IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-軸受 図1
  • 特許-軸受 図2
  • 特許-軸受 図3
  • 特許-軸受 図4
  • 特許-軸受 図5
  • 特許-軸受 図6
  • 特許-軸受 図7
  • 特許-軸受 図8
  • 特許-軸受 図9
  • 特許-軸受 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20220517BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220517BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20220517BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/06
F16C19/52
F16C33/78 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018030698
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2019143765
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 勇介
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203968010(CN,U)
【文献】特開2016-084843(JP,A)
【文献】特開2016-195474(JP,A)
【文献】特開2013-124874(JP,A)
【文献】特開2014-219078(JP,A)
【文献】特開2011-069402(JP,A)
【文献】特開2009-077614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00,33/00,41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受であって、
内周側に軌道面を有する外輪と、
前記外輪の前記軌道面に接触する複数の転動体と、
前記複数の転動体に接触する内輪と、
前記複数の転動体を保持する保持器と、
前記外輪と前記内輪との間に設けられたシール部材と、
前記シール部材に設置され、前記軸受の状態情報を検出するセンサと、
前記センサが検出した前記状態情報を外部に送信する送信部と、
前記外輪と前記内輪とにより挟まれた軸受空間に面するように配置され、前記センサおよび前記送信部に給電する電力を発電する発電部とを備え、
前記発電部は、応力を起電力に変換する素子を含み、
前記素子は、前記シール部材において前記軸受空間に面する内周面上に設置されている、軸受。
【請求項2】
前記保持器は、前記シール部材に設置された前記素子に面する表面に形成された突起部を含む、請求項に記載の軸受。
【請求項3】
前記突起部は、前記軸受の使用時に前記素子を押圧するように構成されている、請求項に記載の軸受。
【請求項4】
軸受であって、
内周側に軌道面を有する外輪と、
前記外輪の前記軌道面に接触する複数の転動体と、
前記複数の転動体に接触する内輪と、
前記複数の転動体を保持する保持器と、
前記外輪と前記内輪との間に設けられたシール部材と、
前記シール部材に設置され、前記軸受の状態情報を検出するセンサと、
前記センサが検出した前記状態情報を外部に送信する送信部と、
前記外輪と前記内輪とにより挟まれた軸受空間に面するように配置され、前記センサおよび前記送信部に給電する電力を発電する発電部とを備え、
前記発電部は、応力を起電力に変換する素子を含み、
前記素子は、前記外輪および前記内輪のうち回転する部材と接続されていない一方において前記軸受空間に面する表面上に配置されている、軸受。
【請求項5】
前記素子は圧電フィルムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の軸受。
【請求項6】
前記素子は帯電フィルムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の軸受。
【請求項7】
