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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】組電池用断熱シートおよび組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20220517BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20220517BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20220517BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20220517BHJP
   H01M 10/6595 20140101ALI20220517BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/625
H01M10/651
H01M10/653
H01M10/6595
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017210668
(22)【出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2019083150
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直己
(72)【発明者】
【氏名】畑中 清成
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寿
【審査官】坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-205134(JP,A)
【文献】国際公開第2011/121901(WO,A1)
【文献】特開2007-211963(JP,A)
【文献】特開2018-206605(JP,A)
【文献】特開2017-084460(JP,A)
【文献】特開2013-054973(JP,A)
【文献】特開2012-164463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
H01M10/42-10/667
50/20
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが断熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる断熱シートであって、
少なくとも無機粉体からなる断熱層と、
前記断熱層の両面に形成され、少なくとも無機水和物からなる吸熱層を有し、
前記無機粉体は、熱伝導率に異方性を有する鱗片状粒子であり、前記鱗片状粒子の面方向が前記断熱シート厚さ方向に垂直な方向に配向していることを特徴とする組電池用断熱シート。
【請求項2】
前記断熱層は、前記吸熱層よりも熱伝導率が低い請求項1に記載の組電池用断熱シート。
【請求項3】
前記無機粉体は、波長1μm以上の光に対する屈折率の比(比屈折率)が1.25以上である請求項1または2に記載の組電池用断熱シート。
【請求項4】
前記無機粉体は、TiO粉末またはSiO粉末を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の組電池用断熱シート。
【請求項5】
前記無機水和物は、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムのうち少なくとも1つである請求項1~のいずれか1項に記載の組電池用断熱シート。
【請求項6】
前記断熱層は、無機繊維を含み、
前記無機繊維は、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維およびガラス繊維のうち少なくとも1つである請求項1~のいずれか1項に記載の組電池用断熱シート。
【請求項7】
複数の電池セルが、請求項1~のいずれか1項に記載の組電池用断熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車またはハイブリッド車などを駆動する電動モータの電源となる組電池に好適に用いられる組電池用断熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車またはハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車またはハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられているが、電池の内部短絡や過充電などが原因で1つの電池セルに熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走の伝播を抑制するための技術として、例えば、特許文献1には、1以上の蓄電素子を備える蓄電装置であって、前記1以上の蓄電素子のうちの1つである第一蓄電素子の側方に配置された第一板材および第二板材であって、互いの面が対向するように配置された第