(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】歩行振動解析システム、歩行振動解析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 21/32 20130101AFI20220517BHJP
【FI】
G06F21/32
(21)【出願番号】P 2020193315
(22)【出願日】2020-11-20
(62)【分割の表示】P 2019549904の分割
【原出願日】2018-09-04
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017212737
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232092
【氏名又は名称】NECソリューションイノベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀幸
【審査官】平井 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-227053(JP,A)
【文献】特開2002-197437(JP,A)
【文献】特開2007-304955(JP,A)
【文献】特開2010-051548(JP,A)
【文献】特許第6801923(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2010/0070187(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行振動データを解析して、前記歩行振動データを、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現した、2値化データに変換する解析手段と、
個人毎に、当該個人の複数歩分の歩行振動データを取得し、取得した複数歩分の歩行振動データそれぞれを前記2値化データに変換した個人特定データを作成する、個人特定データ作成手段と、
前記解析手段により変換された2値化データと、前記個人特定データとを照合して、前記解析手段が取得した歩行振動データの取得元の個人を特定する、個人判定手段と、
を備え、
前記個人判定手段は、前記個人特定データそれぞれ毎に、変換後の前記2値化データの値と、当該個人特定データの値との積和を算出し、積和結果を正規化することで、前記歩行振動データの取得元の個人が当該個人である確率を算出し、算出した確率を用いて個人を特定する、
ことを特徴とする歩行振動解析システム。
【請求項2】
前記解析手段は、取得した前記歩行振動データの標準偏差を算出し、算出した前記標準偏差を閾値として用いて、取得した前記歩行振動データを、前記2値化データに変換する、
請求項1に記載の歩行振動解析システム。
【請求項3】
(a)歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行動データを解析して、前記歩行振動データを、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現した、2値化データに変換する、ステップと、
(b
)個人毎に、当該個人の複数歩分の歩行振動データを取得し、取得した複数歩分の歩行振動データそれぞれを前記2値化データに変換した個人特定データを作成する、ステップと、
(c)前記ステップ(a)で変換された2値化データと、前記個人特定データとを照合して、前記ステップ(a)で取得された歩行振動データの取得元の個人を特定する、ステップと、
を有し、
前記ステップ(c)では、前記個人特定データそれぞれ毎に、変換後の前記2値化データの値と、当該個人特定データの値との積和を算出し、積和結果を正規化することで、前記歩行振動データの取得元の個人が当該個人である確率を算出し、算出した確率を用いて個人を特定する、
ことを特徴とする歩行振動解析方法。
【請求項4】
コンピュータに、
(a)歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行動データを解析する、ステップと、
(b
)個人毎に、当該個人の複数歩分の歩行振動データを取得し、取得した複数歩分の歩行振動データそれぞれ
を2値化データに変換した個人特定データを作成する、ステップと、
(c)前記ステップ(a)で変換された2値化データと、前記個人特定データとを照合して、前記ステップ(a)で取得された歩行振動データの取得元の個人を特定する、ステップと、
を実行させ、
