IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オーキス エナジー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-リチウム硫黄電池用電極 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】リチウム硫黄電池用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220517BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220517BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220517BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220517BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220517BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M4/139
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019517376
(86)(22)【出願日】2017-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 GB2017053364
(87)【国際公開番号】W WO2018087543
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-10-13
(31)【優先権主張番号】16198386.1
(32)【優先日】2016-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519075683
【氏名又は名称】オーキス エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】クック、アシュリー
(72)【発明者】
【氏名】ウルティア、リセット
(72)【発明者】
【氏名】ローランズ、スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】トイ、フィリップ ジェイ
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105226288(CN,A)
【文献】国際公開第2016/169398(WO,A1)
【文献】特表2011-501383(JP,A)
【文献】特表2016-524803(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0033678(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/38
H01M 10/052
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードおよびリチウム金属またはリチウム合金で形成されたアノードを有するリチウム硫黄電池であって、前記カソードは、集電体上に堆積したマトリックスを有し、前記マトリックスは、導電性材料と、電気活性硫黄材料と、架橋されて前記マトリックスにおいて架橋ポリマーネットワークを形成するポリマーを有するバインダーとを有
前記ポリマーはバイオポリマーであり、前記ポリマーは、アミン、アミド、カルボニル、カルボキシル、エーテル、チオエーテル、及びヒドロキシルのうちの少なくとも1つから選択される官能基を介して架橋され、および、
前記電気活性硫黄材料と前記導電性材料は、前記架橋ポリマーネットワークによって適所に保持される、リチウム硫黄電池
【請求項2】
前記バイオポリマーがポリペプチド及び多糖から選択される、請求項記載のリチウム硫黄電池
【請求項3】
前記バイオポリマーがゼラチン、コラーゲン、及びコラーゲン模倣ペプチドから選択されるポリペプチドである、請求項記載のリチウム硫黄電池
【請求項4】
前記バイオポリマーがキトサンである、請求項記載のリチウム硫黄電池
【請求項5】
前記ポリマーが架橋剤を介して架橋される、請求項1~4のいずれか1つに記載のリチウム硫黄電池
【請求項6】
前記架橋剤が、エポキシ架橋剤、ジビニルスルホン、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボジイミド、及びジイソシアネートから選択される、請求項記載のリチウム硫黄電池
【請求項7】
前記架橋剤がホルムアルデヒドまたはジイソシアネートである、請求項記載のリチウム硫黄電池