一板材および第二板材を備え、前記第一板材と前記第二板材との間には、前記第一板材および前記第二板材よりも熱伝導率の低い物質の層である低熱伝導層(例えば、空気層)が形成されていることにより、第一蓄電素子からの輻射熱、または、第一蓄電素子に向かう輻射熱は2枚の板材によって遮断され、かつ、これら2枚の板材の一方から他方への熱の移動は低熱伝導層によって抑制されるため、蓄電素子と他の物体との間の効果的な断熱を実現することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-211013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1においては、ある蓄電素子からの輻射熱、または、ある蓄電素子に向かう輻射熱の遮断と、2枚の板材間の熱移動を低熱伝導層により抑制できるとあるものの、熱源となる各蓄電素子から発生する熱量が大きなものであった場合には、必ずしも断熱効果が十分とは言えなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであり、複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池を構成するに当たり、各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することのできる、組電池用断熱シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る組電池用断熱シートの要旨は、複数の電池セルが断熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる断熱シートであって、少なくとも無機繊維または無機粉体からなる断熱層と、前記断熱層の両面に形成され、少なくとも無機水和物からなる吸熱層を有することを特徴とする。
【0009】
上記組電池用断熱シートにおける好ましい実施形態において、前記断熱層は、前記吸熱層よりも熱伝導率が低い。
【0010】
上記組電池用断熱シートにおける好ましい実施形態において、前記無機粉体は、波長1μm以上の光に対する屈折率の比(比屈折率)が1.25以上である。
【0011】
上記組電池用断熱シートにおける好ましい実施形態において、前記無機粉体は、TiO粉末またはSiO粉末を含む。
【0012】
上記組電池用断熱シートにおける好ましい実施形態において、前記無機粉体は、熱伝導率に異方性を有する鱗片状粒子であり、前記鱗片状粒子の面方向が前記断熱シート厚さ方向に垂直な方向に配向している。
【0013】
上記組電池用断熱シートにおける好ましい実施形態において、前記無機水和物は、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムのうち少なくとも1つである。
【0014】
上記組電池用断熱シートにおける好ましい実施形態において、前記無機繊維は、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート(AES:Alkaline Earth Silicate)繊維およびガラス繊維のうち少なくとも1つである。
【0015】
また、本発明の一態様に係る組電池の要旨は、複数の電池セルが、上記の組電池用断熱シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る組電池用断熱シートによれば、複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池を構成するに当たり、各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る組電池用断熱シートの構成を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態に係る組電池用断熱シートの構成を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る組電池用断熱シートを適用した組電池の構成を模式的に示す断面図である。
図4図4は、実施例1~3および比較例1~6の断熱シートをヒーターで加熱した場合の、経過時間に対する隣接する電池セル表面の温度変化をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、熱源となる各蓄電素子から発生する熱量が大きなものであった場合においても、各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することのできる組電池用断熱シートを提供するため、鋭意検討を行ってきた。
【0019】
その結果、中間層として少なくとも無機繊維または無機粉体を含む断熱層を有し、その両面に少なくとも無機水和物からなる吸熱層を形成した複層からなる断熱シートを、組電池に配置された各電池セル間に介在させることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0020】
