(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】路面切削車両の故障診断装置及び故障診断方法
(51)【国際特許分類】
E01C 23/12 20060101AFI20220517BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
E01C23/12 B
G01M17/007 Z
(21)【出願番号】P 2018233203
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000182384
【氏名又は名称】酒井重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】森綱 真一
(72)【発明者】
【氏名】及川 理
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸之介
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-050415(JP,A)
【文献】特開2008-002075(JP,A)
【文献】特開2012-025521(JP,A)
【文献】特開平06-010748(JP,A)
【文献】特開平04-353131(JP,A)
【文献】特開昭60-088883(JP,A)
【文献】実開平02-101850(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 23/12
G01M 17/007
J-STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、上記エンジンで駆動される切削用の油圧ポンプと、上記油圧ポンプで駆動される切削用の油圧モータと、上記油圧モータで回転駆動される切削用ドラムと、を備える路面切削車両の故障診断装置であって、
上記エンジンの回転数に基づき、上記切削用ドラムの回転数の理論値を演算するドラム回転数演算部と、
上記切削用ドラムの回転数を測定するドラム回転数測定部と、
上記ドラム回転数演算部が演算した上記切削用ドラムの回転数の理論値と上記ドラム回転数測定部が測定した上記切削用ドラムの回転数とに基づき、上記切削用ドラムの回転数の理論値を演算する際に使用したエンジンの回転数における上記油圧モータの効率を演算する効率演算部と、
上記効率演算部が演算した複数の効率のデータから、故障診断用の評価データを求める評価データ演算部と、
上記評価データ演算部が求めた評価データを蓄積するデータ蓄積部と、
上記データ蓄積部に蓄積されている評価データの経時的な変化に基づき、駆動系の劣化度を判断する診断部と、
を備えることを特徴とする路面切削車両の故障診断装置。
【請求項2】
上記評価データ演算部は、上記複数の効率のデータから各エンジン回転数での効率の最低値をそれぞれ求め、その求めた各エンジン回転数での効率の最低値で表現される境界線に基づき、上記評価データを求めることを特徴とする請求項1に記載した路面切削車両の故障診断装置。
【請求項3】
上記評価データ演算部は、エンジン回転数の変化に対する上記油圧モータの効率の変化である効率変化から、上記評価データを決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した路面切削車両の故障診断装置。
【請求項4】
上記評価データ演算部は、上記複数の効率のデータのうち、上記エンジンの回転数が予め設定した設定回転数での効率の最低値から、故障診断用の上記評価データを決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した路面切削車両の故障診断装置。
【請求項5】
上記ドラム回転数演算部で使用するエンジンの回転数は、上記油圧モータに供給される油圧の値から演算した値であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した路面切削車両の故障診断装置。
【請求項6】
上記診断部は、予め設定した基準データに対する、蓄積されている評価データの変化に基づき劣化度を求めることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載した路面切削車両の故障診断装置。
【請求項7】
上記評価データ演算部が演算した評価データを上記データ蓄積部に無線送信する送信部を備え、
上記データ蓄積部と上記診断部が、対象とする路面切削車両の外部に存在するサーバーに設けられていることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載した路面切削車両の故障診断装置。
