c、dはそれぞれ独立に0~4の整数である。複数のR11、複数のR12、複数のR13、及び複数のR14はすべて同一でもよく、互いに異なってもよい。X1及びX2はそれぞれ独立に、単結合、-CH2-、-CH(CH3)-、又は-C(CH3)2-である。R15は-CH2CH(OH)-、又は-CH(OH)CH2-である。nは平均繰り返し単位数を示し、0~1.0の数である。)
R11~R14は炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、及びt-ブチル基からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
a、b、c、及びdはいずれも0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、すべて0であることがさらに好ましい。
X1及びX2は-CH2-、又は-C(CH3)2-であることが好ましく、-C(CH3)2-であることがより好ましい。
また、得られる付加反応物の粘度及び硬化性の観点から、nは0~0.7であることが好ましく、0~0.5であることがより好ましく、0~0.3であることがさらに好ましく、0.01~0.2であることがよりさらに好ましい。
【0025】
本発明に用いられる化合物(B)のうち、前記一般式(2)で示される化合物以外の化合物の具体例としては、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、m-クレジルグリシジルエーテル、p-クレジルグリシジルエーテル、o-クレジルグリシジルエーテル、ネオデカン酸グリシジルエステル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
前記化合物(B)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また前記化合物(B)は、後述する本発明のエポキシ樹脂組成物の主剤として用いるエポキシ樹脂と同じ化合物でもよく、異なっていてもよい。
【0026】
前記アミン化合物(A)と化合物(B)との付加反応物は、該アミン化合物(A)1モルに対し、化合物(B)を0.100モル超0.200モル未満の割合で反応させた付加反応物であることを特徴とする。
化合物(B)の反応割合がアミン化合物(A)1モルに対し0.100モル以下であると、得られる付加反応物を含有するエポキシ樹脂硬化剤の硬化速度向上効果が十分でない。一方、化合物(B)の反応割合がアミン化合物(A)1モルに対し0.200モル以上であると、得られる付加反応物を含有するエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物が高粘度になり、特に、ハイサイクルRTM法により成形されるCFRPに用いた際に、成形性及び生産性が低下する。さらに、得られるCFRPの機械的強度や耐熱性も低下する。上記観点から、アミン化合物(A)1モルに対する化合物(B)の反応割合は、好ましくは0.110モル以上、より好ましくは0.115モル以上であり、好ましくは0.180モル未満、より好ましくは0.170モル以下、さらに好ましくは0.160モル以下、よりさらに好ましくは0.150モル以下、よりさらに好ましくは0.140モル以下である。
【0027】
前記化合物(B)として分子内に2つのエポキシ基を有する化合物を使用した場合の、前記アミン化合物(A)と化合物(B)との付加反応物の例としては、下記の構造(a)~(d)を有するものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、下記構造式(a)~(d)中、Aはアミン化合物(A)の残基、Bは化合物(B)の残基を表す。
【0028】
【0029】
前記アミン化合物(A)と化合物(B)との付加反応物の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法が使用できる。例えば、反応器内にアミン化合物(A)を仕込み、ここに所定量の化合物(B)を一括添加、又は滴下等により分割添加して加熱し、反応させる方法が挙げられる。該付加反応は窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
付加反応時の温度及び反応時間は、使用する化合物(B)の種類等に応じて適宜選択することができる。反応速度及び生産性、並びに原料の分解等を防止する観点からは、付加反応時の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは70~120℃である。また反応時間は、化合物(B)の添加が終了してから、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~6時間である。
【0030】
(硬化促進剤)
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、さらに硬化促進剤を含有してもよい。硬化促進剤は前記付加反応物とは反応せず、エポキシ樹脂中のエポキシ基の反応性を高める機能を有する。したがって本発明のエポキシ樹脂硬化剤に硬化促進剤を配合すると、硬化速度をより向上させることができる。
当該硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール化合物、有機酸類、有機酸塩類、3級アミン類、4級アンモニウム塩類、イミダゾール類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類、ジアザビシクロアルケン類、有機金属塩化合物、ホウ素化合物、及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。中でも、速硬化性及び低粘度を両立する観点から、フェノール化合物、有機酸類及び有機酸塩類からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0031】
