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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】アンモニアエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20220517BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20220517BHJP
   F02M 27/02 20060101ALI20220517BHJP
   F02B 43/10 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
F02M21/02 K
F02D19/02 C
F02M27/02 Z
F02M21/02 301A
F02B43/10 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019056392
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020159211
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀隆
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/090739(WO,A1)
【文献】特開2013-234079(JP,A)
【文献】実開昭54-180810(JP,U)
【文献】特開2002-356307(JP,A)
【文献】特開2007-22826(JP,A)
【文献】特開昭50-129818(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0253938(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/00 - 21/06
F02M 27/00
F02B 43/00
F02D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料のアンモニアを改質ガスに改質する改質器を備えるアンモニアエンジンであって、
前記アンモニアエンジンの吸入空気を流通させる吸気流路と、
前記改質器が設けられ、前記改質器に改質用空気を流通させると共に、前記改質器から前記吸気流路に前記改質ガスを流通させる改質流路と、
前記改質流路における前記改質器の上流側に設けられた改質器上流弁と、
前記改質流路における前記改質器上流弁と前記改質器との間に設けられ、前記改質流路に前記燃料を噴射する改質用燃料噴射弁と、
前記改質流路における前記改質器の下流側に設けられた改質器下流弁と、
前記アンモニアエンジンのスタータを作動させるための始動信号を出力する始動信号出力部と、
前記改質用燃料噴射弁による前記燃料の噴射量と前記始動信号とに基づいて、前記改質器上流弁と前記改質用燃料噴射弁と前記改質器下流弁とを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記始動信号が入力された場合に、前記改質器上流弁の開度を全閉とすると共に前記改質器下流弁の開度を所定の初期開度とする第1制御を実行し、
前記改質器上流弁の開度を全閉とした状態で、所定の燃料噴射パターンで前記改質用燃料噴射弁に前記燃料を噴射させる第2制御を実行し、
前記改質器上流弁の開度を全閉とした状態で、前記第2制御で噴射された前記燃料の噴射量と所定の置換推定容積量とに基づいて、前記第2制御で噴射された前記燃料によって前記改質器の残留ガスが置換される置換タイミングを算出し、遅くとも前記置換タイミングで前記改質器下流弁の開度が全閉に至るように前記改質器下流弁の開度を低減させる第3制御を実行する、アンモニアエンジン。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第2制御において、前記燃料噴射パターンとして連続的に前記燃料を噴射する第1燃料噴射パターンで前記改質用燃料噴射弁に前記燃料を噴射させ、
前記第3制御において、前記置換タイミングまで前記改質器下流弁の開度を前記初期開度に維持すると共に、前記置換タイミングで前記改質器下流弁の開度を全閉とするように前記改質器下流弁の開度を低減させる、請求項1記載のアンモニアエンジン。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第2制御において、前記燃料噴射パターンとして間欠的に前記燃料を噴射する第2燃料噴射パターンで前記改質用燃料噴射弁に前記燃料を噴射させ、
前記第3制御において、前記第2制御で噴射された前記燃料の噴射量の増加に応じて前記改質器下流弁の開度を漸減させる、請求項1記載のアンモニアエンジン。
【請求項4】
前記改質器は、前記燃料を改質するための改質触媒と、前記改質触媒の上流において前記改質触媒の流入面に沿って設けられた残留ガス混合抑制部材と、を有する、請求項1~3の何れか一項記載のアンモニアエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を改質ガスに改質する改質器を備えるアンモニアエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料を改質ガスに改質する改質器と、改質器が設けられる改質流路と、改質流路における改質器の下流側に設けられた改質器下流弁と、を備えるエンジンが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1記載のエンジンでは、エンジンの始動指令の出力後、触媒が活性し且つ改質器で改質ガスが生成可能であると判定されたときに、改質器下流弁が開放されて改質ガスが吸気流路に供給され、スタータが作動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-113421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アンモニアエンジンを始動する際、改質器が暖機される。改質器の暖機は、例えば酸化による劣化を抑制するため、還元雰囲気下で行われることが望まれる。還元雰囲気とするには、例えば燃料のアンモニアを用いて改質器の残留ガスを置換することが考えられる。しかしながら、この場合、改質流路を介して吸気流路に流出したアンモニアガスが、アンモニアエンジンの吸気流路又は排気流路を通って外部環境に漏れ出すおそれがある。
【0005】
