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特許7074517ガンマ線または電子線照射用の環状オレフィン系樹脂組成物、成形体および当該成形体のガンマ線または電子線照射物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】ガンマ線または電子線照射用の環状オレフィン系樹脂組成物、成形体および当該成形体のガンマ線または電子線照射物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20220517BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20220517BHJP
   C08K 5/3435 20060101ALI20220517BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L45/00
C08K5/3435
C08K5/49
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018049957
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019157080
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 尚典
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勝彦
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-012794(JP,A)
【文献】特開2007-031274(JP,A)
【文献】特開2007-119567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンマ線または電子線照射用の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
環状オレフィン系樹脂[A]と、ヒンダードアミン系化合物[B]と、リン系化合物[C]とを含み、
組成物中の前記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、前記ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]の合計含有量が0.05~1.50質量部であり、
組成物中の前記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、フェノール系化合物[D]の含有量が0.50質量部未満である、環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
前記環状オレフィン系樹脂[A]が、下記[A-1]、[A-2]、[A-3]および[A-4]からなる群より選択される少なくともいずれかを含む、環状オレフィン系樹脂組成物。
[A-1]:炭素原子数が2~20のα-オレフィンと、下記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンとを共重合させて得られるα-オレフィン・環状オレフィンランダム共重合体
【化1】
一般式(I)中、
nは0または1であり、
mは0または1以上の整数であり、
qは0または1であり、
~R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。
【化2】
一般式(II)中、
pおよびqは、それぞれ独立に、0または1以上の整数であり、
mおよびnは、それぞれ独立に、0、1または2であり、
~R19は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはアルコキシ基であり、RおよびR10が結合している炭素原子と、R13またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
[A-2]:前記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの開環重合体または共重合体
[A-3]:前記[A-2]の開環重合体または共重合体の水素化物
[A-4]:前記[A-1]、[A-2]または[A-3]のグラフト変性物
【請求項3】
請求項1または2に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
組成物中の前記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、前記リン系化合物[C]の量が0.05質量部未満である、環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項5】
請求項4に記載の成形体であって、
医療用容器である、成形体。
【請求項6】
請求項4または5に記載の成形体であって、
シリンジまたは薬液保存容器である、成形体。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の成形体の、ガンマ線または電子線照射物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガンマ線または電子線照射用の環状オレフィン系樹脂組成物、成形体および当該成形体のガンマ線または電子線照射物に関する。より具体的には、ガンマ線または電子線照射用の環状オレフィン系樹脂組成物、その組成物から形成された成形体、その成形体にガンマ線または電子線を照射した照射物に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、透明性や、耐薬品性等の性能バランスが優れている。よって、例えば、医療用容器等の成形体を形成する材料として用いられることが検討されている。このような環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物に関する技術としては、例えば、特許文献1や特許文献2に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、特定の環状オレフィン系樹脂を2種含む環状オレフィン系樹脂組成物が記載されている。そして、その組成物により、スリップ性が改良され、透明性、表面光沢に優れ、さらに衛生面に優れた成形体を得ることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、環状オレフィン系樹脂60~90重量部と、数平均分子量が75,000~500,000である芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体および/またはその水素添加物10~40重量部とからなる環状オレフィン系樹脂組成物が記載されている。そして、その組成物により、衝撃強度に優れるとともに防湿性にも優れた成形体を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-26693号公報
【文献】特開平8-277353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンジや薬液保存容器等の医療用容器は、通常、滅菌のうえで内容物が充填される。この滅菌の際、容器に対して電子線あるいはガンマ線が照射される場合がある。
本発明者らの検討によれば、従来の環状オレフィン系樹脂の成形体においては、電子線あるいはガンマ線照射によって変色が発生しうる場合があることが明らかになった。
また、本発明者らの別の検討によれば、電子線あるいはガンマ線照射によってラジカルが発生する場合がある。これにより、内容物の充填後に内容物が変質するリスクがあることが懸念される。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。つまり、本発明は、電子線あるいはガンマ線照射による変色の少ない成形体を実現できる環状オレフィン系樹脂組成物を提供するものである。また、本発明は、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生が少ない環状オレフィン系樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した。その結果、特定量のヒンダードアミン系化合物および/またはリン系化合物を含む環状オレフィン系樹脂組成物を用いることや、樹脂組成物中のフェノール系化合物の量を抑えること等により、上記課題を解決しうることを見出した。そして、以下に示される本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
1.
ガンマ線または電子線照射用の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
環状オレフィン系樹脂[A]と、ヒンダードアミン系化合物[B]と、リン系化合物[C]とを含み、
組成物中の記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、記ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]の合計含有量が0.05~1.50質量部であり、
組成物中の記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、フェノール系化合物[D]の含有量が0.50質量部未満である、環状オレフィン系樹脂組成物。
2.
上記1.に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
記環状オレフィン系樹脂[A]が、下記[A-1]、[A-2]、[A-3]および[A-4]からなる群より選択される少なくともいずれかを含む、環状オレフィン系樹脂組成物。
[A-1]:炭素原子数が2~20のα-オレフィンと、下記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンとを共重合させて得られるα-オレフィン・環状オレフィンランダム共重合体
【化1】
一般式(I)中、
nは0または1であり、
mは0または1以上の整数であり、
qは0または1であり、
~R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。
【化2】
一般式(II)中、
pおよびqは、それぞれ独立に、0または1以上の整数であり、
mおよびnは、それぞれ独立に、0、1または2であり、
~R19は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはアルコキシ基であり、RおよびR10が結合している炭素原子と、R13またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
[A-2]:記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの開環重合体または共重合体
[A-3]:記[A-2]の開環重合体または共重合体の水素化物
[A-4]:記[A-1]、[A-2]または[A-3]のグラフト変性物
3.
上記1.または2.に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
組成物中の記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、記リン系化合物[C]の量が0.05質量部未満である、環状オレフィン系樹脂組成物。
4.
上記1.~3.のいずれか1つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物から形成された成形体。
5.
上記4.に記載の成形体であって、
医療用容器である、成形体。
6.
上記4.または5.に記載の成形体であって、
シリンジまたは薬液保存容器である、成形体。
7.
