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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/051 20060101AFI20220517BHJP
   F04D 29/08 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
F04D29/051
F04D29/08 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017177847
(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公開番号】P2019052600
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-06-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】永尾 英樹
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-533888(JP,A)
【文献】特表2001-515991(JP,A)
【文献】特開2002-138962(JP,A)
【文献】米国特許第04170435(US,A)
【文献】特許第4534142(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/051
F04D 29/08
F04D 29/58
F04D 29/28
F04D 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心として回転する回転軸と、
前記回転軸とともに回転するディスク部を有するインペラと、
前記回転軸及び前記インペラを覆うケーシングと、
前記ディスク部の前記軸線の延びる軸線方向の一方側を向く背面と前記ケーシングとの間で前記軸線方向のスラスト力を調整するスラスト力調整部と、を備え、
前記スラスト力調整部は、
前記背面と前記ケーシングとの間を封止する外側シール部と、
前記外側シール部から前記軸線を中心とする径方向の内側に離れた位置に配置され、前記背面と前記ケーシングとの間を封止する内側シール部と、
前記内側シール部から前記径方向の内側に離れた位置で、前記軸線方向における前記背面と前記ケーシングとの間隔が狭められた絞り部を形成する絞り形成部とを有し、
前記背面と前記ケーシングとの間には、前記外側シール部と前記内側シール部とで挟まれた外側空間と、前記内側シール部と前記絞り部とで挟まれた内側空間が形成され、
前記絞り部の前記軸線方向の幅は、前記内側空間の前記軸線方向の幅よりも狭くされ、
前記内側空間は、前記外側空間と同一とみなせる容積となるように形成され、
前記インペラは、前記背面から突出して前記ディスク部と一体的に形成されている凸部を有し、
前記外側シール部及び前記内側シール部の少なくとも一方は、前記凸部における前記回転軸の外表面と平行に形成されたシール面と、前記ケーシングとの間の前記径方向の隙間を封止している圧縮機。
【請求項2】
軸線を中心として回転する回転軸と、
前記回転軸とともに回転するディスク部を有するインペラと、
前記回転軸及び前記インペラを覆うケーシングと、
前記ディスク部の前記軸線の延びる軸線方向の一方側を向く背面と前記ケーシングとの間で前記軸線方向のスラスト力を調整するスラスト力調整部と、を備え、
前記スラスト力調整部は、
前記背面と前記ケーシングとの間を封止する外側シール部と、
前記外側シール部から前記軸線を中心とする径方向の内側に離れた位置に配置され、前記背面と前記ケーシングとの間を封止する内側シール部と、
前記内側シール部から前記径方向の内側に離れた位置で、前記軸線方向における前記背面と前記ケーシングとの間隔が狭められた絞り部を形成する絞り形成部とを有し、
前記背面と前記ケーシングとの間には、前記外側シール部と前記内側シール部とで挟まれた外側空間と、前記内側シール部と前記絞り部とで挟まれた内側空間が形成され、
前記絞り部の前記軸線方向の幅は、前記内側空間の前記軸線方向の幅よりも狭くされ、
前記内側空間は、前記外側空間と同一とみなせる容積となるように形成され、
前記外側空間内の圧力を高めるガスを外部から前記外側空間に導入する外部ガス導入部をさらに備える圧縮機。
【請求項3】
前記外側空間内の圧力を高めるガスを外部から前記外側空間に導入する外部ガス導入部をさらに備える請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記背面は、前記外側空間及び前記内側空間の少なくとも一方に面する領域に、前記軸線方向に対して傾斜した傾斜面を有する請求項1から請求項3の何れか一項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記回転軸に回転駆動力を出力するモータと、
前記内側空間から前記絞り部を経て流出した気体を前記モータに供給するモータ冷却部とをさらに備える請求項1から請求項4の何れか一項に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記インペラとして、第一インペラと、前記第一インペラと前記軸線方向の反対側を向いて配置されて前記第一インペラで圧縮された作動流体を圧縮する第二インペラとを有し、
前記スラスト力調整部は、前記第一インペラ及び前記第二インペラの両方に設けられている請求項1から請求項5の何れか一項に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に遠心圧縮機は、回転軸に設けられたインペラと、このインペラを外側から覆うことでインペラとの間で流路を画成するケーシングと、を備えている。遠心圧縮機では、ケーシング内に形成された流路を介して外部から供給された流体が、インペラの回転によって圧縮されている。
【0003】
遠心圧縮機では、流体が有する圧力によって、インペラや回転軸に対し、回転軸の軸線方向にスラスト力が発生する。具体的には、流入口が形成されたインペラの径方向内側の領域に、圧縮前の流体の圧力が作用する。また、インペラの径方向外側の領域では、インペラ内に形成された流路の流出口から流出した流体の一部が、インペラの軸線方向の両面側に流れ込む。これによって、圧縮後の流体の高い圧力は、インペラの径方向外側の領域でインペラの軸線方向の両面に作用する。
