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特許7074406薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法
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  • 特許-薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
C02F1/00 K
C02F1/00 S
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018046079
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019155283
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】三井 昌文
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0200245(US,A1)
【文献】特開2017-131798(JP,A)
【文献】特開2006-247633(JP,A)
【文献】特開2015-161494(JP,A)
【文献】特開平10-202268(JP,A)
【文献】特開2002-172394(JP,A)
【文献】特開2009-039638(JP,A)
【文献】特開2013-022505(JP,A)
【文献】特開2010-158632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-11/20
B01D 21/00-21/34
G05D 9/00-11/16、
21/00-22/02、
34/00-39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に対して薬剤が添加される反応槽の前段に被処理水を貯留する原水槽と、前記原水槽で被処理水の水量を測定する測定部と、
前記測定部で測定した被処理水の水量に応じて、前記反応槽に添加する薬剤の量と、前記反応槽に流入する被処理水の流入量を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記反応槽に添加する薬剤の量を制御してから、前記反応槽に流入する被処理水の流入量を制御することを特徴とする、薬剤添加量制御装置。
【請求項2】
前記測定部は、前記原水槽内の被処理水の水面高さを測定するレベル計及び/または前記原水槽に流入する被処理水の流量を測定する流量計を備えることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤添加量制御装置。
【請求項3】
被処理水に対して薬剤が添加される反応槽の前段に設けられた原水槽に、被処理水を貯留する工程と、
前記原水槽で被処理水の水量を測定する測定工程と、
前記測定工程により得られた被処理水の水量に応じて、前記反応槽に添加する薬剤の量と、前記反応槽に流入する被処理水の流入量を制御する制御工程を備え、
前記制御工程は、前記反応槽に添加する薬剤の量を制御してから、前記反応槽に流入する被処理水の流入量を制御することを特徴とする、薬剤添加量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、下水処理場、排水処理場、浄水場等の水処理に係る水処理システムにおいては、処理工程の一つとして薬剤を添加することが広く行われている。
このような薬剤の添加を伴う水処理システムにおいては、薬剤の添加量を適切に制御することが重要である。
【0003】
例えば、特許文献1には、被処理水に薬剤を注入する薬剤注入する水処理システムにおける薬剤の注入量を制御する薬剤注入量制御装置であって、薬剤注入後の処理水の液質の計測結果に基づき、被処理水に対する薬剤の注入量を演算することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-8901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法では、処理水の水質結果に基づき、凝集剤の添加を制御するものであるため、凝集剤の添加について判断を行う際には既に処理水の水質低下は始まっており、結果として凝集剤の注入が間に合っていないという問題がある。したがって、処理水の水質悪化が生じる前に、薬剤の添加量を制御することが求められる。
【0006】
