(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】抗菌・抗かび性繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D06M 13/355 20060101AFI20220517BHJP
A01N 55/02 20060101ALI20220517BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220517BHJP
D06M 13/152 20060101ALI20220517BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20220517BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20220517BHJP
D06M 13/352 20060101ALI20220517BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20220517BHJP
【FI】
D06M13/355
A01N55/02 150
A01P3/00
D06M13/152
D06M13/17
D06M13/224
D06M13/352
D06M101:32
(21)【出願番号】P 2018068668
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000205432
【氏名又は名称】大阪化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】合志 修
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-126778(JP,A)
【文献】特開2000-119960(JP,A)
【文献】特開2007-146330(JP,A)
【文献】特開2012-001868(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128871(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
A01N1/00-65/48
A01P1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌・抗かび剤(A)と、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とを含有するポリエステル混合繊維構造物であって、上記抗菌・抗かび剤(A)が、ピリジン系
金属錯体であり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、下記の第1群(b1
)および第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物
と、下記の第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物との組み合わせからなり、上記ポリエステル混合繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とともに固定されていることを特徴とする抗菌・抗かび性繊維構造物。
(b1)
エーテル型非イオン界面活性剤からなる第1群。
(b2)
ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドンおよび1,3-ブチレングリコールからなる第2群。
(b3)
一置換芳香族単環化合物、二置換芳香族単環化合物、芳香族多環化合物からなる芳香族系化合物および
下記の式(7)、(8)で示される尿素系化合物からなる第3群。
【化7】
【化8】
【請求項2】
上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全体に対し200~20000mg/kgであり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の含有量が、繊維構造物全体に対し1~500mg/kgである請求項1記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項3】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)のうち、上記第1群(b1)が、下記の式(1)、(2)で示される
エーテル型非イオン界面活性剤の少なくとも一つを含むものである請求項1
または2記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【化1】
【化2】
【請求項4】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)のうち、上記第3群(b3
)における芳香族系化合物が、下記の式(3)~(
6)で示される芳香族系化合
物から選択される少なくとも一つを含むものである請求項1~
3のいずれか一項に記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項5】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項6】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【請求項7】
上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗菌・抗かび性繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生や健康に対する意識の高まりから、衣料やタオル、寝具等、身の回りの繊維製品に、抗菌性や抗かび性を付与したものが多く出回っている。しかし、抗菌・抗かび剤は、繊維と化学的に結合しにくいものが多いため、抗菌・抗かび性が付与された繊維製品の多くは、抗菌・抗かび剤を、樹脂等のバインダーによって繊維表面にコーティング加工して付着させているにすぎない。このため、上記繊維製品を繰り返し洗濯すると、繊維表面から抗菌・抗かび剤が容易に脱落しやすく、抗菌・抗かび性能が洗濯の都度低下してしまうという問題がある。一方、合成繊維については、繊維自身に抗菌・抗かび剤を練り込んで紡糸したものも出回っているが、このような練り込みおよび紡糸温度(ポリエステルの場合300℃以上)に耐えられる抗菌剤は極めて少なく、また耐熱性の高い無機抗菌剤は合成繊維内に封入されるとブリードしないことから、抗菌・抗かび性能が充分に得られないという問題がある。
【0003】
ところで、ポリエステル繊維は耐熱性に優れており、高圧高温加工または常圧高温加工(いわゆるベイキング加工)によって染色処理等の加工が広く行われている。そこで、例えば、ピリジン系抗菌・抗かび剤の分散液中にポリエステル繊維品を浸漬し、常圧下、気中で170~190℃という高温加熱処理を行うことにより、ポリエステルの緻密な非晶領域を緩ませて、生じた隙間にピリジン系抗菌・抗かび剤を浸透固定し、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性能を付与する技術が提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
また、得られる抗菌性が不充分な場合には、下記の特許文献2、3のように、ピリジン系抗菌剤と相乗効果を発揮する抗菌性助剤の併用が提案されている。特に、引用文献2では、繊維構造物中に、ピリジン系抗菌剤とともに、カルボン酸系化合物、フェノール系化合物および尿素系化合物から選ばれる少なくとも一つの抗菌性補助剤を用いて、抗菌性の相乗効果を得ることが提案されている。すなわち、ピリジン系抗菌剤をポリエステル繊維に180℃以上の温度で気中熱浸透処理した場合、ピリジン系抗菌剤の利用効率は90%以上であることから、それ以上固定化量は増加しない。そこで、低湿潤条件において抗菌効力を向上させるために、上記抗菌性補助剤を0.01重量%(100mg/kg)以上配合することで、ピリジン系抗菌剤と上記抗菌性補助剤による抗菌性の相乗効果を実現したものである。
【0005】
