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特許7074870in-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス及びその生成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】in-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス及びその生成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20220517BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220517BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20220517BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220517BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M10/054
H01G11/30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020550159
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 IN2020050143
(87)【国際公開番号】W WO2020174487
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】201911008004
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】519131381
【氏名又は名称】インターナショナル アドバンスト リサーチ センター フォー パウダー メタラージ アンド ニュー マテリアルズ(エーアールシーアイ)
【氏名又は名称原語表記】International Advanced Research Centre for Powder Metallurgy and New Materials(ARCI)
【住所又は居所原語表記】Plot No 102,Institutional Area,Sector 44,Haryana,Gurgaon 122003(IN)
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】ビジョイ クマール ダス
(72)【発明者】
【氏名】ラクスマン マニカンタ プッパラ
(72)【発明者】
【氏名】ラクシュミ プリヤ ナラヤナン
(72)【発明者】
【氏名】ゴパラン ラガバン
(72)【発明者】
【氏名】サンダララジャン ゴビンダン
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0016632(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105552328(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
in-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスであって、前記電極材料は、一般式[A(PO]及び[A(PO](式中、「A」は、Li、Na及びKから選択されるアルカリイオンであり、「M」は、Fe、Ni、Co、V、Mn、Ti及びCrから選択される遷移金属である。)により表されるアルカリイオン遷移金属リン酸塩及びアルカリイオン遷移金属フルオロリン酸塩から選択され、以下の工程:
a)アルカリイオン前駆体、遷移金属前駆体、リン前駆体及びゲル化/キレート化剤を適切なモル比で、脱イオン水、又は、エチレングリコール、ポリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールから選択された非水性溶媒に加えることにより混合物を調製する工程;
)前記混合物を、前記容器内で、均質混合物が得られる程度の時間撹拌する工程;
)大気圧下80~170℃の温度範囲で一定温度で絶えず撹拌しながら開放容器内でマイクロ波照射して均質ゲル化をもたらす工程;
)得られたゲルを空気中で100~120℃の温度範囲で乾燥させる工程;
)乾燥したゲルを粉砕する工程;及び
)前記乾燥したゲルを不活性雰囲気下で600~800℃の温度範囲で8~10時間焼成し、300~500℃の中間焼成温度を3~5時間とし、メソポーラス炭素ネットワークの形成とともに電極材料上にin-situ炭素コーティング層の形成をもたらす工程;
を含
前記電極材料が一般式[A (PO ]により表されるアルカリイオン遷移金属フルオロリン酸塩である場合に、工程a)において、脱イオン水又は前記非水性溶媒にさらにフッ素前駆体が加えられる、
in-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項2】
前記アルカリイオン前駆体、遷移金属前駆体、リン前駆体及びゲル化/キレート化剤が3:2:3:2の比で混合される、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項3】
アルカリイオン遷移金属リン酸塩がリン酸ナトリウムバナジウム[Na(PO]であり、工程a)の混合で加えられる成分が、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム二水和物(CHCOONa・2HO)、水酸化ナトリウム一水和物(NaOH・HO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸ナトリウム十二水和物(NaPO・12HO)、シュウ酸ナトリウム(Na)及びそれらの混合物から成る群から選択されるナトリウム前駆体;酸化バナジウム(V)(V)、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酸化バナジウム(III)(V)、バナジルアセチルアセトナート[VO(C]、トリヒドロキシ(オキソ)バナジウム(HVO)及びそれらの混合物から成る群から選択されるバナジウム前駆体;リン酸アンモニウム[(NHPO]、リン酸二アンモニウム[(NHHPO]、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸(HPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)及びそれらの混合物から成る群から選択されるリン前駆体;並びにin-situ炭素コーティングの供給源として使用されるゲル化/キレート化前駆体であり、メソポーラス炭素ネットワークはクエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸及びグルコン酸から成る群から選択される、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項4】
in-situ炭素コーティングのためのさらなる試薬として、グルコース、スクロース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スターチ、マンノース、リボース、アルドヘキソース、ケトヘキソース及びそれらの組み合わせから成る群から選択された有機前駆体が工程a)においてさらに加えられる、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項5】