本発明の課題は、薬剤の添加を伴う水処理システムにおいて、薬剤不足による処理の悪化を抑制することが可能な薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、被処理水に対して薬剤が添加される反応槽の前段で測定した被処理水の水量に応じて、反応槽に添加する薬剤の量、反応槽に流入する被処理水の流入量の順に制御を行うことで、常に反応槽に十分な薬剤が添加された状態を維持し、処理の悪化を抑制することが可能になることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法である。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の薬剤添加量制御装置は、被処理水に対して薬剤が添加される反応槽の前段で被処理水の水量を測定する測定部と、測定部で測定した被処理水の水量に応じて、反応槽に添加する薬剤の量と、反応槽に流入する被処理水の流入量を制御する制御部を備え、制御部は、反応槽に添加する薬剤の量を制御してから、反応槽に流入する被処理水の流入量を制御するという特徴を有する。
【0009】
本発明の薬剤添加量制御装置は、反応槽への薬剤の添加量を被処理水の流入量より先に変更し、薬剤の添加を行うものである。これにより、反応槽において常に十分な量の薬剤が供給される。特に、被処理水の性質や処理条件によって凝集状態が頻繁に変化するような場合において処理の安定性を確保することが可能となる。
【0010】
また、本発明の薬剤添加量制御装置の一実施態様としては、測定部は、原水槽とレベル計及び/または流量計を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、反応槽の前段の被処理水の水量の算出を容易にするとともに、反応槽に流入する被処理水の流入量の制御も容易となる。これにより、十分な薬剤を添加する前に、被処理水が反応槽あるいは反応槽の後段に設けられる処理槽に流入することを抑制することができ、安定した処理を行うことが可能となる。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明の薬剤添加量制御方法は、被処理水に対して薬剤が添加される反応槽の前段で被処理水の水量を測定する測定工程と、測定工程により得られた被処理水の水量に応じて、反応槽に添加する薬剤の量と、反応槽に流入する被処理水の流入量を制御する制御工程を備え、制御工程は、反応槽に添加する薬剤の量を制御してから、反応槽に流入する被処理水の流入量を制御するという特徴を有する。
この特徴によれば、反応槽への薬剤の添加量を被処理水の流入量より先に変更し、薬剤の添加を行うことにより、反応槽において常に十分な量の薬剤が供給される。このように、必要となる薬剤の添加量を決定し、薬剤の添加を優先して行うことで、特に、被処理水の性質や処理条件によって凝集状態が頻繁に変化するような場合において処理の安定性を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、薬剤の添加を伴う水処理システムにおいて、薬剤不足による処理の悪化を抑制することが可能な薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施態様に係る薬剤添加量制御装置を備える水処理システムの概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様に係る水処理システムの凝集沈殿処理槽の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法は、薬剤添加を伴う被処理水の処理に係る水処理システムに利用されるものである。
このような薬剤添加を伴う水処理システムとしては、例えば、被処理水に凝集剤を添加する凝集沈殿、凝集ろ過、加圧浮上処理に係る水処理システム、被処理水にアルカリ(pH調整剤)を添加する析出反応を利用した水処理システム及び被処理水に次亜塩素酸などの消毒剤を添加する水処理システム等が挙げられる。
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る薬剤添加量制御装置の実施態様を詳細に説明する。また、本実施形態の薬剤添加量制御方法は、以下の薬剤添加量制御装置の構成及び作動の説明に置き換えるものとする。
なお、以下の実施態様は、本発明に係る薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法を説明するために例示したものにすぎず、本発明に係る薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法を限定するものではない。
【0016】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の実施態様の薬剤添加量制御装置を備える水処理システムの概略説明図である。なお、本実施態様における水処理システムとしては、凝集沈殿処理に係る設備について例示する。
