IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧

<>
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図1
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図2
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図3
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図4
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図5
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図6
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図7
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図8
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図9
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図10
  • 特許-医療用チューブの接続装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】医療用チューブの接続装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/06 20130101AFI20220517BHJP
   A61M 1/14 20060101ALI20220517BHJP
   A61M 39/10 20060101ALI20220517BHJP
   F16L 37/098 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
A61F2/06
A61M1/14
A61M39/10 110
F16L37/098
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019513614
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2018015586
(87)【国際公開番号】W WO2018193996
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2017081009
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】三木 則尚
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 藍
(72)【発明者】
【氏名】大田 能士
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-076649(JP,A)
【文献】特開2004-089361(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0204275(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06
A61M 1/14 、39/10
F16L 37/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り返した状態の第1の医療用チューブ(3)の端部を保持する第1の固定管(5)と,
第1の固定管(5)を収容する第1のケース(7)と,
を有する第1の要素(9)であって,第1の医療用チューブ(3)の折り返された部分は,第1のケース(7)の内周と第1の固定管(5)の外周との間に位置することとなるものと,
折り返した状態の第2の医療用チューブ(13)の端部を保持する第2の固定管(15)と,
第2の固定管(15)を収容する第2のケース(17)と,
を有する第2の要素(19)であって,第2の医療用チューブ(13)の折り返された部分は,第2のケース(17)の内周と第2の固定管(15)の外周との間に位置することとなるものと,
を含み,
第1の要素(9)と第2の要素(19)が組み合わされた状態では,第1の固定管(5)と第2の固定管(15)が,第1の医療用チューブ(3)の端部と第2の医療用チューブ(13)の端部が結合する方向に第1の医療用チューブ(3)と第2の医療用チューブ(13)を押すことで,第1の医療用チューブ(3)と第2の医療用チューブ(13)とが結合する,
医療用チューブの接続装置。
【請求項2】
請求項1に記載の接続装置であって,
第1の医療用チューブ(3)及び第2の医療用チューブ(13)は,人工血管である,接続装置。
【請求項3】
請求項2に記載の接続装置であって,
第1の要素(9)と第2の要素(19)が組み合わされた状態にあるときに,