しかしながら、上記特許文献2では、耐熱性の低いアクリル繊維やナイロン繊維等の単独繊維に対する、それぞれに適した温度での加工は検証されているが、耐熱性の低いアクリル繊維やナイロン繊維等を含有したポリエステル混合繊維の場合について検証されていない。すなわち、150℃以下という比較的低温下でしか加工できない状況において、ポリエステル混合繊維に対するピリジン系抗菌剤の固定化率の向上について何ら検証されておらず、繊維内部へのピリジン系抗菌剤の固定化を促進させる効果を謳っているものではない。また、実施例で界面活性剤と溶剤を使用しているが、その目的は抗菌性補助剤の水への可溶化であり、その併用による固定化率向上の相乗効果や、繊維内部へのピリジン系抗菌剤の固定化を促進させる効果についても、何ら検証されていない。
【0006】
一方、下記の非特許文献1には、フェニルフェノールを用いたポリエステル繊維への染料拡散速度の向上に関する報告がなされている。しかしながら、従来の検討は、ポリエステル繊維に対して高い親和性を持つように合成された染料を対象としたものであり、ポリエステル繊維と親和性の低いピリジン系抗菌・抗かび剤に対する検証はなされておらず、さらに補助剤等との併用による相乗効果の検証も不充分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-8275号公報
【文献】特開2007-126778号公報
【文献】特表平10-509171号公報
【非特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、上記特許文献1、2等によれば、ポリエステル繊維100%の繊維製品に対して、170℃以上の高温下において抗菌剤を効果的に付与することも可能となっている。しかし、最近、伸縮性、体感性等を向上させるために、ポリエステル繊維と他の繊維(ポリウレタン、ポリアミド、アクリル、綿等)との混紡繊維が多く出回っており、そのような混紡繊維に従来の技術を適用した場合、抗菌・抗かび性を付与することはできても、風合いや変色等の問題が発生することから実用化することができない。また、同様に、ポリエステル繊維からなる糸と他の繊維からなる糸を組み合わせた糸や布等においても、同様の問題がある。
【0010】
すなわち、上記ポリウレタン、ポリアミド、アクリル、綿といった繊維とポリエステル繊維を組み合わせて得られる繊維構造物(以下、これらを総称して「ポリエステル混合繊維構造物」という)は、160℃を超える高温加工では、変色や硬化、繊維の溶融等を生じて見栄えや手触りが悪くなるからである。このため、これらのポリエステル混合繊維構造物に対する加工処理は、150℃程度までの比較的低温で行わざるを得ない。しかし、150℃以下では、ポリエステル繊維の非晶領域が充分に緩まず、分子運動も乏しいため、分子量が大きく繊維との反応性にも乏しいピリジン系抗菌・抗かび剤を短時間で繊維内に固定することができず、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性を付与することができないのである。
【0011】
なお、ここでいう「固定」とは、ピリジン系抗菌・抗かび剤が合成繊維内に浸透して存在する状態であって、繊維表面に付着しているだけの状態のものを除く趣旨である。固定された抗菌・抗かび剤は、表面に付着した分を洗濯等で取り除いた後に分析することによって、特定することができる。
【0012】
ちなみに、
図2(a)は、ピリジン系抗菌・抗かび剤(具体的にはジンクピリチオン、いわゆるZPT)を所定濃度でポリエステル繊維にベイキング加工によって固定する場合の、処理温度とその固定化率(加工液中に含有され、繊維に付着するZPTのうち繊維内に固定されるZPTの割合、%)との関係を示すグラフ図である。実線で示す折れ線が現状を示している。
【0013】
このグラフ図によれば、ZPTの固定化率(この例では、繊維に含有されるZPT量÷処理仕込み量におけるZPT量)は、加工温度を170℃まで上げると80%となり、180℃では90%近くなることがわかる。これに対し、加工温度が150℃では固定化率が20%程度であり、殆どZPTを固定することができない。このため、
図2(a)において破線で示すように、加工温度が150℃でも固定化率を向上することが強く求められている。
【0014】
なお、加工液中のZPT濃度を高くすればZPTの固定化量が増えるのではないか、との考えもあるが、加工温度が150℃という低温ではポリエステル繊維の非晶領域が充分に緩まないため、
図2(b)に示すように、ZPT濃度を高くしてもその固定化量は殆ど増加しない。一方、加工温度を180℃にすると、ポリエステル繊維の非晶領域が緩んでZPTの浸透する隙間が拡がるため、ZPT濃度が高くなればなるほど、固定化量が増えることがわかる。
【0015】
本発明は、このような課題に応えるためになされたもので、常圧下、例えば150℃前後の比較的低い温度で加工されたポリエステル混合繊維構造物でありながら、充分な量の抗菌・抗かび剤が固定され、洗濯耐久性を備えた抗菌・抗かび性繊維構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題に応えるため、本発明は、抗菌・抗かび剤(A)と、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とを含有するポリエステル混合繊維構造物であって、上記抗菌・抗かび剤(A)が、ピリジン系抗菌・抗かび剤であり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、下記の第1群(b1)、第2第(b2)および第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物であり、上記ポリエステル混合繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とともに固定されている抗菌・抗かび性繊維構造物を第1の要旨とする。
(b1)界面活性剤からなる第1群。
(b2)有機溶媒からなる第2群。
(b3)芳香族系化合物および尿素系化合物からなる第3群。
【0017】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全体に対し200~20000mg/kgであり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の含有量が、繊維構造物全体に対し1~500mg/kgである抗菌・抗かび性繊維構造物を第2の要旨とし、上記抗菌・抗かび剤(A)が、ピリジン系金属錯体である抗菌・抗かび性繊維構造物を第3の要旨とする。
【0018】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)のうち、上記第1群(b1)が、下記の式(1)、(2)で示される界面活性剤の少なくとも一つを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第4の要旨とする。
【0019】
【0020】
【0021】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)のうち、上記第3群(b3)が、下記の式(3)~(8)で示される芳香族系化合物および尿素系化合物の少なくとも一つを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第5の要旨とする。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)、第2群(b2)および第3群(b3)から選択される少なくとも二つの化合物を含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第6の要旨とする。
【0029】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第7の要旨とする。
【0030】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第8の要旨とする。
【0031】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物を第9の要旨とする。
【0032】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、また上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものである抗菌・抗かび性繊維構造物とを第10の要旨とする。
【発明の効果】
【0033】