工程)において、前記乾燥したゲルを、アルゴン又は窒素から選択された不活性ガス下で焼成する、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項6】
アルカリイオン遷移金属フルオロリン酸塩が[Na(PO]であり、前記フッ素前駆体が工程a)において加えられ、前記フッ素前駆体はNaFであり、その他の工程が同じである、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項7】
粒径及びその分布が、ゲル化/キレート化剤含有量を変えることによって、又は、反応温度及び反応時間を調整することによって制御される、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項8】
一般式A2-x(PO(式中、0<x<2であり、CはMg、Al、Ti、Ca及びScのうちのいずれか1種である。)により表されるカチオンドープアルカリイオン遷移金属リン酸塩が工程a)においてさらに加えられ、その他の工程は同じである、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項9】
一般式A(PO3-y3y(式中、0<y≦1である。)及びA2-x(PO3-y3y(式中、0<x<2、0<y≦1)より表されるアニオンドープアルカリイオン遷移金属リン酸塩(ここで、NはCl、Br及びIのうちのいずれか1種である。)が工程a)においてさらに加えられ、その他の工程は同じである、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項10】
工程a)において適切な前駆体を必要なモル比で選択することによって、一般式Na(PO(式中、M=Fe、Mn、Co及びNiである。)により表されるマルチポリアニオン化合物、及び一般式NaMO(式中、0.44<x<1、M=Fe、Mn、Co、Ni及びTiである。)により表される層状ナトリウム遷移金属酸化物を調製することもできる、請求項1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
【請求項11】
前記マイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスによって、NASICON(Na超イオン伝導体)型の菱面体晶結晶構造を有するリン酸ナトリウムバナジウム又はNASICON(Na超イオン伝導体)型の正方晶結晶構造を有するフルオロリン酸ナトリウムバナジウムが調製される、請求項に記載in-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス
【請求項12】
前記マイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスによって、300~500nmの範囲内の粒径を有するリン酸ナトリウムバナジウム、又は、30~50nmの範囲内の粒径を有するフルオロリン酸ナトリウムバナジウムが調製される、請求項に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス
【請求項13】
前記マイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスによって調製されたリン酸ナトリウムバナジウム又はフルオロリン酸ナトリウムバナジウムの表面に形成された炭素コーティングの厚さが10nm以下である、請求項に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリイオン遷移金属リン酸塩の電極材料を調製する方法及びその生成物に関し、特に、マイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスによりin-situ(現場で)炭素被覆されたリン酸ナトリウムバナジウム及びフルオロリン酸ナトリウムバナジウム並びにそれらの誘導体を調製する方法に関する。それらの高い比容量及び高い比キャパシタンスの二重特性のために、それらは「スーパーカバッテリー(supercabattery)」用の電極材料として使用できる。それらは、ナトリウムイオンバッテリー及びナトリウムイオンキャパシター用の電極材料として使用することもできる。
【背景技術】
【0002】
比エネルギー及び出力密度の点で、バッテリーはエネルギー貯蔵装置として最も好ましい選択肢である。リチウムイオンバッテリー(LIB)は、全ての他の市販のバッテリーシステムの中でも最高の比エネルギーを有する。LIBは、携帯用電子機器及び電気/ハイブリッド電気自動車などの様々な用途で、1990年にソニー(Sony)により成功裏に商品化された[M. S. Whittingham,“Lithium Batteries and Cathode Materials”, Chem. Rev. (2004) 104, 4271-4302]。
【0003】
しかしながら、リチウム資源は急速に枯渇しており、およそあと数年分残っていると予想されている。さらに、リチウムのコストのために、LIBは大規模グリッドストレージ用途に向かないものとなっている。ナトリウムの低いコスト、同水準の比エネルギー及び豊富さ(海水中の主な元素のうちの1つである)のために、ナトリウムイオンバッテリー(SIB)はLIBの適切な代替品となっている。さらに、例えば電解質を介する電極材料間のナトリウムイオンの可逆的シャトリングなどのLIBと類似の作用原理はその資質を増す[J. Y. Hwang, S.T. Myung, Y.K. Sun,“Sodium-ion batteries: present and future”, Chem. Soc. Rev. (2017) 46, 3529-3614; C. Delmas,“Sodium and Sodium-Ion Batteries: 50 Years of research”, Adv. Energy Mater. (2018) 1703137]。
【0004】
ナトリウム含有電極材料は、それらのリチウム対応物と比べてより安定であり、そのため、ナトリウム含有電極材料は様々な用途に好適である。リチウムとナトリウムの両方で同じであるインターカレーション化学は、類似のタイプの化合物をSIBに使用することを可能にする。これらの2つの系の間の差異は、ナトリウムイオンがリチウムイオンと比べてより大きく、相安定性、輸送特性及び固体電解質相間(SEI)形成に影響を及ぼすことであろう[B. Dunn, H. Kamath, J. M. Tarascon,“Electrical Energy Storage for the Grid: A battery of choices”, Science (2011) 334, 928-935]。
【0005】
様々なカソード材料、例えば層状ナトリウム遷移金属酸化物NaMO(M=Co、Mn、Fe及びNiなど)(0.44<x≦1)、オリビンNaMPO(M=Fe、Mn、Ni及びCo)、スピネルNaMn及びNASICON型(Na超イオン伝導体)Na(POが研究され、SIB用の電極材料として現在使用されている。酸化物材料は、高充電状態(SoC)で充電中に酸素発生を放出しやすく、深刻な容量低下をもたらす。さらに、酸化物材料の不十分な熱安定性は、高温でのそれらの使用を妨げる[N. Yabuuchi, K. Kubota, M. Dahbi, S. Komaba,“Research Development on Sodium-Ion Batteries”, Chem. Rev. (2014) 114, 11636-11682]。
【0006】
