(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】気象レーダ送信パルス制御装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/95 20060101AFI20220517BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G01S13/95
G01S7/02 216
(21)【出願番号】P 2018039695
(22)【出願日】2018-03-06
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】柏柳 太郎
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-138284(JP,A)
【文献】特開2015-055577(JP,A)
【文献】特開2011-203109(JP,A)
【文献】特開2010-256333(JP,A)
【文献】特開2014-215237(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0054439(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0086596(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
G01W 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおける、送信パルスの照射方向及び繰り返し間隔を制御する気象レーダ送信パルス制御装置であって、
複数の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔の前記複数倍に等しい時間に制御し、一の照射方向に送信パルスを照射してから次の照射方向に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御することを特徴とする気象レーダ送信パルス制御装置。
【請求項2】
気象レーダ覆域のうちの所定の仰角方向より高い仰角方向では、複数の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔の前記複数倍に等しい時間に制御し、一の照射方向に送信パルスを照射してから次の照射方向に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御し、
気象レーダ覆域のうちの所定の仰角方向より低い仰角方向では、各照射方向に連続で送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御することを特徴とする、請求項1に記載の気象レーダ送信パルス制御装置。
【請求項3】
一の送信ビームのビーム幅に含まれる複数の受信ビームを一の送信ビームと同時に形成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の気象レーダ送信パルス制御装置。
【請求項4】
ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおける、送信パルスの照射方向及び繰り返し間隔を制御する気象レーダ送信パルス制御プログラムであって、
複数の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔の前記複数倍に等しい時間に制御し、一の照射方向に送信パルスを照射してから次の照射方向に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御することを
コンピュータに実行させることを特徴とする気象レーダ送信パルス制御プログラム。
【請求項5】
ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおける、送信パルスの照射方向及び繰り返し間隔を制御する気象レーダ送信パルス制御方法であって、
複数の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔の前記複数倍に等しい時間に制御し、一の照射方向に送信パルスを照射してから次の照射方向に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御することを特徴とする気象レーダ送信パルス制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおける、送信パルスの照射方向及び繰り返し間隔を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
