(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】接合部材、接合方法および接合体
(51)【国際特許分類】
B23P 11/02 20060101AFI20220517BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
B23P11/02 Z
B21D39/00 F
(21)【出願番号】P 2018009436
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】311009376
【氏名又は名称】株式会社アスター
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】本郷 武延
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/015735(WO,A1)
【文献】特開平11-042513(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0022867(KR,A)
【文献】特開2009-153509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 11/02
B21D 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の金属部材と第二の金属部材と
を有し、圧入による接合に用いられる接合部材であって、
前記第二の金属部材は、前記第一の金属部材よりも変形し易い部材であり、
前記第一の金属部材は、前記第二の金属部材との接触面に該第二の金属部材方向に突出する突起が
複数設けられ、
前記突起は、前記第一の金属部材が前記第二の金属部材と嵌合された場合に圧入の押圧方向および該押圧方向に対して傾斜する方向に進行することを規制する規制部位を含み、
隣り合う前記突起は、それぞれの前記規制部位が前記押圧方向において重ならないように離間して配置され、
それぞれの前記突起は、前記押圧方向とのなす角が30度より大きい傾斜部を含む、
ことを特徴とする接合部材。
【請求項2】
前記傾斜部は曲線部であり、該曲線部の少なくとも一つの接線と前記第一の金属部材の押圧面とのなす角は50度程度である、
ことを特徴とする請求項1に記載の接合部材。
【請求項3】
前記曲線部は、前記接触面の平面視において一の方向に湾曲する、
ことを特徴とする請求項2に記載の接合部材。
【請求項4】
前記突起の数は3である、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の接合部材。
【請求項5】
前記第一の金属部材は、略円柱状部材である、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の接合部材。
【請求項6】
前記突起
によって前記第二の金属部材の一部を少なくとも弾性変形を含む変形をさせながら嵌合する、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の接合部材。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の接合部材を用いた接合方法であって、
前記第一の金属部材と前記第二の金属部材を重ねて押圧し、前記突起によって前記第二の金属部材の一部を変形させて両者を嵌合する、
ことを特徴とする接合方法。
【請求項8】
前記第一の金属部材または前記第二の金属部材を、前記突起の形成方向に沿うように回転しながら押圧する、
ことを特徴とする請求項7に記載の接合方法。
【請求項9】
請求項1から
請求項6のいずれかに記載の接合部材によって接合された、接合体。
【請求項10】
請求項7または請求項8に記載の接合方法によって接合された、接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材の圧入接合に用いる接合部材、接合方法および接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材同士の接合において、一方の金属部材に設けた孔部に他方の金属部材を押圧して嵌め込む、いわゆる圧入による接合方法がある。また、金属部材同士を強固に嵌着するために、一方の部材(例えば軸部材)の周面に突条(セレーション)を形成し、他方の部材に設けた穴部に圧入する際に、突条の一部を変形し、あるいは突条によって穴の内周面に溝を刻設して嵌合させる技術も知られている(例えば、特許文献1参照)。そして、突条のパターンとしては、軸部材の軸に沿う方向や、軸に対して傾斜する方向に形成したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3402036号公報