第1のケース(7)及び第2のケース(17)の内周と,第1の固定管(5)及び第2の固定管(15)の外周の間に位置する医療用チューブ安定管(24)をさらに有する,
接続装置。
【請求項4】
請求項3に記載の接続装置であって,
第1の要素(9)と第2の要素(19)が組み合わされた状態で第1の医療用チューブ(3)及び第2の医療用チューブ(13)が接触する部分の少なくとも一部は,イオン衝撃により改質されている,接続装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用チューブの接続装置に関する。より詳しく説明すると,本発明は,使用時に流液が医療用チューブ以外と接触しない医療用チューブの接続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば,インプラント型の人工透析装置といった医療機器を使用する際や交換する際に,人工血管同士を接続する必要が生ずる。そのような場合,通常,接続しようとする2つの人工血管の先端にそれぞれ設けられた血管接続装置(コネクタ,管接手装置)を用いて,人工血管同士を接続する。
【0003】
例えば,特開2015-156935号公報には,管継手装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-156935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2015-156935号公報に代表される従来の管継手装置(血管接続装置)は,使用時に,人工血管以外の部分と患者の血液が接触する。すると,血液が凝固し,人工血管に狭窄を生ずるといった問題がある。また,血液の流路に段差や突起が多く存在すると,血液が凝固し,人工血管に狭窄を生ずるという問題がある。従来の血管接続装置は,人工血管同士を接続するための機構が複雑なので,装置が大きくなるという問題もある。
【0006】
そこで,本発明は,使用時に医療用チューブ以外の部分と流液が接触しない医療用チューブの接続装置を提供することを目的とする。また本発明は,医療用チューブ同士を接続する機構をシンプルなものとし,サイズが小さい医療用チューブの接続装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,2つの医療用チューブの端を折り返し,医療用チューブの折り返し部同士を両端から押すことができるようにした。このようにすることで,流液が流れる部分は,医療用チューブ内となり,医療用チューブ以外の部分と流液が接触しなくなる。さらに,医療用チューブ同士を接続した後も,原則として継ぎ目が1か所しかないので,全体を通して段差もなく,流路がスムーズとなる。このため,この医療用チューブの接続装置を用いれば,流液の流れを乱すことがなく,流液が凝固することによる医療用チューブの狭窄を解消できる。
【0008】
本発明の医療用チューブの接続装置は,大きく分けて2つの要素(部品)を有する。なお,この医療用チューブの接続装置は,さらに他の要素(部品)を有していてもよい。また,2つの要素自体,1つの要素からなっていてもよいし,2つ以上の部品を有していてもよい。部品とは,独立した部位や,取り外しできる部位を意味する。
【0009】
第1の要素9は,折り返した状態の第1の医療用チューブ3の端部を保持する第1の固定管5と,第1の固定管5を収容する第1のケース7とを有する。
第2の要素19は,折り返した状態の第2の医療用チューブ13の端部を保持する第2の固定管15と,第2の固定管15を収容する第2のケース17とを有する。第2のケース17内には第1のケース内7を挿入することができる。
そして,第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた状態では,第1の固定管5と第2の固定管15が,第1の医療用チューブ3の端部と第2の医療用チューブ13の端部が結合する方向に第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13を押すことで,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13とが結合する。
【0010】
第1の医療用チューブ3及び第2の医療用チューブ13の好ましい例は,人工血管である。
【0011】
上記の接続装置の好ましい例は,
第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた状態にあるときに,
第1のケース7及び第2のケース17の内周と,第1の固定管5及び第2の固定管15の外周の間に位置する医療用チューブ安定管24をさらに有するものである。
【0012】
上記の接続装置の好ましい例は,第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた状態で第1の医療用チューブ3及び第2の医療用チューブ13が接触する部分の少なくとも一部は,イオン注入により改質されているものである。
【0013】