【0004】
上記したように、インペラには、圧縮された流体の圧力によって、軸線方向に沿って互いに反対側を向く第一方向のスラスト力と第二方向のスラスト力が作用する。この第一方向のスラスト力と第二方向のスラスト力とが互いに相殺される結果、インペラや回転軸には、第一方向のスラスト力と第二方向のスラスト力との差分のスラスト力が実質的に作用する。このスラスト力によって移動する回転軸を支持するため、遠心圧縮機等の回転機械では、スラスト軸受等の別の装置が設けられている。
【0005】
また、特許文献1に記載の圧縮機は、スラスト軸受を用いることなく、スラスト力によって移動する回転軸を支持する構造を有している。具体的には、この圧縮機では、回転軸やインペラを収容するハウジング内にバランス室が形成されている。また、回転軸には、バランス室に配置される円盤状のバランスピストンが一体に設けられている。そして、このバランスピストンの周辺を複数のシール部材でシールすることで、バランスピストンの周辺に複数の空間が形成されている。シール部材としては、バランスピストンの外周面とバランス室の内周面との間をシールする第1のラビリンスシールと、回転軸の外周面とハウジングとの間をシールする第2のラビリンスシールとが設けられている。バランスピストンの周辺に形成される空間としては、第1のラビリンスシールよりも上流側であるバランスピストンの高圧側面に面する第1の空間と、第1のラビリンスシールと第2のラビリンスシールとの間でバランスピストンの低圧側面に面する第2空間とが形成されている。さらに、ハウジングから回転軸の端面に向かって延びる舌部の先端と回転軸の端面との間に絞り部が形成されている。そして、第2空間よりもバランスピストンの低圧側面から離れた位置に、第2のラビリンスシールと絞り部とによって、第3の空間が形成されている。
【0006】
特許文献1に記載の圧縮機では、回転軸の移動により、絞り部の隙間が狭くなっている場合には、バランス室からのリーク量が減少する。その結果、バランスピストンの低圧側面側に形成された第2空間及び第3空間内の圧力が上がり、絞り部の隙間(クリアランス)が広がる方向にバランスピストンが押し戻される。逆に、回転軸の移動により絞り部の隙間が広くなっている場合には、バランス室からのリーク量が増加する。その結果、バランスピストンの低圧側面側に形成された第2空間及び第3空間内の圧力が下がり、絞り部の隙間(クリアランス)が狭まる方向にバランスピストンが押し戻される。 すなわち、スラスト軸受等の装置等を必要とすることなくスラスト力のバランスが調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4534142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の構造では回転軸に円盤状のバランスピストンを設ける必要がある。その結果、スラスト軸受等の別の部材を設ける場合と同様に、回転軸の長さが長くなってしまう。回転軸の長さが長くなることで、軸振動等の悪影響や、圧縮機としての大きさや重量の増加を招く可能性がある。したがって、回転軸の長さを低減しつつ、スラスト力のバランスをとることが望まれている。
【0009】
本発明は、上記要望に応えるためになされたものであって、回転軸の長さを低減しつつ、回転軸に生じるスラスト力のバランスをとることが可能な圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明の第一態様に係る圧縮機は、軸線を中心として回転する回転軸と、前記回転軸とともに回転するディスク部を有するインペラと、前記回転軸及び前記インペラを覆うケーシングと、前記ディスク部の前記軸線の延びる軸線方向の一方側を向く背面と前記ケーシングとの間で前記軸線方向のスラスト力を調整するスラスト力調整部と、を備え、前記スラスト力調整部は、前記背面と前記ケーシングとの間を封止する外側シール部と、前記外側シール部から前記軸線を中心とする径方向の内側に離れた位置に配置され、前記背面と前記ケーシングとの間を封止する内側シール部と、前記内側シール部から前記径方向の内側に離れた位置で、前記軸線方向における前記背面と前記ケーシングとの間隔が狭められた絞り部を形成する絞り形成部とを有し、前記背面と前記ケーシングとの間には、前記外側シール部と前記内側シール部とで挟まれた外側空間と、前記内側シール部と前記絞り部とで挟まれた内側空間が形成され、前記絞り部の前記軸線方向の幅は、前記内側空間の前記軸線方向の幅よりも狭くされ、前記内側空間は、前記外側空間と同一とみなせる容積となるように形成され、前記インペラは、前記背面から突出して前記ディスク部と一体的に形成されている凸部を有し、前記外側シール部及び前記内側シール部の少なくとも一方は、前記凸部における前記回転軸の外表面と平行に形成されたシール面と、前記ケーシングとの間の前記径方向の隙間を封止している。
このような構成によれば、シール面が回転軸の外表面と平行に形成されていることで、
外側シール部や内側シール部に対するインペラの軸線方向の移動を許容したまま、シール
性が確保されている。したがって、回転軸に対して軸線方向への移動や熱伸びが生じてシ
ール面の軸線方向の位置がずれた場合であっても、シール性が損なわれることを防止でき
る。
【0011】
このような構成によれば、外側空間には、インペラで圧縮された作動流体の一部が外側シール部を経て流入する。外側空間に流入した作動流体は内側シール部を経て内側空間に流入する。さらに、内側空間の流入した作動流体は絞り部へと流れていく。絞り部の軸線方向の幅が内側空間の軸線方向の幅よりも狭いことで、作動流体は絞り部を通過する際に減圧されながら内側空間から流出していく。この状態で、回転軸とともにインペラがスラスト力を受けて軸線方向に移動して絞り部の間隔が狭くなると、内側空間からのリーク量が減少し、外側空間及び内側空間内の圧力が上がる。その結果、絞り部の間隔が広がる方向にインペラが押し戻される。逆に、インペラの移動により絞り部の間隔が広くなると、内側空間からのリーク量が増加し、外側空間及び内側空間内の圧力が下がる。その結果、絞り部の間隔が狭まる方向にインペラが押し戻される。このように、インペラを移動させることで、回転軸に作用するスラスト力が変動して、回転軸が軸線方向に移動したとしても、回転軸を元の位置に自動的に復帰させる(戻す)ことができる。