【文献】特開2004-293714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特に、一旦嵌め込んだ後は固定して分解することがない場合のしまり嵌め(しめしろのある嵌め合い)状態の圧入の場合、従来のように押圧方向(例えば、軸部材などの軸方向)に沿う突条や、押圧方向(例えば、軸方向)に対して傾斜した突条を多数設ける構成の場合、抜け荷重の向上(抜去力の向上、抜けにくさの向上)には限界があった。
【0005】
具体的には、一方の金属部材の硬度が高く他方の金属部材の硬度が低い場合や、所定の形状の筐体に部材を嵌め込む場合などにおいては、しまり嵌めとはいっても、金属部材同士の寸法差を大きく確保できず、結果として抜去力を高められない(高い抜去力への耐性が低い)問題がある。
【0006】
また、一方の金属部材の硬度が高く、他方の金属部材の硬度が低い場合には、硬度が低い方の金属部材が破壊する恐れがあるため、圧入できる荷重にも限界がある。このため、例えば、ステンレスとアルミニウムなどの接合では、一般的には、ステンレスに焼入れをし、両者を圧入した上でレーザ溶接を行うことにより、或る程度の接合強度を維持しており、接合の工程が複雑となる上、接合強度の向上、および抜去力の向上には限界があった。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、しまり嵌め(しめしろのある嵌め合い)状態の圧入により接合される接合部材において、十分な抜け止め構造により抜去力を高めた(例えば、軸方向の抜け荷重や回転トルク強度を高めて抜けにくくした)接合部材、接合方法および接合体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第一の金属部材と第二の金属部材とを有し、圧入による接合に用いられる接合部材であって、前記第二の金属部材は、前記第一の金属部材よりも変形し易い部材であり、前記第一の金属部材は、前記第二の金属部材との接触面に該第二の金属部材方向に突出する突起が複数設けられ、前記突起は、前記第一の金属部材が前記第二の金属部材と嵌合された場合に圧入の押圧方向および該押圧方向に対して傾斜する方向に進行することを規制する規制部位を含み、隣り合う前記突起は、それぞれの前記規制部位が前記押圧方向において重ならないように離間して配置され、それぞれの前記突起は、前記押圧方向とのなす角が30度より大きい傾斜部を含む、ことを特徴とする接合部材である。
【0009】
また、本発明は、上記の接合部材を用いた接合方法であって、前記第一の金属部材と前記第二の金属部材を重ねて押圧し、前記突起によって前記第二の金属部材の一部を変形させて両者を嵌合する、ことを特徴とする接合方法である。
【0010】
また、本発明は、上記の接合部材によって接合された接合体である。
【0011】
また、本発明は、上記の接合方法によって接合された接合体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、しまり嵌め(しめしろのある嵌め合い)状態の圧入により接合される接合部材において、十分な抜け止め構造により抜去力に対する耐性を高めた(例えば、軸方向の抜け荷重や回転トルク強度を高めて抜けにくくした)接合部材、接合方法および接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態の接合部材を示す図であり、(a)が第一金属部材の上面図であり、(b)が第一金属部材の側面図であり、(c)が第二金属部材の上面図であり、(d)が第二金属部材21の側面図である。
【
図2】本発明の実施形態の接合部材を示す図であり、(a)が第一金属部材の上面図であり、(b)が第一金属部材の側面図である。
【
図3】本実施形態の接合部材による接合方法の一例を示す図であり、(a)が側面図であり、(b)が側面図であり、(c)は(b)の上面図である。
【
図4】本実施形態の第一の金属部材と比較例を説明する側面図である。
