(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】質量分析器
(51)【国際特許分類】
H01J 49/40 20060101AFI20220517BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20220517BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220517BHJP
【FI】
H01J49/40 800
H01J49/06 100
H01J49/06 700
G01N27/62 E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020109684
(22)【出願日】2020-06-25
【審査請求日】2020-08-26
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴャチェスラフ シチェプノフ
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-501439(JP,A)
【文献】特表2010-506349(JP,A)
【文献】特表2014-531119(JP,A)
【文献】特表2018-517244(JP,A)
【文献】特表2008-535164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析装置で使用するための質量分析器であって、
2D参照面の軌道に沿ってイオンを導くのに適した静電場を前記2D参照面に提供するために空間的に配置された部分電極のセットであって、前記部分電極のセットは前記
2D参照面に局所的に直交するドリフト経路に沿って延設されるため、使用時に、前記部分電極のセットは3D静電場領域を提供する、部分電極のセット、及び
前記質量分析器に入射された前記イオンが、ドリフト中に前記ドリフト経路に沿って前記質量分析器内でイオンが複数の周回を実行する3D参照軌道に沿って前記3D静電場領域によって導かれるように、入射開口部を介してイオンを前記質量分析器に入射するように構成された入射インターフェースであって、
前記2D参照面に投影された各周回は前記2D参照面の完結した軌道に対応する、入射インターフェースを有し、
前記入射インターフェースは、前記質量分析器内に配置された少なくとも1つの入射偏向器を含み、前記少なくとも1つの入射偏向器は、前記質量分析器に入射されたイオンを前記ドリフト経路の方向に偏向するように構成され、前記入射インターフェースは
、前記3D参照軌道に沿って導かれるイオンが、前記質量分析器への入射後、
前記入射偏向器によって偏向されて、前記入射開口部の周囲の電場の歪みによって
前記質量分析器の質量分解能が実質的に影響を受けないように、前記入射開口部から十分に離れて維持されるように構成されている、質量分析器。
【請求項2】
前記入射偏向器は、前記質量分析器に入射されたイオンを前記ドリフト経路の方向に偏向して、前記3D参照軌道と前記入射開口部との間の距離を増大させるように構成されている、請求項1に記載の質量分析器。
【請求項3】
前記少なくとも1つの入射偏向器は、前記質量分析器内に入射されたイオンを、前記質量分析器内でこれらのイオンが最初の半周回を完結する前に、前記ドリフト経路の方向に偏向するように構成されている、請求項1又は2に記載の質量分析器。
【請求項4】
前記質量分析器は、前記質量分析器から抽出された前記イオンが前記3D参照軌道に沿った前記3D静電場領域によって導かれた後、抽出開口部を介して前記質量分析器からイオンを抽出するように構成された抽出インターフェースを含み、
前記抽出インターフェースは、前記質量分析器に入射されたイオンを前記ドリフト経路の方向に偏向して、前記3D参照軌道と前記抽出開口部との間の距離を増大するように構成された少なくとも1つの抽出偏向器を含む、
請求項1から3のいずれかに記載の質量分析器。
【請求項5】
前記少なくとも1つの抽出偏向器は、前記質量分析器内に入射されたイオンを、前記質量分析器内でこれらのイオンが最後の3周回を開始した後に、前記ドリフト経路の方向に偏向するように構成されている、請求項4に記載の質量分析器。
【請求項6】
前記少なくとも1つの入射偏向器は、前記少なくとも1つの抽出偏向器として使用される、請求項4又は5に記載の質量分析器。
【請求項7】
前記ドリフト経路は
前記2D参照面にある参照軸の周りで曲がっており、前記3D参照軌道は、前記参照軸に垂直な平面に投影された、前記参照軸から前記3D参照軌道の隣接する周回の対応する頂点まで延びる直線を使用して測定された角度が6度以下である、少なくとも5組の隣接する周回を含んでいる、請求項1から6のいずれかに記載の質量分析器。
【請求項8】
前記ドリフト経路は線形であり、前記3D参照軌道は、前記2D参照面に垂直な平面に投影された、前記3D参照軌道の3つの連続する頂点間を延びる直線を使用して測定された角度が3度以下である、少なくとも5つの周回を含んでいる、請求項1から7のいずれかに記載の質量分析器。
【請求項9】
前記質量分析器は、反転偏向器セットを含み、前記反転偏向器セットは、イオンが前記ドリフト経路に沿ってドリフトする方向を反転させるように構成された1乃至複数の反転偏向器を含み、その結果、前記反転偏向器セットに向かってドリフトするイオンは、前記入射インターフェースに向かって逆方向にドリフトする、請求項1から8のいずれかに記載の質量分析器。
【請求項10】
前記反転偏向器セットは第1の反転偏向器セットを定義し、前記質量分析器は、第2の反転偏向器セットを含み、前記第2の反転偏向器セットは、イオンが前記ドリフト経路に沿ってドリフトする方向を反転させるように構成された1乃至複数の反転偏向器を含み、その結果、前記第2の反転偏向器セットに向かってドリフトするイオンは、前記第1の反転偏向器セットに向かって逆方向にドリフトする、請求項9に記載の質量分析器。
【請求項11】
前記少なくとも1つの入射偏向器は、前記第2の反転偏向器セットとしてさらに動作するように構成されている、請求項10に記載の質量分析器。
【請求項12】
少なくとも1つの抽出偏向器は、反転偏向器セットとしてさらに動作するように構成されている、請求項9又は10に記載の質量分析器。
【請求項13】
前記少なくとも1つの入射偏向器は、
請求項4に記載の少なくとも1つの抽出偏向器をさらに操作するように、かつ前記第2の反転偏向器セットとしてさらに動作するように構成されている、請求項10に記載の質量分析器。
【請求項14】
少なくとも1つの上記の偏向器は、前記3D参照軌道が部分電極によって囲まれていない、前記3D参照軌道に沿った位置に配置されている、請求項1から13のいずれかに記載の質量分析器。
【請求項15】
前記質量分析器は、イオンを前記3D参照軌道に向けて収束させるように構成された1乃至複数の収束レンズ電極を含み、少なくとも1つの上記の偏向器は、収束レンズ電極内に配置されている、請求項1から14のいずれかに記載の質量分析器。
【請求項16】
質量分析装置であって、
異なる初期座標及び速度を有するイオンを生成するためのイオン源、
請求項1から15のいずれかに記載の質量分析器であって、前記入射インターフェースは、前記イオンが前記3D参照軌道に沿って導かれるように、前記イオン源によって生成されたイオンを前記入射開口部を介して前記質量分析器に入射するように構成されている、質量分析器、
前記イオンが前記3D参照軌道に沿って導かれた後、前記イオン源によって生成されたイオンを検出するためのイオン検出器、を有する、質量分析装置。
【請求項17】
質量分析装置で使用するための質量分析器であって、
2D参照面の軌道に沿ってイオンを導くのに適した静電場を前記2D参照面に提供するために空間的に配置された部分電極のセットであって、前記部分電極のセットは前記
2D参照面に局所的に直交するドリフト経路に沿って延設されるため、使用時に、前記部分電極のセットは3D静電場領域を提供する、部分電極のセット、及び
前記質量分析器から抽出されたイオンが、ドリフト中に前記ドリフト経路に沿って前記質量分析器内でイオンが複数の周回を実行する3D参照軌道に沿って前記3D静電場領域によって導かれた後に、抽出開口部を介して前記イオンを前記質量分析器から抽出するように構成された抽出インターフェースであって、
前記2D参照面に投影された各周回は前記2D参照面の完結した軌道に対応する、抽出インターフェースを有し、
前記抽出インターフェースは、前記質量分析器内に配置された少なくとも1つの抽出偏向器を含み、前記少なくとも1つの抽出偏向器は、前記3D参照軌道に従うイオンを前記ドリフト経路の方向に偏向するように構成され、前記抽出偏向器は、前記3D参照軌道と前記抽出開口部との間の距離を増大させるように、前記3D参照軌道に従うイオンを前記ドリフト経路の方向に偏向するように構成されている、質量分析器。
【請求項18】
質量分析装置であって、
異なる初期座標及び速度を有するイオンを生成するためのイオン源、
請求項
17に記載の質量分析器であって、前記イオン源によって生成されたイオンを前記3D参照軌道に沿って導くように構成されている質量分析器、
