(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】化粧材
(51)【国際特許分類】
B32B 3/14 20060101AFI20220517BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220517BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220517BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220517BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
B32B3/14
B32B27/00 E
B32B27/30 A
B32B27/40
B32B27/18 Z
(21)【出願番号】P 2018558089
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2017046210
(87)【国際公開番号】W WO2018117260
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2016249384
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】東川 栄一
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-090319(JP,A)
【文献】特開2016-093968(JP,A)
【文献】特開2018-024744(JP,A)
【文献】特開2016-165870(JP,A)
【文献】特開2014-188842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられた第1の艶調整層と、前記第1の艶調整層上に部分的に設けられ、前記第1の艶調整層の艶と異なる艶を有する第2の艶調整層とを備え、
前記第1の艶調整層を構成する樹脂成分は、ポリオールとイソシアネートとを有するウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物であり、該電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、該ウレタン系熱硬化樹脂を3質量部以上100質量部以下の範囲内で含
み、
前記第2の艶調整層を構成する樹脂成分は、ポリオールとイソシアネートとを有するウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物であり、該電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、該ウレタン系熱硬化樹脂を0質量部を超えて25質量部以下の範囲内で含み、
前記第1の艶調整層および前記第2の艶調整層は、それぞれ艶消し剤を含むことを特徴とする化粧材。
【請求項2】
基材上に設けられた第1の艶調整層と、前記第1の艶調整層上に部分的に設けられ、前記第1の艶調整層の艶と異なる艶を有する第2の艶調整層とを備え、
前記第1の艶調整層を構成する樹脂成分は、ポリオールとイソシアネートとを有するウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物であり、該電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、該ウレタン系熱硬化樹脂を3質量部以上100質量部以下の範囲内で含
み、
前記第2の艶調整層を構成する樹脂成分は、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂のみであり、
前記第1の艶調整層および前記第2の艶調整層は、それぞれ艶消し剤を含むことを特徴とする化粧材。
【請求項3】
前記アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂は、数平均分子量が300以上5000以下の範囲内であることを特徴とする請求項1
または2に記載の化粧材。
【請求項4】
前記アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂は、数平均分子量が300以上1500以下の範囲内であることを特徴とする請求項
3に記載の化粧材。
【請求項5】
前記基材と前記第1の艶調整層との間に設けられた柄インキ層を更に備え、
前記第2の艶調整層は、前記柄インキ層と重なる部分に形成され、前記柄インキ層の柄模様と前記第2の艶調整層の艶とが同調していることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の化粧材。
【請求項6】
前記基材と前記第1の艶調整層との間に設けられた柄インキ層を更に備え、
前記第1の艶調整層は、前記基材の前記第1の艶調整層側の面の全面を被覆しており、
前記第2の艶調整層は、前記柄インキ層の直上以外の部分に形成され、前記柄インキ層の柄模様と前記第1の艶調整層の艶とが同調していることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の化粧材。
【請求項7】
前記基材と前記第1の艶調整層との間に設けられた柄インキ層を更に備え、
前記第2の艶調整層は、前記柄インキ層と少なくとも一部が重なるように形成され、前記柄インキ層の柄模様と前記第2の艶調整層の艶とが同調していることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の化粧材。
【請求項8】
前記基材と前記第1の艶調整層との間に設けられた柄インキ層を更に備え、
前記第2の艶調整層は、前記柄インキ層の直上部分と、前記柄インキ層の直上以外の部分の一部とに一体的に形成され、前記柄インキ層の柄模様と前記第2の艶調整層の艶とが同調していることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の化粧材。
【請求項9】
前記基材と前記第1の艶調整層との間に設けられた柄インキ層を更に備え、
前記第1の艶調整層は、前記基材の前記第1の艶調整層側の面の全面を被覆しており、
前記第2の艶調整層は、前記柄インキ層の直上以外の部分と、前記柄インキ層の直上部分の一部とに一体的に形成され、前記柄インキ層の柄模様と前記第1の艶調整層の艶とが同調していることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の化粧材。
【請求項10】
前記艶消し剤は、無機材料を含むことを特徴とする請求項1から
9のいずれか1項に記載の化粧材。
【請求項11】
前記艶消し剤は、1次粒子が2次凝集してなる艶消し剤であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の化粧材。
