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特許7074382アルミニウムの梨地処理液及びアルミニウムの梨地処理方法
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  • 特許-アルミニウムの梨地処理液及びアルミニウムの梨地処理方法 図1
  • 特許-アルミニウムの梨地処理液及びアルミニウムの梨地処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】アルミニウムの梨地処理液及びアルミニウムの梨地処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/36 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
C23F1/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021087019
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2021-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻本 貴光
(72)【発明者】
【氏名】原 健二
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特公昭57-022994(JP,B2)
【文献】国際公開第2020/095191(WO,A1)
【文献】特表平6-504090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F1/00-4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルミニウム塩、
(B)アルカリ金属塩、及び、
(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコール
を含有
前記アルミニウム塩の含有量は、10g/L以上であり、
前記アルカリ金属塩の含有量は、60~600g/Lであり、
前記糖アルコールの含有量は、100g/L以上である、
ことを特徴とするアルミニウムの梨地処理液。
【請求項2】
前記アルミニウム塩は、アルミン酸ソーダ、ケイ酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、及び、アルミニウムミョウバンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の梨地処理液。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属炭酸水素塩並びにそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の梨地処理液。
【請求項4】
アルミニウムの梨地処理方法であって、
(1)(A)アルミニウム塩、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコールを混合して、梨地処理液を調製する工程1、及び、
(2)アルミニウムを前記梨地処理液に浸漬する工程2
を有し、
前記工程1における梨地処理液中の、前記アルミニウム塩の含有量は、10g/L以上であり、前記アルカリ金属塩の含有量は、60~600g/Lであり、前記糖アルコールの含有量は、100g/L以上である、
ことを特徴とする、梨地処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの梨地処理液及びアルミニウムの梨地処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム(アルミニウム合金を含む。以下「アルミニウム等」とも示す。)が加工されて様々な物品が製造されている。アルミニウム等は、加工の際に目的に応じて様々な表面処理が施されている。
【0003】
アルミニウムの表面処理を行う表面処理液として、アルカリ、亜鉛イオン源、キレート剤及び金属塩を含有する表面処理液が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の表面処理液は、アルミニウム材の樹脂に対する接合性を向上させるための表面処理液であるため、処理後のアルミニウム材の外観については検討されていない。
【0005】
アルミニウム等は、製造される物品に応じて表面に様々な外観が要求されている。このような外観としては、梨地の外観が挙げられる。特許文献1に記載の表面処理剤では、アルミニウム等の表面に梨地の外観を形成することができないという問題がある。
【0006】
また、フッ化水素酸等のハロゲン含有化合物を含有する表面処理液に浸漬を行い、アルミニウム等に梨地処理を施す表面処理が行われている。しかしながら、当該方法ではハロゲン含有化合物を含有する表面処理液を用いるため、人体に悪影響があり、環境にも負荷がかかるという問題がある。
【0007】
