(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】グルタチオンレベルを改善するためのN-アセチルシステイン及びグリシンの補給の効果
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20220517BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20220517BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220517BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
A61K31/198
A61K38/05
A61P21/00
A61P25/00
A61P43/00
(21)【出願番号】P 2018513733
(86)(22)【出願日】2016-05-25
(86)【国際出願番号】 US2016034078
(87)【国際公開番号】W WO2016191468
(87)【国際公開日】2016-12-01
【審査請求日】2019-05-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-22
(32)【優先日】2015-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】カーノン, ステファン
(72)【発明者】
【氏名】フリードランド, エリック
(72)【発明者】
【氏名】シェカール, ラジャゴパル, ヴィー.
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】中西 聡
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0077303(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0120983(US,A1)
【文献】特表2004-526793(JP,A)
【文献】橋本謙二,高齢者とグルタミン酸機能,老年精神医学雑誌,2012年,第23巻,第8号,p.932-937
【文献】赤沢修吾,グルタチオンの期待される効果,基礎と臨床,1989年,第23巻,第10号,p.111-115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327,38/00-38/58
A61P1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタチオン欠乏の個体における1種以上の医学的状態又は身体的状態を治療するための組成物であって、グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステインと
を、含むか、或いは、グリシンとN-アセチルシステインとのジペプチドを含み、前記医学的状態又は身体的状態が、
(a)筋低下
、
(j)寿命
、
(kk)神経認知機能、並びに
これらの組み合わせからなる群から選択され、前記グリシンの機能性誘導体が、D-アリルグリシン、N-[ビス(メチルチオ)メチレン]グリシンメチルエステル、Boc-アリル-Gly-OH(ジシクロヘキシルアンモニウム)塩、Boc-D-Chg-OH、Boc-Chg-OH、(R)-N-Boc-(2’-クロロフェニル)グリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン
、(R)-N-Boc-4-フルオロフェニルグリシン、Boc-D-プロパルギルグリシン、Boc-(S)-3-チエニルグリシン、Boc-(R)-3-チエニルグリシン、D-α-シクロヘキシルグリシン、L-α-シクロプロピルグリシン、N-(2-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、N-(4-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、Fmoc-N-(2,4-ジメトキシベンジル)-Gly-OH、N-(2-フロイル)グリシン、L-α-ネオペンチルグリシン、D-プロパルギルグリシン、サルコシン、Z-α-ホスホノグリシントリメチルエステル、及びこれらの混合物からなる群から選択される、組成物。
【請求項2】
前記グリシン又はその機能性誘導体と、前記N-アセチルシステインとが、経口で前記個体に提供される、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願は、2015年5月28日出願の米国仮特許出願第62/167,433号に対する優先権を主張するものであり、その全容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]本開示は、少なくとも、生化学、細胞生物学、化学、分子生物学、及び医学の分野を対象とする。
【背景技術】
【0003】
[0003]老化のフリーラジカル説は、老化の生物学的過程の結果、高齢者において酸化ストレスが増加することを示唆している。酸化ストレスの潜在的な有害性に抵抗する細胞の能力は、オキシダントフリーラジカルの産生と、細胞が利用可能な多数の防御的抗酸化物質との生体バランスによって決まる。複数の抗酸化防御系が存在し、これらのうち、グルタチオン(GSH)が、最も豊富な総合的な抗酸化防御の細胞内成分である。GSHはトリペプチドであり、前駆体アミノ酸の、グルタミン酸、システイン、及びグリシンから、グルタミン酸システインリガーゼ(GCL、γ-グルタミルシステイン合成酵素、EC 6.3.2.2としても知られる)及びγ-L-グルタミル-L-システイン:グリシンリガーゼ(グルタチオン合成酵素、EC 6.3.2.3としても知られる)によって触媒される2段階で合成され、GSH合成は、細胞内で初めから起こる。
【0004】
[0004]グルタチオン欠乏が、糖尿病、HIV感染、小児におけるタンパク質・エネルギー栄養障害、鎌状赤血球貧血、感染症、パーキンソン病等の神経疾患、肝疾患及び嚢胞性線維症といった、ヒトにおけるいくつかの疾患において、関係があるとされてきた。いくつかの動物での試験(Stohs et al.,1984;Farooqui et al,1987;Liu et al.,2000)及びヒトでの試験(Al-Turk et al.,1987;Matsubara et al.,1991;Lang et a.,1992;Samiec et al.,1998;Erden-Inal et al.,2002;Loguercio et al.,1996)による根拠が、グルタチオンの濃度が老化と共に低下することを示唆している。老化におけるGSH欠乏は、酸化を促進する状態への移行の増大と関連し(Rebrin,2008)、酸化ストレスの増大を引き起こす(Rikans and Hornbrook,1997)。これらの変化は、老化に伴う疾患、例えば、白内障(Campisi et al.,1999;Castorina et al.,1992;Sweeney et al.,1998)、加齢性黄斑変性症(Samiec,1998)、免疫機能の変化(Fidelus and Tsan,1987;Furukawa et al.,1987)及び神経変性疾患(Liu et al.,2004)、並びに分子レベルでのDNA損傷の増加(Hashimoto et al.,2008)と関係があるとされてきた。老化に関連したグルタチオン欠乏の発症機序は十分に理解されていないが、グルタチオン合成における障害が関与しているとの示唆がある(Toroser and Sohal,2007)。
【0005】
[0005]他の更なる目的、特徴、及び利点が、開示目的で記載した本発明の現在の好ましい実施形態の以下の記載から明らかとなるであろう。
【発明の概要】
【0006】
[0006]本開示の実施形態は、細胞内GSHレベルの低下が直接若しくは間接的に関連した、医学的状態若しくは身体的状態の発症を治療若しくは予防若しくは遅延するための方法及び/又は組成物に関する。本開示の実施形態はまた、システイン及び/又はグリシンの血中若しくは細胞内レベルの低下が直接若しくは間接的に関連した、医学的状態若しくは身体的状態の発症を治療若しくは予防若しくは遅延するための方法及び/又は組成物に関する。特定の実施形態において、個体における細胞内GSHレベルは、医学的状態若しくは身体的状態が、これらによって治療される、予防される、又は、発症が遅延されると、上昇する。特定の実施形態において、個体におけるC反応性タンパク質(CRP)レベルは、医学的状態若しくは身体的状態がこれらによって治療される、予防される、又は、発症が遅延されると、低下する。
【0007】
[0007]特定の実施形態において、方法は、グルタチオン、n-アセチルシステイン及び/又はグリシンによる効果を提供することが企図され、また、特定の場合、グルタチオン、n-アセチルシステイン及び/若しくはグリシンのそれぞれ個別並びに/又は集合的な寄与がある。
【0008】
[0008]本開示の一実施形態において、システイン及びグリシン(例えばシステイニルグリシン)(又はこれらの機能性誘導体)の血中レベルの上昇を、これらを必要とする個体においてもたらし、細胞内GSHレベルを上昇させる方法がある。個体は、上昇したGSHレベルから効果が得られ得る医学的状態若しくは身体的状態を有することが知られている場合がある、又は、個体は、上昇したGSHレベルから効果が得られ得る医学的状態若しくは身体的状態を有する疑いがある場合がある。特定の実施形態において、本発明の方法及び/又は組成物を施される個体は、1種以上の望ましくない身体的状態(又は老化に伴うような身体的状態の影響)又は医学的状態の予防を所望している。特定の実施形態において、個体は、GSHレベルを上昇させるという明確な目的のために、システイン及びグリシン又はこれらの機能性誘導体の有効レベルを提供され、医学的状態若しくは身体的状態の発症を治療、予防、又は遅延する。
【0009】
[0009]特定の実施形態において、個体は、不十分なGSHレベルに関連した医学的状態の治療(又は予防又は発症の遅延)を要するものと特定される。
【0010】
[0010]本開示の実施形態は、個体の1つ以上の細胞中のグルタチオンの不十分なレベルに関連した1種以上の医学的状態若しくは身体的状態の発症の治療又は予防又は遅延のための様々な方法に関する。特定の実施形態において、方法は、細胞内のグリシン及び/若しくはシステインの不十分な濃度に関連した1種以上の医学的状態若しくは身体的状態の発症の治療又は予防又は遅延のためのものである。特定の態様において、方法は、GSHとは無関係に、グリシン及び/若しくはシステインの細胞内濃度を回復させる固有の効果により、1種以上の医学的状態若しくは身体的状態の発症の治療又は予防又は遅延を可能とする。特定の実施形態において、状態又は身体的状態は、下記のうちの少なくとも1種を含む:筋低下(少なくともサルコペニア、HIV感染、老化及び/又は悪液質、無重力の有害作用を含む、任意の理由による);臓器障害(例えば、糖尿病及びインスリン抵抗性及び糖尿病性腎症を含む);心機能及び不全(例えば、心不全の予防若しくは改善及び/又は心収縮機能の改善);脂肪肝;癌予防;肥満及び/又は糖尿病の後の発症を予防するための胎児の代謝プログラミング;妊娠糖尿病における母体及び胎児の健康;運動能力及び身体機能;肥満;生活の質;寿命;神経変性疾患;造影検査若しくは処置、又はHIV関連の神経障害のアセトアミノフェン毒性の予防を受けている個体における、腎症を防止するための予防;非アルコール性脂肪性肝炎;非アルコール性脂肪性肝疾患(炎症を伴うもの又は伴わないものを含む);耳鳴;めまい;アルコールによる二日酔い;難聴;アルツハイマー病;パーキンソン病;骨粗鬆症、高血圧、粥状動脈硬化/冠動脈疾患、及び火傷又は外傷等のストレス後の心筋障害;嚢胞性線維症;肝脂肪性疾患の非アルコール性脂肪性肝疾患;炎症;記憶及び認知の改善;外傷後の回復及び生存(例えば、術後、敗血症後、事故若しくは身体的暴行による鈍的外傷又は穿通性外傷後等);脳外傷(脳震盪を含む);一般的な外傷及び外科手術からの回復の改善;糖尿病の予防;前糖尿病/メタボリックシンドロームの治療又は予防等。
