(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】歯科用充填材及び歯科用重合性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20220517BHJP
【FI】
A61K6/887
(21)【出願番号】P 2020509621
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2018044571
(87)【国際公開番号】W WO2019187351
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-23
(31)【優先権主張番号】P 2018065671
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】神 聖史
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314484(JP,A)
【文献】特開2003-095837(JP,A)
【文献】特表2015-500302(JP,A)
【文献】特開2007-161510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有するシランカップリング剤で無機充填材を表面処理した後、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドを含む組成物と開環反応させて製造されている歯科用充填材。
【請求項2】
エポキシ基を有するシランカップリング剤と、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドとを含む組成物と、無機充填材を反応させて製造されている歯科用充填材。
【請求項3】
請求項1に記載の歯科用充填材と、
(メタ)アクリレートを含む歯科用重合性組成物。
【請求項4】
歯科用修復材である請求項3に記載の歯科用重合性組成物。
【請求項5】
請求項2に記載の歯科用充填材と、
(メタ)アクリレートを含む歯科用重合性組成物。
【請求項6】
歯科用修復材である請求項5に記載の歯科用重合性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用充填材及び歯科用重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用修復材には、硬化体の機械的強度を向上させるために、シリカ、バリウムガラス等の無機充填材が配合されている。
【0003】
しかしながら、無機充填材が配合されている歯科用修復材は、硬化体の滑沢性が不十分であった。
【0004】
例えば、特許文献1には、メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で無機充填材を表面処理した後、(メタ)アクリレートと反応させて製造されている歯科用充填材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、歯科用修復材の操作性と、歯科用修復材の硬化体の滑沢性及び曲げ強度を両立させることができないという問題があった。
【0007】
本発明の一態様は、歯科用修復材の操作性と、歯科用修復材の硬化体の滑沢性及び曲げ強度を両立させることが可能な歯科用充填材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、歯科用充填材において、エポキシ基を有するシランカップリング剤で無機充填材を表面処理した後、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドを含む組成物と開環反応させて製造されている。
【0009】
本発明の他の一態様は、歯科用充填材において、エポキシ基を有するシランカップリング剤と、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドとを含む組成物と、無機充填材を反応させて製造されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、歯科用修復材の硬化体の滑沢性及び曲げ強度を両立させることが可能な歯科用充填材を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、下記の実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0012】
<歯科用充填材の製造方法>
以下、本実施形態の歯科用充填材の製造方法を説明する。
【0013】
まず、エポキシ基を有するシランカップリング剤で無機充填材を表面処理し、無機充填材の表面にエポキシ基を導入する。
【0014】
無機充填材を構成する材料としては、例えば、シリカ、バリウムガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。
【0015】
無機充填材の平均粒径は、0.005~5μmであることが好ましく、0.05~0.5μmであることがさらに好ましい。
【0016】
エポキシ基を有するシランカップリング剤は、一般式
【0017】
【化1】
(ただし、R
1は、炭素数1~6のアルコキシ基、イソシアナート基又は塩素原子であり、R
2は、炭素数1~6の炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは、1~20の整数である。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0018】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0019】
なお、シランカップリング剤は、エポキシ基を2個以上有していてもよい。
【0020】
エポキシ基を有するシランカップリング剤で無機充填材を表面処理する際には、公知の表面処理方法を用いることができる。
【0021】
次に、エポキシ基が表面に導入されている無機充填材を、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドを含むエポキシ組成物と開環反応させて、歯科用充填材を得ることができる。このとき、得られる歯科用充填材の表面には、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシド由来の(メタ)アクリロイル基が残存している。
【0022】
ここで、歯科用重合性組成物に配合するのに適した粒径に調整するために、必要に応じて、歯科用充填材を粉砕してもよい。
【0023】
歯科用充填材を粉砕する際には、公知の粉砕機を用いることができる。
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲において、(メタ)アクリロイル基とは、メタクリロイル基及び/又はアクリロイル基を意味する。