本発明は、始動の際にアンモニアの漏洩を抑制しつつ還元雰囲気下で改質器の暖機を行うことが可能となるアンモニアエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るアンモニアエンジンは、燃料のアンモニアを改質ガスに改質する改質器を備えるアンモニアエンジンであって、アンモニアエンジンの吸入空気を流通させる吸気流路と、改質器が設けられ、改質器に改質用空気を流通させると共に、改質器から吸気流路に改質ガスを流通させる改質流路と、改質流路における改質器の上流側に設けられた改質器上流弁と、改質流路における改質器上流弁と改質器との間に設けられ、改質流路に燃料を噴射する改質用燃料噴射弁と、改質流路における改質器の下流側に設けられた改質器下流弁と、アンモニアエンジンのスタータを作動させるための始動信号を出力する始動信号出力部と、改質用燃料噴射弁による燃料の噴射量と始動信号とに基づいて、改質器上流弁と改質用燃料噴射弁と改質器下流弁とを制御する制御部と、を備え、制御部は、始動信号が入力された場合に、改質器上流弁の開度を全閉とすると共に改質器下流弁の開度を所定の初期開度とする第1制御を実行し、改質器上流弁の開度を全閉とした状態で、所定の燃料噴射パターンで改質用燃料噴射弁に燃料を噴射させる第2制御を実行し、改質器上流弁の開度を全閉とした状態で、第2制御で噴射された燃料の噴射量と所定の置換推定容積量とに基づいて、第2制御で噴射された燃料によって改質器の残留ガスが置換される置換タイミングを算出し、遅くとも置換タイミングで改質器下流弁の開度が全閉に至るように改質器下流弁の開度を低減させる第3制御を実行する。
【0007】
本発明の一態様に係るアンモニアエンジンでは、始動信号が入力された場合に改質器上流弁の開度が全閉とされ、改質器上流弁の開度が全閉とされた状態で、改質用燃料噴射弁に燃料を噴射させる第2制御が実行される。これにより、改質器上流弁を介して燃料のアンモニアが外部環境に漏れ出すことを抑制できる。また、改質器上流弁の開度が全閉とされた状態で、遅くとも置換タイミングで改質器下流弁の開度が全閉に至るように改質器下流弁の開度を低減させる第3制御が実行される。これにより、改質器下流弁を介して燃料のアンモニアが外部環境に漏れ出すことを抑制しつつ、改質用燃料噴射弁で噴射された燃料を用いて改質器の残留ガスの置換が図られる。その結果、改質器上流弁の開度が全閉で且つ改質器下流弁の開度が全閉となった状態で、改質用燃料噴射弁で噴射された燃料で還元雰囲気となった改質器が暖機される。したがって、本発明の一態様に係るアンモニアエンジンによれば、始動の際にアンモニアの漏洩を抑制しつつ還元雰囲気下で改質器の暖機を行うことが可能となる。
【0008】
本発明の一態様に係るアンモニアエンジンでは、制御部は、第2制御において、燃料噴射パターンとして連続的に燃料を噴射する第1燃料噴射パターンで改質用燃料噴射弁に燃料を噴射させ、第3制御において、置換タイミングまで改質器下流弁の開度を初期開度に維持すると共に、置換タイミングで改質器下流弁の開度を全閉とするように改質器下流弁の開度を低減させてもよい。この場合、改質用燃料噴射弁で噴射された燃料によって残留ガスの大部分が改質器から押し出された状態で、改質器下流弁の開度が全閉とされる。よって、より確実に改質器を還元雰囲気とすることができる。
【0009】
本発明の一態様に係るエンジンでは、制御部は、第2制御において、燃料噴射パターンとして間欠的に燃料を噴射する第2燃料噴射パターンで改質用燃料噴射弁に燃料を噴射させ、第3制御において、第2制御で噴射された燃料の噴射量の増加に応じて改質器下流弁の開度を漸減させてもよい。この場合、間欠的に燃料を噴射する第2燃料噴射パターンで燃料が噴射されるため、燃料が改質器の残留ガスと混じり合うことが抑えられ、より確実に改質器を還元雰囲気とすることができる。また、燃料の噴射量の増加に応じて改質器下流弁の開度を漸減させるため、改質器内の圧力が急激に高くなることが抑制され、圧力平衡により改質用燃料噴射弁から燃料が噴射できなくなるまでの時間を延ばすことができる。よって、圧力上昇によって改質用燃料噴射弁から燃料が噴射されにくくなることを抑制できる。
【0010】
本発明の一態様に係るアンモニアエンジンでは、改質器は、燃料を改質するための改質触媒と、改質触媒の上流において改質触媒の流入面を覆うように設けられた残留ガス混合抑制部材と、を有してもよい。この場合、改質用燃料噴射弁で噴射された燃料と改質器の残留ガスとが混じり合うことが、残留ガス混合抑制部材により物理的に抑制される。その結果、燃料が残留ガスを改質器から押し出す作用を好適に奏することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、始動の際にアンモニアの漏洩を抑制しつつ還元雰囲気下で改質器の暖機を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係るアンモニアエンジンの概略構成図である。
図2】残留ガス混合抑制部材の一例の平面図である。
図3図1のアンモニアエンジンの制御のための構成のブロック図である。
図4図1のアンモニアエンジンの動作例を示すタイミングチャートである。
図5図1のアンモニアエンジンの他の動作例を示すタイミングチャートである。
図6図3のECUの改質器暖機処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、一実施形態のエンジンの概略構成図である。図1に示されるように、本実施形態のアンモニアエンジン100は、ECU[Electronic Control Unit](制御部)10と、エンジン主要部20と、改質部30と、を備えている。アンモニアエンジン100は、アンモニア(NH)を含む混合気を燃焼させる内燃機関であり、例えば4サイクルレシプロエンジンとして構成されている。アンモニアエンジン100は、例えば荷役作業を行うフォークリフト等の産業車両に搭載される。アンモニアエンジン100は、その他、例えば乗用車、トラック、バス等の車両に搭載されていてもよい。
【0015】
エンジン主要部20は、エンジン本体21と、吸気流路22と、メインスロットル23と、メインインジェクタ24と、排気流路25と、三元触媒26と、アンモニア吸着触媒の一例としてのSCR[Selective Catalytic Reduction]27と、を有している。
【0016】
エンジン本体21は、混合気を燃焼させるためのアンモニアエンジン100の主要部であり、シリンダブロック、シリンダヘッド、及びピストン等で構成されている。エンジン本体21では、シリンダブロック、シリンダヘッド、及びピストンにより燃焼室が画成されている。シリンダヘッドには、例えば点火プラグが設けられている。エンジン本体21は、アンモニアエンジン100を始動させるためのスタータを有している。
【0017】
吸気流路22は、アンモニアエンジン100のエンジン本体21へ吸入空気を流通させる流路であり、例えば配管、サージタンク、インテークマニホールド、及び吸気ポート等が含まれる。吸気流路22の入口には、例えば、吸入する空気を濾過するエアクリーナ28が設けられている。
【0018】
