(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】モータ駆動装置、および電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20220517BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220517BHJP
【FI】
H02P27/06
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2018565996
(86)(22)【出願日】2017-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2017047189
(87)【国際公開番号】W WO2018142829
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017016245
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017097570
(32)【優先日】2017-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 知幸
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-198202(JP,A)
【文献】特開2013-183462(JP,A)
【文献】特開2015-33273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するモータ駆動装置であって、
外部電源から供給された電流を前記モータに供給するインバータ回路と、
前記外部電源と前記インバータ回路との間の電流供給経路を導通状態と遮断状態とに切り替えるスイッチング回路と、
前記スイッチング回路に切り替え動作を指令する電圧を出力するスイッチング駆動部と、を有し、
前記スイッチング回路は、
前記外部電源の側から順に、互いのソースで直列接続されている第1の電界効果トランジスタおよび第2の電界効果トランジスタ
と、
前記外部電源の側にチョークコイルと、を有し、
前記スイッチング駆動部は、
前記第1の電界効果トランジスタのドレインと前記第2の電界効果トランジスタのドレインとの間の電位差が所定の閾値を超える場合に前記電流供給経路を導通状態から遮断状態への切り替えを指令する遮断指令電圧を出力する出力回路と、
前記遮断指令電圧が前記第1の電界効果トランジスタのゲートに入力される第1のタイミングを前記第2の電界効果トランジスタのゲートに前記遮断指令電圧が入力される第2のタイミングよりも遅らせる遅延回路と、を含む、ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記遅延回路は、前記出力回路の出力側に配置され、前記第1の電界効果トランジスタの前記ゲートと、前記第2の電界効果トランジスタの前記ゲートと、に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記遅延回路は、前記出力回路の入力側に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記遅延回路は、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間の時間差の大きさを決定する遅延時間決定部と、前記時間差を発生させる遅延発生部と、を有することを特徴とする請求項1
または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記遅延発生部は、npn型トランジスタおよびpnp型トランジスタを有し、前記遅延時間決定部は、
第1の抵抗およびコンデンサを有することを特徴とする請求項4に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記npn型トランジスタのコレクタは、前記第2の電界効果トランジスタの前記ゲートおよび前記スイッチング駆動部の出力側と接続され、
前記pnp型トランジスタのコレクタはグランドに接続され、
前記npn型トランジスタのエミッタおよび前記pnp型トランジスタのエミッタは、前記第1の電界効果トランジスタの前記ゲートに接続され、
前記pnp型トランジスタのベースと前記npn型トランジスタのベースとの間に前記
第1の抵抗が配置され、
前記pnp型トランジスタの前記ベースと前記
第1の抵抗との間にグランドに接続されている前記コンデンサが配置されている、ことを特徴とする請求項5に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記pnp型トランジスタの前記エミッタと前記第1の電界効果トランジスタの前記ゲートとの間に