前記発電部と前記センサおよび前記送信部とに接続され、前記発電部で発電された前記電力を一時的に蓄積するとともに、前記センサおよび前記送信部に供給するように構成されている、蓄電部を備える、請求項1~のいずれか1項に記載の軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受に関し、より特定的には発電機能を内蔵したセンサ付の軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電機能を内蔵したセンサ付の軸受が知られている(たとえば、特開2017-187061号公報参照)。特開2017-187061号公報には、ワイヤレスセンサ付軸受が開示されている。当該ワイヤレスセンサ付軸受では、環状体からなる保持器のポケット同士の間に1つずつ磁石が固定されている。当該磁石は、環状体の周方向で各磁石のN極とS局とが隣り合うように固定される。また、第1シールにおける上記磁石との対向面にコイルと回路部とアンテナとが設置される。内輪、外輪、第1シールのいずれかにセンサが設置される。上記ワイヤレスセンサ付軸受では、磁石による電磁誘導でコイルに生じた電流を用いてセンサからの出力を外部に送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-187061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特開2017-187061号公報に開示された軸受では、保持器に磁石を配置し、第1シールにコイルを配置するといった複雑な構造を有するため、当該軸受の製造工程が複雑化し、製造コストが増大する可能性がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、簡単な構成であって発電機能を内蔵したセンサ付の軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った軸受は、外輪と、複数の転動体と、内輪と、保持器と、シール部材と、センサと、送信部と、発電部とを備える。外輪は内周側に軌道面を有する。複数の転動体は、外輪の軌道面に接触する。内輪は、複数の転動体に接触する。保持器は、複数の転動体を保持する。シール部材は、外輪と内輪との間に設けられる。センサは、シール部材に設置され、軸受の状態情報を検出する。送信部は、センサが検出した状態情報を外部に送信する。発電部は、外輪と内輪とにより挟まれた軸受空間に面するように配置され、センサおよび送信部に給電する電力を発電する。発電部は、応力を起電力に変換する素子を含む。
【発明の効果】
【0007】
上記によれば、簡単な構成であって発電機能を内蔵したセンサ付の軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1に係る軸受の部分断面模式図である。
図2図1に示した軸受の拡大断面模式図である。
図3図1に示した軸受を構成する素子を説明するための断面模式図である。
図4図1に示した軸受の変形例の構成を説明するためのブロック図である。
図5】本発明の実施の形態2に係る軸受の拡大断面模式図である。
図6図5に示した軸受の保持器を説明するための模式図である。
図7】本発明の実施の形態3に係る軸受の拡大断面模式図である。
図8】本発明の実施の形態4に係る軸受の拡大断面模式図である。
図9図8に示した軸受を構成する素子を説明するための断面模式図である。
図10】本発明の実施の形態5に係る軸受の拡大断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0010】
(実施の形態1)
<軸受の構成>
図1は、本発明の実施の形態1に係る軸受の部分断面模式図である。図2は、図1に示した軸受の拡大断面模式図である。図3は、図1に示した軸受を構成する素子を説明するための断面模式図である。
【0011】
図1図3に示す軸受1は、センサ付軸受であって、外輪2と、複数の転動体4と、内輪3と、保持器5と、シール部材6、7と、センサ8と、送信部9と、発電部10と、アンテナ11とを主に備える。ここでは、軸受1として、転動体4を玉とした深溝玉軸受を用いた場合を例として説明する。また、内輪3を回転輪とし、外輪2を固定輪とした内輪回転タイプの軸受1であると仮定して説明する。
【0012】