上記フェノール化合物としては、フェノール性水酸基を分子中に少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限なく用いることができる。配合量が少なくても効果を発揮する観点、及び前記付加反応物や後述するエポキシ樹脂との混和性の観点から、分子量1,000未満のフェノール化合物が好ましく、下記一般式(3)で示される化合物がより好ましい。
【0032】
【0033】
(式(3)中、R1及びR2はそれぞれ独立にOH基、又は炭素数1~4のアルキル基である。j及びkはそれぞれ独立に0~5の整数であり、かつj+kは1以上である。複数のR1、及び複数のR2はすべて同一でもよく互いに異なってもよいが、このうち少なくとも1つはOH基である。Zは単結合、炭素数1~6のアルキレン基、炭素数2~6のアルキリデン基、炭素数5~10のシクロアルキレン基、炭素数5~10のシクロアルキリデン基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-、-CO-、-C(CF3)2-、-CH(CF3)-、-CF2-、-CONH-、又は-COO-である。)
式(3)中、R1及びR2はOH基であることが好ましく、j及びkはそれぞれ独立に0~2の整数であり、かつj+kが1~3であることが好ましい。
式(3)中のZにおいて、炭素数1~6のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基が挙げられ、炭素数1~3のアルキレン基が好ましい。炭素数2~6のアルキリデン基としては、エチリデン基(-CH(CH3)-)、プロピリデン基(-C(CH3)2-)等が挙げられ、炭素数2~3のアルキリデン基が好ましい。
炭素数5~10のシクロアルキレン基としては、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、シクロオクタンジイル基等が挙げられる。炭素数5~10のシクロアルキリデン基としては、シクロヘキシリデン基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシリデン基等が挙げられる。また、炭素数7~15のアリールアルキレン基及び炭素数7~15のアリールアルキリデン基のアリール部位としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基などの環形成炭素数6~14のアリール基が挙げられる。
上記の中でも、Zは単結合、炭素数1~3のアルキレン基、及び炭素数2~3のアルキリデン基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、単結合、メチレン基、エチリデン基、又はプロピリデン基であることが好ましく、メチレン基、エチリデン基、又はプロピリデン基であることがより好ましい。
【0034】
前記一般式(3)で示される化合物の具体例としては、ビスフェノールA〔4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール〕、ビスフェノールF〔ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン〕、ビスフェノールAP〔1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン〕、ビスフェノールAF〔2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン〕、ビスフェノールB〔2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン〕、ビスフェノールBP〔ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン〕、ビスフェノールS〔ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン〕、ビスフェノールE〔1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン〕、スチレン化フェノール、ヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシビフェニル等が挙げられる。これらの中でも、硬化剤への溶解性の点からはビスフェノールA〔4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール〕、ビスフェノールF〔ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン〕、ビスフェノールE〔1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン〕、及びスチレン化フェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、配合量が少なくても効果を発揮する観点からはビスフェノールA〔4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール〕、ビスフェノールF〔ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン〕、及びビスフェノールE〔1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン〕からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