第2の抵抗が配置され、
前記pnp型トランジスタの前記エミッタにグランドと接続されている
第3の抵抗が接続されている、ことを特徴とする請求項6に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記電位差は、前記スイッチング駆動部が計測することを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載のモータ駆動装置により駆動されるモータを備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置、および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置等に使用されるモータを駆動するモータ駆動装置として、インバータ回路と電源間の電流供給経路を導通状態と遮断状態とに切り替えるスイッチング回路を備えるモータ駆動装置が知られている。インバータ回路と電源間の電流供給経路に流れる電流の電流値が所定の閾値を超えた場合、スイッチング回路は、インバータ回路と電源間の電流供給経路を遮断状態に切り替える。
【0003】
導通状態から遮断状態への切り替え時において、例えば、スイッチング回路に含まれるノイズ対策のチョークコイルのインダクタンスの影響によりサージ電圧が発生する。サージ電圧の大きさによっては、スイッチング回路に含まれる電界効果トランジスタ等のスイッチング素子の最大定格をサージ電圧が超えて、スイッチング素子が破損することが起こり得る。これは、電動パワーステアリング装置の誤動作につながりうる。
【0004】
特許文献1は、モータへの給電ラインが通電中でない場合に直列接続された2つの非常用スイッチ素子をターンオフすることで非常用スイッチ素子の破損を防止するモータ駆動装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、直列接続された2つの非常用スイッチを同時にターンオフした場合に、サージ電圧が発生して、いずれか一方が破損する場合もある。上記特許文献1において、2つの非常用スイッチのターンオフの順番に関する記載はみられない。
【0007】
本発明は、例えば、スイッチング素子の動作の安全性の点で有利なモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の例示的な第1発明は、モータを駆動するモータ駆動装置であって、外部電源から供給された電流をモータに供給するインバータ回路と、外部電源とインバータ回路との間の電流供給経路を導通状態と遮断状態とに切り替えるスイッチング回路と、スイッチング回路に切り替え動作を指令する電圧を出力するスイッチング駆動部と、を有し、スイッチング回路は、外部電源側から順に、互いのソースで直列接続されている第1の電界効果トランジスタおよび第2 の電界効果トランジスタと、外部電源の側にチョークコイルと、を有し、スイッチング駆動部は、第1の電界効果トランジスタのドレインと第2の電界効果トランジスタのドレインとの間の電位差が所定の閾値を超える場合に電流供給経路を導通状態から遮断状態への切り替えを指令する遮断指令電圧を出力する出力回路と、遮断指令電圧が第1の電界効果トランジスタのゲートに入力される第1のタイミングを第2の電界効果トランジスタのゲートに遮断指令電圧が入力される第2のタイミングよりも遅らせる遅延回路と、を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願の例示的な第1発明によれば、スイッチング素子の動作の安全性の点で有利なモータ駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、モータ駆動装置を備えた電動パワーステアリング装置の概略図である。
【
図2】
図2は、モータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、制御部の各機能を示すブロック図である。
【
図5】
図5Aは、導通状態の電源ラインを示す図である。
図5Bは、電源ラインの遮断時に遅延が発生しはじめる様子を示す図である。
図5Cは、遅延が発生している様子を示す図である。
図5Dは、遅延が完了していく様子を示す図である。
図5Eは、遅延が完了した様子を示す図である。
【
図6】