医療用チューブの接続装置の使用方法の例は,以下のとおりである。この方法は,第1の要素9を準備する工程と,第2の要素19を準備する工程と,第1の要素9と第2の要素19とを結合させる工程とを含む。第1の要素9を準備する工程と,第2の要素19を準備する工程との順番はいずれが先であってもよい。第1の要素9は,第1の固定管5と,第1の固定管5を収容する第1のケース7とを有する。第2の要素19は,第2の固定管15と,第2の固定管15を収容する第2のケース17とを有する。第2のケース17内には第1のケース内7を挿入することができるものであってもよい。
【0014】
第1の要素9を準備する工程は,
第1のケース7に第1の医療用チューブ3を通す工程(S101)と,
第1の固定管5の内部を通し,第1の医療用チューブ3の端部がはみ出るように第1の医療用チューブ3を第1の固定管5に挿入する工程(S102)と,
第1の固定管5からはみ出た第1の医療用チューブ3の端部を,第1の固定管5の外周方向に折り返す工程(S103)とを有する。
【0015】
第2の要素19を準備する工程は,
第2のケース17に第2の医療用チューブ13を通す工程(S201)と,
第2の固定管15の内部を通し,第2の医療用チューブ13の端部がはみ出るように第2の医療用チューブ13を第2の固定管15に挿入する工程(S202)と,
第2の固定管15からはみ出た第2の医療用チューブ13の端部を,第2の固定管15の外周方向に折り返す工程(S203)を有する。
【0016】
第1の要素9と第2の要素19とを結合させる工程は,
第1の要素9と第2の要素19とを組み合わせ,
第1の固定管5と第2の固定管15が,第1の医療用チューブ3の端部と第2の医療用チューブ13の端部とが結合する方向に第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13を押すこととなり,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13とが結合される工程(S401)を有する。
【0017】
上記の医療用チューブの接続方法の好ましい例は,
第1の要素9と第2の要素19とを結合させる工程(S401)の前に,
医療用チューブ安定管24が,第1のケース7及び第2のケース17の内周と,第1の固定管5及び第2の固定管15の外周との間に位置するように,医療用チューブ安定管24内に第1の固定管5及び第2の固定管15を挿入する工程(S301)を,さらに有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は,使用時に医療用チューブ以外の部分と流液が接触しない医療用チューブの接続装置を提供できる。また本発明は,医療用チューブ同士を接続する機構をシンプルなものとし,サイズが小さい医療用チューブの接続装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は,本発明の接続装置の断面の例を示す概念図である。
図2図2は,本発明の接続装置の外観の例を示す概念図である。
図3図3は,第1の医療用チューブ3を折り返すための部材の例である。図3(a)は,突起部が円柱状のものを示し,図3(b)は,突起部が,上方に進むほどなだらかなカーブを有する形状のものを示す。
図4図4は,固定管の先端部分を示す概念図である。図4(a)に示されるものは,固定管の先端部が,医療用チューブを傷つけないように先端が丸くされているものである。図4(b)は,固定管の先端部が,使用時に医療用チューブ同士を均一に押すことができるように,先端に平らな部分を有するものである。図4(c)に示されるものは,固定管の先端部に,下方又は斜め下方に向けた(頂点が存在する)突起部を有するものである。
図5図5は,図1とは別の医療用チューブの接続装置を説明するための概念図である。
図6図6は,図1とは別の医療用チューブの接続装置を説明するための概念図である。
図7図7は,流量と水圧の関係を示す図面に替るグラフである。
図8図8は,1時間後の接続部を示す図面に替るSEM写真である。
図9図9は,24時間後の接続部を示す図面に替るSEM写真である。
図10図10は,48時間後の接続部を示す図面に替るSEM写真である。
図11図11は,48時間血液を流入した際の生体付着物を示す図面に替るSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0021】
図1は,本発明の医療用チューブの接続装置の断面の例を示す概念図である。図2は,医療用チューブの接続装置の部品の例を説明するための概念図である。図1に示されるように,本発明は,医療用チューブを接続するための装置に関する。特に本発明は,人工血管を接続するための人工血管接続装置(コネクタ)に関する。医療用チューブを接続するための接続装置は,2本の医療用チューブを接続するための医療機器である。医療用チューブの例は,人工血管,生体内に埋め込まれる体液循環用のチューブ,潅流用チューブ及び血管である。これらの中で好ましい医療用チューブの例は,人工血管である。
【0022】