【
図5】本実施形態の接合体と比較例を説明する概念図である。
【
図6】、
図5(b)の突起付近を拡大した概念図である。
【
図7】本実施形態の突起の他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1および
図2は、本実施形態の接合部材10を示す図であり、
図1(a)、
図2(a)が第一金属部材11の上面図であり、
図1(b)、
図2(b)が第一金属部材11の側面図であり、
図1(c)が第二金属部材21の上面図であり、
図1(d)が第二金属部材21の側面図である。なお、以下の各図においては、説明の便宜上、主要な構成要素を誇張して示す。
【0016】
接合部材10は、しまり嵌め(しめしろのある嵌め合い)状態の圧入によって接合される第一の金属部材11と第二の金属部材21により構成される。
【0017】
第一の金属部材11と第二の金属部材21は、異なる種類の金属部材であり、第二の金属部材21は、第一の金属部材11よりも変形し易い部材である。ここで「変形し易い」とは、例えば、少なくとも弾性変形による変形がし易いこと、または(弾性変形に加えて)塑性変形や、溝の刻設(切削)などの変形がし易いことをいう。一例として、第二の金属部材21の硬度は第一の金属部材11の硬度よりも低いものであり、具体的には、第一の金属部材11はステンレスであり、第二の金属部材21はアルミニウムである。また、ここでは一例として、第一の金属部材11を第二の金属部材21の孔部24に圧入する場合について、説明する。
【0018】
図1(a)、同図(b)に示すように、第一の金属部材11は例えば、
押圧面12A,12Bと、側面13を有し、孔部14を有する略円筒形状(リング形状)であり、
押圧面12A、12Bが直接的に押圧力を受ける
面であり、側面(周面)13が第二の金属部材21との接触面となる。そしてその周面(この例では、外周面)13には、圧入した場合の第二の金属部材21方向に突出する線状の突起15が複数(この例では3本)設けられている。ここで、また、以下の方向の説明に際しては、便宜上、押圧面12A、12Bに垂直な方向(第一の金属部材11の板厚方向)を(円柱の)軸方向Vといい、押圧面12A、12Bに水平な方向を径方向Hといい、周面(外周面)13に沿う方向を周方向Rという。
【0019】
突起15は、同図(a)に示す上面視において、円柱の軸中心から径方向H外側に向かって鋭角に突出する先端部15Tを有し、外周面13の平面視(同図(b)に示す側面視)において、先端部15Tが軸方向Vとは異なる方向に向かって延在する線状に形成される。
【0020】
より具体的には、突起15は、押圧面(上面)12Aから押圧面(下面)12Bに達するように延在するが、押圧面12Aにおける先端部15Tの位置(例えば、始点の位置)P1と、押圧面12Bにおける先端部15Tの位置(例えば、終点の位置)P2とが周方向Rにおいてずれるように、軸方向Vに対して傾斜し、且つ外周面13の平面視において一の方向に湾曲する(同図(b)では径方向Hの右側に向かって凸となるように湾曲する)曲線状(弧状)に形成される。
【0021】
また、
図1(a)に示すように、突起15は(略)等間隔に離間した例えば3箇所に設けられる。なお、同図(b)は隣り合う突起15を説明する便宜上の概略図であり、同図(a)に示す突起15の位置とは対応していない。更に、隣り合う突起15同士は、軸方向V(または周方向R)において一切重ならないように離間して配置される。詳細には、突起15は、始点P1の位置と終点の位置P2とが周方向Rにおいてずれる弧状に形成され、一の突起15は、周方向Rにおける所定範囲の配置領域DRに亘って存在している。そして、一の突起15の配置領域DRには、他のいずれの突起15も存在しないように、突起15同士は離間して配置される。
【0022】
第二の金属部材21は同図(c)、同図(d)に示すように、例えば、押圧面22A,22Bと側面23を有し、さらに中央に孔部24を有する(略)円筒形状(リング形状)であり、押圧面22A、22Bが直接的に押圧力を受ける面であり、側面23の内側の周面(孔部24の周面、内周面)25が第一の金属部材11との接触面となる。
【0023】
図2を参照して、第一の金属部材11の突起15の突出量(外周面13から先端部15Tまでの距離)Dは、例えば、押圧面15A(15B)のサイズ(外径d1)の0.1%~0.5%程度である。
