IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

特許7074859疎水性相互作用クロマトグラフィーによる軽鎖誤対合抗体変種の枯渇の方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】疎水性相互作用クロマトグラフィーによる軽鎖誤対合抗体変種の枯渇の方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20220517BHJP
   C07K 1/20 20060101ALI20220517BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220517BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C12P21/08
C07K1/20
C07K16/46
C12N15/13
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020534238
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2018086059
(87)【国際公開番号】W WO2019122054
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-07-29
(31)【優先権主張番号】17210376.4
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】フォン ヒルシュハイト トマス
(72)【発明者】
【氏名】リューガー ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイダンツ ビルギット
(72)【発明者】
【氏名】ヘルテンベルガー フーベルト
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-506926(JP,A)
【文献】特表2017-534644(JP,A)
【文献】特表2016-528268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P21/00-21/08
C07K1/00-19/00
C12N15/00-15/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体を用いることによって、多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための方法であって、
該媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)該粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、該リガンドがブチル基である;
(ii)該粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、該リガンドがフェニル基である;または
(iii)該粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、該リガンドがポリプロピレングリコール基である、
方法。
【請求項2】
多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための方法であって、
該CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)工程に供し、それによって、該誤対合変種が枯渇された該CrossMab抗体を入手することを含み、
該HIC工程において用いられるクロマトグラフィー媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)該粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、該リガンドがブチル基である;
(ii)該粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、該リガンドがフェニル基である;または
(iii)該粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、該リガンドがポリプロピレングリコール(PPG)基である、
方法。
【請求項3】
多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用であって、
該HIC媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)該粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、該リガンドがブチル基である;
(ii)該粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、該リガンドがフェニル基である;または
(iii)該粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、該リガンドがポリプロピレングリコール(PPG)基である、
使用。
【請求項4】
多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用であって、
該CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液をHICに供し、それによって、該誤対合変種が枯渇された該CrossMab抗体を入手することを含み、
該HIC媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)該粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、該リガンドがブチル基である;
(ii)該粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、該リガンドがフェニル基である;または
(iii)該粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、該リガンドがポリプロピレングリコール(PPG)基である、
使用。
【請求項5】
抗体のFab領域の少なくとも1つが、重鎖および軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメイン交換が行われているFab領域であり、但し、異なる結合特異性のFab領域において該重鎖および軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインの交換が行われておらず、同じ結合特異性を有するFab領域において該重鎖および軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインの交換が行われている、請求項1もしくは2記載の多重特異性CrossMab抗体を分離するための方法または請求項3もしくは4記載の多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用。
【請求項6】
HIC媒体が、Butyl Sepharose(登録商標)HP、Capto Butyl ImpRes、Capto Phenyl ImpRes、およびToyopearl(登録商標)PPG-600Mからなる群より選択される、請求項1もしくは2記載の方法または請求項3もしくは4記載の使用。
【請求項7】
多重特異性CrossMab抗体が、
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1の抗原結合領域であって、第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含む、第1の抗原結合領域と、
(b)第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原結合領域であって、第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含む、第2の抗原結合領域と
を含む多重特異性抗体であり、
第2の抗原結合領域において、
(i)定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、ならびに/または
(ii)可変ドメインVLおよびVHが相互交換されている、
請求項1、2、5、もしくは6のいずれか一項記載の方法または請求項3~6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
多重特異性抗体が二重特異性二価抗体、二重特異性三価抗体、または二重特異性四価抗体である、請求項7記載の方法または使用。
【請求項9】
多重特異性抗体が、第1の抗原について二価であり、かつ第2の抗原について二価である、請求項8記載の方法または使用。
【請求項10】
抗体が、
(a)第1の抗原結合領域のうちの2つと、
(b)第2の抗原結合領域のうちの2つと
を含み、
該第2の抗原結合領域のそれぞれが、ペプチドコネクターを介して該第1の抗原結合領域のうちの1つの重鎖のC末端またはN末端に融合されている、
請求項9記載の方法または使用。
【請求項11】
抗体がIgG抗体であり、前記第1の抗原結合領域の重鎖がCH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、前記第2の抗原結合領域のそれぞれが、ペプチドコネクターを介して該第1の抗原結合領域のうちの1つの重鎖のC末端に融合されている、請求項10記載の方法または使用。
【請求項12】
抗体が、
a)第1の抗原に特異的に結合しかつ2つのFab領域を含む抗体の、2本の軽鎖および2本の重鎖、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体の、2つのさらなるFab領域であって、該さらなるFab領域が、両方ともペプチドコネクターを介してa)の重鎖のC末端またはN末端に融合されている、2つのさらなるFab領域
を含み、
該Fab領域では、以下の改変が行われている:
i)a)の両方のFab領域において、もしくはb)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されている、ならびに/もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
ii)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、かつ定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されているか、もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
iii)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されているか、もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、かつ定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
iv)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、b)の両方のFab領域において、定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、または
v)a)の両方のFab領域において、定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されている、
請求項9記載の方法または使用。
【請求項13】
多重特異性CrossMab抗体およびその誤対合変種がHIC媒体から別々に溶出され、それによって、疎水性に基づいて、溶液中にある多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離する、請求項1、2、5、もしくは6~12のいずれか一項記載の方法または請求項3~12のいずれか一項記載の使用。
【請求項14】
マトリックスがポリマーマトリックスまたはアガロースベースのマトリックスであり、好ましくは、アガロースベースのマトリックスが4~6%アガロースを含む、請求項1、2、もしくは5~13のいずれか一項記載の方法または請求項3~13のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
置換リガンドの密度が、HIC媒体1mlあたり9~50μmolである、請求項1、2、もしくは5~14のいずれか一項記載の方法または請求項3~14のいずれか一項記載の使用。
【請求項16】
HIC媒体の動的結合能力が、媒体1mLあたりウシ血清アルブミン19~39mgである、請求項1、2、もしくは5~15のいずれか一項記載の方法または請求項3~15のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
方法が、HIC工程の前および/または後に1つまたは複数のさらなる精製工程をさらに含む、請求項1、2、もしくは5~16のいずれか一項記載の方法または請求項3~16のいずれか一項記載の使用。
【請求項18】
前記誤対合変種が多重特異性CrossMab抗体の変種であり、ここで、1本または複数本の軽鎖が非相補的重鎖と対合している、請求項1、2、もしくは5~17のいずれか一項記載の方法または請求項3~17のいずれか一項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、CrossMab多重特異性抗体とその誤対合抗体変種とを含む溶液中で、多重特異性CrossMab抗体をその軽鎖誤対合変種から分離するための、疎水性相互作用クロマトグラフィーの使用に関する。軽鎖誤対合変種には、多重特異性CrossMab抗体の1本または複数本の軽鎖が間違った重鎖と対合している抗体変種が含まれる。従って、本発明の方法は、多重特異性CrossMab抗体を1つまたは複数のその誤対合変種から分離することを含む。本発明の疎水性相互作用クロマトグラフィー法は、必要な多重特異性CrossMab抗体のあらゆる純度、例えば、治療用途および/または診断用途において使用するために前記方法によって得られる多重特異性CrossMab抗体を含む薬学的組成物に必要な多重特異性CrossMab抗体のあらゆる純度を実現するように単独で用いられてもよく、当技術分野において公知の標準的な精製とさらに組み合わされてもよい。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
操作されたタンパク質、例えば、2種類以上の抗原に結合することができる多重特異性抗体は、細胞融合、化学的コンジュゲーション、または組換えDNA法を用いて作製することができる。多種多様な組換え多重特異性抗体形式、例えば、融合による四価二重特異性抗体、例えば、IgG抗体形式と単鎖ドメインの融合による四価二重特異性抗体が開発されている(例えば、Coloma, M.J., et. al., Nature Biotech. 15 (1997) 159-163(非特許文献1); WO2001/077342(特許文献1);およびMorrison, S.L., Nature Biotech. 25 (2007) 1233-1234(非特許文献2)を参照されたい)。
【0003】
二重特異性抗体の治療能力は長く認識されてきた。二重特異性抗体は、2種類の抗原または2種類のエピトープに同時に結合することができるIgG様プラットフォームを提供する。従って、二重特異性抗体は、少なくとも2種類の分子の相互作用および/またはこれらの分子を含む少なくとも2種類の系の相互作用を調節するための潜在的なツールを提供する。このような調節は、例えば、認識される抗原、認識される複数の抗原、および/または認識される複数のエピトープが細胞表面に発現している2種類の細胞の相互作用の調節でもよい。二重特異性抗体の治療的使用の例には、例えば、(例えば、望ましい表面受容体またはリガンドの相互作用の促進または妨害による)細胞シグナル伝達の調節と、(例えば、癌細胞への免疫細胞のターゲティングを助ける)癌療法が含まれる。例えば、WO2014/161845(特許文献2)は、癌療法において使用するための、デスレセプター5(DR5)に特異的な第1の抗原結合部位と、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に特異的な第2の抗原結合部位とを含む、二重特異性抗体を提供する。
【0004】
二重特異性抗体の治療的使用への関心にもかかわらず、その商業生産には問題があることが判明している。初期のアプローチは、自然抗体によく似た二重特異性抗体に焦点を当て、二重特異性抗体の望ましい特異性を有するマウスモノクローナル抗体を発現する2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づいたクアドローマ技術(Milstein, C. and Cuello, A. C., Nature 305 (1983) 537-540(非特許文献3)を参照されたい)を用いて産生された。クアドローマが発現した抗体分子を用いると、発現した分子は2本の親重鎖と2本の親軽鎖の様々な組み合わせを含有することが直ちに明らかになった。4本全ての親鎖を同時発現させると、ほぼ同一の分子からなる10種類の異なる変種の混合物が生じる。この場合、望ましい二重特異性活性を示すのに必要な正しく対合した重鎖と軽鎖を含有しているのは、10種類のうち1種類(すなわち、発現した全ての分子の一部にすぎない)だけである(例えば、Suresh et al, Methods Enzymol. 121(1986), 210-228(非特許文献4)を参照されたい)。従って、生産における問題、例えば、抗体可変ドメインの単鎖融合を無くす試みとして、代替の二重特異性抗体ベースの構築物に関心が向かった。しかしながら、これらの形式の多くは模範となる抗体構造とは大きく異なり、不十分な薬物動態学的特性および/または(例えば、Fcドメインが無いことによる)エフェクター活性の消失などの治療上の不利益を示すことが見出された。さらに、リンカー領域などの非ヒトドメインまたは人工ドメインが存在するために、多くの構築物は、凝集しようとする傾向、および、免疫原性の可能性が高いことも示した。さらに、標準的な抗体の産生は、同一の重鎖/軽鎖サブユニットが二量体化することに頼っている。対照的に、二重特異性抗体の産生には、それぞれが異なる重鎖と異なる軽鎖を含む、2つの異なる重鎖/軽鎖サブユニットが二量体化することが必要である。従って、二重特異性抗体の産生には、4本までのペプチド鎖が正しく相互作用することが必要である。従って、鎖の誤対合(例えば、同一の重鎖ペプチドのホモ二量体化または不適切な重鎖/軽鎖会合)がしばしば観察される。
【0005】
従って、多重特異性抗体の産生における欠点の1つは、望ましい機能的分子の他に望ましくない様々な副生物が形成されることである。誤対合には、間違った重鎖が互いに対形成することと、軽鎖が間違った重鎖対応物と対形成すること、または軽鎖が望ましくない対形成をすることが含まれる。
【0006】
代替の二重特異性形式のこれらの欠点および制約を考えると、模範となる抗体構造を有する二重特異性抗体(特に、IgG様構造)への関心が依然としてある。主に、IgG様構造を有する望ましい二重特異性抗体を産生する間に2つの問題が生じる。このような分子には、2本の異なる重鎖と2本の異なる軽鎖とが正しく会合することが必要であるので、(1)ホモ二量体化よりも好ましい反応として2本の異なる重鎖のヘテロ二量体化が誘導されること、および(2)発現された分子が、望ましい軽鎖/重鎖相互作用しか含まないように、起こり得る軽鎖/重鎖組み合わせ相互作用の識別が最適化されることが必要である。
【0007】
この点について、2本の重鎖のヘテロ二量体化を強制することに基づく戦略が探索されている。最初のアプローチによって作り出された「ノブズイントゥーホールズ(knobs into holes)」(「ノブインホール(knob in hole)」、「ノブホール(knob-hole)」または「KiH」などと呼ばれる時もある)は、CH3ドメインに変異を導入して接触境界面を改変することによって2つの異なるIgG重鎖の対形成を強制することを目的としている(Ridgway JB et al., Protein Eng 1996; 9: 617-621)。例えば、WO98/50431(特許文献3)では、いわゆる「ノブズイントゥーホールズ」技術(Ridgway, J. B., Protein Eng. 9 (1996) 617-621(非特許文献5);およびWO96/027011(特許文献4))を介してヘテロ二量体化された異なる重鎖を使用する。この技術を用いて、「ノブ」を作り出すために、大きな側鎖を有するアミノ酸が一方の鎖に導入された。逆に、他方のCH3ドメインに「ホール」を作り出すために、かさのあるアミノ酸が、短い側鎖を有するアミノ酸と交換された。これらの2本の重鎖を同時発現させることで、ヘテロ二量体化した(「ノブホール」)重鎖を有する抗体の高い収率が観察された。しかしながら、いくらかのホモ二量体形成(「ホールホール(hole-hole)」または「ノブノブ(knob-knob)」)も観察された。従って、ホモ二量体をヘテロ二量体から除去することができる下流精製手順も依然として必要とされている。
【0008】
ヘテロ二量体化重鎖のパーセントは、ファージディスプレイアプローチを用いて2つのCH3ドメインの相互作用表面をリモデリングし、ヘテロ二量体を安定化する目的で両CH3ドメイン間にジスルフィド架橋を導入することによって、さらに高めることができる(Merchant A. M, et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681(非特許文献6); Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270 (1997)26-35(非特許文献7))。ノブズイントゥーホールズ技術の原理を用いた新たなアプローチは、例えば、EP1870459A1(特許文献5)に記載されている。この戦略の重要な制約の1つは、誤対合および不活性分子の形成を阻止するために2つの親抗体の軽鎖が100%同一でなければならないことである。新たに生成された抗体に適した共通軽鎖を開発することは依然として困難である。KiHアプローチの別の潜在的な問題は、変異ドメインが完全にヒトでなく、免疫原性を生じることがあり、この分子のドメイン安定性と凝集傾向にも影響を及ぼす可能性があることである。KiH戦略は重鎖の強制対合を可能にするので、異なる軽鎖が2本のどの重鎖ともランダムに対合し、互いから精製する必要がある異なる抗体を生じる可能性がある。
【0009】
従って、この技法は、第1の抗原と第2の抗原に対する2つの異なる抗体から、2種類の抗原に対する組換え二重特異性抗体を容易に開発することには適していない。なぜなら、これらの抗体の重鎖および/または同一の軽鎖を最適化しなければならないからである。その結果として、この技法は、第1の抗原と第2の抗原に対する2種類の抗体から、3種類または4種類の抗原に対する組換え三重特異性抗体または四重特異性抗体を容易に開発するための基盤としても適していない。なぜなら、最初に、これらの抗体の重鎖および/または同一の軽鎖を最適化しなければならず、次いで、第3の抗体および第4の抗原に対するさらなる抗原結合ペプチドを追加しなければならないからである。
【0010】
二重特異性抗体の誤対合変種の問題を回避するアプローチの1つは、軽鎖ポリペプチドとその正しい重鎖対応物との対形成を強制することを目的としている。このアプローチは「CrossMab技術」として知られ、重鎖と軽鎖との間でドメインクロスオーバーを起こし、それによって異なる特異性の重鎖および軽鎖について異なるドメイン配置を作り出すことに基づいている。WO2009/080251(特許文献6)、WO2009/080252(特許文献7)、WO2009/080253(特許文献8)、WO2009/080254(特許文献9)、およびSchaefer, W. et al, PNAS, 108(2011)11187-1191(非特許文献8)は、ドメインクロスオーバーを有する二価二重特異性IgG抗体に関する。WO2010/145792(特許文献10)は、ドメインクロスオーバーを有する四価抗原結合タンパク質に関する。軽鎖誤対合を阻止するために、ある結合部位においてVH/VL交換/置換がある多重特異性抗体(CrossMabVH-VL)がWO2009/080252(特許文献7)において述べられており(Schaefer, W. et al, PNAS, 108 (2011)11187-1191(非特許文献8)も参照されたい)、第1の抗原に対する軽鎖と第2の抗原に対する間違った重鎖とのミスマッチによって引き起こされる誤対合変種の生成を、(このようなドメイン交換の無いアプローチと比較して)明確に減らす。