【請求項8】
前記マトリックスが0.01~50重量%の架橋ポリマーを有する、請求項1~7のいずれか1つに記載のリチウム硫黄電池
【請求項9】
前記導電性材料が粒子状炭素材料を有し、前記電気活性硫黄材料が元素硫黄を有する、請求項1~8のいずれか1つに記載のリチウム硫黄電池
【請求項10】
前記導電性材料及び電気活性硫黄材料が前記マトリックスにおける架橋ポリマーネットワーク中に分散している、請求項1~9のいずれか1つに記載のリチウム硫黄電池
【請求項11】
請求項1記載のリチウム硫黄電池用の電極を製造する方法であって、
電極混合物を集電体上に堆積させて前記集電体を被覆する工程であって、前記電極混合物は、導電性材料と、電気活性硫黄材料と、ポリマーを有するバインダーとを有する、前記被覆する工程と、
前記ポリマーを架橋する工程であって、これにより架橋ポリマーネットワークを有するマトリックスが前記集電体上に堆積される、前記架橋する工程と
を有する、方法。
【請求項12】
前記電極混合物と溶媒とを有するスラリーが前記集電体上に堆積される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーを架橋するために、前記被覆された集電体に架橋剤が添加される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
架橋剤が電解質に添加され、続いて前記被覆された集電体と接触される、請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池用の電極に関する。本発明はまた、そのような電極を製造する方法、及びそのような電極を有するリチウム硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なリチウム-硫黄電池は、リチウム金属またはリチウム金属合金から形成されたアノード(負極)と、元素硫黄または他の電気活性硫黄材料から形成されたカソード(正極)とを有する。硫黄または他の電気活性硫黄含有材料は、その導電性を向上させるために、炭素などの導電性材料と混合することができる。その炭素および硫黄は粉砕され、次いで溶媒およびバインダーと混合されてスラリーを形成することができる。そのスラリーを集電体に塗布し、次いで乾燥させて溶媒を除去することができる。得られた構造体をカレンダー加工して複合構造体を形成し、これを所望の形状に切断してカソードを形成する。セパレータを前記カソード上に配置し、電解質を前記セパレータに塗布して当該カソードおよびセパレータを湿らすことができる。リチウムアノードを前記セパレータ上に配置してセルスタックを形成することができる。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 韓国公開特許第2004-0033678号公報
(特許文献2) 国際公開第2016/169398号
(特許文献3) 中国特許第103258990号明細書
(特許文献4) 中国特許出願公開第105226288号明細書
(特許文献5) 米国特許出願公開第2016/149261号明細書
(特許文献6) 米国特許出願公開第2014/072873号明細書
【図面の簡単な説明】
【0003】
本開示の態様は、一例として添付の図面に概略的に示される。
図1図1は、実施例1の電池の放電能力がサイクル数と共にどのように変化するかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0004】
本発明の特定の実施例を説明する前に、本開示は本明細書に開示された特定の電池、方法、または材料に限定されないことを理解されたい。保護の範囲は特許請求の範囲およびその均等物によって定義されるため、本明細書で使用される用語は特定の実施例を説明するためにのみ使用され、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0005】
「タンパク質」または「ポリペプチド」または「ペプチド」という用語は代替的に使用され、特定の作用機序、大きさ、三次元構造、または起源について言及することなく、アミノ酸鎖からなる分子を指す。
【0006】
本明細書で使用される「ゼラチン」および「ゼラチン様タンパク質」とは、伝統的な方法で抽出されたものでも、起源が組換えまたは生合成であろうと、任意のゼラチンを指し、またはゼラチンの少なくとも1つの構造的及び/または機能的特徴を有する任意の分子を指す。この用語は、ゼラチン製品に含まれる複数のポリペプチドの組成物、ならびにゼラチン材料に寄与する個々のポリペプチドの両方を包含する。したがって、本発明に関して使用されるゼラチンという用語は、ゼラチンポリペプチドを有するゼラチン材料、ならびに個々のゼラチンポリペプチドの両方を包含する。
