(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】固形製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/195 20060101AFI20220517BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220517BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220517BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220517BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20220517BHJP
【FI】
A61K31/195
A61K31/192
A61K47/02
A61K9/20
A61P43/00 121
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021069710
(22)【出願日】2021-04-16
(62)【分割の表示】P 2016113191の分割
【原出願日】2016-06-07
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2015118843
(32)【優先日】2015-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】桑田 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】小野 哲央
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-242360(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031935(WO,A1)
【文献】特開2007-284423(JP,A)
【文献】国際公開第2008/044331(WO,A1)
【文献】特開2006-328000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン、並びに酸化マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、ケイ酸マグネシウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種のマグネシウムを含む無機塩を含有する造粒粒子、及びトラネキサム酸を含有することを特徴とする錠剤。
【請求項2】
マグネシウムを含む無機塩の含有量が、イブプロフェン1質量部に対して0.2~0.5質量部である、請求項
1に記載の錠剤。
【請求項3】
錠剤が単層錠である、請求項1又は2に記載の錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形製剤の分野に関し、詳しくは、有効成分としてイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イブプロフェンは非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)である。イブプロフェンは全ての非選択性NSAIDsの中で最も胃腸障害が少ないことが知られており、医療用医薬品だけでなく一般用医薬品の解熱鎮痛薬の有効成分として広く利用されている。
一方、トラネキサム酸は抗プラスミン作用や抗炎症作用、抗アレルギー作用を有する薬物として解熱鎮痛薬や総合感冒薬に汎用されている。
イブプロフェンは融点75~77℃の低融点薬物であり、さらに酸性基を有するためアルカリ性薬物と配合すると高湿度条件下において吸湿し塩を形成することが知られている。特に抗ヒスタミン薬、解熱鎮痛薬、消化薬と配合すると色調変化や湿潤化といった製剤形状の変化を認めるものが多い(非特許文献1参照)。
イブプロフェンはトラネキサム酸と同時に配合した場合には、高温保存条件下において製剤の膨張が生じ、錠剤のひび割れといった商品性を著しく低下させる懸念があることが報告されている(特許文献1参照)。
【0003】
一般的に配合変化を生じる成分を同時配合する場合には、これらを異なる顆粒等に配合し、二重錠や多層錠として提供すれば、これら成分が同一の製剤中に配合されていても、直接の接触を回避して配合変化を防止することが可能であった(非特許文献2参照)。しかし、本発明者らは、同様の手法でイブプロフェンとトラネキサム酸に起因する錠剤の膨張抑制を試みたが、別顆粒化や多層錠といった手法のみでは解決することは困難であった。
【0004】
また、製剤中に各種有機酸や特定の滑沢成分を配合することで製剤の膨張を抑制する手法が報告されている(特許文献2、3参照)。しかし、有機酸は高温保存時の変色の要因となり易く、また同時に配合する他の成分の安定性に悪影響を及ぼす懸念がある。さらにイブプロフェンは打錠機等への付着が課題となることが多く、特定の滑沢成分に限定されることは必ずしも好ましい手法とはいえない。また、イブプロフェンとマクロゴールを溶融造粒する手法や包装容器中に乾燥剤を同封する手法が報告されているが、イブプロフェンとマクロゴールは融点降下を生じるため高温保存時の外観安定性に懸念があり、また乾燥剤を同封する手法はコストアップに繋がり易いという問題がある(特許文献1、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5101007号
