IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KDDI株式会社の特許一覧

特許7074709消費電力予測システム、方法およびプログラム
<>
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図1
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図2
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図3
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図4
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図5
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図6
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図7
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図8
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図9
  • 特許-消費電力予測システム、方法およびプログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】消費電力予測システム、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20220517BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20220517BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
H02J3/00 130
H02J3/00 170
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019066096
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020166529
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】アボー ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】西村 康孝
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴仁
【審査官】上田 威
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208952(JP,A)
【文献】特開2018-124727(JP,A)
【文献】特開2018-055650(JP,A)
【文献】特開2017-146815(JP,A)
【文献】特開2017-153333(JP,A)
【文献】特開2011-231946(JP,A)
【文献】特開2012-194700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリアごとに消費電力を予測する消費電力予測システムにおいて、
各エリアのカレンダ情報に紐付いた消費電力履歴を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して履歴ベース予測値を計算する履歴ベース予測手段と、
カレンダ情報に紐付いたエリア間の人の移動履歴を学習して構築した移動予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して人の移動を予測する移動予測手段と、
各エリアの所在人数に紐付いた消費電力の履歴情報を学習して構築した移動ベース予測モデルに前記予測した移動後の所在数を適用して移動ベース予測値を計算する移動ベース予測手段と、
前記履歴ベース予測値と移動ベース予測値との予測差に基づいて予測日の消費電力を予測する予測精度改善手段とを具備したことを特徴とする消費電力予測システム。
【請求項2】
前記履歴ベース予測手段は、カレンダ情報に紐付いた消費電力および外因の履歴情報を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日のカレンダ情報および外因を適用して履歴ベース予測値を計算することを特徴とする請求項1の消費電力予測システム。
【請求項3】
前記外因が、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速の少なくとも一つを含む気象情報であることを特徴とする請求項2に記載の消費電力予測システム。
【請求項4】
前記外因が、消費電力予測に影響を及ぼすイベントの情報であることを特徴とする請求項2または3に記載の消費電力予測システム。
【請求項5】
前記履歴ベース予測手段は、履歴ベース予測値を第1の周期で計算し、前記移動予測手段は、人の移動を前記第1の周期よりも長い第2の周期で予測することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の消費電力予測システム。
【請求項6】
前記予測日が複数の時間帯に分割され、
前記移動予測手段は、前記時間帯ごとに人の移動を予測することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の消費電力予測システム。
【請求項7】