上記4.~6.のいずれか1つに記載の成形体の、ガンマ線または電子線照射物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子線あるいはガンマ線照射による変色の少ない成形体を実現できる環状オレフィン系樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生が少ない環状オレフィン系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量部」とは「1質量部以上5質量部以下」の意である。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0012】
<環状オレフィン系樹脂組成物>
本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物は、ガンマ線または電子線照射用であり、
環状オレフィン系樹脂[A]と、ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]からなる群より選ばれる一種以上の化合物とを含み、
組成物中の環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]の合計含有量が0.05~1.50質量部であり、
組成物中の環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、フェノール系化合物[D]の含有量が0.50質量部未満である。
【0013】
なお、本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物中のある成分が、ヒンダードアミン系化合物[B]とフェノール系化合物[D]の両方に該当する場合(例えば、ある成分が、ヒンダードアミン構造とフェノール構造の両方を有する化合物である場合)、その成分はヒンダードアミン系化合物[B]とみなされ、フェノール系化合物[D]とはみなされない。
同様に、本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物中のある成分が、リン系化合物[C]とフェノール系化合物[D]の両方に該当する場合、その成分はリン系化合物[C]とみなされ、フェノール系化合物[D]とはみなされない。
【0014】
上記の組成物により、電子線あるいはガンマ線照射による変色を少なくできたり、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生を少なくできたりする理由は、本発明者らによる検討経緯等に基づけば、以下のように説明される。
なお、以下説明は、推定を含む。また、本発明は以下説明により限定的に解釈されるものではない。
【0015】
本発明者らは、従来の環状オレフィン系樹脂の成形体に、電子線あるいはガンマ線照射を照射したときに変色してしまう原因を様々な観点から検討した。検討の結果、電子線あるいはガンマ線照射を照射した際、成型体中に含まれるフェノール系化合物から、比較的多量のラジカルが発生するらしいことを知見した。このラジカルによりフェノール系安定剤自身が分解あるいは構造変化を起こし、特性吸収を有するキノン骨格を形成することで、成型体が変色してしまうものと推定される。
【0016】
上記知見に基づき、本発明者らは、環状オレフィン系樹脂組成物を得るに際し、フェノール系化合物を用いない、または、用いるとしてもその量を、組成物中の環状オレフィン系樹脂[A]100質量部に対して0.50質量部未満とすることで、ラジカルの発生量を低減することとした。
それに加え、樹脂組成物の安定剤(光安定剤、酸化防止剤など)として知られている、ヒンダードアミン系化合物および/またはリン系化合物を適量用いることで、ラジカルが発生したとしてもそれを十分トラップしうるようにした。
以上により、電子線あるいはガンマ線照射による変色を少なくし、また、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生を少なくできたものと推定される。
【0017】
組成物中の成分、組成物の性状、物性などについて説明する。
【0018】
・環状オレフィン系樹脂[A]
環状オレフィン系樹脂[A](以下、単に、樹脂[A]、または、[A]とも記載する)は、環状オレフィンを原料モノマーとして得られた樹脂であれば、特に限定無く用いることができる。
環状オレフィン系樹脂[A]は、好ましくは、下記[A-1]、[A-2]、[A-3]および[A-4]からなる群から選択される少なくともいずれかである。
【0019】
[A-1]:炭素原子数が2~20のα-オレフィンと、下記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンとを共重合させて得られるα-オレフィン・環状オレフィンランダム共重合体(炭素原子数が2~20のα-オレフィンと、下記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンとのランダム共重合体)
【0020】
【化3】
【0021】
一般式(I)中、
nは0または1であり、
mは0または1以上の整数であり、
qは0または1であり、
~R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。
【0022】
【化4】
【0023】
一般式(II)中、
pおよびqは0または1以上の整数であり、
mおよびnは0、1または2であり、
~R19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはアルコキシ基であり、RおよびR10が結合している炭素原子と、R13またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0024】
[A-2]:一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの開環重合体または共重合体
【0025】
[A-3]:上記[A-2]の開環重合体または共重合体の水素化物
【0026】
[A-4]:上記[A-1]、[A-2]または[A-3]のグラフト変性物
【0027】
環状オレフィン系樹脂[A]の、DSC(示差走査熱量計)で測定したガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70℃以上、より好ましくは70~250℃、さらに好ましくは80~180℃である。
【0028】
環状オレフィン系樹脂[A]は、好ましくは非晶性または低結晶性である。具体的には、X線回折法によって測定される結晶化度が、例えば20%以下であり、好ましくは10%以下、さらに好ましくは2%以下である。
【0029】
環状オレフィン系樹脂[A]の、135℃のデカリン中で測定される極限粘度[η]は、例えば0.01~20dl/g、好ましくは0.03~10dl/g、さらに好ましくは0.05~5dl/gである。
環状オレフィン系樹脂[A]の、ASTM D1238に準じ、260℃、荷重2.16kgで測定した溶融流れ指数(MFR)が、例えば0.2~200g/10分で、好ましくは1~100g/10分、さらに好ましく5~50g/10分である。
【0030】
環状オレフィン系樹脂[A]の軟化点は、例えば30℃以上、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80~260℃である。なお、軟化点は、サーマルメカニカルアナライザーで(TMA)で求めることができる。
【0031】
ここで、環状オレフィン系樹脂[A]を形成する(環状オレフィン系樹脂[A]の原料モノマーである)、一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンについて説明する。
【0032】
一般式(I)中、nは0または1であり、mは0または1以上の整数であり、qは0または1である。なお、qが1の場合には、RおよびRは、それぞれ独立に、下記に示す原子または炭化水素基であり、qが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する。
【0033】
~R18ならびにRおよびRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基である。
ここでのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。
また、ここでの炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン原子などで置換されていてもよい。
さらに、一般式(I)において、R15~R18がそれぞれ結合して(互いに共同して)単環または多環を形成していてもよく、しかも、このようにして形成された単環または多環は二重結合を有していてもよい。
【0034】
一般式(II)中、pおよびqは0または1以上の整数であり、mおよびnは0、1または2である。また、R~R19は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはアルコキシ基である。
ここでのハロゲン原子の具体例については、一般式(I)におけるハロゲン原子と同様である。
また、ここでの炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素等を挙げることができる。より具体的には、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。さらに具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、アリール基およびアラルキル基、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
【0035】
