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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】蓄電モジュール及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20220517BHJP
   H01G 11/12 20130101ALI20220517BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20220517BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20220517BHJP
   H01G 11/72 20130101ALI20220517BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220517BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220517BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20220517BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20220517BHJP
   H01M 50/548 20210101ALI20220517BHJP
   H01M 50/555 20210101ALI20220517BHJP
   H01M 50/562 20210101ALI20220517BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01G11/12
H01G11/68
H01G11/70
H01G11/72
H01M4/66 A
H01M10/0585
H01M10/30 Z
H01M50/184 A
H01M50/548 101
H01M50/555
H01M50/562
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019039819
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020145047
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100180851
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼口 誠
(72)【発明者】
【氏名】大井手 竜二
(72)【発明者】
【氏名】守作 直人
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩生
(72)【発明者】
【氏名】菊池 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】奥村 素宜
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 伸烈
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133207(JP,A)
【文献】特開2020-064845(JP,A)
【文献】特許第6942080(JP,B2)
【文献】特開2018-078021(JP,A)
【文献】特開2019-016587(JP,A)
【文献】特開2002-280000(JP,A)
【文献】特開2017-091899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01G 11/12
H01G 11/68
H01G 11/70
H01G 11/72
H01M 4/66
H01M 10/0585
H01M 10/30
H01M 50/184
H01M 50/548
H01M 50/555
H01M 50/562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極板の一方の面に正極活物質層が形成され、他方の面に負極活物質層が形成されたバイポーラ電極が第一方向に積層されたバイポーラ電極群と、前記第一方向において前記バイポーラ電極群の外側に配置される金属板と、を有する積層体と、
前記電極板及び前記金属板の周縁部を保持すると共に前記第一方向に交差する前記積層体の側面を覆う封止体と、を備え、
前記金属板の破断伸びは、前記電極板の破断伸びよりも大きく、前記電極板の引張強さは、前記金属板の引張強さよりも大きい、蓄電モジュール。
【請求項2】
前記金属板の破断伸びは10%以上35%以下であり、前記電極板の破断伸びは1%以上6%以下である、請求項1記載の蓄電モジュール。
【請求項3】
前記金属板の引張強さは320N/mm以上460N/mm以下であり、前記電極板の引張強さは560N/mm以上1000N/mm以下である、請求項1又は2記載の蓄電モジュール。
【請求項4】
