(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】装飾シート、装飾シートを含む構造体及び装飾シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220517BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220517BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220517BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20220517BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/40
B32B27/30 A
B29C51/12
B29C51/14
(21)【出願番号】P 2017164118
(22)【出願日】2017-08-29
【審査請求日】2020-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】柴原 徳人
(72)【発明者】
【氏名】安田 大悟
(72)【発明者】
【氏名】高松 頼信
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-016951(JP,A)
【文献】特開2017-185803(JP,A)
【文献】特開2016-141114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 51/00-51/46
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸を有する印刷面を含む加飾層と、
前記加飾層の前記印刷面の上又は前記加飾層の上方に配置される平滑化樹脂層と
を有し、前記平滑化樹脂層の表面が前記印刷面より平滑であ
り、前記加飾層の前記印刷面の表面粗さRz1が4μm以下である、真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着される、装飾シート。
【請求項2】
前記加飾層の前記印刷面の表面粗さRz1が0.2μm以上であり、前記平滑化樹脂層の表面粗さRz2がRz1の0.95倍以下である、請求項1に記載の装飾シート。
【請求項3】
前記印刷面がグラビア印刷面である、請求項1又は2のいずれかに記載の装飾シート。
【請求項4】
前記平滑化樹脂層
を形成する樹脂の貯蔵弾性率が、周波数10Hz、ストレッチモードの条件で測定したときに100℃~150℃の温度範囲
で1×10
6Pa~1.5×10
8Paである、請求項1~3のいずれか一項に記載の装飾シート。
【請求項5】
前記平滑化樹脂層は、ポリウレタン又はアクリル樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の装飾シート。
【請求項6】
基材と、前記基材の表面に適用された請求項1~5のいずれか一項に記載の装飾シートとを含む構造体。
【請求項7】
凹凸を有する印刷面を含む加飾層を形成する工程と、
前記加飾層の前記印刷面の上又は前記加飾層の上方に平滑化樹脂層を形成し、前記印刷面より平滑な平滑化樹脂層の表面を形成する工程と
を含
み、前記加飾層の前記印刷面の表面粗さRz1が4μm以下である、
真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着される、装飾シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真空圧空成形法又は射出成形法を用いて基材に適用される、装飾シート、装飾シートを含む構造体、及び装飾シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装品及び外装品などの立体基材表面を加飾する方法として、基材の表面に装飾シート又はフィルムを貼り付ける方法が知られている。代表的な装飾シートの貼り付け方法としては、インモールド射出成形法が挙げられる。この方法では、ベースシート上に加飾層などを形成した装飾シートをそのまま、あるいは予備成形した後、射出成形用金型内にセットし、立体形状の成形品を射出成形すると同時にこの装飾シートを成形品に一体的に接着して加飾を行う。
【0003】
基材への装飾シートの貼り付け方法として、真空圧空成形法も知られている。真空圧空成形法では、予め成形された基材に対し、装飾シートを室温で又は加熱雰囲気下で、延伸させながら、圧力差を用いて基材に貼り付ける。基材の成形とは別途の作業で部品の基材面へ装飾シートが貼り付けられるので、一台の真空圧空成形装置で、様々な形状の基材に対し装飾シートを貼り付けることができる。また、真空圧空成形法は、基材表面の立体形状に対し、追従性よく貼り付けることが可能であり、インモールド射出成形法では困難である、基材端部付近における表面から裏面にかけての連続的な被覆、すなわち巻き込み被覆も可能になる。このように、真空圧空成形法によれば、複雑な種々の形状の三次元立体基材に対して優れた被覆性で装飾シートを貼り付けることができる。
【0004】
特許文献1(特開2009-035588号公報)は、「基材と基材上の接着層を含む接着フィルムであって、前記接着層が、(A)ポリマーの全繰返し単位数に対してカルボキシル基を含有する繰返し単位数の割合が4.0~25%である、25℃以下のガラス転移温度(Tg)を有するカルボキシル基含有(メタ)アクリルポリマー、及び(B)ポリマーの全繰返し単位数に対してアミノ基を含有する繰返し単位数の割合が3.5~15%である、75℃以上のガラス転移温度(Tg)を有するアミノ基含有(メタ)アクリルポリマーを含み、成分(A)と成分(B)の配合比が重量比で62:38~75:25である、接着フィルム」を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
