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特許7074305無機分析物を検出するための光学検出セルおよびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】無機分析物を検出するための光学検出セルおよびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/74 20060101AFI20220517BHJP
   G01N 21/05 20060101ALI20220517BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20220517BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G01N30/74 A
G01N21/05
G01N33/18 C
G01N30/74 E
G01N30/02 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021517111
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2019055206
(87)【国際公開番号】W WO2019228686
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】S2018/0161
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IE
(31)【優先権主張番号】S2018/0322
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IE
(73)【特許権者】
【識別番号】521511047
【氏名又は名称】アクアモニトリックス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AQUAMONITRIX LIMITED
【住所又は居所原語表記】Tullow Industrial Estate, Tullow, Carlow, Ireland
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】マレー,オウエン
(72)【発明者】
【氏名】ロッシュ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ハリントン,ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ブリート,マチュー
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-091052(JP,A)
【文献】特開2012-220324(JP,A)
【文献】特開平11-166886(JP,A)
【文献】特表2017-516120(JP,A)
【文献】米国特許第05408326(US,A)
【文献】国際公開第2017/149787(WO,A1)
【文献】Craig G.Moe et al.,AlGaN Light-Emitting Diodes on AlN Substrates Emitting at 230nm,Phys.Status Solidi A,2017年,Vol.215,p.1700660
【文献】Yan Li et al.,Performance of a New 235 nm UV-LED-Based On-Capillary Photometric Detector,Analytical Chemistry,2016年,Vol.88, pp.12116-12121
【文献】Stefan Schmid et al., UV-absorbance detector for HPLC based on a light-emitting diode,Analyst,2008年02月26日,Vol.133,pp.465-469
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
G01N 21/03-21/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料内の無機分析物を検出するための携帯型現場イオンクロマトグラフィーシステム(200)に使用する光学検出セル(100)であって、
前記流体試料のための光学検出路(114)を形成するように構成された、第1端および第2端を有するマイクロ流体チャネル(104)と、
流体試料を前記マイクロ流体チャネル(104)へ送り込むための第1開口(105)および前記マイクロ流体チャネル(104)から流体を抽出するための第2開口(105)と、
前記マイクロ流体チャネル(104)の対向する第1位置および第2位置(114a、114b)にそれぞれ装着された第1UV透明窓および第2UV透明窓(103)と、を含む検出セル体(110)と、
前記第1UV透明窓(103)の近位に配置された紫外(UV)発光ダイオード(LED)(140)であって、電力を供給されると、前記マイクロ流体チャネル(104)における前記流体試料の暴露のために前記マイクロ流体チャネル(104)の前記光学検出路(114)に少なくとも部分的に向けられた光を235nmのUV波長範囲で照射するように構成された紫外(UV)発光ダイオード(LED)(140)と、
前記第2UV透明窓(103)の近位に配置され、かつ電力を供給されると前記暴露された流体試料を通過するUV光の量を検出するように構成された光検出器(160)であって、検出されている前記光に対応する値を有する少なくとも1つの電気信号を生成するように構成された光検出器(160)と、
を含む光学検出セル(100)において、
前記紫外(UV)発光ダイオード(LED(140)は、2.5mA~15.0mAの値を有する一定電流によって駆動されるように構成されることを特徴とする、
光学検出セル(100)。
【請求項2】
前記紫外(UV)発光ダイオード(LED)の電流は、2.5mA~12.5mAである、請求項1に記載の光学検出セル(100)。
【請求項3】
前記マイクロ流体チャネル(10)の直径は、400.0~500.0μmである、請求項1または2に記載の光学検出セル(100)。
【請求項4】
前記光学検出路(114)は、2.0cm~2.5cmの長さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学検出セル(100)。
【請求項5】
前記マイクロ流体チャネル(10)がZ形状を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学検出セル(100)。
【請求項6】
前記第1UV透明窓および第2UV透明窓(103)は、前記マイクロ流体チャネルの対向する端部において、それぞれのアパーチャに接着される、請求項5に記載の光学検出セル。
【請求項7】