前記封止体は、前記積層体の側面を覆う枠状の側面部と、前記第一方向から見たときに、前記側面部の端部から内側の向きに延びる張出部とを含み、
前記金属板は、その周縁部が前記張出部に固着されている、請求項1~3の何れか一項記載の蓄電モジュール。
【請求項5】
前記金属板は、前記バイポーラ電極群に対向する第一面と、前記第一面とは反対側の面であって前記積層体の最外面を形成する第二面と、を有しており、
前記第一方向において前記バイポーラ電極群の一方の端部に配置される前記金属板の前記第一面には、負極活物質層が形成されており、
前記第一方向において前記バイポーラ電極群の他方の端部に配置される前記金属板の前記第一面には、正極活物質が形成されている、請求項1~4の何れか一項記載の蓄電モジュール。
【請求項6】
前記バイポーラ電極群と前記バイポーラ電極群の少なくとも一方の端部に配置される前記金属板との間には、電極板の一方の面に活物質層が形成され、他方の面に活物質層が形成されていない終端電極が配置されており、
前記終端電極に隣接して配置される前記金属板は、両面に活物質層が形成されない金属板である、請求項1~4の何れか一項記載の蓄電モジュール。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項記載の複数の蓄電モジュールと、
少なくとも一つの導電板と、を備え、
前記蓄電モジュールは、前記導電板を介して積層されている、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電モジュール及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電極板の一方の面に正極が形成され、他方の面に負極が形成されたバイポーラ電極を備える蓄電モジュールが知られている(特許文献1参照)。蓄電モジュールは、セパレータを介して複数のバイポーラ電極を積層してなる積層体を備えている。積層体の側面には、積層方向に隣り合うバイポーラ電極間を封止する封止体が設けられており、バイポーラ電極間に形成された内部空間に電解液が収容されている。そして、このような蓄電モジュールが冷却板(導電板)を介して積層されることによって、蓄電装置が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-101489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような蓄電モジュールでは、外気温、外圧等の原因により、内部空間の圧力が変化する。蓄電モジュールを構成する電極板及び金属板は、当該圧力変化によって、積層方向における一方に膨らんだり、他方に凹んだりして歪みが生じる。また、蓄電モジュールは、蓄電装置として積層される際に導電板を介して積層される。バイポーラ電極群の両端に配置される金属板は、上記の圧力変化によって積層体の外側方向に膨らんだとしても、導電板のエッジ部分に接触する部分は、当該膨らみが規制される。このため、金属板は、導電板のエッジ部分に接触する部分と接触しない部分との間に歪みが生じるようになる。この歪みは、上述の歪みと比べて相対的に大きいので、このような歪みが繰り返し発生することによって疲労破壊が生じる場合がある。しかしながら、単純に剛性を高めて疲労破壊を防止しようとすると、電極板及び金属板の厚みが大きくなり、蓄電モジュールのサイズの増大につながる。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、サイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる、蓄電モジュール及び蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る蓄電モジュールは、電極板の一方の面に正極活物質層が形成され、他方の面に負極活物質層が形成されたバイポーラ電極が第一方向に積層されたバイポーラ電極群と、第一方向においてバイポーラ電極群の外側に配置される金属板と、を有する積層体と、電極板及び金属板の周縁部を保持すると共に第一方向に交差する積層体の側面を覆う封止体と、を備え、金属板の破断伸びは、電極板の破断伸びよりも大きく、電極板の引張強さは、金属板の引張強さよりも大きい。
【0007】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、金属板の剛性を高め、内部空間の圧力変化によって生じる歪みそのものを抑制することに代えて、金属板の破断伸びを高めれば上記歪みを許容しながらも、疲労破壊を防止できることを見出した。一方、金属板において破断伸びを高めると引張強度が低下することが知られている。電極板の両面に活物質層が形成されてバイポーラ電極が形成される過程には、ローラ等によるプレス成型等が含まれている。バイポーラ電極の生産性を維持するためには、このような過程に耐え得る引張強度が電極板に要求される。これに対して、バイポーラ電極群の外側に配置される金属板は、活物質層が一方の面にのみ形成されている終端電極であるか、又は両面に活物質層が形成されていない未塗工金属板である。したがって、金属板は、電極板ほど高い引張強度が要求されない。そこで、本発明に係る蓄電モジュールでは、バイポーラ電極を形成する電極板は引張強さが相対的に高いものを使用し、金属板は破断伸びが相対的に大きいものを使用している。これにより、バイポーラ電極を製造する際の生産性を維持できる。この結果、サイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。なお、ここでいう破断伸び及び引張強さの定義及び測定方法は、JIS Z2241に準ずる。