装飾シートの加飾層は、一般にグラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などの印刷技術を用いて形成される。これらの印刷技術は画像をインクの網点すなわちインクドットの密度により表現するものであるため、印刷されたインク材料の厚みの違いによる微小な凹凸が印刷面に生じ、またその凹凸の高さ及び密度も表現する色彩によって異なる。グラビア印刷は、他の印刷技術と比較して簡便であるために加飾層の形成に広く使用されているが、印刷面に生じる凹凸が比較的大きくなる傾向がある。
【0007】
本発明者らは、真空圧空成形法又は射出成形法を用い、装飾シートを変形させて、特に延伸しながら基材に貼り付けるときに、印刷面に存在する僅かな凹凸が装飾シート表面まで伝播して、装飾シートの表面品質、例えば鮮映性、グロス感などが損なわれる場合があることを見出した。この現象は、装飾シートを変形せずに平坦な基材に貼り付けたときには確認されていなかった。
【0008】
本開示は、真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着したときに、高い表面品質を提供することのできる装飾シートを提供する。本開示はまた、そのような装飾シートを含む構造体、及びそのような装飾シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施態様によれば、凹凸を有する印刷面を含む加飾層と、前記加飾層の前記印刷面の上又は前記加飾層の上方に配置される平滑化樹脂層とを有し、前記平滑化樹脂層の表面が前記印刷面より平滑である、真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着される、装飾シートが提供される。
【0010】
本開示の別の実施態様によれば、基材と、前記基材の表面に適用された上記装飾シートとを含む構造体が提供される。
【0011】
本開示のさらに別の実施態様によれば、凹凸を有する印刷面を含む加飾層を形成する工程と、前記加飾層の前記印刷面の上又は前記加飾層の上方に平滑化樹脂層を形成し、前記印刷面より平滑な平滑化樹脂層の表面を形成する工程とを含む、真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着される、装飾シートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、加飾層の凹凸を有する印刷面の上又は加飾層の上方に平滑化樹脂層を配置して、印刷面よりも平滑な表面を平滑化樹脂層により装飾シートに付与することにより、装飾シートを真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着したときでも高い表面品質、例えば鮮映性、グロス感などを実現することができる。
【0013】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施態様による装飾シートの概略断面図である。
【
図2】別の実施態様による装飾シートの概略断面図である。
【
図3】真空圧空成形法により湾曲面に貼り付けた例1の装飾シートの写真であり、楕円で囲まれた部分は室内蛍光灯の映り込みを示す。
【
図4】真空圧空成形法により湾曲面に貼り付けた比較例1の装飾シートの写真であり、楕円で囲まれた部分は室内蛍光灯の映り込みを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0016】
本開示において、「シート」には、可とう性を有する積層体であり「フィルム」と呼ばれる薄い積層体も包含される。
【0017】
本開示において、「貯蔵弾性率(E’)」とは、-40℃~200℃の温度範囲において、昇温速度5.0℃/分、周波数10Hzのストレッチモードで粘弾性測定を行ったときの、指定した温度における貯蔵弾性率を意味する。
【0018】
本開示において「透明」とは、波長範囲400~700nmにおける全光線透過率が、約60%以上、約80%以上、又は約90%以上であることを意味する。全光線透過率はJIS K 7361-1:1997(ISO 13468-1:1996)に準拠して決定することができる。
【0019】
本開示において「(メタ)アクリル」とはアクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0020】
本開示において「真空圧空成形法」とは、シート及び3次元形状を有する物品を準備するステップと、加熱装置を内部に有する真空チャンバ内に前記シート及び前記物品を配置するステップであって、前記シートが前記真空チャンバの内部空間を2つに分離し、分離された内部空間の一方に前記物品が配置される、ステップと、前記シートを前記加熱装置によって加熱するステップと、前記物品が配置された内部空間とその反対側の内部空間を共に減圧雰囲気にするステップと、前記物品が配置された内部空間を減圧雰囲気にし、前記反対側の内部空間を加圧雰囲気又は常圧雰囲気としながら前記物品と前記シートとを接触させて、前記物品を前記シートによって被覆するステップとを含む成形方法をいい、「3次元曲面被覆成形法」(Three-dimensional Overlay Method、「TOM」)ともいう。
【0021】
本開示の一実施態様による装飾シートは、真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着されるものであって、凹凸を有する印刷面を含む加飾層と、加飾層の印刷面の上又は加飾層の上方に配置される平滑化樹脂層とを有し、平滑化樹脂層の表面は印刷面より平滑である。
【0022】
図1に、本開示の一実施態様による装飾シート10の断面図を示す。装飾シート10は、凹凸を有する印刷面122を含む加飾層12と、加飾層12の印刷面122の上に配置される平滑化樹脂層14とを有しており、平滑化樹脂層14の表面142は、加飾層12の印刷面122よりも平滑である。
