(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】熱中症危険度算出システム、熱中症危険度算出プログラム、及び、コンピュータ読み取り可能な記録媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20220517BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20220517BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
A61B5/00 102A
A61B5/00 G
G08B21/02
G08B25/04 K
(21)【出願番号】P 2019077109
(22)【出願日】2019-04-15
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100166958
【氏名又は名称】堀 喜代造
(72)【発明者】
【氏名】小野 義則
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130531(JP,A)
【文献】特開2017-120600(JP,A)
【文献】特開2009-034223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
G08B 21/02
G08B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が身に着けているウェアラブル機器で測定した測定結果に基づいて、前記使用者の熱中症判定値を算出する、判定値算出部と、
前記使用者の熱中症危険度の回復度合いに関して、前記使用者の生体情報以外の
、前記ウェアラブル機器で計測した使用者の周囲における外気温に基づいて、前記使用者の熱中症減算値を算出する、減算値算出部と、
前記判定値算出部で算出した熱中症判定値から、前記減算値算出部で算出した熱中症減算値を減ずることにより、減算判定値を算出する、演算部と、を備える、熱中症危険度算出システム。
【請求項2】
前記判定値算出部は、前記ウェアラブル機器で所定時間毎に測定した測定結果に基づいて、前記熱中症判定値を前記所定時間毎に算出し、
前記減算値算出部は、前記ウェアラブル機器で前記所定時間毎に計測した使用者の周囲における前記外気温に基づいて、前記熱中症減算値を前記所定時間毎に算出し、
前記演算部は、前記熱中症判定値から前記熱中症減算値を減ずることにより、前記減算判定値を前記所定時間毎に算出する、請求項1に記載の熱中症危険度算出システム。
【請求項3】
前記熱中症減算値は、前記使用者の血管からの放熱効果が最も高くなる前記検知結果において最大となるように設定される、請求項1又は請求項2に記載の熱中症危険度算出システム。
【請求項4】
前記熱中症減算値は、前記外気温が摂氏24度から摂氏26度の場合に最大となるように設定される、
請求項1又は請求項2に記載の熱中症危険度算出システム。
【請求項5】
前記判定値算出部は、
前記ウェアラブル機器で測定した前記使用者の生体情報の測定値ごとに設定された生体情報設定値を算出する、生体情報設定値算出部と、
前記ウェアラブル機器で測定した前記使用者の周囲の環境情報の測定値ごとに設定された環境情報設定値を算出する、環境情報設定値算出部と、
前記生体情報設定値と前記環境情報設定値との和を算出することにより、前記熱中症判定値を算出する、算出部と、を備える、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の熱中症危険度算出システム。
【請求項6】
コンピュータを請求項1から請求項5の何れか1項に記載の熱中症危険度算出システムとして機能させる、熱中症危険度算出プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の熱中症危険度算出プログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザーの生体情報及び環境情報を検出する各種センサの検出データに基づいて、ユーザーが熱中症となる危険度を算出するための、熱中症危険度算出システム、熱中症危険度算出プログラム、及び、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業者等の対象者が熱中症になる危険性を低減するために、対象者の体温等の情報を取得し、取得した情報に基づいて熱中症の危険性を判断するシステムが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。熱中症の危険性判断については、過去数時間分における検出値を用いる手法が知られている。