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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】制動力制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
B60T8/17 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019094920
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020189533
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 雄介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 隼人
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-131121(JP,A)
【文献】特開2010-221881(JP,A)
【文献】特開平10-059147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の各車輪に付与される制動力を制御する制動力制御装置であって、
制動要求があった場合に当該制動要求に応じた要求制動力に相関した液圧を要求液圧として発生させる液圧発生機構と、
前記各車輪に設けられ、前記各車輪とともに回転する回転部材と、前記回転部材に接触可能な制動部材と、を含み、前記要求液圧により前記制動部材が回転中の前記回転部材に押し付けられることにより当該要求液圧に依存した制動力を前記各車輪に付与する制動機構と、
前記液圧発生機構を制御する液圧制御手段と、
前記車両の車両状態が走行状態にあるか停止状態にあるかを特定する車両状態特定手段と、
を備え、
前記液圧制御手段は、
前記要求液圧が発生している状態で、前記特定される前記車両状態が第1時点において前記走行状態から前記停止状態に遷移した場合、前記第1時点以降の前記要求液圧を嵩上げする停止時嵩上げ制御を実行
前記停止時嵩上げ制御が実行されている期間中に、前記特定される前記車両状態が第2時点において前記停止状態から前記走行状態に遷移した場合、前記停止時嵩上げ制御を終了し、前記第2時点以降の前記要求液圧の嵩上量を時間の経過とともに減少させる嵩上量減少制御を実行する、
ように構成された、
制動力制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の制動力制御装置において、
前記液圧制御手段は、
前記嵩上量減少制御が実行されている期間中に、前記嵩上量を差し引いた前記要求液圧の推移である液圧推移が第3時点において減少傾向から維持又は増加傾向に変化した場合、前記嵩上量減少制御を終了し、前記第3時点から前記特定される前記車両状態が前記走行状態から再び前記停止状態に遷移する時点までの期間、又は、前記第3時点から前記液圧推移が再び減少傾向に変化する時点までの期間、前記要求液圧の嵩上量を、前記第3時点における前記嵩上量に維持する嵩上量維持制御を実行する、
ように構成された、
制動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の各車輪に制動力を付与する制動装置が知られている。制動装置は、制動要求があった場合に当該制動要求に応じた要求制動力に相関した液圧を要求液圧として発生させる液圧発生機構と、各車輪に設けられ、要求液圧に依存した制動力を前記各車輪に付与する制動機構と、を備える(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-182639号公報
【発明の概要】
【0004】
制動機構は、車輪とともに回転する回転部材(例えば、ディスク又はドラム)と、回転部材に接触可能な制動部材(例えば、ブレーキパッド又はブレーキシュー)と、を含む。このような制動機構は、液圧発生機構で発生した液圧により制動部材を回転中の回転部材に押し付け、回転部材の回転エネルギーを摩擦による熱エネルギーに変換させることにより、回転部材の回転を制動する制動力を発生させている。
【0005】
制動力は、一般に、制動部材の摩擦係数、制動部材と回転部材との接触面積、及び、制動部材が回転部材に押し付けられる力(押付力)等に依存する。これらのうち、摩擦係数及び接触面積は設計により予め決定され得る。一方、押付力は、要求液圧により決定され得る。しかしながら、要求液圧が一定であっても押付力が低下し、この結果、制動力が低下する場合がある。即ち、制動部材が回転中の回転部材に押し付けられている間は、両者の接触部分に発生する摩擦熱により両者が熱膨張しているが、回転部材の回転が停止してある程度の時間が経過すると、両者の体積は温度低下により僅かに減少する。これは、熱緩みと称される周知の現象である。熱緩みにより両者の体積が減少すると、要求液圧が一定であっても押付力が低下するため、制動力が低下する可能性がある。この結果、停止状態にある車両が運転者の意図に反して動き出してしまう可能性がある。
【0006】
加えて、運転者自身のブレーキペダル操作により車両が停止状態にある場合、運転者が意図せずにブレーキペダルの踏込み操作力(踏力)を緩めてしまい(以下、「踏力緩み」とも称する。)、結果として車両が動き出してしまう可能性もある。
【0007】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、熱緩み又は踏力緩みに起因して運転者の意図に反して車両が動き出してしまう可能性を低減できる制動力制御装置を提供することにある。
【0008】
本発明による制動力制御装置(10)(以下、「本発明装置(10)」とも称する。)は、車両の各車輪に付与される制動力を制御する。
本発明装置(10)は、
制動要求があった場合に当該制動要求に応じた要求制動力に相関した液圧を要求液圧として発生させる液圧発生機構(70)と、
前記各車輪に設けられ、前記各車輪とともに回転する回転部材(86)と、前記回転部材(86)に接触可能な制動部材(88)と、を含み、前記要求液圧により前記制動部材(88)が回転中の前記回転部材(86)に押し付けられることにより当該要求液圧に依存した制動力を前記各車輪に付与する制動機構(80)と、
前記液圧発生機構(70)を制御する液圧制御手段と、
前記車両の車両状態が走行状態にあるか停止状態にあるかを特定する車両状態特定手段と、
を備える。
前記液圧制御手段は、
前記要求液圧が発生している状態で、前記特定される前記車両状態が第1時点(t1)において前記走行状態から前記停止状態に遷移した場合、前記第1時点(t1)以降の前記要求液圧を嵩上げする停止時嵩上げ制御を実行
前記停止時嵩上げ制御が実行されている期間中に、前記特定される前記車両状態が第2時点(t3)において前記停止状態から前記走行状態に遷移した場合、前記停止時嵩上げ制御を終了し、前記第2時点(t3)以降の前記要求液圧の嵩上量(ΔPRD)を時間の経過とともに減少させる嵩上量減少制御を実行する、
ように構成されている。