【文献】特許第5302589号
【文献】特許第5247174号
【文献】特許第5465824号
【非特許文献】
【0006】
【文献】第十六改正日本薬局方解説書 医薬品各条、広川書店、C-576~C-577
【文献】粉体工学会 製剤と粒子設計部会編「すぐに役立つ粒子設計・加工技術」じほう、P288-291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤において、高温保存時に生じる製剤の外観の変化が抑制された固形製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、このような事情を鑑み鋭意検討した結果、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含む製剤を製造する際に、マグネシウムを含む無機塩を添加することにより、安定な固形製剤を得られることを見出した。
かかる知見により得られた本発明の様態は次のとおりである。
(1)イブプロフェン、トラネキサム酸、及びマグネシウムを含む無機塩を含有することを特徴とする固形製剤、
(2)イブプロフェン及びマグネシウムを含む無機塩を含有する造粒粒子、及びトラネキサム酸を含有することを特徴とする固形製剤、
(3)マグネシウムを含む無機塩が、酸化マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、ケイ酸マグネシウム、及び炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種である(1)又は(2)に記載の固形製剤、
(4)カプセル剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、または散剤である(1)~(3)のいずれかに記載の固形製剤、
(5)錠剤が単層錠である、(4)に記載の固形製剤、
【発明の効果】
【0009】
本発明により、イブプロフェンとトラネキサム酸を含有する固形製剤において、高温保存時の製剤の膨張、ひび割れ又は湿潤等が抑えられた保存安定性に優れた製剤を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例5~7、比較例13~16について、65℃2週保存した後の外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の固形製剤は、イブプロフェン、トラネキサム酸、及びマグネシウムを含む無機塩を含有する。これら3成分が配合されていることにより、イブプロフェンとトラネキサム酸を配合した際の配合変化、及びそれに伴う製剤の外観変化を抑制できる。
【0012】
本発明の固形製剤に用いられるイブプロフェンは、日本薬局方に準拠したイブプロフェンであり、公知の方法により製造できるほか、市販のものを用いることができる。本発明の固形製剤中に含まれるイブプロフェンの割合は、1~60質量%、好ましくは5~50質量%である。本発明のイブプロフェンは原末のまま配合してもよいが、本発明の効果の点から、造粒粒子として配合するのが好ましい。イブプロフェン含有造粒粒子には、造粒粒子を製造する際に通常使用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤などを配合することができる。
イブプロフェン含有造粒粒子は、公知の製造方法にて製造することができる。造粒方法としては、例えば湿式造粒法、スラッグ打錠法、乾式造粒法もしくは溶融造粒法などが挙げられるが、特に湿式造粒法が好ましい。これらは一般的な製剤機器を用いて一般的な方法で製剤化を行うことができる。
【0013】
本発明の固形製剤に用いられるマグネシウムを含む無機塩としては、日本薬局方に準拠した酸化マグネシウムのほか、合成ヒドロタルサイト、ケイ酸マグネシウム、水酸化アルミナ・マグネシウム、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈物、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物、炭酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。これらはいずれも制酸剤として知られているものである。これらは公知の方法により製造できるほか、市販のものを用いることができる。本発明の固形製剤中に含まれるマグネシウムを含む無機塩の割合は、1~50質量%、好ましくは3~50質量%である。本発明のマグネシウムを含む無機塩は原末のまま配合してもよいが、本発明の効果の点から、造粒粒子にして配合するのが好ましい。本発明の固形製剤は、マグネシウムを含む無機塩を配合することにより、イブプロフェンとトラネキサム酸の配合変化を抑制し、固形製剤の外観変化を抑制することができるが、本発明の効果の点から、マグネシウムを含む無機塩はイブプロフェン含有造粒粒子中に配合されていることが望ましい。また、マグネシウムを含む無機塩の配合量は、イブプロフェン1質量部に対して0.1~1.2質量部が好ましく、特に0.2~0.5質量部が好ましい。