従って、アルミニウムの表面に梨地の外観を形成することができる梨地処理液及び梨地処理方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-70185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルミニウムの表面に梨地の外観を付与することができる梨地処理液及び梨地処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、(A)アルミニウム塩、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコールを含有するアルミニウムの梨地処理液によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のアルミニウムの梨地処理液及びアルミニウムの梨地処理方法に関する。
1.(A)アルミニウム塩、
(B)アルカリ金属塩、及び、
(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコール
を含有する、ことを特徴とするアルミニウムの梨地処理液。
2.前記アルミニウム塩は、アルミン酸ソーダ、ケイ酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、及び、アルミニウムミョウバンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の梨地処理液。
3.前記アルミニウム塩の含有量は、10g/L以上である、項1又は2に記載の梨地処理液。
4.前記アルカリ金属塩は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ金属炭酸水素塩並びにそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の梨地処理液。
5.前記アルカリ金属塩の含有量は、60~600g/Lである、項1~4のいずれかに記載の梨地処理液。
6.前記糖アルコールの含有量は、100g/L以上である、項1~5のいずれかに記載の梨地処理液。
7.アルミニウムの梨地処理方法であって、
(1)(A)アルミニウム塩、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコールを混合して、梨地処理液を調製する工程1、及び、
(2)アルミニウムを前記梨地処理液に浸漬する工程2
を有することを特徴とする、梨地処理方法。
8.項1~6のいずれかに記載の梨地処理液を用いて作製された梨地アルミニウム材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の梨地処理液を用いてアルミニウムを処理することにより、アルミニウムの表面に梨地の外観を形成することができる。また、本発明の梨地処理方法によりアルミニウムを処理することにより、アルミニウムの表面に梨地の外観を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】梨地度0の状態の試験片の表面のSEM像である。
図2】梨地度1の状態の試験片の表面のSEM像である。
図3】梨地度2の状態の試験片の表面のSEM像である。
図4】梨地度3の状態の試験片の表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.梨地処理液
本発明の梨地処理液は、(A)アルミニウム塩、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコールを含有するアルミニウムの梨地処理液である。上記特徴を有する本発明の梨地処理液は、上記(A)、(B)及び(C)を含有することにより、アルミニウムを処理すると、アルミニウムの表面に梨地形成することができる。本発明の梨地処理液によれば、フッ化水素酸等のハロゲン含有化合物を用いなくてもアルミニウムの表面に梨地処理を施すことができるので、人体への悪影響及び環境への負荷が抑制される。
【0015】
((A)アルミニウム塩)
(A)アルミニウム塩(以下、「(A)成分」とも示す。)としては特に限定されず、公知のアルミニウム塩を用いることができる。このようなアルミニウム塩としては、例えば、アルミン酸ソーダ、硫酸アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)、ケイ酸アルミニウム(III)、ギ酸アルミニウム(III)、酢酸アルミニウム(III)、第一リン酸アルミニウム(III)、第二リン酸アルミニウム(III)、第三リン酸アルミニウム(III)、水酸化アルミニウム(III)、炭酸アルミニウム(III)、塩化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、アルミニウムミョウバン等が挙げられる。これらの中でも、アルミニウムの表面に梨地の外観をより一層形成し易い点で、アルミン酸ソーダ、硫酸アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)が好ましく、アルミン酸ソーダがより好ましい。