すなわち、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物は、抗菌・抗かび剤(A)であるピリジン系抗菌・抗かび剤とともに、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、界面活性剤からなる第1群(b1)と、有機溶媒からなる第2群(b2)と、芳香族系化合物および尿素系化合物からなる第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物が用いられており、上記繊維構造物が、ポリエステル繊維と、ポリウレタン、ポリアミド、アクリル、綿といった耐熱性の低い他の繊維等とを組み合わせて構成されたポリエステル混合繊維構造物であり、その混合繊維構造物の繊維内に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とともに固定されている、という特徴を備えている。
【0034】
ここで、ポリエステル繊維は、ガラス転移点以上(多くのポリエステル繊維において70℃以上)でポリエステルの鎖状分子の運動が高まり、非結晶領域の間隙が広がるという特性を有している。そして、高温であればあるほど、上記ポリエステルの鎖状分子の運動が高まり、非結晶領域の間隙が広がりやすくなる。このため、一般に、ポリエステル繊維へ染料や抗菌剤等を気中の常圧高温加工にて浸透させる場合、短時間で染料や抗菌剤等の繊維内への浸透させる必要があることから、ガラス転移点(70℃)から100℃以上高温(すなわち170℃以上)にすることで、数十秒から数分という短時間で抗菌剤を浸透させている。しかし、150℃という比較的低温下では、数分程度の短時間では、抗菌剤等を充分に浸透させることができなかった。
【0035】
そこで、本発明では、特定の抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を用いることにより、比較的低温下での処理においても、ポリエステル繊維への抗菌・抗かび剤(A)の浸透を高めることができるようにしたものである。
【0036】
より詳しく説明すると、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、界面活性剤を用いた場合には、界面活性剤によって繊維表面エネルギーを変えることで、ピリジン系抗菌・抗かび剤の繊維表面への親和性を上げ、選択的にピリジン系抗菌・抗かび剤の繊維表面近傍における存在確率を高める効果と、ピリジン系抗菌・抗かび剤を先導してポリエステル繊維内に浸透する効果により、抗菌・抗かび剤の浸透を補助する。
【0037】
また、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、有機溶媒を用いた場合には、難水溶性であるピリジン系抗菌・抗かび剤の加工液中の溶解濃度を高める効果により、ピリジン系抗菌・抗かび剤の浸透速度を促進する効果を発揮する。
【0038】
さらに、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、芳香族系化合物もしくは尿素系化合物を用いた場合には、これらの化合物がポリエステル繊維に浸透することで非結晶領域の鎖状分子の運動を活発にし、かつ非結晶領域の間隙を広げることで抗菌剤等の浸透速度を促進する効果を奏する。
【0039】
そして、上記3通りの促進作用が単独で発揮され、あるいは複合的に発揮されることによって、従来は180℃以上の高温下で初めて抗菌剤等の短時間固定が可能であったところ、本発明では、比較的低温でも短時間で効率的にピリジン系抗菌・抗かび剤を繊維内に固定化させることが実現できたのである。
【0040】
したがって、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物は、本来、気中常圧下では、180℃以上の高温加工によらなければ抗菌・抗かび剤(A)を浸透固定しにくいポリエステル繊維と、そもそも耐熱性に劣るポリウレタン系やポリアミド系、アクリル系等の繊維とを組み合わせたポリエステル混合繊維構造物において、180℃以上の気中高温加工を経由しなくても、抗菌・抗かび剤(A)が上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とともに繊維に充分に浸透固定されているため、優れた抗菌・抗かび性を発揮し、しかもその抗菌・抗かび性が優れた洗濯耐久性を示すものとなる。そして、180℃といった高温加工を経由する必要がないため、繊維に対する熱的ダメージが小さく、風合いの良好なものが得られるという利点を有する。
【0041】
特に、本発明では、上記抗菌・抗かび剤(A)として、メチシリン耐性ブドウ球菌(いわゆるMRSA)や、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)といったより薬剤耐性の強い菌に対しても充分に抗菌性を発揮するピリジン系抗菌・抗かび剤を用いているため、この繊維構造物を、病院や施設での手術着や介護着、シーツといった、各種のリネンサプライ用品に適用することが最適である。そして、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物は、工業洗濯を繰り返し受けても、その優れた抗菌・抗かび性を維持することができる。
【0042】
なお、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)の含有量が、繊維構造物全体に対し200~20000mg/kgであり、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の含有量が、繊維構造物全体に対し1~500mg/kgであるものは、とりわけ優れた抗菌・抗かび性と洗濯耐久性が発揮されるため、好適である。
【0043】
また、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤(A)が、ピリジン系金属錯体であるものは、有機性値/無機性値がポリエステル繊維と近いことから、これをポリエステル繊維に固定しやすく、好適である。
【0044】
さらに、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)のうち、上記第1群(b1)が、前記の式(1)、(2)で示される2種類の界面活性剤の少なくとも一つを含むもの、また、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)のうち、上記第3群(b3)が、前記の式(3)~(8)で示される6種類の芳香族系化合物および尿素系化合物の少なくとも一つを含むものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の固定量がさらに増大するため、好適である。
【0045】
そして、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)、第2群(b2)および第3群(b3)から選択される少なくとも二つの化合物を含むもの、あるいは、上記第1群(b1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の固定量がさらに増大するため、好適である。
【0046】
また、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)から選択される少なくとも化合物と、上記第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むもの、あるいは、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の固定量がさらに増大するため、好適である。
【0047】
さらに、本発明のなかでも、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が、上記第1群(b1)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(b2)から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物とを含むものは、上記抗菌・抗かび剤(A)の固定量がより一層増大するため、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】は本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物の製造方法の一例を示す模式的な説明図である。