【0023】
装飾シートは、任意の要素として支持層、接着層、表面層、加飾層以外の意匠層、接合層、剥離ライナーなどの追加層をさらに含んでもよく、装飾シートの層の数、種類、配置などは特に限定されない。
図1において、装飾シート10は、任意の要素として、さらに支持層16、基材に装飾シートを取り付けるための接着層18、装飾シートの表面保護に寄与する、透明な表面層22、装飾シートを構成する層同士(
図1では表面層22と平滑化樹脂層14)を接合する接合層24を含むものとして示されている。
【0024】
加飾層は、一般にグラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などの印刷技術を用いて形成することができ、凹凸を有する印刷面を含む。加飾層は一色印刷で形成してもよく、多色印刷で形成してもよい。加飾層は連続であってもよく、不連続であってもよい。一実施態様では、加飾層は個々のインクドットの集合で構成されており不連続である。
【0025】
一実施態様では、加飾層の印刷面はグラビア印刷面である。グラビア印刷は画像品質が高く生産性に優れているが、印刷面の凹凸が大きくなる傾向がある。本開示によれば、印刷面の凹凸が成形後の装飾シートの表面品質に及ぼす影響を軽減しつつ、グラビア印刷の上記利点を享受することができる。
【0026】
加飾層の印刷面を構成するインクドットの形状は、特に限定されないが、例えば高さは、約0.1μm以上、約0.2μm以上、又は約0.3μm以上、約5μm以下、約3μm以下、又は約1μm以下である。インクドットの密度は、用いる印刷版のセル密度又は1インチあたりの線数に依存し、例えば、線数としては約18以上、約50以上、又は約100以上、約500以下、約300以下、又は約200以下である。一般に印刷は複数回繰り返されてより複雑な色、柄等が形成される。印刷を複数回繰り返す場合は、その都度、異なる線数の版を用いることもできる。
【0027】
いくつかの実施態様において、加飾層の印刷面の表面粗さRz1は、約0.2μm以上、約0.5μm以上、又は約0.8μm以上、約5μm以下、約4μm以下、又は約3μm以下である。上記範囲の表面粗さRz1を有する印刷面の凹凸は微細であるが、平滑化樹脂層を有さない装飾シートを真空圧空成形法又は射出成形法により基材に貼り付けると、凹凸が装飾シート表面まで伝播して表面品質が低下する。本開示における表面粗さとは、JIS B 0601:2001に準拠して測定される最大高さ粗さである。
【0028】
加飾層は接着剤を含んでもよい。接着剤を含む加飾層は、装飾シートを構成する他の層と接合層を介さずに接合することができる。接着剤として、一般に使用されるアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。接着剤はグラビア印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などの印刷技術を用いて加飾層に含ませることができる。
【0029】
一実施態様では、接着剤は感熱型接着剤であり、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂、及びフェノキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの熱可塑性樹脂を含む。本開示において「フェノキシ樹脂」とは、ビスフェノール類及びエピクロルヒドリンを用いて合成される、熱可塑性を有するポリヒドロキシポリエーテルを意味し、分子内(例えば末端)に微量のエピクロルヒドリン由来のエポキシ基を有するものも包含される。例えば、フェノキシ樹脂のエポキシ当量は通常のエポキシ樹脂よりも高く、例えば5,000以上、7,000以上又は10,000以上である。
【0030】
平滑化樹脂層は、加飾層の印刷面の上又は加飾層の上方に配置され、加飾層の印刷面よりも平滑な表面を有する。本開示において、「上に配置される」とは、加飾層の印刷面に接触して平滑化樹脂層が配置されることを意味し、「上方に配置される」とは、加飾層からみて表面側に加飾層から離れて平滑化樹脂層が配置されることを意味する。
【0031】
平滑化樹脂層は、真空圧空成形又は射出成形中に加飾層の印刷面の凹凸が装飾シート表面に伝播することを抑制する。如何なる理論に拘束される訳ではないが、装飾シートを変形させて基材に貼り付ける場合、装飾シートの伸びは面内で不均一となることがあり、このことは、特に基材表面の曲率の大きいところなど、貼り付け時に装飾シートにかかる応力が大きくなるところで顕著である。また、インクドットの密度が高い(色が濃い)ところはインクドット同士の融着などにより装飾シートが伸びにくく、一方でインクドットの密度が低い(色が薄い)ところは装飾シートが容易に伸びて薄くなる傾向がある。装飾シートの薄くなった部分では、加飾層の印刷面の凹凸が装飾シート表面により伝播しやすくなり、その部分で装飾シートの表面品質が低下する。本開示の平滑化樹脂層は、装飾シートが変形、特に延伸されるときに、加飾層の印刷面が面内で均一に広がるようにかつ印刷面の凹凸を吸収するように、適度な内部応力を保ちながら流動することにより、加飾層の印刷面の凹凸が装飾シート表面に伝播することを抑制していると考えられる。
【0032】
平滑化樹脂層は、加飾層の印刷面を完全に被覆してもよく、加飾層の印刷面の一部を被覆し他の部分を被覆しなくてもよい。例えば、平滑化樹脂層は加飾層の印刷面のインクドットの隙間の少なくとも一部に充填されていてもよい。一実施態様では、平滑化樹脂層は装飾シートの内部にあり平滑化樹脂層の表面は露出していない。
【0033】
平滑化樹脂層として、様々な樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及び(メタ)アクリル共重合体を包含するアクリル樹脂、ポリウレタン(PU)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)などの共重合体、又はこれらの組み合わせを使用することができる。平滑化樹脂層としてポリウレタン又はアクリル樹脂を含む樹脂層を用いることにより、加飾層の印刷面の凹凸の伝播を効果的に抑制することができる。加飾層がポリウレタンを含むことがより有利である。