【0009】
この構成によれば、車両状態が走行状態から停止状態に遷移した時点である第1時点以降においては、要求液圧を嵩上げする停止時嵩上げ制御が実行される。このため、第1時点以降においては要求制動力よりも大きい制動力が各車輪に付与される(別言すれば、制動力が嵩上げされる)。このため、熱緩みが発生しても、各車輪に付与される制動力が要求制動力未満になる可能性を低減できる。加えて、踏力緩みが発生して要求制動力自体が低下しても、各車輪に付与される制動力が、車両が動き出し始めるときの制動力以下になる可能性を低減できる。従って、熱緩み又は踏力緩みに起因して車両が動き出してしまう可能性を低減できる。また、この構成によれば、停止時嵩上げ制御の実行中に要求液圧が低下して車両状態が第2時点において停止状態から走行状態に遷移した場合、停止時嵩上げ制御に代えて、要求液圧の嵩上量を時間の経過とともに減少させる嵩上量減少制御が実行される。これにより、第2時点の前後において制動力の変化が緩やかになるため、第2時点において車両が勢い良く動き出してしまう可能性を低減できる。
【0012】
本発明の一側面では、
前記液圧制御手段は、
前記嵩上量減少制御が実行されている期間中に、前記嵩上量を差し引いた前記要求液圧(PBR)の推移である液圧推移が第3時点(t4)において減少傾向から維持又は増加傾向に変化した場合、前記嵩上量減少制御を終了し、前記第3時点(t4)から前記特定される前記車両状態が前記走行状態から再び前記停止状態に遷移する時点(t5)までの期間、又は、前記第3時点(t4)から前記液圧推移が再び減少傾向に変化する時点(t6)までの期間、前記要求液圧の嵩上量(ΔPRK)を、前記第3時点(t4)における前記嵩上量に維持する嵩上量維持制御を実行する、
ように構成されている。
【0013】
この構成によれば、嵩上量減少制御の実行中に液圧推移(嵩上量を差し引いた要求液圧の推移)が第3時点において減少傾向から維持又は増加傾向に変化した場合、嵩上量減少制御に代えて、要求液圧の嵩上量を第3時点における嵩上量に維持する嵩上量維持制御が実行される。この嵩上量維持制御は、第3時点から車両状態が走行状態から再び停止状態に遷移する時点までの期間、又は、第3時点から液圧推移が再び減少傾向に変化する時点までの期間に亘って実行される。このため、これらの期間中に熱緩みが発生しても、各車輪に付与される制動力が要求制動力未満になる可能性を低減できる。
【0014】
なお、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る制動力制御装置の概略構成図である。
図2】ディスクブレーキユニットの模式図である。
図3図1のブレーキECU及びその周辺の電気的構成を示すブロック図である。
図4A】各種嵩上げ制御が実行される期間と車両状態との関係を示すとともに、これらの制御における要求液圧の嵩上量を示すグラフである。
図4B】嵩上量減少制御における嵩上げ前の要求液圧の勾配と嵩上げ後の要求液圧の勾配との関係を規定したグラフである。
図5A】各種嵩上げ制御が実行される期間と車両状態とブレーキペダル操作との関係を示すとともに、これらの制御における要求液圧の嵩上量を示すグラフである。
図5B】各種嵩上げ制御が実行される期間と車両状態とブレーキペダル操作との関係を示すとともに、これらの制御における要求液圧の嵩上量を示すグラフである。
図6図1のブレーキECUのCPU(以下、単にCPUとも称する。)が実行するルーチンを示したフローチャートである。
図7】CPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
図8】CPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
図9】CPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
図10】本発明の第3変形例に係る制動力制御装置が嵩上量減少制御を実行する場合における嵩上量の減少度合いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
(構成)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る制動力制御装置(以下、「本実施装置」とも称する。)10は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施装置10は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに回生することによって車両を制動する回生制動と、本実施装置10による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態に係る本実施装置10が搭載される車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0017】
ブレーキペダル(BP)12は、運転者による踏込み操作に応じて昇圧された作動液を送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。
【0018】
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aには、運転者によるブレーキペダル12の踏力に応じたペダルストロークを創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、通常時通電することにより開弁し、異常時を含む非通電時に閉弁する常閉型の電磁開閉弁である。又、マスタシリンダ14には、作動液を貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。
【0019】
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aには、右前輪用のブレーキ液圧制御管16が接続されている。ブレーキ液圧制御管16は、図示しない車両の右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ84FRに接続されている。一方、マスタシリンダ14の第2出力ポート14bには、左前輪用のブレーキ液圧制御管18が接続されている。ブレーキ液圧制御管18は、図示しない車両の左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ84FLに接続されている。
【0020】
右前輪用のブレーキ液圧制御管16の中途には、右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ液圧制御管18の中途には、左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FR及び左電磁開閉弁22FLは、何れも、非通電時に開状態にあり、通電時に閉状態に切り替えられる常開型の電磁開閉弁である。なお、以下では、右電磁開閉弁22FRと左電磁開閉弁22FLとを総称して、単に「電磁開閉弁22」とも称する。
【0021】