メインスロットル23は、エアクリーナ28を介して吸入した空気の流量を調整する弁である。メインスロットル23は、吸気流路22におけるエアクリーナ28の下流側に設けられている。メインスロットル23は、例えば電子制御スロットルバルブである。メインスロットル23は、ECU10と電気的に接続されている。メインスロットル23の動作は、ECU10によって制御される。
【0019】
メインインジェクタ24は、吸気流路22に燃料を噴射する弁である。メインインジェクタ24は、吸気流路22におけるメインスロットル23の下流側に設けられている。メインインジェクタ24の個数は、1個でもよいし複数個であってもよい。メインインジェクタ24の個数が1個の場合、メインインジェクタ24は、例えばエンジン本体21の吸気ポートに設けられていてもよい。メインインジェクタ24の個数が複数個の場合、メインインジェクタ24は、例えばエンジン本体21のサージタンクに設けられていてもよい。メインインジェクタ24は、燃料として改質ガスを含まないアンモニアガスを噴射する。メインインジェクタ24は、ECU10と電気的に接続されている。メインインジェクタ24の動作は、ECU10によって制御される。なお、メインインジェクタ24は、吸気流路22におけるメインスロットル23の上流側に設けられていてもよい。あるいは、メインインジェクタ24に代えて、吸気流路22に設けられたミキサなどの燃料供給装置から燃料を供給するようにしてもよい。
【0020】
排気流路25は、アンモニアエンジン100のエンジン本体21からの排気を流通させる流路であり、例えば排気ポート、配管、後処理装置、及び消音器等が含まれる。三元触媒26及びアンモニア吸着触媒の一例としてのSCR27は、この順で排気流路25に設けられている。三元触媒26は、排気ガス中のHを酸化して浄化すると共に、排気ガス中のNOxを還元して浄化する触媒である。SCR27は、還元反応により排気ガス中に含まれるNOxを浄化する選択還元触媒である。SCR27は、アンモニアを吸着する他の材料(例えばゼオライト系)からなる触媒であってもよい。
【0021】
改質部30は、改質流路31と、改質用スロットル(改質器上流弁)32と、NHタンク33と、気化器34と、改質用インジェクタ(改質用燃料噴射弁)35と、改質器36と、クーラ37と、ストップバルブ(改質器下流弁)38と、を有している。
【0022】
改質流路31は、燃料を改質ガスに改質するための流路である。改質流路31は、例えば、吸気流路22におけるメインスロットル23の上流側とメインスロットル23の下流側とを結ぶように設けられている。改質流路31は、吸気流路22におけるメインスロットル23の上流側から改質器36に改質用空気を流通させると共に、吸気流路22におけるメインスロットル23の下流側に改質器36から改質ガスを流通させる。改質用空気とは、改質器36で燃料を改質ガスに改質するために用いられる空気である。改質流路31には、改質器36が設けられている。なお、改質流路31は、例えば、吸気流路22におけるメインスロットル23の上流側に接続されずに、専用のエアクリーナを介して吸入した外気を改質用空気として改質器36に流通可能に構成されていてもよい。
【0023】
改質用スロットル32は、改質用空気の流量を調整する弁である。改質用スロットル32は、改質流路31における改質器36の上流側に設けられている。改質用スロットル32は、例えば電子制御スロットルバルブである。改質用スロットル32は、ECU10と電気的に接続されている。改質用スロットル32の動作は、ECU10によって制御される。
【0024】
改質用スロットル32は、ECU10の制御により、全閉と全開との間で連続的又は段階的に開度を変更可能とされている。改質用スロットル32の全閉とは、改質用スロットル32に介してのガスの流通が不可能となる開度を意味する。改質用スロットル32の全閉は、改質用スロットル32の最小開度であってもよいし、改質用スロットル32に介してのガスの流通が実質的に不可能である範囲内の微小開度であってもよい。改質用スロットル32の全開とは、改質用スロットル32の開度が最も大きいことを意味する。
【0025】
NHタンク33は、燃料としてのアンモニアを貯蔵するタンクである。NHタンク33は、特に限定されないが、例えば一般的な鋼製のボンベを用いることができる。NHタンク33では、例えばアンモニアが液体の状態を維持できるように加圧されている。NHタンク33は、気化器34と接続されている。
【0026】
気化器34は、NHタンク33から導かれたアンモニアを気化させる。気化器34は、メインインジェクタ24及び改質用インジェクタ35と接続されている。気化したアンモニア(アンモニアガス)は、メインインジェクタ24及び改質用インジェクタ35のそれぞれに導かれる。気化器34とメインインジェクタ24及び改質用インジェクタ35との間には、アンモニアガスの圧力を規制するレギュレータが設けられていてもよい。
【0027】
改質用インジェクタ35は、改質流路31に改質用アンモニアガス(燃料)を噴射する燃料噴射弁である。改質用インジェクタ35は、改質流路31における改質器36の上流側に設けられている。改質用インジェクタ35は、改質流路31における改質用スロットル32と改質器36との間に設けられている。改質用インジェクタ35の個数は、例えば1個である。改質用インジェクタ35は、ECU10と電気的に接続されている。改質用インジェクタ35の動作は、ECU10によって制御される。
【0028】
改質器36は、改質用アンモニアガスを改質して改質ガスを生成する。ここでの改質器36は、改質用アンモニアガスを水素ガス(H)を含む改質ガスに改質する。改質器36は、改質器ヒータ36aと、改質用アンモニアガスを改質するための改質触媒36bと、有孔板部材(残留ガス混合抑制部材)36cと、を有している。改質器36は、例えば入口及び出口が縮径された外形略円筒状のケースを有しており、改質器ヒータ36a、改質触媒36b、及び有孔板部材36cは、ケースの軸方向に沿って並ぶようにケース内に配置されている。改質器36のケースの入口では、ケースの軸方向に沿って見たとき(以下、ケース断面視ともいう)ケースの断面略中央に改質流路31が接続されている。なお、有孔板部材36cは、必ずしも設けられていなくてもよい。改質器ヒータ36aと有孔板部材36cの順番は、逆でもよい。
【0029】
改質器ヒータ36aは、改質触媒36bの上流側に設けられ、改質触媒36bの暖機のために用いられる。改質器ヒータ36aは、例えば略渦巻状の電気ヒータである。改質器ヒータ36aの流入面は、改質触媒36bの流入面に沿って延びている。流入面とは、改質流路31のガス流れ方向上流側に臨む面である。改質器ヒータ36aの流出面は、改質触媒36bの流出面に沿って延びている。流出面とは、改質流路31のガス流れ方向下流側に臨む面である。改質器ヒータ36aは、ECU10と電気的に接続されている。改質器ヒータ36aの動作は、ECU10によって制御される。なお、改質器ヒータ36aは、小型燃焼器であってもよい。