図6は、変形例1に係る遅延回路の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、2つのモータを制御する場合のモータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、変形例2に係るモータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、変形例3に係る遅延回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
[実施形態]
【0012】
<電動パワーステアリング装置>
図1は、本実施形態に係るモータ駆動装置30を備えた電動パワーステアリング装置1の概略図である。電動パワーステアリング装置1は、自動車等の輸送機器において、運転者のハンドル操作を補助する装置である。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、トルクセンサ10、モータ20、およびモータ駆動装置30を有する。本実施形態では、モータ20およびモータ駆動装置30は、共通の筐体に内蔵される。モータ20をいわゆる機電一体型とすることで、例えば、装置を小型化することができる。
【0013】
トルクセンサ10は、ステアリングシャフト92に取り付けられている。運転者がステアリングホイール91を操作してステアリングシャフト92を回転させると、トルクセンサ10は、ステアリングシャフト92にかかるトルクを検出する。トルクセンサ10の検出信号であるトルク信号は、トルクセンサ10からモータ駆動装置30へ出力される。モータ駆動装置30は、トルクセンサ10から入力されるトルク信号に基づいて、モータ20を駆動させる。なお、モータ駆動装置30は、トルク信号だけではなく、他の情報(例えば車速など)を併せて参照してもよい。
【0014】
モータ駆動装置30は、外部電源40から得られる電力を利用して、モータ20に駆動電流を供給する。モータ20から生じる駆動力は、ギアボックス50を介して車輪93に伝達される。これにより、車輪93の舵角が変化する。このように、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングシャフト92のトルクを、モータ20により増幅させて、車輪93の舵角を変化させる。したがって、運転者は、軽い力でステアリングホイール91を操作することができる。
【0015】
<モータ駆動装置>
続いて、モータ駆動装置30の構成について説明する。
図2は、モータ駆動装置30の構成を示したブロック図である。
図2に示すように、このモータ駆動装置30は、制御部31と、電流検出部32と、スイッチング駆動部33と、第1のスイッチング回路34と、第2のスイッチング回路35と、インバータ駆動部36と、インバータ回路37と、を有する。なお、スイッチング駆動部33と、第1のスイッチング回路34および第2のスイッチング回路35との間には制限抵抗Rが配置されている。
【0016】
<モータ>
本実施形態では、モータ20として三相同期ブラシレスモータを用いる。モータ20は、U相20u、V相20vおよびW相20wの3相のコイルで構成される。モータ20の駆動時には、モータ駆動装置30からモータ20内のU相20u、V相20vおよびW相のそれぞれに電流が供給される。電流が供給されると、U相20u、V相20vおよびW相20wの3相のコイルを有する固定子と、マグネットを有する回転子との間に、回転磁界が発生する。その結果、モータ20の固定子に対して回転子が回転する。
【0017】
<制御部>
制御部31は、トルクセンサ10から出力されたトルク信号を受信する。制御部31は、例えば、CPU等の演算処理部、RAM等のメモリ、およびハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータが用いられる。ただし、コンピュータに代えて、マイクロコントローラ等の演算装置を有する電気回路が用いられていてもよい。
【0018】
図3は、制御部31の各機能を示すブロック図である。制御部31は、設定部311と、フィードバック制御部312と、スイッチング指令部313と、を有する。設定部311は、トルクセンサ10からのトルク信号に基づいて、モータ20を駆動する駆動信号を設定する。
【0019】
フィードバック制御部312は、電流検出部32により検出されたインバータ回路37に流れる電流の電流値が、設定部311が設定した駆動信号に対応する電流値に近くなる駆動信号を生成する。例えば、本実施形態では、生成された駆動信号は、パルス幅変調方式(PWM方式)のPWM駆動信号であり、デューティ比の情報を含む。フィードバック制御部312は、インバータ駆動部36にPWM駆動信号を出力する。
【0020】