前記ステップ(c)では、前記個人特定データそれぞれ毎に、変換後の前記2値化データの値と、当該個人特定データの値との積和を算出し、積和結果を正規化することで、前記歩行振動データの取得元の個人が当該個人である確率を算出し、算出した確率を用いて個人を特定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行によって生じた振動を解析するための、歩行振動解析システム、及び歩行振動解析方法に関し、更には、これらを実現するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、在宅時における高齢者の見守り等のために、宅内にセンサを設置するシステムが提案されている。このようなシステムでは、居住者のプライバシーの保護と、居住者の識別とを両立する必要がある。このため、プライバシーの保護を鑑みて、カメラセンサを用いず、振動センサを用いて居住者を識別する方法が提案されている。即ち、宅内に設置した振動センサで計測した歩行に伴う振動(以下「歩行振動」と表記する。)から、個人の特徴を抽出し、識別する方法である(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、特許文献1は、歩行振動から個人を特定するシステムを開示している。特許文献1に開示されたシステムは、計測した歩行振動から、空間内で人間の動作によって発生する振動の周波数又は複数歩の周期を個人の特徴量として抽出し、あらかじめ収集していた個々人の周波数・周期と照合して、個人を特定する。
【0004】
また、非特許文献1も、歩行振動から個人を特定するシステムを開示している。非特許文献1に開示されたシステムは、振動パターンが個人毎に異なることを利用して、個人を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】伊藤和輝、他3名、「歩行振動データを用いた個人識別システムの構築」、[online],生体・感性及び高度情報処理シンポジウム, 2017,[平成27年8月31日索],インターネット<URL:http://pelican.nagaokaut.ac.jp/2017symposium/pdf/09-S-1%E3%80%80%E4%BC%8A%E8%97%A4%E3%80%80%E5%92%8C%E8%BC%9D%EF%BC%88%E9%98%BF%E5%8D%97%E5%B7%A5%E6%A5%AD%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%B0%82%E9%96%80%E5%AD%A6%E6%A0%A1%EF%BC%89.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際には、歩行振動のパターンは、同一人が同じ場所を歩いた場合でも、一定ではなく、ばらついている。このため、特許文献1に開示されたシステム及び非特許文献1に開示されたシステムでは、いずれにおいても、個人を特定することが難しいという問題がある。
【0008】
[発明の目的]
本発明の目的は、上記問題を解消し、歩行振動にばらつきが発生した場合であっても、歩行振動からの個人の特定を可能にし得る、歩行振動解析システム、歩行振動解析方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一側面における歩行振動解析装置は、
歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行振動データを、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現する、2値化データに変換する、2値化処理部と、
変換後の前記2値化データを、予め個人毎に、当該個人の歩行振動データを前記2値化データに変換することによって作成されている、個人特定データに照合して、前記歩行振動データの取得元の個人を特定する、個人判定部と、
を備えている、ことを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明の一側面における歩行振動解析方法は、
(a)歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行振動データを、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現する、2値化データに変換する、ステップと、
(b)変換後の前記2値化データを、予め個人毎に、当該個人の歩行振動データを前記2値化データに変換することによって作成されている、個人特定データに照合して、前記歩行振動データの取得元の個人を特定する、ステップと、
を有する、ことを特徴とする。
【0011】
更に、上記目的を達成するため、本発明の一側面におけるプログラムは、コンピュータに、
(a)歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行振動データを、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現する、2値化データに変換する、ステップと、
(b)変換後の前記2値化データを、予め個人毎に、当該個人の歩行振動データを前記2値化データに変換することによって作成されている、個人特定データに照合して、前記歩行振動データの取得元の個人を特定する、ステップと、