【0030】
改質触媒36bは、改質用インジェクタ35で噴射された改質用アンモニアガスを改質用空気を用いて改質する。ここでの改質触媒36bは、ATR[Autothermal Reformer]式アンモニア改質触媒である。改質触媒36bは、改質器ヒータ36aの熱又は改質触媒36bでの反応熱を利用して、改質用アンモニアガスを改質用空気を用いて熱解離させることで、水素ガスとアンモニアガスとを含む改質ガスを生成する。ここでの改質触媒36bは、例えば酸化による劣化を抑制するため、主に還元雰囲気(つまりNHリッチ状態の雰囲気)で用いられる。なお、改質触媒36bに低温反応触媒を採用してもよい。
【0031】
有孔板部材36cは、改質触媒36bの上流において改質触媒36bの流入面に沿って設けられている。有孔板部材36cは、例えば、改質器ヒータ36aの上流側に設けられた板状部材である。有孔板部材36cは、改質器ヒータ36aの流入面の略全体を覆うように配置されている。
【0032】
図2は、有孔板部材36cの平面図である。図2は、ケースの軸方向に沿って見たときの(ケース断面視での)有孔板部材36cの流入面を示している。なお、図2では、便宜上、有孔板部材36cのみを図示している。
【0033】
図2に示されるように、有孔板部材36cの外形は、例えば略円盤状であり、複数の貫通孔H1,H2,H3,H4が形成されている。貫通孔H1,H2,H3,H4は、改質器36内における有孔板部材36cの上流側の空間と下流側の空間とを連通させるためのガス流通孔である。
【0034】
貫通孔H1,H2,H3,H4の総開口面積は、例えば、改質用インジェクタ35で噴射される改質用アンモニアガスの噴射量に応じて設定されている。貫通孔H1,H2,H3,H4では、改質器ヒータ36a及び改質触媒36bの流入面に改質用アンモニアガスを均一に流入させられる貫通孔の開口面積の分布となるように、例えば貫通孔の直径の大小及び貫通孔の数の多寡のうち少なくとも一方が調整されている。
【0035】
例えば、有孔板部材36cでは、貫通孔H1の直径は、貫通孔H2の直径よりも小さい。貫通孔H2の直径は、貫通孔H3の直径よりも小さい。貫通孔H3の直径は、貫通孔H4の直径よりも小さい。つまり、貫通孔H1は、貫通孔H1,H2,H3,H4のうちで最も小さい直径を有する。貫通孔H4は、貫通孔H1,H2,H3,H4のうちで最も大きい直径を有する。
【0036】
例えば、有孔板部材36cでは、貫通孔H2の数は、貫通孔H1の数よりも多い。貫通孔H3の数は、貫通孔H2の数よりも多い。貫通孔H4の数は、貫通孔H3の数よりも多い。
【0037】
また、貫通孔H1,H2,H3,H4は、改質器ヒータ36a及び改質触媒36bの流入面に改質用アンモニアガスを均一に流入させられる貫通孔の開口面積の分布となるように配置されている。
【0038】
例えば、貫通孔H1,H2,H3,H4は、有孔板部材36cの円形部分において半径方向について略放射状を呈するように配置されている。貫通孔H1,H2,H3,H4のそれぞれは、有孔板部材36cの円形部分において、互いに同じ直径の貫通孔が中心から同一半径の円周上に並ぶように配置されている。貫通孔H1は、有孔板部材36cの円形部分における中央部の領域に設けられている。貫通孔H2は、有孔板部材36cの円形部分における貫通孔H1が設けられた領域を囲む領域に設けられている。貫通孔H3は、有孔板部材36cの円形部分における貫通孔H2が設けられた領域を囲む領域に設けられている。貫通孔H4は、有孔板部材36cの円形部分における貫通孔H3が設けられた領域を囲む円形部分の外縁部の領域に設けられている。
【0039】
ここで、改質器36の入口に対した改質流路31が上述のような位置関係で接続されていることから、改質流路31から改質器36に流入した改質用アンモニアガスは、改質器36のケースの入口側において、ケースの断面略中央寄りほど高密度となるような流入分布で改質器36に流入する。有孔板部材36cでは、上述のような貫通孔H1,H2,H3,H4により、有孔板部材36cの円形部分における中央部よりも外縁部の方が、流入した改質用アンモニアガスが流通し易い。したがって、上述のような流入分布で改質器36に流入した改質用アンモニアガスは、有孔板部材36cの貫通孔H1,H2,H3,H4を通り抜けることによって、ケース断面視において均等化される。したがって、有孔板部材36cにより、改質器ヒータ36a及び改質触媒36bへの改質用アンモニアガスの流れが平行流に近づけられる。
【0040】
また、有孔板部材36cにより改質器36内における有孔板部材36cの上流側の空間と下流側の空間とが一定程度で区画されていることから、改質用アンモニアガスと改質器の残留ガスとが混じり合うことが物理的に抑制される。例えば改質用インジェクタ35で改質用アンモニアガスが噴射された際、噴射の勢いで改質用アンモニアガスと改質器の残留ガスとが直接的に混じり合うことが抑えられる。更に、改質用インジェクタ35で改質用アンモニアガスが噴射された際、有孔板部材36cの上流側の空間の圧力が下流側の空間と比べて高まるため、上流側の空間から下流側の空間へ貫通孔H1,H2,H3,H4を介して改質用アンモニアガスが一方的に流動し易くなる。したがって、下流側の空間において改質用アンモニアガスが残留ガスを下流側に向かって平面的に押し出すこととなる。
【0041】
クーラ37は、改質流路31における改質器36の下流側に設けられている。クーラ37は、改質器36からの改質ガスを冷却する。クーラ37としては、例えば、アンモニアエンジン100の冷却水又は車両の走行風を低温熱源として用いた熱交換器を用いることができる。
【0042】
ストップバルブ38は、改質流路31における改質器36の下流側に設けられている。ここでのストップバルブ38は、例えば、クーラ37と吸気流路22との間に設けられた電磁弁である。ストップバルブ38は、改質流路31から吸気流路22に流通するガスの流量を調整する。ストップバルブ38は、ECU10と電気的に接続されている。ストップバルブ38の動作は、ECU10によって制御される。
【0043】
ストップバルブ38は、ECU10の制御により、全閉と全開との間で連続的又は段階的に開度を変更可能とされている。ストップバルブ38の全閉とは、ストップバルブ38に介してのガスの流通が不可能となる開度を意味する。ストップバルブ38の全閉は、ストップバルブ38の最小開度であってもよいし、ストップバルブ38に介してのガスの流通が実質的に不可能である範囲内の微小開度であってもよい。ストップバルブ38の全開とは、ストップバルブ38の開度が最も大きいことを意味する。
【0044】
図3は、図1のアンモニアエンジンの制御のための構成のブロック図である。図3に示されるように、ECU10は、キースイッチ(始動信号出力部)1と電気的に接続されている。
【0045】
