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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20220517BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20220517BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20220517BHJP
   G01K 7/36 20060101ALI20220517BHJP
   G01P 3/487 20060101ALI20220517BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/16
F16C19/52
G01K7/36 Z
G01P3/487 A
G01L5/00 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018038662
(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公開番号】P2019152287
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 勇介
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-169756(JP,A)
【文献】特開2001-255335(JP,A)
【文献】特開2012-37013(JP,A)
【文献】特開2003-4036(JP,A)
【文献】特開2012-21574(JP,A)
【文献】特開昭64-70252(JP,A)
【文献】特開2005-92705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66
F16C 41/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受単体または軸受の間に間座を挟む構造で回転体を支持する軸受装置であって、
前記軸受は、内輪、外輪、転動体を含み、
前記間座は、外輪間座と内輪間座とを含み、
前記内輪および前記外輪のうちの固定側の固定輪、または、前記外輪間座および前記内輪間座のうちの固定側の固定間座に設けられ、磁気特性を検出する磁気センサと、
前記内輪および前記外輪のうちの回転側の回転輪、または、前記外輪間座および前記内輪間座のうちの前記回転輪と共に回転する回転側の回転間座に配置され、温度によって磁気特性が変化する磁性体部材と
前記磁気センサの出力を受けて前記軸受の状態検出を行なう信号処理部とを備え、
前記磁性体部材は、前記回転輪が回転する間に、前記磁気センサが検出する磁気特性が変動するように磁化され、
前記磁性体部材は、外周面が前記磁気センサに対向するように配置され前記回転輪または前記回転間座に配置されたリング部材であり、
前記リング部材は、前記軸受の回転軸から外側に向かう方向における磁化の向きが回転方向に沿って交互に異なり、
前記信号処理部は、前記磁気センサの出力信号の周波数に基づいて前記回転輪の回転速度を算出するとともに、前記磁気センサの出力信号の振幅に基づいて温度を算出する、軸受装置。
【請求項2】
前記リング部材は、
内周側にN極が形成され外周側にS極が形成される第1領域と、
外周側にN極が形成され内周側にS極が形成される第2領域とを含み、
前記第1領域と前記第2領域は、前記回転方向に沿って交互に配置される、請求項に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記固定輪または前記固定間座の温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの出力および前記磁気センサの出力に基づいて、軸受の異常を診断する異常診断部とをさらに備える、請求項1または2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記固定輪または前記固定間座の温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの出力および前記磁気センサの出力に基づいて、軸受の予圧荷重を推定する予圧荷重推定部とをさらに備える、請求項1または2に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記磁気センサによって測定した情報をワイヤレスで通信する通信部をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受装置に関し、特に簡単な構成で軸受の回転輪温度の変化を精度良く検出することが可能な軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009-68533号公報(特許文献1)では、工作機主軸などに用いられる軸受に発生する異常を精度よく迅速に検出するために、軸受または間座の固定側の温度と回転側の温度とを測定している。