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特許7074713塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクおよび当該インクジェットインクを用いた印刷物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクおよび当該インクジェットインクを用いた印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20220517BHJP
【FI】
C09D11/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019072968
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2019189856
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2019-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2018081142
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】林 克彦
【合議体】
【審判長】門前 浩一
【審判官】川端 修
【審判官】亀ヶ谷 明久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163444(JP,A)
【文献】特開2018-62586(JP,A)
【文献】特開2017-179093(JP,A)
【文献】特開2010-168579(JP,A)
【文献】国際公開第2007/055332(WO,A1)
【文献】特開2012-188612(JP,A)
【文献】特開2013-237834(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111476(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00-5/52
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装鋼板上に、活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを付着させ、活性エネルギー線を照射することにより、当該インクジェットインクを硬化させてなる印刷物に用いる塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクにおいて、
その硬化物のガラス転移温度(Tg)が30℃以下の2官能以上のウレタンアクリレート(A)、
2-アリロキシメチルアクリル酸エステル(B)、
その硬化物のTgが-12℃以上132℃以下の分子内に芳香族以外の環状構造を有する単官能アクリレートモノマー(C)、
その硬化物のTgが0℃以下の下記式(1)または式(2)で表される単官能アクリレートモノマー(D)、
および、
重合開始剤を含む塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクであって、
全重合性モノマー中の
前記(A)の含有濃度が8質量%以上、
前記(B)の含有濃度が22.2質量%以上39.5質量%以下
前記(C)の含有濃度が前記(B)と合わせて44.4質量%以上63.9質量%以下、
前記(D)の含有濃度が0質量%以上33.3質量%以下であり、
当該インクジェットインクの硬化後のTgが0℃以上30℃以下であることを特徴とする塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインク。
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~20のアルキル基を示す。]
【化2】
[式(2)中、nは1~10の整数、Rは炭素数1~10のアルキル基または芳香族置換基を示す。]
【請求項2】
さらに、分散剤および顔料を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインク。
【請求項3】
請求項1または2記載の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを、インクジェットプリンタを用いて塗装鋼板に付着させる工程と、付着させた前記塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクに活性エネルギー線を照射することによって硬化させる工程とを含むことを特徴とする印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクおよび当該インクジェットインクを用いた印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は印刷対象物に非接触で簡便に画像を作成出来るため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルターなどの特殊印刷など、様々な印刷分野に応用され、ガラス、樹脂基材、金属などの材料への印刷にも適用が進んでいる。このように、印刷対象物が紙以外へ拡張されていくにつれて、水性のインクジェット方式から、室温で固形のワックスインクを用いる相変化インクジェット方式、速乾性の有機溶剤を主体としたインクを用いるソルベント系インクジェット方式、記録後紫外線(UV)により硬化させるUVインクジェット方式などが開発されてきた。
【0003】
さらに、最近では、鉄、アルミニウム、真鍮、銅板、ステンレス、ブリキ板、亜鉛メッキなどの鋼板に、表面を保護することや意匠性を付与させることを目的として、塗膜で被覆した塗装鋼板への適用も進み、例えば、特許文献1には、メラミン系の硬化性樹脂を用いた塗装鋼板にも密着し、分散安定性と紫外線硬化性に優れた光カチオン硬化性インクジェットインクが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、1,6-ジエン-2-カルボン酸エステルモノマー及び/又は1,5-ジエン-2-カルボン酸エステルモノマーに由来する環構造を含む構成単位を有することを特徴とする環構造含有共重合体が提案されている。当該環構造含有共重合体は重合時にゲル化しにくく、高濃度の共重合体組成物を得ることができ、優れた耐熱分解性を有する環構造含有共重合体を提供できるとされ、その実施例では、1,6-ジエン-2-カルボン酸エステルモノマーの1種であるアリルオキシメチルアクリル酸メチルを用いてその効果を確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5724049号公報