【
図2】本発明の課題を説明するためのもので、(a)はポリエステル繊維に対する加工温度とZPT固定化率の関係を示すグラフ図、(b)は加工温度が150℃、180℃のときの、ZPT加工濃度(繊維に付着したZPT濃度)と実際に繊維に固定されるZPT量の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
つぎに、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限られるものではない。
【0050】
まず、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物(以下、単に「繊維構造物」という場合もある)は、抗菌・抗かび剤(A)と、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とを含有するポリエステル混合繊維構造物である。
【0051】
上記「ポリエステル混合繊維構造物」とは、すでに述べたとおり、ポリエステル繊維と他の繊維とを組み合わせて構成された繊維構造物である。
【0052】
上記ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフトレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等があげられる。これらは、いずれも、耐熱性、耐薬品性に優れ、しかも高強度であることから、各種の繊維構造物に広く用いられている。
【0053】
そして、上記ポリエステル繊維の太さは、特に限定するものではないが、抗菌・抗かび剤処理加工を施すには、通常、その平均単糸繊度が0.1~100dtexであることが好ましく、なかでも0.5~50dtexであることがより好ましい。
【0054】
また、上記「他の繊維」とは、特に限定するものではなく、ポリエステル繊維以外の各種の繊維を指すが、なかでも、一般に耐熱性が低く高温加工が困難なポリウレタン、ポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、絹、綿等の繊維と組み合わせたものであることが、本発明を適用することのメリットが大きいため、好適である。そして、上記「他の繊維」の太さも、特に限定するものではないが、通常、その平均単糸繊度は、0.1~1000dtexであることが好ましく、なかでも1~500dtexであることがより好ましい。
【0055】
上記ポリエステル繊維と他の繊維とを組み合わせたものとしては、ポリエステル繊維からなる糸と他の繊維からなる糸を組み合わせた織物、編物の他、ポリエステル繊維と他の繊維とを組み合わせて得られる不織布、ポリエステル繊維と他の繊維とを混紡して得られる混紡糸やその糸を用いた織編物等、ポリエステルと他の繊維材料とを複合紡糸して得られる混繊糸やその糸を用いた織編物等があげられる。
【0056】
そして、本発明において、「繊維構造物」の形態としては、すでに述べたように、糸、編物、織物、不織等、各種の形態をあげることができる。具体的な製品としては、例えば各種の衣料品、靴下、タイツ、スポーツウェア、アウトドア製品、寝装寝具、敷物、カーテン、屋内クロス、包帯・ガーゼ・マスク等の衛生用品等があげられる。特に、本発明の繊維構造物は、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性を備えていることから、医療施設や介護施設において繰り返し工業洗濯にかけられて使用されるリネンサプライ用品(手術着や白衣、寝間着、シーツ等)への適用が好適である。
【0057】
また、本発明に用いられる抗菌・抗かび剤(A)としては、抗菌・抗かび性能に優れ、しかも人体への安全性が高いピリジン系抗菌・抗かび剤が用いられる。このようなピリジン系抗菌・抗かび剤としては、例えば、後記の式(9)で示されるピリジン系金属錯体が好適に用いられる。すなわち、前記特許文献1にも記載のとおり、上記ピリジン系金属錯体は、有機性値/無機性値がポリエステル繊維と近いことから、これをポリエステル系繊維に固定しやすい点で好ましいからである。
【0058】
より具体的には、下記の式(9)において、金属を示す「M」がCuであるビス(2-ピリジルチオ)銅-1,1’-ジオキサイド(以下、「ピリチオン銅」という)、「M」がZnであるビス(2-ピリジルチオ)亜鉛-1,1’-ジオキサイド(以下、「ピリチオン亜鉛」という)、「M」がFeであるビス(2-ピリジルチオ)鉄-1,1’-ジオキサイド(以下、「ピリチオン鉄」という)等があげられる。ただし、上記ピリチオン鉄は、溶液が紫色を呈するため、着色が問題とならない用途に用いることが好ましい。
【0059】
【0060】
上記ピリジン系金属錯体は、水にも有機溶媒にも殆ど溶けず、しかも非常に比重が大きいことから、抗菌・抗かび処理加工時に安定した懸濁状態を保持させるために、平均粒径が0.1~0.7μmのものを用いることが好適であり、とりわけ0.3~0.5μmであることが好適である。そして、2μm以上の粒径のピリジン系金属錯体が全ピリジン系金属錯体に対し5重量%以下、好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下となるよう粉砕されていることが好適である。
【0061】
なお、上記ピリジン系金属錯体の平均粒径は、JIS R1629に準拠してレーザ回折粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布において、累積50%に相当するメジアン径として求められるものである。
【0062】
一方、上記抗菌・抗かび剤(A)とともに用いられる抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)としては、下記の第1群(b1)、第2群(b2)および第3群(b3)から選択される少なくとも一つの化合物を用いることができる。
(b1)界面活性剤からなる第1群。
(b2)有機溶媒からなる第2群。
(b3)芳香族系化合物および尿素系化合物からなる第3群。
【0063】
上記第1群(b1)の界面活性剤としては、ラウリン酸グリセリンやソルビタン脂肪酸エステル等のエステル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルやポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等のエステルエーテル型非イオン界面活性剤、ステアリン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型非イオン界面活性剤、オクチルグルコシド等のアルキルグリコシド型非イオン界面活性剤、セタノール等の高級アルコール型非イオン界面活性剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤等があげられ、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記界面活性剤のなかでも、特に、泡立ちが少なく、親水基と疎水基のバランスを取りやすいことから、非イオン界面活性剤が好ましく、特には、ピリジン系抗菌・抗かび剤固定補助剤と親和性の高い非イオン界面活性剤が好ましい。
【0065】
これらの界面活性剤を用いた場合には、界面活性剤によって繊維表面エネルギーを変えることで、ピリジン系抗菌・抗かび剤の繊維表面への親和性を上げ、選択的にピリジン系抗菌・抗かび剤(A)の繊維表面近傍における存在確率を高めることができる。そして、上記抗菌・抗かび剤(A)とともに界面活性剤が繊維の非結晶領域に浸透して、上記抗菌・抗かび剤(A)の浸透を補助する効果を発揮する。
【0066】
上記界面活性剤のなかでも、抗菌・抗かび剤(A)を繊維に固定させる効果の点から、エーテル型非イオン界面活性剤を用いることがとりわけ好ましく、なかでも、下記の式(1)または(2)で示される2種類の非イオン界面活性剤の少なくとも一つを用いることが最適である。
【0067】
【0068】
【0069】
なお、上記式(1)、(2)の化合物において、アルキル基における炭素数や、オキシアルキレンの繰り返し数nの値は、非イオン界面活性剤のHLB値を好ましい値に調節するために適宜調整される。ちなみに、上記非イオン界面活性剤のHLB値は、抗菌・抗かび剤(A)を繊維に固定させる効果の点で、6~19に設定することが好ましく、なかでも8~18に設定することがより好ましい。
