(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】建物の天井構造
(51)【国際特許分類】
E04B 9/00 20060101AFI20220517BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
E04B9/00 A
E04B1/82 V
E04B1/82 C
(21)【出願番号】P 2018119846
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2021-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼掲載年月日 平成30年5月17日 ▲2▼掲載アドレス https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000966.000002296.html ▲3▼公開者 大和ハウス工業株式会社 ▲4▼掲載された内容 住宅メーカー初 高遮音床仕様「サイレントハイブリッドスラブ50」が品確法の「重量床衝撃音対策等級」において国土交通大臣の特別評価方法認定「等級5(最高等級、LH-50等級)」を取得
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】玄 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】土肥 政男
(72)【発明者】
【氏名】塩川 君彦
(72)【発明者】
【氏名】島田 伸也
(72)【発明者】
【氏名】城本 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 道雄
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147871(JP,A)
【文献】特開2011-179277(JP,A)
【文献】特開平7-34592(JP,A)
【文献】特開平9-123326(JP,A)
【文献】実開昭60-173319(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/00
E04B 1/62 - 1/99
E04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外枠の内側が補強部材によって複数領域に区画された天井下地パネルと、上記天井下地パネルの上記外枠および上記補強部材に固定されることで複数の振動領域に区画されたボードとを備える建物の天井構造であって、上記区画内に遮音マットが上記ボードと一体的に振動するように設けられていることを特徴とする建物の天井構造。
【請求項2】
請求項1に記載の建物の天井構造において、上記遮音マットの比重が2以上であることを特徴とする建物の天井構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の建物の天井構造において、上記遮音マットは、アスファルトと酸化鉄と炭酸カルシウムとを含有することを特徴とする建物の天井構造。
【請求項4】
請求項3に記載の建物の天井構造において、上記アスファルトと上記酸化鉄と上記炭酸カルシウムのなかで上記アスファルトの配合比が最も少ないことを特徴とする建物の天井構造。
【請求項5】
請求項4に記載の建物の天井構造において、上記アスファルトの配合比が5~25重量パーセント、上記酸化鉄の配合比が35~65重量パーセント、上記炭酸カルシウムの配合比が25~45重量パーセントであることを特徴とする建物の天井構造。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の建物の天井構造において、上記区画の面積と上記遮音マットの面積の比をx:kxとするとき、1/5<k<1の条件を満たすことを特徴とする建物の天井構造。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の建物の天井構造において、上記遮音マットの厚さが4mm以上10mm以下であることを特徴とする建物の天井構造。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の建物の天井構造において、上記外枠が建物の梁にて支持されていることを特徴とする建物の天井構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遮音性能に優れた建物の天井構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外枠内に十字形状補強部が設けられた天井下地パネルと、上記十字形状補強部の交差部に設けられた衝撃音低減ダンパーと、上記天井下地パネルに固定された石こうボードとを備えることで遮音性を向上させた天井構造が開示されている。