前記それぞれのアパーチャは、前記マイクロ流体チャネル(104)の直径と等しいサイズを有する、請求項6に記載の光学検出セル(100)。
【請求項8】
流体試料内の無機分析物を検出するための携帯型現場クロマトグラフィーシステム(200)であって、前記システムは、
請求項1~7に記載の光学検出セル(100)と、
記検出セル体(110)の開口(105)に結合された少なくとも1つのポンプモジュール(220)であって、前記光学検出セル(100)の前記紫外(UV)発光ダイオード(LED(140)に暴露するために前記マイクロ流体チャネル(104)の前記光学検出路(114)へ流体試料を送り込むように構成された、少なくとも1つのポンプモジュール(220)と、
前記少なくとも1つのポンプモジュール(220)へ所定の体積の流体試料を送るように構成された試料取り入れモジュール(210)と、
前記流体試料内の無機分析物のレベルを計算するために前記光学検出セル(100)の前記光検出器(160)によって生成された前記少なくとも1つの信号を処理するように構成された処理部(230)と、
前記光学検出セル(100)、および/または前記少なくとも1つのポンプモジュール(220)、および/または前記試料取り入れモジュール(210)、および/または前記処理部(230)の少なくとも1つに電力を供給するための少なくとも1つの電気信号を送信する電源(240)と、
を含む、
携帯型現場クロマトグラフィーシステム(200)。
【請求項9】
前記ポンプモジュール(220)は、溶離剤源(221)からの溶離剤を供給するように構成されたポンプと、マイクロインジェクションバルブ(222)へ試料を注入するポンプと、を含み、前記マイクロインジェクションバルブ(222)は所定の試料ループを有して構成され、前記所定の試料ループは流体試料と前記溶離剤とをガードカラム(223)内へ流すことを可能にし、前記ガードカラム(223)は前記光学検出セル(100)へ送達される前記流体試料内のアニオンを分離するように構成される、請求項8に記載のシステム(200)。
【請求項10】
前記光学検出セル(100)は基台(120)に固定されており、前記基台はUV-LED保持部(130)と光検出器保持部(150)とを含む、請求項8または9に記載のシステム(200)。
【請求項11】
前記基台は、前記UV-LED保持部(130)および前記光検出器保持部(150)を、前記対応する透明窓(103)に関して所望の位置へ案内するための手段(190)を含む、請求項10に記載のシステム(200)。
【請求項12】
前記案内するための手段(190)はレールの形状である、請求項11に記載のシステム(200)。
【請求項13】
前記案内するための手段(190)は、前記UV-LED保持部(130)および前記光検出器保持部(150)を前記所望の位置に固定するための手段(180)を含む、請求項12に記載のシステム(200)。
【請求項14】
前記紫外(UV)発光ダイオード(LEDから照射された前記光の前記UV波長内の光を吸収する、亜硝酸塩、硝酸塩、ヨウ化物、ヨウ素酸塩、および他の無機分析物を検出するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の光学検出セル(100)の使用。
【請求項15】
前記紫外(UV)発光ダイオード(LEDから照射された前記光の前記UV波長内の光を吸収する、亜硝酸塩、硝酸塩、ヨウ化物、ヨウ素酸塩、および他の無機分析物を検出するための、請求項8~13のいずれか一項に記載のシステム(200)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質を監視するために使用され得る、水生環境内の硝酸塩および亜硝酸塩などの無機分析物を検出するための光学検出セルおよびシステムに関する。より具体的には、本発明は、川、湖、貯水池などの水生環境内の無機分析物を検出するための紫外線(UV)ベースの光学検出セルおよび携帯型現場(in-situ)光学システムに関する。
【背景技術】
【0002】
過去10年間にわたって、世界的人口増加の結果として、農業、食糧生産、および産業開発などの人為的活動が増加した。この人為的活動の増加により、淡水の質が影響を著しく受けている。淡水内の過剰なレベルの亜硝酸塩および硝酸塩が、環境および人間の健康の両方に顕著なリスクをもたらしている。したがって、淡水体における亜硝酸塩および硝酸塩を監視する必要がある、という一定範囲の法的文書化がヨーロッパにおいておよび地球規模の両方で行われている。
【0003】
亜硝酸塩(NO )および硝酸塩(NO )の形での窒素は、環境水において普通に見られるものである。これらのアニオンは一体となって、水生生態系にとって必須の藻類およびフローラの成長を促進する役割を果たしている。環境水内でのこれらの固有の性質にもかかわらず、人為的活動由来の点的および非点的汚染源の結果として、過剰なレベルの硝酸塩および亜硝酸塩は、環境的および人間の健康の両方に顕著なリスクをもたらしている。亜硝酸塩および硝酸塩の両方が富栄養化に寄与し、その結果、藻類および水生植物が過剰に生産される。藻類の異常発生は、人間の健康にとって有害な毒素や細菌を生産しやすい。これらの異常発生はまた、水の酸素レベルを著しく低減することがあり得、これにより水生生物は有害な影響を受ける。環境上の影響に加え、栄養素汚染は重大な経済的影響も与える。
【0004】
現在、水中の亜硝酸塩および硝酸塩の監視は主に手動で行われる。水試料を採取して、つかみ取り法と呼ばれる処理で分析するために中央集中施設へ送る。標準的な化学分析とつかみ取り法とを組み合わせると、費用がかさみ、時間がかかり、空間データおよび時間データのよいものが得られない。これらの問題を克服するために、連続的または半連続的観察を提供する低コストの現場技術が必要である。標準的なベンチトップ分析機器は、それらの物理的な重量およびサイズ、消費電力、ならびにコストのため、現場分析にあまり適さない。その結果、現場水監視のためのベンチトップシステムを使用する試みは実用的でもなくコスト効果的でもない。真に効果的な水質管理を達成するためには、高周波および空間データを達成できる、配置可能な現場センサシステムが必要である。
【0005】
可視LEDベースの光学検出と組み合わせた比色分析法を採用した、硝酸塩および亜硝酸塩のための主要な現場分析器の例が、A.D.Beatonら、「Lab-on-Chip Measurement of Nitrate and Nitrite for In Situ Analysis of Natural Waters」、Environ. Sci. Technol. 46 (2012) 9548-9556に報告されている。しかしながら、これらの可視LEDベースの現場分析器は、複数の試薬を必要とし、これらの試薬は温度に影響される可能性があり、その結果、時の経過とともに分析精度が影響され得る。さらに、比色分析を使用する硝酸塩検出にはカドミウムや塩化バナジウムなどの還元剤が必要であり、これによってさらに可視LEDベースの現場分析器の操作、製造、および維持がさらに複雑となる。