スイッチング指令部313には、電流検出部32により検出されたインバータ回路37に流れる電流の電流値が入力される。また、スイッチング指令部313には、スイッチング駆動部33内の監視部332が出力回路331へ遮断指令をした旨を示す信号が入力される。さらに、監視部332による第1のスイッチング回路34に流れる過電流の有無のモニタ結果も入力される。なお、監視部332によるスイッチング指令部313へのモニタ結果の出力は必須ではない。
【0021】
スイッチング指令部313は、インバータ回路37に流れる電流の電流値が所定の閾値以下の場合、第1のスイッチング回路34および第2のスイッチング回路35に対して電流供給経路を導通状態とする導通指令電圧を出力回路331へ出力する。所定の閾値とは、インバータ回路37等に短絡が起きた場合にインバータ回路37と外部電源40との間に流れる過電流の電流値である。
【0022】
また、スイッチング指令部313は、インバータ回路37に流れる電流の電流値が所定の閾値を超えた場合、第1のスイッチング回路34および第2のスイッチング回路35に対して接続の遮断を指令する遮断指令電圧を出力回路331へ出力する。
【0023】
接続の遮断とは、外部電源40とインバータ回路37(以下、電源ラインという。)との間の電流供給経路を導通状態から遮断状態に切り替えること、およびインバータ回路37とモータ20との間の電流供給経路を導通状態から遮断状態に切り替えることを意味する。以上の各機能は、制御部31内のメモリに予め記憶されたプログラムに基づいて実現されうる。
【0024】
<電流検出部>
図2に戻り、電流検出部32は、インバータ回路37に含まれるシャント抵抗372に流れる電流を検出するための電気回路である。電流検出部32は、3つのシャント抵抗372の両端の電位差を計測することによって、各シャント抵抗372に流れる電流を示す検出信号を生成する。生成された検出信号は、電流検出部32から
図3に示した制御部31のフィードバック制御部312およびスイッチング指令部313へ送られる。
【0025】
<スイッチング駆動部>
スイッチング駆動部33は、出力回路331と、監視部332と、遅延回路333と、を有する。出力回路331は、入力された導通指令電圧または遮断指令電圧を必要に応じて昇圧して第1のスイッチング回路34および第2のスイッチング回路35に出力する。監視部332は、電源ラインに流れる過電流の有無をモニタしてモニタ結果を制御部31および出力回路331へ出力する。この構成の場合、監視部332により過電流が検出された時は、制御部31を介さずに、監視部332から出力回路331に遮断指示がなされる。遅延回路333は、入力された信号を出力するタイミングを遅らせる電気回路である。
【0026】
出力回路331に導通指令電圧が入力される場合、出力回路331は、第1のスイッチング回路34および第2のスイッチング回路35に含まれる電界効果トランジスタがONになる電圧まで、導通指令電圧を昇圧して、各スイッチング回路へ出力する。電界効果トランジスタがONになるとは、電界効果トランジスタのソースとドレイン間に電流が流れるという意味である。また、電界効果トランジスタがOFFになるとは、電界効果トランジスタのソースとドレイン間に電流が流れないという意味である。なお、出力回路331に遮断指令電圧が入力される場合は、出力回路331は、電界効果トランジスタのゲートとソースとの間の電位差を0Vとする遮断指令電圧を出力する。
【0027】
監視部332は、第1の電界効果トランジスタ341aのドレインと第2の電界効果トランジスタ341bのドレインとの間の電位差をモニタすることで電源ラインに流れる過電流をモニタする。電源ラインに過電流が流れるときのドレイン間電圧の電位差を閾値として、ドレイン間電圧が閾値を超えた場合、監視部332は、過電流を検出したと判断する。閾値以下の場合は、監視部332は、過電流が電源ラインに流れていないと判断する。
【0028】
監視部332は、過電流を検出したと判断した場合、過電流を検出した旨を示す信号をスイッチング指令部313に出力する。また、監視部332は、過電流を検出したと判断した場合、出力回路331に遮断指令を出力する。監視部332は、出力回路331に遮断指令を出力した旨を示す信号をスイッチング指令部313に出力する。出力回路331は、遮断指令に基づいて、第1のスイッチング回路34および第2のスイッチング回路35に対して接続の遮断を指令する遮断指令電圧を出力する。
【0029】
監視部332は、過電流が電源ラインに流れていないと判断した場合、過電流が電源ラインに流れていない旨を示す信号をスイッチング指令部313に出力する。出力回路331は、第1のスイッチング回路34および第2のスイッチング回路35に対して接続の導通を指令する導通指令電圧を出力する。
【0030】
スイッチング駆動部33内の監視部332により電源ラインを流れる過電流の有無のモニタおよび遮断指令が可能となるため、回路構成をコンパクトにすることができる。