【0008】
本発明に係る蓄電モジュールでは、金属板の破断伸びは10%以上35%以下であり、電極板の破断伸びは1%以上6%以下であってもよい。この構成の蓄電モジュールは、より効果的に、サイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。
【0009】
本発明に係る蓄電モジュールでは、金属板の引張強さは320N/mm以上460N/mm以下であり、電極板の引張強さは560N/mm以上1000N/mm以下であってもよい。この構成の蓄電モジュールは、より効果的に、サイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。
【0010】
本発明に係る蓄電モジュールでは、封止体は、積層体の側面を覆う枠状の側面部と、第一方向から見たときに、側面部の端部から内側の向きに延びる張出部とを含み、金属板は、その周縁部が張出部に固着されていてもよい。この構成では、張出部に固着されている部分は、圧力変化時における金属板の外側への変形を許容するので、導電板のエッジ部分における歪みが大きくなる。このような構成の蓄電モジュールであっても、サイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。
【0011】
本発明に係る蓄電モジュールでは、金属板は、バイポーラ電極群に対向する第一面と、第一面とは反対側の面であって積層体の最外面を形成する第二面と、を有しており、第一方向においてバイポーラ電極群の一方の端部に配置される金属板の第一面には、負極活物質層が形成されており、第一方向においてバイポーラ電極群の他方の端部に配置される金属板の第一面には、正極活物質が形成されていてもよい。この構成では、バイポーラ電極群の外側に負極終端電極及び正極終端電極が配置される蓄電モジュールに適用することができる。
【0012】
本発明に係る蓄電モジュールでは、バイポーラ電極群とバイポーラ電極群の少なくとも一方の端部に配置される金属板との間には、電極板の一方の面に活物質層が形成され、他方の面に活物質層が形成されていない終端電極が配置されており、終端電極に隣接して配置される金属板は、両面に活物質層が形成されない金属板であってもよい。この構成では、負極終端電極の外側に未塗工金属板が配置される蓄電モジュールに適用することができる。また、この構成では、内部空間と外部との間に、金属板によって形成される空間を設けることができるのでアルカリクリープの進行を抑制することができる。
【0013】
本発明に係る蓄電モジュールでは、上記の複数の蓄電モジュールと、少なくとも一つの導電板と、を備え、蓄電モジュールは、導電板を介して積層されていてもよい。この構成の蓄電装置では、サイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サイズの増大を抑制しつつ、内部空間の圧力変化に対する耐性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る蓄電モジュールを備えて構成される蓄電装置を示す概略断面図である。
図2図1に示した蓄電モジュールの内部構成を示す概略断面図である。
図3】電極板における破断伸びと引張強さとの関係を示したグラフである。
図4】電極板における破断伸びと破断サイクル数との関係を示したグラフである。
図5】変形例に係る蓄電モジュールの内部構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら一実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0017】
一実施形態に係る蓄電モジュール4を備える蓄電装置10の構成について説明する。図1に示される蓄電装置10は、例えばフォークリフト、ハイブリッド自動車、又は電気自動車等の各種車両のバッテリとして用いられる。蓄電モジュール4は、例えば、バイポーラ電池である。蓄電モジュール4の例には、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池等の二次電池、電気二重層キャパシタが含まれる。以下の説明では、ニッケル水素二次電池を例示する。
【0018】
複数の蓄電モジュール4は、例えば金属板等の導電板5を介して積層される。積層方向D1(Z方向)から見て、蓄電モジュール4及び導電板5は例えば矩形形状を有する。導電板5は、蓄電モジュール4の積層方向D1において両端に位置する蓄電モジュール4の外側にもそれぞれ配置される。導電板5は、隣り合う蓄電モジュール4と電気的に接続される。これにより、複数の蓄電モジュール4が積層方向D1に直列に接続される。