なお、スチレン化フェノールは、好ましくはスチレンとフェノールとの1:1付加物であり、下記式(3-1)で示される化合物である。スチレン化フェノールは下記式(3-1)で示される化合物が主成分であることが好ましいが、スチレンとフェノールとの2:1付加物、スチレンとフェノールとの3:1付加物等の多付加体を含有していてもよい。なお本明細書において「主成分」とは、全構成成分を100質量%とした場合、その含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上(上限は100質量%)である成分をいう。市販のスチレン化フェノールとしては、kumho Petrochemical製の「Kumanox-3110」、「Kumanox-3111」、「Kumanox-3114」、「Kumanox-3120」、「Kumanox-SP」等が挙げられる。
【0035】
【0036】
前記一般式(3)で示される化合物以外のフェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、ハイドロキノン、1-ナフトール、2-ナフトール、レゾルシン、フェノールノボラック樹脂、p-イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、ノニルフェノール等が挙げられる。
【0037】
また、硬化促進剤として用いられる有機酸類としては、カルボン酸系化合物、スルホン酸系化合物等が挙げられる。
カルボン酸系化合物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸等のモノカルボン酸;乳酸、サリチル酸等のヒドロキシモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多価カルボン酸;等が挙げられる。
スルホン酸系化合物としては、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
上記の中でも、有機酸類としてはスルホン酸系化合物が好ましく、p-トルエンスルホン酸がより好ましい。
有機酸塩類としては、上記有機酸の塩が挙げられ、例えば、上記カルボン酸系化合物又はスルホン酸系化合物の、イミダゾール塩、置換イミダゾール塩、ジアザビシクロウンデセン(DBU)塩、ジアザビシクロノネン(DBN)塩、ジアザビシクロオクタン(DABCO)塩、テトラエチルアンモニウム塩、及びテトラブチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0038】
上記以外の硬化促進剤として、3級アミン類としては、トリエチレンジアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。4級アンモニウム塩類としては、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
イミダゾール類としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
有機リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等が挙げられ、4級ホスホニウム塩類としては、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
ジアザビシクロアルケン類としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等が挙げられる。
有機金属塩化合物としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫等が挙げられる。ホウ素化合物としては三フッ化ホウ素、トリフェニルボレート等が挙げられる。また、金属ハロゲン化物としては塩化亜鉛、塩化第二錫等が挙げられる。
硬化促進剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
エポキシ樹脂硬化剤中の硬化促進剤の含有量は、前記付加反応物100質量部に対し、好ましくは1~20質量部である。前記付加反応物100質量部に対する硬化促進剤の含有量が1質量部以上であると硬化性向上効果が得られる。また、20質量部以下であればエポキシ樹脂硬化剤及びこれを含有するエポキシ樹脂組成物が高粘度にならず、特に、ハイサイクルRTM法により成形されるCFRPに好適であり、得られるCFRPの機械的強度や耐熱性も低下しない。上記観点から、エポキシ樹脂硬化剤中の硬化促進剤の含有量は、前記付加反応物100質量部に対し、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、前記付加反応物以外の公知の硬化剤、公知の添加剤、及び溶剤等を含有していてもよい。前記付加反応物以外の硬化剤としては、前記(A)成分以外のポリアミン化合物、又はその変性体などが挙げられる。当該ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等の鎖状脂肪族ポリアミン化合物;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、トリシクロデカンジアミン、アダマンタンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、ジアミノジエチルメチルシクロヘキサン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂環式構造を有するポリアミン化合物;フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン化合物;N-アミノメチルピペラジン、N-アミノエチルピペラジン等の複素環式構造を有するポリアミン化合物;ポリエーテルポリアミン化合物、及びこれらのマンニッヒ変性物、エポキシ変性物、マイケル付加物、マイケル付加・重縮合物、スチレン変性物、ポリアミド変性物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