前記イオンが前記3D参照軌道に沿って移動し、前記抽出インターフェースによって前記抽出開口部を介して前記質量分析器から抽出された後に、前記イオン源によって生成されたイオンを検出するためのイオン検出器、を有する、質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
2D参照面の軌道に沿ってイオンを導くのに適した静電場を該2D参照面に提供するために空間的に配置された部分電極のセットであって、該部分電極のセットは前記参照面に局所的に直交するドリフト経路に沿って延設されるため、使用時に、前記部分電極のセットは3D静電場領域を提供する、部分電極のセット、及び
質量分析器に入射されたイオンが、ドリフト中にドリフト経路に沿って質量分析器内でイオンが複数回周回を実行する3D参照軌道に沿って3D静電場領域によって導かれるように、入射開口部を介してイオンを質量分析器に入射するように構成された入射インターフェースであって、各周回は前記2D参照面の完結した軌道に対応する、入射インターフェース、
を含む質量分析器があることが知られている。
【0003】
このような質量分析器は、米国特許第9082602号(例えば
図4参照、ここでは前記ドリフト経路は前記参照面に含まれる参照軸の周りで曲がっていることに注意)、「A High Resolution Multi-turn TOF Mass Analyser」、V.Shchepunov、et al、SHIMADZU REVIEW、Vol.72、[3.4](2015年)(例えば
図6参照、ここではドリフト経路が曲がっていることに注意)、米国特許第7504620号(例えば
図5参照、ここではドリフト経路が線形であることに注意)、国際公開第2011/086430号(例えば
図11参照、ここではドリフト経路は線形であることに注意)、及び国際公開第2018/033494号(例えば
図6参照、ここではドリフト経路は線形であることに注意)に開示されている。
【0004】
米国特許第9082602号は、イオンが質量分析器に入射されたり、質量分析器から抽出されたりするために存在するメイン部分電極の開口部(これらの開口部は「入射開口部」及び「抽出開口部」とも呼ばれる)によって引き起こされる電場の歪みを補償するために、回路基板(「PCB」)上の一連のワイヤトラックの形の「フリンジ電場修正部」を使用することを提案している(
図15A、15C、15D;36ページ、26段60行~27段;33段31~46行参照)。ただし、小さいサイズの質量分析器、又はドリフト経路の方向に高い周回密度で動作する質量分析器では、一部又は全てのイオンが通るのがPCBのフリンジ電場修正部の表面から近すぎて、電場が歪む場合がある。入射時に、このような歪みはビームのタイミング特性を低下させ、質量分解能と分析器の伝送効率を低下させる可能性がある。入射と抽出両方のPCBフリンジ電場修正部の影響による抽出開口部での追加の損失により、抽出効率も低下する可能性がある。また、PCB修正部の位置合わせ及び/又は製造精度が不完全だと、同様に伝送及び分解能が低下する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の考察に照らして考案された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
質量分析装置で使用するための質量分析器であって、
2D参照面の軌道に沿ってイオンを導くのに適した静電場を前記2D参照面に提供するために空間的に配置された部分電極のセットであって、前記部分電極のセットは前記参照面に局所的に直交するドリフト経路に沿って延設されるため、使用時に、前記部分電極のセットは3D静電場領域を提供する、部分電極のセット、及び
前記質量分析器に入射された前記イオンが、ドリフト中に前記ドリフト経路に沿って前記質量分析器内でイオンが複数の周回を実行する3D参照軌道に沿って前記3D静電場領域によって導かれるように、前記入射開口部を介してイオンを質量分析器に入射するように構成された入射インターフェースであって、各周回は前記2D参照面の完結した軌道に対応する、入射インターフェースを有し、
前記入射インターフェースは、前記質量分析器内に配置された少なくとも1つの入射偏向器を含み、前記少なくとも1つの入射偏向器は、前記質量分析器に入射されたイオンを前記ドリフト経路の方向に偏向するように構成され、前記入射インターフェースは、好ましくは、前記3D参照軌道に沿って導かれるイオンが、前記質量分析器への入射後、前記入射開口部の周囲の電場の歪みによって実質的に影響を受けないように、前記入射開口部から十分に離れて維持されるように構成される、質量分析器を提供する。
【0007】
このようにして、入射インターフェースの少なくとも1つの偏向器は、質量分析器への入射後にイオンが入射開口部に近づきすぎないようにするのに役立ち(例えば、質量分析器の最初の周回の完結前後)、したがって、前記イオンが入射開口部の周囲の、例えば入射開口部又は入射開口部の近くに配置されたフリンジ電場修正部によって発生する電場の歪みの影響を受けないようにするのに役立つ。これは、例えば、ビームタイミング特性、質量分解能、及び/又は伝送効率の改善に役立つ。
【0008】
ここで、上記の定義は、イオンが質量分析器に入射された後、つまりイオンが質量分析器に導入された後、好ましくは質量分析器内での最初の半周回が完結した後、イオンが入射開口部から十分に離れていることを指すことに注意されたい。これは、イオンは入射開口部から質量分析器に導入されているとき、明らかに入射開口部に非常に近いためである。
【0009】
誤解を避けるために、イオンが本明細書で「ドリフト経路の方向に」偏向されると記載されている場合、イオンは、ドリフト経路の方向に前方又は後方のいずれかに偏向され得る。
【0010】
典型的な質量分析器の場合、3D参照軌道に沿って導かれたイオンが、質量分析器に入射された後、入射開口部の周囲の電場の歪みの影響を実質的に受けないように、入射インターフェースは、3D参照軌道が入射開口部から1つの「電極ギャップ」(より好ましくは少なくとも2つの電極ギャップ、より好ましくは少なくとも3つの電極ギャップ)よりも近くならないように構成されることが好ましい(例えば、質量分析器内での最初の周回の完結時、及び好ましくは、前記イオンが質量分析器内での最初の半周回を完結した後、イオンに対応する3D参照軌道上の全ての場所において)。ここで、「電極ギャップ」は、質量分析器内での最初の周回の完結時にイオンが到達するギャップを画定する内部電極と外部電極との間の距離として定義できる。これらの内部及び外部電極は、例えば、静電部分を規定する部分電極であってもよく、又は電場フリー領域を規定する電極であってもよい。
【0011】
典型的な器具の場合、電極ギャップは、例えば、20mmであり得る。したがって、一部の実施形態では、入射インターフェースは、好ましくは、3D参照軌道が入射開口部から20mm(より好ましくは40mm)より近くならないように構成される(例えば、質量分析器内での最初の周回の完結時)が、もちろんこの距離は機器によって異なる。
【0012】
フリンジ電場修正部を使用する場合、距離は短くなり、例えば入射インターフェースは、例えば質量分析器内での最初の周回の完結時に、3D参照軌道が入射開口部(好ましくは、フリンジ電場修正部も)から10mmより近くならないように構成されてもよく、もちろんこの距離は、例えばフリンジ電場修正部の構成、電極ギャップサイズなどに応じて機器によって異なる。
【0013】
もちろん、質量分析器は、通常、上記で言及した部分電極に加えて、レンズ及び他の補助電極を含む。
【0014】
好ましくは、入射偏向器は、質量分析器に入射されたイオンをドリフト経路の方向に偏向して、3D参照軌道と入射開口部との間の距離が増加するように、すなわち、前記イオンを前記質量分析器に入射した後に3D参照軌道に沿って導かれるイオンが、少なくとも1つの入射偏向器がない場合よりも(例えば、質量分析器での最初の周回の完結時に)入射開口部の近くを通らないように構成される。つまり、3D参照軌道が入射開口部に到達する最も近い距離(入射時以外)は、少なくとも1つの入射偏向器がない場合よりも大きくする必要がある。これは、3D参照軌道に沿って導かれるイオンが質量分析器への入射後、入射開口部の周囲の電場の歪みによって実質的に影響を受けないように、入射インターフェースを入射開口部から十分に離れて維持されるように構成できる1つの方法である。
【0015】
あるいは、入射インターフェースは、イオンが質量分析器に初期軌道で入射されるように構成することができ、その結果、イオンは、入射開口部の周りの電場の歪みによって実質的に影響を受けず(例えば、隣接する周回間の距離が比較的長い)、少なくとも1つの入射偏向器は、質量分析器内での後続の周回を(少なくとも1つの入射偏向器がない場合よりも、
図7参照)互いに近づけるように構成される。これは、3D参照軌道に沿って導かれるイオンが質量分析器への入射後に、入射開口部の周囲の電場の歪みによって実質的に影響を受けないように、入射インターフェースを入射開口部から十分に離れて維持するように構成できる別の方法である。
【0016】
各「周回」は2D参照フレームの完結した軌道に対応するが、実際には、イオンは2D参照面の軌道を完結しない、これは、イオンがドリフト経路に沿ってドリフトし、開いた3D参照軌道に従うからである。例えば、2D参照フレームの完結した軌道が円に対応し、ドリフト経路が線形である場合、3D参照軌道は(2D円ではなく)らせん形状になる。