【0016】
上記(A)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
梨地処理液中の(A)成分の含有量は、10g/L以上が好ましく、10~300g/Lが好ましく、25~250g/Lがより好ましく、50~200g/Lが更に好ましい。(A)成分の含有量の下限が上記範囲であることにより、アルミニウムの表面に梨地の外観をより一層形成し易くなる。また、(A)成分の上限が上記範囲であることにより、より一層梨地外観の均一性が向上する。
【0018】
((B)アルカリ金属塩)
(B)アルカリ金属塩(以下、「(B)成分」とも示す。)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等のアルカリ金属炭酸水素塩等が挙げられる。また、これらの水和物であってもよい。これらの中でも、アルミニウムの表面に梨地の外観をより一層形成し易い点で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0019】
上記(B)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
梨地処理液中の(B)成分の含有量は、60~600g/Lが好ましく、75~450g/Lがより好ましく、90~300g/Lが更に好ましい。(B)成分の含有量の下限が上記範囲であることにより、アルミニウムの表面に梨地の外観をより一層形成し易くなる。また、(B)成分の上限が上記範囲であることにより、より一層梨地外観の均一性が向上する。
【0021】
((C)4~9個の水酸基を有する糖アルコール)
本発明の梨地処理液に用いられる糖アルコールは、4~9個の水酸基を有する糖アルコール(以下、「(C)成分」とも示す。)である。
【0022】
(C)成分である糖アルコールは、水酸基の数が4~9個である限り特に限定されず、公知の糖アルコールを用いることができる。このような糖アルコールとしては、水酸基の数が4~9個であれば特に限定されず、例えば、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらの中でも、ソルビトール、マンニトール、ラクチトールが好ましく、ソルビトール、ラクチトールがより好ましい。
【0023】
4~9個の水酸基を有する糖アルコールとしては、より具体的には、水酸基を6個有するソルビトール、水酸基を5個有するキシリトール、水酸基を9個有するラクチトール等が挙げられる。
【0024】
梨地処理液の性状(例えば、分離の有無、安定性など)の観点から、糖アルコールは、例えば炭素数が4~12であることが好ましく、炭素数が4~6であることがより好ましい。
【0025】
上記(C)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
梨地処理液中の(C)成分の含有量は、100g/L以上が好ましく、100~1000g/Lがより好ましく、200~850g/Lが更に好ましく、300~750g/Lが特に好ましい。(C)成分の含有量の下限が上記範囲であることにより、アルミニウムの表面に梨地の外観をより一層形成し易くなる。また、(C)成分の上限が上記範囲であることにより、より一層梨地外観の均一性が向上する。
【0027】
本発明の梨地処理液は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有し、残部が水であることが好ましい。すなわち、本発明の梨地処理液は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する水溶液であることが好ましい。
【0028】
本発明の梨地処理液が水溶液である場合、水に対するアルカリ金属塩の質量比(アルカリ金属塩/水)は、0.075以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.125以上が更に好ましい。上記質量比の下限が上記範囲であることにより、アルミニウムの表面に梨地の外観をより一層形成し易くなる。また、上記質量比の上限は、0.5以下が好ましい。
【0029】
(その他の成分)
本発明の梨地処理液は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の他に、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、界面活性剤、ミスト防止剤、消泡剤等が挙げられる。
【0030】
2.梨地処理方法
本発明の梨地処理方法は、アルミニウムの梨地処理方法であって、(1)(A)アルミニウム塩、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコールを混合して、梨地処理液を調製する工程1、及び、(2)アルミニウムを前記梨地処理液に浸漬する工程2を有する梨地処理方法である。
【0031】