また、ここでのアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等を挙げることができる。これらの炭化水素基およびアルコキシ基は、その結合する水素がフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などで置換されていてもよい。
【0036】
ここで、RおよびR10が結合している炭素原子と、R13が結合している炭素原子またはR11が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよい。すなわち、上記二個の炭素原子がアルキレン基を介して結合している場合には、RおよびR13で表される基が、またはR10およびR11で表される基が、互いに共同して、メチレン基(-CH-)、エチレン基(-CHCH-)またはプロピレン基(-CHCHCH-)のうちのいずれかのアルキレン基を形成している。
【0037】
さらに、n=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。この場合の単環または多環の芳香族環として、例えば、下記のようなR15とR12がさらに芳香族環を形成している基が挙げられる。
【0038】
【化5】
【0039】
ここでqは、一般式(II)におけるqと同じ意味である。
【0040】
一般式(I)または(II)で示される環状オレフィンを、より具体的に次に例示する。一例として、以下に示されるビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(2-ノルボルネンとも表記される)およびこの化合物に炭化水素基が置換している誘導体が挙げられる。
以下において、1~7の数字は炭素の位置番号を示す。
【0041】
【化6】
【0042】
上記の2-ノルボルネンに置換してもよい炭化水素基としては、5-メチル、5,6-ジメチル、1-メチル、5-エチル、5-n-ブチル、5-イソブチル、7-メチル、5-フェニル、5-メチル-5-フェニル、5-ベンジル、5-トリル、5-(エチルフェニル)、5-(イソプロピルフェニル)、5-(ビフェニル)、5-(β-ナフチル)、5-(α-ナフチル)、5-(アントラセニル)、5,6-ジフェニル等を例示することができる。
【0043】
さらに他の誘導体として、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン等のビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン誘導体を例示することができる。
【0044】
この他、トリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、2-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン、5-メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン等のトリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン誘導体、トリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン、10-メチルトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン等のトリシクロ[4.4.0.12,5]-3-ウンデセン誘導体、以下に示されるテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンとも表記される)およびこれに炭化水素基が置換した誘導体が挙げられる。
以下において、1~12の数字は炭素の位置番号を示す。
【0045】
【化7】
【0046】
テトラシクロドデセンに置換してもよい炭化水素基としては、8-メチル、8-エチル、8-プロピル、8-ブチル、8-イソブチル、8-ヘキシル、8-シクロヘキシル、8-ステアリル、5,10-ジメチル、2,10-ジメチル、8,9-ジメチル、8-エチル-9-メチル、11,12-ジメチル、2,7,9-トリメチル、2,7-ジメチル-9-エチル、9-イソブチル-2,7-ジメチル、9,11,12-トリメチル、9-エチル-11,12-ジメチル、9-イソブチル-11,12-ジメチル、5,8,9,10-テトラメチル、8-エチリデン、8-エチリデン-9-メチル、8-エチリデン-9-エチル、8-エチリデン-9-イソプロピル、8-エチリデン-9-ブチル、8-n-プロピリデン、8-n-プロピリデン-9-メチル、8-n-プロピリデン-9-エチル、8-n-プロピリデン-9-イソプロピル、8-n-プロピリデン-9-ブチル、8-イソプロピリデン、8-イソプロピリデン-9-メチル、8-イソプロピリデン-9-エチル、8-イソプロピリデン-9-イソプロピル、8-イソプロピリデン-9-ブチル、8-クロロ、8-ブロモ、8-フルオロ、8,9-ジクロロ、8-フェニル、8-メチル-8-フェニル、8-ベンジル、8-トリル、8-(エチルフェニル)、8-(イソプロピルフェニル)、8,9-ジフェニル、8-(ビフェニル)、8-(β-ナフチル)、8-(α-ナフチル)、8-(アントラセニル)、5,6-ジフェニル等を例示することができる。
【0047】
さらには、(シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物)とシクロペンタジエンとの付加物等のテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ペンタデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ヘキサデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセンおよびその誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセンおよびその誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセンおよびその誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.13,6.110,17.112,15.02,7.011,16]-4-エイコセンおよびその誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.03,8.012,17]-5-ヘンエイコセンおよびその誘導体、オクタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17]-5-ドコセンおよびその誘導体、ノナシクロ[10.9.1.14,7.113,20.115,18.02,10.03,8.012,21.014,19]-5-ペンタコセンおよびその誘導体等が挙げられる。
【0048】
一般式(I)または(II)に該当する化合物の具体例は、上記した通りであるが、より具体的なこれらの化合物の構造については、特開平7-145213号公報の段落番号[0032]~[0054]に示されている。本実施形態においても、この明細書に例示されるものを環状オレフィンとして使用することができる。
【0049】
一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの製造方法としては、例えば、シクロペンタジエンと対応する構造を有するオレフィン類とのディールス・アルダー反応を挙げることができる。
【0050】
環状オレフィンは、単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。例えば、環状オレフィン系樹脂[A]を重合して得る際、一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンを2種以上用いてもよい。
環状オレフィン系樹脂[A]は、一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンを用いて、例えば、特開昭60-168708号、同61-120816号、同61-115912号、同61-115916号、同61-271308号、同61-272216号、同62-252406号および同62-252407号等の公報に記載された方法に従い、適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0051】
環状オレフィン系樹脂[A]の具体的態様として好ましく挙げられる、前述の[A-1]、[A-2]、[A-3]および[A-4]の環状オレフィン系樹脂について説明する。
【0052】
[A-1]は、α-オレフィンから誘導される構成単位を、例えば5~95モル%、好ましくは20~90モル%、より好ましくは40~80モル%の量で含む。また、環状オレフィンから誘導される構成単位を、例えば5~95モル%、好ましくは10~80モル%、より好ましくは20~60モル%の量で含む。なお、α-オレフィンおよび環状オレフィンの組成比は、13C-NMRで測定することができる。
【0053】
ここで、[A-1]を構成する([A-1]の原料モノマーである)炭素原子数が2~20のα-オレフィンについて説明する。
α-オレフィンについては、直鎖状でも分岐状でもよい。具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素原子数が2~20の直鎖状α-オレフィン;3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、等の炭素原子数が4~20の分岐状α-オレフィン等が挙げられる。
これらの中では、炭素原子数が2~4の直鎖状α-オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。このような直鎖状または分岐状のα-オレフィンは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