【0011】
[0011]一実施形態において、サルコペニア、サルコペニック肥満、又は悪液質を予防及び/又は治療する方法がある。悪液質に対する特定の実施形態において、悪液質は、根源的な医学的状態(例えば、慢性疾患である、HIVを有する、癌を有する、COPDを有する、罹患していなければ健康な個体における老化(サルコペニア)等)のため、個体に存在する。高齢のHIV患者に対する特定の実施形態において、本明細書で企図される組成物の補給により、グルタチオンが増加し、その結果、除脂肪量(筋肉)が増加し、体脂肪量が低下する。
【0012】
[0012]本開示の特定の実施形態は、目の水晶体(グルタチオンが豊富であることが知られている)中の低レベルを含む、低GSHレベルにより直接若しくは間接的に生じる目の状態の予防及び/又は治療を提供する。このような状態としては、白内障及び/又は緑内障、老視(老化に伴う近見視力の低下で、老眼鏡を必要とする)が挙げられる。又は、例えば、老人性難聴(老化に伴う聴力損失で、補聴器を必要とする)がある。
【0013】
[0013]特定の一実施形態において、各種の炎症の予防及び/又は治療の方法があり、特定の実施形態において、方法は、C反応性タンパク質(CRP;炎症マーカー)の低下、又はHIV患者におけるようなTNF-αの低下を伴う。特定の実施形態において、炎症は、1つ以上の病原体、損傷細胞、及び/又は刺激物といった、有害な刺激に対する反応に関連する。炎症は、急性又は慢性であり得る。ある場合には、炎症は、老化、糖尿病、座瘡、喘息、自己免疫疾患、セリアック病、前立腺炎、糸球体腎炎、炎症性腸疾患、骨盤内炎症性疾患、再潅流傷害、関節リウマチ、サルコイドーシス、移植拒絶、血管炎、間質性膀胱炎、粥状動脈硬化、アレルギー、筋疾患、白血球異常、薬物反応(コカイン又はエクスタシー等)、癌、うつ病、及び筋修復等の障害に関連する。炎症は、免疫に関連することが認識されており、特定の実施形態において、ワクチンを接種している個体に、NAC及びグリシンを提供し、ワクチンに対する免疫応答を高める方法がある。
【0014】
[0014]特定の実施形態において、本開示の方法は、薬物誘発性のミトコンドリア毒性等のミトコンドリア毒性を予防及び緩和/治療する。例えば、HIVを有し、ミトコンドリアの機能に有害な抗レトロウイルスのHIV薬物療法を受けている個体は、NAC及びグリシンの有効量を提供され、ミトコンドリアの機能を改善する。
【0015】
[0015]特定の一実施形態において、アセトアミノフェン毒性を予防及び/又は治療する方法がある。特に、アセトアミノフェンを摂取する個体、又はアセトアミノフェンを摂取している個体、又はアセトアミノフェン毒性を有する個体は、本明細書で企図されるような1種以上の組成物の有効レベルを提供される。アセトアミノフェン毒性を有する個体は、アセトアミノフェンの慢性使用者である場合、又は、慢性使用者でない場合がある。特定の実施形態において、個体は、個体においてGSHレベルを上昇させる1種以上の薬剤を摂取するのと同時に、アセトアミノフェンを摂取する。
【0016】
[0016]特定の実施形態において、筋ストレス(運動に関連した筋ストレスを含む)から等の、筋肉の活動度及び回復を改善する方法がある。特定の実施形態において、個体はアスリートであるが、個体はアスリートでない場合もある。個体は、娯楽及び/又は健康目的の運動に取り組んでいる場合がある。個体は、個体においてGSHレベルを上昇させる1種以上の薬剤を、運動の前、最中、及び/又は後(運動の前及び/又は後、並びに運動の数分以内、数時間、又は数日前及び/又は後を含む)に摂取してもよい。個体は、個体においてシステイン及び/又はグリシンの細胞内レベルを上昇させる1種以上の薬剤を、運動の前、最中、及び/又は後(運動の前及び/又は後、並びに運動の数分以内、数時間、又は数日前及び/又は後を含む)に摂取してもよい。特定の実施形態において、細胞内のNAC及び/又はグリシンを上昇させることにより、GSHに対するその効果とは無関係に、筋肉の活動度及び/又は回復が高まる。運動は、例えば、有酸素(「カーディオ」)運動及び/又はウェイトトレーニングといった、様々なものであり得る。個体は、GSHレベルの低下に直接若しくは間接的に関連した、医学的状態又は身体的状態を有する場合がある。特定の実施形態において、個体はHIVを有する高齢の個体であり、例えば、50歳以上である個体である。試験によると、本明細書で企図されるような組成物を摂取した高齢のHIV患者では、2週間以内に、両手の筋力が顕著に増加した。
【0017】
[0017]本開示の実施形態は、非高齢個体における促進老化の発症を治療、予防、又は遅延するための方法を含み、促進老化は、少なくともHIV感染によるもの、又は無重力状態に任意の期間さらされていたものを含む、何らかの理由によるものであり得る。特定の実施形態において、促進老化(HIV、無重力、又は加齢性の不全状態(機能低下、筋力の低下、生活の質の低下、白内障の形成、免疫老化)の存在で見られるようなもの、非HIVのヒト(約70~80歳)で通常見られるものがHIV感染患者においてはるかに早い年齢(50歳以下)で見られるようなもの)の回復がある。特定の一実施形態において、個体において寿命を延長する方法がある。特定の実施形態において、個体は少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、又は95歳である。本開示の特定の実施形態において、グリシン及びn-アセチルシステインの有効量を提供された個体では、寿命が延長される。このように、本発明の特定の実施形態において、個体の寿命の延長に関連した方法及び組成物がある。個体は、生命を脅かす医学的状態を有する場合がある、又は、有さない場合がある。無重力の場合、例えば、無重力状態を体験した個体のように、筋萎縮症及び/又は骨減少症等が存在し得る。
【0018】
[0018]特定の実施形態において、個体において認知機能の改善があり、認知機能の検出可能な障害を有していない個体に対するもの、又は認知機能の検出可能な障害を有する個体に対するものを含み、何らかの理由による障害を含む。特定の実施形態において、方法は、認知機能障害の発症を遅延させる、又は、正常な認知機能を高める。認知機能は、知ることの精神的過程と定義することができ、感知、知覚、推理、及び判断等の様相を含み、これらに限定されるものではないが、知覚、推理、又は直感、知識を通して知られるようになるものを含む。特定の実施形態において、本明細書で企図されるような組成物は、個体に提供され、正常又は記憶障害の個体の場合を含み、記憶を改善する。
【0019】
[0019]本開示の実施形態は、何らかの理由によって発生する、悪液質、サルコペニア、不活動、並びにストレス(術後、敗血症、及び外傷後を含む)等を含む、骨格筋の低下を改善する方法を含む。改善は、筋低下の速度若しくは量の低減及び/又は筋低下の回復であり得る。
【0020】
[0020]一実施形態において、少なくとも、例えば、造影検査若しくは処置を受けている個体、又は糖尿病及び/若しくはHIVを有する個体において、腎症を防止又は処置するための予防がある。腎症は腎臓に対する障害又は腎臓の疾患であり得、腎症は非炎症性又は炎症性の場合がある。腎症の例としては、IgA抗体の糸球体における沈着、鎮痛薬の投与、キサンチンオキシダーゼ欠損症、化学療法剤又は他の薬剤の毒性、鉛又はその塩への長期暴露;全身性エリテマトーデス、外傷、閉塞性尿路疾患後、腎炎;ネフローゼ症候群;真性糖尿病及び高血圧(高血圧症)(これらは、糖尿病性腎症及び高血圧性腎症の原因となる)が挙げられる。
【0021】
[0021]本発明の特定の実施形態において、本発明は、グリシン及びn-アセチルシステイン(NAC)の、これらを必要とする哺乳動物における治療及び/又は予防適用のための利用に関連した組成物及び方法に関する。哺乳動物は様々なものであり得、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ヒツジ、及びヤギを挙げることができる。特定の実施形態において、本発明は、哺乳動物におけるグルタチオンの代謝回転障害及び/又は酸化ストレスの上昇及び/又は酸化的損傷(老化又は糖尿病におけるグルタチオンの代謝回転障害及び/又は酸化ストレスの上昇及び/又は酸化的損傷等を含む)に関する、1種以上の方法及び/又は組成物を対象とする。特定の実施形態において、本発明は、グリシン及びn-アセチルシステインを有する食品(少なくとも栄養補助食品を含む)の、これらを必要とする哺乳動物(例えば、老化である、又は、糖尿病を有するものを含む)における有益な効果に関する。
【0022】
[0022]これらを必要とする哺乳動物としては、老化の有害作用の予防若しくは治療を必要とする、糖尿病又は糖尿病による合併症の予防若しくは治療を必要とする、又は以下の脂質異常症のうちの1種以上の予防若しくは治療を必要とするものを挙げることができる:インスリン抵抗性、肥満、脂肪酸酸化、糖尿病性脂質異常症、糖尿病性微小血管合併症(例えば、腎症、網膜症、及び/又は神経障害)、高コレステロール及び/又はトリグリセリドレベル、脂肪性肝疾患、老化における神経変性疾患、スタチン誘発性ミオパチー。
【0023】
[0023]いくつかの実施形態において、本発明は、何らかの理由(合成の減少によるもの、また特定の実施形態においては、例えば、前駆体アミノ酸の不十分な利用可能量による合成の減少を含む)によるGSHレベルの低下を有する個体(例えば高齢者)に関する。低GSH状態により、個体は、酸化ストレス(例えば、酸化的損傷の血漿マーカーによって測定される)の上昇に罹患しやすくなる。NACとグリシンの両方の補給の結果、GSH合成及び濃度が改善し、損傷の血漿マーカーが低下し、本発明の特定の実施形態において、また、特に、NAC及びグリシンの機能性誘導体の態様が効果的である。合成の増加によるGSHの改善は、少なくとも代謝の健康状態(ミトコンドリアのエネルギー源の代謝、インスリン抵抗性、身体組成及び筋力を含む)に対する改善に影響を及ぼし得る。これは、前駆体のシステイン及びグリシンを様々な形態及び前駆体(少なくともN-アセチルシステイン(NAC)、L-グリシン、L-グリシンエチルエステル、及びジペプチドの形態(例えば、システイニルグリシン又はn-アセチルシステイニルグリシン)を含む)で投与することにより、これらの利用可能量を高めることによって達成することができる。特定の実施形態において、NAC及び/又はグリシンの補給の結果、少なくとも代謝の健康状態(ミトコンドリアのエネルギー源の代謝、インスリン抵抗性、身体組成及び筋力を含む)に対する改善がもたらされ、これは、GSHとは無関係に起こる。
【0024】