を実行させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、歩行振動にばらつきが発生した場合であっても、歩行振動から個人を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置の構成をより具体的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態で取得される歩行振動データの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態で得られる2値化データの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態で取得されるサンプルデータの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図5に示したサンプルデータを2値化した状態を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態において合成されたサンプルデータの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7に示すサンプルデータのフィルタリング後の状態を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態において作成されたハイレベルデータの一例を示す図である。
図9(a)~(d)は、それぞれ異なる個人のハイレベルデータを示している。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態において作成される個人特定データをまとめたテーブルの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態において判定対象となる2値化データの一例を示す図である。
【
図12】
図12(a)は、
図11に示した2値化データと人物Aの個人特定データとを重ね合わせた状態を示す図であり、
図12(b)は、
図11に示した2値化データと人物Bの個人特定データとを重ね合わせた状態を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置の個人特定データ作成処理時の動作を示すフロー図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置の個人特定処理時の動作を示すフロー図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置について、
図1~
図15を参照しながら説明する。
【0015】
[装置構成]
最初に、
図1を用いて、本実施の形態における歩行振動解析装置の概略構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
図1に示す本実施の形態における歩行振動解析装置10は、歩行によって生じた振動を解析して、個人を特定するための装置である。
図1に示すように、歩行振動解析装置10は、2値化処理部11と、個人判定部12とを備えている。
【0017】
2値化処理部11は、歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行振動データを、2値化データに変換する。2値化データは、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現するデータである。
【0018】
個人判定部12は、変換後の2値化データを、個人特定データに照合して、歩行振動データの取得元の個人を特定する。個人特定データは、予め個人毎に、各個人の歩行振動データを2値化データに変換することによって作成されたデータである。
【0019】
このように、本実施の形態では、歩行振動解析装置10は、2値化によって、歩行振動における個人の特徴を抽出し、抽出した特徴によって個人を特定している。このため、本発明によれば、歩行振動にばらつきが発生した場合であっても、歩行振動から個人を特定することができる。
【0020】
続いて、
図2~
図12を用いて、本実施の形態における歩行振動解析装置10の構成をより具体的に説明する。
図2は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置の構成をより具体的に示すブロック図である。
【0021】
まず、本実施の形態では、
図2に示すように、歩行振動解析装置10は、歩行振動を検出するための振動センサ20に接続されている。振動センサ20としては、例えば、加速度センサが用いられる。また、振動センサ20は、例えば、住宅等の建物22の床に取り付けられ、そこにいる人21の歩行によって生じた振動を検知する。
【0022】