【0013】
た、本発明の他の態様に係る圧縮機は、軸線を中心として回転する回転軸と、前記回転軸とともに回転するディスク部を有するインペラと、前記回転軸及び前記インペラを覆うケーシングと、前記ディスク部の前記軸線の延びる軸線方向の一方側を向く背面と前記ケーシングとの間で前記軸線方向のスラスト力を調整するスラスト力調整部と、を備え、前記スラスト力調整部は、前記背面と前記ケーシングとの間を封止する外側シール部と、前記外側シール部から前記軸線を中心とする径方向の内側に離れた位置に配置され、前記背面と前記ケーシングとの間を封止する内側シール部と、前記内側シール部から前記径方向の内側に離れた位置で、前記軸線方向における前記背面と前記ケーシングとの間隔が狭められた絞り部を形成する絞り形成部とを有し、前記背面と前記ケーシングとの間には、前記外側シール部と前記内側シール部とで挟まれた外側空間と、前記内側シール部と前記絞り部とで挟まれた内側空間が形成され、前記絞り部の前記軸線方向の幅は、前記内側空間の前記軸線方向の幅よりも狭くされ、前記内側空間は、前記外側空間と同一とみなせる容積となるように形成され、前記外側空間内の圧力を高めるガスを外部から前記外側空間に導入する外部ガス導入部をさらに備える。
このような構成によれば、圧縮機の起動時にように未だ作動流体が圧縮されておらず、作動流体によって外側空間内の圧力を高めることができない場合であっても、外側空間及び内側空間内の圧力を高めることができる。したがって、作動流体の圧力が高くない状態で回転軸が移動した場合であっても、インペラによってスラスト力のバランスをとることができる。
【0014】
また、本発明の他の態様に係る圧縮機では、前記背面は、前記外側空間及び前記内側空間の少なくとも一方に面する領域に、前記軸線方向に対して傾斜した傾斜面を有している。
このような構成によれば、軸線方向に対して傾斜した傾斜面を有することで、軸線方向の力を受ける領域の面積が増加する。これにより、インペラの背面で大きなスラスト力を受けることができる。
【0016】
また、本発明の第四態様に係る圧縮機では、第一から第三態様の何れか一つにおいて、前記回転軸に回転駆動力を出力するモータと、前記内側空間から前記絞り部を経て流出した気体を前記モータに供給するモータ冷却部とをさらに備えていてもよい。
【0017】
このような構成によれば、絞り部から流出した気体をモータに供給することで、絞り部から漏れた気体を利用してモータを冷却することができる。
【0018】
また、本発明の第五態様に係る圧縮機では、第一から第四態様の何れか一つにおいて、前記インペラとして、第一インペラと、前記第一インペラと前記軸線方向の反対側を向いて配置されて前記第一インペラで圧縮された作動流体を圧縮する第二インペラとを有し、前記スラスト力調整部は、前記第一インペラ及び前記第二インペラの両方に設けられていてもよい。
【0019】
このような構成によれば、軸線方向の両側から回転軸の位置が調整される。したがって、回転軸に作用するスラスト力が変動して、回転軸が軸線方向に移動したとしても、回転軸を元の位置に自動的かつ迅速に復帰させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、回転軸の長さを低減しつつ、回転軸に生じるスラスト力のバランスをとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一実施形態の圧縮機を示す模式図である。
図2】本発明の第一実施形態における圧縮機に設けられた第一インペラ周辺の構成を示す要部断面図である。
図3】本発明の第二実施形態の圧縮機を示す模式図である。
図4】本発明の第二実施形態における圧縮機に設けられた第一インペラ及び第二インペラ周辺の構成を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
《第一実施形態》
以下、本発明の第一実施形態について図1及び図2を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の圧縮機1は、複数のインペラ6を備えるモータ一体型の圧縮機である。圧縮機1は、ケーシング2と、ジャーナル軸受3と、回転軸4と、モータ5と、インペラ6と、スラスト力調整部7と、モータ冷却部81と、外部ガス導入部83とを備えている。本実施形態の圧縮機1は、それよりも上流、下流のプロセスと共にプラント等の設備を構成している。圧縮機1は、両端に配置される一対の圧縮部10を備えている。一対の圧縮部10は、1段目の第一圧縮部11と、2段目の第二圧縮部12とである。すなわち、この圧縮機1は、1軸2段の圧縮機として構成されている。
【0025】
このような圧縮機1においては、1段目の第一圧縮部11で圧縮された作動流体(プロセスガス)は、昇圧ガスライン13を経て、2段目の第二圧縮部12に流入する。この第二圧縮部12を流通する過程で、作動流体はさらに圧縮されて、高圧の作動流体となる。
【0026】
ケーシング2は、圧縮機1の外殻を形成している。ケーシング2は、ジャーナル軸受3、回転軸4、モータ5、及びインペラ6を覆っている。
【0027】
ジャーナル軸受3は、ケーシング2内において、水平方向に延びた回転軸4の軸線Cの延びる軸線方向Daに間隔をあけて一対が設けられている。ジャーナル軸受3は、ケーシング2に保持されている。本実施形態のジャーナル軸受3は、ガスが供給されるガス軸受である。ジャーナル軸受3には、第一圧縮部11により昇圧された作動流体からの抽気が動圧を作用させるために供給され、静圧を作用させるために外部のガスや抽気が供給される。ジャーナル軸受3は、短冊状の複数のパッド32と、これらのパッド32を保持する軸受ハウジング31とを備えている。パッド32は、回転軸4の外表面に沿って湾曲している。軸受ハウジング31は、ケーシング2の内周面から回転軸4の外表面に向かって突出するように、ケーシング2に一体に設けられている。
【0028】