【請求項8】
上記効率演算部で用いる上記切削用ドラムの回転数の理論値は、上記切削用ドラムで路面切削作業中であって、上記切削用ドラムの切削状態が定常状態と判定されるときに取得したエンジンの回転数を使用して上記ドラム回転数演算部が求めた値とすることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか1項に記載した路面切削車両の故障診断装置。
【請求項9】
エンジンで駆動される切削用の油圧ポンプで切削用の油圧モータが駆動され、上記油圧モータで切削用ドラムが回転駆動される路面切削車両の故障診断方法であって、
上記切削用ドラムでの路面切削作業中に、同期をとって、上記エンジンの回転数と上記切削用ドラムの回転数をそれぞれ測定し、測定したエンジンの回転数及び上記切削用ドラムの回転数とから上記油圧モータの効率のデータを演算する処理を複数実施して、複数の効率のデータを取得し、
その取得した複数の効率のデータから故障診断用の評価データを求めることを繰り返し、上記評価データの経時的な変化に基づき駆動系の劣化度を判断することを特徴とする路面切削車両の故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面切削車両における駆動系の故障診断の技術に係る。特に、切削用ドラムを駆動するためのエンジンや油圧モータ、特に油圧モータに対する未然の故障診断が可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、道路や橋梁路面などのアスファルト舗装は、車両走行などによって、経時的にわだち掘れやひび割れなどの劣化が生ずる。このため、例えば夜間などの交通量の少ない時間帯を利用して、定期的にあるいは随時その路面の修繕工事が行われている。
このように路面の修繕では、ロードカッターなどと称される専用の路面切削車両に搭載された路面切削装置によって、路面の表層部分を切削除去する。その後、必要に応じて適宜、その切削路面上に新しいアスファルト合材などによって路面を再舗装する。
【0003】
このような用途の路面切削車両は、例えば、特許文献1などに記載の構造となっている。すなわち、この路面切削車両は、走行用の前後輪で自走可能になっていると共に、車体に対し昇降可能に設けられた切削用ドラム(路面切削機)で路面を切削可能となっている。そして、路面切削車両は、自走しながら切削用ドラムによって路面を削り取る(はつる)と共に、削り取った切削廃材を、搬送コンベアによって車体前方などに連続して搬送する。
【0004】
切削用ドラムは、機枠に回転自在に支持されていると共に油圧モータによって回転駆動される。
また、通常、エンジンのトルクの一部が切削用の油圧ポンプに分配され、その油圧ポンプによって駆動される油圧モータによって切削用ドラムが回転駆動される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の路面切削車両にあっては、通常、ポンプやモータが故障しマシンダウンしてから切削用の駆動系の故障が発覚するということが多い。マシンダウン直前まで、切削の作業能率が落ちていないことも多く、また、定期メンテナンスなどの整備中であっても、駆動系の劣化、特に油圧系の劣化に気づかないことも多かった。
本発明は、上記のような点に着目してなされもので、切削用の駆動系の劣化状況を未然に診断可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するために、本発明の一態様は、エンジンと、上記エンジンで駆動される切削用の油圧ポンプと、上記油圧ポンプで駆動される切削用の油圧モータと、上記油圧モータで回転駆動される切削用ドラムと、を備える路面切削車両の故障診断装置であって、上記エンジンの回転数に基づき、上記切削用ドラムの回転数の理論値を演算するドラム回転数演算部と、上記切削用ドラムの回転数を測定するドラム回転数測定部と、上記ドラム回転数演算部が演算した上記切削用ドラムの回転数の理論値と上記ドラム回転数測定部が測定した上記切削用ドラムの回転数とに基づき、上記切削用ドラムの回転数の理論値を演算する際に使用したエンジンの回転数における上記油圧モータの効率を演算する効率演算部と、上記効率演算部が演算した複数の効率のデータから、故障診断用の評価データを求める評価データ演算部と、上記評価データ演算部が求めた評価データを蓄積するデータ蓄積部と、上記データ蓄積部に蓄積されている評価データの経時的な変化に基づき、駆動系の劣化度を判断する診断部と、を備えることを要旨とする。