[A-1]では、通常、炭素原子数が2~20のα-オレフィンから誘導される構成単位と環状オレフィンから誘導される構成単位とが、ランダムに配列して結合し、実質的に線状構造を有している。この共重合体が実質的に線状であって、実質的にゲル状架橋構造を有していないことは、この共重合体が有機溶媒に溶解した際に、その溶液に不溶分が含まれていないことにより確認することができる。例えば、極限粘度[η]を測定する際に、この共重合体が135℃のデカリンに完全に溶解することにより確認することができる。
【0055】
[A-1]において、一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの少なくとも一部は、以下の一般式(IV)または(V)で示される構造単位を構成していると考えられる。
なお、一般式(IV)において、n、m、q、R~R18ならびにRおよびRは、一般式(I)におけるn、m、q、R~R18ならびにRおよびRと同義である。また、一般式(V)において、n、m、p、qおよびR~R19は、一般式(II)におけるn、m、p、qおよびR~R19と同義である。
【0056】
【化8】
【0057】
【化9】
【0058】
[A-1]は、本発明の目的(効果)を過度に損なわない範囲で、必要に応じて、共重合可能な他のモノマーから誘導される構成単位を含んでもよい(もちろん、含まなくてもよい)。
ここでの「他のモノマー」としては、上記のような炭素原子数が2~20のα-オレフィンまたは環状オレフィン以外のオレフィンを挙げることができる。具体的には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4-ジメチルシクロペンテン、3-メチルシクロヘキセン、2-(2-メチルブチル)-1-シクロヘキセンおよびシクロオクテン、3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン等のシクロオレフィン、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエンおよび5-ビニル-2-ノルボルネン等の非共役ジエン類を挙げることができる。
【0059】
上記の他のモノマーについては、単独であるいは組み合わせて用いてもよい。
[A-1]が、他のモノマーから誘導される構成単位を含む場合、その含有量は、[A-1]の全構造単位に対して、例えば0.1~20モル%、好ましくは0.1~10モル%である。
【0060】
[A-1]は、炭素原子数が2~20のα-オレフィンと、一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンとを用いて、前述の特許文献に記載された製造方法により製造することができる。例えば、炭化水素溶媒中で、触媒として炭化水素溶媒に可溶性のバナジウム化合物および有機アルミニウム化合物から形成される触媒を用いて[A-1]を製造することが好ましい。
【0061】
また、重合反応では、周期律表第4族メタロセン系触媒を用いることもできる。ここで、第4族メタロセン系触媒とは、例えば、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む遷移金属化合物と、有機アルミニウムオキシ化合物と、必要により配合される有機アルミニウム化合物とからなる触媒である。第4族の遷移金属としては、ジルコニウム、チタンまたはハフニウムであり、これらの遷移金属が少なくとも1個のシクロペンタジエニル骨格を含む配位子を有している。シクロペンタジエニル骨格を含む配位子の例としては、アルキル基が置換していてもよいシクロペンタジエニル基またはインデニル基、テトラヒドロインデニル基、フロオレニル基を挙げることができる。これらの基は、アルキレン基等他の基を介して結合していてもよい。また、シクロペンタジエニル骨格を含む配位子以外の配位子の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0062】
また、有機アルミニウムオキシ化合物および有機アルミニウム化合物は、例えば、オレフィン系樹脂の製造に使用されるものを用いることができる。このような触媒については、例えば特開昭61-221206号、同64-106号および特開平2-173112号公報等に記載されているものを使用してもよい。
【0063】
[A-2]一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの開環重合体または共重合体は、一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの開環重合体、または一般式(I)および/または(II)で表される環状オレフィンの開環重合単位を含む共重合体である。共重合体の場合、一態様として、2種以上の異なる環状オレフィンが共重合される。
【0064】
[A-2]では、一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの少なくとも一部は、下記一般式(VI)または(VII)で表される構造単位を構成していると考えられる。
なお、一般式(VI)において、n、m、q、R~R18ならびにRおよびRは、一般式(I)におけるn、m、q、R~R18ならびにRおよびRと同義である。また、一般式(VII)において、n、m、p、qおよびR~R19は、一般式(II)におけるn、m、p、qおよびR~R19と同義である。
【0065】
【化10】
【0066】
【化11】
【0067】
このような開環重合体または開環共重合体は、前述の特許公報に開示された製造方法などにより製造することができる。例えば、一般式(I)で表される環状オレフィンを、開環重合触媒の存在下で重合または共重合させることにより製造することができる。
開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、インジウムまたは白金等から選ばれる金属のハロゲン化物、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と還元剤とからなる触媒などを挙げることができる。また、チタン、パラジウム、ジルコニウムまたはモリブテン等から選ばれる金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を挙げることもできる。
【0068】
[A-3]は、上記[A-2]を、例えば、公知の水素添加触媒の存在下で水素化して得ることができる。
【0069】
[A-3]においては、一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンのうち少なくとも一部は、下記一般式(VIII)または(IX)で表される構造単位を構成していると考えられる。
なお、一般式(VIII)において、n、m、qおよびR~R18ならびにRおよびRは、一般式(I)におけるn、m、qおよびR~R18ならびにRおよびRと同義である。また、一般式(IX)におけるn、m、p、qおよびR~R19は、一般式(II)におけるn、m、p、qおよびR~R19と同義である。
【0070】
【化12】
【0071】
【化13】
【0072】
[A-3]の例としては、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンの開環重合体の水素化物、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエンの開環重合体の水素化物、4,4a,4b,5,6,7,8,8a,9,9a-デカヒドロ-1H-1,4-メタノフルオレンの開環重合体の水素化物、8-メチル-8メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンの開環重合体の水素化物などが挙げられる。
【0073】
[A-4]は、上記の[A-1]、[A-2]または[A-3]のグラフト変性物である。つまり、[A-1]、[A-2]または[A-3]に、変性剤を反応させること等により得ることができる。
【0074】
変性剤としては、例えば、不飽和カルボン酸類等が挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸(商標))等の不飽和カルボン酸、さらにこれら不飽和カルボン酸の誘導体、例えば、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸ハライド、不飽和カルボン酸アミド、不飽和カルボン酸イミド、不飽和カルボン酸のエステル化合物等が挙げられる。
【0075】
不飽和カルボン酸の誘導体としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、塩化マレニル、マレイミド、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等が挙げられる。
【0076】
これらの中でも、α,β-不飽和ジカルボン酸およびα,β-不飽和ジカルボン酸無水物、例えば、マレイン酸、ナジック酸およびこれら酸の無水物が好ましく用いられる。これらの変性剤は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0077】
このような環状オレフィン系樹脂のグラフト変性物は、例えば、所望の変性率になるように環状オレフィン系樹脂に変性剤を配合してグラフト重合させ製造することができる。別の方法として、あらかじめ高変性率の変性物を調製し、次いでこの変性物と未変性の環状オレフィン系樹脂とを所望の変性率になるように混合することにより製造してもよい。
【0078】
環状オレフィン系樹脂と変性剤とから環状オレフィン系樹脂のグラフト変性物を得るには、従来公知のポリマー変性方法を広く適用することができる。例えば、溶融状態にある環状オレフィン系樹脂に変性剤を添加してグラフト重合(反応)させる方法、あるいは環状オレフィン系樹脂の溶媒溶液に変性剤を添加してグラフト反応させる方法等によりグラフト変性物を得ることができる。