ジャーナル軸受3は、回転する回転軸4とパッド32との間に巻き込まれるガスに動圧が発生することにより、回転軸4を自重に抗して浮上させ、パッド32とは非接触の状態で支持することができる。しかし、動圧は回転軸4の回転数(回転速度)に依存する。そこで、低回転数時にも回転軸4を確実に支持するため、パッド32の内周面と回転軸4の外表面との間に作動流体を十分に供給し、そのガスの圧力(静圧)により、回転軸4の浮上を補助するようにしている。
【0029】
回転軸4は、軸線Cを中心として回転可能とされている。回転軸4は、一対のジャーナル軸受3に、その軸線C周りに回転可能に支持されている。この回転軸4は、その両端部が、一対のジャーナル軸受3よりも、軸線方向Daの両側に突出している。
【0030】
モータ5は、第一圧縮部11と第二圧縮部12との間に配置されている。本実施形態のモータ5は、一対のジャーナル軸受3の間に配置されている。モータ5は、回転軸4と一体をなすように固定されたモータロータ51と、モータロータ51を覆うステータ52とを有している。ステータ52は、ケーシング2に固定されている。ステータ52に備えられたコイルに通電すると、ステータ52に対してモータロータ51が回転する。これによりモータ5は、回転軸4に回転駆動力を出力し、第一圧縮部11及び第二圧縮部12とともに回転軸4の全体を回転させる。
【0031】
インペラ6は、回転軸4と一体に回転する。インペラ6は、ジャーナル軸受3から軸線方向Daに離間した位置で回転軸4に固定されている。本実施形態のインペラ6は、一対のジャーナル軸受3よりも軸線方向Daの外側で回転軸4に固定されている。具体的には、インペラ6は、回転軸4の両端部に設けられている。本実施形態の圧縮機1では、インペラ6として、第一圧縮部11に設けられた第一インペラ6Aと、第二圧縮部12に設けられた第二インペラ6Bとの二つを有している。第二インペラ6Bは、第一インペラ6Aと軸線方向Daの反対側を向いて配置されている。第二インペラ6Bは、第一インペラ6Aで圧縮された作動流体を圧縮している。図2に示すように、各インペラ6は、本実施形態において、ディスク部61とブレード部62とカバー部63とを備えた、いわゆるクローズドインペラである。
【0032】
ディスク部61は、円盤状をなしている。例えば、第一インペラ6Aのディスク部61は、軸線方向Daの一方側(第一側)を向く背面612から軸線方向Daの他方側(第一側)を向く前面611に向かって、外径が漸次縮径している。つまり、ディスク部61は、全体として略傘形状をなしている。
【0033】
ここで、軸線方向Daの一方側は、軸線方向Daにおいて、カバー部63に対してディスク部61が配置されている側である。したがって、本実施形態の第一インペラ6Aでは、軸線方向Daの一方側は、図1において、モータ5に対して第二圧縮部12が配置されている側である軸線方向Daの第二圧縮部12側である。逆に、本実施形態の第二インペラ6Bでは、軸線方向Daの一方側は、モータ5に対して第二圧縮部12が配置されている側である軸線方向Daの第一圧縮部11側である。
【0034】
また、軸線方向Daの他方側は、軸線方向Daにおいて、ディスク部61に対してカバー部63が配置されている側である。したがって、本実施形態の第一インペラ6Aでは、軸線方向Daの他方側は、軸線方向Daの第一圧縮部11側である。逆に、本実施形態の第二インペラ6Bでは、軸線方向Daの他方側は、軸線方向Daの第二圧縮部12側である。
【0035】
即ち、本実施形態の第二インペラ6Bのディスク部61では、背面612は、軸線方向Daの第一圧縮部11側を向いている。第二インペラ6Bのディスク部61は、軸線方向Daの第一圧縮部11側から軸線方向Daの第二圧縮部12側に向かって、外径が漸次縮径している。
【0036】
また、ディスク部61は、軸線方向Daから見た際に、略円盤状をなしている。ディスク部61の前面611から周方向に間隔を隔てて軸線方向Daに、複数のブレード部62が延びている。図2に示すように、ディスク部61は、軸線Cを中心とする径方向Drの内側にディスク部61を軸線方向Daに貫く貫通孔613が形成されている。この貫通孔613に回転軸4が挿入されて不図示の焼き嵌め、若しくはキーを介して嵌合されることで、インペラ6は、回転軸4に対して固定される。
【0037】
カバー部63は、複数のブレード部62を覆うように形成されている。このカバー部63は、円盤状をなしている。カバー部63は、ディスク部61に対向する側が、ディスク部61と一定の間隔を隔てて対向する凸状面として形成されている。
【0038】
各インペラ6においては、ディスク部61とカバー部63との間に、インペラ流路64が形成されている。インペラ流路64は、ディスク部61の前面611側の径方向Drの内側で軸線方向Daに沿って開口する流入口6iと、インペラ6の径方向Drの外側に向かって開口する流出口6oと、を有している。
【0039】
また、本実施形態では、第一インペラ6A及び第二インペラ6Bのうち、第一インペラ6Aのみが、背面612から突出してディスク部61と一体的に形成されている凸部65を有している。本実施形態の第一インペラ6Aは、凸部65として、外側凸部66と、内側凸部67とを有している。
【0040】
外側凸部66は、背面612から軸線方向Daに突出している。本実施形態の外側凸部66は、ディスク部61の貫通孔613を囲むように、ディスク部61の背面612から環状に突出している。外側凸部66は、外側シール面661と、外側受圧面662と、を有する。
【0041】
外側シール面661は、回転軸4の外表面と平行に形成されている。外側シール面661は、外側凸部66の径方向Drの外側を向く平滑な面である。本実施形態では、背面612からの外側凸部66の突出量は、外側シール面661の軸線方向Daの幅によって定められている。外側シール面661は、回転軸4の外表面から所定の距離だけ離れた位置に形成されている。具体的には、本実施形態の所定の距離は、圧縮機1ごとに予め設定される値である。所定の距離は、回転軸4に働くスラスト力のバランスをとるために、外側受圧面662が受ける力の大きさに応じて定められる。
【0042】
外側受圧面662は、外側凸部66の軸線方向Daを含む方向を向く面である。つまり、外側受圧面662は、軸線方向Daに働く力を受ける面である。ここで、軸線方向Daを含む方向とは、軸線方向Daに対して直交する方向を除く軸線Cに対して交差する方向であって、軸線Cに対して傾斜した方向や平行な方向も含んでいる。外側受圧面662は、可能な限り面積が大きくなるように形成されることが好ましい。外側受圧面662は、外側傾斜受圧面662aと、外側垂直受圧面662bとを有している。