【0024】
なお、上述のとおり、図面においては説明の便宜上、突起15を誇張して示しているが、実際には、第一の金属部材11のサイズ(直径)に対する突起15の比率は図示のものとは異なっていり、突起15は第一の金属部材11のサイズ(径)に対して非常に微細なものである。
【0025】
一例として、押圧面15Aの外径d1が例えば25mm程度の場合、突出量Dは約50μm程度である。また、突起15は、0より大きいが比較的小さい曲率を有する弧状であり、軸方向Vに対する傾斜角度は、軸方向V(板厚方向)の中心位置における弧の接線の角度αとして、例えば50度程度である。
【0026】
また、第一の金属部材11と第二の金属部材21のしめしろは、直径の寸法(第一の金属部材11の外径d1-第二の金属部材21の内径(孔部24の直径)d3)として、例えば、15μm~30μm程度である。
【0027】
図3は、本実施形態の接合部材10による接合方法の一例を示す図であり、同図(a)、同図(b)が側面図であり、同図(c)は同図(b)の上面図である。
【0028】
本実施形態の接合方法は、まず、第二の金属部材21を圧入機またはプレス機のダイ41の上に載置し、その上に第一の金属部材11を載置(積層)し、第一の金属部材11の押圧面(例えば、押圧面12A)をパンチ42によって押圧する(
図3(a))。
【0029】
このとき、第一の金属部材11は、弧状に設けられた突起15に沿って螺旋条に回転しながら第二の金属部材21の孔部24に押し込まれる。ここで、第二の金属部材21は、第一の金属部材11よりも変形し易いため、第二の金属部材21は、少なくとも弾性変形し、あるいは、弾性変形に加えて塑性変形するとともに突起15によって第二の金属部材21の内周面25の一部が削り取られるように(溝が刻設されるように)変形して、突起15と、第二の金属部材21の内周面25とが強固に嵌合(嵌着)する。このようにして、第一の金属部材11と第二の金属部材21とは、しまり嵌め(しめしろのある嵌め合い)状態の圧入によって接合され、第一の金属部材11はその外周面13において、第二の金属部材21の孔部24の内周面25と接触した接合体30が形成される(同図(b)、同図(c))。
【0030】
なお、上述の突起15の数、突出量Dを含む上記の各部材のサイズは一例であり、これらは第一の金属部材11および第二の金属部材12の材質や、板厚、直径、さらに要求される接合強度や抜去力などに応じて、適宜選択される。
【0031】
また、突起15の数は、複数であればよいが、第一の金属部材11を第二の金属部材21の上に載置して押圧する際の安定性を考慮すると、3個以上が望ましい。
【0032】
このように、本実施形態では、変形し難い第一の金属部材11の周面(外周面)13に、周方向R(及び軸方向V)において互いに重ならないように離間した弧状の突起15を形成し、変形し易い第二の金属部材21の孔部24に第一の金属部材11をしまり嵌めによって圧入し、接合体30を形成する。これにより当該接合体30は、接合強度はもとより、抜け荷重(抜去力)を大幅に高めることができる。
【0033】
以下、
図4~
図6を参照してこれについて説明する。本実施形態によれば、まず、突起15の数と配置によって、抜去力を高めることができると考えられる。
【0034】
図4は、本実施形態の第一の金属部材11と比較例を示す側面図である。
図4(a)、同図(b)は第一の金属部材11の比較例となる第一の金属部材50、52の一例であり、同図(a)が軸方向Vに沿って直線状の突起(突条)51を複数形成した第一の金属部材50の側面図である。また、同図(b)が軸方向Vに対して傾斜する直線状の突起(突条)53を複数形成し、且つ隣り合う突起53同士が周方向R(軸方向V)において一部重なるように配置した第一の金属部材52の側面図である。例えばこの例では、一の突起53(53A)の全体が配置領域DRに亘って位置しているが、当該配置領域DRには、左右に隣り合う他の突起53(53B,53C)の一部が周方向R(軸方向V)において一の突起53Aに重なるように配置されている。
【0035】
また、同図(c)が本実施形態の突起15を形成した第一の金属部材11の側面図である。なお、
図4に示す第一の金属部材50、52、11は、いずれも、突起以外は同一の構成であり、第一の金属部材50、52、11を圧入する第二の金属部材21の構成は、いずれも
図1(c)、同図(d)と同様とする。