【請求項12】
前記第1の艶調整層を構成する前記ウレタン系熱硬化樹脂の、前記第1の艶調整層を構成する前記電離放射線硬化樹脂100質量部に対する含有量は、前記第2の艶調整層を構成する前記ウレタン系熱硬化樹脂の、前記第2の艶調整層を構成する前記電離放射線硬化樹脂100質量部に対する含有量よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の化粧材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の内外装、建具、家具等の表面化粧等に使用するための化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、建築物の内外装、建具、家具等の表面化粧等に用いられる化粧材には、木目柄や石目柄等の所望の柄模様が施されるのが通例である。また、単に木目柄や石目柄等の柄模様を平面的に表現するだけでなく、天然の木材や石材が持つ表面の凹凸感を併せて立体的に表現した化粧材も、高級感が所望される用途を中心に広く用いられている。
化粧材の表面に平面的な柄模様と併せて立体的な凹凸感を表現する手法としては、従来、様々な方法が考案され、目的に応じて使い分けられている。なかでも、化粧材の表面に実際に凹凸を形成するのではなく、凹部または凸部として表現したい部分の表面の艶状態(具体的には光沢度)を異ならせることにより、人間の目の錯覚を利用して視覚的に凹凸の立体感を表現する手法がある。この手法によれば、実際には凹凸形状が存在しなくても、人間の目には、相対的に艶の高い部分は凸部、艶の低い部分は凹部として認識される。
【0003】
具体的には、例えば、凹み模様を含む適宜模様が印刷された基材の印刷面の全面に、艶の低い透明または半透明の合成塗料層を形成した後、形成した合成塗料層の表面の凹み模様に対応する部分を除く部分に艶の高い透明または半透明の合成塗料層を形成する。勿論、艶の高低の関係を逆転させれば、凹凸の関係を逆転させた化粧材を得ることができる。
このような手法によれば、特殊な薬剤等を必要とすることなく、艶の異なる2種類の塗料を用意するだけで、いかなる基材に対しても、容易に立体的な凹凸感を付与することができる。しかも、艶の異なる合成塗料層の形成は、柄模様(柄インキ層)の形成に引き続きグラビア印刷法等の慣用の印刷法で行うことができるので、特殊設備は一切不要で生産能率も高く、柄模様との同調も容易である。また、合成塗料層の厚みは表現しようとする凹凸の高低差と比較すれば遥かに薄く済むので、樹脂の使用量を削減できるほか、可撓性の面でも有利であり、折り曲げ加工適性に優れた化粧材を容易に実現できる。また、化粧材の表面に大きな凹凸が無いので、凹部に汚染物が留まることも無いという利点もある。
【0004】
かかる多くの利点に鑑み、この手法を採用した化粧材は、既に大量に使用されているが、高級感の点ではまだ実際に凹凸を形成する手法を凌ぐには至っていないのが実情である。その理由を考察するに、例えば、機械式エンボス法によれば、天然木の導管等の凹凸形状を、導管等の断面形状まで含めて忠実に再現することが可能である。これに対し、艶の異なる2種類の塗料を使用したこの手法では、表面の艶の段階は2種類であるから、表現できる凹凸の段階も2種類となる。したがって、天然木の導管等の様に、深さ(高さ)が連続的に変化した斜面部を有する凹凸形状を表現することが難しいという問題点がある。
【0005】
そこで、近年、深さが連続的に変化した斜面部を有する凹凸形状を表現する合成塗料層(以下、「艶調整層」とも呼ぶ)を設けることによって、天然木の導管等のように、斜面部を有する凹凸形状を表現可能な化粧材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
ここで、艶調整層の艶の調整方法としては、バインダーとしての透明樹脂中に艶調整剤(艶消し剤)を添加する方法が一般的である。艶調整剤としては、無機材料または有機材料の微粒子が主に用いられており、特に、無機材料の微粒子(特にシリカ微粒子)が艶消し能が高く、広く用いられている。艶調整剤を添加することにより、艶調整剤が艶調整層の表面に凹凸を付与し、この凹凸が光を散乱することで艶消し効果が得られる。これら艶調整剤の種類や添加量を調整することで、求められる艶を自在に作り出すことができる。
【0008】
バインダーに用いられる透明樹脂としては、作業性、価格、樹脂自体の凝集力等の観点から、各種ポリオールとイソシアネートとを用いたウレタン系樹脂が良く用いられている。ウレタン系樹脂は、ポリオールとイソシアネートとの組み合わせによって様々に特性をコントロールできることが特徴であるが、ポリオールとイソシアネートの分子量はそれぞれ比較的大きく、1分子当たりの官能基数も小さいことから、総じて架橋密度を上げにくいという問題がある。架橋密度は、特に耐傷性に対して影響が大きいパラメータであるため、ウレタン系樹脂は高度な耐傷性の要求、例えば、家具の天板や棚板等の水平面に求められる耐傷性を満足することが原理的に困難である。
【0009】
さらに、前述の艶消し剤を用いた艶調整層の場合、表面の凸部が選択的に削られてしまったり、艶消し剤が脱落してしまうことにより、耐傷性がより悪い結果となってしまう。この耐傷性の悪化傾向は、艶消し剤添加量に凡そ比例するため、艶の低い高意匠な化粧材ほど、前述の水平面に求められる耐傷性を満足することが非常に困難であると言える。
一方、透明樹脂としてアクリル基やメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂は、比較的分子量が低いことと1分子あたりの官能基数が大きいことから架橋密度が高く、耐傷性を向上させやすい樹脂と言える。このような電離放射線硬化樹脂を透明樹脂として用いることにより、高度な耐傷性を有する化粧材を提供することが可能である。なお、耐傷性は主に化粧材最表面の強度に依存するため、最表面層の構成材料のみ、電離放射線硬化樹脂を積極的に用いれば良い。
【0010】
ここで、艶調整層が2層からなり、下側の艶調整層が化粧材全面を覆い、上側の艶調整層が化粧材の一部しか被覆していない場合には、下側の艶調整層も表面に露出することになるため、高度な耐傷性を有する化粧材とするためには、両方の艶調整層の透明樹脂に電離放射線硬化樹脂を用いることが必須となる。しかしながら、電離放射線硬化樹脂は電離放射線が照射されなければ硬化しないため、一般的に化粧材の製造に用いられる各種印刷機によって加工した場合、未硬化の下側の艶調整層上に、上側の艶調整層を積層することになるため、下側の艶調整層が溶解したり削られたりする等の不具合が発生してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、艶調整層の積層時に生じる不具合を抑制しつつ、高度な耐傷性を有する化粧材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者等は、鋭意検討の結果、基材側の艶調整層の樹脂成分として、ウレタン系熱硬化樹脂と電離放射線硬化樹脂とを組み合わせてなるデュアル硬化方式の樹脂成分を採用し、ウレタン系熱硬化樹脂の添加量を最適な範囲とすることで、艶調整層の積層時に生じる不具合を抑制しつつ、高度な耐傷性を有する化粧材を提供できることを見出した。