ECU10は、アンモニアエンジン100を制御する電子制御ユニットである。ECU10は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、通信回路等を有しているコントローラである。ECU10では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU10は、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0046】
キースイッチ1は、アンモニアエンジン100を始動させるための始動信号を出力するスイッチである。キースイッチ1は、例えば、その操作によりエンジン本体21のスタータを作動させるためのイグニッションスイッチである。キースイッチ1は、キーが挿し込まれると共に回転されることで、操作される。キースイッチ1は、内部に物理的な接点を含むキーシリンダを有する。キーシリンダは、キースイッチ1の操作位置に応じて複数のスイッチ状態が切り替えられる。スイッチ状態としては、OFF,ON(キースイッチオン)及びST(スタータスイッチオン)が挙げられる。キースイッチ1は、スイッチ状態に関する信号をECU10に出力する。なお、キースイッチ1に代えて、アンモニアエンジン100を始動させるための始動信号を出力するボタンを用いてもよい。
【0047】
キースイッチ1は、例えば、スイッチ状態がOFFの場合に車両側の運転用回路を開状態に切り替えることで、ECU10にOFF信号を出力する。キースイッチ1は、例えば、スイッチ状態がONの場合に車両側の運転用回路を閉状態に切り替えることで、ECU10にON信号を出力する。キースイッチ1は、例えば、スイッチ状態がSTの場合に車両側の始動用回路を閉状態に切り替えることで、ECU10にST信号(始動信号)を出力する。なお、キースイッチ1は、車両の運転者による操作に応じて上記各信号を出力する電子回路を用いて構成されていてもよい。
【0048】
次に、ECU10の機能的構成について説明する。ECU10は、エンジン状態取得部11と、第1制御実行部12と、第2制御実行部13と、第3制御実行部14と、始動許可部15と、を有している。
【0049】
エンジン状態取得部11は、アンモニアエンジン100の状態であるエンジン状態を取得する。エンジン状態取得部11は、キースイッチ1からのスイッチ状態に関する信号に基づいて、上述のキースイッチ1のスイッチ状態を取得する。エンジン状態取得部11は、始動信号が入力された場合に、例えば、アンモニアエンジン100が始動準備状態であると判定する。始動準備状態は、アンモニアエンジン100を始動するための準備を行う状態である。始動準備状態では、始動信号が入力された以降において改質触媒36bが還元雰囲気とされると共に改質触媒36bの暖機が行われる。改質触媒36bの暖機が完了すると、始動準備状態が終了してスタータが作動される。なお、スタータの作動は、始動準備状態が終了する前に開始されてもよい。
【0050】
第1制御実行部12は、エンジン状態取得部11により始動準備状態であると判定された場合、改質器ヒータ36aに通電する。これにより、改質器ヒータ36aの温度が上昇する。改質器ヒータ36aの熱は、後述の第2制御において改質用インジェクタ35によって改質用アンモニアガスが噴射された際、改質用アンモニアガスの下流側への流動によって改質触媒36bに伝達される。
【0051】
第1制御実行部12は、エンジン状態取得部11により始動準備状態であると判定された場合、改質用スロットル32の開度を全閉とすると共にストップバルブ38の開度を所定の初期開度とする第1制御を実行する。第1制御実行部12は、エンジン状態取得部11により始動準備状態であると判定された場合、例えば改質器ヒータ36aに通電した状態で、第1制御を実行する。
【0052】
ストップバルブ38の初期開度は、後述の第3制御におけるストップバルブ38の開度の初期値である。初期開度は、ストップバルブ38の全閉よりも大きい開度である。初期開度は、例えば、始動準備状態となる前から改質器36内に残留しているガス(残留ガス)を改質器36外に流出させられる程度の開度とすることができる。初期開度は、予めECU10に記憶されていてもよい。
【0053】
第2制御実行部13は、改質用スロットル32の開度を全閉とした状態で、第2制御を実行する。第2制御は、所定の燃料噴射パターンで改質用インジェクタ35に改質用アンモニアガスを噴射させる制御である。燃料噴射パターンは、改質用インジェクタ35の開弁時間を時系列で規定したパターンとすることができる。燃料噴射パターンは、始動信号が入力された時点からの時系列として規定されてもよい。第2制御実行部13は、例えば、上述の第1制御の後に改質用スロットル32の開度を全閉とした状態で維持すると共に、第2制御を実行する。第2制御の具体例については、後述する。
【0054】
第3制御実行部14は、改質用スロットル32の開度を全閉とした状態で、第3制御を実行する。第3制御は、遅くとも置換タイミングでストップバルブ38の開度が全閉に至るようにストップバルブ38の開度を低減させる制御である。
【0055】
置換タイミングは、第2制御で噴射された改質用アンモニアガスによって改質器36の残留ガスが置換されるタイミングである。「改質用アンモニアガスによって改質器36の残留ガスが置換される」とは、改質触媒36bが改質用アンモニアガスで還元雰囲気となることを意味する。置換タイミングは、例えば、改質用アンモニアガスによって改質器36の残留ガスが完全に置換されたと推定される時点であってもよいし、改質用アンモニアガスによって改質器36の残留ガスが所定割合で置換されたと推定される時点であってもよい。
【0056】
第3制御実行部14は、第2制御で噴射された改質用アンモニアガスの噴射量の時間積算値と置換推定容積量とに基づいて、置換タイミングを算出する。置換推定容積量は、改質用アンモニアガスによって改質器36の残留ガスが置換されたか否かを推定するための容積の閾値である。置換推定容積量は、少なくとも改質用スロットル32からストップバルブ38までの容積値であればよい。置換推定容積量は、例えば、改質用スロットル32からストップバルブ38までの改質流路31及び改質器36の容積値とすることができる。
【0057】
ここでの改質用アンモニアガスの噴射量は、改質用アンモニアガスによって改質器36外に残留ガスを押し出すための改質用アンモニアガスの噴射量(始動用改質用アンモニアガス噴射量)を意味する。改質用アンモニアガスの噴射量は、例えば、改質用インジェクタ35の噴射圧(例えばNHタンク33の吐出圧、又は、レギュレータの規制圧)と改質用アンモニアガスの噴射時間とに基づいて算出することができる。
【0058】
第3制御実行部14は、例えば、上述の第1制御の後に改質用スロットル32の開度を全閉とした状態で維持すると共に、第2制御を実行しつつ、第2制御で噴射された改質用アンモニアガスの噴射量に基づいて第3制御を実行する。