仰角方向の電子走査を行なうことにより、仰角方向の高速スキャンを行なうことができる、フェーズドアレイ気象レーダが知られている。ここで、送受信アンテナ素子の励振位相を制御することにより、送受信ビームの仰角方向の指向性を調整している。そして、送信パルスの繰り返し間隔を制御することにより、気象レーダ覆域の最大距離及びドップラー周波数の検出精度を調整している(例えば、特許文献1等を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の送信パルスの照射方法を
図1に示す。まず、仰角方向Aに連続でn個の送信パルスを照射する。ここで、仰角方向Aにn個の送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離R
maxに対応する繰り返し間隔T=2R
max/c(cは光速)に等しい時間に制御する。次に、仰角方向Bに連続でn個の送信パルスを照射する。ここで、仰角方向Bにn個の送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離R
maxに対応する繰り返し間隔T=2R
max/c(cは光速)に等しい時間に制御する。このように、他の仰角方向でも連続でn個の送信パルスを照射する。
【0005】
従来技術の受信信号の処理方法を
図2に示す。まず、各仰角方向A、Bにおいて、パルス送信時から気象レーダ覆域の最大距離R
maxに対応する繰り返し間隔T=2R
max/c(cは光速)の間の受信信号を、n個の送信パルスに対してそれぞれ、計n個取得する。次に、各仰角方向A、Bにおいて、n個の送信パルスに対するn個の受信信号のうち、あるレンジでのn個の受信信号に対して、フーリエ変換を実行し、ドップラー周波数を示す受信スペクトルを算出する。このように、他の仰角方向でもドップラー周波数を示す受信スペクトルを算出する。
【0006】
すると、各仰角方向A、Bの受信スペクトルでは、ドップラー周波数の検出限界を示す折り返し周波数は、FA=1/Tとなり、ドップラー中心周波数FC及びドップラー周波数幅ΔFCに対する周波数分解能は、ΔF=1/(nT)となる。
【0007】
ここで、周波数分解能ΔFを高くするためには、送信パルス数n及び/又は繰り返し間隔Tを増やすことが考えられる。しかし、送信パルス数n及び/又は繰り返し間隔Tを増やすときには、ビーム方向の電子走査を高速化することができない。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおいて、ドップラー周波数の検出精度の向上及びビーム方向の電子走査の高速化を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、m方向の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向にn個の送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離Rmaxに対応する繰り返し間隔T=2Rmax/cのm倍に等しい時間に制御する。
【0010】
具体的には、本開示は、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおける、送信パルスの照射方向及び繰り返し間隔を制御する気象レーダ送信パルス制御装置であって、複数の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔の前記複数倍に等しい時間に制御し、一の照射方向に送信パルスを照射してから次の照射方向に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御することを特徴とする気象レーダ送信パルス制御装置である。
【0011】
また、本開示は、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおける、送信パルスの照射方向及び繰り返し間隔を制御する気象レーダ送信パルス制御プログラムであって、複数の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔の前記複数倍に等しい時間に制御し、一の照射方向に送信パルスを照射してから次の照射方向に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御することを特徴とする気象レーダ送信パルス制御プログラムである。
【0012】
また、本開示は、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおける、送信パルスの照射方向及び繰り返し間隔を制御する気象レーダ送信パルス制御方法であって、複数の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔の前記複数倍に等しい時間に制御し、一の照射方向に送信パルスを照射してから次の照射方向に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御することを特徴とする気象レーダ送信パルス制御方法である。
【0013】