【0079】
このようなグラフト反応は、例えば60~350℃の温度で行われる。またグラフト反応は、有機過酸化物およびアゾ化合物等のラジカル開始剤の共存下に行うことができる。
【0080】
本実施形態では、環状オレフィン系樹脂[A]として、[A-1]、[A-2]、[A-3]および[A-4]のいずれかを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、[A-1]が好ましく用いられる。さらには、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体、エチレンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとの共重合体およびエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとの共重合体から選択される少なくとも一種が好ましく、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体がより好ましい。
【0081】
・ヒンダードアミン系化合物[B]
ヒンダードアミン系化合物[B](以下、単に、化合物[B]、あるいは、[B]とも表記する)としては、ヒンダードアミン構造(具体的には、以下の式(b1)で表される部分構造)を、1つまたは2つ以上有する化合物を適宜用いることができる。
式(b1)中、*は、他の化学構造との結合手を表す。
【0082】
【化14】
【0083】
化合物[B]として具体的には、公知のヒンダードアミン系光安定剤(Hindered Amine Light Stabilizers:略称HALS)として知られている化合物などを用いることができる。
【0084】
化合物[B]としては、例えば、国際公開第2006/112434号の段落0058~0082に記載のヒンダードアミン系化合物、国際公開第2008/047468号の段落0124~0186に記載のヒンダードアミン系化合物、国際公開第2008/047468号の段落0187~0226に記載のピペリジン誘導体またはその塩、特開2006-321793号公報に記載のポリアミン誘導体またはその塩などを例示することができる。
【0085】
また、Chimassorb 2020、Chimassorb 944、Tinuvin 622、Tinuvin PA144 Tinuvin 765、Tinuvin 770(以上、BASF社製)、Cyasorb UV-3853、Cyasorb UV-3529、Cyasorb UV-3346、Cyasorb UV-531(以上、Cytec社製)、アデカスタブ LA-52、アデカスタブ LA-57、アデカスタブ LA-63P、アデカスタブ LA-68、アデカスタブ LA-72、アデカスタブ LA-77Y、アデカスタブ LA-81、アデカスタブ LA-82、アデカスタブ LA-87(以上、ADEKA社製)等の市販品を用いることができる。
【0086】
本実施形態では、化合物[B]は、以下一般式(b2)で表される構造単位を有する化合物であることが好ましい。
この化合物は、典型的にはポリマーまたはオリゴマーである。この化合物のような、ポリマーまたはオリゴマーである化合物[B]を用いることで、環状オレフィン系樹脂[A]との相溶性を高められ、組成物をより均一にすることができると考えられる。また、照射により特性吸収を有するような構造に変化しにくいと考えられる。これにより、電子線あるいはガンマ線照射による変色をより少なくし、また、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生をより少なくできると考えられる。
【0087】
【化15】
【0088】
一般式(b2)において、XおよびXは、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。
およびXの2価の連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、これらの基が連結された基、などを挙げることができる。これらの中でも、アルキレン基が好ましく、炭素数1~6のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~4のアルキレン基がより好ましい。
一般式(b2)で表される構造単位を有する化合物については、市販品を用いてもよいし、対応するジオールおよびジカルボン酸などを縮重合させることで得てもよい。
【0089】
化合物[B]については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
組成物中の化合物[B]の含有量は、環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、例えば0.01~2.0質量部、好ましくは0.05~1.5質量部、より好ましくは0.10~1.0質量部である。この範囲とすることで、他の性能(例えば成形性や機械強度など)を維持しつつ、電子線あるいはガンマ線照射による変色、ラジカルの発生などを効果的に低減することができる。
なお、リン系化合物[C]とあわせた合計量については、後述する。
【0090】
・リン系化合物[C]
使用可能なリン系化合物[C](以下、単に、化合物[C]、または、[C]とのみ表記することもある)については、特に制限は無い。例えば、公知のリン系酸化防止剤を用いることができる。
【0091】
リン系酸化防止剤としては、特に制限はなく、従来公知のリン系酸化防止剤(例えば、ホスファイト系酸化防止剤)を用いることができる。
具体的には、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレンなどのモノホスファイト系化合物;4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(ジフェニルモノアルキル(C12~C15)ホスファイト)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルホスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。
【0092】
好ましく用いられる化合物[C]は、3価の有機リン化合物である。より具体的には、化合物[C]は、亜リン酸(P(OH))の3つの水素原子が、各々同一または異なる有機基で置換された構造を有する化合物である。
より具体的には、化合物[C]は、好ましくは、下記一般式(c1)、(c2)または(c3)で表される化合物である。
【0093】
【化16】
【0094】
一般式(c1)、(c2)および(c3)中、
は、複数ある場合はそれぞれ独立に、アルキル基を表し、
は、複数ある場合はそれぞれ独立に、芳香族基を表し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表し、
Xは、単結合または2価の連結基を表す。
【0095】
のアルキル基は、好ましくは炭素数1~10であり、より好ましくはt-ブチル基である。
の芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、これらがアルキル基等で置換された基などが挙げられる。
の炭素数は、好ましくは1~30、より好ましくは3~20、さらに好ましくは6~18である。
として好ましくはアリール基またはアラルキル基であり、より好ましくはアラルキル基である。これらアリール基またはアラルキル基は、さらに置換基(例えば、炭素数1~6のアルキル基やヒドロキシ基など)で置換されていてもよい。
Xが2価の連結基である場合、その具体例としては、アルキレン基(メチレン基など)やエーテル基(-O-)などが挙げられる。Xとして好ましくは単結合である。
【0096】
化合物[C]については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
組成物中の化合物[C]の含有量は、環状オレフィン系樹脂[A]の量を100質量部としたとき、例えば0.01~1.5質量部、好ましくは0.02~1.0質量部、より好ましくは0.05~0.5質量部である。この範囲とすることで、他の性能(例えば成形性や機械強度など)を維持しつつ、電子線あるいはガンマ線照射による変色、ラジカルの発生などを効果的に低減することができる。
【0097】
一方、別観点として、環状オレフィン系樹脂[A]の量を100質量部としたとき、リン系化合物[C]の含有量は、好ましくは0.05質量部未満、より好ましくは0.03質量部以下、さらに好ましくは0.02質量部以下である。
一つの好ましい態様として、本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物は、ヒンダードアミン系化合物[B]を含むが、リン系化合物[C]を含まない。
【0098】
本発明者らの知見として、リン系化合物[C]は、ヒンダードアミン系化合物[B]に比べ、ラジカル補足能自体は優れる傾向にある。しかし、電子線あるいはガンマ線照射により、リン系化合物[C]自体から若干のラジカルが発生する場合もあるようである。
また、電子線あるいはガンマ線照射によりリン系化合物[C]自体が若干着色する場合があり、リン系化合物[C]を用いると、許容できる程度ではあるが、成形体が若干着色することもある。
これらの事項に基づけば、環状オレフィン系樹脂[A]100質量部に対するリン系化合物[C]の量を0.05質量部未満とする、または、リン系化合物[C]を使用しないことで、電子線あるいはガンマ線照射による変色を特に低減することができると考えられる。
【0099】
・ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]の合計含有量