【0011】
不完全に組み立てられた抗体を分離することに関して、多くの商業的な抗体生産・精製スキームが、サイズ、電荷(例えば、等電点、すなわち「IEP」)、溶解度、および/または疎水性の程度の違いに基づいて望ましくない副産物/不純物から関心対象のタンパク質を分離する商業的な抗体精製標準クロマトグラフィー法のためのアフィニティクロマトグラフィーと共に用いられる。例えば、WO2015/024896(特許文献10)は、二重特異性抗体断片と、さらに高い分子量の抗体変種を含む二重特異性抗体の生成に特有の1種類または複数種の副産物(二重特異性抗体に特有の副産物、「BASB」)も含む溶液から二重特異性抗体を分離するヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーの使用を含む方法を提供する。しかしながら、これらの副産物は、関心対象の二重特異性抗体よりも高い分子量または低い分子量を有するので、軽鎖誤対合抗体は、分子量による分離に基づいたこれらの先行技術技法によって対処されていない。
【0012】
本発明者らは、多重特異性抗体の生成と、多重特異性抗体からの不完全抗体の分離における最近の利点にもかかわらず、多重特異性CrossMab抗体を、その軽鎖誤対合変種から分離することは他に例を見ない難題であることを発見した。このような不完全集合体には、一般的に、1/2抗体(1つの重鎖/軽鎖対を含む)と3/4抗体(1本の軽鎖を欠く完全抗体を含む)が含まれるが、これに限定されない。両副産物(軽鎖誤対合抗体および不完全抗体)とも、最終精製産物に残留していたとしたら特に不都合な活性を示すかもしれない。例えば、二重特異性分子の機能は、2つの異なる抗原に対して結合活性を示す1個の分子に左右されることがある。ある分子が、(例えば、前記の1/2抗体もしくは3/4抗体または軽鎖誤対合抗体のように)1種類の標的抗原にしか結合活性を示さない場合、この標的抗原に結合することで、完全に機能する二重特異性抗体の結合がブロックされ、場合によっては、二重特異性分子の望ましい活性が拮抗されるだろう。少なくとも、二重特異性抗体産生の単一特異性副産物が分離されなければ、最終的な二重特異性製剤の抗力を弱める可能性が高くなるだろう。さらに、本明細書に記載の副産物の多くは、ペプチド間相互作用を通常促進する露出領域を有し、免疫原性になる傾向および凝集する傾向を示す可能性がある。
【0013】
従って、間違った軽鎖とドメイン交換重鎖との相互作用に基づく、このような副生物が調製物から完全に無くなるわけではないので、望ましい抗体から軽鎖誤対合抗体を分離することは依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】WO2001/077342
【文献】WO2014/161845
【文献】WO98/50431
【文献】WO96/027011
【文献】EP1870459A1
【文献】WO2009/080251
【文献】WO2009/080252
【文献】WO2009/080253
【文献】WO2009/080254
【文献】WO2010/145792
【文献】WO2015/024896
【非特許文献】
【0015】
【文献】Coloma, M.J., et. al., Nature Biotech. 15 (1997) 159-163
【文献】Morrison, S.L., Nature Biotech. 25 (2007) 1233-1234
【文献】Milstein, C. and Cuello, A. C., Nature 305 (1983) 537-540
【文献】Suresh et al, Methods Enzymol. 121(1986), 210-228
【文献】Ridgway, J. B., Protein Eng. 9 (1996) 617-621
【文献】Merchant A. M, et al., Nature Biotech 16 (1998) 677-681
【文献】Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270 (1997)26-35
【文献】Schaefer, W. et al, PNAS, 108 (2011)11187-1191
【発明の概要】
【0016】
従って、本発明は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって、CrossMab多重特異性(特に二重特異性)抗体とその誤対合抗体変種とを含む溶液中にある、いわゆるCrossMab抗体とその軽鎖誤対合変種とを分離するための方法に関する。驚いたことに、本発明者らは、特定のHIC媒体が、正しく対合した望ましいCrossMab抗体から、望ましくない誤対合種を分離できることを発見した。
【0017】
従って、本発明は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体を用いることによって、多重特異性CrossMab抗体を、その誤対合変種から分離するための方法であって、媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)前記粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、前記リガンドがブチル基である;
(ii)前記粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、前記リガンドがフェニル基である;または
(iii)前記粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、前記リガンドがポリプロピレングリコール基である、
方法に関する。
【0018】
さらに具体的には、本発明は、多重特異性CrossMab抗体を、その誤対合変種から分離するための方法であって、前記CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)工程に供し、それによって、その誤対合変種が枯渇された前記CrossMab抗体を入手することを含み、前記HIC工程において用いられるクロマトグラフィー媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)前記粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、前記リガンドがブチル基である;
(ii)前記粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、前記リガンドがフェニル基である;または
(iii)前記粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、前記リガンドがポリプロピレングリコール(PPG)基である、
方法に関する。
【0019】
本発明はまた、本発明に従って多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための方法における疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用にも関する。
【0020】
HIC媒体は、一部の局面では、Butyl Sepharose HP、Capto Butyl ImpRes、Capto Phenyl ImpRes(全てGE Healthcareから入手可能)、およびPPG-600M(Tosohから「Toyopearl 600M」として入手可能)からなる群より選択されてもよい。本発明の特定の局面において、HIC媒体は、Butyl Sepharose HP、Capto Butyl ImpRes、およびCapto Phenyl ImpResからなる群より選択されてもよく、Butyl Sepharose HP、Capto Butyl ImpRes、Capto Phenyl ImpRes、または(Toyopearl)PPG-600Mと同じ選択性を有してもよい。
【0021】
本発明に関して、前記多重特異性CrossMab抗体は、
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1の抗原結合領域であって、第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含む、第1の抗原結合領域と、
(b)第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原結合領域であって、第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含む、第2の抗原結合領域と
を含む多重特異性抗体であって、第2の抗原結合領域において、
(i)定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、ならびに/または
(ii)定常ドメインVLおよびVHが相互交換されている、
多重特異性抗体でもよい。
【0022】
本明細書中のCrossMab抗体の誤対合変種は、特に、その多重特異性CrossMab抗体の少なくとも1本の軽鎖が前記多重特異性CrossMab抗体の別の軽鎖と交換されている、すなわち、前記変種の軽鎖の少なくとも1つはその相補的重鎖と対合しない。
【0023】
これは、特に、二重特異性二価抗体、二重特異性三価抗体、または二重特異性四価抗体でもよい。例えば、これは、第1の抗原について二価であり、第2の抗原について二価でもよい。
【0024】
本発明の特定の局面において、多重特異性CrossMabは、デスレセプター5(DR5)に特異的な少なくとも1つの抗原結合領域と、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に特異的な少なくとも1つの抗原結合領域とを含む二重特異性抗体であり、DR5に特異的な抗原結合領域は、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:7のアミノ酸配列を含む可変重鎖と、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:8のアミノ酸配列を含む可変軽鎖とを含み、FAPに特異的な抗原結合領域は、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。これに関連して、前記抗体は、前記のDR5に特異的な抗原結合領域と、FAPに特異的な抗原結合領域それぞれのうちの2つを含んでもよい。
【0025】
本発明の方法を用いると、多重特異性CrossMab抗体およびその誤対合変種はHIC媒体から別々に溶出され、それによって、疎水性に基づいて、溶液中にある多重特異性CrossMab抗体が、その誤対合変種から分離され得る。
【0026】
本発明はまた、多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用であって、媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)前記粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、前記リガンドがブチル基である;
(ii)前記粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、前記リガンドがフェニル基である;または
(iii)前記粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、前記リガンドがポリプロピレングリコール基である、
使用にも関する。
【0027】
好ましくは、本発明はまた、多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用であって、媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)前記粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、前記リガンドがブチル基である;
(ii)前記粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、前記リガンドがフェニル基である、
使用にも関する。
[本発明1001]
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体を用いることによって、多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための方法であって、
該媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)該粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、該リガンドがブチル基である;
(ii)該粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、該リガンドがフェニル基である;または
(iii)該粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、該リガンドがポリプロピレングリコール基である、
方法。
[本発明1002]
多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための方法であって、
該CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)工程に供し、それによって、該誤対合変種が枯渇された該CrossMab抗体を入手することを含み、
該HIC工程において用いられるクロマトグラフィー媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)該粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、該リガンドがブチル基である;
(ii)該粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、該リガンドがフェニル基である;または
(iii)該粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、該リガンドがポリプロピレングリコール(PPG)基である、
方法。
[本発明1003]
多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用であって、
該HIC媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)該粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、該リガンドがブチル基である;
(ii)該粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、該リガンドがフェニル基である;または
(iii)該粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、該リガンドがポリプロピレングリコール(PPG)基である、
使用。
[本発明1004]
多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用であって、
該CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液をHICに供し、それによって、該誤対合変種が枯渇された該CrossMab抗体を入手することを含み、
該HIC媒体が、リガンドで置換された粒子のマトリックスを含み、
(i)該粒子が、直径が50μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは34μm~40μmの平均サイズを有し、該リガンドがブチル基である;
(ii)該粒子が、直径が35μm~60μm、好ましくは35μm~50μm、より好ましくは35μm~45μm、最も好ましくは40μmの平均サイズを有し、該リガンドがフェニル基である;または
(iii)該粒子が、直径が35μm~100μm、好ましくは60μm~70μm、最も好ましくは65μmの平均サイズを有し、該リガンドがポリプロピレングリコール(PPG)基である、
使用。
[本発明1005]
抗体のFab領域の少なくとも1つが、重鎖および軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインが交換されているFab領域であり、但し、異なる結合特異性のFab領域において同じ交換が行われておらず、同じ結合特異性を有するFab領域において同じ交換が行われている、本発明1001もしくは1002の多重特異性CrossMab抗体を分離するための方法または本発明1003もしくは1004の多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離するための疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体の使用。
[本発明1006]
HIC媒体が、Butyl Sepharose(登録商標)HP、Capto Butyl ImpRes、Capto Phenyl ImpRes、およびToyopearl(登録商標)PPG-600Mからなる群より選択される、本発明1001もしくは1002の方法または本発明1003もしくは1004の使用。
[本発明1007]
多重特異性CrossMab抗体が、
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1の抗原結合領域であって、第1の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含む、第1の抗原結合領域と、
(b)第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原結合領域であって、第2の抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含む、第2の抗原結合領域と
を含む多重特異性抗体であり、
第2の抗原結合領域において、
(i)定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、ならびに/または
(ii)定常ドメインVLおよびVHが相互交換されている、
本発明1001、1002、1005、もしくは1006のいずれかの方法または本発明1003~1006のいずれかの使用。
[本発明1008]
多重特異性抗体が二重特異性二価抗体、二重特異性三価抗体、または二重特異性四価抗体である、本発明1007の方法または使用。
[本発明1009]
多重特異性抗体が、第1の抗原について二価であり、かつ第2の抗原について二価である、本発明1008の方法または使用。
[本発明1010]
抗体が、
(a)第1の抗原結合領域のうちの2つと、
(b)第2の抗原結合領域のうちの2つと
を含み、
該第2の抗原結合領域のそれぞれが、ペプチドコネクターを介して該第1の抗原結合領域のうちの1つの重鎖のC末端またはN末端に融合されている、
本発明1009の方法または使用。
[本発明1011]
抗体がIgG抗体であり、前記第1の抗原結合領域の重鎖がCH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、前記第2の抗原結合領域のそれぞれが、ペプチドコネクターを介して該第1の抗原結合領域のうちの1つの重鎖のC末端に融合されている、本発明1010の方法または使用。
[本発明1012]
抗体が、
a)第1の抗原に特異的に結合しかつ2つのFab領域を含む抗体の、2本の軽鎖および2本の重鎖、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体の、2つのさらなるFab領域であって、該さらなるFab領域が、両方ともペプチドコネクターを介してa)の重鎖のC末端またはN末端に融合されている、2つのさらなるFab領域
を含み、
該Fab領域では、以下の改変が行われている:
i)a)の両方のFab領域において、もしくはb)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されている、ならびに/もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
ii)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、かつ定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されているか、もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
iii)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されているか、もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、かつ定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
iv)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、b)の両方のFab領域において、定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、または
v)a)の両方のFab領域において、定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されている、
本発明1009の方法または使用。
[本発明1013]
多重特異性CrossMab抗体およびその誤対合変種がHIC媒体から別々に溶出され、それによって、疎水性に基づいて、溶液中にある多重特異性CrossMab抗体をその誤対合変種から分離する、本発明1001、1002、1005、もしくは1006~1012のいずれかの方法または本発明1003~1012のいずれかの使用。
[本発明1014]
マトリックスがポリマーマトリックスまたはアガロースベースのマトリックスであり、好ましくは、マトリックスが4~6%アガロースを含む、本発明1001、1002、もしくは1005~1013のいずれかの方法または本発明1003~1013のいずれかの使用。
[本発明1015]
置換リガンドの密度が、HIC媒体1mlあたり9~50μmolである、本発明1001、1002、もしくは1005~1014のいずれかの方法または本発明1003~1014のいずれかの使用。
[本発明1016]
HIC媒体の動的結合能力が、媒体1mLあたりウシ血清アルブミン19~39mgである、本発明1001、1002、もしくは1005~1015のいずれかの方法または本発明1003~1015のいずれかの使用。
[本発明1017]
方法が、HIC工程の前および/または後に1つまたは複数のさらなる精製工程をさらに含む、本発明1001、1002、もしくは1005~1016のいずれかの方法または本発明1003~1016のいずれかの使用。
[本発明1018]
前記誤対合変種が多重特異性CrossMab抗体の変種であり、ここで、1本または複数本の軽鎖が非相補的重鎖と対合している、本発明1001、1002、もしくは1005~1017のいずれかの方法または本発明1003~1017のいずれかの使用。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】二価二重特異性抗体(A)と、CrossMab二重特異性抗体を生じる完全Fab領域(A)、CH1-CLドメイン、およびVH-VLドメインのクロスオーバーの模式図。CrossMab技術により可能になった二価二重特異性抗体(E~H)の概略。多くの場合、交差したFab領域および交差していないFab領域を様々なやり方で組み立てることができるので、図面は例にすぎない。間違った軽鎖と重鎖またはドメイン交換重鎖(E*-H*)とのベンス・ジョーンズ(Bence-Jones)相互作用に起因する副生物を示した。Fc領域を黒色に着色し、第1のFab領域を白色に着色し、第2のFab領域を灰色に着色した。CLドメインをむらなく着色し、VLドメインを四角の模様を付けて着色し、CH1ドメインを三角の模様を付けて着色し、VHドメインを八角形の模様を付けて着色した。