【0043】
外側傾斜受圧面662aは、軸線Cに対して傾斜した傾斜面である。本実施形態の外側傾斜受圧面662aは、軸線方向Daの一方側、かつ、径方向Drの内側を向いている。つまり、外側傾斜受圧面662aは、軸線方向Daの第二圧縮部12側、かつ、回転軸4の外表面側を向くように傾斜している。外側傾斜受圧面662aは、外側シール面661の軸線方向Daの端部から外側垂直受圧面662bに向かって延びている。
【0044】
外側垂直受圧面662bは、外側傾斜受圧面662aの径方向Drの内側の端部から径方向Drの内側に向かって垂直に延びる面である。外側垂直受圧面662bは、回転軸4の外表面と直交する面であって、軸線方向Daの一方側を向いている。本実施形態の外側垂直受圧面662bは、背面612と同様に、軸線方向Daの第二圧縮部12側を向いている。
【0045】
内側凸部67は、背面612から軸線方向Daに突出している。内側凸部67は、外側凸部66よりも径方向Drの内側に設けられている。本実施形態の内側凸部67は、ディスク部61の貫通孔613を囲むように、ディスク部61の背面612から環状に突出している。内側凸部67は、内側シール面671と、内側受圧面672と、を有する。
【0046】
内側シール面671は、回転軸4の外表面と平行に形成されている。内側シール面671は、内側凸部67の径方向Dr外側を向く平滑な面である。内側シール面671は、外側シール面661よりも径方向Drの内側に形成されている。本実施形態の内側シール面671は、外側垂直受圧面662bの径方向Drの内側の端部と繋がっている。本実施形態では、外側垂直受圧面662bからの内側凸部67の突出量は、内側シール面671の軸線方向Daの幅によって定められている。内側シール面671は、回転軸4の外表面から所定の距離だけ離れた位置に形成されている。具体的には、本実施形態の所定の距離は、圧縮機1ごとに予め設定される値である。所定の距離は、回転軸4に働くスラスト力のバランスをとるために、内側受圧面672が受ける力の大きさに応じて定められる。
【0047】
内側受圧面672は、内側凸部67の軸線方向Daを含む方向を向く面である。つまり、内側受圧面672は、軸線方向Daに働く力を受ける面である。内側受圧面672は、可能な限り面積が大きくなるように形成されることが好ましい。内側受圧面672は、内側傾斜受圧面672aと、内側垂直受圧面672bとを有している。
【0048】
内側傾斜受圧面672aは、軸線Cに対して傾斜した傾斜面である。本実施形態の内側傾斜受圧面672aは、軸線方向Daの一方側、かつ、径方向Drの内側を向いている。つまり、内側傾斜受圧面672aは、軸線方向Daの第二圧縮部12側、かつ、回転軸4の外表面側を向くように傾斜している。内側傾斜受圧面672aは、内側シール面671の軸線方向Daの端部から内側垂直受圧面672bに向かって延びている。
【0049】
内側垂直受圧面672bは、内側傾斜受圧面672aの径方向Drの内側の端部から径方向Drの内側に向かって貫通孔613の端部まで垂直に延びる面である。即ち、内側垂直受圧面672bは、回転軸4の外表面と直交する面であって、軸線方向Daの一方側を向いている。内側垂直受圧面672bは、軸延方向の位置が外側垂直受圧面662bと同じ位置に形成されている。本実施形態の内側垂直受圧面672bは、背面612と同様に、軸線方向Daの第二圧縮部12側を向いている。
【0050】
スラスト力調整部7は、ディスク部61の背面612とケーシング2との間で軸線方向Daのスラスト力を調整する。本実施形態のスラスト力調整部7は、第一インペラ6A側のみに設けられている。スラスト力調整部7は、外側シール部71と、内側シール部72と、絞り形成部73とを有している。
【0051】
外側シール部71は、背面612とケーシング2との間を封止している。本実施形態の外側シール部71は、外側シール面661と、ケーシング2との間の径方向Drの隙間を封止している。外側シール部71は、ケーシング2に固定されている。外側シール部71は、外側シール面661との間に微小な隙間が形成されたラビンリスシールである。
【0052】
内側シール部72は、外側シール部71から径方向Drの内側に離れた位置に配置されている。内側シール部72は、背面612とケーシング2との間を封止している。本実施形態の内側シール部72は、内側シール面671と、ケーシング2との間の径方向Drの隙間を封止している。内側シール部72は、ケーシング2に固定されている。内側シール部72は、内側シール面671との間に微小な隙間が形成されたラビンリスシールである。
【0053】
絞り形成部73は、軸線方向Daにおける背面612とケーシング2との間隔が狭められた絞り部S3を形成する。絞り形成部73は、背面612と対向するようにケーシング2に一体に設けられている。絞り形成部73は、背面612に向かって突出する突出部731を有している。突出部731は、背面612に近づくにしたがって、回転軸4の外表面に使づくように傾斜する突出部傾斜面731aを有している。突出部731の先端と背面612との間に絞り部S3が形成されている。絞り部S3は、内側シール部72から径方向Drの内側に離れた位置に形成されている。絞り部S3の軸線方向Daの幅は、後述する外側空間S1及び内側空間S2の軸線方向Daの幅よりも狭くされている。つまり、背面612とケーシング2との間隔は、絞り部S3において最も狭く形成されている。具体的には、絞り部S3は、内側垂直受圧面672bと突出部731の先端との間に形成されている。この絞り部S3は、第一インペラ6Aが移動することで背面612に対する間隔が変化する、いわゆる「自成絞り」と呼ばれるものである。
【0054】
外側シール部71と内側シール部72とによって、背面612とケーシング2との間には外側空間S1が形成されている。外側空間S1は、外側シール部71と内側シール部72とで挟まれて、径方向Drに延びる空間である。外側空間S1は、背面612とケーシング2とが接触しない範囲で、可能な限り軸線方向Daの幅が小さく形成されることが好ましい。本実施形態の外側空間S1は、外側傾斜受圧面662a及び外側垂直受圧面662bに面して形成されている。外側空間S1には、第一圧縮部11のインペラ6の流出口6o付近から外側シール部71を経てわずかに漏れ出た作動流体や後述する外部ガス導入部83から供給されたガス等の気体が流入する。