【0008】
また、本発明の他の態様は、エンジンで駆動される切削用の油圧ポンプで切削用の油圧モータが駆動され、上記油圧モータで切削用ドラムが回転駆動される路面切削車両の故障診断方法であって、上記切削用ドラムでの路面切削作業中に、同期をとって、上記エンジンの回転数と上記切削用ドラムの回転数をそれぞれ測定し、測定したエンジンの回転数及び上記切削用ドラムの回転数とから上記油圧モータの効率のデータを演算する処理を複数実施して、複数の効率のデータを取得し、その取得した複数の効率のデータから故障診断用の評価データを求めることを繰り返し、上記評価データの経時的な変化に基づき駆動系の劣化度を判断することを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、切削用の駆動系の経年変化や急激な低下・兆候などをマシンダウン前に判断可能となる。このため、本発明の態様によれば、現場でのマシントラブルを未然に防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る路面切削車両を説明する側面図である。
【
図4】エンジン回転と効率から求める評価データを説明する図である。
【
図5】エンジン回転と効率から求める評価データを説明する図である。
【
図7】無線通信を使用した場合の故障診断装置のブロック図である。
【
図8】1回の路面切削作業における、エンジン回転数と切削用ドラムの回転数の推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
<構成>
本実施形態の路面切削車両1は、
図1に示すように、車体2と、走行用の車輪6と、車体2に対し昇降可能に支持された切削用ドラム3と、切削用ドラム3を昇降するアクチュエータ4と、車体前後方向に延在する搬送コンベア5とを備える。なお、運転席9が車体上部に設けられている。
本実施形態の搬送コンベア5は、切削用ドラム3が削り取った切削廃材を、車体2の前後方向前方に搬送するコンベアであって、折りたたみ可能な構成で車体2に支持されている。そして、路面を切削する切削作業状態では、
図1のように、搬送コンベア5は、車体前後方向前方に延ばした状態に設定され、トラックの荷台などに切削に伴う切削廃材を搬送可能とする。
【0012】
本実施形態の走行用の車輪6は、車体2の前側に設けられた前輪6Aと、車体2の後側に設けられた後輪6Bとから構成される。前輪6Aは、図示しないステアリング機構を操作することで操舵可能となっている。後輪6Bの車軸は変速機を介してエンジンに連結しており、エンジンからの駆動力で回転駆動する駆動輪を構成する。なお、路面切削車両1の走行形態はこれに限定されず、前輪6A側が駆動輪でも良いし、クローラなどによって自走する車両1であっても良い。
切削用ドラム3は、前輪6Aと後輪6Bとの間において、車体2下部に配置される。切削用ドラム3は、車体幅方向に駆動軸を向けて設置され、ドラム周面に多数のカッタービットが設けられて構成される。その切削用ドラム3は、機枠7に回転自在に支持されていると共に、後述の油圧モータによって回転駆動可能に構成されている。機枠7は、例えば下方が開放した箱状の枠体である。
【0013】
切削用ドラム3を昇降するアクチュエータ4は、左右一対の昇降用油圧シリンダで構成される。各昇降用油圧シリンダは、シリンダ本体が軸を上下に向けた状態で車体2に取り付けられると共に、シリンダロッドがシリンダ本体から下方に延在している。そのシリンダロッドの先端部が、機枠7に連結している。これによって、昇降用油圧シリンダのストローク量に応じて、機枠7、すなわち切削用ドラム3の車体2に対する上下位置(路面に対する位置)が調整されて、切削用ドラム3による切削深さが調整される。切削用ドラム3は、上方の待機位置と切削作業状態の下方位置とのいずれかに位置調整される。
【0014】
また、車幅方向に斜行して、車体下部と機枠7を連結する第3の油圧シリンダを備え、その第3の油圧シリンダを駆動することで、機枠7、すなわち切削用ドラム3の車幅方向位置が左右にシフト可能となっている。なお、昇降用油圧シリンダの各シリンダ本体は少なくとも車幅方向に揺動可能な状態で車体に支持されている。
なお、機枠7の前側は、車体2の前後方向に延在する平行リンク8を介して車体2に連結する。平行リンク8は、車幅方向両側にそれぞれ一対づつ配設されている。平行リンク8を設けることで、機枠7は、昇降に伴う姿勢が一定に保持されるようになっている。
エンジンの駆動、アクチュエータを介した切削用ドラム3の昇降や切削用ドラム3の回転駆動の指示は、指示盤に設けられたボタンその他の操作子によって実行可能となっている。