図2】CrossMab技術により可能になった三価二重特異性抗体(A~H)の概略。多くの場合、交差したFab領域および交差していないFab領域を様々なやり方で組み立てることができるので、図面は例にすぎない。間違った軽鎖と重鎖またはドメイン交換重鎖(A*およびB*;G*およびH*)とのベンス・ジョーンズ相互作用に起因する副生物を示した。Fc領域を黒色に着色し、第1のFab領域を白色に着色し、第2のFab領域を灰色に着色した。CLドメインをむらなく着色し、VLドメインを四角の模様を付けて着色し、CH1ドメインを三角の模様を付けて着色し、VHドメインを八角形の模様を付けて着色した。
図3】四価二重特異性抗体(A~C)と、CrossMab技術により可能になった四価三重特異性抗体(D)の概略。多くの場合、交差したFab領域および交差していないFab領域を様々なやり方で組み立てることができるので、図面は例にすぎない。間違った軽鎖と重鎖またはドメイン交換重鎖(A*およびD*)とのベンス・ジョーンズ相互作用に起因する副生物を示した。Fc領域を黒色に着色し、第1のFab領域を白色に着色し、第2のFab領域を灰色に着色した。CLドメインをむらなく着色し、VLドメインを四角の模様を付けて着色し、CH1ドメインを三角の模様を付けて着色し、VHドメインを八角形の模様を付けて着色した。
図4A】HIC(A)のクロマトグラム。HICは、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたButyl Sepharose HP媒体に対して行った(A)。ピーク1、2、および3は、1:抗DR5/抗FAP抗体;2:そのLCDR5誤対合変種および3:欠落(missing)軽鎖変種を指す。抗DR5/抗FAP抗体のインタクトな構築物の収率をピーク1において強調した。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションを図4Aのx軸に示した。抗DR5/抗FAP抗体のインタクトな産物をSE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)のピークで示した。
図4B】SE-HPLC(B)のクロマトグラム。HICは、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたButyl Sepharose HP媒体に対して行った(A)。ピーク1、2、および3は、1:抗DR5/抗FAP抗体;2:そのLCDR5誤対合変種および3:欠落(missing)軽鎖変種を指す。抗DR5/抗FAP抗体のインタクトな構築物の収率をピーク1において強調した。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションを図4Aのx軸に示した。抗DR5/抗FAP抗体のインタクトな産物をSE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)のピークで示した。
図4C】HI-HPLC(C)のクロマトグラム。HICは、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたButyl Sepharose HP媒体に対して行った(A)。ピーク1、2、および3は、1:抗DR5/抗FAP抗体;2:そのLCDR5誤対合変種および3:欠落(missing)軽鎖変種を指す。抗DR5/抗FAP抗体のインタクトな構築物の収率をピーク1において強調した。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションを図4Aのx軸に示した。抗DR5/抗FAP抗体のインタクトな産物をSE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)のピークで示した。
図5】分析用クロマトグラフィーと比較して調製中にLCDR5誤対合抗体変種の異なる溶出挙動を示した分析用HI-HPLC。LCDR5誤対合抗体変種は抗DR5/抗FAP抗体のインタクトな産物の前に溶出する。
図6A】LCDR5誤対合抗体変種のTSKgelエーテル-5PWプールのSEC-MALS。
図6B】抗DR5/抗FAP抗体のLCDR5誤対合抗体変種のESI-MSのスペクトログラム。
図7A】欠落軽鎖抗体変種のTSKgelエーテル-5PWプールのSEC-MALS。
図7B】抗DR5/抗FAP抗体の欠落軽鎖抗体変種のESI-MSのスペクトログラム。
図8】Capto Butyl ImpRes HIC媒体と、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたHICのクロマトグラム。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションをx軸に示した。
図9A】Capto Butyl HIC媒体(A)と、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたHICのクロマトグラム。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションをx軸に示した。
図9B】Capto Phenyl ImpRes HIC媒体(B)と、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたHICのクロマトグラム。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションをx軸に示した。
図10A】Butyl Sepharose HP(A)と、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたHICのクロマトグラム。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションをx軸に示した。
図10B】Toyopearl PPG 600M(B)と、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたHICのクロマトグラム。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションをx軸に示した。
図11A】Butyl Sepharose HP HIC媒体(A)と、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム直線勾配を用いたHICのクロマトグラム。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションをx軸に示した。
図11B】Toyopearl Butyl 650C HIC媒体(B)と、pH5.5の35mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム直線勾配を用いたHICのクロマトグラム。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションをx軸に示した。
図12】Butyl Sepharose HP HIC媒体と、pH5.5の500mM酢酸ナトリウムに溶解した負の硫酸アンモニウム硫酸塩直線勾配を用いたHICのクロマトグラム。SE-HPLC(B)およびHI-HPLC(C)を用いた分析用に収集したフラクションをx軸に示した。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
CrossMab抗体
本発明は、特定のHIC媒体を用いて、いわゆる「CrossMab」抗体をその誤対合軽鎖変種から精製することに関する。CrossMab抗体は、多重特異性抗体の少なくとも1つの抗原結合領域(Fab)のFab内にある重鎖ドメインと軽鎖ドメインが交換することで軽鎖とそのコグネイト重鎖とが正しく会合する多重特異性(すなわち、少なくとも二重特異性の)抗体であって、少なくとも2つのFab領域において誤対合が回避されるように、このような交換が少なくとも1つの他のFab領域においては行われない、多重特異性抗体である。従って、二重特異性CrossMab抗体の場合、二重特異性抗体の半分のFab領域内にある重鎖ドメインと軽鎖ドメインが交換するのに対して、もう半分は変化しないか、または異なる交換を有することで軽鎖とそのコグネイト重鎖は正しく会合することができる。「Fab領域」および「Fab断片」(または場合によっては「Fab」のみ)という用語は同じものを意味し、本明細書において同義で用いられる。
【0030】
従って、「CrossMab抗体」という用語は、重鎖および軽鎖の可変領域および/または定常領域が交換されている多重特異性抗体(またはその適切な多重特異性断片)を指す。例えば、CrossMab抗体は、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080251、WO2009/080254、WO2010/136172、WO2010/145792、およびWO2013/026831に記載または請求された任意のCrossMab抗体であり得る。
【0031】
「CrossMab」抗体という用語は当技術分野において一般に認識されている。例えば、Brinkmann, U. & Kontermann, R., MAbs 9(2):182-212 (2017); Kontermann, R. & Brinkmann, U., Drug Discovery Today 20(7):838-846 (2015); Schaefer, W. et al, PNAS, 108 (2011) 11187-1191; Klein, C. et al., MAbs 8(6):1010-1020 (2016); Klein, C. et al., MAbs 4(6):653-663 (2012)を参照されたい。
【0032】
二重特異性二価CrossMabの場合、クロスオーバー抗体の3つの異なる鎖組成物があり得る。第1の組成物に関しては、抗体の重鎖と軽鎖の可変ドメインが交換する。すなわち、この抗体は、一方のFab領域には、軽鎖可変ドメイン(VL)および重鎖定常ドメイン(CH1)で構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖定常ドメイン(CL)で構成されるペプチド鎖とを含む。この抗体はCrossMabVL-VHとも呼ばれる(図1D)。第2の組成物に関して、一方のFab領域において抗体の重鎖と軽鎖の定常ドメインが交換する時、この抗体は、このFab領域に、重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖定常ドメイン(CL)で構成されるペプチド鎖と、軽鎖可変ドメイン(VL)および重鎖定常ドメイン(CH1)で構成されるペプチド鎖とを含む。この抗体はCrossMabCL-CH1とも呼ばれる(図1C)。第3の組成物に関して、定常ドメインおよび可変ドメインを含む抗体の重鎖と、定常ドメインおよび可変ドメインを含む抗体の軽鎖が交換する。すなわち、この抗体は、軽鎖可変ドメイン(VH)および重鎖定常ドメイン(VL)で構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常ドメイン(CH1)で構成されるペプチド鎖とを含む。この抗体はCrossFabFab-Fabとも呼ばれる(図1B)。
【0033】
CrossMab抗体はモノクローナル抗体である。本明細書で使用する「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指す。すなわち、起こり得る変種抗体、例えば、天然変異を含有するか、またはモノクローナル抗体調製物の生成中に生じる変種抗体を除いて、集団を構成する1つ1つの抗体は同一である、および/または同じエピトープに結合する。このような変種は一般的にわずかな量でしか存在しない。従って、「モノクローナル」という修飾語は、抗体の性質が、抗体の実質的に均一な集団から得られていることを示し、特定の方法によって抗体を生成する必要があると解釈してはならない。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全てまたは一部を含有するトランスジェニック動物を利用した方法を含むが、これに限定されない様々な技法によって作製することができ、このような方法、およびモノクローナル抗体を作製する他の例示的な方法は本明細書において説明される。好ましくは、本発明に従って用いられるモノクローナル抗体は組換えDNA法によって作製されてもよい。
【0034】
本明細書中のCrossMab抗体はまた、その機能的断片、すなわち、その多重特異性を保持している断片も包含する。従って、CrossMab抗体の「断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含むインタクトなCrossMab抗体以外の分子を指す。CrossMab抗体断片の例にはF(ab')2多重特異性CrossMab抗体が含まれるが、これに限定されない。
【0035】
「Fab」断片は、それぞれが重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含有し、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)の定常ドメインも含有する。本明細書において上記で議論されたように、「Fab断片」、「Fab領域」という用語または単に「Fab」は同義で用いられ、抗体の抗原結合部分を説明するために本明細書において用いられる。Fab断片はヘテロ二量体であり、2本のポリペプチド、可変(VL)ドメインおよび定常(CL)ドメインを有する軽鎖と、可変(VH)ドメインおよび第1の定常ドメイン(CH1)を有する重鎖とで構成され、特にFabがIgG1サブクラスであれば上部ヒンジ領域も含むことがある。これらのポリペプチド鎖はペプチド結合によって互いに連結しておらず、重鎖の上部ヒンジ領域が存在するのであれば非共有結合相互作用とジスルフィド結合によって互いに会合している。本明細書で使用する「Fab重鎖」という用語は、VHドメインおよびCH1ドメインで構成されるが、CH2ドメインもCH3ドメインも含有しないポリペプチドを示す。Fab'断片は、抗体ヒンジ領域に由来する1つまたは複数のシステインを含む、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数個の残基を付加している点でFab断片とは異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab'断片である。
【0036】
「その誤対合変種」という用語は、CrossMab抗体に関して前述したように少なくとも1つの間違った軽鎖とドメイン交換重鎖とが対合した多重特異性CrossMab抗体を指す。言い換えると、前記変種の軽鎖の少なくとも1つはその相補的重鎖と対合しておらず、例えば、CLおよびVLを含む「非改変」軽鎖は、CH1およびVLを含む「改変」重鎖と誤対合するか、またはCH1およびVLを含む「改変」軽鎖は、CH1およびVHを有する「非改変」重鎖と誤対合するなどである。これに関連して「相補的」ドメインは、通常、対形成する重鎖ドメインと軽鎖ドメインである。すなわち、CH1は、通常、CLと対形成し、VHは、通常、VLと対形成する。逆もまた同じである。「非相補的」ドメインは、間違って対形成する重鎖ドメインと軽鎖ドメインである。例えば、一対の重鎖ドメインと軽鎖ドメインからなる間違った軽鎖は、軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインが交換されている軽鎖を指すことがあるのに対して、重鎖では、重鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインは交換されていない。別の例として、重鎖ドメインおよび軽鎖ドメインの間違った対形成は、軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインが交換されておらず、重鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインが交換されている状況を指すことがある。本明細書で使用する「非相補的な」という用語は、1本の軽鎖またはその断片が欠落している抗体などがあるが、これに限定されない、不完全に組み立てられた抗体を指さない。
【0037】
一態様において、その誤対合変種は、1本または複数本の軽鎖が非相補的重鎖と対合している、前記多重特異性CrossMab抗体の変種である。本明細書中のCrossMab抗体は、2種類以上の特異的抗原結合部位を含む多重特異性抗体である。特異的抗原結合部位は同じ抗原上にあってもよく、異なる抗原上にあってもよい。多重特異性抗体を作製する技法には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え同時発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983))、WO93/08829、およびTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991) を参照されたい)、ならびに「ノブインホール(knob-in-hole)」工学(例えば、米国特許第5,731,168号を参照されたい)が含まれるが、これに限定されない。
【0038】
本明細書で使用する、抗体の「抗原結合部位」という用語は、抗原決定基に特異的に結合する抗体部分を指す。さらに詳細には、「抗原結合部位」という用語は、抗原に特異的に結合し、抗原の一部または全てに相補的な領域を含む抗体部分を指す。抗原が大きい場合、抗原結合分子は抗原の特定の部分にしか結合しない場合があり、この部分はエピトープと呼ばれる。抗原結合部位は、例えば、1つまたは複数の可変ドメイン(可変領域とも呼ばれる)によって提供される場合がある。
【0039】
本明細書で使用する「抗原決定基」という用語は「抗原」および「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原複合体を形成する、ポリペプチド高分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続した領域または非連続アミノ酸の異なる領域で構成されるコンホメーション配置)を指す。従って、エピトープは、抗体が結合する抗原領域である。ある特定の態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなどの化学的に活性のある表面分子グループを含み、ある特定の態様では、特有の三次元構造特徴、およびまたは特有の電荷特徴を有することがある。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞表面に、ウイルス感染細胞表面に、他の罹患細胞の表面に、免疫細胞表面に、血清中に遊離状態で、および/または細胞外マトリックス(ECM)中に発見することができる。本明細書において抗原として有用なタンパク質は、特に定めのない限り、哺乳動物、例えば、霊長類(例えば、ヒト)ならびにげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む任意の脊椎動物供給源に由来する任意の天然型タンパク質でよい。特定の態様において、前記抗原はヒトタンパク質である。本明細書において特定のタンパク質について言及されている場合、この用語は、「完全長」の処理されていないタンパク質ならびに細胞内での処理に起因する任意の形態のタンパク質を包含する。この用語はまたタンパク質の天然変種、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子変種も包含する。
【0040】
「特異的結合」とは、結合が抗原に対して選択的であり、望まない、または非特異的な相互作用と区別できることを意味する。ある特定の態様において、抗体は、タンパク質および/または高分子の複合混合物中にある標的抗原を優先的に認識する時に抗原に特異的に結合すると言われる。抗原結合分子が特定の抗原に結合する能力は酵素結合免疫測定法(ELISA)によって測定されてもよく、当業者がよく知っている他の技法、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)法(BIAcore instrumentで分析する)(Liljeblad et al., Glyco J 17, 323-329 (2000))および従来の結合アッセイ(Heeley, Endocr Res 28, 217-229 (2002))によって測定されてもよい。
【0041】
多重特異性抗体の一例は、2つの特異的抗原結合部位、3つの特異的抗原結合部位、または4つの特異的抗原結合部位を有する、二重特異性抗体、三重特異性抗体、または四重特異性抗体である。
【0042】
各抗原について(または同じ抗原上の異なるエピトープについて)一価である二重特異性CrossMab抗体は「1+1形式」と呼ばれる。同様に、各抗原(または同じ抗原上の異なるエピトープについて)について二価である四重特異性抗体は「2+2形式」と呼ばれる。三価二重特異性抗体は「2+1形式」と呼ばれる。
【0043】
特定の局面において、本発明は、2つの異なる重鎖(それぞれが異なる抗体に由来する)と2つの異なる軽鎖(それぞれが異なる抗体に由来する)、および/またはそれぞれが2つ以上の異なる抗体に由来する断片を含む重鎖と軽鎖を含む、二重特異性CrossMab抗体の精製に関する。従って、本明細書において二重特異性抗体は、脱免疫(de-immunized)抗体、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体に由来する重鎖および/または軽鎖、ならびに脱免疫抗体、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体に由来する組み合わせ重鎖および/または軽鎖、ならびにその断片(例えば、その可変ドメインおよび/または定常ドメイン)を含んでもよい。本明細書における二重特異性CorssMab抗体は、それぞれが同じ抗原または異なる抗原の異なるエピトープに結合する、2つの結合部位を含む抗体を示す。
【0044】
デスレセプター5(DR5)とヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に結合する二重特異性CrossMab抗体が本明細書において特に関心が高い。DR5とFAPに結合する二重特異性CrossMab抗体とは、DR5とFAPを発現する細胞を標的とする際に診断剤および/または治療剤として有用になるような十分な親和性でDR5およびFAPに結合することができる二重特異性CrossMab抗体を指す。特に、DR5とFAPに結合する二重特異性CrossMab抗体とは、腫瘍細胞上にあるDR5と、この腫瘍を取り囲む間質中にあるFAPとを標的とする二重特異性CrossMab抗体を指す。デスレセプター5(DR5)および線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に特異的に結合する二重特異性抗体と、関連しない非FAPタンパク質または非DR5タンパク質との結合の程度は、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づくアッセイ(例えば、Biacore)、またはフローサイトメトリー(FACS)によって測定され得る。二重特異性抗体は、デスレセプター5(DR5)と線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)から、異なる種に由来するDR5またはFAPの間で保存されているDR5またはFAPのエピトープまで、特異的に結合し得る。
【0045】
好ましい態様において、本明細書中の多重特異性抗体はFcドメインを含む。「Fcドメイン」、「Fc領域」という用語、および本明細書で使用する類似用語は、IgG抗体のC末端領域、特に、IgG重鎖のCH2/CH3ドメインを含有する、IgG抗体の重鎖のC末端領域を指す。IgG重鎖のFc領域の境界はわずかに異なる場合があるが、Fcドメインは、典型的には、おおよそアミノ酸残基Cys226からIgG重鎖のカルボキシル末端まで及ぶと定義されている。本明細書で使用するFc領域の「サブユニット」とは、二量体Fc領域を形成する2本のポリペプチドのうちの一方、すなわち、安定して自己会合することができる、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。
【0046】