回転側の温度は非接触温度センサによって測定される。非接触温度センサには、赤外線を利用した焦電型赤外線センサやサーモパイルの他に、リング状の測温体(感温フェライトなど)を用いて、磁気特性の変化を検出するものが提案されている。
【0003】
さらに、軸受または間座の固定側の温度および回転側の温度と、回転輪の回転速度から軸受の予圧を推定する予圧推定手段を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-68533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2009-68533号公報には、軸受または間座の回転側温度を測定する方法として、リング部材の磁気特性の変化を利用する方法が開示されているが、具体的なリング部材の構造や、検出手順については開示が無く、工夫の余地がある。
【0006】
また、軸受または間座の固定側温度および回転側温度と回転輪の回転速度から予圧を推定する手法を提案しており、回転速度は、回転センサなどで主軸から測定しているが、回転センサを設けるためにスペースが必要となる。
【0007】
本発明の目的は、磁気特性を利用し温度を検出することが可能であるとともに、別途回転センサを設けることなく回転速度を検出することが可能に構成された軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、軸受単体または軸受の間に間座を挟む構造で回転体を支持する軸受装置に関する。軸受は、内輪、外輪、転動体を含む。間座は、外輪間座と内輪間座とを含む。軸受装置は、内輪および外輪のうちの固定側の固定輪、または、外輪間座および内輪間座のうちの固定側の固定間座に設けられ、磁気特性を検出する磁気センサと、内輪および外輪のうちの回転側の回転輪、または、外輪間座および内輪間座のうちの回転輪と共に回転する回転側の回転間座に配置され、温度によって磁気特性が変化する磁性体部材とを備える。磁性体部材は、回転輪が1回転する間に、磁気センサが検出する磁気特性が変動するように磁化されている。
【0009】
好ましくは、軸受装置は、磁気センサの出力を受けて軸受の状態検出を行なう信号処理部をさらに備え、信号処理部は、磁気センサの出力に基づいて回転輪の回転速度および温度を算出する。
【0010】
好ましくは、磁性体部材は、外周面が磁気センサに対向するように配置され回転輪または回転間座に配置されたリング部材である。リング部材は、軸受の回転軸から外側に向かう方向における磁化の向きが回転方向に沿って交互に異なる。
【0011】
好ましくは、リング部材は、内周側にN極が形成され外周側にS極が形成される第1領域と、外周側にN極が形成され内周側にS極が形成される第2領域とを含み、第1領域と第2領域は、回転方向に沿って交互に配置される。
【0012】
好ましくは、軸受装置は、固定輪または固定間座の温度を測定する温度センサと、温度センサの出力および磁気センサの出力に基づいて、軸受の異常を診断する異常診断部とをさらに備える。
【0013】
好ましくは、軸受装置は、固定輪または固定間座の温度を測定する温度センサと、温度センサの出力および磁気センサの出力に基づいて、軸受の予圧荷重を推定する予圧荷重推定部とをさらに備える。
【0014】
好ましくは、軸受装置は、磁気センサによって測定した情報をワイヤレスで通信する通信部をさらに備える。
【発明の効果】
【0015】
本開示の軸受装置によれば、1つのリング部材を配置することによって、簡単な構成で温度と回転速度を同時に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1の軸受装置を工作機主軸に組み込んだ状態を示す図である。
図2】リング部材の回転軸に直交する断面を示す断面図である。
図3図2のIII-III断面におけるリング部材の断面図である。
図4】1極対のリング部材の回転角度と磁束密度の関係を示す図である。
図5】リング部材の変形例の回転軸に直交する断面を示す断面図である。
図6図5のVI-VI断面におけるリング部材の変形例の断面図である。
図7】4極対のリング部材の回転角度と磁束密度の関係を示す図である。