上記課題を達成するべく、本発明の一態様は、基材上に設けられた第1の艶調整層と、第1の艶調整層上に部分的に設けられ、第1の艶調整層の艶と異なる艶を有する第2の艶調整層とを備え、第1の艶調整層を構成する樹脂成分は、ポリオールとイソシアネートとを有するウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物であり、電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、ウレタン系熱硬化樹脂を3質量部以上100質量部以下の範囲内で含む化粧材であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1の艶調整層の樹脂成分をウレタン系熱硬化樹脂と電離放射線硬化樹脂の混合物として、ウレタン系熱硬化樹脂の添加量を最適な範囲とすることで、第1の艶調整層の積層時の不具合を抑制しつつ、高度な耐傷性を有する化粧材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る化粧材1について、図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状および構造等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
(構成)
図1に示すように、実施形態に係る化粧材1は、基材2上に設けられた第1の艶調整層5と、第1の艶調整層5上に部分的に設けられ、第1の艶調整層5の艶と異なる艶を有する第2の艶調整層6とを備えている。そして、これら第1、第2の艶調整層5、6のうち、第1の艶調整層5に用いる透明樹脂が、各種ポリオールとイソシアネートから成る2液のウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物であり、熱硬化樹脂の混合割合が電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、3質量部以上100質量部以下の範囲内であることが重要である。これにより、積層時の不具合を抑制しつつ、高度な耐傷性を発現可能な化粧材1を提供することができる。
なお、基材2と第1の艶調整層5との間には、後述するように下地ベタインキ層3、柄インキ層4および透明樹脂層(不図示)等、他の層を配置する構成としてもよい。
【0017】
(基材)
基材2は、化粧材1の原紙として用いられるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、薄葉紙、樹脂混抄紙、チタン紙、樹脂含浸紙、難燃紙、無機質紙等の紙類、天然繊維または合成繊維からなる織布もしくは不織布、ホモまたはランダムポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、共重合ポリエステル樹脂、アモルファス状態の結晶性ポリエステル樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレン樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素系樹脂等の合成樹脂系基材、木材単板、突板、合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板等の木質系基材、石膏板、セメント板、珪酸カルシウム板、陶磁器板等の無機系基材、鉄、銅、アルミニウム、ステンレス等の金属系基材、またはこれらの複合材、積層体等、従来公知の材料を用いることができる。また、基材2の形状としては、フィルム状、シート状、板状、異型成型体等を用いることができる。
【0018】
(下地ベタインキ層)
下地ベタインキ層3は、基材2と柄インキ層4との間に設けられ、求められる意匠に応じて、基材2の第1の艶調整層5側の面の全面を被覆する層である。また、下地ベタインキ層3は、隠蔽性等、必要に応じて2層以上の多層としてもよい。さらに、柄インキ層4は、求められる意匠を表現するために必要な分版の数だけ積層して形成してもよい。このように、下地ベタインキ層3は、柄インキ層4との組合せによって求められる意匠、つまり、表現したい意匠に応じて様々な組み合わせとなるが、特に限定されるものではない。
【0019】
下地ベタインキ層3の構成材料は、特に限定されるものではない。例えば、マトリックスと、染料、顔料等の着色剤とを溶剤中に溶解、分散してなる印刷インキやコーティング剤を用いることができる。マトリックスとしては、例えば、油性の硝化綿樹脂、2液ウレタン樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂等の各種合成樹脂類、またはこれらの混合物、共重合体等を用いることができる。また、着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、黄鉛、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料や、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料、またはこれらの混合物を用いることができる。また、溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、水等またはこれらの混合物等を用いることができる。
【0020】
また、下地ベタインキ層3には、各種機能を付与するために、体質顔料、可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤および硬化遅延剤等の機能性添加剤を添加してもよい。
下地ベタインキ層3、並びに後述する柄インキ層4および第1、第2の艶調整層5、6の各層は、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法によって形成することができる。また、下地ベタインキ層3および第1の艶調整層5は、基材2の第1の艶調整層5側の面の全面を被覆しているため、ロールコート法、ナイフコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法等の各種コーティング方法によっても形成できる。これらの印刷方法、コーティング方法は、形成する層によって別々に選択してもよいし、同じ方法を選択して一括加工してもよい。
【0021】
(柄インキ層)