本発明の梨地処理方法における被処理物であるアルミニウムは、純アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。アルミニウム合金としては特に限定的ではなく、各種のアルミニウム主体の合金が例示される。アルミニウム合金の具体例としては、例えば、JISに規定されているJIS-A 1千番台~7千番台で示される展伸材系合金、AC、ADCの各番程で示される鋳物材、ダイカスト材等を代表とするアルミニウム主体の各種合金群等が挙げられる。
【0032】
(工程1)
工程1は、(A)アルミニウム塩、(B)アルカリ金属塩、及び、(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコールを混合して、梨地処理液を調製する工程である。
【0033】
工程1で用いられる梨地処理液としては、上述の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する梨地処理液を用いればよい。
【0034】
工程1では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を順次混合して梨地処理液を調製すればよい。(A)成分、(B)成分及び(C)成分を混合する順序としては特に限定されない。
【0035】
工程1では、例えば、水に(A)成分、(B)成分及び(C)成分を順次添加して混合してもよいし、水に(A)成分、(B)成分及び(C)成分を順次添加して混合し、更に、水を添加して希釈して、梨地処理液を調製してもよい。上記工程1で調製した梨地処理液は、当初から(A)成分を含有する梨地処理液である。本発明の梨地処理液は、調製時に(A)成分を含有することにより、梨地処理開始時から安定して梨地処理を行うことができる。本発明の梨地処理液は、(B)成分及び(C)成分を含有する処理液を用いて被処理物であるアルミニウムを処理した結果、被処理物であるアルミニウムが溶解してアルミニウムイオンが溶出し、アルミニウムイオン、(B)成分及び(C)成分を含有する処理液とは異なる。
【0036】
なお、工程1では、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分に加え、必要に応じて、上述の、その他の成分を添加してもよい。
【0037】
(工程2)
工程2は、アルミニウムを前記梨地処理液に浸漬する工程である。
【0038】
アルミニウムを梨地処理液に浸漬する方法としては特に限定されず、被処理物であるアルミニウムを治具に固定し、梨地処理液中に浸漬する方法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0039】
工程2での梨地処理液の液温(処理温度)は適宜調整すればよく、例えば、40℃以上が好ましく、50~90℃がより好ましく、60~80℃が更に好ましい。
【0040】
工程2での処理時間は、所望の梨地外観の程度に応じて適宜設定すればよく、例えば、1~45分程度である。
【0041】
工程2において溶解されるアルミニウムの膜厚(溶解膜厚)は、材質や使用目的等に応じて適宜調整することができる。例えば、アルミニウムがA6063材であれば、溶解膜厚は10~30μm程度である。
【0042】
工程2では、必要に応じて、梨地処理液を撹拌してもよく、被処理物であるアルミニウムを揺動させてもよい。攪拌方法、及び揺動方法としては特に限定されず、従来公知の攪拌方法、及び揺動方法によればよい。
【0043】
(その他の工程)
【0044】
本発明の梨地処理方法は、工程2の前に、脱脂処理工程が含まれていてもよい。脱脂処理の目的は、例えばアルミニウム表面に付着した汚れや油分を除去すること等である。脱脂処理方法としては、特に限定されず、従来公知の脱脂処理方法を実施することができる。
【0045】
本発明の梨地処理方法は、工程2の前に、エッチング処理工程が含まれていてもよい。エッチング処理の目的は、例えばアルミニウム表面に形成された自然酸化皮膜を除去すること等である。エッチング処理方法としては、特に限定されず、従来公知のエッチング処理方法を実施することができる。
【0046】
本発明の梨地処理方法は、エッチング処理工程、及び/又は工程2の後に、デスマット処理が含まれていてもよい。デスマット処理の目的は、例えばエッチング処理工程、工程2により生成したスマットを除去すること等である。デスマット処理方法としては、特に限定されず、従来公知のデスマット処理方法を実施することができる。
【0047】
本発明の梨地処理方法は、工程2の後に、陽極酸化処理工程が含まれていてもよい。陽極酸化処理の目的は、例えばアルミニウムの表面の耐食性を向上させること等である。陽極酸化処理方法としては、特に限定されず、従来公知の陽極酸化処理方法を実施することができる。
【0048】
本発明の梨地処理方法は、工程2の後に、染色処理工程が含まれていてもよい。染色処理の目的は、例えばアルミニウムを染色し、意匠性を付与すること等である。染色処理方法としては、特に限定されず、従来公知の染色処理方法を実施することができる。
【0049】