リン酸塩系材料は構造的及び熱的に安定であることが知られており、SIB用の潜在的な電極材料として使用できる。特に、開放3Dイオン輸送チャネルを有し、速いイオン輸送を促進するNASICON型構造は電極材料として広範に研究されている。NASICON型構造のNa(POは、約3.4V対Na/Na+でフラットな電圧プラトーと、118mAh/gの高い可逆的容量とを示す有望なカソード材料の一例である。しかしながら、それに関連する不十分な電子伝導性は容量の低下をもたらす。
【0007】
さらに、リン酸ナトリウムバナジウム中のリン酸骨格にフッ素をドープしてNa(PO3-x3x(0<x≦1)の化学組成をもたらすと.電圧及び比容量の増加が観測される。この得られた化合物は、x=1の場合に、約3.7V対Na/Na+の高い電圧と約128mAh/gの比容量を示す。
【0008】
最初に、研究者は、様々な方法又は方法の組み合わせ、例えば材料の導電性を高めるための粒子表面上の導電性コーティング及び元素ドーピングに注目した。これらの材料を調製するために開発された様々な合成ルートは、固相反応、ゾルーゲル、電界紡糸、水熱及び溶媒熱合成法であった。しかしながら、これらの合成ルートは、二次相(固相ルート)を有する、又は低収率で費用がかかる(水熱、電界紡糸及び凍結乾燥)、あるいは長い反応時間で不均質なゲル化(従来のゾル-ゲル)を生じる材料の形成を伴った。
【0009】
関連する先行技術:
アルカリイオン遷移金属リン酸塩、特にリン酸ナトリウムバナジウム及びフルオロリン酸ナトリウムバナジウムの電極材料の調製方法並びにそれらの生成物について多数の先行特許/出願がある。本発明に関連するそれらのうちの幾つかを以下に記述し、本発明がそれらの先行技術の開示とどのように異なるのかを説明し、本発明が先行技術の開示よりもどれだけ優れているのかを説明する。材料の合成中の熱源としてマイクロ波放射線が広く使用されてきた。文献では、固相及び溶液に基づく合成中にマイクロ波放射線を使用することについての様々な報告がある。2004年に、Barkerらは、マイクロ波、赤外線及び電波アシスト固相ルートなどの、電磁波を使用してカソード活物質としての遷移金属をベースとする化合物の合成を報告した(米国特許出願公開第2004016632号明細書(A1))。同様に、マイクロ波アシスト固相合成ルートが、他でも報告されているように、ホスホジエステラーゼナトリウムバナジウムオキシド/アルケニルとグラファイトの複合材料を調製するために採用され(中国特許第104078676号明細書(B)、中国特許出願公開第104078676号(A))、リチウム、ナトリウム及びカリウムイオンバッテリー用の異なる金属を含有する化合物を調製するために採用された(韓国特許出願公開第20150080652号明細書(A))。これらの電極活物質を多量に調製するためにマイクロ波アシスト固相合成が採用されたが、溶液に基づく合成ルート、例えば水熱合成、溶媒熱合成及びゾル-ゲル合成などと比べて相純度が低く、組成が不均質で非化学量論的である電極材料をもたらすおそれがある。組成が低純度で不均質で非化学量論的であると、種々のバッテリー化学のための電極材料として使用された場合、不十分な電気化学的性能をもたらすおそれがある。さらに、これらの問題に対処するため、種々の電極材料を調製するために様々な溶液に基づく合成ルートが採用された。2017年に、Ikejeriらは、例えばゾル-ゲル、メカノケミカル及び化学気相堆積などの種々の化学的ルートによるナトリウムイオンバッテリー用の電極としての複合材料の合成を提案した(米国特許出願公開第20170005337号(A1))。これらの方法は、不均質さ(ゾル-ゲルルート及びメカノケミカルルートの場合)、材料中の欠陥(メカノケミカルルートの場合)、及び低い収率(化学気相堆積の場合)を伴う。別の報告では、ナトリウムイオンバッテリー及びナトリウムハイブリッドキャパシター用途のためのリン酸ナトリウムバナジウムカソード材料を調製するために従来のゾル-ゲル方が使用された(中国特許出願公開第106328911号明細書(A)、韓国特許第101783435号公報(B1))。従来のゾル-ゲル法の欠点は、長いゲル化時間(24~36時間)と、前駆体の不均一な混合による不均一なゲル化を含む。例えばナトリウム/リチウム遷移金属リン酸塩などの電極材料を合成するための別の有効なルートとしてマイクロ波アシスト高圧水熱反応が採用された(米国特許第9809456号明細書(B2)、日本国特許第5623821号(B2)、米国特許第20090117020号明細書(A1))。しかしながら、大規模な電極材料の合成は、安全上の問題や高いコストをもたらす。
【0010】
本発明において、アルカリイオン遷移金属リン酸塩及びそれらの誘導体のマイクロ波アシストゾル-ゲル合成が開示される。
【0011】
溶液に基づくマイクロ波アシストゾル-ゲル合成は、例えば、下記a)~d)などの他の合成ルートに勝る様々な利点を有する。
a)体積加熱(Volumetric heating):一般的に、溶液の溶剤及び溶質成分は、それぞれ気体又は固体の場合のように、マイクロ波を透過又は反射するよりもむしろ吸収する。これは、溶液成分の均一で急速な加熱をもたらし、より速い反応速度をもたらす。
b)均一ゲル化:特に溶液モードでは、マイクロ波は、例えば、溶媒中に、場の方向に連続的に整列して熱を生成する双極子などの急速電荷場(rapid charging fields)を生成する。この熱は、局所的な過熱を得るために均一に分配され、材料の純度を高めることにより欠陥/不純物を低減する。この局所的な過熱は、化学的均一さを生じ、均一なゲル化をもたらし、均一なゲル化は、さらに、従来のゾル-ゲル生成物のものと比べて最終生成物の特性に影響を及ぼす。さらに、従来のゾル-ゲルルートととは違って、均一な厚さでのin-situ炭素コーティングを達成することができる。
c)周囲圧力合成(Ambient pressure synthesis):開放容器に基づくマイクロ波アシストゾル-ゲル合成の使用は、蒸発した化学種を容易に逃がすことを可能にするとともに、マイクロ波照射高圧水熱反応とは違って、高圧のリスクを低減する。
d)非常に経済的:電極材料の大規模合成の場合、加工時間は当業界の生産性に影響を及ぼすことがあるため、加工時間が短いことは他のパラメータよりも非常に重要である。そのため、そのプロセスは、従来のゾル-ゲルにおけるように数時間というより数分間で均一なゲル化の形成をもたらし、マイクロ波アシストゾル-ゲルを電極活物質を合成するための非常に有効なプロセスにする。
【0012】
マイクロ波アシストゾル-ゲルルートに伴う上記のこれらの利点は、他の合成ルートにより合成された電極材料と比べて優れた貯蔵性能を有する有効な電極材料の合成をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許出願公開第2004/0016632号明細書(A1)
【文献】中国特許出願公開第105552328号明細書(A)
【文献】中国特許第104078676号明細書(B)
【文献】中国特許出願公開第107425190号明細書(A)
【文献】中国特許出願公開第107492635号明細書(A)
【文献】韓国特許第101783435号公報(B1)
【文献】中国特許出願公開第105140468号明細書(A)
【文献】米国特許出願公開第2017005337号明細書(A1)
【文献】中国特許出願公開第105098179号明細書(A)
【文献】中国特許出願公開第106058202号明細書(A)
【文献】中国特許出願公開第106410193号明細書(A)
【文献】中国特許出願公開第106328911号明細書(A)
【文献】中国特許出願公開第107871865号明細書(A)
【非特許文献】
【0014】
【文献】M.S. Whittingham,“Lithium Batteries and Cathode Materials”, Chem. Rev. (2004) 104, 4271-4302.
