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特許7074323胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地
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  • 特許-胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地 図1
  • 特許-胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/02 20060101AFI20220517BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20220517BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/09
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018052795
(22)【出願日】2018-03-20
(65)【公開番号】P2019162083
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 義正
(72)【発明者】
【氏名】金井 弥栄
(72)【発明者】
【氏名】村松 俊英
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028569(JP,A)
【文献】Cell,2015年,Vol.160,PP.324-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/02
C12N 5/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-スポンジン1、N-アセチルシステイン、ガストリン、ニコチンアミド、上皮成長因子、及びフォルスコリンを少なくとも含む、胆道癌組織からのオルガノイドの培養用培地。
【請求項2】
さらに、Y-27632、及びA83-01からなる群から選択される1以上を含む、請求項1に記載の培養用培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は日本人の死因において大きな割合を占める疾患であり、各種の癌治療薬が開発段階にある。他方、癌治療薬の開発においては癌細胞株が用いられるものの、癌細胞株を用いた系を経て開発された薬剤の多くは臨床的に応用できないという問題がある。このような問題を踏まえ、より生体に近い系を用いた開発を可能にするために、細胞から「オルガノイド」と呼ばれる生体内組織に似た構造体を形成させ、これを用いた創薬が進められている。例えば、特許文献1では、上皮幹細胞からオルガノイドを形成させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/142069号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各種癌のうち胆道癌や膵臓癌は、早期発見が難しいこと等から、難治性の癌として知られる。しかし、これらの癌の癌細胞や癌組織からオルガノイドを形成できる技術は充分に確立されていない。
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、胆道癌及び膵臓癌のオルガノイドを形成できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の成分を組み合わせて含む培養用培地によれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) R-スポンジン1、N-アセチルシステイン、ガストリン、ニコチンアミド、及び上皮成長因子を少なくとも含む、胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地。
【0008】
(2) さらに、Y-27632、A83-01、及びフォルスコリンからなる群から選択される1以上を含む、(1)に記載の培養用培地。
【0009】
(3) 胆道癌オルガノイドの培養用培地である、(1)又は(2)に記載の培養用培地。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、胆道癌及び膵臓癌のオルガノイドを形成できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】胆道癌組織から得られた細胞の培養結果を示す図である。
図2】正常な胆道組織から得られた細胞の培養結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0013】
<胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地>
本発明の胆道癌オルガノイド又は膵臓癌オルガノイドの培養用培地(以下、「本発明の培地」ともいう。)は、R-スポンジン1、N-アセチルシステイン、ガストリン、ニコチンアミド、及び上皮成長因子を少なくとも含む。本発明者らの検討の結果、これらの成分を組み合わせて含む培地によれば、胆道癌及び/又は膵臓癌の癌細胞やこれらを含む癌組織から良好にオルガノイドを形成でき、さらには、長期間にわたってオルガノイドを維持できることが見出された。
【0014】
本発明において、「胆道癌」とは、胆嚢や胆管に生じる癌の総称を意味する。本発明における「胆道癌」には、任意の発生部位の胆道癌が含まれ、例えば、肝内胆管癌、肝門部胆管癌、上部胆管癌、中部胆管癌、下部胆管癌、十二指腸乳頭部癌(ファーター乳頭部神経内分泌癌等)、胆嚢癌が挙げられる。
【0015】