但し、本発明の効果を効率的に発現する観点から、前記付加反応物の含有量が、本発明のエポキシ樹脂硬化剤全量に対して好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上(上限は100質量%)となるようにする。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、温度25℃における粘度が好ましくは10,000mPa・s以下、より好ましくは8,000mPa・s以下、さらに好ましくは5,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは3,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは2,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは1,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは800mPa・s以下、よりさらに好ましくは500mPa・s以下である。温度25℃における粘度が10,000mPa・s以下であると、エポキシ樹脂との混和が容易であり、CFRP用途に用いた際には生産性が向上する。エポキシ樹脂硬化剤の温度25℃における粘度の下限値には特に制限はないが、エポキシ樹脂への混和性の点から、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは50mPa・s以上、さらに好ましくは100mPa・s以上である。
【0042】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記本発明のエポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とを含有するものである。該エポキシ樹脂としては、本発明のエポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素と反応するグリシジル基を持つエポキシ樹脂であればいずれも使用することができるが、硬化物の機械的強度に優れる観点からは、分子内に芳香環又は脂環式構造を含むエポキシ樹脂であることが好ましく、分子内に芳香環を含むエポキシ樹脂がより好ましい。中でも、低粘度でかつ硬化物の機械的強度を確保できる観点から下記一般式(4)で示されるエポキシ樹脂が特に好ましい。
【0043】
【0044】
(式(4)中、R21~R24はそれぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基であり、p、q、r、及びsはそれぞれ独立に0~4の整数である。複数のR21、複数のR22、複数のR23、及び複数のR24はすべて同一でもよく、互いに異なってもよい。Y1及びY2はそれぞれ独立に、単結合、-CH2-、-CH(CH3)-、又は-C(CH3)2-である。R25は-CH2CH(OH)-、又は-CH(OH)CH2-である。mは平均繰り返し単位数を示し、0~0.2の数である。)
R21~R24は炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、及びt-ブチル基からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
p、q、r、及びsはいずれも0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、すべて0であることがさらに好ましい。
Y1及びY2は-CH2-、又は-C(CH3)2-であることが好ましく、-C(CH3)2-であることがより好ましい。
また、低粘度でかつ硬化物の機械的強度を確保できる観点から、mは0~0.15であることが好ましく、0.01~0.1であることがより好ましい。
【0045】
また、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、エポキシ樹脂組成物の低粘度性及び速硬化性を両立する観点から、好ましくは300g/当量以下、より好ましくは220g/当量以下、さらに好ましくは200g/当量以下、よりさらに好ましくは180g/当量以下である。
エポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、顔料、レベリング剤、粘着付与剤、エラストマー微粒子などのその他の成分を用途に応じて含有させてもよい。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物中の前記エポキシ樹脂硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)が、好ましくは1/0.8~1/1.2、より好ましくは1/0.9~1/1.1、さらに好ましくは1/1となる量である。
本発明のエポキシ樹脂組成物の温度40℃における粘度は、好ましくは5,000mPa・s以下、より好ましくは2,000mPa・s以下、さらに好ましくは1,500mPa・s以下、よりさらに好ましくは1,200mPa・s以下、よりさらに好ましくは1,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは800mPa・s以下、よりさらに好ましくは750mPa・s以下である。温度40℃における粘度が5,000mPa・s以下であると、CFRP用途に用いた際には生産性が向上する。エポキシ樹脂組成物の温度40℃における粘度の下限値には特に制限はないが、CFRPの成形において、レイノルズ数の上昇により金型内で乱流が生じて炭素繊維に乱れが生じることを抑制する点から、好ましくは150mPa・s以上、より好ましくは300mPa・s以上である。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、速硬化性の観点から、温度80℃におけるゲル化時間が、好ましくは12分以下、より好ましくは10分以下、さらに好ましくは9.0分以下である。また、作業性の観点からは、当該ゲル化時間は、好ましくは0.5分以上、より好ましくは1.0分以上である。