【文献】J.Y. Hwang, S.T. Myung, Y.K. Sun,“Sodium-ion batteries: present and future”, Chem. Soc. Rev. (2017) 46, 3529-3614.
【文献】C. Delmas,“Sodium and Sodium-Ion Batteries: 50 Years of research”, Adv. Energy Mater. (2018) 8, 1703137.
【文献】B. Dunn, H. Kamath, J. M. Tarascon,“Electrical Energy Storage for the Grid: A battery of choices”, Science (2011) 334, 928-935.
【文献】N. Yabuuchi, K. Kubota, M. Dahbi, S. Komaba,“Research Development on Sodium-Ion Batteries”, Chem. Rev. (2014) 114, 11636-11682.
【文献】Y.J. Zhu, F. Chen,“Microwave Assissted Preparation of Inorganic Nanostructures in Liquid Phase”, Chem. Rev. (2014) 114, 6462-6555.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、可能性のある電極材料としてin-situ炭素被覆されたアルカリイオン遷移金属リン酸塩及びそれらの誘導体の調製のための迅速な合成ルートを提供することである。
【0016】
本発明の主な目的は、したがって、マイクロ波アシストゾル-ゲルルートによって、高いストレージ性能を有するin-situ炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウム/フルオロリン酸ナトリウムバナジウムを調製することである。
【0017】
本発明の別の目的は、制御された粒径を有する均一炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウム/フルオロリン酸ナトリウムバナジウムを提供することである。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、制御された粒径を有する均一炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウム/フルオロリン酸ナトリウムバナジウムの大規模合成を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、調製された電極活物質のナトリウムイオンバッテリー、ナトリウムイオンキャパシター及びナトリウムイオンスーパーカバッテリーにおける使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明は、マイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスによりin-situ炭素被覆電極材料を調製する方法及びその生成物に関する。この電極材料は、一般式[A(PO]及び[A(PO](式中、「A」は、Li、Na及びKから選択されるアルカリイオンであり、「M」は、Fe、Ni、Co、V、Mn、Ti及びCrから選択される遷移金属である。)により表されるアルカリイオン遷移金属リン酸塩及びアルカリイオン遷移金属フルオロリン酸塩から選択される。この合成プロセスは、以下の工程:
a)アルカリイオン前駆体、遷移金属前駆体、リン前駆体及びゲル化/キレート化剤を3:2:3:2の比で加えることにより混合する工程;
b)同時に、脱イオン水中、又はエチレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及び容器内で低い乃至中程度の沸点を有する溶媒から選択された非水性溶媒中に、遷移金属前駆体の量を考慮した対応するモル比に基づいてアルカリイオン前駆体、リン前駆体及びキレート化剤を取り込ませる工程;
c)前記混合物を、容器内で、均質混合物が得られる程度の時間撹拌する工程;
d)大気圧下80~170℃の温度範囲で一定温度で絶えず撹拌しながら開放容器内でマイクロ波照射して均質ゲル化をもたらす工程;
e)得られたゲルを空気中で100~120℃の温度範囲で乾燥させる工程;
f)乾燥したゲルを粉砕する工程;及び
g)乾燥したゲルを不活性雰囲気下で600~800℃の温度範囲で8~10時間焼成し、300~500℃の中間焼成温度を3~5時間とし、メソポーラス炭素ネットワークの形成とともに電極材料上にin-situ炭素コーティング層の形成をもたらす工程;
を含む。
【0021】
ここで、アルカリイオン遷移金属リン酸塩はリン酸ナトリウムバナジウム[Na(PO]であり、工程a)の混合で加えられる成分は、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、酢酸ナトリウム二水和物(CHCOONa・2HO)、水酸化ナトリウム一水和物(NaOH・HO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸ナトリウム十二水和物(NaPO・12HO)、シュウ酸ナトリウム(Na)及びそれらの混合物から成る群から選択されるナトリウム前駆体;酸化バナジウム(V)(V)、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酸化バナジウム(III)(V)、バナジルアセチルアセトナート[VO(C]、トリヒドロキシ(オキソ)バナジウム(HVO)及びそれらの混合物から成る群から選択されるバナジウム前駆体;リン酸アンモニウム[(NHPO]、リン酸二アンモニウム[(NHHPO]、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸(HPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)及びそれらの混合物から成る群から選択されるリン前駆体;並びにin-situ炭素コーティングの供給源として使用されるゲル化/キレート化前駆体であり、メソポーラス炭素ネットワークはクエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸及びグルコン酸から成る群から選択される。
【0022】
本発明の一態様は、一定温度で周囲雰囲気中でマイクロ波合成中に形成されたゲルを乾燥させること、及び、さらに、それを不活性雰囲気下での2段階熱処理にかけることも含む。
【0023】
本発明の別の態様は、ゲル形成のための反応時間の劇的な短縮である。
【0024】