[0024]本発明の一実施形態において、個体における酸化ストレスの低減及び/又は予防に有用な方法並びに組成がある。特定の一実施形態において、方法及び組成物は、酸化ストレスに関連した医学的状態の治療及び/又は予防に有用である。特定の一実施形態において、本発明の方法及び組成物は、グルタチオンレベルの低下に関連した医学的状態の治療及び/又は予防に有用である。本発明の特定の一実施形態において、方法及び組成物は、糖尿病の治療に有用である。本発明の特定の一態様において、方法及び組成物は、高齢者への提供に有用である。特定の場合、本発明は、老化に有用な方法及び組成物を提供する。
【0025】
[0025]特定の実施形態において、本発明は、組成物及び以下の代表的な方法(複数可)に関する:血漿中F2-イソプロスタンレベルを低下させる方法、血漿中F3-イソプロスタン及び/若しくはF2-イソプロスタンレベル及び/若しくはニューロプラスタン及び/若しくはF4-イソプロスタンレベルを低下させる方法(例えば、この方法が、脳の酸化ストレスに対するマーカーに関連するため)、GSH産生を増加させる方法、GSHの細胞内濃度を上昇させる方法、肝臓(別途、例えば、筋肉)のGSHレベルを上昇させる方法、インスリン感受性を改善する方法、脂肪の酸化を増加させる方法、体重を低下させる方法、脂質異常症を治療/予防する方法、脂肪性肝疾患を治療/予防し、かつ/若しくは肝臓中の過剰な脂肪含量を低下させる方法、コレステロールレベルを低下させる方法、筋疾患(スタチン誘発性ミオパチーを含む)を予防する方法、並びに/又はトリグリセリドレベルを低下させる方法。
【0026】
[0026]本発明の一実施形態において、グリシン及びN-アセチルシステインから本質的になる組成物がある。本発明の他の一実施形態において、グリシン及びn-アセチルシステインからなる組成物がある。
【0027】
[0027]特定の態様において、個体においてGSHの産生を増加させる方法があり、グリシン及びn-アセチルシステインの有効量を個体に提供するステップを含む。
【0028】
[0028]本開示の特定の実施形態において、老化が脂肪の酸化の障害及び肥満に関連し、また、合成の障害によるグルタチオンの欠乏にも関連するため、グリシン及びn-アセチルシステインの提供によりグルタチオンの合成及び濃度を回復し、かつ脂肪の酸化、インスリン抵抗性、肥満、及び/又は脂質異常症も改善する。
【0029】
[0029]特定の実施形態において、本開示に包含される組成物を用い、アルコール摂取による二日酔いを予防及び/又は治療するための方法がある。二日酔いは、特定の実施形態において、GSH貯蔵の枯渇によって、又は、アセトアルデヒドとGSH及び/若しくはシステインとの相互作用によって直接若しくは間接的に引き起こされる場合があり、これらの枯渇を来す。いくつかの実施形態において、二日酔いは、過剰のコンジナー(アミン、アセトン、アセトアルデヒド、ヒスタミン、及びタンニン等の多くの物質、並びに特に毒性であるものを含む)による直接又は間接的なものである。アルコールは各種のものであり得、蒸留酒(ダーク又はライト)、ビール、及び/又はワインを含む。特定の実施形態において、細胞内の健全なグルタチオンレベルの回復により、酸化ストレスに対して保護し、アセトアルデヒドの作用を相殺し、二日酔いに対して保護する、又は、二日酔いの有害作用を低減する。
【0030】
[0030]特定の実施形態において、本明細書で企図される組成物を用いて、個体における多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を予防及び/又は治療するための方法がある。特定の実施形態において、方法は、過剰のインスリン(何らかの理由により引き起こされ、アンドロゲンの産生を増加させることによって卵巣に影響を及ぼし、卵巣の排卵能力を阻害する)に、直接又は間接的に対処する。いくつかの実施形態において、PCOSを予防及び/又は治療するための方法は、低度の炎症(多嚢胞性卵巣を刺激してアンドロゲンを産生させる)に対処する。
【0031】
[0031]特定の実施形態において、グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン又はその機能性誘導体と、の有効量を個体に提供し、ワクチン接種後の免疫を高める。特定の実施形態において、グリシン(又はその機能性誘導体)及びN-アセチルシステイン(又はその機能性誘導体)の提供がない場合、個体が組成物を投与された際のワクチンの提供に比べ、ワクチン接種が惹起する免疫レベルは低くなる。特定の実施形態において、グリシン/NACによってグルタチオンを是正することにより、特に、本質的な免疫細胞の機能が不十分である集団(例えば、老人病の高齢者、及びHIV感染患者等の免疫老化の集団)において、ワクチン接種が好結果となる可能性が高まる。ワクチンの不成功率は、典型的には、これらの集団においてより高く、特定の実施形態において、グリシン/NACは、このような不全状態を克服する。特定の実施形態において、個体は、ワクチンの前、ワクチンと同時、かつ/又はワクチンの後に、グリシン/NACを与えられる。特定の実施形態において、個体は、ワクチンの前に、数箇月間、数週間、又は数日間の単位で、グリシン/NACを摂取する。特定の場合、個体は、グリシン/NACを、ワクチンの前に1、2、3、又は4週間投与される。特定の実施形態において、個体は、ワクチンの後に、数箇月間、数週間、又は数日間の単位で、グリシン/NACを摂取する。特定の実施形態において、個体は、グリシン/NACを、ワクチンの後に1、2、3、又は4週間投与される。特定の実施形態において、グリシン及び/又はNAC(又はこれらの機能性誘導体)の有効量を提供することにより、個体において難聴を治療する、又は、難聴に罹患しやすい個体において難聴を予防するための方法がある。特定の実施形態において、老化、大きな音、頭部外傷、感染、疾患、遺伝子状態、奇形、及びこれらの組み合わせ等により、個体は、難聴に罹患しやすい。難聴は部分的又は完全なものであり得、片耳又は両耳が罹患している場合がある。
【0032】
[0032]特定の実施形態において、脳外傷(TBI-TBIによる急性及び慢性状態)及び/若しくは脳震盪を治療するための方法、又は脳外傷(TBI-TBIによる急性及び慢性状態)及び/若しくは脳震盪を、予防を必要とする個体において予防する方法がある。TBI又は脳震盪は、事故、及び外傷等の結果によるものであり得る。本方法の特定の実施形態において、グリシン及び/又はNAC(又はこれらの機能性誘導体)の有効量を、TBI及び/若しくは脳震盪の発症前並びに/又はその発症後に、個体に提供する。
【0033】
[0033]特定の実施形態において、耳毒性(例えば、薬剤(例えば抗生物質、アミノグリコシド、ループ利尿薬、白金系化学療法剤(シスプラチン等)、非ステロイド性抗炎症薬)によるもの)、耳鳴、眩暈、めまい、及び/又はメニエール病が、個体において、グリシン及び/又はNAC(又はこれらの機能性誘導体)の有効量を提供することにより、治療又は予防する。状態は、グリシン及び/又はNAC(又はこれらの機能性誘導体)の不在下では、可逆的かつ一時的、又は不可逆的かつ永続的であり得る。
【0034】
[0034]特定の実施形態において、本開示の組成物は、肝臓における脂質代謝に対して有益である。効果はグルタチオン、n-アセチルシステイン及び/又はグリシンに由来し得、また、特定の実施形態において、これらの構成成分のそれぞれ個別かつ/又は集合的な寄与がある。
【0035】
[0035]本開示の実施形態において、方法及び/又は組成物は、ヒト、ウマ、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、及びブタ等を含む任意の哺乳動物において利用される。
【0036】
[0036]一実施形態において、1種以上の医学的状態又は身体的状態に対して個体を治療する方法があり、グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン又はその機能性誘導体と、を含む組成物の有効量を個体に提供するステップを含み、医学的状態又は身体的状態は、(a)筋低下、(b)無重力の有害作用、(c)臓器障害、(d)心機能又は不全、(e)癌予防、(f)肥満及び/又は糖尿病の後の発症を予防するための胎児の代謝プログラミング、(g)妊娠糖尿病における母体及び胎児の健康、(h)運動能力及び身体機能、(i)肥満、(j)寿命、(k)肝毒性、(l)神経変性疾患、(m)腎症の予防、(n)アセトアミノフェン毒性の予防、(o)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、(p)アルコールによる二日酔い、(q)難聴、(r)アルツハイマー病、(s)パーキンソン病、(t)骨粗鬆症、(u)高血圧、(v)多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、(w)粥状動脈硬化、(x)冠動脈疾患、(y)ストレス後の心筋障害、(z)ワクチン接種後の不十分な免疫、(aa)嚢胞性線維症、(bb)脳外傷、(cc)脳震盪、(dd)耳毒性、(ee)耳鳴、(ff)眩暈、(gg)めまい、(hh)メニエール病、(ii)外傷後の回復及び生存、(jj)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、(kk)神経認知機能、並びに(ll)これらの組み合わせからなる群から選択される。
【0037】
[0037]特定の実施形態において、グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン又はその機能性誘導体とは、同一の組成物又は異なる組成物中で、個体に提供される。グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン又はその機能性誘導体とは、個体に経口で提供することができる。
【0038】
[0038]特定の実施形態において、グリシン誘導体は、D-アリルグリシン、N-[ビス(メチルチオ)メチレン]グリシンメチルエステル、Boc-アリル-Gly-OH(ジシクロヘキシルアンモニウム)塩、Boc-D-Chg-OH、Boc-Chg-OH、(R)-N-Boc-(2’-クロロフェニル)グリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、(R)-N-Boc-4-フルオロフェニルグリシン、Boc-D-プロパルギルグリシン、Boc-(S)-3-チエニルグリシン、Boc-(R)-3-チエニルグリシン、D-α-シクロヘキシルグリシン、L-α-シクロプロピルグリシン、N-(2-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、N-(4-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、Fmoc-N-(2,4-ジメトキシベンジル)-Gly-OH、N-(2-フロイル)グリシン、L-α-ネオペンチルグリシン、D-プロパルギルグリシン、サルコシン、Z-α-ホスホノグリシントリメチルエステル、及びこれらの混合物からなる群から選択される。グリシン及びN-アセチルシステインは、例えば、N-アセチルシステイニルグリシン又はシステイニルグリシン等のジペプチドに含まれる場合がある。
【0039】