また、遮音性に優れた天井構造として、遮音マットを石こうボード全体にベタ貼りする構造が考えられる。さらには、上記石こうボードの厚さを厚くしたり枚数を増やすことも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載の天井構造は、衝撃音低減ダンパーを備える構造であるため、遮音性能に優れるものの、上記ダンパーの設計および施工が複雑になり、コストも増大するという欠点がある。また、遮音マットを石こうボード全体にベタ貼りする構造では、石こうボードがその全体で振動しやすくなるため、低周波数の振動に対しては、遮音効果が十分に期待できない。また、上記石こうボードの厚さを増す等の構造では、天井面の剛性が高くなって放射音を発する面積が大きくなるため、この場合も低周波数の振動に対する遮音効果が十分に期待できない。
【0005】
この発明は、遮音マットを石こうボード全体にベタ貼りする構造や上記石こうボードの厚さを増す等の構造における遮音効果よりも高い遮音効果が得られる建物の天井構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の建物の天井構造は、上記の課題を解決するために、外枠の内側が補強部材によって複数領域に区画された天井下地パネルと、上記天井下地パネルの上記外枠および上記補強部材に固定されることで複数の振動領域に区画されたボードとを備える建物の天井構造であって、上記区画内に遮音マットが上記ボードと一体的に振動するように設けられていることを特徴とする。
【0007】
上記の構成であれば、上記ボードは、その全体ではなく、上記複数の区画で独立して振動することができる。そして、上記区画内に上記遮音マットが配置されており、上記遮音マットは上記ボードのような剛性を有しないため、上記ボードの各区画が独立して振動する際に、上記遮音マットが他の遮音マットと互いに独立して挙動することができ、遮音マットをボード全体にベタ貼りする構造や、ボードの厚さを増す構造に比べ、特に低周波数について、天井面の放射音を抑制できるようになる。また、衝撃音低減ダンパーを用いる構造に比べてコスト増大も回避できる。
【0008】
上記遮音マットの比重が2以上であってもよい。これによれば、上記区画における上記遮音マットによる上記ボードに対する制振作用を高めることが可能になる。
【0009】
上記遮音マットは、アスファルトと酸化鉄と炭酸カルシウムとを含有していてもよい。また、上記アスファルトと上記酸化鉄と上記炭酸カルシウムのなかで上記アスファルトの配合比が最も少なくされていてもよく、これによれば、遮音マットの比重を極力高くすることができる。また、上記アスファルトの配合比を5~25重量パーセント、上記酸化鉄の配合比を35~65重量パーセント、上記炭酸カルシウムの配合比を25~45重量パーセントとしてもよい。
【0010】
上記区画の面積と上記遮音マットの面積の比をx:kxとするとき、1/5<k<1の条件を満たしてもよい。また、上記遮音マットの厚さが4mm以上10mm以下であってもよい。これらによれば、上記区画における上記遮音マットによる上記ボードに対する制振作用を高めることが可能になる。
【0011】
上記外枠が建物の梁にて支持されていてもよい。このような構造では、上記ボード全体による大きな面積で振動しがちとなるが、上記のように複数の区画で独立して振動させることで、高い遮音効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明であれば、衝撃音低減ダンパーを用いることによるコスト増大を回避し、また、遮音マットを石こうボード全体にベタ貼りする構造や上記石こうボードの厚さを増す等の構造における遮音効果よりも高い遮音効果が得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施形態の建物の天井構造の概略を示した斜視図である。
【
図2】
図1の天井構造および床構造の概略を示した断面図である。
【
図3】
図1の天井構造および床構造の概略を立体的に示した説明図である。
【
図4】この発明の実施形態の建物の天井構造における重量床衝撃音レベルの測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、この実施形態の建物の天井構造1は、天井下地パネル2と、2枚の強化石こうボード3とを備えている。一例として、上記天井下地パネル2および強化石こうボード3の長辺は、略1820mmとされ、短辺は略910mmとされる。
