(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】リーマ
(51)【国際特許分類】
B23D 77/02 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
B23D77/02
(21)【出願番号】P 2019113056
(22)【出願日】2019-06-18
【審査請求日】2020-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】517294026
【氏名又は名称】真辺工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粟村 操
(72)【発明者】
【氏名】真邉 崇正
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528284(JP,A)
【文献】実開昭51-054367(JP,U)
【文献】特開昭60-039004(JP,A)
【文献】特開2007-130739(JP,A)
【文献】実開平01-060807(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第102974893(CN,A)
【文献】特開平07-148605(JP,A)
【文献】特開2002-160125(JP,A)
【文献】特開2011-062790(JP,A)
【文献】特開2012-176453(JP,A)
【文献】特表2008-526541(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0165760(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0314903(US,A1)
【文献】米国特許第05704742(US,A)
【文献】米国特許第5071295(US,A)
【文献】米国特許第5396693(US,A)
【文献】独国特許出願公開第4406597(DE,A1)
【文献】国際公開第2004/078389(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/011868(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/149647(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23B 35/00-49/06
B23D 67/00-81/00
B23P 5/00-17/06
B21K 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動工具交換装置を有するマシニングセンター用の
リーマにおいて、
前記マシニングセンターに保持され
、軸方向が送り方向とされる回転軸部と、
前記回転軸部の先端部から回転中心線の径方向について互いに反対方向に延在するように形成された第1延在部及び第2延在部と、
前記第1延在部及び前記第2延在部の先端部にそれぞれ
前記径方向に突出するように固定され、被加工物に予め形成されている穴の内周面を切削する第1刃及び第2刃と、
前記第1刃の刃先を
前記径方向に変位させる刃先位置調整機構とを備えており、
前記第1刃の刃先と前記第2刃の刃先との離間寸法が150mm以上に設定され、
前記第1延在部は、前記第1刃が取り付けられた刃取付部と当該刃取付部よりも前記回転軸部寄りの基部側部とを備え、
前記刃先位置調整機構は、前
記刃取付部
と前記基部側部との間に形成された所定幅を有する溝と、前記刃取付部に、
前記径方向に延びるように形成されて前記溝の内部に連通するねじ孔と、当該ねじ孔に螺合して前記溝における前記刃取付部と反対側の側面に当接するねじとを備え
、
前記溝は、前記回転中心線方向に延び、前記第1延在部の一側面及び他側面に開放するとともに前記送り方向先端側に開放しており、
前記ねじ孔は、前記刃取付部における前記径方向外方向の面に開口していることを特徴とする
リーマ。
【請求項2】
請求項1に記載の
リーマにおいて、
前記第1刃及び前記第2刃の刃先は、回転中心線方向に延びるとともに、前
記送り方向と反対側へ行くほど
前記径方向内方に位置するように傾斜していることを特徴とする
リーマ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の
リーマにおいて、
前記回転軸部の先端部には、前
記送り方向へ突出し、前記第1延在部及び前記第2延在部の
前記径方向の寸法よりも短い外径を有する先端側刃保持部が設けられ、