図8】磁気センサ17の信号を受ける回路の構成を示すブロック図である。
図9】異常判断部が実行する異常判断処理の第1例を説明するためのフローチャートである。
図10】異常判断部が実行する異常判断処理の第2例を説明するためのフローチャートである。
図11】軸受装置の第1変形例を示す図である。
図12】軸受装置の第2変形例を示す図である。
図13】実施の形態2の軸受装置の構成を示す図である。
図14】ワイヤレスで送受信を行なう構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0018】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1の軸受装置を工作機主軸に組み込んだ状態を示す図である。軸受装置50は、軸受単体か、または軸受の間に間座を挟む構造によって、回転体(主軸10)を支持する。
【0019】
図1に示す例では、軸受装置50は、軸受1と間座20とを含み、2つの軸受1で間座20を挟む構造で、工作機主軸10を回転可能に支持する。軸受1は、内輪2、外輪3、転動体4、保持器5を含む。間座20は、外輪間座7と内輪間座6とを含む。
【0020】
軸受装置50は、軸受1と間座20に加えて、磁気センサ17と、リング部材18とをさらに備える。リング部材18は、主軸の周りに配置された環形状の磁性体部材である。磁気センサ17は、外輪間座7および内輪間座6のうちの固定側の固定間座に設けられ、磁気特性を検出する。リング部材18は、温度によって磁気特性が変化する磁性体が磁化された磁石であって、外輪間座7および内輪間座6のうちの回転側の回転間座に配置される。リング部材18は、回転輪が1回転する間に、磁気センサ17が検出する磁気特性(たとえば磁束密度)が変動するように磁化されている。リング部材18は、磁気センサ17に外周面が対向するように配置される。
【0021】
図1において、軸受1は、内輪2、外輪3、転動体4、保持器5を備えた転がり軸受を構成しており、2つの転がり軸受の間に内輪間座6と外輪間座7が挿入されている。内輪2の内径部8および内輪間座内径部9に工作機主軸10が挿入され、外輪3の外径部11および外輪間座外径部12がハウジング13に挿入され、工作機主軸10の回転を支持している。
【0022】
なお、間座と軸受を一体として、磁気センサ17を内輪2および外輪3のうちの固定側の固定輪に設け、リング部材18を、内輪2および外輪3のうちの回転側の回転輪に配置するようにしても良い。軸受単体に対して固定輪に磁気センサを配置し、回転輪に磁性体が磁化された磁石を配置しても良い。また、磁石は、回転輪が1回転する間に、磁気センサ17が検出する磁気特性(たとえば磁束密度)が変動するように磁化されていればよいので、必ずしもリング状でなくても良い。たとえば、間座の一部分に磁石を貼り付けたものであっても良い。
【0023】
図2は、リング部材の回転軸に直交する断面を示す断面図である。図3は、図2のIII-III断面におけるリング部材の断面図である。図2図3を参照して、リング部材18は、外周側にN極が形成され内周側にS極が形成される第1領域A1と、外周側にS極が形成され内周側にN極が形成される第2領域A2とを含む。第1領域A1と第2領域A2は、回転方向Rに沿って交互に配置される。
【0024】
第1領域A1では、回転軸Oから外側に向かう方向における磁化の向きがS→Nであり、第2領域A2では、回転軸Oから外側に向かう方向における磁化の向きがN→Sである。
【0025】
図4は、図2および図3に示した1極対のリング部材の回転角度と磁束密度の関係を示す図である。リング部材18を構成する磁石は、温度の変化によって磁束密度が変化するため、磁気センサ17で磁束密度の変化を測定し、温度を算出することができる。たとえば、フェライト系のゴム磁石をリング部材18として使用した場合には、温度係数は約-0.18%/℃であり、温度が上昇するに従い磁束密度は低下する。
【0026】
たとえば、赤外線を利用した放射温度計では測定対象物の赤外線の放射率が小さいと測定精度に影響するが、本実施の形態では温度の検出に磁気を検出するため、対象部材の材料の影響を受けにくい。
【0027】
図1では、着磁されたリング部材18を内輪間座6の内輪間座外周面16に取り付け、磁気センサ17を外輪間座7に対向するように配置し、リング部材18の磁気特性の変化を測定している。磁気センサ17としてアナログ出力のタイプを使用すれば、図4に示すように磁束密度の変化に応じた正弦波状の出力が得られる。
【0028】