【0015】
次に、路面切削車両1の駆動系のうち、切削に関わる駆動系の装置構成について、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、エンジン20の動力が、動力分配器21にて複数のポンプ等に分配される。
図2では、ポンプとして走行用ポンプ22と切削用の油圧ポンプ23だけが図示されているが、そのほかにもステアリング用ポンプ、昇降用ポンプなどが動力分配器21に連結している。これによって、走行用ポンプと切削用の油圧ポンプ23は、エンジン20で駆動される構成となっている。
【0016】
切削用の油圧ポンプ23は、油圧回路24を介して切削用の油圧モータ25に接続する。これによって、切削用の油圧モータ25は、切削用の油圧ポンプ23によって駆動される構成となる。なお、
図2では、油圧回路24が有する制御弁などの油圧機器を省略して図示している。
また、切削用の油圧モータ25の駆動軸は、減速機26を介して切削用ドラム3の回転軸に接続し、切削用の油圧モータ25によって、切削用ドラム3が回転駆動可能な構成となっている。
また、路面切削車両1は、エンジン回転数検出部27と、油圧モータ回転数検出部28とを備える。エンジン回転数検出部27は、回転数センサなどから構成され、エンジン20の駆動軸の回転数を検出する。油圧モータ回転数検出部28は、回転数センサなどから構成され、油圧モータ25の駆動軸の回転数を検出する。
【0017】
次に、上記のような駆動系を有する路面切削車両1に搭載された故障診断装置30について説明する。
故障診断装置30は、
図3に示すように、エンジン回転数測定部31B、ドラム回転数演算部31C、ドラム回転数測定部31D、効率演算部31E、評価データ演算部31F、データ蓄積部31G、及び診断部31Hを備える。路面切削車両1は、故障診断装置30からの報知情報を出力する報知部32を有する。報知部32は、表示や音などの報知によって作業者に駆動系の劣化状況を報知する。
エンジン回転数測定部31Bは、所定サンプリング時間毎に、エンジン回転数検出部27からの回転数信号に基づき、エンジン20の回転数を算出する。
ドラム回転数演算部31Cは、所定サンプリング時間毎に、エンジン回転数測定部31Bが測定したエンジン20の回転数を取得し、その取得したエンジン20の回転数から、切削用ドラム3の回転数の理論値Dnを演算する。
【0018】
ここで、切削用ドラム3の回転数の理論値Dnは、下記(1)式によって演算することができる。
Dn[rpm] =(Ne ×ie ×Qp ×np)/(Qm ×im×nm)
・・・(1)
ここで、
Ne:エンジン20の回転数
ie:動力分配器21による切削用の油圧ポンプ23への分配比(減速比)
Qp:切削用の油圧ポンプ23の容積
np:切削用の油圧ポンプ23の数
Qm:油圧モータ25の容積
im:減速機26の減速比
nm:油圧モータ25の数
である。
【0019】
これらのパラメータのうち、エンジン回転数Ne以外は、対象とする路面切削車両1に固有の固定値であるため、切削用ドラム3の回転数の理論値Dnは、下記(2)式で表すことができる。
Dn = K ×Ne ・・・(2)
ただし、Kは固定値である。
ドラム回転数測定部31Dは、ドラム回転数演算部31Cでのサンプリング時間と同期した所定サンプリング時間毎に、切削用ドラム3の駆動軸の回転数Dn0を測定(実測)する。ドラム回転数測定部31Dは、例えば、油圧モータ回転数検出部28が検出した回転数Nmに減速機26の減速比imを乗算することで切削用ドラム3の回転数Dn0を取得する。
【0020】
例えば、切削用ドラム3の回転数Dn0の測定値(実測値)Dn0は、下記(3)式にて求める。
Dn0 =Nm ×im ・・・(3)
ここで、
Nm:油圧モータ25の回転数Nm(検出値)
im:減速機26の減速比
である。
【0021】
ドラム回転数測定部31Dは、切削用ドラム3の回転数Dn0を直接、回転数センサなどによって検出するようにしても良い。
効率演算部31Eは、同期をとって取得したエンジン20の回転数Neと切削用ドラム3の回転数Dn0を使用し、ドラム回転数演算部31Cが演算した切削用ドラム3の回転数の理論値と、ドラム回転数測定部31Dが測定した切削用ドラム3の回転数Dn0とに基づき、切削用ドラム3の回転数の理論値を演算する際に使用したエンジン20の回転数Neにおける油圧モータ25の効率ηを演算する。
【0022】
効率ηは、下記(4)式にて演算できる。
η [%]=(Dn0 /Dn)×100 ・・・(4)
ここで、(4)式は、(2)式及び(3)式から、(5)式のように記載できる。