前記先端側刃保持部には、当該先端側刃保持部の外周面から
前記径方向に突出する第3刃及び第4刃が固定されていることを特徴とする
リーマ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の
リーマにおいて、
回転中心線方向に沿って見たとき、前記第1刃の刃先と前記第2刃の刃先とを結ぶ直線が回転中心線を通るように、前記第1刃及び前記第2刃が配置されていることを特徴とする
リーマ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対して高精度穴加工を行うための回転切削工具に関し、特にリーマ工法に用いられるものの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工物に対して穴加工を行う工法としては、ボーリング(中ぐり)工法やリーマ工法等が知られている。ボーリング工法は、ドリルや鋳抜きなどで既に開けられている穴の内面を切削して穴径の精度を向上させたり、穴寸法を大きくする際に使用される工法である。例えば、中ぐり棒の先端に工具を取り付けて回転させながら、被加工物または工具を送ることによって行われ、このボーリング工法では特許文献1に開示されている工具を使用することができる。
【0003】
一方、リーマ工法も、既に開けられている穴の内面を切削して穴径の精度を向上させたり、穴寸法を大きくする際に使用される工法である点ではボーリング工法と同じであるが、リーマ工法はボーリング工法と比較したとき、一般的にはより高精度な仕上げを行うことが可能であり、例えば特許文献2、3に開示されている工具を使用することができる。
【0004】
また、一般的に、ボーリング工法は、リーマ工法に比べて大径の穴の加工に利用されるとともに、切削代の大きな加工も行い得る工法であることが知られている。
【0005】
さらに、被加工物としては、小径(30mm以下)の穴を有するものの他、大型アルミダイカスト製品、例えばエンジンブロックや電気自動車用モーターハウジング等の大型被加工物もあり、大型被加工物の場合、大径(150~200mm相当)の穴加工が必要になることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-154218号公報
【文献】特開2011-62790号公報
【文献】特開2012-106334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ボーリング工法では、中ぐり盤を使用することで大径の穴加工であっても比較的容易に行うことができるので、大径の穴加工を行う際には、一般的にボーリング工法が使用される。しかしながら、近年、大径の穴加工においても高い加工精度が求められており、ボーリング工法での対応が困難になってきている。
【0008】
また、大径の穴加工をマシニングセンターで行うことも考えられるが、ボーリング用の工具は、特許文献1等にも開示されているように、穴径に対応した円筒状に形成されているので、穴径の拡大に伴って工具が大型化するとともに、工具の重量が嵩む。このため、大型の工具を保持可能な自動工具交換装置を有する大型のマシニングセンターを用意しなければならず、設備費が大幅に高騰する。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、設備費の高騰を抑制しながら、大径の穴加工をボーリング工法よりも高精度に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、回転軸部から径方向に延在する第1延在部及び第2延在部を設け、第1延在部及び第2延在部の先端部にそれぞれ第1刃及び第2刃を固定し、第1刃の刃先と第2刃の刃先との離間寸法を150mm以上に設定した。
【0011】
第1の発明は、自動工具交換装置を有するマシニングセンター用の回転切削工具において、前記マシニングセンターに保持される回転軸部と、前記回転軸部の先端部から回転中心線の径方向について互いに反対方向に延在するように形成された第1延在部及び第2延在部と、前記第1延在部及び前記第2延在部の先端部にそれぞれ径方向に突出するように固定され、被加工物に予め形成されている穴の内周面を切削する第1刃及び第2刃と、前記第1刃の刃先を回転中心線の径方向に変位させる刃先位置調整機構とを備えており、前記第1刃の刃先と前記第2刃の刃先との離間寸法が150mm以上に設定され、前記第1延在部は、前記第1刃が取り付けられた刃取付部と当該刃取付部よりも前記回転軸部寄りの基部側部とを備え、前記刃先位置調整機構は、前記刃取付部と前記基部側部