【0017】
また、米国特許第9082602号の
図16Aに示す偏向器は、質量分析器の外側に配置された外部偏向器であるため、本発明の第1の態様による入射偏向器として動作することができないことに留意されたい。
【0018】
また、米国特許第9082602号の
図16Bと、「A High Resolution Multi-turn TOF Mass Analyser」(V.Shchepunov et al、SHIMADZU REVIEW、Vol.72、[3.4](2015年))の
図6は両方とも質量分析器内に設置された反転偏向器を使用しているが、これらの反転偏向器は、3D参照軌道と入射開口部との間の距離を増大させるためには使用されず(イオンがこれらの反転偏向器によって反転される前に入射開口部の近くをすでに通っているため)、そのためこれらの反転偏向器は、明らかに、本発明の第1の態様による入射偏向器として動作するように構成されていない。
【0019】
当技術分野で知られているように、部分電極は、間に静電場を生成するために、印加された異なるポテンシャルを有する少なくとも2つの電極として理解することができ(通常、この静電場は、イオンが従う所定の参照軌道に対して局所的に垂直である)、異なるポテンシャルにある少なくとも2つの部分電極間を通る曲がった所定の参照軌道に沿ってイオンを導く。このように配置された少なくとも2つの部分電極は、「静電部分」と呼ばれてもよい。通常、この所定の参照軌道は2D軌道であるが、本発明によれば、部分電極はドリフト経路に沿って延設され、所定の軌道はドリフト経路に沿ってイオンがドリフトする3D参照軌道である。このような3D参照軌道に沿ってイオンを導く質量分析器は、米国特許第9082602号(例えば
図4参照、ここではドリフト経路は参照面に含まれる参照軸の周りを曲がっていることに注意)、米国特許第7504620号(例えば
図5参照、ドリフト経路は線形であることに注意)、国際公開第2011/086430号(例えば
図11参照、ここでドリフト経路は線形であることに注意)、及び国際公開第2018/033494号(例えば
図6参照、ここでドリフト経路は線形であることに注意)に開示されている。
【0020】
好ましくは、少なくとも1つの入射偏向器は、質量分析器に入射されたイオンを、質量分析器内でこれらのイオンが最初の3周回を完結する前に、より好ましくはこれらのイオンが最初の2周回を完結する前に、より好ましくはこれらのイオンが最初の周回を完結する前に、より好ましくはこれらのイオンが最初の半周回を完結する前に、ドリフト経路の方向に偏向するように構成される。
【0021】
3D参照軌道の隣接する周回を、飛行経路の大部分で密に収容しながらも、イオンが入射開口部の周囲の電場の歪みの影響を実質的に受けないように、イオンを入射開口部から十分に離して維持するために、質量分析器に入射されるイオンの飛行経路において適切に早い段階で入射偏向器を使用する必要があるため、これは重要である。
【0022】
ここで、「最初の周回」とは、イオンが質量分析器に入射された後、3D参照軌道に沿って移動するイオンによって完結する最初の周回を指す。同様に、「最初の2周回」とは、イオンが質量分析器に入射された後、3D参照軌道に沿って移動するイオンによって完結する最初の2周回を指す。以下、同様である。
【0023】
最も好ましくは、少なくとも1つの入射偏向器は、好ましくは、最初の周回を完結する偏向されたイオンと入射開口部との間の距離を増大させるように、質量分析器内に入射されたイオンを、これらのイオンが質量分析器内での最初の周回を完結する前に(例えば、最初の半周回内又は次の半周回内の位置で)、ドリフト経路の方向に偏向するように構成される。これは、3D参照軌道と入射開口部との間の距離を広げるのに最も便利なルートである。ただし、少なくとも1つの入射偏向器は、(例えば)2番目又は3番目の周回内に配置でき、例えばドリフト角度(ピッチ)は、
図7に示すように、入射偏向器の前では大きく(最初の周回内の入射開口部付近の電場の歪みを回避できる)、入射偏向器の後では小さくなる。本明細書の開示を考慮して、様々な構成が当業者によって想定され得る。
【0024】
好ましくは、ドリフト経路は曲がっている。より好ましくは、ドリフト経路は2D参照面にある参照軸の周りで曲がっている。そのようなドリフト経路を実装する質量分析器は、例えば、米国特許第9082602号に開示されている(例えば、
図4参照)。
【0025】
他の実施形態では、ドリフト経路は、線形、すなわち、直線に沿って延びるものであってもよい。この場合、特定のm/z値のイオンの場合、イオンが3D参照軌道に沿って移動すると、2D参照面は直線に沿って移動する(これによりドリフト経路の方向に移動する)。そのようなドリフト経路を実装する質量分析器は、例えば米国特許第7504620号に開示されている(例えば
図5参照)。
【0026】
他のドリフト経路も想定されるが、実装が困難な場合がある。
【0027】
部分電極のセットは、様々な形状を有する可能性のある2D参照面内の軌道に潜在的に沿ってイオンを導くのに適した静電場を2D参照面内に提供するように空間的に配置され得る。例えば、軌道は、例えば2D参照面での周期的な動きに対応する、O字型(円形、楕円形など)、8の字型、又は別の経路であり得る。
【0028】
誤解を避けるために、入射インターフェースに入射偏向器を1つだけ含めることができる(例えば、
図2A参照)。しかしながら、例えば反転偏向器を含むより複雑な3D参照軌道の場合(例えば、
図4A参照)、複数の入射偏向器が使用されてもよい。
【0029】
質量分析器は、質量分析器から抽出されるイオンが3D参照軌道に沿って3D静電場領域によって導かれた後、抽出開口部を介して質量分析器からイオンを抽出するように構成される抽出インターフェースを含み得る。
【0030】
好ましくは、抽出インターフェースは、質量分析器内に配置された少なくとも1つの抽出偏向器を含み、少なくとも1つの抽出偏向器は、3D参照軌道に従うイオンをドリフト経路の方向に偏向するように構成され、抽出インターフェースは、3D基準軌道に沿って導かれるイオンが、質量分析器から抽出される前に、抽出開口部の周囲の電界の歪みの影響を実質的に受けないように、抽出開口部から十分に離れて維持されるように構成されることが好ましい。
【0031】
より好ましくは、抽出偏向器は、質量分析器内の3D参照軌道に従うイオンをドリフト経路の方向に偏向して、3D参照軌道と抽出開口部との間の距離が増加するように、すなわち、前記イオンを質量分析器から抽出する前に3D参照軌道に沿って導かれるイオンが、少なくとも1つの抽出偏向器がない場合よりも(例えば、質量分析器での最後の周回の開始時に)抽出開口部の近くを通らないように構成される。つまり、3D参照軌道が抽出開口部に到達する最も近い距離(抽出時以外)は、少なくとも1つの抽出偏向器がない場合よりも大きくする必要がある。これは、3D参照軌道に沿って導かれるイオンが質量分析器からの抽出前に、抽出開口部の周囲の電場の歪みによって実質的に影響を受けないように、抽出インターフェースを抽出開口部から十分に離れて維持されるように構成できる望ましい方法である。
【0032】
このようにして、少なくとも1つの抽出偏向器は、質量分析器からのイオンの抽出前に(例えば、最後の周回の開始時に)イオンが抽出開口部に近づきすぎないようにするのに役立ち、したがって、前記イオンが抽出開口部の周囲の、例えば抽出開口部又は抽出開口部の近くに配置されたフリンジ電場修正部によって発生する電場歪みの影響を受けないようにするのに役立つ。これは、ビームのタイミング特性、質量分解能、及び抽出効率の向上に役立つ。
【0033】
ここで、上記の定義は、イオンが質量分析器から抽出される前、つまりイオンが質量分析器から抽出される前、好ましくは質量分析器内での最後の周回を開始する前、イオンが抽出開口部から十分に離れていることを指すことに注意されたい。これは、イオンは抽出開口部を通って質量分析器から抽出されているとき、明らかに抽出開口部に非常に近いためである。
【0034】
典型的な質量分析器の場合、3D参照軌道に沿って導かれたイオンが、質量分析器から抽出される前、抽出開口部の周囲の電場の歪みの影響を実質的に受けないように、抽出インターフェースは、3D参照軌道が抽出開口部から1つの「電極ギャップ」(より好ましくは少なくとも2つの電極ギャップ、より好ましくは少なくとも3つの電極ギャップ)よりも近くならないように構成されることが好ましい(例えば、質量分析器内での最後の周回の開始時、及び好ましくは、前記イオンが質量分析器内での最後の半周回を開始する前、イオンに対応する3D参照軌道上の全ての場所において)。ここで、「電極ギャップ」は、質量分析器内での最後の周回の開始時にイオンが到達するギャップを画定する内部電極と外部電極との間の距離として定義できる。これらの内部及び外部電極は、例えば、静電部分を規定する部分電極であってもよく、又は電場フリー領域を規定する電極であってもよい。
【0035】
典型的な器具の場合、電極ギャップは、例えば、20mmであり得る。したがって、一部の実施形態では、抽出インターフェースは、好ましくは、3D参照軌道が抽出開口部から20mm(より好ましくは40mm)より近くならないように構成される(例えば、質量分析器内での最後の周回の開始時)が、もちろんこの距離は機器によって異なる。