すなわち、ある電池セルで発生した熱により、外層である吸熱層中の無機水和物が加熱されると、無機水和物はその熱を吸収しつつ水分を放出する。この吸熱作用により、電池セルの発熱量を効果的に低減することができる。そして、低減された熱は中間層である断熱層によって、各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制することができるため、たとえ電池セルから発生する熱量が大きなものであった場合においても、十分な断熱効果を得ることができる。結果として、ある電池セルに熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セルへ熱の伝播を効果的に抑制することができるため、他の電池セルの熱暴走が引き起こされるのを抑制することができる。
【0021】
また、電池セルで発生する熱量を低減した上で、断熱層により熱の伝播を抑制するものであるため、断熱層のみで熱の伝播を抑制するものとは異なり、断熱層の厚さを極端に厚くする必要がない。このため、断熱シート全体の厚さを薄くすること(例えば、5mm以下)も可能となり、結果として、組電池の安全性を確保しつつ、組電池の体積エネルギー密度の向上を図ることも可能となる。
【0022】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下において「~」とは、その下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0023】
<組電池用断熱シートの基本構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る組電池用断熱シートの構成を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る組電池用断熱シート10は、中間層として少なくとも無機繊維または無機粉体を含む断熱層12を有し、その両面に少なくとも無機水和物からなる吸熱層14を形成した複層(積層構造)からなる。
【0024】
断熱層12は、少なくとも無機繊維または無機粉体からなり、ある電池セルで発生した熱を隣接する他の電池セルへ熱が伝播されるのを抑制する。また、断熱層12の熱伝導率は、吸熱層14の熱伝導率よりも低い。
【0025】
吸熱層14は、少なくとも無機水和物からなり、ある電池セルで発生した熱により吸熱層中の無機水和物が加熱されると、無機水和物はその熱を吸収しつつ水分を放出する。この吸熱作用により、電池セルの発熱量を低減する。
【0026】
上述の通り、中間層として熱伝導率の低い断熱層12を有し、その外層として中間層の両面に吸熱層14を配した構成を有することで、電池セルで発生する熱量を低減した上で、断熱層12により熱の伝播を抑制することができ、隣接する他の電池セルへ熱の伝播を効果的に抑制することが可能となる。
【0027】
この組電池用断熱シート10の具体的な使用形態としては、図3に示すように、複数の電池セル20が、組電池用断熱シート10を介して配置され、複数の電池セル20同士が直列または並列に接続された状態(接続された状態は図示を省略)で、電池ケース30に格納されて組電池100が構成される。なお、電池セル20は、例えば、リチウムイオン二次電池が好適に用いられるが、特にこれに限定されない。
【0028】
<組電池用断熱シートの詳細>
次に、組電池用断熱シート10における各構成要素につき詳細に説明する。
【0029】
(断熱層)
上記断熱層12は、少なくとも無機繊維または無機粉体を含む。すなわち、断熱層12の構成材料として、無機繊維および無機粉体のうち少なくともいずれか一方を含むものであれば良く、これらのうちいずれか一方を含むことで断熱材としての効果を発揮させることができる。ただし、無機繊維および無機粉体の両方を含むことにより、無機繊維が絡み合って生じた構造中の連続した空隙を無機粉体が分断することができるため、断熱層12における対流伝熱を有効に低減することが可能となり、断熱効果をより効果的に発揮することができる。
【0030】
上記無機繊維としては、例えば、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維およびチタン酸カリウムウィスカ繊維などが挙げられる。これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。上記無機繊維は、単独で使用してもよいし2種以上組み合わせて使用してもよい。上記無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0031】
上記無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、扁平断面、中空断面、多角断面、芯鞘断面などが挙げられる。中でも、中空断面、扁平断面または多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0032】
上記無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、上記無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。上記無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、得られる断熱層12の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0033】