前記移動ベース予測手段は、前記時間帯ごとに移動ベース予測モデルを構築し、
前記移動予測手段が前記時間帯ごとに予測した人の移動を、対応する移動ベース予測モデルに適用することを特徴とする請求項6に記載の消費電力予測システム。
【請求項8】
前記予測精度改善手段は、時間帯ごとに求めた履歴ベース予測値の時間帯平均と時間帯ごとに予測した移動ベース予測値との予測差を時間帯ごとに各履歴ベース予測値に適用することを特徴とする請求項7に記載の消費電力予測システム。
【請求項9】
エリアごとに消費電力をコンピュータが予測する消費電力予測方法において、
各エリアのカレンダ情報に紐付いた消費電力履歴を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して履歴ベース予測値を計算する手順と、
カレンダ情報に紐付いたエリア間の人の移動履歴を学習して構築した移動予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して人の移動を予測する手順と、
各エリアの所在人数に紐付いた消費電力の履歴情報を学習して構築した移動ベース予測モデルに前記予測した移動後の所在数を適用して移動ベース予測値を計算する手順と、
前記履歴ベース予測値と移動ベース予測値との予測差に基づいて予測日の消費電力を予測する手順とを含むことを特徴とする消費電力予測方法。
【請求項10】
前記履歴ベース予測値を計算する手順は、カレンダ情報に紐付いた消費電力および外因の履歴情報を学習して構築した予測モデルに予測日のカレンダ情報および外因を適用して履歴ベース予測値を計算することを特徴とする請求項9の消費電力予測方法。
【請求項11】
エリアごとに消費電力が予測する消費電力予測プログラムにおいて、
各エリアのカレンダ情報に紐付いた消費電力履歴を学習して構築した予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して履歴ベース予測値を計算する手順と、
カレンダ情報に紐付いたエリア間の人の移動履歴を学習して構築した予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して人の移動を予測する手順と、
各エリアの所在人数に紐付いた消費電力の履歴情報を学習して構築した予測モデルに前記予測した移動後の所在数を適用して移動ベース予測値を計算する手順と、
前記履歴ベース予測値と移動ベース予測値との予測差に基づいて予測日の消費電力を予測する手順とを、コンピュータに実行させることを特徴とする消費電力予測プログラム。
【請求項12】
前記履歴ベース予測値を計算する手順は、カレンダ情報に紐付いた消費電力および外因の履歴情報を学習して構築した予測モデルに予測日のカレンダ情報および外因を適用して履歴ベース予測値を計算することを特徴とする請求項11の消費電力予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のエリアごとに予測日の消費電力を予測するシステム、方法およびプログラムに係り、特に、エリア間での人の移動により生じる各エリアの所在人数の変化による消費電力変動を考慮した消費電力予測システム、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器や電気器具の数は着実に増加しており、その結果、全体的な消費電力が増加傾向にある。電力事業者は、そのような状況に対処しなければならない。一方、発電した電力を貯蔵するための技術は費用効率が高くない。したがって、電力はジャストインタイム方式で発電し、発電量と電力需要とのバランスをとることが重要となる。さらに、配電網を適切に管理し、運用コストを削減するため、電力事業者は短期間で消費プロファイルを計画する必要がある。
【0003】
発電量と電力需要との比率は、近い将来(例えば、一日先)の消費電力を正確に予測できれば適正化できる。従来から、短期間の消費電力予測を実行するために、コンピュータやサーバなどの装置、あるいはエンドポイント(家庭や工場)の消費電力に着目する技術が特許文献1-4に開示されている。また、一日前に消費電力を予測するために、エンドポイントの行動パターンを判断する技術が非特許文献1-3に開示されている。例えば、各世帯から居住者の通常のふるまい(平日または週末の日中のプレゼンス、夜間の習慣など)について通知してもらい、これに基づいて消費電力が予測される。
【0004】
さらに、電力消費に関連する様々な要因に関するパラメータを含めて機械学習により予測モデルを構築し、この予測モデルを用いて将来の消費電力を予測数する方式が非特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第6577962号
【文献】米国公開特許20170371308号
【文献】米国公開特許20140229026号
【文献】米国公開特許20100179704号
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Campillo, F. Wallin, D. Torstensson, and I. Vassileva. Energy demand model design for forecasting electricity consumption and simulating demand response scenarios in Sweden. International Conference on Applied Energy, Jul 2012.