【0031】
<遅延回路>
遅延回路333は、入力された信号を出力するタイミングを遅らせる電気回路である。遅延回路333に入力された信号が遅延回路333から出力されるまでの時間を遅延時間とする。本実施形態では、遅延時間はμ秒オーダーとする。遅延回路333は、第1のスイッチング回路34と出力回路331との間に配置されている。また、遅延回路333は、第1の電界効果トランジスタ341aのゲートおよび第2の電界効果トランジスタ341bのゲートと接続されている。
【0032】
出力回路331は、遮断指令電圧を第1のスイッチング回路34および第2のスイッチング回路35に出力する。遅延回路333は、遮断指令電圧が第1の電界効果トランジスタ341aのゲートに入力される第1のタイミングを第2の電界効果トランジスタ341bのゲートに遮断指令電圧が入力される第2のタイミングよりも遅らせる。
【0033】
遅延回路333を上記のように配置することで、電源ラインに過電流が検出された場合に、第1の電界効果トランジスタ341aおよび第2の電界効果トランジスタ341bをOFFにするタイミングをずらすことができる。すなわち、まず、第2の電界効果トランジスタ341bをOFFにして、次に、第1の電界効果トランジスタ341aをOFFにすることができる。
【0034】
OFFタイミングをずらすことで、電源ラインを遮断する前に、電源ラインに流れる過電流を第2の電界効果トランジスタ341bのボディダイオードに流して過電流を低減させることができる。これにより、電源ラインを遮断する時に発生するサージ電圧が第1の電界効果トランジスタ341aの最大定格を超えてしまうことを防止することができる。ここで、サージ電圧は、スパイク電圧または過電圧とも表現される。
【0035】
<スイッチング回路>
第1のスイッチング回路34は、電源ラインを導通状態と遮断状態とに切り替える電気回路である。第1のスイッチング回路34は、外部電源40の側から順に、互いのソースで直列接続される第1の電界効果トランジスタ341aおよび第2の電界効果トランジスタ341bを有する。また、第1のスイッチング回路34は、外部電源40の側にノイズ対策のチョークコイルLを有する。
【0036】
第2のスイッチング回路35は、インバータ回路37とモータ20との間の電流供給経路を導通状態と遮断状態とに切り替える電気回路である。第2のスイッチング回路35は、モータ20の相の数と同数の電界効果トランジスタ351を有する。また、電界効果トランジスタ351のそれぞれのドレインは、モータ20の各相と接続される。この接続の仕方によれば、インバータ回路37に短絡または断線による故障が起きた場合にインバータ回路37とモータ20の各相とを確実に遮断して、インバータ回路37の故障によるモータ20のロックを回避する事ができる。
【0037】
<インバータ駆動部>
インバータ駆動部36は、インバータ回路37を動作させるための電気回路である。本実施形態では、インバータ駆動部36は、
図3に示したフィードバック制御部312が出力したPWM駆動信号を、インバータ回路37に含まれる6つのスイッチング素子371に供給する。
【0038】
<インバータ回路>
インバータ回路37は、外部電源40から供給された電流をモータ20に供給する電気回路である。インバータ回路37に含まれる6つのスイッチング素子371としては、例えば、電界効果トランジスタなどのトランジスタが用いられる。本実施形態では、外部電源40とグラウンドとの間で直列に接続された1対のスイッチング素子371が、並列に3組設けられている。本実施形態では、電界効果トランジスタ341a、341b、351およびスイッチング素子371として金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を用いる。
【0039】
<遅延回路の構成例>
図4は、遅延回路333の構成例を示す図である。
図4に示す遅延回路333Aは、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の時間差、つまり、遅延時間の大きさを決定する遅延時間決定部381Aと、第1のタイミングを第2のタイミングよりも遅らせる遅延時間を発生させる遅延発生部382Aと、を有する。この構成により、回路設計時に遅延時間を予め設定し、設定した遅延時間で遅延を発生させることができる。
【0040】
遅延時間決定部381Aは、抵抗R1およびコンデンサC1を有する。また、遅延発生部382Aは、npn型トランジスタT1およびpnp型トランジスタT2を有する。遅延時間は、抵抗R1の抵抗値およびコンデンサC1の容量値に基づいて決定することができ、npn型トランジスタT1およびpnp型トランジスタT2により遅延を発生させることができる。
【0041】