【文献】特開2010-37549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のインクジェットインクは、硬化性樹脂などを用いた塗装鋼板への密着性は優れるが、折り曲げ加工時にインクジェットによる加飾部分に割れや剥がれが生じることがあった。
【0007】
従って、本発明の目的は、硬化性樹脂などを用いた塗装鋼板に密着し、加工時に割れたり、剥がれることのない印刷物を与えることのできる塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクおよび当該インクジェットインクを用いた印刷物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、重合性モノマーとして特許文献2記載の環化しながらラジカル重合する性質をもつモノマー(以下、環化重合性モノマーともいう)を用い、他の重合性モノマーを組み合わせて、その硬化して得られる樹脂のガラス転移温度(以下、Tgともいう。)を調整することによって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)塗装鋼板上に、活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを付着させ、活性エネルギー線を照射することにより、当該インクジェットインクを硬化させてなる印刷物に用いる塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクにおいて、
その硬化物のガラス転移温度(Tg)が30℃以下の2官能以上のウレタンアクリレート(A)、
2-アリロキシメチルアクリル酸エステル(B)、
その硬化物のTgが-12℃以上132℃以下の分子内に芳香族以外の環状構造を有する単官能アクリレートモノマー(C)、
その硬化物のTgが0℃以下の下記式(1)または式(2)で表される単官能アクリレートモノマー(D)、
および、
重合開始剤を含む塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクであって、
全重合性モノマー中の
前記(A)の含有濃度が8質量%以上、
前記(B)の含有濃度が22.2質量%以上39.5質量%以下
前記(C)の含有濃度が前記(B)と合わせて44.4質量%以上63.9質量%以下、
前記(D)の含有濃度が0質量%以上33.3質量%以下であり、
当該インクジェットインクの硬化後のTgが0℃以上30℃以下であることを特徴とする塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインク、
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~20のアルキル基を示す。]
【化2】
[式(2)中、nは1~10の整数、Rは炭素数1~10のアルキル基または芳香族置換基を示す。]
(2)さらに、分散剤および顔料を含むことを特徴とする(1)に記載の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインク。
(3)(1)または(2)記載の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを、インクジェットプリンタを用いて塗装鋼板に付着させる工程と、付着させた前記塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクに活性エネルギー線を照射して硬化させる工程とを含むことを特徴とする印刷物の製造方法、である。
【0010】
なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」はアクリレートとメタクリレートの両者を示すものとして使用される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインク(以下、単に「インクジェットインク」とも言う。)は、硬化性に優れ、硬化性樹脂などを用いて形成された塗装鋼板に対し、強固に密着した印刷物を与え、その印刷物は折り曲げても、割れたり、剥がれることがない。従って、前もって大量生産された塗装鋼板に、インクジェットのオンデマンド性を生かして加飾印刷し、それを折り曲げ加工などを施すことによって複雑な形状物とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。 なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0013】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクは、塗装鋼板上に、活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを付着させ、活性エネルギー線を照射することにより、当該インクジェットインクを硬化させてなる印刷物に用いる塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクにおいて、その硬化物のガラス転移温度(Tg)が30℃以下の2官能以上のウレタンアクリレート(A)、環化重合性モノマー(B)、分子内に芳香族以外の環状構造を有するモノマー(C)、および、その硬化物のTgが0℃以下の分子内に芳香族以外の環状構造をもたない単官能アクリレートモノマー(D)、を含む塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクであって、前記(A)の含有濃度が8質量%以上、前記(B)の含有濃度が20質量%以上、前記(C)の含有濃度が前記(B)と合わせて40質量%以上、前記(D)の含有濃度が0質量%以上40質量%以下であり、当該インクジェットインクの硬化後のTgが0℃以上30℃以下であることを特徴とする。より好ましくは10℃以上30℃以下とすることで、UV硬化性が良く、加工性も得られる。