上記ゲル化時間はレオメーターを用いて、実施例に記載の方法で測定できる。具体的には、レオメーターを用いて温度80℃、周波数1Hz、プレート間距離0.5mmでエポキシ樹脂組成物の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’を測定し、G’とG’’とが交差する点をゲル化時間とする。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法には特に制限はなく、エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂、及び必要に応じ他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、製造することができる。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分の混合順序にも特に制限はない。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤及びこれを含有するエポキシ樹脂組成物は、速硬化性でかつ低粘度であるという特徴を有することから、繊維強化複合材用であることが好ましく、特に、炭素繊維強化複合材用であることが好ましい。
繊維強化複合材(FRP)は、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化繊維とを含むものであり、強化繊維に前記エポキシ樹脂組成物を含浸させた後、該組成物を硬化させることにより得ることができる。FRPは、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維の他に、さらに発泡材を含んでもよい。
強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維及び金属繊維などが挙げられる。強化繊維は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる複合材の強度及び軽量性の観点からは炭素繊維が好ましい。
発泡材としては特に制限はないが、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂材料から構成される発泡材が挙げられる。
以下、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と、炭素繊維とを含む炭素繊維強化複合材について説明する。
【0051】
[炭素繊維強化複合材(CFRP)]
本発明の炭素繊維強化複合材(CFRP)は、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と、炭素繊維とを含むものであり、炭素繊維に前記エポキシ樹脂組成物を含浸させた後、該組成物を硬化させることにより得ることができる。CFRPはエポキシ樹脂組成物の硬化物と炭素繊維の他に、さらに炭素繊維以外の強化繊維や前記発泡材を含んでもよい。
【0052】
(炭素繊維)
本発明のCFRPに用いられる炭素繊維は、レーヨンやポリアクリロニトリル(PAN)などを原料として製造したものであってもよいし、石油や石炭などのピッチを原料として紡糸して製造したものであってもよい。炭素繊維の形態は、例えば単にモノフィラメント又はマルチフィラメントを一方向または交互の交差するように並べたもの、編織物等の布帛、不織布あるいはマット等の種々の形態が挙げられる。これらのうち、モノフィラメント、布帛、不織布あるいはマットの形態が好ましく、布帛の形態がより好ましい。また、炭素繊維の端材を再利用した再生品や、CFRPから樹脂を除去した再生品の炭素繊維を用いることもできる。
【0053】
炭素繊維の平均繊維径は、1~100μmであることが好ましく、3~50μmがより好ましく、4~20μmであることがさらに好ましい。平均繊維径がこの範囲であると、加工が容易であり、得られるCFRPの弾性率及び強度が優れたものとなる。なお、平均繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)などによる観察によって測定することが可能である。50本以上の繊維を無作為に選んで長さを測定し、個数平均の平均繊維径を算出することができる。
【0054】
炭素繊維の繊度は、20~4,500texが好ましく、50~4,000texがより好ましい。繊度がこの範囲であると、エポキシ樹脂組成物の含浸が容易であり、得られる複合材の弾性率及び強度が優れたものとなる。なお、繊度は任意の長さの長繊維の重量を求めて、1,000m当たりの重量に換算して求めることができる。フィラメント数は通常、500~60,000程度の炭素繊維を好ましく用いることができる。
【0055】
[炭素繊維強化複合材の製造方法]
本発明の炭素繊維強化複合材の製造方法には特に制限はないが、本発明のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物は速硬化性であるため、エポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂とを成形の直前に混合した後、好ましくは10分以内、より好ましくは5分以内に、炭素繊維への含浸及び硬化を行うことが好ましい。