外輪2は内周側に軌道面を有する。複数の転動体4は、外輪2の軌道面に接触する。内輪3は、複数の転動体4に接触する。保持器5は、複数の転動体4を保持する。シール部材6、7は、第1のシール部材6と第2のシール部材7とを含む。シール部材6、7は外輪2と内輪3との間に設けられる。シール部材6、7は外輪2と内輪3とにより囲まれ、複数の転動体4が位置する軸受空間を密封する。軸受空間内にはグリース等の潤滑剤が封入されている。なお、シール部材6、7の構成は、図1に示すような外輪2と内輪3との双方に接触する構成に限られず、他の任意の構成を採用できる。たとえば、シール部材6、7の構成として、固定輪である外輪2に接続される一方、回転輪である内輪3との間に隙間が形成されているような構成を採用してもよい。たとえば、シール部材6、7として非接触タイプのシール部材を用いることができる。センサ8は、シール部材7に設置され、軸受1の状態情報を検出する。センサ8としては一種類に限らず、複数種類のセンサ8をシール部材7に設置してもよい。送信部9は、センサ8が検出した状態情報を外部に送信する。発電部10は、自己発電可能な電源であり、軸受空間に面するように配置され、センサ8および送信部9に給電する電力を発電する。発電部10は、応力を起電力に変換する素子12を含む。
【0013】
すなわち、上記軸受1において、シール部材7には、一種類以上のセンサ8と、センサ8で検出した軸受の状態情報を外部に送信する送信部9と、自己発電が可能な発電部10とが一体に設けられている。たとえば、センサ8は、温度センサや振動センサである。センサ8として複数のセンサを実装してもよい。センサ8と送信部9とはたとえば基板17上に実装される。
【0014】
送信部9は、センサ8の検出した軸受の状態情報を外部に送信するワイヤレス送信機である。送信部9は、無線で軸受1の設置部から離れた外部の情報理処理装置(図示せず)に軸受1の状態情報を送信する。送信部9にはアンテナ11が接続されており、送信部9は当該アンテナ11を介して状態情報を外部に送信する。
【0015】
基板17上に実装されたセンサ8および送信部9は、当該基板17とともに収納部18の内部に配置される。収納部18はシール部材7の内周面に接続される。すなわち、センサ8と送信部9とを実装した基板17および素子12を含む発電部10は、収納部18に組み込まれ、シール部材7の側面に固定される。
【0016】
シール部材7には、内周面から外周面に貫通する貫通穴が形成されている。当該貫通穴の内部にアンテナ11が配置されている。アンテナ11は送信部9に接続されている。また、センサ8および送信部9の保持器5に対向する側に、発電部10が配置されている。発電部10はシール部材7に接続されている。発電部10は素子12と保護フィルム14と弾性部材15とを主に含む。
【0017】
発電部10に含まれる素子12としては、たとえば圧電フィルムを用いる。図3に素子12としての圧電フィルムの一例となる構造を示す。素子12を構成する圧電フィルムとしては、たとえば圧電機能を有するポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電ポリマーフィルム(ピエゾフィルム)を用いる。素子12の構造として、圧電フィルムの両面にアルミ電極12aを蒸着してそれらを電極とした構造を採用してもよい。
【0018】
素子12はシール部材7において保持器5と対向する側に配置される。素子12をグリースの付着から保護するため、素子12において保持器5に面する第1の表面上に保護フィルム14を設けてもよい。また、素子12において第1の表面と反対側の第2の表面上に弾性部材15を配置してもよい。このような弾性部材15を配置することにより、圧電フィルムである素子12はシール部材7内で変形可能となっている。たとえば、リング状に形成した圧電フィルム(ピエゾフィルム)である素子12は、軸方向からの押圧で変形可能な状態でシール部材7に配置される。
【0019】
軸受1の回転輪(たとえば内輪3)を回転させると、保持器5も回転して軸受1内部のグリース等の潤滑剤が撹拌される。軸受1の内部においてグリースが移動した際に圧電フィルムを含む素子12に変形が与えられ、素子12において起電力が発生する。当該素子12において発生した電力を電源として処理する。たとえば、素子12において発生した電流を全波整流し、コンデンサ等に充電する。このようにして得られた電力をシール部材7に埋め込まれたセンサ8や無線用の送信部9の電力に使用する。
【0020】