【0055】
内側シール部72と突出部731とによって、背面612とケーシング2との間には内側空間S2が形成されている。内側空間S2は、内側シール部72と絞り部S3とで挟まれて、径方向Drに延びる空間である。つまり、内側空間S2は、外側空間S1よりも径方向Drの内側に形成されている。内側空間S2は、絞り部S3と連続する空間である。内側空間S2は、背面612とケーシング2とが接触しない範囲で、可能な限り軸線方向Daの幅が小さく形成されることが好ましい。内側空間S2は、外側空間S1と対応する容積で形成されることが好ましい。ここで、対応する容積とは、実質的に同一とみなせる容積である。本実施形態の内側空間S2は、内側傾斜受圧面672a及び内側垂直受圧面672bに面して形成されている。内側空間S2には、外側空間S1内の気体が内側シール部72からわずかに漏れ出て流入する。
【0056】
モータ冷却部81は、モータ5に冷媒を供給して冷却する。モータ冷却部81は、内側空間S2から絞り部S3を経てケーシング2内に流出した気体を冷媒としてモータ5に供給する。本実施形態のモータ冷却部81は、軸受ハウジング31に形成されたハウジング貫通孔311を有している。ハウジング貫通孔311は、軸受ハウジング31を軸線方向Daに貫通している。本実施形態のハウジング貫通孔311は、第一圧縮部11側のジャーナル軸受3のみに設けられている。これにより、ハウジング貫通孔311は、内側空間S2から絞り部S3を経た気体が流入するケーシング2内の空間と、モータ5が配置されたケーシング2内の空間とを連通させている。
【0057】
外部ガス導入部83は、外側空間S1内の圧力を高めるガスを外部から外側空間S1に導入する。外部ガス導入部83は、外部のガス供給源と外側空間S1とを連通させるガス供給ラインである。外部に設けられたブースターポンプをガス供給源として、外部ガス導入部83によって圧縮されたガスが外側空間S1に供給される。外部ガス導入部83は、外側シール部71と内側シール部72との間で外側空間S1に面するケーシング2に開口している。外部ガス導入部83は、定常運転時に圧縮された作動流体に近い圧力のガスを供給する。
【0058】
上述したような圧縮機1では、圧縮すべき作動流体が、第一圧縮部11に導入され、第一インペラ6Aにおいて圧縮される。第一圧縮部11で圧縮された作動流体は、昇圧ガスライン13を通り、第二圧縮部12に導入される。第二圧縮部12に導入された作動流体は、第二インペラ6Bでさらに圧縮される。第二圧縮部12で圧縮された作動流体は、供給先である所定のプラントに供給される。
【0059】
ここで、第一インペラ6Aで圧縮された作動流体の一部は、流出口6o付近から外側シール部71に向かって流れる。外側シール部71まで流れてきた作動流体は、外側シール面661に沿って外側空間S1内にわずかに漏れ出る。外側空間S1内に漏れ出た作動流体は、外側空間S1内を内側シール部72に向かって流れる。内側シール部72まで流れてきた作動流体は、内側シール面671に沿って内側空間S2内にわずかに漏れ出る。内側空間S2内に漏れ出た作動流体は、内側空間S2を絞り部S3に向かって流れる。絞り部S3の軸線方向Daの幅が内側空間S2の軸線方向Daの幅よりも狭いことで、作動流体は絞り部S3を通過する際に減圧されながら内側空間S2から流出していく。絞り部S3を経てケーシング2内に流出した作動流体は、ハウジング貫通孔311から、ケーシング2内のモータ5が配置された空間に流入する。モータ5が配置された空間に流入した作動流体は、モータ5を冷却した後に不図示の排出口からケーシング2の外部に排出される。
【0060】
このような圧縮機1において、第一圧縮部11及び第二圧縮部12で作動流体が圧縮されていくことで、ディスク部61を介してインペラ6が固定されている回転軸4に、軸線方向Daに作用するスラスト力が生じる。
【0061】
このスラスト力によって、例えば、軸線方向Daの第一圧縮部11側から第二圧縮部12側に向かうスラスト力が回転軸4に生じると、このスラスト力を受けて、回転軸4とともに第一インペラ6Aが軸線方向Daの第二圧縮部12側に移動する。その結果、第一インペラ6Aが軸線方向Daの第二圧縮部12側に移動して絞り部S3の間隔が狭くなる。絞り部S3の間隔が狭くなることで、内側空間S2からの作動流体のリーク量が減少し、外側空間S1及び内側空間S2内の圧力が上がる。これにより、外側空間S1を画成する外側傾斜受圧面662a及び外側垂直受圧面662bと、内側空間S2を画成する内側傾斜受圧面672a及び内側垂直受圧面672bの一部とが軸線方向Daの第一圧縮部11側に押される。その結果、絞り部S3の間隔が広がる方向に第一インペラ6Aが押し戻される。
【0062】
逆に、例えば、軸線方向Daの第二圧縮部12側から第一圧縮部11側に向かうスラスト力が回転軸4に生じると、このスラスト力を受けて、回転軸4とともに第一インペラ6Aが軸線方向Daの第一圧縮部11側に移動する。その結果、第一インペラ6Aが軸線方向Daの第一圧縮部11側に移動して絞り部S3の間隔が広くなる。絞り部S3の間隔が広くなることで、内側空間S2からの作動流体のリーク量が増加し、外側空間S1及び内側空間S2内の圧力が下がる。これにより、外側空間S1を画成する外側傾斜受圧面662a及び外側垂直受圧面662bと、内側空間S2を画成する内側傾斜受圧面672a及び内側垂直受圧面672bの一部とが軸線方向Daの第二圧縮部12側に引かれる。その結果、絞り部S3の間隔が狭まる方向に第一インペラ6Aが押し戻される。したがって、回転軸4に作用するスラスト力が変動して、回転軸4が軸線方向Daに移動したとしても、第一インペラ6Aを移動させることで、回転軸4を元の位置に自動的に復帰させる(戻す)ことができる。
【0063】
また、圧縮機1において作動流体を圧縮するために必須の構成である第一インペラ6Aでスラスト力のバランスをとることで、回転軸4にスラスト軸受やバランスピストン等の特別な構造を設けるためのスペースを確保する必要がない。その結果、回転軸4の長さが低減され、軸振動を抑えることができる。さらに、回転軸4の長さが低減されることで、圧縮機1としての軽量化やコンパクト化を図ることができる。