Fcドメインが存在すると、二重特異性抗体は、プロテインA、プロテインG、および/またはプロテインA/Gなどがあるが、これに限定されないFc結合部分を用いた精製が容易にできるようになる。重鎖のCH1-ヒンジ-CH2-CH3ドメインの特有の構造およびアミノ酸配列が、免疫グロブリンのタイプおよびサブクラスを決定する。本明細書中の多重特異性抗体は任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2)、またはサブクラスのものでよい。
【0047】
抗体または免疫グロブリンの「クラス」という用語は、抗体の重鎖にある定常ドメインまたは定常領域のタイプを指す。5つの主な抗体クラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1;IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けることができる。異なる免疫グロブリンクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。
【0048】
本明細書で使用する「可変ドメイン」(軽鎖可変ドメイン(VL)、重鎖可変ドメイン(VH))は、抗体と抗原との結合に直接関与する一対の軽鎖と重鎖のそれぞれの可変ドメインを示す。可変ヒト軽鎖および可変ヒト重鎖のドメインは同じ一般構造を有し、それぞれのドメインは、3つの「超可変領域」(または相補性決定領域、CDR)によってつながった、幅広く保存されている配列を有する4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβシートコンホメーションをとり、CDRは、βシート構造をつなぐループを形成することがある。各鎖にあるCDRはフレームワーク領域によって三次元構造に保たれており、他の鎖に由来するCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体重鎖および軽鎖のCDR3領域は、本発明に従う抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、従って、本発明のさらなる目的を提供する。本明細書において他で特定しない限り、可変領域中または定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載のようにEUインデックスとも呼ばれるEUナンバリングシステムに従う。
【0049】
「フレームワーク」または「FR」とは超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは一般的に4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。従って、HVRおよびFR配列は一般的に以下の配列、VH(またはVL)FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4で現れる。
【0050】
VHにあるCDR1を除いて、CDRは、一般的に、超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。CDRはまた、抗原と接触する残基である「特異性決定残基」、すなわち「SDR」も含む。SDRは、短縮-CDR(abbreviated-CDR)、すなわちa-CDRと呼ばれるCDRの領域内に含まれる。例示的なa-CDR(a-CDR-Ll、a-CDR-L2、a-CDR-L3、a-CDR-H1、a-CDR-H2、およびa-CDR-H3)は、LIのアミノ酸残基31-34、L2の50-55、L3の89-96、HIの31-35B、H2の50-58、およびH3の95-102に現れる(Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13: 1619-1633 (2008)を参照されたい)。
【0051】
「超可変領域」または「抗体の抗原結合部分」という用語は本明細書において用いられる時には、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」に由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」または「FR」領域は、本明細書において定義されている超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。従って、抗体の軽鎖および重鎖はN末端からC末端方向にかけてドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。各鎖にあるCDRは、このようなフレームワークアミノ酸によって隔てられている。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与する領域である。CDR領域およびFR領域は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991の標準的な定義に従って決定される。
【0052】
「完全長抗体」という用語は、2本の「完全長抗体重鎖」と2本の「完全長抗体軽鎖」からなる抗体を示す。「完全長抗体重鎖」は、N末端からC末端方向にかけて、VH-CH1-HR-CH2-CH3と略される、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常重鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、および抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)と、任意で、サブクラスIgEの抗体の場合は抗体重鎖定常ドメイン4(CH4)からなるポリペプチドである。好ましくは、「完全長抗体重鎖」はN末端からC末端方向にかけてVH、CH1、HR、CH2、およびCH3からなるポリペプチドである。「完全長抗体軽鎖」は、N末端からC末端方向にかけて、VL-CLと略される、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)からなるポリペプチドである。抗体軽鎖定常ドメイン(CL)はκ(カッパ)またはλ(ラムダ)でもよい。2本の完全長抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間の、および完全長抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を介して連結されて一緒になっている。
【0053】
「ペプチドリンカー」という用語は、アミノ酸配列、好ましくは合成由来のアミノ酸配列を有するペプチドを示す。これらのペプチドは、完全長抗体のFab領域のC末端とFab領域のN末端をつなぐのに、または完全長抗体のFab領域のN末端とFc領域のC末端をつなぐのに用いられる。ペプチドリンカーは、長さが少なくとも30アミノ酸、好ましくは長さが32~50アミノ酸のアミノ酸配列を有するペプチドである。一態様において、ペプチドリンカーは、長さが32~40アミノ酸のアミノ酸配列を有するペプチドである。一態様において、前記リンカーは(GxS)nであり、G=グリシン、S=セリン、(x=3、n=8、9、もしくは10、m=0、1、2、もしくは3)または(x=4およびn=6、7、もしくは8、m=0、1、2、もしくは3)、好ましくはx=4、n=6もしくは7、m=0、1、2、もしくは3、より好ましくはx =4、n=7、m=2である。一態様において前記リンカーは(G4S) 6G2である。
【0054】
本願で用いられる「価」という用語は、抗体分子中に、指定された数の結合部位が存在することを示す。従って、「二価」、「三価」、「四価」、および「六価」という用語は、それぞれ、抗体分子中に、2つの結合部位、3つの結合部位、4つの結合部位、および6つの結合部位が存在することを示す。本明細書における多重特異性CrossMab抗体(二重特異性CrossMab抗体を含む)は、好ましくは「二価」、「三価」、または「四価」、より好ましくは「二価」または「四価」である。二重特異性抗体は少なくとも「二価」であり、「三価」または「多価」(例えば、「四価」または「六価」)でもよい。特定の局面において、本明細書中の抗体は2つ以上の結合部位を有し、二重特異性である。すなわち、2を超える結合部位がある場合でも、前記抗体は二重特異性になることがある(すなわち、前記抗体は三価または多価である)。
【0055】
「キメラ抗体」という用語は、通常、組換えDNA法によって調製される、ある供給源または種に由来する可変領域、すなわち、結合領域と、異なる供給源または種に由来する定常領域の少なくとも一部を含む抗体を指す。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントと、免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む発現した免疫グロブリン遺伝子の産物である。キメラ抗体を産生するための方法は従来の組換えDNAを伴い、遺伝子トランスフェクション技法は当技術分野において周知である。例えば、Morrison、S.L., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855; 米国特許第5,202,238号および同第5,204,244号を参照されたい。
【0056】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンと比較して異なる特異性の免疫グロブリンのCDRを含むように改変されている抗体を指す。ヒト化抗体を生成するための方法は従来の組換えDNAを伴い、遺伝子トランスフェクション技法は当技術分野において周知である。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照されたい。
【0057】
本明細書で使用する「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域を有する抗体を含むことが意図される。ヒト抗体は最先端技術において周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体はまた、免疫されると、内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の完全レパートリーまたは選ばれたヒト抗体を産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)において産生することもできる。このような生殖細胞系列変異マウスにヒト生殖細胞系列免疫グロブリン遺伝子アレイを移入すると、抗原に曝露された時にヒト抗体が産生されるようになる(例えば、Jakobovits, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555; Jakobovits, A., et al., Nature 362 (1993) 255-258; Brueggemann, M., et al., Year Immunol. 7 (1993) 33-40を参照されたい)。ヒト抗体はまたファージディスプレイライブラリーにおいて産生することもできる(Hoogenboom, H.R., and Winter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388; Marks, J.D., et al., J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole, A., et al.and Boerner, P., et al.の技法もヒトモノクローナル抗体の調製に利用することができる(Cole, A., et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Liss, A.L., p. 77 (1985);およびBoerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。
【0058】
本明細書中の多重特異性CrossMab抗体は、前記抗体のFab領域の少なくとも1つが「Crossfab」Fab領域であり、Fab重鎖および軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインが交換されている抗体である。このような改変によって、異なるFab断片に由来する重鎖および軽鎖の誤対合が低下し、それによって、組換え産生における本発明の二重特異性抗原結合分子の収率および純度が改善する。言い換えると、異なる特異性のFab領域が、同一のドメイン配置を有さず、その結果、軽鎖を「相互変換(interchange)」しなくなるように、多重特異性抗原結合分子の1つまたは複数のFab領域内にある重鎖および軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインを交換することで多重特異性抗体産生中の重鎖および軽鎖の誤対合が少なくなる。
【0059】
起こり得る交換は、以下を含む:(i)Fab重鎖および軽鎖の可変ドメイン(VHおよびVL)が相互交換される;(ii)Fab重鎖および軽鎖の定常ドメイン(CH1およびCL)が相互交換される;または(iii)Fab重鎖および軽鎖(VH-CH1およびVL-CL)が相互交換される(図1B~D)。本明細書で使用する「交換」という用語は、本発明に関して用いられるFab重鎖およびFab軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインの交換を指す。言い換えると、Fab重鎖およびFab軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインの「交換」および「置換」という用語は同義で用いられ、本発明に関して用いられる時には、Fab重鎖およびFab軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインのドメインクロスオーバーを指す。CrossMab抗体のFab重鎖およびFab軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインのクロスオーバーの例を図1A~H、図2A~H、および図3A~Dに示した。誤対合CrossMab抗体、すなわち、Fab軽鎖および/またはFab重鎖の間違った対形成を星印で示した。
【0060】
本発明の一局面において、前記抗体のFab領域の少なくとも1つは、重鎖および軽鎖の可変ドメインおよび/または定常ドメインが交換されているFab領域であり、但し、異なる結合特異性のFab領域では同じ交換が行われておらず、同じ結合特異性のFab領域では同じ交換が行われている。
【0061】
望ましい結果を得るために、すなわち、異なる特異性の重鎖および軽鎖の誤対合を阻止するために、異なる特異性のFab領域において同じ交換を行ってはならない。例えば、第1の抗原に特異的に結合するFab領域を有する二重特異性CrossMab抗体では重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインが交換される場合があり、それに対して、第2の抗原に特異的に結合するFab領域では重鎖定常領域と軽鎖定常領域が交換される場合がある。別の例として、第1の抗原に特異的に結合するFab領域では交換は行われない場合があり、第2の抗原に特異的に結合するFab領域では重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインが交換される場合がある。
【0062】
本発明の方法の一態様において、抗体またはその断片のFab領域での交換は、(i)可変ドメインVLとVHの相互交換;(ii)定常ドメインCLとCH1の相互交換;または(iii)可変ドメインおよび定常ドメインVL-CLとVH-CH1の相互交換である。
【0063】
本発明の特定の好ましい態様では、同じ特異性のFab領域において(すなわち、同じ抗原に特異的に結合するFab領域において)同じ交換が行われる。本発明の方法によれば、二重特異性抗原結合分子に含まれる全てのFab領域において交換が行われる必要はない。例えば、3つのFab領域がある態様では、他の2つのFab領域とは異なる特異性を有するFab領域においてのみ交換を行うことで十分である。具体的には、二重特異性抗原結合分子が、第1の抗原に結合する第3のFab領域を含む態様では、第2のFab領域においてのみ交換が行われる。同様に、二重特異性抗原結合分子が、第2の抗原に結合する第3のFab領域を含む態様では、第1のFab領域においてのみ交換が行われる。従って、本発明の好ましい態様では、抗体またはその断片のFab領域での交換は、(i)可変ドメインVLとVHの相互交換;(ii)定常ドメインCLとCH1の相互交換;または(iii)可変ドメインおよび定常ドメインVL-CLとVH-CH1の相互交換であり、但し、異なる結合特異性を有するFab領域では同じ交換が行われない、および/または但し、同じ結合特異性を有するFab領域では同じ交換が行われる。本発明の特に好ましい態様では、抗体またはその断片のFab領域での交換は、同じ結合特異性を有する抗体またはその断片の全てのFab領域において行われ、同じ結合特異性を有する抗体またはその断片の最も少ない数のFab領域を含む前記Fab領域において行われる。本明細書で使用する本発明のCrossMab抗体は多重特異性CrossMab抗体である。本発明の好ましい態様において、多重特異性CrossMab抗体は、二重特異性抗体、三重特異性抗体、または四重特異性抗体である。本発明の特に好ましい態様において、多重特異性CrossMab抗体は二重特異性抗体または四重特異性抗体である。本明細書で使用する二重特異性抗体は、第1の抗原に一緒に特異的に結合する、第1の重鎖および第1の軽鎖(第1の抗原に対する抗体に由来する)と、第2の抗原に一緒に特異的に結合する、第2の重鎖および第2の軽鎖(第2の抗原に対する抗体に由来する)を含む。本明細書で使用する三重特異性抗体は、第1の抗原に一緒に特異的に結合する、第1の重鎖および第1の軽鎖(第1の抗原に対する抗体に由来する)と、第2の抗原に一緒に特異的に結合する、第2の重鎖および第2の軽鎖(第2の抗原に対する抗体に由来する)と、第3の抗原に一緒に特異的に結合する、第3の重鎖および第3の軽鎖(第3の抗原に対する抗体に由来する)を含む。本明細書で使用する四重特異性抗体は、第1の抗原に一緒に特異的に結合する、第1の重鎖および第1の軽鎖(第1の抗原に対する抗体に由来する)と、第2の抗原に一緒に特異的に結合する、第2の重鎖および第2の軽鎖(第2の抗原に対する抗体に由来する)と、第3の抗原に一緒に特異的に結合する、第3の重鎖、第3の軽鎖(第3の抗原に対する抗体に由来する)と、第4の抗原に一緒に特異的に結合する、第4の軽鎖(第4の抗原に対する抗体に由来する)を含む。従って、二重特異性CrossMab抗体は2種類の抗原分子に同時に結合することができ、三重特異性抗体は3種類の抗原分子に同時に結合することができ、四重特異性抗体は4種類の抗原分子に同時に結合することができる。
【0064】
多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体は、完全長抗体および/または抗体断片(例えば、F(ab')2二重特異性抗体)に由来してもよい。本発明の好ましい態様において、多重特異性CrossMab抗体は完全長抗体に由来してもよい。
【0065】
多重特異性(二重特異性を含む)抗体を作製する方法は当技術分野において公知である。完全長二重特異性抗体の従来の生成は、2つの鎖の特異性が異なる、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を同時発現させることに基づいている(Millstein and Cuello, Nature, 305:537-539[1983])。正しい分子はアフィニティクロマトグラフィー工程によって精製することができる。同様の手順が、1993年5月13日に公開されたWO93/08829およびTraunecker et al., EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示される。
【0066】
多重特異性抗体はまた化学結合を用いて調製することもできる。Brennan et al., Science, 229:81(1985)は、F(ab')2断片を作製するためにインタクトな抗体がタンパク分解により切断される手順について述べている。これらの断片は、ビシナルジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を阻止するジチオール複合体化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元される。次いで、生成されたFab'断片はチオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換される。次いで、Fab'-TNB誘導体の1つが、メルカプトエチルアミンで還元することでFab'チオールに再変換され、等モル量の他のFab'-TNB誘導体と混合されて二重特異性抗体が形成される。
【0067】
特定の一局面において、本発明は、デスレセプター5(DR5)に特異的な第1の抗原結合部位と、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に特異的な第2の抗原結合部位とを含む二重特異性抗体を精製する。
【0068】
一態様において、二重特異性抗体は、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:7のアミノ酸配列を含む可変重鎖と、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:8のアミノ酸配列を含む可変軽鎖とを含む、DR5に特異的な少なくとも1つの抗原結合部位、およびWO2014/161845A1のSEQ ID NO.:15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、FAPに特異的な少なくとも1つの抗原結合部位を含む。
【0069】
多重特異性CrossMab抗体は、例えば、二価抗体、三価抗体、または四価抗体でもよい。上記で説明されるような1+1、2+2、および2+1形式が本発明に関して好ましい。本発明の一態様において、多重特異性CrossMab抗体は二重特異性二価抗体である。本発明の別の態様において、多重特異性CrossMab抗体は二重特異性三価抗体であり、前記二重特異性三価抗体は第1の抗原結合部位について一価であり、第2の抗原結合部位について二価であるか、または二重特異性四価抗体である。本発明の別の態様において、多重特異性CrossMab抗体は、二重特異性四価抗体であり、前記二重特異性四価抗体は第1の抗原結合部位および第2の抗原結合部位について二価であるか、または、第1の抗原結合部位について一価であり、第2の抗原結合部位について三価である。従って、好ましい一態様では、多重特異性CrossMab抗体は、
a)完全長抗体によって形成された1つのコア抗体であって、完全長抗体が2つのFab領域を含み、第1のFab領域が第1の抗原に特異的に結合し、第2のFab領域が第2の抗原に特異的に結合する、コア抗体
を含む二価抗体であって、
可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)が相互交換されるように、
-第1の抗原に特異的に結合するFab断片、または
-第2の抗原に特異的に結合するFab断片
がドメインクロスオーバーを含む、二価抗体である。
【0070】
一局面において、前記多重特異性CrossMab抗体は二重特異性四価抗体である。これは第1の抗原について二価でもよく、第2の抗原について二価でもよい。この場合、前記抗体は、
(a)前記第1の抗原結合領域のうちの2つと、
(b)前記第2の抗原結合領域のうちの2つと
を含んでもよく、前記第2の抗原結合領域のそれぞれが、ペプチドコネクターを介して前記第1の抗原結合領域のうちの1つの重鎖のC末端またはN末端に融合されている。この抗体は、例えば、IgG抗体でもよく、前記第1の抗原結合領域の重鎖はCH2およびCH3ドメインを含み、前記第2の抗原結合領域はそれぞれ、ペプチドコネクターを介して前記第1の抗原結合領域のうちの1つの重鎖のC末端と融合されている。
【0071】
特定の局面において、二重特異性四価CrossMab抗体は、
a)第1の抗原に特異的に結合し、2つのFab領域を含む抗体の2本の軽鎖および2本の重鎖、