【0070】
そして、上記第2群(b2)の有機溶媒としては、揮発性の低いものが望ましく、具体的には、沸点が100℃以上の低揮発性有機溶媒が好適である。そして、なかでも、150℃以上のものがより好適である。沸点が100℃未満の有機溶媒では、熱処理時に揮発して繊維内に浸透しないおそれがある。それに対し、沸点が150℃以上のものは、熱処理時にも揮発せず、繊維内に充分に浸透して効果を発揮しやすい。このような有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,3-ブチレングリコール等があげられ、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機溶媒は、抗菌・抗かび剤(A)の浸透性や、組み合わせて用いられる他の抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の運動性を高める効果がある。
【0071】
一方、上記第3群(b3)の芳香族系化合物としては、トルエンや安息香酸等の一置換芳香族単環化合物、キシレンやサリチル酸、グアイアコール(トメキシフェノール)等の二置換芳香族単環化合物、サリチル酸フェニルやo-フェニルフェノール等の芳香多環化合物、ナフタレンやアントラセン等の縮合環化合物等があげられ、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0072】
これらの芳香族系化合物は、ポリエステル繊維に浸透することで非結晶領域の鎖状分子の運動を活発にし、非結晶領域の間隙を広げることで抗菌剤等の浸透速度を促進する効果がある。
【0073】
上記芳香族系化合物のなかでも、効果の点から、とりわけ下記の式(3)~(6)で示される4種類の芳香族系化合物の少なくとも一つを用いることが最適である。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
なお、上記式(3)~(6)の化合物において、芳香環に導入される置換基の炭素数は、少なすぎるとポリエステル繊維に浸透する前に揮発するおそれがあり、多すぎるとポリエステル繊維に浸透しないおそれがあるため、通常、炭素数が1~10の範囲内にあるものが好ましく、炭素数が1~5の範囲内にあるものがより好ましい。
【0079】
また、上記第3群(b3)の尿素系化合物としては、尿素、エチレン尿素(2-イミダゾリジノン)、ジメチロールエチレン尿素、ジメチルヒドロキシエチレン尿素、ジブチルチオ尿素等があげられ、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0080】
上記尿素系化合物も、前記芳香族系化合物と同様、ポリエステル繊維に浸透することで非結晶領域の鎖状分子の運動を活発にし、非結晶領域の間隙を広げることで抗菌剤等の浸透速度を促進する効果がある。
【0081】
上記尿素系化合物のなかでも、効果の点から、とりわけ下記の式(7)、(8)で示される2種類の尿素系化合物の少なくとも一つを用いることが最適である。
【0082】
【0083】
【0084】
なお、上記式(7)、(8)の化合物において、置換基であるアルキル基の炭素数が多すぎるとポリエステル繊維に浸透しないおそれがあるため、通常、炭素数が0~10の範囲内にあるものが好ましく、炭素数が0~5の範囲内にあるものがより好ましい。
【0085】
このように、本発明に用いられる抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)は、第1群(b1)の界面活性剤、第2群(b2)の有機溶媒、第3群(b3)の芳香族系化合物および尿素系化合物から選択される少なくとも一つの化合物であり、いずれかを単独で用いてもよいが、上記三つの群から選択される少なくとも二つの化合物を組み合わせて用いる方が、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量を増大させることができ、好ましい。
【0086】
そして、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、上記三つの群から選択される少なくとも三つの化合物を組み合わせて用いる方が、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量をさらに増大させることができ、より好ましい
【0087】
また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、上記第1群(b1)の界面活性剤から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(b2)の有機溶媒から選択される少なくとも一つの化合物とを組み合わせて用いることが、効果の点で、より好ましい。
【0088】
さらに、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、上記第1群(b1)の界面活性剤から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)の芳香族系化合物および尿素系化合物から選択される少なくとも一つの化合物とを組み合わせて用いることが、効果の点で、より好ましい。
【0089】
また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、上記第2群(b2)の有機溶媒から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)の芳香族系化合物および尿素系化合物から選択される少なくとも一つの化合物とを組み合わせて用いることが、効果の点で、より好ましい。
【0090】
そして、とりわけ、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、上記第1群(b1)の界面活性剤から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第2群(b2)の有機溶媒から選択される少なくとも一つの化合物と、上記第3群(b3)の芳香族系化合物および尿素系化合物から選択される少なくとも一つの化合物をさらに組み合わせて用いることが、特に優れた効果を得る点で、好ましい。
【0091】
本発明の抗菌抗かび性繊維製品は、上記抗菌・抗かび剤(A)と、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とを用い、例えばつぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、抗菌・抗かび剤(A)を、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)と水の存在下、ボールミル、ハンマーミル等の粉砕手段によって粉砕し攪拌することにより、抗菌・抗かび剤(A)および抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の両方を含有する水性懸濁液もしくは水性乳化液からなる分散液を得る。あるいは、抗菌・抗かび剤(A)を上記と同様にして水性懸濁液にするとともに、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を水性乳化液もしくは水性可溶化液にして、処理時に混合して用いるための二液を得る。これらの液を、便宜上、「加工用準備液」という。
【0092】
そして、例えば、
図1に示すように、ポリエステル混合繊維構造物を浸漬するための処理槽1内に、水を入れた後、上記加工用準備液(一液もしくは二液)を、この水中に投入して、所定濃度の抗菌・抗かび剤(A)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有する処理用の加工液を調製する。そして、この処理槽1内に、ポリエステル混合繊維構造物2を浸漬した後、絞りロール3を通過させて軽く絞りながら引き上げ、加熱装置4に導入する。上記ポリエステル混合繊維構造物2を、この加熱装置4内において移動させながら、所定温度(例えは150℃)、所定時間(例えば2分)の加熱処理(いわゆる「パッドドライ加工」)を施す。これにより、ポリエステル繊維を含む全ての繊維に、抗菌・抗かび剤(A)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とを浸透固定させる。これにより、目的とする抗菌・抗かび性繊維構造物を得ることができる。