図4に示す通り、npn型トランジスタT1のコレクタは、第2の電界効果トランジスタ341bのゲートおよび出力回路331の出力側と接続される。pnp型トランジスタT2のコレクタはグランドに接続され、npn型トランジスタT1のエミッタおよびpnp型トランジスタT2のエミッタは、第1の電界効果トランジスタ341aのゲートに接続される。pnp型トランジスタT2のベースとnpn型トランジスタT1のベースとの間には、抵抗R1が配置され、pnp型トランジスタT2のベースと抵抗R1との間には、コンデンサC1が配置されている。コンデンサC1はグランドに接続されている。以上の配置により、遅延時間を抵抗R1の抵抗値およびコンデンサC1の容量値に基づいて決定することができ、npn型トランジスタT1およびpnp型トランジスタT2により遅延を発生させることができる。
【0042】
図5A~
図5Eは、
図4に示す遅延回路333Aの動作を順に説明する図である。外部電源40の電圧を12Vとする。
図5Aは、導通状態の電源ラインを示す図である。第1の電界効果トランジスタ341aおよび第2の電界効果トランジスタ341bは、出力回路331からの導通指令電圧によりONになっている。本実施形態では、出力回路331から出力される導通指令電圧を20Vとする。遅延回路333Aの各素子については、npn型トランジスタT1がONになっている。また、コンデンサC1に電荷がチャージされ、pnp型トランジスタT2がOFFになっている。
【0043】
図5Bは、電源ラインの遮断時に遅延が発生しはじめる様子を示す図である。出力回路331からの遮断指令電圧が出力されると、第2の電界効果トランジスタ341bおよびnpn型トランジスタT1がOFFになる。本実施形態では、遮断指令電圧を0Vとする。第1の電界効果トランジスタ341aは、寄生容量の電荷が無くなるまでONが維持される。つまり、遅延が発生する。
【0044】
図5Cは、電源ラインの遮断時において遅延が発生している様子を示す図である。
図5Bの後、スイッチング駆動部33に向けてコンデンサC1にチャージされた電荷が徐々に抜けていく。このとき、コンデンサC1の容量値および抵抗R1の抵抗値が高いほど、電荷が抜けにくくなる。すなわち、コンデンサC1の容量値および抵抗値が高いほど遅延時間は大きくなる。
【0045】
図5Dは、電源ラインの遮断時において遅延が完了していく様子を示す図である。
図5Cの後、コンデンサC1にチャージされた電荷が抜けていくことでコンデンサC1の両端間の電圧も低下していく。これに伴い、pnp型トランジスタT2のベースとエミッタとの間の電位差が大きくなっていく。本実施形態では、pnp型トランジスタT2として、ベースとエミッタとの間の電位差が0.6V以上のときにONとなるトランジスタを用いる。したがって、コンデンサC1の両端間の電圧の低下に伴って、pnp型トランジスタT2のベースとエミッタとの間の電位差が0.6Vに達した時にpnp型トランジスタT2はONとなる。
【0046】
図5Eは、電源ラインの遮断時において遅延が完了した様子を示す図である。
図5Dの後、第1の電界効果トランジスタ341aの寄生容量の電荷がpnp型トランジスタT2に向けて抜けていく。第1の電界効果トランジスタ341aは、寄生容量の電荷が抜けきるとOFFになる。以上のようにして、遅延回路333Aは動作する。
[変形例1]
【0047】
図6は、遅延回路333の変形例を示す図である。
図6に示す遅延回路333Bは、pnp型トランジスタT2のエミッタと第1の電界効果トランジスタ341aのゲートとの間に抵抗R2が配置され、さらに、pnp型トランジスタT2のエミッタに抵抗R3が配置される。抵抗R3は、グランドと接続されている。遅延回路333Bは、遅延回路333Aよりも遅延時間を大きくすることができる。
【0048】
以上、本実施形態および本変形例によれば、電源ラインに配置されたスイッチング回路に含まれる電界効果トランジスタの動作の安全性の点で有利なモータ駆動装置を提供することができる。また、安全性が特に要求される電動パワーステアリング装置において、本実施形態および本変形例に係るモータ駆動装置を備えることで安全性の要求に応えうる。
[変形例2]
【0049】
上記実施形態および変形例では、制御部31が1つのモータを制御する場合について説明したが制御するモータの数は1つに限定されない。例えば、2つのモータを制御してもよい。
図7は、2つのモータを制御する場合のモータ駆動装置の構成を示したブロック図である。この場合、電動パワーステアリング装置1は、モータ20を2つ有する。
【0050】
図2における、電流検出部32、スイッチング駆動部33、第1のスイッチング回路34、第2のスイッチング回路35、インバータ駆動部36、インバータ回路37と、モータ20との組み合わせを第1系統601とする。