柄インキ層4は、基材2と第1の艶調整層5の間に設けられ、化粧材1に柄模様を付加するための層である。柄模様としては、木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形等を用いることができる。柄インキ層4の形成箇所は、第2の艶調整層6の直下の部分のみとなっている。すなわち、第2の艶調整層6が、柄インキ層4と重なる部分にのみ形成された構成となっている。また、柄インキ層4の柄模様は、第2の艶調整層6の艶と同調している。これにより、柄インキ層4による意匠性に、第2の艶調整層6による意匠性を付加することができる。それゆえ、天然木や天然石に近い高級感のある意匠表現を有した化粧材1を形成することができる。
【0022】
なお、本実施形態では、第2の艶調整層6が柄インキ層4と重なる部分にのみ形成されている例、つまり、柄インキ層4の直上の部分にのみ形成されている例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、柄インキ層4と重なる部分であればよく、柄インキ層4の直上の部分に加え、直上以外の部分の一部にも形成する構成としてもよい。つまり、第2の艶調整層6は、柄インキ層4と少なくとも一部が重なるように形成されていてもよい。また、第2の艶調整層6は、柄インキ層4の直上部分と、柄インキ層4の直上以外の部分の一部とに一体的に形成されていてもよい。
柄インキ層4の構成材料は、特に限定されるものではない。例えば、下地ベタインキ層3と同様に、マトリックスと、染料、顔料等の着色剤とを溶剤中に溶解、分散してなる印刷インキやコーティング剤を用いることができる。また、柄インキ層4には、各種機能を付与するために、体質顔料、可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤、および硬化遅延剤等の機能性添加剤を添加してもよい。
【0023】
(第1、第2の艶調整層)
第1の艶調整層5は、下地ベタインキ層3および柄インキ層4の第1の艶調整層5側の面に設けられ、化粧材1表面の艶状態を調整するための層である。第1の艶調整層5の形成箇所は、下地ベタインキ層3および柄インキ層4の第1の艶調整層5側の面の全面となっており、基材2の第1の艶調整層5側の面の全面を被覆している。また、第2の艶調整層6は、第1の艶調整層5の第2の艶調整層6側の面に設けられ、第1の艶調整層5の艶と異なる艶を有し、化粧材1表面の艶状態を調整するための層である。第2の艶調整層6の形成箇所は、第1の艶調整層5の第2の艶調整層6側の面の一部となっている。そして、これら第1、第2の艶調整層5、6の艶の差により凹凸形状が表現可能となっている。
【0024】
また、第1、第2の艶調整層5、6のうち、相対的に艶の低い艶調整層には、艶消し剤が添加されている。艶消し剤の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して5質量部以上40質量部以下が好ましい。さらに好ましくは、10質量部以上30質量部以下とする。5質量部未満である場合には、艶消し効果が不足するため、相対的に艶の高い艶調整層との艶の差が小さくなり、凹凸感が不足してしまう。また、40質量部より大きい場合には、艶消し剤に対して樹脂組成物が相対的に不足するため、艶消し剤の脱落や、脱落による耐傷性の低下を招いてしまい、化粧材1に求められる耐久性が大きく損なわれてしまう。
なお、相対的に艶の高い艶調整層においても、任意の艶消し剤を添加することが可能である。これらは最終的な凹凸感や意匠性に応じて適宜調整されるべきものである。また、第1、第2の艶調整層5、6に用いられる艶消し剤および樹脂組成物は、同じでも異なっていてもよい。これらは凹凸感および各種要求特性から自由に選択することができる。
【0025】
艶消し剤としては、市販されている公知の艶消し剤等を用いることができる。例えば、シリカ、ガラス、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アクリル等の無機材料からなる微粒子が挙げられる。第1、第2の艶調整層5、6は、透明性が高いことが要求されるため、なかでも、透明性の高いシリカ、ガラス、アクリル等の微粒子を用いることが望ましい。特に、シリカ微粒子のなかでも、中実の真球状粒子ではなく、微細な1次粒子が2次凝集してなる嵩密度の低い艶消し剤は添加量に対する艶消し効果が高い。それゆえ、このような艶消し剤を用いることで、より艶の低い艶調整層を形成できる。これにより、第1の艶調整層5と第2の艶調整層6の艶の差を大きくすることができ、得られる凹凸感を大きくすることができる。これにより、より深みのある優れた意匠表現が可能となる。
【0026】
艶消し剤の粒径は、任意の数値を選択することができるが、公知の艶消し剤を使用する場合には、2μm以上15μm以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、4μm以上12μm以下とする。粒径が2μm未満である場合には、艶消し効果が低いため、艶の差による凹凸感が十分に得られない。また、粒径が15μmより大きい場合には、光の散乱が大きくなり過ぎてしまい、第1、第2の艶調整層5、6の白濁を招いたり、目視での粒子感が大きくなったりするため、艶の差による凹凸感が逆に損なわれてしまう。
【0027】
また、第1の艶調整層5を構成する樹脂部分(樹脂組成物)としては、各種ポリオールとイソシアネートとを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物を用いることが重要である。ポリオールとしては、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール等を用いることができる。また、イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルヘキサンジイソシアネート(HTDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(HXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等の誘導体であるアダクト体、ビュレット体およびイソシアヌレート体等の硬化剤を用いることができる。
【0028】