との間に形成された所定幅を有する溝と、前記刃取付部に、前記径方向に延びるように形成されて前記溝の内部に連通するねじ孔と、当該ねじ孔に螺合して前記溝における前記刃取付部と反対側の側面に当接するねじとを備え、前記溝は、前記回転中心線方向に延び、前記第1延在部の一側面及び他側面に開放するとともに前記送り方向先端側に開放しており、前記ねじ孔は、前記刃取付部における前記径方向外方向の面に開口していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1延在部及び第2延在部にそれぞれ第1刃及び第2刃が固定されているので、この回転切削工具を用いることでリーマ工法による高精度な穴加工が可能になり、例えば、真円度が0.03mm以下、面粗度0.1a以下になる。このとき、第1刃の刃先と第2刃の刃先との離間寸法が150mm以上であるため、直径が150mm以上の大径の穴の高精度加工が行えるようになる。第1刃の刃先と第2刃の刃先との離間寸法は、200mm以上であってもよく、第1延在部及び第2延在部の径方向の寸法によって任意に設定することが可能である。
【0013】
ここで、仮に、ボーリング用の工具で直径が150mm以上の大径の穴加工を行う場合を想定すると、ボーリング用の工具は特許文献1の工具のように穴径に対応した円筒状であることから、工具の直径が150mmに近くなり、この寸法は、径方向であればどの方向でも略同じ程度になる。従って、そのような寸法を有する円筒状の工具をマシニングセンターの自動工具交換装置に保持させようとすると、直径が約150mmの工具占有空間を、自動工具交換装置による工具の移動軌跡の全体に亘って確保しておかなければならない。一般的な小型のマシニングセンターでは、直径が150mmの工具占有空間を自動工具交換装置による工具の移動軌跡の全体に亘って確保するのは困難であるため、大型のマシニングセンターが必要になる。
【0014】
本発明では、リーマ工法用の工具であるため、工具の形状が円筒状ではなく、互いに反対方向に延在する第1延在部及び第2延在部を備えた形状となっている。このため、第1延在部及び第2延在部が延在する方向についてのみ工具の外形寸法が150mm以上になるが、他の方向についての寸法は150mmよりも大幅に短くすることが可能になる。よって、マシニングセンターの自動工具交換装置に保持させる際、直径が約150mmの工具占有空間を移動軌跡の全体に亘って確保する必要はなく、第1延在部及び第2延在部の延在方向にのみ150mm以上の空間を確保できればよいので、小型のマシニングセンターで対応が可能になる。
【0015】
また、第1刃の第1延在部への取付位置を変更することなく、刃先位置調整機構によって第1刃の刃先を回転中心線の径方向に変位させることが可能になる。これにより、穴加工時における仕上がり内径を任意に変更することができる。
【0016】
また、ねじをねじ孔に螺合させて締め込んでいくと、ねじの先端部が刃取付部と反対側の側面に当接し、この側面を押圧する。そのときの反力によって刃取付部が径方向外方へ変位し、これにより、第1刃が径方向外方へ変位することになる。すなわち、ねじの締め込み量によって簡単にかつほぼ無段階に第1刃の刃先の位置を微調整できる。
【0017】
第2の発明は、前記第1刃及び前記第2刃の刃先は、回転中心線方向に延びるとともに、前記回転切削工具の送り方向と反対側へ行くほど径方向内方に位置するように傾斜していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第1刃及び第2刃の刃先が回転中心線方向に長い形状になる。刃先における回転切削工具の送り方向先端部が最も径方向外方に位置することになるので、この先端部が穴の内周面を主に切削することになる。そして、刃先が送り方向反対側へ行くほど径方向内方に位置しているので、刃先における送り方向と反対側は穴の内周面に接触し難くなる。これにより、刃先における送り方向と反対側を穴の内周面から逃がすことができ、加工精度を向上させることができる。
【0019】
第3の発明は、前記回転軸部の先端部には、前記回転切削工具の送り方向へ突出し、前記第1延在部及び前記第2延在部の径方向の寸法よりも短い外径を有する先端側刃保持部が設けられ、前記先端側刃保持部には、当該先端側刃保持部の外周面から径方向に突出する第3刃及び第4刃が固定されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、第3刃及び第4刃により、150mmよりも小径の穴加工を行うことが可能になる。つまり、150mm以上の大径の穴加工と、それよりも小径の穴加工とを1つの回転切削工具によって行うことができるので、マシニングセンターの自動工具交換装置に準備しておく工具の数を減らすことができる。