【0025】
(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドとしては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのメタクリル酸付加物、ビスフェノールEジグリシジルエーテルのメタクリル酸付加物、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドは、一般式
【0027】
【化2】
(ただし、R
3は、水素原子又はメチル基であり、Xは、2価の有機基である。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0028】
Xにおける2価の有機基の具体例を以下に示す。
【0029】
【化3】
(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドの市販品としては、BAEM-50、BEEM-50(以上、ケーエスエム製)、サイクロマーM100(ダイセル製)等が挙げられる。
【0030】
なお、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドは、(メタ)アクリロイル基及び/又はエポキシ基を2個以上有していてもよい。
【0031】
ここで、エポキシ組成物は、無機充填材の表面に導入されているエポキシ基と開環反応することが可能であれば、特に限定されない。
【0032】
エポキシ組成物は、公知の開環反応開始剤を含むことが好ましい。
【0033】
開環反応開始剤としては、エポキシ基を開環することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、アミン類(第一級、第二級、第三級アミン、芳香族アミン、アミン錯体等)、ポリアミド樹脂、イミダゾール類、ポリメルカプタン類、酸無水物類、有機酸ヒドラジド類等が挙げられる。これらの中でも、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、2,2’-ジアミノジエチルアミン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、無水フタル酸等が好ましい。
【0034】
エポキシ組成物は、(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシドをさらに含んでいてもよい。これにより、歯科用充填材をより容易に作製することができる。
【0035】
なお、(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシドは、エポキシ基を2個以上有していてもよい。
【0036】
(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシドとしては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニルフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0037】
表面にシラノール基が存在する無機充填材を用いる場合の歯科用充填材の表面は、例えば、一般式
【0038】
【化4】
(ただし、p及びqは、それぞれ(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドの重合度及び(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシドの重合度であり、n、R
3、Xは、一般式(1)、(2)と同様である。)
で表される構造を有する。ここで、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシド及び(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシドの共重合体における(メタ)アクリロイル基を有するエポキシド及び(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシドの結合順序は、特に限定されない。
【0039】
(メタ)アクリロイル基を有するエポキシド及び(メタ)アクリロイル基を有しないエポキシドの共重合体としては、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体等が挙げられる。
【0040】
なお、歯科用充填材を製造する際に、エポキシ基を有するシランカップリング剤と、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドとを含む組成物と、無機充填材を反応させてもよい。
【0041】
また、歯科用充填材を、必要に応じて、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理して、無機充填材の表面に(メタ)アクリロイル基をさらに導入してもよい。これにより、後述する歯科用重合性組成物の硬化体の曲げ強度がさらに向上する。
【0042】
<歯科用充填材>
本実施形態の歯科用充填材は、本実施形態の歯科用充填材の製造方法により製造されている。
【0043】
歯科用充填材中の無機充填材の含有量は、40~95質量%であることが好ましく、60~80質量%であることがさらに好ましい。歯科用充填材中の無機充填材の含有量が20質量%以上であると、後述する歯科用重合性組成物の硬化体の曲げ強度が向上し、95質量%以下であると、歯科用重合性組成物の操作性が向上する。
【0044】
本実施形態の歯科用充填材が(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理されている場合の歯科用充填材中の(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤の含有量は、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがさらに好ましい。歯科用充填材中の(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤の含有量が0.1質量%以上20質量%以下であると、歯科用重合性組成物の硬化体の曲げ強度がさらに向上する。
【0045】
<歯科用重合性組成物>
本実施形態の歯科用重合性組成物は、本実施形態の歯科用充填材と、(メタ)アクリレートを含み、必要に応じて、重合開始剤、本実施形態の歯科用充填材以外の充填材、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料等をさらに含んでいてもよい。
【0046】