また、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂としては、数平均分子量300以上5000以下で、官能基数もしくは平均官能基数4以上15以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーまたはオリゴマーを用いることが好ましい。この範囲とすることで、艶調整層中の樹脂成分の架橋度を十分に高めることができるため、高い耐傷性を発揮することができる。また、数平均分子量300以上1500以下、官能基数もしくは平均官能基数4以上8以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーを用いることがさらに好ましい。この範囲とすることで、電離放射線硬化樹脂自体の粘度を低くすることができるため、艶調整層形成用インキを調製する際も、同粘度での固形分濃度を上げることができ、インキ自体の安定性向上や、塗布状態を向上させることができる。また、多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(PET4A)、およびその変性体、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートおよびその変性体、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(DPPA)およびその変性体、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)およびその変性体が挙げられる。
上記の電離放射線硬化樹脂の数平均分子量を測定する方法は特に限定されないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いることが好ましい。そのGPCの測定装置については特に限定されるものではないが、GPCカラムの充填材はポリスチレンゲルが好ましく、溶離液としてはテトラヒドロフラン(THF)を用いることが好ましい。また、GPCの標準物質にはポリスチレンポリマーを用いればよい。なお、上記の多官能(メタ)アクリレートモノマーについては、単体で構成されているため、その構造が既知であれば、数平均分子量は、構造式から算出される値を用いてもよい。
【0029】
また、本発明の効果を発揮するため、第1の艶調整層5を構成する樹脂成分(樹脂組成物)は、電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、ウレタン系熱硬化樹脂が3質量部以上100質量部以下含まれていることが重要である。さらに、10質量部以上50質量部以下にすることが好ましい。3質量部未満の場合には、ウレタン系熱硬化樹脂の割合が少なすぎるため、第2の艶調整層6の積層時に第1の艶調整層5が溶解したり削られたりする等の不具合が発生しやすくなる。100質量部を超える場合には、ウレタン系熱硬化樹脂の割合が多すぎるため、樹脂組成物の架橋度が低下し、第1の艶調整層5の耐傷性が著しく低下する。そして、電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、ウレタン系熱硬化樹脂を3質量部以上100質量部以下とすることで、第1の艶調整層5の樹脂成分を塗布後乾燥することにより、樹脂成分を構成するウレタン系熱硬化樹脂を硬化させることができ、第2の艶調整層6の積層時に第1の艶調整層5が溶解したり削られたりする等の不具合を抑制できる。また、化粧材1の作製後に電離放射線を照射することにより、樹脂成分を構成する電離放射線硬化樹脂を硬化させることができ、第1の艶調整層5の耐傷性を向上することができる。さらに、電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、ウレタン系熱硬化樹脂を10質量部以上50質量部以下とすることで、第2の艶調整層6の積層時における不具合の解消と、第1の艶調整層5の耐傷性とを高度に両立することができる。
【0030】
また、第2の艶調整層6を構成する樹脂部分(樹脂組成物)としては、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂を含む樹脂を用いることが重要である。さらに、加工性の向上(割れ防止)の要求がある場合には、第2の艶調整層6を構成する樹脂部分(樹脂組成物)として、各種ポリオールとイソシアネートとを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物を用いることができる。この場合、第2の艶調整層6を構成する樹脂成分(樹脂組成物)は、電離放射線硬化樹脂100質量部に対して、ウレタン系熱硬化樹脂が25質量部以下であることが重要である。25質量部を超える場合には、ウレタン系熱硬化樹脂の割合が多すぎるため、樹脂組成物の架橋度が低下し、第2の艶調整層6の耐傷性が著しく低下する。ウレタン系熱硬化樹脂の下限値は3質量部である。3質量部未満の場合、耐傷性の点では実用上問題はないが、加工性(割れ防止)が要求される化粧材1とする場合は、その要求特性を満足することができない。
【0031】
また、第2の艶調整層6のウレタン系熱硬化樹脂を25質量部以下とすることで、化粧材1の作製後に電離放射線を照射することにより、樹脂成分を構成する電離放射線硬化樹脂を十分に硬化させることができ、第2の艶調整層6の耐傷性を向上することができる。
また、第1、第2の艶調整層5、6の層厚は、任意の数値を選択できるが、前述の通り、艶消し剤の粒径は2μm以上15μm以下が好ましいため、1μm以上15μm以下とすることが好ましい。また、第1、第2の艶調整層5、6は、化粧材1の最表面となる層のため、化粧材1として必要な耐摩耗性、耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染性等の表面物性が求められる。なかでも、耐摩耗性や耐擦傷性は層厚による影響があり、層厚が厚い方が有利となる。したがって、第1、第2の艶調整層5、6のさらに好ましい層厚は2μm以上12μm以下となる。1μm未満の場合には、耐摩耗性および耐擦傷性が大幅に悪くなるため、化粧材1としての用途が限られる。また、15μmより大きい場合には、第1、第2の艶調整層5、6自体の可撓性が悪くなるため、化粧材1としての加工性が悪化する。
【0032】
第1、第2の艶調整層5、6の層厚の調整方法としては、例えば、前述の印刷方法およびコーティング方法において塗布量を調整する方法を用いることができる。塗布量は、各種印刷方法およびコーティング方法において、基材2に第1、第2の艶調整層5、6を形成したものと、形成しないものとを作製し、それらの質量差から算出することができる。
また、第1、第2の艶調整層5、6には、各種機能を付与するために、抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤を添加してもよい。また、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定化剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系を用いることができる。また、光安定化剤としては、ヒンダードアミン系を用いることができる。さらに、汚染防止性能やセロテープ(登録商標)離型性が求められる場合には、シリコーン骨格を持つ離型剤を添加することができる。この場合、離型剤の種類は特に限定されないが、樹脂組成物に対して反応性を有する末端官能基を持つシリコーン離型剤を用いることで、汚染防止性能やセロテープ離型性の耐久性を向上できる。
【0033】
(透明樹脂層)