本発明の別の態様は、マイクロ波アシストゾル-ゲル法により得られる、リン酸ナトリウムバナジウム及びフルオロリン酸ナトリウムバナジウム電極材料上へのin-situ炭素コーティングの形成を含む。
【0025】
本発明の別の態様は、マイクロ波アシストゾル-ゲルルートによる均一で制御された粒径の合成である。
【0026】
本発明の別の側面は、このプロセスの拡張性(scalability)に焦点を合わせる。このルートは、所望の電極材料の大規模合成を容易にする。
【0027】
本発明の別の側面は、合成された電極材料の長期サイクリング安定性及び高い比エネルギーのために、合成した電極材料をナトリウムイオンバッテリー、ナトリウムイオン対称セル及びハイブリッドスーパーキャパシタに適用することである。
【0028】
本発明の別の側面は、合成された電極材料の、従来のスーパーキャパシタと比べて高い比エネルギーでの高い出力密度のために、合成された電極材料を「スーパーカバッテリー」に適用することである。
【0029】
従来のゾル-ゲル合成ルートと比べた場合、マイクロ波ゾル-ゲルは、非常に短い反応時間内で均質なゲルを調製するのに有効な方法である。そのため、ゲル化のための長い時間はコストを抑えるために受け入れられない。さらに、均一で制御された粒径分布を有するリン酸ナトリウムバナジウム及びフルオロリン酸ナトリウムバナジウムを容易に得ることができる。
【0030】
この炭素被覆された電極材料には広範な産業用途がある。この炭素被覆された電極材料は、ナトリウムイオンセル/バッテリー、スーパーカバッテリー及びナトリウムイオンキャパシタの生産に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1a図1aは、炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムのX線回折(XRD)パターンである。
図1b図1bは、本発明の一実施形態に従って調製された炭素被覆フルオロリン酸ナトリウムバナジウム(例1及び2)のX線回折(XRD)パターンである。
図2a図2aは、炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムの走査型電子顕微鏡(SEM)の写真画像である。
図2b図2bは、本発明の一実施形態に従って調製された炭素被覆フルオロリン酸ナトリウムバナジウムの走査型電子顕微鏡(SEM)の写真画像である。
図3図3は、本発明の一実施形態に従って調製された炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウム(例1)の透過型電子顕微鏡(TEM)の写真画像である。
図4図4は、2.3~3.9V対Na/Na+の電圧窓で一定の走査速度(100μV/s)での炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムのサイクリックボルタモグラム(CV)を示す。
図5図5は、炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムについての、様々な電位窓でのNa/Na+に対する0.1Cレート(1C=118mA/g)での定電流充放電サイクリングプロットの比較である。
図6図6は、炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムについての、様々な電圧窓で0.1Cレートでの比容量対サイクル数プロットの比較である。
図7図7は、炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムの対称セルについての、0~3Vの電圧窓で0.1~1.0A/gでの定電流充放電サイクリングプロットを示す。
図8図8は、炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムの対称セルについての、0~3Vの電圧窓で、100サイクルまで0.1A/gで、及び1400サイクルまで1A/gでの比容量対サイクル数プロットを示す。
図9a図9aは、炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムのスーパーキャパシタについての、0~3Vの電位窓で様々な電流密度での定電流充放電サイクリングプロットを示す。
図9b図9bは、炭素被覆リン酸ナトリウムバナジウムのスーパーキャパシタについての比容量対電流密度を示す。
図10図10は、2.5~4.5V対Na/Na+の電圧窓で一定の走査速度(100μV/s)での炭素被覆フルオロリン酸ナトリウムバナジウムのサイクリックボルタモグラム(CV)を示す。
図11図11は、炭素被覆フルオロリン酸ナトリウムバナジウムについての、2.5~4.5V対Na/Na+の電位窓で1Cレート(1C=128mA/g)での定電流充放電サイクリングプロットを示す。
図12図12は、炭素被覆フルオロリン酸ナトリウムバナジウムについての、2.5~4.5Vの電位窓で1Cレートでの比容量対サイクル数プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、in-situ炭素被覆されたアルカリイオン遷移金属リン酸塩電極活物質及びその誘導体、例えば、それぞれ一般式[A(PO]及び[A(PO](式中、「A」はLi、Na及びKから選択されるアルカリイオンであり、「M」は、Fe、Ni、Co、V、Mn、Ti及びCrから選択される遷移金属である。)により表されるアルカリイオン遷移金属リン酸塩及びアルカリイオン遷移金属フルオロリン酸塩を調製するための新規なマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスに焦点を合わせる。この方法は、固相反応、水熱、従来のゾル-ゲル、電界紡糸及び凍結乾燥などの他の合成ルート、安全上の問題、長い反応時間、相純粋材料(phase pure materials)の形成及びコスト低下の問題に対処する。
【0033】
上記ゲルを調製する態様を達成する一実施形態において、合成ルートは、(a)アルカリイオン前駆体、遷移金属前駆体、リン前駆体、ゲル化/キレート化剤を水性/非水性溶媒に加えることにより均質な溶液を調製することを含み、(b)アルカリイオン前駆体、遷移金属前駆体、リン前駆体及びゲル化剤などの加えた前駆体の均質な溶液を得るために撹拌工程をさらに実施してもよい。(c)周囲圧力下でゲルを調製するために、混合物溶液を開放容器に入れ、マイクロ波照射にかけることができる。(d)使用される容器は開放容器であることができる。反応をうまく行うために耐圧容器が必須である水熱合成、超臨界水熱合成又は溶媒熱合成とは違って、特別な圧力条件は必要とされない。
【0034】
別の実施形態において、反応溶媒は、例えば脱イオンHOなどの水性のものであるか、又は、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及び低い乃至中程度の沸点を有する溶媒などの非水性のものであることができる。
【0035】