【文献】P. Day, M. Fabian, D. Noble, G. Ruwisch, R. Spencer, J. Stevenson and R. Thoppay. Residential Power Load Forecasting. Procedia Computer Science, Volume 28, 2014, Pages 457-464.
【文献】A. Ozawa and Y. Yoshida. Residential Energy Demand Modeling based on Questionnaire Surveys. Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5, Sep 2015.
【文献】A. D. Papalexopoulos and T. C. Hesterberg, "A regression-based approach to short-term system load forecasting," in IEEE Transactions on Power Systems, vol. 5, no. 4, pp. 1535-1547, Nov. 1990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
家庭や工場などの電力消費に関するエンドポイントから行動予定やプレゼンス情報などを通知してもらい、これに基づいて消費電力を予測する従来方式では、例えば、家庭の在宅予定に関する情報が外部に漏洩すると、空き巣などの脅威に晒される可能性が高くなるという課題があった。
【0008】
また、電力消費に影響を及ぼす様々な外因に関するパラメータを含めて機械学習により予測モデルを構築しようとすると、パラメータの増加に伴って計算コストが増加し、処理負荷が高くなって短時間での予測が困難になるという課題があった。
【0009】
さらに、発明者等の分析によれば、消費電力変動に影響する外因として人の移動が大きなウエートを占めることが確認され、様々な外因を考慮した機械学習により予測モデルを構築しても、人の移動が多い状況では電力消費が大きく変動し、予測精度が低下するという課題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、安全で予測精度が高く、低い処理負荷により短時間での予測が可能な消費電力予測システム、方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、エリアごとに消費電力を予測する消費電力予測システムにおいて、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0012】
(1) 各エリアのカレンダ情報に紐付いた消費電力履歴を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して履歴ベース予測値を計算する履歴ベース予測手段と、カレンダ情報に紐付いたエリア間の人の移動履歴を学習して構築した移動予測モデルに予測日のカレンダ情報を適用して人の移動を予測する移動予測手段と、各エリアの所在人数に紐付いた消費電力の履歴情報を学習して構築した移動ベース予測モデルに前記予測した移動後の所在数を適用して移動ベース予測値を計算する移動ベース予測手段と、前記履歴ベース予測値と移動ベース予測値との予測差に基づいて予測日の消費電力を予測する予測精度改善手段とを具備した。
【0013】
(2) 履歴ベース予測手段は、カレンダ情報に紐付いた消費電力および外因の履歴情報を学習して構築した履歴ベース予測モデルに予測日のカレンダ情報および外因を適用して履歴ベース予測値を計算するようにした。
【0014】
(3) 前記外因として、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速などの気象情報、あるいは花火大会やスポーツなどのイベント情報などのうち、少なくとも一つを使用するようにした。
【0015】
(4) 履歴ベース予測手段は、履歴ベース予測値を第1の周期で計算し、移動予測手段は、前記第1の周期よりも長い第2の周期で人の移動を予測するようにした。
【0016】
(5) 予測日が複数の時間帯に分割され、移動予測手段は時間帯ごとに人の移動を予測するようにした。
【0017】
(6) 移動ベース予測手段は、時間帯ごとに移動ベース予測モデルを構築し、移動予測手段が前記時間帯ごとに予測した人の移動を、対応する移動ベース予測モデルに適用するようにした。
【0018】
(7) 予測精度改善手段は、時間帯ごとに求めた履歴ベース予測値の時間帯平均と時間帯ごとに予測した移動ベース予測値との予測差を時間帯ごとに各履歴ベース予測値に適用するようにした。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0020】
(1) 予測日の消費電力を消費電力履歴に基づいて予測した履歴ベース予測値を、予測日の消費電力を人の移動履歴に基づいて予測した移動ベース予測値との差分に基づいて修正し、予測日の消費電力を予測することで、人の移動に起因した予測精度の低下を防止することができ、安全で予測精度が高く、低い処理負荷により短時間での予測が可能な消費電力予測システム、方法およびプログラムを提供できるようになる。
【0021】
(2) 履歴ベース予測手段は、カレンダ情報に紐付いた消費電力および外因の履歴情報を学習して履歴ベース予測モデルを構築するので、消費電力予測に外因を反映させることができ、高精度な消費電力予測が可能になる。
【0022】
(3) 気象情報やイベント情報などの、消費電力変動の大きな要因となる外因を考慮することで、これらの外因の消費電力予測への影響を緩和できるようになる。
【0023】