【0034】
一実施態様では、平滑化樹脂層の表面粗さRz2は加飾層の印刷面の表面粗さRz1未満である。いくつかの実施態様では、平滑化樹脂層の表面粗さRz2は、約0.05μm以上、約0.1μm以上、又は約0.15μm以上、約1.0μm以下、約0.5μm以下、又は約0.3μm以下である。平滑化樹脂層の表面粗さRz2を上記範囲とすることで、成形後の装飾シートの表面品質を高めることができる。
【0035】
いくつかの実施態様では、平滑化樹脂層の表面粗さRz2は加飾層の印刷面の表面粗さRz1の約0.95倍以下、約0.8倍以下、又は約0.6倍以下である。平滑化樹脂層の表面粗さRz2を上記範囲とすることで、成形後の装飾シートの表面品質を高めることができる。
【0036】
いくつかの実施態様では、平滑化樹脂層は、樹脂と溶媒を混合した樹脂溶液を印刷面に塗布することにより作製されるコーティング層である。樹脂溶液は流動性を有するため印刷面の凹凸を埋めることができ、印刷面の表面粗さに比較して、より平滑な面を形成することができる。コーティング方法には、グラビア印刷、スクリーン印刷、キャスティング等の方法があり、樹脂溶液の粘度はコーティング方法の種類に応じて適切に選択することができる。
【0037】
いくつかの実施態様では、平滑化樹脂層の貯蔵弾性率が、周波数10Hz、ストレッチモードの条件で測定したときに100℃~150℃の温度範囲で約1.0×106Pa以上、約1.5×106Pa以上、又は約2.0×106Pa以上、約1.5×108Pa以下又は約1.3×108Pa以下である。平滑化樹脂層の貯蔵弾性率を上記範囲とすることで、印刷面の凹凸を埋めた平滑化樹脂層の存在により、成形中に平滑化樹脂層が適度な内部応力を保持して、加飾層の印刷面が面内で均一に延伸される。結果的に、加飾層の表面粗さをさらに小さくし、平滑度を増すことができる。
【0038】
いくつかの実施態様では、平滑化樹脂層のコーティング、乾燥後の厚みは加飾層の印刷面の表面粗さRz1の約2倍以上、約5倍以上、又は約10倍以上、約200倍以下、約150倍以下、又は約100倍以下である。平滑化樹脂層の厚みを上記範囲とすることで、成形後の装飾シートの表面品質を高めることができる。本開示における平滑化樹脂層の厚みとは、平滑化樹脂層の最も厚いところの厚みを指す。
【0039】
いくつかの実施態様では、平滑化樹脂層の厚みは、約3μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上であり、約100μm以下、約75μm以下、又は約50μm以下である。平滑化樹脂層の厚みを上記範囲とすることで、成形後の装飾シートの表面品質を高めることができる。
【0040】
任意の要素である支持層として、様々な樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及び(メタ)アクリル共重合体を包含するアクリル樹脂、ポリウレタン(PU)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)などの共重合体、又はこれらの組み合わせを使用することができる。強度、耐衝撃性などの観点から、支持層としてポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びポリカーボネートが有利に使用できる。支持層は加飾層などの支持体となり、成形時に均一な伸びを与え、外部からの穿刺、衝撃などから構造体をより有効に保護する保護層としても機能することができる。
【0041】
一実施態様では支持層は接着性を有する。この実施態様では後述する接着層を必要とせずに装飾シートを物品に取り付けることができる。接着性を有する支持層は後述する接着層と同じ材料で形成することができる。
【0042】
支持層の厚さは様々であってよいが、装飾シートの成形性に悪影響を及ぼさずに上記機能を装飾シートに付与するという観点から、一般に、約2μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上であり、約100μm以下、約75μm以下、又は約50μm以下とすることができる。支持層が平坦でない場合の支持層の厚さとは、支持層のうち最も薄い部分の厚さを意味する。
【0043】
いくつかの実施態様では、支持層の貯蔵弾性率が、周波数10Hz、ストレッチモードの条件で測定したときに100℃~150℃の温度範囲で約1.0×106Pa以上、約1.5×106Pa以上、又は約2.0×106Pa以上、約1.5×108Pa以下又は約1.3×108Pa以下である。支持層の貯蔵弾性率が上記範囲であることにより、真空圧空成形又は射出成形に必要な高温時の強度及び伸びを装飾シートに付与することができる。
【0044】
支持層は一層でもよく、多層構造を有してもよい。支持層が多層構造を有する場合、支持層の貯蔵弾性率とは、個々の層の貯蔵弾性率が複合した、多層構造全体について観測される一つの値を意味する。
【0045】
装飾シートは、基材に装飾シートを取り付けるための接着層をさらに含んでもよい。接着層として、一般に使用されるアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができ、アクリル系接着剤及び熱硬化型ポリウレタン接着剤を有利に使用することができる。接着層として、成形、押出、延伸などによって熱可塑性ポリウレタンをフィルム状に形成したものを使用することもできる。
【0046】
接着層の厚さは、一般に、約5μm以上、約10μm以上、又は約20μm以上、約200μm以下、約100μm以下、又は約80μm以下とすることができる。
【0047】