【0036】
フリンジ電場修正部を使用する場合、距離は短くなり、例えば抽出インターフェースは、例えば質量分析器内での最後の周回の開始時に、3D参照軌道が抽出開口部(好ましくは、フリンジ電場修正部も)から10mmより近くならないように構成されてもよく、もちろんこの距離は、フリンジ電場修正部の構成、電極ギャップサイズなどに応じて機器によって異なる。
【0037】
一部の実施形態では、(3D参照軌道に沿って移動するイオンを検出するための)イオン検出器が質量分析器内に配置され得るため、抽出インターフェースは、本発明のこの態様の必須の特徴ではない。
【0038】
誤解を避けるために、抽出インターフェースに抽出偏向器を1つだけ含めることができる(例えば、
図2A参照)。しかしながら、例えば反転偏向器を含むより複雑な3D参照軌道の場合(例えば、
図4A参照)、複数の抽出偏向器が使用されてもよい。
【0039】
好ましくは、少なくとも1つの抽出偏向器は、質量分析器から抽出されるイオンを、質量分析器内でこれらのイオンが最後の3周回を開始した後に、より好ましくはこれらのイオンが最後の2周回を開始した後に、より好ましくはこれらのイオンが最後の周回を開始した後に、より好ましくはこれらのイオンが最後の半周回を開始した後に、ドリフト経路の方向に偏向するように構成される。
【0040】
3D参照軌道の隣接する周回を、飛行経路の大部分で密に収容しながらも、イオンが抽出開口部の周囲の電場の歪みの影響を実質的に受けないように、イオンを抽出開口部から十分に離して維持するために、質量分析器に入射されるイオンの飛行経路において適切に遅い段階で抽出偏向器を使用する必要があるため、これは重要である。
【0041】
本明細書において「最後の周回」とは、イオンが質量分析器から抽出される前に、3D参照軌道に沿って移動するイオンによって完結する最後の(最終)周回を指す。同様に、「最後の2周回」とは、イオンが質量分析器から抽出される前に、3D参照軌道に沿って移動するイオンによって完結する最後の2周回を指す。以下、同様である。
【0042】
最も好ましくは、少なくとも1つの抽出偏向器は、好ましくは、最後の周回に入る偏向されたイオンと抽出開口部との間の距離を増大させるように、質量分析器内から抽出されるイオンを、これらのイオンが質量分析器内での最後の周回を開始した後に(例えば、最後の半周回内又はその前の半周回内の位置で)、ドリフト経路の方向に偏向するように構成される。これは、3D参照軌道と抽出開口部との間の距離を広げるのに最も便利なルートである。ただし、少なくとも1つの抽出偏向器は、(例えば)最後の周回から2番目又は最後の周回から3番目に配置でき、例えばドリフト角度(ピッチ)は、抽出偏向器の後で大きく(最後の周回内の抽出開口部付近の電場の歪みを回避できる)、抽出偏向器の前では小さくなる。本明細書の開示を考慮して、様々な構成が当業者によって想定され得る。
【0043】
入射開口部及び抽出開口部は、同じ開口部であり得る(図示はしていない)。
【0044】
好ましくは、少なくとも1つの入射偏向器は、少なくとも1つの抽出偏向器として使用され(例えば、
図4A参照)、この場合、少なくとも1つの入射偏向器は、少なくとも1つの入射/抽出偏向器と呼ばれる。そのような配置は、反転偏向器セットを含む質量分析器によって達成することができる(以下で論じられるように、例えば
図4A参照)。このような配置では、少なくとも1つの入射偏向器及び少なくとも1つの抽出偏向器の両方として機能する同じ偏向器は、第2の反転偏向器セットとして機能することもできる(
図4A参照)。
【0045】
ドリフト経路が参照軸の周りで曲がっている場合、3D参照軌道は、参照軸に垂直な平面に投影された、参照軸から3D参照軌道の隣接する周回の対応する頂点まで延びる直線を使用して測定された角度が10度未満、より好ましくは7度以下、より好ましくは6度以下、又は場合によっては5度以下、4度以下、又はさらには3度以下である、少なくとも1組の隣接する周回を含むことが望ましい。所定の組の隣接する周回のこの角度は、隣接する周回間の「ドリフト角」又は「ピッチ」と呼ばれる場合がある。好ましくは、この基準を満たす隣接する周回の組が少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20存在する。誤解を避けるために、各組に含まれる隣接する周回は、1つの組に限定される必要はない。この基準を満たす周回の組は、3D参照軌道上で、入射インターフェースの後及び/又は抽出インターフェースの前に配置できる。
【0046】
本明細書では、平面に投影されたときの3D参照軌道の「頂点」は、極値点、例えば投影の最小値、最大値として理解することができる。
【0047】
ドリフト経路が線形である場合、3D参照軌道は、2D参照面に垂直な平面に投影された、3D参照軌道の3つの連続する(3D参照軌道に沿って互いに続く)頂点間で延びる直線を使用して測定された角度が5度未満、より好ましくは3.5度以下、より好ましくは3度以下、又は場合によっては2.5度以下、2度以下、又はさらには1.5度以下である、少なくとも1つの周回を含むことが望ましい。所与の周回のこの角度は、周回の「ドリフト角」又は「ピッチ」と呼ばれる場合がある。ここではドリフト角が2つの隣接する周回間ではなく、個々の周回によって規定されるため、ここで指定された値は、曲がっているドリフト経路の場合に与えられた値と比較して半分になる。2D参照面に垂直な多くの可能な平面があり、これらの可能な平面のいずれか(好ましくは、そのような平面の所定の1つ)が上記の規定に従って選択され得ることにも留意されたい。好ましくは、この基準を満たす周回が少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20存在する。この基準を満たす周回は、3D参照軌道上で、入射インターフェースの後及び/又は抽出インターフェースの前に配置できる。
【0048】
質量分析器は、反転偏向器セットを含むことができ、前記反転偏向器セットは、イオンが前記ドリフト経路に沿ってドリフトする方向を反転させるように構成された1乃至複数の反転偏向器を含み、その結果、前記反転偏向器セットに向かってドリフトするイオンは、前記入射インターフェースに向かって逆方向にドリフトする。
【0049】
このようにして、イオンは、質量分析器の2つの「パス」を完結するようにできる。各「パス」は、「前方」方向(これに従ってイオンは反転偏向器に向かってドリフトする)又は「後方」方向(これに従ってイオンは反転偏向器セットから離れるようにドリフトする)いずれかによる所定の3D参照軌道の完結である。
【0050】
質量分析器が反転偏向器セットを含む場合、便利には、
図4Aに示す例の場合と同様に、少なくとも1つの入射偏向器は、(適切な時間に少なくとも1つの入射/抽出偏向器に異なる電圧を印加することにより)少なくとも1つの抽出偏向器として動作するように追加構成できる。
【0051】
質量分析器は、第2の反転偏向器セット(この場合前の段落で説明した反転偏向器セットを「第1」の反転偏向器セットと呼ぶ場合がある)を含むことができ、第2の反転偏向器セットは、イオンがドリフト経路に沿ってドリフトする方向を反転させるように構成された1乃至複数の反転偏向器を含み、その結果、第2の反転偏向器セットに向かってドリフトするイオンは、第1の反転偏向器セットに向かって逆方向にドリフトする。
【0052】
このようにして、イオンは、質量分析器の3つ以上の「パス」を完結するようにできる。
【0053】
便利には、少なくとも1つの入射偏向器は、(少なくとも1つの入射偏向器に異なる電圧を適切な回数印加することにより)第2の反転偏向器セットとしてさらに動作するように構成できる。言い換えれば、1乃至複数の偏向器を、少なくとも1つの入射偏向器及び第2の反転偏向器セットとして使用することができる。これにより、質量分析器に含まれる偏向器の数を減らすことができる。
【0054】
便利には、少なくとも1つの抽出偏向器(存在する場合)は、(少なくとも1つの抽出偏向器に異なる電圧を適切な回数印加することにより)反転偏向器セットとしてさらに動作するように構成できる。言い換えれば、1乃至複数の偏向器を、少なくとも1つの抽出偏向器及び反転偏向器セットとして使用することができる。これにより、質量分析器に含まれる偏向器の数を減らすことができる。好ましくは、少なくとも1つの抽出偏向器は、第2の反転偏向器セットとしてさらに動作するように構成されるが、代替的に、少なくとも1つの抽出偏向器が代わりに第1の反転偏向器セットとしてさらに動作することが可能である。
【0055】
好ましい構成では、少なくとも1つの入射偏向器は、
図4Aに示す例の場合と同様に、少なくとも1つの抽出偏向器として、及び逆偏向器セットとして(適切な時間に少なくとも1つの入射/抽出偏向器に異なる電圧を印加することにより)さらに動作するように構成される。言い換えれば、1乃至複数の偏向器を、少なくとも1つの入射偏向器、少なくとも1つの抽出偏向器、及び第2の反転偏向器セットとして使用することができる。これにより、質量分析器に含まれる偏向器の数を減らすことができる。好ましくは、少なくとも1つの入射/抽出偏向器は、第2の反転偏向器セットとしてさらに動作するように構成されるが、代替的に、少なくとも1つの入射/抽出偏向器が代わりに第1の反転偏向器セットとしてさらに動作することが可能である。