右前輪用のブレーキ液圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ液圧制御管18の中途には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。本実施装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏込み操作量であるペダルストロークが検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FR及び左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FR及び48FLによって監視することは、フェールセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では、右マスタ圧力センサ48FR及び左マスタ圧力センサ48FLを総称して、単に「マスタシリンダ圧センサ48」とも称する。
【0022】
一方、リザーバタンク26には、液圧給排管28の一端が接続されており、この液圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ54とが接続されている。なお、オイルポンプ34には、例えば、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる図示省略の2体以上のピストンを備えた往復動ポンプを採用できる。加えて、アキュムレータ50には、例えば、作動液の圧力エネルギーを窒素封入ガスの圧力エネルギーに変換して蓄える蓄圧装置を採用できる。
【0023】
アキュムレータ50は、通常、オイルポンプ34によって所定液圧範囲にまで昇圧された作動液を蓄える。リリーフバルブ54の弁出口は、液圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50における作動液の圧力が異常に高まると、リリーフバルブ54が開弁し、高圧の作動液は液圧給排管28へと戻される。更に、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、即ち、アキュムレータ50における作動液の圧力を検出するアキュムレータ圧センサ52が設けられている。
【0024】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ84FR、左前輪用のホイールシリンダ84FL、右後輪用のホイールシリンダ84RR、左後輪用のホイールシリンダ84RLに接続されている。なお、以下では、増圧弁40FR~40RLを総称して、単に「増圧弁40」とも称し、ホイールシリンダ84FR~84RLを総称して、単に「ホイールシリンダ84」とも称する。増圧弁40は、何れも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ84の増圧に利用される常閉型の電磁弁(リニア弁)である。
【0025】
ここで、図2に示すように、車両の各車輪(図示省略)に対しては、制動機構としてのディスクブレーキユニット80が設けられている。各ディスクブレーキユニット80は、キャリパ82と、回転部材としてのディスク86と、制動部材としてのブレーキパッド88と、を備える。キャリパ82は、ホイールシリンダ84を内蔵しており、ホイールシリンダ84は、ピストン84aを有している。ディスク86は、対応する車輪とともに周方向に回転可能である。ブレーキパッド88は、キャリパ82に支持されており、ディスク86を挟み込むように配設されており、ディスク86に接触可能である。ディスクブレーキユニット80は、ホイールシリンダ84に作用する作動液の圧力によりピストン84aを押し出し、ブレーキパッド88をディスク86に押し付けることで制動力を発生する。
【0026】
図1に戻って説明を続ける。右前輪用のホイールシリンダ84FRと左前輪用のホイールシリンダ84FLとは、それぞれ減圧弁42FR又は減圧弁42FLを介して液圧給排管28に接続されている。減圧弁42FR及び減圧弁42FLは、必要に応じてホイールシリンダ84FR,84FLの減圧に利用される常閉型の電磁弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ84RRと左後輪用のホイールシリンダ84RLとは、常開型の電磁弁(リニア弁)である減圧弁42RR又は減圧弁42RLを介して液圧給排管28に接続されている。なお、以下では、減圧弁42FR~42RLを総称して、単に「減圧弁42」とも称する。
【0027】
右前輪用、左前輪用、右後輪用及び左後輪用のホイールシリンダ84FR~84RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ84に作用する作動液の圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RR及び44RLが設けられている。なお、以下では、ホイールシリンダ圧センサ44FR~44RLを総称して、単に「ホイールシリンダ圧センサ44」とも称する。
【0028】
上述した電磁開閉弁22、増圧弁40、減圧弁42、モータ32等は、本実施装置10の液圧発生機構としての液圧アクチュエータ70を構成する。この液圧アクチュエータ70は、ブレーキECU100(以下、単に「ECU100」と称する。)によって制御される。
【0029】
加えて、各車輪には、右前輪用の車輪速センサ60FR、左前輪用の車輪速センサ60FL、右後輪用の車輪速センサ60RR、左後輪用の車輪速センサ60RLが設けられている。以下では、車輪速センサ60FR~60RLを総称して、単に「車輪速センサ60」とも称する。車輪速センサ60は、対応する車輪が所定角度だけ回転する毎にパルス信号を発生するようになっている。車輪速センサ60は、ECU100に電気的に接続されている。ECU100は、車輪速センサ60から送信される信号に基づいて車両の車両状態が走行状態にあるか停止状態にあるかを特定する。具体的には、ECU100は、4つの車輪速センサ60FR~60RLのうち、「少なくとも1つの車輪速センサからパルス信号の入力があった」という信号入力条件が成立しているか否かを判定する。ECU100は、信号入力条件が成立している場合、車両状態が走行状態にあると特定し、信号入力条件が成立していない場合(別言すれば、何れの車輪速センサ60FR~60RLからもパルス信号の入力がなかった場合)、車両状態が停止状態にあると特定する。なお、ECU100は、車輪速センサ60から送信される信号に基づいて車両の速度(車速)も演算する。
【0030】
ECU100は、車両状態に基づいてホイールシリンダ84におけるホイールシリンダ圧を制御する(より具体的には、後述するように嵩上げする)ことにより、各車輪に付与される制動力を制御する。ECU100は、各種演算処理を実行するCPU、後述するプログラムを含む各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ等を備える(図3参照)。
【0031】