組成物中の環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]の合計含有量は、0.05~1.50質量部、好ましくは0.07~1.40質量部、より好ましくは0.10~1.20質量部である。この範囲とすることで、他の性能(例えば成形性や機械強度など)を維持しつつ、電子線あるいはガンマ線照射による変色、ラジカルの発生などを効果的に低減することができる。
【0100】
なお、本発明者らの知見によれば、化合物[B]と化合物[C]を併用すると、一層、電子線あるいはガンマ線照射による変色やラジカルの発生を抑えられる傾向にある。つまり、樹脂[A]が同一であれば、化合物[B]のみを用いる場合や化合物[C]のみを用いる場合に比べ、化合物[B]と化合物[C]を併用するほうが、ラジカルの発生を一層抑えうる。
この理由は必ずしも明らかではないが、電子線あるいはガンマ線照射により発生しうる様々な種類のラジカル種を、複数種の化合物により効果的に捕捉できるためと推定される。
【0101】
一態様として、化合物[B]と化合物[C]を併用する場合、それぞれの量は、化合物[B]:0.1~1.0質量部、化合物[C]:0.05~0.30質量部であることが好ましい(これら量は、組成物中の環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたときの値である)。このような量とすることで、特に、化合物[C]による着色の低減を低減しつつ、ラジカル捕捉によるラジカル量の低減も図ることができる。
【0102】
・フェノール系化合物[D]
本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物は、フェノール系化合物[D]を、含有しないか、または、含有するとしても、組成物中の環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたときに0.50質量部未満で含有する。
なお、以下、フェノール系化合物[D]を、単に、化合物[D]、または、[D]とも記載する。
【0103】
念のため、前述した事項を改めて述べると、ある化合物が、化合物[B]または[C]に該当し、かつ、化合物[D]にも該当する場合、その化合物は化合物[D]としては扱われない。
この理由としては、たとえ化合物[B]または[C]がフェノール構造を有していたとしても、ヒンダードアミン構造またはリン含有構造を有していればラジカル捕捉能があると推定され、そして、ラジカル発生量の低減や変色抑制に効果があると考えられるためである。
【0104】
化合物[D]としては、典型的には、成形体の分野で用いられるフェノール系酸化防止剤が挙げられる。例えば、国際公開第2008/047468号の段落0018および0282に記載のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
より具体的には、2-第3ブチル-6-(3-第3ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ジ-第3アミル-6-(1-(3,5-ジ-第3アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等の特開昭63-179953号公報や特開平1-168643号公報に記載されるアクリレート系フェノール化合物;2,6-ジ-第3ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-第3ブチル-4-エチルフェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-第3ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(6-第3ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-第3ブチルフェノール)、ビス(3-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メタン、3,9-ビス(2-(3-(3-第3ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第3ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン-3-(3’,5’-ジ-第3ブチル-4’-ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[すなわち、ペンタエリスリメチル-テトラキス(3-(3,5-ジ-第3ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート)]、トリエチレングリコールビス(3-(3-第3ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート)、トコフェノール等のアルキル置換フェノール系化合物;6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-第3ブチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3-メチル-5-第3ブチルアニリノ)-2,4-ビスオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、2-オクチルチオ-4,6-ビス-(3,5-ジ-第3ブチル-4-オキシアニリノ)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物;6-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン等が挙げられる。
【0105】
本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物は、一態様として、好ましくは、化合物[D]を含有しない。
また、別の態様として、本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物は、何らかの効果を期待して、環状オレフィン系樹脂[A]100質量部に対して0.50質量部未満の化合物[D]を含有してもよい。より具体的には、組成物が化合物[D]を含有する場合、その量は、環状オレフィン系樹脂[A]100質量部に対して好ましくは0.45質量部以下、より好ましくは0.30質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下である。なお、組成物が化合物[D]を含有する場合、その量の下限は特に無いが、環状オレフィン系樹脂[A]100質量部に対して、例えば0.0001質量部以上、好ましくは0.001質量部以上である。
【0106】
・その他成分
本実施形態のオレフィン系樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記[A]~[D]のほかに、必要に応じて、さらに他の成分を含んでもよい。そのような他の成分としては、以下に列挙される樹脂成分や添加剤を挙げることができる。
【0107】
樹脂成分としては、1個または2個の不飽和結合を有する炭化水素から誘導されるポリオレフィン等の重合体;ポリ塩化ビニル、塩素化ゴム等のハロゲン含有ビニル重合体;α,β-不飽和酸とその誘導体から誘導された重合体で具体的にはポリアクリレート、ポリメタクリレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等;不飽和アルコールおよびアミンまたはそのアシル誘導体またはアセタールから誘導されるポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等の重合体;エポキシド例えばポリエチレンオキシドから誘導される重合体;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリカーボネート;ポリスルフォン;ポリウレタンおよび尿素樹脂;ジアミンおよびジカルボン酸および/またはアミノカルボン酸または相応するラクタムから誘導されたポリアミドおよびコポリアミドでナイロン6、ナイロン66等;更にジカルボン酸およびジアルコールおよび/またはオキシカルボン酸または相応するラクトンから誘導されたポリエステルでポリエチレンテレフタレート等;アルデヒドとフェノール、尿素またはメラミンから誘導された架橋構造を有した重合体でフェノール・ホルムアルデヒド樹脂等;アルキッド樹脂;飽和および不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとのコポリエステルから誘導され、架橋剤としてビニル化合物を使用して得られる不飽和ポリエステル樹脂ならびにハロゲン含有改質樹脂;セルロース、ゴム等の天然重合体;α-オレフィン系共重合体、α-オレフィン・ジエン系共重合体等の軟質重合体等が挙げられる。
【0108】
添加剤としては、従来公知の耐候安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、有機又は無機の充填剤等が挙げられる。
【0109】
・環状オレフィン系樹脂組成物の製造方法
本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物は、上記の各成分を、押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;各成分を共通の溶媒に溶解し、その後、溶媒を蒸発させる方法;あるいは、貧溶媒中に上記各成分を溶解させた溶液を加えて析出させる等の方法により得ることができる。
【0110】
・環状オレフィン系樹脂組成物の性状
本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物の性状は、特に限定されない。例えばペレット状、粉体状、顆粒状などであってよい。組成物をこれらの性状に加工する方法(造粒方法)については公知の方法を適宜適用することができる。