[0039]一実施形態において、個体に対し、薬物誘発性のミトコンドリアの機能不全若しくは機能障害を中和又は緩和する方法があり、個体に、グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン又はその機能性誘導体と、を含む、組成物の有効量を提供するステップを含む。特定の一実施形態において、薬物誘発性のミトコンドリアの機能不全又は機能障害は抗ウイルス薬によるものであり、抗ウイルス薬は、HIV又は肝炎に対するもの等である。特定の一実施形態において、薬物は、抗痙攣薬、向精神薬(抗うつ薬、抗精神病薬、バルビツレート、抗不安薬)、抗コレステロール薬、鎮痛薬/抗炎症薬、抗生物質、抗不整脈薬、ステロイド、抗ウイルス薬、抗レトロウイルス薬、抗癌剤、抗糖尿病薬、β遮断薬である、又は、免疫化である。薬物は、バルプロエート(デパコート)、アミトリプチリン(エラビル)、アモキサピン、フルオキセチン(プロザック)、シタロプラム(シプラミル)、クロルプロマジン(トラジン)、フルフェナジン(プロリキシン)、ハロペリドール(ハルドール)、リスペリドン(リスペルドール)、フェノバルビタール、セコバルビタール(セコナール)、ブタルビタール(フィオルナール)、アモバルビタール(アミタール)、ペントバルビタール(ネンブタール)、アルプラゾラム(ザナックス)、ジアゼパム(バリウム、ダイアスタット)、スタチン、胆汁酸-コレスチラミン、シプロフィブラート、ASA(アスピリン)、アセトアミノフェン(タイレノール)、インドメタシン(インドシン)、ナプロキセン(アリーブ)、ジクロフェナク、テトラサイクリン、ミノサイクリン、クロラムフェニコール、アミノグリコシド、リネゾリド(ザイボックス)、アミオダロン、インターフェロン、ジドブジン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、シス-プラチナム、タモキシフェン、メトホルミン、又はこれらの混合物であり得る。
【0040】
[0040]下記の本発明の「発明を実施するための形態」を一層よく理解できるよう、前述の内容は、本発明の特徴及び技術的利点を広範囲に概説した。本発明の請求項の主題をなす、本発明の更なる特徴及び利点を以下に記載する。概念及び開示された特定の実施形態は、本発明と同一の目的を実施するための変更又は他の構造の設計の基礎として、容易に利用され得るものと理解されたい。また、このような同等の構成は、添付の「特許請求の範囲」に示した本発明から逸脱しないものと認識されたい。本発明の特徴であると考えられる新規の特徴は、その構成と操作の方法の両方に関し、更なる目的及び利点と共に、添付の図と共に検討することにより、以下の記載から一層よく理解されるであろう。しかしながら、図のそれぞれは、例証及び説明のみを目的として提示されたものであり、本発明の範囲の規定を意図したものではないことを、明確に理解されたい。
【0041】
[0041]本発明のより完全な理解のため、ここで、以下の説明を、添付の図面と併せて参照する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】グルタチオン欠乏と特定の身体的状態との代表的な関係を示した図である。
【
図2】対照と比較した、高齢のHIV患者におけるGSHの部分合成速度(fractionalsynthesis rate)を示すグラフ図である。
【
図3】対照と比較した、高齢のHIV患者におけるGSH濃度を示すグラフ図である。
【
図4】対照と比較した、高齢のHIV患者における絶食時のエネルギー源の酸化を示すグラフ図である。
【
図5】N-アセチルシステイン及びグリシンの経口補給による補給前後の高齢のHIV患者におけるC反応性タンパク質レベルを示すグラフ図である。
【
図6】N-アセチルシステイン及びグリシンを摂取したマウスの寿命を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
I.定義
[0048]本明細書で使用する場合、「a」又は「an」は、1以上を意味し得る。本「特許請求の範囲」で使用する場合、「含む(comprising)」と共に使用する場合、単語「a」又は「an」は、1以上を意味し得る。本明細書で使用する場合、「別の(another)」は、少なくとも第2のもの以上を意味し得る。
【0044】
[0049]本明細書で使用する場合、特定の実施形態における用語「糖尿病による合併症」は、例えば、糖尿病性腎症、神経障害、網膜症、糖尿病性肥満、糖尿病性脂質異常症、心血管代謝症候群、及びこれらの組み合わせを指す。
【0045】
[0050]本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、個体における医学的状態の少なくとも1つの症状を改善するのに必要な、グリシン及びn-アセチルシステイン(又はこれらの機能性誘導体)の量を指し、特定の実施形態において、医学的状態は、グルタチオンの不十分なレベルが直接又は間接的な原因となり、個体において存在する。特定の実施形態において、有効量は、個体においてグルタチオンレベルを上昇するために利用されるグリシン及びn-アセチルシステインの量を指す。
【0046】
[0051]本明細書で使用する場合、用語「高齢者」は、少なくとも60歳の年齢を超える個体を指す。
【0047】
[0052]本明細書で使用する場合、用語「酸化ストレス」は、活性酸素の産生と、反応性の中間体を解毒する、若しくは、その結果生じる生体系における損傷を容易に修復する能力とが不均衡である個体、又は個体の細胞若しくは組織における状態を指す。細胞内の本来の還元環境は、一定の代謝エネルギーの流入を用いるプロセスによって維持され、この正常な酸化還元状態の障害が、例えば、タンパク質、脂質、及び/又はDNA等の細胞成分を損傷する、例えば、フリーラジカル及び過酸化物の産生により、有毒作用を来す場合がある。
【0048】
II.一般的な実施形態
[0053]本開示の実施形態は、システイン及びグリシン(例えば、システイニルグリシン)の血中レベルを上昇させ、細胞内のGSH、システイン、及び/若しくはグリシンを上昇させ、かつ/又はCRPレベルを低下させる方法を含む。いくつかの実施形態において、作用機序は、システイン及び/又はグリシンを含むが、GSHとは無関係である。
【0049】
[0054]本発明の特定の実施形態において、個体における不十分なGSHレベルによって直接又は間接的に引き起こされる医学的状態の治療のための方法及び組成物がある。個体は任意の年齢又は健康状態であり得るが、特定の実施形態において、個体は高齢者であり、不十分なGSHレベルと直接若しくは間接的に関連した特定の医学的状態若しくは身体的状態に罹患しやすい、又は、不十分なGSHレベルと直接若しくは間接的に関連した医学的状態若しくは身体的状態を有する。このような場合における個体に提供される組成物は、特に、個体においてグルタチオンレベルの上昇を促進するための前駆体アミノ酸として、少なくともグリシン及びn-アセチルシステインを含む。赤血球GSHを測定することができる、又は、例えば、筋生検により、細胞内GSHレベルを測定することができる。細胞内GSH測定アッセイは、当該技術分野において既知である(Rahman et al.,2007)。
【0050】
[0055]特定の実施形態において、システイン、グリシン、及び/若しくはGSHレベルの低下によって直接若しくは間接的に引き起こされる1種以上の医学的状態を、グリシン若しくはその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン若しくはその機能性誘導体と、の有効量によって治療又は予防する。特定の実施形態において、医学的状態又は身体的状態は、以下のうちの1種以上である:(a)筋低下、(b)無重力の有害作用、(c)臓器障害、(d)心機能又は不全、(e)癌予防、(f)肥満及び/又は糖尿病の後の発症を予防するための胎児の代謝プログラミング、(g)妊娠糖尿病における母体及び胎児の健康、(h)運動能力及び身体機能、(i)肥満、(j)寿命、(k)肝毒性、(l)神経変性疾患、(m)腎症の予防、(n)アセトアミノフェン毒性の予防、(o)非アルコール性脂肪性肝炎、(p)アルコールによる二日酔い、(q)難聴、(r)アルツハイマー病、(s)パーキンソン病、(t)骨粗鬆症、(u)高血圧、(v)多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、(w)粥状動脈硬化、(x)冠動脈疾患、(y)ストレス後の心筋障害、(z)ワクチン接種後の不十分な免疫、(aa)嚢胞性線維症、(bb)脳外傷、(cc)脳震盪、(cc)脳震盪、(dd)耳毒性、(ee)耳鳴、(ff)眩暈、(gg)めまい、(hh)メニエール病、(ii)外傷後の回復及び生存(例えば、術後、敗血症後、事故若しくは身体的暴行等による鈍的外傷又は穿通性外傷後)、(jj)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、並びに(kk)これらの組み合わせ。個体は、このような状態(複数可)であると診断され得る、又は、このような状態(複数可)を有する疑いがあり得る、又は、このような状態(複数可)に罹患しやすい場合がある。個体は、本開示の方法に加え、他の単数又は複数の療法によって治療される場合がある。
【0051】
[0056]特定の実施形態において、GSH、システイン、及び/又はグリシンの細胞内レベルを上昇させるという明確な目的のために、かつ、個体が、このようなレベルが直接又は間接的に関連した状態に罹患していると判定されているため、個体は、本明細書に記載のような、組成物の有効量を提供される。特定の場合、本開示の方法は、このような医学的状態(複数可)の診断を含む。
【0052】
III.医薬組成物
[0057]特定の実施形態において、本発明は、細胞内GSHレベルの低下に直接若しくは間接的に関連した医学的状態若しくは身体的状態の発症の治療、予防、又は遅延において使用するための医薬組成物を対象とする。特定の実施形態において、組成物は、グリシン(又はその機能性誘導体)及びN-アセチルシステイン(又はその機能性誘導体)からなる、から本質的になる、又は、これらを含む。グリシンの機能性誘導体は、個体において、それ自体又はN-アセチルシステイン(又はその機能性誘導体)と共に細胞内GSHレベルを上昇させるのに有効なグリシン誘導体と定義される。N-アセチルシステインの機能性誘導体は、個体において、それ自体又はグリシン(又はその機能性誘導体)と共に細胞内GSHレベルを上昇させるのに有効なN-アセチルシステイン誘導体と定義される。特定の実施形態において、「システイン」誘導体、すなわち、個体において、それ自体又はグリシンと共に有効なシステインの機能性誘導体が用いられる場合がある。
【0053】
[0058]グリシン構成成分及びN-アセチルシステイン構成成分は、共に又は別個に提供することができる。特定の実施形態において、組成物は、N-アセチルシステイニルグリシン;システイニルグリシン及びその全ての形態、例えば、L-システイニルグリシン等を含む。グリシン誘導体の例としては、少なくとも、D-アリルグリシン、N-[ビス(メチルチオ)メチレン]グリシンメチルエステル、Boc-アリル-Gly-OH(ジシクロヘキシルアンモニウム)塩、Boc-D-Chg-OH、Boc-Chg-OH、(R)-N-Boc-(2’-クロロフェニル)グリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、Boc-L-シクロプロピルグリシン、(R)-N-Boc-4-フルオロフェニルグリシン、Boc-D-プロパルギルグリシン、Boc-(S)-3-チエニルグリシン、Boc-(R)-3-チエニルグリシン、D-α-シクロヘキシルグリシン、L-α-シクロプロピルグリシン、N-(2-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、N-(4-フルオロフェニル)-N-(メチルスルホニル)グリシン、Fmoc-N-(2,4-ジメトキシベンジル)-Gly-OH、N-(2-フロイル)グリシン、L-α-ネオペンチルグリシン、D-プロパルギルグリシン、サルコシン、及びZ-α-ホスホノグリシントリメチルエステル等が挙げられる。