本発明における「膵臓癌」には、任意の発生部位(例えば、膵頭部、膵体部、及び膵尾部)の膵臓癌が含まれる。また、本発明における「膵臓癌」には、外分泌系癌及び内分泌系癌のいずれもが含まれる。本発明における膵臓癌としては、膵管腺癌等が挙げられる。
【0016】
本発明の培地は、本発明の効果がより奏されやすいという観点から、好ましくは胆道癌オルガノイドの培養用培地である。
【0017】
本発明において、「オルガノイド」とは、制御した空間内で細胞を高密度に集積させることにより自己組織化させた立体的な細胞組織体を意味する。本発明の培地によってオルガノイドが形成されたかどうかは、顕微鏡等による目視観察によって確認できる。
【0018】
本発明の培地は、R-スポンジン1、N-アセチルシステイン、ガストリン、ニコチンアミド、及び上皮成長因子を少なくとも含むが、これらの成分にくわえて、Y-27632、A83-01、及びフォルスコリンからなる群から選択される1以上を含むことが好ましく、Y-27632、A83-01、及びフォルスコリンの全てを含むことがより好ましい。以下、本発明の培地に含まれる成分について説明する。
【0019】
(R-スポンジン1)
R-スポンジン1(R-spondin1、Rspo1とも呼ばれる。)は、Wntアゴニストとして知られる物質である。R-スポンジン1としては、R-スポンジン1と同様の活性を有する限り、その断片や、R-スポンジン1のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含むものを用いてもよい。
【0020】
本発明の培地におけるR-スポンジン1の含量の下限は、R-スポンジン1による作用を充分に奏する観点から、本発明の培地中に、好ましくは0.01μg/ml以上、より好ましくは0.5μg/ml以上である。本発明の培地におけるR-スポンジン1の含量の上限は、本発明の培地中にその他の成分を充分に配合する観点から、本発明の培地中に、好ましくは100μg/ml以下、より好ましくは5.0μg/ml以下である。
【0021】
(N-アセチルシステイン)
N-アセチルシステイン(NACとも呼ばれる。)は、抗酸化作用を有するアミノ酸として知られる物質である。
【0022】
本発明の培地におけるN-アセチルシステインの含量の下限は、N-アセチルシステインによる作用を充分に奏する観点から、本発明の培地中に、好ましくは0.50mM以上、より好ましくは1.00mM以上である。本発明の培地におけるN-アセチルシステインの含量の上限は、本発明の培地中にその他の成分を充分に配合する観点から、本発明の培地中に、好ましくは3.00mM以下、より好ましくは2.00mM以下である。
【0023】
(ガストリン)
ガストリンは、胃酸分泌刺激ホルモンとして知られる物質である。ガストリンとしては、Leu15-ガストリン等の適切な代替物を用いることもできる。
【0024】
本発明の培地におけるガストリンの含量の下限は、ガストリンによる作用を充分に奏する観点から、本発明の培地中に、好ましくは1.0nM以上、より好ましくは5.0nM以上である。本発明の培地におけるガストリンの含量の上限は、本発明の培地中にその他の成分を充分に配合する観点から、本発明の培地中に、好ましくは20nM以下、より好ましくは15nM以下である。
【0025】
(ニコチンアミド)
ニコチンアミドは、水溶性ビタミンであり、ビタミンB群の1つとして知られる物質である。
【0026】
本発明の培地におけるニコチンアミドの含量の下限は、ニコチンアミドによる作用を充分に奏する観点から、本発明の培地中に、好ましくは1.0mM以上、より好ましくは5.0mM以上である。本発明の培地におけるニコチンアミドの含量の上限は、本発明の培地中にその他の成分を充分に配合する観点から、本発明の培地中に、好ましくは20mM以下、より好ましくは15mM以下である。
【0027】
(上皮成長因子)
上皮成長因子(Epidermal Growth Factor、EGFとも呼ばれる。)は、細胞増殖因子として知られる物質である。
【0028】
本発明の培地における上皮成長因子の含量の下限は、上皮成長因子による作用を充分に奏する観点から、本発明の培地中に、好ましくは10ng/ml以上、より好ましくは30ng/ml以上である。本発明の培地における上皮成長因子の含量の上限は、本発明の培地中にその他の成分を充分に配合する観点から、本発明の培地中に、好ましくは100ng/ml以下、より好ましくは70ng/ml以下である。
【0029】
(Y-27632)
本発明の培地には、Y-27632((R)-(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩一水和物とも呼ばれる。)が含まれていてもよい。Y-27632は、Rock(Rho-キナーゼ)阻害剤として知られる物質である。
【0030】
本発明の培地にY-27632が含まれる場合、その下限は、Y-27632による作用を充分に奏する観点から、本発明の培地中に、好ましくは1.0μM以上、より好ましくは5.0μM以上である。本発明の培地におけるY-27632の含量の上限は、本発明の培地中にその他の成分を充分に配合する観点から、本発明の培地中に、好ましくは50μM以下、より好ましくは20μM以下である。
【0031】
(A83-01)
本発明の培地には、A83-01(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1-フェニルチオカルバモイル-4-キノリン-4-イルピラゾールとも呼ばれる。)が含まれていてもよい。A83-01は、TGF-β(形質転換増殖因子-β、transforming growth factor-β)の阻害剤として知られる物質である。
【0032】