また、特に、化粧材1の特性として、耐摩耗性が要求される場合には、柄インキ層4と第1の艶調整層5の間に透明樹脂層(不図示)を設けることができる。透明樹脂層としては、例えば、オレフィン系樹脂を主成分とした樹脂組成物を用いることが好ましい。オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等の他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等)を単独重合あるいは2種類以上共重合させたものや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・エチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルメタクリレート共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体等のように、エチレンまたはαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものを用いることができる。特に、表面強度の更なる向上を図る場合には、高結晶性のポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0034】
また、透明樹脂層には、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤および着色剤等の添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、公知のものから適宜選択して使用することができる。透明樹脂層は、熱圧を応用した方法、押出ラミネート方法、ドライラミネート方法等の各種積層方法によって形成することができる。
【0035】
(作用その他)
(1)以上のように、本実施形態の化粧材1では、第1の艶調整層5を構成する樹脂成分を、ポリオールとイソシアネートとを有するウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物とし、第1の艶調整層5を構成する樹脂成分が、電離放射線硬化樹脂100質量部に対してウレタン系熱硬化樹脂を3質量部以上100質量部以下含むようにした。それゆえ、第1の艶調整層5の樹脂成分がウレタン系熱硬化樹脂と電離放射線硬化樹脂とを組合せてなるデュアル硬化方式の樹脂成分となり、ウレタン系熱硬化樹脂の添加量を最適な範囲とすることで、第2の艶調整層6の積層時に最低限の硬化状態を達成しつつ、化粧材1作製後に電離放射線硬化樹脂特有の高架橋を達成でき、高度な耐傷性を得ることができる。これにより、第2の艶調整層6の積層時に生じる不具合を抑制しつつ、高度な耐傷性を有する化粧材1を提供することができる。
【0036】
(2)また、本実施形態の化粧材1では、第2の艶調整層6を構成する樹脂成分を、ポリオールとイソシアネートとを有するウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物とし、第2の艶調整層6を構成する樹脂成分が、電離放射線硬化樹脂100質量部に対してウレタン系熱硬化樹脂を25質量部以下含むようにしたため、ウレタン系熱硬化樹脂の添加量を最適な範囲とすることで、より優れた耐傷性を有しつつ、加工性に関する要求品質をも満足する化粧材1を提供できる。
【0037】
(3)また、本実施形態の化粧材1では、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂の数平均分子量を、300以上5000以下とした。それゆえ、艶調整層中の樹脂成分の架橋度を十分に高めて、高度な耐傷性を有する化粧材1を提供できる。
(4)また、本実施形態の化粧材1では、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂の数平均分子量を300以上1500以下とした。それゆえ、電離放射線硬化樹脂の粘度を低下でき、艶調整層形成用インキを調製する際も、同粘度での固形分濃度を向上できるため、インキ自体の安定性や、塗布状態を向上することができる。
【0038】
(5)また、本実施形態の化粧材1では、柄インキ層4の柄模様と第2の艶調整層6の艶とが同調している。そのため、柄インキ層4による意匠性に、第2の艶調整層6による意匠性を付加でき、天然木等に近い高級感のある意匠表現を有した化粧材1を形成できる。(6)さらに、本実施形態の化粧材1では、艶消し効果の高い無機材料からなる艶消し剤を用いている。それゆえ、艶調整層の艶を大きく下げることができる。それゆえ、第1の艶調整層5の艶と第2の艶調整層6の艶との差を大きくすることができ、得られる凹凸感を大きくすることができる。これにより、より深みのある優れた意匠表現が可能となる。
【0039】
(変形例)
(1)なお、本実施形態では、第2の艶調整層6が柄インキ層4と重なる部分に形成され、柄インキ層4の柄模様と第2の艶調整層6の艶とが同調している例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、
図2に示すように、第2の艶調整層6が柄インキ層4の直上以外の部分に形成され、柄インキ層4の柄模様と第1の艶調整層5の艶とが同調していてもよい。これにより、柄インキ層4の柄模様に、露出している第1の艶調整層5の艶が付与され、柄インキ層4による意匠性に第1の艶調整層5による意匠性を付加できる。それゆえ、天然木等に近い高級感のある意匠表現を有した化粧材1を形成できる。また、第2の艶調整層6は、柄インキ層4の直上以外の部分と、柄インキ層4の直上部分の一部とに一体的に形成されていてもよい。この形態であっても、柄インキ層4の柄模様に、露出している第1の艶調整層5の艶が付与され、柄インキ層4による意匠性に第1の艶調整層5による意匠性を付加できる。
【0040】
(2)また、第2の艶調整層6を構成する樹脂成分を、ポリオールとイソシアネートとを有するウレタン系熱硬化樹脂と、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂との混合物とする例を示したが、他の構成を採用してもよい。例えば、第2の艶調整層6を構成する樹脂成分は、アクリル基またはメタクリル基を有する電離放射線硬化樹脂のみとしてもよい。これにより、第2の艶調整層6の耐傷性を向上することができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本実施形態の化粧材1の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1では、坪量50g/m2の含浸紙(GFR-506:興人(株)製)を基材2として用いた。そして、基材2の一方の面に、油性硝化綿樹脂系グラビア印刷インキ(PCNT(PCRNT)各色:東洋インキ(株)製)を使用して、下地ベタインキ層3と、柄インキ層4とをこの順に形成した。柄インキ層4の柄模様は、木目柄とした。