ECU100には、シミュレータカット弁23及び液圧アクチュエータ70が電気的に接続されている。より詳細には、ECU100には、液圧アクチュエータ70を構成する電磁開閉弁22、モータ32、増圧弁40、減圧弁42等が電気的に接続されている(図3参照)。加えて、ECU100は、図示を省略する他の電子制御ユニット(例えば、上位のハイブリッドECU等)と通信可能とされている。
【0032】
更に、ECU100には、制御に用いるための信号を出力する各種センサやスイッチ類が電気的に接続されるようになっている。即ち、図3に示すように、ECU100には、電気的に接続されたホイールシリンダ圧センサ44からホイールシリンダ84におけるホイールシリンダ圧を表す信号が入力され、電気的に接続されたストロークセンサ46からブレーキペダル12のペダルストロークを表す信号が入力され、電気的に接続されたマスタシリンダ圧センサ48からマスタシリンダ圧を表す信号が連続的に入力され、電気的に接続されたアキュムレータ圧センサ52からアキュムレータ圧を表す信号が入力され、電気的に接続された車輪速センサ60からパルス信号が入力される。
【0033】
なお、図示はしないが、ECU100には、上述した各センサ以外に、ヨーレートセンサからヨーレートを表す信号が入力されたり、加速度センサから車両の加速度を表す信号が入力されたり、或いは、舵角センサからステアリングホイールの操舵角を表す信号が入力されたりしている。
【0034】
このように構成される本実施装置10においては、上述したようにブレーキ回生協調制御を実行することができる。具体的には、本実施装置10は、制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば、運転者がブレーキペダル12を操作した場合(別言すれば、車両に制動力を付与すべきとき)に生成される。制動要求を受けて、ECU100は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることにより本実施装置10により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力の情報は、図示を省略する上位のハイブリッドECUからECU100に供給される。ECU100は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ84の要求液圧(要求ホイールシリンダ圧)を算出する。ECU100は、ホイールシリンダ圧センサ44から入力されるホイールシリンダ圧が要求液圧となるように、フィードバック制御により増圧弁40や減圧弁42に供給する制御電流の値を決定する。
【0035】
これにより、本実施装置10においては、高圧の作動液がアキュムレータ50から各増圧弁40を介して各ホイールシリンダ84に供給され、車輪に制動力が付与される。加えて、各ホイールシリンダ84から作動液が減圧弁42を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。ここで、本実施形態においては、アキュムレータ50、増圧弁40、減圧弁42等を含んで、ブレーキペダル12の操作から独立してホイールシリンダ84のホイールシリンダ圧を制御し得るホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。従って、ホイールシリンダ圧制御系統により、所謂、ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。
【0036】
上記のようにして車輪に制動力が付与されているときは、電磁開閉弁22FR及び22FLは閉状態とされ、シミュレータカット弁23は開状態とされる。このため、運転者によるブレーキペダル12の踏込みによりマスタシリンダ14から送出された作動液は、シミュレータカット弁23を通ってストロークシミュレータ24に流入する。
【0037】
なお、アキュムレータ圧が予め設定された蓄圧設定範囲の下限値以下であるときには、ECU100によりモータ32に電流が供給され、オイルポンプ34が駆動されてアキュムレータ圧が昇圧される。この昇圧によってアキュムレータ圧がその蓄圧設定範囲に入りその上限値に達すると、モータ32への給電が停止される。
【0038】
(ブレーキ制御方法)
次に、本実施形態のブレーキ制御方法について説明する。従来から、熱緩みと称される現象に起因して、要求液圧が一定であっても制動力が低下してしまうという問題があった。加えて、踏力緩みにより要求液圧が低下することに起因して制動力が低下してしまうという問題があった。熱緩み及び/又は踏力緩みが発生すると、停止状態にある車両が運転者の意図に反して動き出してしまう可能性がある。
【0039】
そこで、本実施装置10のECU100は、運転者によりブレーキペダル12が踏込まれている状態(別言すれば、ホイールシリンダ84に作用する液圧が発生している状態)で車両状態が走行状態から停止状態に遷移した場合、車両が停止状態にある期間中、要求液圧を所定の液圧だけ嵩上げする停止時嵩上げ制御を実行する。停止時嵩上げ制御により、車両が停止状態にある期間中は、要求液圧が嵩上げされた分だけ制動力が増加する。このため、熱緩み及び/又は踏力緩みが発生して制動力が低下しても、当該制動力が、車両が動き出すときの制動力以下になる可能性が低減し、運転者の意図に反して車両が動き出してしまう可能性を低減できる。
【0040】
以下、図4Aを参照して具体的に説明する。図4Aは、要求液圧の経時的な推移を示すグラフであり、停止時嵩上げ制御及び嵩上量減少制御(後述)が実行される期間と車両状態と運転者によるブレーキペダル操作との関係を示すグラフである。ECU100は、車輪速センサ60から送信される信号に基づいて、車両状態が走行状態にあるか停止状態にあるかを示す車両状態フラグXVSを設定する。ECU100は、車両状態が走行状態にあると特定した場合、車両状態フラグXVSの値を「1」に設定し、車両状態が停止状態にあると特定した場合、車両状態フラグXVSの値を「0」に設定する。
【0041】
図4Aの例では、運転者は車両を停止させるべく、時刻ts1より前の時点からブレーキペダル12を踏込んでおり、遅くとも時刻ts1の時点以降の期間はブレーキペダル12のペダルストロークが一定となっている。そして、時刻t2の時点において、運転者は車両を再び発進させるべく、ブレーキペダル12を踏戻している。このようなブレーキペダル操作により、車両は、遅くとも時刻ts1から時刻t1までの期間において走行状態にあり、時刻t1から時刻t3までの期間において停止状態にあり、時刻t3以降の期間において走行状態にある。このため、ECU100は、車両状態フラグXVSの値を、時刻ts1~t1の期間においては「1」に設定し、時刻t1~t3の期間においては「0」に設定し、時刻t3以降の期間においては「1」に設定する。
【0042】