2値化処理部11は、まず、振動センサ20が出力したセンサデータを取得する。センサデータは、歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データである。そして、2値化処理部11は、歩行振動データ(センサデータ)の標準偏差σを算出し、算出した標準偏差σを閾値として用いて、歩行振動データを、2値化データに変換する。
【0023】
具体的には、2値化処理部11は、
図3に示す一定区間の歩行振動データをM歩分(M:任意の自然数)取得する。
図3は、本発明の実施の形態で取得される歩行振動データの一例を示す図である。
図3の例では、一定区間は、一歩分の区間であり、人の一方の足のかかとが床に接地した時点(時点A)から、その足のつま先が床に接地する時点(時点C)までを含んでいる。また、
図3の例において、時点Bは、他方の足のつま先が床から離れた時点である。
図3に示された歩行振動データは、一歩分の歩行振動データである。
【0024】
また、
図3の例では、振動センサ20のサンプリングレートは、1kspsに設定されている。更に、一定区間における歩行振動データの数Nは299個、長さは230msに設定されている。従って、m歩目(m=1~M)における任意の時点での各歩行振動データの値を「a
mn」(0≦n≦N)とすると、2値化処理部11は、一定区間のm歩目の歩行振動データの値として、a
m0~a
mNを取得する。
【0025】
続いて、2値化処理部11は、取得した歩行振動データ(am0~amN)毎に、下記の数1に基づいて、標準偏差σを算出する。なお、下記数1においてaバーは、am0~amNの平均値である。
【0026】
【0027】
更に、2値化処理部11は、
図4に示すように、算出した標準偏差σを閾値として用いて、歩行振動データを、2値化データに変換する。これにより、M歩分の歩行振動データが2値化される。
図4は、本発明の実施の形態で得られる2値化データの一例を示す図である。このようにして得られた2値化データにおいて、横軸は時間、縦軸は加速度(絶対値)を示している。
【0028】
具体的には、2値化処理部11は、例えば、10ms毎に歩行振動データの平均値Avを算出し、算出した平均値と標準偏差σとを比較する。そして、2値化処理部11は、下記の数2に示すように、比較の結果、平均値Avが標準偏差σより小さい場合は、比較対象となった歩行振動データの値amnを「bmn=0」に設定する。一方、平均値Avが標準偏差σ以上の場合は、2値化処理部11は、比較対象となった歩行振動データの値amnを「bmn=1」に設定する。
【0029】
【0030】
また、
図2に示すように、本実施の形態においては、歩行振動解析装置10は、2値化処理部11及び個人判定部12に加えて、個人特定データ作成部13とデータ格納部14とを備えている。個人特定データ作成部13は、個人毎に個人の個人特定データを作成する。また、個人特定データ作成部13は、作成した個人特定データをデータ格納部14に格納する。
【0031】
具体的には、個人特定データ作成部13は、まず、個人毎に、個人の複数歩分の歩行振動データを取得する。このとき、取得される歩行振動データは、個人特定データの作成に用いられるデータであり、以下「サンプルデータ」と表記する。また、個人特定データ作成部13は、個人毎に、取得した各個人の複数歩分のサンプルデータそれぞれを2値化データに変換する。なお、このとき、個人特定データ作成部13は、2値化処理部11と同様の処理によって2値化を行っても良いし、2値化処理部11に対して、サンプルデータの2値化を指示しても良い。
【0032】
図5は、本発明の実施の形態で取得されるサンプルデータの一例を示す図である。
図6は、
図5に示したサンプルデータを2値化した状態を示す図である。
図5の例では、ある個人の1歩目の歩行で得られたサンプルデータと、2歩目の歩行で得られたサンプルデータとが示されている。これらのサンプルデータは、同一人物から取得されたにもかかわらず、一致していないため、
図6に示すように二値化後も互いに異なるデータとなる。
図6においても、横軸は時間、縦軸は信号の発生確率を示している。
【0033】
続いて、個人特定データ作成部13は、二値化データに変換された複数歩分の歩行振動データに基づいて、ハイレベルとなる部分の発生確率を、歩行開始からの経過時間に紐付けて算出し、算出した発生確率を各個人の個人特定データとする。この点について、
図7~
図10を用いて詳細に説明する。
【0034】
図7に示すように、個人特定データ作成部13は、まず、特定の個人について、取得されているM歩分のサンプルデータを合成する。合成は、下記の数3を用いて、各サンプルデータのnの値が同一のデータ(値=b
mn)毎に平均値c
nを算出することによって行う。
図7は、本発明の実施の形態において合成されたサンプルデータの一例を示す図である。
図7においても、横軸は時間、縦軸は信号の発生確率を示している。
【0035】
【0036】
続いて、
図8に示すように、個人特定データ作成部13は、下記の数4に示す閾値αを用いて、合成後のサンプルデータをフィルタリングする。閾値αは、信号の発生確率が低く、且つ、ノイズの可能性がある箇所を、フィルタリングするために用いられる。これにより、サンプルデータの値c