【0017】
(水処理システム)
図1に示すように、本実施態様に係る水処理システム100は、薬剤添加量制御装置1と、反応槽2を備える。反応槽2には、被処理水Wを供給するラインL1と、反応槽2に薬剤Sを添加する薬剤添加手段3が設けられており、ラインL1上には流量制御機構4が設けられている。また、反応槽2の後段に凝集沈殿槽5を設け、薬剤添加手段3により反応槽2に添加される薬剤Sを凝集剤とする。
【0018】
(反応槽)
反応槽2は、被処理水Wを導入するとともに、薬剤添加手段3により薬剤Sとして凝集剤を添加するものである。これにより、固形物を含む被処理水Wを、反応槽2から凝集沈殿槽5へ供給する。また、反応槽2には、被処理水Wが供給されるラインL1上に、流量制御機構4が設けられている。
【0019】
反応槽2には、撹拌機などの撹拌機構を設けることとしてもよい。これにより、被処理水Wと凝集剤の混合効率を高め、凝集効果を高めることが可能となる。
【0020】
薬剤添加手段3は、薬剤を貯留する薬剤貯留槽31及び薬剤を反応槽に添加するためのラインを備える。また、ライン上に、薬剤の添加量の調節を行うための調節機構32を備える。ここで、調節機構32は、薬剤添加量制御装置1によって制御が可能となるように接続されている。調節機構32は、薬剤の添加量の調節が可能なものであればよく、特に限定されない。例えば、調節弁やバルブなどが挙げられる。
【0021】
薬剤添加手段3により添加される薬剤Sとしての凝集剤については、無機凝集剤及び有機高分子凝集剤が挙げられる。凝集剤は、無機凝集剤あるいは有機高分子凝集剤のみを用いるものであってもよく、無機凝集剤と有機高分子凝集剤を併用するものであってもよい。なお、無機凝集剤及び有機高分子凝集剤を併用する場合、無機凝集剤、有機高分子凝集体の順に被処理水Wに添加することが好ましい。これにより、安定したフロック形成が可能となる。
【0022】
凝集剤の具体例としては、例えば、無機凝集剤としては、硫酸バンドやPAC等のAl系無機凝集剤や、ポリ硫酸鉄等のFe系無機凝集剤が挙げられる。あるいは、NaOH、Ca(OH)等のアルカリ又はHSO、HCl等の酸によるpH調整剤や、Ca、Al、Fe系化合物の添加や、酸化剤・還元剤の添加等により結晶を析出させるものとしてもよい。また、有機高分子凝集剤としては、ポリアミノアルキルメタクリレート、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、キトサン、尿素-ホルマリン樹脂等のカチオン性高分子凝集剤、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド部分加水分解物、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド、ポリ(2-アクリルアミド)-2-メチルプロパン硫酸塩等のアニオン性高分子凝集剤、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等のノニオン性高分子凝集剤、アクリルアミドとアミノアルキルメタクリレートとアクリル酸ナトリウムの共重合体等の両性高分子凝集剤が挙げられる。
【0023】
流量制御機構4は、反応槽2に流入する被処理水Wの流入量を制御できるものであればよく、特に限定されない。例えば、流量制御弁やバルブなどが挙げられる。なお、流量制御機構4は、薬剤添加量制御装置1によって制御が可能となるように接続されるため、電気信号等による自動制御が容易なものを用いることが好ましい。また、流量制御機構4には、流量を確認するために流量計を設けるものであってもよい。
【0024】
(凝集沈殿槽)
本実施態様に係る水処理システム100は、いわゆるスラッジブランケット型と呼ばれる凝集沈殿槽5を有している。一般に、スラッジブランケット型凝集沈殿槽は、槽内に上昇水流による凝集フロックの流動層を形成し、その流動槽内に新たに生成したフロックを通過させるものである。このとき、小さなフロックは流動層における大きなフロックに捕捉されて大きくなり、沈降速度が速まる。これにより、スラッジブランケット型凝集沈殿槽へ導入された被処理水は、処理水と汚泥に分離され、それぞれ槽外に排出される。以下、フロックは、凝集フロック、汚泥、固形物と称されることがある。
【0025】
図2に示すように、本実施態様に係る凝集沈殿槽5は、処理槽50内に、被処理水Wを導入する被処理水導入部60と、被処理水W中の固形物を捕捉し、固形物と処理水W1に分離するスラッジブランケット部70と、処理水W1の水質検知部80と、処理水W1を排出するラインL3を備え、スラッジブランケット部70上方には、処理水W1からなる清澄層Cが形成されている。