例えば特許文献1には、現時点から遡った直近の一定長さの算出期間についての使用者の運動強度の寄与を算出した活動量と、周囲の温度等を取得した環境情報と、に基づいて、使用者が熱中症となるリスクを表すリスク指標を求める技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術には、使用者の運動強度が所定レベル未満で所定時間継続したときに、活動量を初期化する構成が記載されている。しかし、作業の合間にこまめに休憩を取った場合でも、蓄積された熱中症の危険度は直ちにはなくならない。即ち、従来技術においては、熱中症の危険度と、休憩等による危険度の減少度合いとを精度よく評価することができなかった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、熱中症の危険性判断を行う際に、熱中症の危険度と、休憩等による危険度の減少度合いとを精度よく評価することが可能となる、熱中症危険度算出システム、熱中症危険度算出プログラム、及び、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述の課題解決のために、以下の熱中症危険度算出システムを構成した。
【0007】
(1)使用者が身に着けているウェアラブル機器で測定した測定結果に基づいて、前記使用者の熱中症判定値を算出する、判定値算出部と、前記使用者の熱中症危険度の回復度合いに関して、前記使用者の生体情報以外の、前記ウェアラブル機器で計測した使用者の周囲における外気温に基づいて、前記使用者の熱中症減算値を算出する、減算値算出部と、前記判定値算出部で算出した熱中症判定値から、前記減算値算出部で算出した熱中症減算値を減ずることにより、減算判定値を算出する、演算部と、を備える、熱中症危険度算出システム。
【0008】
(2)前記判定値算出部は、前記ウェアラブル機器で所定時間毎に測定した測定結果に基づいて、前記熱中症判定値を前記所定時間毎に算出し、前記減算値算出部は、前記ウェアラブル機器で前記所定時間毎に計測した使用者の周囲における前記外気温に基づいて、前記熱中症減算値を前記所定時間毎に算出し、前記演算部は、前記熱中症判定値から前記熱中症減算値を減ずることにより、前記減算判定値を前記所定時間毎に算出する、(1)に記載の熱中症危険度算出システム。
【0009】
(3)前記熱中症減算値は、前記使用者の血管からの放熱効果が最も高くなる前記検知結果において最大となるように設定される、(1)又は(2)に記載の熱中症危険度算出システム。
【0010】
(4)前記減算設定値は、前記外気温が摂氏24度から摂氏26度の場合に最大となるように設定される、(1)又は(2)に記載の熱中症危険度算出システム。
【0011】
(5)前記判定値算出部は、前記ウェアラブル機器で測定した前記使用者の生体情報の測定値ごとに設定された生体情報設定値を算出する、生体情報設定値算出部と、前記ウェアラブル機器で測定した前記使用者の周囲の環境情報の測定値ごとに設定された環境情報設定値を算出する、環境情報設定値算出部と、前記生体情報設定値と前記環境情報設定値との和を算出することにより、前記熱中症判定値を算出する、算出部と、を備える、(1)から(4)の何れか一に記載の熱中症危険度算出システム。
【0012】
また、本発明は、前述の課題解決のために、以下の熱中症危険度算出プログラムを構成した。
【0013】
(6)コンピュータを(1)から(5)の何れか一に記載の熱中症危険度算出システムとして機能させる、熱中症危険度算出プログラム。
【0014】
また、本発明は、前述の課題解決のために、以下のコンピュータ読み取り可能な記録媒体を構成した。
【0015】
(7)(6)に記載の熱中症危険度算出プログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る熱中症危険度算出システム、熱中症危険度算出プログラム、及び、コンピュータ読み取り可能な記録媒体によれば、熱中症の危険性判断を行う際に、熱中症の危険度と、休憩等による危険度の減少度合いとを精度よく評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る熱中症危険度算出システムの構成を示すブロック図。
【
図3】ユーザーが装着するウェアラブル機器の具体例を示す側面図。
【
図4】熱中症危険度算出方法の手順を示すフローチャート。
【
図5】(a)はひたい温度と生体情報設定値との関係を示す図、(b)はWBGT と環境情報設定値との関係を示す図、(c)は外気温と減算設定値との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