【0006】
比色分析ベースの現場分析器に対する、より複雑でなくよりコスト効果的な手法として、亜硝酸塩および硝酸塩の直接UV吸光度検出に基づく現場分析器が、低コスト深UVC LEDを使用して達成され得る。亜硝酸塩および硝酸塩がそれぞれ209および200nmの最大波長値(λmax)を有するので、<240nmの深UV-LEDは、これらの分析物の直接吸光度ベース検出を可能にする。亜硝酸塩および硝酸塩の直接検出を含む、化学分析用235nmLEDの最初の実証が、Liらによって、「Performance of a new 235 nm UV LED-based on-capillary photometric detector」Anal. Chem. 88 (2016) 12116-12121.2016において始めて報告された。このシステムは、標準ベンチトップキャピラリーイオンクロマトグラフィーを使用し、市販の光学インターフェースから作成した修正オンキャピラリー検出器に235nmLEDを統合した。この検出器セットアップにおいては、UV-LEDは、キャピラリースケール検出のために十分な光強度を生成するために大電流(100mAまで)を必要とした。この大電流がLED温度の上昇につながり、温度上昇に伴ってLED性能が下がるので、LED動作のために放熱用ヒートシンクが必要であった。同様に、Silveira Petruciらは、「Absorbance detector for high-performance liquid chromatography based on a deep-UV light-emitting diode at 235 nm」J. Chromatogr. A 1512 (2017) 143-146において、標準ベンチトップHPLCとともに薬品化合物の直接UV吸光度検出のために235nmLEDを使用すること報告したが、ここでも、分析のためには、ヒートシンクの形でのLEDの放熱が必要であった。携帯型現場分析器内での235nmLEDの使用を検討する場合、ヒートシンクを使用すると、光学検出器セルの開発に伴うコストおよび複雑さが増す。さらに、熱を軽減するヒートシンクの性能は時の経過とともに影響を受け、これが現場分析器の精度および性能に影響を与えかねない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の解決策の不都合な点を克服する、UVスペクトル内の光を吸収する無機分析物を検出するための光学検出セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
さらに、本発明は、従来の解決策の不都合な点を克服する、水生環境内の無機分析物のレベルを検出することによって水質を監視するための携帯型システムを提供することを目的とする。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、流体試料内の無機分析物を検出するための光学検出セルであって、
流体試料のための検出路を形成するように構成された、第1端および第2端を有するマイクロ流体チャネルと、
流体試料をマイクロ流体チャネルへ送り込むための第1開口およびマイクロ流体チャネルから流体を抽出するための第2開口と、
マイクロ流体チャネルの対向する第1位置および第2位置にそれぞれ装着された第1UV透明窓および第2UV透明窓と、
を含む検出セル体と、
第1透明窓の近位に配置された紫外(UV)発光ダイオード(LED)であって、電力を供給されると、マイクロ流体チャネルにおける流体試料の暴露のためにマイクロ流体チャネルの光学検出路に少なくとも部分的に向けられた光をUV波長範囲で照射するように構成された、紫外(UV)発光ダイオード(LED)と、
第2透明窓の近位に配置され、かつ電力を供給されると暴露された流体試料を通過するUV光の量を検出するように構成された光検出器であって、検出されている光に対応する値を有する少なくとも1つの電気信号を生成するように構成された、光検出器と、
を含む光学検出セルにおいて、
UV-LEDは2.5mA~35.0mAの値を有する一定電流によって駆動されるように構成されることを特徴とする。本発明の実施形態によれば、UV-LED電流は、2.5mA~25.0mA、好ましくは2.5mA~15.0mA、より好ましくは2.5mA~12.5mAであってよい。
【0010】
本発明の光学セルでは、従来技術で提示されるシステムにおいて必要な構成部品であるヒートシンクまたは放熱モジュールが必要でなくなることが分かった。ヒートシンクまたは放熱モジュールをなくすことは、上記で特定した範囲、すなわち、2.5mA~35.0mA、好ましくは2.5mA~15.0mA、より好ましくは2.5mA~12.5mAの値を有する電流でUV-LEDを動作させることによって達成される。電流は、電池などの電源によって生成されてもよい。さらにより好ましくは、電流値の高い方の範囲が12mA以下に維持されてもよい。低レベル電流でUV-LED動作させることにより、従来技術の解決策の遭遇する加熱問題が克服され得る。光学検出セルは、試料および流体送出のためのポンプと組み合わせてもよく、試料の直接UV吸光度検出を通して直接にまたは試料のクロマトグラフィー分離の後、硝酸塩(NO )および亜硝酸塩(NO )を測定するのに使用できる。なぜならば、NO およびNO は、上記のUV範囲において吸光するからである。UV-LEDを35mA超のより高い電流で動作させてもよいが、生成された熱を放熱するためにヒートシンクの使用が必要となり得る。
【0011】
本発明の実施形態によれば、マイクロ流体チャネルの直径は、200.0~600μm、好ましくは400.0~500.0μmである。本発明の実施形態によれば、光学検出路は、1.0cm~2.5cm、好ましくは2.0cm~2.5cm、さらにより好ましくは2.0cm~2.15cmの長さを有する。
【0012】
典型的な深UV-LEDは、比較的低い光パワー出力を有し、通常高い動作電流を必要とし、その結果、UV-LEDが熱を生成する。高電流密度でのLEDのLED寿命、発光波長、および強度は、温度上昇により悪影響を受ける。したがって、従来技術の解決策のシステムにみられるように、LEDによって生成された熱を放熱するために、典型的にはヒートシンクが必要である。検出チャネルを通過できるUV-LEDから照射される光の量を増加させるために、十分に広いアパーチャを有するマイクロ流体チャネルを設けてよい。例えば、マイクロ流体チャネルの直径は、200.0~1000μm、さらにより好ましくは400.0~500.0μmであってよい。同時に、光学検出路の長さは、1.0cm~2.5cm、好ましくは2.0cm~2.5cm、さらにより好ましくは2.0cm~2.15cmであってよい。少なくとも十分に広いアパーチャにより、UV-LEDからの十分な光の量が光学検出路を通過でき、これにより、例えば10mA以下の低電流で動作されるUV-LEDから照射された低強度光が、無機分析物の検出のために使用可能となる。その結果、上記で適した範囲またはそれ以上において、少なくとも十分に広いアパーチャを有するマイクロ流体チャネルを使用することで、UV-LEDに印加する必要のある電流を低減でき、したがって、LEDの加熱を低減できる。好ましくは、精度を維持しつつLEDによる放熱を低減するために、本発明で使用するUV-LEDを<12mAの低電流で動作させてもよい。なお、本発明によれば、UV-LEDは、従来技術の解決策で報告された動作電流よりも十分に低い電流範囲で動作される。なお、UV-LEDによる放熱を下げるまたは効果的に除去するための当業者に既知である他の方法も、本発明において使用してよい。これらの既知の技術は、ヒートシンクの使用、LED電流を下げること、または他の既知の方法を含み得る。