【0056】
各反転偏向器セットは、任意選択でドリフト経路に沿ってドリフトするイオンの速度を変更できるが、好ましくはドリフト経路に沿ってイオンがドリフトする方向を変更するだけである(ドリフト方向の3D参照軌道の収容を同じに保つため)。
【0057】
上記の任意の偏向器は一般に、ドリフト経路の方向にイオンを偏向するように構成された少なくとも1つ(好ましくは2つ)の電極を含むことができる。
【0058】
上記の任意の偏向器(任意選択で上記の各偏向器)は、参照軌道とドリフト経路の方向(本明細書では「ドリフト方向」と呼ばれる)とに局所的に垂直な横方向(本明細書では「横方向」と呼ぶ)にイオンを偏向するように構成された追加の電極を含むことができる。イオンを横方向に偏向できることは、部分電極のセットのアラインメントエラーを補償するためにイオンを導く場合、又は収束レンズ電極に偏向器を埋め込む場合に役立つことがある。もちろん、横方向とドリフト方向はどちらも参照軌道に対して横方向である。
【0059】
イオンを所定の方向に偏向させることができる偏向器はよく知られており、各偏向器の正確な形状は、本発明にとって特に重要であるとは見なされていない。
【0060】
例として、上記の任意の偏向器(任意選択で、上記の各偏向器)は、(適切な電圧を印加することにより)ドリフト経路の方向にイオンを偏向するように構成された一組の平行板を含むことができ、イオンを横方向に偏向するように構成された追加の組の平行板を含む。
【0061】
例として、上記の任意の偏向器(任意選択で、上記の各偏向器)は、(適切な電圧を印加することにより)ドリフト経路の方向にイオンを偏向するように構成された多重極であってもよく、任意選択で(適切な電圧を印加することにより)イオンを横方向に偏向するようにさらに構成することができる。
【0062】
3D参照軌道は、3D参照軌道が部分電極のセットに含まれる部分電極によって囲まれる電場領域と、3D参照軌道が部分電極のセットに含まれる部分電極によって囲まれない電場フリー領域とを含むことが好ましい。2D参照面内でイオンの方向を変えるために部分電極が一般に必要とされるので、電場領域は、2D参照面への3D参照軌道の投影が曲がっている領域であり得る。
【0063】
もちろん、一般的に言えば、他の場所で生成された電場は一般に電場フリー領域に漏れるので、「電場フリー」領域には比較的電場がないにすぎない(そのような漏れた電場はいわゆる「フリンジ電場」として知られている。これは確立された用語の一部である)。
【0064】
好ましくは、3D参照軌道を囲む部分電極間に偏向器を配置することが実際には非常に難しいため、上記の任意の偏向器(任意選択で上記の各偏向器)は、(それぞれ)3D参照軌道が部分電極に囲まれていない3D参照軌道に沿った位置(すなわち、3D参照軌道の電場フリー領域)に配置される。
【0065】
質量分析器は、イオンを3D参照軌道に向けて収束させるように構成された1乃至複数の収束レンズ電極を含み得る。上記の任意の偏向器(任意選択で、上記の各偏向器)は、(それぞれの)収束レンズ電極内に配置されてもよい。
【0066】
上記の任意の偏向器(任意選択で、上記の各偏向器)は、部分電極のセットにおけるアラインメントエラーを補償するためにイオンを導くように構成され得る。この場合、部分電極のセットにおけるアラインメントエラーを補償するためにイオンを導くように構成された前記/各偏向器は、ドリフト経路の方向にイオンを偏向するように構成された少なくとも2つ(好ましくは4つ)の電極と、参照軌道及びドリフト経路に対して局所的に垂直な横方向にイオンを偏向させるように構成された少なくとも2つ(好ましくは、4つの)追加の電極とを含むことが好ましい。
【0067】
3D参照軌道は、全てのm/z値のイオンについて同じである単一の3D参照軌道であることが好ましい。
【0068】
ここで、異なる初期座標及び速度を有するイオンは全て単一の所定の3D参照軌道に沿って導かれることが好ましいが、イオンは、例えば初期位置又は速度のわずかな変動により、実際にはその軌道からわずかに逸脱する場合があることを理解されたい。
【0069】
3D参照軌道は、始点と終点の間を延設されるものとして規定されてもよい。3D参照軌道の始点は、イオン源の外側又は内側の位置として規定できる。この点は、通常、イオン源(存在する場合)の外側で、質量分析器の外側になる。3D参照軌道の終点は、所定の3D参照軌道に沿って導かれたイオンを検出するためのイオン検出器における又はその近くの位置として規定され得る。この点は、質量分析器の外側でも内側でもかまわない。
【0070】
好ましくは、電極のセットは、ドリフト収束を提供するように構成されたドリフト収束電極を含み、例えば所定の3D参照軌道に沿った1乃至複数の場所でドリフト経路の方向にイオンを収束する。好ましくは、ドリフト収束電極によるイオンの収束は、3D参照軌道に沿った1乃至複数の場所で3D参照軌道に向かう。これは、イオンを所定の3D参照軌道に近く維持するのに役立ち(例えば、
図14B参照)、等時性を達成するのにも役立つ(例えば、米国特許第9082602号で詳細に説明されているように)。
【0071】
好ましくは、ドリフト収束電極は、そのポテンシャルがドリフト経路の方向に収束を生成する非ゼロ二次導関数及び/又は高次導関数を有する静電場を生成することによってドリフト収束を提供するように構成される。ドリフト収束電極の例示的な形態は、例えば、米国特許第9082602号に示されている。
【0072】
3D参照軌道は、開軌道又は閉軌道であり得る。この文脈において、「閉じた」3D参照軌道は、好ましくは、3D参照軌道に沿って移動する参照イオンが実質的に同じ速度で実質的に同じ点に戻る軌道を指す。逆に、「開いた」3D参照軌道は、好ましくは、3D参照軌道に沿って移動する参照イオンが実質的に同じ速度で実質的に同じ点に戻らない軌道を指す。
【0073】
質量分析器は、TOF質量分析器及び/又はE-Trap質量分析器として構成され得る。TOF質量分析器は、質量分析器を通過する飛行時間が質量電荷比に依存するため、イオンを質量電荷比に従って分離するための質量分析器と見なすことができる。E-Trap質量分析器は、1乃至複数の軌道にイオンをトラップするための質量分析器と見なすことができる。E-Trap質量分析装置では、イメージング画像電流検出技術を使用して、イオンの質量電荷比を測定できる。
【0074】
質量分析器がTOF質量分析器として構成されている場合、所定の3D参照軌道は、開いていても閉じていてもよい。閉じた所定の参照軌道を有することは、イオンがTOF質量分析器内を移動する経路長を延設するために有利であり得る。
【0075】
質量分析器は、イオンが、閉じた部分を有する所定の3D参照軌道に沿って導かれる「マルチパス」動作モードを有するように構成されてもよく、イオンは所定の3D参照軌道の閉じた部分を複数回繰り返し、これにより、全体の飛行時間が増加する。ここで、3D参照軌道の繰り返される閉じた部分は、それぞれ「パス」と見なすことができる。マルチパス動作モードは、例えば、上記のような反転偏向器を使用して達成することができる。
【0076】
本発明の第1の態様は、
異なる初期座標及び速度を有するイオンを生成するためのイオン源、
本発明の第1の態様による質量分析器であって、前記入射インターフェースは、前記イオンが前記3D参照軌道に沿って導かれるように、前記イオン源によって生成されたイオンを前記入射開口部を介して前記質量分析器に入射するように構成される質量分析器、
前記イオンが前記3D参照軌道に沿って導かれた後、前記イオン源によって生成されたイオンを検出するためのイオン検出器、を有する質量分析装置を提供することができる。
【0077】
質量分析器が抽出インターフェース(上記参照)を含む場合、イオン検出器は、イオンが抽出開口部を介して抽出インターフェースによって質量分析器から抽出された後にイオンを検出するためのものであり得る。あるいは、イオン検出器は、質量分析器内に配置され得る。
【0078】
質量分析装置は、イオン検出器の出力に基づいて、イオン源によって生成されたイオンの質量/電荷比を表すマススペクトルデータを取得するための処理装置を有することができる。
【0079】
イオン源は、真空イオン化源又は大気圧イオン源を含むことができる。
【0080】
好ましくは、イオン源は、例えばイオンの各バンチ(集団)が短い時間周期で、例えば1ナノ秒(又はそれ以下)で生成される、短いバンチ内に異なる初期座標及び速度を有するイオンを生成するように構成される。このようなバンチは、パルスイオン源、例えばMALDIイオン源、又は直交TOFイオン源、2D又は3Dイオントラップ装置を使用することにより生成できる。
【0081】
イオンバンチは、直交ゲート、MALDIイオン源、RFイオンガイド、RFイオントラップのいずれかを使用して選択できる。
【0082】
イオン検出器は、イオン源によって生成されるイオンの(質量分析器を通る)飛行時間を表す出力を生成するための飛行時間型イオン検出器及び/又はイオン源によって生成されたイオンによって引き起こされるイメージング画像電流を表す出力を生成するためのイメージング画像電荷/電流イオン検出器を含むことができる。