本明細書及び特許請求の範囲において、(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイルオキシ基を1個以上有する化合物(例えば、モノマー、マクロモノマー)を意味する。
【0047】
<(メタ)アクリレート>
(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、ジ-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5-トリス[1,3-ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}-2-プロポキシカルボニルアミノヘキサン]-1,3,5-(1H,3H,5H)トリアジン-2,4,6-トリオン、2,2-ビス-4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-フェニルプロパン、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、2,2’-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと2-オキシパノンとヘキサメチレンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールとヘキサメチレンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
歯科用重合性組成物中の(メタ)アクリレートの含有量は、0.5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがさらに好ましい。歯科用重合性組成物中の(メタ)アクリレートの含有量が0.5質量%以上であることにより、歯科用重合性組成物の硬化体の機械的強度が向上し、70質量%以下であることにより、その他の成分の含有量を確保することができ、歯科用重合性組成物としての性能が向上する。
【0049】
(メタ)アクリレートとして、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を使用することもできる。
【0050】
(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤としては、特に限定されないが、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルエチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0051】
歯科用重合性組成物中の(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤の含有量は、0.5~10質量%であることが好ましく、1.5~5質量%であることがさらに好ましい。歯科用重合性組成物中の(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤の含有量が0.5質量%以上であることにより、歯科用重合性組成物の硬化体の機械的強度が向上し、10質量%以下であることにより、その他の成分の含有量を確保することができ、歯科用重合性組成物としての性能が向上する。
【0052】
<重合開始剤>
本実施形態の歯科用重合性組成物は、重合開始剤をさらに含んでいてもよい。
【0053】
重合開始剤としては、化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤を用いることができるが、光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0054】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としては、特に限定されないが、ケトン系化合物、α-ジケトン系化合物、ケタール系化合物、アントラキノン系化合物、チオキサントン系化合物、ベンゾインアルキルエーテル系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物等が挙げられる。
【0055】
ケトン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0056】
α-ジケトン系化合物としては、例えば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセナフテンキノン、9,10-フェナントラキノン等が挙げられる。
【0057】
ケタール系化合物としては、例えば、ベンジルケタール、ジアセチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(β-フェニルエチル)ケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4’-ジメチル(ベンジルジメチルケタール)等が挙げられる。
【0058】
アントラキノン系化合物としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン等が挙げられる。
【0059】
チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド等が挙げられる。
【0060】
ベンゾインアルキルエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
【0061】
アシルホスフィンオキシド系化合物としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0062】
歯科用重合性組成物中の光重合開始剤の含有量は、0.1~10質量%であることが好ましく、0.2~5質量%であることがさらに好ましい。歯科用重合性組成物中の光重合開始剤の含有量が0.1質量%以上であることにより、歯科用重合性組成物の硬化体の機械的強度が向上し、10質量%以下であることにより、歯科用重合性組成物の保存安定性が向上する。
【0063】
なお、重合開始剤として、光重合開始剤を用いる場合、光重合促進剤を併用してもよい。
【0064】
<光重合促進剤>
光重合促進剤としては、特に限定されないが、N,N-ジメチル-p-トルイジン、トリエタノールアミン、トリルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の3級アミン、バルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3,5-トリエチルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸等のバルビツール酸誘導体等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0065】