本発明の一実施形態において、大気圧力下80~170℃の温度範囲でゲル化を行うことができる。
【0036】
本発明の別の実施形態において、得られたゲルを空気中で100℃~120℃の温度範囲で乾燥させることができる。乾燥したゲルを、次に、粉砕し、2段階熱処理にかける。
【0037】
別の態様において、熱処理は特に限定されず、300~500℃の中間焼成温度を3~5時間とし、不活性雰囲気下で、600~800℃の温度範囲でゲルを8~10時間焼成することにより行ってもよい。不活性雰囲気はアルゴン及びNであることができるが、これらに限定されない。熱処理中に、メソポーラス炭素ネットワークの形成とともに、in-situ炭素コーティング層をアルカリイオン遷移金属リン酸上に形成することができる。
【0038】
本発明の一実施形態において、アルカリイオン遷移金属リン酸塩[A(PO](式中、アルカリイオン「A」はLi、Na及びKであることができ、遷移金属「M」は、Fe、Ni、Co、V、Mn、Ti及びCrなどであることができる。)
【0039】
本発明の一態様を達成する一実施形態において、マイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスを使用して、リン酸ナトリウムバナジウム[Na(PO]カソード活物質を合成した。
【0040】
このように加えられるナトリウム前駆体は、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、酢酸ナトリウム二水和物(CHCOONa・2HO)、水酸化ナトリウム一水和物(NaOH・HO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸ナトリウム十二水和物(NaPO・12HO)、シュウ酸ナトリウム(Na)及びそれらの混合物から成る群から選択された少なくとも1種であることができる。
【0041】
加えられるバナジウム前駆体は、酸化バナジウム(V)(V)、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、酸化バナジウム(III)(V)、バナジルアセチルアセトナート[VO(C]、トリヒドロキシ(オキソ)バナジウム(HVO)及びそれらの混合物から成る群から選択された少なくとも1種であることができる。
【0042】
加えられるリン前駆体は、リン酸アンモニウム[(NHPO]、リン酸二アンモニウム[(NHHPO]、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸(HPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)及びそれらの混合物から成る群から選択された少なくとも1種であることができる。
【0043】
ゲル化/キレート化前駆体は、in-situ炭素コーティング及びメソポーラス炭素ネットワークの供給源として使用される。ゲル化/キレート化前駆体は、クエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸及びグルコン酸などから成る群から選択された少なくとも1種であることができる。
【0044】
ゲル化/キレート化剤に加えて、in-situ炭素コーティングのために使用することができる幾つかの有機前駆体がある。これらの有機前駆体は、特に限定されず、グルコース、スクロース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スターチ、マンノース、リボース、アルドヘキソース、ケトヘキソース及びそれらの組み合わせから成る群から選択された少なくとも1種であることができる。
【0045】
溶液調製中のナトリウム前駆体とバナジウム前駆体とリン前駆体とキレート化剤の混合比は3:2:3:2に保たれる。ナトリウム前駆体、リン前駆体及びキレート化剤は、バナジウム前駆体の量を考慮した対応するモル比で加えることができる。
【0046】
本発明の一実施形態において、リン酸ナトリウムバナジウムの場合のゲル化は、温度80℃で行うことができる。得られたゲルは、周囲雰囲気中で120℃で乾燥させることができる。
【0047】
本発明のリン酸ナトリウムバナジウムを得る別の実施形態において、400℃での中間焼成を4時間とし、最終焼成は、アルゴン雰囲気下、800℃の温度で10時間行うことができる。
【0048】
本発明の別の実施形態において、カソード活物質としてフルオロリン酸ナトリウムバナジウム[Na(PO]を、マイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスを使用して合成することができる。加えられるフッ素前駆体は、NaF、NHF及びNHHF並びにそれらの混合物からなる群から選択された少なくとも1種であることができる。
【0049】
一実施形態において、上記のプロセス工程は、一般式A2-x(PO(0<x<2であり、CはMg、Al、Ti、Ca、Scなどのうちのいずれか1種であることができる。)により表されるカチオンドープアルカリイオン遷移金属リン酸塩の調製に拡張することができる。
【0050】
別の実施形態において、上記のプロセス工程は、一般式A(PO3-y3y(0<y≦1)及びA2-x(PO3-y3y(0<x<2、0<y≦1)より表されるアニオンドープアルカリイオン遷移金属リン酸塩の調製に拡張することができる。ここで、NはCl、Br、Iなどのうちのいずれか1種であることができる。
【0051】
本発明の別の実施形態において、マイクロ波アシストゾル-ゲル合成プロセスは、電極活物質として、一般式Na(PO(M=Fe、Mn、Co及びNiなど)により表されるマルチポリアニオン化合物(multi polyanionic compounds)、及び一般式NaMO(0.44<x≦1、M=Fe、Mn、Co、Ni、Tiなど)により表される層状ナトリウム遷移金属酸化物を調製することに拡張することができる。
【0052】
一連の上記工程により調製されたリン酸/フルオロリン酸ナトリウムバナジウム粒子は、X線回折パターン(図1(a)及び(b))により確認されるように、NASICON(Na超イオン伝導体)型の菱面体晶/正方晶結晶構造を有することがある。
【0053】
粒径及びその分布は、ゲル化/キレート化剤含有量を変えることによって、又は、反応温度及び反応時間などのプロセスパラメーターを調整することによって制御することができる。
【0054】
上記方法によって調製されたリン酸ナトリウムバナジウム及びフルオロリン酸ナトリウムバナジウムは、図2に示されているように、それぞれ、300~500nm及び30~50nmの範囲内の粒径を有することができる。
【0055】
リン酸ナトリウムバナジウム及びフルオロリン酸ナトリウムバナジウムの表面に形成された炭素コーティングの厚さは、限定されず、図3に示されているように、10nm以下であることができる。
【0056】
ナトリウムイオンバッテリーの作製