【0036】
図5は、本実施形態の接合体30と比較例を示す概念図である。同図(a)が
図4(b)に示す第一の金属部材52を第二の金属部材54に圧入して形成した接合体60の上面概念図であり、同図(b)は本実施形態の接合体30の上面概念図である。なお、
図4(a)に示す第一の金属部材50の場合も
図5(a)と同様である。
【0037】
また、
図6は、
図5(b)の突起15付近を拡大した概念図である。既述のとおり、本実施形態の各図では突起15を誇張して示しており、実際の形状は、
図6に近いものとなっている(繰り返すが、実際の突起15と第一の金属部材11の外径の曲率の比率は
図6に示すものとも異なっている)。
図6は、
図5の突起15付近を拡大した上面概要図であるが、軸方向V(板厚方向)に沿う突起15の形成位置を、順次ずらして記載している。
【0038】
本実施形態の圧入による接合は、第二の金属部材21、54が第一の金属部材11、53に比して変形し易く、より具体的には、例えば硬度が低いものである。つまり、圧入によって第二の金属部材21、54が少なくとも弾性変形して第一の金属部材11、53に密着し、これに加えて一部が塑性変形する場合もあることによって、両者が嵌めあわされると考えられる。
【0039】
この場合、特に弾性変形について着目すると、比較例では、
図5(a)に示すように、第一の金属部材52(50)が圧入されると、突起53(51)の先端は第二の金属部材54と点(線)接触して片矢印で示すように径方向Hの外側に第二の金属部材54を押圧する。また、突起53間の領域は両矢印で示すように周方向Rに第二の金属部材54を広げるように押圧する。このように、突起53の数が多いと、その先端での点(線)接触が多く、逆に突起53間の面接触は小さくなる。
【0040】
そして、多数の突起53によって片矢印で示すように全体的に径方向Hの外側に押圧されるため、個々の突起53付近での弾性変形量(分散された弾性変形量)は破線で示すように小さくなり、それぞれ柔軟な変形が困難となる。また、突起53間の領域においても実際に面接触している領域はさらに少なくなって密着性が低下すると考えられる。
【0041】
また、特に
図4(b)に示すように、ある突起53Aの配置領域DRにおいて、隣り合う突起53B,53C同士が周方向R(軸方向V)に沿って重なり合うように配置されている場合には、本来、突起53間で面接触する領域の一部も突起53の先端での点(線)接触となり、面接触の領域が更に減少していることになる。
【0042】
これに対し本実施形態では、
図5(b)および
図6に示すように、突起15の先端15Tでの点(線)接触が同図(a)に比べて格段に少なく、逆に突起15間の面接触は格段に大きくなる。また、突起15の数が少なく、全体的な径方向H外側への押圧量が少なくなるため、個々の突起15付近での弾性変形量(分散された弾性変形量)を十分に確保できる。つまり、破線で示すようにそれぞれに緩やかで柔軟な変形(例えば、突起15の近傍では、突起15に向かって伸縮し、突起15間では、第一の金属部材11と第二の金属部材21の接触面同士が密着するような変形)が可能になるといえる。
【0043】
また、特に
図1(b)に示すように、ある突起15の配置領域DRにおいて、隣り合う突起15同士が周方向R(軸方向V)に沿って重なり合わないため、突起15間での面接触の領域も十分に確保できる。
【0044】
つまり、本実施形態の場合、
図5(a)に示す構成と比較して、第二の金属部材21は、全体的な変形量を抑えつつも、個々の突起15付近で緩やかに弾性変形し、且つ面接触の領域を十分に確保できる構成となっている。このため、第一の金属部材11と第二の金属部材21の密着性を高め、高い抜去力に耐えられると考えられる。
【0045】
また、
図4を参照して、弾性変形による密着の状態として考えた場合、
図4(a)に示す、第一の金属部材50の場合には、圧入によって第二の金属部材54が弾性変形し、ハッチングで示すように突部51に沿って第一の金属部材50と密着してはいるものの、突起51の延在方向が軸方向Vと一致しており、第一の金属部材50の軸方向Vへの進行(矢印で示す)は何ら規制されていない。従って、例えば第二の金属部材54が破壊しない前提で、軸方向V(圧入時の押し込み方向またはその逆方向)に接合強度を超える力を加えると、第一の金属部材50は第二の金属部材54から抜去されてしまう。
【0046】