【0014】
本発明の固形製剤に用いられるトラネキサム酸は、日本薬局方に準拠したトラネキサム酸であり、公知の方法により製造できるほか、市販のものを用いることができる。本発明の固形製剤中に含まれるトラネキサム酸の割合は、本発明の固形製剤全体に対して1~70質量%、好ましくは5~50質量%である。本発明のトラネキサム酸は原末のまま配合してもよいが、本発明の効果の点から、造粒粒子として配合するのが好ましい。また、トラネキサム酸の配合量は、イブプロフェン1質量部に対して0.4~1.7質量部が好ましい。トラネキサム酸含有造粒粒子には、造粒粒子を製造する際に通常使用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤などを配合することができる。
トラネキサム酸含有造粒粒子は、公知の製造方法にて製造することができる。造粒方法としては、例えば湿式造粒法、スラッグ打錠法、乾式造粒法もしくは溶融造粒法などが挙げられるが、特に湿式造粒法が好ましい。これらは一般的な製剤機器を用いて一般的な方法で製剤化を行うことができる。
【0015】
本発明の固形製剤には、本発明の効果を損なわない質的、量的範囲で、イブプロフェン、酸化マグネシウム、トラネキサム酸以外の他の有効成分、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、甘味剤、香料などを配合することができる。配合できる他の有効成分としては、アセトアミノフェン、アスピリンまたはその塩、エテンザミド、サリチルアミド、イソプロピルアンチピリン、ロキソプロフェンナトリウム等の解熱鎮痛剤、クロルフェニラミンまたはその塩、マレイン酸カルビノキサミン、ジフェニルピラリン塩酸塩、ジフェンヒドラミンまたはその塩、クレマスチンフマル酸塩、メキタジン等の抗ヒスタミン剤、ケトチフェンまたはその塩、フェキソフェナジンまたはその塩、エピナスチンまたはその塩、セチリジンまたはその塩、オロパタジンまたはその塩、プランルカスト、モンテルカスト、等の抗アレルギー剤、チペピジンヒベンズ酸塩、クロペラスチン塩酸塩、コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、ジメモルファンリン酸塩、ノスカピン等の鎮咳剤、dl-メチルエフェドリン塩酸塩等の気管支拡張剤、グアイフェネシン、グアヤコールスルホン酸カリウム、ブロムヘキシン塩酸塩、アンブロキソール塩酸塩、L-カルボシステイン等の去痰剤、アリルイソプロピルアセチル尿素、ブロモバレリル尿素等の催眠鎮静剤、ビタミン類、グリチルリチン酸及びその塩類等の抗炎症剤、グリシン、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル等の胃粘膜保護剤、カンゾウ、ケイヒ、シャクヤク、ショウキョウ等の生薬類、葛根湯、麻黄湯、麦門冬湯、小青竜湯等の漢方処方、無水カフェイン等のカフェイン類等が挙げられ、これらを1種又は2種以上を配合しても良い。賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、糖アルコール、デンプン類、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸等、崩壊剤としては、カルメロース、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン等、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、プルラン等、滑沢剤としては、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等、着色剤としては、リボフラビン、銅クロロフィル及びその塩、カルミン、三二酸化鉄、食用青色1号や食用黄色5号、食用赤色3号等の食用タール色素、矯味矯臭剤としてはl-メントール、dl-カンフル、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、リンゴ酸等、甘味剤としては、アスパルテーム、サッカリン及びその塩、スクラロース、アセスルファムカリウム、カンゾウ、ステビアエキス、グリチルリチン酸二カリウム、精製白糖、キシリトール、ソルビトール、マルチトール,マンニトール等、香料としては、オレンジ油、レモン油、ユーカリ油、ハッカ油、ラベンダー油、ベルガモット油、バニリン、エチルバニリン、バニラフレーバー、チェリーフレーバー、ミントフレーバー、フルーツフレーバー、l-メントール、dl-カンフル等が挙げられる。
【0016】
本発明の固形製剤の剤形としては、例えば、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、散剤等が挙げられ、特に錠剤が好ましい。なお、固形製剤はフィルムコーティングや糖衣による剤皮を施しても良い。錠剤としては、単一の層である単層錠、複数の層が積層され積層錠であってもよいが、製造の容易さや小型化できる観点などから単層錠が好ましい。本発明においては、特に、イブプロフェンと酸化マグネシウムとトラネキサム酸は同一層に含まれるのが好ましい。これらを同一層に含んでも、配合変化は生じず、製剤の外観変化は生じない。
【0017】