ここで、この構成によれば、ドップラー周波数の検出限界を示す折り返し周波数は、FA=1/(mT)となり、ドップラー中心周波数FC及びドップラー周波数幅ΔFCに対する周波数分解能は、ΔF=1/(mnT)となる。よって、この構成によれば、従来技術と比べて、ドップラー周波数の検出精度ΔFの向上を図ることができる。
【0014】
そして、この構成によれば、m方向の照射方向に交互に送信パルスを照射するために必要な時間は、mnTである。一方で、従来技術によれば、m方向の各照射方向に連続で送信パルスを照射するために必要な時間は、mnTである。よって、この構成によれば、従来技術と同様に、ビーム方向の電子走査の高速化を図ることができる。
【0015】
また、本開示は、気象レーダ覆域のうちの所定の仰角方向より高い仰角方向では、複数の照射方向に交互に送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔の前記複数倍に等しい時間に制御し、一の照射方向に送信パルスを照射してから次の照射方向に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御し、気象レーダ覆域のうちの所定の仰角方向より低い仰角方向では、各照射方向に連続で送信パルスを照射するにあたり、各照射方向に送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離に対応する繰り返し間隔に等しい時間に制御することを特徴とする気象レーダ送信パルス制御装置である。
【0016】
ここで、高仰角方向では、風速の垂直成分を主に観測するところ、風速の垂直成分は小さい場合が多い。すると、折り返し周波数FAをこの構成のように1/(mT)に小さくしても、ドップラー中心周波数FCを算出できない可能性はほぼない。そこで、ドップラー周波数の検出精度ΔFをこの構成のように1/(mnT)に向上させることを優先して、折り返し周波数FAをこの構成のように1/(mT)に小さくする。
【0017】
一方で、低仰角方向では、風速の水平成分を主に観測するところ、風速の水平成分は大きい場合が多い。すると、折り返し周波数FAを高仰角方向のように1/(mT)に小さくすれば、ドップラー中心周波数FCを算出できない可能性があり得る。そこで、折り返し周波数FAを従来技術と同様に1/Tに維持することを優先してもよく、ドップラー周波数の検出精度ΔFを従来技術と同様に1/(nT)に維持してもよい。
【0018】
また、本開示は、一の送信ビームのビーム幅に含まれる複数の受信ビームを一の送信ビームと同時に形成することを特徴とする気象レーダ送信パルス制御装置である。
【0019】
この構成によれば、従来技術と比べて、ビーム方向の電子走査の高速化を図ることができるとともに、ビーム方向の角度分解能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本開示によれば、ビーム方向の電子走査を行なうフェーズドアレイ気象レーダにおいて、ドップラー周波数の検出精度の向上及びビーム方向の電子走査の高速化を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来技術の送信パルスの照射方法を示す図である。
【
図2】従来技術の受信信号の処理方法を示す図である。
【
図3】本開示の気象レーダ装置の構成を示す図である。
【
図4】本開示の気象レーダ装置の設置状況を示す図である。
【
図5】本開示の送信パルスの照射方法を示す図である。
【
図6】本開示の受信信号の処理方法を示す図である。
【
図7】本開示の送受信ビームの形成方法を示す図である。
【
図8】本開示の送受信ビームの形成方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0023】
本開示の気象レーダ装置の構成を
図3に示す。気象レーダ装置Mは、送信ビーム形成装置1、受信ビーム形成装置2、送信パルス制御装置3及び受信信号処理装置4を備える。
【0024】
送信ビーム形成装置1及び受信ビーム形成装置2は、フェーズドアレイアンテナであるが、
図7及び
図8と関連して後に詳述する。送信パルス制御装置3は、送信パルスの照射方向及び繰り返し間隔を制御するが、
図5と関連して後に詳述する。汎用のコンピュータに送信パルス制御プログラムをインストールすることにより、そのコンピュータを送信パルス制御装置3として機能させることができる。受信信号処理装置4は、受信信号を処理し受信スペクトルを算出するが、
図5及び
図6と関連して後に詳述する。
【0025】
本開示の気象レーダ装置の設置状況を
図4に示す。高仰角方向では、風速の垂直成分を主に観測するところ、風速の垂直成分は小さい場合が多く、雨雲等までの距離が短いことから、気象レーダ覆域の最大距離R
max,Hは短く設定されている。低仰角方向では、風速の水平成分を主に観測するところ、風速の水平成分は大きい場合が多く、見通し可能な距離が長いことから、気象レーダ覆域の最大距離R
max,Lは長く設定されている。
【0026】
本開示の送信パルスの照射方法を
図5に示す。
図5の上段では、高仰角方向での送信パルスの照射方法を示し、
図5の下段では、低仰角方向での送信パルスの照射方法を示す。なお、