また、同図(b)に示す、第一の金属部材52の場合も同様であり、圧入によって第二の金属部材54が弾性変形し、ハッチングで示すように突部51に沿って第一の金属部材52と密着してはいるものの、第一の金属部材52の突起53の延在方向への進行(矢印で示す)は何ら規制されていない。従って、例えば第二の金属部材54が破壊しない前提で、突起53の延在方向(圧入時の押し込み方向またはその逆方向)に接合強度を超える力を加えると、第一の金属部材52は第二の金属部材54から抜去されてしまう。
【0047】
これに対し、同図(c)および
図6に示すように、本実施形態の突起15は、第一の金属部材11の外周面13の平面視(側面視)において弧状に形成されている。そして、圧入により第二の金属部材21が弾性変形し、ハッチングで示すように突部15に沿って第一の金属部材11と密着している。
【0048】
この場合、第一の金属部材11を第二の金属部材21から抜去すべく、矢印で示すように軸方向Vまたは軸方向Vに対して傾斜した方向(圧入時の押し込み方向またはその逆方向)に移動させた場合であっても、弧状の突起15のいずれかの部位PXが第二の金属部材21に当接することによってその進行が規制されることになる。
【0049】
つまり、本実施形態の第一の金属部材11に形成される突起15は、第二の金属部材21に嵌合された第一の金属部材11が、押圧方向(軸方向V)および押圧方向に対して傾斜する方向に直線的に進行することを規制する規制部位PXを含んでいる。
【0050】
このため、このため、第二の金属部材21から第一の金属部材11を抜去しようとした場合であっても、規制部位PXによって、第一の金属部材11の進行が規制されるため、第二の金属部材21から第一の金属部材11を抜去する力を、従来に比べて大幅に向上させることができる。
【0051】
なお、同図(c)では規制部位PXを数点のみ示しているが、突起15を弧状に形成した場合には、その全体が押圧方向(軸方向V)および押圧方向に対して傾斜する方向(傾斜する方向の少なくともいずれか)に直線的に進行することを規制する規制部位PXとなる。
【0052】
具体的には、例えば、突起15,51,53の形状以外の条件は同一と仮定して、同図(a)、同図(b)に示す突起51、53を形成した場合の抜去力(抜け荷重)が例えば、20kg~30kgの場合、本実施形態の突起15のパターンにすることにより200kg~300kgまで向上させることができる。
【0053】
なお、ここでは主に第二の金属部材21(54)の弾性変形について説明したが、第二の金属部材21は弾性変形に加えて、一部の塑性変形および/または突起15に沿う溝の刻設などによって、第一の金属部材11と嵌合(嵌着)する場合もある。
【0054】
【0055】
突起15は、第二の金属部材21に嵌合された第一の金属部材11が、押圧方向(軸方向V)および押圧方向に対して傾斜する方向に直線的に進行することを規制する規制部位PXを含んでいれば、上記の例に限らない。
【0056】
例えば、同図(a)に示すように、上下の押圧面12A,12Bからそれぞれ板厚の中心に向かい、軸方向Vに対して傾斜した突起15であってもよい。この場合、一方の押圧面12Aから板厚の中心に向かう突起15Aと、他方の押圧面12Bから板厚の中心に向かう突起15Bとは、互いの延在方向には存在しないように軸方向Vに平行移動させた位置に形成する。これにより、突起15A,15Bはいずれも板厚の中心側の端部が規制部位PXとなる。
【0057】
この場合、周方向には重なるが、突起15A,15Bの長さが短いため、面接触の領域は十分確保することができる。
【0058】
また、同図(b)に示すように、突起15が弧状ではあるが、延在する一方の端部(例えば、終点P2)が押圧面(例えば、押圧面12B)には達しないように形成してもよい。弧状の場合、規制部位PXは全体に存在するが、この形状であれば、圧入によって第二の金属部材21が削り取られた場合、その削りかすが外部に排出されることも防止できる。
【0059】
図8は、第一の金属部材11と第二の金属部材21とを入れ替えた例である。同図(a)が第二の金属部材21の上面図であり、同図(b)が第一の金属部材11の上面図であり、同図(c)が両者を圧入して形成した接合体30の上面図であり、同図(d)が接合体30の側面図である。
【0060】
図8に示すように、変形し難い第一の金属部材11に孔部17が形成され、その孔部17に変形し易い第二の金属部材21を圧入するようにしてもよい。