【0019】
積層方向D1において、一端に位置する導電板5には端子部材24が接続されており、他端に位置する導電板5には端子部材26が接続されている。端子部材24は、接続される導電板5と一体であってもよい。端子部材26は、接続される導電板5と一体であってもよい。端子部材24及び端子部材26は、積層方向D1に略直交する方向(X方向)に延在している。これらの端子部材24及び端子部材26により、蓄電装置10の充放電を実施できる。
【0020】
なお、蓄電装置10においては、積層方向の一端及び他端に蓄電モジュール4が配置されていてもよい。すなわち、蓄電装置10における蓄電モジュール4と導電板5との積層体の最外層(スタック最外層)は、蓄電モジュール4であってもよい。この場合、スタック最外層の蓄電モジュール4に対して、端子部材24及び端子部材26が設けられる。
【0021】
導電板5は、蓄電モジュール4において発生した熱を放出するための放熱板としても機能し得る。導電板5の内部に設けられた複数の孔部5aを空気等の冷媒が通過することにより、蓄電モジュール4からの熱を効率的に外部に放出できる。各孔部5aは例えば積層方向D1に略直交する方向(Y方向)に延在する。積層方向D1から見て、導電板5は、蓄電モジュール4よりも小さいが、蓄電モジュール4と同じかそれより大きくてもよい。後段にて詳述するが、導電板5は、後述する蓄電モジュール4として一体的に形成されている。
【0022】
蓄電装置10は、交互に積層された蓄電モジュール4及び導電板5を積層方向D1に拘束する拘束部材6を備える。拘束部材6は、一対の拘束プレート6A,6Bと、拘束プレート6A,6B同士を連結する連結部材(ボルト8及びナット9)と、を備える。各拘束プレート6A,6Bと導電板5との間には、例えば樹脂フィルム等の絶縁フィルム27が配置される。各拘束プレート6A,6Bは、例えば鉄等の金属によって構成されている。積層方向D1から見て、各拘束プレート6A,6B及び絶縁フィルム27は例えば矩形形状を有する。絶縁フィルム27は導電板5よりも大きくなっており、各拘束プレート6A,6Bは、蓄電モジュール4よりも大きくなっている。
【0023】
積層方向D1から見て、拘束プレート6Aの縁部には、ボルト8の軸部を挿通させる挿通孔H1が蓄電モジュール4よりも外側となる位置に設けられている。同様に、積層方向D1から見て、拘束プレート6Bの縁部には、ボルト8の軸部を挿通させる挿通孔H2が蓄電モジュール4よりも外側となる位置に設けられている。積層方向D1から見て各拘束プレート6A,6Bが矩形形状を有している場合、挿通孔H1及び挿通孔H2は、拘束プレート6A,6Bの角部に位置する。
【0024】
一方の拘束プレート6Aは、端子部材26に接続された導電板5に絶縁フィルム27を介して突き当てられ、他方の拘束プレート6Bは、端子部材24に接続された導電板5に絶縁フィルム27を介して突き当てられている。ボルト8は、例えば一方の拘束プレート6A側から他方の拘束プレート6B側に向かって挿通孔H1に通され、他方の拘束プレート6Bから突出するボルト8の先端には、ナット9が螺合されている。これにより、絶縁フィルム27、導電板5及び蓄電モジュール4が挟持されてユニット化されると共に、積層方向D1に拘束荷重が付加される。なお、スタック最外層が蓄電モジュール4である場合には、各拘束プレート6A,6Bと蓄電モジュール4との間に絶縁フィルム27が介在されることとなる。
【0025】
次に、蓄電モジュール4の構成について詳細に説明する。図2に示されるように、蓄電モジュール4は、電極積層体(積層体)11と、電極積層体11を封止する樹脂製の封止体12とを備えている。電極積層体11は、セパレータ13を介して蓄電モジュール4の積層方向(第一方向)Dに沿って積層された複数の電極によって構成されている。これらの電極は、複数のバイポーラ電極14の積層体(バイポーラ電極群)と、負極終端電極18と、正極終端電極19とを含む。
【0026】
バイポーラ電極14は、一方の面(第一面)15a及び一方の面15aの反対側の他方の面(第二面)15bを含む電極板15と、一方の面15aに設けられた正極層16と、他方の面15bに設けられた負極層17とを有している。正極層16は、正極活物質が電極板15に塗工されることにより形成される正極活物質層である。負極層17は、負極活物質が電極板15に塗工されることにより形成される負極活物質層である。電極積層体11において、一のバイポーラ電極14の正極層16は、セパレータ13を挟んで積層方向Dの一方に隣り合う別のバイポーラ電極14の負極層17と対向している。電極積層体11において、一のバイポーラ電極14の負極層17は、セパレータ13を挟んで積層方向Dの他方に隣り合う別のバイポーラ電極14の正極層16と対向している。
【0027】
負極終端電極18は、電極板(金属板)15と、電極板15の他方の面15bに設けられた負極層17とを有している。負極終端電極18は、他方の面15bが電極積層体11における積層方向Dの中央側を向くように、積層方向Dの一端に配置されている。負極終端電極18の電極板15の他方の面15bに設けられた負極層17は、セパレータ13を介して、積層方向Dの一端のバイポーラ電極14の正極層16と対向している。