図1は、本実施形態に係るウェアラブル機器の一例であるヘルメット6が用いられる熱中症危険度算出システム1の構成を示すブロック図、
図2は検知部2等の具体的構成を示すブロック図、
図3は、熱中症危険度算出システム1の使用者(以下、単に「使用者」と記載する)が装着するヘルメット6を示す側面図である。
【0019】
熱中症危険度算出システム1は、
図1に示すように、複数の使用者がそれぞれ携帯する見守りユニットUで構成される。熱中症危険度算出システム1は、使用者の何れかにおいて熱中症の危険性が上昇した場合に、熱中症危険度算出システム1の使用者に異常(熱中症危険性の上昇)の発生、及び、異常が発生した使用者を報知するように構成されている。
【0020】
図1においては、四人の使用者がそれぞれ携帯する見守りユニットU1~U4を示している。なお、熱中症危険度算出システム1において、使用者及び見守りユニットUは複数であればよく、その数は限定されるものではない。本実施形態における見守りユニットUは
図3に示す如く、使用者が装着するウェアラブル機器の一例であるヘルメット6として構成されている。それぞれの見守りユニットUは構成及び機能が同じであるため、以下では見守りユニットU1について説明し、他の見守りユニットU2~U4については詳細な説明を省略する。
【0021】
図1に示す如く、見守りユニットU1を構成するヘルメット6は、検知部2と、通信部4と、第一の報知部である報知ランプ7と、第二の報知部である特定ランプ8と、を備えている。検知部2及び通信部4は、
図3に示す如くヘルメット6に設けられたケースCの内部に収容されている。検知部2は、見守りユニットU1を携帯している使用者の異常を検知する。通信部4は、使用者の何れかに異常が発生した旨の異常発生情報を、通信回線10等を介して送受信する。第一の報知部である報知ランプ7は、使用者の何れかに異常が発生した旨を、見守りユニットU1を携帯している使用者に報知する。第二の報知部である特定ランプ8は、見守りユニットU1を携帯している使用者に異常が発生した旨を周囲に報知し、異常が生じた者を特定させる。
【0022】
図1及び
図2に示す如く検知部2は、生体情報取得部21及び環境情報取得部22と、見守り制御部3と、を備える。生体情報取得部21及び環境情報取得部22は、ヘルメット6に備えられて使用者の生体情報及び環境情報に関するデータを検出する各種センサである。生体情報取得部21は
図3に示す如く配線21aを備えており、この配線21aを介してケースC内の検知部2と接続されている。ケースCはヘルメット6に対して着脱可能とされている。見守り制御部3は、アプリケーションプログラム(熱中症危険度算出プログラム)がインストールされた制御部である。熱中症危険度算出プログラムは見守り制御部3における各構成要素が備える記憶部に記憶される。熱中症危険度算出プログラムは、インターネット経由でダウンロードする他、光ディスク、DVD、SDカード、USBフラッシュメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録することが可能である。
【0023】
生体情報取得部21及び環境情報取得部22は、
図3に示す如く、工場や工事現場あるいは山林等で作業する作業者等である使用者が頭部に装着するヘルメット6に設けられている。なお、ウェアラブル機器として、ヘルメット6とは異なる他の物品(例えば、使用者が身に着ける、帽子、リストバンド、時計、メガネ、ネックレス、ベルト、カバン、靴、被服、下着、オムツ等)を採用することも可能である。高温条件化で汗を多くかく状況下においては、蒸れが問題となるヘルメット6をウェアラブル機器として採用することが好ましい。
【0024】
本実施形態においては
図3に示す如く、生体情報取得部21はヘルメット6のヘッドバンド61の前部に取付けられた被覆材11に設けられる。生体情報取得部21は使用者の生体情報を所定の計測時間毎に取得する(
図4におけるステップS01)。本実施形態における生体情報取得部21は、使用者の額皮膚温度を測定する皮膚表面温度センサであり、使用者の額皮膚温度に関する生体情報を1分毎に取得する。
【0025】
なお、生体情報取得部21において、使用者の額以外の箇所における皮膚接触温度又は体内温度等の温度を取得し、使用者の脈波(心拍)、脳波、又は血流等、他の様々の情報を取得し、又は、これらを組み合わせることにより、生体情報として使用することも可能である。ただし、熱中症の発症リスクとの相関性の高さから、生体情報として使用者の体温を、温度センサを用いて取得する構成が好ましい。また、危険を伴う作業を行う作業者にとって、体内に器具を入れる必要がないという安全性の観点、及び、測定の容易性の観点から、使用者が身に着けるウェアラブル機器に皮膚表面温度センサを設けて使用者の体温を取得する構成がより好ましい。加えて、熱中症の影響が最も大きい脳に近い部分で生体情報を測定するという観点より、使用者の体温はヘルメット6の額部分に接触温度センサを設けて皮膚接触温度を測定する構成がより好ましい。また、生体情報取得部21における測定機能は、作業者の熱中症危険度測定用以外にも、アスリートのパフォーマンス測定用や、病院における高齢者や乳幼児の体調管理用等に用いる構成とすることも可能である。赤外線センサ又は超音波センサを用いて生体情報取得部21を構成することも可能である。