本発明の固形製剤の製造方法は、特に制限はなく、公知の製造方法にて製造することができる。例えば、粉砕、混合、造粒、圧縮、乾燥などを必要に応じて行なうことができる。造粒の方法としては、例えば湿式造粒法、直接打錠法、乾式造粒法もしくは溶融造粒法などが挙げられるが、特に湿式造粒法が好ましい。これらは一般的な製剤機器を用いて一般的な方法で製剤化を行うことができる。なお、酸化マグネシウムを用いた場合には、イブプロフェンとの混合粉体において固結が発生するといった相互作用を生じること、及び酸化マグネシウムが打錠時の黒ずみが発生するため、これらの課題を回避するためにはこれらを原末のまま配合するのではなく、造粒粒子にして配合する必要があり、酸化マグネシウムとイブプロフェンを同一粒子中に配合するのが効果の点から最も好ましい。得られた造粒粒子は、必要に応じて圧縮処理を行ない、成型することができる。圧縮処理は一般的な成型機を用いて、所望の圧縮成型圧にて行なうことができる。
【実施例】
【0018】
以下に、製造例,実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
実施例1
イブプロフェン30重量部、トラネキサム酸37.5重量部、酸化マグネシウム15重量部、結晶セルロース11.5重量部、ヒドロキシプロピルセルロース5重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。得られた造粒粒子100重量部にステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0020】
比較例1
イブプロフェン30重量部、トラネキサム酸37.5重量部、結晶セルロース26.5重量部、ヒドロキシプロピルセルロース5重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。得られた造粒粒子100重量部にステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0021】
比較例2
トラネキサム酸75重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し流動層造粒乾燥機(FL-MINI;フロイント産業社製)で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子(造粒粒子A)を得た。得られた造粒粒子100重量部にステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0022】
試験例1(製剤の安定性試験)
実施例1及び比較例1、2で調製した各錠剤をガラス瓶に入れ金属キャップで密封し、65℃下に1週間保存した後の各錠剤の膨張やひび割れ、湿潤の有無や錠剤厚みの変化を打錠直後と比較した。結果を表1に示す。
【0023】
【0024】
表1から明らかな通り、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む比較例1では保存後に著しい錠剤の膨張や変形が認められた。トラネキサム酸単独の比較例2では同様の変化は認められず、イブプロフェン及びトラネキサム酸が同一製剤中に存在することで変形が生じると推測された。一方で、さらに酸化マグネシウムを配合した実施例1では同一製剤中にイブプロフェン及びトラネキサム酸を含むにもかかわらず保存後の錠剤の膨張や外観変化は認められなかった。この結果より、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む製剤の保存時の外観変化について、酸化マグネシウムを配合することで抑制可能であることが明らかとなった。
【0025】
実施例2
イブプロフェン45重量部、合成ヒドロタルサイト30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0026】
実施例3
イブプロフェン45重量部、ケイ酸マグネシウム30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0027】
実施例4
イブプロフェン45重量部、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈物30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0028】
比較例3
イブプロフェン45重量部、乾燥水酸化アルミニウムゲル30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0029】
比較例4
イブプロフェン45重量部、ケイ酸アルミニウム30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0030】
比較例5
イブプロフェン45重量部、無水リン酸水素カルシウム30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0031】
比較例6
イブプロフェン45重量部、乳酸カルシウム30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0032】
比較例7
イブプロフェン45重量部、炭酸水素ナトリウム30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥したが湿潤状態のまま乾燥した造粒粒子を得ることが出来なかった。