【0093】
もちろん、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物を得る方法は、これらの例に限らず、どのような方法によっても差し支えない。ただし、処理時の加熱温度を、例えば150℃といった低温に設定しても、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の作用によって、抗菌・抗かび剤(A)の充分な量がポリエステル繊維を含む全ての繊維に固定されることが本発明の特徴であることから、無理に高温加工を用いる必要はない。
【0094】
これは、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)がポリエステル繊維表面の抗菌・抗かび剤(A)に対する親和性を向上させ、あるいはポリエステル繊維に浸透し、ポリエステル繊維の非結晶領域の鎖状分子の運動を高め、空隙を広げることで、抗菌・抗かび剤(A)の浸透を促進し、短時間での浸透固定を可能とするからである。本発明では、このようにして抗菌・抗かび剤(A)が繊維内にしっかりと浸透固定されるため、繰り返しの洗濯によっても抗菌・抗かび剤(A)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とが脱落しにくいものである。したがって、この抗菌・抗かび性繊維構造物によれば、長期にわたって良好に抗菌・抗かび性を発揮する、優れた抗菌抗かび性繊維製品を得ることができる。ただし、ポリエステル繊維への浸透性の高い抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)は、抗菌・抗かび剤(A)に比べ、洗濯によって脱落しやすい。
【0095】
本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物における抗菌・抗かび剤(A)の含有量は、繊維構造物の形態や処理温度にもよるが、実用的な抗菌・抗かび性能を得るには、製品として仕上げられた段階、すなわち未洗濯の状態で、通常、繊維構造物全体に対し200~20000mg/kgであることか好ましく、なかでも、200~600mg/kgであることがより好適である。
【0096】
また、上記抗菌・抗かび剤(A)とともに用いられる抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の含有量も、繊維構造物の形態や処理温度にもよるが、製品として仕上げられた段階、すなわち未洗濯の状態で、通常、繊維構造物全体に対し1~500mg/kgであることが好ましく、なかでも、第1群(b1)の化合物は、1~100mg/kgであることがより好適であり、1~50mg/kgであることがさらに好適である。また、第2群(b2)および第3群(b3)の化合物は、10~500mg/kgであることがより好適であり、10~100mg/kgであることがさらに好適である。
【0097】
このように、同じ抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)であっても、第1群(b1)と、第2群(b2)および第3群(b3)とで好適な含有量に差があるのは、第1群(b1)の化合物が、主にポリエステル繊維外で働き、ポリエステル繊維内では抗菌・抗かび剤(A)の先導として出入りすることからポリエステル繊維内には比較的低濃度で活性を示すのに対し、第2群(b2)および第3群(b3)の化合物は、ポリエステル繊維内に入ることでポリエステル繊維の運動性および膨張に寄与するため、比較的高濃度でポリエステル繊維内に固定されやすいことによるものである。
【0098】
なお、本発明の抗菌・抗かび性繊維構造物を製造する方法において、抗菌・抗かび剤(A)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)とを含有する加工液を調製するにあたり、そのための加工用準備液を長期にわたって安定に保ち、繊維に対する抗菌・抗かび剤(A)の固定率を向上させるには、上記加工用準備液のpHを、通常、pHを4~10の間、好ましくは5.5~8.5、より好ましくは6~8の間に調整することが好適である。上記加工用準備液が上記範囲よりもアルカリ側にある場合には、酢酸、塩酸、リン酸等の酸を添加し、酸性側にある場合には、炭酸ナリトウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加すればよい。
【0099】
そして、上記加工用準備液もしくは加工液には、さらに、必要に応じて任意の添加物を配合することができる。例えば、有機溶媒(抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として用いられる有機溶媒とは異なる、例えば沸点が100℃未満の高揮発性有機溶媒である)、増粘剤、凍結防止剤、防汚剤、柔軟剤、防炎剤、難燃剤、防虫剤、帯電防止剤、UVカット剤等があげられる。
【0100】
上記有機溶媒(高揮発性有機溶媒)としては、例えば、沸点が100℃未満のアルコール類等があげられる。これらは、水に対する難溶性成分を可溶化させるために用いられるが、最終製品からは揮発して残留することがない。
【0101】
さらに、上記増粘剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、酢酸デンプン等があげられ、上記凍結防止剤としては、グリセリン、酢酸カリウム等があげられる。
【0102】
なお、本発明に用いられる抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が特にその効果を発揮する加工温度は、すでに述べたとおり、比較的低温でよく、通常、160℃以下、なかでも、120~150℃であることが好適であり、加工時間は、10秒以上10分未満、なかでも30秒~5分に設定することが好適である。
【0103】
すなわち、加工温度が120℃よりも低いと抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量が少なすぎて抗菌・抗かび性が不充分になるおそれがあり、160℃より高いと、ポリエステル混合繊維の効果や溶解等の不具合が発生するおそれがある。また、加工時間が10秒未満では、ポリエステル混合繊維に充分に熱が伝わらず抗菌・抗かび剤(A)がポリエステル混合繊維に充分に浸透しないおそれがあり、10分以上では耐熱性の低い繊維が硬化する等のリスクが高くなる上、加工効率が悪くなって好ましくない。
【実施例】
【0104】
つぎに、本発明の実施例を、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
まず、抗菌・抗かび剤(A)としてピリチオン亜鉛を準備し、以下に示すようにして、抗菌・抗かび剤(A)のみが分散含有された加工用準備液X(水性懸濁液)を調製した。また、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)のみを含有した加工用準備液Y(水溶液または乳化液)を、以下に示すようにして調整した。そして、上記加工用準備液Xおよび加工用準備液Yを水によって適宜希釈し、ピリチオン亜鉛を繊維に浸透固定させるための加工液として用いた。
【0106】
<加工用準備液Xの調製>
ピリチオン亜鉛(ロンザジャパン社製、粉末状態、粒径ほぼ0.025mm、「ZPT」と略す場合がある)を20重量部、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(分散剤)を3重量部、ポリアクリル酸ナトリウム(増粘剤)を0.5重量部、グリセリン(凍結防止剤)を2重量部、水を74.5重量部用意し、ボールミル(ガラス製ボール使用)に仕込み、粉砕を行った。粉砕開始時点の液のpHは6.5であったが、12時間粉砕した後のpHは10.5となった。この時点で、pHを調節するため酢酸を添加し、pHを8.0に調節して、加工用準備液Xを得た。得られた加工用準備液X中のピリチオン亜鉛の平均粒径は0.4μmで、2μm以上の粒径のピリチオン亜鉛に対し0.5%であった。また、上記加工用準備液X中のピリチオン亜鉛濃度は20重量%であり、均一な分散状態を示した。この加工用準備液Xの一部を1リットルの容器に移し、24時間放置したが、極端な分離は認められなかった。