(4) 履歴ベース予測値を第1の周期で計算し、移動予測を第1の周期よりも長い第2の周期で人の移動を予測することで、予測計算の負担を軽減できるようになる。
【0024】
(5) 予測日を複数の時間帯に分割し、時間帯ごとに人の移動を予測することで、人の移動傾向が時間帯に応じて固有な場合も、人の移動を高精度で予測できるようになる。
【0025】
(6) 移動ベース予測手段は、時間帯ごとに移動ベース予測モデルを構築し、移動予測手段が時間帯ごとに予測した人の移動を、対応する移動ベース予測モデルに適用するので、人の移動傾向が時間帯に応じて固有な場合も、移動ベース予測値を高精度で予測できるようになる。
【0026】
(7) 履歴ベース予測値の時間帯平均と時間帯ごとに予測した移動ベース予測値との予測差を時間帯ごとに各履歴ベース予測値に適用することで、電力消費傾向が時間帯に依存する場合も高精度な消費電力予測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る消費電力予測システムの主要部の構成を示したブロック図である。
図2】履歴ベース予測モデルによる消費電力の予測方法を示した図である。
図3】エリア間の人の流れを予測する方法を示した図である。
図4】予測日に設定される時間帯の例を示した図である。
図5】移動ベース予測モデルによる移動予測の方法を示した図である。
図6】予測差の計算方法を示した図である。
図7】予測差に基づいて履歴ベース予測値の精度を改善する方法を示した図である。
図8】本発明の一実施形態の機能ブロック図である。
図9】機能ブロック図の動作を示したフローチャートである。
図10】予測差に基づいて予測精度が改善された例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る消費電力予測システムの主要部の構成を示したブロック図であり、市町村あるいは都道府県といった比較的大きなエリアを対象に、消費電力の履歴情報に基づいて将来の消費電力(履歴ベース予測値)を予測する電力予測部1と、各エリアの所在人数に基づいて消費電力(移動ベース予測値)を予測し、各予測値の予測差に応じて履歴ベース予測値を調整しその予測精度を改善する予測精度改善部2とから構成される。
【0029】
電力予測部1において、消費電力履歴データベースiDB-h1には、エリアごとにカレンダ情報と紐付いた過去の消費電力が履歴情報ci-1として登録されている。このような消費電力履歴ci-1は、Advanced Metering Infrastructure(AMI)を使用して収集できる。
【0030】
外因データベースeDB-i1~eDB-iNには、エリアごとに消費電力に影響を及ぼす外因として、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速といった過去の気象情報や将来の気象予報、あるいは花火大会やスポーツなどのイベント情報などが、カレンダ情報と紐づいた履歴情報ei-i1~ei-iNとして登録されている。このような外因履歴ei-i1~ei-iNは、API (Application Programming Interface)を介して収集できる。
【0031】
消費電力推定サーバSV1には、第1MLアルゴリズムa1が登録されている。第1MLアルゴリズムa1は、消費電力履歴データベースiDB-h1においてカレンダ情報と紐付けられた消費電力履歴ci-1と、外因データベースeDB-i1~eDB-iNにおいてカレンダ情報と紐付けられた外因履歴ei-i1~ei-iNとの関係を機械学習(ML)することで重回帰分析を行い、予測エリアの予測日における消費電力を当該予測日の気象予報やイベント情報などの外因に基づいて予測する履歴ベース予測モデルM1を構築する。
【0032】
前記履歴ベース予測モデルM1は、予測日のカレンダ情報および気象予報等の外因に基づいて、図2に示すように、予測エリアの予測日の消費電力Yhを、次式(1)に基づいて30分周期で予測する。本実施形態では、毎日の午前10時に翌日の消費電力が予測され、48個の履歴ベース予測値Yhi(i∈{0, 1…, 47})が履歴ベース予測値データベースiDB-f1に蓄積される。
【0033】
【数1】
【0034】
ここで、Yhiはi番目の周期における履歴ベース予測値、β0,iはi番目の周期に適用される回帰直線の切片、Nは機械学習パラメータ数、βk,iはi番目の周期におけるk番目の機械学習パラメータの回帰係数、pk,iはi番目の周期に適用されるk番目の機械学習パラメータの値である。
【0035】
このように、本実施形態では予測日の消費電力が30分周期で予測され、48個/日の履歴ベース予測値Yhiが得られるので、電気事業者は特にピーク時の消費の変動を綿密に予測することができる。
【0036】
予測精度改善部2において、移動履歴データベースiDB-h2には、エリアごとに他のエリアからの人の流れおよび他のエリアへの人の流れが、カレンダ情報と紐づいた履歴情報mi-1として登録されている。このような移動履歴mi-1は、自身の所在地を共有することに同意したユーザのスマートフォンが有する位置識別機能を介して収集できる。
【0037】
移動予測サーバSV2には、第3MLアルゴリズムa3が登録されている。第3MLアルゴリズムa3は、予測日のエリア間の人の流れを、図3に示すように、移動履歴データベースiDB-h2に登録されている各エリア間での人の移動履歴mi-1を要素とする遷移行列に基づいて予測し、更に移動後の各エリアの所在人数を計算する移動予測モデルM3を構築する。
【0038】