【0015】
上記天井下地パネル2は、長方形状の外枠2aの内側が補強部材2bによって矩形状に複数領域(この例では8個)に区画されている。特に、この例では、各領域は略正方形状を有している。そして、建物の梁4となるH形鋼の下側フランジには複数の吊り金具41が取り付けられており、上記吊り金具41によって上記天井下地パネル2が吊り支持されている。
【0016】
上記強化石こうボード3は、上記天井下地パネル2の下面側に固定されている。この固定は、現場において、上記梁4に固定した上記天井下地パネル2の下側に上記強化石こうボード3を押し当てて、この強化化石こうボード3の下面側からビス等を上記天井下地パネル2に打ち込むことで行うことができる。このように、上記天井下地パネル2の上記外枠2aおよび上記補強部材2bに上記強化石こうボード3が固定されることで、当該強化石こうボード3において振動領域が複数に区画されることになる。この例では、各強化石こうボード3の振動領域は、上記外枠2aおよび補強部材2bによって8個に区画されるが、このような8区画に限定されるものではない。
【0017】
一方、上記梁4の上フランジ上には、
図2および
図3に示すように、建物の床7が作製される。この床7においては、上記梁4の上フランジ上に防振ゴム71を介在させた状態でプレキャストコンクリート版72が載せ置かれている。上記プレキャストコンクリート版72は、図示しない固定金具によって、上記梁4に押し付けられるように固定されている。また、上記プレキャストコンクリート版72の上面側には等間隔で複数のリブ部72aが形成されている。上記リブ部72a上には防振ゴム73を介してケイ酸カルシウム板74が配置され、さらに、上記ケイ酸カルシウム板74上に制振マット75およびフローリング76が配置されている。
【0018】
そして、上記天井構造1においては、遮音マット5が、上記複数の区画内の各々に、上記強化石こうボード3と一体的に振動するように設けられている。例えば、接着剤、両面テープ、或いは遮音マットの自己接着を用いて上記遮音マット5を上記強化石こうボード3に接着させてこれと一体化することができる。また、上記天井下地パネル2上および上記強化石こうボード3上にはロックウール吸音材6が設けられている。なお、例えば、上側に位置する強化石こうボード3の上面に上記遮音マット5を予め接着配置しておき、この遮音マット5が接着済の強化石こうボード3を、上記梁4に固定した上記天井下地パネル2の下側に押し当てて固定する施工法を用いることができる。
【0019】
上記遮音マット5は、一例として、アスファルトと酸化鉄と炭酸カルシウムとを含有しており、これらの材料のなかで上記アスファルトの配合比を最も少なくされている。遮音性能の検証に使用した遮音マット5の配合比については、上記アスファルトが15重量パーセント、上記酸化鉄が50重量パーセント、上記炭酸カルシウムが35重量パーセントであり、比重は2.5であった。また、使用した遮音マット5の厚さは6mmであった。また、使用した遮音マット5は、その縁が上記外枠2aおよび上記補強部材2bに接触しない大きさとされ、具体的には、227.5mm角であった。また、上記遮音マット5を両面テープによって強化石こうボード3に貼り付けて一体化した。
【0020】
上記遮音性能の検証では、以下の条件を採用した。
・床版:プレキャストコンクリート版72(固定金具締め付けトルク12.5N)
・緩衝材:梁4上の防振ゴム71(幅30w×長さ186mm、厚さ19mm)
・床構成:リブ部72a上の防振ゴム73(厚さ5mm)/ケイ酸カルシウム板74(厚さ9mm)/制振マット75(比重3.0、厚さ8mm)/フローリング76(厚さ12mm)
・天井構成:ロックウール吸音材6(30K、厚さ55mm)/天井下地パネル2/強化石こうボード
・音源室:2階6畳
・測定項目:重量床衝撃音レベル(LH)
・試験内容:(1)ベンチマーク:天井において、強化石こうボードとして12.5mm厚のものを2層貼りした。
(2)天井において、強化石こうボード3として12.5mm厚のものを2層貼りし、さらに遮音マット5(厚さ6mm、比重2.5、大きさ227.5mm角)を455mmピッチで設けた。
(3)天井において、強化石こうボードとして15mm厚のものを2層貼りした。
・測定方法:JIS-A-1418「建築物の床衝撃音遮音性能の測定方法」に準じた。タイヤ落下5回のLmax(重量床衝撃音レベル)/受音点高さは80、100、120、140、160cm
・評価方法:JIS-A-1419-2「建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法―第2部:床衝撃音遮音性能」に準じた。