任意の好適な剥離ライナーを使用して接着層を保護してもよい。代表的な剥離ライナーとして、紙(例えば、クラフト紙)又はポリマー材料(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、エチレンビニルアセテート、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルなど)から作製されるものが挙げられる。剥離ライナーは、必要に応じてシリコーン含有材料又はフルオロカーボン含有材料などの剥離剤でコーティングされていてもよい。
【0048】
剥離ライナーの厚さは、一般に、約5μm以上、約15μm以上又は約25μm以上、約300μm以下、約200μm以下又は約150μm以下である。
【0049】
任意の要素である表面層として、様々な樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及び(メタ)アクリル共重合体を包含するアクリル樹脂、ポリウレタン(PU)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メタクリル酸メチル-フッ化ビニリデン共重合体(PMMA/PVDF)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)及びそのアイオノマー、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)などの共重合体、又はこれらの組み合わせを使用することができる。
【0050】
耐候性に優れていることから、アクリル樹脂、ポリウレタン、フッ素樹脂及びポリ塩化ビニルが好ましく、耐擦傷性に優れており、廃棄物として焼却したり埋め立てたりする際の環境負荷が小さいことから、アクリル樹脂及びポリウレタンがより好ましい。
【0051】
表面層はイソソルビド系ポリカーボネートを含んでもよい。イソソルビド系ポリカーボネートを含む表面層は、イソソルビド系ポリカーボネートを溶媒に溶解して得られた溶液を、キャスティングにより基材上に塗布し、乾燥することにより形成することができる。このようにして形成した表面層は、平坦性が高く、装飾シートの表面品質をより高めることができる。
【0052】
表面層は多層構造を有してもよい。例えば、表面層は、上記樹脂から形成されたフィルムの積層体であってもよく、上記樹脂の多層コーティングであってもよい。
【0053】
表面層の厚さは様々であってよいが、一般に約1μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、約150μm以下、約100μm以下、又は約80μm以下である。複雑な形状の基材に対して装飾シートを適用する場合、表面層は薄い方が形状追従性の観点から有利であり、例えば、約100μm以下、又は約80μm以下であることが望ましい。一方、構造体に高い耐光性及び/又は耐候性を付与する場合、表面層は厚い方が有利であり、例えば約5μm以上、又は約10μm以上であることが望ましい。
【0054】
表面層は、必要に応じて、ベンゾトリアゾール、Tinuvin(商標)400(BASF社製)などの紫外線吸収剤、Tinuvin(商標)292(BASF社製)などのヒンダードアミン光安定化剤(HALS)などを含んでもよい。紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定化剤などを用いることによって、加飾層などに含まれる着色材の、特に紫外線などの光に対する感受性が比較的高い有機顔料の、変色、退色、劣化などを有効に防止することができる。表面層はハードコート材、光沢付与剤などを含んでもよく、追加のハードコート層を有してもよい。
【0055】
表面層は一般に透明である。いくつかの実施態様では、表面層の全光線透過率は、波長範囲400~700nmにおいて、約85%以上、又は約90%以上である。目的とする外観を提供するために、表面層は全体又は部分的に半透明であってもよく、部分的に不透明であってもよい。
【0056】
上記の層を接合するために接合層を用いてもよい。接合層として、一般に使用されるアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。接合層の厚さは、一般に、約0.05μm以上、約0.5μm以上、又は約5μm以上、約100μm以下、約50μm以下、又は約20μm以下とすることができる。
【0057】
装飾シートは加飾層以外の意匠層を含んでもよい。意匠層として、塗装色、金属色などを呈するカラー層、レリーフ(浮き彫り模様)層、光輝層などが挙げられる。意匠層は多層構造を有してもよく、層間に上記の接合層を有してもよい。
【0058】
カラー層として、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、赤色酸化鉄などの無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、アゾレーキ系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドンレッドなどのキナクリドン系顔料などの有機顔料、アルミニウムフレーク、蒸着アルミニウムフレーク、金属酸化物被覆アルミニウムフレーク、着色アルミニウムフレークなどのアルミ光輝材、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物で被覆されたフレーク状のマイカ及び合成マイカなどのパール光輝材などの顔料が、アクリル樹脂、ポリウレタンなどのバインダー樹脂に分散されたものを使用することができる。
【0059】