上記無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、上記無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は10μmであり、より好ましい上限は7μmである。上記無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、上記無機繊維の平均繊維径が3μm以上であるが好ましい。一方、上記無機繊維の平均繊維径が10μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、断熱層12の成形性が悪化するおそれがある。
【0034】
続いて、上記無機粉体としては、例えば、TiO粉末、SiO粉末、BaTiO粉末、PbS粉末、ZrO粉末、SiC粉末、NaF粉末およびLiF粉末などが挙げられる。これらの無機粉体は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0035】
上記無機粉体を組み合わせて使用する場合、好ましい組み合わせとしては、TiO粉末とSiO粉末との組み合わせ、TiO粉末とBaTiO粉末との組み合わせ、SiO粉末とBaTiO粉末との組み合わせ、または、TiO粉末とSiO粉末とBaTiO粉末との組み合わせが挙げられる。
【0036】
なお、TiO粉末は、赤外線に対する屈折率が高く、高温域での断熱性を向上させる効果がある。また、SiO粉末は、固体熱伝導率が低く、微小粒子で細かい空隙を作りやすいため、対流が抑制され低温域での断熱性を向上させる効果がある。よって、TiO粉末およびSiO粉末を併用することにより、低温域から高温域に至る広い温度領域での断熱性が期待できるため、これらの組合せが特に好ましい。
【0037】
また、図2に示すように、上記無機粉体として熱伝導率に異方性を有する鱗片状粒子16を用い、この鱗片状粒子16の面方向が、組電池用断熱シート10の厚さ方向(すなわち、断熱層12の厚さ方向)に垂直な方向に配向していることが好ましい。無機粉体からなる鱗片状粒子16は、熱伝導率に異方性を有しており、鱗片状粒子の面方向の熱伝導性は、面方向に垂直な方向の熱伝導性に比べて非常に優れている。このため、鱗片状粒子の面方向を、組電池用断熱シート10の厚さ方向に垂直な方向に配向させることで、組電池用断熱シート10の厚さ方向への熱の伝播をより効果的に抑制することができる。したがって、図3に示すように、複数の電池セル20の間に、組電池用断熱シート10を介在させた場合に、ある電池セル20から他の電池セル20への熱の伝播をより効果的に抑制することが可能となる。更に、上記構成を有することで、組電池用断熱シート10の柔軟性をより高くすることができる。
【0038】
断熱層12を構成する材料として無機繊維および無機粉体の両方を含む場合、上記無機繊維の配合量としては、断熱層12を構成する材料の合計重量に対して、好ましい上限が50質量%であり、更に好ましい上限は40質量%である。一方、上記無機繊維の配合量の好ましい下限は5質量%であり、更に好ましい下限は10質量%である。この配合量が5質量%未満では、無機繊維による補強効果が得られず、断熱層12の取り扱い性、機械的強度が低下するおそれがあり、また、良好な成形性が得られないおそれがある。一方、この配合量が50質量%を超えると、断熱層12を構成する無機繊維が絡み合った構造において連続した空隙が多く存在することになり、対流伝熱、分子伝熱、輻射伝熱が増大するため、断熱特性が低下するおそれがある。
【0039】
断熱層12を構成する材料として無機繊維および無機粉体の両方を含む場合、上記無機粉体の配合量としては、断熱層12を構成する材料の合計重量に対して、好ましい上限が95質量%であり、更に好ましい上限は90質量%である。これに対し、上記無機粉体の配合量の好ましい下限は50質量%であり、更に好ましい下限は60質量%である。無機粉体の配合量が上記範囲にあると、無機繊維による補強効果を維持しつつ、無機繊維の交絡構造中の連続した空隙を分断することによる、対流伝熱の低減効果を得ることができる。
【0040】
上記無機粉体の平均粒径の好ましい下限は0.5μmであり、より好ましい下限は1μmである。一方、上記無機粉体の平均粒径の好ましい上限は20μmであり、より好ましい上限は10μmである。上記無機粉体の平均粒径が0.5μm未満では断熱層12の製造が困難になるばかりでなく、輻射熱の散乱が不十分になり、断熱層12の熱伝導率が上昇(すなわち、断熱性が低下)してしまうおそれがある。一方、上記無機粉体の平均粒径が20μmを超えると、断熱層12中に生じる空隙が極めて大きくなってしまうため、対流伝熱および分子伝熱が増大し、この場合も熱伝導率が上昇してしまう。
【0041】
なお、無機粉体の形状としては、平均粒径が上記範囲内にあれば特に限定されず、例えば、球体、楕円体、多面体、表面に凹凸や突起を有すある形状および異形体などの任意の形状が挙げられる。