【0059】
第2制御及び第3制御の具体例について、図4及び図5を参照して説明する。
【0060】
一例として、図4は、図1のアンモニアエンジンの動作例を示すタイミングチャートである。図4(a)には、第1燃料噴射パターンに対応するように改質用インジェクタ35で噴射された改質用アンモニアガスの噴射圧の経時的推移が示されている。噴射圧がP1となっている期間が、改質用インジェクタ35の開弁期間を意味する。図4(b)には、ガス置換量の経時的推移が示されている。図4(c)には、ストップバルブ38の開度の経時的推移が示されている。
【0061】
図4(a)~図4(c)に示されるように、時刻t1において始動信号が入力されてエンジン状態取得部11により始動準備状態が判定される。時刻t1において、第1制御実行部12により、改質器ヒータ36aの通電が開始される。時刻t1において、第1制御実行部12により、第1制御が実行される。具体的には、第1制御実行部12により、改質用スロットル32の開度が全閉とされる(図示省略)と共に、ストップバルブ38の開度が初期開度S1とされる。ここでは、ストップバルブ38の開度が初期開度S1とされる。ストップバルブ38の開度は、図4(c)の例のように時刻t1よりも前から予め初期開度S1とされていてもよい。その後、第2制御実行部13及び第3制御実行部14により、改質用スロットル32の開度を全閉とした状態が維持されると共に、第2制御及び第3制御が実行される。
【0062】
図4(a)に示されるように、時刻t2(例えば改質器ヒータ36aの通電時間が所定時間となったとき)において、第2制御実行部13により、改質用インジェクタ35からの改質用アンモニアガスの噴射が開始される。時刻t2以降において、第2制御実行部13により、所定の噴射圧P1での改質用インジェクタ35の開弁が維持され、改質用アンモニアガスが連続的に噴射される。つまり、第2制御実行部13は、第2制御において、連続的に改質用アンモニアガスを噴射する第1燃料噴射パターンで改質用インジェクタ35に改質用アンモニアガスを噴射させる。
【0063】
図4(b)に示されるように、時刻t2において、第3制御実行部14により、改質用インジェクタ35の噴射圧と改質用アンモニアガスの噴射時間(時刻t2からの経過時間)とに基づいて、改質用アンモニアガスの噴射量の算出及びガス置換量の算出が開始される。ガス置換量は、改質用インジェクタ35で噴射された改質用アンモニアガスの噴射量の時間積算値である。時刻t2からの時間経過に伴って、第3制御実行部14により算出されたガス置換量が増加する。時刻t3において、第3制御実行部14により算出されたガス置換量が置換推定容積量Thに達する。すなわち、時刻t3は置換タイミングである。
【0064】
図4(c)に示されるように、時刻t3において、第3制御実行部14により、ストップバルブ38の開度が全閉とされる。つまり、第3制御実行部14は、第3制御において、置換タイミングまでストップバルブ38の開度を初期開度に維持すると共に、置換タイミングでストップバルブ38の開度を全閉とするようにストップバルブ38の開度を低減させる。
【0065】
図4(c)の例では、時刻t3において、第3制御で低減されたストップバルブ38の開度が全閉に至る。すなわち、図4(c)の第3制御では、遅くとも置換タイミングでストップバルブ38の開度が全閉に至るようにストップバルブ38の開度が低減される。
【0066】
以上説明した図4(a)~図4(c)の例では、第1制御により、改質用スロットル32の開度が全閉とされるため、第2制御において改質用インジェクタ35によって噴射された改質用アンモニアガスが、改質用スロットル32を介して流通(逆流)することを阻止できる。第1制御により、ストップバルブ38の開度が初期開度S1とされると共に、第2制御により、連続的に改質用アンモニアガスが噴射されるため、改質用アンモニアガスによって改質器36外に残留ガスが押し出される。また、第3制御により、置換タイミングでストップバルブ38の開度が全閉とされるため、改質用スロットル32の開度が全閉で且つストップバルブ38の開度が全閉となった状態で、改質用インジェクタ35で噴射された燃料で還元雰囲気となった改質器36が暖機される。
【0067】
他の例として、図5は、図1のアンモニアエンジンの他の動作例を示すタイミングチャートである。図5(a)には、第2燃料噴射パターンに対応するように改質用インジェクタ35で噴射された改質用アンモニアガスの噴射圧の経時的推移が示されている。噴射圧がP1となっている期間が、改質用インジェクタ35の開弁期間を意味する。図5(b)には、ガス置換量の経時的推移が示されている。図5(c)には、ストップバルブ38の開度の経時的推移が示されている。
【0068】
図5(a)~図5(c)に示されるように、時刻t4において始動信号が入力されてエンジン状態取得部11により始動準備状態が判定される。時刻t4において、図4の例と同様、第1制御実行部12により、改質器ヒータ36aの通電が開始されると共に、第1制御が実行される。その後、第2制御実行部13及び第3制御実行部14により、改質用スロットル32の開度を全閉とした状態が維持されると共に、第2制御及び第3制御が実行される。
【0069】
図5(a)に示されるように、時刻t5(例えば改質器ヒータ36aの通電時間が所定時間となったとき)において、第2制御実行部13により、改質用インジェクタ35からの改質用アンモニアガスの噴射が開始される。時刻t5以降において、第2制御実行部13により、所定の噴射圧P1で改質用インジェクタ35が開弁され、改質用アンモニアガスが間欠的に噴射される。より詳しくは、時刻t5~時刻t6(以下、第1開弁時間)、時刻t7~時刻t8(以下、第2開弁時間)、時刻t9~時刻t10(以下、第3開弁時間)、及び時刻t11~時刻t12(以下、第4開弁時間)において、改質用インジェクタ35が開弁される。つまり、第2制御実行部13は、第2制御として、間欠的に改質用アンモニアガスを噴射する第2燃料噴射パターンで改質用インジェクタ35に改質用アンモニアガスを噴射させる。
【0070】
図5(b)に示されるように、時刻t5において、第3制御実行部14により、改質用インジェクタ35の噴射圧と改質用アンモニアガスの噴射時間とに基づいて、改質用アンモニアガスの噴射量の算出及びガス置換量の算出が開始される。より詳しくは、時刻t5~時刻t7において、第3制御実行部14により、上記第1開弁時間で噴射した改質用アンモニアガスの噴射量に相当するガス置換量が算出され、ガス置換量G1に達する。時刻t7~時刻t9において、第3制御実行部14により、上記第1及び第2開弁時間で噴射した改質用アンモニアガスの噴射量に相当するガス置換量が算出され、ガス置換量G2に達する。時刻t9~時刻t11において、第3制御実行部14により、上記第1~第3開弁時間で噴射した改質用アンモニアガスの噴射量に相当するガス置換量が算出され、ガス置換量G3に達する。時刻t11~時刻t13において、第3制御実行部14により、上記第1~第4開弁時間で噴射した改質用アンモニアガスの噴射量に相当するガス置換量が算出され、置換推定容積量Thに達する。すなわち、時刻t13は置換タイミングである。