本発明の医療用チューブの接続装置は,大きく分けて2つの要素(部品)を有する。なお,この医療用チューブの接続装置は,さらに他の要素(部品)を有していてもよい。また,2つの要素自体,1つの要素からなっていてもよいし,2つ以上の部品を有していてもよい。部品とは,独立した部位や,取り外しできる部位を意味する。
【0023】
第1の要素9は,折り返した状態の第1の医療用チューブ3の端部を保持する第1の固定管5と,第1の固定管5を収容する第1のケース7とを有する。第1の固定管5は第1のケース7に結合していてもよいし,第1の固定管5は第1のケース7と接触するものの取り外すことができるようにされてもよい。
第2の要素19は,折り返した状態の第2の医療用チューブ13の端部を保持する第2の固定管15と,第2の固定管15を収容する第2のケース17とを有する。第2のケース17は,第1のケース7よりも小径であり,第1のケース7内に挿入することができるものであってもよい。第2のケース17が,第1のケース7内に挿入されることで,これらが結合してもよい。また,例えば,これらが同径の場合,第1のケースの端部と第2のケースの端部とが結合するものであってもよい。そして,例えば,第2のケース17が第1のケース7内に挿入され,第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた状態では,第1の固定管5と第2の固定管15が,第1の医療用チューブ3の端部と第2の医療用チューブ13の端部が結合する方向に押すことで,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13とが結合する。
【0024】
第1の固定管5の例は,管状のもの(中が空いた円柱状のもの)である。第1の固定管5は,例えばその内部に医療用チューブを収容する。このため,第1の固定管5は,医療用チューブの外径と同じ又は医療用チューブの外径よりやや大きい(やや小さい)内径を有していればよい。第1の固定管5の内径をdST1,医療用チューブの外径をdAVとした場合,dST1の例は,0.9dAV以上1.1dAV以下であり,0.95dAV以上1.05dAV以下でもよく,1dAV以上1.1dAV以下でもよく,1dAV以上1.05dAV以下でもよい。
【0025】
第1の固定管5は,使用時に医療用チューブを支え,医療用チューブの接続部を加圧する。このため第1の固定管5は,ある程度の強度と剛性を有しているものが好ましい。第1の固定管5は,例えば金属製(例えば,鉄製,銅製,ステンレス製,アルミニウム製,又は合金製)であってもよい。第1の固定管5は,血液や血漿といった流液と接触しないので,素材の自由度が高い。第1の固定管5の厚さや長さは,用途に応じて適宜調整すればよい。第1の固定管5の厚さの例は0.5mm以上3mm以下である。
【0026】
第1の固定管5の一方の端部(開放端)は,上記の通り医療用チューブを保持し,装置の使用時には医療用チューブを加圧することとなる。第1の固定管5の他方の端部(固定端)は,第1のケース7の輪状の側壁に固定されてもよいし,第1のケース7の輪状の壁から反発力を受けるようにされることが好ましい。第1のケース7は,医療用チューブを通す穴の周囲に存在する輪状の側壁と,外周を構成する第1の筒状部27,突起部23を収容する穴部25を有する。第1のケース7の側壁の内面に第1の固定管5の固定端が接触する。第1の筒状部27の外径(直径)dT1の例は,4mm以上20mm以下であり,5mm以上12mm以下でもよく,6mm以上15mm以下でもよく,2mm以上5mm以下でもよく,10mm以上30mm以下でもよく,2mm以上30mm以下でもよい。この接続装置は,機構がシンプルなので,装置の大きさを小さくできる。
【0027】
第1の固定管5は,折り返した状態の第1の医療用チューブ3の端部を保持する。図1に示されるように,第1の医療用チューブ3の端部は,第1の固定管5からはみだし,そのはみ出した部分が,第1の固定管5に沿って折り畳まれ,第1の固定管5の外周に沿って,第1の固定管5の途中部分まで折り返される。図3は,第1の医療用チューブ3を折り返すための部材の例である。この折り返し装置は,ステージ31と,このステージ31上に(例えばステージ中央に)設けられた突起部33とを有する。図3(a)は,突起部33が円柱状のものを示し,図3(b)は,突起部33が,ステージ31側に近づくほど大径となるようになだらかなカーブを有する形状のものである。第1の固定管5からはみだした第1の医療用チューブ3内に,突起部33が挿入されるように折り返し装置を押し当てることで,第1の医療用チューブ3の第1の固定管5からはみだした部分が,第1の固定管5に沿って折り畳まれ,さらに第1の固定管5の外周に沿って,第1の固定管5の途中部分まで折り返されることとなる。本発明は,上記した医療用チューブの接続装置と,折り返し装置とを有する医療用チューブの接続キットをも提供する。
【0028】