η =(Nm ×im )/(K ×Ne )×100
= K0 ×(Nm/Ne )×100 ・・・(5)
ただし、K0=im /K であり、K0は固定値である。
【0023】
すなわち、(5)式から分かるように、(5)式の演算を行うことで、エンジン回転数測定部31B、ドラム回転数演算部31C、ドラム回転数測定部31D、及び効率演算部31Eの処理を実行可能であることが分かる。この(5)式による、エンジン回転数測定部31B、ドラム回転数演算部31C、ドラム回転数測定部31D、及び効率演算部31Eの一連の処理を、効率取得部31Aとも呼ぶ。
効率取得部31Aは、同期をとってエンジン回転数検出部27及び油圧モータ回転数検出部28から各回転数信号を取得して、エンジン20の回転数Ne及び油圧モータ25の回転数Nmを算出する。そして、算出したエンジン20の回転数Ne及び油圧モータ25の回転数Nmを(5)式に代入して、効率ηを演算し、評価データ演算部31Fに出力する。
【0024】
ここで、効率取得部31Aの出力、すなわち効率演算部31Eの出力は、(エンジン20の回転数Ne、効率η)の組からなるデータである。この(Ne、η)からなるデータが、所定サンプリング時間毎に効率取得部31Aから出力される。
評価データ演算部31Fは、少なくとも1回の路面切削作業中に効率演算部31E(本実施形態では効率取得部31A)から出力された複数の効率のデータ(Ne、η)の群から、故障診断用の評価データを演算する。
ここで、1つの評価データを演算するために必要なデータ(Ne、η)の取得時間は、実験によれば、5分以上の切削作業時間があれば取得に問題が無いことを確認している。
【0025】
また、使用する複数のデータ(Ne、η)は、1回の路面切削作業中のデータに限定されず、例えば、1日のうちに複数回の路面切削工事を行った場合、その全切削工事中のデータが混在していても構わない。一つの評価データを算出するための複数のデータ(Ne、η)の群は、1日以内のデータ群であることが好ましい。また、5分以上の間に取得したデータで評価データを求めることが可能であるため、例えば、10分以上の路面切削工事を行うたびに評価データを算出するようにして、1日のうちに評価データの演算を複数回実行し、更に、その複数の評価データを平均化などの統計処理を施して、その日の評価データとしても良い。
【0026】
ここで、取得した複数のデータ(Ne、η)は、
図4や
図5のようなプロットとなっている。
図4は、実験データであり、エンジン20の定格回転数(この例では1800rpm)よりも確実に回転数を高くして切削も行い、且つデータ数を多めに取ったものである。
図5は、実際の現場での切削によって取得したデータの例である。
図4や
図5から分かるように、各エンジン回転数Neでの各効率ηの下限値からなる境界線Lは、エンジン20の回転数Neが定格回転数に向けて小さくなるほど、効率が小さくなり(L1の線)、続いて、エンジン20の回転数Neが定格回転数よりも所定値だけ大きな回転数(転換回転数Nxと呼ぶ)以下では、回転数が小さくなっても、効率ηはほぼ一定となっている(L2の線)。
【0027】
この傾向を利用して、上記の境界線L上の値や、転換回転数Nxまでの上記境界線L中のラインL1の勾配などを、故障診断用の評価データとして演算する。すなわち、境界線Lに基づき評価データを設定することが可能である。
例えば、エンジン回転数Neが、転換回転数Nxよりも高い時のデータ(Ne、η)を使用して、各回転数毎に効率が最低値となっているデータ(Ne、η)を抽出し、抽出したデータ(Ne、η)の群に統計処理を施す。これによって、その抽出したデータ(Ne、η)で表現される直線の勾配(η/Ne)を、評価データとする。上記直線(L1相当の線)上における予め設定した1又は2以上のエンジン回転数Neでの効率を評価データとしても良い。
【0028】
ここで、抽出するデータ(Ne、η)として、エンジン回転数Neが、転換回転数Nxよりも高い時のデータ(Ne、η)であって、各効率毎に、一番エンジン回転数が大きなデータ(Ne、η)を抽出するようにしてもよい。これは、各エンジン回転数Neでの各効率ηの下限値を抽出することと同義である。
評価データは、上記のようなデータに限定されない。例えば、エンジン回転数Neが転換回転数Nxよりも低いとき(L2の部分)のデータ(Ne、η)を使用し、各回転数毎に効率が最低値となっているデータ(Ne、η)を抽出し、その抽出したデータの効率を平均化や直線近似などの統計処理を施して評価データとしてもよい。このようにして求めた評価データは、定格回転数若しくは定格回転数近傍の回転数での効率の最低値と同義である。なお、使用するエンジン回転数Neとして、定格回転数前後の所定範囲の回転数を使用して、処理するデータ量を制限しても良い。