【0026】
本実施形態において、環境情報取得部22はヘルメット6に設けられたケースCの内部に収容されており、使用者の周囲における環境情報を所定の計測時間毎に取得する(
図4におけるステップS02)。本実施形態における環境情報取得部22は、外気温を1分毎に取得する温度センサ、及び外湿度を1分毎に取得する湿度センサ等で構成されている。
【0027】
環境情報取得部22は、取得した外気温と外湿度とから、暑さ指数として知られているWBGT指数(湿球黒球温度)の近似値(以下、単に「WBGT」と記載する)を1分毎に算出している。WBGT指数とは、人体が受ける熱ストレスの大きさを、気温・湿度・風速・輻射熱を考慮して指数化したものであり、この値が大きい場合には、作業やスポーツを休止することが望ましいとされている。なお、環境情報取得部22において、外気温及び外湿度以外に、日射強度、天気、照度等を取得し、時刻や位置情報等の様々の情報を取得し、又は、これらを組み合わせることにより、環境情報として使用することも可能である。但し、測定の簡易性の観点から、環境情報は使用者の周囲の気温と湿度とに基づいて算出することが好ましい。
【0028】
見守り制御部3は
図2に示す如く、判定値算出部31と、減算値算出部32と、演算部33と、判定部34と、を備え、各部は図示しない記憶手段(メモリ等)及び演算手段(CPU等)を具備する。以下、各部について具体的に説明する。
【0029】
図2に示す如く、判定値算出部31は、生体情報設定値算出部31aと、環境情報設定値算出部31bと、算出部31cと、を備える。
【0030】
生体情報設定値算出部31aは、生体情報取得部21で測定した使用者の生体情報の測定値ごとに設定された生体情報設定値を算出する(
図4におけるステップS03)。詳細には
図5(a)に示す如く、判定値算出部31の記憶部には、生体情報取得部21で1分毎に取得した生体情報データ(使用者の額皮膚温度)に対応して予め設定された生体情報設定値が記憶されている。そして、生体情報取得部21で測定した使用者の額皮膚温度の測定値に基づいて、生体情報設定値を1分毎に算出する。
【0031】
環境情報設定値算出部31bは、環境情報取得部22で測定した使用者の周囲の環境情報の測定値ごとに設定された環境情報設定値を算出する(
図4におけるステップS04)。詳細には
図5(b)に示す如く、判定値算出部31の記憶部には、環境情報取得部22で1分毎に取得したWBGTに対応して予め設定された環境情報設定値が記憶されている。そして、環境情報取得部22で測定したWBGTの測定値に基づいて、環境情報設定値を1分毎に算出する。
【0032】
算出部31cは、生体情報設定値と環境情報設定値との和を演算した値である熱中症判定値を1分毎に算出する(
図4におけるステップS05)。このように、判定値算出部31は、使用者が身に着けているヘルメット6における生体情報取得部21及び環境情報取得部22で測定した測定結果に基づいて、使用者の熱中症判定値を算出するのである。
【0033】
減算値算出部32は、使用者の熱中症危険度の回復度合いに関して、環境情報取得部22で計測した計測結果に基づいて、使用者の熱中症減算値を算出する(
図4におけるステップS06)。詳細には
図5(c)に示す如く、減算値算出部32の記憶部には、環境情報取得部22で1分毎に取得した外気温に対応して予め設定された減算設定値が記憶されている。そして、環境情報取得部22で測定した外気温の測定値に基づいて、減算設定値を1分毎に算出する。そして、減算値算出部32は、減算設定値を熱中症減算値として算出する。
【0034】
人体において、摂氏26度より高い外気温では、血管からの放熱効果が低下する。また、外気温が摂氏24度未満では人体の血管収縮が著しくなり、やはり血管からの放熱効果が低下する。即ち、外気温が摂氏24度から摂氏26度の場合に人体の血管からの放熱効果が最も高くなる。このため、本実施形態においては
図5(c)に示す如く、減算設定値は外気温が摂氏24度から摂氏26度の場合に最大となるように設定されている。
【0035】