図4は,固定管の先端部分を示す概念図である。図4(a)に示されるものは,固定管の先端部(少なくとも医療用チューブを保持するための開放端)が,医療用チューブを傷つけないように先端が丸くされているものである。図4(b)は,固定管の先端部が,使用時に医療用チューブ同士を均一に押すことができるように,先端に平らな部分を有するものである。この場合であっても,固定管の角の部分は,面取りがなされていてもよい。図4(c)に示されるものは,固定管の先端部に,下方又は斜め下方に向けた(頂点が存在する)突起部を有するものである。医療用チューブ同士を接続した場合,接続部分に凹みが生ずることがある。図4(c)に示す端部は,その凹みを打ち消すためのものである。図4(c)は誇張して描いたもので,突起部の高さはわずかであってもよいし,大きな突起部が固定管の先端に存在してもよい。
【0029】
第2の固定管15も第1の固定管5と同様である。
【0030】
第1のケース7は,外側部分に相当する第1筒状部27を有していてもよい。さらに,第1のケース7は,第1筒状部27を切り欠いた穴部25が存在してもよい。この穴部25は,第2のケース17に突起部23が存在する場合,その突起部の形状に対応したものであってもよい。第1の固定管5は,第1筒状部27の同心円(中心が同じ円)となるように設計されてもよい。第1のケース7の側面のうち第2のケース17と合わさらない面は輪状の形状をしていてもよい。この面の中心には,医療用チューブが通ることとなる。第1の固定管5は,第1筒状部27よりも長さが短いものが好ましい。
【0031】
第1のケース7及び第2のケース17の素材の例は樹脂製である。なお,第1のケースは血液といった流液と接触しないので,素材の自由度は高い。
【0032】
第2のケース17は,第2の固定管15を収容する。第2のケース17は,突起部23を有する筒状部21と,筒状部の先に存在し,医療用チューブを通す穴の開いた輪状の輪状部を有する。突起部23は,例えば,第2のケース17の外部から押すと,下方へ下がり,押す力を弱めると,元の位置に戻るようにされている。第2のケース17の筒状部21の外周は,第1のケース7の内周に収まるようにされている。つまり,第2のケース17の筒状部21の外周の径は,第1のケース7の筒状部27の内周の径と同じか,それよりやや(例えば,0.01mm以上1mm以下,0.01mm以上0.5mm以下,0.05mm以上0.3mm以下)小さい。このような大きさとすることで,第2のケース17が,第1のケース7に収まって,第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた状態では,第1の固定管5と第2の固定管15が,第1の医療用チューブ3の端部と第2の医療用チューブ13の端部が結合する方向に第1の医療用チューブ3の端部と第2の医療用チューブ13を押すことで,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13とが結合する。
【0033】
上記の接続装置の好ましい例は,第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた時に,第1のケース7及び第2のケース17の内周と,第1の固定管5及び第2の固定管15の外周の間に位置する医療用チューブ安定管24をさらに有するものである。医療用チューブ安定管24の内径は,第1の固定管5及び第2の固定管15の外径より大きく,第2のケース17の内径よりも小さいことが好ましい。医療用チューブ安定管24の長さは,第1の固定管5及び第2の固定管15それぞれの長さよりも長いものが好ましく,第1の固定管5及び第2の固定管15を合わせた長さと同等かやや(例えば,0.1mm以上5mm以下,0.5mm以上3mm以下,1mm以上2mm以下)小さいことが好ましい。この医療用チューブ安定管24は,折り返された医療用チューブ3,13が,装置内でずれてしまう事態を防止する。つまり,医療用チューブ安定管24は,折り返された医療用チューブ3,13を安定にするために用いられる。このため,医療用チューブ安定管24の内径は,第1の固定管5及び第2の固定管15の外径より,医療用チューブの厚み分又は厚み分よりやや(例えば,0.01mm以上1mm以下,0.01mm以上0.5mm以下,0.05mm以上0.3mm以下)大きくなることが好ましい。
【0034】
第2の要素19は,折り返した状態の第2の医療用チューブ13の端部を保持する第2の固定管15と,第2の固定管5を収容する第2のケース17とを含む。第2の固定管15は第1の固定管5と同様のものである。第2の固定管15の開放端は,医療用チューブと接する。第2の固定管15の固定端は,第2のケース17の内周に固定される。
【0035】
第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた状態では,第1のケース1及び第2のケース17が,それぞれ第1の固定管5と第2の固定管15をそれぞれ互いに近づく方向に付勢する。その結果,第1の固定管5と第2の固定管15が,第1の医療用チューブ3の端部と第2の医療用チューブ13の端部を,これらが結合する方向(内側の方向)に押すことで,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13とが結合することとなる。