【0061】
この場合、第一の金属部材11の、第二の金属部材21の接触面となる孔部17の周面(内周面)18に、第二の金属部材21の方向(内側)に突出する突起15を形成する。突起15の側面視のパターンは、
図1や
図5と同様である。
【0062】
この場合であっても、突起15は押圧方向(軸方向V)および押圧方向に対して傾斜する方向に直線的に進行することを規制する規制部位PXを有し、また、突起15の数が少なく、面接触が大きく確保できるため、第二の金属部材21との密着性を高めることができ、高い抜去力に耐えることができる。
【0063】
図9は、第一の金属部材11の他の実施形態を示す側面図である。第一の金属部材11は、第二の金属部材21との接触面に第二の金属部材21方向に突出する突起15が設けられ、その突起15によって第二の金属部材21の一部を少なくとも弾性変形させるものであれば上記の例に限らない。
【0064】
例えば、
図9(a)に示すように、第一の金属部材11の外周面に単一の突起15が設けられる構成であってもよい。突起15は第一の金属部材11の外周面に沿って周方向Rに連続する環状に設けられる。より具体的には、突起15は、先端部15Tに向かう突出の一方(同図では軸方向V上側の)の基点S1から軸方向Vにおいてほぼ同じ位置となるように径方向Hに突出し(先端部15Tが一方の突出の基点S1から径方向Hに(略)水平に突出し)、その他方の基点S2が、第一の金属部材11の軸方向Vの端部(図では下方端部)に位置するように形成し、先端部15Tから起点S2(圧入方向の先端)までが緩やかなテーパー形状を呈したくさび形状であってもよい。この場合、例えば基点S1と基点S2の径方向の位置は破線で示すように(略)同位置である。
【0065】
また、同図(a)のようなくさび形状の突起15を有する第一の金属部材11の場合、同図(b)~同図(d)に示すように、第一の金属部材11(同図(b)、同図(d))の板厚(軸方向Vの厚み)を第二の金属部材21(同図(c)、同図(d))の板厚より小さくし、第二の金属部材21の孔部24の内周面25に第一の金属部材11を支持する支持部27を設けると、より軸方向の抜けを防止でき好適である。支持部27は、第一の金属部材11の底部を支持可能なように(同図(d))、第二の金属部材21の内周面25から径方向Hの内側(軸中心側)に突出する。
【0066】
同図(a)~同図(d)に示すようなくさび形状の突起15の場合、圧入方向の先端(図では下方)ほど直径が小さくなり、圧入方向の先端から突起15(先端部15T)までが緩やかなテーパーであるため、圧入が容易となり、圧入力が低減できる。また、突起15がくさび形状であるため、圧入方向の抜け荷重(抜去力)を高めることができる。
【0067】
同図(e)は、同図(a)に示す突起15において突出の他方の基点S2が第一の金属部材11の軸方向の途中に位置するように形成したくさび形状である。こ
【0068】
この場合の突起15であっても、圧入方向の先端(図では下方)ほど直径が小さくなり、圧入方向の先端から突起15(先端部15T)までがテーパーであるため、圧入が容易となり(圧入力が低減でき)る。そしていずれも突起15がくさび形状であるため、圧入方向の抜け荷重(抜去力)を高めることができる。
【0069】
さらに、同図(f)に示すように、同図(a)に示すくさび形状の突起15は環状(周方向Rに連続する形状)に限らず、周方向Rにおいて分離されて複数設けられても良い。
【0070】
同図(f)に示すようなくさび形状の突起15の場合、圧入方向の先端(図では下方)ほど直径が小さくなり、圧入方向の先端から突起15(先端部15T)までが緩やかなテーパーであるため、圧入が容易となり、圧入力が低減できる。また、突起15がくさび形状であるため、圧入方向の抜け荷重(抜去力)を高めることができる。
【0071】
これに加えて、それぞれの突起15の周方向Rの端部は、第一の金属部材11が軸を中心として周方向Rに回転することを規制する規制部位PXとなり、第一の金属部材11が回転して抜けることを防止できる。
【0072】
また、同図(g)に示すように突起15は、その先端部15Tが突出の基点S1,S2のいずれとも軸方向Vにおいて異なる位置となるように、径方向Hに突出する構成であってもよい。この場合突起15は同図(g)に示すように周方向Rに連続した形状であってもよいし、図示は省略するが、周方向Rに分離されて複数設けられても良い。