歯科用重合性組成物中の光重合促進剤の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~1質量%であることがさらに好ましい。歯科用重合性組成物中の光重合促進剤の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であると、歯科用重合性組成物の重合効率がさらに向上する。
【0066】
<本実施形態の歯科用充填材以外の充填材>
本実施形態の歯科用充填材以外の充填材としては、有機充填材及び/又は無機充填材を用いることができるが、無機充填材を用いることが好ましい。
【0067】
無機充填材としては、特に限定されないが、シリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末(例えば、バリウムガラス粉末、フルオロアルミノシリケートガラス粉末)等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0068】
無機充填材は、必要に応じて、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0069】
歯科用重合性組成物中の上記充填材の含有量は、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがさらに好ましい。歯科用重合性組成物中の上記充填材の含有量が0.1質量%以上20質量%以下であると、歯科用重合性組成物の硬化体の機械的強度がさらに向上する。
【0070】
<歯科用重合性組成物の用途>
本実施形態の歯科用重合性組成物の用途としては、特に限定されないが、歯科用修復材、歯科用セメント等が挙げられる。これらの中でも、歯科用修復材が好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されない。なお、部は、質量部を意味する。
【0072】
[実施例1]
(エポキシ組成物の作製)
メタクリロイル基を有するエポキシドとしての、BAEM-50(ケーエスエム製)50部、メタクリロイル基を有しないエポキシドとしての、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル1500NP(共栄社化学製)50部、開環反応開始剤としての、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(DEDAP)7部を混合し、エポキシ組成物を得た。
【0073】
(充填材3の作製)
無機充填材としての、平均粒径0.4μmのフルオロアルミノシリケートガラスフィラー100部に対し、エポキシ基を有するシランカップリング剤としての、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)5部、蒸留水1部、酢酸0.1部の混合液を加え、30分間混練した後、80℃で3時間乾燥させ、エポキシ基が表面に導入されている充填材1を得た。
【0074】
75部の充填材1、25部のエポキシ組成物を混練し、充填材用ペーストを得た。
【0075】
充填材用ペーストを、大気中、80℃で2日間加熱して開環反応させた後、粉砕し、平均粒径が10μmの充填材2を得た。
【0076】
100部の充填材2に対し、メタクリロイル基を有するシランカップリング剤としての、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPS)10部、蒸留水2部、酢酸0.2部の混合液を加え、30分間混練した後、80℃で3時間乾燥させ、充填材3を得た。
【0077】
(充填材4の作製)
平均粒径0.4μmのフルオロアルミノシリケートガラスフィラー100部に対し、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPS)5部、蒸留水1部、酢酸0.1部の混合液を加え、30分間混練した後、80℃で3時間乾燥させ、充填材4を得た。
【0078】
(モノマー組成物の作製)
2,2-ビス[4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis-GMA)50部、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(NPG)50部、光重合開始剤としての、(±)-カンファーキノン(CQ)0.5部、光重合促進剤としての、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル(DMABE)0.5部を混合し、モノマー組成物を得た。
【0079】
(歯科用修復材の作製)
40部の充填材3、モノマー組成物20部、平均粒径0.016μmのアエロジル(登録商標)R972(日本アエロジル製)1部、39部の充填材4を混練した後、真空下で脱泡し、ペースト状の歯科用修復材を得た。
【0080】
[実施例2、3]
充填材3を作製する際に、MPSの添加量を、それぞれ1部、15部に変更した以外は、実施例1と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0081】
[実施例4]
充填材1を作製する際に、エポキシ基を有するシランカップリング剤として、8-グリシジルオキシオクチルトリメトキシシラン(GOS)を用いた以外は、実施例1と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0082】
[実施例5]
(エポキシ組成物の作製)
メタクリロイル基を有するエポキシドとしての、BAEM-50(ケーエスエム製)30部、メタクリロイル基を有しないエポキシドとしての、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニルフェニル)プロパン(Bis-GPP)20部、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル1500NP(共栄社化学製)50部、開環反応開始剤としての、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(DEDAP)7部を混合し、エポキシ組成物を得た。
【0083】
得られたエポキシ組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0084】
[実施例6]
(エポキシ組成物の作製)
メタクリロイル基を有するエポキシドとしての、BAEM-50(ケーエスエム製)10部、メタクリロイル基を有しないエポキシドとしての、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニルフェニル)プロパン(Bis-GPP)40部、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル1500NP(共栄社化学製)50部、開環反応開始剤としての、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(DEDAP)7部を混合し、エポキシ組成物を得た。