【0071】
図5(c)に示されるように、時刻t5において、第3制御実行部14により、改質用アンモニアガスの噴射量に応じたストップバルブ38の開度の低減が開始される。より詳しくは、時刻t5~時刻t7において、第3制御実行部14により、上記第1開弁時間に応じて設定される第1低減勾配に従って、ストップバルブ38の開度が初期開度S1から開度S2まで低減される。時刻t7~時刻t9において、第3制御実行部14により、上記第2開弁時間に応じて設定される第2低減勾配に従って、ストップバルブ38の開度が開度S2から開度S3まで低減される。時刻t9~時刻t11において、第3制御実行部14により、上記第3開弁時間に応じて設定される第3低減勾配に従って、ストップバルブ38の開度が開度S3から低減される。時刻t11~時刻t12において、第3制御実行部14により、上記第4開弁時間に応じて設定される第4低減勾配(ここでは第3低減勾配と等しい)に従って、ストップバルブ38の開度が引き続いて全閉開度まで低減される。つまり、第3制御実行部14は、第3制御として、第2制御で噴射された改質用アンモニアガスの噴射量の増加に応じてストップバルブ38の開度を漸減させる。
【0072】
図5(c)の例では、時刻t12において、第3制御で低減されたストップバルブ38の開度が全閉に至る。すなわち、図5(c)の第3制御では、置換タイミングよりも早いタイミングでストップバルブ38の開度が全閉に至るようにストップバルブ38の開度が低減される。
【0073】
以上説明した図5(a)~図5(c)の例では、第1制御により、改質用スロットル32の開度が全閉とされるため、第2制御において改質用インジェクタ35によって噴射された改質用アンモニアガスが、改質用スロットル32を介して流通(逆流)することを阻止できる。第1制御により、ストップバルブ38の開度が初期開度S1とされると共に、第2制御により、間欠的に改質用アンモニアガスが噴射されるため、改質用アンモニアガスによって改質器36外に残留ガスが徐々に押し出される。特に、第2開弁時間は第1開弁時間よりも長く、第3開弁時間は第2開弁時間よりも長く、第4開弁時間は第3開弁時間よりも長くされるため、始動準備状態の初期では改質用アンモニアガスのガス流動が弱められて、改質用アンモニアガスと残留ガスとの混合が抑制される。なお、開弁時間を徐々に長くするのではなく、同じ時間で開弁したり任意の時間で開弁するようにしてもよい。例えば、開弁時間が一定であってもよいし、上述の例とは反対の大小関係でもよいし、大小関係が不規則であってもよい。また、開弁回数は、2回以上であれば任意の回数としてもよい。また、連続的に燃料を噴射しつつ噴射圧を変化させる燃料噴射パターンとしてもよい。
【0074】
また、第3制御により、改質用アンモニアガスの噴射量の増加に応じてストップバルブ38の開度が漸減されるため、改質器36内の圧力が急激に高くなることが抑制され、圧力平衡により改質用インジェクタ35から改質用アンモニアガスが噴射できなくなるまでの時間を延ばすことができる。特に、第2低減勾配の大きさは第1低減勾配の大きさよりも小さく、第3低減勾配の大きさは第2低減勾配の大きさよりも小さく、第4低減勾配の大きさは第3低減勾配の大きさよりも小さいため、始動準備状態の初期でストップバルブ38の開度が迅速に低減されると共に、始動準備状態の後期でストップバルブ38の開度が全閉に近い状態で徐々に低減される。これにより、始動準備状態の初期で改質用アンモニアガスが一気に吸気流路22側へ流出してしまうことが抑制されつつ改質器36内の圧力の増加が緩やかにされる。その結果、始動準備状態の後期で、ストップバルブ38の開度が全閉に近くアンモニアガスが漏れにくい状態で、改質用アンモニアガスで残留ガスを押し出すことを継続し易くなる。
【0075】
また、置換タイミングよりも早いタイミングでストップバルブ38の開度が全閉とされるため、アンモニアガスの漏洩の抑制がより確実なものとなる。そして、改質用スロットル32の開度が全閉で且つストップバルブ38の開度が全閉となった状態で、改質用インジェクタ35で噴射された燃料で還元雰囲気となった改質器36が暖機される。
【0076】
始動許可部15は、第3制御で低減されたストップバルブ38の開度が全閉に至った場合に、アンモニアエンジン100の始動を許可する。始動許可部15は、例えば、第3制御で低減されたストップバルブ38の開度が全閉に至った場合、改質器36の暖機が完了したときに、スタータのクランキング開始を許可する。改質器36の暖機は、例えば、始動信号の入力からの経過時間が実験等に基づき予め設定された所定時間を超えたことにより、改質触媒36bの床温が約200℃以上となったと推定された場合に、完了したものとすることができる。なお、始動許可部15は、ストップバルブ38の開度が全閉に到る前にアンモニアエンジン100の始動を許可してもよい。
【0077】
次に、ECU10による処理の一例について、図6を参照して説明する。図6は、ECU10の改質器暖機処理を示すフローチャートである。
【0078】
図6に示されるように、ECU10は、S11において、エンジン状態取得部11により、始動信号の入力の有無の判定を行う。エンジン状態取得部11は、例えば、始動信号の入力の有無の判定として、アンモニアエンジン100が始動準備状態であるか否かを判定する。エンジン状態取得部11により始動信号の入力がないと判定された場合(S11:NO)、ECU10は、図6の処理を終了する。
【0079】
一方、エンジン状態取得部11により始動信号の入力があったと判定された場合(S11:YES)、ECU10は、S12において、第1制御実行部12により、第1制御を実行する。第1制御実行部12は、例えば、改質器ヒータ36aに通電しつつ、改質用スロットル32の開度を全閉とすると共にストップバルブ38の開度を所定の初期開度とする第1制御を実行する。
【0080】
ECU10は、S13において、第2制御実行部13により、改質用スロットル32の開度を全閉とした状態で第2制御を実行する。例えば、第2制御実行部13は、第2制御において、連続的に改質用アンモニアガスを噴射する第1燃料噴射パターンで改質用インジェクタ35に改質用アンモニアガスを噴射させる。あるいは、第2制御実行部13は、第2制御として、間欠的に改質用アンモニアガスを噴射する第2燃料噴射パターンで改質用インジェクタ35に改質用アンモニアガスを噴射させてもよい。
【0081】