b)第2の抗原に特異的に結合する抗体の2つのさらなるFab領域であって、両方ともペプチドコネクターを介してa)の重鎖のC末端またはN末端に融合されている、2つのさらなるFab領域
を含み、Fab領域では、以下の改変が行われる:
i)a)の両方のFab領域において、またはb)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されている、および/もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
ii)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、かつ定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されているか、もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
iii)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されているか、もしくは定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、かつ定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、
iv)a)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されており、b)の両方のFab領域において、定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されている、または
v)a)の両方のFab領域において、定常ドメインCLおよびCH1が相互交換されており、b)の両方のFab領域において、可変ドメインVLおよびVHが相互交換されている。
【0072】
二価多重特異性抗体の成分は様々な配置で互いに融合することができる。二価二重特異性CrossMab抗体の例示的な配置を図1A~Hに図示した。
【0073】
特定の態様において、第1のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、Fc領域の第1のサブユニットのN末端と融合されている。他の態様において、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、Fc領域の第2のサブユニットのN末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFc領域のサブユニットのN末端と融合され、次に、第2のFab領域は、そのN末端において、第1のFab領域のサブユニットの定常ドメインのC末端と融合されている。
【0074】
本発明の特定の態様において、多重特異性CrossMab抗体は、
a)完全長抗体によって形成された1つのコア抗体であって、完全長抗体が2つのFab領域を含み、両方のFab領域が第1の抗原に特異的に結合するか、または第1のFab領域が第1の抗原に特異的に結合し、第2のFab領域が第2の抗原に特異的に結合する、コア抗体と、
b)コア抗体の重鎖のC末端またはN末端のいずれかにおいて融合され、第2の抗原に特異的に結合する1つのさらなるFab領域と
を含む三価抗体であって、
但し、a)のFab領域が両方とも第1の抗原に特異的に結合するか、またはさらなるFab領域が第3の抗原に特異的に結合し、但し、a)のFab領域が、第1の抗原に特異的に結合する第1のFab領域と、第2の抗原に特異的に結合する第2のFab領域とを含み、
i)
-可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)が相互交換されるように、第1の抗原に特異的に結合するFab領域、第2の抗原に特異的に結合するFab領域、および/または第3の抗原に特異的に結合するFab領域が、ドメインクロスオーバーを含み、但し、異なる抗原に特異的に結合するFab領域では同じ交換が行われておらず、但し、同じ抗原に特異的に結合するFab領域では同じ交換が行われている、
三価抗体である。
【0075】
三価多重特異性抗体の成分は様々な配置で互いに融合することができる。三価二重特異性CrossMab抗体の例示的な配置を図2A~Hに図示した。
【0076】
特定の態様において、第1のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、Fc領域の第1のサブユニットのN末端と融合されている。他の態様において、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、Fc領域の第2のサブユニットのN末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFc領域のサブユニットのN末端と融合され、次に、第2のFab領域は、そのN末端において、第1のFab領域のサブユニットの定常ドメインのC末端と融合されている。
【0077】
他の態様において、第3のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFab領域の可変ドメインのN末端と融合され、次に、第1のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFc領域の第1のサブユニットのN末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第3のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFab領域の可変ドメインのN末端と融合され、次に、第1のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFc領域のサブユニットのN末端と融合され、第2のFab領域は、定常ドメインのC末端において、第2のFc領域のサブユニットのN末端と融合されている。
【0078】
他の態様において、第3のFab領域は、その可変ドメインのN末端において、第1のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第1のFc領域のサブユニットは、そのN末端において、第1のFab領域の定常ドメインのC末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第3のFab領域は、その可変ドメインのN末端において、第1のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第1のFc領域のサブユニットは、そのN末端において、第1のFab領域の定常ドメインのC末端と融合され、第2のFab領域は、定常ドメインのC末端において、第2のFc領域のサブユニットのN末端と融合されている。
【0079】
本発明の特定の態様において、多重特異性CrossMab抗体は、
a)完全長抗体によって形成された1つのコア抗体であって、完全長抗体が2つのFab領域を含み、両方のFab領域が第1の抗原に特異的に結合するか、または第1のFab領域が第1の抗原に特異的に結合し、かつ第2のFab領域が第2の抗原に特異的に結合する、コア抗体と、
b)コア抗体の重鎖のC末端またはN末端のいずれかにおいて融合され、第2の抗原および/または第3の抗原に特異的に結合する2つのさらなるFab領域と
を含む四価抗体であって、
但し、a)のFab領域が両方とも第1の抗原に特異的に結合するか、またはさらなるFab領域が第3の抗原および/または第4の抗原に特異的に結合し、但し、a)のFab領域が、第1の抗原に特異的に結合する第1のFab領域と、第2の抗原に特異的に結合する第2のFab領域とを含み、
可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)が相互交換されるように、
-第1の抗原に特異的に結合するFab領域、第2の抗原に特異的に結合するFab領域、第3の抗原に特異的に結合するFab領域、および/または
-第4の抗原に特異的に結合するFab領域が、ドメインクロスオーバーを含み、
但し、異なる抗原に特異的に結合するFab領域では同じ交換が行われておらず、同じ抗原に特異的に結合するFab領域では同じ交換が行われている、
四価抗体である。
【0080】
四価多重特異性抗体の成分は様々な配置で互いに融合することができる。四価二重特異性CrossMab抗体の例示的な配置を図3A~Dに図示した。
【0081】
特定の態様において、第1のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、Fc領域の第1のサブユニットのN末端と融合されている。他の態様において、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、Fc領域の第2のサブユニットのN末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFc領域のサブユニットのN末端と融合され、次に、第2のFab領域は、そのN末端において、第1のFab領域のサブユニットの定常ドメインのC末端と融合されている。
【0082】
他の態様において、第3のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFab領域の可変ドメインのN末端と融合され、次に、第1のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFc領域の第1のサブユニットのN末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第3のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFab領域の可変ドメインのN末端と融合され、次に、第1のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFc領域のサブユニットのN末端と融合され、第2のFab領域は、定常ドメインのC末端において、第2のFc領域のサブユニットのN末端と融合されている。
【0083】
他の態様において、第3のFab領域は、その可変ドメインのN末端において、第1のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第1のFc領域のサブユニットは、そのN末端において、第1のFab領域の定常ドメインのC末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第3のFab領域は、その可変ドメインのN末端において、第1のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第1のFc領域のサブユニットは、そのN末端において、第1のFab領域の定常ドメインのC末端と融合され、第2のFab領域は、定常ドメインのC末端において、第2のFc領域のサブユニットのN末端と融合されている。
【0084】
他の態様において、第4のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第2のFab領域の可変ドメインのN末端と融合され、次に、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFc領域の第2のサブユニットのN末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第4のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第2のFab領域の可変ドメインのN末端と融合され、次に、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第2のFc領域のサブユニットのN末端と融合され、第3のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFab領域のN末端と融合され、次に、第1のFab領域は、定常ドメインのC末端において、第1のFc領域のサブユニットのN末端と融合されている。別の態様では、第4のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第2のFab領域の可変ドメインのN末端と融合され、次に、第2のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第2のFc領域のサブユニットのN末端と融合され、第3のFab領域のサブユニットは、その可変ドメインのN末端において、第1のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第1のFc領域のサブユニットは、そのN末端において、第1のFab領域の定常ドメインのC末端と融合されている。
【0085】
他の態様において、第4のFab領域は、その可変ドメインのN末端において、第2のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第2のFc領域は、そのN末端において、第2のFab領域の定常ドメインのC末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第4のFab領域は、その可変ドメインのN末端において、第2のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第2のFc領域は、そのN末端において、第2のFab領域の定常ドメインのC末端と融合され、第3のFab領域は、その可変ドメインのN末端において、第1のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第1のFc領域のサブユニットは、そのN末端において、第1のFab領域の定常ドメインのC末端と融合されている。さらに具体的な態様では、第4のFab領域は、その可変ドメインのN末端において、第2のFc領域のサブユニットのC末端と融合され、次に、第2のFc領域のサブユニットは、そのN末端において、第2のFab領域の定常ドメインのC末端と融合され、第3のFab領域は、その定常ドメインのC末端において、第1のFab領域のN末端と融合され、次に、第1のFab領域は、定常ドメインのC末端において、第1のFc領域のサブユニットのN末端と融合されている。
【0086】
上記の態様のいずれかに従って、多価多重特異性CrossMab抗体の成分(例えば、Fab領域、Fcサブユニット)は直接連結されてもよく、様々なリンカー、特に、1つまたは複数のアミノ酸、典型的には、本明細書に記載の、または当技術分野において公知の約2~20アミノ酸を含むペプチドリンカーを介して連結されてもよい。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n、またはG4(SG4)nペプチドリンカーが含まれる。式中、nは、一般的に、1~10、典型的に2~4の数である。第1のFab断片および第2のFab断片の軽鎖を互いに融合するための特に適したペプチドリンカーは(G4S)2である。さらに、ペプチドリンカーは免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含んでもよい。例示的なこのようなリンカーはEPKSC(D)-(G4S)2である。特に、Fab領域がFc領域のサブユニットのN末端と連結される場合、追加のペプチドリンカーと共に、または伴わずに免疫グロブリンヒンジ領域またはその一部を介して連結されてもよい。本発明の一態様では、第1のFab領域および/または第2のFab領域のN末端と、第3のFab領域および/または第4のFab領域のC末端とは、任意でペプチドリンカーを介して互いに融合されている。本発明のさらなる態様において、第1のFc領域および/または第2のFc領域のサブユニットのC末端と、第3のFab領域および/または第4のFab領域のN末端とは、任意でペプチドリンカーを介して互いに融合されている。
【0087】
二重特異性抗原結合分子のFc領域は、抗体分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは二量体であり、その各サブユニットはCH2およびCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。その2つのFcドメインサブユニットは互いに安定して会合することができる。本発明の二重特異性抗原結合分子は1つ以下のFcドメインを含む。本発明に従う一態様では、二重特異性抗原結合分子のFcドメインはIgG Fc領域である。特定の態様において、FcドメインはIgG1Fcドメインである。別の態様において、FcドメインはIgG4Fcドメインである。
【0088】
本発明に従う二重特異性抗原結合分子は、Fcドメインの2つのサブユニットのうちの一方または他方と融合した異なるFab領域を含む。従って、Fcドメインの2つのサブユニットは、典型的には、2本の同一でないポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドを組換えにより同時発現させ、その後に二量体化させると、2種類のポリペプチドの、可能性があるいくつかの組み合わせが生じる。従って、組換え生産における二重特異性抗原結合分子の収率および純度を改善するために、二重特異性抗原結合分子のFcドメインに、望ましいポリペプチドの会合を促進する改変を導入することが有利である。
【0089】
従って、特定の態様では、Fcドメインは、第1のFcドメインサブユニットと第2のFcドメインサブユニットの会合を促進する改変を含む。改変は第1のFcドメインサブユニットおよび/または第2のFcドメインサブユニットに存在してもよい。
【0090】
ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間の最も広範囲にわたるタンパク質間相互作用の部位はFcドメインのCH3ドメインにある。従って、一態様では、前記改変はFcドメインのCH3ドメインにある。ヘテロ二量体化を支持するためのCH3改変のいくつかのアプローチが、例えば、WO96/27011、WO98/050431、EP1870459、WO2007/110205、WO2007/147901、WO2009/089004、WO2010/129304、WO2011/90754、WO2011/143545、WO2012/058768、WO2013/157954、WO2013/096291において述べられており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。典型的には、当技術分野において公知のアプローチでは、1つの操作されたCH3ドメインを含む重鎖が同じ構造の別の重鎖とホモ二量体化できなくなるように(例えば、CH3が操作された第1の重鎖は、CH3が操作された別の第1の重鎖とホモ二量体化できなくなり、CH3が操作された第2の重鎖が、CH3が操作された別の第2の重鎖とホモ二量体化できなくなるように)、第1の重鎖のCH3ドメインと第2の重鎖のCH3ドメインは両方とも相補的になるように操作される。それによって、1つの操作されたCH3ドメインを含む重鎖は、相補的になるように操作されているCH3ドメインを含む別の重鎖とヘテロ二量体化するように強制される。本発明のこの態様のために、第1の重鎖と第2の重鎖がヘテロ二量体化するように強制されるのに対して、第1の重鎖と第2の重鎖が(例えば、立体的な理由で)ホモ二量体化できなくなるように、第1の重鎖のCH3ドメインと第2の重鎖のCH3ドメインはアミノ酸置換によって相補的になるように操作されている。
【0091】
特定の態様において、前記改変は、2つのFcドメインサブユニットのうちの一方に「ノブ(knob)」改変を含み、2つのFcドメインサブユニットのうちの他方に「ホール(hole)」改変を含む、いわゆる「ノブイントゥーホール(knob-into-hole)」(KiH)改変である。
【0092】
ノブイントゥーホール技術は、例えば、US5,731,168;US7,695,936; Ridgway et al., Prot Eng 9, 617-621 (1996) および Carter, J Immunol Meth 248, 7-15 (2001)に記載されている。一般的に、前記方法は、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨げるように突起を穴に配置できるように、第1のポリペプチドの境界面に突起(「ノブ」)を導入し、第2のポリペプチドの境界面に、対応する空洞(「ホール」)を導入する工程を伴う。突起は、第1のポリペプチドの境界面に由来する小さなアミノ酸側鎖を、さらに大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)と交換することによって構築される。突起と同一の、または類似するサイズの補償的(compensatory)空洞は、大きなアミノ酸側鎖を、さらに小さな側鎖(例えば、アラニンまたはスレオニン)と交換することによって第2のポリペプチドの境界面に作り出される。
【0093】
従って、特定の態様では、二重特異性抗原結合分子の第1のFcドメインサブユニットのCH3ドメインにあるアミノ酸残基が、もっと大きな側鎖容積を有するアミノ酸残基と交換され、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞に配置可能な突起が第1のサブユニットのCH3ドメイン内に生じ、第2のFcドメインサブユニットのCH3ドメインにあるアミノ酸残基が、もっと小さな側鎖容積を有するアミノ酸残基と交換され、それによって、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が配置可能な空洞が第2のサブユニットのCH3ドメイン内に生じる。
【0094】
突起および空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を変えることによって、例えば、部位特異的変異誘発またはペプチド合成によって作ることができる。
【0095】
「ノブイントゥーホール技術」の他に、ヘテロ二量体化を強制するように多重特異性抗体の重鎖のCH3ドメインを改変するための他の技法が当技術分野において公知である。これらの技術、特に、WO96/27011、WO98/050431、EP1870459、WO2007/110205、WO2007/147901、WO2009/089004、WO2010/129304、WO2011/90754、WO2011/143545、WO2012/058768、WO2013/157954、およびWO2013/096291に記載の技術は、本明細書中では、本発明に従う多重特異性抗体と組み合わせた「ノブイントゥーホール技術」に代わるものと考えられる。
【0096】
重鎖ヘテロ二量体化を改善するための、これらの異なるアプローチは、軽鎖誤対合を減らす本発明による多重特異性抗体において、重鎖-軽鎖改変と組み合わせた異なる代案(1本の結合アームでのVHおよびVL交換/置換と、CH1/CL境界面での荷電アミノ酸と反対電荷との置換の導入)だと考えられる。しかしながら、任意でKiH技術と組み合わせた多重特異性CrossMAb抗体の調製には、その誤対合変種が完全に無いわけではない。本発明の一態様において、その誤対合変種は、その多重特異性CrossMab抗体の別の軽鎖と交換された、前記多重特異性CrossMab抗体の少なくとも1本の軽鎖を含む。
【0097】
本明細書で使用する二価多重特異性抗体、すなわち、二価二重特異性抗体では、非改変軽鎖と改変重鎖との結合、および改変軽鎖と非改変重鎖との結合が起こり得る。または、第1の改変軽鎖と第2の改変重鎖との結合、および/または第2の改変軽鎖と第1の改変重鎖との結合が起こり得る。言い換えると、第1の軽鎖と第2の重鎖との結合、および/または第2の軽鎖と第1の重鎖との結合が起こり得る(図1A~Hを参照されたい)。
【0098】
本明細書で使用する三価多重特異性抗体、すなわち、三価二重特異性抗体では、非改変軽鎖と改変重鎖との結合、および改変軽鎖と非改変重鎖との結合が起こり得る。または、第1の改変軽鎖と第2の改変重鎖との結合、および/または第2の改変軽鎖と第1の改変重鎖との結合が起こり得る。言い換えると、第1の軽鎖と第2の重鎖との結合、および/または第2の軽鎖と第1の重鎖との結合が起こり得る(図2A~Hを参照されたい)。
【0099】
本明細書で使用する、四価多重特異性抗体、すなわち四価二重特異性抗体または四価三重特異性抗体において、非改変軽鎖と改変重鎖との結合、および改変軽鎖と非改変重鎖との結合が起こり得る。または、第1の改変軽鎖と第2の改変重鎖との結合、および/または第2の改変軽鎖と第1の改変重鎖との結合が起こり得る。言い換えると、第1の軽鎖と第2の重鎖との結合、および/または第2の軽鎖と第1の重鎖との結合が起こり得る(図3A~Hを参照されたい)。