【0111】
<成形体、そのガンマ線または電子線照射物、および、成形体の製造方法>
上述の環状オレフィン系樹脂組成物により、成形体を形成(製造)することができる。この成形体は、前述のように、電子線あるいはガンマ線照射による変色が少なく、また、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生が少ない。これらの性質により、医療用容器などとして好適に用いることができる。
【0112】
また、例えば上記で製造された成形体に、ガンマ線または電子線を照射することで、成形体のガンマ線または電子線照射物(ガンマ線または電子線が照射された成形体)を得ることができる。この成形体は、照射により、殺菌または滅菌がなされているため清潔であり、かつ、変色やラジカルの発生が抑えられている。つまり、医療用容器などとして好適である。照射線量は特に限定されないが、通常は10~100キログレイ、好ましくは20~80キログレイである。
【0113】
医療用容器としては、例えば、注射器の注射筒外筒(以下、シリンジ)および薬液や薬剤を充填してなる注射筒(以下、プレフィルドシリンジとも呼ぶ。)に使用されるシリンジ、薬液や薬剤を充填してなる保存容器に使用される保存容器(以下、薬液保存容器とも呼ぶ。)等が挙げられる。
特に、「ラジカルの発生が少ない」という性質から、容器に薬液や薬剤が充填された状態で電子線あるいはガンマ線を照射したとしても、薬液や薬剤の変質が抑えられると考えられる。
【0114】
ここで、プレフィルドシリンジとは、薬液や薬剤があらかじめ充填されているシリンジ形状の製剤であり、1種類の液が充填されたシングルチャンバータイプのものと、2種の薬剤が充填されたダブルチャンバータイプがある。ほとんどのプレフィルドシリンジはシングルチャンバータイプであるが、ダブルチャンバータイプについては、粉末とその溶解液からなる液・粉タイプの製剤と2種類の液からなる液・液タイプの製剤がある。シングルチャンバータイプの内溶液の例としては、ヘパリン溶液等が挙げられる。シリンジ及びプレフィルドシリンジに使用されるシリンジとして、例えば、プレフィラブル・シリンジ、ワクチン用プレフィルドシリンジ、抗がん剤用プレフィルドシリンジ、ニードルレス・シリンジ等が挙げられる。
【0115】
薬液保存容器としては、例えば、広口瓶、狭口瓶、薬ビン、バイアルビン、輸液ボトル、バルク容器、シャーレ、試験管、分析セル等を挙げることができる。より具体的には、アンプル、プレス・スルー・パッケージ、輸液用バッグ、点滴薬容器、点眼薬容器などの液体、粉体または固体の薬品容器;血液検査用のサンプリング用試験管、採血管、検体容器などのサンプル容器;紫外線検査セルなどの分析容器;メス、カン子、ガーゼ、コンタクトレンズなどの医療器具の滅菌容器;ディスポーザブルシリンジ、プレフィルドシリンジなどの医療用具;ビーカー、バイアル、アンプル、試験管フラスコなどの実験器具;人工臓器のハウジング等が挙げられる。
【0116】
成形体の成形方法については、公知の成形方法を適宜適用することができる。例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等の公知の成形方法を適用することができる。
【0117】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示である。つまり、本発明の実施の際には、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
〔1〕
ガンマ線または電子線照射用の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
環状オレフィン系樹脂[A]と、ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]からなる群より選ばれる一種以上の化合物とを含み、
組成物中の上記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、上記ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]の合計含有量が0.05~1.50質量部であり、
組成物中の上記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、フェノール系化合物[D]の含有量が0.50質量部未満である、環状オレフィン系樹脂組成物。
〔2〕
上記〔1〕に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
上記環状オレフィン系樹脂[A]が、下記[A-1]、[A-2]、[A-3]および[A-4]からなる群より選択される少なくともいずれかを含む、環状オレフィン系樹脂組成物。
[A-1]:炭素原子数が2~20のα-オレフィンと、下記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンとを共重合させて得られるα-オレフィン・環状オレフィンランダム共重合体
一般式(I)中、
nは0または1であり、
mは0または1以上の整数であり、
qは0または1であり、
~R 18 ならびにR およびR は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基であり、R 15 ~R 18 は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ該単環または多環は二重結合を有していてもよく、またR 15 とR 16 とで、またはR 17 とR 18 とでアルキリデン基を形成していてもよい。
一般式(II)中、
pおよびqは、それぞれ独立に、0または1以上の整数であり、
mおよびnは、それぞれ独立に、0、1または2であり、
~R 19 は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基またはアルコキシ基であり、R およびR 10 が結合している炭素原子と、R 13 またはR 11 が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のとき、R 15 とR 12 またはR 15 とR 19 とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
[A-2]:上記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィンの開環重合体または共重合体
[A-3]:上記[A-2]の開環重合体または共重合体の水素化物
[A-4]:上記[A-1]、[A-2]または[A-3]のグラフト変性物
〔3〕
上記〔1〕または〔2〕に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
組成物中の上記環状オレフィン系樹脂[A]の含有量を100質量部としたとき、上記リン系化合物[C]の量が0.05質量部未満である、環状オレフィン系樹脂組成物。
〔4〕
上記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物から形成された成形体。
〔5〕
上記〔4〕に記載の成形体であって、
医療用容器である、成形体。
〔6〕
上記〔4〕または〔5〕に記載の成形体であって、
シリンジまたは薬液保存容器である、成形体。
〔7〕
上記〔4〕~〔6〕のいずれか1つに記載の成形体の、ガンマ線または電子線照射物。
【実施例
【0118】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお、以下、表1などにおける「NB」は、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(2-ノルボルネン)の略号である。また、「TD」は、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンの略号である。
【0119】
[樹脂A-1およびA-2の合成]
以下の樹脂A-1およびA-2を合成した。
・A-1:エチレンと環状オレフィン(NB)とのランダム共重合体
・A-2:エチレンと環状オレフィン(TD)とのランダム共重合体
【0120】
上記の各樹脂は、国際公開第2008/068897号の実施例に記載の重合例1~7に準じた方法により合成した。つまり、窒素雰囲気下、触媒として有機溶剤に可溶なバナジウム化合物および有機アルミニウム化合物から形成される触媒(バナジウム化合物としてVO(OC)Cl、有機アルミニウム化合物としてエチルアルミニウムセスキクロリド((C1.5AlCl1.5))を用い、エチレンと環状オレフィンとを共重合させた。その後、脱灰(触媒の除去)、樹脂の析出、ろ取、減圧乾燥などを行って各樹脂を得た。
【0121】
上記の各樹脂について、以下記載の要領で、共重合比や各種物性を測定した。得られた結果はまとめて後掲の表1に示す。
【0122】
[樹脂中の各構成単位の含有量(共重合比)の測定]
日本電子社製「ECA500型」核磁気共鳴装置を用い、下記条件で測定することにより行った。
・溶媒:重テトラクロロエタン
・サンプル濃度:50~100g/l-solvent
・パルス繰り返し時間:5.5秒
・積算回数:6000~16000回
・測定温度:120℃
上記条件で測定した13C-NMRスペクトルのピーク面積により、組成比(共重合成分であるNBまたはTDに由来する構造単位の量)を求めた。
【0123】
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分散度(Mw/Mn)]
GPC測定により、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、および、分散度Mw/Mnを求めた。