続いて、柄インキ層4を形成した基材2上に、第1の艶調整層5用のインキを基材2の一方の面の全面を被覆するように塗布(塗工)して、第1の艶調整層5を形成した。インキは、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)2.4質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)0.6質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計3質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。インキの塗布量は5g/m2とした。
【0042】
続いて、第1の艶調整層5を構成する樹脂成分(電離放射線硬化樹脂)に電離放射線を照射することなく、第1の艶調整層5上の、柄インキ層4の直上の部分に第2の艶調整層6用のインキを塗布(塗工)することで、第2の艶調整層6を形成した。インキは、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)5質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。そして、このような手順で得られた化粧材1に対し、電離放射線を照射して、第1、第2の艶調整層5、6の電離放射線硬化樹脂の架橋硬化を行い、さらに、加熱養生を行った。
【0043】
(実施例2)
実施例2では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)8質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)2質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計10質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0044】
(実施例3)
実施例3では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)16質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)4質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計20質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0045】
(実施例4)
実施例4では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)40質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)10質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計50質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0046】
(実施例5)
実施例5では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)80質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)20質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計100質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0047】
(実施例6)
実施例6では、第2の艶調整層6用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)20質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)5質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計25質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)5質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0048】
(実施例7)
実施例7では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)8質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)2質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計10質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例6と同様の構成とした。
【0049】
(実施例8)
実施例8では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)40質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)10質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計50質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例6と同様の構成とした。
【0050】
(実施例9)
実施例9では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)80質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)20質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計100質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例6と同様の構成とした。
【0051】
(実施例10)
実施例10では、第2の艶調整層6用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)2.4質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)0.6質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計3質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)5質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0052】
(実施例11)