【0007】
本明細書に記載の「架橋剤」(crosslinking agent)は、架橋剤(crosslinker)を有する組成物を指す。本明細書で使用される「架橋剤」(crosslinker)は、有機分子に共有分子内架橋および共有分子間架橋を導入することができる反応性化合物を指す。
【0008】
本発明の電池および方法を説明し、かつ特許請求の範囲として記載する際には、以下の用語が使用される。単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に指示しない限り複数形を含む。したがって、例えば、「アノード」への言及は、そのような要素のうちの1つまたはそれ以上への言及を含む。
【0009】
本発明によれば、リチウム硫黄電池用の電極がある。前記電極は集電体上に堆積されたマトリックスを有し、前記マトリックスは、導電性材料と、電気活性硫黄材料と、架橋されて架橋ポリマーネットワークを形成するポリマーとを有するバインダーを有する。
【0010】
別の態様では、本発明はまた、上記のような電極を有するリチウム硫黄電池を提供する。前記電極は好ましくは前記電池のカソードである。前記アノードは、リチウム金属を有するアノード、例えば純粋なリチウム金属またはリチウム金属合金であっても良い。他の適切なアノード材料としては、リチウムイオン電池での使用に適したアノード、例えばシリコンまたはグラファイトアノードが挙げられる。
【0011】
他の態様において、本発明は、リチウム硫黄電池用の電極を製造する方法を提供する。この方法は、導電性材料と、電気活性硫黄材料と、ポリマーを有するバインダーとを有する電極混合物を集電体上に堆積させる工程を有し、これにより前記ポリマーは架橋されて前記集電体上に架橋ポリマーネットワークを形成する。
【0012】
前記ポリマーは、前記集電体上に堆積される前に架橋されてもよく、または前記集電体上に堆積された後に、例えば架橋剤に曝露することによって重合されてもよい。
【0013】
前記ポリマーを架橋することによって、前記導電性材料および電気活性硫黄材料は、架橋ポリマーネットワークによって適所に保持されることができる。この架橋ポリマーネットワークは、前記電極の構造的完全性を改善し、前記リチウム硫黄電池の充電および放電サイクル中に形成される荷電種が、前記電池が充電および放電されても前記集電体と電気的に接触し続けることを助ける。有利には、これはリチウム硫黄電池のサイクル寿命の改善をもたらし得る。
【0014】
バインダー
バインダーは、架橋されてポリマーネットワークを形成するポリマーを有する。前記ポリマーは任意の架橋性ポリマーであってもよい。例えば、前記ポリマーは架橋することができる官能基を有することができる。適切な官能基の例には、アミン、アミド、カルボニル、カルボキシル、エーテル、チオエーテル、及びヒドロキシル基が含まれる。一実施形態において、前記ポリマーは、アミン、アミド、カルボニル、カルボキシル、エーテル、チオエーテル、イミン、及びヒドロキシルのうちの少なくとも1つから選択される官能基を介して架橋される。好ましい実施形態において、前記ポリマーはアミノ酸残基を有する。架橋はこれらの残基の1つまたはそれ以上を介して起こり得る。
【0015】
好ましくは、前記ポリマーはバイオポリマーである。前記バイオポリマーは、ポリペプチドおよび多糖から選択される。適切なポリペプチドには、ゼラチン、コラーゲン、及びコラーゲン模倣ペプチドが含まれる。適切な多糖類には、キトサン、ヒアルロン酸塩、及びヒアルロン酸が含まれる。好ましい実施形態において、前記ポリマーはゼラチンである。
【0016】
一実施形態において、前記ポリマーはポリアクリルアミドである。
【0017】
前記ポリマーは、前記集電体上に堆積されたマトリックスの0.01~50重量%を形成してもよい。好ましくは、前記ポリマーは、前記集電体上に堆積したマトリックスの0.01~20重量%を形成する。より好ましくは、前記ポリマーは、前記集電体上に堆積されたマトリックスの0.1~15重量%、例えば1~10重量%を形成することができる。
【0018】
ポリマーの重量と導電性材料(例えば炭素)および電気活性硫黄材料(例えば硫黄)の重量との比は、0.01~10:30~60、好ましくは0.1~5:35~55、より好ましくは1~3:40~50であってもよい。一実施形態において、ポリマーと導電性材料(例えば、炭素)との重量比は、0.01~15:5~35、好ましくは0.1~10:8~25、より好ましくは1~5:10~15であってもよい。一実施形態において、ポリマーと電気活性材料(例えば、硫黄)との重量比は、0.01~20:20~50、好ましくは0.1~15:25~45、より好ましくは1~10:30~40であってもよい。
【0019】
架橋剤