【0013】
本発明の実施形態によれば、UV-LEDは、100.0~400.0nmの範囲、好ましくは200.0~300nmの範囲、より好ましくは200.0~280.0nmの範囲のUV光を照射するように構成される。
【0014】
光を照射するUV-LEDを使用すれば、例えば亜硝酸塩、硝酸塩、ヨウ化物、ヨウ素酸塩などの、UV-LEDから照射される光のUV波長内の光を吸収する無機分析物を直接検出できるかもしれないということが分かった。例えば、亜硝酸塩および硝酸塩は、209および200nmの最大吸収波長値(λmax)をそれぞれ有するため、これらの分析物を吸光度ベースで直接検出できるようにするには、本発明によって提供されるような<240nmの深UV-LEDが必要である。UV-LEDは、UVまたは深UV範囲内の所望の波長のものであってもよく、例えば235、250、または280nmLEDである。
【0015】
本発明の実施形態によれば、透明窓は、ガラスからできているUV透明窓である。
【0016】
ガラス窓の使用により、UV-LEDから照射された光が、マイクロ流体チャネルの光学検出路をより透過しやすくなることが分かった。光が光学検出路をより透過しやすくなる結果、光学検出セルの精度が向上し得る。さらに、光がより透過しやすくなることで、UV-LEDが2.5mA~12mAの値を有する電流で動作可能になり得る。透明窓は、融解石英ガラスまたはサファイアなどの材料からできていてもよい。例えば、透明窓は、マイクロ流体チャネルの各端に配置されてもよい。UV透明窓により、透明窓のうちの1つに近位に配置されたUV発光ダイオード(LED)と、対向する透明窓の近位に配置されたUV反応性光ダイオードとを用いて、UV吸収を測定できる。
【0017】
本発明の実施形態によれば、光検出器は、UV-LEDの波長範囲における照射光を検出するように構成された光ダイオードである。
【0018】
光ダイオードは光を電流に変換する半導体素子である。光子が光ダイオードに吸収されるとき、電流が生成される。光ダイオードは光学フィルタ、組み込みレンズを含んでよく、表面積は大きくても小さくてもよい。UV-LEDの波長範囲における光を検出可能な光ダイオードを使用することにより、無機分析物の検出における光学検出の精度を向上できることが分かった。
【0019】
本発明の実施形態によれば、マイクロ流体チャネルがz形状または他の形状を有することにより、光源および光検出器が互いに対向して配置され得る。
【0020】
z形状マイクロ流体チャネルにより、UV-LEDと光検出器とが互いに対向して配置され得るので、流体試料における無機分析物の検出が可能になることが、分かった。なお、マイクロ流体チャネルは、UV-LEDと光検出器とを互いに対向して配置することが可能な任意の他の形状で提供されてもよい。そのような形状は二次元(2D)または三次元(3D)空間に形成され得る。
【0021】
本発明の実施形態によれば、光学検出セル体は、互いに接着された第1層および第2層を含む。マイクロ流体チャネルは第1層および/または第2層に形成されてもよい。
【0022】
第1層および第2層は、マイクロミリングと、二層のポリメタクリル酸メチル(PMMA)(これらはUV光に対して非透明であり光学検出路を通る光の最大透過を可能にする)の溶媒蒸気接着とにより製作してもよい。なお、金属など、マイクロ流体チャネルの光学検出路を通る光の透過を最大にする他の材料を代わりに使用してもよい。
【0023】
本発明の実施形態によれば、第1透明窓および第2透明窓は光学検出セル体上に作成されたそれぞれのアパーチャに接着される。それぞれのアパーチャは、マイクロ流体チャネルの直径と等しいサイズを有してもよい。それぞれのアパーチャは、所望の位置において凹部として形成され得る。凹部は、UV透明窓の厚さを収容する所定の深さを有してよい。例えば、アパーチャの深さはUV透明窓の厚さと等しくてもよく、それによって、UV透明窓がそれぞれのアパーチャに配置されたとき、LEDおよび光検出器に対向しているその上面(top surface)が光学検出セル体の表面と面一になるようにしてもよい。透明窓は、マイクロ流体チャネルから流体試料が漏れないように水密シールを形成するように構成された適切なエポキシを使用して接着されてよい。
【0024】
本発明の第2の態様によれば、流体試料内の無機分析物を検出するための携帯型システムが提供されてもよい。当該システムは、
本発明の第1の態様による光学検出セルと、
光学検出セル体の開口に結合された少なくとも1つのポンプモジュールであって、光学検出セルのUV-LEDに暴露するためにマイクロ流体チャネルの光学検出路へ流体試料を送り込むように構成された、少なくとも1つのポンプモジュールと、
少なくとも1つのポンプへ所定の体積の流体試料を提供するように構成された試料取り入れモジュールと、
流体試料内の無機分析物のレベルを計算するために光学検出セルの光検出器によって生成された少なくとも1つの信号を処理するように構成された処理部と、
光学検出セル、および/または少なくとも1つのポンプ、および/または試料取り入れシステム、および/または処理部の少なくとも1つに電力を供給するための少なくとも1つの電気信号を提供する電源と、
を含む。
【0025】
本発明の携帯型システムは、既存の解決策と比べて多くの利点を有することが分かった。携帯型光学検出システムは、UVスペクトル領域内で吸光する亜硝酸塩、硝酸塩、ヨウ化物、ヨウ素酸塩、および他の無機分析物など、無機分析物の直接UV吸光度検出のために利用できる。LED制御およびデータ取得のためのエレクトロニクスと組み合わせると、本発明の光学セルおよびシステムは、他の市販のシステムと比較して、より携帯性が高く、サイズが小さく、電力使用が少ない。例えば、本発明のシステムのサイズおよび消費電力は、当該技術で既知のシステムと比較して著しく小さい。先に述べたように、光源としてUV-LEDを使用する、光学検出セルを提供することによって、サイズおよび消費電力が低減される。UV-LEDは、例えば12mA未満の非常に低い電流で動作させることができ、したがって、従来技術の解決策におけるシステムの不可欠な構成部品であるヒートシンクを組み込む必要がなくなる。
【0026】