この観点から、本発明の炭素繊維強化複合材の製造方法は、低圧RTM法、中圧RTM法、高圧RTM法、コンプレッションRTM法、リキッドコンプレッションモールディング法、リキッドレイダウン法、スプレーレイダウン法、サーフェイスRTM法、プリプレグコンプレッションモールディング法又はリキッドキャストモールディング法により成形する工程を有することが好ましい。これらの成形法の中でも、ハイサイクルRTM法に適用する観点から、低圧RTM法、中圧RTM法、又は高圧RTM法が好ましく、中圧RTM法又は高圧RTM法がより好ましく、成形速度の観点からは高圧RTM法がさらに好ましい。
なお本明細書において、低圧RTM法における「低圧」とは、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを圧送して混合する際の圧送時の圧力が0.5MPa未満であることをいう。同様に、中圧RTM法における「中圧」とは上記圧力が0.5MPa以上、7MPa未満、高圧RTM法における「高圧」とは上記圧力が7MPa以上、20MPa以下であるものを指す。
上記成形法では、本発明のエポキシ樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂とを成形の直前に混合して使用することが可能であるため、該エポキシ樹脂組成物のポットライフはそれほど必要とされない。また、当該エポキシ樹脂組成物は速硬化性でかつ低粘度であるため、金型内への充填及び炭素繊維への含浸が速く、速やかに硬化するため、成形時間を大幅に短縮できる。したがって本発明のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物は、上記成形法に特に好適である。また、上記成形法を用いることにより、本発明のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物を適用して、自動車用構造材や建材用などの中~大型のCFRPを生産性よく製造することができる。
【0056】
高圧RTM法では、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを混合する装置として衝突混合ミキサーを使用することが好ましい。例えば、上下一対の金型内に炭素繊維を配置して密閉し、金型内を減圧にする。次いで、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを別々のタンクに充填し、それぞれを非常に小さい穴(オリフィス)から高速で吐出し、衝突混合ミキサーのミキシングチャンバー内で衝突混合させる。このようにして調製したエポキシ樹脂組成物を金型内に高圧注入して炭素繊維に含浸させ、次いで、エポキシ樹脂を硬化させる。
【0057】
低圧RTM法では、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを混合する装置としてダイナミックミキサーを使用することが好ましい。ダイナミックミキサーは、表面に凹凸を有する筒状の高速回転体を備えている。例えば、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを別々のタンクに充填し、それぞれをダイナミックミキサーに送液して前記回転体により主剤と硬化剤の2液を混合する。このようにして調製したエポキシ樹脂組成物を金型内に注入して炭素繊維に含浸させ、次いで、エポキシ樹脂を硬化させる。低圧RTM法は、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との配合比が大きく異なる場合や、装置コスト、装置の省スペース化の観点で有利である。
中圧RTM法では、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを混合する装置としてスタティックミキサーを使用することが好ましい。スタティックミキサーは、多数のミキシングエレメントからなる静止型混合器を1個以上組み込んだ管型反応器である。例えば、エポキシ樹脂組成物の主剤であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを別々のタンクに充填し、それぞれをスタティックミキサーに送液する。スタティックミキサーのねじれたエレメントに主剤と硬化剤の2液を通すことで、分割・転換・反転等の作用より2液が混合される。このようにして調製したエポキシ樹脂組成物を金型内に注入して炭素繊維に含浸させ、次いで、エポキシ樹脂を硬化させる。中圧RTM法は、金型内にエポキシ樹脂組成物を圧送できること、及び、装置コストの観点で有利である。
【0058】
CFRPが前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と炭素繊維の他にさらに発泡材を含む場合は、前記金型内に炭素繊維及び発泡材を配置して、前記と同様にCFRPの製造を行うことができる。
【0059】
リキッドコンプレッションモールディング(LCM)法、リキッドレイダウン法にも本発明のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。LCM法及びリキッドレイダウン法では、炭素繊維上(CFRPがさらに発泡材を含む場合は、炭素繊維及び発泡材上)にエポキシ樹脂組成物を流延させて含浸させた後、加熱圧縮してエポキシ樹脂を硬化させる。
【0060】
CFRPの成形において、エポキシ樹脂組成物を金型内に注入、又は炭素繊維に含浸させる際の温度は、好ましくは30~120℃、より好ましくは50~100℃である。エポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とを別々のタンクから供給して成形直前に混合する場合、エポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂との混合時の温度は、個別に設定することもできる。エポキシ樹脂硬化剤の混合時の温度は、粘度上昇を抑制する観点から、好ましくは5~30℃、より好ましくは10~25℃である。またエポキシ樹脂の混合時の温度は、エポキシ樹脂の粘度に応じて適宜調整できるが、好ましくは30~120℃、より好ましくは50~100℃である。