上記の如く、減算値算出部32において、熱中症減算値の算出に用いる減算設定値は、使用者の生体情報以外の外部情報(本実施形態においては外気温)を検知した検知結果に基づいて算出している。これは、人体においては体温等を一定に保とうとする回復作用が働くため、使用者の生体情報に基づいて減算設定値を算出した場合、休憩等による回復の程度を客観的に判定することが困難だからである。
【0036】
このように、減算値算出部32においては、使用者の生体情報以外の外部情報であれば、減算設定値を外気温以外の測定値に基づいて算出する構成とすることも可能である。例えば、湿度、風速、外部環境の熱気又は冷気、太陽又は高温設備等の熱源からの輻射熱、使用者の水分補給量のうち少なくとも一つに基づいて、減算設定値を算出する構成とすることができる。本実施形態の如く、WBGT計測器の測定器である環境情報取得部22を活用でき、測定箇所が限定されないという観点、及び、体温上昇の直接的な要因となる観点で、外気温に基づいて減算設定値を算出することが好適である。
【0037】
演算部33は、判定値算出部31で算出した熱中症判定値から、減算値算出部32で算出した熱中症減算値を減ずることにより、減算判定値を1分毎に算出する(
図4におけるステップS07)。
【0038】
判定部34は、演算部33で算出した減算判定値が予め設定した閾値を超えているか否かを判定する(
図4におけるステップS08)。具体的には、減算判定値が閾値未満であれば「安全」、減算判定値が閾値以上であれば「危険」と判定するのである。判定部34が「危険」と判断した場合、検知部2は使用者に異常が発生した旨の異常発生情報を通信部4に送信する。
【0039】
上記の如く、本実施形態に係る熱中症危険度算出システム1によれば、使用者の熱中症危険度の回復度合いに関する熱中症減算値を算出し、熱中症判定値から熱中症減算値を減じた減算判定値に基づいて、使用者の熱中症危険度を判断する構成としている。これにより、例えば使用者が休憩を取った場合など、熱中症危険度が所定レベル未満で所定時間継続したときに、減算判定値を小さくすることができる。即ち、熱中症危険度の判定に、休憩等の影響を適切に反映させることができるため、熱中症の危険性判断を行う際に、熱中症の危険度と、休憩等による危険度の減少度合いとを精度よく評価することが可能となる。
【0040】
なお、算出部31cは、生体情報設定値と環境情報設定値との和を積算することにより、過去の生体情報設定値と環境情報設定値との和を全て合計した累積値を熱中症判定値とすることもできる。また、減算値算出部32は、減算設定値を積算することにより、過去の減算設定値を全て合計した累積値を熱中症減算値とすることもできる。そして、演算部33は、判定値算出部31で積算した熱中症判定値から、減算値算出部32で積算した熱中症減算値を減ずることにより、減算判定値を算出するのである。これにより、熱中症危険度の低下の影響を、現時点だけではなく過去に遡って評価することができる。即ち、熱中症の危険性判断を行う際に、累積した熱中症の危険度と、休憩等による危険度の減少度合いとをより精度よく評価することが可能となる。
【0041】
図1に示す如く、見守りユニットUにおける通信部4は、通信回線10を介して、他の見守りユニットUにおける通信部4との間でデータのやり取りを行う双方向通信機能を有している。熱中症危険度算出システム1において、通信部4同士の通信には一対多数の広範囲無線通信が採用される。具体的に、通信部4同士の通信方法としてはBluetooth(登録商標)が採用される。通信部4同士の通信方法は、Wi-Fi(登録商標)、無線LAN、ZigBee(登録商標)、NFC等を採用することも可能である。通信部4同士の通信方法は、400m通信可能で、ブロードキャスト通信できるという観点よりBluetoothが好適である。
【0042】
また、通信部4は、異常発生情報を報知ランプ7及び特定ランプ8に送信するための送信機能を有している。通信部4と報知ランプ7及び特定ランプ8との通信には一対一の近距離無線通信が採用される。具体的に、通信部4と報知ランプ7及び特定ランプ8との通信方法としては、通信部4同士の通信と同じくBluetooth(登録商標)が採用される。通信部4と報知ランプ7及び特定ランプ8との通信は、30m通信可能で、数mの範囲で省電力という観点よりANTを採用することも可能である。本実施形態においては、通信部4と報知ランプ7及び特定ランプ8との通信を無線とすることにより、見守りユニットUを使用する際に配線が邪魔になることを防止している。
【0043】
第一の報知部である報知ランプ7、及び、第二の報知部である特定ランプ8は、LEDを用いた発光部材である。第一の報知部及び第二の報知部としては、発光部材以外にも、ブザー等の発声部材、バイブレーター等の発振部材、発熱部材、ディスプレイ等の表示部材、臭いの発生部材等を、単体により又は組み合わせて採用することが可能である。また、第一の報知部と第二の報知部とで報知方式が異なっていても差し支えない。本実施形態において、第一の報知部及び第二の報知部としては、音や振動の多い作業現場であっても認識可能な発光部材である報知ランプ7及び特定ランプ8が採用されている。