【0064】
このように、特別な構造を回転軸4に設けることなく、第一インペラ6Aによってスラスト力のバランスをとることができる。したがって、回転軸4の長さを低減しつつ、回転軸4に生じるスラスト力のバランスをとることができる。
【0065】
また、外側空間S1に画成する外側傾斜受圧面662aが軸線Cに対して傾斜している。さらに、内側空間S2を画成する内側傾斜受圧面672aも軸線Cに対して傾斜している。そのため、外側空間S1及び内側空間S2を画成する第一インペラ6Aの面を軸線Cに対して垂直に形成した場合に比べて、面積が大きくなる。その結果、外側空間S1や内側空間S2内の作動流体から軸線方向Daへ力を受ける領域の面積が増加する。これにより、第一インペラ6Aの背面612で大きなスラスト力を受けることができる。
【0066】
また、回転軸4に対して軸線方向Daへの移動や熱伸びが生じることで、外側シール部71や内側シール部72に対する第一インペラ6Aの軸線方向Daの位置がずれる可能性がある。しかしながら、外側シール面661及び内側シール面671が回転軸4の外表面と平行に形成されていることで、外側シール部71や内側シール部72に対する第一インペラ6Aの軸線方向Daの移動を許容したまま、シール性が確保されている。そのため、第一インペラ6Aが軸線方向Daに移動したとしても、ケーシング2に固定された外側シール部71及び内側シール部72と外側シール面661及び内側シール面671とが接触することがなく、シール性を安定して確保することができる。したがって、回転軸4に対して軸線方向Daへの移動や熱伸びが生じて外側シール面661や内側シール面671の軸線方向Daの位置がずれた場合であっても、シール性が損なわれることを防止できる。
【0067】
また、ハウジング貫通孔311を介して絞り部S3からケーシング2内に流出した作動流体が、ケーシング2内のモータ5が配置された空間に供給される。そのため、絞り部S3から流出した作動流体によってモータ5が冷却される。これにより、モータ5を冷却するための冷媒として、第一圧縮部11で圧縮された作動流体を抽気する等の別の流体を準備する必要が無くなる。
【0068】
また、外部ガス導入部83によって外側空間S1内の圧力を高めるガスが供給可能とされている。外側空間S1内に圧力を高めるガスが供給されることで、内側シール部72を介して内側空間S2内にもガスが供給される。そのため、圧縮機1の起動時にように第一圧縮部11で未だ作動流体が圧縮されておらず、作動流体によって外側空間S1内の圧力を高めることができない場合であっても、外側空間S1及び内側空間S2内の圧力を高めることができる。したがって、作動流体の圧力が高くない状態で回転軸4が移動した場合であっても、第一インペラ6Aによってスラスト力のバランスをとることができる。
【0069】
《第二実施形態》
次に、本発明の圧縮機の第二実施形態について、図3及び図4を参照して説明する。第二実施形態で示す圧縮機1Aは、第二圧縮部の第二インペラにも凸部が形成されている点や第二圧縮部側にもスラスト力調整部が設けられている点が第一実施形態と異なっている。したがって、第二実施形態の説明においては、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに重複説明を省略する。
【0070】
図3に示すように、第二実施形態の圧縮機1Aでは、スラスト力調整部70が、第一圧縮部11及び第二圧縮部120の両方に設けられている。具体的には、圧縮機1Aは、スラスト力調整部70として、第一圧縮部11側に設けられる第一スラスト力調整部7Aと、第二圧縮部120側に設けられる第二スラスト力調整部7Bとを有している。第一スラスト力調整部7Aは、第一実施形態のスラスト力調整部7と同じ構成を有している。第二スラスト力調整部7Bは、図4に示すように、外側シール部71Bと、内側シール部72Bと、絞り形成部73Bとを有している。
【0071】
これに対応して、第二実施形態の圧縮機1Aでは、第一インペラ6A及び第二インペラ60Bの両方が、背面612から突出してディスク部61と一体的に形成されている凸部650を有している。具体的には、第一インペラ6Aは、第一実施形態の凸部65と同じ構成である第一凸部650Aを有している。第二インペラ60Bは、第二凸部650Bを有している。第二凸部650Bは、外側凸部66Bと、内側凸部67Bとを有している。
【0072】
第一圧縮部11と第二圧縮部120とでは、第一インペラ6Aのディスク部61の背面612と、第二インペラ60Bのディスク部61の背面612とが互いに軸線方向Daの反対側を向いている。したがって、第一スラスト力調整部7Aと第二スラスト力調整部7Bとでは、軸線Cと直交する仮想線で反転するように対称な形状をなしている。つまり、第一スラスト力調整部7Aの外側シール部71、内側シール部72、及び絞り形成部73に対して、第二スラスト力調整部7Bの外側シール部71B、内側シール部72B、及び絞り形成部73Bは、対称な形状をなしている。同様に、第一凸部650Aと第二凸部650Bとでは、軸線Cと直交する仮想線で反転するように対称な形状をなしている。したがって、第一凸部650Aの外側凸部66及び内側凸部67に対して、第二凸部650Bの外側凸部66B及び内側凸部67Bは、対称な形状をなしている。
【0073】
また、第二実施形態の圧縮機1Aは、高圧ガス排出部85を有している。高圧ガス排出部85は、第二インペラ60Bと軸線方向Daの第二圧縮部120側のジャーナル軸受3との間に配置されている。高圧ガス排出部85は、第二スラスト力調整部7Bの絞り部S3を経て内側空間S2から流出した作動流体がジャーナル軸受3やモータ5側に流出しないように排出している。高圧ガス排出部85は、ケーシング2に固定された排出部本体851と、排出部本体851の径方向Drの内側に設けられて、回転軸4の外表面との間をシールするラビリンス部852と、を一体に備えている。排出部本体851は、径方向Drに貫通する排出部貫通孔853が形成されている。この排出部貫通孔853は、第二インペラ60Bの流入口6iに繋がる昇圧ガスライン13と接続されている。ラビリンス部852は、排出部貫通孔853よりも軸線方向Daの第一圧縮部11側に設けられている。
【0074】