【0028】
正極終端電極19は、電極板(金属板)15と、電極板15の一方の面15aに設けられた正極層16とを有している。正極終端電極19は、一方の面15aが電極積層体11における積層方向Dの中央側を向くように、積層方向Dの他端に配置されている。正極終端電極19の一方の面15aに設けられた正極層16は、セパレータ13を介して、積層方向Dの他端のバイポーラ電極14の負極層17と対向している。正極終端電極19の電極板15の他方の面15bは、電極積層体11の積層方向Dにおける他方の外側面を構成し、蓄電モジュール4に隣接する他方の導電板5(図1参照)と電気的に接続されている。
【0029】
バイポーラ電極14の電極板15は、例えば、ニッケルからなる金属箔である。負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15は、例えば、ニッケルメッキ鋼板からなる金属箔である。電極板15の周縁部15cは、矩形枠状をなし、正極活物質層及び負極活物質層が形成されない未塗工領域となっている。正極層16を構成する正極活物質としては、例えば水酸化ニッケルが挙げられる。負極層17を構成する負極活物質としては、例えば水素吸蔵合金が挙げられる。本実施形態では、電極板15の他方の面15bにおける負極層17の形成領域は、電極板15の一方の面15aにおける正極層16の形成領域に対して一回り大きくなっている。
【0030】
セパレータ13は、例えばシート状に形成されている。セパレータ13は、電極板15,15間の短絡を防止する部材である。セパレータ13としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質フィルム、ポリプロピレン、メチルセルロース等からなる織布又は不織布等が例示される。セパレータ13は、フッ化ビニリデン樹脂化合物で補強されたものであってもよい。なお、セパレータ13は、シート状に限られず、袋状のものを用いてもよい。
【0031】
封止体12は、例えば絶縁性の樹脂によって、全体として矩形の筒状に形成されている。封止体12は、電極板15の周縁部15cを包囲するように電極積層体11の側面11aに設けられている。封止体12は、側面11aにおいて周縁部15cを保持している。封止体12は、電極板15の周縁部15cに結合された複数の第一封止部21と、側面11aに沿って第一封止部21を外側から包囲し、第一封止部21のそれぞれに結合された第二封止部22とを有している。第一封止部21及び第二封止部22は、例えば、耐アルカリ性を有する絶縁性の樹脂である。第一封止部21及び第二封止部22の構成材料としては、例えばポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)等が挙げられる。
【0032】
第一封止部21は、電極板15の一方の面15aにおいて周縁部15cの全周にわたって連続的に設けられ、積層方向Dから見て矩形環状をなしている。第一封止部21は、例えば超音波又は熱によって電極板15の一方の面15aに溶着され、気密に接合されている。第一封止部21は、例えば積層方向Dに所定の厚さを有するフィルムである。第一封止部21の内側は、積層方向Dに互いに隣り合う電極板15の周縁部15c同士の間に位置している。第一封止部21の外側は、電極板15の縁よりも外側に張り出しており、その先端部分は、第二封止部22に埋設されている。積層方向Dに沿って互いに隣り合う第一封止部21同士は、互いに離間していてもよく、接していてもよい。
【0033】
第二封止部22は、電極積層体11及び第一封止部21の外側に設けられ、蓄電モジュール4の外壁(筐体)を構成している。第二封止部22は、例えば樹脂の射出成型によって形成され、積層方向Dに沿って電極積層体11の全長にわたって延在している。第二封止部22は、積層方向Dを軸方向として延在する矩形の筒状(環状)を呈している。第二封止部22は、例えば射出成型時の熱によって第一封止部21の外表面に溶着されている。
【0034】
第一封止部21及び第二封止部22は、隣り合う電極の間に内部空間Vを形成すると共に内部空間Vを封止する。より具体的には、第二封止部22は、第一封止部21と共に、積層方向Dに沿って互いに隣り合うバイポーラ電極14の間、積層方向Dに沿って互いに隣り合う負極終端電極18とバイポーラ電極14との間、及び積層方向Dに沿って互いに隣り合う正極終端電極19とバイポーラ電極14との間をそれぞれ封止している。これにより、隣り合うバイポーラ電極14の間、負極終端電極18とバイポーラ電極14との間、及び正極終端電極19とバイポーラ電極14との間には、それぞれ気密に仕切られた内部空間Vが形成されている。この内部空間Vには、例えば水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液を含む電解液(不図示)が収容されている。電解液は、セパレータ13、正極層16、及び負極層17内に含浸されている。
【0035】