【0042】
また、上記無機粉体において、波長1μm以上の光に対する屈折率の比(比屈折率)が1.25以上であることが好ましい。上記無機粉体は、輻射熱の散乱材として極めて重要な役割を有しており、屈折率が大きいほど、輻射熱をより効果的に散乱させることができる。また、比屈折率については、フォノン伝導の抑制について極めて重要であり、この値が大きいほど抑制効果が良好である。
【0043】
フォノン伝導を抑制することができる材料としては、一般的に、結晶内に格子欠陥を有している物質もしくは、複雑な構造を有している物質が知られている。前述のTiOやSiO、BaTiOは格子欠陥を有しやすく、複雑な構造を有しているので、輻射熱の散乱だけでなく、フォノンの散乱にも効果的であると考えられる。
【0044】
更に、上記無機粉体として、波長10μm以上の光に対する反射率が70%以上である無機粉体を好適に使用することができる。波長10μm以上の光は、いわゆる赤外線~遠赤外線波長領域の光であり、この波長領域の光に対する反射率が70%以上であることで、輻射伝熱をより有効に低減させることができる。
【0045】
上記無機粉体の固体熱伝導率は、室温で20W/m・K以下であることが好ましい。室温での固体熱伝導率が20W/m・Kより大きい無機粉体を原料として用いると、断熱層12中において固体伝熱が支配的になり、熱伝導率が上昇(断熱性が低下)してしまうおそれがある。
【0046】
なお、本明細書において、無機繊維とはアスペクト比が3以上である無機材料をいう。一方、無機粉体とはアスペクト比が3未満である無機材料をいう。また、アスペクト比とは、物質の短径aに対する長径bの比(b/a)を意味する。
【0047】
上記断熱層12は、高温での強度維持を目的として無機結合材を含んでいてもよい。上記無機結合材としては、例えば、コロイダルシリカ、合成マイカ、モンモリロナイトなどが挙げられる。上記無機結合材は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0048】
この無機結合材は、断熱層12の構成材料の合計重量に対し、1~10質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。上記無機結合材の使用態様としては、例えば、原料中に混合したり、もしくは得られた断熱材へ含浸したりして使用することができる。
【0049】
更に、断熱層12の構成材料として有機弾性物質を必要に応じて使用してもよい。この有機弾性物質は、断熱層12に柔軟性を持たせる場合において有用であり、例えば、天然ゴムのエマルジョンやアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などの合成ゴムラテックスバインダーを好適に使用することができる。特に、本実施形態の断熱層12を湿式成形法にて製造する場合には、上記有機弾性物質を使用することにより柔軟性を向上させることができる。
【0050】
上記有機弾性物質の配合量は、断熱層12の構成材料の合計重量に対し0~5質量%の範囲であることが好ましい。上記有機弾性物質は、その配合量が5質量%を超えると、700℃以上の高温域で使用する際に有機弾性物質が焼失し、空隙が著しく増大するため、断熱性が低下してしまうおそれがある。
【0051】
上記断熱層12の厚さとしては特に限定されないが、0.1~4.0mmの範囲にあることが好ましい。断熱層12の厚さが0.1mm未満であると、充分な機械的強度を断熱層12に付与することができない。一方、断熱層12の厚さが4.0mmを超えると、組電池の体積エネルギー密度の低下を招くおそれがある。
【0052】
上記断熱層12を構成する無機粉体は、断熱層12の外部には容易に脱出しないが、無機粉体の脱出防止を目的として、必要に応じて断熱層12の一部または全部を緻密化してもよい。本実施形態の断熱層12では、断熱層12を構成する無機粉体は、無機繊維が絡み合った構造に包摂されているため、無機繊維間から容易に外部に脱出しない。ただし、使用環境によっては強い衝撃などが断熱層12に負荷されて、無機粉体が空気中に脱出する可能性も考えられるため、無機粉体を包摂した部分における無機繊維の構造を緻密化し、無機粉体が脱出しないようにしてもよい。
【0053】
断熱層12を緻密化する方法としては、例えば、無機繊維の交絡構造における表面のみを溶融させるように加熱する方法や、断熱層12表面を耐熱性フィルムなどにより被覆するといった方法があるが、無機粉体が脱出しないような方法であれば特に限定されない。
【0054】
上記断熱層12のかさ密度は特に限定されないが、0.1~1.0g/cmの範囲内にあることが好ましい。なお、かさ密度は、質量をみかけの体積で除した値として求めることができる(JIS A0202_2213を参照)。かさ密度が0.1g/cm未満では、対流伝熱および分子伝熱が増大し、一方、かさ密度が1.0g/cmを超えると固体伝熱が増大するために熱伝導率が上昇し、いずれの場合も断熱性が低下することになる。
【0055】
(吸熱層)