図7のモータ駆動装置60は、第1系統601に加え、第1系統601と同様の組み合わせをもつ第2系統602を有する。すなわち、第2系統602は、電流検出部62、スイッチング駆動部63、第1のスイッチング回路64、第2のスイッチング回路65、インバータ駆動部66、インバータ回路67と、モータ20と、を含む。スイッチング駆動部63は、出力回路631と、監視部632と、遅延回路633と、を有する。
【0051】
モータ駆動装置60は、第1制御部611および第2制御部612を含む制御部61を有する。第1制御部611は第1系統601の制御を行い、第2制御部612は第2系統602の制御を行う。いずれか一方が故障した場合は、他方の系統により電動パワーステアリング装置1の動作を継続することができる。2系統を含むモータ駆動装置を用いることで電動パワーステアリング装置の安全性を向上させることができる。なお、複数系統を含むモータ駆動装置を用いる場合は、各系統が互いに影響を及ぼさない設計をすることが必要となる。
[変形例3]
【0052】
上記実施形態では、制御部31側から見て、出力回路331と遅延回路333とが順に配置されていた。本変形例では、出力回路と遅延回路との順を入れ替える。すなわち、遅延回路を制御部31の出力側と出力回路の入力側との間に配置する。
【0053】
遅延回路を出力回路の入力側に配置することで、出力回路から遮断指令電圧が出力されるタイミングをずらすことができるため、第2の電界効果トランジスタ341bを先にOFFとし、つぎに第1の電界効果トランジスタ341aをOFFにすることができる。第2の電界効果トランジスタ341bを先にOFFとすることで、電源ラインに流れる過電流を第2の電界効果トランジスタ341bのボディダイオードに流してから、電源ラインを遮断することができる。したがって、電源ライン遮断時に発生するサージ電圧を抑制して第1の電界効果トランジスタ341aの故障を防止することができる。
【0054】
図8は、本変形例のモータ駆動装置80の構成を示したブロック図である。
図2で示した実施形態と同様の構成には同じ符号を付して説明は省略する。モータ駆動装置80は、スイッチング駆動部83を有する。
【0055】
スイッチング駆動部83は、出力回路831と、監視部832と、遅延回路833と、を有する。出力回路831は、第1出力回路831Aと、第2出力回路831Bと、第3出力回路831Cと、を有する。第1出力回路831Aは、第1の電界効果トランジスタ341aのゲートに導通指令電圧または遮断指令電圧を入力する。第2出力回路831Bは、第2の電界効果トランジスタ341bのゲートに導通指令電圧または遮断指令電圧を入力する。第3出力回路831Cは、電界効果トランジスタ351の各ゲートに導通指令電圧または遮断指令電圧を入力する。
【0056】
図9は、遅延回路833の構成例を示す図である。遅延回路833は、抵抗R9およびコンデンサC9を有する。遅延時間は、抵抗R9の抵抗値およびコンデンサC9の容量値に基づいて決定することができる。
【0057】
なお、上記の遅延回路333を抵抗のみで構成してもよい。遅延回路333が接続される第1の電界効果トランジスタ341aには、ゲートとソースとの間に寄生容量があるため、遅延回路333内のコンデンサ等を省略して、抵抗のみとしても、μ秒程度の遅延時間は確保される。
【0058】
一方、遅延回路833を抵抗のみで構成することも可能である。ただし、遅延回路833が接続される第1出力回路831Aに寄生容量をもつ素子が含まれないため、遅延回路333を抵抗のみとした場合ほどの遅延時間は確保されない。
【0059】
モータ20は、3相に限られない。また、上記のモータ駆動装置30、60または80を、パワーステアリング装置以外の装置に適用してもよい。例えば、上記のモータ駆動装置30、60または80によって、自動車等の輸送機器の他の部位に用いられるモータを駆動させてもよい。また、上記のモータ駆動装置30、60または80によって、産業用ロボットなどの自動車以外の機器に搭載されるモータを駆動させてもよい。
【0060】
また、監視部332または監視部632を設ける代わりに、制御部31が、第1の電界効果トランジスタ341aのドレインと第2の電界効果トランジスタ341bのドレインとの間の電位差をモニタすることで電源ラインに流れる過電流をモニタしてもよい。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
30 モータ駆動装置
31 制御部
32 電流検出部
33 スイッチング駆動部
331 出力回路
333 遅延回路
34 第1のスイッチング回路
35 第2のスイッチング回路
36 インバータ駆動部
37 インバータ回路