さらに、本発明のシステムを製造するために必要なコストおよび時間が従来の解決策と比較して著しく少ない。その理由は、本発明のシステムが、その構成において、従来のシステムより、単純であり、より少ない部品しか必要としないからである。例えば、セルの製造プロセスは、3Dプリントおよびマイクロミリングなどの迅速なプロトタイピング技術を用いて簡素化できる。
【0027】
本発明の実施形態によれば、ポンプモジュールは、溶離剤源からの溶離剤をマイクロインジェクションバルブへ送出するように構成されたポンプを含み、マイクロインジェクションバルブは流体試料と溶離剤とをガードアニオン交換カラムへ供給するように構成されており、ガードアニオン交換カラムは光学セルのマイクロ流体チャネルへ送り込まれる流体試料内の化合物を分離するように構成される。
【0028】
本発明では、深UV-LEDと組み合わせた光学検出器を、自動ポンプ、試料取り入れシステム、マイクロインジェクションバルブ、およびアニオン交換カラムと結合して、亜硝酸塩および硝酸塩分析のための携帯型イオンクロマトグラフィー(IC)システムを作成できることが分かった。このシステムは、LEDベースの光学検出と結合した比色分析法を採用する硝酸塩および亜硝酸塩のための主要な現場分析器よりも、複雑でない。背景技術の項目で述べたように、これらの比色分析システムは、多数の化学試薬と分析物検出用の複雑な流体制御とを必要とする。比色分析を使用した硝酸塩分析のためには、最も典型的には、検出のために亜硝酸塩への還元ステップが必要である。
【0029】
本発明の実施形態によれば、試料取り入れシステムは、ポンプモジュール内へ所定の体積の流体試料を注入するように構成された少なくとも1つのシリンジを含む。
【0030】
光学検出システムは、溶離剤ポンピングおよび試料注入のためのマイクロコントローラによって制御される、例えばステッパ、ブラシ付きまたはブラシレスDCモータなどと一体化されたシリンジポンプを使用する試料取り入れシステム、ならびに自動ポンプと結合されてもよい。例えば比例-積分-微分(P.I.D)制御に基づくシステムなどの閉ループ制御システムを使用して、流量および注入体積を制御し、繰り返し可能な流量を確実にしてもよい。
【0031】
本発明の実施形態によれば、処理部は、UV-LED光源、ポンピングモジュール、および/または試料取り入れシステムのうちの1つを制御し動作させるように構成される。
【0032】
マイクロコントローラおよび一定電流ドライバを含む、処理部のような埋め込みシステムを、UV-LED光源を制御し動作させるのに使用してもよく、その一方で、光ダイオードによって生成されたアナログ信号をアナログ―デジタル変換器に送ることができる。そして、処理および分析のために、データをローカルで、例えばマイクロSDカード上に、保存できる。埋め込みシステムを通信ネットワークに接続して、携帯型システムが遠隔でアクセスおよび動作可能となるようにしてもよい。例えば、システムをモノのインターネットのネットワークへ接続してもよい。これにより、携帯型システムから収集されたデータを中央集中施設へ送信可能とし、中央集中施設でデータを処理および分析してもよい。送信されたデータは、検出された無機分析物に関するデータおよび/または、例えば誤動作、シャットダウンなどの携帯型システムモジュールの動作に関するデータを含み得る。したがって、データの中央集中施設への送信は、携帯型システム機能の連続的監視も可能にし得る。
【0033】
本発明の実施形態によれば、光学セルは基台に固定されており、基台は、UV-LED保持部と光検出器保持部とを含む。
【0034】
基台とUV-LED保持部および光検出器保持部とを設けることにより、LEDおよび光ダイオードの位置をUV透明窓に対してより正確に配列することができ、それによって、UV光学検出の全体的な精度を高めることができることが分かった。基台は、携帯型システムの光学セルを取り外し可能に固定するように構成されてもよい。例えば、基台は、光学セルを取り外し可能に固定するように寸法づけされた開口を備えてもよい。LED保持部および光検出器保持部は、基台上において、UV-LEDおよび光ダイオードの位置を、対向する透明窓に対して固定するように配置されてもよい。
【0035】
本発明の実施形態によれば、基台は、UV-LED保持部および光検出器保持部を、対応する透明窓に関して所望の位置へ案内するための手段を含む。例えば、案内手段はレールの形状であってよい。
【0036】
案内手段は、LED保持部および光検出器保持部を基台上の所定の方向に沿って移動可能にしてもよい。例えばレールなどの案内手段は、基台の互いに対向する側に配置されてもよい。こうすると、システムは、異なる寸法の光学セルを収容でき、その一方で、実質的に同様の精度を維持できる。さらに、案内手段を使用すると、動作中の保持部の側方移動が防止できる。その結果、動作中、UV-LEDと光検出器との配列が維持でき、したがって、無機分析物を検出する際の光学検出セルの精度を高めることができる。
【0037】
本発明の実施形態によれば、案内手段は、UV-LED保持部および光検出器保持部を所望の位置に固定するための手段を含む。
【0038】
固定手段を使用することにより、UV-LED保持部および光検出器保持部のそれぞれの透明窓に対する所望の位置がさらに固定でき、したがって、無機分析物を検出する際の携帯型システムの精度を高めることができる。
【0039】
以下の図面を、本発明の様々な態様をさらに説明するために例として示す。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、本発明の実施形態に係る光学検出セルの実施例を示す。
図2図2は、本発明の実施形態に係る光学検出セルの実施例を示す。
図3図3は、本発明の実施形態に係る光学検出セル体の実施例を示す。
図4図4は、本発明の実施形態に係るLED保持部の実施例を示す。
図5図5は、本発明の実施形態に係るダイオード保持部の実施例を示す。
図6図6は、本発明の実施形態に係る無機分析物を検出するためのシステムの例を示す。
図7図7は、本発明の実施形態に係る無機分析物を検出するためのシステムの例を示す。
図8図8a及び8bは、本発明の実施形態に係る光学検出セルの繰り返し性および選択的検出能力を実証する実験結果を示す。
図9図9は、UV-LEDを7mAで動作させて光学検出セルによって生成されたクロマトグラムを示す。
図10図10は、UV-LEDを2.5mAで動作させて光学検出セルによって生成されたクロマトグラムを示す。
図11図11は、1時間の連続動作にわたって低電流で動作させた235nmLEDの温度測定値を示す。
図12図12は、検出感度(AU/mol L-1)対吸光度のプロットを示す。