nは、閾値αに基づいてd
nに変換される。
図8は、
図7に示すサンプルデータのフィルタリング後の状態を示す図である。
図8においても、横軸は時間、縦軸は信号の発生確率を示している。
図8では、閾値αは0.25に設定されている。
【0037】
【0038】
そして、得られた
図8に示すフィルタリング後のデータは、特定の個人の歩行振動データにおける、ハイレベルとなる部分の発生確率を示すことになる。言い換えると、
図8において、0ではない部分は、ハイレベルとなる部分が高い確率で発生する部分を示している。以下、
図8に示すデータを、「ハイレベルデータ」と表記する。また、ハイレベルデータは、
図9に示すように、個人毎に作成される。
図9は、本発明の実施の形態において作成されたハイレベルデータの一例を示す図である。
図9(a)~(d)は、それぞれ異なる個人のハイレベルデータを示している。
【0039】
また、
図9(a)~(d)それぞれに示された、ハイレベルとなる部分のうち、
図3に示す時点Aに対応している部分を「山1」と表記し、
図3に示す時点Bに対応している部分を「山2」と表記し、
図3に示す時点Cに対応している部分を「山3」と表記する。
【0040】
そして、
図9(a)から、人物Aでは、山1及び2の発生確率が高いことが分かる。同様に、
図9(b)から、人物Bでは、山1、2及び3発生確率が高いことが分かる。また、
図9(c)から、人物Cでは、山1及び3の発生確率が高いことが分かる。更に、
図9(d)から、人物Dでは、山1の発生確率が高いことが分かる。
【0041】
このようにして得られた、
図9(a)~(d)それぞれに示した各ハイレベルデータが、各個人の個人特定データとなる。各個人特定データにおいては、ハイレベルとなる部分の発生確率は歩行開始からの経過時間に紐付けられている。このように、本実施の形態では、個人特定データは、複数歩の歩行振動を重ね合せ、ハイレベルとなる部分がどのタイミングでどれくらいの確率で発生するかを指標化することによって、個人特定データが作成されている。
【0042】
また、個人特定データ作成部13は、各個人の個人特定データから、
図10に示すテーブルを作成する。
図10は、本発明の実施の形態において作成される個人特定データをまとめたテーブルの一例を示す図である。
図10に示すテーブルでは、発生確率の高い山の組合せによって、人物A~Dはカテゴリ1~4のいずれかに分けられている。
【0043】
また、本実施の形態では、個人判定部12は、まず、データ格納部14から、個人特定データ作成部13によって作成された各個人の個人特定データを取得する。続いて、個人判定部12は、2値化処理部11から、判定対象となる2値化データを取得する。そして、個人判定部12は、個人特定データ毎に、取得した2値化データのハイレベルの部分と、各個人特定データのハイレベルとなる部分の発生確率とを対比する。
【0044】
例えば、取得された判定対象となる2値化データが、
図11に示す2値化データであるとする。そして、
図11に示す2値化データと
図9(a)及び(b)に示した個人特定データとを重ね合わせた結果は、
図12(a)及び(b)に示す通りとなる。
図11は、本発明の実施の形態において判定対象となる2値化データの一例を示す図である。
図12(a)は、
図11に示した2値化データと人物Aの個人特定データとを重ね合わせた状態を示す図であり、
図12(b)は、
図11に示した2値化データと人物Bの個人特定データとを重ね合わせた状態を示す図である。
【0045】
そして、個人判定部12は、2値化データと個人特定データとの対比の結果に基づいて、個人特定データ毎に、歩行振動データの取得元の個人が、個人特定データに対応する個人である確率を算出する。
【0046】
具体的には、判定対象となる2値化データの各値をs0~sNとすると、個人判定部12は、下記の数5に基づいて、まず、個人特定データの値(d0~dN)と、2値化データの値(s0~sN)との積和Sを算出する。
【0047】
【0048】
次に、個人判定部12は、人物毎の発生確率の分布の偏りを除去するため、下記の数6に基づいて、上記の数5によって算出された積和Sを正規化する。正規化によって得られた値sは、判定対象となる歩行振動データの取得元の個人が、個人特定データに対応する各個人である確率を示している。
【0049】
【0050】
例えば、個人特定データが
図9(a)~(d)に示したデータであり、判定対象となる個人の歩行振動データの2値化データが
図11に示したであるとする。この場合、個人判定部12による確率sの算出結果は下記の通りとなる。従って、個人判定部12は、判定対象となる歩行振動データの取得元の個人は、「人物A」であると判定する。このように、本実施の形態では、得られた歩行振動データの2値化データと個人特定データとを対比して、その類似性を検証することで個人が特定されている。
人物A:0.786
人物B:0.448
人物C:0.000
人物D:0.000
【0051】
また、個人判定部12は、