【0014】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクに含まれる、その硬化物のTgが30℃以下の2官能以上のウレタンアクリレート(A)としては、サートマー社製のCN972、CN992、ダイセル・オルネクス社製のEBECRYL 210、EBECRYL 230、EBECRYL 270、EBECRYL 4500、EBECRYL 8402、EBECRYL 8411、EBECRYL 8413、KRM 7735などが挙げられ、その含有濃度はウレタンアクリレート(A)として8質量%以上(全重合性モノマーに対する。以下同じ。)が好ましく、20質量%以下がより好ましい。20質量%を超えると、粘度が高くなり過ぎて、インクジェットインクとして吐出安定性が得られないおそれがある。
【0015】
ウレタンアクリレート(A)の硬化物のTgが30℃を越えたり、その含有濃度が8質量%未満では、印刷物を折り曲げたときや成形時に割れや剥がれが生じやすくなるため好ましくない。
【0016】
なお、本発明においてガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)により測定され、-60℃から200℃まで20℃/分で昇温し、その後-100℃/分で冷却し、再び-60℃から200℃まで20℃/分で昇温したときに検出したピークから求めた。
【0017】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクに含まれる、環化重合性モノマー(B)としては、2-アリロキシメチルアクリル酸エステルが好ましく、日本触媒製のFX-AO-MAなどが例示できるが、その含有濃度は20質量%以上が好ましく、70質量%以下がより好ましい。20質量%未満では印刷物の表面がべたついたり、印刷物を折り曲げたときに割れや剥がれが生じやすくなるなど、塗装鋼板との密着性が確保できなくなる。70質量%を超えると割れが生じやすくなる。
【0018】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクに含まれる、分子内に芳香族以外の環状構造を有するモノマー(C)としては、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル(メタ)アクリレート、5-テトラヒドロフルフリルオキシカルボニルペンチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマル(メタ)アクリレート、アルコキシ化テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、N-アクリロイルモルホリン、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、エチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アアクリレート、ロジン(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、5-メチルノルボルニル(メタ)アクリレート、5-エチルノルボルニル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物が例示できる。
【0019】
前記環状構造を有するモノマー(C)の含有濃度は、前記環化重合性モノマー(B)と合わせて40質量%以上が好ましい。40質量%未満では印刷物において塗装鋼板との密着性が低下する。
【0020】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクに含まれる、その硬化物のTgが0℃以下の分子内に芳香族以外の環状構造をもたない単官能アクリレートモノマー(D)は、インクジェットインク全体のTgを下げ、調整するために使用されるが、その含有濃度は、0質量%以上40質量%以下が好ましい。40質量%を超えると、塗装鋼板への密着が低下する。また、前記単官能アクリレートモノマー(D)としては、下記式(1)または式(2)で表される単官能アクリレートモノマーが好ましく用いられる。
【0021】
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~20のアルキル基を示す。]
なお、Rのアルキル基は炭素数1~20であることが好ましく、炭素数1~16であることがより好ましく、炭素数3~10であることがさらに好ましい。
【0022】
【化2】
[式(2)中、nは1~10の整数、Rは炭素数1~10のアルキル基または芳香族置換基を示す。]
【0023】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクは、前記(A)、(B)、(C)および/または(D)の重合性モノマー、重合開始剤、分散剤、その他添加剤を混合し、活性エネルギー線の照射により硬化させて、Tgを測定し、その値が0℃以上30℃以下になるようにその組成を調整することによって得られる。なお、当該Tgを、10℃以上30℃以下とすることで、活性エネルギー線硬化性が良く、加工性も得られるため、より好ましい。また、当該Tgはそれぞれの成分を硬化させた樹脂のTgからある程度経験的に予測可能である。
【0024】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクは、重合条件により光重合開始剤を含有しても良い。活性エネルギー線が紫外線の場合は、光重合開始剤が必要とされるが、電子線の場合は必要とはされない。
【0025】