【0100】
CrossMab抗体の精製
特に、本発明は、細胞、細胞株、および細胞培養物の産物からの多重特異性CrossMab抗体、例えば、二重特異性CrossMab抗体の分離および/または精製を包含する。このような産物は、典型的には、細胞用条件培地ならびに/または溶解およびホモジナイズされた細胞および細胞培養物(例えば、細胞用条件培地中にある、ホモジナイズされた細胞および細胞成分)を含む。本発明の方法は、関心対象の分子を発現する、トランスジェニック宿主細胞、宿主細胞株、および宿主細胞培養物から産物を処理するのに特に適している。
【0101】
本願で用いられる「宿主細胞」という用語は、本発明に従って抗体を作製するように操作することができる任意の種類の細胞系を示す。一態様においてHEK293細胞およびCHO細胞は宿主細胞として用いられる。
【0102】
本明細書で使用する「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養物」という表現は同義で用いられ、このような全ての名称が子孫を含む。従って、「形質転換体」および「形質転換細胞」という言葉は、移動(transfer)の数に関係なく初代対象細胞およびそれに由来する培養物を含む。全ての子孫は、故意、または故意でない変異によりDNA含有量が正確に同一でない場合があることも理解される。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたものと同じ機能または生物学的活性を有する変種子孫が含まれる。
【0103】
本明細書で使用する「形質転換」という用語は、ベクター/核酸を宿主細胞に導入するプロセスを指す。手ごわい細胞壁障壁が無い細胞が宿主細胞として用いられる場合、トランスフェクションは、例えば、Graham, F.L., van der Eb, A.J., Virology 52 (1973) 546-467に記載のリン酸カルシウム沈殿法によって行われる。しかしながら、DNAを、例えば、核注射またはプロトプラスト融合によって細胞に導入するための他の方法も用いられる場合がある。原核細胞またはかなりの細胞壁構築物を含有する細胞が用いられる場合、例えば、トランスフェクション法の1つは、Cohen, S.N., et al, PNAS. 69 (1972)2110-2114に記載のような塩化カルシウムを用いたカルシウム処理である。
【0104】
本明細書で使用する「発現」は、核酸がmRNAに転写されるプロセス、および/またはその後に、転写されたmRNA(転写物とも呼ばれる)がペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。転写物およびコードされるポリペプチドは総称して遺伝子産物と呼ばれる。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞での発現はmRNAスプライシングを含む場合がある。
【0105】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞に導入された時に、転写およびポリペプチドへの翻訳が可能なポリヌクレオチドである。「発現系」は、通常、望ましい発現産物を生じるように機能することができる発現ベクターで構成される適切な宿主細胞を指す。
【0106】
本発明の方法は、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液からの、多重特異性CrossMab抗体の分離、精製、および/または処理に関すると理解される。本発明の方法に従う多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液には、HICプロセスのローディング(loading)緩衝液、例えば、HIC媒体に適用される、例えば、精製スキームの一部としてHIC媒体に適用されるロード(load)が含まれる。従って、CrossMab多重特異性抗体およびその誤対合変種を含む液体組成物に関連して本明細書で使用する「溶液」という用語は、本明細書において開示される方法を実行するのに用いられる溶液である。従って、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液が、細胞培養培地、または培養培地から分画もしくは清澄化された細胞部分である場合、このような培地は、必ず、(多重特異性CrossMab多重特異性抗体を含むように)細胞用条件培地であると理解される。従って、本明細書で使用する「細胞培養溶液」という用語および類似の用語は、例えば、条件細胞培養物の上清;清澄化された条件細胞培養物の上清;清澄化された、ホモジナイズ/溶解された細胞培養物などを含むが、これに限定されない、多重特異性CrossMab抗体を含むことが予想される生物学的プロセスまたは系の任意の溶液を指す。特定の態様において、前記溶液は、本明細書において開示される方法を実行する前に清澄化および/または滅菌された細胞培養培地を含んでもよい。本明細書で使用する「清澄化された」および「清澄化」という用語は、濾過滅菌および/または遠心分離を含むが、これに限定されない、溶液からの粒子状物質の除去を指す。従って、溶液は、遠心分離して大きな固体粒子を除去した後に、ならびに/または、それに続いて濾過して材料からさらに細かい固体粒子および不純物を除去した後に、細胞培養物、例えば、発酵バイオリアクターから抽出されているCrossMab多重特異性抗体と、その誤対合変種を含有する液体材料を指す「清澄化された回収物」である。
【0107】
様々な態様において、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む試料は、部分的に精製されてもよい。例えば、前記溶液は、当技術分野において認められている、様々な任意の精製技法、例えば、クロマトグラフィー、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、および/もしくはアフィニティクロマトグラフィー、または濾過、例えば、デプス濾過、ナノ濾過、限外濾過、および/または絶対濾過に既に供されている可能性がある。
【0108】
従って、一局面では、前記本発明の方法は、HIC工程の前および/または後に1つまたは複数のさらなる精製工程をさらに含む。
【0109】
特に、前記方法は、前記HIC工程の前に、アフィニティクロマトグラフィー、例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー、硫安沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、およびゲル濾過からなる群より選択される少なくとも1つの精製工程を含んでもよい。さらに、前記方法は、前記HIC工程の後に、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、およびアフィニティクロマトグラフィーからなる群より選択される少なくとも1つの精製工程を含んでもよい。
【0110】
好ましくは、本発明に従う方法では、HIC工程の前にプロテインA工程が行われる。
【0111】
代表的な一局面において、プロテインA工程の後に本明細書中のHIC工程が行われた後に、バインドアンドエリュート(bind-and-elute)モードでは陽イオン交換工程、フロースルーモードでは陰イオン交換工程が行われる。
【0112】
本明細書で使用する「クロマトグラフィー媒体」という用語は、当技術分野において周知のような、適用されたロード流体の1つまたは複数の成分に選択的に結合することができる固相材料を指す。本発明は、特に、多重特異性CrossMab抗体の処理について本明細書において定義されたHIC媒体の使用を包含する。本発明の方法は、関心対象の分子、すなわち、多重特異性CrossMab抗体を、1つまたは複数の不純物および/または副産物、例えば、不完全な組み立てられた抗体から分離するための精製スキームの一部として、疎水性相互作用クロマトグラフィーと1つまたは複数のさらなるクロマトグラフィープロセス(例えば、イオン交換クロマトグラフィー)との組み合わせをさらに包含する。本発明の方法に従ってHICと組み合わせることができるクロマトグラフィーユニット操作の例には、陽イオン交換、陰イオン交換、疎水性相互作用、親水性相互作用、水素結合、π-π結合、金属親和性、ならびに/または生体分子を介した特異的結合(例えば、免疫グロブリン、免疫グロブリン断片、および酵素を含む親和性樹脂)を介してロード流体の1つまたは複数の成分に選択的に結合する固相(例えば、樹脂)の使用を含むクロマトグラフィーユニット操作が含まれるが、これに限定されない。固相は、多孔性粒子、非多孔性粒子、膜、またはモノリスでもよい。特定の二重特異性抗体を精製するために、これらのさらなるクロマトグラフィーユニット操作に適した条件を開発し、その条件を、本明細書において開示される発明と統合することは、当業者の能力の範囲内である。
【0113】
「疎水性相互作用クロマトグラフィー」または「HIC」という用語は、溶液中に存在する関心対象のタンパク質を分離するために、HIC媒体と、抗体などの関心対象のタンパク質上に存在する疎水性領域、および/または不純物上に存在する疎水性領域との相互作用を利用した精製法を指す。HICは、関心対象のタンパク質が溶出期間の間に溶出されるまでHIC媒体に結合したままの結合-溶出モード、または不純物が媒体に結合しながら、関心対象のタンパク質がカラムを通過して流れるフロースルーモードのいずれかで利用されることが多い。
【0114】
「に適用する」もしくは「に供する」という用語またはその文法上の相当語句は、多重特異性CrossMab抗体を精製しようとする場合に、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液が固定相と接触される、精製方法の部分工程、特に、HIC媒体上での部分工程を示す。これは、前記溶液が、固定相が配置されているクロマトグラフィー装置に添加されることを示す。精製しようとする多重特異性CrossMab抗体を含む溶液が固定相を通過すると、固定相と、溶解状態にある物質との相互作用が可能になる。例えば、pH、伝導率、塩濃度、温度、および/または流速などの条件に応じて、溶液の一部の物質には固定相に結合し、従って、溶液から取り出される。他の物質は溶解中に残存する。溶解中に残存している物質はフロースルー中に見出される。「フロースルー」とは、その起源に関係なく、クロマトグラフィー装置を通過した後に得られる溶液を示す。任意で、カラムをフラッシュ(flush)するために洗浄工程が適用されてもよい。その後に、固定相に結合している1種類または複数種の物質、すなわち多重特異性CrossMab抗体および/またはその誤対合変種を溶出するために、溶出緩衝液の適用が用いられる場合がある。関心対象の物質を精製された形で、または実質的に均一な形でも入手するために、この物質は、HIC精製工程後に、例えば、沈殿、塩析、限外濾過、ダイアフィルトレーション、凍結乾燥、アフィニティクロマトグラフィー、または溶媒体積低減などの当業者によく知られている方法によって溶液から回収することができる。
【0115】
「バインドアンドエリュートモード」という用語は、HICクロマトグラフィー精製法を行うやり方の1つを示す。本明細書において、精製しようとする多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液が、固定相、特に、固相に適用され、それによって、多重特異性CrossMab抗体および/またはその誤対合変種は固定相と相互作用し、固定相に保持される。関心対象でない物質はフロースルーまたは上清、それぞれと一緒に除去される。その後、多重特異性CrossMab抗体は、その変種(もっと異なる変種)から別々に溶出するように、第2の工程では溶出溶液(典型的には、緩衝溶液)を、典型的には段階勾配もしくは直線勾配(またはその組み合わせ)で適用することによって固定相から回収される。
【0116】
本明細書で使用する「緩衝液」は、その酸-塩基共役成分の作用によってpH変化に抵抗する緩衝溶液を指す。本発明の疎水性相互作用クロマトグラフィー局面用の緩衝液のpHは、典型的には、約5.0~8.5、好ましくは約5~7の範囲になることがある。この範囲内でpHを制御する緩衝液の例には、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ナトリウム緩衝液またはアンモニウム緩衝液、または複数の緩衝液が含まれる。代表的な緩衝液は、クエン酸緩衝液およびアンモニウム緩衝液、例えば、硫酸アンモニウム緩衝液、硫酸ナトリウム緩衝液、またはクエン酸アンモニウム緩衝液、特定の態様では、硫酸アンモニウム緩衝液またはクエン酸アンモニウム緩衝液である。任意で、緩衝溶液はまた追加の無機塩を含む場合がある。一態様において、無機塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、クエン酸ナトリウム、およびクエン酸カリウムより選択される。「ローディング緩衝液」は、HICカラムに抗体と汚染物の混合物をロードするのに用いられる緩衝液であり、「洗浄緩衝液」は、HICカラムから、結合していない材料を流すために、HICカラムを洗浄するのに用いられる緩衝液である。「溶出緩衝液」は、カラムから抗体を溶出するのに用いられる緩衝液である。多くの場合、ローディング緩衝液および洗浄緩衝液は同じである。本発明の方法によれば、溶出緩衝液の塩濃度はローディング緩衝液および/または溶出緩衝液よりも低い。
【0117】
HICは、タンパク質精製では、電荷、サイズ、生体分子特異的認識などに従って分離する他の技法の多段階精製シーケンスにおける補完物として広く用いられる。一般的に、抗体および/またはその断片の多段階精製シーケンスにおいて疎水性相互作用クロマトグラフィーの位置は変化する。抗体および/またはその断片を精製するための多段階精製シーケンスにおける、このような方法は十分に確立されており、広く使用されている。このような方法は単独で、または組み合わせて用いられる。このような方法は、例えば、チオールリガンドと錯体化金属イオン(例えば、Ni(II)およびCu(II)親和性材料)または微生物由来タンパク質(例えば、プロテインAもしくはプロテインGアフィニティクロマトグラフィー)を用いるアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)、および混合モード交換クロマトグラフィー)、チオフィリック(thiophilic)吸着(例えば、βメルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを用いる)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、phenyl-sepharose、アザ-アレノフィリック(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を用いる)、サイズ排除クロマトグラフィー、および調製用電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)である。
【0118】
例えば、組換え法を用いると、前記抗体は細胞内で産生することができる、細胞周辺腔に産生することができる、または培地に直接分泌することができる。抗体を細胞内で産生する場合、第1の工程として、宿主細胞または溶解断片いずれかの粒子状破片を、例えば、遠心分離または限外濾過によって除去する。Carter et al., Bio/Technology 10:163-167(1992)は、大腸菌の細胞周辺腔に分泌された抗体を単離するための手順について述べている。簡単に述べると、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、およびフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で約30分間にわたって解凍する。細胞破片を遠心分離によって除去することができる。抗体が培地に分泌される場合、一般的には、最初に、このような発現系からの上清を市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニットを用いて濃縮する。タンパク質分解を阻害するために前述のどの工程にも、PMSFなどのプロテアーゼインヒビターが含まれてもよく、外来汚染物の増殖を防ぐために抗生物質が含まれてもよい。
【0119】
本発明の一態様において、上流精製工程は、アフィニティクロマトグラフィー、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー、硫安沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、および/またはゲル濾過からなる群より選択される。
【0120】
以下の免疫グロブリン精製プロセスは一般的に多段階クロマトグラフィーパートを含んでもよい。第1の工程では、非免疫グロブリンポリペプチドおよびタンパク質が、アフィニティクロマトグラフィー、例えば、プロテインAを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって免疫グロブリン画分から分離されてもよい。その後に、個々の免疫グロブリンクラスを分離し、第1のカラムから同時溶出された微量のプロテインAを除去するためにイオン交換クロマトグラフィーを行うことができる。最後に、同じクラスの多量体および断片から免疫グロブリン単量体を分離するために、第3のクロマトグラフィー工程が必要な場合がある。凝集物の量は多い時もあり(5%以上)、第3の精製工程において凝集物を効率的に分離することは不可能であり、さらなる精製工程が必要とされる。
【0121】
適切な精製工程のさらなる例には、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、およびアフィニティクロマトグラフィーが含まれ、アフィニティクロマトグラフィーが好ましい精製法である。親和性リガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに左右される。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖に基づく抗体を精製するのに使用することができる(Lindmark et al., J. Immunol. Meth. 62:1-13[1983])。全てのマウスアイソタイプとヒトγ3にはプロテインGが推奨される(Guss et al., EMBO J. 5:15671575[1986])。親和性リガンドが取り付けられるマトリックスは、ほとんどの場合、アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。多孔性ガラス(controlled pore glass)またはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定したマトリックスを用いると、アガロースを用いて実現できるものよりも流速が速くなり、処理時間が短くなる。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J. T. Baker, Phillipsburg, N.J.)が精製に有用である。回収しようとする抗体に応じて、タンパク質精製のための他の技法、例えば、イオン交換カラムによる分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカによるクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)によるクロマトグラフィー、陰イオン交換樹脂または陽イオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)によるクロマトグラフィー、等電点電気泳動、SDS-PAGE、および硫安沈殿も利用可能である。
【0122】
疎水性相互作用クロマトグラフィー
どの上流精製工程の後でも、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液がローディング緩衝液に懸濁され、HIC媒体に供される。
【0123】
一般的に、HICは、これらのタンパク質とHIC媒体の疎水性表面との間の可逆的相互作用を利用することにより、表面疎水性の差に従ってタンパク質を分離する。疎水性タンパク質とHIC媒体との間の相互作用は、緩衝液中のある特定の塩が存在することに大きな影響を受ける。塩濃度が高いと相互作用が強くなるのに対して、塩濃度が低いと相互作用が弱くなる。例えば、緩衝液のイオン強度が低下し、疎水性の程度が最も低いタンパク質が最初に溶出されると、タンパク質とHIC媒体との相互作用は逆転する。最も疎水性の高いタンパク質が最後に溶出すると、相互作用を逆転させるために塩濃度をもっと下げることが必要となる。
【0124】
詳細には、高塩緩衝液に溶解した、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液はHICカラムにロードされる。一般的に、緩衝液中の塩は水分子と相互作用して溶液中の分子の溶媒和を減らし、それによって試料分子にある疎水性領域を露出させ、その結果として試料分子はHICカラムによって吸着される。分子の疎水性が高ければ高いほど、結合を促進するのに必要とされる塩は少なくなる。通常、HICカラムから分子を溶出するには、減少する塩勾配が用いられる。イオン強度が減少するにつれて、分子の親水性領域の露出が増加し、分子は疎水性の小さい順にカラムから溶出する。分子の溶出はまた、穏やかな有機モディファイヤー(modifier)または界面活性剤を溶出緩衝液に添加することでも行われ得る。HICは、Protein Purification, 2d Ed., Springer-Verlag, New York, pgs 176-179 (1988)において概説されている。
【0125】
HIC技法は、試料が硫安沈殿に供された時の、またはイオン交換クロマトグラフィーによる分離後の、ありふれた次工程である。両状況とも、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液は高い塩濃度を含有し、ほとんど追加調製せずに、または追加の調製無くHIC媒体に直接に適用され得る。
【0126】
従って、本発明の一態様は、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液をHIC媒体に適用する工程を含み、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種はHIC媒体から別々に分離され、それによって、疎水性に基づいて、溶液中にある多重特異性CrossMab抗体がその誤対合変種から分離される。
【0127】
言い換えると、本発明の方法は、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液中にある多重特異性CrossMab抗体を分離する工程であって、以下の工程:
(a)ローディング緩衝液の存在下で、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液をHIC媒体に供する工程であって、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とが前記HIC媒体に結合する、工程;
(b)任意で、洗浄緩衝液の存在下でHIC媒体を洗浄する工程であって、洗浄時には、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とが結合したままの状態である、工程;および
(c)疎水性に基づいて多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種との分離を可能にする溶出条件を利用して、溶出緩衝液の存在下で、HIC媒体から多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを選択的に溶出する工程
を含む。
【0128】
本発明の別の態様では、条件は、汚染物、例えば、多重特異性CrossMab抗体の誤対合変種の結合を最大にし、標的、すなわち、多重特異性CrossMab抗体がカラムを通過し、従って、汚染物、すなわち、多重特異性CrossMab抗体の誤対合変種を除去するように選択することができる。
【0129】