図2および図3に示す磁極が1極対に着磁されたリング部材18が回転した状態では、磁気センサ17の出力は、1回転あたり、1周期の正弦波状の波形が得られる。温度により磁束密度は変化するので、磁束密度の変化が振幅の変化としてあらわれる。
【0029】
この波形を全波整流した後に平滑化したりピーク値の平均値を求めたりすることによって、振幅の変化を表す特性値を算出することができる。あらかじめ、振幅の変化と温度との関係を予め試験などによって取得しておけば、温度を算出することが可能となる。また、磁気センサ17の波形のピークが単位時間あたりに何回発生しているかを測定すれば、回転速度を算出することができる。
【0030】
なお、磁気センサ17の出力波形の振幅を検出して温度に換算する方法以外に、磁気センサ17の出力信号を電気的に平滑処理した変位信号に変換してもよい。工作機のスピンドル用として用いる場合、高速回転しているため、磁気センサ17の信号を平滑処理すれば、検出が容易である。
【0031】
すなわち、リング部材18,18Aの外周面にS極とN極が交互に配置されるようにリング部材18,18Aを着磁し、磁気センサ17で磁束密度を測定することで、S極とN極の極性の変化が振幅としてあらわれる。時間あたりの波数を計数すると回転速度を算出することができる。そして、低温時の波形LTの振幅と比べると、それより温度が高い高温時の波形HTの振幅は小さくなる。したがって振幅を観測することによって、温度を計測することができる。
【0032】
つまり、S極とN極が対になるように着磁したリング部材18を軸受1あるいは間座20に組み込み、磁気センサ17によって磁束密度を測定すれば、温度と回転速度を1つのセンサで算出することができる。
【0033】
なお、図2図3に示す例は極対数が2であるが、図5図6に示すようにS極とN極の極対数を多くすると、整流後の平滑誤差が少なくなり、検出精度が向上するので好ましい。
【0034】
図5は、リング部材の変形例の回転軸に直交する断面を示す断面図である。図6は、図5のVI-VI断面におけるリング部材の変形例の断面図である。図5図6を参照して、リング部材18Aは、外周側にN極が形成され内周側にS極が形成される第1領域A11,A13,A15,A17と、外周側にS極が形成され内周側にN極が形成される第2領域A12,A14,A16,A18とを含む。第1領域A11,A13,A15,A17と第2領域A12,A14,A16,A18は、回転方向Rに沿って交互に配置される。
【0035】
第1領域A11,A13,A15,A17では、回転軸Oから外側に向かう方向における磁化の向きがS→Nであり、第2領域A12,A14,A16,A18では、回転軸Oから外側に向かう方向における磁化の向きがN→Sである。
【0036】
図2図3に示すリング部材18および図5図6に示すリング部材18Aは、いずれも、軸受1の回転軸O-Oから外側に向かう方向における磁化の向きが回転方向に沿って交互に異なる。
【0037】
本実施の形態では、工作機主軸などに使用される軸受において、2個の軸受1の間に間座20を挟む構造で工作機主軸10を支持し、軸受1あるいは間座20の回転側の温度を測定する非接触式の温度センサとして、磁石で構成されるリング部材18または18Aと磁気センサ17を利用した温度センサを使用する。
【0038】
また、図5および図6に示す磁極が多極に着磁されたリング部材18Aを磁気センサ17によって測定すると、1回転あたり複数回の図7に示すような磁束密度変化が得られ、磁気センサ17の出力は、磁極が増えた分、1回転当たりの周波数が増える。全波整流し平滑化した場合周波数が高いほどリップルの振幅は小さくなるため、磁極数が多ければ平滑誤差が減り、測定精度が向上する。また、各磁極の着磁強度にばらつきがあっても、平滑化により平均化されるので、検出が容易になる。
【0039】
図8は、磁気センサ17の信号を受ける回路の構成を示すブロック図である。図8に示すように、軸受装置50は、磁気センサ17の出力を受けて軸受1の状態検出を行なう信号処理部100をさらに備える。信号処理部100は、磁気センサ17の出力に基づいて回転輪の回転速度Niおよび温度Tiを算出する。
【0040】
信号処理部100は、磁気センサ17の出力を増幅する増幅回路101と、増幅回路101が出力する波形を全波整流および平滑化し直流電圧を出力する整流回路102と、整流回路102が出力する電圧をデジタル値に変換するA/Dコンバータ103と、増幅回路101が出力する信号波形の波数を計数する計数回路104と、A/Dコンバータ103が出力するデジタル値から内輪温度Tiを算出するとともに、計数回路104の単位時間当たりの計数値から回転速度Niを算出する演算部105とを含む。
【0041】