【0036】
この接続装置は,スナップフィット構造となっているものが好ましい。つまり,2つの要素(部品)を合わせると,一方についているボタンが,残りの穴部にフィットし,これにより2つの要素が固定される。そして,内部の固定管同士がそれぞれ内側に力を加える。そして,ボタンを押すと,2つの要素が解放される。具体的に説明すると,第2のケース17は,第2の筒状部21と,平常時は第2の筒状部より外側に出た突起部23であって,外部から力を加えることで第2の筒状部より内部に移動する突起部を有する。一方,第1のケース7は,第2の筒状部21の一部を収容するとともに,第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた状態では突起部23を収容する穴部25を有する第1の筒状部27を有する。このため,第2のケース17の突起部23を押し下げた状態で,第2のケース17を第1のケース7の内部に挿入し,第2のケース17をスライドさせて,その突起部23を第1のケース7の穴部25に嵌め込むことができる。
【0037】
この接続装置は,第1の要素9と第2の要素19が組み合わされた状態で第1の医療用チューブ3及び第2の医療用チューブ13が接触する部分の少なくとも一部は,イオン注入により改質されているものであってもよい。この場合,本発明は,先に説明した接続装置と,2つの医療用チューブとを含む医療機器を提供するものであってもよい。たとえば,医療用チューブがePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)で製造される場合,イオン衝撃により改質することで,ePTFE部分が接着性を有することとなる(例えば,特許第4445697号,特許第5505752号)。このため,医療用チューブの接触する部分を改質することで,医療用チューブをより強固に接続できることとなる。
【0038】
なお,上記においては,第1の固定管5と第1のケース7とが別の部品であり,第2の固定管15と第2のケース17とが別の部品であるものについて説明した。しかし,第1の固定管5と第1のケース7とが一体のもの(第1の固定管5が第1のケース7に固定されているもの)であり,第2の固定管15と第2のケース17とが一体のもの(第2の固定管15が第2のケース17に固定されているもの)であってもよい。
【0039】
医療用チューブの接続装置の使用方法の例は,以下のとおりである。この工程は,第1の要素9を準備する工程と,第2の要素19を準備する工程と,第1の要素9と第2の要素19とを結合させる工程とを含む。第1の要素9を準備する工程と,第2の要素19を準備する工程との順番はいずれが先であってもよい。第1の要素9は,第1の固定管5と,第1の固定管5を収容する第1のケース7とを有する。第2の要素19は,第2の固定管15と,第2の固定管15を収容する第2のケース17とを有する。
【0040】
第1の要素9を準備する工程は,
第1のケース7に第1の医療用チューブ3を通す工程(S101)と,
第1の固定管5の内部を通し,第1の医療用チューブ3の端部がはみ出るように第1の医療用チューブ3を第1の固定管5に挿入する工程(S102)と,
第1の固定管5からはみ出た第1の医療用チューブ3の端部を,第1の固定管5の外周方向に折り返す工程(S103)とを有する。なお,Sはステップ(工程)を意味する。
【0041】
第1のケース7に第1の医療用チューブ3を通す工程(S101)
第1のケース7に第1の医療用チューブ3を通す工程について説明する。第1のケース7の輪状の壁(図2の左側部分)には,穴が開いている。第1の医療用チューブ3を,その穴に通し,第1のケース7の端部分(図2では右側)よりも,先まで導く。
【0042】
第1の固定管5の内部を通し,第1の医療用チューブ3の端部がはみ出るように第1の医療用チューブ3を第1の固定管5に挿入する工程(S102)
この工程では,S101で第1のケース7を通した第1の医療用チューブ3を第1の固定管5に挿入する。つまり,第1の医療用チューブ3が第1の固定管5の内側となるような状態で,第1の医療用チューブ3を第1の固定管5の端部より先まで導く。すると,第1の医療用チューブ3の端部が第1の固定管5の端部よりはみ出た状態となる。
【0043】
第1の固定管5からはみ出た第1の医療用チューブの端部を,第1の固定管5の外周方向に折り返す工程(S103)
この工程では,S102で第1の固定管5からはみ出た第1の医療用チューブの端部を,第1の固定管5の外周方向に折り返す。この場合,第1の固定管5の内周を経て,はみ出した部分が,第1の固定管5の端部を経て,第1の固定管5の外周にそって折り返されることとなる。この工程は,例えば先に説明した折り返し装置を用いてもよいし,手動にて行ってもよい。
【0044】
第2の要素19を準備する工程は,
第2のケース17に第2の医療用チューブ13を通す工程(S201)と,