【0073】
またこの場合、突起15の先端部15Tから基点S1、S2までは軸方向Vにおいて略等距離であるが、何れか一方の距離が長くてもよい。
【0074】
またこの場合、先端部15Tは、軸方向Vにおいて位置が変位しない(同図(g))構成であってもよいし、軸方向Vにおいて位置が変位する(側面視において先端部15Tが傾斜する)構成であってもよい。
【0075】
また、同図(h)に示すように、同図(a)に示す突起15(あるいはと同図(g)に示す)突起15が第一の金属部材11の軸方向において複数組み合わせられた形状であってもよい。
【0076】
以上、
図9に示す実施形態では、第一の金属部材11を第二の金属部材21に圧入すると、二の金属部材21は、少なくとも弾性変形し、あるいは、弾性変形に加えて塑性変形するとともに突起15によって第二の金属部材21の内周面25の一部が削り取られるように(溝が刻設されるように)変形して、突起15と、第二の金属部材21の内周面25とが強固に嵌合(嵌着)し、第一の金属部材11はその外周面13において、第二の金属部材21の孔部24の内周面25と接触した接合体30が形成される(同図(d)参照)。
【0077】
上記実施形態の構成によれば、第一の金属部材11および第二の金属部材12の板厚を従来と同等とし、さらに圧入力(圧入負荷)を従来と同程度とした場合であっても、抜け荷重(抜去力)を従来と比較して大幅に増加させることができる。
【0078】
つまり、従来と同程度の抜け荷重(抜去力)を維持すれば良い場合、第一の金属部材11および第二の金属部材12の板厚を従来より大幅に低減でき、部品の小型化(軽量化)に寄与できる。
【0079】
また、部品が小型・軽量化することにより、コストダウンが図れ、またレイアウトの自由度が向上する。
【0080】
さらに従来では抜去力向上のために接着材を用いる場合があったが、接着材を用いること無く、抜去力を向上させることができる。
【0081】
また、圧入機械の小型化(省力化)を実現することができる。
【0082】
本実施形態の接合部材及び接合方法は例えば、第一の金属部材11をリング形状に形成し、第二の金属部材21で構成された部品(例えば、エンジンヘッド、ダイキャスト品、軸受け部品その他の圧入部品)の部分的に強度が要求される箇所に補強としてリング形状の第一の金属部材11を圧入するなどの適用が可能である。
【実施例1】
【0083】
図9(a)に示した接合部材10によって、接合体30を形成し、突起15を設けない比較例の接合体と圧入力および抜去力を比較した。
【0084】
本実施例の接合体30は、第一の金属部材11の材質が炭素工具鋼であり、板厚は5.7mmである。また、第二の金属部材21の材質はアルミニウムである。
【0085】
比較例の接合体は、突起15が設けられておらず、内側の金属部材(本実施例の第一の金属部材に対応する部材)の材質が鉄系焼結金属であり、外側の金属部材(本実施例の第二の金属部材21に対応する部材)の材質は、本実施例と同様のアルミニウムである。また、それ以外の構成(板厚、外径、内径、しめしろなどの形状)は両者において同等である。
【0086】
本実施例の接合体30および比較例の接合体60について、圧入負荷(圧入力)と、抜け荷重(抜去力、抜去強度)を測定した。比較例の接合体は、圧入負荷が190kgfであり、抜去強度が190kgfであった。一方、本実施形態の接合体30は、圧入負荷が200kgfであり、抜去強度が520kgfであった。
【0087】
この結果から、本発明によれば、第一の金属部材11および第二の金属部材12の板厚を従来と同等とし、さらに圧入力(圧入負荷)を従来と同程度とした場合であっても、抜け荷重(抜去力)を従来と比較して大幅に増加させることができることが明らかとなった。
【0088】
つまり、従来と同程度の抜け荷重(抜去力)を維持すれば良い場合、第一の金属部材11および第二の金属部材12の板厚を従来より大幅に低減でき、部品の小型化(軽量化)に寄与できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、複数の部材の接合に用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
10 接合部材
11 第一の金属部材
15 突起
21 第二の金属部材
30 接合体