ECU100は、ストロークセンサ46から入力されるブレーキペダル12のペダルストロークが所定のストローク閾値以上の状態(別言すれば、要求液圧が所定の液圧閾値以上の状態)で、車両状態フラグXVSの値が「1」から「0」に変化した場合、車両状態フラグXVSの値が「0」である期間中、停止時嵩上げ制御を実行する。本実施形態では、停止時嵩上げ制御において嵩上げされる液圧(以下、単に「嵩上量」とも称する。)は、嵩上げ前の要求液圧に依らず一定とされる。しかしながら、嵩上量は、嵩上げ前の要求液圧に対する所定の割合(例えば、10[%])に設定されてもよい。図4Aの例では、ECU100は、時刻t1(第1時点)から時刻t3までの期間において停止時嵩上げ制御を実行する。停止時嵩上げ制御の実行中における、嵩上げ前の要求液圧、嵩上げ後の要求液圧及び嵩上量ΔPを、それぞれ「要求液圧PBR」、「要求液圧PAR」及び「嵩上量ΔPRS」と規定すると、停止時嵩上げ制御の実行中は、要求液圧PAR=要求液圧PBR+嵩上量ΔPRS(ΔPRS:定数)の関係が成立している。
【0043】
なお、後述する嵩上量減少制御及び嵩上量維持制御の実行中においても、嵩上げ前の要求液圧を「要求液圧PBR」と規定し、嵩上げ後の要求液圧を「要求液圧PAR」と規定する。加えて、嵩上量減少制御の実行中における嵩上量ΔPを「嵩上量ΔPRD」と規定し、嵩上量維持制御の実行中における嵩上量ΔPを「嵩上量ΔPRK」と規定する。
【0044】
上述したように、図4Aの例では、時刻t3において車両状態が停止状態から走行状態に遷移している。この時点(t=t3)において要求液圧の嵩上げを終了する(嵩上量をゼロにする)と、制動力が急に低下することにより、車両が勢いよく動き出してしまう可能性が高い。そこで、ECU100は、停止時嵩上げ制御が実行されている期間中に車両状態が停止状態から走行状態に遷移した場合、停止時嵩上げ制御に代えて、車両状態が走行状態に遷移した時点以降の要求液圧の嵩上量を時間の経過とともに減少させる嵩上量減少制御を実行する。嵩上量減少制御により、車両状態が走行状態に遷移した時点における制動力の変化が緩やかになるため、当該時点において車両が勢いよく動き出してしまう可能性を低減できる。
【0045】
以下、図4A及び図4Bを参照して具体的に説明する。図4Bは、要求液圧PBRと要求液圧PARの関係を規定したグラフであり、ECU100のROMに予め格納されている。ECU100は、停止時嵩上げ制御が実行されている期間中に車両状態フラグの値が「0」から「1」に変化した場合、嵩上量減少制御を実行する。このとき、ECU100は、図4Bのグラフを参照して要求液圧PARの勾配(別言すれば、嵩上量ΔPRDの減少度合い)を決定する。ECU100は、嵩上量減少制御の実行中に運転者がブレーキペダル12の踏戻し操作を継続する限り、嵩上量ΔPRDがゼロになるまでこの制御を実行する。なお、嵩上量減少制御の実行中に運転者がブレーキペダル12の踏込み操作を再度行った場合については後述する。加えて、以下では、運転者によるブレーキペダル12の踏込み操作及びブレーキペダル12の踏戻し操作を、それぞれ単に「踏込み操作」及び「踏戻し操作」とも称する。
【0046】
図4Aの例では、ECU100は、時刻t3(第2時点)で嵩上量減少制御を開始する。このとき、ECU100は、時刻t3におけるPBRの勾配を演算し、図4Bのグラフを参照して、演算されたPBRの勾配に対応するPARの勾配を決定し、嵩上量減少制御が実行されている期間におけるPARの勾配が、決定されたPARの勾配に一致するように嵩上量ΔPRDを減少させていく。図4Aの例では、嵩上量減少制御の実行中は踏戻し操作が継続されている。このため、ECU100は、時刻tf1において嵩上量ΔPRDがゼロになるまで嵩上量減少制御を実行する。嵩上量減少制御の実行中は、要求液圧PAR=要求液圧PBR+嵩上量ΔPRD(ΔPRD:図4Bのグラフから決定される変数)の関係が成立している。
【0047】
ここで、以下の2つの場合、即ち、「嵩上量減少制御の実行中に運転者が踏戻し操作を停止した場合(即ち、ペダルストロークが一定になった場合)」又は「嵩上量減少制御の実行中に運転者が踏込み操作を再度行った場合」においても嵩上量ΔPを減少させていくと、制動力の変化が運転者による踏込み操作と良く一致しないため、運転者がブレーキペダル12の応答性が低下したと感じる可能性が高い。そこで、ECU100は、嵩上量減少制御が実行されている期間中に運転者による踏戻し操作が停止された場合には、嵩上量減少制御に代えて、要求液圧の嵩上量ΔPを、踏戻し操作が停止された時点における嵩上量に維持し、嵩上量減少制御が実行されている期間中に運転者による踏込み操作が再開された場合(図5A及び図5Bにて後述)には、嵩上量減少制御に代えて、要求液圧の嵩上量ΔPを、踏込み操作が再開された時点における嵩上量に維持する嵩上量維持制御を実行する。
【0048】
なお、嵩上量減少制御が実行されている期間は、要求油圧PBR(及び要求油圧PAR)は減少傾向にある。このため、上記の「運転者による踏戻し操作が停止された場合」とは、要求液圧PBRの推移が減少傾向から維持傾向に変化した場合を意味し、上記の「運転者による踏込み操作が再開された場合」とは、要求液圧PBRの推移が減少傾向から増加傾向に変化した場合を意味する。
【0049】
ECU100は、嵩上量維持制御を、車両状態が走行状態から再び停止状態に遷移する時点までの期間(図5Aにて後述)、又は、要求液圧PBRの推移が維持傾向又は増加傾向から再び減少傾向に変化する時点までの期間(図5Bにて後述)に亘って実行する。
【0050】
嵩上量維持制御により、制動力の変化が運転者による踏込み操作と良く一致するようになるため、運転者がブレーキペダル12の応答性が低下したと感じる可能性を低減できる。加えて、嵩上量維持制御が実行されている期間中に熱緩みが発生しても、制動力が要求制動力未満になる可能性を低減できる。
【0051】
以下、図5A及び図5Bを参照して具体的に説明する。図5A及び図5Bは、何れも要求液圧の経時的な推移を示すグラフであり、停止時嵩上げ制御、嵩上量減少制御及び嵩上量維持制御が実行される期間と車両状態と運転者によるブレーキペダル操作との関係を示すグラフである。図5A及び図5Bにおける時刻ts2は、図4Aにおける時刻t1から時刻t2までの間の任意の時刻である。加えて、図5A及び図5Bの時刻ts2から時刻t3までの期間における要求液圧の経時的な推移、車両状態及びブレーキペダル操作は、図4Aの時刻t3までの期間における要求液圧の経時的な推移、車両状態及びブレーキペダル操作と同一である。図5A図5Bとは、時刻t4にて運転者により再度踏込み操作が行われている点、即ち、要求液圧PBRの推移が、時刻t4(第3時点)にて減少傾向から増加傾向に変化している点で共通している。しかしながら、図5A図5Bとは、図5Aでは踏込み操作が継続されるのに対し、図5Bでは時刻t6にて運転者により再度踏戻し操作が行われている点で異なっている。
【0052】
図5Aの例は、運転者自身のブレーキペダル操作により車両が停止状態にある場合に時刻t2にて踏力緩みが発生し、その結果、時刻t3にて運転者の意図に反して車両が動き出したため、時刻t4にて運転者が再度踏込み操作を行い、これにより、時刻t5にて車両が再度停止した場面を示す。ECU100は、車両状態フラグXVSの値を、時刻t3から時刻t5までの期間においては「1」に設定し、時刻t5以降の期間においては「0」に設定する。