なお、素子12において発電した電力を二次電池や電気二重層コンデンサなどの蓄電要素に蓄電して使用してもよい。図4は、図1に示した軸受の変形例の構成を説明するためのブロック図である。図4は、軸受におけるセンサ8、送信部9、発電部10の制御に関係する構成の関係を示している。図4に示す軸受は、基本的には図1図3に示した軸受1と同様の構成を備えるが、整流部21、蓄電部22および制御部30を備える点が図1図3に示した軸受1と異なっている。図4に示すように、発電部10は整流部21を介して蓄電部22に接続されている。整流部21は発電部10において発生した電流を整流する。蓄電部22には整流部21において整流された電流が充電される。制御部30は蓄電部22とセンサ8および送信部9とに接続される。制御部30は蓄電部22からセンサ8および送信部9への電力の供給を制御する。なお、整流部21、蓄電部22、制御部30は軸受の内部の任意の位置に設置できる。たとえば、整流部21、蓄電部22、制御部30を基板17上に実装してもよい。このような構成とすることで、センサ8や送信部9へ供給される電力が安定するとともに、センサ8や送信部9の稼働時間を制限することで消費電力の大きいセンサや送信機などの機器を使用することができる。
【0021】
<作用効果>
本開示に従った軸受1は、外輪2と、複数の転動体4と、内輪3と、保持器5と、シール部材6、7と、センサ8と、送信部9と、発電部10とを備える。センサ8は、シール部材7に設置され、軸受1の状態情報を検出する。送信部9は、センサ8が検出した状態情報を外部に送信する。発電部10は、外輪2と内輪3とにより挟まれた軸受空間に面するように配置され、センサ8および送信部9に給電する電力を発電する。発電部10は、応力を起電力に変換する素子12を含む。
【0022】
ここで、軸受1の使用時には保持器5がシール部材6、7に対して回転することで、軸受空間に配置されたグリースなどの潤滑剤が撹拌される。このとき、当該潤滑剤の撹拌により発電部10の素子12に対して応力が加えられる。素子12では当該応力を起電力に変換し、電気を発生させる。この電気をセンサ8および送信部9に供給することで、軸受1の温度などの状態情報をセンサ8で計測し、送信部9により外部に送信できる。上記の軸受1では、発電部10において磁石とコイルとを用いた電磁誘導による発電のように複数の部品を用いた発電方式とは異なり、素子12に応力を作用させることで直接電力を得ることができるので、上記のような電磁誘導による発電方式を採用した場合より軸受1の構造を簡略化できる。
【0023】
また、従来のように保持器のポケット間に位置する柱部に磁石を挿入するための貫通穴を形成する必要が無いため、当該貫通穴の形成に起因する保持器の強度の低下を防止できる。また、軸受内部に磁石を配置する場合には、当該磁石による磁力が軸受性能に影響を及ぼす可能性もあるが、本実施形態に係る軸受1ではこのような磁力による軸受性能への影響を避けることができる。さらに、軸受内部に磁石を配置する場合、当該磁石の磁力により鉄粉などが軸受内部に集積され、軸受の破損や寿命低下の要因となる可能性もあるが、本実施形態に係る軸受1ではこのような破損や寿命低下を避けることができる。
【0024】
また、軸受設計時には、転動体の数やサイズを最大限に大きくすることで、軸受の荷重条件や寿命条件などの要求性能を満たしつつ、軸受のコンパクト化を図る。しかし、従来のように保持器のポケット間に磁石を配置すると、軸受のサイズを一定にする場合には、当該磁石の設置場所を確保するため転動体の数を減らす、あるいは転動体のサイズを小さくするといった対応が必要になる。そのため、同一の要求性能を満足する軸受を得るため、従来のように磁石を保持器に配置する場合には軸受のサイズを大きくする必要があった。このように軸受のサイズが大きくなることは、軸受の製造コストが増大する、あるいは当該軸受を適用する機械装置の設計の自由度が低下するといった問題の原因となる。一方、上述した本実施形態に係る軸受では発電部10がコンパクトであり、当該発電部10を配置することに起因して軸受のサイズを大きくする必要は無く、上記のような問題の発生を避けることができる。
【0025】
上記軸受1において、素子12は圧電フィルムである。この場合、起電力を発生させる素子12として圧電フィルムという1つのシート状の部材を用いるので、従来のような磁石とコイルといった複数の部材を用いて発電する場合より軸受1の構成を確実に簡略化できる。