レリーフ層として、従来公知の方法、例えばエンボス加工、スクラッチ加工、レーザー加工、ドライエッチング加工、又は熱プレス加工などによる凹凸形状を表面に有する熱可塑性樹脂フィルムを使用することができる。凹凸形状を有する離型フィルム上に硬化性アクリル樹脂などの熱硬化性又は放射線硬化性樹脂を塗布し、加熱又は放射線照射により硬化して、離型フィルムを取り除くことによりレリーフ層を形成することもできる。レリーフ層に用いられる熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び放射線硬化性樹脂として、特に限定されないが、フッ素系樹脂、PET、PENなどのポリエステル系樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、ポリカーボネート、ポリアミド、ABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリウレタンなどを使用することができる。
【0060】
カラー層及びレリーフ層の厚さは様々であってよく、一般に約5μm以上、約10μm以上、又は約20μm以上、約500μm以下、約300μm以下、又は約200μm以下とすることができる。
【0061】
光輝層として、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛、ゲルマニウムなどの金属、これらの合金又は化合物を加飾シートの他の層の上に真空蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、めっきなどによって形成された薄膜を使用することができる。光輝層は高い光沢を有するためクロムメッキ代替フィルムなどに好適に使用される。この場合は、金属層の厚さを、約5nm以上、約10nm以上、又は約20nm以上、約10μm以下、約5μm以下、又は約2μm以下とすることができる。
【0062】
光輝層を支持層の内部に組み込んでもよい。
図2に、本開示の別の実施態様による装飾シート10の断面図を示す。
図2の装飾シート10では、支持層16が第1支持層162、光輝層26、及び第2支持層164の積層体であり、第1支持層162及び第2支持層164は内部にエンボス加工などにより形成されるレリーフ表面を含み、レリーフ表面に付与された光輝層26により装飾シートの画像が視覚により変化する。
【0063】
このような支持層16は、例えば、第1支持層162を構成する材料で形成された平坦な層に、エンボスパターンを有する型を必要に応じて加熱しながら圧着することによりレリーフ表面を有する第1支持層162を形成し、その上に金属薄膜を堆積して光輝層26を形成し、さらにその上に第2支持層164を構成する材料を含む組成物を塗布して乾燥又は硬化することにより形成することができる。
【0064】
レリーフ表面のパターン又は模様は規則的でも不規則であってもよく、特に限定されないが、例えば、万線状、木目、砂目、石目、布目、梨地、皮絞、マット、ヘアライン、スピン、文字、記号、幾何学図形などとすることができる。レリーフ表面が溝によって形成される場合、溝の幅は、一般に約5μm以上、又は約10μm以上、約1mm以下、又は約100μm以下の範囲にある。
【0065】
レリーフ表面の深さは、凸形状頂部から連続する凹形状底部までの高低差として決定される。レリーフ表面の深さは、レリーフ表面全体にわたって均一であってもよく、様々な値であってもよい。レリーフ表面の深さは、一般に約5μm以上、又は約10μm以上、約100μm以下、又は約50μm以下の範囲にある。
【0066】
表面層、支持層、接着層、及び/又は接合層は、意匠層について説明したものと同じ無機顔料、有機顔料、アルミ光輝材、パール光輝材などの着色材を含んでもよい。
【0067】
一実施態様の装飾シートの製造方法は、凹凸を有する印刷面を含む加飾層を形成する工程と、加飾層の印刷面の上又は加飾層の上方に平滑化樹脂層を形成し、印刷面より平滑な平滑化樹脂層の表面を形成する工程とを含む。加飾層及び平滑化樹脂層の形成は既に説明したとおりである。
【0068】
その他の層についても、例えば、押出、延伸などによってフィルム状に形成したものを使用し、接合層を用いて又は用いずにこれらの層を積層することができる。別の層又はライナーの上に樹脂組成物をナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによってコーティングし、必要に応じて加熱して乾燥又は硬化することにより、各層を形成することもできる。例えば、表面を剥離処理したPETフィルムなどのライナーの上に各層を形成し、これらを積層することにより装飾シートを製造することができる。あるいは、一枚のライナーの上に、コーティング工程と必要に応じて硬化工程を繰り返して、各層を順次積層することもできる。各層の材料を多層押し出しして装飾シートを形成することもできる。
【0069】
装飾シートの厚さは、一般に約25μm以上、約50μm以上、又は約100μm以上、約2mm以下、約1mm以下、又は約500μm以下である。装飾シートの厚さを上記範囲とすることにより、複雑な形状を有する基材に対しても装飾シートを十分に追従させて、優れた外観を有する構造体を提供することができる。
【0070】
装飾シートの表面の鮮映性を評価するためには、装飾シート表面の表面粗さRzではなく、表面状態を面のうねりで捉えたうねり表面粗さWzという指標を用いることがより適している。例えば、成形前の装飾シートのうねり表面粗さWzaは、一般に約0.1μm以上、約0.3μm以上、又は約0.5μm以上、約5μm以下、約3μm以下、又は約1μm以下である。いくつかの実施態様では、加飾層の印刷面の凹凸の装飾シート表面への伝播が抑制されるため、装飾シートの成形後のうねり表面粗さWzbは成形前のうねり表面粗さWzaと略同等であるか、それに加えて成形中の変形によって装飾シート表面が平滑化されるためそれよりも小さく、例えば約1.2倍以下、約1倍以下、又は約0.8倍以下である。
【0071】
装飾シートの耐引っかき性はJIS K5600-5-4:1999に準拠した鉛筆硬度によって評価することができる。一実施態様の装飾シートは、接着層をガラス板の表面に向けて装飾シートをガラス板の上に固定し、600mm/分の速度で表面層を引っかいたときの鉛筆硬度が2B以上である。鉛筆硬度は6B以上、5B以上、4B以上、又は3B以上とすることができる。