具体的には、カラムとして東ソー株式会社製TSKgel GMH-HTを2本、および、TSKgel GMH-HTLを2本(カラムサイズはいずれも内径7.5mm、長さ300mm)を直列接続した、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製HLC-8321 GPC/HT型)を用いて測定した。移動相媒体は、o-ジクロロベンゼンおよび酸化防止剤としてBHT(和光純薬工業)0.025質量%を用い、試料濃度は0.15%(W/V)、流速1.0ml/分、140℃で測定した。標準ポリスチレンは、分子量が590~20,600,000については東ソー社製を用いた。得られたクロマトグラムはWaters製データ処理ソフトEmpower3を用いて、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを使用した検量線を用いて解析することで、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mwおよび分散度Mw/Mnを算出した。
【0124】
[極限粘度]
極限粘度([η])は、135℃、デカリン中で測定した。
具体的には、樹脂(約20mg)をデカリン溶媒(15mL)に溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒(5mL)を追加して希釈し、その後、前述のやり方と同様に比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、サンプルの濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を極限粘度[η]とした。
極限粘度[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0125】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
以下の条件でDSC測定を行い求めた。
・装置:エスアイアイナノテクノロジー社製、DSC7000
・測定条件:窒素雰囲気下、室温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持した。次いで、10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持した。その後、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する過程のDSC曲線を取得した。
【0126】
得られたDSC曲線において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度を、ガラス転移温度とした。
【0127】
【表1】
【0128】
[樹脂組成物の製造:実施例1および6、参考例2~5ならびに比較例1~3]
後掲の表2に記載の各成分により、実施例1および6、参考例2~5ならびに比較例1~3の環状オレフィン系樹脂組成物を得た。具体的には、各成分の配合物を、プラスチック工学研究所社製の2軸押出機BT-30(スクリュー系30mmΦ、L/D=46)を用い、設定温度270℃、樹脂押出量80g/min、200rpmの条件で造粒し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
得られたペレットは、どれも無色透明で、色相や明度に差はなかった。
本実施例および比較例では、このペレットを用いて、ガンマ線照射による変色、ラジカル発生量などを評価した。
【0129】
表2に記載の各成分は、以下のとおりである。なお、樹脂A-1およびA-2は、上述のものである。
【0130】
B-1:以下構造式で表されるヒンダードアミン系化合物(BASF社製、商品名:チヌビン(Tinuvin)622、分子量3100~4000)
【0131】
【化17】
【0132】
C-1:以下の構造式で表されるリン系化合物(BASF社製、商品名:イルガフォス(IRGAFOS)168)
【0133】
【化18】
【0134】
C-2:以下の構造式で表されるリン系化合物(住友化学社製、商品名:スミライザーGP)
【0135】
【化19】
【0136】
D-1:以下の構造式で表されるフェノール系化合物(BASF社製、商品名:イルガノックス(IRGANOX)1010)
【0137】
【化20】
【0138】
D-2:以下の構造式で表されるフェノール系化合物(住友化学社製、スミライザーGS)
【0139】
【化21】
【0140】
[ガンマ線照射]
上記で得られたペレットに、ガンマ線50キログレイを照射した。
【0141】
[評価:ガンマ線照射直後の色相および明度]
ガンマ線照射直後のペレットを、20mmの厚みで白色紙上に積み上げた。このときの色相および明度を目視評価した。色相はマンセル表色系に準じた。評価の基準は以下のとおりとした。
○(良い):明度が7~9.5で、かつ、色相が5.0GY~10GYの間である。
△(普通):明度が5~9.5で、かつ、色相が5Y~10GYの間である。ただし、上記の○(良好)に該当する場合を除く。
×(悪い):明度が0以上5未満である、かつ/または、色相が2.5Y~5Yの間である。
【0142】
上記の評価基準について補足しておく。
明度については、その値が大きいほうが、白色に近く、変色が抑えられていることが明らかである。
色相については、特に医療容器として用いることを考慮した場合、黄色は患者に不潔な印象を与えるとして敬遠されることから、黄色より緑色のほうが好ましいとした。
【0143】
[評価:ガンマ線照射2か月後の色相]
ガンマ線照射後、2か月間、室温で放置したペレットを、20mmの厚みで白色紙上に積み上げて、照射直後の変色が残存しているか否かを目視で確認した。照射直後の変色が十分に退色していたものを○(良い)、照射直後の変色が残ったままで、黄色が残存していたものを×(悪い)とした。
【0144】
[評価:ラジカル発生量]
ガンマ線照射後の試料のラジカル量は、電子スピン共鳴法(Electron Spin Rssonance(ESR))により測定した。
具体的には、ガンマ線照射直後のペレットを約6mg切り出し、それを試験管(詳細は以下)に入れて、以下条件でESRスペクトルを測定した。
【0145】
・装置:日本電子製電子スピン共鳴装置 JES-TE200
・共振周波数:9.2GHz
・マイクロ波入力:1mW
・中心磁場:326.5mT
・掃引幅:±15mT
・変調周波数:100kHz
・掃引時間:8min.
・時定数:0.1sec
・増幅度:25
・試料管:Xバンド対応の先端部石英の試料管
・外部照準:酸化マグネシウムに担持されたMn2+標準サンプル
・外部標準メモリ:0、700
・測定温度:室温
・測定雰囲気:大気
【0146】
ラジカル発生量の相対比較には、下記式に示される規格化値を用いた。
【0147】
【数1】
【0148】
なお、ESRスペクトルのベースラインについては、Mn2+(第2シグナル)を基準とし補正した。
通常、ラジカル量の相対比較において、基準となるMn2+由来シグナルの面積はMn2+(第3シグナル)を用いる。しかし、有機ラジカル由来ラジカルのスペクトルと、Mn2+(第3シグナル)とが重なるため、今回の測定ではすべてMn2+(第2シグナル)を用いた(外部標準メモリ=700)。
また、有機ラジカル由来シグナルがMn2+(第3シグナル)と重なった場合は、外部標準メモリ=0のESRスペクトルを用いて算出した。
【0149】
実施例1および6、参考例2~5ならびに比較例1~3の環状オレフィン系樹脂組成物の組成と評価結果を、まとめて下表に示す。
【0150】
【表2】
【0151】
表2より、実施例1および6ならびに参考例2~5の樹脂組成物は、比較例1~3の樹脂組成物に比べて、ラジカル発生量が有意に少なく、また、ガンマ線照射による変色が少ない(明度が低くなったり、黄変したりしにくい)ことがわかる。
つまり、環状オレフィン系樹脂[A]100質量部に対し、ヒンダードアミン系化合物[B]およびリン系化合物[C]を合計で0.05~1.50質量部含み、かつ、フェノール系化合物[D]の含有量が0.50質量部未満である樹脂組成物により、電子線あるいはガンマ線照射による変色を少なくでき、また、電子線あるいはガンマ線照射によるラジカルの発生を少なくできることが示された。
【0152】
また、実施例1および6ならびに参考例2~5の樹脂組成物については、照射直後の変色が「退色する」という効果も得られた。これについては、発生したラジカルが、ヒンダードアミン系化合物[B]および/またはリン系化合物[C]に効率的にトラップされるなどしたことによるものと推定される。
【0153】
より詳細に実施例1および6ならびに参考例2~5を分析すると、以下の傾向が読み取れる。
・同一樹脂(A-1)が用いられた実施例1および参考例2~5のうち、ヒンダードアミン系化合物[B]とリン系化合物[C]とが併用されている実施例1が、特にラジカル発生量において良好な結果である。
・ヒンダードアミン系化合物[B]を含み、かつ、リン系化合物[C]を含まない参考例3および4が、特に、マンセル表色系における色相評価で優れている傾向にある。
【0154】
一方、環状オレフィン系樹脂[A]100質量部に対して0.50質量部以上のフェノール系化合物を含む比較例1および3や、ヒンダードアミン系化合物[B]やリン系化合物[C]を含まない比較例2の樹脂組成物は、ラジカル発生量や変色について、実施例よりも劣る結果であった。
【0155】
<成形体の製造>
実施例1および6ならびに参考例2~5のペレットを原料として、真空プレス成形法により板状の成形体を得た。得られた成形体は無色透明であり、また十分な強度があった。つまり、本実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物により製造された成形体は、医療用容器などとして十分な透明性および強度があることが分かった。