図13図13a及び13bは、30回の連続ランにわたって繰り返し性を調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明を、以下にさらに詳しく説明する図1~13に示す、例としての実施形態を使用して説明する。なお、寸法に対するいかなる参照も、単なる例示に過ぎず、本発明を何ら制限するものではない。本発明をその実施形態の図示を参照しながら示し説明するが、当業者であれば、添付の請求の範囲に包括される本発明の範囲を逸脱することなく、形式および詳細について様々な変更がなされ得ることを理解するであろう。さらに、本発明を、無機分析物を検出するための特定の光学検出セルおよび携帯型システムを参照して説明するが、当業者であれば、添付の請求の範囲に包括される本発明の範囲を逸脱することなく、無機分析物を検出するための他のタイプの光学検出セルおよびシステムを容易にするために、形式および詳細に変更がなされ得ることを理解するであろう。
【0042】
図1~3は、本発明の実施形態に係る水生環境内の無機分析物を検出することによって水質を監視するためのUV光学検出セル100の一例を示す。光学検出セル100は検出セル体110を備える。図3に示すように、検出セル体110は、上層101および底層102を備えてよい。上層101と底層102とはエポキシまたは他の接着剤を使用して互いに接着されてよい。検出セル体110は、第1端および第2端を有するマイクロ流体チャネル104を備えてよい。マイクロ流体チャネル104は、例えば紫外(UV)発光ダイオード(LED)などの光源140から照射される光に流体試料を暴露するための光学検出路114を形成するように構成されている。マイクロ流体チャネル104は底層102および/または上層101内に形成されてよい。図3に示した例では、マイクロ流体チャネル104は、例えばz形状などの所望の形状を有して、底層102にミリングまたはエッチングされてよい。マイクロ流体チャネル104は、200.0~600μm、好ましくは400.0~500.0μmの直径を有してよい。さらに、マイクロ流体チャネル内に画成された光学検出路114は、1.0cm~2.5cm、好ましくは2.0cm~2.5cm、さらにより好ましくは2.0cm~2.15cmの長さを有してよい。図3に示すように、上層101は、マイクロ流体チャネル104を通して分析物溶液をくみ出すための開口105を備えてよい。開口105のうちの一方は流入口として作用し、他方は流出口として作用してよい。図1に示すように、ポンピング接続素子170が、それぞれの開口105に例えばねじ止めまたは圧入などで固定されて、ポンピング装置を検出セル体110に接続可能としてよい。当業者に既知であるエポキシまたは他の接着方法を使用して、透明窓103をマイクロ流体チャネル104の所定の位置に接着してよい。透明窓103は互いに対向するように配置されてよい。例えば、図1~3に示すように、透明窓103は、マイクロ流体チャネル104内に画成された光学検出路114に沿った対向する位置114a、114bに配置されてよい。透明窓103は、融解石英ガラスまたはサファイアなどの、所望の光透過性を有する透明材料から形成されていてもよい。図1および図2に戻って、UV発光ダイオード(LED)140は、透明窓103のうちの一方の近位に配置されてもよく、UV反応性光ダイオード160は、対向する透明窓103の近位に配置されてもよい。本発明の実施形態によれば、UV-LED140は、所定のUV波長の、例えば235、250、280nmLEDであってもよい。動作中のUV-LEDによる放熱を低減するために、UV-LEDは、2.5mA~35.0mA、好ましくは2.5mA~25.0mA、より好ましくは2.5mA~15.0mA、さらにより好ましくは2.5mA~12.5mAの値を有する電流によって駆動されてよい。好ましくは、UV-LEDは、12.0mA以下の値を有する電流で動作されてよい。UV-LEDから照射された光がマイクロ流体チャネル104の光学検出路114を確実に透過できるように、透明窓103はUV透明窓103の形であってもよい。光が光学検出路を透過しやすくなった結果、光学検出セルの精度が向上し得る。光ファイバーケーブルをマイクロ流体チャネルの各端に結合して、光透過および吸光度検出を可能にしてもよい。
【0043】
図1および図2に示すように、光学検出セル100は、取り外し可能に基台120に固定されてもよい。基台120は、LED保持部130と光ダイオード保持部150とを備えてよい。これらの保持部は、透明窓103に対してUV-LED140とUV光ダイオード160との位置をそれぞれ固定するように配置されている。UV-LED保持部130および光ダイオード保持部150は、透明窓140に対して正確に位置決めされるように所定の方向に沿って基台120上を移動可能であってもよい。基台120は、例えば、基台120上に凹溝の形で設けられたレールなどの案内手段190を備えていてもよい。案内手段190は、UV-LED保持部130および光ダイオード保持部150を所定の方向に沿って所望の位置へ案内するために使用され得る。図4および図5に示すように、UV-LED保持部130およびUV-光ダイオード保持部150は、開口132および152を備えてもよく、開口132および152は、それぞれ、UV-LED140および光ダイオード160を収容して固定するように配置されている。保持部130および150は、基台120の案内手段190のそれぞれの縁に係合するための手段131、151を備えてよい。手段131、151により、UV-LED140およびUV-光ダイオード160が基台120に沿って移動可能となる。UV-LED保持部130およびUV-光ダイオード保持部150の案内手段190の更なる移動を防ぐために、図1および図2に示すように、固定部材180を各端に設けてもよい。
【0044】
図6および図7は、本発明の実施形態に係る水生環境内の無機分析物を検出するための携帯型システム200の一例を示す。携帯型システム200は、廃水内の硝酸塩および亜硝酸塩分析物、またはUV-LEDから照射される光のUV波長において光を吸収する他の無機分析物を検出するために使用され得る。システム200は、光学検出セル100の検出セル体110の開口に結合された少なくとも1つのポンプモジュール220を備えてよい。少なくとも1つのポンプモジュール210は、マイクロ流体チャネル104内に画成された光学検出路114へ流体試料を送り込むように構成される。この流体試料は、光学検出セル100のUV-LED140から照射される光に暴露される。試料取り入れモジュール210が、例えば、湖、廃水プラント、川などの水生環境から所定の体積の流体試料を少なくとも1つのポンプへ送るために設けられてよい。処理部230が、例えば光学検出セル100のUV-光ダイオードなどの光検出器160によって生成された少なくとも1つの信号を処理するために設けられて、流体試料内の無機分析物のレベルを計算してもよい。システム200は、例えば、電池やソーラーパネルで作動される電池などの電源240を備えてもよい。電源240は、少なくとも1つの光学検出セル、および/または少なくとも1つのポンプ、および/または試料取り入れシステム、および/または処理部に電力を供給するための少なくとも1つの電気信号を送信するように構成され得る。