【0021】
上記遮音性能の検証結果を表1および
図4のグラフに示す。
【0022】
【0023】
上記表1および
図4のグラフから分かるように、重量床衝撃音レベル(LH)において、(3)の強化石こうボードの厚さを厚くした構成は、(1)のベンチマークとの比較では、0.9dBの差がみられ、また、(2)の遮音マット5を点在的に備える構造は、(1)のベンチマークとの比較では、2.0dBの差がみられた。すなわち、(2)の遮音マット5を点在的に備える構造は、(3)の強化石こうボードの厚さを厚くした構成に比べて、重量床衝撃音レベル(LH)において、1.1dBも改善されたものとなった。
【0024】
上記強化石こうボード3は、その全体ではなく、上記複数の区画で独立して振動することができる。そして、各区画領域に上記遮音マット5が配置されており、各遮音マット5は上記強化石こうボード3のような剛性を有しないため、上記強化石こうボード3の各区画が独立して振動する際に、上記遮音マット5が他の遮音マットと互いに独立して挙動することができ、遮音マットを強化石こうボード全体にベタ貼りする構造や、強化石こうボードの厚さを増す構造に比べ、特に低周波数について、天井面の放射音を抑制できるようになる。また、衝撃音低減ダンパーを用いる構造に比べてコスト増大も回避できる。
【0025】
なお、遮音マットを強化石こうボード全体にベタ貼りする構造は、低音に対しては、強化石こうボード全体の厚さを増したり枚数を増やしたりすることに近似すると考えられる。すなわち、遮音マットを強化石こうボード全体にベタ貼りする構造の遮音性能は、(3)の強化石こうボードの厚さを厚くした構成の遮音性能と同等のものとなると考えられる。ここに、(1)のベンチマークに対して、仮に天井重量を同じ重量だけ増加させるとした場合、(3)の強化石こうボードの厚さを厚くして重量を増加するよりも、(2)の遮音マット5の点在配置で重量を増加させるほうが、より優れた遮音性能が得られると言うことができ、また、(2)の遮音マット5の点在配置は、遮音マットを強化石こうボード全体にベタ貼りする場合の重量増加に比べ、より小さな重量増加で、高い遮音性能を得ることができると言える。
【0026】
上記遮音マット5の比重が2以上であると、上記遮音マット5が適切な重量で各々の振動区画における上記遮音マット5の制振作用を高めることができる。上記遮音マット5の比重の上限は、3.5以下としてもよい。
【0027】
上記遮音マット5が、上記のように、アスファルトと酸化鉄と炭酸カルシウムとを含有する場合において、これらの材料の中で上記アスファルトの配合比が最も少なくされていると、遮音マット5の比重を極力高くすることが容易になる。例えば、上記アスファルトの配合比を5~25重量パーセント、上記酸化鉄の配合比を35~65重量パーセント、上記炭酸カルシウムの配合比を25~45重量パーセントとしてもよく、望ましくは、上記アスファルトの配合比が10~20重量パーセント、上記酸化鉄の配合比が40~60重量パーセント、上記炭酸カルシウムの配合比が30~40重量パーセントであるのがよい。なお、上記遮音マット5の材料配合において、ゴム材料の配合量を0としたが、これに限らず、ゴム材料の配合比を0~10重量パーセントとするようにしてもよい。もちろん、他の材料が添加されていてもよいものである。また、上記遮音マット5の表面が不織布の被覆材で被覆されていてもよく、これによれば、上記遮音マット5の既定の大きさへの切り出し加工等が容易になる。
【0028】
また、上記区画の面積と上記遮音マット5の面積の比をx:kxとするとき、1/5<k<1の条件を満たしてもよい。また、上記遮音マット5の厚さが4mm以上10mm以下であってもよい。これらによれば、各々の振動区画における上記遮音マット5による上記強化石こうボード3に対する制振作用を高めることが可能になる。
【0029】
また、上記外枠2aが建物の梁4にて支持される構造であると、上記強化石こうボード3の全体による大きな面積で振動しがちとなるが、上記のように複数の区画で独立して振動させることで、高い遮音効果を得ることができる。
【0030】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 :天井構造
2 :天井下地パネル
2a :外枠
2b :補強部材
3 :強化石こうボード(ボード)
4 :梁
5 :遮音マット
6 :ロックウール吸音材
7 :床
41 :吊り金具
71 :防振ゴム
72 :プレキャストコンクリート版
72a :リブ部
73 :防振ゴム
74 :ケイ酸カルシウム板
75 :制振マット
76 :フローリング