【0085】
得られたエポキシ組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0086】
[実施例7]
充填材1を作製する際に、無機充填材の添加量を80部に変更すると共に、充填材用ペーストを作製する際に、エポキシ組成物の添加量を15部に変更した以外は、実施例1と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0087】
[実施例8]
充填材1を作製する際に、無機充填材として、平均粒径1.0μmのフルオロアルミノシリケートガラスフィラーを用いた以外は、実施例1と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0088】
[実施例9]
エポキシ組成物を作製する際に、メタクリロイル基を有するエポキシドとして、BEEM-50(ケーエスエム製)を用いた以外は、実施例5と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0089】
[実施例10]
(充填材2’の作製)
平均粒径0.4μmのフルオロアルミノシリケートガラスフィラー71.4部、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)3.6部、25部のエポキシ組成物を混練し、充填材用ペーストを得た。
【0090】
充填材用ペーストを、大気中、80℃で2日間加熱して開環反応させた後、粉砕し、平均粒径が10μmの充填材2’を得た。
【0091】
充填材2の代わりに、充填材2’を用いた以外は、実施例1と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0092】
[比較例1]
(エポキシ組成物の作製)
メタクリロイル基を有しないエポキシドとしての、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニルフェニル)プロパン(Bis-GPP)50部、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル1500NP(共栄社化学製)50部、開環反応開始剤としての、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン(DEDAP)7部を混合し、エポキシ組成物を得た。
【0093】
得られたエポキシ組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0094】
[比較例2]
(モノマー組成物の作製)
2,2-ビス[4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis-GMA)50部、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(NPG)50部、重合開始剤としての、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.5部を混合し、モノマー組成物を得た。
【0095】
(充填材2”の作製)
75部の充填材1、25部のモノマー組成物を混練し、充填材用ペーストを得た。
【0096】
充填材用ペーストを、大気中、80℃で2日間加熱して重合した後、粉砕し、平均粒径が10μmの充填材2”を得た。
【0097】
充填材2の代わりに、充填材2”を用いた以外は、実施例3と同様にして、歯科用修復材を得た。
【0098】
次に、歯科用修復材の操作性と、歯科用修復材の硬化体の曲げ強度及び滑沢性を評価した。
【0099】
[操作性]
37℃、100%RHの環境下、1級窩洞の模型に歯科用修復材を充填することで、操作性を評価した。なお、以下の基準で、操作性を判定した。
【0100】
優:歯科用修復材のペタつきやパサつきが特に少なく、特に充填しやすい場合
良:歯科用修復材のペタつきやパサつきが少なく、充填しやすい場合
不可:歯科用修復材のベタつきやパサつきが強く、充填しにくい場合
[硬化体の曲げ強度]
25mm×2mm×2mmの直方体の金型に歯科用修復材を充填し、両面をガラス板で圧接した後、光重合照射器G-ライトプリマ(ジーシー製)を用いて、表面に対して、10秒間ずつ9ヶ所に光を照射し、歯科用修復材を硬化させた。次に、表面と同様にして、裏面に対しても、光を照射した後、金型から取り出し、硬化体を得た。
【0101】
37℃の水中に硬化体を24時間浸漬した後、曲げ試験を実施した。具体的には、曲げ強さ試験装置オートグラフ(島津製作所製)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で、曲げ試験を実施した。このとき、5個の硬化体の曲げ強度を測定し、その平均値を求めた。
【0102】
[硬化体の滑沢性]
リング状の型に歯科用修復材を充填した後、両面にカバーガラスを置き、ガラス板で圧接した後、光重合照射器G-ライトプリマ(ジーシー製)を用いて、表面に対して、10秒間ずつ9ヶ所に光を照射し、歯科用修復材を硬化させた。次に、表面と同様にして、裏面に対しても、光を照射した後、金型から取り出し、直径15mm、厚さ1.0mmの硬化体を得た。
【0103】
耐水研磨紙4000番で硬化体を研磨した後、ダイヤシャイン(ジーシー製)を用いて、30秒間仕上げ研磨し、表面の光沢度を目視により評価した。なお、以下の基準で、滑沢性を判定した。
【0104】
優:硬化体の表面の光沢度が特に優れる場合
良:硬化体の表面の光沢度が優れる場合
不可:硬化体の表面の光沢度が劣る場合
表1に、歯科用修復材の操作性と、歯科用修復材の硬化体の曲げ強度及び滑沢性の評価結果を示す。
【0105】
【表1】
表1から、実施例1~10の歯科用修復材は、操作性と、硬化体の曲げ強度及び滑沢性が高いことがわかる。
【0106】
これに対して、比較例1の歯科用修復材は、エポキシ組成物が(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドを含まないため、操作性と、硬化体の曲げ強度及び滑沢性が低い。
【0107】
また、比較例2の歯科用修復材は、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシドを含むエポキシ組成物が用いられていないため、操作性と、硬化体の曲げ強度が低い。
【0108】
本願は、日本特許庁に2018年3月29日に出願された基礎出願2018-065671号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。