【0026】
上記軸受1において、素子12は、シール部材7において軸受空間に面する内周面上に設置されている。この場合、軸受空間内部におけるグリースなどの潤滑剤の流動による応力を素子12に対して直接的に作用させることができる。このため、軸受1の使用時に素子12において効率的に発電できる。
【0027】
上記軸受1は蓄電部22を備える。蓄電部22は、発電部10とセンサ8および送信部9とに接続され、発電部10で発電された電力を一時的に蓄積するとともに、センサ8および送信部9に供給するように構成されている。この場合、発電部10において発電された電力を一旦蓄電部22に溜めておき、センサ8および送信部9に対して必要に応じて当該蓄電部22から電力を供給することができる。この結果、センサ8および送信部9への安定した電力供給が可能になり、これらの機器の動作を安定させることができる。
【0028】
異なる観点から言えば、上述した軸受1では、軸受1の非回転部であるシール部材6、7や外輪2の内径面(図10参照)、あるいは内輪3の外径面などに、発電部10を構成する素子12としてフィルム状の素子を配置する。フィルム状の素子としては、変形により起電力を発生する圧電フィルム、あるいは摩擦により起電力を発生する帯電フィルムを用いてもよい。このようなフィルム状の素子12を発電部10に用いることで、当該素子12を軸受の回転に伴って撹拌された潤滑剤による応力で変形させて発電できる。このため、発電部10のサイズを小さくできる。また、電磁誘導を利用した発電部などに比べて発電部10の構造を簡略化できる。この結果、発電部10を軸受1の内部の狭い空間に配置することができる。なお、素子12としては上述した圧電フィルムや帯電フィルム以外であっても、応力を起電力に変換する任意の素子を用いることができる。また、素子12の形状についても、シール部材7の側面に沿った円環状の形状としてもよいが、他の形状としてもよい。たとえば、軸受1の回転軸方向から見て、シール部材7の側面に沿って間隔を隔てて複数の素子12を配置してもよい。この場合の素子12の上記回転軸方向から見たときの平面形状は、四角形状、扇形状、丸型状など任意の形状としてもよい。
【0029】
フィルム状の素子の具体例としては、たとえば圧電機能を有するフィルムである圧電ポリマーフィルムが挙げられる。具体的には、高分子強誘電材料をフィルム状としたものであるポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)等の圧電ポリマーフィルム(ピエゾフィルム)を用いることができる。圧電ポリマーフィルム(圧電フィルムとも呼ぶ)は、変形させると無機材料と比べ大きな発電量が得られる。
【0030】
素子12の配置としては、たとえばシール部材7の側面にリング状に当該素子12を配置する。素子12としての圧電フィルムは変形可能な状態で配置される。また、圧電フィルムの両面にアルミニウム膜を蒸着し、当該アルミニウム膜を電極として用いる。圧電フィルムは微小な変位(たとえば数μm程度の変位)でも起電力が発生するものを用いるとよい。
【0031】
上記のような構成の軸受1では、回転輪(たとえば内輪3)が回転した際には、保持器5も回転して軸受1内部の潤滑剤が撹拌される。当該潤滑剤が移動した際に素子12としての圧電フィルムに変形を与えて起電力が発生する。このようにして得られた電力をシール部材7に埋め込んだセンサ8や無線送信機である送信部9の回路電力に使用できる。この場合、素子12とシール部材7との間に弾性部材15を配置して変形量が大きくなるようにしてあってもよい。また、素子12がグリース等の潤滑剤に直接接触しないように保護フィルム14を実装してあってもよい。
【0032】
また、上記軸受1では、シール部材7に圧電フィルムなどの起電力発生シートである素子12を固定する構造となっている。そのため、軸受1の内部諸元を従来の標準的な軸受から大きく変えることなく、発電部10を軸受1内部に配置することができる。この結果、標準的な軸受と同じサイズで自己発電しながらワイヤレスでセンサ信号を送信するセンサ付き軸受を構成することができる。
【0033】
(実施の形態2)
<軸受の構成>