【0053】
この例では、時刻t3にて嵩上量減少制御が開始されており、嵩上量がゼロになる前(即ち、嵩上量減少制御の実行中)の時点である時刻t4にて要求液圧PBRの推移が減少傾向から増加傾向に変化している。このため、ECU100は、時刻t4にて、嵩上量減少制御に代えて嵩上量維持制御を実行する。ECU100は、嵩上量維持制御が実行されている期間における嵩上量ΔPRKを、時刻t4における嵩上量ΔPに維持する。図5Aの例のように、嵩上量維持制御の実行中の時点である時刻t5にて車両状態が走行状態から再び停止状態に遷移した場合、ECU100は、時刻t5まで嵩上量維持制御を実行し、その後、車両が停止状態にある期間中は、上述した停止時嵩上げ制御を実行する。嵩上量維持制御の実行中は、要求液圧PAR=要求液圧PBR+嵩上量ΔPRK(ΔPRK:定数(<ΔPRS))の関係が成立している。
【0054】
一方、図5Bの例は、時刻t3にて車両が動き出したため時刻t4にて運転者が再度踏込み操作を行ったものの、状況が変化したことにより(例えば、信号待ち時に車両が動き出したため踏込み操作を行ったものの、その直後に信号が青色に点灯したことにより)時刻t6にて運転者が再度踏戻し操作を行った場面を示す。
【0055】
この例では、時刻t3にて嵩上量減少制御が開始されており、嵩上量がゼロになる前(即ち、嵩上量減少制御の実行中)の時点である時刻t4にて要求液圧PBRの推移が減少傾向から増加傾向に変化している。このため、ECU100は、時刻t4にて、嵩上量減少制御に代えて嵩上量維持制御を実行する。ECU100は、嵩上量維持制御が実行されている期間における嵩上量ΔPRKを、時刻t4における嵩上量ΔPに維持する。図5Bの例のように、嵩上量維持制御の実行中の時点である時刻t6にて要求液圧PBRの推移が増加傾向から再び減少傾向に変化した場合、ECU100は、時刻t6まで嵩上量維持制を実行し、その後、上述した嵩上量減少制御を実行する。ECU100は、時刻tf2において嵩上量ΔPRDがゼロになるまで嵩上量減少制御を実行する。嵩上量維持制御の実行中は、要求液圧PAR=要求液圧PBR+嵩上量ΔPRK(ΔPRK:定数(<ΔPRS))の関係が成立している。
【0056】
(具体的作動)
ECU100のCPUは、図6乃至図9にフローチャートにより示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行する。CPUは、図示しない車両のイグニッション・キー・スイッチがオフ位置からオン位置へと変更されたときに実行する初期化ルーチンにおいて、後述する各種のフラグの値を「0」に設定する。
【0057】
CPUは、あるタイミングになると、図6のステップ600から車両状態フラグ設定処理を開始し、ステップ610にて車両状態フラグXVSの値が「0」であるか否かを判定する。車両状態フラグXVSの値が「0」である場合、CPUはステップ610にて「Yes」と判定し、ステップ620に進む。
【0058】
ステップ620では、CPUは、信号入力条件が成立しているか否かを判定する。信号入力条件が成立している場合、CPUは、ステップ620にて「Yes」と判定し(即ち、車両が走行状態にあると判定し)、車両状態フラグXVSの値を「1」に設定し、そのRAMに格納する。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、信号入力条件が成立していない場合、CPUは、ステップ620にて「No」と判定し(即ち、車両が停止状態にあると判定し)、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0059】
他方、ステップ610にて車両状態フラグXVSの値が「1」である場合、CPUは、ステップ610にて「No」と判定し、ステップ640に進む。
【0060】
ステップ640では、CPUは、信号入力条件が成立しているか否かを判定する。信号入力条件が成立していない場合、CPUは、ステップ640にて「No」と判定し(即ち、車両が停止状態にあると判定し)、車両状態フラグXVSの値を「0」に設定し、そのRAMに格納する。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、信号入力条件が成立している場合、CPUは、ステップ640にて「Yes」と判定し(即ち、車両が走行状態にあると判定し)、その後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0061】
CPUは、あるタイミングになると、図7のステップ700から停止時嵩上げフラグ設定処理を開始し、ステップ710にて停止時嵩上げフラグXRSの値が「0」であり且つ嵩上量減少フラグXRDの値が「0」であるか否かを判定する。ここで、停止時嵩上げフラグXRSは、停止時嵩上げ制御が実行されているか否かを示すフラグであり、停止時嵩上げ制御が実行されているときはその値が「1」に設定され、停止時嵩上げ制御が実行されていないときはその値が「0」に設定される。嵩上量減少フラグXRDは、嵩上量減少制御が実行されているか否かを示すフラグであり、嵩上量減少制御が実行されているときはその値が「1」に設定され、嵩上量減少制御が実行されていないときはその値が「0」に設定される。
【0062】
停止時嵩上げフラグXRSの値又は嵩上量減少フラグXRDの値の何れかが「1」である(即ち、停止時嵩上げ制御又は嵩上量減少制御が実行されている)場合、CPUは、ステップ710にて「No」と判定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、停止時嵩上げフラグXRSの値及び嵩上量減少フラグXRDの値が何れも「0」である(即ち、停止時嵩上げ制御及び嵩上量減少制御の何れも実行されていない)場合、CPUは、ステップ710にて「Yes」と判定し、ステップ720に進む。
【0063】
ステップ720では、CPUは、嵩上量維持フラグXRKの値が「0」であるか否かを判定する。ここで、嵩上量維持フラグXRKは、嵩上量維持制御が実行されているか否かを示すフラグであり、嵩上量維持制御が実行されているときはその値が「1」に設定され、嵩上量維持制御が実行されていないときはその値が「0」に設定される。嵩上量維持フラグXRKの値が「0」である(即ち、嵩上量維持制御が実行されていない(より詳細には、何れの嵩上げ制御も実行されていない))場合、CPUは、ステップ720にて「Yes」と判定し、ステップ730に進む。
【0064】
ステップ730では、CPUは、要求液圧が液圧閾値以上であるか否かを判定する。要求液圧が液圧閾値未満の場合、CPUは、ステップ730にて「No」と判定し(即ち、制動要求が生成されていないと判定し)、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、要求液圧が液圧閾値以上である場合、CPUは、ステップ730にて「Yes」と判定し(即ち、制動要求が生成されていると判定し)、ステップ740に進む。
【0065】