【0021】
第4の発明は、回転中心線方向に沿って見たとき、前記第1刃の刃先と前記第2刃の刃先とを結ぶ直線が回転中心線を通るように、前記第1刃及び前記第2刃が配置されていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、第1刃の刃先と第2刃の刃先とが回転中心線を対称の中心とした点対称に配置されることになるので、回転切削工具を回転させながら送ることにより、第1刃及び第2刃によって穴の内周面を略同時に加工することが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、回転軸部の先端部から回転中心線の径方向について互いに反対方向に延在するように形成された第1延在部及び第2延在部にそれぞれ第1刃及び第2刃を固定し、第1刃の刃先と第2刃の刃先との離間寸法を150mm以上に設定したので、小型のマシニングセンターを使用可能にして設備費の高騰を抑制しながら、150mm以上の大径の穴加工をボーリング工法よりも高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態1に係る回転切削工具の側面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る回転切削工具を先端側から見た図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係る
図1相当図である。
【
図5】本発明の実施形態2に係る
図2相当図である。
【
図6】本発明の実施形態2に係る回転切削工具の第1延在部を径方向外側から見た図である。
【
図7】本発明の実施形態3に係る
図1相当図である。
【
図8】本発明の実施形態3に係る
図2相当図である。
【
図9】本発明の実施形態4に係る
図1相当図である。
【
図10】本発明の実施形態4に係る
図2相当図である。
【
図11】マシニングセンターの自動工具交換装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る回転切削工具1の側面図であり、
図2は、回転切削工具1を先端側から見た図である。回転切削工具1は、いわゆるリーマであり、既に開けられている穴の内面を切削して穴径の精度を向上させたり、穴寸法を大きくする際に使用される。回転切削工具1は、リーマであることから、ボーリング用の工具に比べて切削代の小さな加工を行うように構成されている。回転切削工具1が加工対象とする穴の径は、150mm以上であり、上限は300mmである。
【0027】
回転切削工具1が対象とする被加工物は、大型アルミダイカスト製品、例えばエンジンブロックや電気自動車用モーターハウジング等の大型被加工物である。この被加工物に予め形成されている穴の内周面を切削することにより、設定された寸法の内径を有する穴に仕上げることができるとともに、内周面の面粗度も所定値にすることができる。被加工物には、例えば、ドリルや鋳抜きなどによって上記穴を予め形成することができる。
【0028】
また、回転切削工具1は、自動工具交換装置を有するマシニングセンター(図示せず)で使用される工具である。このマシニングセンターは従来から周知のものであるため、詳細な説明は省略するが、大型のマシニングセンターではなく、小型のマシニングセンターである。
図11に示す自動工具交換装置100は、オートツールチェンジャー(ATC)と呼ばれている装置であり、例えば工具を保持可能な多数の保持部101,101,…と、これら保持部101,101,…が所定の環状軌道を描くように当該保持部101,101,…を搬送する搬送機構102とを備えたマガジン式の自動工具交換装置とすることができる。保持部101に対して着脱可能に保持された工具はカバー103で覆われており、マシニングセンターの運転中に工具等に触れることができないようになっている。
【0029】
小型のマシニングセンターの自動工具交換装置100の場合、直径が150mm以上の円筒状の工具200(仮想線で示す)を保持部101に保持させることが設計上、無理である。すなわち、円筒状の工具200の場合は、径方向のどの方向についても150mm以上の寸法になるので、そのような寸法を有する円筒状の工具200をマシニングセンターの自動工具交換装置100に保持させようとすると、直径が約150mmの工具占有空間を、自動工具交換装置100による工具200の移動軌跡の全体に亘って確保しておかなければならない。ところが、カバー103と工具との隙間は、小型のマシニングセンターの場合、そこまで大きく確保することができず、例えば円筒状の工具であれば、約100mm~150mm未満の直径のものしか保持部101に保持させることができないように設計されているのが一般的である。