図11に示す2値化データに存在する山の位置を求め、求めた山の位置と、
図10に示すテーブルとを対比して、判定対象となる歩行振動データの取得元の個人を判定しても良い。
【0052】
[装置動作]
続いて、本実施の形態における歩行振動解析装置10の動作について
図13及び
図14を用いて説明する。以下の説明においては、適宜
図1~
図12を参酌する。また、本実施の形態では、歩行振動解析装置10を動作させることによって、歩行振動解析方法が実施される。よって、本実施の形態における歩行振動解析方法の説明は、以下の歩行振動解析装置10の動作説明に代える。
【0053】
最初に、
図13を用いて、歩行振動解析装置10による個人特定データの作成処理について説明する。
図13は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置の個人特定データ作成処理時の動作を示すフロー図である。
【0054】
図13に示すように、最初に、個人特定データ作成部13は、まず、個人毎に、サンプルデータとして、個人の複数歩分の歩行振動データを取得する(ステップA1)。サンプルデータは、振動センサ20から取得されても良いし、別の端末装置等から入力されても良い。
【0055】
次に、個人特定データ作成部13は、個人毎に、ステップA1で取得した各個人の複数歩分のサンプルデータそれぞれを2値化データに変換する(ステップA2)。
【0056】
次に、個人特定データ作成部13は、個人毎に、2値化データから、個人特定データを作成し、作成した個人特定データをデータ格納部14に格納する(ステップA3)。
【0057】
具体的には、個人特定データ作成部13は、上述した数3を用いて、個人毎に、サンプルデータを合成する。そして、個人特定データ作成部13は、更に数4を用いて、合成後のサンプルデータからハイレベルデータを作成し、ハイレベルとなる部分の発生確率を算出する。その後、個人特定データ作成部13は、個人毎に算出した発生確率を各個人の個人特定データとして、データ格納部14に格納する。
【0058】
続いて、
図14を用いて、歩行振動解析装置10による個人の特定処理について説明する。
図14は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置の個人特定処理時の動作を示すフロー図である。
【0059】
図14に示すように、最初に、2値化処理部11は、歩行振動データとして、振動センサ20が出力したセンサデータを取得する(ステップB1)。
【0060】
次に、2値化処理部11は、ステップB1で取得した歩行振動データを2値化データに変換する(ステップB2)。また、2値化処理部11は、変換によって得られた2値化データを個人判定部12に渡す。
【0061】
次に、個人判定部12は、2値化データを受け取ると、データ格納部14から、個人特定データ作成部13によって作成された各個人の個人特定データを取得する(ステップB3)。
【0062】
次に、個人判定部12は、個人特定データ毎に、ステップB2で取得した2値化データのハイレベルの部分と、ステップB3で取得した各個人特定データのハイレベルとなる部分の発生確率とを対比する。そして、個人判定部12は、対比の結果に基づいて、歩行振動データの取得元の個人が、個人特定データに対応する個人である確率を算出する(ステップB4)。
【0063】
その後、個人判定部12は、ステップB4で算出した確率を用いて、ステップB1で取得された歩行振動データの取得元の個人を特定する(ステップB5)。
【0064】
[実施の形態における効果]
このように、本実施の形態では、個人特定データは、複数歩の歩行振動を重ね合せ、ハイレベルとなる部分がどのタイミングでどれくらいの確率で発生するかを指標化することによって、個人特定データが作成されている。そして、ハイレベルとなる部分の発生確率は、個人に特有の値となるので、得られた歩行振動データの2値化データと個人特定データとを対比することで個人の特定が可能なる。このため、本実施の形態によれば、歩行振動にばらつきが発生した場合であっても、歩行振動から個人を特定することができる。
【0065】
[プログラム]
本発明の実施の形態におけるプログラムは、コンピュータに、
図13に示すステップA1~A3、
図14に示すステップB1~B5を実行させるプログラムであれば良い。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施の形態における歩行振動解析装置10と歩行振動解析方法とを実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、2値化処理部11、個人判定部12、及び個人特定データ作成部13として機能し、処理を行なう。
【0066】
また、本実施の形態におけるプログラムは、複数のコンピュータによって構築されたコンピュータシステムによって実行されても良い。この場合は、例えば、各コンピュータが、それぞれ、2値化処理部11、個人判定部12、及び個人特定データ作成部13のいずれかとして機能しても良い。