【0054】
[0059]特定の実施形態において、医薬組成物は、N-アセチルシステイン(NAC)、L-グリシン、L-グリシンエチルエステル、及び/又はジジペプチドの形態、例えば、システイニルグリシンを含む。
【0055】
[0060]特定の実施形態において、特定の期間にわたり、グリシンは1.33mmol/kg/日で投与され、NACは0.83mmol/kg/日で投与される。治療期間は、例えば、1日以上、1週間、2週間、3週間、1箇月間、2箇月間、3箇月間、4箇月間、5箇月間、6箇月間、1年間、2年間、5年間、10年間、15年間、20年間、25年間、及び30年間等にわたって継続する場合がある。ある場合には、治療は、個体の残りの生涯にわたって継続する。特定の実施形態において、投与は、医学的状態の検出可能な症状が残存しなくなるまで実施される。特定の実施形態において、投与は、少なくとも1つの症状の検出可能な改善が発生するまで、また、更なる場合においては、寛解が継続するまで実施される。
【0056】
[0061]本発明が本発明の化合物による治療を対象とする場合、本発明の化合物の投与は、必要に応じ好適な医薬品添加物と共に、許容される投与方式のいずれかにより、実施することができる。化合物は、薬学的に許容される添加物中に含めることができ、薬学的に許容される添加物は、適宜動物に投与された際、有害な、アレルギー性及び/若しくは他の不都合な反応を起こさない分子実体並びに/又は組成物とみなすことができる。添加物としては、任意及び/又は全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌薬及び/又は抗真菌薬、等張化剤及び/又は吸収遅延剤等が挙げられる。医薬活性物質へのこのような媒体及び/又は物質の使用は、当該技術分野で周知である。任意の従来の媒体及び/又は物質が有効成分と不適合である場合を除き、治療組成物中でのその使用が企図される。
【0057】
[0062]したがって、投与は、例えば、静脈内、局所、皮下、経皮、筋肉内、経口、関節内、非経口、腹膜、鼻腔内、膀胱内、又は吸入によるものであり得る。したがって、投与の好適な部位としては、これらに限定されるものではないが、皮膚、気管支、胃腸管、肛門、膣、目、膀胱、及び耳が挙げられる。製剤は、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、坐剤、停留浣腸剤、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤、エアゾール剤等の、固形、半固形、凍結乾燥粉末の形態、又は溶液の剤形をとることができ、正確な投与量の簡便な投与に好適な単位剤形が好ましい。
【0058】
[0063]組成物は、典型的には、従来の医薬品担体又は添加物を含み、更に他の薬剤、担体、及び助剤等を含む場合がある。好ましくは、組成物は、約5重量%~75重量%が本発明の単数又は複数の化合物で、残りは好適な医薬品添加物からなる。適切な添加物を、当該技術分野で周知の方法、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18TH ED.,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.(1990)により、特定の組成物及び投与経路に適応させることができる。
【0059】
[0064]経口投与の場合、このような添加物としては、医薬品グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石、セルロース、ブドウ糖、ゼラチン、スクロース、及び炭酸マグネシウム等が挙げられる。組成物は、溶液、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、及び徐放性製剤等の形態をとることができる。
【0060】
[0065]いくつかの実施形態において、医薬組成物は、丸剤、錠剤又はカプセル剤の形態をとり、したがって、組成物は、生物学的に活性な複合物の他に、以下のうちのいずれかを含有し得る:賦形剤、例えば、乳糖、スクロース、及び第二リン酸カルシウム等;崩壊剤、例えば、デンプン又はその誘導体等;滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム等;結合剤、例えば、デンプン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、セルロース及びその誘導体等。
【0061】
[0066]製剤の活性化合物は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)の担体(例えば、PEG 1000[96%]及びPEG 4000[4%])中に配された約0.5%~約50%の本発明の化合物を含む坐剤中に配合することができる。
【0062】
[0067]液剤組成物は、化合物(約0.5%~約20%)と、任意に含まれる医薬品助剤とを、例えば、食塩水(例えば、0.9%w/v塩化ナトリウム)、デキストロース水溶液、グリセロール、及びエタノール等の担体中に溶解又は分散させることによって調製し、例えば、静脈内投与用の溶液又は懸濁剤を形成することができる。活性化合物は、停留浣腸剤中に配合することもできる。
【0063】
[0068]所望により、投与される組成物はまた、少量の非毒性の補助物質、例えば、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤(例えば、酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、又はオレイン酸トリエタノールアミン等)を含有する場合がある。
【0064】
[0069]局所投与の場合、組成物は、ローション又は経皮吸収パッチ等の任意の好適な形態で投与される。吸入による投与の場合、組成物は、乾燥粉末(例えば吸入療法)として、又は、液剤の形態でネブライザにより投与することができる。
【0065】
[0070]このような剤形を調製する方法は、当業者には既知である、又は、明らかとなる。例えば、上記のRemington’s Pharmaceutical Sciences等の刊行物を参照されたい。投与される組成物は、いずれの場合も、プロドラッグ及び/又は活性化合物(複数可)の量を、本発明の教示に従って投与された際に、治療される状態の緩和に対して医薬品として有効な量で含有する。
【0066】
[0071]概して、本発明の化合物は、治療有効量、すなわち、治療をもたらすのに十分な用量で投与され、この量は、治療される個体及び状態に応じて異なる。典型的には、治療上有効な1日用量は、薬物の0.1~100mg/kg体重/日である。ほとんどの状態が、総用量約1~約30mg/kg体重/日、すなわち、70kgの個人に対し約70mg~2100mg/日の投与に対して効果を示す。
【0067】
[0072]複合体の安定性は、ポリペプチド鎖中のD-アミノ酸残基及び他のペプチド模倣部分等の化学的修飾により、更に調整することができる。更に、複合体の安定性はまた、非天然の炭水化物残基によって高められる場合がある。
【0068】
[0073]グリシン及びN-アセチルシステイン構成成分は、特定の比で配合され得る。特定の実施形態において、製剤は、構成成分を、以下の代表的な比で含み得る:例えば、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:12、1:15、1:20、1:25、1:30、1:35、1:40、1:45、1:50、1:55、1:60、1:65、1:70、1:75、1:80、1:85、1:90、1:95、1:100、1:150、1:200、1:300、1:400、1:500、1:600、1:750、1:1000、1:10,000等。特定の実施形態において、製剤は、構成成分を、製剤に対する以下の百分率で含み得る(それぞれについて同じ又は異なる百分率):例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、15%、20%、25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、又は99%。
【0069】
[0074]グリシン(又は機能性誘導体)及びN-アセチルシステイン(又は機能性誘導体)は、同じ組成物中で、又は、異なる組成物中で投与され得る。グリシン(又は機能性誘導体)及びN-アセチルシステイン(又は機能性誘導体)が別々に提供される実施形態において、これらの別個の投与についてのレジメンは、任意の好適な種類のものであり得る。特定の実施形態において、グリシンは、N-アセチルシステインの前、N-アセチルシステインと同時、又はN-アセチルシステインの後に、個体に提供される。別個の投与は、同一の投与経路であるが、異なる時点を包含し得る、又は、異なる投与経路であり得る。
【0070】
IV.併用療法
[0075]あるいは、本発明の治療は、数分~数週間の範囲で、別の治療に先行する、後に続く、又は、これらの両方の場合がある。本発明の組成物(複数可)及び他の薬剤が個体に別々に提供される実施形態において、本発明の組成物及び他の薬剤が、依然として、細胞に対して併用効果を有利に発揮できるよう、概して、各投与の間に著しい期間が過ぎることのないよう留意する。このような例では、両方の療法が、互いに約12~24時間以内、より好ましくは、互いに約6~12時間以内に投与され得ることが企図される。しかしながら、一部の状態では、治療期間を著しく延長することが望ましい場合があり、それぞれの投与の間に、数日(2、3、4、5、6又は7)~数週間(1、2、3、4、5、6、7は8)が経過する。
【0071】
[0076]様々な組み合わせを用いることができ、例えば、本発明の治療を「A」とし、糖尿病治療(例示目的としてのみ)等の本発明の医学的状態に対する第2の治療剤を「B」とすると、以下のようになる:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0072】
[0077]本発明の発明組成物の患者への投与は、薬物の投与についての一般的な手順に従い、該当する場合には、分子の毒性を考慮する。必要に応じ、治療周期が繰り返されることが予想される。また、各種の標準的な療法及び外科的介入が、記載の療法との併用で適用され得ることも企図される。
【0073】
V.キット
[0078]本発明の組成物に関連した療法キットは、本発明の他の一態様を含む。このようなキットは、概して、好適な容器手段中に、本発明の発明組成物を含む。キットは、本発明の組成物を含む単一の容器手段を有する場合がある、又は、キットは、本発明の組成物用と、このようなキット内に含まれ得る他の試薬用との、別個の容器手段を有する場合がある。
【0074】
[0079]キットの構成成分は、液体溶液(複数可)として、又は、乾燥粉末(複数可)として提供される場合がある。構成成分が液体溶液で提供される場合、液体溶液は、水溶液又は非水溶液であり、無菌の水溶液又は非水溶液が特に好ましい。試薬又は構成成分が乾燥粉末として提供される場合、粉末は、好適な溶媒の添加により、再構成することができる。溶媒はまた、別の容器手段でも提供され得ることが想定される。