【0029】
データ蓄積部31Gは、評価データ演算部31Fが演算した評価データを逐次、記憶部に蓄積する。
このとき、記憶する評価データHを例えば、(日時、H)のような日時を付加したデータとして記憶する。
診断部31Hは、データ蓄積部31Gに蓄積されている評価データの経時的な変化に基づき、路面切削車両1の駆動系の故障診断を行う。
【0030】
ここで、油圧モータ25が劣化するにつれて、上記境界線Lは、
図6に示す模式図の一点鎖線(
図6中、Lx)のように、転換回転数Nxよりも高い側では勾配が大きくなると共に、転換回転数Nxよりも低い側では効率の値が小さくなる。一方、エンジン20が劣化するにつれて、上記境界線Lは、転換回転数Nxよりも高い側では勾配が低くなる。
この知見に基づき、診断部31Hは、路面切削車両1の駆動系の劣化度を診断することが可能となる。
また、油圧モータ25の劣化とエンジン20の劣化では、境界線Lの挙動が異なるため、劣化度の変化方向から油圧モータ25側の劣化かエンジン20側の劣化かも判断することが出来る。
【0031】
評価データとして勾配を使用して診断する場合の例を説明する。
診断部31Hは、例えば、正常と判断された新車での勾配を基準データとして予め記憶しておき、この基準データからの評価データの差分を劣化度として求め、その劣化度が予め設定した閾値以上となったら、報知部32を介して、劣化診断度を作業者に報知する。
また、劣化度の経時的な変化状態から、故障する時期を推定して報知するようにしても良い。
また、評価データ自体の履歴に基づき、評価データの経時的変化から劣化状態を判定しても良い。
【0032】
以上、評価データとして勾配を使用する場合を例示しているが、他の評価データであっても、同様にして劣化を診断するようにすればよい。
また診断は、例えば、二ヶ月毎間隔などで実施して、二ヶ月間での劣化度の変化が大きくなったら、診断間隔を短くすると良い。また、初期不良の検出を目的として、車両の使用開始時から例えば、三ヶ月は、一週間毎に診断を行って初期不良を早期に検出可能としても良い。
本実施形態の診断装置を使用すると、日常の切削作業において、効率を算出して劣化状態を診断(評価)するため、劣化度の経時的な変化から、経年変化や急激な作業低下及びその兆候を事前に判断することができる。この結果、現場でのマシントラブルを未然に防ぐことが可能となる。
【0033】
<変形例>
(1)上記実施形態では、エンジン回転数Neを直接検出している。エンジン回転数Neの測定は、これに限定されない。
エンジン回転数測定部31Bは、油圧モータ25に供給される油圧の測定値からエンジン20の回転数Neを求めるようにしても良い。
油圧モータ25に供給される油圧Pmを油圧計で測定する。切削用の油圧ポンプ23からの吐出圧から管の損失分を減じて油圧Pmとしても良い。そしてし、下記(6)式によってトルクTを求める。
T =(Pm×Qm)/2π ・・・(6)
ここで、Qmは、油圧モータ25の容積である。
【0034】
次に、下記(7)式によって、切削用油圧ポンプの動力Ld[KW]を算出する。
Ld =(2π・T・Dn)/6000 ・・・(7)
また、エンジン20の動力Lは、下記(8)式で表される。
L =Ld +Lx ・・・・(8)
Lxは、その他の定常的に消費している動力(走行用やコンベア用などの動力)である。
この動力Lxを定数とみなすことで、動力Ldを算出することができる。
そして、求めた動力Lを、公知のエンジン性能線図に重ねることで、エンジン回転数Neを求めることができる。
【0035】
(2)
図7のように、評価データを蓄積するデータ蓄積部31Gを、データ基地局などのサーバー42に設定するようにしても良い。この場合、車両1に送信手段として無線通信部40を設け、評価データ演算部31Fが演算した評価データを、公知の通信回線を通じてサーバー42に送信する。符号41は、サーバー42側の無線通信部である。
サーバー42では、受信した評価データを、車両識別番号にヒモづけてデータ蓄積部31Gに記憶する。すなわち、車両1から評価データを送信する際に、自己の車両識別番号を付加してデータ送信を行う。評価データを取得した日付も送信データに付加させておくことが好ましい。
この構成では、サーバー42にも故障診断装置の一部をなす。
この場合には、データ基地局側に診断部31Hを設けて、車両1毎に診断を行い、必要な診断情報を、対象とする車両1その他に送信する。
【0036】