図5は、本発明の実施の形態2に係る軸受の拡大断面模式図である。図6は、図5に示した軸受の保持器を説明するための模式図である。図5および図6に示す軸受は、基本的には図1図3に示した軸受1と同様の構成を備えるが、保持器5の構成が図1図3に示した軸受1と異なっている。すなわち、図5および図6に示した軸受の保持器5には、発電部10に面する表面である端面5bに突起部5cが形成されている。具体的には、保持器5において転動体4を保持する複数のポケットが形成され、当該複数のポケットの間の領域が柱部5aとなっている。柱部5aにおいて発電部10に面する端面5bに突起部5cが形成されている。
【0034】
内輪3の径方向に沿った突起部5cの断面形状は任意の形状とすることができるが、たとえば図5に示すように四角形状としてもよい。また、内輪3の径方向に垂直な方向に沿った突起部5cの断面形状も任意の形状とすることができるが、たとえば図6に示すように半円状であってもよい。また、保持器5に形成される突起部5cの数は、1つでもよいが2以上の複数でもよい。
【0035】
また、図5に示すように素子12のシール部材7側には弾性部材15が配置されているが、当該弾性部材15に変えて素子12とセンサ8および送信部9との間に空隙を設けてもよい。
【0036】
<作用効果>
上記軸受1において、保持器5は、シール部材7に設置された素子12に面する表面に形成された突起部5cを含む。この場合、軸受1の使用時に保持器5が素子12に対して相対的に運動する際、突起部5cが存在することで保持器5と素子12の表面との距離を局所的に小さくできる。この結果、軸受1の使用時において軸受空間内の潤滑剤が素子12に加える応力を、突起部5cが無い場合より大きくすることができる。異なる観点から言えば、内輪3の回転に伴う保持器5の回転によりグリースなどの潤滑剤が軸受空間内で撹拌される際の、素子12の変形量を大きくできる。また、突起部5cによる素子12の押圧位置が変化することで、素子12において連続的なパルス電圧を安定的に発生させることができる。このため、素子12での発電量を大きくできるとともに、素子12において安定的に発電できる。
【0037】
また、素子12のシール部材7側に弾性部材15または空隙を配置することで、素子12の変形量を大きくしてもよい。この場合も、素子12での発電量を大きくできる。
【0038】
(実施の形態3)
<軸受の構成>
図7は、本発明の実施の形態3に係る軸受の拡大断面模式図である。図7に示す軸受は、基本的には図5および図6に示した軸受と同様の構成を備えるが、保持器5の構成が図5および図6に示した軸受と異なっている。すなわち、図7に示した軸受の保持器5には、柱部5aにおいて発電部10に面する表面に突起部5dが形成されている。当該突起部5dは、発電部10に直接接触可能な大きさを有する。具体的には、柱部5aの表面からの突起部5dの高さは、当該柱部5aの表面から発電部10までの距離より大きくなっている。図7に示した軸受は、グリース等の潤滑剤が軸受の内部に封入された構成とは異なる構成を有する軸受であってもよい。たとえば、図7に示した発電部10と突起部5dとを、グリースが内部に封入されず潤滑油により潤滑された軸受に適用してもよい。
【0039】
突起部5dの形状は任意の形状とすることができるが、たとえば図7に示す円柱状としてもよい。突起部5dの先端面5eは任意の形状としてもよいが、曲面状とすることが好ましい。たとえば先端面5eは球面であってもよい。また、保持器5に形成される突起部5dの数は、1つでもよいが2以上の複数でもよい。
【0040】
<作用効果>
上記軸受1において、突起部5dは、軸受1の使用時に素子12を押圧するように構成されている。この場合、軸受1の使用時に突起部5dが直接素子12を押圧するため、素子12に対して確実に応力を作用させることができる。このため、素子12において発電量を大きくするとともに安定的に発電できる。より具体的には、軸受1の使用時に、素子12を突起部5dにより連続的に押圧できるので、素子12で連続的なパルス電圧を発生させることができる。
【0041】
(実施の形態4)
<軸受の構成>
図8は、本発明の実施の形態4に係る軸受の拡大断面模式図である。図9は、図8に示した軸受を構成する素子を説明するための断面模式図である。図8および図9に示す軸受は、基本的には図1図3に示した軸受1と同様の構成を備えるが、発電部10を構成する素子16が圧電フィルムではなく、摩擦により起電力を発生させる帯電フィルムである点が、図1図3に示した軸受1と異なっている。