本発明で用いる光重合開始剤としては、紫外線照射によりラジカルを発生することのできる化合物であれば特に限定されない。例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4’-イソプロピルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、ベンズアントロン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4’-トリ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジ(メトキシカルボニル)-4,4’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4’-ジ(メトキシカルボニル)-4,3’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4’-ジ(メトキシカルボニル)-3,3’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(o-ベンゾイルオキシム)、2-(4’-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2’-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4’-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2’-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4’-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルホリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどを例示できる。
【0026】
なかでも、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどは、インクジェットインク中に含まれる他の成分との相溶性が高く、高濃度で使用でき、その結果、少ない紫外線の照射量で重合反応を起こすので好ましい。なお、前記光重合開始剤は1種でも2種類以上を併用してもよく、その使用量は、インク中の含有濃度で0.2~20質量%であることが好ましい。
【0027】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクは、硬化性樹脂などを用いた塗装鋼板への加飾に用いる場合など、色材として顔料を含有することができる。顔料としては、有機顔料および/または無機顔料の種々のものが使用可能である。具体的には、酸化チタン、亜鉛華、鉛白、リトボンおよび酸化アンチモンなどの白色顔料、アニリンブラック、鉄黒、およびカーボンブラックなどの黒色顔料、黄鉛、黄色酸化鉄、ハンザイエロー(100 、50 、30など)、チタンイエロー、ベンジンイエロー、およびパーマネントイエローなどの黄色顔料、クロームバーミロオン、パーマネントオレンジ、バルカンファーストオレンジ、およびインダンスレンブリリアントオレンジなどの橙色顔料、酸化鉄、パーマネントブラウン、およびパラブラウンなどの褐色顔料、ベンガラ、カドミウムレッド、アンチモン朱、パーマネントレッド、ローダミンレーキ、アリザリンレーキ、チオインジゴレッド、PVカーミン、モノライトフェーストレッド、およびキナクリドン系赤色顔料などの赤色顔料、コバルト紫、マンガン紫、ファーストバイレット、メチルバイオレットレーキ、インダンスレンブリリアントバイオレット、ジオキサジンバイオレットなどの紫色顔料、群青、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、無金属フタロシアニンブルー、銅フタロシアニンブルー、インダンスレンブルーおよびインジゴなどの青色顔料、クロムグリーン、酸化クロム、エメラルドグリーン、ナフトールグリーン、グリーンゴールド、アシッドグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン、およびポリクロルブロム銅フタロシアニンなどの緑色顔料、その他各種蛍光顔料、金属粉顔料、体質顔料などが挙げられる。本発明のインクジェットインク中におけるこれらの顔料の含有濃度は、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5~15質量% であることがより好ましい。0.1質量%未満では着色力が不十分で、20質量%を超えると紫外線の透過率が下がり、硬化性が不十分となる場合がある。なお、色材としては染料も使用可能といえるが、耐候性が劣るため好ましくない。
【0028】
前記塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクには、さらに必要に応じて分散剤、消泡剤、レベリング剤、重合禁止剤、ワックス類、酸化防止剤、非反応性ポリマー、微粒子無機フィラー、シランカップリング剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤などの添加剤および溶剤を添加することができる。
【0029】
本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクは、前記(A)、(B)、(C)および/または(D)の重合性モノマーを混合し、必要に応じて光重合開始剤、顔料、その他の添加剤や溶剤を添加して製造できる。なお、顔料については別途、用いるモノマーの1種または2種以上の中で分散させてから、添加、混合してもよいが、全ての材料を混合してから分散させてもよい。
【0030】
本実施形態に係る印刷物の製造方法は、本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを、インクジェットプリンタを用いて塗装鋼板に付着させる工程と、付着させた前記塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクに活性エネルギー線を照射して硬化させる工程と、を含む。
【0031】
塗装鋼板は特に限定されないが、例えば、金属板に硬化性樹脂などで被覆し硬化させた塗装鋼板など、または、さらにトップコートが設けられたものも含まれる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線であれば、波長100~400nmを含む光である。金属板としては、冷延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金化亜鉛メッキ鋼板、亜鉛-鉄合金メッキ鋼板、亜鉛-アルミ合金メッキ鋼板、アルミメッキ鋼板、クロムメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、亜鉛-ニッケル合金メッキ鋼板、錫メッキ鋼板、アルミメッキステンレス鋼板、鉛メッキステンレス鋼板、亜鉛メッキステンレス鋼板、ステンレス鋼板、鉄板、アルミニウム板などを挙げることができ、なかでも亜鉛系メッキ鋼板およびこれらの亜鉛系メッキ鋼板にリン酸亜鉛処理、クロメート処理などの化成処理を施してなる化成処理亜鉛系メッキ鋼板などがより好ましい。