本発明の梨地処理方法は、工程2、及び/又は染色処理の後に、封孔処理工程が含まれていてもよい。封孔処理の目的は、例えばアルミニウムの耐食性を向上させること、染色工程により染色したアルミニウムの色抜けを抑制こと等である。封孔処理方法としては、特に限定されず、従来公知の封孔処理方法を実施することができる。
【0050】
3.梨地アルミニウム材
本発明の梨地アルミニウム材は、上記梨地処理液を用いて作製された梨地アルミニウム材である。本発明の梨地アルミニウム材は、上記に説明した本発明の梨地処理液を用いて作製されているので、表面に梨地の外観が十分に形成されている。
【0051】
梨地アルミニウム材を作製するためのアルミニウムは、上述の被処理物であるアルミニウムを用いればよい。また、本発明の梨地処理液を用いて梨地アルミニウム材を作製する方法としては、上述の本発明の梨地処理方法において説明した方法が挙げられる。
【実施例
【0052】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0053】
実施例及び比較例で用いる被処理物として、アルミニウム金属片(A6063S材、A1050材、A5052材、A7075材)を用意した。当該アルミニウム金属片を用いて、トップADD-100(奥野製薬工業株式会社製)により55℃で2分間処理し、脱脂処理を行った。次いで、水酸化ナトリウム100g/L、及びアルサテンSK(奥野製薬工業株式会社製)5ml/Lを含有するエッチング処理液を用いて、55℃で30秒間エッチング処理を行った。次いで、トップデスマットN-20(奥野製薬工業株式会社製)を用いて25℃で1分間処理し、デスマット処理を施して、アルミニウム試験片を調製した。
【0054】
(実施例及び比較例)
表1及び表2に示す配合により、比較例2~5、及び、実施例1~17の梨地処理液を調製した。梨地処理液の調製は、水に、表1及び表2に示す各成分を順次添加することにより行った。表1及び表2に示すアルミニウム試験片を、表1及び表2に示す条件により浸漬し、梨地処理を行った。なお、比較例1では、試験片に梨地処理を行わなかった。最後に、比較例2~5及び実施例1~17において調製した試験片に、上記条件と同一の条件により再度デスマット処理を施し、実施例及び比較例の試験片を調製した。
【0055】
(評価方法)
実施例及び比較例について、下記評価を行った。
【0056】
溶解膜厚
梨地処理前後の試験片の重量を測定し、重量差、試験片の面積、アルミニウムの比重から、溶解膜厚(μm)を算出した。
【0057】
梨地度評価
実施例及び比較例の試験片の表面を、目視及びSEMを用いて観察し、梨地度の評価を行った。なお、一般的に溶解膜厚の増加に従って梨地度が増加するため、実施例では溶解膜厚が15~20μmとなった時点で評価を行った。また、比較例では、溶解膜厚が15~20μmとならなかった。
【0058】
なお、SEMを用いての評価は、図1図4のSEM像を基準として用いた。図1は梨地処理を行わなかった試験片のSEM像であり、全体的にフラットで、被処理物であるアルミニウム自体の押し出し跡(ロール目)及び欠陥が見られ、目視観察では梨地となっていない。図2図4は梨地処理を施した試験片のSEM像である。図2は試験片の表面が荒れ出しているが、まだ押し出し跡及び欠陥が残存しており、目視観察では梨地となっていない。図3は被処理物であるアルミニウム自体の押し出し跡及び欠陥が消えており、目視観察では梨地となっている。図4は被処理物であるアルミニウム自体の押し出し跡及び欠陥が消えており、目視観察では梨地となっている。また、図4では特に大きな凹凸が形成されている。
【0059】
下記評価基準に従って評価した。なお、梨地度が2以上であれば実使用において問題ないと評価できる。
梨地度0:SEM像が図1に近い状態であり、目視観察では梨地となっていない。
梨地度1:SEM像が図2に近い状態であり、目視観察では梨地となっていない。
梨地度2:SEM像が図3に近い状態であり、目視観察では梨地となっている。
梨地度3:SEM像が図4に近い状態であり、目視観察では梨地となっている。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から、比較例2及び3では、梨地が十分に形成されていることが分かった。しかしながら、比較例2及び3では、梨地処理液としてフッ素を含有する酸性フッ化アンモンを用いており、人体への悪影響及び環境への負荷が抑制されていない。
【0062】
【表2】
【0063】
表2の結果から、実施例1~17では、梨地が十分に形成されており、梨地処理液としてフッ素を含有する酸性フッ化アンモンを用いた比較例2及び3と同等の梨地処理が可能であることが分かった。また、比較例4及び5では、梨地処理液が(A)アルミニウム塩を含有しておらず、梨地が十分に形成されていなことが分かった。
【要約】
【課題】アルミニウムの表面に梨地の外観を付与することができる梨地処理液及び梨地処理方法を提供する。
【解決手段】(A)アルミニウム塩、
(B)アルカリ金属塩、及び、
(C)4~9個の水酸基を有する糖アルコール
を含有する、ことを特徴とするアルミニウムの梨地処理液。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4