ステップ740では、CPUは、車両状態フラグXVSの値が「0」であるか否かを判定する。車両状態フラグXVSの値が「1」である(即ち、車両が走行状態にある)場合、CPUはステップ740にて「No」と判定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、車両状態フラグXVSの値が「0」である(即ち、車両が停止状態にある)場合、CPUはステップ740にて「Yes」と判定し、ステップ750に進む。
【0066】
ステップ750では、CPUは、直前の周期における車両状態フラグXVSの値が「1」であるか否かを判定する。直前の周期における車両状態フラグXVSの値が「0」である(即ち、直前の周期から現在の周期に亘って車両が停止状態にある)場合、CPUは、ステップ750にて「No」と判定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、直前の周期における車両状態フラグXVSの値が「1」である(即ち、直前の周期から現在の周期にかけて車両状態が走行状態から停止状態に遷移した)場合、CPUは、ステップ750にて「Yes」と判定し、ステップ760に進む。
【0067】
ステップ760では、CPUは、停止時嵩上げフラグXRSの値を「1」に設定して停止時嵩上げ制御を開始する(図4Aの時刻t1を参照)。加えて、CPUは、フラグXRSの値をそのRAMに格納する。その後、CPUは、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0068】
他方、ステップ720にて嵩上量維持フラグXRKの値が「1」である(即ち、嵩上量維持制御が実行されている)場合、CPUは、ステップ720にて「No」と判定し、ステップ770に進む。なお、上述したように、嵩上量維持制御の実行中は車両は走行状態にある。
【0069】
ステップ770では、CPUは、車両状態フラグXVSの値が「0」であるか否かを判定する。車両状態フラグXVSの値が「1」である(即ち、車両が走行状態にある)場合、CPUは、ステップ770にて「No」と判定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、車両状態フラグXVSの値が「0」である(即ち、車両状態が走行状態から停止状態に遷移した)場合、CPUは、ステップ770にて「Yes」と判定し、ステップ780に進む。
【0070】
ステップ780では、CPUは、停止時嵩上げフラグXRSの値を「1」に設定するとともに嵩上量維持フラグXRKの値を「0」に設定して、嵩上量維持制御を終了するとともに停止時嵩上げ制御を開始する(図5Aの時刻t5を参照)。加えて、CPUは、フラグXRSの値及びフラグXRKの値をそのRAMに格納する。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0071】
CPUは、あるタイミングになると、図8のステップ800から嵩上量減少フラグ設定処理を開始し、ステップ810にて嵩上量維持フラグXRKの値が「0」であるか否かを判定する。嵩上量維持フラグXRKの値が「0」である(即ち、嵩上量維持制御が実行されていない)場合、CPUは、ステップ810にて「Yes」と判定し、ステップ820に進む。
【0072】
ステップ820では、CPUは、嵩上量減少フラグXRDの値が「0」であるか否かを判定する。嵩上量減少フラグXRDの値が「1」である(即ち、嵩上量減少制御が実行されている)場合、CPUは、ステップ820にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、嵩上量減少フラグXRDの値が「0」である(即ち、嵩上量減少制御が実行されていない)場合、CPUは、ステップ820にて「Yes」と判定し、ステップ830に進む。
【0073】
ステップ830では、CPUは、停止時嵩上げフラグXRSの値が「1」であるか否かを判定する。停止時嵩上げフラグXRSの値が「0」である(即ち、停止時嵩上げ制御が実行されていない)場合、CPUは、ステップ830にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、停止時嵩上げフラグXRSの値が「1」である(即ち、停止時嵩上げ制御が実行されている)場合、CPUは、ステップ830にて「Yes」と判定し、ステップ840に進む。なお、上述したように、停止時嵩上げ制御の実行中は車両は停止状態にある。
【0074】
ステップ840では、CPUは、車両状態フラグXVSの値が「1」であるか否かを判定する。車両状態フラグXVSの値が「0」である(即ち、車両が停止状態にある)場合、CPUは、ステップ840にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、車両状態フラグXVSの値が「1」である(即ち、車両状態が停止状態から走行状態に遷移した)場合、CPUは、ステップ840にて「Yes」と判定し、ステップ850に進む。
【0075】
ステップ850では、CPUは、嵩上量減少フラグXRDの値を「1」に設定するとともに停止時嵩上げフラグXRSの値を「0」に設定して、停止時嵩上げ制御を終了するとともに嵩上量減少制御を開始する(図4A図5A及び図5Bの時刻t3を参照)。加えて、CPUは、フラグXRDの値及びフラグXRSの値をそのRAMに格納する。その後、CPUはステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0076】
他方、ステップ810にて嵩上量維持フラグXRKの値が「1」である(即ち、嵩上量維持制御が実行されている)場合、ステップ810にて「No」と判定し、ステップ860に進む。なお、上述したように、嵩上量維持制御の実行中は車両は走行状態にある。
【0077】
ステップ860では、CPUは、車両状態フラグXVSの値が「1」であるか否かを判定する。車両状態フラグXVSの値が「0」である(即ち、車両状態が走行状態から停止状態に遷移した)場合、CPUは、ステップ860にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、車両状態フラグXVSの値が「1」である(即ち、車両が走行状態にある)場合、CPUは、ステップ860にて「Yes」と判定し、ステップ870に進む。
【0078】
ステップ870では、CPUは、要求液圧PBRの推移が維持又は増加傾向から減少傾向へと変化したか否かを判定する。要求液圧PBRの推移が減少傾向へと変化していない(即ち、引き続き維持又は増加傾向にある)場合、CPUは、ステップ870にて「No」と判定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、要求液圧PBRの推移が減少傾向へと変化した(即ち、運転者が踏戻し操作を行った)場合、CPUは、ステップ870にて「Yes」と判定し、ステップ880に進む。
【0079】
ステップ880では、CPUは、嵩上量減少フラグXRDの値を「1」に設定するとともに嵩上量維持フラグXRKの値を「0」に設定して、嵩上量維持制御を終了するとともに嵩上量減少制御を開始する(図5Bの時刻t6を参照)。加えて、CPUは、フラグXRDの値及びフラグXRKの値をそのRAMに格納する。その後、CPUはステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0080】