【0032】
前記塗装鋼板に塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを印刷して塗装鋼板印刷物とし、成形することで、密着性に優れ、折り曲げても割れたり剥がれたりすることがなく、優れた加飾成形物を得ることができる。
【0033】
本実施形態に係る印刷物の製造方法は、具体的には、本発明の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを、ピエゾ型インクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタを用いて基材である塗装鋼板に付着させる。インクジェットプリンタにより射出するインクの液滴は、たとえば3pL以上100pL以下とすることができる。ついで、高圧水銀灯などを用いて紫外線を照射することによりインクジェットインクを重合硬化させ、さらに場合によっては、残存モノマーを除去するため加熱して塗装鋼板印刷物を得る。
【0034】
付着させたインクジェットインクを紫外線硬化させる工程では、例えば320~390nmの波長領域での積算光量が300mJ/cm以上1000mJ/cm以下となるよう紫外線を照射する。照射は複数回にわたっておこなっても良いし、1度でも良い。また、加熱する工程では、塗装鋼板の耐熱性により異なるが、表面で120~250℃の温度で1~60分間で、好ましくは150~240℃で数分間である。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0036】
表1に実施例および比較例で用いた材料の名称などを、表2~表6に実施例および比較例の配合組成を、記載した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
(実施例1)
表2の実施例1の材料を遮光下、乾燥空気雰囲気中、ホモミキサーで30分間混合撹拌した後、孔径2μmのガラスフィルターを用いて加圧濾過し、実施例1の塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクを得た。
【0044】
実施例2~18および比較例1~30についても実施例1と同様に操作してそれぞれのインクジェットインクを得た。
【0045】
なお、顔料を用いた実施例19~22については、実施例1の「ホモミキサーで30分間混合撹拌した」を、「φ0.5mmのセラミックビーズを用い、サンドミルにて4時間処理し、ビーズを取り除いた」に変更した以外は実施例1と同様に操作してそれぞれのインクジェットインクを得た。
【0046】
得られたインクジェットインクの全重合性モノマーに対する(A)~(D)各成分の濃度および硬化後のポリマーTgを、表7および表8に記載した。
【0047】
<ガラス転移温度(Tg)>
ガラス転移温度は、各実施例および比較例のインクジェットインクの一定量をとり、紫外線の積算光量1000mJ/cm以上を照射し、さらに150℃のオーブンで30分以上加熱して得られたサンプルを用い、DSC測定装置(PerkinElmer社製 DSC8500)で、-60℃から200℃まで20℃/分で昇温後、100℃/分で冷却、再び-60℃から200℃まで20℃/分で昇温したときに検出したピークから定法に従い、求めた。
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
実施例および比較例について、以下に示すUV硬化性、耐折り曲げ性および密着性を評価し、表9および表10にその評価結果を示した。
【0051】
<UV硬化性>
実施例および比較例の各インクジェットインクをピエゾ型インクジェットヘッド(KM512MH、コニカミノルタ社製、以下の評価においても同じ装置を使用した。)を搭載したインクジェットプリンタを用いて720×720dpiの解像度で、ポリエステル-メラミン系焼付け塗料で被覆された鋼板にベタ印刷した後、高圧水銀灯を用いて320nm~390nmの波長領域で1000mJ/cmの積算光量で紫外線照射した。その紫外線照射後の皮膜を指触し、表面にまったくベタつきのないものを○、ややべたつきがあるものを△(実用上問題ない)、べたつきが顕著なものを×として評価した。
【0052】
<耐折り曲げ性>
実施例および比較例の各インクジェットインクを、ピエゾ型インクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタを用いて720×720dpiの解像度で、ポリエステル-メラミン系焼付け塗料で被覆された厚さ0.5mmの鋼板にベタ印刷した後、高圧水銀灯を用いて320nm~390nmの波長領域で1000mJ/cmの積算光量で紫外線照射して、塗装鋼板印刷物を得た。得られた塗装鋼板印刷物を25℃に保温し、インク塗布面を表面として山折に裏面同士が密着するまで180°曲げたとき、折り曲げ部の印刷部分に割れや剥がれが無いものを○、割れや剥がれがあるものを×として評価した。
【0053】
<密着性>
前記<耐折り曲げ性>で作製した塗装鋼板印刷物の硬化膜に、×状の切れ込みを入れ、その上に粘着テープを密着させて剥がしたときに、その硬化皮膜が剥がれないものを○、剥がれるものを×として評価とした。
【0054】
【表9】
【0055】
【表10】
【0056】
表9および表10の結果から、実施例1~22の各塗装鋼板用活性エネルギー線硬化性インクジェットインクは、UV硬化性、耐折り曲げ性および密着性について非常に良好であることが確認された。重合性モノマー成分(A)~(C)および/または(D)の含有濃度が範囲外、(A)のガラス転移温度が範囲外、あるいはインクジェットインクのガラス転移温度が範囲外となる比較例1~30は、UV硬化性、耐折り曲げ性および密着性について、いずれかが劣り、塗装鋼板印刷物として使用するにはバランスが悪い結果となった。