また、凝集沈殿槽5は、スラッジブランケット部70を通過することにより凝集したフロックが、スラッジブランケット部70の上端を越流し、凝集沈殿槽5の底部に沈殿して濃縮される濃縮部90を有し、濃縮部90に沈殿したフロック(汚泥)を系外に排出する汚泥排出ラインL4を設ける。なお、汚泥排出ラインL4には、汚泥を処理するための汚泥処理設備を設けるものとしてもよい。
【0026】
凝集沈殿槽5は、有底円筒状の外筒水槽51と、この外筒水槽51より小径でかつ高さも小さい有底円筒状の内筒水槽52とを備える。図1に示すように、内筒水槽52は、外筒水槽51の内側に、外筒水槽51と同心になるように立設されている。また、内筒水槽52の底部が外筒水槽51の底部から上方に所定長離隔しており、二重水槽構造を呈している。また、外筒水槽51及び内筒水槽52の軸線L上には、モーターMにより回転駆動するセンターシャフト53が配置されている。センターシャフト53は、ロータリージョイント54により内筒水槽52底部と接続されている。なお、外筒水槽51、内筒水槽52は円筒状に限定されず、角筒状であってもよい。
【0027】
被処理水導入部60は、被処理水Wを凝集沈殿槽5内に導入するための導入管61と、導入管61から導入された被処理水Wを内筒水槽52内に供給するフィードパイプ62を備えている。図1に示すように、導入管61は、外筒水槽51の側壁を挿通して、槽外部に突き出しており、被処理水Wの供給源と接続されている。また、フィードパイプ62は、導入管61と通水可能に連結しており、センターシャフト53の外側にセンターシャフト53を囲むように設けられている。本実施態様における固液分離装置は、外筒水槽51、内筒水槽52、センターシャフト53、フィードパイプ62の軸線は全て共通の軸線Lになっている。
【0028】
フィードパイプ62は、上下方向で上部62aと下部62bとに分けられており、上部と下部との間はラビリンス構造等のロータリージョイント63により接続されている。フィードパイプ62の上部62a側面に導入管61が接続されており、フィードパイプ62の下部62bには分散管64が設けられている。分散管64は内筒水槽52の下部に配置されるとともに、複数の被処理水吐出口64aが形成されている。センターシャフト53の回転とともにフィードパイプ62の下部が回転し、このとき、分散管64は被処理水吐出口64aを内筒水槽52の底部側に向けた状態で回転する。なお、フィードパイプ62の上端部は閉じられていてもよく、上方に向かって開放されていてもよい。
【0029】
スラッジブランケット部70は、被処理水導入部60から凝集剤を含む被処理水Wを導入し、凝集フロックを成長させた後、凝集フロック(固形物)と処理水W1を分離するものである。
なお、分離された処理水W1は凝集沈殿槽5上部に設けられたラインL1から系外に排出される。また、スラッジブランケット部70の上端から越流した凝集フロックは、スラッジブランケット部70の下部に設けられる濃縮部90に沈降し、凝集沈殿槽5の底部に設けられたラインL4を介して、系外に排出される。
【0030】
本実施態様におけるスラッジブランケット部70は、図2に示すように、凝集沈殿槽5内の有底円筒状の内筒水槽52の内側領域を指すものである。スラッジブランケット部70は、フロック成長ゾーンZ1と、フロック成長ゾーンより上方に形成される分離ゾーンZ2とを有している。フロック成長ゾーンZ1は、被処理水導入部60により内筒水槽52内に流入する被処理水Wの上昇水流によって凝集フロックの流動層を形成している。また、分離ゾーンZ2は、凝集フロック(固形物)と処理水W1とを固液分離するものである。
【0031】
凝集剤を含む被処理水Wは内筒水槽52内の被処理水導入部の分散管64から内筒水槽52内の下部に一様に噴出され、この噴出する水流の撹拌力、剪断力等により混合されてフロックを形成していく。内筒水槽52内に形成されたフロックは内筒水槽52底部に堆積していくが、さらに供給される被処理水Wによりフロック成長ゾーンZ1内に流動層が形成されていく。被処理水Wに含まれる小さなフロックは、流動層を上昇する過程で先に生成されたフロックに接触して捕捉されることで、フロックの粒子径が大きく成長する。このように、被処理水Wはフロック成長ゾーンZ1を上昇しながらフロックを成長させる。
【0032】