【0030】
また、従来、直径が150mm以上の穴加工はボーリング工法で行われるのが一般的である。このため、直径が150mm以上の穴加工を行おうとすると、直径が150mm以上のボーリング用の工具を使用することになり、このボーリング用の工具は
図11に示す円筒状の工具200であることから、小型のマシニングセンターでは工具200とカバー103との干渉が問題となる。その結果、大型のマシニングセンターを用意しなければならなかった。
【0031】
本実施形態では、直径が150mm以上の大径の穴加工をボーリング用の工具を用いることなく、リーマで行えるようにすることで、小型のマシニングセンターの使用を可能にすることができる。以下、回転切削工具1について詳細に説明する。
【0032】
図1に示すように、回転切削工具1は、マシニングセンターの主軸に保持される回転軸部2と、回転軸部2の先端部から回転中心線の径方向について互いに反対方向に延在するように形成された第1延在部10及び第2延在部20と、第1延在部10及び第2延在部20の先端部にそれぞれ径方向に突出するように固定された第1刃11及び第2刃21とを備えている。回転切削工具1の基端側はマシニングセンターの主軸(図示せず)に保持される側であり、回転切削工具1の先端側はその反対側である。切削加工時の回転切削工具1の送り方向は
図1の下方向になる。回転軸部2は円柱状をなしており、マシニングセンターの主軸に保持されるとともに、自動工具交換装置100の保持部101にも保持される部分である。回転軸部2の長さは任意に設定することができる。
【0033】
図1に示す回転軸部2の中心線Xは、回転切削工具1の回転中心線である。回転軸部2の中心線Xに直交する方向が回転切削工具1の径方向であり、径方向のうち、一方向に延びる直線を
図2に符号Aで示す。この直線Aは、回転軸部2の中心線Xを通っている。また、切削加工時の回転切削工具1の回転方向は、
図2に矢印300で示す方向である。
【0034】
本実施形態では、切削用の刃が取り付けられる部分として、第1延在部10及び第2延在部20のみ有しており、回転軸部2から径方向に突出するのは、第1延在部10及び第2延在部20だけである。つまり、回転切削工具1がリーマ工法用の工具であるため、工具の形状が円筒状ではなく、互いに反対方向に延在する第1延在部10及び第2延在部20を備えた形状となっているため、回転軸部2における第1延在部10と第2延在部20との間には径方向へ突出する突出部等が形成されていない。従って、回転切削工具1における第1延在部10及び第2延在部20が突出する部分以外の径方向の寸法は、第1延在部10及び第2延在部20が突出する部分に比べて大幅に短くなる。
【0035】
第1延在部10及び第2延在部20は、厚肉な板状をなしている。第1延在部10の一側面10aは、直線Aと平行に延びる平坦面で構成されている。第1延在部10の他側面は、径方向先端側へ行くほど一側面10aに近づくように傾斜して延びる傾斜面10bと、この傾斜面10bの径方向先端に連続する先端側面10cとを有している。中心線X方向から見たとき、傾斜面10bの径方向先端は、直線A上に位置している。したがって、第1延在部10の厚みは、先端側へ行くほど薄くなっている。中心線X方向から見たとき、先端側面10cは、直線A上で当該直線Aに沿って径方向に延びている。第1延在部10の先端側面10cが形成された部分の厚みは、径方向外側から内側まで略同じになっている。
【0036】
第2延在部20の一側面20aは、第1延在部10の一側面10aに対し、直線Aを挟んで反対側に位置しており、直線Aと平行に延びる平坦面で構成されている。第2延在部20の他側面は、第1延在部10の他側面に対し、直線Aを挟んで反対側に位置しており、径方向先端側へ行くほど一側面20aに近づくように傾斜して延びる傾斜面20bと、この傾斜面20bの径方向先端に連続する先端側面20cとを有している。中心線X方向から見たとき、傾斜面20bの径方向先端は、直線A上に位置している。したがって、第2延在部20の厚みも、第1延在部10の厚みと同様に、先端側へ行くほど薄くなっている。中心線X方向から見たとき、先端側面20cは、直線A上で当該直線Aに沿って径方向に延びている。第2延在部20の先端側面20cが形成された部分の厚みは、径方向外側から内側まで略同じになっている。
【0037】