CPUは、あるタイミングになると、図9のステップ900から嵩上量維持フラグ設定処理を開始し、ステップ910にて嵩上量維持フラグXRKの値が「0」であるか否かを判定する。嵩上量維持フラグXRKの値が「1」である(即ち、嵩上量維持制御が実行されている)場合、CPUは、ステップ910にて「No」と判定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、嵩上量維持フラグXRKの値が「0」である(即ち、嵩上量維持制御が実行されていない)場合、CPUは、ステップ910にて「Yes」と判定し、ステップ920に進む。
【0081】
ステップ920では、CPUは、嵩上量減少フラグXRDの値が「1」であるか否かを判定する。嵩上量減少フラグXRDの値が「0」である(即ち、嵩上量減少制御が実行されていない)場合、CPUは、ステップ920にて「No」と判定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、嵩上量減少フラグXRDの値が「1」である(即ち、嵩上量減少制御が実行されている)場合、CPUは、ステップ920にて「Yes」と判定し、ステップ930に進む。
【0082】
ステップ930では、CPUは、嵩上量減少制御における嵩上量ΔPRDがゼロになったか否かを判定する。嵩上量ΔPRDがゼロになった場合、CPUは、ステップ930にて「Yes」と判定し、ステップ940に進む。
ステップ940では、CPUは、嵩上量減少フラグXRDの値を「0」に設定するとともに嵩上量減少制御を終了する(図4Aの時刻tf1及び図5Bの時刻tf2を参照)。加えて、CPUは、フラグXRDの値をそのRAMに格納する。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、嵩上量ΔPRDがゼロではない場合、CPUは、ステップ930にて「No」と判定し、ステップ950に進む。
【0083】
ステップ950では、CPUは、要求液圧PBRの推移が減少傾向から維持又は増加傾向へと変化したか否かを判定する。要求液圧PBRの推移が維持又は増加傾向へと変化していない(即ち、引き続き減少傾向にある)場合、CPUは、ステップ950にて「No」と判定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、要求液圧PBRの推移が維持又は増加傾向へと変化した(即ち、運転者が踏戻し操作を停止したか、踏込み操作を行った)場合、CPUは、ステップ950にて「Yes」と判定し、ステップ960に進む。
【0084】
ステップ960では、CPUは、嵩上量維持フラグXRKの値を「1」に設定するとともに嵩上量減少フラグXRDの値を「0」に設定して、嵩上量減少制御を終了するとともに嵩上量維持制御を開始する(図5A及び図5Bの時刻t4を参照)。加えて、CPUは、フラグXRKの値及びフラグXRDの値をそのRAMに格納する。その後、CPUはステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0085】
<変形例>
変形例に係る制動力制御装置(以下、「変形装置」とも称し、変形装置が搭載された車両を「自車両」とも称する。)は、ブレーキECUが種々の運転支援制御を実行する点、及び、制動要求がこれらの運転支援制御に基づいて生成される点で本実施装置10と異なっている。運転支援制御としては、例えば、アダプティブクルーズ制御(ACC: Adaptive Cruise Control)及びプリクラッシュブレーキ制御(PBC: Precrush Brake Control)等が挙げられる。以下では、本実施装置10との相違点を主に説明する。
【0086】
ACCは、自車両の前方を走行する車両(先行車両)が存在しない場合、実際の車速が設定車速に一致するように自車両を定速走行させ、先行車両が存在する場合、図示しない周囲センサから取得される先行車両との車間距離が設定車間距離に一致するように自車両を走行させる周知の制御である。制動要求は、ブレーキECUがACCにおいて減速制御を実行している期間、継続して生成される。
【0087】
PCBは、自車両と衝突する可能性が高い物体が存在する場合に警報を発生して運転者に注意喚起し、その後、衝突の可能性がより高くなった場合に自動的に制動力を発生させる周知の制御である。制動要求は、物体までの衝突予測時間が所定の時間閾値以下である期間、継続して生成される。
【0088】
ブレーキECUは、ACC又はPCBの実行中に制動要求を受けると、第1実施装置10のECU100と同様に、要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることにより変形装置により発生させるべき要求液圧制動力を算出し、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ84の要求液圧を算出し、ホイールシリンダ圧が要求液圧となるようにフィードバック制御を実行する。
【0089】
この構成によれば、特に、熱緩みに起因して運転者の意図に反して車両が動き出してしまう可能性を低減できる。なお、変形装置は本実施装置10に適用されてもよい。即ち、制動要求は、ブレーキバイワイヤ方式を採用した制動力制御装置において、運転者によるブレーキペダル操作によって生成されてもよいし、運転支援制御に基づいて生成されてもよい。
【0090】
以上、本発明の実施形態及び変形例に係る制動力制御装置について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、制動力制御装置は、機械式の液圧回路を採用した構成であってもよい。この場合、制動力制御装置は、機械式の液圧回路とは別に、要求液圧を制御可能な液圧回路を備える。
【0091】
加えて、嵩上量減少制御が実行されている期間における嵩上量ΔPRDの減少度合いは、図4Aのグラフを参照する代わりに、図10に示すように、時刻t3における要求液圧PBRと嵩上量ΔPRDとの比率に基づいて算出されてもよい。図10は、嵩上量減少制御における嵩上量ΔPRDの減少度合いを除いて、図4Aと同一のグラフである。この方法では、時刻t3における要求液圧PBRと嵩上量ΔPRDとの比率が維持されるように嵩上量ΔPRDが算出(決定)される。この方法によれば、要求液圧PBRがゼロになる時点の時刻tf3において嵩上量ΔPRDもゼロになる。
【符号の説明】
【0092】
10:制動力制御装置、12:ブレーキペダル、44:ホイールシリンダ圧センサ、46:ストロークセンサ、52:アキュムレータ圧センサ、60:車輪速センサ、70:液圧アクチュエータ、80:ディスクブレーキユニット、82:キャリパ、84:ホイールシリンダ、86:ディスク、88:ブレーキパッド、100:ブレーキECU

図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10