【0075】
[0080]容器手段は、概して、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、瓶、注射器及び他の容器手段を含み、これらの中に組成物を入れることができ、好ましくは、適切に分割することができる。第2の薬剤が提供される場合、キットはまた、概して、この薬剤を入れることができる、第2のバイアル又は他の容器を含む。本発明のキットはまた、典型的には、市販用に、薬剤の容器を厳重に制限して含む手段を含む。このような容器としては、例えば、所望のバイアルがその中で保持される、射出成形又はブロー成形されたプラスチック製容器を挙げることができる。
【0076】
[0081]本発明のキット中で、グリシン(又はその機能性誘導体)及びN-アセチルシステイン(又はその機能性誘導体)は、別々に、又は、混合物中で共に提供することができる。
VI.実施例
[0082]以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために記載する。実施例に開示された技術は、本発明者らが、本発明の実施において良好に機能することを見出した本発明の手法に従うものであり、したがって、その実施のための好ましい様式を構成するものとみなすことができることを、当業者において理解されたい。しかしながら、当業者においては、本開示を考慮することにより、開示された特定の実施形態において多くの変更を行うことが可能であり、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、同様又は類似の結果がなおも得られることを理解されたい。
【実施例】
【0077】
実施例1
老化におけるサルコペニック肥満の代謝的基礎:グルタチオンの役割
[0083]高齢者は、過体重となる、又は、肥満を発症するリスクが最も高い。この集団における筋量低下の罹患率と共に、高齢者は、「サルコペニック肥満」の表現型を発症し、筋力の低下及び生活の質の低下を伴うが、発症機序は十分に理解されておらず、有効な療法がない。ヒト及びげっ歯類における橋渡しの研究の結果、最も豊富な内因性抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の老化における欠乏が、ミトコンドリアの機能不全に関連することが見出され、いくつかの実施形態では、これによって、高齢者におけるサルコペニック肥満発症の機構の説明がもたらされる。高齢者におけるGSH欠乏は、その前駆体アミノ酸であるシステイン及びグリシンの利用可能量が限定されていることによる、合成の減少が原因となって起こる。これらのアミノ酸の短期間の補給は、これら自体の欠乏を是正し、かつGSHの細胞内合成及び濃度を回復させるには十分である。絶食した健康な若年のヒトの対照に比べ、絶食したGSH欠乏の高齢者は、炭水化物の酸化の増加(筋低下に寄与し得る)と共に、ミトコンドリアの脂肪酸の酸化の重篤な障害(脂肪貯蔵を促進し得る)を有した。絶食状態におけるミトコンドリアの優先的なエネルギー源は脂肪酸であり、グルコースではないことから、絶食時のエネルギー源優先度におけるこの異常な逆転は、ミトコンドリアのエネルギー使用の障害を示唆している。興味深いことに、前駆体のシステイン及びグリシンの2週間にわたる補給による、これらの高齢者におけるGSH合成の回復の結果、絶食時のミトコンドリアの脂肪酸及び炭水化物の酸化は、若年の対照で見られた水準まで完全に回復した。これらのデータに基づき、ミトコンドリアの脂肪酸の酸化の障害により、エネルギー需要を満たすために、エネルギー源の酸化がグルコースに移行しているものと考えられる。絶食状態では、グルコースは、筋タンパク質が大きく寄与する糖新生によって供給されるため、この結果、筋タンパク質が(よって筋量も)低下し、並びに、システイン及びグリシン(既知の糖新生アミノ酸)が欠乏し、GSH欠乏を更に拡大する。筋量の低下は、次いで筋力の低下を来し得る。システイン及びグリシンの補給は、GSH欠乏を是正し、この悪循環を断ち切り、ミトコンドリアの脂肪酸の酸化を是正し(よって総体脂肪を低下させる)、炭水化物の酸化を低下させ(よって筋タンパク質の低下を回避し、除脂肪量を増加させる)、筋力を増加させ得る。この考察は、生物学的老化を有するHIV患者における試験により支持される。この試験において、システイン及びグリシンの補給(高齢者の試験と同一の用量及び期間を用いた)によるGSH欠乏の改善は、2週間の期間内で、絶食時のミトコンドリアのエネルギー源の酸化の回復、総体脂肪量の3.5ポンドの低下、除脂肪量の1.9ポンドの増加、並びに利き腕及び非利き腕の筋力の顕著な増加を伴った。
【0078】
実施例2
サルコペニア、サルコペニック肥満、悪液質及び筋消耗の予防及び治療
[0084]サルコペニアは、老化に関連した骨格筋量、質、及び筋力の退行性の低下である。サルコペニアはまた、不使用及び無重力又は無重力に付随する場合がある。悪液質は、癌、HIVAIDS、COPD、神経変性疾患(多発性硬化症等)、うっ血性心疾患、結核及び腎疾患といった、様々な慢性疾患を伴う、体重減少、筋萎縮症、衰弱及び疲労を特徴とする、複雑な代謝消耗症候群である。サルコペニアは、体脂肪量の増加、すなわち、サルコペニック肥満に関連する場合があり、悪液質は体脂肪量の低下に関連する、又は、関連しない場合がある。
【0079】
[0085]これらの状態は、システイン及びグリシンを提供することにより、細胞内GSHを上昇させ、哺乳動物における筋肉の健康を改善するための、予防及び治療の主要な標的となる。その前駆体であるシステイン及びグリシンを投与することによるGSHの改善は、高齢のHIV感染患者において、ミトコンドリアのエネルギー源の酸化の生理学的パターンの改善、総体脂肪、腹囲及びインスリン抵抗性の低下、並びに除脂肪体重及び筋力の増加に関連し、本方法が、サルコペニア、サルコペニック肥満、及び悪液質を予防し得る、かつ、回復に向かわせ得ることを示唆している。
【0080】
実施例3
薬物及び他の毒性に対する予防及び治療
[0086]例えば、アセトアミノフェン及び抗レトロウイルス薬といった、様々な薬物が、ミトコンドリア毒性及び/又は肝毒性を引き起こす。ミトコンドリア毒性を引き起こす特定の薬物としては、少なくとも、抗痙攣薬、向精神薬(抗うつ薬、抗精神病薬、バルビツレート、及び抗不安薬)、抗コレステロール薬、鎮痛薬/抗炎症薬、抗生物質、抗不整脈薬、ステロイド、抗ウイルス薬、抗レトロウイルス薬、抗癌剤、抗糖尿病薬、β遮断薬、及び免疫化が挙げられる。具体的な薬物としては、バルプロエート、アミトリプチリン、アモキサピン、フルオキセチン、シタロプラム、クロルプロマジン、フルフェナジン、ハロペリドール、リスペリドン、フェノバルビタール、セコバルビタール、ブタルビタール、アモバルビタール、ペントバルビタール、アルプラゾラム、ジアゼパム、スタチン、胆汁酸-コレスチラミン、シプロフィブラート、フェノフィブラート、アスピリン、アセトアミノフェン、インドメタシン、ナプロキセン、ジクロフェナク、テトラサイクリン、ミノサイクリン、クロラムフェニコール、テノホビル、ダルナビル、リバビリン、テラプレビル、アミノグリコシド、リネゾリド、アミオダロン、インターフェロン、ジドブジン、ドキソルビシン、シス-プラチナム、タモキシフェン、及びメトホルミンが挙げられる。
【0081】
[0087]特定の実施形態において、NAC及び/又はグリシンを個体に投与し、ミトコンドリア毒性及び/又は肝毒性の有害作用を予防、治療、又は軽減する。特定の実施形態において、酸化ストレス及び/又はGSH欠乏に関連した他の毒性が、本開示の方法によって治療される。
【0082】
[0088]特定の実施形態において、肝毒性と関連した、アセトアミノフェン毒性を予防及び治療する方法がある。肝毒性は、薬物開発中、また、多くの確立した薬物の使用に対し、重大な問題である。例えば、アセトアミノフェンの過剰投与は、現在、米国における急性肝不全の最も多い原因となっている。肝ミトコンドリアは、反応性代謝物の形成が直接又は間接的に関与する、薬物毒性の重大な標的である。アセトアミノフェン(タイレノール(登録商標)、パラセタモール、N-アセチル-p-アミノフェノール;APAP)は、一般市販薬の鎮痛解熱薬である。アセトアミノフェンはまた、ヒドロコドン、プロポキシフェン、コデイン、及びオキシコドンと、多くの処方箋麻薬と併用されることも多い。治療用量において、アセトアミノフェンは、アスピリン及びイブプロフェンに類似の鎮痛解熱作用を有するが、治療レベル域は非常に狭い。アセトアミノフェンは、推奨範囲内の用量においてであっても、急性肝不全の主因であり、毎年、中毒管理センターへの何万もの通話及び入院、並びに何百もの死亡の原因となっている。アルコール摂取量及び絶食(疾患、食欲不振、又は栄養障害による)は両方とも、アセトアミノフェンによる肝損傷のリスクを大きく増加させる。
【0083】
[0089]高齢、アルコール摂取、及び絶食(例えば、疾患、食欲不振、又は栄養障害による)、並びにアセトアミノフェン自体の代謝産物ですら、グルタチオン、肝臓がアセトアミノフェンを解毒するのを助ける抗酸化物質のレベルを低下させることにより、肝損傷のリスクを大きく増加させる。標準的な用量においても、ヒトにおけるアセトアミノフェンの代謝により、少量の毒性物質、N-アセチル-ベンゾキノンイミン(又はNAPQI)が放出される。過量により、更により大量のこの毒素が生成される。アセトアミノフェンの安全用量と危険用量との間は紙一重であり、すなわち、最大推奨用量の4g/日をわずかに超えた用量であっても、肝障害を引き起こし得る。
【0084】
[0090]肝臓において最適な細胞内グルタチオン濃度を利用することは、アセトアミノフェン毒性に対する、当然の予防及び治療法である。N-アセチルシステインの投与は、肝臓のグルタチオン貯蔵を維持するその能力により、アセトアミノフェンの過剰投与によって誘発される肝毒性に対する、主要な治療法である。特定の実施形態において、アセトアミノフェンの前に、アセトアミノフェンと共に、かつ/又はアセトアミノフェンの後に、NAC/グリシンによって肝GSHレベルを上昇させることにより、アセトアミノフェンの毒作用を、規定水準にまで緩和する。
【0085】
実施例4
身体パフォーマンスの改善
[0091]本開示の方法及び/又は組成物は、身体パフォーマンスの改善のため、運動の効果を高めることによる筋量低下の予防のため、激しい運動からの回復のため、又は老化及び筋低下を加速させる非疾患状態によって引き起こされる除脂肪筋量の低下を、この低下がなければ身体が健康な若年の個体(宇宙飛行士(無重力状態)、マラソンランナー、消防士、一流アスリート等)において回復に向かわせるために、個体に提供される場合がある。更に、持久的な活動は、酸化ストレスを特に増加させ、これは、細胞内GSHの欠乏を既に有している可能性がある高齢のアスリートにおいて、特に懸念となる場合がある。したがって、特定の実施形態において、本開示の方法は、運動の酸化ストレスを予防及び/又は治療する。
【0086】
実施例5
寿命