第1刃11は、第1延在部10の先端側面10cに対して固定されている。第2刃21は、第2延在部20の先端側面20cに対して固定されている。第1刃11及び第2刃21の固定方法、固定構造は特に限定されるものではないが、例えばろう付けや溶接、ねじ等による締結固定等の方法、構造を挙げることができる。
図1、
図2ではろう付けの場合を示しており、符号12、22は、それぞれ、第1刃11と第1延在部10との間に介在しているろう材の固化した部分、第2刃21と第2延在部20との間に介在しているろう材の固化した部分である。
【0038】
第1刃11は、被加工物に予め形成されている穴の内周面を切削するための刃先11aを有している。この刃先11aが第1延在部10の径方向先端部から径方向外方へ突出するように、第1刃11が第1延在部10に固定されている。同様に、第2刃21も刃先21aを有しており、この刃先21aが第2延在部20の径方向先端部から径方向外方へ突出するように、第2刃21が第2延在部20に固定されている。
【0039】
図3は、第1刃11を拡大して示したものである。直線Bは、中心線Xと平行で、かつ、第1刃11の刃先11aにおける回転切削工具1の先端側の端部(先端部)を通る直線である。第1刃11の刃先11aは、回転中心線方向に延びるとともに、回転切削工具1の送り方向(回転切削工具1の先端側)と反対側(回転切削工具1の基端側)へ行くほど径方向内方に位置するように傾斜している。刃先11aの傾斜度は、例えば0.1/100~1.0/100程度に設定することができる。これにより、切削時には、第1刃11の刃先11aの先端部が主に穴の内周面に接触することになり、この先端部が穴の内周面を主に切削することになる。そして、刃先11aが送り方向反対側へ行くほど径方向内方に位置するように傾斜しているので、刃先11aにおける送り方向と反対側は穴の内周面に接触し難くなる。これにより、刃先11aにおける送り方向と反対側を穴の内周面から逃がすことができ、加工精度を向上させることができる。第2刃21の刃先21aも同様に形成されており、回転中心線方向に延びるとともに、回転切削工具1の送り方向と反対側へ行くほど径方向内方に位置するように傾斜している。
【0040】
また、
図1に示すように、第1刃11の刃先11aと第2刃21の刃先21aとの離間寸法Cは150mm以上に設定されている。すなわち、
図2に示すように、回転中心線X方向に沿って見たとき、第1刃11の刃先11aと第2刃21の刃先21aとを結ぶ直線は直線Aとなる。従って、第1刃11の刃先11aと第2刃21の刃先21aとを結ぶ直線が回転中心線Xを通るように、第1刃11及び第2刃21が配置されている。そして、直線A上における第1刃11の刃先11aの先端部が位置する点と、第2刃21の刃先21aの先端部が位置する点との距離が、離間寸法Cに相当する。離間寸法Cにより、穴の仕上がり内径が決定される。
【0041】
図1に示すように、回転軸部2の先端部には、回転切削工具1の送り方向へ突出する第1先端側刃保持部30が設けられている。第1先端側刃保持部30は、第1延在部10の径方向の寸法、及び第2延在部20の径方向の寸法よりも短い外径を有する柱状に形成されている。
図2に示すように、第1先端側刃保持部30の外周面には、4つの第1凹面部30a、30b、30c、30dが形成されている。第1先端側刃保持部30の第1凹面部30c、30dには、それぞれ第3刃31及び第4刃32が固定されている。第3刃31及び第4刃32の刃先が第1先端側刃保持部30の外周面から径方向に突出するように、第3刃31及び第4刃32が配置されている。
【0042】
また、第1先端側刃保持部30の先端部には、回転切削工具1の送り方向へ突出する第2先端側刃保持部40が設けられている。第2先端側刃保持部40は、第1先端側刃保持部30の径方向の寸法よりも短い外径を有する柱状に形成されている。
図2に示すように、第2先端側刃保持部40の外周面には、4つの第2凹面部40a、40b、40c、40dが形成されている。第2先端側刃保持部40の第2凹面部40c、40dには、それぞれ第5刃41及び第6刃42が固定されている。第5刃41及び第6刃42の刃先が第2先端側刃保持部40の外周面から径方向に突出するように、第5刃41及び第6刃42が配置されている。
【0043】
第1刃11の刃先11aと第2刃21の刃先21aとの離間寸法と、第3刃31の刃先と第4刃32の刃先との離間寸法と、第5刃41の刃先と第6刃42の刃先との離間寸法とを比較した際、第5刃41の刃先と第6刃42の刃先との離間寸法が最も短くなり、第1刃11の刃先11aと第2刃21の刃先21aとの離間寸法が最も長くなる。
【0044】