【0044】
図3に示す如く、報知ランプ7はヘルメット6を装着している使用者本人が視認できる箇所(本実施形態においては、ヘルメット6における庇の下面部分)に固定される。また、特定ランプ8はヘルメット6において他の使用者が視認しやすい箇所(本実施形態においては、ヘルメット6の後部)に固定される。
【0045】
報知ランプ7は、使用者本人が視認できる箇所であれば、ヘルメット6以外の衣服等に固定することも可能である。また、特定ランプ8は、他の使用者が視認しやすい箇所であれば、ヘルメット6以外の衣服等に固定することも可能である。報知ランプ7及び特定ランプ8は、ヘルメット6以外の衣服等に固定することも可能である。報知ランプ7及び特定ランプ8の固定手段は、クリップ、螺子、面ファスナー、マグネット、両面テープ、スナップピン等何でも良いが、着け外しが容易なクリップを採用することが好適である。
【0046】
報知ランプ7及び特定ランプ8の大きさは小型(20mm~50mm×20mm~60mm)のものが携帯性、着用性に優れるため好適である。また、報知ランプ7及び特定ランプ8の形状は丸型、多角形等何でも良く、特に配光、防水性、最小化という理由で丸形が好適である。
【0047】
本実施例において、判定部34において「安全」と判断された場合、判定部34は使用者に異常(熱中症の危険性の上昇)は発生していないと判断し、異常発生情報を送信しない。この場合、何れの見守りユニットU1~U4においても、報知ランプ7及び特定ランプ8は発光しない。
【0048】
一方、判定部34において「危険」と判定された場合、判定部34は使用者に異常(熱中症の危険性の上昇)が発生したと判断し、通信部4に異常発生情報を送信する。同じ見守りユニットUにおける検知部2から異常発生情報を受信した通信部4は、見守りユニットU1における報知ランプ7と特定ランプ8、及び、他の見守りユニットU2~U4における通信部4に異常発生情報を送信する。
【0049】
見守りユニットU1において異常発生情報を受信した報知ランプ7と特定ランプ8とは、発光することにより使用者の熱中症の危険性が高まったことを報知する。見守りユニットU1の使用者は、自身が携帯する見守りユニットU1の報知ランプ7と特定ランプ8とが発光していることを視認することにより、自分の熱中症の危険性が高いことを認識する。
【0050】
他の見守りユニットU2~U4においては、見守りユニットU1における通信部4から異常発生情報を受信した通信部4が、報知ランプ7に異常発生情報を送信する。即ち、通信部4は、他の見守りユニットUにおける通信部4から通信回線10を介して異常発生情報を受信した場合、報知ランプ7のみに異常発生情報を送信する。そして、他の見守りユニットU2~U4における報知ランプ7が発光することにより何れかの使用者の熱中症の危険性が高まったことを報知する。
【0051】
見守りユニットU2~U4の使用者は、自身の報知ランプ7が発光していること、及び、自身の特定ランプ8が発光していないことを視認することにより、自分以外の使用者において熱中症の危険性が高まったことを認識する。そして、見守りユニットU2~U4の使用者は、見守りユニットU1の使用者の特定ランプ8が発光していることを視認することにより、熱中症の危険性が高い者を特定するとともに、当該使用者の熱中症の危険性が高まったことを認識する。
【0052】
上記の如く、本実施形態に係る熱中症危険度算出システム1によれば、熱中症の危険性がある者(見守りユニットU1の使用者)の周囲の者(見守りユニットU2~U4の使用者)に対して、熱中症の危険性がある者の存在、及び、その者がいる場所を報知する構成としている。換言すれば、熱中症危険度算出システム1においては、見守りユニットU1における通信部4と通信可能な位置(熱中症の危険性がある者の近傍)にいる他の見守りユニットU2~U4の通信部4に異常発生情報を送信する構成としている。これにより、周囲の者による救助を促して、熱中症の危険性が高まった際に迅速かつ適切に救護活動を行うことを可能としている。
【符号の説明】
【0053】
1 熱中症危険度算出システム 2 検知部
3 見守り制御部 4 通信部
6 ヘルメット(ウェアラブル機器)
7 報知ランプ 8 特定ランプ
10 通信回線 11 被覆材
21 生体情報取得部 21a 配線
22 環境情報取得部 31 判定値算出部
31a 生体情報設定値算出部 31b 環境情報設定値算出部
31c 算出部 32 減算値算出部
33 演算部 34 判定部
61 ヘッドバンド C ケース
U 見守りユニット