ECU10は、S14において、第3制御実行部14により、改質用スロットル32の開度を全閉とした状態で第3制御を実行する。第3制御実行部14は、例えば、第2制御で噴射された改質用アンモニアガスの噴射量の時間積算値と置換推定容積量とに基づいて、置換タイミングを算出する。第3制御実行部14は、第3制御において、置換タイミングまでストップバルブ38の開度を初期開度に維持すると共に、置換タイミングでストップバルブ38の開度を全閉とするようにストップバルブ38の開度を低減させる。あるいは、第3制御実行部14は、第3制御として、第2制御で噴射された改質用アンモニアガスの噴射量の増加に応じてストップバルブ38の開度を漸減させてもよい。
【0082】
ECU10は、S15において、第3制御実行部14により、ストップバルブ38の開度が全閉に至ったか否かの判定を行う。第3制御実行部14によりストップバルブ38の開度が全閉に至っていないと判定された場合(S15:NO)、ECU10は、S13及びS14の処理を繰り返し行う。
【0083】
一方、第3制御実行部14によりストップバルブ38の開度が全閉に至ったと判定された場合(S15:YES)、ECU10は、S16において、始動許可部15により、アンモニアエンジン100の始動の許可を行う。始動許可部15は、例えば、改質器36の暖機が完了したときに、スタータのクランキング開始を許可する。
【0084】
[作用及び効果]
以上説明したように、アンモニアエンジン100では、始動信号が入力された場合に改質用スロットル32の開度が全閉とされ、改質用スロットル32の開度が全閉とされた状態で、改質用インジェクタ35に改質用アンモニアガスを噴射させる第2制御が実行される。これにより、改質用スロットル32を介して燃料のアンモニアが外部環境に漏れ出すことを抑制できる。また、改質用スロットル32の開度が全閉とされた状態で、遅くとも置換タイミングでストップバルブ38の開度が全閉に至るようにストップバルブ38の開度を低減させる第3制御が実行される。これにより、ストップバルブ38を介して燃料のアンモニアが外部環境に漏れ出すことを抑制しつつ、改質用インジェクタ35で噴射された改質用アンモニアガスを用いて改質器36の残留ガスの置換が図られる。その結果、改質用スロットル32の開度が全閉で且つストップバルブ38の開度が全閉となった状態で、改質用インジェクタ35で噴射された改質用アンモニアガスで還元雰囲気となった改質器36が暖機される。したがって、アンモニアエンジン100によれば、始動の際にアンモニアの漏洩を抑制しつつ還元雰囲気下で改質器36の暖機を行うことが可能となる。
【0085】
アンモニアエンジン100では、ECU10は、第2制御において、燃料噴射パターンとして連続的に改質用アンモニアガスを噴射する第1燃料噴射パターンで改質用インジェクタ35に改質用アンモニアガスを噴射させ、第3制御において、置換タイミングまでストップバルブ38の開度を初期開度S1に維持すると共に、置換タイミングでストップバルブ38の開度を全閉とするようにストップバルブ38の開度を低減させる。これにより、改質用インジェクタ35で噴射された改質用アンモニアガスによって残留ガスの大部分が改質器36から押し出された状態で、ストップバルブ38の開度が全閉とされる。よって、より確実に改質器36を還元雰囲気とすることができる。
【0086】
アンモニアエンジン100では、ECU10は、第2制御において、燃料噴射パターンとして間欠的に改質用アンモニアガスを噴射する第2燃料噴射パターンで改質用インジェクタ35に改質用アンモニアガスを噴射させ、第3制御において、第2制御で噴射された改質用アンモニアガスの噴射量の増加に応じてストップバルブ38の開度を漸減させる。これにより、間欠的に改質用アンモニアガスを噴射する第2燃料噴射パターンで改質用アンモニアガスが噴射されるため、改質用アンモニアガスが改質器36の残留ガスと混じり合うことが抑えられ、より確実に改質器36を還元雰囲気とすることができる。また、改質用アンモニアガスの噴射量の増加に応じてストップバルブ38の開度を漸減させるため、改質器36内の圧力が急激に高くなることが抑制され、圧力平衡により改質用インジェクタ35から改質用アンモニアガスが噴射できなくなるまでの時間を延ばすことができる。よって、圧力上昇によって改質用インジェクタ35から改質用アンモニアガスが噴射されにくくなることを抑制できる。
【0087】
アンモニアエンジン100では、改質器36は、改質用アンモニアガスを改質するための改質触媒36bと、改質触媒36bの上流において改質触媒36bの流入面を覆うように設けられた有孔板部材36cと、を有する。これにより、改質用インジェクタ35で噴射された改質用アンモニアガスと改質器36の残留ガスとが混じり合うことが、有孔板部材36cにより物理的に抑制される。その結果、改質用アンモニアガスが残留ガスを改質器36から押し出す作用を好適に奏することが可能となる。
【0088】
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
【0089】
上記実施形態では、改質器上流弁として改質用スロットル32を例示したが、例えば電磁弁等を用いてもよい。
【0090】
上記実施形態では、改質用インジェクタ35の個数は、例えば1個の場合を例示したが、複数個であってもよい。
【0091】
上記実施形態では、改質器下流弁としてストップバルブ38を例示したが、電磁弁に代えて、例えばバタフライバルブ又は吸気流路22の位置に設けられた三方弁等を用いてもよい。
【0092】
上記実施形態では、三元触媒26が設けられていたが、省略されてもよい。
【0093】
上記実施形態の図5(a)~図5(c)の例では、置換タイミングよりも早くストップバルブ38の開度が全閉とされるようにストップバルブ38の開度が漸減されたが、例えば置換タイミングに達した時点でストップバルブ38の開度が全閉に至っていない場合には、第3制御実行部14は、当該時点でストップバルブ38の開度を強制的に全閉としてもよい。
【0094】
上記実施形態では、有孔板部材36cは、改質器ヒータ36aの上流側に設けられていたが、改質器ヒータ36aと改質触媒36bとの間に設けられていてもよい。有孔板部材36cの外形は、略円盤状以外の形状であってもよい。有孔板部材36cは、必ずしも改質器ヒータ36aの流入面の略全体を覆っていなくてもよい。残留ガス混合抑制部材は、有孔板部材36cに限定されず、例えば網状部材であってもよいし、多孔質部材であってもよい。また、有孔板部材36cは、省略されてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…キースイッチ(始動信号出力部)、10…ECU(制御部)、22…吸気流路、31…改質流路、32…改質用スロットル(改質器上流弁)、35…改質用インジェクタ(改質用燃料噴射弁)、36…改質器、36b…改質触媒、36c…有孔板部材(残留ガス混合抑制部材)、38…ストップバルブ(改質器下流弁)、100…アンモニアエンジン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6