演算部105から出力された内輪温度Tiおよび回転速度Niに基づいて、異常判断部110は軸受1の異常判断を行なう。
【0042】
図9は、異常判断部が実行する異常判断処理の第1例を説明するためのフローチャートである。異常判断部110は、ステップS1において、磁気センサ17の出力を監視する。続いて、ステップS2において異常判断部110は、磁気センサ17の出力から検出された内輪温度Tiを、回転速度Niごとに設けられた閾値と比較し、閾値を超えたか否かの閾値判定を行なう。
【0043】
ステップS2において閾値よりも検出温度が低い場合、再びステップS1のセンサ監視処理が繰り返し実行される。一方、ステップS2において閾値よりも検出温度が高い場合、ステップS3の異常回避動作が実行されるように異常判断部110は、異常動作を回避するための指示信号を出力する。
【0044】
この指示信号によって工作機器で実行される異常回避動作制御の例は以下のとおりである。例えば、回転速度を現在よりも低くする制御、刃物切り込み量を現在よりも小さくする制御、潤滑油を供給する、または供給量を増やす制御、加工停止(切削を中止しスピンドル回転速度を下げるまたは回転停止させる)などが挙げられる。
【0045】
図10は、異常判断部が実行する異常判断処理の第2例を説明するためのフローチャートである。異常判断部110は、ステップS11において、磁気センサ17の出力を監視する。続いて、ステップS12において異常判断部110は、磁気センサ17の出力から検出された内輪温度Tiの単位時間当たりの変化率を算出し、算出した変化率が判定値を超えるか否かを判断する(変化率判定)。
【0046】
ステップS12において判定値よりも変化率が小さい場合、再びステップS11のセンサ監視処理が繰り返し実行される。一方、ステップS12において判定値よりも検出値が大きい場合、ステップS13の異常回避動作が実行されるように異常判断部110は、異常動作を回避するための指示信号を出力する。
【0047】
この指示信号によって工作機器で実行される異常回避動作制御の例は図9の場合と同じであるので説明は繰り返さない。
【0048】
本実施の形態の軸受装置では、回転速度と内輪温度を1つの磁気センサの出力から算出できるので、軸受に発生した異常(焼付き等の前兆)を早期に検出することができる。このため、工作機械の運転速度を低下させるなどして軸受に損傷が生じるのを防ぐことができる。
【0049】
図11は、軸受装置の第1変形例を示す図である。図11に示す軸受装置50Aのように、内輪間座6A,6Bの間に磁石であるリング部材18Bを挟むように配置しても良い。
【0050】
図12は、軸受装置の第2変形例を示す図である。図12に示す軸受装置50Bのように、内輪間座6Cの間うち、一方の内輪に接する端部に磁石であるリング部材18Cを配置し、それに対向するように磁気センサ17を外輪間座7に配置しても良い。
【0051】
以上説明したように、実施の形態1に示した軸受装置によれば、1つのリング部材を配置することによって、簡単な構成で温度と回転速度を同時に検出することが可能となる。したがって、センサの数が少ないため、センサの配置スペースが小さくて済み、コスト面でも有利である。
【0052】
[実施の形態2]
実施の形態1では、回転輪または回転間座に磁石を配置し、固定輪または固定間座に磁気センサを配置し、温度および回転速度を検出可能な構成とした。実施の形態2では、実施の形態1の構成に加えて、固定輪の温度を検出する温度センサをさらに配置した。
【0053】
図13は、実施の形態2の軸受装置の構成を示す図である。図13を参照して、軸受装置50Cは、軸受1と間座20とを含み、2つの軸受1で間座20を挟む構造で、図示しない工作機主軸10を回転可能に支持する。軸受1は、内輪2、外輪3、転動体4、保持器5を含む。間座20は、外輪間座7と内輪間座6とを含む。
【0054】
軸受装置50Cは、軸受1と間座20に加えて、磁気センサ17と、リング部材18と、温度センサ40と、異常診断部120とをさらに備える。磁気センサ17と、リング部材18とについては、実施の形態1と同様であるので説明は繰り返さない。
【0055】
温度センサ40は、固定輪である外輪3の温度を測定する。異常診断部120は、温度センサ40の出力および磁気センサ17の出力に基づいて、軸受1の異常を診断する。なお、温度センサ40が固定間座である外輪間座7を測定するようにしても良い。
【0056】