[0092]老化マウスへのシステイン(n-アセチルシステインとして)及びグリシンの補給給餌は、抗酸化物質のグルタチオンレベルを上昇させるのに十分である。これらの老化マウスにおけるグルタチオンの回復の結果、ミトコンドリアのエネルギー源の酸化が顕著に回復した。これらの有益な変化は、寿命に影響を及ぼすのに有用であるため、マウスの給餌におけるシステイン(n-アセチルシステインとして)及びグリシンの補給が、マウスの寿命を延長するか否かについて試験した。試験は以下のように実施した:60週齢のマウスを2群(各群、マウス7匹(雌2匹及び雄5匹))で試験し、両群とも、性別、週齢及び体重を一致させた。1群は、通常の飼料を自由にとることができ、第2の群は、更にシステイン(n-アセチルシステインとして)及びグリシンを含有する飼料が給餌された。しかしながら、両方の飼料の含量は、飼料1g当たりのカロリー及びタンパク質窒素の量が同一であった。すなわち、両方の飼料は、等カロリーかつ等窒素であった。飼料の重量をモニターしたところ、摂餌量は両群で同様であった。動物には、それぞれの飼料及び水を自由にとらせ、寿命を主要評価項目として記録した。結果によると、システイン及びグリシンを補充した飼料を摂取したマウスは、平均で34週間長く生存し、これは35%の寿命の延長に相当する(
図6)。
【0087】
実施例6
高齢者におけるHIV
[0093]HIVに感染した50歳超の患者は、老人病の非HIV患者と同等の、筋量の低下、筋力の低下及び機能制限を伴った、加速度的な機能低下を有することが報告されているが、これらの不良の発症機序は十分に理解されておらず、有効な療法がない。このことを認識し、疾病管理センター(Centers for Disease Control)は、HIV患者における「高齢」についてのカットオフが、50歳で開始することを示唆している。
【0088】
[0094]本開示の特定の実施形態において、高齢のHIV感染患者における機能低下は、ミトコンドリアの機能障害に関連している。ミトコンドリアは、有害な活性酸素種及び酸化ストレスに対する防御を、抗酸化物質に依存している。グルタチオン(GSH)は、最も豊富な内因性の細胞内抗酸化物質であり、ミトコンドリアの抗酸化防御の重要な成分であるが、HIV患者では欠乏していることが知られている。高齢のHIV患者におけるGSH欠乏に寄与している機序に関しては、2つのその前駆体アミノ酸であるシステイン及びグリシンの欠乏が原因となって起こるGSH合成の激しい低下のために、このGSHの欠乏が起こる。2週間のシステイン及びグリシンの経口栄養素補給により、これらのアミノ酸の欠乏は是正され、GSH合成は増加し、細胞内GSH濃度は改善し、ROSレベル及び酸化的損傷は低下した。生理学的状態下では、絶食状態において選択されるエネルギー源は脂肪酸(FA)であり、グルコースではない。GSH欠乏の高齢のHIV患者は、絶食時のFA酸化が著しく損なわれ、絶食時のグルコースの酸化が亢進し、ミトコンドリアの不良を示唆した。GSH濃度の改善の結果、増加した絶食時のミトコンドリアのFAの酸化が著しく増加し、グルコースの酸化は低下した。これらの変化は、除脂肪体重及び筋力の顕著な増加を伴った。興味深いことに、これらの患者の筋力は、GSHレベルが上昇した際に顕著に増加した。すなわち、GSH欠乏状態における患者の筋力が、80歳の非HIVのヒトの筋力と同等であったのに対し、GSHの上昇に伴い、患者の筋力は、70歳のヒトの筋力まで増加した。実際上、これらの高齢のHIV患者は、2週間の期間内で、GSHの改善に伴い、10歳「若く」なった。
【0089】
[0095]GSH欠乏が、高齢のHIV患者における筋量の低下、筋力の低下、機能制限及び生活の質の低下に寄与しているか否かを調査し、また、GSH欠乏を是正するためのシステイン及びグリシンの補給により、これらの欠乏が回復に向かうか否かについて試験することができる。例えば、50~60歳の10人の高齢のHIV患者及び10人の非HIV対照(年齢、性別及びBMIについて一致させた)において、非盲検試験を実施することができる。公表されたデータに基づくと、8人の被験者が症例数として必要であり、症例数の20%の自然減を考慮し、10人の被験者について試験することができる。全ての被験者をベースラインにおいて検査する場合があり、HIVの被験者のみ、システイン及びグリシンを12週間摂取した後、再度検査する場合がある。非HIVの対照に比べ、高齢のHIV患者におけるGSH欠乏が、絶食時のミトコンドリアのエネルギー源の酸化の障害及び筋タンパク質の低下と相関性があるか否か、また、システイン及びグリシンの補給により、これらの不良が回復に向かい得るか否かについて試験することができる。
【0090】
[0096]高齢のHIV患者に対する特定の実施形態において、GSH欠乏が原因となり、絶食時のミトコンドリアのエネルギー源の酸化が不完全となり、グルコースの酸化が上昇し、筋タンパク質が低下し、また、GSHの回復によって、これらの不良を回復に向かわせることができる。理論に束縛されるわけではないが、GSH欠乏は、絶食時のミトコンドリアのNEFAの酸化に障害を来し、エネルギー需要を満たすためにグルコースの酸化への移行を強いる。絶食状態におけるグルコースは、糖新生により、主として筋タンパク質から供給されるため、これが筋低下、並びにシステイン及びグリシン欠乏を引き起こす(
図1)。システイン及びグリシンを補給してGSH欠乏を是正することにより、絶食時のミトコンドリアのFA酸化を回復し、かつグルコースの酸化を低下させるため、糖新生に向かう筋タンパク質の低下を減少させることにより、筋量を増加させる。このような考察に関し、筋GSH、システイン及びグリシンレベルの測定(HPLC)、絶食時NEFA及びグルコースの酸化の測定(熱量測定)、筋タンパク質低下の測定(安定同位体測定)、筋量測定(DEXA、総体内カリウム及び窒素スキャン)を実施することができる。
【0091】
[0097]非HIVの対照に比べ、高齢のHIV患者におけるGSH欠乏が筋量の低下、筋力及び筋機能に相関性があるか否か、また、GSHの回復により、筋力及び筋機能が、対応する非HIVの対照と同等に回復するか否かについて試験することができる。特定の実施形態において、高齢のHIV患者におけるGSH欠乏が、筋力及び筋機能の低下の根源であり、GSHの回復により、筋力及び筋機能を、対応する非HIV群における水準まで改善することができる。このような考察において、筋力の測定(例えば、筋力測定による前腕の握力による)及び筋機能の測定(例えば、6分間の歩行による)を実施することができる。
【0092】
[0098]高齢のHIV患者は、ミトコンドリアの酸化が十分に機能せず、かつ筋タンパク質が低下しているが、発症機序は不明である。2015年までに、HIV患者の50%超が高齢者(50歳超)となることが予想されるため、これらの不良による合併症により、ヒトの負担及び医療費が増加する。本開示は、高齢のHIV患者において筋低下の予防及び回復、筋力の増加、筋機能及び生活の質の改善をもたらし、ますます増加する高齢のHIV患者の集団における医療費を軽減する。特定の実施形態において、GSH欠乏は、高齢のHIV患者における筋低下に対し、新規かつ極めて重要なリスクファクターであり、システイン及びグリシンの補給に基づいた療法を提供することにより、GSH欠乏を是正し、かつ筋低下を回復に向かわせることができる。特定の実施形態において、筋量及び筋力、運動能力を増加させ、生活の質を改善することができる。本開示の実施形態は、高齢のHIV患者におけるGSH欠乏をシステイン及びグリシンによって是正するための、新規で、簡便で、安全で、効果的かつ高価でない栄養摂取計画を提供する。
【0093】
[0099]特定の実施形態において、高齢のHIV患者において、GSH欠乏が、絶食時のミトコンドリアのエネルギー源酸化の障害、筋量、筋力、筋機能の低下の根源であり、加速度的な機能低下に寄与している。革新的な安定同位体トレーサーに基づく手順、熱量測定、DXA、総体内カリウム及び窒素スキャン、筋力測定、及び機能検査を用い、結果の測定を、全身レベル(NEFA及びグルコースの酸化、並びに筋低下)及び組織レベル(筋GSH及び筋タンパク質の低下)で実施することができ、システイン及びグリシンの補給により、効果が生じることが示される。本開示の実施形態は、システイン及びグリシンを用い、高齢のHIV患者におけるミトコンドリアのエネルギー源酸化における不良、筋タンパク質、筋量及び筋力の低下、並びに生活の質を是正するための、新規で、簡便で、安全で、効果的かつ高価でない栄養摂取計画を提供する。
【0094】
[0100]HIV及びGSH欠乏:RBC-GSHレベルを、若年(年齢30~40歳、n=10)及び高齢(年齢50~60歳、n=20)のHIV患者において測定し、低GSHが全ての患者に見出されたが、年齢は、更に低いGSH濃度と有意に関連していた(P<0.0001)。更なる分析によると、55歳のHIV患者は、70歳の非HIVのヒトと同等のGSHレベルを有していた。
【0095】
[0101]高齢のHIV患者におけるGSHの動態(
図2、
図3):GSHの動態を、8人の高齢のGSH欠乏のHIV患者(約55歳)において、GSH前駆体としてのシステイン及びグリシンの補給前後に検査した。GSHが豊富な非HIVの対照(n=8)の履歴と比較した結果によると、高齢のHIV患者においてシステイン及びグリシンの重篤な細胞内欠乏が示され、これは補給により改善した。示したとおり、補給前のHIV被験者のGSH-FSRレベルは58%低く、GSHレベルは57%低かった(対照との比較)。補給後、GSH-FSR(FSRは部分合成速度(fractional synthetic rate)である)及びGSHレベルは、それぞれ120%及び53%上昇した。
【0096】
[0102]高齢のHIV被験者における絶食時のエネルギー源酸化(
図4):16時間の絶食後、GSH欠乏の高齢のHIV被験者は、非HIV対照に比べ、NEFAの酸化が有意に低く、炭水化物(CARB)の酸化が有意に高かった。GSH合成の回復により、NEFAの酸化は46%増加し、炭水化物の酸化は49%低下した。(*=p<0.05、Φ=p<0.01)。
【0097】
[0103]GSHの改善により、除脂肪体重及び筋力が増加した:GSHの改善により、除脂肪体重の0.9kgの有意な増加(p=0.003)、及び両前腕の筋力の増加(p<0.01)がもたらされた。
【0098】
[0104]このように、高齢のHIV患者は、合成の低下(GSHの前駆体であるシステイン及びグリシンの利用可能量の低下が原因となって起こる)によるGSH欠乏を有し、ミトコンドリアのエネルギー源酸化の障害、筋量及び筋力の低下に関連する。2週間のシステイン及びグリシンの補給により、GSHレベルが上昇する。特定の実施形態において、より長い12週間の期間の補給により、高齢のHIV患者において、GSH濃度は完全に回復し、筋低下及び機能低下は回復に向かう。
【0099】
実施例7
C反応性タンパク質
[0105]C反応性タンパク質(CRP)は、血漿中に見出される急性期タンパク質であり、肝臓によって合成される。CRPレベルは炎症に反応して上昇するため、炎症の増加に関連した状態のバイオマーカーとみなされている。CRPはまた、心臓血管疾患のバイオマーカーとしても特定されており、3μg/mL超のレベルは望ましくなく、1μg/mL未満のレベルが最適であるとみなされる。CRPの上昇はまた、糖尿病、HIV及び老化とも関連づけられている。CRPレベルを低下させる処置は、限られている。スタチンとして知られる薬剤の部類中の、強力なコレステロール低下薬物は、CRPレベルを低下させることができる。
【0100】
[0106]グルタチオン欠乏を有する高齢のHIV患者は、高レベルのCRPを有し、システイン(n-アセチルシステインとして)及びグリシンの経口栄養素補給を用い、グルタチオンレベルを上昇させた際に、CRPは有意に低下した(p<0.05)(
図5)。
【0101】
実施例8
薬物摂取後のミトコンドリアの不良の改善