【0083】
質量分析器をTOF質量分析器(上記参照)として構成する場合、処理装置は、好ましくは、TOFイオン検出器の出力に基づき、イオン源で生成されたイオンの質量/電荷比を反映するマススペクトルデータを取得するためのものである。この方法でデータを取得する方法は、当技術分野でよく知られている。
【0084】
質量分析器をE-Trap質量分析器(上記参照)として構成する場合、処理装置は、好ましくは、イメージング画像電荷/電流検出器によって取得された、時間ドメインのイメージング画像電荷/電流信号を、例えばフーリエ解析を使用して周波数ドメインに変換した結果に基づいて、イオン源で生成されたイオンの質量/電荷比を反映するマススペクトルデータを取得するためのものである。この方法でデータを取得する方法は、当技術分野でよく知られている。
【0085】
本発明の第2の態様は、
質量分析装置で使用するための質量分析器であって、
2D参照面の軌道に沿ってイオンを導くのに適した静電場を該2D参照面に提供するために空間的に配置された部分電極のセットであって、該部分電極のセットは前記参照面に局所的に直交するドリフト経路に沿って延設されるため、使用時に、前記部分電極のセットは3D静電場領域を提供する、部分電極のセット、及び
前記質量分析器から抽出されたイオンが、ドリフト中にドリフト経路に沿って該質量分析器内でイオンが複数の周回を実行する3D参照軌道に沿って3D静電場領域によって導かれた後に、抽出開口部を介してイオンを該質量分析器から抽出するように構成された抽出インターフェースであって、各周回は2D参照面の完結した軌道に対応する、抽出インターフェースを有し、
前記抽出インターフェースは、前記質量分析器内に配置された少なくとも1つの抽出偏向器を含み、少なくとも1つの抽出偏向器は、前記3D参照軌道に従うイオンを前記ドリフト経路の方向に偏向するように構成され、前記抽出インターフェースは、好ましくは、前記3D参照軌道に沿って導かれるイオンが、前記質量分析器からの抽出前に、抽出開口部の周囲の電場の歪みによって実質的に影響を受けないように、前記抽出開口部から十分に離れて維持されるように構成される、質量分析器を提供する。
【0086】
好ましくは、抽出偏向器は、前記3D参照軌道に従うイオンを前記ドリフト経路の方向に偏向して、前記3D参照軌道と前記抽出開口部との間の距離が増加するように、すなわち、前記イオンを前記質量分析器から抽出する前に前記3D参照軌道に沿って導かれるイオンが、少なくとも1つの抽出偏向器がない場合よりも(例えば、前記質量分析器での最後の周回の開始時に)前記抽出開口部の近くを通らないように構成される。これは、前記3D参照軌道に沿って導かれるイオンが前記質量分析器からの抽出前に、前記抽出開口部の周囲の電場の歪みによって実質的に影響を受けないように、前記抽出インターフェースを前記抽出開口部から十分に離れて維持されるように構成できる望ましい方法である。
【0087】
このようにして、少なくとも1つの抽出偏向器は、前記質量分析器からのイオンの抽出前に(例えば、最後の周回の開始時に)イオンが前記抽出開口部に近づきすぎないようにするのに役立ち、したがって、前記イオンが前記抽出開口部の周囲の、例えば前記抽出開口部又は前記抽出開口部の近くに配置されたフリンジ電場修正部によって発生する電場歪みの影響を受けないようにするのに役立つ。
【0088】
本発明の第2の態様による質量分析器は、本発明の第1の態様に関連して説明したような任意の特徴を有することができる。
【0089】
本発明の第2の態様による質量分析器は、本発明の第1の態様による入射インターフェースを有することができるが、イオン源は質量分析器内に配置できるので、そのようなインターフェースは、本発明のこの第2の態様では任意選択である。
【0090】
質量分析器が入射インターフェース(上記参照)を含む場合、前記入射インターフェースは、イオンが前記3D参照軌道に沿って導かれるように、前記イオン源によって生成されたイオンを前記入射開口部を介して前記質量分析器に入射するように構成できる。あるいは、前記イオン源は、前記質量分析器内に配置され得る。
【0091】
本発明の第2の態様は、
異なる初期座標及び速度を有するイオンを生成するためのイオン源、
本発明の第2の態様による質量分析器であって、前記イオン源によって生成されたイオンを前記3D参照軌道に沿って導くように構成されている質量分析器、
前記イオンが前記3D参照軌道に沿って移動し、前記抽出インターフェースによって前記抽出開口部を介して前記質量分析器から抽出された後に、前記イオン源によって生成されたイオンを検出するためのイオン検出器、を有する質量分析装置を提供することができる。
【0092】
本発明の第2の態様による質量分析装置は、本発明の第1の態様による質量分析装置に関連して説明した任意の特徴を有することができるが、質量分析器は、本発明の第1の態様に関連して説明した入射インターフェースを有する必要がない。
【0093】
本発明は、本明細書に開示されるような質量分析器又は質量分析装置を操作する方法を含むことができる。この方法は、本発明の任意の上記の態様に関連して説明された任意の装置の特徴を実装又はそれに対応する任意の方法ステップを含むことができる。
【0094】
本発明は、本明細書に開示されるような質量分析器を提供するように質量分析器を構成する方法を含むことができる。この方法は、質量分析器の部分電極のセットにおけるアラインメントエラーを補償するように質量分析器の1乃至複数の偏向器を構成するステップを含むことができる。本発明は、そのような組み合わせが明らかに許容されないか又は明示的に回避される場合を除いて、記載された態様及び好ましい特徴の組み合わせを含む。
【0095】
次に、本発明の原理を示す実施形態及び実験について、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1A】米国特許第9082602号の開示を実施する質量分析器。
【
図1B】米国特許第9082602号の開示を実施する質量分析器。
【
図10】入射及び抽出インターフェースの偏向器の別の配置。
【
図13A】円錐形レンズ電極に埋め込まれた偏向器の例。
【
図13B】円錐形レンズ電極に埋め込まれた偏向器の例。
【発明を実施するための形態】
【0097】
次に、本発明の態様及び実施形態を、添付の図面を参照して説明する。さらなる態様及び実施形態は、当業者には明らかになるであろう。この本文で言及されている全ての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0098】
次の例では、質量分析器内に配置された追加の偏向器を使用して、イオンを大きな電場の歪みを引き起こす入射及び抽出開口部からさらに遠くに飛ばしている。これは、分析器の質量分解能の向上に役立つ。
【0099】
さらに、これにより、質量分析器内でイオンによって実行される「周回」の数が増えるため、これも質量分解能の向上に役立つ。
【0100】
最後に、入射及び抽出偏向器を追加のステアリングに使用して、例えば反転偏向器及び/又は小さな抽出開口部におけるイオンの損失を減らすために、主電極の起こり得るアラインメントエラーを補償することができる。これは、伝送効率の向上に役立つ。
【0101】
示されている例では、質量分析器の部分電極に加えて、小さな追加の偏向器が含まれている。これらの例における偏向器の目的は、イオンをドリフト方向に偏向して、入射開口部から最初の周回のイオン軌道まで、及び抽出開口部から最後の周回のイオン軌道までの距離を増大させることである。これは、入射/抽出開口部での電場の歪みが、質量分解能と伝送効率への影響を大幅に低下させることを意味する。イオンを入射開口部(存在する場合)から偏向させるために、少なくとも1つの入射偏向器が必要である。イオンを抽出開口部(存在する場合)から偏向させるために、少なくとも1つの抽出偏向器が必要である。同じ偏向器を入射偏向器と抽出偏向器の両方として使用できる。偏向器は、質量分析器の内部、好ましくは電場のない領域に配置される。あるいは、内部収束レンズ電極に埋め込むこともできる。電場品質の悪い領域を迂回するという主な目的とは別に、主電極の起こり得るアラインメントエラーを補償するために、2つの横方向の追加のステアリングに入射/抽出偏向器を使用することもできる。
【0102】
図1A及び1Bは、米国特許第9082602号の開示を実施する質量分析器を示す。
【0103】
この質量分析器は、
2D参照面の軌道に沿ってイオンを導くのに適した静電場を参照面に提供するために空間的に配置された部分電極のセットであって、部分電極のセットは参照面に局所的に直交するドリフト経路Dに沿って延設されるため、使用時に、部分電極のセットは3D静電場領域を提供する、部分電極のセット、及び
質量分析器に入射されたイオンが、ドリフト中にドリフト経路に沿って質量分析器内でイオンが複数回周回を実行する3D参照軌道に沿って3D静電場領域によって導かれるように、入射開口部を介してイオンを質量分析器に入射するように構成された入射インターフェースであって、各周回は2D参照面の完結した軌道に対応する、入射インターフェース、を含む。
【0104】
図示したように、参照面は、
図1A及び1Bが示されているページに垂直である。
【0105】