【0033】
比較例8
イブプロフェン45重量部、グリシン30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0034】
比較例9
イブプロフェン45重量部、L-リジン塩酸塩30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0035】
比較例10
イブプロフェン45重量部、L-アルギニン塩酸塩30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0036】
比較例11
イブプロフェン45重量部、クエン酸30重量部、結晶セルロース20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0037】
比較例12
イブプロフェン45重量部、結晶セルロース50重量部、ヒドロキシプロピルセルロース4重量部及び軽質無水ケイ酸1重量部を乳鉢で混合した後、水を加えて湿式造粒し温風乾燥器で乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。この造粒粒子50重量部と比較例2に記載の造粒粒子A50重量部及びステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合して打錠用粉末を調製し、卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠335mgの素錠を製した。
【0038】
試験例2(製剤の安定性試験)
実施例2~4並びに比較例3~12で調製した各錠剤をガラス瓶に入れ金属キャップで密封し、65℃下に1週間保存した後の各錠剤の膨張やひび割れ、湿潤の有無や錠剤厚みの変化を打錠直後と比較した。結果を表2に示す。
【0039】
【0040】
表2から明らかな通り、マグネシウムを含む無機塩である合成ヒドロタルサイト(実施例2)、ケイ酸マグネシウム(実施例3)及び水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈物(実施例4)を含む製剤では保存後の膨張や外観変化が抑制されたのに対し、マグネシウムを含まない無機塩(比較例3~5)、有機金属塩(比較例6)、各種アミノ酸(比較例8~10)並びに有機酸(比較例11)を配合した製剤では著しい膨張が認められた。また、イブプロフェンとトラネキサム酸を別顆粒に群分けした製剤(比較例12)でも膨張した。試験例1及び2の結果より、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む製剤において,成分の群分けにかかわらず、マグネシウムを含む無機塩を同時に配合することで保存時の製剤の膨張、ひび割れ等の外観変化を抑制できることが明らかとなった。
【0041】
[製造例]
製造例1 イブプロフェンおよび酸化マグネシウム含有造粒粒子の調製
表3中の製造例1に示す各成分を秤量後、混合して造粒用粉末を得た。造粒用粉末により、混練機(NW10;パウレック社製)および流動層造粒乾燥機(FD-WSG-2;パウレック社製)を用いて水・アルコール混液にヒプロメロースを溶解させた造粒液を添加し、常法により造粒、乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。
【0042】
製造例2 イブプロフェン含有造粒粒子の調製
表3中の製造例2に示す処方により、流動層造粒乾燥機(FD-WSG-2;パウレック社製)を用いて水・アルコール混液にヒプロメロースを溶解させ軽質無水ケイ酸を分散させた造粒液を添加し、常法により造粒、乾燥した後22Mの篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。
【0043】
製造例3 エテンザミド含有造粒粒子の調製
表3中の製造例3に示す処方により、高速攪拌造粒機(VG-25;パウレック社製)および流動層造粒乾燥機(FD-WSG-2;パウレック社製)を用いて水・アルコール混液を造粒液として添加し、常法により造粒、乾燥した後22M篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。
【0044】
製造例4 トラネキサム酸含有造粒粒子の調製
表3中の製造例4に示す処方により、高速攪拌造粒機(VG-5;パウレック社製)および流動層造粒乾燥機(FL-MINI;フロイント産業社製)を用いて水・アルコール混液を造粒液として添加し、常法により造粒、乾燥した後22M篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。
【0045】
製造例5 トラネキサム酸およびアリルイソプロピルアセチル尿素含有造粒粒子の調製
表3中の製造例5に示す処方により、高速攪拌造粒機(VG-5;パウレック社製)および流動層造粒乾燥機(FL-MINI;フロイント産業社製)を用いて水を造粒液として添加し、常法により造粒、乾燥した後22M篩で整粒を行い、造粒粒子を得た。
【0046】
【0047】
実施例5
製造例1の造粒粒子173gに製造例4の造粒粒子139g、無水カフェイン22.5g、軽質無水ケイ酸3.6g、カルボキシメチルスターチナトリウム(以下、CMS-Naと略す)14.9gおよびステアリン酸マグネシウム1.8gを混合して打錠用粉末を調製し、その後ロータリー式打錠機(VIRGO19;菊水製作所社製)を用いて1錠394mgの素錠を製した。