第2の固定管15の内部を通し,第2の医療用チューブ13の端部がはみ出るように第2の医療用チューブ13を第2の固定管15に挿入する工程(S202)と,
第2の固定管15からはみ出た第2の医療用チューブ13の端部を,第2の固定管15の外周方向に折り返す工程(S203)を有する。これらの工程は,S101~S103と同様である。
【0045】
次に,医療用チューブ安定管24が,第1のケース7及び第2のケース17の内周と,第1の固定管5及び第2の固定管15の外周との間に位置するように,医療用チューブ安定管24内に第1の固定管5及び第2の固定管15を挿入(S301)してもよい。
この場合,S103及びS203で折り返された医療用チューブが,第1のケース7及び第2のケース17の内周と,第1の固定管5及び第2の固定管15の外周との間に位置することとなる。これにより,S103及びS203で折り返された医療用チューブの部分の変動が妨げられ,医療用チューブが安定な状態となる。
【0046】
第1の要素9と第2の要素19とを結合させる工程は,
第1の要素9と第2の要素19とを結合させ,第1の固定管5と第2の固定管15が,第1の医療用チューブ3の端部と第2の医療用チューブ13の端部とが結合する方向に第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13を押すこととなり,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13とが結合される工程(S401)を有する。
【0047】
この際,第1の筒状部27内部に第2の筒状部21の端部を挿入する。第2のケース17の突起部23はテーパーが設けられている。第2の筒状部21を第1の筒状部27に挿入して行くと,突起部23が第1の筒状部27により押し下げられる。一方,さらに第2の筒状部21を第1の筒状部27に挿入すると,突起部23が穴部25に到達し,突起部が通常の状態に戻る。すると,突起部23が穴部25においてストッパーの役割を果たす。このようにして,第1の要素9と第2の要素19とが結合する。
例えば第1のケース7及び第2のケース17は樹脂といった弾力性のある素材で形成されている。すると,第1の要素9と第2の要素19とが結合した際には,第1の固定管5と第2の固定管15が,第1のケース7及び第2のケース17によって互いに近づく方向に付勢され,その結果,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13を,これらの端部が結合する方向に押すことにより,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13とが結合することとなる。
【0048】
図5は,図1とは別の医療用チューブの接続装置を説明するための概念図である。図5は,医療用チューブの断面を部分的に抽出したものである。図5(a)に示される医療用チューブの接続装置は,固定管とケースの平らな輪状の壁との間に輪状の弾性部材を有するものである。図5(a)に示される例では,第1の固定管5と,第1のケース7の平らな輪状の壁部分との間に,輪状の第1の弾性部材41を有し,第2の固定管15と,第2のケース17の平らな輪状の壁部分との間に,輪状の第2の弾性部材43を有する。この例では,弾性部材によって第1の固定管5と第2の固定管15が強く付勢され,結果として,第1の固定管5と第2の固定管15が,第1の医療用チューブ3の端部と第2の医療用チューブ13の端部を結合する方向に押す力が強まり,第1の医療用チューブ3と第2の医療用チューブ13とが結合することとなる。弾性部材の例は,板バネ,Oリング,ゴムである。図5(b)に示される例では,固定管と一体となった弾性部材を有するものである。第1の固定管5が第1の固定管5と一体となった第1の弾性部材41を有し,第2の固定管15が第2の固定管15と一体となった第2の弾性部材43を有する。この例では,固定管とバネとがシームレスで製造されているので,部品の数も多くならず,しかも医療用チューブに不要な凹凸を生じさせなくて済む。
【0049】
図6は,図1とは別の医療用チューブの接続装置を説明するための概念図である。この例では,固定管の外周に沿って,折り返された医療用チューブが,例えば,第2のケース17の内周により安定化されるため,医療用チューブ安定管24を必要としないものの例である。
【0050】
本発明の医療用チューブの接続装置は,例えば,人工透析器の人工血管同士を接続するための装置として使用できる。また,本発明の医療用チューブの接続装置は,人工すい臓や人工腎臓といった,人工臓器と医療機器とを接続するための医療機器としても利用することができる。この場合,本発明の医療用チューブの接続装置は,インプラント型(体内埋め込み型)の医療用チューブの接続装置であってもよい。この装置は,臓器近くではなく,体表近くに存在させることができ,比較的容易に医療用チューブを接続し,新たな医療用チューブと接続しなおすことができる。
【実施例1】
【0051】
今回発明した血管接続機構について,内部圧力とコネクト部の漏れの定量的な検証と,血管接続機構内の血栓生成の検証をした.