ここで、フロックはその比重が水より大きいため、フロック成長ゾーンZ1の底部に堆積しようとするが、被処理水Wの連続供給により上昇する。被処理水Wがフロック成長ゾーンZ1を上昇する過程において、被処理水W中のフロックは成長してより大きく、かつ重くなるため、一定程度まで成長すると、上昇しなくなる。よって、図1に示すように、内筒水槽52の上部には、より大きく、かつ重くなったフロックが集まり、被処理水Wの上昇流による上昇力とフロックの沈降性(自重)が平衡状態となることで、フロック濃度が不連続に変化する仮想境界層Kが形成される。ここで、仮想境界層K及びその下方付近を分離ゾーンZ2とする。分離ゾーンZ2には、フロックが高濃度で保持されている。また、分離ゾーンZ2に集まったフロックの一部は、被処理水Wによる流動層により内筒水槽52の上端縁部から外筒水槽51側に越流する。なお、越流した凝集フロックは、比重が水よりも大きいため、自然に外筒水槽51の底部の濃縮部90に向けて沈降する。濃縮部90に沈降して堆積した凝集フロックは濃縮されて濃縮汚泥になり、外筒水槽51の底部に設けられた汚泥排出ラインL4から排出される。
【0033】
また、図1に示すように、スラッジブランケット部70を通過した処理水は、被処理水Wの上昇流によって上昇し、スラッジブランケット部70の上方に、処理水W1からなる清澄層Cが形成される。つまり、清澄層Cとスラッジブランケット部70との境界に仮想境界層Kが形成されている。清澄層Cの処理水W1は、外筒水槽51上部に設けられた処理水排出ラインL1を介して槽外に排出される。
【0034】
一方、濃縮部90に堆積した濃縮汚泥は、センターシャフト53の下端に設けられた濃縮汚泥掻き寄せ機91によって、汚泥排出ラインL4が設けられた外筒水槽51の底面中央に掻き寄せられる。なお、濃縮汚泥掻き寄せ機91は、センターシャフト53の回転に伴って回転し、外筒水槽51の底面中央部に濃縮汚泥を掻き寄せることができる構造であれば、特に限定されない。例えば、図1に示すように、センターシャフト53に対して垂直に掻き取り部材を設けるもの以外に、センターシャフト53に対して垂直に交差した支持体に複数の掻き取り部材を設けるものとしてもよく、曲面を有する掻き取り部材を槽上方から見た際にS字を形成するようにセンターシャフト53に設けるものとしてもよい。
【0035】
水質検知部80は、スラッジブランケット部70で固液分離された処理水Wの水質を測定するためのものである。
水質としては、濁度、色度、水温、pH、有機物濃度等を測定対象とすることが挙げられる。また、測定対象を検出するための検出器としては、濁度計、色度計、水温計、pH計、COD計、BOD計、TOD計、TOC計等が挙げられる。
本実施態様における水質検知部80としては、処理状況に大きな影響を与えるスラッジブランケット部70におけるフロックの凝集状態についての情報を得るために、濁度を検出する濁度計を用いることが特に好ましい。なお、濁度計としては、表面散乱光方式、透過散乱光方式、透過散乱比較方式等による光学測定やカメラの映像を用いてフロックの凝集状態を解析する画像解析等に基づく検出器を用いることができる。
【0036】
なお、水質検知部80と薬剤添加量制御装置1を、データの送受信が可能となるように接続してもよい。これにより、水質検知部80の測定結果に基づき、薬剤添加量制御装置1によって薬剤添加手段3による凝集剤の添加量を制御するようにしてもよい。例えば、水質検知部80の測定結果から、スラッジブランケット部70内のフロックの凝集状態が悪化傾向にあることが認められた場合、凝集剤の添加量を増加させる。
【0037】
(薬剤添加量制御装置)
本実施態様における薬剤添加量制御装置1は、測定部10と、制御部20を備える。また、薬剤添加量制御装置1は、測定部10の測定結果に基づき、制御部20によって薬剤添加手段3による反応槽2への薬剤の添加量及び反応槽2に流入する被処理水Wの流入量を制御するものである。
【0038】
測定部10は、反応槽2の前段における被処理水Wの水量を測定するものである。測定部10の具体例としては、図1に示すように、反応槽2の前段に被処理水Wを貯留する原水槽11を設け、原水槽11には、原水槽11内の被処理水Wの水面高さを測定するレベル計12、原水槽11に流入する被処理水Wの流量を測定する流量計13を設ける。これにより、レベル計12及び流量計13の測定結果を用い、反応槽2に流入する前の被処理水Wの水量を求めることができる。なお、レベル計12及び流量計13は、少なくともどちらか一つを備えるものであればよく、両方備えるものとしてもよい。
【0039】
制御部20は、測定部10により求めた反応槽2に供給する被処理水Wの水量に基づき、薬剤添加手段3による反応槽2への薬剤Sの添加量及び反応槽2に流入する被処理水Wの流入量を制御するものである。
【0040】
図1に示すように、制御部20は、薬剤添加手段3と流量制御機構4に対して制御可能に接続されている。また、制御部20は、測定部10で求めた被処理水Wの水量の値から、薬剤Sの添加量を決定するための演算処理部21を有する。
演算処理部21における薬剤Sの添加量の決定に係る演算処理プロセスについては、特に限定されない。被処理水Wの水量と薬剤Sの添加量に関する関係式を用いるものとしてもよく、過去の演算データや測定データに基づく算出又は推計を行うものとしてもよい。
【0041】