【0048】
実施例6
製造例1の造粒粒子104gに製造例3の造粒粒子37.9g、製造例5の造粒粒子145g、無水カフェイン18.8g、軽質無水ケイ酸3.2g、CMS-Na12.4gおよびステアリン酸マグネシウム1.6gを混合して打錠用粉末を調製し、その後ロータリー式打錠機(VIRGO19;菊水製作所社製)を用いて1錠430mgの素錠を製した。
【0049】
実施例7
製造例1の造粒粒子153gに製造例5の造粒粒子155g、無水カフェイン36g、軽質無水ケイ酸3.6g、CMS-Na16.2gおよびステアリン酸マグネシウム1.8gを混合して打錠用粉末を調製し、その後ロータリー式打錠機(VIRGO19;菊水製作所社製)を用いて1錠457mgの素錠を製した。
【0050】
比較例13
製造例2の造粒粒子170gに製造例4の造粒粒子163g、無水カフェイン26.3g、軽質無水ケイ酸3.7g、CMS-Na11gおよびステアリン酸マグネシウム1.8gを混合して打錠用粉末を調製し、その後ロータリー式打錠機(VIRGO19;菊水製作所社製)を用いて1錠358mgの素錠を製した。
【0051】
比較例14
製造例2の造粒粒子70gに軽質無水ケイ酸0.7g、CMS-Na2.2g、ステアリン酸マグネシウム0.4gを混合し第1層用の打錠用粉末を調製した。次に製造例4の造粒粒子46.5gに無水カフェイン7.5g、食用黄色5号0.02g、軽質無水ケイ酸0.5g、CMS-Na1.7gおよびステアリン酸マグネシウム0.3gを混合し第2層用の打錠用粉末を得た。これらの打錠用粉末を用い卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠358mg(第1層:170mg、第2層:188mg)の錠剤を製した。
【0052】
比較例15
製造例2の造粒粒子70gに軽質無水ケイ酸0.7g、CMS-Na2.2g、ステアリン酸マグネシウム0.4gを混合し第1層用の打錠用粉末を調製した。次に製造例3の造粒粒子30.3gに無水カフェイン15g、食用黄色5号0.02g、軽質無水ケイ酸0.5g、CMS-Na1.4gおよびステアリン酸マグネシウム0.2gを混合し第2層用の打錠用粉末を調製した。さらに製造例5の造粒粒子58gに軽質無水ケイ酸0.6g、CMS-Na1.8gおよびステアリン酸マグネシウム0.3gを混合して第3層用の打錠用粉末を調製した。これらの打錠用粉末を用い卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠404mg(第1層:122mg、第2層:79mg、第3層:203mg)の錠剤を製した。
【0053】
比較例16
製造例2の造粒粒子64.8gに無水カフェイン18g、リボフラビン0.08g、軽質無水ケイ酸0.88g、CMS-Na2.5gおよびステアリン酸マグネシウム0.4gを混合し第1層用の打錠用粉末を調製した。次に製造例5の造粒粒子58gに軽質無水ケイ酸0.6g、CMS-Na1.8gおよびステアリン酸マグネシウム0.3gを混合して第2層用の打錠用粉末を調製した。これらの打錠用粉末を用い卓上錠剤成型機(HANDTAB-200;市橋精機社製)により1錠419mg(第1層:217mg、第2層:202mg)の錠剤を製した。
【0054】
表4に、実施例5~7、比較例13~16の固形製剤に配合された有効成分を示す。
【0055】
【0056】
試験例3(製剤の安定性試験)
実施例5~7並びに比較例13~16で調製した各製剤をガラス瓶に入れ金属キャップで密封し、65℃下に2週間もしくは50℃下に2箇月保存した後、目視観察により各製剤の膨張やひび割れ、湿潤の有無などの外観の状態を評価した。結果を表5に示す。
【0057】
【0058】
表5、
図1から明らかな通り、マグネシウムを含む無機塩を含まない製剤では、イブプロフェンとトラネキサム酸を別顆粒に配した単層錠の製剤(比較例13)のみならず、イブプロフェンとトラネキサム酸を別層に配した多層錠設計の製剤(比較例14~16)においても、50℃又は65℃保存後に特定の層の膨張に伴う層間の剥離やひび割れ、湿潤等の外観変化が認められた。特に、イブプロフェン含有層とトラネキサム酸含有層の間に中間層を設けた処方では、イブプロフェンとエテンザミドの相互作用による著しい湿潤も加わり、外観変化は著しかった(比較例15)。これらの結果より、イブプロフェンとトラネキサム酸を含有し、マグネシウムを含む無機塩を含まない製剤では成分の別顆粒化や多層錠といった手法では高温保存後の外観変化を抑制できないことが明らかとなった。
一方、イブプロフェンとトラネキサム酸にさらにマグネシウムを含む無機塩を配合した製剤(実施例5~7)では、65℃及び50℃保存後に製剤の膨張やひび割れ、湿潤等は認められず、高温保存後においても当初の外観を維持可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により、イブプロフェン及びトラネキサム酸を同時配合した際に懸念される高温保存時の製剤の膨張やひび割れ、湿潤を防止し、製剤の外観変化を抑制する手法が見出された。これにより、高温保存条件下や長期間の保存でも安定な固形製剤として提供することが可能となった。