図5の説明では、ある仰角方向が高仰角方向及び低仰角方向のうちのいずれの仰角方向であるかを判別する指標として、
図4のような閾値仰角方向を設定している。
【0027】
第1に、高仰角方向での送信パルスの照射方法について説明する。送信パルス制御装置3は、2方向の高仰角方向C、Dに交互に送信パルスを照射するように、送信ビーム形成装置1を制御する。ここで、送信パルス制御装置3は、各高仰角方向C、Dにn個の送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離Rmax,Hに対応する繰り返し間隔TH=2Rmax,H/c(cは光速)の2倍に等しい時間に制御する。そして、送信パルス制御装置3は、高仰角方向C(D)に送信パルスを照射してから高仰角方向D(C)に送信パルスを照射するまでの時間を、気象レーダ覆域の最大距離Rmax,Hに対応する繰り返し間隔TH=2Rmax,H/c(cは光速)に等しい時間に制御する。このように、送信パルス制御装置3は、他の高仰角方向でも送信ビーム形成装置1を制御する。
【0028】
第2に、低仰角方向での送信パルスの照射方法について説明する。まず、送信パルス制御装置3は、低仰角方向Eに連続でn個の送信パルスを照射するように、送信ビーム形成装置1を制御する。ここで、送信パルス制御装置3は、低仰角方向Eにn個の送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離Rmax,Lに対応する繰り返し間隔TL=2Rmax,L/c(cは光速)に等しい時間に制御する。次に、送信パルス制御装置3は、低仰角方向Fに連続でn個の送信パルスを照射するように、送信ビーム形成装置1を制御する。ここで、送信パルス制御装置3は、低仰角方向Fにn個の送信パルスを照射する繰り返し間隔を、気象レーダ覆域の最大距離Rmax,Lに対応する繰り返し間隔TL=2Rmax,L/c(cは光速)に等しい時間に制御する。このように、送信パルス制御装置3は、他の低仰角方向でも送信ビーム形成装置1を制御する。
【0029】
本開示の受信信号の処理方法を
図6に示す。
図6の上段では、高仰角方向での受信信号の処理方法を示し、
図6の下段では、低仰角方向での受信信号の処理方法を示す。なお、
図6の説明でも、ある仰角方向が高仰角方向及び低仰角方向のうちのいずれの仰角方向であるかを判別する指標として、
図4のような閾値仰角方向を設定している。
【0030】
第1に、高仰角方向での受信信号の処理方法について説明する。まず、受信信号処理装置4は、各高仰角方向C、Dにおいて、パルス送信時から気象レーダ覆域の最大距離Rmax,Hに対応する繰り返し間隔TH=2Rmax,H/c(cは光速)の間の受信信号を、n個の送信パルスに対してそれぞれ、計n個取得する。次に、受信信号処理装置4は、各高仰角方向C、Dにおいて、n個の送信パルスに対するn個の受信信号のうち、あるレンジでのn個の受信信号に対して、フーリエ変換を実行し、ドップラー周波数を示す受信スペクトルを算出する。このように、受信信号処理装置4は、他の高仰角方向でもドップラー周波数を示す受信スペクトルを算出する。
【0031】
すると、各高仰角方向C、Dの受信スペクトルでは、ドップラー周波数の検出限界を示す折り返し周波数は、FAH=1/(2TH)となり、ドップラー中心周波数FCH及びドップラー周波数幅ΔFCHに対する周波数分解能は、ΔFH=1/(2nTH)となる。よって、従来技術と比べて、ドップラー周波数の検出精度ΔFHの向上を図ることができる。そして、2方向の仰角方向C、Dに交互に送信パルスを照射するために必要な時間は、2nTHである。よって、従来技術と同様に、仰角方向の電子走査の高速化を図ることができる。
【0032】
ここで、高仰角方向C、Dでは、風速の垂直成分を主に観測するところ、風速の垂直成分は小さい場合が多い。すると、折り返し周波数F
AHを
図6の上段のように1/(2T
H)に小さくしても、ドップラー中心周波数F
CHを算出できない可能性はほぼない。そこで、ドップラー周波数の検出精度ΔF
Hを
図6の上段のように1/(2nT
H)に向上させることを優先して、折り返し周波数F
AHを
図6の上段のように1/(2T
H)に小さくする。
【0033】
第2に、低仰角方向での受信信号の処理方法について説明する。まず、受信信号処理装置4は、各低仰角方向E、Fにおいて、パルス送信時から気象レーダ覆域の最大距離Rmax,Lに対応する繰り返し間隔TL=2Rmax,L/c(cは光速)の間の受信信号を、n個の送信パルスに対してそれぞれ、計n個取得する。次に、受信信号処理装置4は、各低仰角方向E、Fにおいて、n個の送信パルスに対するn個の受信信号のうち、あるレンジでのn個の受信信号に対して、フーリエ変換を実行し、ドップラー周波数を示す受信スペクトルを算出する。このように、受信信号処理装置4は、他の低仰角方向でもドップラー周波数を示す受信スペクトルを算出する。
【0034】