【0067】
ここで、本実施の形態におけるプログラムを実行することによって、歩行振動解析装置10を実現するコンピュータについて
図15を用いて説明する。
図15は、本発明の実施の形態における歩行振動解析装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【0068】
図15に示すように、コンピュータ110は、CPU(Central Processing Unit)111と、メインメモリ112と、記憶装置113と、入力インターフェイス114と、表示コントローラ115と、データリーダ/ライタ116と、通信インターフェイス117とを備える。これらの各部は、バス121を介して、互いにデータ通信可能に接続される。なお、コンピュータ110は、CPU111に加えて、又はCPU111に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えていても良い。
【0069】
CPU111は、記憶装置113に格納された、本実施の形態におけるプログラム(コード)をメインメモリ112に展開し、これらを所定順序で実行することにより、各種の演算を実施する。メインメモリ112は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性の記憶装置である。また、本実施の形態におけるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体120に格納された状態で提供される。なお、本実施の形態におけるプログラムは、通信インターフェイス117を介して接続されたインターネット上で流通するものであっても良い。
【0070】
また、記憶装置113の具体例としては、ハードディスクドライブの他、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置が挙げられる。入力インターフェイス114は、CPU111と、キーボード及びマウスといった入力機器118との間のデータ伝送を仲介する。表示コントローラ115は、ディスプレイ装置119と接続され、ディスプレイ装置119での表示を制御する。
【0071】
データリーダ/ライタ116は、CPU111と記録媒体120との間のデータ伝送を仲介し、記録媒体120からのプログラムの読み出し、及びコンピュータ110における処理結果の記録媒体120への書き込みを実行する。通信インターフェイス117は、CPU111と、他のコンピュータとの間のデータ伝送を仲介する。
【0072】
また、記録媒体120の具体例としては、CF(Compact Flash(登録商標))及びSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、又はCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【0073】
なお、本実施の形態における歩行振動解析装置10は、プログラムがインストールされたコンピュータではなく、各部に対応したハードウェアを用いることによっても実現可能である。更に、歩行振動解析装置10は、一部がプログラムで実現され、残りの部分がハードウェアで実現されていてもよい。
【0074】
上述した実施の形態の一部又は全部は、以下に記載する(付記1)~(付記12)によって表現することができるが、以下の記載に限定されるものではない。
【0075】
(付記1)
歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行振動データを、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現する、2値化データに変換する、2値化処理部と、
変換後の前記2値化データを、予め個人毎に、当該個人の歩行振動データを前記2値化データに変換することによって作成されている、個人特定データに照合して、前記歩行振動データの取得元の個人を特定する、個人判定部と、
を備えている、ことを特徴とする歩行振動解析装置。
【0076】
(付記2)
前記2値化処理部が、取得した前記歩行振動データの標準偏差を算出し、算出した前記標準偏差を閾値として用いて、取得した前記歩行振動データを、前記2値化データに変換する、
付記1に記載の歩行振動解析装置。
【0077】
(付記3)
前記個人毎に、当該個人の前記個人特定データを作成する、個人特定データ作成部を更に備え、
前記個人特定データ作成部は、前記個人毎に、当該個人の複数歩分の歩行振動データを取得し、取得した複数歩分の歩行振動データそれぞれを前記2値化データに変換し、変換後の複数歩分の歩行振動データに基づいて、ハイレベルとなる部分の発生確率を、歩行開始からの経過時間に紐付けて算出し、算出した前記発生確率を当該個人の前記個人特定データとする、
付記1または2に記載の歩行振動解析装置。
【0078】
(付記4)