[0107]特定の薬物は、これらの作用機序がミトコンドリアの機能不全又は機能障害を来すため、毒性の原因となる。特定の実施形態において、グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン又はその機能性誘導体と、を含む、組成物の有効量を個体に提供することにより、薬物誘発性のミトコンドリアの機能不全若しくは機能障害を中和又は緩和する方法がある。薬物によって引き起こされる毒性は、ミトコンドリアの機能不全又は機能障害を引き起こす様々なものであり得るが、特定の実施形態において、薬物は、HIV薬、及び肝炎薬等の抗ウイルス薬である。特定の実施形態において、薬物毒性はまた、治療前又は治療後のいずれかで、GSHの枯渇によって引き起こされる、又は、悪化する場合もある。
【0102】
[0108]ミトコンドリア毒性の原因となる薬物としては、少なくとも、抗痙攣薬、向精神薬(抗うつ薬、抗精神病薬、バルビツレート、抗不安薬)、抗コレステロール薬、鎮痛薬/抗炎症薬、抗生物質、抗不整脈薬、ステロイド、抗ウイルス薬、抗レトロウイルス薬、抗癌剤、抗糖尿病薬、β遮断薬、及び免疫化が挙げられる。
【0103】
[0109]特定の場合、薬物は、バルプロエート(デパコート)、アミトリプチリン(エラビル)、アモキサピン、フルオキセチン(プロザック)、シタロプラム(シプラミル)、クロルプロマジン(トラジン)、フルフェナジン(プロリキシン)、ハロペリドール(ハルドール)、リスペリドン(リスペルドール)、フェノバルビタール、セコバルビタール(セコナール)、ブタルビタール(フィオルナール)、アモバルビタール(アミタール)、ペントバルビタール(ネンブタール)、アルプラゾラム(ザナックス)、ジアゼパム(バリウム、ダイアスタット)、スタチン、胆汁酸-コレスチラミン、シプロフィブラート、ASA(アスピリン)、アセトアミノフェン(タイレノール)、インドメタシン(インドシン)、ナプロキセン(アリーブ)、ジクロフェナク、テトラサイクリン、ミノサイクリン、クロラムフェニコール、アミノグリコシド、リネゾリド(ザイボックス)、アミオダロン、インターフェロン、ジドブジン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、シス-プラチナム、タモキシフェン、メトホルミン、シストゥック(cystuc)、又はこれらの混合物である。
【0104】
[0110]ミトコンドリアの機能障害又はGSHの減少による薬物毒性を有することが知られている、又は、その疑いのある薬物を投与する必要がある個体におけるような状態において、個体にはまた、グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン又はその機能性誘導体と、を含む組成物も提供することができる。特定の場合、グリシン又はその機能性誘導体と、N-アセチルシステイン又はその機能性誘導体とが、個体に投与されるのと同時に、かつ/又は前に、かつ/又は後に、ミトコンドリア毒性を有する薬物が、個体に投与される。
【0105】
実施例9
GSH濃度上昇の生理学的効果
[0111]1.HIV及びTNF-α:8人のHIV患者について、GSH濃度を上昇させるためのシステイン及びグリシンの補給前及び2週間後に、血漿中TNF-α濃度の測定を行った。データによると、TNF-αは、34.6±7.5から27.8±4.7に低下した(p=0.00049)。
【0106】
[0112]2.神経認知データ:3人のHIV患者について、GSH濃度を上昇させるためのシステイン及びグリシンの12週間の補給前後に、神経認知評価の測定を行った。データは、以下に示したとおり、神経認知機能の改善を示した。
[0113]トレイルメイキングテスト(総合指数)38±3から45±5
[0114]MAE III 30±5から45±4
[0115]MOCA(モントリオール認知評価)76±8から86±6
【0107】
[0116]3.心拡張機能障害の改善:
[0117]雄マウス(月齢30~35)を2群で試験した。1群には固形飼料を給餌し(対照群-CON)、一方の群の飼料には、システイン及びグリシンを補充した(NacGly)。大動脈流出、経僧帽弁血流、大動脈の硬直の非観血的な測定、並びに左心室の心エコーの測定、並びに心房の解剖所見及び機能を、7週間の給餌の前後で比較した(各群n=4)。NacGlyのマウスは、変化のなかった対照と比べ、経僧帽弁血流パラメータの顕著な改善を示した。NacGlyマウスはまた、等容性弛緩時間(Con 23.1+2.5 対 NacGly 19.2+0.7m秒、p<0.05)、等容性収縮時間(Con 26.3+4.6 対 NacGly 13.9+0.3m秒、p<0.05)、ピーク早期充填速度(peak Early filling velocity)(Con 67+4 対 NacGly 78+5cm/秒、p<0.05)を有意に改善した。本試験の結論は、システイン(n-アセチルシステインとして)及びグリシンの栄養素補給は、高齢マウスにおける拡張機能を改善するというものである。
【0108】
[0118]4.HIV患者における肝脂肪:肝脂肪含量を、MRIにより、システイン及びグリシンの12週間の補給の前後に、1人の被験者において検査した。結果は、以下のとおりであった:
[0119]MRIによる肝脂肪
[0120]右前葉(%)
[0121]右後葉(%)
[0122]ベースライン(補給前)
[0123]7.0+/-0.9%
[0124]8.5+/-1.2%
[0125]フォローアップ(補給後)
[0126]5.0+/-1.1%
[0127]6.0+/-1.2%
【0109】
[0128]5.糖尿病マウスにおける肝脂肪:2群のマウスについて、重症のコントロール不良の糖尿病への1年間の暴露後に試験した。糖尿病の誘発時から、1群(治療群)にはシステイン(n-アセチルシステインとして)及びグリシンの補給を摂取し、もう一方の(対照)群には、第1の群と等窒素かつ等カロリーの対照飼料を摂取した。組織学的評価によると、等窒素/等カロリー食を摂取した対照群において脂肪肝の発生率は95~100%であったのに対し、システイン/グリシン食を摂取した治療群では、脂肪肝の発生率はわずか2~5%であった。肝脂肪を定量したところ、治療群のマウスでの量は顕著により低かった。
【0110】
[0129]5.筋タンパク質の分解:筋タンパク質の分解について、3人の高齢のHIV患者において、トレーサーの3-メチルヒスチジンを用い、システイン(n-アセチルシステインとして)及びグリシンの12週間の補給の前後に検査した。結果は、筋原線維タンパク質の分解の顕著な低下を示した。これらのデータは、老化において、システイン及びグリシンによってグルタチオンを改善することにより、筋破壊を低下させ、サルコペニアに有効であり得ることを示唆している。
【0111】
[0130]筋原線維の筋タンパク質の分解速度:
[0131]補給前:203±59mg/kgLBM/時
[0132]補給後:137±15mg/kgLBM/時
【0112】
実施例10
n-アセチルシステイン及びグリシンの補給の実施例
[0133]マウスの試験において、n-アセチルシステイン及びグリシンの作用は、高齢マウスにおいてミトコンドリアの機能及び筋力を改善し、特定の実施形態において、これはグルタチオンを介して起こる。いくつかの実施形態において、n-アセチルシステイン及びグリシンの補給により、マウスの肝脂肪が低下する。
【0113】
[0134]特定の態様において、HIV患者におけるn-アセチルシステイン及びグリシンの補給により、HIV感染患者における軽度の神経認知障害が改善し、筋力及び運動能力が改善し、かつ/又はグルタチオンは、年齢適合対照と同等まで回復する。
【0114】
[0135]特定の実施形態において、老人病のヒトにおける進行中の試験において、n-アセチルシステイン及びグリシンの補給により、少なくとも4週間以内に、認知障害が改善する。
【0115】
実施例11
HIV身体的及び神経認知データ
[0136]HIV感染患者は、身体機能の低下を伴う促進老化を有することが報告されている。HIV患者はまた、認知機能の重大な障害を有することも報告されている。システイン及びグリシン補給の効果を評価するため、本発明者らは、12週間のシステイン(n-アセチルシステインとして)及びグリシンの補給の前後に、8人のHIV患者について検査した。また、比較対照群は、年齢、性別及びBMIを一致させた、8人のHIV陰性のヒトであった。結果の測定は、身体機能(歩行速度)及び神経認知機能(トレイルメイキングテスト及びMAE III)を含んでいた。
【0116】
[0137]結果によると、非HIV対照に比べ、HIV感染患者は、歩行速度が有意に低く(1.3±0.1対1.06±0.04m/秒、p<0.001)、また、トレイルメイキングテストA(34.6±3.6対62.6±6.1秒、p<0.01)及びトレイルメイキングテストB(53.8±7.2対117.5±5.0秒、p<0.01)、並びにMultilingual Aphasic Examination III(41.0±3.5対28.9±3.2語、p<0.01)による測定で、顕著な認知障害を示した。12週間の補給後、補給前の水準と比べると、HIV患者の歩行速度は、HIV陰性対照と同様かつ同等の水準まで回復し(1.06±0.04対1.30±0.04m/秒、p<0.01)、システイン及びグリシンの補給により、HIV患者における促進老化が回復に向かい得ることを示唆した。このことは、トレイルメイキングテストA(62.6±6.1対46.4±4.4秒、p<0.01)及びB(117.5±5.0対69.8±5.4秒、p<0.01)、並びにMAE III(28.9±3.2対34.6±2.0語、p<0.01)のスコアの改善に見られるように、認知機能の有意な上昇(補給前の水準対補給後の水準)によって指示される。
【0117】
[0138]結論:システイン及びグリシンの補給により、HIV患者におけるグルタチオン欠乏は回復に向かい、また、機能低下及び認知機能は回復に向かう。まとめると、これらのデータは、システイン及びグリシンの補給により、HIV感染患者における促進老化が回復に向かうという効果を支持する。
【0118】
参考文献
[0139]本明細書で言及した全ての特許及び刊行物は、本発明が関係する技術分野の当業者の水準を示している。本明細書における全ての特許及び刊行物は、個々の刊行物の全容が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により組み込まれる。
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【0119】
[0173]本発明及びその利点を詳述してきたが、様々な変更、置換及び改変が、請求項によって規定される本発明から逸脱することなく、本明細書において実施可能であることを理解されたい。更に、本明細書の範囲は、本明細書に記載したプロセス、装置、製造、物質の組成物、手段、方法及びステップの特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。本開示から容易に理解できるとおり、本明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同一の機能を遂行する、又は、実質的に同一の結果を達成する、既存若しくは今後開発される、プロセス、装置、製造、物質の組成物、手段、方法、又はステップを利用することが可能である。したがって、請求項は、その範囲内に、このようなプロセス、装置、製造、物質の組成物、手段、方法、又はステップを包含することを意図する。