前記ポリマーは、任意の適切な方法を用いて、例えば加熱によって、または照射、例えば紫外線照射への曝露によって架橋されることができる。例えば、ゼラチンなどのバイオポリマーが使用される場合、前記ポリマーは加熱によって架橋されてもよい。
【0020】
いくつかの実施例では、前記ポリマーは架橋剤を前記ポリマーと反応させることによって架橋される。任意の適切な架橋剤を使用することができる。
【0021】
好適な架橋剤としてはアルデヒドが挙げられる。適切なアルデヒドの例には、ホルムアルデヒド、ジアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリセルアルデヒド、及びフルフラールが含まれる。いくつかの実施形態では、ケトンが架橋剤として使用される。適切なケトンとしては、アセトン、ジアセタール、及び他のジオン、例えばペンタンジオン、例えばクロロペンタンジオンが挙げられる。
【0022】
架橋剤の他の例には、カルボジイミド、尿素、グリオキサール、ポリホルマール、イミン、ジ-エポキシ化合物、およびジ-イソシアネートが含まれる。酵素、例えば、トランス-グルタミナーゼもまた使用され得る。さらなる実施形態では、架橋剤はビス(2-クロロエチル尿素)、2-ヒドロキシ-4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン、米国特許第3,288,775号に開示される反応性ハロゲン含有化合物、米国特許第4,063,952号および米国特許第5,529,892号に開示されるピリジン環が硫酸基またはアルキル硫酸基を有するカルバモイルピリジニウム化合物、ジビニルスルホン、および2-ヒドロキシ-4,6-ジクロロ-s-トリアジンなどのS-トリアジン誘導体から選択される。適切な架橋剤のさらなる例としては、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDCまたはEDAC)が挙げられる。
【0023】
架橋剤は、任意の適切な量で添加することができる。例えば、バインダー中の架橋剤対ポリマーの重量比は、0.01~20:10~200、好ましくは0.1~10:20~100、より好ましくは1~5:10~50であってもよい。
【0024】
ポリマーは、任意の適切な方法で架橋することができる。例えば、一実施形態では、導電性材料と、電気活性硫黄材料と、バインダーとを有する電極混合物を溶媒(例えば、水または有機溶媒)中に分散させてスラリーを形成し、これを集電体に塗布することもできる。このスラリーを乾燥し、得られた構造体を圧縮して、集電体上に堆積したマトリックスを形成することができる。架橋剤をマトリックスに塗布して、当該マトリックス中のポリマーを架橋することができる。架橋剤は、別個の溶液として塗布してもよく、または電解液と混合してもよく、続いてこの電解液を電池の組み立て中に電極と接触させる。
【0025】
代替的な実施形態では、架橋剤は、スラリーが集電体上に堆積される前または後にスラリーに添加されてもよい。
【0026】
さらに他の代替形態では、ポリマーは、電極混合物に組み込まれる前に架橋されてもよい。導電性材料、電気活性硫黄材料、及び架橋ポリマーバインダーを有する得られた混合物を溶媒(例えば、水または有機溶媒)中に分散させてスラリーを形成し、これを集電体に塗布することができる。このスラリーを乾燥し、得られた構造体を圧縮して、集電体上に堆積したマトリックスを形成することができる。
【0027】
架橋反応は、水分の添加、例えばUVの照射、または温度の上昇によって促進され得る。
【0028】
電気活性硫黄材料および導電性材料
マトリックスは、電気活性硫黄材料と導電性材料との混合物を含む。この混合物は電気活性層を形成し、これは集電体と接触して配置される。
【0029】
電気活性硫黄材料は、元素硫黄、硫黄系有機化合物、硫黄系無機化合物、および硫黄含有ポリマーを有し得る。好ましくは元素硫黄が使用される。
【0030】
導電性材料は、任意の適切な固体導電性材料であり得る。好ましくは、この固体導電性材料は、カーボンから形成されることができる。例としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラフェン、およびカーボンナノチューブが含まれる。他の適切な材料としては、金属(例えばフレーク、充填材、および粉末)および導電性ポリマーが含まれる。好ましくはカーボンブラックが使用される。
【0031】
電気活性硫黄材料は、集電体上に堆積されたマトリックス中に60~90重量%、好ましくは65~85重量%、より好ましくは70~80重量%の量で存在することができる。
【0032】
導電性材料は、集電体上に堆積されたマトリックス中に10~45重量%、好ましくは15~35重量%、より好ましくは20~25重量%の量で存在することができる。