すると、各低仰角方向E、Fの受信スペクトルでは、ドップラー周波数の検出限界を示す折り返し周波数は、FAL=1/TLとなり、ドップラー中心周波数FCL及びドップラー周波数幅ΔFCLに対する周波数分解能は、ΔFL=1/(nTL)となる。よって、従来技術と同様に、ドップラー周波数の検出精度ΔFLの向上を図ることができる。そして、各低仰角方向E、Fに連続で送信パルスを照射するために必要な時間は、2nTLである。よって、従来技術と同様に、仰角方向の電子走査の高速化を図ることができる。
【0035】
一方で、低仰角方向E、Fでは、風速の水平成分を主に観測するところ、風速の水平成分は大きい場合が多い。すると、折り返し周波数FALを高仰角方向のように1/(2TL)に小さくすれば、ドップラー中心周波数FCLを算出できない可能性があり得る。そこで、折り返し周波数FALを従来技術と同様に1/TLに維持することを優先してもよく、ドップラー周波数の検出精度ΔFLを従来技術と同様に1/(nTL)に維持してもよい。
【0036】
ここで、高仰角方向C、Dの送受信ビームが互いに干渉するとすれば、
図1及び
図2のような処理を行なうことになる。そこで、高仰角方向C、Dの送受信ビームが互いに干渉しないようにして、
図5の上段及び
図6の上段のような処理を行なうことが望ましい。
【0037】
本開示の送受信ビームの形成方法を
図7及び
図8に示す。送信パルス制御装置3は、一の送信ビームのビーム幅に含まれる複数の受信ビームを一の送信ビームと同時に形成するように、送信ビーム形成装置1及び受信ビーム形成装置2を制御する。
【0038】
送信ビーム形成装置1は、仰角方向のビーム幅がより広い送信ビームで、電波を雨雲等の物標へと照射するために、発振器11、複数の送信アンテナ素子13、及び、各送信アンテナ素子13についての各移相器12から構成される。
【0039】
受信ビーム形成装置2は、仰角方向のビーム幅がより狭い受信ビームで、雨雲等の物標から反射又は散乱された電波を受信するために、複数の受信アンテナ素子21、各受信アンテナ素子21についての各移相器22、及び、各移相器22からの出力を合成する合成器23から構成される。また、複数の受信ビームを一の送信ビーム内に同時に形成するために、各々の受信ビームについて複数の受信アンテナ素子21を共用したうえで、各々の受信ビームについて各々の受信ビーム形成装置2を搭載している。
【0040】
本開示のフェーズドアレイ気象レーダでは、送信ビームの仰角方向のビーム幅(
図7及び
図8では、約10°)を広くするとともに、受信ビームの仰角方向のビーム幅(
図7では、約1°)を狭くすることにより、複数の受信ビームを一の送信ビーム内に同時に形成する。そして、送信ビームの仰角方向及び複数の受信ビームの仰角方向を、約10°だけ同時に移動させることにより、仰角方向の高速スキャンを行なう。
【0041】
図5の下段及び
図6の下段で説明したように、低仰角方向の高速スキャンにおいては、まず、低仰角方向Eにおいて、次に、低仰角方向F(低仰角方向Eより約10°だけ高仰角方向)において、約10°の仰角方向のビーム幅を有する1本の送信ビームを形成し、約1°の仰角方向のビーム幅を有する10本の受信ビームを同時に形成する。
【0042】
図5の上段及び
図6の上段で説明したように、高仰角方向の高速スキャンにおいては、高仰角方向C及び高仰角方向D(高仰角方向Cより約10°だけ高仰角方向)において交互に、約10°の仰角方向のビーム幅を有する1本の送信ビームを形成し、約1°の仰角方向のビーム幅を有する10本の受信ビームを同時に形成する。
【0043】
このように、従来技術と比べて、仰角方向の電子走査の高速化を図ることができるとともに、仰角方向の角度分解能(
図7及び
図8では、約1°)の向上を図ることができる。
【0044】
実施形態では、2方向の高仰角方向C、Dに交互に送信パルスを照射している。変形例として、2以上の方向の高仰角方向に交互に送信パルスを照射してもよい。
【0045】
実施形態では、高/低仰角方向を区別するために閾値仰角方向を1つ設定し、2方向の高仰角方向C、Dに交互に送信パルスを照射し、各低仰角方向E、Fに連続で送信パルスを照射している。変形例として、例えば、高/中/低仰角方向を区別するために閾値仰角方向を2つ設定し、3方向の高仰角方向に交互に送信パルスを照射し、2方向の中仰角方向に交互に送信パルスを照射し、各低仰角方向に連続で送信パルスを照射してもよい。
【0046】
実施形態では、仰角方向について、本開示の発明を適用している。変形例として、仰角方向のみならず、方位角方向についても、本開示の発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本開示の気象レーダ送信パルス制御装置、プログラム及び方法は、ドップラー周波数の検出精度の向上及びビーム方向の電子走査の高速化を両立させることができる。
【符号の説明】
【0048】
M:気象レーダ装置
1:送信ビーム形成装置
2:受信ビーム形成装置
3:送信パルス制御装置
4:受信信号処理装置
11:発振器
12:移相器
13:送信アンテナ素子
21:受信アンテナ素子
22:移相器
23:合成器