封止体12の外側面を形成する第二封止部22は、第一封止部21の側面を覆う側面部22aと、積層方向Dから見た平面視において側面部22aから内側に向かって延びる張出部22bと、を有している。負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15は、張出部22bに溶着されている。
【0036】
次に、バイポーラ電極14の電極板15と、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15との特性の違いについて詳細に説明する。本実施形態では、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15の破断伸びは、バイポーラ電極14の電極板15の破断伸びよりも大きい。また、バイポーラ電極14の電極板15の引張強さは、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15の引張強さよりも大きい。なお、ここでいう破断伸び及び引張強さの定義及び測定方法は、JIS Z2241の規格に準ずる。
【0037】
より詳細には、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15の破断伸びは10%以上35%以下であり、バイポーラ電極14の電極板15の破断伸びは1%以上6%以下である。また、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15の引張強さは320N/mm以上460N/mm以下であり、バイポーラ電極14の電極板15の引張強さは560N/mm以上1000N/mm以下である。
【0038】
本願発明者らは、破断伸び及び引張強さの適切な範囲を設定するにあたり、下記に示す実験を行った。すなわち、本願発明者らは、破断伸び及び引張強さが異なる、下記の表1に示す複数種類のニッケル鋼板を準備した。そして、ニッケル鋼板箔における破断伸び及び引張強さの関係を推定した。この推定の結果が図3に示されるグラフに示される。
【表1】
【0039】
次に、各ニッケル鋼板箔について破断サイクル数を測定した。具体的には、電極板15として上記のニッケル鋼板箔1~4のそれぞれを採用した、バイポーラ電極14、負極終端電極18、及び正極終端電極19を準備し、図2に示されるような蓄電モジュール4を製造した。そして、図1に示されるような、検査対象となる蓄電装置を得た。そして、この蓄電装置を45℃の環境下、外圧を0MPaと0.5Mpaとで繰り返し変化させることによって各ニッケル鋼板箔に繰り返し歪みを生じさせ、電極板15が破断するまでの繰り返し回数(サイクル回数)を計測した。計測結果は、上記表1に示されるとおりである。なお、ニッケル鋼板箔4のサイクル数は、ニッケル鋼板箔3以上のサイクル数となることを確認した上で、時間を要するため計測を打ち切った。これらの計測値から、そして、ニッケル鋼板箔における破断伸び及び破断サイクル数の関係を推定した。この推定の結果が、図4に示されるグラフに示される。
【0040】
ここで、本願発明者らは、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15に求められる破断サイクル数を10万回として、そのときの破断伸びを算出した。これにより、負極終端電極18及び正極終端電極19の破断伸びの下限値を10%と設定した。また、負極終端電極18及び正極終端電極19としてニッケル鋼板箔の一方の面に活物質層が形成された状態の電極を製造する場合には、プレス過程等の生産性を維持するための引張強さが要求される。上記破断伸びの上限値は、このような観点から35%と設定した。
【0041】
同様に、バイポーラ電極14の電極板15は、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15ほど破断伸びが要求されない一方、バイポーラ電極14としてニッケル鋼板箔の両面に活物質層が形成された状態の電極を製造する場合には、プレス過程等の生産性を維持するにあたり引張強さが要求される。そこで、バイポーラ電極14の電極板15は、このような観点から引張強さが優先的に設定され、破断伸びはこれらの引張強さに対応する値に設定されている。このような観点から、バイポーラ電極14の電極板15を、560N/mm以上1000N/mm以下とした。
【0042】
次に、上記実施形態の蓄電モジュール4及び蓄電装置10の作用効果について説明する。図2に示されるような蓄電モジュール4では、外気温、外圧等の原因により、内部空間Vの圧力が変化する。蓄電モジュール4を構成する電極板15は、当該圧力変化によって、積層方向における一方に膨らんだり、他方に凹んだりして歪みが生じる。また、蓄電モジュール4は、蓄電装置10として積層される際に導電板5を介して積層される(図1参照)。