図3は、4つのエリアA,B,C,D間を相互に移動する人の流れを示しており、遷移行列では、要素mADがエリアAからエリアDへの人の流れを表し、要素mDAがエリアDからエリアAへの人の流れを表し、要素mAAがエリアAからエリアAへの人の流れを表している。人の流れの予測結果mfは移動予測データベースiDB-f2に登録される。
【0039】
ここで、例えば人の一般的な移動パターンを考えると、朝に通勤で職場まで移動した後、夕方まで職場で勤務し、勤務を終えた夜に家に移動するなど、移動の合間に一定時間同じ場所に居続ける移動パターンが想定される。また、人の流れの予測周期を短くすると、各エリアの境界近傍での僅かな人の流れも予測に影響するので予測演算の負荷が増加する。
【0040】
そこで、本実施形態では移動履歴mi-1に基づく移動予測を、前記履歴ベース予測に用いる重回帰分析のパラメータとしては取り込まずに独立させ、その予測周期を前記履歴ベース予測の周期(30分)よりも長くすることで処理負荷の軽減を図る。
【0041】
本実施形態では、後に詳述するように、予測日を4つの時間帯T1,T2,T3,T4に分割し、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに消費電力予測Yhが計算されるところ、前記移動予測モデルM3も、エリア間での人の移動および各エリアの所在人数を、一つの予測モデルで時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測する。各時間帯T1,T2,T3,T4は等間隔である必要はなく、人の移動パターンが類似する時間間隔で分割しても良い。
【0042】
前記消費電力推定サーバSV1には更に、第2MLアルゴリズムa2が登録されている。第2MLアルゴリズムa2は、移動予測データベースiDB-f2に登録されている各エリアの人の流れの予測値mfに基づいて推定される当該エリアの所在人数、移動履歴データベースiDB-h2に登録されている移動履歴mi-1および消費電力履歴データベースiDB-h1に登録されている消費電力履歴ci-1の関係を機械学習(ML)することで、各時間帯T1,T2,T3,T4に対応する4つの移動ベース予測モデルM2j (M21,M22,M23,M24) を構築する。
【0043】
各移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24は、図4,5に示すように、エリアごとに各時間帯T1,T2,T3,T4で予測された予測日の各所在人数に基づいて消費電力の移動ベース予測値Ymj(j∈{1, 2, 3, 4})を時間帯T1,T2,T3,T4ごとに計算する。
【0044】
前記消費電力推定サーバSV1は更に、図6に示すように、前記履歴ベース予測モデルM1が30分周期で予測した履歴ベース予測値Yhiの時間帯T1,T2,T3,T4のごとの平均値(時間帯平均)Yh_aj(Yh_a1,Yh2_a2,Yh3_a3,Yh4_a4)を計算し、各時間帯平均Yh_ajと、前記各移動ベース予測モデルM2jが時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測した移動ベース予測値Ymj(Ym1,Ym2,Ym3,Ym4)とを次式(2)に適用して、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測差γj(γ1,γ2,γ3,γ4)を計算する。
【0045】
γj = Ymj - Yh_aj …(2)
【0046】
前記消費電力推定サーバSV1は更に、図7に示すように、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに計算した予測差γ1,γ2,γ3,γ4を、それぞれ各時間帯の履歴ベース予測値Yhiから、次式(3)に基づいて調整することで、予測精度の改善された消費電力予測値Yiを計算する。精度改善された消費電力予測値YiはデータベースiDB-efに蓄積される。
【0047】
Yi = Yhi +γj …(3)
【0048】
図8は、消費電力推定サーバSV1および移動推定サーバSV2が協調し、各データベースDBに蓄積されている履歴情報を用いて各予測モデルMを構築しながら予測日の消費電力を予測し、さらにその予測精度を改善する構成を示した機能ブロック図であり、図9は、その手順を示したフローチャートである。
【0049】
履歴ベース予測部101は、各エリアのカレンダ情報に紐付いた消費電力履歴ci-1および外因履歴ei-i1~ei-iNを機械学習して構築した履歴ベース予測モデルM1に、予測日のカレンダ情報および外因を適用して消費電力の履歴ベース予測値Yhiを計算する。前記外因としては、天気、気温、湿度、降水量、日射量、風速などの気象情報、あるいは花火大会やスポーツなどのイベント情報を使用できる。前記履歴ベース予測部101は、前記履歴ベース予測モデルM1に予測日のカレンダ情報および外因を適用し、第1の周期(例えば、30分)で履歴ベース予測値Yhiを計算することができる。
【0050】
移動予測部102は、エリア間のカレンダ情報に紐付いた人の移動履歴mi-1を学習して構築した移動予測モデルM3に、予測日のカレンダ情報を適用して各エリア間の人の流れmfを予測する。移動予測モデルM3は、前記第1の周期よりも長い第2の周期で人の移動mfを予測することができる。
【0051】
移動ベース予測部103は、予測日を複数の時間帯(本実施形態では、4つの時間帯T1,T2,T3,T4)に分割し、各エリアの所在人数に紐付いた消費電力履歴ci-1および外因ei-i1~ei-iNを学習して、移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24を前記時間帯ごとに構築する。そして、各移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24に、前記予測した人の流れ後の各エリアの所在人数mfを適用することで消費電力の移動ベース予測値Ymjを計算する。