図1A及び1Bにおいて、質量分析器1が示されており、イオン10は、入射管3の遠位端の入射開口部3aを介して外部イオン源(図示せず)から入射される。
【0106】
最初の周回の終わりに、イオンは、入射管3の入射開口部3aの近くの領域を通り、その位置で、質量分析器の部分電極によって生成される静電場は、入射管3の存在によって歪められる。
【0107】
したがって、米国特許第9082602号によって教示されるように、PCBフリンジ電場修正部5は、入射開口部3aでの電場歪みを補償するために使用される。このPCBフリンジ電場修正部5は、米国特許第9082602号の
図15Dを参照して、米国特許第9082602号に詳細に記載されている。同様のPCBフリンジ電場修正部も、質量分析器(図示せず)の抽出開口部で使用され得る。
【0108】
図1A及び1Bに示されるPCBフリンジ電場修正部5の欠点は、イオンが通る場所が修正部5に近すぎる可能性があることである。この問題は、分析器のサイズが小さい場合やドリフト角度が小さい場合(つまり、周回数が多い場合)に悪化する。このような場合、分析器の質量分解能と伝送効率の両方が低下する可能性がある。その上、修正部のミスアライメント又はそれらの貧弱な製造品質は、同じ重要なパラメータの劣化の一因となる可能性がある。
【0109】
図2A及び2Bは、本発明を実施する質量分析器101を示す。
【0110】
この例では、入射インターフェースは、質量分析器内に配置された単一の入射偏向器107を含み、入射偏向器107は、最初の周回を完結する偏向されたイオンと入射開口部103aとの間の距離を増大させるように、イオンが質量分析器内での最初の周回を完結する前に、質量分析器に入射されたイオンをドリフト経路Dの方向に偏向するように構成される。入射偏向器107を含む結果として、3D参照軌道と入射開口部103aとの間の距離が大幅に増加することに注意されたい。つまり、3D参照軌道に従うイオンは、入射偏向器107がない場合よりも入射開口部103aの近くを通らない。
【0111】
したがって、入射偏向器107は、質量分析器内を移動するイオン(入射管を介して質量分析器に入るイオン以外)から入射管103、したがって入射開口部103aまでの距離を増大させるために使用される。距離は、質量分析器のイオン光学系に対する管103による電場の歪みの影響が無視できるように、それゆえPCBフリンジ電場修正部105が不要になるように、十分に大きくすることが好ましい。
【0112】
図2A及び2Bに示されるように、PCBフリンジ電場修正部5は使用されない。しかしながら、他の例(図示せず)では、PCBフリンジ電場修正部5が使用されてもよいが、イオンビームへのその影響は、一次偏向器107の結果として実質的に低減される。
【0113】
この例では、一次偏向器107は、イオンによって完結する第1の閉軌道(「周回」)のほぼ中間の3D参照軌道の電場のない領域に配置される。
【0114】
図3は、本発明を実施する別の質量分析器101’を示す。
【0115】
この例では、抽出インターフェースは、質量分析器内に配置された単一の抽出偏向器109’を含み、抽出偏向器109’は、最後の周回に入る偏向されたイオンと抽出管104’の遠位端の抽出開口部104a’との間の距離を増大させるように、イオンが質量分析器内での最後の周回を開始した後に、3D参照軌道に従うイオンをドリフト経路Dの方向に偏向するように構成される。次に、抽出されたイオン111’は、適切な検出器、例えば、TOF検出器によって検出されてもよい。入射偏向器107を含む結果として、3D参照軌道と抽出開口部104a’との間の距離が大幅に増加することに注意されたい。つまり、3D参照軌道に従うイオンは、抽出偏向器109’がない場合よりも抽出開口部104a’の近くを通らない。
【0116】
図2の例では、単一の入射偏向器107のみが使用されている。発明者は、(この偏向器107を適切に配置し、それに応じて提供する偏向を設定することにより、並びに入射管103を適切に配置することにより)、最初の周回を完結するイオンが入射開口部103aから適切に離間されることを確実にしつつ、3D参照軌道の隣接する周回間の(ドリフト方向Dの)小さな角度を達成することが可能であることに留意する。
【0117】
同様に、
図3の例では、単一の抽出偏向器109’のみが使用されている。発明者は、(この偏向器109’を適切に配置し、それに応じて提供する偏向を設定することにより、並びに抽出管104’を適切に配置することにより)、最後の周回に入るイオンが抽出開口部104a’から適切に離間されることを確実にしつつ、3D参照軌道の隣接する周回間の(ドリフト方向Dの)小さな角度を達成することが可能であることに留意する。
【0118】
しかしながら、ここで
図4A及び4Bに関連して説明されるように、反転偏向器が使用される場合、考慮事項はより複雑であり、一般的に、複数の入射偏向器及び複数の抽出偏向器を使用することが好ましく、イオンがこれらの偏向器に当たらないように、同じ入射偏向器を抽出偏向器としても使用することが好ましい。
【0119】
図4A及び4Bは、本発明を実施する別の質量分析器201を示す。
【0120】
この例では、入射管203を含む入射インターフェースは、入射偏向器207a、207bも含む。
【0121】
入射偏向器207a、207bは、最初の周回を完結する偏向されたイオンと入射開口部との間の距離を増大させるように、入射管203の入射開口部203aを介して質量分析器に入射されたイオンを、イオンが質量分析器内での最初の周回を完結する前にドリフト経路の方向に偏向させるように構成される。
【0122】
この例では、質量分析器は、2つの反転偏向器215a、215bを含む反転偏向器セットを含み、反転偏向器215a、215bは、イオンが入射インターフェースに向かって逆方向にドリフトするように、イオンがドリフト経路に沿ってドリフトする方向を反転するように構成される。
【0123】
したがって、この例では、イオンは抽出前に機器の2つの「パス」を実行するようにされる。2つの入射偏向器207a、207bを含む理由は、以下の
図5Bの議論から最もよく理解することができる。ここに2つの反転偏向器215a、215bを含める理由は、ドリフト方向の等時性を改善するためであり、また、単一の反転偏向器を主セクタS2内に配置することは技術的に難しいためでもある。
【0124】
この例では、入射及び抽出管203、204が上下に配置され(
図4B参照)、入射偏向器207a、207bも(適切な回数で適切な電圧を印加することにより)抽出偏向器として使用され、したがって、入射/抽出偏向器207a、207bと呼ばれる。
【0125】
入射/抽出偏向器207a、207bは、抽出偏向器として使用される場合、最後の周回に入る偏向されたイオンと抽出開口部との間の距離を増大させるように、イオンが質量分析器内での最後の周回を開始した後に、3D参照軌道に従うイオンをドリフト経路の方向に偏向するように構成される。
【0126】
この例では、入射/抽出偏向器207a、207bは、入射及び抽出管203、204と同様に、3D参照軌道の電場のない領域内で上下に配置されているため、入射及び抽出管203、204の方位角位置は一致する(
図4B参照)。このようなレイアウトは、最大の飛行経路の長さ、したがって質量最大分解能m/dmを提供するのに役立つ。
【0127】
図4A及び4Bに示すレイアウトでは、偏向器207a、207bは、入射(最初の半周回でイオンが両偏向器によって偏向される)と抽出(抽出前の最後の半周回でイオンが通過して両偏向器によって偏向される)の両方に使用される。
【0128】
この例では、各偏向器207a、207bは、ドリフト経路の方向に分離された平行板の形をとることが想定されており、この場合、2枚の板のポテンシャルは、偏向を提供するために、ジオメトリパラメータが同じであっても等しくない。
【0129】
同じ偏向器207a、207bが入射及び抽出に使用されるので、これらの偏向器207a、207bに印加されるポテンシャルは、入射のために偏向器207a、207bに印加されるポテンシャルが、抽出を開始する前に、抽出のために偏向器207a、207bに印加されるポテンシャルに交換されるように切り替え可能であることが好ましい。
【0130】
飛行経路を延設することで、質量分解能m/dmを上げることができる。
【0131】
図4Aと4Bに示す例(好ましくは
図2~3に示す例も)では、入射及び抽出インターフェースの偏向器は、質量分析器の上部及び下部(極)領域の、3Dの参照軌道の電場のない領域に配置するのが好ましい。
【0132】
図5A~5Cは、本発明を実施する別の質量分析器301を示す。
【0133】
この例では、イオンは、抽出前に機器の2つの「パス」を実行するようにされ、1つの入射偏向器307と1つの抽出偏向器309のみがある。
【0134】
図5Bから分かるように、1つの入射偏向器307及び1つの抽出偏向器309のみを使用するために、3D参照軌道は、入射及び抽出偏向器307、309の非常に近くを通る。これらの偏向器307、309を隣接する周回間に設置する余地はほとんどない。このため、
図5A~5Cに示した形態を有する分析器301は、あまり小さくすることができない。また、偏向器307、309における(参照軌道の周りで振動する)イオンの追加の損失があり、方位角的に偏向器を配置するためのより高い許容要件が必要になる。これらの問題は、(