(3)効率の演算は、切削用ドラム3で路面切削作業中であって、切削用ドラム3での切削状態が定常状態と判定されるときに取得したエンジン20の回転数Neを使用することが好ましい。
切削状態が定常状態とは、ドラムの回転数が定常状態で安定している状態のときである。これによって、非定常状態でのイレギュラーなデータをはじくことができて、求める効率の精度、更には診断の精度が向上する。
定常状態の判断は、例えば、ドラムの回転数が安定していると推定される回転数(作業回転数とも記載する。)である場合に、定常状態と判定する。
【0037】
定常状態の判断は、例えば、次のように行う。
すなわち、切削を開始後に切削ドラムの回転数が初めて作業回転数の下限値(例えば、100rpm)以上になってから所定の余裕時間経過後(例えば10秒後)からを定常状態開始と判断する。更に、切削ドラムの回転数が作業回転数の下限値(例えば、100rpm)未満となったら、非定常状態に移行(定常状態の終了)と判断する。
ただし、定常状態の終了判断は、切削ドラムの回転数が作業回転数以上であっても、所定の余裕時間経過後(例えば10秒後)に切削ドラムの回転数がゼロとなる場合の当該余裕時間経過前の時点を、定常状態終了と判断することが好ましい。この場合、ドラムロック時などによる緊急停止時のイレギュラーな情報をはじくことが可能となる。
【0038】
ここで、
図8に、切削用ドラム3による路面切削作業を行った際における、エンジン回転数Ne及び切削用ドラム3の回転数Dn0の推移の例を示す。この例では、作業回転数の下限値が100rpmの場合を例にしている。
まず、車両1の始動スイッチをオンにすると(t1)、エンジン20が起動する。その後、カッタ駆動スイッチをオンにすると(t2)、切削用ドラム3が回転駆動する。その後、再度、段取りの調整した後、エンジン・フルのスイッチをオンにして、切削が可能な高回転モードとすることで(t3)、エンジン20の回転数Ne、及び切削用ドラム3の回転数Dn0が同期して上昇する。
【0039】
次に、所定深さまでドラムを下げる指令を出すと(t4)、切削用ドラム3が降下し、切削用ドラム3は地面を切削しながら所定深さまで降下する。
次に、前後進レバーを操作して前進指令を出力すると(t5)、車両1が前進しながら路面切削を行う。これによって、路面の切削中となる。通常は、車速を調整して、切削負荷、すなわちエンジン20の最も効率の良い回転数を狙って作業が行われる。
その後、所定の範囲の路面切削が終了したら、前後進レバーを中立位置に戻すと(t6)、車両1の移動を停止して、切削を終了する。
その後に、ドラムを上昇させて路面から離したら、エンジン・フルスイッチをオフにして(t7)、エンジン回転数Neを低速モードに下げてから、カッタ駆動スイッチをオフにする(t8)。
【0040】
以上が、1回の切削作業における一例の処理である。
この例から分かるように、切削作業開始時に、ドラムの回転数が作業回転数である100rpmとなった場合でも、ドラム回転数が100rpmでは上昇中の非定常状態であるため、その非定常状態が終わると推定される余裕時間経過後から、データの収集をすることが好ましいことが分かる。
また、カッタ駆動スイッチのオフをデータ収集の終了条件とすると、ドラムの回転数が既に落ち込んでおり、非定常状態となっている。このため、ドラムの回転数が作業回転数未満である、100rpm未満と判断したら、収集を終了させることが好ましい。
【0041】
ただし、
図8には図示されていないが、例えばドラムロック状態となって、ドラムが強制的に緊急停止する場合には、ドラム回転数が100rpm以上であっても、回転数変動がイレギュラーとなるため、所定余裕時間経過後にドラム回転数が0rpmとなる場合には、ドラム回転数が0となる所定余裕時間前を定常状態の終了時点とすることが好ましい。
このような処理をすること考慮すると、データ蓄積部31Gに蓄積する評価データHには、日時の他、ドラム回転数も付加しておくことが好ましい。
なお、診断部31Hの処理は、切削同期して必ずしも行う必要は無い。
【符号の説明】
【0042】
1 路面切削車両
3 切削用ドラム
4 アクチュエータ
20 エンジン
21 動力分配器
22 走行用ポンプ
23 油圧ポンプ
24 油圧回路
25 油圧モータ
26 減速機
27 エンジン回転数検出部
28 油圧モータ回転数検出部
30 故障診断装置
31A 効率取得部
31B エンジン回転数測定部
31C ドラム回転数演算部
31D ドラム回転数測定部
31E 効率演算部
31F 評価データ演算部
31G データ蓄積部
31H 診断部
32 報知部
40 無線通信部(送信部)
42 サーバー