演算処理部21により決定された薬剤Sの添加量に基づき、薬剤添加手段3から反応槽2へ添加する薬剤Sの添加量を変更する。なお、薬剤Sの添加量を変更する手段は特に限定されない。例えば、薬剤添加手段3に設けたバルブの開閉を制御することなどが挙げられる。
【0042】
そして、薬剤添加手段3による薬剤Sの添加量を変更した後、流量制御機構4により反応槽2に流入する被処理水Wの流入量の制御を行う。なお、被処理水Wの流入量を変更する手段は特に限定されない。例えば、流量制御機構4として設けたバルブや流量調節弁の開閉を制御することなどが挙げられる。
【0043】
本実施態様における薬剤添加量制御装置1によって、反応槽2への薬剤Sの添加量を被処理水Wの流入量(流量)より先に変更し、薬剤Sの添加を行うことにより、反応槽2において常に十分な量の薬剤Sが供給されることになる。これにより、反応槽2の後段に設けられた凝集沈殿槽5における凝集不良などの処理の悪化を未然に抑制することができる。このように、必要となる薬剤Sの添加量を決定し、薬剤Sの添加を優先して行うことで、特に、被処理水Wの性質や処理条件によって凝集状態が頻繁に変化するような場合において処理の安定性を確保することが可能となる。
【0044】
[第2の実施態様]
本発明の第2の実施態様の水処理システムは、第1の実施態様における反応槽2を、複数の槽からなるものとする。例えば、第1反応槽、第2反応槽の2つの槽を設け、それぞれに薬剤添加手段を設けるものとしてもよい。
【0045】
このとき、第1反応槽には、薬剤添加手段により無機凝集剤を添加する。一方、第2反応槽には、薬剤添加手段により有機高分子凝集剤を添加する。これにより、凝集沈殿槽5に導入する被処理水W中に安定な凝集フロックを形成することが可能となる。
【0046】
薬剤添加量制御装置1は、制御部20を複数の反応槽におけるそれぞれの薬剤添加手段と制御可能となるように接続し、測定部10の測定結果により、制御部20によってそれぞれの薬剤添加手段による第1反応槽及び第2反応槽への薬剤の添加量を制御し、その後第1反応槽及び第2反応槽に流入する被処理水Wの流入量を制御する。なお、第1の実施態様における測定部10の原水槽11に係る機能を第1反応槽に設けることで、第1の実施態様における測定部10の原水槽11に相当する構成を別に設けることなく、薬剤添加量制御装置1として機能させることとしてもよい。
【0047】
なお、上述した実施態様は薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法の一例を示すものである。本発明に係る薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法を変形してもよい。
【0048】
例えば、本発明の薬剤添加量制御装置が適用される水処理システムとして、本実施態様ではスラッジブランケット型の凝集沈殿槽について説明したが、これに限定されない。少なくとも凝集沈殿槽を有するものであればよく、その他の構造については適宜変更することができる。例えば、凝集沈殿槽内に傾斜板などの沈降装置を設けるものとしてもよい。
【0049】
また、例えば、本発明の薬剤添加量制御装置は、本実施態様に示した凝集沈殿に係る水処理システム以外の水処理システムにも適用が可能である。例えば、薬剤として凝集剤を添加する凝集ろ過、加圧浮上処理に係る水処理システム、薬剤としてアルカリ(pH調整剤)を添加する析出反応を利用した水処理システム及び薬剤として次亜塩素酸などの消毒剤を添加する水処理システム等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法は、薬剤を添加する被処理水の処理に利用されるものである。特に、本発明の薬剤添加量制御装置及び薬剤添加量制御方法は、被処理水に凝集剤を添加する凝集沈殿、凝集ろ過、加圧浮上処理を行う水処理システムにおいて好適に用いられる。
【符号の説明】
【0051】
100,101 水処理システム、1 薬剤添加量制御装置、2 反応槽、3 薬剤添加手段、4 流量制御機構、5 凝集沈殿槽、10 測定部、11 原水槽、12 レベル計、13 流量計、20 制御部、21 演算処理部、31 薬剤貯留槽、32 調節機構、50 処理槽、51 外筒水槽、52 内筒水槽、53 センターシャフト、54 ロータリージョイント、60 被処理水導入部、61 導入管、62 フィードパイプ、62a 上部、62b 下部、63 ロータリージョイント、64 分散管、64a 被処理水吐出口、70 スラッジブランケット部、80 水質検知部、90 濃縮部、91 濃縮汚泥掻き寄せ機、L1~L4 ライン、C 清澄層、K 仮想境界層、L 軸、M モーター、S 薬剤、W 被処理水、W1 処理水、Z1 フロック成長ゾーン、Z2 分離ゾーン
図1
図2