本発明において、電極材料は、適切な比率でカソード活物質、導電材及びバインダーを含む複合材料である。
【0057】
導電材は、例えば天然グラファイト及び合成グラファイトの形態のグラファイト;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケチェンブラックの形態のアモルファスカーボン;カーボンファイバー、カーボンナノチューブ及びグラフェンなどの、良好な電子伝導度を有する任意の材料を含むことができる。導電材は、カソード活物質を含む混合物の総量を基準として1~15質量%で加えることができる。
【0058】
バインダーは、機械的剛性を与え、活物質粒子同士を結合させるとともに活物質粒子を集電体とも結合させるのに役立つ任意の成分であることができ、バインダーとしては、フッ化ポリビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0059】
バインダーは、カソード活物質を含む混合物の総量を基準として1~15質量%で加えることができる。
【0060】
ナトリウムイオンバッテリー用の電極は、例えば、カソード活物質、導電材及びバインダーを、溶媒、例えば非水性NMP(N-メチル-2-ピロリドン)/水性(HO)溶媒中に溶解させてスラリーを調製し、スラリーを集電体上にコーティングし、次いで、乾燥及びカレンダリングすることにおり作製することができる。
【0061】
集電体は、良好な電気伝導度を有する任意の材料であることができ、集電体としては、ステンレススチール、アルミニウム、銅、ニッケル、炭素フィルム、あるいは、表面処理された材料、例えば、炭素などにより表面処理されたアルミニウム又はステンレススチールが挙げられる。
【0062】
本発明の別の実施形態において、ナトリウムイオンバッテリーの製造に、カソード、アノード(Na金属であることができるが、これに限定されない)、セパレーター、及びナトリウム塩を含有する非水性電解質を組み入れることができる。
【0063】
電解質用の非水性有機溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びそれらの誘導体などが挙げられる。
【0064】
非水性電解質に好ましくは溶解性であるナトリウム塩材料としては、NaClO、NaBF、NaPF、NaCFSO、NaCFCO、CFSONa、及び(CFSONNaなどが挙げられる。
【0065】
さらに、ナトリウムイオンバッテリーの製造に水性電解質を使用してもよい。
【0066】
本発明の一実施形態において、調製されたリン酸ナトリウムバナジウムをカソード活物質として含むナトリウムイオンバッテリーは高い比容量及びサイクル安定性を示す(図4、5及び6)。
【0067】
本発明の一実施形態において、調製されたリン酸ナトリウムバナジウムをカソード及びアノードとして含むナトリウムイオンキャパシタは高い比容量、比キャパシタンス及びサイクル安定性を示す(図7、8及び9)。
【0068】
本発明の一実施形態において、調製されたフルオロリン酸ナトリウムバナジウムをカソード活物質として含むナトリウムイオンバッテリーは高い比容量及びサイクル安定性を示す(図10、11及び12)。
【0069】
マイクロ波アシストゾル-ゲル法により開発された活物質は、アルカリイオンバッテリー、アルカリイオンキャパシタ及びスーパーカバッテリーデバイス用の電極活物質としての用途がある。
【0070】
実験例1
マイクロ波アシストゾル-ゲル法によりリン酸ナトリウムバナジウムNa(POを合成した。Na(POを調製するために化学量論的量の各前駆体を使用した。使用した前駆体は、NaHPO・2HO[99%、Sigma Aldrich]、NHVO[98%、Loba Chemie]及びクエン酸(C)[99.5%、Sigma Aldrich]であった。NaHPO・2HOを脱イオン水に加え、NaHPO・2HOが完全に溶解して澄んだ溶液を形成するまで5分間超音波処理した。上記溶液にNHVO及びクエン酸を加え、暗橙色の透明溶液が形成されるまで溶液を80℃で連続的に撹拌した。溶液を次にマイクロ波合成器(microwave synthesizer)に移し、それを80℃に10分間維持して暗青色のゲルを得た。このゲルを、次に、洗浄し、周囲雰囲気中で120℃で乾燥させた。乾燥したゲルを粉砕し、次に、アルゴン雰囲気下で400℃で4時間予熱した。最後に、予熱したサンプルを、アルゴン雰囲気下800℃で10時間の焼成にかけて単相のNa(POを得た。
【0071】
実験例2
前駆体としてNaF[Merck 99%]、NHPO[Sigma Aldrich 98.5%]、NHVO[Loba Chemie 98%]及びクエン酸[Merck 99.5%]を使用して、Na(POの場合と同様にマイクロ波アシストゾル-ゲル法によって、フルオロリン酸ナトリウムバナジウムNa(POを調製した。化学量論的量の前駆体を脱イオン水中で混合し、開放容器に移し、そして、ゲルが形成されるまで、一定の温度(80℃)及び撹拌速度でマイクロ波反応にかけた。次に、上記ゲルを洗浄し、周囲空気下、120℃で熱風炉中で乾燥させた。乾燥したゲルを圧潰し、粉砕し、次に、アルゴン雰囲気下での2段階熱処理、i)350℃で4時間、及び、ii)650℃で6時間、にかけて相純粋なNa(POを得た。
【0072】
Na(PO/Na(POの両方の合成後、X線回折計(Cu-Kα線を使用するリガクSmartlab X線回折計)、走査型電子顕微鏡(FE-SEM;Zeiss merlin Compact)及び透過型電子顕微鏡(TEM;Technai G20)などを使用して様々な構造的及び形態的調査を行った。
【0073】
当業者が本発明を理解および想像できるように本発明の好ましい実施形態のいくつかを説明することによって、本発明の新規の特徴を明らかにした。また、本発明は、その用途において、上記説明に記載した又は図面に示した詳細に限定されないことも理解されたい。本発明をその特定の好ましい実施形態を参照してかなり詳細に説明してきたが、本開示で記載したとおり及び以下の特許請求の範囲で規定するとおりの本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
in-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスであって、前記電極材料は、一般式[A (PO ]及び[A (PO ](式中、「A」は、Li、Na及びKから選択されるアルカリイオンであり、「M」は、Fe、Ni、Co、V、Mn、Ti及びCrから選択される遷移金属である。)により表されるアルカリイオン遷移金属リン酸塩及びアルカリイオン遷移金属フルオロリン酸塩から選択され、以下の工程:
a)アルカリイオン前駆体、遷移金属前駆体、リン前駆体及びゲル化/キレート化剤を適切なモル比で加えることにより混合する工程;