【0042】
図9に素子16としての帯電フィルムの構造例を示す。帯電フィルムである素子16は、異なる材料からなる2つの材料膜16a、16bを積層した構造を有する。つまり、素子16を構成する帯電フィルムとは、摩擦帯電を利用して起電力を発生させるフィルムであって、二つの異なる材料を接触させた構成を有する。当該2つの異なる材料は、加えられる応力に応じて接触面積や近接距離が変化するように構成されている。2つの異なる材料の組合せとしては、帯電列上で離れた材料の組合せとすることが好ましい。たとえば、一方の材料を四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)とし、他方の材料をポリウレタン(PU)としてもよい。当該帯電フィルムに圧力を印加したり、当該帯電フィルムを変形させることで、2つの材料間に摩擦帯電による電位差が生じる。したがって、素子16として上記帯電フィルムを用いれば、軸受空間内の潤滑剤の撹拌により当該素子16(帯電フィルム)が変形し、素子16を構成する2つの材料膜16a、16b間の接触面積や近接距離が変化し、摩擦帯電による電位差が発生する。当該電位差に起因する電流を各材料膜16a、16bに設置した電極などにより素子16から取り出すことで、発電部10により発電できる。
【0043】
<作用効果>
上記軸受1において、素子16は帯電フィルムである。この場合、圧電フィルムを素子12として用いる場合と同様に単純な構成の発電部10を実現できる。
【0044】
(実施の形態5)
<軸受の構成>
図10は、本発明の実施の形態5に係る軸受の拡大断面模式図である。図10に示す軸受1は、基本的には図1図3に示した軸受1と同様の構成を備えるが、発電部10の配置が図1図3に示した軸受1と異なっている。すなわち、図10に示した軸受1では、発電部10が外輪2の内径面に設置されている。図10では2つの発電部10が外輪2の軌道面を中心軸方向において挟むように外輪2の内径面上に配置されている。また異なる観点から言えば、発電部10は外輪2の内径面において保持器5の外周面に面する位置に配置されている。発電部10は、図1図2に示した素子12を含んでいてもよいし、図8および図9に示した素子16を含んでいてもよい。発電部10は外輪2の内径面において軌道面から見て一方の側のみに配置されていてもよい。たとえば、発電部10が外輪2の内径面において軌道面よりシール部材7側の領域にのみ配置されてもよい。
【0045】
なお、上記の構成は内輪3が回転する場合を想定したものであり、外輪2が回転する場合には内輪3の外径面上に発電部10を配置してもよい。また、発電部10をシール部材6の保持器5に面する側面上に配置してもよい。センサ8および送信部9をシール部材6に設置してもよい。発電部10を2つのシール部材6、7の両方に設置してもよい。
【0046】
<作用効果>
上記軸受において、素子12、16は、外輪2および内輪3のうち回転する部材と接続されていない一方において軸受空間に面する表面上に配置されている。この場合も、図1図8等に示した軸受1と同様の効果を得ることができる。
【0047】
上述した実施の形態では、軸受内部にグリースなどの潤滑剤が封入された軸受を例として説明しているが、各実施の形態に係る構成は任意の形式の軸受に適用可能である。たとえば、外部から潤滑油が軸受内部に供給されるような構成の軸受であっても、軸受の使用時に当該潤滑油により発電部10の素子12、16に応力が加えらるような軸受について、上述した各実施の形態に係る構成を適用してもよい。
【0048】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行ったが、上述の実施の形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 軸受、2 外輪、3 内輪、4 転動体、5 保持器、5a 柱部、5b 端面、5c,5d 突起部、5e 先端面、6,7 シール部材、8 センサ、9 送信部、10 発電部、11 アンテナ、12,16 素子、12a アルミ電極、14 保護フィルム、15 弾性部材、16a,16b 材料膜、17 基板、18 収納部、21 整流部、22 蓄電部、30 制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10