上記吸熱層は、少なくとも無水水和物を含む。上記無水水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、ドーソナイト(NaAl(OH))などが挙げられる。これらの無機水和物は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。上記無機水和物のうち、良好な吸熱特性の観点から、特に水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムが好ましい。
【0056】
例えば水酸化アルミニウムの場合、水酸化アルミニウム中には約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解時に結晶水を放出することで、消炎機能を発揮することができる。
2Al(OH)→Al+3H
この機能により、電池セル20で発生した熱を吸収することができ、電池セルの発熱量を低減することができる。
【0057】
上記無機水和物の配合量としては、吸熱層14を構成する材料の合計重量に対して、好ましい上限が90質量%であり、更に好ましい上限は80質量%である。これに対し、上記無機粉体の配合量の好ましい下限は30質量%であり、更に好ましい下限は50質量%である。この配合量が30質量%未満では、良好な吸熱特性が得られないおそれがある。一方、この配合量が90質量%を超えると、吸熱層を成形することができないおそれがある。
【0058】
また、上記吸熱層14は、成形時の強度向上を目的として、無機繊維やパルプ繊維を含んでいてもよい。上記無機繊維としては、上記で説明した断熱層12に用いられる無機繊維と同様のものを用いることができる。
【0059】
この無機繊維やパルプ繊維は、吸熱層14を構成する材料の合計重量に対して、10~70質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。
【0060】
吸熱層14を構成する材料として、有機バインダーを必要に応じて使用してもよい。この有機バインダーは、成形時の強度向上を目的とする上で有用であり、例えば高分子凝集剤やアクリルエマルジョンなどを好適に使用することができる。
【0061】
上記有機バインダーの配合量としては、吸熱層14を構成する材料の合計重量に対して0.5~5.0質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。
【0062】
上記吸熱層14の厚さとしては特に限定されないが、0.1~4.0mmの範囲にあることが好ましい。吸熱層14の厚さが0.1mm未満であると、充分な機械的強度を吸熱層14に付与することができない。一方、吸熱層14の厚さが4.0mmを超えると、吸熱層14の成形自体が困難となるおそれがある。
【0063】
<組電池用断熱シートの製造方法>
続いて、組電池用断熱シート10の製造方法について詳細に説明する。
【0064】
(断熱層の製造方法)
本実施形態に係る断熱層12は、少なくとも無機繊維または無機粉体から構成される材料を、乾式成形法または湿式成形法により型成形して製造される。以下に、断熱層12をそれぞれの成形法により得る場合の製造方法について説明する。
【0065】
[乾式成形法を用いて製造する場合]
まず、乾式成形法では、無機繊維または無機粉体のうち少なくともいずれか1つ、更に必要に応じて無機結合材や有機弾性物質を所定の割合でV型混合機などの混合機に投入する。混合機に投入された材料を充分に混合した後、所定の型内に混合物を投入し、プレスすることにより断熱層12を得る。プレス時には、必要に応じて加熱してもよい。
【0066】
上記プレス圧は、0.98~9.80MPaの範囲であることが好ましい。プレス圧が0.98MPa未満であると、得られる断熱層12において、強度を保つことができずに崩れてしまうおそれがある。一方、プレス圧が9.80MPaを超えると、過度の圧縮によって加工性が低下し、更に、かさ密度が高くなるため固体伝熱が増加し、断熱性が低下するおそれがある。
【0067】
[湿式成形法を用いて製造する場合]
続いて、湿式成形法では、無機繊維または無機粉体のうち少なくともいずれか1つ、更に必要に応じて無機結合材を水中で混合撹拌して充分に分散させ、その後、凝集剤を添加し、無機繊維に無機粉体や無機結合材を添着させた一次凝集体を得る。次に、必要に応じて有機弾性物質のエマルジョンなどを所定の範囲内で上記水中に添加した後、高分子凝集剤を添加することにより凝集体を含むスラリーを得る。
【0068】
次に、上記凝集体を含むスラリーを所定の型内へ投入して湿潤した断熱層12を得る。得られた断熱層12を乾燥することにより、目的の断熱層12が得られる。
【0069】
上述のように、断熱層12は、乾式成形法または湿式成形法のいずれによっても得られるが、一体成形の容易性や機械的強度の点から湿式成形法を用いることが好ましい。
【0070】
(吸熱層の製造方法)
本実施形態に係る吸熱層14は、少なくとも無機水和物から構成される材料を、乾式成形法または湿式成形法により型成形して製造される。吸熱層の製造方法の詳細条件については、無機繊維や無機粉体を無機水和物に変更する以外は上記断熱層の製造方法と同様である。
【0071】
(断熱層と吸熱層の接合)