工作機主軸10が高速で回転すると、加工負荷によって軸受1は内輪転動体軌道面14と転動体4、外輪転動体軌道面15と転動体4の接触によって発熱する。この時、ハウジング13に挿入された外輪3よりも、工作機主軸10が挿入された内輪2の方が、温度が高くなる傾向がある。異常診断部120は、温度センサ40によって外輪3の温度Toを測定し、内輪2の温度Tiと外輪3の温度Toの差を利用して、定常運転状態と異なる温度差の変化があらわれた場合は、異常と判断する。
【0057】
また、予圧荷重推定部105は、温度センサ40で測定した温度Toと、リング部材18を磁気センサ17で測定した値から算出した温度Tiとから予圧荷重を推定することが可能である。
【0058】
具体的には、ハウジングに外輪3を挿入し内輪2で軸を支持している状態を例にすると、予圧を受けた状態で内輪2が回転すると温度Ti,Toが上昇し膨張する。そのため、軸受の予圧が初期設定値よりも上昇する。この関係を演算式などで用意しておけば、予圧を推定することが可能となる。演算式に用いるパラメータは、例えば軸受の回転速度、外輪温度、内輪温度などである。
【0059】
以上説明したように、実施の形態2に係る軸受装置50Cでは、軸受または間座の固定側部材の測定温度Toと、回転側部材の測定温度Tiと、回転部材の回転速度Niから、軸受の予圧荷重を推定することができる。軸受の内輪間に設けた内輪間座に、外周面にN極とS極が交互に形成されるように着磁したリング部材18を固定し、非回転側、たとえば外輪間座7にアナログ出力の磁気センサ17を配置すれば、非接触で内輪間座6の温度Tiを測定でき、軸受の予圧推定に利用することができる。
【0060】
[変形例]
実施の形態1、2において、磁気センサ17で発生した出力の情報は、ワイヤレスで外部に送信する送信部を備えれば、配線の取り回しが不要となり、軸受装置の搭載性が良くなる。なお、好ましくは、これに電力を供給する給電装置をさらに備えてもよい。給電装置としては、電池の他に、温度差や振動などで発電する発電装置を使うことができる。
【0061】
図14は、ワイヤレスで送受信を行なう構成を示すブロック図である。実施の形態1または2で示した軸受装置は、好ましくは図14に示すように、磁気センサ17によって測定した情報をワイヤレスで通信するデータ送信部130をさらに備える。
【0062】
磁気センサ17で発生した出力の情報は、ワイヤレス送信装置150で外部に送信すれば、工作機等から離れた位置にある外部の異常診断装置で同様の診断が可能である。
【0063】
ワイヤレス送信装置150(図14)は、信号処理部100と、データ送信部130とを含む。信号処理部100は、図8で示したものと同様であるので、説明は繰り返さない。データ送信部130は、無線によって受信装置300にデータを送信する。
【0064】
受信装置300は、工作機から離れた場所に設置されている。受信装置300は、無線でデータを受信するデータ受信部301と、受信信号からデータを復調する信号処理部302と、信号処理部302からのデータを受けて軸受異常を判断する異常判断部303とを含む。なお、異常判断部303の判断処理は、図9および図10で説明した処理と同様であるので、説明は繰り返さない。
【0065】
変形例の軸受装置は、磁気センサ17の出力情報を工作機から離れた位置にある受信装置300にワイヤレス送信するワイヤレス送信装置200を備える。これにより、工作機から離れた位置でも工作機の軸受に異常が発生したか否かを診断することができる。このため、監視するためにいっそう便利となる。
【0066】
なお、実施の形態1,2では、例として工作機主軸10に軸受装置50,50A~50Cを挿入した例を示したが、工作機主軸以外にも、産業分野や自動車分野において本構造の軸受装置を適用することが可能である。
【0067】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 軸受、2 内輪、3 外輪、4 転動体、5 保持器、6,6A,6B,6C 内輪間座、7 外輪間座、8 内径部、9 内輪間座内径部、10 工作機主軸、11 外径部、12 外輪間座外径部、13 ハウジング、14,15 軌道面、16 内輪間座外周面、17 磁気センサ、18,18A,18B,18C リング部材、20 間座、40 温度センサ、50,50A,50B,50C 軸受装置、100,302 信号処理部、101 増幅回路、102 整流回路、103 A/Dコンバータ、104 計数回路、105 演算部、110,303 異常判断部、120 異常診断部、130 データ送信部、150,200 ワイヤレス送信装置、300 受信装置、301 データ受信部、A1,A11,A13,A15,A17 第1領域、A2,A12,A14,A16,A18 第2領域。
図1
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