本発明の培地にA83-01が含まれる場合、その下限は、A83-01による作用を充分に奏する観点から、本発明の培地中に、好ましくは1.0μM以上、より好ましくは3.0μM以上である。本発明の培地におけるA83-01の含量の上限は、本発明の培地中にその他の成分を充分に配合する観点から、本発明の培地中に、好ましくは10μM以下、より好ましくは8.0μM以下である。
【0033】
(フォルスコリン)
本発明の培地には、フォルスコリン(Forskolin)が含まれていてもよい。フォルスコリンは、アデニル酸シクラーゼ活性を促進する作用を有することが知られる物質である。
【0034】
本発明の培地にフォルスコリンが含まれる場合、その下限は、フォルスコリンによる作用を充分に奏する観点から、本発明の培地中に、好ましくは1.0μM以上、より好ましくは5.0μM以上である。本発明の培地におけるフォルスコリンの含量の上限は、本発明の培地中にその他の成分を充分に配合する観点から、本発明の培地中に、好ましくは50μM以下、より好ましくは20μM以下である。
【0035】
(基本培地)
本発明の培地には、任意の基本培地が含まれていてもよい。基本培地としては無血清の細胞培養基本培地が好ましい。基本培地は、動物細胞用又はヒト細胞用であることが好ましい。
【0036】
本発明において「無血清」とは、無調整又は未精製の血清を含まないことを意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地は無血清培地に含まれる。ただし、本発明の培地は、ウシ胎仔血清(fetal bovine serum(FBS)又はfetal calf serum)等の不確定な成分を含まないことが好ましい。
【0037】
無血清の細胞培養基本培地としては、例えば、炭酸系の緩衝液でpH7.2以上pH7.6以下に緩衝化されている規定の合成培地等が挙げられる。より具体的には、グルタミン、インスリン、ペニシリン又はストレプトマイシン、及びトランスフェリンが補充されたダルベッコ改変イーグル培地/ハムF-12混合培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12;DMEM/F12)が挙げられる。また、グルタミン、インスリン、ペニシリン又はストレプトマイシン、及びトランスフェリンが補充されたRPMI1640培地(Roswell Park Memorial Institute 1640 medium)も挙げられる。また、ペニシリン及びストレプトマイシンが補充されたアドバンスト-DMEM/F12、並びに、グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン等が補充されたアドバンストRPMI培地等も挙げられる。
【0038】
無血清の細胞培養基本培地には、さらに、天然、半合成、又は合成の精製された増殖因子が補充されていてもよい。増殖因子としては、例えば、B-27 Supplement、N-2 Supplement等が挙げられる。これらの増殖因子は、一部の細胞の増殖を刺激することができる。
【0039】
本発明の培地は、オルガノイドの培養用培地であるという性質上、3次元培地が採用される。本発明において「3次元培地」とは、培養用プレート等の2次元的な培地ではなく、3次元的な培養を可能とする培地をいい、例えば、マトリゲル(Corning社製)等を用いた培地が用いられる。
【0040】
(その他の成分)
本発明の培地には、上記の成分にくわえて、細胞培養用培地に配合されることが知られるその他の成分(BMP阻害剤、アミノ酸、ビタミン、無機塩、糖、微量元素等)が含まれていてもよい。
【0041】
ただし、本発明の効果をより奏しやすいという観点から、本発明の培地には、BMP阻害剤(例えば、ノギン等)、肝細胞増殖因子(HGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、Wntタンパク質、p38MAP キナーゼ阻害剤(例えば、SB 202190等)、プロスタグランジン等が含まれないことが好ましい。
【0042】
<本発明の培地の製造方法>
本発明の培地は、上記の成分を適宜混合及び撹拌することで得られる。本発明の培地は、必要に応じて殺菌処理等を施してもよい。
【0043】
<本発明の培地を用いた培養方法>
胆道癌及び/又は膵臓癌の癌細胞やこれらを含む癌組織を、本発明の培地とともに培養することで、胆道癌オルガノイドや膵臓癌オルガノイドを良好に形成することができ、さらには該オルガノイドを長期にわたって維持できる。
【0044】
本発明の培地によれば、例えば、1ヶ月以上、6ヶ月以上、1年以上、2年以上、又は3年以上もの長期間にわたって胆道癌オルガノイドや膵臓癌オルガノイドを維持できる。本発明において「オルガノイドを維持」とは、形成されたオルガノイドが、細胞や細胞の小塊にならずに、立体的な細胞組織体の構造を保つことを意味する。ただし、本発明の培地によれば、短期間の培養でオルガノイドを形成することもできるため、培養期間は、例えば、60日以下、30日以下、又は10日以下であってもよい。
【0045】
培養に用いる培養器は、胆道癌及び/又は膵臓癌の癌細胞やこれらを含む癌組織の培養が可能なものであれば特に限定されないが、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、及びローラーボトルが挙げられ得る。
【0046】
培養においては、継代培養を行ってもよく、行わなくてもよいが、継代培養を行うごとに、スプリット比が通常増加するため、継代培養を行うことが好ましい。なお、「スプリット比」とは、細胞を継代する際に、1つのウェルからいくつのウェルに細胞を継代できるかの割合を意味する。例えば、ある継代において、1つのウェルから10のウェルに細胞を継代できた場合は、この継代におけるスプリット比は10である。
【0047】
継代培養を行う間隔は、特に限定されず、例えば、1~20日であってもよい。また、継代を行う回数も特に限定されない。本発明の培地によれば、上記のとおり、長期間にわたってオルガノイドを維持できるため、オルガノイドの維持期間に応じて適切な継代回数(例えば、1回以上、10回以上、20回以上、50回以上、又は100回以上)を設定できる。