b)同時に、脱イオン水中、又は、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及び容器内で低い乃至中程度の沸点を有する溶媒から選択された非水性溶媒中に、遷移金属前駆体の量を考慮した対応するモル比に基づいて前記アルカリイオン前駆体、前記リン前駆体及び前記キレート化剤を取り込ませる工程;
c)前記混合物を、前記容器内で、均質混合物が得られる程度の時間撹拌する工程;
d)大気圧下80~170℃の温度範囲で一定温度で絶えず撹拌しながら開放容器内でマイクロ波照射して均質ゲル化をもたらす工程;
e)得られたゲルを空気中で100~120℃の温度範囲で乾燥させる工程;
f)乾燥したゲルを粉砕する工程;及び
g)前記乾燥したゲルを不活性雰囲気下で600~800℃の温度範囲で8~10時間焼成し、300~500℃の中間焼成温度を3~5時間とし、メソポーラス炭素ネットワークの形成とともに電極材料上にin-situ炭素コーティング層の形成をもたらす工程;
を含む、in-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様2]
前記アルカリイオン前駆体、遷移金属前駆体、リン前駆体及びゲル化/キレート化剤が3:2:3:2の比で混合される、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様3]
アルカリイオン遷移金属リン酸塩がリン酸ナトリウムバナジウム[Na (PO ]であり、工程a)の混合で加えられる成分が、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム二水和物(CH COONa・2H O)、水酸化ナトリウム一水和物(NaOH・H O)、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸ナトリウム(Na CO )、リン酸ナトリウム(Na PO )、リン酸ナトリウム十二水和物(Na PO ・12H O)、シュウ酸ナトリウム(Na )及びそれらの混合物から成る群から選択されるナトリウム前駆体;酸化バナジウム(V)(V )、メタバナジン酸アンモニウム(NH VO )、酸化バナジウム(III)(V )、バナジルアセチルアセトナート[VO(C ]、トリヒドロキシ(オキソ)バナジウム(H VO )及びそれらの混合物から成る群から選択されるバナジウム前駆体;リン酸アンモニウム[(NH PO ]、リン酸二アンモニウム[(NH HPO ]、リン酸二水素アンモニウム(NH PO )、リン酸(H PO )、リン酸二水素ナトリウム(NaH PO )及びそれらの混合物から成る群から選択されるリン前駆体;並びにin-situ炭素コーティングの供給源として使用されるゲル化/キレート化前駆体であり、メソポーラス炭素ネットワークはクエン酸、アスコルビン酸、シュウ酸及びグルコン酸から成る群から選択される、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様4]
in-situ炭素コーティングのためのさらなる試薬として、グルコース、スクロース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スターチ、マンノース、リボース、アルドヘキソース、ケトヘキソース及びそれらの組み合わせから成る群から選択された有機前駆体が工程a)においてさらに加えられる、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様5]
工程g)において、前記乾燥したゲルを、アルゴン又は窒素から選択された不活性ガス下で焼成する、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様6]
アルカリイオン遷移金属フルオロリン酸塩が[Na (PO ]であり、NaFからなるアルカリイオンとフッ素の前駆体が工程a)において加えられ、その他の工程が同じである、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様7]
粒径及びその分布が、ゲル化/キレート化剤に含有量を変えることによって、又は、要件に基づくプロセスパラメーターを調整することによって制御される、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様8]
一般式A 2-x (PO (式中、0<x<2であり、CはMg、Al、Ti、Ca及びScのうちのいずれか1種である。)により表されるカチオンドープアルカリイオン遷移金属リン酸塩が工程a)においてさらに加えられ、その他の工程は同じである、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様9]
一般式A (PO 3-y 3y (式中、0<y≦1である。)及びA 2-x (PO 3-y 3y (式中、0<x<2、0<y≦1)より表されるアニオンドープアルカリイオン遷移金属リン酸塩(ここで、NはCl、Br及びIのうちのいずれか1種である。)が工程a)においてさらに加えられ、その他の工程は同じである、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様10]
工程a)において適切な前駆体を必要なモル比で選択することによって、一般式Na (PO (式中、M=Fe、Mn、Co及びNiである。)により表されるマルチポリアニオン化合物、及び一般式Na MO (式中、0.44<x<1、M=Fe、Mn、Co、Ni及びTiである。)により表される層状ナトリウム遷移金属酸化物を調製することもできる、態様1に記載のin-situ炭素被覆電極材料を調製するためのマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセス。
[態様11]
態様1~10に記載のマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスによって調製されたin-situ炭素被覆電極材料。
[態様12]
それぞれNASICON(Na超イオン伝導体)型の菱面体晶及び正方晶結晶構造を有する、態様3及び6に記載のin-situ炭素被覆電極材料。
[態様13]
調製されたリン酸ナトリウムバナジウム及びフルオロリン酸ナトリウムバナジウムが、それぞれ、300~500nm及び30~50nmの範囲内の粒径を有する、態様6に記載のin-situ炭素被覆電極材料。
[態様14]
前記炭素被覆電極材料の表面に形成された炭素コーティングの厚さが10nm以下である、態様3及び6に記載のin-situ炭素被覆電極材料。
[態様15]
態様1に記載のマイクロ波アシストゾル-ゲルプロセスによって調製されたin-situ炭素被覆電極材料を有するナトリウムイオンセル/バッテリー、スーパーカバッテリー及びナトリウムイオンキャパシタ。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11
図12