【0107】
<加工用準備液Yの調製>
以下に示す抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を後に示す表1~表7の組成になるように配合し、水に対して希釈可能な加工用準備液Yを調整した。
【0108】
そして、上記加工用準備液X、Yを用いて、後記の表1~表7に示す組成の処理加工液を調製した。上記処理加工液に含有される各成分、加工の対象とする各繊維の詳細は、以下に示すとおりである。
【0109】
<抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)>
第1群(b1)
界面活性剤1:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C12-13 HLB14.0)、日本乳化剤社製
界面活性剤2:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C18 HLB17.4)、日本乳化剤社製
界面活性剤3:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C8 HLB7.9)、日本乳化剤社製
界面活性剤4:ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル(HLB13.6)、日本乳化剤社製
界面活性剤5:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(HLB13.7)日本乳化剤社製
界面活性剤6:ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル(HLB13.3)日本乳化剤社製
第2群(b2)
有機溶媒1 :1-メチル-2-ピロリドン(和光純薬社製)
有機溶媒2 :1,3-ブチレングリコール(日本乳化剤社製)
第3群(b3)
芳香族系化合物1:安息香酸(和光純薬社製)
芳香族系化合物2:安息香酸ナトリウム(和光純薬社製)
芳香族系化合物3:グアイアコール(和光純薬社製)
芳香族系化合物4:オルトフェニルフェノール(和光純薬社製)
尿素系化合物1 :尿素(和光純薬社製)
尿素系化合物2 :エチレン尿素(和光純薬社製)
【0110】
<加工繊維>
繊維1 :ポリエステル混合繊維(ポリエステル/ポリウレタン=97/3)
繊維2 :ポリエステル混合繊維(ポリエステル/綿=65/35)
繊維3 :ポリエステル混合繊維(ポリエステル/ポリアミド=85/15)
【0111】
また、加工処理によって得られた実施例品、比較例品に対し、以下の項目について、各項目に述べる手順に従って分析、評価を行った。
【0112】
<抗菌・抗かび剤(A)の含有量の分析>
得られた処理品(実施例品、比較例品、以下同じ)0.1gを灰化した後、塩酸にて亜鉛を抽出し、原子吸光法により、繊維中のピリチオン亜鉛に由来する亜鉛の量を測定した。この亜鉛の量から、ピリチオン亜鉛含有量を算出した。
【0113】
<抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の含有量の分析>
抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が界面活性剤の場合、得られた処理品30gを水150mlに入れ、130℃で30分抽出し、LC-MS/MS分析法により、繊維中の界面活性剤の含有量を測定した。
また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が有機溶媒、芳香族系化合物および尿素系化合物の場合、得られた処理品1gをテトラクロロエタン10gに入れ、80℃で3時間抽出し、GC法により、繊維中の化合物の含有量を測定した。
【0114】
<抗菌性1、2の評価>
JIS L1902に準拠する方法に従い、抗菌性1の評価では、試験菌種として「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」を用い、抗菌性2の評価では、試験菌種として「肺炎かん菌(Klebsiella pneumoniae)」を用いて評価した。すなわち、まず、標準布(抗菌活性を示さない綿布)および得られた処理繊維生地のそれぞれに接種し、37℃で18~24時間培養後に各生地の生菌数を測定した。得られた各生菌数から以下に示す計算で抗菌活性値を算出した。
【0115】
抗菌活性値=(LogCt-LogCo)-(LogTt-LogTo)
標準生地の増殖値=(LogCt-LogCo)
LogCo:標準生地の試験菌接種直後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogCt:標準生地の18時間培養後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogTo:処理繊維生地の試験菌接種直後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
LogTt:処理繊維生地の18時間培養後の3検体の生菌数の算術平均の常用対数
【0116】
そして、上記抗菌活性値が「標準布の増殖値」以上の場合を「○(非常に有効)」、同じく抗菌活性値が「標準布の増殖値」未満で「2.2」以上のものを「△(有効)」、同じく抗菌活性値が「2.2」未満のものを「×(無効)」とした。この評価方法は、一般財団法人繊維評価技術協議会の「SEKマーク繊維製品認証基準」に準じた。そして、後述の洗濯方法に従って洗濯した処理品(洗濯後)についても、同様にして抗菌性1、2を評価した。
【0117】
<抗かび性の評価>
JIS L1921に準拠する方法に従い、試験菌種として「白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)」を用い、菌体内に含まれるATP量の測定によって評価した。すなわち、まず、上記試験菌種の胞子が懸濁した液体培地を、得られた処理品に接種して25℃で42時間培養した。そして、培養後のATP量を測定し、未処理綿繊維の同様の試験値(ATP量)との対比を抗かび活性値として、その抗かび活性値が未処理綿繊維の増殖値の1000分の1を表す「3」以上減少している場合を「○(非常に有効)」、同じく未処理綿繊維の増殖値の100分の1を表す「2」以上、「3」未満の減少の場合を「△(有効)」とした。また、上記抗かび活性値が「2未満」である場合を「×(無効)」とした。そして、抗菌性1、2の評価と同様、洗濯した処理品(洗濯後)についても、同様にして抗かび性を評価した。
【0118】
<洗濯方法>
(一般社団法人)繊維評価技術協議会が規定する「SEKマーク繊維製品の洗濯方法(高温加速洗濯)」に準拠する方法により、洗濯50回を実施した。
【0119】
<抗菌・抗かび剤(A)の固定量増加率>
抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)によって繊維内に固定化された抗菌・抗かび剤(A)の増加率(%)(表では単に「増加率」と表示)を、以下の方法で算出した。
増加率=([抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を添加して処理した繊維中のZPT量]÷[抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を無添加で処理した繊維中のZPT量])×100
【0120】
[実施例1]
ピリチオン亜鉛0.2重量%、上記界面活性剤1、界面活性剤2、有機溶媒2、芳香族化合物1をそれぞれ1重量%配合した加工液に上記繊維1を用いた生地を浸漬し、繊維重量当たり加工液が50%になるようにローラー絞り機で絞った後、ピンテンター(辻井染機社製、PT-2A、以下同じ)を用いて150℃で2分間熱処理後、繊維表面の余分な成分を除去するため洗濯機でオーバーフロー5分間水洗後、1晩風乾することにより、目的とする処理品を得た。
【0121】
[比較例1]
ピリチオン亜鉛0.2重量%を配合した加工液に上記繊維1を浸漬し、繊維重量当たり加工液が50%になるようにローラー絞り機で絞った後、ピンテンターを用いて150℃で2分間熱処理後、繊維表面の余分な成分を除去するため洗濯機でオーバーフロー5分間水洗後、1晩風乾することにより、目的とする処理品を得た。
【0122】
これらの実施例1品、比較例1品について、前述のとおり分析、評価を行い、それらの結果を、加工液の組成とともに、下記の表1に示す。