断熱層12と吸熱層14とを接合して組電池用断熱シート10を形成する方法については、断熱層12および吸熱層14がウェット状態での加圧プレスや、これら部材の乾燥後に接着剤を用いて接着する方法などを挙げることができる。
【実施例
【0072】
以下に、本実施形態に係る組電池用断熱シートの実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
<実施例1>
無機粉体としてTiO粉末(平均粒径:8μm)50質量%、SiO粉末(平均粒径:15nm)50質量%を加えて十分に混合した。上記混合物を金型成形し、厚さ1mmの断熱層(断熱シート)を得た後、この断熱層を110℃×8hrの条件で乾燥させた。
【0074】
続いて、水酸化アルミニウム(Al(OH))粉末(平均粒径:1μm)を45質量%、無機繊維としてロックウールを45質量%、パルプ繊維を8質量%、無機バインダーを1.5質量%、高分子凝集材を0.5質量%加え、十分に撹拌混合してスラリーを調整した。上記スラリーを抄造して厚さ1mmの吸熱層(吸熱シート)を得た。
【0075】
作製した断熱層および吸熱層を重ね合わせることにより、組電池用断熱シートを得た。
【0076】
<実施例2>
無機繊維としてアルミナ-シリカ系ファイバー(AF:Alumina Fiber)を金型成形し、厚さ1mmの断熱層(断熱シート)を得た後、この断熱層を110℃×8hrの条件で乾燥させた。
【0077】
続いて、水酸化アルミニウム粉末(平均粒径:1μm)を45質量%、無機繊維としてロックウールを45質量%、パルプ繊維を8質量%、無機バインダーを1.5質量%、高分子凝集材を0.5質量%加え、十分に撹拌混合してスラリーを調整した。上記スラリーを抄造して厚さ1mmの吸熱層(吸熱シート)を得た。
【0078】
作製した断熱層および吸熱層を重ね合わせることにより、組電池用断熱シートを得た。
【0079】
<実施例3>
無機繊維としてアルミナ-シリカ系ファイバー(AF)を60質量%、無機粉体としてTiO粉末(平均粒径:8μm)20質量%、SiO粉末(平均粒径:15nm)20質量%を加えてよく混合した。上記混合物を金型成形し、厚さ1mmの断熱層(断熱シート)を得た後、この断熱層を110℃×8hrの条件で乾燥させた。
【0080】
続いて、水酸化アルミニウム粉末(平均粒径:1μm)を45質量%、無機繊維としてロックウールを45質量%、パルプ繊維を8質量%、無機バインダーを1.5質量%、高分子凝集材を0.5質量%加え、十分に撹拌混合してスラリーを調整した。上記スラリーを抄造して厚さ1mmの吸熱層(吸熱シート)を得た。
【0081】
作製した断熱層および吸熱層を重ね合わせることにより、組電池用断熱シートを得た。
【0082】
<比較例1>
実施例1と同様の条件および手順で、厚さ2mmの断熱層を作製し、組電池用断熱シートを得た。比較例1では、実施例1における断熱層のみで組電池用断熱シートを構成しており、吸熱層は存在しない。
【0083】
<比較例2>
実施例2と同様の条件および手順で、厚さ2mmの断熱層を作製し、組電池用断熱シートを得た。比較例2では、実施例2における断熱層のみで組電池用断熱シートを構成しており、吸熱層は存在しない。
【0084】
<比較例3>
実施例3と同様の条件および手順で、厚さ2mmの断熱層を作製し、組電池用断熱シートを得た。比較例3では、実施例3における断熱層のみで組電池用断熱シートを構成しており、吸熱層は存在しない。
【0085】
<比較例4>
アルカリアースシリケート(AES)ファイバーにより構成される厚み2mmのシートを準備し、組電池用断熱シートとした。
【0086】
<比較例5>
厚み1mmのマイカシートと厚み1mmのアルミナ-シリカ系ファイバー(AF)シートを重ね合わせることにより、組電池用断熱シートを得た。
【0087】
<比較例6>
実施例1と同様の条件および手順で、厚さ2mmの吸熱層を作製し、組電池用断熱シートを得た。比較例6では、実施例1における吸熱層のみで組電池用断熱シートを構成しており、断熱層は存在しない。
【0088】
実施例1~3および比較例1~6で得られた組電池用断熱シートの一方の面にヒーターを配し、他方の面に隣接する電池セルを模擬した金属板を配した。更に、金属板に熱電対を配して、ヒーター温度が700℃になるように加熱し、経過時間に対する隣接する電池セル(金属板)表面の温度変化を測定した。
【0089】
各実施例および各比較例における、経過時間に対する隣接する電池セル表面の温度変化をプロットしたグラフを図4に示す。また、各実施例および各比較例の最高表面温度を下記に示す。
実施例1:336℃
実施例2:349℃
実施例3:343℃
比較例1:367℃
比較例2:448℃
比較例3:427℃
比較例4:478℃
比較例5:403℃
比較例6:385℃
【0090】
図4に示すように、実施例1~実施例3の組電池用断熱シートは、比較例1~比較例6に比べて、隣接する電池セル表面の温度が低く抑えられていることが分かる。以上より、本実施例に係る組電池用断熱シートは、各電池セル間の熱の伝播を効果的に抑制できることが示された。
【符号の説明】
【0091】
10 組電池用断熱シート
12 断熱層
14 吸熱層
16 鱗片状粒子
20 電池セル
30 電池ケース
100 組電池
図1
図2
図3
図4