【0072】
成形後の装飾シートの最大面積伸び率は、一般に、約50%以上、約100%以上、又は約200%以上、約1000%以下、約500%以下、又は約300%以下である。面積伸び率は、面積伸び率(%)=(B-A)/A(A:装飾シートのある部分の成形前の面積、B:装飾シートのAに対応する部分の成形後の面積)で定義される。例えば、装飾シートのある部分の面積が成形前に100cm2であって、その部分が成形後に物品の表面で250cm2となった場合は150%である。最大面積伸び率は、成形品表面全ての装飾シートのなかで最も高い面積伸び率の箇所の値を指す。3次元形状を有する物品に平らなフィルムを真空圧空成形法により貼り付けると、例えば最初にフィルムが物品に当たる部分はほとんど延伸されず面積伸び率はほぼ0%であり、最後に貼り付けられる端部では大きく延伸されて面積伸び率が200%以上になるといったように、場所によって面積伸び率が大きく異なる。フィルムが最も大きく延伸された部分で物品に対する未追従やフィルムの破れといった不具合が起きるか否かが成形の合否を決めることから、成形品全体の平均面積伸び率ではなく、最も大きく延伸された部分の面積伸び率、すなわち最大面積伸び率が成形品の合否の実質的な指標となる。最大面積伸び率は、例えば成形前の装飾シートの表面全体に1mm四方のマス目を印刷しておき、成形後にその面積変化を測定する、あるいは成形前後の装飾シートの厚さを測定することにより確認できる。
【0073】
一実施態様によれば、基材と、基材の表面に適用された装飾シートとを含む構造体が提供される。基材は様々な材料、例えばポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、又はそれらの混合物若しくはブレンドで作られていてよく、様々な平面及び3次元形状を有する材料を使用することができる。真空圧空成形法又は射出成形法により装飾シートを基材に適用することによって、装飾シート及び基材が一体化された構造体を形成することができる。真空圧空成形及び射出成形は従来公知の方法によって行うことができる。
【0074】
本開示の装飾シートは、自動車部品、家電商品、鉄道などの車両、建材などの加飾に使用することができ、特に高光沢又は微細な模様を有する自動車の内装品及び外装品、家電製品などの加飾に有利に使用することができる。
【実施例】
【0075】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0076】
本実施例で使用した試薬、原料などを以下の表1に示す。
【0077】
【0078】
[例1]
(1)G2PETフィルム上にD-6260ポリウレタン溶液を塗布して80℃で5分間、さらに100℃で5分間の条件で乾燥して、25μm厚ポリウレタン層を形成した。
【0079】
(2)ヘアライン柄の意匠を有するエンボスシリンダーを使用して、シリンダー温度190℃で(1)で形成したポリウレタン層の表面にヘアライン柄の形状を転写した。
【0080】
(3)ポリウレタン層のエンボス加工面に以下の条件でスズを蒸着した(OD値1.1~1.2)。
装置:真空蒸着装置EX-400(アルバック株式会社、日本国神奈川県茅ヶ崎市)
ターゲット金属蒸発のエネルギー源:電子線
スズ蒸着層の厚さ:430オングストローム
スズ蒸着層の成膜速度:5オングストローム/秒
【0081】
(4)ポリウレタン層のエンボス加工面にD-6260ポリウレタン溶液を塗布し、(1)と同じ条件で乾燥して、ポリウレタン層のエンボス加工面の凹凸を埋めた。
【0082】
(5)アクリル接着層
50質量部のSK1506BHE、17質量部のYM-5及び33質量部のメチルイソブチルケトン(MIBK)を混合して得られたアクリル接着剤溶液を、剥離処理が施されたG2PETフィルム上に塗布し、80℃で5分間、さらに120℃で5分間の条件で乾燥して、40μm厚アクリル接着層を形成した。
【0083】
(6)(4)で凹凸が埋められたポリウレタン層のエンボス加工面に、(5)で形成したアクリル接着層を50℃で熱ラミネートした。
【0084】
(7)G2PETフィルム上にフェノキシ樹脂を含むポリウレタン系接着剤を1版、インクを5版、フェノキシ樹脂を含むポリウレタン系接着剤を1版の順でグラビア印刷して加飾層を形成した。その上にD-6260ポリウレタン溶液を平坦な面上での乾燥厚みが10μmになる塗布量で塗布し、(1)と同じ条件で乾燥して、平滑化樹脂層を形成した。
【0085】
(8)(6)で形成した積層体のポリウレタン層上のG2PETフィルムを除去した後、(7)でポリウレタンが塗布された加飾層とポリウレタン層が面するように120℃で熱ラミネートした。
【0086】
(9)加飾層上のG2PETフィルムを除去し、表層部材としてS014Gアクリルフィルムを加飾層上に120℃で熱ラミネートして、例1の装飾シートを得た。
【0087】
[比較例1]
(1)G2PETフィルム上にD-6260ポリウレタン溶液を塗布して80℃で5分間、さらに100℃で5分間の条件で乾燥して、25μm厚ポリウレタン層を形成した。
【0088】
(2)ヘアライン柄の意匠を有するエンボスシリンダーを使用して、シリンダー温度190℃で(1)で形成したポリウレタン層の表面にヘアライン柄の形状を転写した。
【0089】
(3)ポリウレタン層のエンボス加工面に以下の条件でスズを蒸着した(OD値1.1~1.2)。
装置:真空蒸着装置EX-400(アルバック株式会社)
ターゲット金属を蒸発させるエネルギー源:電子線
スズ蒸着層の厚さ:430オングストローム
スズ蒸着層の成膜速度:5オングストローム/秒
【0090】
(4)ポリウレタン層のエンボス加工面にD-6260ポリウレタン溶液を塗布し、(1)と同じ条件で乾燥して、ポリウレタン層のエンボス加工面の凹凸を埋めた。
【0091】
(5)アクリル接着層