例えば、電源は電気信号発生器に結合されてもよく、電気信号発生器は、例えば電圧レベルおよび/または電流レベルなどの所定の電気特性を有する電気信号を発生するように構成されてよい。これらの所定の電気特性は、システム200のモジュールのそれぞれの要求事項に適合されてよい。システムは、ポンピングおよび流体試料取り入れのための自動低圧力シリンジ211を備えてよい。溶離剤源221から溶離剤をくみ出し、試料を注入するために、この自動化は、3Dプリントされた保持部に収納されたシリンジ211をマイクロコントローラとブラシつきDCモータとに結合することにより実現された。流量および注入体積を精密に制御するために、閉ループ制御システム(例えばP.I.またはP.I.D.制御)が使用された。例えば、図7に示すように、ポンプモジュール220は、マイクロインジェクションバルブ222へ溶離剤源221からの溶離剤を供給するように構成されたポンプを備えてもよい。マイクロインジェクションバルブ222は、ガードカラム223へ流体試料および溶離剤を供給するように構成されており、ガードカラム223は光学検出セル100へ送り出される流体試料内の化合物を分離するように構成されている。ガードカラム223はアニオン分離のために使用されるアニオン交換ガードカラム(AG15)であってよい。分析中にUV光ダイオード160によって生成されるアナログ信号は、16-ビットアナログ―デジタル変換器へ送られてもよい。16-ビットアナログ―デジタル変換器は処理部230の一部であってもよい。各試料のために生成されるデータは、コンマ区切り値(CSV)フォーマットにアレンジされ、後処理およびクロマトグラム生成のためにCSVファイルでマイクロSDカードに保存されてよい。処理部230は、UV-LED光源140、ポンピングモジュール220、および/または試料取り入れモジュール210のうちの1つを制御し動作させるように構成され得る。
【0045】
図8aおよび8bは、本発明の実施形態に係る光学システムを使用したセットアップから得られた実験結果を示す。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプを使用し、試料注入体積150μLで均一濃度条件のもと、かつアニオン交換ガードカラムを使用して、両分析物を2.5分で検出する。分析物は、電流9.5mAで動作させた235nmLEDに結合した光学検出器を用いて検出される。背圧10バールがシステムによって生成され、これにより、携帯型溶離剤ポンプがシステムで使用できるようになる。先に述べたように、検出器システムは、カスタムビルトのエレクトロニクスを採用して、システムの異なるモジュールの動作を制御および監視しており、これにより、携帯性およびシステムコスト低減が促進される。上述したシステムセットアップを使用して、NO およびNO についてそれぞれ、直線範囲0.015~35および0.050~70mg/Lが得られた。検出限界(LOD)は、NO では0.007mg/L、NO では0.045mg/Lであった。注入体積を変更することによって、直線範囲値および検出限界(LOD)値を修正し、広範囲の試料マトリックスの分析に検出器を使用できるようにしてもよい。システムによって生成された亜硝酸塩(1mg/L)および硝酸塩(3mg/L)のクロマトグラムを重ねたものを図8aに示す。図8aでは、検出器の繰り返し性が強調されている。本手法によって達成された選択性が図8bで実証されている。なぜならば、亜硝酸塩および硝酸塩の両方が、8つの他の典型的な小さな無機アニオンの存在下に適切に分離されているからである。図8aは、本発明の実施形態に係る光学検出セル100を使用して測定した6つの順次得られたクロマトグラムの繰り返し性を示しており、6つのクロマトグラムを重ねたものである。各クロマトグラムは、Dionex Ultimate3000ポンプと、マイクロインジェクションバルブと、AS15ガードカラムと、9.5mAの電流で動作させた235nmUV-LEDつき光学検出セルとを使用した、亜硝酸塩(1mg/L NO )および硝酸塩(3mg/L NO )の均一濃度分離を表す。光学検出セルは、得られた結果を処理するためにエレクトロニクスに結合される。図8aに示す結果のセットアップ条件:100mM KOH溶離剤 0.8mL/分、試料体積は150μLであった。図8bに示す結果のセットアップ条件:イオンクロマトグラフィー(IC)セットアップを使用したアニオン混合標準液(10mg/L F、Cl、Br、NO 、NO 、IO 、I、CO 2-、PO 3-およびSO 2-)の均一濃度分離。
【0046】
図9は、浄化システム廃水の現場分析のために本発明の実施形態に係る光学検出セル100を有する携帯型ICシステムを使用して得られた実験結果を示す。検出器とも称される上述した光学検出セル100において、235nmLEDを7.0mAで動作させて、0.7mL/分の130mM KOHの溶離剤および体積9μLの試料を使用した。廃水内のNO およびNO の濃度は、それぞれ、35mg/Lおよび50mg/Lであった。
【0047】
図10は、廃水の現場分析のために本発明の実施形態に係る光学検出セル100を有する携帯型ICシステムを用いて得られた実験結果を示す。235nmLEDを2.5mAの弱電流で動作させて、0.7mL/分の130mM KOHの溶離剤および体積10μLの試料を使用した。この非常に弱い電流ではベースラインノイズはより顕著であるが、それでもなお、分析物は検出されている。
【0048】
LEDおよび検出器の熱研究
分析作業に用いる場合、深UV-LED140の熱管理が重要な検討事項になることが分かっている。最も典型的には、UV-LED140を用いる分析には大電流が印加され、光に変換されなかった電力は熱に変換される。UV-LED温度が上昇するにつれ、発光効率は減少し、発光波長が移行し、UV-LED140の寿命が低減する。クロマトグラフィー分析を用いる光学検出に235nmLED140が使用された近年の研究では、背景技術の項目で述べたように、UV-LED140を動作させるのに100mA、66mAの電流が使用されたため、分析性能を確保するには放熱用のヒートシンクを使用することが必須であった。少なくとも、本光学検出セル100内の例えば500μmチャネル寸法などの本発明のマイクロ流体チャネル104の直径、ならびに、3Dプリントされた保持部および筐体によって達成されたUV-LED140および光ダイオード160の配列により、12mA以下の(例えば2.5mA~12mAの)一定電流で検出器内においてLED140を動作させて、効果的な分析物検出が実現できることが分かった。これらの条件下で60秒にわたってベースラインノイズ信号を評価し、最大偏差を記録した。235nmLEDベースの光学検出セル100を用いて、0.25mAUのバックグラウンドノイズ信号が求められた。これは、Silveira Petruciら、「Absorbance detector for high performance liquid chromatography based on a deep-UV light-emitting diode at 235 nm」J. Chromatogr. A 1512 (2017) 143-146などによる、従来の解決策において報告された0.30mAUノイズに匹敵するものであった。この低電流でUV-LED140を動作させることにより、UV-LED140の過熱という問題が克服され、したがって、ヒートシンクは必要でなくなった。1時間の連続動作にわたって検出器100内で235nmLED140の温度を測定した結果を図11に示す。最も高い温度が観察されたLED140のポイントから、温度読み取り値を記録した。