このコネクタの検証には、素材としてゴアテックスePTFEグラフト(リムーバブルリング付きシンウォール)(W. L. Gore & Associates, Inc.)を用いた.内径は6mm.ePTFEグラフトは繊維状の構造で出来ており,繊維の中に空気層を保つことによって耐内部圧(最大290 mmHg)を維持し,血漿の漏出を防ぐ. この医療用チューブの耐水圧が290 mmHgまでであり, それ以上の内部水圧をかけると空気層が壊れ,液体が医療用チューブから染み出す構造になっている.
【0052】
内部圧力とコネクト部の漏れについて
ヒトの血圧正常値は上が120mmHg,下の血圧が80mmHgほどであるため,200mmHgの耐水圧に耐えることができればコネクタとしての機能は保たれると考えられる。そこで,医療用チューブの性能に影響を与えない範囲である130~200mmHgまでの水圧によるコネクタからの漏れの有無を確かめた。図7に流量と水圧のグラフを示す.縦軸は水圧を示し,横軸は流量を示す。
【0053】
130~200mmHgの水圧では漏れは確認できなかった。その後,290mmHgの時点で医療用チューブ自体からの漏れが確認されたが,290mmHg間でコネクタ自体からの液体の漏れは確認されなかった。よって,人体内で使用するコネクタとしての機能は十分に持っていると考えられる。
【0054】
血栓生成の評価
医療用チューブ内部の凝固成分をJIS T 0993「医療機器の生物学的評価」の「血液適合性試験」血栓生成の項目に基づき,走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察によって定性的評価を行った。コネクタを接続した医療用チューブにヒト全血(コージンバイオ)を1,24,48時間流入したときのコネクタ接続部のSEM画像を図8~10に示す。枠で囲った部分は凝固成分の一部である。長時間血液を流入させるほど接続部に凝固成分が蓄積しているのが確認できる。また,図11に示すように48時間血液を流入させた際,繋ぎ目以外の箇所にも多くの血液凝固成分が確認された。今回使用した医療用チューブ,ゴアテックスePTFEグラフトでは,初期に血栓膜を生成し,その上に血管内皮細胞を定着させ,生体膜を医療用チューブ内に作ることによって長期間安定に使用できる仕組みになっている。このことから医療用チューブ内側表面に血栓膜生成の前兆である血液凝固成分の付着は長期間使用のための有効な兆しであるといえる。また,さらに血液流入時間を増やした際に,現在の血液凝固成分の付着が成長し,コネクタ継ぎ目部を埋める形で生体膜が生成されることができれば,このコネクタは長期的な血液流入にも機能することができると考えられる(円の部分は,付着物が顕著な箇所を指す)。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は,医療機器産業において利用されうる。
【符号の説明】
【0056】
3 第1の医療用チューブ
5 第1の固定管
7 第1のケース
9 第1の要素
13 第2の医療用チューブ
15 第2の固定管
17 第2のケース
19 第2の要素
21 第2の筒状部
23 突起部
25 穴部
27 第1の筒状部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11