エポキシ樹脂組成物の炭素繊維への含浸時間は、成形性及び生産性の観点から、好ましくは0.1~15分、より好ましくは0.2~10分、さらに好ましくは0.5~5分である。
【0061】
エポキシ樹脂組成物の硬化温度は、好ましくは50~200℃、より好ましくは80~150℃、さらに好ましくは100~150℃である。硬化温度が50℃以上であれば、エポキシ樹脂の硬化が十分に進み、得られるCFRPの機械的特性が優れたものとなる。また、200℃以下であれば、金型温度調整にかかるコストが低く済む。エポキシ樹脂組成物の硬化時間は、成形性及び生産性の観点から、好ましくは0.1~15分、より好ましくは0.2~10分、さらに好ましくは0.5~5分である。
【0062】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤又はエポキシ樹脂組成物を用いて、上記の成形法によりCFRPを生産性よく製造することができる。本発明の炭素繊維強化複合材は、自動車用構造材や建材、特に自動車用構造材であることが好ましい。自動車用構造材としては、バンパー、スポイラー、カウリング、フロントグリル、ガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、フェンダーパネル、ドアパネル、ルーフパネル、インストルメントパネル、ドアトリム、クオータートリム、ルーフライニング、ピラーガーニッシュ、デッキトリム、トノボード、パッケージトレイ、ダッシュボード、コンソールボックス、キッキングプレート、スイッチベース、シートバックボード、シートフレーム、アームレスト、サンバイザ、インテークマニホールド、エンジンヘッドカバー、エンジンアンダーカバー、オイルフィルターハウジング等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂硬化物の各種評価及び測定は、以下の方法に従って行った。
【0064】
(粘度)
E型粘度計「TVE-22H型粘度計 コーンプレートタイプ」(東機産業(株)製)を用いて、エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物の粘度を測定した。エポキシ樹脂硬化剤は25℃、エポキシ樹脂組成物は40℃にてそれぞれ測定を実施した。粘度が低いほど、成形時の充填性が高く成形性が良好であることを示す。
【0065】
(ゲル化時間)
レオメーター「ARES-G2」(TAインスツルメント製)を用いて評価を行った。80℃に加温したアルミプレート間にエポキシ樹脂組成物を充填し、温度80℃、周波数1Hz、プレート間距離0.5mmで貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’を測定して、G’とG’’とが交差する点をゲル化時間とした。ゲル化時間が短いほど速硬化性であることを示す。
【0066】
実施例1(付加反応物の製造)
攪拌装置、温度計、窒素導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、アミン化合物(A)である1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC、三菱瓦斯化学(株)製、シス/トランス比=77/23)569g(4.0モル)を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら80℃に昇温した。80℃に保ちながら、化合物(B)であるビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(「jER828」、三菱化学(株)製)186g(1,3-BAC 1モルに対し0.125モルとなる量)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃に昇温して2時間反応を行い、1,3-BACのjER828付加反応物755g(活性水素当量50.3)を得た。
なお、化合物(B)として用いたエポキシ樹脂jER828は下記構造式で示され、n=0.11、エポキシ当量は186g/当量である。
【0067】
【0068】
上記式中、R15は-CH2CH(OH)-、又は-CH(OH)CH2-である。
【0069】
(エポキシ樹脂組成物の調製)
上記のようにして得られた付加反応物をエポキシ樹脂硬化剤として用いた。このエポキシ樹脂硬化剤と、主剤であるビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(「jER825」、三菱化学(株)製)とを、エポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素数と、主剤であるエポキシ樹脂のエポキシ基数とが等モルとなるよう配合して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。なお、エポキシ樹脂jER825は下記構造式で示され、m=0.035、エポキシ当量は175g/当量である。
【0070】
【0071】
上記式中、R25は-CH2CH(OH)-、又は-CH(OH)CH2-である。
【0072】
実施例2
上記実施例1で得られた付加反応物100gに対し、硬化促進剤としてビスフェノールA(4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール、関東化学(株)製)を10g配合して混合し、エポキシ樹脂硬化剤を得た。