また、第二実施形態の圧縮機1Aは、第一実施形態と同様に、モータ冷却部81が第一圧縮部11側のみに設けられている。したがって、軸線方向Daの第二圧縮部120側のジャーナル軸受3には、ハウジング貫通孔311が形成されていない。これにより、モータ冷却部81は、第二圧縮部120で圧縮された作動流体をモータ5に供給せずに、第一圧縮部11で圧縮された作動流体のみをモータ5に供給している。
【0075】
上述したような第二実施形態の圧縮機1Aでは、第一インペラ6Aで圧縮された作動流体の一部は、第一実施形態で説明したように、第一圧縮部11側の外側空間S1、内側空間S2、及び絞り部S3に流入する。さらに、第二インペラ60Bで圧縮された作動流体の一部は、第二インペラ60Bの流出口6o付近から第二スラスト力調整部7Bの外側シール部71Bに向かって流れる。外側シール部71Bまで流れてきた作動流体は、外側シール面661に沿って第二圧縮部120側の外側空間S1内にわずかに漏れ出る。外側空間S1内も漏れ出た作動流体は、外側空間S1内を内側シール部72Bに向かって流れる。内側シール部72Bまで流れてきた作動流体は、内側シール面671に沿って内側空間S2内にわずかに漏れ出る。内側空間S2内に漏れ出た作動流体は、内側空間S2を絞り部S3に向かって流れる。絞り部S3の軸線方向Daの幅が内側空間S2の軸線方向Daの幅よりも狭いことで、作動流体は絞り部S3を通過する際に減圧されながら内側空間S2から流出していく。絞り部S3を経て流出した作動流体は、高圧ガス排出部85のラビリンス部852でシールされることで、第二圧縮部120側のジャーナル軸受3に流入せずに、排出部貫通孔853に流入する。排出部貫通孔853に流入した作動流体は、昇圧ガスライン13を介して、再び第二インペラ60Bの流入口6iに供給される。
【0076】
このような圧縮機1Aによれば、回転軸4に対してスラスト力が作用した場合に、第一スラスト力調整部7Aと第二スラスト力調整部7Bとがそれぞれ作用する。具体的には、例えば、軸線方向Daの第一圧縮部11側から第二圧縮部120側に向かうスラスト力が回転軸4に生じると、回転軸4とともに第一インペラ6Aが軸線方向Daの第二圧縮部120側に移動する。その結果、第一インペラ6Aがスラスト力を受けて軸線方向Daの第二圧縮部120側に移動して第一圧縮部11側の絞り部S3の間隔が狭くなる。一方、第二インペラ60Bも軸線方向Daの第二圧縮部120側に移動することで、第二圧縮部120側の絞り部S3の間隔が広くなる。したがって、第一圧縮部11では、外側空間S1及び内側空間S2内の圧力が上がり、第二圧縮部120では、外側空間S1及び内側空間S2内の圧力が下がる。これにより、第一圧縮部11側では外側受圧面662及び内側受圧面672が軸線方向Daの第一圧縮部11側に押される。逆に、第二圧縮部120側では外側受圧面662及び内側受圧面672が軸線方向Daの第二圧縮部120側に引かれる。その結果、第一インペラ6A及び第二インペラ60Bがともに軸線方向Daの第一圧縮部11側に移動する。これにより、軸線方向Daの両側から回転軸4の位置が調整される。これは、回転軸4に作用するスラスト力の向きが逆(軸線方向Daの第二圧縮部120側から第一圧縮部11側に向かう方向)になっても同様である。したがって、回転軸4に作用するスラスト力が変動して、回転軸4が軸線方向Daに移動したとしても、回転軸4を元の位置に自動的かつ迅速に復帰させることができる。
【0077】
また、第一実施形態と異なり、軸線方向Daの両側からスラスト力のバランスをとることで、仮に一方がうまく機能しなくなってしまっても、安定して回転軸4を元の位置に復帰させることができる。
【0078】
(実施形態の他の変形例)
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0079】
なお、インペラ6は、本実施形態の圧縮機1及び1Aのように二つ配置されている構成に限定されるものでない。例えば、一つでよく、多段遠心圧縮機のように三段以上の複数のインペラ6を有していてもよい。
【0080】
また、ディスク部61の背面612は、本実施形態のように外側傾斜受圧面662a及び内側傾斜受圧面672aの両方を有する構造に限定されるものではない。ディスク部61の背面612は、外側空間S1及び内側空間S2の少なくとも一方に面する領域に、軸線方向Daに対して傾斜した傾斜面を有していればよい。したがって、例えば、ディスク部61の背面612は、外側傾斜受圧面662aのみを有していてもよく、内側傾斜受圧面672aのみを有していてもよい。
【0081】
また、絞り形成部73は、ケーシング2から背面612に向かって突出することで、絞り部S3を形成することに限定されるものではない。絞り形成部73は、絞り部S3が形成できればよく、背面612からケーシング2に向かって突出する突出部を有していてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1、1A…圧縮機 10…圧縮部 11…第一圧縮部 12、120…第二圧縮部 13…昇圧ガスライン 2…ケーシング 3…ジャーナル軸受 31…軸受ハウジング 311…ハウジング貫通孔 32…パッド 4…回転軸 C…軸線 5…モータ 51…モータロータ 52…ステータ Da…軸線方向 Dr…径方向 6…インペラ 6A…第一インペラ 6B、60B…第二インペラ 61…ディスク部 611…前面 612…背面 613…貫通孔 62…ブレード部 63…カバー部 64…インペラ流路 6i…流入口 6o…流出口 65、650…凸部 66、66B…外側凸部 661…外側シール面 662…外側受圧面 662a…外側傾斜受圧面 662b…外側垂直受圧面 67、67B…内側凸部 671…内側シール面 672…内側受圧面 672a…内側傾斜受圧面 672b…内側垂直受圧面 7、70…スラスト力調整部 71、71B…外側シール部 72、72B…内側シール部 73、73B…絞り形成部 731…突出部 S1…外側空間 S2…内側空間 S3…絞り部 81…モータ冷却部 83…外部ガス導入部 7A…第一スラスト力調整部 7B…第二スラスト力調整部 650A…第一凸部 650B…第二凸部 85…高圧ガス排出部 851…排出部本体 852…ラビリンス部 853…排出部貫通孔
図1
図2
図3
図4