バイポーラ電極群の両端に配置される負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15は、上記の圧力変化によって電極積層体11の外側方向に膨らんだとしても、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15のエッジ部分に接触する部分は、当該膨らみが規制される。このため、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15は、導電板5のエッジ部分Pに接触する部分と接触しない部分との間に歪みが生じるようになる。この歪みは、上述の歪みと比べて相対的に大きいので、このような歪みが繰り返し発生することによって疲労破壊が生じる場合がある。しかしながら、単純に剛性を高めて疲労破壊を防止しようとすると、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15の厚みが大きくなり、蓄電モジュール4ひいては蓄電装置10のサイズの増大につながる。
【0043】
本実施形態では、バイポーラ電極群の両端に配置される負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15に対しては、電極板15の破断伸びを高めることによって、上記歪みを許容しながらも、疲労破壊を防止している。一方、バイポーラ電極14の生産過程におけるプレス成形に耐え得る引張強度が要求されるバイポーラ電極14の電極板15に対しては、引張強度を高めている。なお、バイポーラ電極群の両端に配置される負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15は、活物質層が一方の面にのみ形成されるので、バイポーラ電極14の電極板15ほど高い引張強度が要求されない。このような事情を考慮して、上記実施形態の蓄電モジュール4では、バイポーラ電極14を形成する電極板15は引張強さを相対的に高め、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15は破断伸びを相対的に大きくしている。これにより、バイポーラ電極14を製造する際の生産性を維持したまま、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。この結果、蓄電モジュール4ひいては蓄電装置10のサイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。
【0044】
上記実施形態の蓄電モジュール4では、張出部22bに固着されている電極板15の部分は、圧力変化時における電極板15の外側への変形を許容するので、導電板5のエッジ部分Pにおける歪みが大きくなる。このように、導電板5のエッジ部分Pにおける歪みが大きくなる蓄電モジュール4であっても、サイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。
【0045】
上記実施形態の蓄電モジュール4では、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15として、ニッケル鋼板箔を用い、バイポーラ電極14の電極板15としてニッケル箔を用いている。ニッケル鋼板箔は、ニッケル箔とは異なり、結晶粒界が箔の厚み方向に対して直交する方向に配向されている。このため、負極終端電極18及び正極終端電極19の電極板15は、クラックが生じにくく、疲労破壊に対して耐性を有している。
【0046】
以上、一実施形態について詳細に説明されたが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、例えば、図5に示されるように、負極終端電極18の電極板15の外側に未塗工(両面とも活物質層が形成されていない)の金属板25が配置された構成の蓄電モジュール4Aに本願発明を適用してもよい。金属板25の例は、ニッケル鋼板箔である。すなわち、このような構成の蓄電モジュール4Aにおいて、金属板25及び正極終端電極19の電極板15の破断伸びは、バイポーラ電極14の電極板15の破断伸びよりも大きく、バイポーラ電極14の電極板15の引張強さは、金属板25及び正極終端電極19の電極板15の引張強さよりも大きくしてもよい。すなわち、変形例に係る蓄電モジュール4Aでは、導電板5に接触する金属板25の破断伸びを相対的に大きくしている。
【0047】
変形例に係る蓄電モジュール4Aにおいても、蓄電モジュール4Aのサイズの増大を抑制しつつ、疲労破壊に対する耐性を高めることができる。
【0048】
また、蓄電モジュール4Aでは、第一封止部21と負極終端電極18の電極板15と金属板25とによって囲まれる余剰空間VAが形成されている。余剰空間VAは、外部空間と内部空間Vとの間の通路となり得る部分に形成されているので、外部空間から内部空間Vに湿気が浸入することを抑制できる。これにより、アルカリクリープ現象の進行を抑制することができる。
【符号の説明】
【0049】
4,4A…蓄電モジュール、5…導電板、10…蓄電装置、11…電極積層体(積層体)、14…バイポーラ電極、15…電極板、18…負極終端電極、19…正極終端電極、21…第一封止部、22…第二封止部、22a…側面部、22b…張出部、25…金属板、P…エッジ部分、V…内部空間。
図1
図2
図3
図4
図5