【0048】
培養においては、例えば、スプリット比を指標として、継代の回数を決定してもよく、例えば、スプリット比が1:5~1:10になるまで継代を行うことが好ましい。
【0049】
その他の培養条件は、適宜設定できる。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは約37℃であり得る。CO濃度は、約1~10%、好ましくは約2~5%であり得る。酸素分圧は、1~10%であり得る。
【実施例
【0050】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
<胆道癌細胞又は正常な胆道細胞からのオルガノイドの形成>
表1に示す由来を有する胆道癌組織若しくは膵臓癌組織、又は、正常な胆道組織から単離した細胞を用いて、以下の方法でオルガノイドを調製した。正常な胆道組織としては、胆嚢癌症例の非癌部由来の組織(19N、26N)、胆管癌症例の非癌部由来の組織(30N、32N)を用いた。なお、表及び図面中、「IHCC」とは肝内胆管癌を意味し、「PDA」とは膵管腺癌を意味し、「GBC」とは胆嚢癌を意味し、「AVNEC」とはファーター乳頭部神経内分泌癌を意味し、「GB」とは胆嚢を意味し、「BD」とは胆管を意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
各組織を小片に切り、消化緩衝液中で1時間、37℃でインキュベートした。消化緩衝液は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(2.5% ウシ胎児血清、0.0125% ディスパーゼ タイプII(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)及び0.0125% コラゲナーゼ タイプXI(シグマアルドリッチ社製)を含む。)を用いた。
【0054】
インキュベート後、培養上清を回収してチューブに入れ、これを800rpmで5分間遠心した。得られたペレットをPBSで洗浄した後に、800rpmで5分間遠心した(この操作を2度繰り返した。)。単離した各細胞を、氷上でマトリゲル(growth factor reduced, phenol red-free、Corning社製)に埋入し、オルガノイド培養用培地(500μl/ウェル)を入れた48ウェルプレートに播種し、37℃で培養を開始した。各ウェルにおいて、オルガノイドがコンフルエントな状態となった段階で、オルガノイド培養用培地を用いて継代を行い、オルガノイドの形成が認められなくなった時点(細胞や細胞の小塊が認められた時点)で継代を停止した。
【0055】
用いたオルガノイド培養用培地(培地1及び2)の組成を表2に示す。表2中、培地に含まれる成分を「○」で示した。また、用いた各成分の詳細は以下のとおりである。
アドバンスト-DMEM/F12:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
Glutamax:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
HEPES:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
ペニシリン/ストレプトマイシン:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
R-スポンジン1(Rspo1):Rspo1産生株からの10%条件培地
N-2 supplement:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
B-27 supplement:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
N-アセチルシステイン(NAC):シグマ アルドリッチ社製
ガストリン:シグマ アルドリッチ社製
ニコチンアミド:シグマ アルドリッチ社製
上皮成長因子(EGF):サーモフィッシャーサイエンティフィック社製
Y-27632:WAKO社製
A83-01:Tocris社製
フォルスコリン:Tocris社製
【0056】
なお、「1T」、「3T」の組織から得られた細胞は「培地1」を用いて培養を行った。それ以外の組織から得られた細胞は「培地2」を用いて培養を行った。
【0057】
【表2】
【0058】
図1に、胆道癌組織又は膵臓癌組織から得られた細胞の培養結果を示す。図2に、正常な胆道組織から得られた細胞の培養結果を示す。
【0059】
いずれの図においても、左側のグラフは、横軸は培養日数を示し、縦軸は継代回数を示す。また、各細胞の培養において、任意の継代時点での顕微鏡による観察結果も併せて示す。例えば、図1の「1T(IHCC)」において、「P7」及び「P70」は、それぞれ、7回目の継代、70回目の継代における観察結果を意味する。
【0060】
図1に示されるとおり、培地1及び2のいずれを用いても、胆道癌組織又は膵臓癌組織から得られた細胞から良好にオルガノイドを形成でき、かつ、約1年又はそれ以上もの長期間にわたってオルガノイドを維持し続けることができた。特に、図1の「1T(IHCC)」に示されるとおり、3年近くもの長期間にわたってオルガノイドを維持できたことは極めて意外な結果であった。
【0061】
他方、図2に示されるとおり、正常な胆道組織から得られた細胞については、培養開始当初はオルガノイドの形成が認められたものの、継代を重ねるにつれて細胞増殖が抑制され、オルガノイドの形成が認められなくなった。
【0062】
以上から、本発明の培地は、胆道癌オルガノイド及び膵臓癌オルガノイドの形成及び維持に極めて適していることがわかった。
図1
図2