このエポキシ樹脂硬化剤と、主剤であるビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(「jER825」、三菱化学(株)製)とを、エポキシ樹脂硬化剤の活性アミン水素数と、主剤であるエポキシ樹脂中のエポキシ基数とが等モルとなるよう配合して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
実施例3~4
実施例1において、化合物(B)であるjER828の使用量(付加量)を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で付加反応物を得た。また、この付加反応物をエポキシ樹脂硬化剤として用いて、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
実施例5
実施例1において、アミン化合物(A)として1,3-BACの代わりにメタキシリレンジアミン(MXDA、三菱瓦斯化学(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で付加反応物を得た。また、この付加反応物をエポキシ樹脂硬化剤として用いて、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
実施例6~7
実施例1において、化合物(B)としてjER828の代わりに前述したビスフェノールA型液状エポキシ樹脂「jER825」(三菱化学(株)製)を用い、その使用量(付加量)を表1に示す量としたこと以外は、実施例1と同様の方法で付加反応物を得た。また、この付加反応物をエポキシ樹脂硬化剤として用いて、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
実施例8
実施例6で得られた付加反応物100gに対し、硬化促進剤としてp-トルエンスルホン酸一水和物を3g配合して混合し、エポキシ樹脂硬化剤を得た。
このエポキシ樹脂硬化剤と、主剤であるビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(「jER825」、三菱化学(株)製)とを、エポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素数と、主剤であるエポキシ樹脂中のエポキシ基数とが等モルとなるよう配合して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
比較例1
実施例1で得られた付加反応物の代わりに、エポキシ樹脂硬化剤として1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC、三菱瓦斯化学(株)製、シス/トランス比=77/23)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製し、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
比較例2~3
実施例1において、化合物(B)であるjER828の使用量(付加量)を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で付加反応物を得た。また、この付加反応物をエポキシ樹脂硬化剤として用いて、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
比較例4
実施例1で得られた付加反応物の代わりに、エポキシ樹脂硬化剤としてメタキシリレンジアミン(MXDA、三菱瓦斯化学(株)製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製し、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1より、本発明のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物は速硬化性であり、かつ、比較的低粘度であることがわかる。そのため、ハイサイクルRTM法などの成形法を用いて各種成形体を製造するのに好適である。これに対し比較例1~4のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物では、速硬化性と低粘度とを両立することが困難であった。
【0082】
(CFRPの製造及び離型性評価)
実施例1,2,6,8、及び比較例1のエポキシ樹脂組成物を、室温でのハンドレイアップ成形により、炭素繊維織物(東レ(株)製「CO6343」、T300平織りクロス、3K、198g/m2、0.25mm厚、4ply)に含浸させてCFRP基材を作製した。続いて、オーブン内で予め120℃に加熱したアルミ上下型にCFRP基材を載せ、速やかに型を閉じ、所定時間経過後の硬化挙動及び離型性を評価した。
CFRP基材が完全に硬化して離型可能となるまでの時間を表2に示す。この時間が短いほど短時間で硬化及び離型可能となり、CFRPの生産性に優れることを示す。
【0083】
【0084】
表2より、本願実施例のエポキシ樹脂硬化剤及びこれを用いたエポキシ樹脂組成物はCFRP用途に適用した際にも速硬化性であり離型可能となるまでの時間が速いため、CFRPの生産性にも優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、ハイサイクルRTM法などによって自動車用構造材や建材などのCFRPを生産性よく製造できる、速硬化性でかつ低粘度のエポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂組成物を提供することができる。当該エポキシ樹脂組成物をCFRPのマトリクス樹脂として用いると、炭素繊維への含浸性に優れ、かつ速硬化性であることから金型からの離型が可能になるまでの時間も短く、CFRPの生産性を向上させることができる。