実施例11では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)8質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)2質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計10質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例10と同様の構成とした。
【0053】
(実施例12)
実施例12では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)40質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)10質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計50質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例10と同様の構成とした。
【0054】
(実施例13)
実施例13では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)80質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)20質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計100質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例10と同様の構成とした。
【0055】
(実施例14)
実施例14では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)40質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)10質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計50質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。また、第2の艶調整層6用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)24質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)6質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計30質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)5質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0056】
(比較例1)
比較例1では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)0.8質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)0.2質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計1質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0057】
(比較例2)
比較例2では、第1の艶調整層5用のインキとして、電離放射線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)100質量部に対して、アクリルポリオール(6KW-700:大成ファインケミカル(株)製)120質量部とポリイソシアネート(UR190B硬化剤:東洋インキ(株)製)30質量部とを有する2液のウレタン系熱硬化樹脂(合計150質量部)、シリカ系艶消し剤(ミズカシルP-803:水澤化学工業(株)製)10質量部、紫外線ラジカル開始剤(IRGACURE 184:BASF製)5質量部から構成した。それ以外は実施例1と同様の構成とした。
【0058】
(評価)
以上の実施例1~14、比較例1~2について、第1、第2の艶調整層5、6の連続塗工時の不具合の発生状態と、耐傷性の評価を行った。
(連続塗工時の不具合)
第2の艶調整層6の積層時の状況および作製後の化粧材1の外観から、第2の艶調整層6の積層時の不具合の有無を目視観察によって評価した。そして、不具合がない無い場合を「○」、第1の艶調整層5に僅かに溶解や削れを確認でき、僅かに不具合がある場合を「△」、第1の艶調整層5に溶解や削れを確認でき、不具合がある場合を「×」とした。
【0059】
<耐傷性>
化粧材1に対して、スチールウール(#0000)を用いて荷重500[g/cm2]、10回往復の耐傷性試験を実施した後、化粧材1の表面の傷や光沢度変化の有無を目視観察によって評価した。そして、傷や光沢度変化が見られない場合を「○」、傷や光沢度変化が僅かに見える場合を「△」、大きな傷や光沢度変化が見える場合を「×」とした。
これらの評価結果を表1に示す。なお、各評価が「○」又は「△」であれば、各機能を十分に備えており、製品として十分に使用することができる。
【0060】
【0061】
実施例1~14の化粧材1では、表1に示すように、連続塗工時の不具合と耐傷性との両方が「○」もしくは「△」となった。実施例14の化粧材1の耐傷性が実施例8の化粧材1の耐傷性よりも低下した理由としては、第2の艶調整層6のウレタン系熱硬化樹脂の割合が25質量部を超えており、ウレタン系熱硬化樹脂の割合が多くなり、樹脂組成物の架橋度が低下し、第2の艶調整層6の耐傷性が低下したためと考えられる。
【0062】
一方、比較例1の化粧材1では、耐傷性は「○」となったが、連続塗工時の不具合が「×」となった。連続塗工時の不具合が「×」となった理由としては、第1の艶調整層5のウレタン系熱硬化樹脂の割合が少なすぎるため、第2の艶調整層6の積層時に第1の艶調整層5が溶解したり削られたりする等の不具合が発生しやすくなったためと考えられる。また、比較例2では、連続塗工時の不具合は「○」となったが、耐傷性が「×」となった。耐傷性が「×」となった理由としては、ウレタン系熱硬化樹脂の割合が多すぎるため、樹脂組成物の架橋度が低下し、第1の艶調整層5の耐傷性が低下したためと考えられる。
【0063】
以上の結果から、第1の艶調整層5を構成する樹脂成分であるウレタン系熱硬化樹脂の添加量を最適な範囲とした実施例1~14の化粧材1は、第2の艶調整層6の積層時に発生する不具合を抑制しつつ優れた耐傷性を有する化粧材1となることが明らかとなった。
なお、本発明の化粧材1は、上記の実施形態および実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…化粧材、2…基材、3…下地ベタインキ層、4…柄インキ層、5…第1の艶調整層、6…第2の艶調整層