第1刃11及び第2刃21により、直径が150mm以上の穴の内周面を加工することができる。第3刃31及び第4刃32により、直径が例えば60mm程度の小径の穴の内周面を加工することができる。第5刃41及び第6刃42により、さらに小径の穴の内周面を加工することができる。したがって、1つの回転切削工具1により、3種類の穴の内周面を加工することができる。
【0045】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態に係る回転切削工具1によれば、切削用の刃11、21が取り付けられる部分が第1延在部10及び第2延在部20であるため、回転切削工具1における第1延在部10及び第2延在部20が突出する部分の径方向の寸法を例えば150mm以上にして大径の穴の内周面をリーマ工法によって加工可能にする場合に、回転切削工具1における第1延在部10及び第2延在部20が突出しない部分の寸法を大幅に短くすることができる。
【0046】
したがって、
図11に仮想線で示すように、回転切削工具1をマシニングセンターの自動工具交換装置100の保持部101に保持させる際に、回転切削工具1における径方向の最も長い部分が搬送方向に向くように配置することで、カバー103と回転切削工具1との干渉を回避することができる。このため、マシニングセンターの自動工具交換装置100に回転切削工具1を保持させる際、直径が約150mmの工具占有空間を移動軌跡の全体に亘って確保する必要はなく、第1延在部10及び第2延在部20の延在方向にのみ150mm以上の工具占有空間を確保できればよいので、小型のマシニングセンターで対応が可能になる。
【0047】
そして、切削加工時には、第1延在部10及び第2延在部20にそれぞれ第1刃11及び第2刃21が固定されているので、この回転切削工具1を用いることでリーマ工法による高精度な穴加工が可能になり、例えば、真円度が0.03mm以下、面粗度0.1a以下の加工を行うことができる。このとき、第1刃11の刃先11aと第2刃21の刃先21aとの離間寸法Cが150mm以上であるため、直径が150mm以上の大径の穴の高精度加工を行うことができる。
【0048】
尚、第1刃11の刃先11aと第2刃21の刃先21aとの離間寸法は、200mm以上であってもよく、第1延在部10及び第2延在部20の径方向の寸法によって任意に設定することが可能である。
【0049】
(実施形態2)
図4~
図6は、本発明の実施形態2に係る回転切削工具1を示すものである。実施形態2では、刃先位置調整機構を備えている点で実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0050】
すなわち、実施形態2に係る回転切削工具1は、第1刃11の刃先11aを回転中心線Xの径方向に変位させる刃先位置調整機構及び第2刃21の刃先21aを回転中心線Xの径方向に変位させる刃先位置調整機構を備えている。
図4、5では、第1刃11の刃先11aを変位させる刃先位置調整機構のみ示し、第2刃21の刃先21aを変位させる刃先位置調整機構は省略しているが、第2刃21の刃先21aを変位させる刃先位置調整機構と第1刃11の刃先11aを変位させる刃先位置調整機構とは同様に構成することができる。
【0051】
刃先位置調整機構は、第1延在部10に形成された溝13と、ねじ孔14と、ねじ15とで構成されている。第1延在部10は、第1刃10が取り付けられた刃取付部10Aと、当該刃取付部10Aよりも回転軸部2寄りの基部側部10Bとを備えている。溝13は、第1延在部10の刃取付部10Aと基部側部10Bとの間に形成されており、回転軸部2の接線方向に延びている。溝13は、第1延在部10における送り方向先端側の面に開口している。溝13の幅は、回転軸部2の径方向の寸法であり、例えば0.5mm~1.0mm程度の所定の寸法に設定されている。溝13は、第1延在部10の一側面10aから先端側面10cに達するまで延びており、一側面10aにおいて開放されるとともに、先端側面10cにおいても開放されている。溝13の長さは、一側面10aと先端側面10cとの離間寸法と同じである。溝13の深さは、第1延在部10における中心線X方向の寸法の1/2以上に設定することができる。
【0052】
ねじ孔14は、刃取付部10Aに形成されており、中心線Xの径方向に延びている。
図6に示すように、ねじ孔14の一端は、刃取付部10Aにおける中心線Xの径方向外方の面に開口している。また、ねじ孔14の他端は、刃取付部10Aにおける中心線Xの径方向内方の面、即ち、溝13の刃取付部10A側の側面13aに開口している。従って、ねじ孔14の他端は、溝13の内部に連通することになる。
【0053】