上記を考慮して、本発明の方法は、バインドアンドエリュートモードのHICによって、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液中にある多重特異性CrossMab抗体を分離する工程を含む。または、前記のように、本発明の方法は、フロースルーモードのHICによって、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液中にある多重特異性CrossMab抗体を分離する工程を含む。
【0130】
前記のHIC分離の各操作の前に、媒体は、マトリックスの孔および粒子間の空間を埋める平衡化緩衝液で平衡化されることがある。本発明の一態様では、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液をHIC媒体に供する前に、10mM~500mM酢酸ナトリウム、より好ましくは10mM~50mM酢酸ナトリウム、および1.0~2.0M硫酸アンモニウム、より好ましくは1.0~1.5M硫酸アンモニウムを含む平衡化緩衝液がHIC媒体に供される。本発明の特定の態様において、約5~10CVの平衡化緩衝液がHIC媒体に供される。本発明の特に好ましい態様において、10mM~500mM酢酸ナトリウム、より好ましくは10mM~50mM酢酸ナトリウム、および1.0~2.0M硫酸アンモニウム、より好ましくは1.0~1.5M硫酸アンモニウムを含む約5~10CVの平衡化緩衝液がHIC媒体に供される。精製しようとするタンパク質は、一般的に、表面上の親水性領域および疎水性領域を両方とも有するので、疎水性タンパク質がHIC媒体と相互作用する時に見られるものと同じ原動力を有するタンパク質沈殿は、高濃度のある特定の塩によって強化される場合がある。精製しようとするタンパク質の沈殿は、その分離を弱めることがあり、従って、収率を下げることがある。従って、HIC分離を開始する前には、操作中の沈殿を阻止するために緩衝液中の塩濃度を下げる必要がある場合がある。この手段によって、精製しようとするタンパク質が沈殿しない最も高い塩濃度を実験によって求めることができる。例えば、沈殿が引き起こされる濃度を確かめるために、漸増濃度の試料が塩に添加される場合がある。従って、HIC媒体に適用された時に高い塩濃度により試料が沈殿するリスクを避けるために、この濃度より少ない値まで塩濃度を調節することができる。
【0131】
HIC媒体に対する平衡化緩衝液の後に、ローディング緩衝液に懸濁した多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液が、HIC媒体に供される。この媒体は充填ベッドを形成するようにカラムに充填されてもよい。カラム長を長くすると、大きな体積をHIC媒体に供した時に分離度が改善される場合がある。特に、カラム長を長くすると、密接に関係するタンパク質の分離度が改善される場合がある。
【0132】
HIC媒体はリガンドのタイプ、時としてリガンド密度によって説明されるが、精製されるタンパク質に対するHIC媒体の結合能力は、HIC媒体の疎水性とも関連する。本明細書において、置換リガンドの密度は、好ましくは、HIC媒体1mlにつき9~50μmolである。結合能力とは、規定された実験条件下でHIC媒体に結合することができる実際のタンパク質量を指す。ある特定のレベルまでリガンド密度が増加するにつれてHIC媒体の結合能力が増加する。さらに、結合能力は、主として、HIC媒体、タンパク質特性、および結合条件、分子のサイズおよび形状、マトリックスの粒径によって決まり、より少ない程度では、流速、温度、およびpHによって決まる。HIC分離に用いられる規定された条件が、HIC媒体に緩衝液を供する時の流速を含むのであれば、結合する量はHIC媒体の動的結合能力と呼ばれる。従って、特に多量の試料体積を適用する時には、最大動的結合能力の実現と急速な分離との間に平衡が認められなければならないように、例えば、流速を上げるか、または下げることによって動的結合能力を高めることができる。動的結合能力は、HIC媒体の特性、精製されるタンパク質、および緩衝液の塩濃度、流速、温度などの実験条件に左右され、より少ない程度ではpHに左右される。HIC媒体の動的結合能力は、製造業者の仕様書によれば、多くの場合、媒体1mLあたりタンパク質19~39mgである(典型的には、10%ブレイクスルーでウシ血清アルブミン(BSA)を用いて求められる)。しかしながら、動的結合能力の、上記で概説されたような、いくつかのパラメータへの依存関係により、HIC媒体の動的結合能力は、精製しようとするタンパク質、例えば、本発明に関して用いられる抗体について実験によって求めることができる。
【0133】
結合法として、ローディング緩衝液に懸濁した、精製しようとするタンパク質を含む溶液の塩含有量が十分な結合条件を保証する限り、HICは試料体積に依存しない。HICカラムに適用することができる試料の量は、媒体の結合能力と、必要とされる分離度とに依存する。さらに、存在する物質の量とピーク幅が直接関係するので、試料の量は分離度に影響を及ぼすことがある。従って、本発明の方法の状況では、媒体に適用され、かつ結合するタンパク質の量はカラムの全結合能力を超えないはずである。
【0134】
一般的に、タンパク質とHIC媒体との間の相互作用は、適度に高い塩濃度、例えば、1~2M硫酸アンモニウムまたは3M NaClによって促進される。必要とされるローディング緩衝液のタイプと濃度は、関心対象のタンパク質が媒体に結合し、他の疎水性の低いタンパク質と不純物がカラムをまっすぐに通過するように選択される。
【0135】
HIC媒体を使用する時に、緩衝液の特定の塩が疎水性相互作用を促進する能力は、存在するイオン種とその濃度に左右される。一般的に、イオンの溶出/沈殿強度はホフマイスター順列によって説明することができる。例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、または硫酸アンモニウムは比較的多量の沈殿を生じる。HIC媒体上でのリガンド-タンパク質相互作用を効果的に促進する可能性があり、タンパク質構造に安定して作用する可能性があるのは、これらの塩である。従って、よく用いられる塩は、(NH4)2SO4、Na2SO4、NaCl、KCl、およびCH3COONH4、CH3COONaなどである。媒体選択と同様に、それぞれの塩は疎水性相互作用を促進する能力の点で異なる場合がある。従って、塩および塩濃度の正しい選択は、HIC分離の能力と最終選択性に影響を及ぼす重要なパラメータである。これに関連して、塩濃度が上がるにつれて、結合するタンパク質の量は特定の塩濃度までほぼ直線的に増加する可能性があり、もっと高い濃度では指数関数的に増加し続ける可能性がある。緩衝イオンの選択は疎水性相互作用にとって重大な意味を持たない。リン酸緩衝液が最もよく用いられる。選択される緩衝液のpHはタンパク質安定性と適合しなければならない。緩衝液のpHはタンパク質安定性と適合するように選択しなければならない。しかしながら、5.0~8.5のpH値にはHIC分離の最終選択性と分離度に対して重要性がほとんどない。そのために、pHを上げると疎水性相互作用が弱まり、タンパク質の保持は、8.5より大きなpH値または5.0より小さなpH値では激しく変化する。任意で、緩衝液の添加物を用いて選択性と分離度を改善することができる。そのために、添加物は、タンパク質溶解度を改善するか、または結合タンパク質の溶出を促進することによって分離に影響を及ぼすことができる。例えば、水混和性のアルコール、界面活性剤、およびカオトロピック塩が、HIC分離においてよく用いられる添加物である。
【0136】
さらに、HIC媒体に適用される緩衝液に用いられる塩のタイプおよび濃度は、HIC分離の能力、選択性、および分離度に影響を及ぼすことがある。従って、前記緩衝液中の塩のタイプおよび濃度を改善することは、HIC媒体上での多重特異性CrossMab抗体および/またはその誤対合変種の結合プロセスに必要不可欠な場合があり、従って、これらの抗体を結合させるのに必要な選択性を実現するのに必要不可欠な場合がある。例えば、ある定められた濃度では、緩衝液中の硫酸アンモニウムは他の塩と比較した時に最良の分離度を生じることが多く、2Mまでの濃度で用いられる場合がある。HIC分離で用いられる緩衝液中にある、よく用いられる塩は、HICでのリガンド-タンパク質相互作用を効果的に促進する硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、および/または硫酸アンモニウムを含むが、これに限定されず、タンパク質構造を安定する作用がある。
【0137】
HIC媒体に供される緩衝液の流速は分離段階に従って変わることがある。すなわち、HIC媒体に供されるローディング緩衝液、洗浄緩衝液、および/または溶出緩衝液の流速は異なることがある。遅い流速は、結合および溶出のための時間的余裕を与え、速い流速は平衡化の間に時間の節約を可能にするだろう。流速は主に媒体の剛性によって制限される。
【0138】
本発明の一態様において、多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種を含み、10mM~500mM酢酸ナトリウム、より好ましくは10mM~50mM酢酸ナトリウムと、1.0~2.0M硫酸アンモニウム、より好ましくは1.0~1.5M硫酸アンモニウムとを含むローディング緩衝液が、HIC媒体に供される。本発明の一態様において、ローディング緩衝液のHIC媒体に供されるpH、塩濃度、および/または体積は、平衡化緩衝液と実質的に同一である。
【0139】
多重特異性CrossMab抗体とその誤対合変種とを含む溶液のローディングが完了した時に、結合しなかった全てのタンパク質が媒体を通過するようにカラムは洗浄される。
【0140】
本発明の一態様において、10mM~500mM酢酸ナトリウム、より好ましくは10mM~50mM酢酸ナトリウムと、1.0~2.0M硫酸アンモニウム、より好ましくは1.0~1.5M硫酸アンモニウムとを含む洗浄緩衝液が、HIC媒体に供される。本発明の好ましい態様において、約5~10CVのローディング緩衝液がHIC媒体に供される。本発明の一態様において、洗浄緩衝液のHIC媒体に供されるpH、塩濃度、および/または体積は、平衡化緩衝液および/またはローディング緩衝液と実質的に同一である。
【0141】
一般的に、溶出緩衝液中の塩濃度を下げることによってタンパク質が溶出される。塩濃度が下がるにつれて、疎水性が最も低いタンパク質がカラムから溶出し始める。勾配を用いて塩濃度の変化を制御することによって、タンパク質は、精製され濃縮された形で異なって溶出される。疎水性の程度が最も高いタンパク質が最も強く保持され、最後に溶出される。溶出緩衝液は、一般的に、ローディング緩衝液および/または洗浄緩衝液と実質的に同じpHおよび塩濃度を含むが、少なくとも1種類の塩濃度は、ローディング緩衝液および/または洗浄緩衝液の中にある前記少なくとも1種類の塩濃度と比較して低い。当業者は、弱く結合している汚染物を溶出するのに必要な塩濃度および緩衝液体積の決定を十分に知っている。本発明の一態様において、HIC媒体に供される溶出緩衝液の少なくとも1種類の塩の塩濃度は、ローディング緩衝液および/または洗浄緩衝液の中にある前記塩と比較して低い。典型的には、溶出緩衝液は、ローディング緩衝液および/または洗浄緩衝液と同じ塩タイプを含み、HIC媒体に供される溶出緩衝液の少なくとも1種類の塩の塩濃度は、ローディング緩衝液および/または洗浄緩衝液の中にある前記塩と比較して低い。
【0142】
本発明の一態様において、約10~40CVの溶出緩衝液が、直線勾配で、または塩が無い条件もしくは低塩条件までの段階勾配で、HIC媒体に供される。
【0143】
特定の態様において、約10~30CVの溶出緩衝液が、直線勾配で、または塩が無い条件もしくは低塩条件までの段階勾配で、HIC媒体に供される。
【0144】
本発明の一態様において、溶出緩衝液は、直線勾配、段階勾配、またはその組み合わせである直線-段階勾配でHIC媒体に供される。本発明の好ましい態様において、溶出緩衝液はHIC媒体に直線勾配で供される。直線勾配溶出は高分離度の分離に用いられることが多いのに対して、段階勾配溶出は、HIC分離が直線勾配溶出を用いて最適化されている時に用いられることがあり、段階勾配溶出速度に変えると分離時間が加速し、必要とされる純度を保持しながら緩衝液の消費が減る。どのような場合でも、HIC媒体に供される溶出勾配の塩濃度は低下する。
【0145】
HIC分離の高分離度のために、可能な限り多くのタンパク質を結合し、次いで、異なって溶出させて包括的なプロファイルを得る目的で幅広い勾配が用いられる場合がある。
【0146】
勾配後に、溶出が終了したら、最も強固に結合しているタンパク質を除去するために、無塩緩衝液での洗浄工程がHIC媒体に適用されることがある。好ましくは、各操作の終了時の無塩洗浄工程によって、HIC媒体に依然として結合しているあらゆる分子を除去しなければならない。本発明に関して理解されるように、無塩緩衝液とは、塩を実質的に含有しない緩衝液または蒸留水を指す。媒体の疎水性および試料中のタンパク質が正しく判断されていれば、全てのタンパク質が、この段階によって溶出される。ほとんどの結合タンパク質は、HIC媒体を無塩緩衝液で単に洗浄することによって効果的に溶出される可能性がある。場合によっては、疎水性相互作用はとても堅固であるので、全ての結合材料を除去するには、もっと厳しい条件、例えば、0.5~1.0M NaOH、70%エタノールまたは30%イソプロパノールが必要な場合がある。本発明に関して用いられる、無塩緩衝液による少なくとも1つの洗浄工程がHIC媒体に適用される場合がある。本発明に従って用いられる無塩緩衝液は、(i)蒸留水、(ii)約1M酢酸および約20%エタノール、または(iii)約0.1M水酸化ナトリウムでもよい。本発明の好ましい態様において、約1M酢酸および約20%エタノールを含む無塩緩衝液による第1の洗浄工程が適用され、0.1M水酸化ナトリウムを含む無塩緩衝液による第2の洗浄工程が適用される。
【0147】
これらの洗浄工程に続いて、水または無塩緩衝液による洗浄を行った後に、例えば、保存溶液中のエタノールが塩沈殿を引き起こすリスクを避けるために、前記のように平衡化緩衝液を用いてカラムを再平衡化しなければならない。好ましくは、カラムが平衡化緩衝液で再平衡化された後に、次の操作で溶液が適用される。
【0148】
HIC分離中に、多重特異性CrossMab抗体は、さらに小さな体積中で精製および溶出され、それによって、例えば、ゲル濾過、または緩衝液交換後にはイオン交換分離があるが、これに限定されない当技術分野において公知のプロセスを含む下流精製プロセスに直接向かうように多重特異性CrossMab抗体が濃縮される。下流精製工程の選択および組み合わせは、特定の試料特性および必要とされる精製レベルに左右される。
【0149】
本発明の一態様において、下流精製工程は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、および/または混合モードクロマトグラフィーからなる群より選択される。本明細書で使用する、本発明の方法は、前記HIC工程の後に少なくとも1つの精製工程を含む。好ましくは、本発明の方法は、前記HIC工程の後にイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、およびアフィニティクロマトグラフィーからなる群より選択される少なくとも1つの精製工程を含む。
【0150】
HIC媒体は、球状粒子の不活性マトリックスとカップリングした、アルキル基またはアリール基を含有するリガンドで構成される。リガンドと、HICマトリックス上でのリガンド置換の程度は、媒体の選択性、さらには媒体の疎水性に寄与する。従って、リガンドのタイプと、標的タンパク質がどういったものであるかは、HIC媒体の選択性の決定において極めて重要なパラメータである。HIC媒体の最も一般的な疎水性リガンドは、試料成分との相互作用によって2つのグループ、ブチル基、オクチル基、エーテル基、および/またはイソプロピル基を含むアルキル直鎖と、フェニル基を含むアリールリガンドに分けられる。本発明に関して、使用されるHIC媒体のリガンドには、フェニル基、ブチル基、および/またはポリプロピレングリコール(PPG)基が含まれる。フェニル基およびブチル基が好ましい。一般的に、精製しようとする、疎水性が高いタンパク質には、分離を成功させるためには疎水性の低いリガンドが必要である。逆に、親水性が高い試料には、後で分離する目的で十分に結合させるためには、疎水性の強いリガンドが必要である。本発明に関して、多重特異性CrossMab抗体の疎水性は、その誤対合変種よりも低い場合がある。例えば、非改変軽鎖のVLドメインがドメイン交換重鎖のVLドメインと組み合わされた本発明の軽鎖誤対合抗体は、密接に会合していないドメインを生じる場合があり、その結果、その正しく対合した多重特異性CrossMab抗体よりも大きな程度で疎水性残基が露出される。従って、抗体の軽鎖に曝露されている、Fab領域の重鎖の疎水性残基は、その後ずっと、多重特異性CrossMab抗体の誤対合抗体では高い露出度を有する。
【0151】
リガンドはHIC媒体の疎水性の程度に大きく寄与するのに対して、マトリックスもHIC媒体の最終選択性にも寄与する場合がある。疎水性相互作用のためのクロマトグラフィー媒体は多孔性マトリックスから作られる。本発明の一態様において、このマトリックスはポリマーマトリックスまたはアガロースベースのマトリックスを含む。本発明の好ましい態様において、このマトリックスはアガロースを含む。本発明の特に好ましい態様において、アガロースは4%~6%の媒体を含む。マトリックス多孔性と粒径との間のバランスを最適にすることで、リガンドで覆われる表面積が大きくなり、そのため結合能力が大きくなる。最も適したマトリックスは、必要とされる分離度、結合能力、および流速に従って選択することができる。例えば、平均粒径34μmのSepharose HPにおいて勾配溶出を用いると高い分離度が得られる。さらに、粒径は分離において重要な要因である。HIC分離の分離度は、カラムから溶出された2つのピークの分離の程度と、カラムが狭い対称的なピークを生じる能力と、適用された試料の量の組み合わせである。一般的に、正しい溶出条件下では最も小さい粒径が最も狭いピークを生じる。マトリックスの粒径を小さくすることで効率を改善できるのであれば明確に分離するのであるが、もっと小さな粒子を用いることで背圧が上昇し、その結果、流速を下げる必要があるので操作時間が長くなる。従って、精製の要件を満たすHIC媒体の平均粒径を調節することが好ましい。
【0152】
本発明の一態様において、マトリックスの粒子は、おおよそ以下の平均サイズを有する:
(i)直径が約50μm以下、好ましくは約45μm以下、より好ましくは約34μm~約40μmであり、前記リガンドがブチル基である;
(ii)直径が約35μm~約60μm、好ましくは約35μm~約50μm、より好ましくは約35μm~約45μm、最も好ましくは約40μmであり、前記リガンドがフェニル基である;または
(iii)直径が約35μm~約100μm、好ましくは約60μm~70μm、最も好ましくは約65μmであり、前記リガンドがポリプロピレングリコール基である。
【0153】
本発明の好ましい態様において、マトリックスの粒子は、おおよそ以下の平均サイズを有する:
(i)直径が約50μm以下、好ましくは約45μm以下、より好ましくは約34μm~約40μmであり、前記リガンドがブチル基である;
(ii)直径が約35μm~約60μm、好ましくは約35μm~約50μm、より好ましくは約35μm~約45μm、最も好ましくは約40μmであり、前記リガンドがフェニル基である。
【0154】
従って、平均粒径が約34μmおよび約40μmのブチルベースのHIC媒体が本明細書において特に好ましい。また、平均粒径が約40μmのブチルベースのHIC媒体が本明細書において特に好ましい。
【0155】
本発明に関して、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体によって、多重特異性CrossMab抗体を、その誤対合変種から分離できることが発見されている。
【0156】
温度変化がタンパク質の構造と溶解度に影響を及ぼすことがあり、その結果として、他の疎水性表面との相互作用、例えば、HIC媒体中での他の疎水性表面との相互作用に影響を及ぼすことがあることは、当技術分野において一般に知られている。さらに、急速な温度変化、例えば、充填カラムを低温室から取り出し、次いで、緩衝液を室温で適用した時の急速な温度変化によって充填中に空気の泡が生じ、分離が影響を受けることがある。実際には、このことは、一定の温度でHIC分離を行うと再現性が改善する可能性があることを意味する。これに関連して、再現性のある一貫した結果を確かなものにするために、本発明の方法において用いられるように全てのHIC分離を通して温度は一定に保たなければならない。
【0157】
本発明に関して特に有用なHIC媒体を表1に列挙した。本発明に従う方法において用いられない比較用HIC媒体を表2に列挙した。
【0158】
従って、本発明に関して以下のHIC媒体が特に好ましい:
(a)約34μmの平均粒径を有し、リガンドとしてブチル基を有し、架橋アガロースマトリックスを含むHIC媒体。好ましくは、前記媒体は約50μmol/ml媒体のリガンド密度を有する。好ましくは、前記HIC媒体は約39mg BSA/ml媒体の結合能力を有する。最も好ましくは、前記媒体は「Butyl Sepharose HP」(GE Healthcare)である。この媒体のさらなる仕様を表1に列挙した。
(b)約40μmの平均粒径を有し、リガンドとしてブチル基を有し、架橋アガロースマトリックスを含むHIC媒体。好ましくは、前記HIC媒体は約37mg BSA/ml媒体のリガンド密度を有する。最も好ましくは、前記媒体は「Capto Butyl ImpRes」(GE Healthcare)である。この媒体のさらなる仕様を表1に列挙した。
(c)約40μmの平均粒径を有し、リガンドとしてフェニル基を有し、架橋アガロースマトリックスを含むHIC媒体。好ましくは、前記媒体は約9μmol/ml媒体のリガンド密度を有する。好ましくは、前記HIC媒体は約19mg BSA/ml媒体の結合能力を有する。最も好ましくは、前記媒体は「Capto Phenyl ImpRes」(GE Healthcare)である。この媒体のさらなる仕様を表1に列挙した。
【0159】
上述した特定の二重特異性四価CrossMab抗DR5/抗FAP抗体に関連して、これらのHIC媒体(a)~(c)が特に好ましい。
【0160】
本発明はまた、
(a)以下:
(i)デスレセプター5(DR5)に特異的な少なくとも1つの抗原結合領域と、
(ii)線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)に特異的な少なくとも1つの抗原結合領域と
を含む、二重特異性CrossMab抗体であって、
DR5に特異的な抗原結合領域が、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:7のアミノ酸配列を含む可変重鎖と、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:8のアミノ酸配列を含む可変軽鎖とを含み、
FAPに特異的な抗原結合領域が、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、WO2014/161845A1のSEQ ID NO.:16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、
二重特異性CrossMab抗体、および
(b)5%未満のその誤対合変種、好ましくは2%未満のその誤対合変種、より好ましくは1%未満のその誤対合変種
を含む、薬学的組成物にも関する。
【0161】
これに関連して、前記抗体は、前記のDR5に特異的な抗原結合領域およびFAPに特異的な抗原結合領域それぞれのうちの2つを含んでもよい。
【0162】
前記薬学的組成物は癌の処置において用いられてもよく、特に、癌は膵臓癌または結腸直腸癌である。
【0163】
(表1)本発明に従うHIC媒体
【0164】
(表2)比較用HIC媒体
【0165】
本明細書において引用された全ての特許および科学文献の開示は、その全体が参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【実施例
【0166】
以下は本発明の方法および組成物の例である。上記で提供される大まかな説明を考えれば様々な他の態様が実施され得ると理解される。理解しやすいように例示および例として、前述の発明が、いくらか詳細に説明されたが、説明および実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【0167】