図4A~4Bに示す実施形態のように)入射に2つの偏向器を使用し、抽出に2つの偏向器を使用することで回避できるが、
図5A~5Cは、ただ1つの入射偏向器307及びただ1つの抽出偏向器309を使用できることを示しているだけである。
【0135】
図6A~6Bは、本発明を実施する別の質量分析器401を示す。
【0136】
ここで、ドリフト経路は直線的であり、すなわち直線に沿って延設され、入射後の最初の半周回内に配置されたただ1つの入射偏向器407と、抽出前の最後の半周回内に配置されたただ1つの抽出偏向器409とを有する。入射/抽出PCB修正部は使用されない。
【0137】
偏向器407、409の配置は、
図6Bの側面図から見ることができる。
【0138】
図7は、入射偏向器407’が、入射後の2番目の周回内に配置される点を除き、
図6A~6Bに示したものと同様の修正された質量分析器401’を示す。同様に、抽出偏向器409’は、最後の周回から2番目の周回内に配置されている。
【0139】
ここで、入射偏向器407’は、入射開口部の周りの電場の歪みの影響を実質的に受けないように、初期軌道でイオンを質量分析器に入射するように入射インターフェースが入射管403’と相互に構成されることにより、3D参照軌道と入射開口部との間の距離を増大させるように構成され、入射偏向器は、質量分析器内での後続の周回を互いに近づけるように構成される。
【0140】
図8A~8Bは、本発明を実施する別の質量分析器501を示す。
【0141】
ここで、ドリフト経路は直線的であり、つまり直線に沿って延設され、入射開口部503からのイオン510の入射後の最初の半周回内に配置されたただ1つの入射偏向器507と、抽出開口部504からのイオン511の抽出前の最後の半周回内に配置されたただ1つの抽出偏向器509とを有する。入射/抽出PCB修正部は使用されない。
【0142】
この例では、イオンが質量分析器501の2つのパスを実行できるようにするために、反転偏向器515a、515b(上部及び下部)が使用される。
【0143】
図9は、イオンが質量分析器の2つの「パス」よりも多く完結させることができるように、入射偏向器507’及び抽出偏向器509’が第2の反転偏向器セットとして使用される点を除き、
図8A~8Bに示したものと同様の修正された質量分析器501’を示す。
【0144】
図10は、入射及び抽出インターフェースの偏向器の別の配置を示す。
【0145】
図10に示す例では、入射及び抽出インターフェースの偏向器607a、607bは、3D参照軌道に向かってイオンを収束するように構成された収束レンズ電極L1、L2内に配置される。
【0146】
レンズL1、L2内の隣接する周回のドリフト経路の方向の分離は、極性領域の場合よりもはるかに大きいため、収束電極内に埋め込まれた偏向器は、偏向器を極性領域に配置する(小型の分析装置では偏向器を配置することが難しい場合がある)場合と比較して、非常に小さなサイズの分析器にとって有利であり得ることに注意されたい。
【0147】
収束レンズ電極内に偏向器を配置することの潜在的な問題は、そのような偏向器がドリフト経路の方向と、参照軌道及びドリフト経路に局所的に垂直な横方向の両方でイオンを偏向できる必要があることを発明者がシミュレーションから導き出したことである。
【0148】
しかし発明者は、極性領域に偏向器を配置することは、ドリフト経路の方向にイオンを偏向できる偏向器のみを使用して実装できることを見出した(ただし、偏向器が極性領域に配置されている場合でも、横方向の追加の偏向がミスアライメントを修正するのになお望ましい場合がある)。発明者はまた、収束レンズ電極に偏向器を埋め込むことは、一般に、電場のない領域に電極を配置する場合と比較して、製造及び組み立てがより困難であることを見出している。
【0149】
図2B及び7は、上記の定義に基づいて、曲線ドリフト経路の例と線形ドリフト経路の例のドリフト角度115、415とラベル付けされている(以前の定義で参照されている直線は、ここでは破線として示されている)。
【0150】
比較として、
図1に示す分析計では、ドリフト角度が小さいと、イオンが通るのが入射/抽出PCB修正部に近すぎるため、ドリフト角度(隣接する周回間の角度)を小さくしすぎることはできない(通常、少なくとも5~6度にする必要がある)。しかし、本発明による入射/抽出偏向器の使用により、入射偏向器の後かつ抽出偏向器の前の3D参照軌道の部分でドリフト角をより小さくすることができ、実際にドリフト角は、好ましくは、偏向器の寸法と偏向器位置での隣接する周回の分離とに依存する最小ドリフト角度まで可能な限り小さくされる。(以下で説明する
図10のように)円錐形収束レンズ電極F1、F2の内側に配置すると、3度又はそれよりも小さいドリフト角を使用できるため、それぞれ周回数が増加する。
【0151】
図11A(i)~(iii)は、正及び負のポテンシャル+V及び-Vを板に印加することによってドリフト方向に偏向電場を生成するための平行板偏向器を概略的に示す。
【0152】
【0153】
【0154】
図12A(i)~(ii)は、ポテンシャル+-V
1及び+-V
2を板にそれぞれ印加することによってドリフト方向及び(他の)横方向に偏向電場を生成するための組み合わされた平行板偏向器を概略的に示す。
【0155】
図12Bは、極に分布された多数のポテンシャルを印加することによってドリフト方向及び(他の)横方向に偏向電場を生成するための多極偏向器(12極を有する)を示す。
【0156】
図12C(i)~(ii)はそれぞれ、(i)組み合わされた平行板偏向器及び(ii)多極偏向器の3Dモデルを示す。
【0157】
図13A~13Bは、(例えば、
図10に示す例で使用され得るような)ドリフト方向にイオンを偏向させるための電場を生成するための、円錐形レンズ電極に埋め込まれた偏向器の例を示す。ポテンシャル+-V
1の主偏向器電極に加えて、(他の)横方向の電場の均一性の向上専用のポテンシャル+-0.742V
1及び+-0.25V
1の補助内部電極(図の下側)及び外部電極(図の上側)がある。
【0158】
特定の形式で、又は開示された機能を実行する手段、又は開示された結果を得るための方法又はプロセスの観点から適切に表現された、前述の説明、以下の特許請求の範囲、又は添付の図面に開示されている特徴を、別々に、又はそのような特徴の任意の組み合わせで、本発明をその多様な形態で実現するために利用することができる。
【0159】
本発明は、上記の例示的な実施形態に関連して説明されてきたが、この開示が与えられたとき、多くの同等の修正及び変形が当業者には明らかであろう。したがって、上記の本発明の例示的な実施形態は、例示的であり、限定的ではないと見なされる。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、説明された実施形態に対する様々な変更を行うことができる。
【0160】
誤解を避けるために、ここで提供される理論的な説明は、読者の理解を深めるために提供されている。発明者らは、これらの理論的説明のいずれにも拘束されることを望まない。
【0161】
本書で使用されているセクションの見出しは全て、整理を目的としたものであり、説明されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0162】
以下の特許請求の範囲を含む本明細書全体を通して、文脈が他に必要としない限り、「含む」という語、及び「含んでいる」などの変形は、記載された整数又はステップあるいは整数又はステップのグループを含むが、他の整数又はステップあるいは整数又はステップのグループを除外するものではないと理解される。
【0163】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの」、及び「その」「前記」で示されるものは、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに注意しなければならない。本明細書では、範囲は、「約」1つの特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表現され得る。そのような範囲が表される場合、別の実施形態は、1つの特定の値から及び/又は他の特定の値までを含む。同様に、先行詞「約」を使用することにより、値が近似値として表される場合、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されよう。数値に関する「約」という用語は任意であり、例えば+/-10%を意味する。
参考文献
【0164】
本発明及び本発明が関係する最新技術をより完全に説明及び開示するために、いくつかの刊行物が上記に引用されている。これらの参考文献の完全な引用を以下に示す。これらの参考文献のそれぞれの全体は、本明細書に組み込まれる。
・「A High Resolution Multi-turn TOF Mass Analyser」、V.Shchepunov et al、SHIMADZU REVIEW、Vol.72、No.3.4(2015年)。
・米国特許第9082602号
・米国特許第7504620号
・国際公開第2011/086430号
・国際公開第2018/033494号