前記個人判定部が、前記個人特定データそれぞれ毎に、変換後の前記2値化データのハイレベルの部分と、当該個人特定データの前記ハイレベルとなる部分の発生確率とを対比して、前記歩行振動データの取得元の個人が当該個人である確率を算出する、
付記3に記載の歩行振動解析装置。
【0079】
(付記5)
(a)歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行振動データを、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現する、2値化データに変換する、ステップと、
(b)変換後の前記2値化データを、予め個人毎に、当該個人の歩行振動データを前記2値化データに変換することによって作成されている、個人特定データに照合して、前記歩行振動データの取得元の個人を特定する、ステップと、
を有する、ことを特徴とする歩行振動解析方法。
【0080】
(付記6)
前記(a)のステップにおいて、取得した前記歩行振動データの標準偏差を算出し、算出した前記標準偏差を閾値として用いて、取得した前記歩行振動データを、前記2値化データに変換する、
付記5に記載の歩行振動解析方法。
【0081】
(付記7)
(c)前記個人毎に、当該個人の前記個人特定データを作成する、ステップを更に有し、
前記(c)のステップにおいて、前記個人毎に、当該個人の複数歩分の歩行振動データを取得し、取得した複数歩分の歩行振動データそれぞれを前記2値化データに変換し、変換後の複数歩分の歩行振動データに基づいて、ハイレベルとなる部分の発生確率を、歩行開始からの経過時間に紐付けて算出し、算出した前記発生確率を当該個人の前記個人特定データとする、
付記5または6に記載の歩行振動解析方法。
【0082】
(付記8)
前記(b)のステップにおいて、前記個人特定データそれぞれ毎に、変換後の前記2値化データのハイレベルの部分と、当該個人特定データの前記ハイレベルとなる部分の発生確率とを対比して、前記歩行振動データの取得元の個人が当該個人である確率を算出する、
付記7に記載の歩行振動解析方法。
【0083】
(付記9)
コンピュータに、
(a)歩行に伴って発生した歩行振動を特定する歩行振動データを取得し、取得した歩行振動データを、歩行開始からの経過時間に沿って振動の値をハイレベルとローレベルとの2値で表現する、2値化データに変換する、ステップと、
(b)変換後の前記2値化データを、予め個人毎に、当該個人の歩行振動データを前記2値化データに変換することによって作成されている、個人特定データに照合して、前記歩行振動データの取得元の個人を特定する、ステップと、
を実行させる、プログラム。
【0084】
(付記10)
前記(a)のステップにおいて、取得した前記歩行振動データの標準偏差を算出し、算出した前記標準偏差を閾値として用いて、取得した前記歩行振動データを、前記2値化データに変換する、
付記9に記載のプログラム。
【0085】
(付記11)
前記コンピュータに、
(c)前記個人毎に、当該個人の前記個人特定データを作成する、ステップを実行させ、
前記(c)のステップにおいて、前記個人毎に、当該個人の複数歩分の歩行振動データを取得し、取得した複数歩分の歩行振動データそれぞれを前記2値化データに変換し、変換後の複数歩分の歩行振動データに基づいて、ハイレベルとなる部分の発生確率を、歩行開始からの経過時間に紐付けて算出し、算出した前記発生確率を当該個人の前記個人特定データとする、
付記9または10に記載のプログラム。
【0086】
(付記12)
前記(b)のステップにおいて、前記個人特定データそれぞれ毎に、変換後の前記2値化データのハイレベルの部分と、当該個人特定データの前記ハイレベルとなる部分の発生確率とを対比して、前記歩行振動データの取得元の個人が当該個人である確率を算出する、
付記11に記載のプログラム。
【0087】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施の形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0088】
この出願は、2017年11月2日に出願された日本出願特願2017-212737を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように、本発明によれば、歩行振動にばらつきが発生した場合であっても、歩行振動から個人を特定することができる。本発明は、歩行振動からの個人の特定が求められるシステム、例えば、高齢者の見守りを行うシステム、防犯システム等に有用である。
【符号の説明】
【0090】
10 歩行振動解析装置
11 2値化処理部
12 個人判定部
13 個人特定データ作成部
14 データ格納部
20 振動センサ
21 人
22 建物
110 コンピュータ
111 CPU
112 メインメモリ
113 記憶装置
114 入力インターフェイス
115 表示コントローラ
116 データリーダ/ライタ
117 通信インターフェイス
118 入力機器
119 ディスプレイ装置
120 記録媒体
121 バス