一般的方法
組換えDNA技法
多重特異性CrossMab抗体を生成するために、Sambrook, J. et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989に記載のように標準的な方法を用いてDNAを操作した。分子生物学試薬を製造業者の説明書に従って使用した。特に、四価二重特異性抗DR5/抗FAP抗体であるRO6874813-000(DR5FAP)をWO2014/161845に従って生成し(本明細書において上記で示される特定のVH鎖およびVL鎖についての言及を参照されたい)、四価二重特異性抗pTau-PS422抗体(2+2形式;抗pTau/抗トランスフェリンレセプター(TfR))を生成した。
【0168】
抗体発現
四価二重特異性抗DR5/抗FAP二重特異性抗体および四価二重特異性抗pTau-PS422抗体を、例えば、Schaefer et al, PNAS USA 108(2011), 11187-11192に記載のようにCrossMabおよびノブインホール(KiH)技術に従って設計した。
【0169】
例示的な精製戦略
1)プロテインAアフィニティクロマトグラフィー:
抗DR5/抗FAP二重特異性抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含む溶液を、濾過滅菌済みの培養上清からプロテインA-Sepharoseカラム(MabSelectSure-Sepharose(商標)(GE Healthcare, Sweden)を用いたアフィニティクロマトグラフィーによって精製した。
【0170】
2)疎水性相互作用クロマトグラフィー:
抗DR5/抗FAP二重特異性抗体とそのLCDR5誤対合変種を含むプロテインA溶出液を、HIC媒体に供した。表1に示したように以下の実施例では様々なHIC媒体を使用した。例えば、Butyl Sepharose HPは、無電荷の化学的に安定したエーテル結合を介して脂肪族ブチル基で改変された、高度に架橋された34μmアガロースビーズをベースとしている。Capto PhenylおよびCapto Butyl ImpRes媒体は、速い流速を可能にするハイフロー(high-flow)アガロースマトリックスをベースとしている。Capto PhenylおよびCapto Butyl ImpRes媒体には40μmのビーズサイズが用いられ、これにより、もっと大きなビーズサイズに基づいたHIC媒体と比較して高い分離度が可能になる。Butyl Sepharose HP、Capto Phenyl、およびCapto Butyl ImpRes媒体の疎水性特徴は、異なるモデルタンパク質、例えば、α-キモトリプシノゲンまたはリゾチームを用いた選択性試験によって分析することができる。GE Healthcare Life Sciencesのデータシート(データファイル29-0319-25 AB)により提供されるように、Butyl Sepharose HPおよびCapto Butyl ImpRes媒体を用いたモデルタンパク質α-キモトリプシノゲンの保持時間は似ていた。3種類全てのHIC媒体を考慮すると、GE Healthcare Life Sciencesのデータシート(データファイル29-0319-25AB)に従ってこれらの保持時間によって求めた他のHIC媒体と比較した相対疎水性は、似ていることが示された。
【0171】
(表1)GE Healthcare Life Sciencesによって提供されたHIC媒体の媒体特性
*n.a.=入手できなかった
【0172】
分析戦略
サイズ排除クロマトグラフィー:
TSKgel(登録商標)G3000SWxl(Tosoh, Germany)を、抗DR5/抗FAP抗体およびそのLCDR5誤対合変種を特徴付けるための分析方法として使用した。それに関して、表2は、本発明に関して適用され得る緩衝液、流速、およびロードなどのパラメータを示す。
【0173】
(表2)SE-HPLCパラメータ
【0174】
疎水性相互作用クロマトグラフィー-高速液体クロマトグラフィー(HIC-HPLC):
TSKgel(登録商標)エーテル-5PWを用いて、抗DR5/抗FAP抗体およびそのLCDR5誤対合変種を分析した。表3は、本発明に関して適用され得る緩衝液、勾配、およびロードなどのパラメータを示す。
【0175】
(表3)HIC-HPLCパラメータ
【0176】
構造分析
サイズ排除クロマトグラフィー-多角度静的光散乱(SEC-MALS)
サイズ排除クロマトグラフィー-多角度静的光散乱(SEC-MALS)を用いて、抗DR5/抗FAP二重特異性抗体およびそのLCDR5誤対合変種の質量を測定した。
【0177】
SDS-ゲルキャピラリー電気泳動(CE-SDS)
SDS-ゲルキャピラリー電気泳動(CE-SDS)を用いて、抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種との分離、および/または抗pTau/抗TfRとLCanti-TfRとの分離を確かめた。
【0178】
MS分光法:
抗DR5/抗FAP二重特異性抗体およびそのLCDR5誤対合変種の構造を特徴付けるための別の分析方法としてエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)を使用した。表4は、本発明に関して適用され得る試料処理のパラメータを示す。
【0179】
(表4)ESI-MS分析 MaXis UHR-TOF-タンデム質量分析計
【0180】
実施例1:Butyl Sepharose HPを用いた、抗DR5/抗FAP抗体の、そのLC DR5 誤対合変種からの分離
抗DR5/抗FAP二重特異性抗体を発現させ、前記のようにプロテインAアフィニティクロマトグラフィーを用いて培養上清から精製し、抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含む溶液を、pH5.5の負の硫酸アンモニウム勾配があるButyl Sepharose HP HIC媒体に供した。
【0181】
詳細には、上記のようなプロテインAアフィニティ精製の後に、抗DR5/抗FAP抗体およびそのLCDR5誤対合変種を含むプロテインA溶出液を、pH5.5で、35mM酢酸ナトリウムに溶解した3M硫酸アンモニウムを用いて1M硫酸アンモニウムになるまで調節した。この溶液を、以下の手順に従って疎水性相互作用クロマトグラフィー(10x160mm, CV=12.6ml)に供した。
【0182】
(表5)Butyl Sepharose HPを用いて、抗DR5/抗FAP抗体をそのLCDR5誤対合変種から分離する手順
【0183】
分析評価のために、溶出液をSE-HPLCおよびHIC-HPLCによってピーク1、2、および3に分画し、プールし、分析用SEC-MALSおよびESI-MSによって特徴付けた(図4B~C;図5、6A~Bおよび7A~B)。図6Aおよび4Aに示したフラクションの構造分析はSEC-MALSを介した分子量の決定を示している。分子量464kDaの参照材料と比較して、235kDaの低分子量はLCDR5誤対合抗体変種の分子量を反映していると考えられる(図6A)。さらに、参照分子量480kDaと比較した分子量217kDaは軽鎖欠損抗体の分子量を反映していると考えられる(図6A)。ESI-MSの結果と組み合わせて、これらの抗体変種を同定することができた(図6B)。
【0184】
上記のHIC分離とは反対に、分析用HIC-HPLCでは、抗DR5/抗FAP抗体は、使用したHPLC媒体に起因して、そのLCDR5誤対合変種の後に溶出した(図5)。HIC-HPLCでは、HIC分離の溶出プロファイルの2つの別個のピークにより視認できるように、ピーク1は抗DR5/抗FAP抗体を含み、そのLCDR5誤対合変種を含むピーク2からはっきりと分離されたことがSEC-MALSおよびESI-MSによって確認することができた(図4A)。さらに、ピーク3は軽鎖欠損変種を含むことが示された。誤対合した軽鎖により、LCDR5誤対合変種は、抗体表面に露出した疎水性残基を有し、従って、このような疎水性残基が、正しく対合した軽鎖によって遮蔽されている抗DR5/抗FAP二重特異性抗体よりも高い疎水性を示した。この点において、抗DR5/抗FAP二重特異性抗体は、そのLCDR5誤対合変種の前に溶出した。
【0185】
抗DR5/抗FAP抗体を含むSE-HPLCおよびHIC-HPLCの産物プールとプロテインA溶出液を含む出発物質との構造分析を、SEC-MALSおよびESI-MSによって行った(図6A~Bおよび7A~B)。表6に示したように、産物プールと出発物質とを比較した時に、産物プール中ではLCDR5誤対合変種は枯渇していたのに対して、出発物質中にはこのようなLCDR5誤対合変種が依然として9%あった(表6)。産物プール中にある他の産物関連副産物、例えば、軽鎖欠損変種は、出発物質と比較して少なかった(表6)。さらに、産物プール中には出発物質と比較して多量の抗DR5/抗FAP抗体が特定された(表6)。従って、LCDR5誤対合抗体変種は枯渇し、一方、望ましい産物の総量は増加し、さらなる産物関連副産物は低減した。
【0186】
(表6)SEC-MALSおよびESI-MSによって確かめた、出発物質中および産物プール中にある抗DR5/抗FAP抗体、そのLCDR5誤対合変種、および他の産物関連副産物、例えば、軽鎖欠損変種の、SE-HPLCおよびHIC-HPLC分析
【0187】
実施例2:Capto Butyl ImpResを用いた、抗DR5/抗FAP抗体の、そのLC DR5 誤対合変種からの分離
実施例1に記載のように抗DR5/抗FAP抗体を発現させ、精製した。抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含む溶液を、pH5.5の負の硫酸アンモニウム勾配があるCapto Butyl Impres HIC媒体に供した。
【0188】
詳細には、上記のようなプロテインAアフィニティ精製の後に、抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含むプロテインA溶出液を、pH5.5で、35mM酢酸ナトリウムに溶解した3.5M硫酸アンモニウムを用いて1M硫酸アンモニウムになるまで調節した。この溶液を、以下の手順に従って疎水性相互作用クロマトグラフィー(11x206mm, CV=19.6ml)に供した。
【0189】
(表7)Capto Butyl ImpResを用いて、抗DR5/抗FAP抗体をそのLCDR5誤対合変種から分離する手順
【0190】
実施例1のように、溶出液をSE-HPLCおよびHIC-HPLCによってピーク1、2、および3に分画し、プールし、分析用SEC-MALSおよびESI-MSによって特徴付けた(図7、8、および9A~B)。HIC-HPLCでは、HIC分離の溶出プロファイルの別個のピークにより視認できるように(図8)、抗DR5/抗FAP抗体はそのLCDR5誤対合変種からはっきりと分離された。
【0191】
実施例1のように、抗DR5/抗FAP抗体を含むSE-HPLCおよびHIC-HPLCの産物プール、ならびにプロテインA溶出液を含む出発物質の構造分析を、SEC-MALSおよびESI-MSによって行った。表8に示したようにプロテインA溶出液の出発物質と産物プールとを比較した時に、産物プール中ではLCDR5誤対合変種は枯渇していたのに対して、出発物質中にはこのようなLCDR5誤対合変種が依然として6.7%あった。産物プール中では、出発物質(23.5%)と比較して他の産物関連副産物、例えば、軽鎖欠損変種も枯渇していた(表8)。さらに、69.8%の抗DR5/抗FAP抗体が特定された出発物質と比較して、産物プール中では100%の抗DR5/抗FAP抗体が特定された(表8)。従って、LCDR5誤対合抗体変種およびさらなる産物関連副産物は枯渇し、一方、望ましい産物の総量は維持された。
【0192】
(表8)SEC-MALSおよびESI-MSによって確かめた、出発物質中および産物プール中にある抗DR5/抗FAP抗体、そのLCDR5誤対合変種、および他の産物関連副産物、例えば、軽鎖欠損変種の、SE-HPLCおよびHIC-HPLC分析
【0193】
実施例3:Capto ButylおよびCapto Phenyl ImpResを用いた、抗DR5/抗FAP抗体の、そのLC DR5 誤対合変種からの分離
実施例1に記載のように抗DR5/抗FAP抗体を発現させ、精製した。抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含む溶液を、pH5.5の負の硫酸アンモニウム勾配があるCapto Butyl HIC媒体またはCapto Phenyl ImpRes HIC媒体に供した。
【0194】
詳細には、上記のようなプロテインAアフィニティ精製の後に、抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含むプロテインA溶出液を、pH5.5で、35mM酢酸ナトリウムに溶解した3.5M硫酸アンモニウムを用いて1.5M硫酸アンモニウムになるように調節した。この溶液を、以下の手順に従って疎水性相互作用クロマトグラフィー(8x100mm, CV=4.7ml)に供した。
【0195】
(表9)Capto ButylおよびCapto Phenyl ImpResを用いて、抗DR5/抗FAP抗体をそのLCDR5誤対合変種から分離する手順
【0196】
実施例1のように、溶出液をSE-HPLCおよびHIC-HPLCによって、図9AおよびBに示したようにフラクションに分画し、分析用SEC-MALSおよびESI-MSによって特徴付けた。Capto Phenyl ImpResを用いたHIC分離のHIC-HPLCでは、抗DR5/抗FAP抗体がそのLCDR5誤対合変種から分離されたことが分かり、HIC分離の溶出プロファイルには視認できる2つのピークがあった(図9B)。しかしながら、Capto Butylを用いたHIC分離のHIC-HPLCでは、1つの主ピークしか見えず、従って、抗DR5/抗FAP抗体は、そのLCDR5誤対合変種から視認できる程度に分離されなかった(図9A)。
【0197】
図10AおよびBに示したようなCapto Phenyl ImpResおよびCapto Butyl HIC分離のSE-HPLCおよびHIC-HPLCのフラクション、ならびにプロテインA溶出液を含む出発物質の構造分析を、SEC-MALSおよびESI-MSによって行った。表10および表11に示したように、プロテインA溶出液を含む出発物質と、Capto Phenyl ImpRes HICおよびCapto Butyl HICの産物プールとを比較した時に、フラクションのいくつかにおいてLCDR5誤対合変種は枯渇し、抗DR5/抗FAP二重特異性抗体が高収率で存在した。LCDR5誤対合変種が枯渇したこのようなフラクションでは、産物関連副産物は有意に低減した。
【0198】
(表10)SEC-MALSおよびESI-MSによって確かめた、出発物質中および産物プール中にある抗DR5/抗FAP抗体、そのLCDR5誤対合変種、および他の産物関連副産物、例えば、軽鎖欠損変種の、SE-HPLCおよびHIC-HPLC分析
【0199】
(表11)SEC-MALSおよびESI-MSによって確かめた、出発物質中および産物プール中にある抗DR5/抗FAP抗体、そのLCDR5誤対合変種、および他の産物関連副産物、例えば、軽鎖欠損変種の、SE-HPLCおよびHIC-HPLC分析
【0200】
実施例4:Toyopearl Hexyl 650cを用いた、抗DR5/抗FAP抗体からの、そのLC DR5 誤対合変種の分離
実施例1に記載のように抗DR5/抗FAP抗体を発現させ、精製した。抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含む溶液を、pH5.5の負の硫酸アンモニウム勾配があるCapto ButylおよびCapto Phenyl Impresを用いてHIC媒体に供した。
【0201】
詳細には、上記のようなプロテインAアフィニティ精製の後に、抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含むプロテインA溶出液を、pH5.5で、35mM酢酸ナトリウムに溶解した3.5M硫酸アンモニウムを用いて1.5M硫酸アンモニウムになるように調節した。この溶液を、以下の手順に従って疎水性相互作用クロマトグラフィー(8x20mm, CV=1.0ml)に供した。
【0202】
(表12)Toyopearl Hexyl 650cを用いて、抗DR5/抗FAP抗体をそのLCDR5誤対合変種から分離する手順
【0203】
溶出液は分画され、産物プールはSE-HPLCおよびHIC-HPLCによって分析された。Toyopearl Hexyl 650cはロード中および勾配溶出後にブレイクスルー(breaktrough)を示し、このことから結合能力は弱く、疎水性は非常に大きいことが分かった。従って、Toyopearl Hexyl 650cを使用した時には、抗DR5/抗FAP抗体は、そのLCDR5誤対合変種から視認できる程度に分離されなかった。
【0204】
実施例5:Butyl Sepharose HPおよびToyopearl PPG 600 Mを用いた、抗DR5/抗FAP抗体の、そのLC DR5 誤対合変種からの分離
実施例1に記載のように抗DR5/抗FAP抗体を発現させ、精製した。抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含む溶液を、pH5.5の負の硫酸アンモニウム勾配があるButyl Sepharose HPまたはToyopearl PPG 600 Mを用いてHIC媒体に供した。
【0205】
詳細には、上記のようなプロテインAアフィニティ精製の後に、抗DR5/抗FAP抗体とそのLCDR5誤対合変種とを含むプロテインA溶出液を、pH5.5で、35mM酢酸ナトリウムに溶解した3.5M硫酸アンモニウムを用いて1.5M硫酸アンモニウムになるように調節した。この溶液を、以下の手順に従って疎水性相互作用クロマトグラフィー(8x20mm, CV=1.0ml)に供した。
【0206】
(表13)Butyl Sepharose HPまたはToyopearl PPG 600 Mを用いて、抗DR5/抗FAP抗体をそのLCDR5誤対合変種から分離する手順
【0207】
溶出液は分画され、産物プールはSE-HPLCおよびHIC-HPLCによって分析された(図10A~B)。Butyl Sepharose HPおよびToyopearl PPG 600 M HIC分離のSE-HPLCおよびHIC-HPLCの全プール体積、およびプロテインA溶出液を含む出発物質の構造分析を、SEC-MALSおよびESI-MSによって行った。表14に示したように、プロテインA溶出液を含む出発物質と、Butyl Sepharose HP HIC分離のSE-HPLCおよびHIC-HPLCの全プール体積とを比較した時に、プール中のLCDR5誤対合変種は低減したのに対して、Toyopearl PPG 600 M HIC分離のSE-HPLCおよびHIC-HPLCの全プール体積では、プール中のLCDR5誤対合変種はわずかに低減した。
【0208】
(表14)SEC-MALSおよびESI-MSによって確かめた、出発物質中および産物プール中にある抗DR5/抗FAP抗体、そのLCDR5誤対合変種、および他の産物関連副産物、例えば、軽鎖欠損変種のSE-HPLCおよびHIC-HPLC分析
【0209】
実施例6:Butyl Sepharose HPおよびToyopearl Butyl 650Cを用いた、抗DR5/抗FAP抗体の、そのLC DR5 誤対合変種からの分離
実施例5と同じ条件下で、Butyl Sepharose HPおよびToyopearl Butyl 650を用いた、抗DR5/抗FAP抗体の、そのLCDR5誤対合変種からの分離を比較した(図11A~B)。Butyl Sepharose HP HIC分離のSE-HPLCおよびHIC-HPLCの全プール体積では、出発物質と比較してLCDR5誤対合変種は低減したのに対して、Toyopearl PPG 600 M HIC分離のSE-HPLCおよびHIC-HPLCの全プール体積では、LCDR5誤対合変種はわずかにしか低減しなかったことが分かった(表15)。
【0210】
(表15)SEC-MALSおよびESI-MSによって確かめた、出発物質中および産物プール中にある抗DR5/抗FAP抗体、そのLCDR5誤対合変種、および他の産物関連副産物、例えば、軽鎖欠損変種の、SE-HPLCおよびHIC-HPLC分析
【0211】
実施例7:Butyl Sepharose HPを用いた、抗pTau-PS422抗体とそのLC Tau-PS422 誤対合変種の分離
抗pTau-PS422抗体を発現させ、前記のようにプロテインAアフィニティクロマトグラフィーを用いて培養上清から精製した。抗pTau-PS422抗体とそのLCTau-PS422誤対合変種とを含む溶液を、pH5.7の負の硫酸アンモニウム勾配があるButyl Sepharose HP HIC媒体に供した。
【0212】
詳細には、上記のようなプロテインAアフィニティ精製の後に、抗pTau-PS422抗体とそのLCTau-PS422誤対合変種とを含むプロテインA溶出液を、pH5.7で、500mM酢酸ナトリウムに溶解した1M硫酸アンモニウムになるまで調節した。この溶液を、以下の手順に従って疎水性相互作用クロマトグラフィー(CV=1ml)に供した。
【0213】
(表16)Butyl Sepharose HPを用いて、抗pTau-PS422抗体をそのLCTau-PS422誤対合変種から分離する手順
【0214】
分析評価のために、溶出液をピーク1および2に分画し、分析用SEC、CE-SDS、およびMSによって特徴付けた(図12)。
【0215】
ピーク1は抗pTau-PS422抗体を含み、そのLCTau-PS422誤対合変種を含むピーク2からはっきりと分離されたことが、SEC、CE-SDS、およびMSによって確認することができ、HIC分離の溶出プロファイルには2つの別個のピークが視認された(図12)。
【0216】
実施例8:Capto Butyl ImpResを用いた、抗pTau-PS422抗体とそのLC Tau-PS422 誤対合変種との分離
実施例7のように、抗pTau-PS422抗体を発現させ、前記のようにプロテインAアフィニティクロマトグラフィーを用いて培養上清から精製した。抗pTau-PS422抗体とそのLCTau-PS422誤対合変種とを含む溶液を、pH5.7の負の硫酸アンモニウム勾配があるCapto Butyl ImpRes HIC媒体に供した。
【0217】
詳細には、上記のようなプロテインAアフィニティ精製の後に、抗pTau-PS422抗体とそのLCTau-PS422誤対合変種とを含むプロテインA溶出液を、pH5.5で、500mM酢酸ナトリウムに溶解した1M硫酸アンモニウムになるまで調節した。この溶液を、以下の手順に従って疎水性相互作用(CV=1ml)に供した。
【0218】
(表17)Capto Butyl ImpResを用いて、抗pTau-PS422抗体をそのLCTau-PS422誤対合変種を分離する手順
【0219】
溶出液を分画し、抗pTau-PS422抗体を含むインタクトな産物であることが示された1つしかないピークが勾配の後の方で溶出した。そのLCTau-PS422誤対合変種は強く結合し、これらの条件下ではカラムから溶出しなかった。
【0220】
実施例9:Capto Phenyl ImpResを用いた、抗pTau-PS422抗体とそのLC Tau-PS422 誤対合変種との分離
実施例1に記載のように抗pTau-PS422抗体を発現させ、精製した。抗pTau-PS422抗体とそのLCTau-PS422誤対合変種とを含む溶液を、pH5.5の負の硫酸アンモニウム勾配があるCapto Phenyl ImpRes HIC媒体に供した。
【0221】
詳細には、上記のようなプロテインAアフィニティ精製の後に、抗pTau-PS422抗体とそのLCTau-PS422誤対合変種とを含むプロテインA溶出液を、pH5.5で、500mM酢酸ナトリウムに溶解した1M硫酸アンモニウムに供した。この溶液を、以下の手順に従って疎水性相互作用クロマトグラフィー(8CV=5ml)に供した。
【0222】
(表18)Capto Phenyl ImpResを用いて、抗pTau-PS422抗体とそのLCTau-PS422誤対合変種とを分離する手順
【0223】
溶出液を分画し、抗pTau-PS422抗体を含むインタクトな産物であることが示された1つしかないピークが勾配の後の方で溶出した。そのLCTau-PS422誤対合変種は強く結合し、これらの条件下ではカラムから溶出しなかった。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12