【0052】
予測差計算部104は、履歴ベース予測値Yhiの時間帯平均Yhi_ajと移動ベース予測値Ymjとの予測差γjを計算する。予測差計算部104は、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに求めた履歴ベース予測値Yhiの時間帯平均Yh_aj(Yh_a1,Yh_a2,Yh_a3,Yh_a4)と、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに計算した移動ベース予測値Ymj(Ym1,Ym2,Ym3,Ym4)との予測差γj(γ1,γ2,γ3,γ4)を計算することができる。
【0053】
予測精度改善部105は、履歴ベース予測値Yhiを予測差γmjで修正し、予測精度の改善された消費電力予測値Yiを出力する。予測精度改善部105は、時間帯T1の履歴ベース予測値Yhiには予測差γ1を適用する。同様に、時間帯T2の履歴ベース予測値Yhiには予測差γ2を適用し、時間帯T3の履歴ベース予測値Yhiには予測差γ3を適用し、時間帯T4の履歴ベース予測値Yhiには予測差γ4を適用することができる。これにより、予測精度の改善された消費電力予測値Yiを出力することができる。
【0054】
次いで、図9のフローチャートを参照して説明する。ステップS1では、消費電力の予測エリアおよび予測日が指定される。ステップS2では、予測エリアの予測日に関する気象予報やイベント情報などの外因が取得される。ステップS3では、予測エリアの予測日の消費電力を予測する予測モデルが登録済みであるか否かが判断され、未登録であればステップS4へ進む。
【0055】
ステップS4では、前記履歴ベース予測部101において履歴ベース予測モデルM1が構築される。前記履歴ベース予測部101はさらに、予測エリア、予測日のカレンダ情報および予測エリアの予測日に関する気象予測やイベント情報などの外因を前記履歴ベース予測モデルM1に適用することで、履歴ベース予測値Yhiが30分周期で計算される。
【0056】
これと並行して、ステップS5では、移動予測部102において、予測エリアの予測日における流入人数および流出人数を予測する移動予測モデルM3が構築される。移動予測部102はさらに、前記移動予測モデルM3に予測エリアおよび予測日のカレンダ情報を適用することで予測エリアの予測日における人の移動予測値mfを計算する。
【0057】
ステップS6では、移動ベース予測部103において、予測エリアの予測日の消費電力を、当該予測日の前記流入人数/流出人数に基づいて推定される各エリアの所在人数に基づいて予測する移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24が、前記時間帯T1,T2,T3,T4ごとに構築される。履歴ベース予測部103はさらに、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測した移動予測を、対応する各移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24に適用することで、予測エリアの予測日における移動ベース予測値Ymjを時間帯ごとに計算(Ym1,Ym2,Ym3,Ym4)する。
【0058】
このように、本実施形態では履歴ベース予測モデルM1の構築および予測(ステップS4)と、移動予測モデルM3の構築および予測(ステップS5)ならびに移動ベース予測モデルM21,M22,M23,M24の構築および予測(ステップS6)とが並行して行われるので、全体的な処理コストを低減できるようになる。
【0059】
ステップS7では、前記履歴ベース予測値Yhiの時間帯平均Yh_aj(Yh_a1,Yh_a2,Yh_a3,Yh_a4)が計算される。ステップS8では、図7に示したように、時間帯T1,T2,T3,T4ごとに、履歴ベース予測値の時間帯平均Yh_aj(Yh_a1,Yh_a2,Yh_a3,Yh_a4)と前記時間帯T1,T2,T3,T4ごとに予測された移動ベース予測値Ymj(Ym1,Ym2,Ym3,Ym4)との予測差γが前記予測差計算部104により計算される。
【0060】
ステップS9では、予測精度改善部105が、各履歴ベース予測値Yhiに、その時間帯T1,T2,T3,T4に応じた予測差γ1,γ2,γ3,γ4を反映して予測精度を改善する。なお、前記ステップS4において、予測モデルが登録済みであると判断されるとステップS10へ進み、登録済みの各予測モデルが、その後に取得した履歴情報に基づいて更新される。
【0061】
図10は、消費電力の予測値と実測値との関係を時間帯T1,T2,T3,T4(V列)ごとに比較した例を示した図であり、履歴ベース予測値(X列)を移動ベース予測値との予測差(γ1,γ2,γ3,γ4)に基づいて修正した後の予測値(Y列)は、いずれも実測値(Z列)に近付いており、履歴ベース予測値Yhiの精度が移動ベース予測値Ymjにより改善されていることが判る。
【符号の説明】
【0062】
1…電力予測部,2…精度改善部,101…前記履歴ベース予測部,102…移動予測部,103…移動ベース予測部,104…予測差計算部,105…予測精度改善部,SV1…消費電力推定サーバ,SV2…移動推定サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10