【0033】
電気活性硫黄材料と導電性材料との重量比は、0.01~10:10~50、好ましくは0.1~5:15~45、より好ましくは1~5:20~35であり得る。
【0034】
リチウム硫黄電池
本発明の電気化学電池は、任意の適切なリチウム-硫黄電池であってもよい。前記電池は、典型的には、アノード、本明細書に記載の電極から形成されたカソード、及び電解質を含む。アノードはリチウム金属またはリチウム金属合金で形成することができる。好ましくは、アノードはリチウム箔電極のような金属箔電極である。リチウム箔はリチウム金属またはリチウム金属合金で形成することができる。
【0035】
アノードとカソードとの間にセパレータを配置することができる。電解質を電池に導入して、カソードとセパレータを湿らせることができる。一実施形態では、セパレータがカソード上に配置され、アノードがセパレータ上に配置される前に電解質で濡らされる。電解質は、例えばコーティングまたはスプレーによってセパレータに塗布することができる。
【0036】
電解質は、アノードとカソードとの間で電荷を移動させることを可能にする。好ましくは、電解質はカソードの細孔およびセパレータの細孔を濡らす。一実施形態では、電池を組み立てるために使用される電解質は、バインダー中に存在するポリマーを反応させて架橋することができる架橋剤を有する。適切な架橋剤は上記されている。存在する場合、架橋剤は、電解質中に0.01~10重量%、好ましくは0.1~1重量%の濃度で存在してもよい。
【0037】
任意の適切な電解質を使用することができる。電解質は、有機溶媒および塩、例えばリチウム塩を含み得る。適切な有機溶媒としては、エーテル、エステル、アミド、アミン、スルホキシド、スルファミド、有機リン酸塩、およびスルホンが挙げられる。例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピオン酸メチルプロピル、プロピオン酸エチル、酢酸メチル、1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジオキソラン、ジグリム(2-メトキシエチルエーテル)、トリグリム、テトラグリム、ブチロラクトン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、ヘキサメチルホスホアミド、ピリジン、ジメチルスルホキシド、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、N,N,N,N-テトラエチルスルファミド、およびスルホン、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0038】
適切な電解質塩はリチウム塩を含む。適切なリチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホンイミドリチウム、ビス(シュウ酸)ホウ酸リチウム、およびトリフルオロメタンスルホン酸リチウムが挙げられる。好ましくは、リチウム塩は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(リチウムトリフレートとしても知られる)である。塩を組み合わせて使用することができる。例えば、リチウムトリフレートを硝酸リチウムと組み合わせて使用することができる。リチウム塩は、0.1~5M、好ましくは0.5~3Mの濃度で電解質中に存在してもよい。
【0039】
アノードとカソードとの間にセパレータを配置することができる。本発明の電池内にセパレータが存在する場合、セパレータは、イオンが電池の電極間を移動することを可能にする任意の適切な多孔質基材を有することができる。電極間の直接接触を防ぐために、セパレータは電極間に配置されるべきである。前記基材の気孔率は少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、例えば60%超であるべきである。適切なセパレータは、ポリマー材料から形成されたメッシュを含む。適切なポリマーはポリプロピレン、ナイロン、およびポリエチレンを含む。不織ポリプロピレンが特に好ましい。多層セパレータを使用することが可能である。
【0040】