【0049】
検出器迷光および有効光路長
製作したUV光学セルに伴う迷光および有効光学検出路114長を、アゾ染料Orange Gを使用して求めた。有効光路長および迷光は、Liら、「Performance of a new 235 nm UV LED-based on-capillary photometric detector」Anal. Chem. 88 (2016) 12116-12121によって設定されたのと同じ手法を用いて求めた。有効光路長(Leff)および迷光を、図12に示すように、検出感度(AU/mol L-1)対吸光度のプロットを用いて計算した。y軸に対して外挿を行うと、感度値は38000AU/mol L-1であった。Orange G(18300L mol-1 cm-1)のモル吸光係数値とともにこの推定値を使用すると、2.07cmの有効光路長が観察された。この有効光路長は、本明細書では光学検出路(光学検出セル100の長さであり、約2.15cmであってもよい)ともいう実際の光学チャネル114の96.28%に相当した。感度5%の降下に相当する、光学検出セル100の直線性の上限は、3.162AUであった。この観察された直線性上限は、市販の高感度検出セル(検出器直線性は2AUまで)より高く、その一方で、市販のシステムと比べるとコストはわずかである。直線性上限値もまた、UV-LED光源を組み込んだ様々なキャピラリー光度検出器に関して近年報告されているもの(100~632mAUの範囲)と比べて著しく高い。x軸(感度=0)に対する外挿では、4.114AUの吸光度が観察された。これは、<0.01%の無視できる迷光レベルに相当する。観察された迷光レベルはおそらく、光学検出路114長と、UV-LED140がUVC光ダイオード160と組み合わせて低強度で動作していることと、PMMA光学検出セル体110がUV光に対して非透明であるということと、の結果として生じるものであろう。この迷光は、Sharmaら、「LED-Based UV Absorption Detector with Low Detection Limits for Capillary Liquid Chromatography」Anal. Chem. 87 (2015) 1381-1386(ここでは3.6%の迷光が観察された)において報告される、単に検出器とも呼ばれる、LEDベースの光学検出セル100などの、深UV-LED140を採用する他の検出セルと比べて、低い。同様に、市販のz-セルを組み込んだ、高感度UV-LEDベースの検出器用の、Liら、「High sensitivity deep-UV LED-based z-cell photometric detector for capillary liquid chromatography」Anal. Chim. Acta 1032 (2018) 197-202によって報告されている最低の迷光は、3%であった。
【0050】
クロマトグラフィーの繰り返し性
イオンクロマトグラフィー(IC)セットアップと組み合わせたUV-LEDベースの光学検出器セル100に伴う測定繰り返し性は、0.5mg L-1 NO および2.5mg L-1 NO を含有する標準アニオン溶液の分析により確立された。アニオン標準液は30回連続で注入した。両分析物についての保持時間およびピーク面積繰り返し性が、図13aおよび13bにおいてグラフで示されている。30ランの保持時間およびピーク面積の相対標準偏差(RSD)は、それぞれ、0.75~1.10%および3.06~4.19%の範囲であった。図13aおよび13bは、0.5mg L-1 NO および2.5mg L-1 NO を含有する標準アニオン溶液の注入体積150μLを30回の連続ランにわたって分析した、繰り返し性の研究結果を示す。溶離剤は、100mM KOHをAG15ガードカラムを用いて0.8 mL min-1の流量で使用した。(A)亜硝酸塩および硝酸塩の保持時間の繰り返し性。関連RSD値とともに示す。(B)30ランにわたり両分析物について求めたピーク面積値の繰り返し性、および関連RSD値。
【0051】
実験システム分析性能および試料分析
カスタムエレクトロニクスを有する235nm光学検出器と組み合わせて、100mM KOH溶離剤、AG15カラム、および試料注入体積150μLを使用して均一濃度の条件下で、亜硝酸塩および硝酸塩の両方を2.5分足らずで検出する。背圧11.5バールがシステムにより生成されるため、上記検出器とともに携帯型ポンプを採用しやすくなる。NO およびNO それぞれにつき、直線範囲0.010~15および0.070~75mg L-1が得られた。検出限界(LOD)については、NO では0.007mg L-1、NO では0.040mg L-1が観察された。シグナル・ノイズ比(S/N)=3を用いて各分析物のLODを計算した。
【0052】
盲検標準溶液の組み合わせと、1つの河川水試料(環境A)および砂糖処理工場(環境B)からの1つの水試料からなる環境試料とを、環境保護庁(Environmental Protection Agency(EPA))の相互検定溶液とともに分析した。相互検定標準液は、ティー・イー・ラボラトリーズから提供されたもので、アイルランドEPA環境相互検定プログラム(Irish EPA Environmental Intercalibration Programme)で使用される標準液であった。このプログラムは、分析性能を評価して、データをEPAに提出する研究室のために環境データの妥当性および比較可能性を保証するものである。まず、0.45μmナイロンフィルタを使用してすべての試料をろ過し、浮遊粒子を除去した。表1には、235nmLED検出器とともにICを使用して各試料内で求めた亜硝酸塩および硝酸塩の濃度が、公認ICを使用して求めた濃度と比較して示されている。亜硝酸塩測定で観察された最大相対誤差は-7.84%であり、硝酸塩では8.80%であった。EPA相互検定溶液の分析で得られた相対誤差は2.10%であり、235nmLED光学検出器およびシステムによって示される精度が容認可能であることが強調される。
【0053】
【表1】
【0054】
本発明は、本明細書で説明した、例としてのみ示した特定の詳細に限定されず、本発明の範囲から逸脱することなく様々な修正および変更が可能であることが、理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13