50質量部のSK1506BHE、17質量部のYM-5及び33質量部のメチルイソブチルケトン(MIBK)を混合して得られたアクリル接着剤溶液を、剥離処理が施されたG2PETフィルム上に塗布し、80℃で5分間、さらに120℃で5分間の条件で乾燥して、40μm厚アクリル接着層を形成した。
【0092】
(6)(4)で凹凸が埋められたポリウレタン層のエンボス加工面に、(5)で形成したアクリル接着層を50℃で熱ラミネートした。
【0093】
(7)G2PETフィルム上に接着剤を1版、インクを5版、接着剤を1版の順でグラビア印刷して加飾層を形成した。
【0094】
(8)(6)で形成した積層体のポリウレタン層上のG2PETフィルムを除去した後、(7)の加飾層とポリウレタン層が面するように120℃で熱ラミネートした。
【0095】
(9)加飾層上のG2PETフィルムを除去し、表層部材としてS014Gアクリルフィルムを加飾層上に120℃で熱ラミネートして、比較例1の装飾シートを得た。
【0096】
[加飾層及び平滑化樹脂層の表面粗さ測定]
表面粗さ測定機Mitutoyo SURFTEST SV-3100(株式会社ミツトヨ、日本国神奈川県川崎市)を使用して、例1の(7)で形成した加飾層について、D-6260ポリウレタン溶液を平滑面上での乾燥厚みが10μmになる塗布量で塗布し、塗布する前と塗布後の表面粗さRz(μm)を測定した。塗布前の表面粗さは加飾層の印刷面の表面粗さRz1に相当し、塗布後の表面粗さは平滑化樹脂層の表面粗さRz2に相当する。結果を表2に示す。なお、シートに対して塗布方向をMachine Direction(MD)、この方向に直交する方向をCross Direction(CD)とし、それぞれの方向で表面粗さの測定を行った。表2における改善率は(Rz1-Rz2)/Rz1(%)である。
【0097】
【0098】
[平滑化樹脂層の粘弾性特性]
平滑化樹脂層の粘弾性特性を以下の手順で測定した。G2PETフィルム上にD-6260ポリウレタン溶液を塗布して80℃で5分間、さらに100℃で5分間の条件で乾燥して、平滑化樹脂層として25μm厚ポリウレタン層を形成した。動的粘弾性測定装置ARES(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、日本国東京都品川区)を用い、-40℃~200℃の温度範囲において、昇温速度5.0℃/分、周波数10Hzのストレッチモードで測定を行ったところ、100℃で8.55×107Pa、150℃で6.79×106Paであり、ストレッチモードで100℃~150℃の温度範囲における貯蔵弾性率は、1×106Pa~1.5×108Paの範囲に入っていた。
【0099】
[真空成形]
両面真空成型機(布施真空株式会社、日本国大阪府羽曳野市)を用いて、例1及び比較例1の装飾シートを145℃でプラスチック基材(平板及びカマボコ形状)上に真空圧空成形により貼り付けた。
【0100】
[鮮映性]
装飾シート表面への室内蛍光灯の映り込み状態を比較した。結果を
図3(例1)及び
図4(比較例1)に写真で示す。これらの図面において楕円で囲まれた部分には蛍光灯の映り込みが視認できる。例1の装飾シートでは蛍光灯の映り込みは鮮明であり、装飾シート表面は平滑である。比較例1の装飾シートでは蛍光灯の映り込みが不鮮明であり、その近傍において光が粒状に反射していることから、装飾シート表面に凹凸が生じていることが推察される。
【0101】
[装飾シートの表面粗さ測定]
装飾シート表面の鮮映性を客観的に評価する指標として、例1と比較例1の装飾シートについて、MD及びCDそれぞれの方向で、真空圧空成形前後のうねり表面粗さWza及びWzbを測定した。目視での鮮映性と合わせて結果を表3に示す。また、うねり表面粗さWzと併せて測定した真空圧空成形前後の表面粗さRaの値を表4に示す。表3におけるうねり改善率は(Wza-Wzb)/Wza(%)であり、表4における平面改善率は(Raa-Rab)/Raa(%)である。
【0102】
【0103】
【0104】
比較例1の装飾シートでは成形後、特に湾曲面に延伸されて貼り付けられたときに表面粗さが増加している。このことから、平滑化樹脂層のない比較例1では、成形中に加飾層の印刷面の凹凸が装飾シート表面に伝播し、成形中に装飾シートが延伸されて薄くなることとも相まって、装飾シートの表面粗さが増大することが示唆される。本発明の実施態様の一部を以下の態様1~7に記載する。
[態様1]
凹凸を有する印刷面を含む加飾層と、
前記加飾層の前記印刷面の上又は前記加飾層の上方に配置される平滑化樹脂層と
を有し、前記平滑化樹脂層の表面が前記印刷面より平滑である、真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着される、装飾シート。
[態様2]
前記加飾層の前記印刷面の表面粗さRz1が0.2μm以上であり、前記平滑化樹脂層の表面粗さRz2がRz1の0.95倍以下である、態様1に記載の装飾シート。
[態様3]
前記印刷面がグラビア印刷面である、態様1又は2のいずれかに記載の装飾シート。
[態様4]
前記平滑化樹脂層は、周波数10Hz、ストレッチモードの条件で測定したときに100℃~150℃の温度範囲で貯蔵弾性率が1×10
6
Pa~1.5×10
8
Paである、態様1~3のいずれかに記載の装飾シート。
[態様5]
前記平滑化樹脂層は、ポリウレタン又はアクリル樹脂を含む、態様1~4のいずれかに記載の装飾シート。
[態様6]
基材と、前記基材の表面に適用された態様1~5のいずれかに記載の装飾シートとを含む構造体。
[態様7]
凹凸を有する印刷面を含む加飾層を形成する工程と、
前記加飾層の前記印刷面の上又は前記加飾層の上方に平滑化樹脂層を形成し、前記印刷面より平滑な平滑化樹脂層の表面を形成する工程と
を含む、
真空圧空成形法又は射出成形法により基材に接着される、装飾シートの製造方法。
【0105】
10 装飾シート
12 加飾層
122 印刷面
14 平滑化樹脂層
142 平滑化樹脂層の表面
16 支持層
162 第1支持層
164 第2支持層
18 接着層
22 表面層
24 接合層
26 光輝層