【0123】
【0124】
上記の結果から、実施例1品は、繊維内に、それぞれ抗菌・抗かび剤(A)と抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)(b1~b3)とが浸透固定されており、洗濯耐久性に優れた抗菌・抗かび性が付与されていることがわかる。一方、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)が配合されていない比較例1品は、抗菌・抗かび剤(A)の固定量が少ないことがわかる。
【0125】
[比較例2、3]
加工液の組成、繊維の種類を、以下の表2に示すように変えた。それ以外は比較例1と同様にして、目的とする処理品を得た。そして、これらの比較例2、3品について、前述のとおり分析、評価を行い、それらの結果を、加工液の組成等とともに、下記の表2に併せて示す。
【0126】
【0127】
上記の結果から、繊維の種類を変えた引例2、3では、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を用いていないため、ピリチオン亜鉛を効果的に固定することができないことがわかる。
【0128】
[実施例2~7]
加工液の組成を、以下の表3に示すように変えた。それ以外は実施例1と同様にして、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例2~7品について、前述のとおり分析、評価を行い、それらの結果を、処理加工液の組成とともに、下記の表3に併せて示す。ただし、抗菌・抗かび剤(A)であるピリチオン亜鉛が充分な量だけ固定されていることから、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)も充分な量だけ固定されていることは明らかであり、その分析結果についてはデータの記載を省略する。
【0129】
【0130】
上記の結果から、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の(b1)~(b3)のいずれかを単独で含有する実施例2~7品では、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量が、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しないもの(比較例1)に比べて約30%~50%増加していることがわかる。
【0131】
[実施例8~14]
加工液の組成を、以下の表4、表5に示すように変えた。それ以外は実施例1と同様にして、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例8~14品について、前述のとおり分析、評価を行い、それらの結果を、処理加工液の組成とともに、下記の表4、表5に併せて示す。なお、表3の場合と同じく、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の分析結果についてはデータの記載を省略する。
【0132】
【0133】
【0134】
上記の結果から、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、(b1)および(b2)の化合物から選択される1種類の界面活性剤と1種類の有機溶媒を組み合わせて用いた実施例8、9品は、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量が、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しない比較例1品に比べて60%~70%増加していることがわかる。また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として(b1)および(b2)の化合物から選択される2種類の界面活性剤と1種類の有機溶媒を組み合わせて用いた実施例10~12品は、抗菌・抗かびビ剤(A)の浸透固定量が、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しない比較例1品に比べて80%~100%増加していることがわかる。
【0135】
また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、(b1)および(b2)の化合物から選択される2種類の界面活性剤と2種類の有機溶媒を組み合わせて用いた実施例13品は、抗菌・抗かびビ剤(A)の浸透固定量が、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しない比較例1品に比べて97%増加していることがわかる。そして、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の総添加量を実施例13の1/4にした実施例14品も、抗菌・抗かびビ剤(A)の浸透固定量が、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しない比較例1品に比べて65%増加していることがわかる。
【0136】
[実施例15~22]
加工液の組成と繊維の種類を、以下の表6、表7に示すように変えた。それ以外は実施例1と同様にして、目的とする処理品を得た。そして、これらの実施例15~22品について、前述のとおり分析、評価を行い、それらの結果を、処理加工液の組成とともに、下記の表6、表7に併せて示す。なお、表3~表5の場合と同じく、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)の分析結果についてはデータの記載を省略する。
【0137】
【0138】
【0139】
上記の結果から、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、(b1)の化合物から選択される1種類の界面活性剤と、(b3)の化合物から選択される1種類の尿素系化合物とを組み合わせて用いた実施例15品は、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量が、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しない比較例1品に比べて50%以上増加していることがわかる。
【0140】
また、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、(b2)の化合物から選択される1種類の有機溶媒と、(b3)の化合物から選択される1種類の尿素系化合物とを組み合わせて用いた実施例16品は、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量も、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しない比較例1品に比べて50%以上増加していることがわかる。
【0141】
そして、上記実施例17~20のように、特に、上記抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、(b1)の化合物から選択される少なくとも1種類の化合物、(b2)の化合物から選択される少なくとも1種類の化合物及び(b3)から選択される少なくとも1種類の化合物を組み合わせて用いたものは、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量が、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しない比較例1品に比べて60%~120%増加していることがわかる。
【0142】
さらに、実施例21、22のように、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)として、(b1)、(b2)、(b3)の化合物をそれぞれ含む4種類の化合物を組み合わせて用いたものは、繊維2および3においても、抗菌・抗かび剤(A)の浸透固定量が、抗菌・抗かび剤固定補助剤(B)を含有しない比較例2、3に比べて60%~140%増加していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、抗菌・抗かび性を有し、その抗菌・抗かび性が洗濯耐久性に優れているポリエステル系繊維からなる繊維構造物に利用することができる。