ねじ15は、ねじ孔14に螺合するようになっている。ねじ15の頭部には、図示しない締結用工具(六角レンチ等)が差し込まれて係合する工具係合孔15a(
図6に示す)が形成されている。ねじ15の頭部は、刃取付部10Aにおける中心線Xの径方向外方に向いており、ねじ孔14に締結用工具を差し込むことでねじ15の工具係合孔15aに係合させることができるようになっている。ねじ15を締め込むことにより、ねじ15の先端部が溝13における刃取付部10Aと反対側の側面13bに当接するようになっている。このとき、ねじ15の頭部がねじ孔14から突出しないように、ねじ15の寸法が設定されている。
【0054】
この実施形態2によれば、実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。さらに、ねじ15をねじ孔14に螺合させて締結用工具により締め込んでいくと、ねじ15の先端部が溝13の側面13bに当接し、この側面13bを押圧する。そのときの反力によって刃取付部10Aが径方向外方へ変位し、これにより、第1刃11が径方向外方へ変位することになる。すなわち、ねじ15の締め込み量によって簡単にかつほぼ無段階に第1刃11の刃先11aの位置を微調整できる。第2刃21の刃先21aも同様に微調整できる。
【0055】
(実施形態3)
図7及び
図8は、本発明の実施形態3に係る回転切削工具1を示すものである。実施形態3では、先端側刃保持部が1つだけ設けられている点で実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0056】
すなわち、実施形態3では、回転軸部2の先端部に、回転切削工具1の送り方向へ突出する先端側刃保持部50が設けられている。先端側刃保持部50は、第1延在部10の径方向の寸法、及び第2延在部20の径方向の寸法よりも短い外径を有する柱状に形成されている。
図8に示すように、先端側刃保持部50の外周面には、2つの凹面部50a、50bが形成されている。先端側刃保持部50の凹面部50a、50bには、それぞれ第3刃51及び第4刃52が固定されている。第3刃51及び第4刃52の刃先が先端側刃保持部50の外周面から径方向に突出するように、第3刃51及び第4刃52が配置されている。
【0057】
この実施形態3によれば、実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。
【0058】
(実施形態4)
図9及び
図10は、本発明の実施形態4に係る回転切削工具1を示すものである。実施形態4では、先端側刃保持部を備えていない点と、第1刃及び第2刃の刃先がそれぞれ階段状に形成されている点とで実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0059】
すなわち、実施形態4では、回転軸部2の先端部に先端側刃保持部が設けられておらず、刃は第1刃11及び第2刃21のみである。第1刃11は、中心線X方向の先端側に位置する先端側刃先11aと、中間部に位置する中間刃先11bと、基端側に位置する基端側刃先11cとを備えている。先端側刃先11aが最も径方向内方に位置しており、基端側刃先11cが最も径方向外方に位置している。
【0060】
また、第2刃21も第1刃11と同様に構成されており、中心線X方向の先端側に位置する先端側刃先21aと、中間部に位置する中間刃先21bと、基端側に位置する基端側刃先21cとを備えている。先端側刃先21aが最も径方向内方に位置しており、基端側刃先21cが最も径方向外方に位置している。
【0061】
第1刃11の先端側刃先11aと、第2刃21と先端側刃先21aとによって穴加工を行うことができ、また、第1刃11の中間刃先11bと、第2刃21と中間刃先21bとによって穴加工を行うことができ、さらに、第1刃11の基端側刃先11cと、第2刃21と基端側刃先21cとによって穴加工を行うことができる。
【0062】
この実施形態4によれば、実施形態1と同様な作用効果を奏することができるとともに、第1刃11及び第2刃21によって3種類の穴加工を行うことができる。
【0063】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明に係る回転切削工具は、例えばエンジンブロックや電気自動車用モーターハウジング等の大型被加工物の穴加工を行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
1 回転切削工具
2 回転軸部
10 第1延在部
11 第1刃
11a 刃先
13 溝
14 ねじ孔
15 ねじ
20 第2延在部
21 第2刃
21a 刃先
31 第3刃
32 第4刃