本発明の特定の態様、実施形態、または実施例に関連して記載された特徴、整数、特性、化合物、化学的部分、または基は、適合しない場合を除き、本明細書に記載の他の態様、実施形態、または実施例に適用可能であると理解される。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約、および図面を含む)に開示されたすべての特徴、および/またはそのように開示された任意の方法またはプロセスのすべての工程は、少なくとも一部のそのような特徴および/または工程が互いに矛盾するような組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本発明は、上述のいずれの実施形態の詳細に限定されることはない。本発明は、本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約、および図面を含む)に開示された特徴の任意の新規のもの、もしくは任意の新規の組み合せ、またはそのように開示された任意の方法もしくはプロセスの工程の任意の新規のもの、もしくは任意の新規の組み合せに及ぶ。
【0041】
読者の注意は、本出願に関連して本明細書と同時にまたはそれよりも前に提出され、かつ本明細書で公衆の閲覧に供されるすべての論文および文書に向けられ、そのようなすべての論文および文書の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例1】
【0042】
この実施例では、炭素および硫黄を粉砕し、ポリマーバインダーおよび水と混合して、硫黄含有量が75重量%、炭素が23重量%、およびゼラチンバインダーが2重量%(水中40~50重量%)のスラリーを形成した。架橋剤としてアセトンを含有する溶液(水:架橋剤(2:1の比))を分散液に溶媒として添加して、固形分20重量%を有する分散液を形成した。次いで、このスラリーを集電体に塗布し、35℃で乾燥して、被覆されたカソードから溶媒を除去して、5.0mAh・cm-2の表面容量を得た。エーテル系電解質を充填した6S/5Li電池を組み立てるために前記カソードを使用した。
【0043】
以下の図1は、0.2Cおよび0.1Cの速度(それぞれ放電-充電)でサイクルした電池の放電性能を示し、架橋剤を添加しなかった電池と比較している。両方の電池が同様の初期放電容量値を示したにもかかわらず、架橋剤を使用して製造された電池は、約1100mAh・g(S) -1の硫黄利用率で経時的に安定したままであったことが観察され得る。一方、未架橋バインダーを使用して組み立てた電池は、3回目のサイクル後に退色し始めた。
【0044】
架橋バインダーを使用することで観察された改善は、ポリマーバインダーと架橋剤との反応によって引き起こされるカソードの強化された構造的完全性に起因し得る。この架橋反応はまた、集電体へのコーティングの接着性を改善し、電池の早すぎる退色を引き起こし得る剥離の危険性を低減すると考えられる。
【実施例2】
【0045】
カソードを、集電体上に硫黄、炭素、およびゼラチンの混合物を堆積させることによって形成した。このカソードから2つの正方形(2×2cm)を切り取った。
【0046】
グローブボックス中で、5滴のホルマリン(安定剤として10%メタノールを有する水中37%ホルムアルデヒド)を一方のカソード試料に適用し、一晩放置した。次いで、綿棒を用いて掻き取り試験を実施し、ホルマリン処理した試料が未処理の試料よりもはるかに優れたカソード完全性および集電体への接着性を有することを示した。
【実施例3】
【0047】
ゼラチンとホルムアルデヒドとの架橋が生じるかどうかを調べるために一連の実験を行った。
【0048】
TA Instruments DHR2レオメータを振動時間掃引モードで使用して貯蔵/損失弾性率および位相角を測定した。
【0049】
ゼラチン原液の調製
冷水魚皮由来の15グラムの45%ゼラチン(例えばSigma Aldrich G7765)を100cm-3ガラスビーカーに量り取り、これに15グラムの脱イオン水を加えた後、IKAマグネティックスターラーで5分間混合した。
【0050】
ゼラチン/ホルムアルデヒド溶液の調製
3グラムの調製したゼラチン溶液をガラスバイアルに量り取り、これに0.036グラムのホルムアルデヒド溶液(例えばSigma Aldrich 252549)を添加してIKAマグネティックスターラーで混合し、2%溶液を得た。
【0051】
レオメトリー
基準値としてのゼラチンストック溶液と共に、TA Instruments DHR 2レオメータを使用してゼラチン/ホルムアルデヒド溶液の粘弾性を測定した。レオメータのパラメータと試験条件は以下のとおりである。
レオメータのパラメータ:
レオメータ:TA Instruments DHR2レオメータ
形状:直径40mmの平行板
2%ひずみ、1Hz周波数で2時間の振動時間
ペルチェプレート温度:40℃
【0052】
結果:
振動時間掃引から、ゼラチンストック溶液の損失弾性率および位相角にはほとんど偏差がなかった。そのため、架橋の証拠はなかった。
【0053】
しかしながら、2%ホルムアルデヒドの添加によるゼラチンの架橋の証拠はあった。弾性率の明らかな変化が3841秒のクロスオーバーポイントで観察された。位相角は約90°から2°に低下し、ゲル構造の増加を確認した。
図1